特許第6411891号(P6411891)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6411891培養液にアミノ酸を添加することによるポリペプチドの還元防止方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6411891
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】培養液にアミノ酸を添加することによるポリペプチドの還元防止方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20181015BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20181015BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   C12P21/02 C
   C12P21/08
   C07K1/14
【請求項の数】11
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-539822(P2014-539822)
(86)(22)【出願日】2013年10月3日
(86)【国際出願番号】JP2013076966
(87)【国際公開番号】WO2014054744
(87)【国際公開日】20140410
【審査請求日】2016年9月27日
(31)【優先権主張番号】61/709,311
(32)【優先日】2012年10月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000001029
【氏名又は名称】協和発酵キリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 英俊
【審査官】 小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−525800(JP,A)
【文献】 特開2000−316591(JP,A)
【文献】 特開2001−061487(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/134921(WO,A1)
【文献】 特表2012−503487(JP,A)
【文献】 Ann. N. Y. Acad. Sci.,1994年,Vol. 745,p. 222-231
【文献】 Biotechnol. Bioeng.,2010年,Vol. 106, No. 3,p. 452-461
【文献】 J.Chem. Technol. Biotechnol.,2011年,Vol. 86,p. 942-948
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 21/00 − 21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え宿主細胞から発現され、培養液中に分泌されたポリペプチドの還元を防止する方法であって、前記培養液から前記組換え宿主細胞を除去する工程を含み、該工程の開始後に該培養液に塩基性アミノ酸を添加することを含む方法。
【請求項2】
前記培養液から前記組換え宿主細胞を除去する工程の前に、フロキュレーションの工程を含む請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記フロキュレーションの工程に少なくとも酸沈殿を用いる請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記酸沈殿の後に前記培養液に前記塩基性アミノ酸を添加する請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記塩基性アミノ酸がアルギニン、リジンまたはヒスチジンである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記塩基性アミノ酸の終濃度が0.05mol/L〜1mol/Lとなるよう前記培養液に前記塩基性アミノ酸を添加する請求項またはに記載の方法。
【請求項7】
前記塩基性アミノ酸の終濃度が0.5mol/Lになるよう前記培養液に前記塩基性アミノ酸を添加する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記塩基性アミノ酸の終濃度が0.1mol/Lになるよう前記培養液に前記塩基性アミノ酸を添加する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリペプチドが抗体または抗体断片である請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記組換え宿主細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法を用いた、ポリペプチドを精製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え宿主細胞から発現したポリペプチドの還元を防止する方法に関する。また、ポリペプチドの還元を防止し、かつポリペプチドを効率良く精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換え技術の発展により、産業上有用なポリペプチドが工業的に生産されるようになっている。特に、バイオ医薬品業界では数多くの抗体医薬品およびタンパク質医薬品が開発されている。
【0003】
このような産業上有用なポリペプチドは、その製造目的のポリペプチドをコードする遺伝子を含むベクターを導入した組換え宿主細胞を培養することによって生産されることが多く、培養液から所望のポリペプチドを精製する技術が不可欠である。
【0004】
典型的なポリペプチドの精製工程は、培養液から細胞を分離する工程を含み、さらに、細胞を除去した培養液について、細胞断片、不要ポリペプチド、有機物、無機物または塩などを除去するための複数の工程の組み合わせからなる。
【0005】
近年は培養技術の発展が著しく、培養液には、高密度に細胞または細胞断片が存在し、高濃度に製造目的のポリペプチドが存在している。その結果、遠心機または膜を利用して、培養液から細胞を分離する工程では、膜の目詰まりを軽減させる等、効率を向上させる手法が求められる。
【0006】
例えば、培養終了時に培養液へ酸を添加し、培養液中の不要物を予め沈殿させる、酸沈殿と呼ばれる操作は、直後の工程である、培養液から細胞を分離する工程の効率を向上させる手法の一つである(非特許文献1)。
【0007】
また、精製工程には、用途に応じた純度のポリペプチドをもたらす能力はもちろんのこと、精製中のポリペプチドの変性または遺失を防止することによって、高い収率をもたらす能力も求められる。さらに、精製工程は、各工程の効果を生かす効率的な順序で構成されていることが望ましい。
【0008】
典型的な精製中のポリペプチドの変性としては、培養液から細胞を除去する前または除去した後における、ポリペプチドが有するジスルフィド結合の還元、ペプチド結合の切断、ポリペプチド同士の会合などが挙げられる。特にポリペプチドが有するジスルフィド結合の還元は、チオレドキシン−システムが関与する場合がある事が知られている(非特許文献2、3、4)。
【0009】
このチオレドキシン−システムは、本来、ポリペプチドを生産する宿主細胞が細胞中に有するものである。しかしながら、ポリペプチドの製造においては、組換え宿主細胞の培養中は細胞のアポトーシス等により、組換え宿主細胞の培養後は精製工程の各操作による機械的刺激により、組換え宿主細胞の細胞膜が破砕されるため、チオレドキシン−システムの構成要素である、チオレドキシン、チオレドキシンレダクターゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、およびその基質は、培養液中に放出される。
【0010】
従って、ポリペプチドの製造においては、チオレドキシン−システムが培養液にも存在することになり、製造目的のポリペプチドの還元の原因となり得ると考えられている。
【0011】
このチオレドキシン−システムが関与するジスルフィド結合の還元を防止する従来の方法としては、組換え宿主細胞の培養後、該細胞を分離する前、或いは該細胞を分離した後の培養液に、チオレドキシン阻害剤であるアウロチオグルコース(ATG)またはヘキソキナーゼを阻害するエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を添加する方法が挙げられる。
【0012】
また、組換え宿主細胞の培養後、該細胞を分離した後の培養液に空気を封入して、グルコース−6−リン酸(G6P)または還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を枯渇させる方法等が挙げられる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2009/009523号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Lydersen B.K.,Brehm−Gibson T.,Murel A.,1994.Annals New York Academy of Sciences 745,222−31.
【非特許文献2】Trexler−Schmidt M.,Sargis S.,Chiu J.,Sze−Khoo S.,Mun M.,Kao Y.H.,Laird M.W.,2010.Identification and prevention of antibody disulfide bond reduction during cell culture manufacturing.Biotechnol.Bioeng.106,452−461.
【非特許文献3】Kao Y.H.,Hewitt D.P.,Trexler−Schmidt M.,Laird M.W.,2010.Mechanism of antibody reduction in cell culture production processes.Biotechnol.Bioeng.107,622−632.
