(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自然由来の砒素汚染が懸念される地盤にシールド工法でトンネルを構築する場合、環境基準を超える脱水ケーキが生じるおそれがある。このため、掘削土を泥水状とすることで砒素の抽出・分離が容易に実施できるため、掘削土が泥水状を呈するシールド工法を採用して、掘削土から砒素を抽出・分離する対策が考えられている。
【0003】
ここで、泥水式シールド工法において、廃棄泥水から砒素を抽出分離する方法として、次の二つの方法がある。第1の方法は、廃棄泥水に鉄粉を添加して溶解性砒素を吸着させた後、砒素が吸着した鉄粉を回収する方法である。第2の方法は、廃棄泥水に砒素の抽出を促進する薬剤を添加した後、廃棄泥水を脱水して砒素が溶解した水を回収する方法である。
【0004】
さらに、泥土圧式シールド工法を採用して、鉄粉や不溶化材を切羽に供給することで、掘削を行いながら砒素を不溶化する方法も考えられている。
【0005】
このように、従来、汚染土壌の処理方法や処理施設について、種々の技術が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。特許文献1に記載された技術は、工業排水や、電子材料となるニッケル化成品の中間原料である硫酸ニッケル水溶液など、各種の砒素含有水溶液から砒素を分離するための方法である。すなわち、特許文献1に記載された技術は、砒素含有水溶液に金属鉄粉を添加して撹拌混合するか、金属鉄粉を充填したカラム等に砒素含有水溶液を通液して、金属鉄粉の表面で砒素を反応させた後、固液分離により砒素が鉄の化合物として吸着された金属鉄粉を回収する技術である。ここで、金属鉄粉の粒径は1mm以下とし、10μm〜1mmに調整することが好ましいとしている。
【0006】
特許文献2に記載された技術は、ふっ素、ほう素、砒素、クロム、鉛、セレン等重金属類を含む汚染土壌を浄化するための浄化材に関する技術である。すなわち、特許文献2に記載された技術で使用する浄化材は、金属鉄粉表面に希土類元素の水酸化物または酸化物を付着させることで、同量の希土類元素の水酸化物または酸化物を単体で用いるよりも、希土類元素の水酸化物または酸化物の重金属吸着能を向上することができるとしている。
【0007】
特許文献3に記載された技術は、密閉型シールドトンネル工事に伴って発生する重金属類汚染土壌を処理する場合、掘削排出される重金属類汚染土壌を現位置にて不溶化処理する技術であり、現位置の重金属類汚染土壌内に、密閉型シールドトンネルの掘削切羽前面から不溶化材を注入し、カッターフェース面で攪拌混合する。さらに、排送管内で再混合と不溶化処理反応を促進させることにより、不溶化の基準を確保することができるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上述した第1の方法については、シールド排泥水の発生から脱水ケーキを生成するまでの全体システムについて総合的な検討が必要である。また、砒素を吸着させた鉄粉を回収する設備については、設備規模に対して処理能力が小さい設備を用いて検討を進めている事例が多く、大口径シールドで生じる大量の廃棄泥水を処理するためには、鉄粉回収設備を非現実的なレベルで大量導入する必要がある等、種々の問題がある。
【0010】
また、上述した第2の方法については、添加した抽出材が脱水ケーキに残留するため、将来的な脱水ケーキの安全性が担保されないだけではなく、抽出材が高価であるため、処理コストが高価になる等、種々の問題がある。
【0011】
さらに、泥土圧式シールド工法を採用した場合には、砒素汚染土壌を不溶化処理することになり、処理土には砒素が含まれるため、永久に管理する必要がある。
