【文献】
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【文献】
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【文献】
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【文献】
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【文献】
社団法人日本化学会,化学便覧応用化学編第6版,丸善株式会社,2003年 1月30日,第4章化学合成技術,第178頁
【文献】
Journal of the American Chemical Society,1966年,88(5),986-992
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記濾過工程で生じた前記ピリジン化合物が残存する濾液を加熱して濃縮する第二濃縮工程と、前記第二濃縮工程の後に前記濾液を冷却する第二冷却工程と、前記第二冷却工程の後に前記ピリジン化合物を濾過して回収する第二濾過工程とを有する第二再結晶工程を備えた請求項6に記載のピリジン化合物の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の製造方法は、ピリジン化合物を合成する際に触媒を用いているため製造工数の増加を招くと共に、高価なパラジウム触媒を用いているため製造コストが増加する。しかも、蒸留処理の場合、濾液に含まれる各種有機物の沸点差を利用して蒸発、凝縮させるので、目的とするピリジン化合物を収率よく回収する上で手間がかかってしまう。
【0006】
そこで、製造工数を削減しつつ安価な方法でピリジン化合物を合成し、合成されたピリジン化合物を効率よく回収できるピリジン化合物の製造方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、モノマーとアルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体とを反応させることにより、触媒を用いなくても目的とするピリジン化合物を収率良く高純度に合成できることを見出した。かかる合成反応は、高価な試薬類を必要とせず、少ない工程数で目的とするピリジン化合物を簡便に短時間で合成することができる。さらに、高収率で合成されたピリジン化合物を、ピリジン化合物に対するハンセン溶解度パラメータが5J
1/2/cm
3/2以上9J
1/2/cm
3/2以下である有機溶媒に溶解させれば、有機溶媒から効率よくピリジン化合物を再結晶できることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、ピリジン化合物の製造方法は、モノマーとアルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体とを反応溶媒中で反応させて下記一般式(I)に示すピリジン化合物を合成する合成工程と、合成された前記ピリジン化合物を含む反応液に残存する前記アルカリ金属を失活させる失活工程と、前記アルカリ金属が失活した前記反応液に、前記ピリジン化合物に対するハンセン溶解度パラメータが5J
1/2/cm
3/2以上9J
1/2/cm
3/2以下である有機溶媒を添加して前記ピリジン化合物を溶解させる溶解工程と、前記ピリジン化合物を含む前記有機溶媒を冷却して前記ピリジン化合物を再結晶させる再結晶工程と、を備えた点にある。
【化1】
〔式中、R
aは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有してもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有していてもよいアリールアルキルチオ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、又はシアノ基を示し、
Aは、炭化水素環又は複素環を示し、
R
bは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有してもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有していてもよいアリールアルキルチオ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基又はシアノ基を示し、
mは0〜4を示し、mが2〜4のときR
aは同一でも異なっていてもよく、
nは0以上の整数を示し、nが2以上の整数のときR
bは同一でも異なっていてもよい。〕
【0009】
本方法では、アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体を用いているので、従来のように高価なパラジウム触媒を用いることなく、少ない工数で安価にピリジン化合物を合成することが可能となる。しかも、ピリジン化合物を収率良く高純度に合成することができる。
【0010】
一方、アルカリ金属を失活させた反応液には、分散溶媒などの不純物が混入している。本方法のように、ピリジン化合物に対するハンセン溶解度パラメータが5J
1/2/cm
3/2以上9J
1/2/cm
3/2以下である有機溶媒を用いて再結晶工程で冷却すれば、この有機溶媒からピリジン化合物のみを容易に再結晶させることができる。これは、極性の高いアルコールなどに比べ、ピリジン化合物に対するハンセン溶解度パラメータが上記範囲にある有機溶媒は、ピリジン化合物を溶解し易く分離させ易いからである。この方法では蒸留処理を必要としないため、多大な手間がかからず、ピリジン化合物を簡単に分離することができる。このように、製造工数を削減しつつ安価な方法で合成されたピリジン化合物を効率よく回収できる製造方法を提供できた。
【0011】
他の製造方法は、前記溶解工程の前に、前記アルカリ金属が失活した前記反応液を加熱して前記反応溶媒を蒸発させる蒸発工程を備えた点にある。
【0012】