【非特許文献4】Koterba K.L.,Borgschulte T.,Laird M.W.,2012.Thioredoxin 1 is responsible for antibody disulfide reduction in CHO cell culture.J.Biotechnol.157,261−267.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
精製中のポリペプチドの還元を防止する従来の方法のうち、チオレドキシン−システムの構成要素の活性を阻害する化合物を培養液に添加する方法は、人体に有害な化合物として、後に改めてそれらを除去する精製工程が必要であった。
【0016】
精製工程によっては、これら化合物が十分に除去できない場合があり、この手法は汎用性に問題があった。また、空気を封入することによりチオレドキシン−システムの構成要素を枯渇させる方法は、特別な設備が必要であり、工業的な利用には適さなかった。
【0017】
本発明は、人体に有害な化合物を使用することはなく、また特別な設備を用いることもなく、組換え宿主細胞とポリペプチドを含む培養液から、所望のポリペプチドを高収率で精製するために、精製中のポリペプチドの還元を防止する方法の提供を目的とする。
【0018】
また、本発明は、精製中のポリペプチドの還元を防止し、かつポリペプチドを効率良く精製する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は以下の(1)〜(13)に関する。
(1)組換え宿主細胞から発現され、培養液中に分泌されたポリペプチドの還元を防止する方法であって、該培養液にアミノ酸を添加することを含む方法。
(2)前記培養液から前記組換え宿主細胞を除去する工程を含み、該工程の前に前記培養液に前記アミノ酸を添加する(1)に記載の方法。
(3)前記培養液から前記組換え宿主細胞を除去する工程を含み、該工程の開始後に前記培養液に前記アミノ酸を添加する(1)に記載の方法。
(4)前記培養液から前記組換え宿主細胞を除去する工程の前に、フロキュレーションの工程を含む(2)または(3)に記載の方法。
(5)前記フロキュレーションの工程に少なくとも酸沈殿を用いる(4)に記載の方法。
(6)前記酸沈殿の後に前記培養液に前記アミノ酸を添加する(5)に記載の方法。
(7)前記アミノ酸がアルギニン、リジンまたはヒスチジンである(1)から(6)のいずれか1に記載の方法。
(8)前記アミノ酸の終濃度が0.05mol/L〜1mol/Lとなるよう前記培養液に前記アミノ酸を添加する(6)または(7)に記載の方法。
(9)前記アミノ酸の終濃度が0.5mol/Lになるよう前記培養液に前記アミノ酸を添加する(6)〜(8)のいずれか1に記載の方法。
(10)前記アミノ酸の終濃度が0.1mol/Lになるよう前記培養液に前記アミノ酸を添加する(6)〜(8)のいずれか1に記載の方法。
(11)前記ポリペプチドが抗体または抗体断片である(1)から(10)のいずれか1に記載の方法。
(12)前記組換え宿主細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である(1)から(11)のいずれか1に記載の方法。
(13)(1)から(12)のいずれか1に記載の方法を用いた、ポリペプチドを精製する方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、培養液にアミノ酸を添加することで、人体に有害な化合物を使用することなく、また特別な設備を用いることも無く、精製中のポリペプチドの還元を簡便に防止することができ、所望のポリペプチドを高収率で精製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明における組換え宿主細胞に用いる宿主細胞としては、特に限定されることはなく、動物細胞、植物細胞、酵母細胞などの真核細胞、大腸菌、枯草菌などの原核細胞など如何なる細胞でもよい。
【0022】
具体的には、例えば、真核生物宿主細胞が挙げられる。好ましくは、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、マウスミエローマ細胞(NS0、SP2/0)、ラットミエローマ細胞(IR983F)、シリアンハムスター腎臓由来BHK細胞、ヒトミエローマ細胞(Namalwa)、胚性幹細胞または受精卵細胞が挙げられる。
【0023】
また、本発明における組換え宿主細胞とは、製造目的のポリペプチドをコードする遺伝子が組み込まれた形質転換細胞である。形質転換細胞は、製造目的のポリペプチドをコードする遺伝子を含むベクターを細胞株へ導入することにより得ることができる。
【0024】
本発明における培養液に用いる培地としては、各々の組換え宿主細胞の培養に適した培地であればいずれでもよい。具体的には、例えば、血清含有培地、血清アルブミン若しくは血清分画物等の動物由来成分を含まない培地、無血清培地、または無タンパク培地などが挙げられる。好ましくは、無血清培地または無タンパク培地が挙げられる。
【0025】
より具体的には、例えば、RPMI1640培地、ダルベッコ改変MEM(DMEM)培地、F12培地、イスコフ改変ダルベッコ(IMDM)培地、EX−CELL302培地、CD−CHO培地またはIS CD−CHO培地等が挙げられる。
【0026】
培養液には、必要に応じて、各々の組換え宿主細胞の成育に必要な生理活性物質または栄養因子等を添加することができる。添加の方法としては、培養前に予め培地に添加したり、培養中に適宜、添加培地または添加溶液として添加したり、いかなる形態を用いてもよい。
【0027】
また、本発明における培養液としては、前記の組換え宿主細胞を培養する前の培養液だけでなく、組換え宿主細胞を培養した後の、組換え宿主細胞を含む培養液、組換え宿主細胞を除去した培養上清(溶出液等と呼ぶこともある)を包含する。
【0028】
本発明におけるポリペプチドとしては、産業上有用なタンパク質であれば特に限定はないが、例えば、医薬品として用いられるタンパク質が挙げられる。
【0029】
タンパク質としては、例えば、抗体、エリスロポイエチン、ダルベポエチン、トロンボポイエチン、組織型プラスミノーゲンアクチベーター、プロウロキナーゼ、トロンボモジュリン、アンチトロンビンIII、プロテインC、血液凝固因子VII、血液凝固因子VIII、血液凝固因子IX、血液凝固因子X、血液凝固因子XI、血液凝固因子XII、プロトロンビン複合体、フィブリノゲン、アルブミン、性腺刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、上皮増殖因子(EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、ケラチノサイト増殖因子、アクチビン、骨形成因子、G−CSF、M−CSF、SCF、インターフェロン(IFN)α、IFNβ、IFNγ、インターロイキン(IL)−2、IL−6、IL−10、IL−11、可溶性IL−4受容体、腫瘍壊死因子α、Dnase1、ガラクトシダーゼ、αグルコシダーゼ、グルコセレブロシダーゼ、ヘモグロビン、トランスフェリン並びにそれらの部分断片等が挙げられる。
【0030】
また、タンパク質としては、上述のタンパク質またはその部分断片に、異なるタンパク質または異なるタンパク質の部分断片等を化学的または遺伝子工学的に結合させたタンパク質(以下、結合タンパク質と記載)を包含する。
【0031】
タンパク質の部分断片としては、元のタンパク質のアミノ酸配列のうち、1以上のアミノ酸が欠失し、かつ元のタンパク質の機能を有するポリペプチドが挙げられる。アミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列を有するポリペプチドを得る方法としては、部位特異的変異導入法 [Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons(1987−1997)、Nucleic Acids Research,10,6487(1982)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,79,6409(1982)、Gene,34,315(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,488(1985)]などを用いて、元のタンパク質のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子に部位特異的変異を導入する方法が挙げられる。
【0032】
異なるタンパク質としては、上述したタンパク質等のうち、目的のタンパク質と種類の異なるものが挙げられる。また、異なるタンパク質の部分断片としては、前述のタンパク質の部分断片と同様、元のタンパク質のアミノ酸配列のうち、1以上のアミノ酸が欠失し、かつ元のタンパク質の機能を有するポリペプチドが挙げられる。
【0033】
異なる2種類のタンパク質またはその部分断片を結合させる方法としては、それぞれのタンパク質または部分断片をコードするcDNAを連結させて、結合タンパク質をコードするDNAを構築し、該DNAをベクターに挿入し、該ベクターを宿主細胞へ導入することにより発現させる方法が挙げられる。
【0034】
抗体としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ、ウシ、ラクダ、アルパカ等の動物由来のモノクローナル抗体だけでなく、ヒト型キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、またはそれらの抗体断片等が挙げられる。また、抗体のイムノグロブリンクラスは特に限定されるものではなく、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4などのIgG、IgA、IgD、IgE、IgMなどいずれのクラスでもよい。医薬品として用いる場合は、IgGまたはIgMが好ましい。
【0035】