【0012】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、例えば、シールド排泥水の発生から脱水ケーキを生成するまでの一連の工程全体において、砒素を含む大量の処理対象泥水が発生した場合であっても、これを効率的かつ適切に処理することが可能な砒素汚染土壌の無害化処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の砒素汚染土壌の無害化処理システムは、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明の砒素汚染土壌の無害化処理システムは、砒素汚染土壌を無害化処理するための装置であって、無害化処理の各段階において使用する装置群を備えている。
【0014】
粘土解泥工程における装置群として、粘土解砕装置と、篩い分け装置とがある。また、砒素除去工程における装置群として、pH調整装置と、鉄粉添加装置と、比重分離装置と、ドラム型磁性分離装置と、フィルター型電磁石分離装置とがある。また、無害化処理の後段階における装置群として、脱水処理装置がある。なお、各装置群には、さらに他の装置が付加される場合がある。
【0015】
粘土解砕装置は、砒素汚染土壌に含まれる粘土塊を解砕するための装置である。篩い分け装置は、砒素汚染土壌を篩い分けして、所定の粒径(例えば2mm)以下の細粒分を含む泥水を取り出すための装置である。
【0016】
pH調整装置は、篩い分け装置を通過した細粒分を含む泥水のpHを
アルカリ性に調整するための装置である。鉄粉添加装置は、pHを調整した細粒分を含む泥水のpHを中和しながら鉄粉を添加して、当該鉄粉に砒素を吸着させるための装置である。比重分離装置は、サイクロンを用いて、鉄粉を含まない泥水と、砒素が吸着した鉄粉を含む泥水とに比重分離するための装置である。ドラム型磁性分離装置は、永久磁石を利用して、砒素が吸着した鉄粉を含む泥水から鉄粉を回収するための装置である。フィルター型電磁石分離装置は、ドラム型磁性分離装置で回収しきれなかった鉄粉を含む泥水から鉄粉をさらに回収するための装置である。すなわち、フィルター型電磁石分離装置では、
泥水中に残留した砒素が吸着した微量の鉄粉と非磁性物である泥水を分離して回収する。
【0017】
さらに、
ドラム型磁性分離装置とフィルター型電磁石分離装置との間に、ドラム型磁性分離装置で回収しきれなかった鉄粉を含む泥水を撹拌して鉄粉に付着した粘土を引きはがす撹拌装置を配置してある。
【0018】
また、
比重分離装置に供給する泥水の比重を測定する泥水比重測定装置と、測定した泥水の比重に応じて、比重分離装置に供給する泥水量を調整する供給泥水量調整装置とを備えていてもよい。
【0019】
また、上述した構成に加えて、
比重分離装置の前段に、砒素が吸着した鉄粉を含む泥水を均一に供給する泥水供給装置を配置することが好ましい。
【0020】
また、上述した構成に加えて、
ドラム型磁性分離装置が、砒素が吸着した鉄粉を含む泥水から、鉄粉と余剰水を含む鉄粉濃縮物を回収するものであり、当該鉄粉と当該余剰水とを分離して、当該余剰水のみを排出する余剰水排出装置を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る砒素汚染土壌の無害化処理システムによれば、例えば、泥水式シールド工事で発生する自然由来の砒素を含む土壌を工事現場で無害化処理する際に、シールド排泥水の発生から脱水ケーキを生成するまでの一連の工程全体において、砒素を含む大量の廃棄泥水が発生した場合であっても、これを効率的かつ適切に処理することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明に係る砒素汚染土壌の無害化処理システムの実施形態を説明する。
図1〜3は本発明の実施形態に係る砒素汚染土壌の無害化処理システムを説明するもので、
図1は全体構成を示す説明図、
