(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6412021
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】グリッド、及び、このグリッドを用いたキャニスタ
(51)【国際特許分類】
F02M 25/08 20060101AFI20181015BHJP
【FI】
F02M25/08 311K
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-559132(P2015-559132)
(86)(22)【出願日】2015年1月23日
(86)【国際出願番号】JP2015051853
(87)【国際公開番号】WO2015111704
(87)【国際公開日】20150730
【審査請求日】2016年7月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-10369(P2014-10369)
(32)【優先日】2014年1月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岸田 陽介
(72)【発明者】
【氏名】嶺澤 頌吾
【審査官】
家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭61−181862(JP,U)
【文献】
特開2008−095556(JP,A)
【文献】
特開平08−135524(JP,A)
【文献】
実開昭55−083245(JP,U)
【文献】
特開昭61−226554(JP,A)
【文献】
特開昭57−048324(JP,A)
【文献】
特開2013−253569(JP,A)
【文献】
特開平08−114159(JP,A)
【文献】
特開昭57−008345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリッドを用いて、充填室内の吸着剤を押さえているキャニスタであって、
前記グリッドは、
前記キャニスタの開口する前記充填室内に充填された前記吸着剤を前記充填室の底部側から押さえて、前記充填室内に前記吸着剤を保持するグリッドであって、
前記グリッドの中心から外周方向に向かって開口率が大きくなるように、複数の孔部が設けられ、
前記孔部として、
前記グリッドの中心を囲む所定領域内の全体で、交差する2つの各方向に沿って、同一径の複数の小孔が並んだ複数の列が整然と並ぶように、複数の前記小孔が設けられ、
前記所定領域の外側の領域であって、前記所定領域に接する領域に、前記グリッドの外周縁部に沿って複数の大孔が設けられており、
更に、前記所定領域の中心が当該グリッドの中心に一致し、
前記充填室の底部は、燃料タンクに接続されるチャージポートと内燃機関に接続されるパージポートとが設けられた、前記充填室の天井部とは、前記吸着剤を介して反対側にあり、大気と通じている、キャニスタ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本国際出願は、2014年1月23日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願第2014−10369号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2014−10369号の全内容を本国際出願に参照により援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、充填室内で吸着剤を押さえるグリッド、及び、このグリッドを用いたキャニスタに関する。
【背景技術】
【0003】
図1に示すように、キャニスタ1は、第1室10及び第2室20を構成する2つの空間を有するケース1aを備える。第1室10及び第2室20は、隔壁1bによって仕切られている。第1室10及び第2室20の底部は開口している。しかし、これらの開口はボトムキャップ1cによって閉じられている。ボトムキャップ1cは、第1室10及び第2室20の底部の開口を閉じたとき、第1室10と第2室20とを連通する連通孔αを形成する溝を有している。
【0004】
ケース1aのうち第1室10を形成する部分の天井部には、チャージポート11及びパージポート12が上方に向かって立設されている。チャージポート11及びパージポート12は、第1室10及び第2室20の並び方向に沿って並設され、第1室10と連通している。チャージポート11は、燃料タンクに接続され、パージポート12は、パージ弁を介して内燃機関の吸気管に接続されている。
【0005】
