(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記多孔質基材が、水酸化物イオン伝導性を有しない材料で構成され、かつ、前記無機固体電解質体の前記燃料極側の面に設けられ、前記燃料極に前記液体燃料とアルカリ金属水酸化物水溶液との混合溶液が供給される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の固体アルカリ形燃料電池。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に、本発明の固体アルカリ型燃料電池の一例を模式的に示す。
図1に示される固体アルカリ形燃料電池10は、空気極12と、燃料極14と、無機固体電解質体16とを備えてなる。空気極12は、空気供給手段13を介して酸素が供給されてカソードとして機能しうる。燃料極14は、燃料供給手段15を介して液体燃料及び/又は気体燃料が供給されてアノードとして機能しうる。無機固体電解質体16は、燃料極14と空気極12の間に介在され、水酸化物イオン伝導性を有するセラミックスである。無機固体電解質体16は、M
2+1−xM
3+x(OH)
2A
n−x/n・mH
2O(式中、M
2+は2価の陽イオンであり、M
3+は3価の陽イオンであり、A
n−はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数であり、xは0.1〜0.4である)の基本組成を有する層状複水酸化物からなる。また、無機固体電解質体16は水熱処理によって緻密化されたものである。このように、本発明の固体アルカリ形燃料電池10においては、緻密化された層状複水酸化物からなる無機固体電解質体16を電解質として用いることにより、耐熱性及び耐久性に優れ、かつ、燃料透過による起電力低下をも抑制できる固体アルカリ形燃料電池を提供できる。
【0011】
すなわち、前述したとおり、アルカリ形燃料電池(AFC)では燃料として水素の他に、水素よりも貯蔵が容易な液体燃料(例えばアルコールやヒドラジン等)を使用することができるが、引用文献1に開示されるようなAEM電解質層は有機系材料で構成されるため、耐熱性及び耐久性に問題があり、また、燃料が空気極側に透過することによる起電力低下の問題もある。また、引用文献2に開示されるような層状複水酸化物(LDH)圧粉体にあっては、緻密性が不十分のため燃料が空気極側に透過することによる起電力低下の問題がある。この点、本発明の固体アルカリ形燃料電池10において用いられる無機固体電解質体16はセラミックス材料で構成されるため、引用文献1に記載されるAEM電解質層のような有機系材料よりも耐熱性及び耐久性に格段に優れる。また、無機固体電解質体16は水熱処理によって緻密化されてなるため、液透過性や通気性を有しておらず、それ故、燃料の空気極12側への透過を阻止して起電力低下の抑制することができる。その結果、本発明によれば、耐熱性及び耐久性に優れ、かつ、燃料透過による起電力低下をも抑制できる固体アルカリ形燃料電池を提供することができる。
【0012】
空気極12は、酸素が供給されてカソードとして機能する電極である。酸素は空気として供給されるのが好ましく、空気は加湿された空気であるのが好ましい。空気極12は、アルカリ形燃料電池に使用される公知各種の空気極触媒を含むものであればよく、特に限定されない。空気極触媒の例としては、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)、鉄族元素(Fe、Co、Ni)等の第8〜10族元素(IUPAC形式での周期表において第8〜10族に属する元素)、Cu、Ag、Au等の第11族元素(IUPAC形式での周期表において第11族に属する元素)、ロジウムフタロシアニン、テトラフェニルポルフィリン、Coサレン、Niサレン(サレン=N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミン)、銀硝酸塩、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。空気極12における触媒の担持量は特に限定されないが、好ましくは0.1〜10mg/cm
2、より好ましくは、0.1〜5mg/cm
2である。空気極触媒はカーボンに担持させることが好ましい。空気極12ないしそれを構成する触媒の好ましい例としては、白金担持カーボン(Pt/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)が挙げられる。空気極12の作製方法は特に限定されないが、例えば、空気極触媒及び所望により担体をバインダーと混合してペースト状にし、このペースト状混合物を無機固体電解質体16の一方の面に塗布することにより形成すればよい。
【0013】
燃料極14は、液体燃料及び/又は気体燃料が供給されてアノードとして機能する電極である。燃料極14は、アルカリ形燃料電池に使用される公知各種の燃料極触媒を含むものであればよく、特に限定されない。燃料極触媒の例としては、Pt、Ni、Co、Fe、Ru、Sn、及びPd等の金属触媒が挙げられる。金属触媒はカーボン等の担体に担持されるのが好ましい。また、金属触媒の金属原子を中心金属とする有機金属錯体の形態としてもよく、さらにはこのような有機金属錯体を担体に担持させてもよい。また、触媒の表面には多孔質材料等で構成された拡散層を配置してもよい。燃料極14ないしそれを構成する触媒の好ましい例としては、ニッケル、コバルト、銀、白金担持カーボン(Pt/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)が挙げられる。燃料極14の作製方法は特に限定されないが、例えば、燃料極触媒及び所望により担体をバインダーと混合してペースト状にし、このペースト状混合物を無機固体電解質体16の空気極12と反対側の面に塗布することにより形成すればよい。
【0014】
燃料極14に供給される燃料は液体燃料及び気体燃料のいずれの形態であってもよい。液体燃料は燃料化合物そのものが液体であってもよいし、固体形態の燃料化合物を水やアルコール等の液体に溶解させて得たものであってもよい。燃料に使用可能な燃料化合物の例としては、(i)ヒドラジン(NH
2NH
2)、水加ヒドラジン(NH
2NH
2・H
2O)、炭酸ヒドラジン((NH
2NH
2)
2CO
2)、硫酸ヒドラジン(NH
2NH
2・H
2SO
4)、モノメチルヒドラジン(CH
3NHNH
2)、ジメチルヒドラジン((CH
3)
2NNH
2、CH
3NHNHCH
3)、カルボンヒドラジド((NHNH
2)
2CO)等のヒドラジン類、(ii)尿素(NH
2CONH
2)、(iii)アンモニア(NH
3)、(iv)イミダゾール、1,3,5−トリアジン、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール等の複素環類化合物、(v)ヒドロキシルアミン(NH
2OH)、硫酸ヒドロキシルアミン(NH
2OH・H
2SO
4)等のヒドロキシルアミン類、及び(vi)それらの任意の組合せが挙げられる。上記燃料化合物のうち炭素を含まない化合物(すなわち、ヒドラジン、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、アンモニア、ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン等)は、一酸化炭素による触媒被毒の問題が無いため耐久性の向上を図ることができ、その上、二酸化炭素の排出を無くすことができる。また、上記燃料化合物をそのまま燃料として用いてもよいが、燃料化合物を水及び/又はアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール等)に溶解させた溶液として用いてもよい。例えば、上記列挙された燃料化合物のうち、ヒドラジン、水化ヒドラジン、モノメチルヒドラジン及びジメチルヒドラジンは液体であり、液体燃料として使用可能である。また、炭酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、カルボンヒドラジド、尿素、イミダゾール、及び3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、及び硫酸ヒドロキシルアミンは固体であるが水に可溶であり、1,3,5−トリアジン及びヒドロキシルアミンは固体であるがアルコールに可溶である。アンモニアは気体であるが水に可溶である。したがって、これらの固体形態の燃料化合物は水又はアルコールに溶解させて液体燃料として使用可能である。燃料化合物を水及び/又はアルコールに溶解させて用いる場合、溶液中の燃料化合物の濃度は、例えば1〜90重量%であり、好ましくは1〜30重量%である。あるいは、メタノール、エタノール等のアルコール類を含む炭化水素系液体燃料、メタン等の炭化水素系ガスや純水素をそのまま燃料として用いてもよい。