図2は比重分離装置の構成の説明図(横断面(a)及び縦断面(b))、
図3はドラム型磁性分離装置の構成を示す説明図である。
【0024】
<全体構成>
本発明の実施形態に係る砒素汚染土壌の無害化処理システムは、例えば、泥水式シールド工事で発生する砒素汚染泥水を無害化処理するための装置であって、
図1に示すように、処理工程の進行順に、粘土解砕装置10及び篩い分け装置20、pH調整装置30、鉄粉添加装置40、比重分離装置50、ドラム型磁性分離装置60、フィルター型電磁石分離装置70、脱水処理装置80を備えている。なお、本発明に係る無害化処理システムは、泥水式シールド工事だけではなく、適切な前処理を行うことにより、泥土圧式シールド工事や通常の掘削工事で発生する残土に対しても適用することができる。
【0025】
<粘土解泥工程における装置群>
粘土解泥工程には、粘土解砕装置10、篩い分け装置20、余剰泥水槽120が配置されている。篩い分け装置20における篩下分は余剰泥水槽120に貯留され、シールド掘削に必要な量の泥水が送泥水槽100に送出されてシールドマシン110に供給される。また、余剰泥水槽120に貯留された余剰分の泥水は、pH調整装置30の廃棄泥水受槽33に送出されてpH調整が行われる。
【0026】
<粘土解砕装置>
粘土解砕装置10は、砒素汚染土壌に含まれる粘土塊を解砕するための装置である。一般的なシールド工事では、シールドマシン110から排出された泥水を振動篩で2mmを超える砂と2mm以下の細粒分に篩い分けし、篩残留分を砂として残土処理することが多い。自然由来の砒素汚染地盤を掘削する場合には、掘削対象となる土質が土丹になる可能性が高く、その場合、篩残留分に土丹が固結した粘土塊が含まれる可能性が払拭できない。このため、本実施形態では、篩残留分を解砕するための粘土解砕装置10を備えている。粘土解砕装置10は、例えば、ローラーミル、鬼歯ローラ、ボールミル、高速溶解機(攪拌機)等を用いることができる。
【0027】
<篩い分け装置>
篩い分け装置20は、砒素汚染土壌を篩い分けして、所定の粒径以下の細粒分を含む泥水を取り出すための装置である。所定の粒径とは、例えば、砂分を基準として2mmとする。すなわち、2mmを超える砂分は、砒素を含まないものとして分離し、0次処理土として処理する。一方、2mm以下の細粒分を含む泥水は、砒素を含有しているものとして、砒素を分離して無害化処理を行う。篩い分け装置20は、例えば、振動篩を用いることができる。
【0028】
本実施形態では、篩い分け装置20として2つの振動篩を備えている。第1の振動篩はシールドマシン110から排出された泥水中に含まれる礫分・粘土塊を篩い分けするための装置である。第1の振動篩で篩い分けした礫分・粘土塊は、泥土解砕装置10により粉砕処理して解泥槽90に送出し、余剰泥水槽120から送出される余剰泥水の一部と混合して泥水状とした後、第2の振動篩で篩い分けする。そして、第1の振動篩及び第2の振動篩で篩い分けした篩下分は、余剰泥水槽120に貯留される。また、第2の振動篩により篩い分けした残留分は、0次処理土として処理される。
【0029】
<解泥槽>
解泥槽90は、第1の振動篩である篩い分け装置20により篩い分けられた篩下分と、余剰泥水槽120から送出される余剰泥水の一部を貯留するための貯留槽であり、撹拌モータ91により駆動される撹拌翼92により泥水を撹拌して均一化するようになっている。なお、撹拌翼92の形状等は、篩下分の性状に応じて適宜設定することができる。また、図示しないが、解泥槽90には、泥水を送出するためのポンプを備えている。解泥槽90に貯留された余剰泥水は、第2の振動篩である篩い分け装置20に供給される。
【0030】
<余剰泥水槽>