ヒト型キメラ抗体としては、ヒト以外の動物の抗体の重鎖可変領域(以下、VHと記す)および軽鎖可変領域(以下、VLと記す)とヒト抗体の重鎖定常領域(以下、CHと記す)および軽鎖定常領域(以下、CLと記す)からなる抗体が挙げられる。
【0036】
本発明のヒト型キメラ抗体は、VHおよびVLをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築し、該発現ベクターを宿主細胞へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0037】
ヒト型キメラ抗体のCHとしては、ヒトイムノグロブリン(以下、hIgと表記する)に属すればいかなるものでもよいが、好ましくはhIgGクラスのものが用いられる。さらにhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3またはhIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト型キメラ抗体のCLとしては、hIgに属すればいずれのものでもよく、κクラスまたはλクラスのものを用いることができる。
【0038】
ヒト化抗体としては、ヒト型CDR移植抗体という場合もあり、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLの相補鎖決定領域(以下、CDRと記す)のアミノ酸配列をヒト抗体のVHおよびVLの適切な位置に移植した抗体をいう。
【0039】
本発明のヒト型CDR移植抗体は、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列を任意のヒト抗体のVHおよびVLのフレームワーク領域(以下、FRと表記する)に移植した可変(V)領域をコードするcDNAを構築し、ヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築し、該発現ベクターを宿主細胞へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0040】
ヒト化抗体のCHとしては、hIgに属すればいかなるものでもよいが、好ましくはhIgGクラスのものが用いられ、さらにhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3またはhIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト化抗体のCLとしては、hIgに属すればいずれのものでもよく、κクラスまたはλクラスのものを用いることができる。
【0041】
ヒト抗体としては、元来、ヒト体内に天然に存在する抗体をいうが、最近の遺伝子工学的、細胞工学的、発生工学的な技術の進歩により作製されたヒト抗体ファージライブラリーまたはヒト抗体産生トランスジェニック動物から得られる抗体なども含まれる。
【0042】
ヒト体内に天然に存在する抗体は、例えば、ヒト末梢血リンパ球を単離し、EBウイルスなどを感染させ不死化し、クローニングすることにより、該抗体をコードするDNAを単離し、動物細胞用発現ベクターに挿入してヒト抗体発現ベクターを構築し、該発現ベクターを宿主細胞へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0043】
ヒト抗体ファージライブラリーは、ヒトB細胞から調製した抗体遺伝子をファージ遺伝子に挿入することによりFab、一本鎖抗体(scFv)などの抗体断片をファージ表面に発現させたライブラリーである。
【0044】
前記ライブラリーより、抗原を固定化した基質に対する結合活性を指標として所望の抗原結合活性を有する抗体断片を表面に発現しているファージを回収することができる。該抗体断片は、さらに、遺伝子工学的手法により2本の完全なH鎖および2本の完全なL鎖からなるヒト抗体分子へも変換することができる。
【0045】
ヒト抗体産生トランスジェニック動物は、ヒト抗体遺伝子が細胞内に組込まれた動物を意味する。具体的には、例えば、マウスES細胞へヒト抗体遺伝子を導入し、該ES細胞をマウスの初期胚へ移植後、発生させることによりヒト抗体産生トランスジェニックマウスを作製することができる。
【0046】
ヒト抗体産生トランスジェニック動物からのヒト抗体は、通常のヒト以外の動物で行われているハイブリドーマ作製方法を用い、ヒト抗体産生ハイブリドーマを取得することにより、該抗体をコードするDNAを単離し、動物細胞用発現ベクターに挿入してヒト抗体発現ベクターを構築し、該発現ベクターを宿主細胞へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0047】
抗体断片としては、例えば、Fab、F(ab’)、Fab’、 scFv、二量体化V領域(diabody)、ジスルフィド安定化V領域(dsFv)またはCDRを含むペプチドなどが挙げられる。
【0048】
Fabは、IgGをタンパク質分解酵素であるパパインで処理して得られる断片のうち(H鎖の224番目のアミノ酸残基で切断される)、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体がジスルフィド結合で結合した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0049】
本発明のFabは、本発明の抗体をパパインで処理して得ることができる。また、該抗体のFabをコードするDNAを原核生物用発現ベクターまたは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入することにより発現させ、Fabを製造することもできる。
【0050】
F(ab’)は、IgGのヒンジ領域のジスルフィド結合の下部をタンパク質分解酵素であるペプシンで分解して得られた、2つのFab領域がヒンジ部分で結合して構成された、分子量約10万の抗原結合活性を有する断片である。本発明のF(ab’)は、本発明の抗体をペプシンで処理して得ることができる。また、下記のFab’をチオエーテル結合またはジスルフィド結合させ、作製することもできる。
【0051】
Fab’は、前記F(ab’)のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。本発明のFab’は、本発明のF(ab’)をジチオスレイトールなどの還元剤で処理して得ることができる。
【0052】
また、該抗体のFab’断片をコードするDNAを原核生物用発現ベクターまたは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入することにより発現させ、Fab’を製造することもできる。
【0053】
scFvは、1本のVHと1本のVLとを適当なペプチドリンカー(以下、Pと表記する)を用いて連結した、VH−P−VLまたはVL−P−VHポリペプチドで、抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0054】
本発明のscFvは、本発明のモノクローナル抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、scFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターまたは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0055】
diabodyは、scFvが二量体化した抗体断片で、二価の抗原結合活性を有する抗体断片である。二価の抗原結合活性は、同一であることもできるし、一方を異なる抗原結合活性とすることもできる。
【0056】
本発明のdiabodyは、本発明の抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、scFvをコードするDNAをペプチドリンカーのアミノ酸配列の長さが8残基以下となるように構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターまたは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0057】
dsFvは、VHおよびVL中のそれぞれ1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドを該システイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させたものをいう。システイン残基に置換するアミノ酸残基は既知の方法[Protein Engineering,7,697(1994)]に従って、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。本発明のdsFvは、本発明の抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、dsFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターまたは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0058】
CDRを含むペプチドは、VHまたはVLのCDRの少なくとも1領域以上を含んで構成される。複数のCDRを含むペプチドは、直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることができる。
【0059】
本発明のCDRを含むペプチドは、本発明の抗体のVHおよびVLのCDRをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターまたは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0060】
本発明におけるポリペプチドの還元としては、製造目的のポリペプチドに含まれるジスルフィド結合の還元が挙げられる。従って、製造目的のポリペプチドがジスルフィド結合を含まない場合は、本発明は適用されない。
