【文献】
ZHANG W,EFFECT OF GRAPHITIZATION ON FLUORINATION OF CARBON NANOCONES AND NANODISCS,CARBON,英国,ELSEVIER,2009年 6月 6日,V47 N12,P2763-2775
【文献】
YASSER AHMAD,THE SYNTHESIS OF MULTILAYER GRAPHENE MATERIALS 以下省略,CARBON,英国,ELSEVIER,2012年 4月 9日,V50 N10,P3897-3908
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
グラファイト結晶構造を有する部分フッ素化カーボンから形成されるマイクロメトリックグレイン(1d)を用いる、前記マイクロメトリックグレインの理論容量の100%よりも大きい容量を有する一次リチウム電池用の電極の製造方法であって、
前記グレイン(1d)の最大寸法は1から10μmであり、
前記グレインは、非フッ素化カーボンから作られる中央部分(3c、3d)と、式CFxのフッ素化カーボンから作られる周辺部分(2c、2d)とを含み、前記xはF/C原
子比を表し、0.25<x<1.1であり、
前記グレインの非フッ素化カーボンから作られる中央部分(3d)は、前記グレイン(1d)の総体積の0.8から30体積%であり、
前記グレインの19F MAS NMRスペクトルが、−150から−190ppm/CFCL3に単一の等方性ピークを示し(回転バンド(rotation bands)以外)、
前記グレインの電子常磁体共鳴スペクトルは、Xバンドでの3200から3800Gに7個のシグナルを示し、
前記グレインが、二層又は多層のカーボンナノチューブであり、
前記部分フッ素化が、F2ガスによる直接フッ素化によって行われ、
前記直接フッ素化における反応温度は、二層カーボンナノチューブの場合は250〜350℃の温度であり、多層カーボンナノチューブの場合は300〜400℃の温度である、
前記製造方法。
【背景技術】
【0002】
一次リチウム電池の性能の改善に関する数多くの研究が行われてきた。
【0003】
これらの研究のうちの一部は、そのような電池の電極、特にカソードの組成に向けられてきた。
【0004】
従って、酸化マンガンカソードを含む一次リチウム電池は、150から330Wh・kg
-1のエネルギー密度を有し、SO
2の放出を可能とする電極を持つリチウム電池は、1
50から315Wh・kg
-1のエネルギー密度を有し、SOCl
2電極を持つリチウム電
池は、220から560Wh・kg
-1のエネルギー密度を有する。
【0005】
最後に、xが0.5から1.2の間で変動するF/Cモル比を表す、式CF
xのフッ素
化カーボンから作られる電極を持つリチウム電池は、260から780Wh・kg
-1のエネルギー密度を有する。
【0006】
組成CF
1を持つフッ素化カーボンは、一次リチウム電池電極材料として用いられた場
合、865mAh・g
-1の理論容量を提供することができる。CF
1を超えてフッ素含有
量を増加させることは(CF
1.2)、電気化学的に不活性であるCF
2およびCF
3基が作
り出されることから、容量にとって有益ではない。
【0007】
この理論容量は、すべてのC‐F結合の電気化学的変換に相当する。
【0008】
これは、一次リチウム電池内において、フッ素化カーボン(CF
x)電極での電気化学
的プロセスには、外部回路から電子を提供することによるC−F結合の開裂が関与するからである。続いて、形成されたフッ化物イオンは、電解液に由来するリチウムイオンと結合して、LiFを形成する。
xLi→xLi
++xe
-
CFx+xLi→C+xLiF
【0009】
この反応は、不可逆的である。最大容量(またはその電池における最大電流量)を得るための戦略は、従って、長い間にわたって、可能な限り最も高いフッ素化度を示す、すなわち、CF
1組成(各炭素原子が1つのフッ素と結合している)、実際にはCF
1.1‐
1.2
組成(小サイズのグラファイト層を有する石油コークスなど、構造上の組織化が弱い化合物の場合、フッ素化の過程でCF
2およびCF
3基が形成し得る)でさえあるフッ素化カーボンを選択することが中心とされてきた。この戦略は、高フッ素化CF
xが絶縁性である
という大きな欠点を示し、このことは電池に過剰な電圧を発生させ、ファラデー効率(理論容量に対する実験容量の比)を低下させる。
【0010】
さらに、Yasser Ahmad et al.は、"The synthesis of multilayer graphene materials
by the fluorination of carbon nanodiscs/nanocones", Carbon, 50 (2012), 3897-3908において、「部分フッ素化(subfluorination)」プロセスによって得られる部分フッ素