【0015】
燃料極14には液体燃料が供給されるのがより好ましい。無機固体電解質体16が液不透過性に優れるため、液体燃料の空気極側への透過を確実に阻止して起電力低下を抑制することができる。液体燃料は、上述したように、水及び/又はアルコールを含む液体であるのが好ましい。また、液体燃料は、エタノール、メタノール、エチレングリコール、水化ヒドラジン、及びアンモニアからなる群から選択される少なくとも1種を含有するのが好ましい。
【0016】
無機固体電解質体16は、水酸化物イオン伝導性を有するセラミックスである。無機固体電解質体16は、M
2+1−xM
3+x(OH)
2A
n−x/n・mH
2O(式中、M
2+は2価の陽イオンであり、M
3+は3価の陽イオンであり、A
n−はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数であり、xは0.1〜0.4である)の基本組成を有する層状複水酸化物(LDH)からなる。上記一般式において、M
2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg
2+、Ca
2+及びZn
2+が挙げられ、より好ましくはMg
2+である。M
3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl
3+又はCr
3+が挙げられ、より好ましくはAl
3+である。A
n−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH
−及びCO
32−が挙げられる。したがって、上記一般式において、M
2+がMg
2+を含み、M
3+がAl
3+を含み、A
n−がOH
−及び/又はCO
32−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。mは任意の実数である。また、上記一般式においてM
3+の一部または全部を4価またはそれ以上の価数の陽イオンで置き換えてもよく、その場合は、上記一般式における陰イオンA
n−の係数x/nは適宜変更されてよい。
【0017】
無機固体電解質体16は水熱処理によって緻密化されたものである。水熱処理は、層状複水酸化物、とりわけMg−Al型層状複水酸化物の一体緻密化に極めて有効である。こうして水熱処理によって緻密化された無機固体電解質体16は、典型的には液透過性及び通気性を有しない。したがって、無機固体電解質体16は、耐熱性及び耐久性に優れるだけでなく、燃料透過による起電力低下をも抑制できる。このように無機固体電解質体16は液透過性及び通気性を有しない程にまで緻密化されていることが望まれる。例えば、無機固体電解質体16は、アルキメデス法又はこれに準ずる方法で算出して、90%以上の相対密度を有するのが好ましく、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上である。このようなLDH緻密体ともいうべき無機固体電解質体16は水熱処理を経て製造可能になるのであり、水熱処理を経ていない単なるLDH圧粉体は、緻密性が不十分のため好ましくない。水熱処理を用いた無機固体電解質体16の好ましい製造方法については後述するものとする。
【0018】
無機固体電解質体16は、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質を含んで構成される粒子群と、これら粒子群の緻密化や硬化を助ける補助成分との複合体であってもよい。あるいは、基材としての開気孔性の多孔質体と、この多孔質体の孔を埋めるように孔中に析出及び成長させた無機固体電解質(例えば層状複水酸化物)との複合体も使用可能である。この多孔質体を構成する物質の例としては、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスや、発泡樹脂又は繊維状物質からなる多孔性シート等の絶縁性の物質が挙げられる。
【0019】
無機固体電解質体16は、板状、膜状又は層状のいずれの形態であってもよく、膜状又は層状の形態である場合、膜状又は層状の無機固体電解質体が多孔質基材上又はその中に形成されたものであるのが好ましい。板状の無機固体電解質体の好ましい厚さは、0.01〜0.5mmであり、より好ましくは0.02〜0.2mm、さらに好ましくは0.05〜0.1mmである。また、無機固体電解質体の水酸化物イオン伝導度は高ければ高い方が望ましいが、典型的には10
−4〜10
−1S/mの伝導度を有する。一方、膜状又は層状の形態の場合には、厚さが100μm以下であるのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは5μm以下である。このように薄いことで無機固体電解質体の低抵抗化を実現できる。厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、無機固体電解質膜ないし層として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
【0020】
無機固体電解質体16の片面又は両面(望ましくは片面)に多孔質基材を設けてもよい。多孔質基材により強度を付与できるため、無機固体電解質体16を薄くして低抵抗化を図ることもできる。また、多孔質基材上又はその中に無機固体電解質体(好ましくはLDH)の緻密膜ないし緻密層を形成することもできる。無機固体電解質体16の片面に多孔質基材を設ける場合には、多孔質基材を用意して、この多孔質基材に無機固体電解質を成膜する手法が考えられる(この手法については後述する)。一方、無機固体電解質体16の両面に多孔質基材を設ける場合には、2枚の多孔質基材の間に無機固体電解質の原料粉末を挟んで緻密化を行うことが考えられる。多孔質基材は無機固体電解質体16の片面の全面にわたって設けられてもよいし、無機固体電解質体16の片面の一部にのみ設ける構成としてもよい。例えば、多孔質基材上又はその中に無機固体電解質体16を膜状又は層状に形成した場合、その製法に由来して、無機固体電解質体の片面の全面にわたって多孔質基材が設けられた構成になるのが典型的である。一方、無機固体電解質体16を(基材を必要としない)自立した板状に形成した場合には、無機固体電解質体16の片面の一部(例えば充放電反応に関与する領域)にのみ多孔質基材を後付けしてもよいし、片面の全面にわたって多孔質基材を後付けしてもよい。
【0021】
本発明の好ましい態様によれば、多孔質基材は水酸化物イオン伝導性を有する材料で構成されうる。この水酸化物イオン伝導性を有する多孔質基材は、無機固体電解質体16のいずれの面に設けてもよく、両側に設けてもよい。例えば、
図2に示されるように多孔質基材18を空気極12側に設けてもよいし、
図3に示されるように多孔質基材18を燃料極14側に設けてもよい。というのも、本態様においては、多孔質基材自体を水酸化物イオンが通過可能であるため、空気極12及び/又は燃料極14と無機固体電解質体16との間で水酸化物イオンの伝導性を十分に確保することができるためである。したがって、本態様においては液体燃料及び気体燃料のいずれも使用可能である。水酸化物イオン伝導性を有する多孔質基材は、水酸化物イオン伝導性を有するセラミックス材料で構成されたものであるのが好ましく、例えば上述したような組成の層状複水酸化物(LDH)で構成されたものであってよい。
【0022】
本発明の別の好ましい態様によれば、多孔質基材は水酸化物イオン伝導性を有しない材料で構成されてもよい。この場合、