第1室10内には、第1室10内の天井部から見て順にフィルタ13、吸着剤14、フィルタ15及びグリッド16が下方に向かって重ねられて格納されている。ボトムキャップ1cのうち、第1室10を閉じる部分の上面上にはスプリング17が取り付けられ、その上端がグリッド16に接しているので、ボトムキャップ1cを閉じると、スプリング17の付勢力によりグリッド16が上方に押し上げられる。これにより、フィルタ13、吸着剤14及びフィルタ15が、第1室10の天井部とグリッド16の間に挟まれて、第1室10内に格納される。このようにグリッド16は、吸着剤14が第1室10内で充填された状態を保持する。尚、吸着剤14は、粒状の活性炭の集合物である。
【0006】
ケース1aのうち第2室20を形成する部分の天井部には、大気ポート21が上方に向かって立設されている。大気ポート21は第2室20と連通している。
第2室20内には、第2室20内の天井面から見て順に、フィルタ23、吸着剤24、フィルタ25及びグリッド26が、下方に向かって重ねられて格納されている。ボトムキャップ1cのうち、第2室20を閉じる部分の上面上にはスプリング27が取り付けられ、その上端がグリッド26に接しているので、ボトムキャップ1cを閉じると、スプリング27の付勢力によりグリッド26が上方に押し上げられる。これにより、フィルタ23、吸着剤24及びフィルタ25が、第2室20の天井部とグリッド26の間に挟まれて、第2室20内に格納される。尚、吸着剤24は、粒状の活性炭の集合物である。
【0007】
次に、キャニスタ1の動作について
図2A及び
図2Bを用いて説明する。内燃機関が作動することなく自動車が停止しているときは、
図2Aに示すように、燃料タンク等で発生した蒸発燃料が、空気とともにチャージポート11からフィルタ13を通って第1室10に導入され、第1室10内に格納されている吸着剤14に吸着される。第1室10内の吸着剤14で吸着されなかった蒸発燃料は、空気とともにフィルタ15、連通孔α及びフィルタ25を通って第2室20に導入され、第2室20内に格納されている吸着剤24に吸着される。そして、蒸発燃料の含有量が抑えられた空気が、フィルタ23を介して大気ポート21から大気中に放出される。
【0008】
内燃機関が作動しているときは、
図2Bに示すように、大気中の空気が、大気ポート21からフィルタ23を介して第2室20に導入され、第2室20の吸着剤24から燃料が脱離される。更に、蒸発燃料を含んだ空気は、第2室20から連通孔α及びフィルタ15を介して第1室10に導かれ、第1室10内において吸着剤14から燃料が脱離され、燃料を含んだ空気が、パージポート12及びパージ弁(図示しない)を介して吸気管に排出され、内燃機関で燃焼される。このように、内燃機関の作動中に吸着剤14及び吸着剤24から燃料を脱離する処理を、一般にパージと呼ぶ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、パージは、内燃機関の負圧を用いて行われるため、大気ポート21から導入される空気は、キャニスタ1内を高速で移動する。また、
図8に示すように、グリッド16、26としては、円盤上に複数の孔部を均等に散点状に開けたパンチングメタルが用いられている。グリッド26が用いられている第2室20内の空気の流れを解析してみると、
図5Bに示すように、第2室20の中心部分の流れが早く、第2室20の外周部分の流れが遅くなっていることが分かる。
【0010】
このように、中心部分と外周部分とで流れが異なると、第2室20内の外周部分では燃料の脱離が十分に行われ難くなるので、キャニスタのパージ効率は、全体に均一に流れる場合に比べ、低くなる傾向にある。
【0011】
本発明の一局面では、パージ効率を向上させることができるグリッド、このグリッドを用いたキャニスタを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1局面は、キャニスタの開口する充填室内に充填された吸着剤を押さえて、前記充填室内に前記吸着剤を保持するグリッドであって、中心部から外周方向に向かって開口率が大きくなるように、複数の孔部を穿孔したものである。
孔部としては、グリッドの中心部を囲む所定領域内の全体で、交差する2つの各方向に沿って、同一径の複数の小孔が並んだ複数の列が整然と並ぶように、複数の小孔が設けられ、さらに、これら小孔が設けられた領域の外側の領域であって、小孔が設けられた領域に接する領域に、グリッドの外周縁部に沿って複数の大孔が設けられている。
【0013】
このグリッドを用いると、実験の結果、吸着剤を流れる空気の速度が、吸着剤の中心部を通るものと、吸着剤の外側を通るものとで、背景技術の欄で述べたグリッドに比べて差が小さくなっていることが確認された。
【0014】