余剰泥水槽120は、第1の振動篩及び第2の振動篩により篩い分けした篩下分からなる余剰泥水を貯留して、解泥槽90、送泥水槽100、pH調整装置30(廃棄泥水受槽33)に供給するための貯留槽である。余剰泥水槽120においても、撹拌モータ121により駆動される撹拌翼122により泥水を撹拌して均一化するようになっている。また、図示しないが、余剰泥水槽120には、泥水を送出するためのポンプを備えている。
【0031】
<送泥水槽>
送泥水槽100は、余剰泥水槽120から受け入れた泥水を貯留して、再度、シールドマシン110に供給するための貯留槽である。送泥水槽100においても、撹拌モータ101により駆動される撹拌翼102により泥水を撹拌して均一化するようになっている。また、図示しないが、送泥水槽100には、泥水を送出するためのポンプ及び泥水比重調整のための加水装置を備えている。
【0032】
<砒素除去工程における装置群>
砒素除去工程には、pH調整装置30、鉄粉添加装置40、比重分離装置50、ドラム型磁性分離装置60、フィルター型電磁石分離装置70が配置されている。pH調整装置30でpH調整された余剰泥水は、鉄粉添加装置40で鉄粉が添加されて砒素が吸着され、比重分離装置50に送出される。本実施形態では、比重分離装置50の前段に、砒素
が吸着した鉄粉を含む泥水を均一に供給する泥水供給装置(図示せず)が配置されている。さらに、比重分離装置50に供給する泥水は、泥水比重測定装置(図示せず)により比重が測定され、供給泥水量調整装置(図示せず)により、泥水の比重に応じて比重分離装置50に供給する泥水量が調整される。
【0033】
比重分離装置50で分離された鉄粉を含まない泥水は、一旦、廃棄泥水槽130に貯留された後、脱水処理装置80に送出される。一方、比重分離装置50で分離された砒素
が吸着した泥水は、ドラム型磁性分離装置60に送出される。廃棄泥水槽130には、撹拌モータ131により駆動される撹拌翼132を備えている。
【0034】
ドラム型磁性分離装置60で回収された鉄粉は、一旦、余剰水排出装置として機能する鉄粉受槽140に貯留された後、鉄粉添加装置40へ送出される。また、ドラム型磁性分離装置60で分離された非磁性物には、分離しきれない磁性物(砒素吸着分離用鉄粉)が含まれるため、撹拌装置150により撹拌した後、フィルター型電磁石分離装置70に送出されて磁性物(砒素含有物)が分離される。
【0035】
すなわち、ドラム型磁性分離装置60及びフィルター型電磁石分離装置70では、余剰泥水を非磁性物と磁性物の二種類に分別する。そして、磁性物はドラム型磁性分離装置60及びフィルター型電磁石分離装置70により、砒素吸着用の鉄粉として分離回収される。この工程で、砒素は磁性物に含まれることになる。また、非磁性物は磁力により吸引されないことで分離される成分であり、基本的には鉄粉(磁性物)も砒素も含まれていない。ただし、ドラム型磁性分離装置60は、磁性物と非磁性物の分離精度がやや劣るが、磁性物の混入割合が多い泥水を大量処理することが可能である。一方、フィルター型電磁石分離装置70は、磁性物と非磁性物の分離精度が高いが、磁性物の混入割合が多いと頻繁に目詰まりを起こすため洗浄処理に要する時間が長くなり、処理量が減少するおそれがある。したがって、本実施形態では、ドラム型磁性分離装置60及びフィルター型電磁石分離装置70を併用して、廃棄泥水を非磁性物と磁性物に分別している。
【0036】
フィルター型電磁石分離装置70により分離された非磁性物(砒素が除去された泥水)は、一旦、廃棄泥水槽130に貯留された後、脱水処理装置80に送出される。また、フィルター型電磁石分離装置70で磁性物(砒素含有物)側に分別された処理物は鉄粉受槽140に送出される
【0037】
<pH調整装置>