【0061】
ジスルフィド結合の還元としては、製造プロセスの様々な因子および条件から生じる還元が挙げられ、様々な還元剤によって引き起こされる還元も包含する。具体的には、例えば、製造目的のポリペプチドの製造プロセスにおいて、培養液に存在する、チオレドキシン−システムにより引き起こされる還元が挙げられる。
【0062】
チオレドキシン−システムとしては、チオレドキシン、チオレドキシンレダクターゼおよびNADPHからなり、ポリペプチド中のジスルフィド結合の還元に対する水素供与系が挙げられる。チオレドキシンには、活性部位にジスルフィド結合を持つ酸化型と、活性部位に遊離チオール基を持つ還元型が存在する。
【0063】
還元型チオレドキシンは、自らは酸化型になることにより、基質タンパク質の分子内または分子間のジスルフィド結合を還元し、開裂させる。酸化型となったチオレドキシンは、還元型チオレドキシンレダクターゼにより還元され、再び還元型チオレドキシンに戻る。酸化型となったチオレドキシンレダクターゼは、NADPHにより還元され、再び還元型チオレドキシンレダクターゼに戻る。
【0064】
NADPHは、例えば、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼにより、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+)およびグルコース−6−リン酸からもたらされる。グルコース−6−リン酸は、ヘキソキナーゼにより、グルコースおよびアデノシン三リン酸(ATP)からもたらされる。
【0065】
本発明に用いるアミノ酸としては、例えば、アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、スレオニン、バリン、トリプトファン、チロシンが挙げられる。また、例えば、オルニチンまたはクレアチン等のタンパク質を構成しないアミノ酸並びに非天然アミノ酸が挙げられる。
【0066】
ポリペプチドの還元を効果的に防止する観点から、本発明に用いるアミノ酸としては、塩基性アミノ酸が好ましく、アルギニン、ヒスチジンまたはリジンがより好ましい。
【0067】
また、本発明に用いるアミノ酸の形態としては、水溶液中でアミノ酸として存在するならばいずれの形態でもよく、例えば、アミノ酸、塩、水和物またはそれらを含む混合物が挙げられる。
【0068】
本発明に用いるアルギニンとしては、水溶液中でアルギニンとして存在するならば、アルギニン、塩、水和物またはそれらを含む混合物、いずれでもよい。具体的には、例えば、CAS Registry Number:74−79−3、CAS Registry Number:1119−34−2、CAS Registry Number:4320−30−3、CAS Registry Number:157−06−2、CAS Registry Number:627−75−8、CAS Registry Number:26982−20−7、CAS Registry Number:7200−25−1、CAS Registry Number: 32042−43−6などで示される化合物などが挙げられる。好ましくは、CAS Registry Number:1119−34−2で示される化合物が挙げられる。
【0069】
本発明に用いるリジンとしては、水溶液中でリジンとして存在するならば、リジン、塩、水和物またはそれらを含む混合物、いずれでもよい。具体的には、例えば、CAS Registry Number:56−87−1、CAS Registry Number:657−27−2、CAS Registry Number:657−26−1、CAS Registry Number:70−54−2、CAS Registry Number:70−53−1、CAS Registry Number:617−68−5、CAS Registry Number:923−27−3、CAS Registry Number:7274−88−6などで示される化合物などが挙げられる。好ましくは、CAS Registry Number:657−27−2で示される化合物が挙げられる。
【0070】
本発明に用いるヒスチジンとしては、水溶液中でヒスチジンとして存在するならば、ヒスチジン、塩、水和物またはそれらを含む混合物、いずれでもよい。具体的には、例えば、CAS Registry Number:71−00−1、CAS Registry Number:645−35−2、CAS Registry Number:6027−02−7、CAS Registry Number:5934−29−2、CAS Registry Number:7048−02−4、CAS Registry Number:351−50−8、CAS Registry Number:6341−24−8、CAS Registry Number:15474−90−5、CAS Registry Number:4998−57−6、CAS Registry Number:123333−71−1などで示される化合物などが挙げられる。好ましくは、CAS Registry Number:5934−29−2で示される化合物が挙げられる。
【0071】
本発明における培養液にアミノ酸を添加する方法としては、例えば、固体のアミノ酸を直接培養液に添加する方法またはアミノ酸水溶液を培養液に添加する方法が挙げられる。アミノ酸は、ポリペプチドの還元を効果的に防止する観点から、終濃度が0.05mol/Lから1mol/Lの間となるよう培養液に添加することが好ましく、終濃度が0.5mol/Lまたは0.1mol/Lとなるよう添加することがより好ましい。
【0072】
前記終濃度は、所望するポリペプチドの性質、または宿主細胞として選択した細胞株の性質に合わせ、適宜設定することができる。アミノ酸を添加する温度はいかなる温度でもよいが、好ましくは、4℃から40℃、より好ましくは、10℃から25℃が挙げられる。該温度は、所望するポリペプチドの性質、または宿主細胞として選択した細胞株の性質に合わせ、適宜設定することができる。
【0073】
培養液にアミノ酸を添加した後のインキュベート時間は、0時間でもよく、数時間から数日でもよい。該インキュベート時間は、所望するポリペプチドの性質、または宿主細胞として選択した細胞株の性質に合わせ、適宜設定することができる。
【0074】
本発明の方法は、培養液から組換え宿主細胞を除去する工程を組み込むことができる。培養液から組換え宿主細胞を除去する工程としては、具体的には、例えば、遠心分離工程、クロスフローろ過工程(タンジェンシャルフローろ過工程)、デプスフィルターによるろ過工程、サーフェスフィルターによるろ過工程、メンブレンフィルターによるろ過工程、限外ろ過工程、塩析工程および透析工程並びにこれらの方法を組み合わせた工程が挙げられる。
【0075】
本発明における培養液から組換え宿主細胞を除去する工程としては、好ましくは、培養槽の培養液を連続遠心機へ移し、得られた培養上清をろ過する工程が挙げられる。本発明における培養液から組換え宿主細胞を除去する工程の後には、クロマトグラフィー工程または濃縮工程等が入る。
【0076】
クロマトグラフィー工程に用いるクロマトグラフィーとしては、カラムまたは膜等、当業者に公知の方法であれば、いずれでもよい。クロマトグラフィーのうち、アフィニティークロマトグラフィーには、プロテインAクロマトグラフィー、プロテインGクロマトグラフィー等が用いられる。
【0077】
アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーおよびマルチモーダルクロマトグラフィー等が挙げられる。
【0078】
本発明において、培養液から組換え宿主細胞を除去する工程の前にアミノ酸を添加するとは、具体的には、例えば、培養中、または、培養を終えた段階の、組換え宿主細胞を含む培養液にアミノ酸を添加することが挙げられる。
【0079】
本発明における培養液から組換え宿主細胞を除去する工程の開始後にアミノ酸を添加するとは、例えば、培養液から組換え宿主細胞を除去することを目的として行う工程を開始した後からクロマトグラフィー工程を開始する前までに培養液にアミノ酸を添加することが挙げられる。好ましくは、培養液から組換え宿主細胞を除去するすべての工程を終えた後、クロマトグラフィー工程を開始する前に培養液にアミノ酸を添加することが挙げられる。
【0080】
なお、本発明における組換え宿主細胞を除去する工程の前には、フロキュレーションの工程を組み込むことができる。本発明において、フロキュレーションとは、培養中、または、培養を終えた段階の、組換え宿主細胞を含む培養液にフロキュラントと呼ばれる物質を添加することにより、培養液中の不要物を凝集沈殿させる方法を言う。
【0081】
フロキュラントとして、好ましくは、酸、アルカリ、塩、キトサン、カプリル酸、帯電ポリマー、硫酸アンモニウム、高分子電解質等が挙げられる。フロキュレーションの工程を組み込んだ場合、アミノ酸を添加する時点としては、フロキュレーションの前でも、間でも、後でもよい。
【0082】
前記フロキュレーション工程としては、例えば、酸沈殿が挙げられる。酸沈殿としては、例えば、当業者に公知であるフロキュレーションのうち、組換え宿主細胞を培養し、組換え宿主細胞を含む培養液に、フロキュラントとして酸を添加することにより、培養液のpHを酸性に調整する工程が挙げられる。
【0083】
酸沈殿を行うことを目的に培養液に添加する酸としては、その後の精製工程で除去できるものであればいずれでもよい。具体的には、例えば、クエン酸および酢酸等が挙げられ、好ましくはクエン酸が挙げられる。
【0084】
本発明における組換え宿主細胞を除去する工程の前に、酸沈殿を含む場合、培養液にアミノ酸を添加する時点としては、酸沈殿の前でも、間でも、後でもいつでもよい。好ましくは、酸沈殿を行った後から、組換え宿主細胞を除去する工程の前、または、酸沈殿を行い、組換え宿主細胞を除去する工程の開始後から、クロマトグラフィー工程を開始する前が挙げられる。
【0085】