図3に示されるように、多孔質基材18は、無機固体電解質体16の燃料極14側に設けられ、燃料極14に液体燃料とアルカリ金属水酸化物水溶液との混合溶液が供給されることが望まれる。すなわち、本態様においては、多孔質基材18が水酸化物イオン伝導性を有しないため、液体燃料にアルカリ金属水酸化物水溶液を混合させることで、多孔質基材18を通過可能な混合溶液を介して、燃料極14と無機固体電解質体16との間における水酸化物イオンの伝導性を確保可能とする。この場合には、多孔質基材をアルミナやジルコニア等のセラミックス材料を始めとする様々な材料で構成することができる。アルカリ金属水酸化物水溶液の例としては、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化アンモニウム水溶液等が挙げられるが、水酸化カリウム水溶液がより好ましい。
【0023】
LDH緻密板の製造方法
板状の無機固体電解質の好ましい形態として、層状複水酸化物(LDH)緻密体が挙げられる。LDH緻密体はあらゆる方法によって作製されたものであってもよいが、以下に好ましい製造方法の一態様を説明する。この製造方法は、ハイドロタルサイトに代表されるLDHの原料粉末を成形及び焼成して酸化物焼成体とし、これを層状複水酸化物へ再生した後、余剰の水分を除去することにより行われる。この方法によれば、88%以上の相対密度を有する高品位な層状複水酸化物緻密体を簡便に且つ安定的に提供及び製造することができる。
【0024】
(1)原料粉末の用意
原料粉末として、一般式:M
2+1−xM
3+x(OH)
2A
n−x/n・mH
2O(式中、M
2+は2価の陽イオン、M
3+は3価の陽イオンであり、A
n−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)で表される層状複水酸化物の粉末を用意する。上記一般式において、M
2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg
2+、Ca
2+及びZn
2+が挙げられ、より好ましくはMg
2+である。M
3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl
3+又はCr
3+が挙げられ、より好ましくはAl
3+である。A
n−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH
−及びCO
32−が挙げられる。したがって、上記一般式は、少なくともM
2+がMg
2+を、M
3+がAl
3+を含み、A
n−がOH
−及び/又はCO
32−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。このような原料粉末は市販の層状複水酸化物製品であってもよいし、硝酸塩や塩化物を用いた液相合成法等の公知の方法にて作製した原料であってもよい。原料粉末の粒径は、所望の層状複水酸化物緻密体が得られる限り限定されないが、体積基準D50平均粒径が0.1〜1.0μmであるのが好ましく、より好ましくは0.3〜0.8μmである。原料粉末の粒径が細かすぎると粉末が凝集しやすく、成形時に気孔が残留する可能性が高く、大きすぎると成形性が悪くなるためである。
【0025】
所望により、原料粉末を仮焼して酸化物粉末としてもよい。この際の仮焼温度は、構成するM
2+及びM
3+によって多少の差があるが、500℃以下が好ましく、より好ましくは380〜460℃とし、原料粒径が大きく変化しない領域で行う。
【0026】
(2)成形体の作製
原料粉末を成形して成形体を得る。この成形は、成形後且つ焼成前の成形体(以下、成形体という)が、43〜65%、より好ましくは45〜60%であり、さらに好ましくは47%〜58%の相対密度を有するように、例えば加圧成形により行われるのが好ましい。成形体の相対密度は、成形体の寸法及び重量から密度を算出し、理論密度で除して求められるが、成形体の重量は吸着水分の影響を受けるため、一義的な値を得るために、室温、相対湿度20%以下のデシケータ内で24時間以上保管した原料粉末を用いた成形体か、もしくは成形体を前記条件下で保管した後に相対密度を測定するのが好ましい。ただし、原料粉末を仮焼して酸化物粉末とした場合は、成形体の相対密度が26〜40%であるのが好ましく、より好ましくは29〜36%である。なお、酸化物粉末を用いる場合の相対密度は、層状複水酸化物を構成する各金属元素が仮焼により各々酸化物に変化したと仮定し、各酸化物の混合物として求めた換算密度を分母として求めた。一例に挙げた加圧成形は、金型一軸プレスにより行ってもよいし、冷間等方圧加圧(CIP)により行ってもよい。冷間等方圧加圧(CIP)を用いる場合は原料粉末をゴム製容器中に入れて真空封じするか、あるいは予備成形したものを用いるのが好ましい。その他、スリップキャストや押出成形など、公知の方法で成形してもよく、成形方法については特に限定されない。ただし、原料粉末を仮焼して酸化物粉末とした場合は、乾式成形法に限られる。これらの成形体の相対密度は、得られる緻密体の強度だけではなく、通常板状形状を有する層状複水酸化物の配向度への影響もあることから、その用途等を考慮して成形時の相対密度を上記の範囲で適宜設定するのが好ましい。
【0027】
(3)焼成工程
上記工程で得られた成形体を焼成して酸化物焼成体を得る。この焼成は、酸化物焼成体が、成形体の重量の57〜65%の重量となり、且つ/又は、成形体の体積の70〜76%以下の体積となるように行われるのが好ましい。成形体の重量の57%以上であると、後工程の層状複水酸化物への再生時に再生できない異相が生成しにくくなり、65%以下であると焼成が十分に行われて後工程で十分に緻密化する。また、成形体の体積の70%以上であると、後工程の層状複水酸化物への再生時に異相が生成にくくなるとともに、クラックも生じにくくなり、76%以下であると、焼成が十分に行われて後工程で十分に緻密化する。原料粉末を仮焼して酸化物粉末とした場合は、成形体の重量の85〜95%、及び/又は成形体の体積の90%以上の酸化物焼成体を得るのが好ましい。原料粉末が仮焼されるか否かに関わらず、焼成は、酸化物焼成体が、酸化物換算で20〜40%の相対密度を有するように行われるのが好ましく、より好ましくは20〜35%であり、さらに好ましくは20〜30%である。ここで、酸化物換算での相対密度とは、層状複水酸化物を構成する各金属元素が焼成により各々酸化物に変化したと仮定し、各酸化物の混合物として求めた換算密度を分母として求めた相対密度である。酸化物焼成体を得るための好ましい焼成温度は400〜850℃であり、より好ましくは700〜800℃である。この範囲内の焼成温度で1時間以上保持されるのが好ましく、より好ましい保持時間は3〜10時間である。また、急激な昇温により水分や二酸化炭素が放出して成形体が割れるのを防ぐため、上記焼成温度に到達させるための昇温は100℃/h以下の速度で行われるのが好ましく、より好ましくは5〜75℃/hであり、さらに好ましくは10〜50℃/hである。したがって、昇温から降温(100℃以下)に至るまでの全焼成時間は20時間以上確保するのが好ましく、より好ましくは30〜70時間、さらに好ましくは35〜65時間である。
【0028】
(4)層状複水酸化物への再生工程
上記工程で得られた酸化物焼成体を上述したn価の陰イオン(A
n−)を含む水溶液中又はその直上に保持して層状複水酸化物へと再生し、それにより水分に富む層状複水酸化物固化体を得る。すなわち、この製法により得られる層状複水酸化物固化体は必然的に余分な水分を含んでいる。なお、水溶液中に含まれる陰イオンは原料粉末中に含まれる陰イオンと同種の陰イオンとしてよいし、異なる種類の陰イオンとしてもよい。酸化物焼成体の水溶液中又は水溶液直上での保持は密閉容器内で水熱合成の手法により行われるのが好ましく、そのような密閉容器の例としてはテフロン(登録商標)製の密閉容器が挙げられ、より好ましくはその外側にステンレス製等のジャケットを備えた密閉容器である。層状複水酸化物化は、酸化物焼成体を20℃以上200℃未満で、少なくとも酸化物焼成体の一面が水溶液に接する状態に保持することにより行われるのが好ましく、より好ましい温度は50〜180℃であり、さらに好ましい温度は100〜150℃である。このような層状複水酸化物化温度で酸化物焼結体が1時間以上保持されるのが好ましく、より好ましくは2〜50時間であり、さらに好ましくは5〜20時間である。このような保持時間であると十分に層状複水酸化物への再生を進行させて異相が残るのを回避又は低減できる。なお、この保持時間は、長すぎても特に問題はないが、効率性を重視して適時設定すればよい。