例えば、反応溶媒としてテトラヒドロフランのようなピリジン化合物に対するハンセン溶解度パラメータが非常に小さい有機溶媒を用いた場合、ピリジン化合物が溶解し易いが、溶解度が高すぎるため再結晶工程で反応溶媒からピリジン化合物を回収するのが困難となる。その結果、取り出し収率の低下を招いてしまう。しかしながら、本方法のように、予め反応溶媒を蒸発させることで、溶解工程において、ピリジン化合物に対するハンセン溶解度パラメータが5J
1/2/cm
3/2以上9J
1/2/cm
3/2以下である有機溶媒に全てのピリジン化合物を溶解させることが可能となる。よって、ピリジン化合物の取り出し収率を高めることができる。
【0013】
他の製造方法は、前記蒸発工程で蒸発した前記反応溶媒を冷却して、前記合成工程における前記反応溶媒として再利用する点にある。
【0014】
本方法によれば、合成工程で使用された反応溶媒が液体として再利用される。その結果、比較的多量に必要な反応溶媒を無駄に廃棄する必要がなく、製造コストを低減することができる。
【0015】
他の製造方法は、前記溶解工程の前に、前記溶解工程で使用される溶解槽に水を添加して洗浄する洗浄工程を備えた点にある。
【0016】
本方法によれば、溶解槽に付着したピリジン化合物や他の不純物を水で洗浄するので、合成されたピリジン化合物を無駄なく再結晶させることができる。
【0017】
他の製造方法は、前記失活工程は、前記反応液に水を添加して前記アルカリ金属を失活させ、前記失活工程の後で、且つ前記溶解工程の前に、前記アルカリ金属が失活した前記反応液を濾過して前記ピリジン化合物を含む有機層を析出させる析出工程を備え、前記溶解工程は、前記有機層に前記有機溶媒を添加して前記ピリジン化合物を溶解させる点にある。
【0018】
例えば、反応溶媒としてテトラヒドロフランを用いた場合、この反応溶媒は水に溶解する。このため、本方法の析出工程では、反応溶媒を濾液側に分離した状態でピリジン化合物を含む有機層が析出する。その結果、ピリジン化合物の回収に悪影響を及ぼす反応溶媒を蒸発させる工程などを省略することが可能となり、製造工程を簡略化できる。
【0019】
他の製造方法は、前記再結晶工程は、前記ピリジン化合物を含む前記有機溶媒を加熱して濃縮する濃縮工程と、前記濃縮工程の後に前記ピリジン化合物を含む前記有機溶媒を冷却する冷却工程と、前記冷却工程の後に前記ピリジン化合物を濾過して回収する濾過工程とを有する点にある。
【0020】
本方法のように有機溶媒を適量蒸発させて濃縮すれば、ピリジン化合物の濃度が高まるので、冷却工程におけるピリジン化合物の再結晶を促進することができる。よって、濾過工程におけるピリジン化合物の取り出し収率を高めることができる。
【0021】
他の製造方法は、前記濾過工程で生じた前記ピリジン化合物が残存する濾液を加熱して濃縮する第二濃縮工程と、前記第二濃縮工程の後に前記濾液を冷却する第二冷却工程と、前記第二冷却工程の後に前記ピリジン化合物を濾過して回収する第二濾過工程とを有する第二再結晶工程を備えた点にある。
【0022】
濾過工程で生じた濾液には、冷却工程で再結晶されなかったピリジン化合物が残存することがある。本方法のように、再結晶工程で発生した濾液からピリジン化合物を再度回収すれば、ピリジン化合物の取り出し収率をさらに高めることができる。
【0023】
他の製造方法は、前記第二濾過工程で回収された前記ピリジン化合物を、前記再結晶工程の前記有機溶媒に混合させる点にある。
【0024】
第二濃縮工程で有機溶媒を再度濃縮するため、アルカリ金属の分散溶媒としての絶縁油などがピリジン化合物の表面に付着していることがある。本方法のように、第二濾過工程で回収されたピリジン化合物を再度1回目の再結晶工程の有機溶媒に混合することで、ピリジン化合物から絶縁油を分離させることが可能となる。よって、ピリジン化合物の純度をさらに高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係るピリジン化合物の製造方法の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、後述する実施形態に限定されるものではない。
【0027】
[ピリジン化合物の合成]
図1に示すように、本実施形態に係るピリジン化合物の製造方法は、モノマーとアルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体とを反応溶媒中で反応させて下記一般式(I)に示すピリジン化合物を合成する合成工程と、合成されたピリジン化合物を含む反応液に残存するアルカリ金属を失活させる失活工程と、を備えている。これら合成工程と失活工程とは、撹拌下において同一の反応槽10で実行される。なお、合成工程と失活工程とは別々の槽で実行しても良いし、反応槽10の撹拌を省略しても良く、特に限定されない。
【0028】
ピリジン化合物は、置換基を有してもよいピリジン環を含み、ピリジン環には、ピリジン環とは別個の、置換基を有してもよい炭化水素環又は置換基を有してもよい複素環が結合している化合物である。ピリジン環と炭化水素環又は複素環は、ピリジン環上の炭素と炭化水素環又は複素環の炭素が、炭素−炭素結合により結合している限り、何れの位置で結合していてもよい。具体的には、ピリジン化合物は、下記一般式(I)に示す化合物である。
【0029】
【化2】
〔式中、R
aは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有してもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有していてもよいアリールアルキルチオ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基又はシアノ基を示し、
Aは、炭化水素環又は複素環を示し、
R
bは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有してもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有していてもよいアリールアルキルチオ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基又はシアノ基を示し、