化カーボン多層ナノ材料について報告している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このプロセスは、必須である2つの点:出発材料が、ナノ材料であること、およびフッ素化が、分子フッ素(F
2)を用いた直接フッ素化によるか、または固体フッ素化剤Tb
F
4を用いた制御フッ素化によって得られる部分フッ素化(炭素原子の一部がフッ素化さ
れずに残る)であること、を特徴とする。
【0012】
本発明において、こうして得られる材料は、「部分フッ素化カーボンナノ物体」として知られる。
【0013】
実際、本発明者らは、ここで、驚くべきことに、このような部分フッ素化カーボンナノ材料が、一次リチウム電池電極として用いられた場合、理論上限値の865mAh・g
-1を超える容量を有することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従って、本発明は、非フッ素化カーボンから作られる中央部分、およびxがF/C原子比を表し、0.25<x<1.1である式CF
xのフッ素化カーボンから作られる周辺部
分を含み、その
19F MAS NMRスペクトルは、−150から−190ppmに単一ピークを示す部分フッ素化カーボンナノ物体の、そのナノ物体の理論容量(C
theo)よりも大きい容量(C
exp)を有する、すなわち、比C
exp/C
theo>1である一次リチウム電池の電極の製造のための使用を提供する。
【0015】
−150から−190ppmのピークは、C−F共有結合に関連し、CFCl
3を標準
とする。単一ピークであることは、回転バンド(rotational bands)が考慮されないことを意味するものと理解される。
【0016】
第一の実施形態では、ナノ物体は、積層体全体の厚さが12から123nm、好ましくは62nmの厚さであり、直径が0.6から2.8μm、好ましくは1.5μmである部分フッ素化カーボンナノディスクの積層体であり、非フッ素化カーボンから作られるその中央ナノディスクは、部分フッ素化カーボンナノディスクの積層体の総体積の6から14体積%であり、その電子常磁体共鳴スペクトルは、Xバンドでの3200から3800G(ガウス)に7個のシグナルを示す。このスペクトルは、およそ9.8GHzの周波数で記録される。このようなシグナルは、電子(ペンダント結合)と等距離にある6個の隣接する
19F核(フッ素化部分に配列される)との間の超々微細構造を特徴付けるものである。個々のディスクは、1つのディスク形状のグラフェン面から成っている。ディスクの積層体は、ナノディスクとして知られる。
【0017】
別の実施形態では、ナノ物体は、直径が1から2.7nmであり、長さが5から20μmの範囲である部分フッ素化カーボンから作られる二層の部分フッ素化カーボンナノチューブであり、非フッ素化カーボンから作られるその中央ナノチューブは、ナノチューブの総体積の45から65体積%、好ましくは60体積%であり、その
13C MAS NMRスペクトルは、120ppmにバンドを示す。このバンドは、テトラメチルシラン(TMS)を標準として120ppmの位置にある。回転バンドは考慮されない。120ppmのバンドは、中央の非フッ素化チューブの炭素に関連している。
【0018】
なお別の実施形態では、ナノ物体は、直径が1.8から54nmであり、長さが5から20μmの範囲である部分フッ素化カーボンから作られる多層のナノチューブであり、非フッ素化カーボンから作られるその中央部分は、多層のナノチューブの総体積の3から6
0体積%であり、含まれる層の数は30未満であり、その
13C MAS NMRスペクトルは、120ppmにバンドを示す。このバンドは、TMSを標準として120ppmの位置にある。回転バンドは考慮されない。120ppmのバンドは、(1もしくは複数の)中央の非フッ素化チューブに関連している。
【0019】
さらに別の実施形態では、ナノ物体は、その最大寸法が1から10μmであり、グラファイト結晶構造を有する部分フッ素化カーボンから作られるマイクロメトリックグレイン(micrometric grains)であり、非フッ素化カーボンから作られるその中央部分は、グレインの総体積の0.8から30体積%であり、その電子常磁体共鳴スペクトルは、Xバンドでの3200から3800Gに7個のシグナルを示す。このスペクトルは、およそ9.8GHzの周波数で記録される。
【0020】
このようなマイクロメトリックグレインは、確かに1000nmよりも大きい寸法を有する場合があるが、それらを電極材料に使用しても、これらの電極が組み込まれた電池の超過容量を得ることが可能であることから、ここでは、やはり「ナノ物体」として知られる。
【0021】
最後の実施形態では、ナノ物体は:
直径が0.6から2.8μm、好ましくは1.5μmの直径であり、厚さ(積層体全体)が12から123nm、好ましくは62nmの厚さであり、非フッ素化カーボンから作られるその中央部分は、ナノディスクの積層体(1a)の総体積の6から14体積%であり、その電子常磁体共鳴スペクトルは、Xバンドでの3200から3800Gに7個のシグナルを示す、部分フッ素化カーボンナノディスクの積層体、