【0029】
層状複水酸化物への再生に使用するn価の陰イオンを含む水溶液の陰イオン種として空気中の二酸化炭素(炭酸イオン)を想定する場合は、イオン交換水を用いることが可能である。なお、密閉容器内の水熱処理の際には、酸化物焼成体を水溶液中に水没させてもよいし、治具を用いて少なくとも一面が水溶液に接する状態で処理を行ってもよい。少なくとも一面が水溶液に接する状態で処理した場合、完全水没と比較して余分な水分量が少ないので、その後の工程が短時間で済むことがある。ただし、水溶液が少なすぎるとクラックが発生しやすくなるため、焼成体重量と同等以上の水分を用いるのが好ましい。
【0030】
(5)脱水工程
上記工程で得られた水分に富む層状複水酸化物固化体から余剰の水分を除去する。こうして本発明の層状複水酸化物緻密体が得られる。この余剰の水分を除去する工程は、300℃以下、除去工程の最高温度での推定相対湿度25%以上の環境下で行われるのが好ましい。層状複水酸化物固化体からの急激な水分の蒸発を防ぐため、室温より高い温度で脱水する場合は層状複水酸化物への再生工程で使用した密閉容器中に再び封入して行うことが好ましい。その場合の好ましい温度は50〜250℃であり、さらに好ましくは100〜200℃である。また、脱水時のより好ましい相対湿度は25〜70%であり、さらに好ましくは40〜60%である。脱水を室温で行ってもよく、その場合の相対湿度は通常の室内環境における40〜70%の範囲内であれば問題はない。
【0031】
多孔質基材付きLDH緻密層
前述のとおり、無機固体電解質体は膜状又は層状の形態であることができる。この場合、膜状又は層状の無機固体電解質体が多孔質基材上又はその中に形成されてなる、多孔質基材付き無機固体電解質体とするのが好ましい。特に好ましい多孔質基材付き無機固体電解質体は、多孔質基材と、この多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成される無機固体電解質層とを備えてなり、無機固体電解質層が前述したような層状複水酸化物(LDH)を含んでなるものである。このLDHを含んでなる無機固体電解質層(以下、LDH層という)は液透過性及び通気性を有しないのが好ましい。すなわち、多孔質材料は孔の存在により液透過性及び通気性を有しうるが、LDH層は液透過性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているのが好ましい。LDH層は多孔質基材上に形成されるのが好ましい。例えば、
図4に示されるように、多孔質基材28上にLDH層20がLDH緻密膜として形成されるのが好ましい。この場合、多孔質基材28の性質上、
図4に示されるように多孔質基材28の表面及びその近傍の孔内にもLDHが形成されてよいのはいうまでもない。あるいは、
図5に示されるように、多孔質基材28中(例えば多孔質基材28の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成され、それにより多孔質基材28の少なくとも一部がLDH層20’を構成するものであってもよい。この点、
図5に示される態様は
図4に示される態様のLDH層20における膜相当部分を除去した構成となっているが、これに限定されず、多孔質基材28の表面と平行にLDH層が存在していればよい。いずれにしても、LDH層は液透過性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているため、水酸化物イオン伝導性を有するが液透過性及び通気性を有しない(すなわち基本的に水酸化物イオンのみを通す)という特有の機能を有することができる。
【0032】
多孔質基材は、その上及び/又は中にLDH層を形成できるものが好ましく、その材質や多孔構造は特に限定されない。多孔質基材上及び/又は中にLDH層を形成するのが典型的ではあるが、無孔質基材上にLDH層を成膜し、その後公知の種々の手法により無孔質基材を多孔化してもよい。いずれにしても、多孔質基材は液透過性や通気性を有する多孔構造を有するのが好ましい。
【0033】
多孔質基材は、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましい。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ及びジルコニアであり、最も好ましくはアルミナである。これらの多孔質セラミックスを用いると緻密性に優れたLDH層を形成しやすい。金属材料の好ましい例としては、アルミニウム及び亜鉛が挙げられる。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。上述した各種の好ましい材料から電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性に優れたものを適宜選択するのが更に好ましい。
【0034】
多孔質基材は0.001〜1.5μmの平均気孔径を有するのが好ましく、より好ましくは0.001〜1.25μm、さらに好ましくは0.001〜1.0μm、特に好ましくは0.001〜0.75μm、最も好ましくは0.001〜0.5μmである。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の液透過性を確保しながら、液透過性を有しない程に緻密なLDH層を形成することができる。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行うことができる。この測定に用いる電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得ることができる。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能や画像解析ソフト(例えば、Photoshop、Adobe社製)等を用いることができる。
【0035】
多孔質基材の表面は、10〜60%の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15〜55%、さらに好ましくは20〜50%である。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の液透過性を確保しながら、液透過性を有しない程に緻密なLDH層を形成することができる。ここで、多孔質基材の表面の気孔率を採用しているのは、以下に述べる画像処理を用いた気孔率の測定がしやすいことによるものであり、多孔質基材の表面の気孔率は多孔質基材内部の気孔率を概ね表しているといえるからである。すなわち、多孔質基材の表面が緻密であれば多孔質基材の内部もまた同様に緻密であるといえる。本発明において、多孔質基材の表面の気孔率は画像処理を用いた手法により以下のようにして測定することができる。すなわち、1)多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順でヒストグラムのしきい値を調整して白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とする。なお、この画像処理による気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われるのが好ましく、より客観的な指標とするためには、任意に選択された3箇所の領域について得られた気孔率の平均値を採用するのがより好ましい。
【0036】
LDH層は、多孔質基材上及び/又は多孔質基材中、好ましくは多孔質基材上に形成される。例えば、
図4に示されるようにLDH層20が多孔質基材28上に形成される場合には、LDH層20はLDH緻密膜の形態であり、このLDH緻密膜は典型的にはLDHからなる。また、
図5に示されるようにLDH層20’が多孔質基材28中に形成される場合には、多孔質基材28中(典型的には多孔質基材28の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成されることから、LDH層20’は典型的には多孔質基材28の少なくとも一部及びLDHからなる。
図5に示されるLDH層20’は、
図4に示されるLDH層20における膜相当部分を研磨、切削等の公知の手法により除去することにより得ることができる。
【0037】