mは0〜4を示し、mが2〜4のときR
aは同一でも異なっていてもよく、
nは0以上の整数を示し、nが2以上の整数のときR
bは同一でも異なっていてもよい。〕
【0030】
R
aは、ピリジン環上の水素原子と置き換わって導入された原子又は原子団である。R
aはピリジン環の何れの位置に導入されていてもよく、複数の位置に導入されていてもよい。R
aが導入される位置は、ピリジン環上の水素原子と結合している炭素であり、R
aは最大で4個を導入することができる。複数の位置に導入される場合には、R
aは同一であっても、異なっていてもよい。また、R
aは導入されていなくてもよい。R
aは、例えば、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有してもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有していてもよいアリールアルキルチオ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基又はシアノ基である。ここで、置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基又はシアノ基である。R
aは、好ましくは、低級のアルキル基であり、アルキル基は直鎖及び分枝の別を問わず、特に好ましくはt-ブチル基である。
【0031】
Aは、炭化水素環又は複素環であり、好ましくは芳香族環である。炭化水素環は、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等であり、複素環は、例えば、含窒素複素環であるピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピロール環、ピラゾール環、含硫黄複素環であるチオフェン環、含酸素複素環であるフラン環等である。好ましくは、ベンゼン環又はピリジン環である。
【0032】
R
bは、Aの炭化水素環又は複素環上の炭素と結合している水素原子と置き換わって導入された原子又は原子団である。R
bはAの何れの位置に導入されていてもよく、複数の位置に導入されていてもよい。R
bが導入される位置は、Aの炭化水素環又は複素環上の水素原子と結合している炭素であり、R
bは最大で当該炭素に結合している水素原子の数を導入することができる。複数の位置に導入される場合には、R
bは同一であっても、異なっていてもよい。また、R
bは導入されていなくてもよい。R
bは、例えば、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有してもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有していてもよいアリールアルキルチオ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基又はシアノ基である。ここで、置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基又はシアノ基である。R
bは、好ましくは、低級のアルキル基であり、アルキル基は直鎖及び分枝の別を問わず、特に好ましくはt-ブチル基である。
【0033】
ピリジン化合物の好適例として、ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジン化合物、特には4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジンが挙げられる。また、ジメチル-2,2'-ビピリジン、2,2'-ビピリジン、4,4'-ビピリジン、2,4'-ビピリジン、2,3'-ビピリジン、3,3'-ビピリジン、3,4'-ビピリジンのビピリジン化合物も好ましく例示される。
【0034】
ここで、出発物質としてのモノマーは、置換基を有してもよいピリジン環を含む化合物と、置換基を有してもよい炭化水素環又は置換基を有してもよい複素環を含む化合物との組み合わせが用いられる。
【0035】
置換基を有してもよいピリジン環を含む化合物は、下記一般式(II)又は(III)に示す化合物である。
【化3】
〔式中、R
cは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有してもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有していてもよいアリールアルキルチオ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、又はシアノ基を示し、oは0〜4を示し、oが2〜4のときR
cは同一でも異なっていてもよい。〕
【化4】
〔式中、R
dは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有してもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有していてもよいアリールアルキルチオ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基又はシアノ基を示し、X
aはハロゲン原子を示し、pは0〜4を示し、pが2〜4のときR
dは同一でも異なっていてもよい。〕
【0036】
R
c及びR
dは、ピリジン化合物のR
aに相当する。X
aは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子である。X
aは、ピリジン化合物の合成反応において、置換基を有してもよい炭化水素環又は置換基を有してもよい複素環を含む化合物と置き換えられる。
【0037】
置換基を有してもよいピリジン環を含む化合物は、tert-ブチルピリジン化合物、ハロゲン化メチルピリジン化合物もしくはハロゲン化メチルピリジン化合物とハロゲン化ベンゼン化合物との混合物であること好ましく、特に4-tert-ブチルピリジンであることが好ましい。また、置換基を有しないピリジンを好ましく利用することができる。
【0038】