直径が1から2.7nmであり、長さが5から20μmの範囲であり、非フッ素化カーボンから作られるその中央のナノチューブは、ナノチューブの総体積の45から65体積%、好ましくは60体積%であり、その
13C MAS NMRスペクトルは、120ppmにバンドを示す、二層の部分フッ素化カーボンナノチューブ、
直径が1.8から54nmであり、長さが5から20μmの範囲であり、非フッ素化カーボンから作られるその中央のナノチューブは、多層のナノチューブの総体積の3から60体積%であり、含まれる層の数は30未満であり、その
13C MAS NMRスペクトルは、120ppmにバンドを示す、多層の部分フッ素化カーボンナノチューブ、
その最大寸法が1から10μmであり、グラファイト結晶構造を有する部分フッ素化カーボンから作られ、非フッ素化カーボンから作られるその中央部分は、グレインの総体積の0.8から30体積%であり、その電子常磁体共鳴スペクトルは、Xバンドでの3200から3800Gに7個のシグナルを示す、マイクロメトリックグレイン、ならびに
これらの2つ以上の混合物
から選択される。
【0022】
本発明はまた、非フッ素化カーボンから作られる中央部分、およびxがF/C原子比を表し、0.25<x<1.1である式CF
xのフッ素化カーボンから作られる周辺部分を
含み、その
19F NMRスペクトルは、−150から−190ppmに単一ピークを示す部分フッ素化カーボンナノ物体を含むことを特徴とするリチウム電池電極も提供する。
【0023】
第一の実施形態では、ナノ物体は、積層体全体の厚さが12から123nm、好ましくは62nmの厚さであり、直径が0.6から2.8μm、好ましくは1.5μmである部分フッ素化カーボンナノディスクの積層体であり、非フッ素化カーボンから作られるその中央ナノディスクは、ナノディスクの積層体の総体積の6から14体積%であり、その電子常磁体共鳴スペクトルは、Xバンドでの3200から3800Gに7個のシグナルを示す。
【0024】
第三の実施形態では、ナノ物体は、直径が1から2.7nmであり、長さが5から20μmの範囲である二層の部分フッ素化カーボンナノチューブであり、非フッ素化カーボンから作られるその中央のナノチューブは、ナノチューブの総体積の45から65体積%、好ましくは60体積%であり、その
13C MAS NMRスペクトルは、120ppmにバンドを示す。
【0025】
第四の実施形態では、ナノ物体は、直径が1.8から54nmであり、長さが5から20μmの範囲である部分フッ素化カーボンから作られる多層のナノチューブであり、非フッ素化カーボンから作られるその中央部分は、多層のナノチューブの総体積の3から60体積%であり、含まれる層の数は30未満であり、その
13C MAS NMRスペクトルは、120ppmにバンドを示す。
【0026】
第五の実施形態では、ナノ物体は、その最大寸法が1から10μmであり、グラファイト結晶構造を有する部分フッ素化カーボンから作られるマイクロメトリックグレインであり、非フッ素化カーボンから作られるその中央部分は、グレインの総体積の0.8から30体積%であり、その電子常磁体共鳴スペクトルは、Xバンドでの3200から3800Gに7個のシグナルを示す。
【0027】
第六の実施形態では、ナノ物体は:
積層体全体の厚さが12から123nm、好ましくは62nmの厚さであり、直径が0.6から2.8μm、好ましくは1.5μmの直径であり、非フッ素化カーボンから作られるその中央部分は、ナノディスクの積層体の総体積の6から14体積%であり、その電子常磁体共鳴スペクトルは、Xバンドでの3200から3800Gに7個のシグナルを示す、部分フッ素化カーボンナノディスクの積層体、
直径が1から2.7nmであり、長さが5から20μmの範囲であり、非フッ素化カーボンから作られるその中央部分は、ナノチューブの総体積の45から65体積%、好ましくは60体積%であり、その
13C MAS NMRスペクトルは、120ppmにバンドを示す、二層の部分フッ素化カーボンナノチューブ、
直径が1.8から54nmであり、長さが5から20μmの範囲であり、非フッ素化カーボンから作られるその中央部分は、多層のナノチューブの総体積の3から60体積%であり、含まれる層の数は30未満であり、その
13C MAS NMRスペクトルは、120ppmにバンドを示す、多層の部分フッ素化カーボンナノチューブ、
その最大寸法が1から10μmであり、グラファイト結晶構造を有する部分フッ素化カーボンから作られ、非フッ素化カーボンから作られるその中央部分は、グレインの総体積の0.8から30体積%であり、その電子常磁体共鳴スペクトルは、Xバンドでの3200から3800Gに7個のシグナルを示す、マイクロメトリックグレイン、ならびに
これらの2つ以上の混合物
から選択される。
【0028】
本発明はまた、本発明の電極、または本発明の部分フッ素化カーボンナノ物体の使用によって得られる電極を含むことを特徴とするリチウム電池も提供する。
【0029】