LDH層は液透過性及び通気性を有しないのが好ましい。例えば、LDH層はその片面を25℃で1週間水と接触させても水を透過させず、また、その片面に0.5atmの内外差圧で水素ガスを加圧しても水素ガスを透過させない。すなわち、LDH層は液透過性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているのが好ましい。もっとも、局所的且つ/又は偶発的に液透過性を有する欠陥が機能膜に存在する場合には、当該欠陥を適当な補修剤(例えばエポキシ樹脂等)で埋めて補修することで水不透性及び気体不透過性を確保してもよく、そのような補修剤は必ずしも水酸化物イオン伝導性を有する必要はない。いずれにしても、LDH層(典型的にはLDH緻密膜)の表面が20%以下の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは7%以下である。LDH層の表面の気孔率が低ければ低いほど、LDH層(典型的にはLDH緻密膜)の緻密性が高いことを意味し、好ましいといえる。ここで、LDH層の表面の気孔率を採用しているのは、以下に述べる画像処理を用いた気孔率の測定がしやすいことによるものであり、LDH層の表面の気孔率はLDH層内部の気孔率を概ね表しているといえるからである。すなわち、LDH層の表面が緻密であればLDH層の内部もまた同様に緻密であるといえる。本発明において、LDH層の表面の気孔率は画像処理を用いた手法により以下のようにして測定することができる。すなわち、1)LDH層の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順でヒストグラムのしきい値を調整して白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とする。なお、この画像処理による気孔率の測定はLDH層表面の6μm×6μmの領域について行われるのが好ましく、より客観的な指標とするためには、任意に選択された3箇所の領域について得られた気孔率の平均値を採用するのがより好ましい。
【0038】
層状複水酸化物は複数の板状粒子(すなわちLDH板状粒子)の集合体で構成され、当該複数の板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面(基材面)と略垂直に又は斜めに交差するような向きに配向してなるのが好ましい。この態様は、
図4に示されるように、多孔質基材28上にLDH層20がLDH緻密膜として形成される場合に特に好ましく実現可能な態様であるが、
図5に示されるように、多孔質基材28中(典型的には多孔質基材28の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成され、それにより多孔質基材28の少なくとも一部がLDH層20’を構成する場合においても実現可能である。
【0039】
すなわち、LDH結晶は
図6に示されるような層状構造を持った板状粒子の形態を有することが知られているが、上記略垂直又は斜めの配向は、LDH層(例えばLDH緻密膜)にとって極めて有利な特性である。というのも、配向されたLDH層(例えば配向LDH緻密膜)には、LDH板状粒子が配向する方向(即ちLDHの層と平行方向)の水酸化物イオン伝導度が、これと垂直方向の伝導度よりも格段に高いという伝導度異方性があるためである。実際、本出願人は、LDHの配向バルク体において、配向方向における伝導度(S/cm)が配向方向と垂直な方向の伝導度(S/cm)と比べて1桁高いとの知見を得ている。すなわち、本態様のLDH層における上記略垂直又は斜めの配向は、LDH配向体が持ちうる伝導度異方性を層厚方向(すなわちLDH層又は多孔質基材の表面に対して垂直方向)に最大限または有意に引き出すものであり、その結果、層厚方向への伝導度を最大限又は有意に高めることができる。その上、LDH層は層形態を有するため、バルク形態のLDHよりも低抵抗を実現することができる。このような配向性を備えたLDH層は、層厚方向に水酸化物イオンを伝導させやすくなる。その上、緻密化されているため、液透過性や通気性を有しておらず、それ故、燃料の空気極側への透過を阻止して起電力低下の抑制することができる。
【0040】
特に好ましくは、LDH層(典型的にはLDH緻密膜)においてLDH板状粒子が略垂直方向に高度に配向してなる。この高度な配向は、LDH層の表面をX線回折法により測定した場合に、(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出されることで確認可能なものである(但し、(012)面に起因するピークと同位置に回折ピークが観察される多孔質基材を用いた場合には、LDH板状粒子に起因する(012)面のピークを特定できないことから、この限りでない)。この特徴的なピーク特性は、LDH層を構成するLDH板状粒子がLDH層に対して略垂直方向(すなわち垂直方向又はそれに類する斜め方向、好ましくは垂直方向)に配向していることを示す。すなわち、(003)面のピークは無配向のLDH粉末をX線回折した場合に観察される最も強いピークとして知られているが、配向LDH層にあっては、LDH板状粒子がLDH層に対して略垂直方向に配向していることで(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出される。これは、(003)面が属するc軸方向(00l)面(lは3及び6である)がLDH板状粒子の層状構造と平行な面であるため、このLDH板状粒子がLDH層に対して略垂直方向に配向しているとLDH層状構造も略垂直方向を向くこととなる結果、LDH層表面をX線回折法により測定した場合に(00l)面(lは3及び6である)のピークが現れないか又は現れにくくなるからである。特に(003)面のピークは、それが存在する場合、(006)面のピークよりも強く出る傾向があるから、(006)面のピークよりも略垂直方向の配向の有無を評価しやすいといえる。したがって、配向LDH層は、(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出されるのが、垂直方向への高度な配向を示唆することから好ましいといえる。
【0041】
LDH層は100μm以下の厚さを有するのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは5μm以下である。このように薄いことで無機固体電解質体の低抵抗化を実現できる。LDH層が多孔質基材上にLDH緻密膜として形成されるのが好ましく、この場合、LDH層の厚さはLDH緻密膜の厚さに相当する。また、LDH層が多孔質基材中に形成される場合には、LDH層の厚さは多孔質基材の少なくとも一部及びLDHからなる複合層の厚さに相当し、LDH層が多孔質基材上及び中にまたがって形成される場合にはLDH緻密膜と上記複合層の合計厚さに相当する。いずれにしても、上記のような厚さであると、電池用途等への実用化に適した所望の低抵抗を実現することができる。LDH配向膜の厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、無機固体電解質体として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
【0042】
上述した多孔質基材付き無機固体電解質体は、(1)多孔質基材を用意し、(2)マグネシウムイオン(Mg
2+)及びアルミニウムイオン(Al
3+)を0.20〜0.40mol/Lの合計濃度で含み、かつ、尿素を含んでなる原料水溶液に、多孔質基材を浸漬させ、(3)原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、層状複水酸化物を含んでなるLDH層を多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成させることにより製造することができる。
【0043】
(1)多孔質基材の用意
多孔質基材は、前述したとおりであり、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましい。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ及びジルコニアであり、最も好ましくはアルミナである。これらの多孔質セラミックスを用いるとLDH層の緻密性を向上しやすい傾向がある。セラミックス材料製の多孔質基材を用いる場合、超音波洗浄、イオン交換水での洗浄等を多孔質基材に施すのが好ましい。