置換基を有してもよい炭化水素環又は置換基を有してもよい複素環を含む化合物は、下記一般式(IV)又は一般式(V)に示す化合物である。
【化5】
〔式中、Bは、炭化水素環又は複素環を示し、R
eは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有してもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有していてもよいアリールアルキルチオ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基又はシアノ基を示し、qは0以上の整数を示し、qが2以上の整数のときR
eは同一でも異なっていてもよい。〕
【化6】
〔式中、Bは、炭化水素環又は複素環を示し、R
fは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有してもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有していてもよいアリールアルキルチオ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基又はシアノ基を示し、X
bはハロゲン原子を示し、rは0以上の整数を示し、rが2以上の整数のときR
fは同一でも異なっていてもよい。〕
【0039】
Bはピリジン化合物のAに相当し、R
e及びR
fはピリジン化合物のR
bに相当する。X
bは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子である。X
bは、ピリジン化合物の合成反応において、置換基を有してもよいピリジン環と置き換えられる。
【0040】
置換基を有してもよい炭化水素環又は置換基を有してもよい複素環を有する化合物は、tert-ブチルピリジン化合物、ハロゲン化メチルピリジン化合物もしくはハロゲン化メチルピリジン化合物とハロゲン化ベンゼン化合物との混合物であること好ましく、また、置換基を有しないピリジンを好ましく利用することができる。特に4-tert-ブチルピリジン、ピリジン、2-クロロ-4-メチルピリジンもしくは2-クロロ-4-メチルピリジンとハロゲン化ベンゼンとの混合物であることが好ましい。また、置換基を有しないピリジンを好ましく利用することができる。
【0041】
なお、ピリジン化合物の合成反応に際して、モノマー中に反応性の高い官能基が含まれる場合には、当該官能基を適当な保護基で保護することが好ましく、保護した官能基は反応終了後、適当な手段により脱保護する。
【0042】
アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体は、アルカリ金属を微粒子として不溶性溶媒に分散させたもの、又はアルカリ金属を液体の状態で不溶性溶媒に分散させたものである。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウムやこれらの合金などが挙げられる。微粒子の平均粒子径として、好ましくは、10μm未満であり、特に好ましくは、5μm未満のものを使用することができる。平均粒子径は、顕微鏡写真の画像解析によって得られた投影面積と同等の投影面積を有する球の径で表した。
【0043】
分散溶媒としては、アルカリ金属を微粒子として分散、又はアルカリ金属を液体の状態で不溶性溶媒に分散でき、かつモノマーとアルカリ金属の分散体との反応を阻害しない限り、当該技術分野で公知の溶媒を使用することができる。例えば、キシレン、トルエン等の芳香族系溶媒や、デカン等のノルマルパラフィン系溶媒、又はそれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0044】
以下、アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体につき、「SD」と略する場合がある。SDは、Sodium Dispersionの略号であり、下記で説明する実施例ではアルカリ金属としてナトリウムを用いるため当該分散体にSDの符号を付している。しかしながら、SDの符号がナトリウム以外のアルカリ金属を除外するものではない。
【0045】
反応溶媒としては、モノマーとSDとの反応を阻害しない限り、当該技術分野で公知の溶媒を使用することができる。例えば、エーテル系溶媒、ノルマルパラフィン系溶媒、芳香族系溶媒、アミン系溶媒、複素環化合物溶媒を使用することができる。エーテル系溶媒としては、環状エーテル溶媒が好ましく、テトラヒドロフラン(以下、「THF」と略する場合がある。)が特に好ましい。ノルマルパラフィン系溶媒としては、ノルマルデカン等が特に好ましい。芳香族系溶媒としては、キシレンやトルエン等、アミン系溶媒としては、エチレンジアミン等を好ましく使用することができる。複素環化合物溶媒としては、テトラヒドロチオフェン等を利用することができる。また、それらの混合溶媒を使用することもできる。ここで、前述の分散溶媒と反応溶媒とは同一の種類のものを用いてもよいし、異なる種類のものを用いてもよい。
【0046】
反応後に残存するアルカリ金属を失活させる失活工程で用いる失活液は、アルコール又は水が用いられる。用いられるアルコールとしては、イソプロピルアルコール、メタノールやエタノールなどの低級アルコールが好ましいが、高級アルコールでも良く特に限定されない。一方、水を用いた場合は、アルゴンガスや窒素ガスなどを充填した不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。なお、ピリジン化合物の合成にSDを用いた場合、ナトリウムが水素化されて安定しているので、水を用いた場合に空気環境下で失活工程を実行しても良い。また、アルコールを用いた場合に、不活性ガス雰囲気下で失活工程を実行しても良く、特に限定されない。
【0047】
以下、合成されるピリジン化合物の一例として、下記一般式(VI)に示すジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジン化合物について以下に説明する。
【化7】
〔式中、R
1及びR