図面を参照して示される以下の説明のための記述を読むことにより、本発明がより詳細に理解され、本発明のその他の特徴および利点がより明白に明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0031】
炭素‐13NMR(
13C MAS NMR)スペクトルは、TMSを標準とすることで得られ、フッ素‐19NMR(
19F MAS NMR)スペクトルは、CFCl
3を標準
とすることで得られた。
【0032】
本文中において、以下の用語は以下の意味を有する:
【0033】
「カーボンナノディスクの積層体」は、フッ素化を受けておらず、積層体を形成するカーボンナノディスクおよびナノコーン(nanocones)の混合物を表す。このような積層体
は、10から70nmの厚さを有し、好ましくは、35nmの厚さを有し、0.6から2.8μmの直径、好ましくは、1.5μmの直径を有する。
【0034】
「部分フッ素化カーボンナノディスクの積層体」は、部分フッ素化プロセスが適用された後の上記で定めるカーボンナノディスクの積層体を表す。
【0035】
分子フッ素F
2を用いるこの部分フッ素化プロセスは、Zhang et al., "Effect of graphitization on fluorination of carbon nanocones and nanodiscs", Carbon, Elsevier,
Vol. 47, No. 12, (2009), pages 2763-2775に記載のプロセスである。積層体は、F
2による部分フッ素化のプロセスを適用した結果、不均一な膨張を起こした。
【0036】
しかし、本発明の部分フッ素化カーボンナノディスクの積層体の場合、カーボン含有前駆体(2700℃でグラファイト化)は同一であるが、膨張は均一であり、フッ素化部分の規則正しさは、TbF
4による部分フッ素化プロセスを適用した結果として、より良好
である。TbF
4を加熱することによって放出される原子フッ素は、以下の特徴をもたら
す:本発明のナノディスク(C550と表される)は、それぞれ
図13および14に示されるように、フッ素‐19NMR(
19F MAS NMR)スペクトルにおいて単一のピークのみを示すだけでなく、常磁体共鳴スペクトルにおいて、3200から3800Gに7個のシグナルを有する。本発明で用いられるナノディスクは、従って、この文献に記載されるF
2によって得られるナノディスク(D‐500と表される)とは異なる。さらに
、この文献に記載されるナノディスクとは対照的に、本発明による部分フッ素化カーボンナノディスクは、実施例3に示されるように、電極として用いられた場合、理論容量よりも大きい容量を示す。
【0037】
部分フッ素化プロセスの適用に起因するこれらのナノディスクの積層体の膨張は、それらが、12から123nmの厚さ、好ましくは62nmの厚さ、および0.6から2.8μmの直径、好ましくは1.5μmの直径を有することを意味する。
【0038】
「二層のカーボンナノチューブ」は、フッ素化プロセスを受けておらず、0.5から1.5nmの直径、および5から20μmの長さを有するカーボンナノチューブを表す。
【0039】
「二層の部分フッ素化カーボンナノチューブ」は、国際公開第2007/098478
A2号に記載のフッ素化プロセスを受けた上記で定める二層のカーボンナノチューブを表す。このような部分フッ素化カーボンナノチューブは、1から2.7nmの直径、および5から20μmの長さを有する。
図17に示すように、その
19F MAS NMRスペクトルは、−150ppmから−190ppm/CFCl
3(回転バンドは除く)に、共有C−F結合に関連する単一のピークを示し、ならびにその炭素‐13NMR(
13C MAS NMR)スペクトル(
図18)は、120ppm/TMS(回転バンドは除く)にバンドを示し、これは、国際公開第2007/098478 A2号の文献では識別されておらず、そこでは、層の数が30未満で
あるナノチューブのNMRスペクトルが提示されていない。そのような理論に束縛されるものではないが、発明者らは、本発明で用いられる層の数が30未満であるナノチューブが、その低い曲率半径に起因してグラファイト化され得ないために、(C
2F)
n型のフルオログラファイト構造に相当する追加のピークを−150ppm/CFCl
3から−190ppm/CFCl
3(回転バンドは除く)に示すことができないものであると考えており、このことは、国際公開第2007/098478 A2号では識別されていなかった。
【0040】
「多層のカーボンナノチューブ」は、フッ素化プロセスを受けておらず、1.5から30nmの直径、および5から20μmの長さを有する多層のカーボンナノチューブを表す。
【0041】
「多層の部分フッ素化カーボンナノチューブ」は、国際公開第2007/098478
A2号に記載のフッ素化プロセスを受けた上記で定める多層のカーボンナノチューブを表す。このような多層の部分フッ素化カーボンナノチューブは、30未満の層数を有する。それらは、1.8から54nmの直径、および5から20μmの長さを有する。少数層のカーボンナノチューブ(FWCNT)とは区別される。