酸沈殿を行った後に培養液にアミノ酸を添加することで、酸沈殿による培養液中の不要物の凝集沈殿の効果と、培養液にアミノ酸を添加することによるポリペプチドの還元を防止する効果が両立するため、培養液中に分泌されたポリペプチドを効率よく精製することができる。
【0086】
本発明において、酸沈殿を行うことを目的に培養液に酸を添加する方法としては、固体の酸を直接添加する方法または水溶液を添加する方法が挙げられる。該水溶液の酸濃度はいずれでもよいが、例えば1mol/L等が挙げられる。酸を添加した後の培養液のpHとしては、好ましくは3.5から6.0、より好ましくは4.5から5.5が挙げられる。
【実施例】
【0087】
[実施例1]
細胞とポリペプチドを含む培養液にアルギニンを添加する事でポリペプチドの還元を防止する方法の例
CHO−K1細胞を宿主細胞とする組換え宿主細胞を培養することにより、組換え宿主細胞と、該細胞から分泌されたIgG1抗体を約2〜3g/Lの濃度で含む細胞培養液を用意した。
【0088】
この培養液に、アルギニン塩酸塩(味の素社製)の2mol/L水溶液(以下、2mol/Lアルギニン塩酸塩水溶液)を添加することにより、終濃度0.1mol/Lまたは0.5mol/Lのアルギニンを含む培養液をそれぞれ調製した。また、コントロールとして、2mol/Lアルギニン塩酸塩水溶液の代わりに水を添加した培養液も調製した。
【0089】
それぞれの培養液を2個の容器に分け入れ、片方に含まれる細胞について、ホモゲナイザーを用いてすべて破砕した。細胞を破砕した培養液と細胞を破砕していない培養液を4:6で混合した。アルギニンを0.5、0.1または0(コントロール)mol/L含む、これら混合した培養液を、6410×gで15分間遠心することにより、細胞および大きな細胞断片等を沈降させて上清を回収した。更に、それぞれStericup−GP(製品番号SCGPU02RE、ミリポア社製)を用いてろ過することにより、微小な細胞断片を除去した溶出液を得た。
【0090】
得られた溶出液に対して、無水クエン酸(製品番号26046−2001、純正化学株式会社製)の1mol/L水溶液(以下、1mol/Lクエン酸水溶液)またはトリス(トリスヒドロキシアミノメタン、製品番号40326−09、関東化学株式会社製)の3mol/L水溶液(以下、3mol/Lトリス水溶液)をそれぞれ添加する事により、pHを7.0へ調整した。
【0091】
各溶出液を通気可能なビンに入れ、室温で液上面に継続的に窒素ガスを封入しながらスターラーで攪拌する事により、溶出液中の溶存酸素を減少させた。各溶出液から、pHを7.0へ調整した12、24、36、48時間後に、それぞれ0.04mLずつサンプリングした。
【0092】
得られた被検体は、実際の精製工程において、アルギニンを培養液に添加した後、該培養液から組換え宿主細胞または該細胞断片を除去し、クロマトグラフィー工程に供するまで室温で放置した状態を模倣するものである。
【0093】
サンプリングした各被検体をSDS−PAGEで解析した。その結果、コントロールの被検体では、すべてのサンプルにおいて、抗体の著しい還元が認められた。一方、終濃度0.1mol/Lのアルギニンを含む被検体では、窒素ガス封入開始後24時間後以降のサンプルにおいて、抗体の還元が認められたが、その程度は、コントロールと比較すると軽微であった。
【0094】
また、終濃度0.5mol/Lのアルギニンを含む被検体では、窒素ガス封入開始後48時間後のサンプルでも、抗体の還元は認められなかった。これらの結果は、アルギニンを培養液に添加する事により、組換え宿主細胞から培養液中に分泌されたポリペプチドの還元を防止できることを示している。
【0095】
[実施例2]
培養上清にアルギニンを添加する事でポリペプチドの還元を防止する方法の例
CHO−K1細胞を宿主細胞とする組換え宿主細胞を培養することにより、組換え宿主細胞と、該細胞から分泌されたIgG1抗体を約2〜3g/Lの濃度で含む細胞培養液を用意した。
【0096】
この培養液を2個の容器に分け入れ、片方に含まれる細胞について、ホモゲナイザーを用いてすべて破砕した。細胞を破砕した培養液と細胞を破砕していない培養液を4:6で混合した。
【0097】
この混合した培養液を6410×gで15分間遠心することにより、細胞および大きな細胞断片等を沈降させて上清を回収した。更に、それぞれStericup−GP(製品番号SCGPU02RE、ミリポア社製)を用いてろ過することにより、微小な細胞断片を除去した溶出液を得た。
【0098】
得られた溶出液に、2mol/Lアルギニン塩酸塩水溶液を添加することにより、終濃度0.1mol/Lまたは0.5mol/Lのアルギニンを含む培養液をそれぞれ調製した。また、コントロールとして、2mol/Lアルギニン塩酸塩水溶液の代わりに水を添加した培養液も調製した。
【0099】
アルギニンを添加した溶出液とコントロールに対して、1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液をそれぞれ添加する事により、pHを7.0へ調整した。各溶出液を通気可能なビンに入れ、室温で液上面に継続的に窒素ガスを封入しながらスターラーで攪拌する事により、溶出液中の溶存酸素を減少させた。
【0100】
各溶出液から、pHを7.0へ調整した12、24、36、48時間後に、それぞれ0.04mLずつサンプリングした。得られた被検体は、実際の精製工程において、培養液から組換え宿主細胞または該細胞断片を除去した後、アルギニンを添加し、クロマトグラフィー工程に供するまで室温で放置した状態を模倣するものである。
【0101】
サンプリングした各被検体をSDS−PAGEで解析した。その結果、コントロールの被検体では、すべてのサンプルにおいて、抗体の著しい還元が認められた。一方、終濃度0.1mol/Lのアルギニンを含む被検体では、窒素ガス封入開始後24時間後以降のサンプルにおいて、抗体の還元が認められたが、その程度は、コントロールと比較すると軽微であった。
【0102】
また、終濃度0.5mol/Lのアルギニンを含む被検体では、窒素ガス封入開始後48時間後のサンプルでも、抗体の還元は認められなかった。これらの結果は、培養上清にアルギニンを添加する事により、組換え宿主細胞から培養液中に分泌されたポリペプチドの還元を防止できることを示している。
【0103】
[実施例3]
酸沈殿を実施した組換え宿主細胞とポリペプチドを含む培養液にアルギニンを添加する事でポリペプチドの還元を防止する方法の例
CHO−K1細胞を宿主細胞とする組換え宿主細胞を培養することにより、組換え宿主細胞と、該細胞から分泌されたIgG1抗体を約2〜3g/Lの濃度で含む細胞培養液を用意した。この培養液に、1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液を添加する事により、pHを5.1へ調整し、酸沈殿を行った。
【0104】
酸沈殿を行った培養液に、2mol/Lアルギニン塩酸塩水溶液を添加することにより、終濃度0.1mol/Lのアルギニンを含む培養液を調製した。また、コントロールとして、2mol/Lアルギニン塩酸塩水溶液の代わりに水を添加した培養液も調製した。
【0105】
それぞれの培養液を2個の容器に分け入れ、片方に含まれる細胞について、ホモゲナイザーを用いてすべて破砕した。細胞を破砕した培養液と細胞を破砕していない培養液を4:6で混合した。
【0106】
アルギニンを0.1または0(コントロール)mol/L含む、これら混合した培養液を、6410×gで15分間遠心することにより、細胞および大きな細胞断片等を沈降させて上清を回収した。更に、それぞれStericup−GP(製品番号SCGPU02RE、ミリポア社製)を用いてろ過することにより、微小な細胞断片を除去した溶出液を得た。
【0107】
得られた溶出液を通気可能なビンに入れ、室温で液上面に継続的に窒素ガスを封入しながらスターラーで攪拌する事により、溶出液中の溶存酸素を減少させた。窒素ガスの封入はpHを5.1へ調整した時点から6時間後まで継続した。窒素ガスの封入を終えた溶出液に対して、1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液をそれぞれ添加する事により、pHを6.0へ調整した。
【0108】
各溶出液を通気可能なビンに入れ、室温で液上面に継続的に窒素ガスを封入しながらスターラーで攪拌する事により、溶出液中の溶存酸素を減少させた。各溶出液から、pHを6.0へ調整した18、30、42時間後に、それぞれ0.04mLずつサンプリングした。
【0109】
得られた被検体は、実際の精製工程において、酸沈殿を行った後、アルギニンを添加し、さらに培養液から組換え宿主細胞または該細胞断片を除去し、pHを6.0へ調整してからクロマトグラフィー工程に供するまで室温で放置した状態を模倣するものである。
【0110】
サンプリングした各被検体をSDS−PAGEで解析した。その結果、コントロールの被検体では、pHを6.0へ調整した18時間後以降のサンプルにおいて、抗体の還元が認められた。一方、終濃度0.1mol/Lのアルギニンを含む被検体では、すべてのサンプルにおいて、抗体の還元は認められなかった。
【0111】
これらの結果は、酸沈殿実施後、培養液から組換え宿主細胞を除去する工程の前にアルギニンを該培養液に添加する事により、該細胞から該培養液中に分泌されたポリペプチドの還元を防止できることを示している。
【0112】
[実施例4]
酸沈殿を実施した培養上清にアルギニンを添加する事でポリペプチドの還元を防止する方法の例
CHO−K1細胞を宿主細胞とする組換え宿主細胞を培養することにより、組換え宿主細胞と、該細胞から分泌されたIgG1抗体を約2〜3g/Lの濃度で含む細胞培養液を用意した。この培養液に、1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液を添加する事により、pHを5.1へ調整し、酸沈殿を行った。
【0113】
酸沈殿を行った培養液を2個の容器に分け入れ、片方に含まれる細胞について、ホモゲナイザーを用いてすべて破砕した。細胞を破砕した培養液と細胞を破砕していない培養液を4:6で混合した。