pH調整装置30は、篩い分け装置20を通過した細粒分を含む泥水のpHを調整するための装置であり、廃棄泥水受槽33と、pH調整材及び抽出材を投入するための投入装置(図示せず)と、撹拌モータ31により駆動される撹拌翼32とを備えている。余剰泥水中に含まれる砒素は、水酸化鉄由来の砒素である可能性が高いため、pHをアルカリ性にすることで溶出が促進される。このため、余剰泥水をアルカリ性にした後、撹拌翼32により余剰泥水を撹拌してpHを調整する。砒素の溶出時間は、例えば1時間程度確保することが好ましい。
【0038】
<鉄粉添加装置>
鉄粉添加装置40は、pHを調整した細粒分を含む泥水にpH調整剤を添加してpHを中和するとともに、鉄粉を添加して当該鉄粉に砒素を吸着させるための装置であり、砒素吸着槽41と、鉄粉を投入するための投入装置(図示せず)と、撹拌モータ42により駆動される撹拌翼43とを備えている。鉄粉によるヒ素の吸着は、pHが中性付近でその効果が最大となるため、泥水の中和を行いながら鉄粉を添加する。鉄粉の添加量は、例えば、乾土重量あたり3〜5%程度が適正である。
【0039】
また、使用する鉄粉は、従来の技術で使用されている鉄粉に比較して、粒径が6倍程度以上の大粒径で、多孔質状(スポンジ状)の鉄粉を使用することが好ましい。粒径の大きな鉄粉を使用すると、鉄粉の比表面積が小さくなり、砒素の吸着能力が低下することが予測されるが、本実施形態で使用する鉄粉は、多孔質状(スポンジ状)であるため、粒径が大きくても鉄粉自身の比表面積が小さくなることはなく、砒素の吸着効率が低下することはない。
【0040】
<比重分離装置>
比重分離装置50は、
図2に示すように、サイクロンを用いて、鉄粉を含まない泥水と、砒素が吸着した鉄粉を含む泥水とに比重分離するための装置である。本実施形態では、粒径が大きな鉄粉を利用しているため、重力沈降だけで泥水から鉄粉を容易に回収することが可能であることから、一次処理としてサイクロンを利用して、鉄粉を含まない泥水と、鉄粉が濃縮された泥水に比重分離するようになっている。これにより、鉄粉回収対象となる泥水量を、従来技術の2〜3割程度に減少させることが可能となる。
【0041】
なお、図示しないが、比重分離装置(サイクロン)80の篩下分をドラム型磁性分離装置60に供給する設備(例えば、定量フィーダー)は、定量的に被処理物を供給できる設備とするため、磁性物側に排出された泥水を定量フィーダーに供給するとともに、定量フィーダー上に断面L字状の突起物を複数個配置することが好ましい。このような構造とすることにより、泥水の供給出口で、被処理物である泥水を均一に広げて供給することができる。
【0042】
<泥水比重測定装置>
本実施形態では、図示しないが、比重分離装置50に供給する泥水の比重を測定する泥水比重測定装置と、測定した泥水の比重に応じて、比重分離装置50に供給する泥水量を調整する供給泥水量調整装置とを備えている。比重分離装置50に供給する泥水比重は、施工条件により1.00〜1.50程度の範囲で変動が生じる。サイクロン処理(比重分離装置50による比重分離処理)の工程において、比重1.25程度までの鉄粉を添加した泥水は、100G程度の遠心力を作用させることで篩上に残留する鉄粉はほぼ零となるが、泥水比重が1.25程度を超えると、篩上に残留する鉄粉量が増加してくる。
【0043】
この場合、遠心力を200G(最適には180G)程度まで上げることで、残留鉄粉量をほぼ零にすることが可能となる。したがって、比重分離装置50に供給する泥水の比重を測定し、泥水比重に応じてサイクロンに泥水を供給するポンプの吐出量を調整することにより、篩上に鉄粉が残留しないよう運転管理することが可能となる。なお、サイクロンに作用させる遠心力が大きい程、サイクロン内部の摩耗が激しくなるため、メンテナンス性向上の観点から、作用させる遠心力は小さい方が好ましい。
【0044】