図15に示すように、その
19F
MAS NMRスペクトルは、−150ppmから−190ppm/CFCl
3(回転
バンドは除く)に、共有C−F結合に関連する単一のピークを示し、ならびにその
13C MAS NMRスペクトル(
図16)は、120ppm/TMSにバンドを示す。このような特徴も、国際公開第2007/098478 A2号の文献で識別されておらず、そこでは、このような多層ナノチューブのNMRスペクトルは提示されていない。
【0042】
「最大寸法が1から10μmであり、グラファイト結晶構造のカーボンから作られるマイクロメトリックグレイン」は、フッ素化プロセスを受けておらず、1から10μmの最大寸法を有するグラファイト結晶構造のカーボンから作られるグレインを表す。
【0043】
「最大寸法が1から10μmであり、グラファイト結晶構造の部分フッ素化カーボンから作られるマイクロメトリックグレイン」は、上記で引用したZhang et al.,に記載のフ
ッ素化プロセスを受けた上記で定めるグラファイト結晶構造のカーボンから作られるグレインを表す。このようなグレインは、1から10μmの最大寸法を有する。それぞれ
図20および19に示すように、その
19F MAS NMRスペクトルは、−150から−190ppm/CFCl
3(回転バンドは除く)に、共有C−F結合に関連する単一のピー
クを示し、およびその電子常磁体共鳴スペクトルは、Xバンドでの3200から3800Gに7個のシグナルを示す。本発明で用いられる部分フッ素化カーボンナノ物体は、
図1から3に図示される。
【0044】
本発明で用いられる部分フッ素化カーボンナノ物体は、すべてに共通して、非フッ素化カーボンから作られる中央部分、ならびにxが0.25および1.1を除く0.25から1.1のC/F原子比である式CF
xのフッ素化カーボンから作られる周辺部分を含む。
この中央部分は、本発明で用いられる部分フッ素化カーボンナノ物体のための強化部分として作用する。
【0045】
それらはまた、すべてに共通して、
19F MAS NMRスペクトルが、−150から−190ppm/CFCl
3(回転バンドは除く)に、共有C−F結合に関連する単一の
ピークを示し、これは、先行技術で示されたことのないものである。国際公開第2007/098478 A2号(
図3)、国際公開第2007/126436 A2号(
図9a)、米国特許出願第2007/231696号(
図9)、Yasser Ahmad et al., "The synthesis of multilayer graphene materials by the fluorination of carbon nanodiscs/nanocores", Carbon, Vol. 50, No. 10, 9 April 2012 (2012-04-09), pages 3897-3908(
図5)、および上記で引用したZhang et al.(
図3)に記載のナノ物体の
19F MAS
NMRスペクトルはすべて、−150から190ppm/CFCl
3(回転バンドは除
く)に2つのピークを示す。
【0046】
さらに、リチウム電池での使用後、すべてが、その
19F MAS NMRスペクトルに、挿入されたLi
2F
+要素に関連するおよそ−175ppmの追加のピークを示す(
図12)。
【0047】
このことにより、そのようなナノ物体のバッチを製造後、使用前後で所望されるNMRの特徴が実際に存在すること、および従って、ナノ物体のそのバッチを用いて、ナノ物体の理論容量よりも大きい容量を有する電極を得ることができることを、サンプルで確認することが可能となる。
【0048】
本発明で用いられる部分フッ素化カーボンナノ物体の第一の分類は、断面として
図1に図示される。
【0049】
それは、
図1において1aで表されるナノディスクの積層体である。
【0050】
図1において3aで表されるこの積層体1aの中央ナノディスクは、非フッ素化カーボンのみから成る。
【0051】
ナノディスク3aの上下に位置する
図1において2aで表されるナノディスクについては、部分フッ素化カーボンから成る。
【0052】
図1では、ナノディスク2aが完全に非フッ素化カーボンから作られるものとして表されるが、それは、その外側端部において、部分フッ素化カーボンのみから作られていてもよい。
【0053】
これは、このような部分フッ素化カーボンナノディスクが、反応器中にて市販のカーボンナノディスクを480から520℃の温度で加熱することによる、固体フッ素化剤(TbF
4)を用いたフッ素化によって得られたものであるからである。反応器中に注入され
た全フッ素量は、F/C原子比が0.20から0.95であるように算出された。
【0054】
実際には、市販のカーボン「ナノディスク」が、ナノコーンとの混合物として提供されることから(ディスク、コーン、およびアモルファスカーボンについて、それぞれ、総重量に対して70/20/10重量%)、カーボンナノディスクおよびカーボンナノコーンの混合物であることが懸念される。