【0114】
この混合した培養液を6410×gで15分間遠心することにより、細胞および大きな細胞断片等を沈降させて培養上清を回収した。更に、Stericup−GP(製品番号SCGPU02RE、ミリポア社製)を用いてろ過することにより、微小な細胞断片を除去した溶出液を得た。
【0115】
得られた溶出液を通気可能なビンに入れ、室温で液上面に継続的に窒素ガスを封入しながらスターラーで攪拌する事により、溶出液中の溶存酸素を減少させた。窒素ガスの封入はpHを5.1へ調整した時点から6時間後まで継続した。
【0116】
窒素ガスの封入を終えた溶出液に2mol/Lアルギニン塩酸塩水溶液を添加する事により、終濃度0.1mol/Lのアルギニンを含む溶出液を調製した。更に、1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液を添加する事により、pHを6.0へ調整した。
【0117】
また、コントロールとして、2mol/Lアルギニン塩酸塩水溶液の代わりに水を添加した溶出液も調製した。このコントロールも、1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液を添加する事により、pHを6.0へ調整した。各溶出液を通気可能なビンに入れ、室温で液上面に継続的に窒素ガスを封入しながらスターラーで攪拌する事により、溶出液中の溶存酸素を減少させた。
【0118】
各溶出液から、pHを6.0へ調整した18、30、42時間後に、それぞれ0.04mLずつサンプリングした。得られた被検体は、実際の精製工程において、酸沈殿を行った後、培養液から組換え宿主細胞または該細胞断片を除去し、さらにアルギニンを添加し、pHを6.0へ調整してからクロマトグラフィー工程に供するまで室温で放置した状態を模倣するものである。
【0119】
サンプリングした各被検体をSDS−PAGEで解析した。その結果、コントロールの被検体では、pHを6.0へ調整した18時間後以降のサンプルにおいて、抗体の還元が認められた。一方、終濃度0.1mol/Lのアルギニンを含む被検体では、すべてのサンプルにおいて、抗体の還元は認められなかった。
【0120】
これらの結果は、酸沈殿を行い、培養液から組換え宿主細胞を除去する工程の開始後にアルギニンを培養液に添加する事により、該細胞から該培養液中に分泌されたポリペプチドの還元を防止できることを示している。
【0121】
[実施例5]
細胞分離工程での膜ろ過性に対するアルギニンの添加順序の影響
CHO−K1細胞を宿主細胞とする組換え宿主細胞を培養することにより、組換え宿主細胞と、該細胞から分泌されたIgG1抗体を約2〜3g/Lの濃度で含む細胞培養液を用意した。
【0122】
この細胞培養液を培養液Aとした。培養液Aに2mol/Lアルギニン塩酸塩水溶液を添加することにより、終濃度0.1mol/Lのアルギニンを含む培養液を調製し、培養液Bとした。培養液Bに更に1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液を添加する事により、pHを5.1へ調整し、培養液Cとした。
【0123】
培養液Aに1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液を添加する事により、pHを5.1へ調整し、培養液Dとした。培養液Dに更に2mol/Lアルギニン塩酸塩水溶液を添加することにより、終濃度0.1mol/Lのアルギニンを含む培養液を調製し、培養液Eとした。調製した各培養液を2090×gで10分間遠心することにより、細胞および大きな細胞断片等を沈降させて培養上清を回収した。
【0124】
次に、各培養上清をMillex−GP(製品番号SLGP033RS、ミリポア社製)を用いてろ過することにより、各培養上清の膜ろ過性を評価した。なお、この膜ろ過性とは細胞分離工程での膜ろ過性を模倣するものである。その結果、培養液A、B、C、D、E由来の培養上清は、それぞれ約8.8mL、8.3mL、16.8mL、33.7mL、33.1mLろ過した時点で膜閉塞した。
【0125】
培養液AおよびBの結果から、細胞分離工程での膜ろ過性は、培養液へのアルギニンの添加により低下しないことが明らかとなった。また、培養液DおよびEの結果から、細胞分離工程での膜ろ過性は、酸沈殿実施後の培養液へのアルギニンの添加により低下しないことが明らかとなった。
【0126】
さらに、培養液B、CおよびEの結果から、細胞分離工程での膜ろ過性は、酸沈殿実施前の培養液へのアルギニンの添加でも、酸沈殿実施後の培養液へのアルギニンの添加でも、酸沈殿非実施時に比べ向上することが明らかとなった。ただし、アルギニンを培養液に添加するのは、酸沈殿実施前でもよいが、酸沈殿実施後がより好ましいことが明らかとなった。
【0127】
[実施例6]
組換え宿主細胞とポリペプチドを含む培養液にリジンを添加する事でポリペプチドの還元を防止する方法の例
CHO−K1細胞を宿主細胞とする組換え宿主細胞を培養することにより、組換え宿主細胞と、該細胞から分泌されたIgG1抗体を約2〜3g/Lの濃度で含む細胞培養液を用意した。この培養液に、リジン塩酸塩(製品番号123−01461、和光純薬工業社製)の2mol/L水溶液(以下、2mol/Lリジン塩酸塩水溶液)を添加することにより、終濃度0.1mol/Lまたは0.5mol/Lのリジンを含む培養液をそれぞれ調製した。
【0128】
それぞれの培養液を2個の容器に分け入れ、片方に含まれる細胞について、ホモゲナイザーを用いてすべて破砕した。細胞を破砕した培養液と細胞を破砕していない培養液を4:6で混合した。
【0129】
リジンを0.1または0.5mol/L含む、これら混合した培養液を、6410×gで15分間遠心することにより、細胞および大きな細胞断片等を沈降させて上清を回収した。更に、それぞれStericup−GP(製品番号SCGPU02RE、ミリポア社製)を用いてろ過することにより、微小な細胞断片を除去した溶出液を得た。
【0130】
得られた溶出液に対して、1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液をそれぞれ添加する事により、pHを7.0へ調整した。各溶出液を通気可能なビンに入れ、室温で液上面に継続的に窒素ガスを封入しながらスターラーで攪拌する事により、溶出液中の溶存酸素を減少させた。
【0131】
各溶出液から、pHを7.0へ調整した12、24、36、48時間後に、それぞれ0.04mLずつサンプリングした。得られた被検体は、実際の精製工程において、リジンを添加した後、培養液から組換え宿主細胞または該細胞断片を除去し、クロマトグラフィー工程に供するまで室温で放置した状態を模倣するものである。
【0132】
サンプリングした各被検体をSDS−PAGEで解析した。その結果、終濃度0.1mol/Lのリジンを含む被検体では、窒素ガス封入開始後24時間後以降のサンプルにおいて、抗体の還元が認められた。
【0133】
一方、実施例1のコントロールでは窒素ガス封入開始後12時間後以降のサンプルにおいて抗体の還元が認められた。また、終濃度0.5mol/Lのリジンを含む被検体では、窒素ガス封入開始後48時間後のサンプルでも、抗体の還元は認められなかった。
【0134】
これらの結果は、リジンを培養液に添加する事により、組換え宿主細胞から該培養液中に分泌されたポリペプチドの還元を防止できることを示している。
【0135】
[実施例7]
組換え宿主細胞とポリペプチドを含む培養液にヒスチジンを添加する事でポリペプチドの還元を防止する方法の例
CHO−K1細胞を宿主細胞とする組換え宿主細胞を培養することにより、組換え宿主細胞と、該細胞から分泌されたIgG1抗体を約2〜3g/Lの濃度で含む細胞培養液を用意した。
【0136】
この培養液に、ヒスチジン塩酸塩一水和物(製品番号088−00705、和光純薬工業社製)の0.75mol/L水溶液(以下、0.75mol/Lヒスチジン塩酸塩水溶液)を添加することにより、終濃度0.1mol/Lのヒスチジンを含む培養液を調製した。
【0137】
この培養液を2個の容器に分け入れ、片方に含まれる細胞について、ホモゲナイザーを用いてすべて破砕した。細胞を破砕した培養液と細胞を破砕していない培養液を4:6で混合した。ヒスチジンを0.1mol/L含むこの混合した培養液を、6410×gで15分間遠心することにより、細胞および大きな細胞断片等を沈降させて上清を回収した。更に、それぞれStericup−GP(製品番号SCGPU02RE、ミリポア社製)を用いてろ過することにより、微小な細胞断片を除去した溶出液を得た。
【0138】
得られた溶出液に対して、1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液をそれぞれ添加する事により、pHを7.0へ調整した。溶出液を通気可能なビンに入れ、室温で液上面に継続的に窒素ガスを封入しながらスターラーで攪拌する事により、溶出液中の溶存酸素を減少させた。
【0139】
溶出液から、pHを7.0へ調整した12、24、36、48時間後に、それぞれ0.04mLずつサンプリングした。得られた被検体は、実際の精製工程において、ヒスチジンを添加した後、培養液から組換え宿主細胞または該細胞断片を除去し、クロマトグラフィー工程に供するまで室温で放置した状態を模倣するものである。
【0140】
サンプリングした各被検体をSDS−PAGEで解析した。その結果、終濃度0.1mol/Lのヒスチジンを含む被検体では、窒素ガス封入開始後24時間後以降のサンプルにおいて、抗体の還元が認められた。
【0141】
一方、実施例1のコントロールでは、窒素ガス封入開始後12時間後以降のサンプルにおいて抗体の還元が認められた。この結果はヒスチジンを培養液に添加する事により、組換え宿主細胞から該培養液中に分泌されたポリペプチドの還元を防止できることを示している。
【0142】
[実施例8]
培養上清にリジンを添加する事でポリペプチドの還元を防止する方法の例
CHO−K1細胞を宿主細胞とする組換え宿主細胞を培養することにより、組換え宿主細胞と、該細胞から分泌されたIgG1抗体を約2〜3g/Lの濃度で含む細胞培養液を用意した。