泥水比重測定装置としては、例えば、廃棄泥水受槽33の水位と廃棄泥水受槽33の下部に設置した圧力計の出力値に基づいて、比重分離装置50に供給する泥水の比重を推定する装置を用いればよい。供給泥水量調整装置としては、例えば、上述した方法で推定した比重分離装置50に供給する泥水の比重に応じて、インバータ等を用いて泥水供給ポンプに作用させる電流値を調整することにより、泥水の供給量、すなわち比重分離装置50において泥水に作用させる遠心力を調整する装置を用いればよい。
【0045】
<ドラム型磁性分離装置>
ドラム型磁性分離装置60は、永久磁石を利用して、砒素が吸着した鉄粉を含む泥水から鉄粉を回収するための装置である。すなわち、鉄粉が濃縮されたサイクロン処理物には、鉄粉の他にも砂等が含まれているため、さらにそこから鉄粉のみを回収する必要がある。このため、本実施形態では、永久磁石61を利用したドラム型磁性分離装置60により、鉄粉回収処理を行うようになっている。この際、ドラム磁選機の上部から鉄粉を含む泥水を供給する設備(例えば、流下樋66を含む装置(
図3参照))を採用することにより、単位時間当たりの処理重量を大きくすることが可能となる。
【0046】
ドラム磁選機は、例えば、
図3に示すように、回転ドラム62の内部に永久磁石61を取り付けることにより、回転ドラム62の表面を磁性体の吸着面とする。そして、回転ドラム62を回転させて、吸着面に磁性体を吸着させ、スクレーパー65により吸着した磁性体を掻き落とすようになっている。また、本実施形態では、回転ドラム62の下側に位置する永久磁石設置部と非設置部の境界部の鉛直下付近に邪魔板63を設置するとともに、非磁性体と磁性体との分離部に向かってエアーノズル64からエアーを吹き付けることにより、非磁性体と磁性体とを区別して落下させることができるようになっている。
【0047】
<撹拌装置>
さらに、鉄粉の周りに粘土粒子が付着して、見かけ上の磁性が低下した鉄粉は、ドラム磁選機では回収できないことがある。したがって、
図3に示すように、ドラム磁選機で分離された非磁性物を撹拌槽151に貯留し、ミキサー等からなる撹拌装置150で撹拌することにより、鉄粉に付着した粘土を引きはがすことが好ましい。撹拌装置150は、撹拌槽151と、撹拌モータ152により駆動される撹拌翼153とを備えている。
【0048】
<余剰水排出装置>
また、ドラム磁選機により磁性物側に分別されて排出される鉄粉濃縮物には、水分が多く含まれている場合がある。このため、
図1及び
図3に示すように、磁性物側に排出された鉄粉を貯留するための鉄粉受槽140内に越流堰141を設け、鉄粉を越流堰141の上流側に排出する。そして、鉄粉とともに磁性物側に排出された水分は、越流堰141を乗り越えて流下する構成とすることにより、磁性物側に排出された水分量が多くなった場合に、水分のみを排出することができる。上述したように、鉄粉受槽140及びこれに付帯する機器が余剰水排出装置として機能する。
【0049】
<フィルター型電磁石分離装置>
フィルター型電磁石分離装置70は、ドラム型磁性分離装置60で回収しきれなかった鉄粉を含む泥水から鉄粉をさらに回収するための装置である。すなわち、フィルター型電磁石分離装置70により非磁性物(砒素が除去された粘土等)を分離して、ドラム型磁性分離装置60で回収しきれなかった微量の鉄粉をさらに回収する。本実施形態のフィルター型電磁石分離装置70は、図示しないが、鉄球等に磁界を作用させることで磁力を発生させて、鉄粉と非磁性物を分離し、鉄粉を回収する装置からなる。このように、フィルター型電磁石分離装置70により非磁性物を再度処理することにより、廃棄泥水中からほとんどすべての鉄粉を回収することができる。
【0050】
すなわち、磁性物として分離される処理物の主体は鉄粉であるため、砒素を含有している。ただし、鉄粉は、土壌から水に溶出する僅かな砒素を吸着するだけであり、砒素の含有量は極僅かである。一方、非磁性物として分離される処理物の主体は、砂・シルト・粘土・水であり、鉄粉の混入量は少なくなっているため、殆ど砒素を含有していない。また、非磁性物中の鉄粉含有量は、ドラム型磁性分離装置60と比較して、フィルター型電磁石分離装置70の方が少なくなっている。このように、本実施形態では、ドラム型磁性分離装置60で分離しきれなかった微量の鉄粉をフィルター型電磁石分離装置70で除去するようになっている。