【0055】
厚さが12から123nmであり、直径が0.6から2.8μmである部分フッ素化カーボンナノディスクの積層体1aは、この合成方法によって得られる。好ましくは、ナノディスクのこの積層体全体は、直径1.5μmに対して62nmの厚さを有する。この厚さの増加は、カーボン含有層間へのフッ素原子の取り込みに起因する膨張に関連する。ナノディスクの直径は、フッ素化の過程でほとんど変動しない。
【0056】
中央ナノディスク3aは、非フッ素化カーボンから作られ、ナノディスクの積層体1aの総体積に対して、6から14体積%である。
【0057】
電子常磁体共鳴(EPR)スペクトルは、Xバンドでの3200から3800Gに7個のシグナルを示す(
図14)。
【0058】
実施例2に示されるように、これらの特徴の組み合わせにより、電極として用いられた
場合に理論容量よりも大きい容量を有する電極を得ることを可能とする部分フッ素化カーボンナノディスクを得ることが可能となる。
【0059】
上記で引用したZhang et al., "Effect of graphitization on fluorination of carbon nanocones and nanodiscs", Carbon, Elsevier, Oxford, GB, Vol. 47, No. 12, (2009), pages 2763-2775に記載のナノディスクが、この文献の
図14に見られるように、3200から3800Gに7個のシグナルを有する電子常磁体共鳴スペクトルを示さないことに注目すべきである。
【0060】
さらに、この文献で研究されたナノディスクは、電極として用いられた場合、理論容量よりも大きい容量を持つものではない。
【0061】
本発明で用いられるナノ物体はまた、二層の部分フッ素化カーボンナノチューブであってもよい。
【0062】
そのような二層の部分フッ素化カーボンナノチューブは、断面として
図2に図示される。
【0063】
このような部分フッ素化カーボンナノチューブは、1から2.7nmの直径および5から20μmの長さを有する。
【0064】
このような部分フッ素化カーボンナノチューブは、xがF/C原子比を表し、0.25<x<1.1である式CF
xのフルオロカーボンから作られる、
図2において2cで表さ
れる周辺部分を含み、一方、
図3において3cで表される中央チューブ部分は、非フッ素化カーボンから作られる。
【0065】
従って、このような非フッ素化カーボンナノ物体の中央部分3cは、中央チューブである。
【0066】
このような二層の部分フッ素化カーボンナノチューブは、国際公開第2007/098478 A2号に記載のように、二層のカーボンナノチューブの純F
2ガスによる直接フ
ッ素化によって得られた。
【0067】
反応温度は、250から350℃であり、反応時間は、3時間であった。
【0068】
フッ素ガスは、二層の非フッ素化カーボンナノチューブを含むモネル反応器に流入する形態とした。
【0069】
注入された全フッ素量は、F/C原子比が0.20から0.60となる量とした。
【0070】
本発明で用いられるナノ物体はまた、層数が30までに限定された多層の部分フッ素化カーボンナノチューブであってもよい。
【0071】
それらは、国際公開第2007/098478 A2号に記載のように、多層のカーボンナノチューブの純F
2ガスによる直接フッ素化によって得られた。このような多層のカ
ーボンナノチューブのフッ素化に用いられたF/C比は、0.20から0.80であった。
【0072】
このような多層の部分フッ素化カーボンナノチューブはまた、そのF/C原子比が0.25および1.1を除く0.25から1.1であるフッ素化カーボンから作られる外側部
分も含む。
【0073】
本発明で用いられる多層の部分フッ素化カーボンナノチューブでは、中央チューブのみがフッ素化を受けていない状態である。
【0074】
本発明で用いられる二層または多層の部分フッ素化カーボンナノチューブは、さらに、の
13C MAS NMRスペクトル(回転バンドは除く)の120ppm/TMSにバンドを示す。
【0075】
反応温度は、300から400℃であり、反応時間は、3時間であった。
【0076】
最後に、本発明で用いられるナノ物体は、
図3に示されるように、部分フッ素化グラファイトのマイクロメトリックグレインであってよい。
【0077】
このようなマイクロメトリックグレインは、1から10μmの最大寸法を有する。
【0078】
これらは、
図3において3dと表される非フッ素化カーボンから作られる中央部分、および
図3において2dと表される周辺部分を含む。
【0079】
周辺部分2dは、上限下限値を除く0.25から1.1のF/C原子比を有する。
【0080】
非フッ素化カーボンから作られる中央部分3dは、
図4において1dと表される部分フッ素化カーボンのグレインの総体積の0.8から30体積%である。
【0081】
このようなグレインは、グラファイト構造のカーボングレインを、高温にて(500から600℃)、数分間から数十分間にわたって急速フッ素化(rapid fluorination)することによって得られた。