【0044】
(2)原料水溶液への浸漬
次に、多孔質基材を原料水溶液に所望の向きで(例えば水平又は垂直に)浸漬させる。多孔質基材を水平に保持する場合は、吊るす、浮かせる、容器の底に接するように多孔質基材を配置すればよく、例えば、容器の底から原料水溶液中に浮かせた状態で多孔質基材を固定としてもよい。多孔質基材を垂直に保持する場合は、容器の底に多孔質基材を垂直に設置できるような冶具を置けばよい。いずれにしても、多孔質基材にLDHを略垂直方向又はそれに近い方向(すなわちLDH板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面(基材面)と略垂直に又は斜めに交差するような向きに)に成長させる構成ないし配置とするのが好ましい。原料水溶液は、マグネシウムイオン(Mg
2+)及びアルミニウムイオン(Al
3+)を所定の合計濃度で含み、かつ、尿素を含んでなる。尿素が存在することで尿素の加水分解を利用してアンモニアが溶液中に発生することによりpH値が上昇し、共存する金属イオンが水酸化物を形成することによりLDHを得ることができる。また、加水分解に二酸化炭素の発生を伴うため、陰イオンが炭酸イオン型のLDHを得ることができる。原料水溶液に含まれるマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンの合計濃度(Mg
2++Al
3+)は0.20〜0.40mol/Lが好ましく、より好ましくは0.22〜0.38mol/Lであり、さらに好ましくは0.24〜0.36mol/L、特に好ましくは0.26〜0.34mol/Lである。このような範囲内の濃度であると核生成と結晶成長をバランスよく進行させることができ、配向性のみならず緻密性にも優れたLDH層を得ることが可能となる。すなわち、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンの合計濃度が低いと核生成に比べて結晶成長が支配的となり、粒子数が減少して粒子サイズが増大する一方、この合計濃度が高いと結晶成長に比べて核生成が支配的となり、粒子数が増大して粒子サイズが減少するものと考えられる。
【0045】
好ましくは、原料水溶液に硝酸マグネシウム及び硝酸アルミニウムが溶解されており、それにより原料水溶液がマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンに加えて硝酸イオンを含んでなる。そして、この場合、原料水溶液における、尿素の硝酸イオン(NO
3−)に対するモル比(尿素/NO
3−)が、2〜6が好ましく、より好ましくは4〜5である。
【0046】
(3)水熱処理によるLDH層の形成
そして、原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、LDHを含んでなるLDH層を多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成させる。この水熱処理は密閉容器中、60〜150℃で行われるのが好ましく、より好ましくは65〜120℃であり、さらに好ましくは65〜100℃であり、特に好ましくは70〜90℃である。水熱処理の上限温度は多孔質基材(例えば高分子基材)が熱で変形しない程度の温度を選択すればよい。水熱処理時の昇温速度は特に限定されず、例えば10〜200℃/hであってよいが、好ましくは100〜200℃/hである、より好ましくは100〜150℃/hである。水熱処理の時間はLDH層の目的とする密度と厚さに応じて適宜決定すればよい。
【0047】
水熱処理後、密閉容器から多孔質基材を取り出し、イオン交換水で洗浄するのが好ましい。
【0048】
上記のようにして製造されたLDH含有複合材料におけるLDH層は、LDH板状粒子が高度に緻密化したものであり、しかも伝導に有利な略垂直方向に配向したものである。
【0049】
ところで、上記製造方法により得られるLDH層は多孔質基材の両面に形成されうる。このため、LDH含有複合材料を燃料電池用無機固体電解質体として好適に使用可能な形態とするためには、成膜後に多孔質基材の片面のLDH層を機械的に削るか、あるいは成膜時に片面にはLDH層が成膜できないような措置を講ずるのが望ましい。
【実施例】
【0050】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0051】
例1:無機固体電解質体(LDH緻密体)の作製及び評価
(1)LDH緻密体の作製
まず、原料粉末として、市販の層状複水酸化物であるハイドロタルサイト粉末(DHT−4H、協和化学工業株式会社製)粉末を用意した。この原料粉末の組成はMg
2+0.68Al
3+0.32(OH)
2CO
32−0.16・mH
2Oであった。原料粉末を直径16mmの金型に充填して500kgf・cm
2の成形圧で一軸プレス成形して、相対密度53%、厚さ約2mmの成形体を得た。なお、この相対密度の測定は、室温、相対湿度20%以下で24時間保管した成形体について行った。得られた成形体をアルミナ鞘中で焼成した。この焼成は、急激な昇温により水分や二酸化炭素が放出して成形体が割れるのを防ぐため、100℃/h以下の速度で昇温を行い、750℃の最高温度に達した時点で5時間保持した後、冷却することにより行った。この昇温から降温(100℃以下)に至るまでの全焼成時間は62時間であり、得られた焼結体の重量、体積及び相対密度はそれぞれ59重量%、72体積%、23%であった。なお、上記「重量」及び「体積」は焼成前の成形体を100%とした算出された相対値(%)であり、「相対密度」はハイドロタルサイトの構成金属元素であるMg及びAlを酸化物として算出した理論密度を用いて得た、酸化物換算での相対密度である。こうして得られた焼成体を、外側にステンレス製ジャケットを備えたテフロン(登録商標)製の密閉容器に大気中でイオン交換水と共に封入し、100℃で5時間保持する再生条件(温度及びその温度での保持時間)で水熱処理を施して、試料を得た。室温まで冷めた試料は余分な水分を含んでいるため、ろ紙等で軽く表面の水分を拭き取った。こうして得られた試料を25℃、相対湿度が50%程度の室内で自然脱水(乾燥)してLDH緻密体試料を得た。
【0052】
(2)相対密度の測定
LDH緻密体試料の寸法及び重量から密度を算出し、この密度を理論密度で除することにより決定したところ、91%であった。なお、理論密度の算出にあたり、Mg/Al=2のハイドロタルサイトの理論密度としてJCPDSカードNo.70−2151に記載される2.09g/cm
3とを用いた。
【0053】
(3)クラックの判定
LDH緻密体試料を目視にて観察したところ、クラックは観察されなかった。
【0054】
(4)結晶相の同定
X線回折装置(D8 ADVANCE、Bulker AXS社製)により、電圧:40kV、電流値:40mA、測定範囲:5〜70°の測定条件で、LDH緻密体試料の結晶相を測定し、JCPDSカードNO.35−0965に記載されるハイドロタルサイトの回折ピークを用いて同定した。その結果、ハイドロタルサイトに起因するピークのみが観察された。
【0055】
(5d)緻密性判定試験I
LDH緻密体試料が液透過性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、
図7Aに示されるように、上記(1)において得られた試料120(1cm×1cm平方に切り出されたもの)に、中央に0.5cm×0.5cm平方の開口部122aを備えたシリコンゴム122を接着し、得られた積層物を2つのアクリル製容器124,126で挟んで接着した。シリコンゴム122側に配置されるアクリル製容器124は底が抜けており、それによりシリコンゴム122はその開口部122aが開放された状態でアクリル製容器124と接着される。一方、試料120に配置されるアクリル製容器126は底を有しており、その容器126内には純水とエタノールを重量比100:20で混合した液体燃料128が入っている。すなわち、組み立て後に上下逆さにすることで、試料120の一面側に液体燃料128が接するように各構成部材が配置されてなる。これらの構成部材等を組み立て後、総重量を測定した。なお、容器126には閉栓された通気穴(図示せず)が形成されており、上下逆さにした後に開栓されることはいうまでもない。