2は、独立的にtert-ブチル基である。ここで、R
1は、1位、2位、3位、4位のうち何れか一箇所に導入され、その他の位置には水素基が導入されている。また、R
2は、1'位、2'位、3'位、4'位の何れか一箇所に導入され、その他の位置には水素基が導入されている。〕
【0048】
反応溶媒中で、tert-ブチルピリジン化合物とSDとを反応させて、下記一般式(VII)に示す反応生成物aを得る。続いて、下記一般式(VII)に示す反応生成物aを水素供与体と反応させて水素の供与を受け下記一般式(VIII)に示す反応生成物bを得て、これを空気酸化することにより目的とするジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジン化合物を合成するものである。
【化8】
【化9】
〔ここで、一般式(VII)及び(VIII)中において、R
1及びR
2は、独立的にtert-ブチル基である。ここで、R
1は、1位、2位、3位、4位のうち何れか一箇所に導入され、その他の位置には水素基が導入されている。また、R
2は、1'位、2'位、3'位、4'位の何れか一箇所に導入され、その他の位置には水素基が導入されている。〕
【0049】
tert-ブチルピリジン化合物としては、2-tert-ブチルピリジン、3-tert-ブチルピリジン、4-tert-ブチルピリジンを使用することができる。好ましくは、4-tert-ブチルピリジンである。これらtert-ブチルピリジン化合物は、市販されているものを用いてもよいし、当該技術分野で公知の方法に準じて製造したものを用いてもよい。
【0050】
水素供与体としては、酸化還元反応によりtert-ブチルピリジン化合物とSDとの反応により形成された一般式(VII)に示す反応生成物aに水素を与え、自身は脱水素される物質である限り、当該技術分野で公知の物質を使用することができる。例えば、水やアルコール類を使用することができる。アルコール類としては、好ましくは炭素数1〜6程度の低級アルコールを使用でき、tert-ブタノール等が例示される。
【0051】
(合成工程の詳細)
以下に、本実施形態に係るジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジン化合物の合成工程の詳細について説明する。まず、反応溶媒中で、tert-ブチルピリジン化合物とアルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体とを反応させて、一般式(VII)に示す反応生成物aを得る。かかる反応における、反応温度は、特に限定するものではなく、室温で行うことができ、好ましくは25〜50℃である。したがって、加熱や冷却などのための温度制御手段を設ける必要はない。なお、必要に応じて、温度制御手段を設けても良く、特に限定されない。
【0052】
反応時間についても、特に限定されず、反応温度、反応試薬の種類や量に応じて適宜設定すればよい。通常は、1〜24時間、好ましくは1〜6時間で行われる。反応時間を延ばしても目的とするジ-tert-ブチル2,2'-ビピリジン化合物の収率は向上せず、原料であるtert-ブチルピリジン化合物の回収率が低下し物質収支が悪化する。したがって、長時間の反応は収率及び原料再利用の観点から好ましくない。
【0053】
続いて、一般式(VII)に示す反応生成物aを水素供与体と反応させて水素の供与を受け一般式(VIII)に示す反応生成物bを得る。水素供与体との反応は、アルゴンガスや窒素ガスなどを充填した反応槽内等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0054】
また、水素供与体との反応は、tert-ブチルピリジン化合物とSDとの反応後に、一般式(VII)に示す反応生成物aを単離せず、SDとの反応混合物に水素供与体を反応させてよいし、一般式(VII)に示す反応生成物aを一旦、単離、抽出、濃縮等の操作を行った後に、水素供与体を反応させてもよい。したがって、水素供与体は、tert-ブチルピリジン化合物とSDとの反応前に予め溶媒中に含ませて同一溶液として調製しても良いし、SDとの反応中、及び反応後に添加することもできる。なお、水素供与体を添加するタイミングは、tert-ブチルピリジン化合物及びSDの反応前と反応後との両方に設定するなど、適宜組み合わせても良い。
【0055】
予め溶媒中に水素供与体を含ませる場合には、水素供与体を添加する工程を別途設ける必要がなく、合成工程をさらに簡素化することができ、製造コストの低減を図ることができる。一方、SDとの反応後に、生成した一般式(VII)に示す反応生成物aに水素供与体を反応させることにより、ピリジン環の二量化、水素供与体からの水素の受け取りが、順次円滑に進行し、目的とするジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジン化合物を高収率かつ高純度に合成することが可能となるという利点がある。
【0056】
最後に、一般式(VIII)に示す反応生成物bを酸化することにより目的とするジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジン化合物を得ることができる。かかる酸化反応は、当該技術分野で公知の方法で行うことができ、空気酸化や酸化剤を使用することができるが、好ましくは反応槽10を大気開放し空気酸化により行う。
【0057】
このようにして、得られるジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジン化合物は、好ましくは、3,3'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジン、4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジン、5,5'-ジ-tert-ブチル-2, 2'-ビピリジンであり、特に好ましくは、4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジンである。
【0058】