【0143】
この培養液を2個の容器に分け入れ、片方に含まれる細胞について、ホモゲナイザーを用いてすべて破砕した。細胞を破砕した培養液と細胞を破砕していない培養液を4:6で混合した。この混合した培養液を6410×gで15分間遠心することにより、細胞および大きな細胞断片等を沈降させて上清を回収した。更に、それぞれStericup−GP(製品番号SCGPU02RE、ミリポア社製)を用いてろ過することにより、微小な細胞断片を除去した溶出液を得た。
【0144】
得られた溶出液に、2mol/Lリジン塩酸塩水溶液を添加することにより、終濃度0.1mol/Lまたは0.5mol/Lのリジンを含む培養液をそれぞれ調製した。
リジンを添加した溶出液に対して、1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液をそれぞれ添加する事により、pHを7.0へ調整した。各溶出液を通気可能なビンに入れ、室温で液上面に継続的に窒素ガスを封入しながらスターラーで攪拌する事により、溶出液中の溶存酸素を減少させた。
【0145】
各溶出液から、pHを7.0へ調整した12、24、36、48時間後に、それぞれ0.04mLずつサンプリングした。得られた被検体は、実際の精製工程において、培養液から組換え宿主細胞または該細胞断片を除去した後、リジンを添加し、クロマトグラフィー工程に供するまで室温で放置した状態を模倣するものである。
【0146】
サンプリングした各被検体をSDS−PAGEで解析した。その結果、終濃度0.1mol/Lのリジンを含む被検体では、窒素ガス封入開始後24時間後以降のサンプルにおいて、抗体の還元が認められた。
【0147】
一方、実施例2のコントロールでは窒素ガス封入開始後12時間後以降のサンプルにおいて抗体の還元が認められた。また、終濃度0.5mol/Lのリジンを含む被検体では、窒素ガス封入開始後48時間後のサンプルでも、抗体の還元は認められなかった。これらの結果は、培養上清にリジンを添加する事により、組換え宿主細胞から培養液中に分泌されたポリペプチドの還元を防止できることを示している。
【0148】
[実施例9]
培養上清にヒスチジンを添加する事でポリペプチドの還元を防止する方法の例
CHO−K1細胞を宿主細胞とする組換え宿主細胞を培養することにより、組換え宿主細胞と、該細胞から分泌されたIgG1抗体を約2〜3g/Lの濃度で含む細胞培養液を用意した。
【0149】
この培養液を2個の容器に分け入れ、片方に含まれる細胞について、ホモゲナイザーを用いてすべて破砕した。細胞を破砕した培養液と細胞を破砕していない培養液を4:6で混合した。
【0150】
この混合した培養液を6410×gで15分間遠心することにより、細胞および大きな細胞断片等を沈降させて上清を回収した。更に、それぞれStericup−GP(製品番号SCGPU02RE、ミリポア社製)を用いてろ過することにより、微小な細胞断片を除去した溶出液を得た。
【0151】
得られた溶出液に、0.75mol/Lヒスチジン塩酸塩水溶液を添加することにより、終濃度0.1mol/Lのヒスチジンを含む培養液を調製した。ヒスチジンを添加した溶出液に対して、1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液をそれぞれ添加する事により、pHを7.0へ調整した。
【0152】
溶出液を通気可能なビンに入れ、室温で液上面に継続的に窒素ガスを封入しながらスターラーで攪拌する事により、溶出液中の溶存酸素を減少させた。溶出液から、pHを7.0へ調整した12、24、36、48時間後に、それぞれ0.04mLずつサンプリングした。
【0153】
得られた被検体は、実際の精製工程において、培養液から組換え宿主細胞または該細胞断片を除去した後、ヒスチジンを添加し、クロマトグラフィー工程に供するまで室温で放置した状態を模倣するものである。
【0154】
サンプリングした各被検体をSDS−PAGEで解析した。その結果、終濃度0.1mol/Lのヒスチジンを含む被検体では、窒素ガス封入開始後24時間後以降のサンプルにおいて、抗体の還元が認められた。
【0155】
一方、実施例2のコントロールでは窒素ガス封入開始後12時間後以降のサンプルにおいて抗体の還元が認められた。この結果は培養上清にヒスチジンを添加する事により、組換え宿主細胞から培養液中に分泌されたポリペプチドの還元を防止できることを示している。
【0156】
[実施例10]
酸沈殿を実施した組換え宿主細胞とポリペプチドを含む培養液にリジンを添加する事でポリペプチドの還元を防止する方法の例
CHO−K1細胞を宿主細胞とする組換え宿主細胞を培養することにより、組換え宿主細胞と、該細胞から分泌されたIgG1抗体を約2〜3g/Lの濃度で含む細胞培養液を用意した。この培養液に、1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液を添加する事により、pHを5.1へ調整し、酸沈殿を行った。
【0157】
酸沈殿を行った培養液に、2mol/Lリジン塩酸塩水溶液を添加することにより、終濃度0.1mol/Lのリジンを含む培養液を調製した。
【0158】
この培養液を2個の容器に分け入れ、片方に含まれる細胞について、ホモゲナイザーを用いてすべて破砕した。細胞を破砕した培養液と細胞を破砕していない培養液を4:6で混合した。
【0159】
リジンを0.1mol/L含む混合した培養液を、6410×gで15分間遠心することにより、細胞および大きな細胞断片等を沈降させて上清を回収した。更に、それぞれStericup−GP(製品番号SCGPU02RE、ミリポア社製)を用いてろ過することにより、微小な細胞断片を除去した溶出液を得た。
【0160】
得られた溶出液を通気可能なビンに入れ、室温で液上面に継続的に窒素ガスを封入しながらスターラーで攪拌する事により、溶出液中の溶存酸素を減少させた。窒素ガスの封入はpHを5.1へ調整した時点から6時間後まで継続した。
【0161】
窒素ガスの封入を終えた溶出液に対して、1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液をそれぞれ添加する事により、pHを6.0へ調整した。溶出液を通気可能なビンに入れ、室温で液上面に継続的に窒素ガスを封入しながらスターラーで攪拌する事により、溶出液中の溶存酸素を減少させた。溶出液から、pHを6.0へ調整した18、30、42時間後に、それぞれ0.04mLずつサンプリングした。
【0162】
得られた被検体は、実際の精製工程において、酸沈殿を行った後、リジンを添加し、さらに培養液から組換え宿主細胞または該細胞断片を除去し、pHを6.0へ調整してからクロマトグラフィー工程に供するまで室温で放置した状態を模倣するものである。
【0163】
サンプリングした各被検体をSDS−PAGEで解析した。その結果、終濃度0.1mol/Lのリジンを含む被検体では、pHを6.0へ調整した30時間後以降のサンプルにおいて抗体の還元が認められた。
【0164】
一方、実施例3のコントロールの被検体では、pHを6.0へ調整した18時間後以降のサンプルにおいて抗体の還元が認められた。この結果は、酸沈殿実施後、培養液から組換え宿主細胞を除去する工程の前にリジンを培養液に添加する事により、組換え宿主細胞から該培養液中に分泌されたポリペプチドの還元を防止できることを示している。
【0165】
[実施例11]
酸沈殿を実施した組換え宿主細胞とポリペプチドを含む培養液にヒスチジンを添加する事でポリペプチドの還元を防止する方法の例
CHO−K1細胞を宿主細胞とする組換え宿主細胞を培養することにより、組換え宿主細胞と、該細胞から分泌されたIgG1抗体を約2〜3g/Lの濃度で含む細胞培養液を用意した。この培養液に、1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液を添加する事により、pHを5.1へ調整し、酸沈殿を行った。
【0166】
酸沈殿を行った培養液に、0.75mol/Lヒスチジン塩酸塩水溶液を添加することにより、終濃度0.1mol/Lのヒスチジンを含む培養液を調製した。
【0167】
この培養液を2個の容器に分け入れ、片方に含まれる細胞について、ホモゲナイザーを用いてすべて破砕した。細胞を破砕した培養液と細胞を破砕していない培養液を4:6で混合した。
【0168】
ヒスチジンを0.1mol/L含む混合した培養液を、6410×gで15分間遠心することにより、細胞および大きな細胞断片等を沈降させて上清を回収した。更に、それぞれStericup−GP(製品番号SCGPU02RE、ミリポア社製)を用いてろ過することにより、微小な細胞断片を除去した溶出液を得た。
【0169】
得られた溶出液を通気可能なビンに入れ、室温で液上面に継続的に窒素ガスを封入しながらスターラーで攪拌する事により、溶出液中の溶存酸素を減少させた。窒素ガスの封入はpHを5.1へ調整した時点から6時間後まで継続した。
【0170】
窒素ガスの封入を終えた溶出液に対して、1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液をそれぞれ添加する事により、pHを6.0へ調整した。溶出液を通気可能なビンに入れ、室温で液上面に継続的に窒素ガスを封入しながらスターラーで攪拌する事により、溶出液中の溶存酸素を減少させた。
【0171】
溶出液から、pHを6.0へ調整した18、30、42時間後に、それぞれ0.04mLずつサンプリングした。得られた被検体は、実際の精製工程において、酸沈殿を行った後、ヒスチジンを添加し、さらに培養液から組換え宿主細胞または該細胞断片を除去し、pHを6.0へ調整してからクロマトグラフィー工程に供するまで室温で放置した状態を模倣するものである。
【0172】
サンプリングした各被検体をSDS−PAGEで解析した。その結果、終濃度0.1mol/Lのヒスチジンを含む被検体では、すべてのサンプルにおいて抗体の還元が認められなかった。一方、実施例3のコントロールの被検体では、pHを6.0へ調整した18時間後以降のサンプルにおいて抗体の還元が認められた。