図7Bに示されるように組み立て体を上下逆さに配置して25℃で1週間保持した後、総重量を再度測定した。このとき、アクリル製容器124の内側側面に液滴が付着している場合には、その液滴を拭き取った。そして、試験前後の総重量の差を算出することにより緻密度を判定した。その結果、25℃で1週間保持した後においても、液体燃料の重量に変化は見られなかった。このことから、LDH緻密体試料は液透過性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
【0056】
(5e)緻密性判定試験II
LDH緻密体試料が通気性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、
図8A及び8Bに示されるように、蓋の無いアクリル容器130と、このアクリル容器130の蓋として機能しうる形状及びサイズのアルミナ治具132とを用意した。アクリル容器130にはその中にガスを供給するためのガス供給口130aが形成されている。また、アルミナ治具132には直径5mmの開口部132aが形成されており、この開口部132aの外周に沿って試料載置用の窪み132bが形成されてなる。アルミナ治具132の窪み132bにエポキシ接着剤134を塗布し、この窪み132bに試料136を載置してアルミナ治具132に気密かつ液密に接着させた(なお、
図8Aでは後述する例2の複合材料試料に相当する2層構成136a及び136bからなる試料136を描いているが例1では1層構成のLDH緻密体試料136を意味するものとする)。そして、試料136が接合されたアルミナ治具132を、アクリル容器130の開放部を完全に塞ぐようにシリコーン接着剤138を用いて気密かつ液密にアクリル容器130の上端に接着させて、測定用密閉容器140を得た。この測定用密閉容器140を水槽142に入れ、アクリル容器130のガス供給口130aを圧力計144及び流量計146に接続して、水素ガスをアクリル容器130内に供給可能に構成した。水槽142に水143を入れて測定用密閉容器140を完全に水没させた。このとき、測定用密閉容器140の内部は気密性及び液密性が十分に確保されており、試料136の一面側が測定用密閉容器140の内部空間に露出する一方、複合材料試料136の他面側が水槽142内の水に接触している。この状態で、アクリル容器130内にガス供給口130aを介して水素ガスを測定用密閉容器140内に導入した。圧力計144及び流量計146を制御して試料136内外の差圧が0.5atmとなる(すなわち水素ガスに接する側に加わる圧力が反対側に加わる水圧よりも0.5atm高くなる)ようにして、試料136から水中に水素ガスの泡が発生するか否かを観察した。その結果、水素ガスに起因する泡の発生は観察されなかった。よって、試料136は通気性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
【0057】
例2:多孔質基材付き無機固体電解質体(LDH緻密膜)の作製及び評価
(1)多孔質基材の作製
ベーマイト(サソール社製、DISPAL 18N4−80)、メチルセルロース、及びイオン交換水を、(ベーマイト):(メチルセルロース):(イオン交換水)の質量比が10:1:5となるように秤量した後、混練した。得られた混練物を、ハンドプレスを用いた押出成形に付し、5cm×8cmを十分に超える大きさで且つ厚さ0.5cmの板状に成形した。得られた成形体を80℃で12時間乾燥した後、1150℃で3時間焼成して、アルミナ製多孔質基材を得た。こうして得られた多孔質基材を5cm×8cmの大きさに切断加工した。
【0058】
得られた多孔質基材について、画像処理を用いた手法により、多孔質基材表面の気孔率を測定したところ、24.6%であった。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察して多孔質基材表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順でヒストグラムのしきい値を調整して白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われた。なお、
図9に多孔質基材表面のSEM画像を示す。
【0059】
また、多孔質基材の平均気孔径を測定したところ約0.1μmであった。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行った。この測定に用いた電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得た。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能を用いた。
【0060】
(2)多孔質基材の洗浄
得られた多孔質基材をアセトン中で5分間超音波洗浄し、エタノール中で2分間超音波洗浄、その後、イオン交換水中で1分間超音波洗浄した。
【0061】
(3)原料水溶液の作製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO
3)
2・6H
2O、関東化学株式会社製)、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO
3)
3・9H
2O、関東化学株式会社製)、及び尿素((NH
2)
2CO、シグマアルドリッチ製)を用意した。カチオン比(Mg
2+/Al
3+)が2となり且つ全金属イオンモル濃度(Mg
2++Al
3+)が0.320mol/Lとなるように、硝酸マグネシウム六水和物と硝酸アルミニウム九水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を600mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO
3−=4の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0062】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(内容量800ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(3)で作製した原料水溶液と上記(2)で洗浄した多孔質基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度70℃で168時間(7日間)水熱処理を施すことにより基材表面に層状複水酸化物配向膜(固体電解質体)の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、層状複水酸化物(以下、LDHという)の緻密膜(以下、膜試料という)を基材上に得た。得られた膜試料の厚さは約1.5μmであった。こうして、層状複水酸化物含有複合材料試料(以下、複合材料試料という)を得た。なお、LDH膜は多孔質基材の両面に形成されていたが、多孔質基材の片面のLDH膜を機械的に削り取った。
【0063】
(5)各種評価
(5a)膜試料の同定
X線回折装置(リガク社製 RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10〜70°の測定条件で、膜試料の結晶相を測定したところ、
図10に示されるXRDプロファイルが得られた。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35−0964に記載される層状複水酸化物(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定した。その結果、膜試料は層状複水酸化物(LDH、ハイドロタルサイト類化合物)であることが確認された。なお、
図10に示されるXRDプロファイルにおいては、膜試料が形成されている多孔質基材を構成するアルミナに起因するピーク(図中で○印が付されたピーク)も併せて観察されている。
【0064】
(5b)微構造の観察
膜試料の表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。得られた膜試料の表面微構造のSEM画像(二次電子像)を
図11に示す。
【0065】