【0051】
<鉄粉の再利用>
本実施形態では、回収した鉄粉を再利用する。しかし、鉄粉の再利用の回数が増えてくると、砒素を吸着する能力が低下する。そこで、所定回数だけ再利用した鉄粉を酸、アルカリ、アスコルビン酸のいずれか、もしくはこれらを組合せて処理することにより、砒素吸着能力を復元することができる。
【0052】
<処理後段階における装置群(脱水処理装置)>
無害化処理の後段階には、脱水処理装置80が配置されている。脱水処理装置80は、廃棄泥水槽130に貯留された砒素が分離・除去された廃棄泥水を脱水処理することにより減容化する装置であり、例えばフィルタープレス等からなる。すなわち、鉄粉をすべて回収した泥水は、フィルタープレス等で脱水処理することにより、廃棄泥土量を減少させることができる。また、脱水処理装置80として、セメントを添加して脱水処理を行う真空加圧脱水機を利用することにより、自硬性のある脱水ケーキを生成して、将来的な砒素溶出のリスクをさらに低減することができる。また、脱水処理装置80から排出される濾水は、濁水処理装置(図示せず)により濁水処理して、得られた清水を再利用することができる。
【0053】
<本発明の有利な効果>
以下、本発明に係る砒素汚染土壌の無害化処理システムが、従来考えられているシステムと比較して有利な効果を奏する点について説明する。鉄粉混合槽から磁気分離機に鉄粉混じりの排泥水をポンプアップし、浄化泥水を回収する装置構成では、700m
3程度を超える廃棄泥水から鉄粉を回収することは困難である。なぜならば、鉄粉混合槽から磁気分離機に鉄粉混じりの排泥水をポンプアップし、浄化泥水を回収する方法では、700m
3程度を超える廃棄泥水を2〜3時間以内に処理する必要があるため、230〜350m
3/h程度の処理能力が必要となり、複数の設備(例えば、5〜8台)の処理装置が必要となる。
【0054】
また、鉄粉を繰り返し利用すると砒素吸着能力が低下するが、鉄粉を鉄粉混合槽に常時戻す処理方法では、鉄粉を繰り返し利用する毎に砒素吸着能力が低下する。このため、使用限度を超えた鉄粉は回収して、フレッシュな鉄粉を鉄粉混合槽に添加する必要があり、大量の鉄粉を使用しなければならない。
【0055】
この点、本発明に係る砒素汚染土壌の無害化処理システムでは、処理能力が高く、設備のコンパクト化を図ることができるだけではなく、鉄粉を再利用するシステムが確立されているため、鉄粉の使用量を大幅に減少させることができる。
【0056】
また、ドラム型磁性分離装置において、被処理泥水を回転ドラムの下側から供給する方法では、砂分が多い泥水を処理対象とすると、回転ドラム下側の水路が土砂により閉塞して処理不良を起こすおそれがあるため、現場向きの処理設備とすることに懸念がある。
【0057】
この点、本発明に係る砒素汚染土壌の無害化処理システムでは、被処理泥水を回転ドラムの上側から供給しているため、上述したような不具合は生じない。
【0058】
また、鉄粉を遠心分離する装置としてスクリューデカンタ等の遠心分離装置のみを使用した場合に、回収した鉄粉には砂分も含まれ、砂分を含んだ鉄粉が再利用されることとなる。このため、砒素が混入した泥水に鉄粉を投入すると、鉄粉と共に添加された砂分は、再度、遠心分離装置により鉄粉と共に回収されてしまい、処理を繰り返すたびに鉄粉に含まれる砂分が多くなってしまい、鉄粉添加量の管理が出来なくなるおそれがある。
【0059】
この点、本発明に係る砒素汚染土壌の無害化処理システムでは、鉄粉と砂分とを確実に分離することができるため、上述したような不都合は生じない。