以下、4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジンの合成を例示してさらに詳細に説明するが、これに限定されるものではない。
【0059】
下記反応スキーム(I)に4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジンの合成スキームを示す。かかる反応は、反応溶媒としてTHFを、SDとして金属ナトリウムの分散体を利用したものである。
【化10】
【0060】
THF中で出発化合物である4-tert-ブチルピリジン化合物にSDと反応させると、金属ナトリウムから電子が放出される。金属ナトリウムから放出された電子がピリジン環に入り、ラジカルアニオンが発生する。ラジカルアニオンのカップリング反応によりピリジン環同士が結合し、ビピリジン環を生成する。続いて、水素供与体からビピリジン環の窒素原子が水素を受け取って4,4'-ジ-tert-ブチル-1,1',2,2'-テトラヒドロ-2,2'-ビピリジンを生成する。これを酸化することにより、目的とする4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジン化合物が得られる。4,4'-ジ-tert-ブチル-1,1',2,2'-テトラヒドロ-2,2'-ビピリジンの酸化は、純酸素や空気等の酸素を含む気体、及びオゾンを用いて酸化させれば良く、また、硝酸等の酸化剤を用いて行っても良い。
【0061】
(実施例)
以下の実施例において、4-tert-ブチルピリジンを出発物質として、SDとしての金属ナトリウムを微粒子として不溶性溶媒に分散させた分散体及び反応溶媒としてのTHFを使用して4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジンを合成する例を挙げるが、これに限定されるものではない。
【0062】
4-tert-ブチルピリジン(0.5mmol)と
図2に示す4-tert-ブチルピリジンに対するモル当量のSDをTHF中で反応させた。THFの使用量、反応温度及び反応時間は、
図2の通りに設定した。SDとしては、ノルマルパラフィン油に分散させたナトリウムの分散体を使用した。また、4-tert-ブチルピリジンに対するモル当量とは、SD中に含まれる金属ナトリウム換算での物質量比である。続いて、水素供与体として水を多量に添加し、4-tert-ブチルピリジンとSDとの反応生成物に水素を供与すると共に、発熱を抑制しつつSD中の金属ナトリウムを失活させた。金属ナトリウムの失活後、空気酸化により目的生成物である4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジンを得た。
【0063】
反応後、目的反応生成物である4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジン(化合物2)の生成量を1H NMRで測定し、反応系に添加した4-tert-ブチルピリジン量に基づいて収率を算出した。また、同時に副反応生成物として考えられる4-tert-ブチル-1,4-ジヒドロピリジン(化合物1)及び4,4',4''-トリ-tert-ブチル-2,2':6',2''-ターピリジン(化合物3)についても同様に収率を算出した。
【0064】
ここで、収率は、反応系に添加した4-tert-ブチルピリジンを最大限用いて理論的に生成することができる4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジンに対する、実際に取得できた4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジンの割合を示す。4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジンは、4-tert-ブチルピリジンの二量体であることから、0.5mmolの4-tert-ブチルピリジンに対して、0.25 mmolの4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジンを取得できれば、収率は100%となる。
【0065】
また、反応系に未反応のまま残存した4-tert-ブチルピリジン量を測定し、当該反応系に添加した4-tert-ブチルピリジンに対する、未反応の4-tert-ブチルピリジンの割合を回収率とした。
【0066】
結果を
図2に要約する。この結果から、2〜4mlのTHF中では、4-tert-ブチルピリジン(0.5mmol)に対して、1〜2モル当量のSDを25〜50℃で1〜24時間反応させることにより、何れも高い収率で4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジン化合物を取得することができた。特に、2mlのTHF中では、0.5mmolの4-tert-ブチルピリジンに対して、1モル当量のSDを50℃で1〜6時間反応させることにより、反応副生成物を生じることなく、高い収率で4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジン化合物を取得することができた。
【0067】
[ピリジン化合物の精製]
図1に示すように、本実施形態に係るピリジン化合物の製造方法は、アルカリ金属が失活した反応液に、ピリジン化合物に対するハンセン(Hansen)溶解度パラメータδが5J
1/2/cm
3/2以上9J
1/2/cm
3/2以下である有機溶媒を添加してピリジン化合物を溶解させる溶解工程と、ピリジン化合物を含む有機溶媒を冷却してピリジン化合物を再結晶させる再結晶工程と、をさらに備えている。
以下、特に記載がない限り、精製の対象となるピリジン化合物は「4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジン」を意味するものとする。
【0068】
ここで、ピリジン化合物に対するハンセン溶解度パラメータδとは、式(1)を用いて算出されるピリジン化合物と有機溶媒との間の溶解度パラメータのことである。このハンセン溶解度パラメータδはピリジン化合物の溶解度を示し、数値が小さいほど有機溶媒にピリジン化合物が溶解し易い。ハンセン溶解度パラメータδが5J