【0082】
急速フッ素化は、上記で引用したZhang et al.に記載のように、高温にて(500〜600℃)、20分間から120分間という短い時間にわたって気体形態の分子フッ素F
2
を添加することで行われる。
【0083】
この急速フッ素化は、グラファイト構造の非フッ素化カーボンのグレインを入れた体積可変の不動態化ニッケル反応器中で行われる。条件は、オーブンの容量およびカーボンの量に依存する。
【0084】
CF
x中に導入されたフッ素の含有量xは、この急速フッ素化の場合、上限下限値を含
む0.20から0.80となるように算出された。
【0085】
本発明で用いられる部分フッ素化カーボンのグレインは、電子常磁体共鳴スペクトルにおいて、Xバンドでの3200から3800Gに7個のシグナルを示す(
図19)。
【0086】
本発明で用いられるナノ物体はまた、上記で述べるナノ物体、すなわち、部分フッ素化カーボンから作られるナノディスク、ナノスフィア、二層もしくは多層のナノチューブ、およびマイクロメトリックグレインのうちの2つ以上の混合物であってもよい。
【0087】
このようなナノ物体を用いて得られた電極も、本発明の主題である。
【0088】
このような電極は、驚くべきことに、一次リチウム電池中に組み込まれた場合、ファラデー効率として表される超過容量(理論容量が100%)を有し、ナノディスクから成る
電極の場合は125から140%、カーボンナノスフィアから成る電極の場合は114%、二層もしくは多層ナノチューブの場合は170%、ならびにグラファイトマイクロスフィアから成る電極の場合は109%である。
【0089】
直径が150nm以上である部分フッ素化カーボンナノファイバーまたは多層の部分フッ素化カーボンナノチューブを用いて電極が製造された場合、有意な超過容量は記録されなかったことには留意されたい。
【0090】
従って、本発明はまた、上述の部分フッ素化カーボンナノ物体を含むことを特徴とするリチウム電池電極にも関する。
【0091】
本発明はまた、そのような電極を含むリチウム電池、またはこのようなナノ物体を用いることで得られる電極にも関する。
【0092】
本発明をよりよく理解するために、ここでいくつかの実施形態を、純粋に説明のための限定されない例として記載する。
【実施例】
【0093】
<比較例1>
組成CF
0.92を有するマイクロメトリックグレインを示す市販のフルオログラファイトを用いて電極を形成し、それをリチウム電池中に配置する。
【0094】
電極を、EC/PC/3DMC‐1M LiPF
6電解液を用い、10mA/g(C/
100)の電流密度での定電流放電について試験する。
【0095】
リチウムイオンの拡散動態を促進し、それによって、容量という意味でのこの電極(カソード)の性能を、可能な限り最も良く評価するために、低い電流密度を適用した(C/100)。
【0096】
得られた曲線を
図4に示す。
【0097】
図4から分かるように、この電極の測定された容量は、理論値の836mAh/gに対して818mAh/gに等しく(2Vの終止電圧)、すなわち、98%のファラデー効率である。
【0098】
図10から分かるように、組成CF
0.92を有するこの市販のフルオログラファイトは、本発明の生成物とは対照的に、フッ素‐19(MAS)NMRにおいて、−190および−175ppm/CFCl
3(回転バンドは除く)に2つのピークを示す。
【0099】
図11から、組成CF
0.92を有する市販のフルオログラファイトの電子常磁体共鳴スペクトルが、Xバンドでの3200から3800Gに単一のシグナルしか示さないことが分かる。
【0100】
図21に示されるように、最大容量818mAh/gでの放電完了後、
19F MAS NMRスペクトルは、理論容量を超えていないことに起因して、−150ppm/CFCl
3にピークを示さない。
【0101】
<実施例2>
本発明による急速フッ素化(flash fluorination)によって得られたマイクロメトリック部分フッ素化カーボングレインをここでは用いた。化学組成は、CF
0.59である。
【0102】
この場合、フッ素化カーボン領域は、グレインの周辺部分に位置する。
【0103】
図19は、用いたマイクロメトリックグレインの電子常磁体共鳴スペクトルを示す。
図19から分かるように、この電子常磁体共鳴スペクトルが、3200から3800Gに7個のシグナルを示し、一方、組成CF
0.92を持つ市販のフルオログラファイトから作られるマイクロメトリックグレインの電子常磁体共鳴スペクトルは、
図11に示されるように、1つのシグナルしか含まない。
【0104】
図20は、本発明で用いたマイクロメトリックグレインの
19F MAS NMRスペクトルを示す。
図20から分かるように、このスペクトルは、−150から−190ppm/CFCl
3(回転バンドは除く)に単一ピークを含み、一方、
図10に示される市販の
マイクロメトリックフッ化グラファイトグレインCF
0.92の