【0173】
この結果は、酸沈殿実施後、培養液から細胞を除去する工程の前にヒスチジンを培養液に添加する事により、組換え宿主細胞から該培養液中に分泌されたポリペプチドの還元を防止できることを示している。
【0174】
[実施例12]
酸沈殿を実施した培養上清にリジンを添加する事でポリペプチドの還元を防止する方法の例
CHO−K1細胞を宿主細胞とする組換え宿主細胞を培養することにより、組換え宿主細胞と、該細胞から分泌されたIgG1抗体を約2〜3g/Lの濃度で含む細胞培養液を用意した。この培養液に、1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液を添加する事により、pHを5.1へ調整し、酸沈殿を行った。
【0175】
酸沈殿を行った培養液を2個の容器に分け入れ、片方に含まれる細胞について、ホモゲナイザーを用いてすべて破砕した。細胞を破砕した培養液と細胞を破砕していない培養液を4:6で混合した。
【0176】
この混合した培養液を6410×gで15分間遠心することにより、細胞および大きな細胞断片等を沈降させて培養上清を回収した。更に、Stericup−GP(製品番号SCGPU02RE、ミリポア社製)を用いてろ過することにより、微小な細胞断片を除去した溶出液を得た。
【0177】
得られた溶出液を通気可能なビンに入れ、室温で液上面に継続的に窒素ガスを封入しながらスターラーで攪拌する事により、溶出液中の溶存酸素を減少させた。窒素ガスの封入はpHを5.1へ調整した時点から6時間後まで継続した。
【0178】
窒素ガスの封入を終えた溶出液に2mol/Lリジン塩酸塩水溶液を添加する事により、終濃度0.1mol/Lのリジンを含む溶出液を調製した。更に、1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液を添加する事により、pHを6.0へ調整した。
【0179】
溶出液を通気可能なビンに入れ、室温で液上面に継続的に窒素ガスを封入しながらスターラーで攪拌する事により、溶出液中の溶存酸素を減少させた。溶出液から、pHを6.0へ調整した18、30、42時間後に、それぞれ0.04mLずつサンプリングした。
【0180】
得られた被検体は、実際の精製工程において、酸沈殿を行った後、培養液から組換え宿主細胞または該細胞断片を除去し、さらにリジンを添加し、pHを6.0へ調整してからクロマトグラフィー工程に供するまで室温で放置した状態を模倣するものである。
【0181】
サンプリングした各被検体をSDS−PAGEで解析した。その結果、終濃度0.1mol/Lのリジンを含む被検体では、pHを6.0へ調整した30時間後以降のサンプルにおいて抗体の還元が認められた。
【0182】
一方、実施例4のコントロールの被検体では、pHを6.0へ調整した18時間後以降のサンプルにおいて抗体の還元が認められた。この結果は酸沈殿を行い、培養液から組換え宿主細胞を除去する工程の開始後にリジンを培養液に添加する事により、該細胞から該培養液中に分泌されたポリペプチドの還元を防止できることを示している。
【0183】
[実施例13]
酸沈殿を実施した培養上清にヒスチジンを添加する事でポリペプチドの還元を防止する方法の例
CHO−K1細胞を宿主細胞とする組換え宿主細胞を培養することにより、組換え宿主細胞と、該細胞から分泌されたIgG1抗体を約2〜3g/Lの濃度で含む細胞培養液を用意した。この培養液に、1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液を添加する事により、pHを5.1へ調整し、酸沈殿を行った。
【0184】
酸沈殿を行った培養液を2個の容器に分け入れ、片方に含まれる細胞について、ホモゲナイザーを用いてすべて破砕した。細胞を破砕した培養液と細胞を破砕していない培養液を4:6で混合した。
【0185】
この混合した培養液を6410×gで15分間遠心することにより、細胞および大きな細胞断片等を沈降させて培養上清を回収した。更に、Stericup−GP(製品番号SCGPU02RE、ミリポア社製)を用いてろ過することにより、微小な細胞断片を除去した溶出液を得た。
【0186】
得られた溶出液を通気可能なビンに入れ、室温で液上面に継続的に窒素ガスを封入しながらスターラーで攪拌する事により、溶出液中の溶存酸素を減少させた。窒素ガスの封入はpHを5.1へ調整した時点から6時間後まで継続した。
【0187】
窒素ガスの封入を終えた溶出液に0.75mol/Lヒスチジン塩酸塩水溶液を添加する事により、終濃度0.1mol/Lのヒスチジンを含む溶出液を調製した。更に、1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液を添加する事により、pHを6.0へ調整した。
【0188】
溶出液を通気可能なビンに入れ、室温で液上面に継続的に窒素ガスを封入しながらスターラーで攪拌する事により、溶出液中の溶存酸素を減少させた。溶出液から、pHを6.0へ調整した18、30、42時間後に、それぞれ0.04mLずつサンプリングした。
【0189】
得られた被検体は、実際の精製工程において、酸沈殿を行った後、培養液から組換え宿主細胞または該細胞断片を除去し、さらにヒスチジンを添加し、pHを6.0へ調整してからクロマトグラフィー工程に供するまで室温で放置した状態を模倣するものである。
【0190】
サンプリングした各被検体をSDS−PAGEで解析した。その結果、終濃度0.1mol/Lのヒスチジンを含む被検体では、すべてのサンプルにおいて抗体の還元が認められなかった。
【0191】
一方、実施例4のコントロールの被検体では、pHを6.0へ調整した18時間後以降のサンプルにおいて抗体の還元が認められた。この結果は酸沈殿を行い、培養液から組換え宿主細胞を除去する工程の開始後にヒスチジンを培養液に添加する事により、該細胞から該培養液中に分泌されたポリペプチドの還元を防止できることを示している。
【0192】
[実施例14]
細胞分離工程での膜ろ過性に対するアルギニン、リジンまたはヒスチジンの添加順序の影響
CHO−K1細胞を宿主細胞とする組換え宿主細胞を培養することにより、組換え宿主細胞と、該細胞から分泌されたIgG1抗体を約2〜3g/Lの濃度で含む細胞培養液を用意した。
【0193】
この培養液を培養液Aとした。培養液Aに2mol/Lアルギニン塩酸塩水溶液を添加することにより、終濃度0.1mol/Lのアルギニンを含む培養液を調製し、培養液Bとした。培養液Aに2mol/Lリジン塩酸塩水溶液を添加することにより、終濃度0.1mol/Lのリジンを含む培養液を調製し、培養液Cとした。
【0194】
培養液Aに0.75mol/Lヒスチジン塩酸塩水溶液を添加することにより、終濃度0.1mol/Lのヒスチジンを含む培養液を調製し、培養液Dとした。培養液Bに更に1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液を添加する事により、pHを5.1へ調整し、培養液Eとした。
【0195】
培養液Cに更に1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液を添加する事により、pHを5.1へ調整し、培養液Fとした。培養液Dに更に1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液を添加する事により、pHを5.1へ調整し、培養液Gとした。
【0196】
培養液Aに1mol/Lクエン酸水溶液または3mol/Lトリス水溶液を添加する事により、pHを5.1へ調整し、培養液Hとした。培養液Hに更に2mol/Lアルギニン塩酸塩水溶液を添加することにより、終濃度0.1mol/Lのアルギニンを含む培養液を調製し、培養液Iとした。
【0197】
培養液Hに更に2mol/Lリジン塩酸塩水溶液を添加することにより、終濃度0.1mol/Lのリジンを含む培養液を調製し、培養液Jとした。培養液Hに更に0.75mol/Lヒスチジン塩酸塩水溶液を添加することにより、終濃度0.1mol/Lのヒスチジンを含む培養液を調製し、培養液Kとした。
【0198】
調製した各培養液を2090×gで10分間遠心することにより、細胞および大きな細胞断片等を沈降させて培養上清を回収した。次に、各培養上清をMillex−GP(製品番号SLGP033RS、ミリポア社製)を用いてろ過することにより、各培養上清の膜ろ過性を評価した。なお、この膜ろ過性とは細胞分離工程での膜ろ過性を模倣するものである。
【0199】
その結果、培養液A、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K由来の培養上清は、それぞれ約16.2mL、17.5mL、18.1mL、18.4mL、24.9mL、23.0mL、22.2mL、26.8mL、27.3mL、26.8mL、28.2mLろ過した時点で膜閉塞した。
【0200】
培養液A、B、CおよびDの結果から、細胞分離工程での膜ろ過性は、培養液へのアルギニン、リジン、またはヒスチジン添加により低下しないことが明らかとなった。また、培養液H、I、J、およびKの結果から、細胞分離工程での膜ろ過性は、酸沈殿実施後の培養液へのアルギニン、リジン、またはヒスチジン添加により低下しないことが明らかとなった。
【0201】
さらに、培養液B、C、Dと培養液E、F、G、そして培養液I、J、Kの結果から、細胞分離工程での膜ろ過性は、酸沈殿実施前の培養液へのアルギニン、リジン、またはヒスチジン添加でも、酸沈殿実施後の培養液へのアルギニン、リジン、またはヒスチジン添加でも、酸沈殿非実施時に比べ向上することが明らかとなった。ただし、アルギニン、リジン、またはヒスチジンを培養液に添加するのは、酸沈殿実施前でもよいが、酸沈殿実施後がより好ましいことが明らかとなった。
【0202】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2012年10月3日付けで出願された米国仮出願(61/709,311号)に基づいており、その全体が引用により援用される。