1/2/cm
3/2未満であると、有機溶媒の溶解度が高すぎて、後の再結晶工程でピリジン化合物を分離させるのが困難となる。一方、ハンセン溶解度パラメータδが9J
1/2/cm
3/2より大きい場合、溶解工程でピリジン化合物を十分溶解させることができない。
δ
2=4(δ
d1-δ
d2)
2+(δ
p1-δ
p2)
2+(δ
h1-δ
h2)
2 ・・・式(1)
δ
d:分子間の分散力によるエネルギー
δ
p:分子間の双極子相互作用によるエネルギー
δ
h:分子間の水素結合によるエネルギー
【0069】
例えば、
4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジンはδ
d1=15.6, δ
p1=4.1, δ
h1=6.0と算出され、溶解工程で用いる有機溶媒としてヘキサンを用いた場合、δ
d2=14.9, δ
p2=0, δ
h2=0と算出される。その結果、ヘキサンの
4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジンに対するハンセン溶解度パラメータδは、7.4 J
1/2/cm
3/2と算出される。
【0070】
上述したように反応槽10において合成工程及び失活工程を経て合成されたピリジン化合物を含む反応液が、ポンプなどで溶解槽20に送られる。ここで、分散溶媒としてノルマルパラフィン油(以下、「SD溶媒」と言う。)、反応溶媒としてTHF、及び失活液としてエタノールを用いた場合、反応液にはSD溶媒,THF,エタノール,金属アルコキシド,水酸化ナトリウム,未反応のモノマー,合成されたピリジン化合物が主に含まれている。
【0071】
溶解槽20に送られた反応液を、加熱部22によって、減圧下で所定時間(例えば10〜20分)加熱(例えば80℃)し、THF(沸点約66℃)及びエタノール(沸点約78℃)を蒸発させる。つまり、本実施形態では、溶解工程の前に、アルカリ金属が失活した反応液を加熱して反応溶媒を蒸発させる蒸発工程を備えていても良い。この蒸発工程を備えることで、溶解工程において、ピリジン化合物に対するハンセン溶解度パラメータδが非常に小さいTHF(δ=4.2 J
1/2/cm
3/2)にピリジン化合物を溶解させることなく、上記有機溶媒にピリジン化合物を確実に溶解させることができる。なお、蒸発工程において減圧せずに大気圧のままで加熱しても良く、特に限定されない。
【0072】
次いで、蒸発したTHF及びエタノールを冷却器21で冷却して液体にした後、双方の沸点差を利用して蒸留処理を行い、THFを合成工程の反応溶媒として再利用する。これによって、比較的多量に用いられる反応溶媒を無駄にせず、製造コストを削減できる。なお、蒸発したTHF及びエタノールを廃棄しても良く、モレキュラーシーブ等を用いてアルコールのみを吸着除去しても良い。また、失活液として用いるアルコールは、THFを蒸留処理し易いように、THFとの沸点差が大きいものを用いるのが好ましく、吸着処理するのであれば、エタノールやメタノールのように対応するモレキュラーシーブを容易に入手できるものを選ぶことが好ましい。
【0073】
次いで、溶解槽20に撹拌下で水を添加して、溶解槽20の壁面に付着したピリジン化合物や金属アルコキシドなどを洗い流す。つまり、本実施形態では、溶解工程の前に、溶解槽20に水を添加して洗浄する洗浄工程を備えていても良い。なお、洗浄工程を、上述した蒸発工程の前に行っても良く、特に限定されない。
【0074】
次いで、撹拌下で反応液にピリジン化合物に対するハンセン溶解度パラメータδが5J
1/2/cm
3/2以上9J
1/2/cm
3/2以下である有機溶媒を添加し、加熱部22でこの有機溶媒が蒸発しない程度に加熱してピリジン化合物を溶解させる。この有機溶媒としては、ヘキサン(沸点約69℃)、へプタン(沸点約98℃)やオクタン(沸点約125℃)などのノルマルパラフィン系の有機溶媒やアセトン(δ=6.4 J
1/2/cm
3/2)など(以下、「ノルマルパラフィン系の有機溶媒等」と言う。)が用いられ、特に、後述する濃縮工程において低温加熱で蒸発させ易いヘキサンが好ましい。また、SDに用いられる分散溶媒と沸点差のあるノルマルパラフィン系の有機溶媒等を用いることが好ましい。これは、ヘキサンを蒸発させて再利用する際に、分散溶媒が混入しないようにするためである。なお、洗浄工程で用いられる水の代わりに、溶解工程で用いられる有機溶媒を吹き出しノズルで噴射させて、壁面を洗浄しても良い。
【0075】
これら蒸発工程,洗浄工程,溶解工程は、同一の溶解槽20で実行したが、適宜組み合わせた工程又は単独工程ごとに別々の槽で実行しても良い。また、失活液として水を用いる場合は、反応槽10において洗浄工程を実行しても良い。なお、失活液として水を用いた場合は、金属アルコキシドの代わりに水酸化ナトリウムが生成されることとなる。
【0076】
溶解工程でノルマルパラフィン系の有機溶媒等としてのヘキサンに溶解されたピリジン化合物が含まれる反応液は、分液槽30にポンプなどで送られる。ここで、反応液には、SD溶媒,金属アルコキシド,水酸化ナトリウム,未反応のモノマー,ヘキサン,ピリジン化合物が含まれている。
【0077】
次いで、分液槽30に水を添加して、有機層と水層とに液液分離する。つまり、本実施形態では、溶解工程の後に、反応液に水を添加して分液処理する分液工程を備えている。その結果、金属アルコキシドがアルコールと水酸化ナトリウムとに分解され、水,水酸化ナトリウム,及び微量のアルコールで構成される水層と、SD溶媒,未反応のモノマー,ヘキサン,微量のアルコール,及びピリジン化合物で構成される有機層とに液液分離する。この分液処理にあたって、分液槽30を撹拌させても良いし、分液槽30を振盪させても良い。また、有機層に含まれる微量のアルコールを除去するために、水及びアルコールを吸着除去するモレキュラーシーブを用いても良い。なお、失活液として水を用いる場合は、アルコールが発生しないので、有機層がSD溶媒,未反応のモノマー,ヘキサン,及びピリジン化合物で構成されることとなる。
【0078】