また、複合材料試料の断面をCP研磨によって研磨して研磨断面を形成し、この研磨断面の微構造を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。こうして得られた複合材料試料の研磨断面微構造のSEM画像を
図12に示す。
【0066】
(5c)気孔率の測定
膜試料について、画像処理を用いた手法により、膜の表面の気孔率を測定した。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察して膜の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順でヒストグラムのしきい値を調整して白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は配向膜表面の6μm×6μmの領域について行われた。その結果、膜の表面の気孔率は19.0%であった。また、この膜表面の気孔率を用いて、膜表面から見たときの密度D(以下、表面膜密度という)をD=100%−(膜表面の気孔率)により算出したところ、81.0%であった。
【0067】
また、膜試料について、研磨断面の気孔率についても測定した。この研磨断面の気孔率についても測定は、上記(5b)に示される手順に従い膜の厚み方向における断面研磨面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得したこと以外は、上述の膜表面の気孔率と同様にして行った。この気孔率の測定は配向膜断面の膜部分について行われた。こうして膜試料の断面研磨面から算出した気孔率は平均で3.5%(3箇所の断面研磨面の平均値)であり、多孔質基材上でありながら非常に高密度な膜が形成されていることが確認された。
【0068】
(5d)緻密性判定試験I
膜試料が液透過性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、
図7Aに示されるように、上記(1)において得られた複合材料試料120(1cm×1cm平方に切り出されたもの)の膜試料側に、中央に0.5cm×0.5cm平方の開口部122aを備えたシリコンゴム122を接着し、得られた積層物を2つのアクリル製容器124,126で挟んで接着した。シリコンゴム122側に配置されるアクリル製容器124は底が抜けており、それによりシリコンゴム122はその開口部122aが開放された状態でアクリル製容器124と接着される。一方、複合材料試料120の多孔質基材側に配置されるアクリル製容器126は底を有しており、その容器126内には純水とエタノールを重量比100:20で混合した液体燃料128が入っている。すなわち、組み立て後に上下逆さにすることで、複合材料試料120の多孔質基材側に液体燃料128が接するように各構成部材が配置されてなる。これらの構成部材等を組み立て後、総重量を測定した。なお、容器126には閉栓された通気穴(図示せず)が形成されており、上下逆さにした後に開栓されることはいうまでもない。
図7Bに示されるように組み立て体を上下逆さに配置して25℃で1週間保持した後、総重量を再度測定した。このとき、アクリル製容器124の内側側面に液滴が付着している場合には、その液滴を拭き取った。そして、試験前後の総重量の差を算出することにより緻密度を判定した。その結果、25℃で1週間保持した後においても、液体燃料の重量に変化は見られなかった。このことから、膜試料(すなわち固体電解質体)は液透過性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
【0069】
(5e)緻密性判定試験II
膜試料が通気性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、
図8A及び8Bに示されるように、蓋の無いアクリル容器130と、このアクリル容器130の蓋として機能しうる形状及びサイズのアルミナ治具132とを用意した。アクリル容器130にはその中にガスを供給するためのガス供給口130aが形成されている。また、アルミナ治具132には直径5mmの開口部132aが形成されており、この開口部132aの外周に沿って膜試料載置用の窪み132bが形成されてなる。アルミナ治具132の窪み132bにエポキシ接着剤134を塗布し、この窪み132bに複合材料試料136の膜試料136b側を載置してアルミナ治具132に気密かつ液密に接着させた。そして、複合材料試料136が接合されたアルミナ治具132を、アクリル容器130の開放部を完全に塞ぐようにシリコーン接着剤138を用いて気密かつ液密にアクリル容器130の上端に接着させて、測定用密閉容器140を得た。この測定用密閉容器140を水槽142に入れ、アクリル容器130のガス供給口130aを圧力計144及び流量計146に接続して、水素ガスをアクリル容器130内に供給可能に構成した。水槽142に水143を入れて測定用密閉容器140を完全に水没させた。このとき、測定用密閉容器140の内部は気密性及び液密性が十分に確保されており、複合材料試料136の膜試料136b側が測定用密閉容器140の内部空間に露出する一方、複合材料試料136の多孔質基材136a側が水槽142内の水に接触している。この状態で、アクリル容器130内にガス供給口130aを介して水素ガスを測定用密閉容器140内に導入した。圧力計144及び流量計146を制御して膜試料136b内外の差圧が0.5atmとなる(すなわち水素ガスに接する側に加わる圧力が反対側に加わる水圧よりも0.5atm高くなる)ようにして、複合材料試料136から水中に水素ガスの泡が発生するか否かを観察した。その結果、水素ガスに起因する泡の発生は観察されなかった。よって、膜試料136bは通気性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
【0070】
例3:固体アルカリ形燃料電池の作製
(1)固体電解質体の作製
金型のサイズ及びそれを用いて作製される成形体の厚さを変更したこと以外は、例1と同様にして、直径20mm、厚さ0.3mmの円板状のLDH緻密体を固体電解質体として得る。
図14に示されるように、得られた固体電解質体216を、電解質固定用治具218の円形の開口部218a(直径20mm)に嵌め、中央に直径19mmの円形の開口部220aが形成されたPTFEテープ220を用いて固定する。こうして固体電解質体16を電解質固定用治具218の開口部218a内に確実に固定する。
【0071】
(2)空気極及び燃料極の作製
市販の白金担持カーボン(Pt担持量20wt%)を用意する。この白金担持カーボン(以下、Pt/C)を、バインダーであるカルボキシメチルセルロース(以下、CMCバインダー)及び水と、(Pt/C):(CMCバインダー):(水)の重量比が9wt%:0.9wt%:90wt%の比率となるように混合してペースト化する。得られたペーストを無機固体電解質体216の一方の面に印刷して空気極212とし、他方の面に印刷して燃料極214とする。
【0072】
(3)電池の組み立て
こうして得られた無機固体電解質体216、空気極212、燃料極214等を用いて固体アルカリ形燃料電池を以下のようにして作製する。
図13に本例で作製される固体アルカリ形燃料電池の分解斜視図が示される。空気極212及び燃料極214は無機固体電解質体16に印刷されているが、
図13では構成部材を明示すべく、空気極212及び燃料極214を固体電解質体216と分離して表示している。そして、
図13に示されるように、燃料極214/無機固体電解質体216/空気極212の積層物の空気極212側に、開口部222aが形成されたガスケット222(PTFE製)、加湿空気を供給するための空気供給部材213(カーボン製)及び集電板226(金メッキした銅製)を積層する一方、積層物の燃料極214側に、開口部224aが形成されたガスケット224(PTFE製)、燃料を供給するための燃料供給部材215(カーボン製)及び集電板228(金メッキした銅製)を積層する。空気供給部材213は加湿空気を通すための流路213aと加湿空気を空気極212に供給するためのスリット(図示せず)とを備える一方、燃料供給部材215は燃料を通すための流路215aと燃料を燃料極に供給するためのスリット215bとを備える。こうして各構成部材が積層された積層物を2枚の集電板226,228の四隅に形成されたネジ穴226a,228aを介してネジ230で締めて固定する。こうして本発明による固体アルカリ形燃料電池を得る。