19F MAS NMRスペクトルは、それに追加のピークを示しており、それは、(C
2F)
n相の存在を示すものである。
【0105】
このようなグレインを用いてリチウム電池カソードを形成し、これを、エチレンカーボネート/プロピレンカーボネート/3 ジメチルカーボネート(EC/PC/3DMC)‐1M LiPF
6電解液を用い、10mA/g(C/100)での定電流放電について
試験すると、
図5に示す曲線が得られる。
【0106】
図5から分かるように、理論容量は、681mAh/gであり、容量は、741mAh/g、すなわち、109%の超過容量である。
【0107】
<実施例3>
この例で用いたのは、本発明による部分フッ素化カーボンナノディスクである。
【0108】
このようなナノ物体は、ナノディスク(70重量%)およびナノコーン(20重量%)の混合物を含んでいた(残りの10重量%は、アモルファスカーボンである)。
【0109】
このようなナノディスクおよびこのようなナノコーンのそのフッ素化部分における組成は、CF
0.80であった。
【0110】
図13は、このようなナノディスクの
19F MAS NMRスペクトルを示しており、
図13中にてC550およびC500と表される。
【0111】
このスペクトルには、−150から−190ppm/CFCl
3に単一のピークが存在
することが分かる(回転バンドを除く)。
【0112】
図13はまた、純粋F
2ガスでフッ素化されたナノディスクの
19F MAS NMRス
ペクトルも示す(D500と表される)。
【0113】
この
19F MAS NMRスペクトルには、追加のピークの存在が見られる。
【0114】
図14は、このようなナノディスクの電子常磁体共鳴スペクトルを示している(550と表される)。
【0115】
このスペクトルでは、−3300から−3400Gに7個のピークの存在が見られる。
【0116】
図14はまた、純粋グラファイトの電子常磁体共鳴スペクトルも示す(D500と表さ
れる)。
【0117】
この場合、このスペクトルには単一のシグナルのみが存在することが分かる。
【0118】
このようなナノ物体を用いて電極を形成し、これを、EC/PC/3DMC‐1M LiPF
6電解液を用いたリチウム電池のカソードとして用いた。
【0119】
このようなナノ物体の10mA/gでの定電流放電曲線を
図6に示す。
【0120】
図6から分かるように、得られた容量の値は、955mAh/gであり、これは、121%の超過容量である(理論容量:788mAh/g)。
【0121】
図12に示されるように、電池に用いられ、超過容量を得た後のこのようなナノディスクの
19F MAS NMRスペクトルは、−150ppm/CFCl
3に追加のピークを
示す。
【0122】
<実施例4>
この例で用いたのは、本発明による部分フッ素化カーボンナノディスクである。
【0123】
このようなナノ物体は、ナノディスクおよびナノコーンの混合物を含んでいた。
【0124】
このようなナノディスクおよびこのようなナノコーンのそのフッ素化部分における組成は、CF
0.95に相当していた。
【0125】
このようなナノ物体を用いて電極を形成し、これを、PC‐1M LiClO
4電解液
を用いたリチウム電池のカソードとして用いた。
【0126】
このようなナノ物体の10mA/gでの定電流放電曲線を
図7に示す。
【0127】
図7から分かるように、得られた容量の値は、1180mAh/gであり、これは、39%の超過容量である(理論容量は847mAh/g)。
【0128】
<実施例5>
この例で用いたナノ物体は、本発明による少数層の部分フッ素化カーボンナノチューブ(FWCNT)である。
【0129】
図15は、このようなナノチューブの
19F NMRスペクトルを示す。
【0130】
−150ppmから−190ppm/CFCl
3(回転バンドは除く)に、共有C−F
結合に関連する単一の等方性ピークの存在が分かる。
【0131】
図16は、このようなナノチューブの
13C MAS NMRスペクトルを示す。
【0132】
120ppm/TMSにバンドが存在していることが分かる(回転バンドは除く)。
【0133】
このようなナノチューブを用いて電極を形成した。このために、形成される電極の総重量に対して、このようなナノチューブの80重量%を、10重量%のPVDFおよび10重量%のカーボンと混合した。
【0134】
従って、上記より、本発明のナノ物体は、これまでに報告されたことのないナノ物体で
あり、驚くべきことに、リチウム電池に用いられた場合、フッ素化ナノ物体の理論容量よりも大きい容量を得ることを可能とする電極を得ることができるナノ物体であることが分かる。
【0135】
このようなカーボンナノチューブのC/70での定電流放電曲線を示す
図9から分かるように、リチウム電池の電極(カソード)の形成に用いられた場合、これらは、900mAh/gの容量、すなわち、173%の理論超過容量(理論容量は521mAh/g)を示す。
【0136】
用いた電解液は、EC/PC/3DMC‐1M LiPF
6であった。