したがって、このグリッドを用いると、円盤上に複数の孔部を均等に散点状に開けたパンチングメタルで構成されるグリッドに比べて、パージ効率を向上させることができる
。
【0015】
また、本発明の第2局面のようにグリッドは、中心部の前記開口率を0としてもよい。
【0016】
尚、本発明の第3局面のキャニスタのように、充填室内の吸着剤を押さえるようにすれば、パージ効率が高いキャニスタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】背景技術及び本実施形態のキャニスタの内部構造図である。
【
図2A-2B】
図2Aは、背景技術及び本実施形態のキャニスタ内を流れる蒸発燃料の通過ルートを説明するための説明図で、吸着時の説明図である。
図2Bは、背景技術及び本実施形態のキャニスタ内を流れる蒸発燃料の通過ルートを説明するための説明図で、脱離時の説明図である。
【
図4】本実施形態のグリッドを用いた場合のパージ量−脱離率グラフである。
【
図5A-5B】
図5Aは、本実施形態のグリッドを備えるキャニスタ内の流量を測定した結果を示す模式図である。
図5Bは、比較例のグリッドを備えるキャニスタ内の流量を測定した結果を示す模式図である。
【
図6A-6C】他の実施形態を示すグリッドの平面図である。
【
図7】他の実施形態を示すグリッドの平面図である。
【
図8】背景技術で説明したグリッドの平面図である。
【符号の説明】
【0018】
1… キャニスタ 1a… ケース 1b… 隔壁 1c… ボトムキャップ
5a… グリッド 5b… グリッド 10… 第1室 11… チャージポート
12… パージポート 13… フィルタ 14… 吸着剤 15… フィルタ
16… グリッド 17… スプリング 20… 第2室 21… 大気ポート
23… フィルタ 24… 吸着剤 25… フィルタ 26… グリッド
27… スプリング 50… 小孔 52… 大孔 CL… 中心部
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
尚、本実施形態のグリッド5a、5bはキャニスタ1で用いられるものであるが、キャニスタ1については背景技術の欄ですでに説明しているので、その説明は省略し、同一構成については同一符号を用いて説明する。
【0020】
図3に示すように、本実施形態のキャニスタ1で用いられるグリッド5a、5bは、中心部周囲に複数の小孔50が穿孔され、これら小孔50が穿孔された領域の外側に、外周縁部に沿って複数の大孔52が穿孔されている。
【0021】
図4に示すように、このグリッド5a、5bをキャニスタ1に取り付けると、パージ量に対する脱離率が、いずれのパージ量の場合でも向上していることが分かる。尚、パージ量の単位は、空気量を吸着剤容量で割ったベットボリュームである。
【0022】
これは、第2室20内を流れる空気が、中心部分か外周部分かを問わず、ほぼ一定しているからと考えられる。
図5A及び
図5Bでは、濃度が濃い部分ほど流れが遅く、濃度が薄い部分ほど流れが速いことを示している。
図5Bに示すように、比較例である円盤上に複数の孔部を均等に散点状に開けたパンチングメタルで構成されるグリッド16及びグリッド26を備えるキャニスタの場合は、周囲の濃度が濃い。しかし、
図5Aに示すように、本実施形態のグリッド5a及びグリッド5bを用いたキャニスタ1の場合は、中心部も周囲も略同じ濃度である。
【0023】
したがって、本実施形態のグリッド5a及びグリッド5bを用いると、比較例のグリッド16及びグリッド26を用いる場合に比べて、パージ効率を向上させることができる。
尚、実験は第2室20について行ったが、第1室10は同様の構造なので、同様の効果が期待できる。
[他の実施形態]
(1)上記実施形態で説明したキャニスタ1はあくまでも一例であり、これに限定されるものではない。例えば、
図3では、小孔50、大孔52のいずれも、四角形状のものについて説明したが、
図6Aに示すように、小孔50、大孔52のいずれも、丸形状にしてもよい。
【0024】
(2)グリッド5a及びグリッド5bの開口率は、中心部から外周方向に向かって大きくなるように、複数の孔部を穿孔したものであればよい。たとえば、
図6Bに示すように、グリッド5a及びグリッド5bは、中心部から放射状に複数の孔部が並べて形成されるとともに、中心部側ほど小さい孔部が形成されたものでもよい。
【0025】
グリッド5a及びグリッド5bは、円盤形状に形成されたものに限定されるものではなく、
図6Cに示すように、四角形状など他の形状に形成されたものでもよい。
グリッド5a及びグリッド5bは、
図7に示すように、中心部CLの開口率を0として、中心部CLには孔部が設けられてない構造としてもよい。