次いで、この有機層はピリジン化合物を再結晶させる再結晶工程に送られる。このとき、有機層には、ヘキサンにSD溶媒と未反応のモノマーとピリジン化合物とが溶解している。再結晶工程は、ピリジン化合物を含むヘキサンを加熱して濃縮する濃縮工程と、濃縮工程の後にピリジン化合物を含むヘキサンを冷却する冷却工程と、冷却工程の後にピリジン化合物を濾過して回収する濾過工程とを有している。
【0079】
有機層は、まず濃縮槽4に送られ、加熱部42によって、減圧下で所定時間(例えば10〜20分)加熱(例えば60℃)される。その結果、ヘキサンが濃縮される。この濃縮工程は、撹拌下で有機層を流動させながら実行するのが好ましい。特に、不連続な多段傾斜パドル翼を有するPVミキサーで撹拌すれば、ピリジン化合物の濃度が均等化されるので好ましい。なお、溶解槽20で添加するヘキサンを、ピリジン化合物を再結晶させるために必要な最小限の量に設定した場合は、濃縮工程を省略しても良い。また、分液槽30と濃縮槽4とを同一の槽としても良いし、減圧せずに大気圧で加熱しても良く、特に限定されない。
【0080】
濃縮工程で蒸発したヘキサンを、冷却器41で冷却して液体とした後、溶解工程で使用されるノルマルパラフィン系の有機溶媒等として再利用しても良い。これによって、比較的多量に必要な有機溶媒を節約して、製造コストを低減することができる。なお、ヘキサンを廃棄処分しても良く、特に限定されない。
【0081】
次いで、濃縮槽4で濃縮された有機層は、ポンプなどで冷却槽5に送られ、所定時間冷却(例えば0℃〜5℃)される。このとき、濃縮工程を経た有機層に含まれるピリジン化合物は、飽和溶解度を超えた分量だけ再結晶される。一方、SD溶媒と未反応のモノマーとは、ヘキサンに溶解したままである。
【0082】
次いで、濾過部6に送られた有機層は、固体のピリジン化合物と、濾液としてのヘキサンとに分別される。これによって、他の不純物が含まれないピリジン化合物のみを効率よく回収することができる。一方、濾液には再結晶されずに残存するピリジン化合物が含まれていることがある。
【0083】
そこで、本実施形態では、
図3に示すように、再結晶工程の後に、第二再結晶工程をさらに備えていても良い。この第二再結晶工程は、濾過工程で生じたピリジン化合物が残存する濾液を加熱して濃縮する第二濃縮工程と、第二濃縮工程の後に濾液を冷却する第二冷却工程と、第二冷却工程の後にピリジン化合物を濾過して回収する第二濾過工程とを有している。
【0084】
濾過工程で発生した濾液を、ポンプなどで第二濃縮槽7に送り出す。この第二濃縮槽7では、上述した濃縮槽4と同様に、濾液が、減圧下で所定時間(例えば10〜20分)加熱(例えば80℃)される。その結果、ヘキサンがさらに濃縮される。この第二濃縮工程は、撹拌下で有機層を流動させながら実行するのが好ましい。特に、不連続な多段傾斜パドル翼を有するPVミキサーで撹拌すれば、ピリジン化合物の濃度が均等化されるので好ましい。なお、減圧せずに大気圧で加熱しても良く、特に限定されない。
【0085】
第二濃縮工程で蒸発したヘキサンを、冷却器71で冷却して液体とした後、溶解工程で使用されるノルマルパラフィン系の有機溶媒等として再利用しても良い。これによって、比較的多量に必要な有機溶媒を節約して、製造コストを低減することができる。なお、ヘキサンを廃棄処分しても良く、特に限定されない。
【0086】
次いで、第二濃縮槽7で濃縮された濾液は、ポンプなどで第二冷却槽8に送られ、所定時間冷却(例えば0℃〜5℃)される。このとき、第二濃縮工程を経た濾液に含まれるピリジン化合物は、飽和溶解度を超えた分量だけさらに再結晶される。一方、SD溶媒と未反応のモノマーとは、ヘキサンに溶解したままである。
【0087】
次いで、第二濾過部9に送られた濾液は、固体のピリジン化合物と、濾液としてのヘキサンとに分別され、固体のピリジン化合物を回収すると共に、濾液を廃棄処分する。これによって、ピリジン化合物の取り出し収率をさらに向上させることができる。一方、再濃縮した濾液には高濃度のSD溶媒が含まれるため、ピリジン化合物の表面にこの油が付着するおそれがある。そこで、第二濾過工程で回収されたピリジン化合物を、冷却槽5の有機溶媒に混合させても良い。その結果、ピリジン化合物からSD溶媒を分離させることが可能となり、純度を高めることができる。なお、第二濾過工程で回収されたピリジン化合物を、溶解槽20又は濃縮槽4の有機溶媒に混合させても良く、特に限定されない。
【0088】
[本実施形態の作用・効果]
上述した実施形態では、アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体を用いているので、従来のように高価なパラジウム触媒を用いることなく、少ない工数で安価にピリジン化合物を合成することが可能となる。しかも、ピリジン化合物を収率良く高純度に合成することができる。
【0089】
また、ピリジン化合物に対するハンセン溶解度パラメータδが5J
1/2/cm
3/2以上9J
1/2/cm
3/2以下である有機溶媒を用いているので、この有機溶媒からピリジン化合物を容易に再結晶させることができる。これは、極性の高いアルコールなどに比べ、ピリジン化合物に対するハンセン溶解度パラメータδが上記範囲にある有機溶媒は、ピリジン化合物を溶解し易く分離させ易いからである。しかも、各種有機物の沸点差を利用して蒸発、凝縮させる蒸留処理ではなく、有機溶媒に溶解したピリジン化合物を冷却によって再結晶させているので、多大な手間がかからず、ピリジン化合物を簡単に分離することができる。
【0090】
一方、反応溶媒としてテトラヒドロフランのようなピリジン化合物に対するハンセン溶解度パラメータδが非常に小さい有機溶媒を用いた場合、ピリジン化合物が溶解し易いが、溶解度が高すぎるため再結晶工程で反応溶媒からピリジン化合物を回収するのが困難である。また、テトラヒドロフランは水に溶解するので、ピリジン化合物が水層に移動するおそれがある。その結果、取り出し収率の低下を招いてしまう。しかしながら、上述した実施形態のように、予め反応溶媒を蒸発させる蒸発工程を備えることで、溶解工程においてノルマルパラフィン系の有機溶媒等に全てのピリジン化合物を溶解させることが可能となる。よって、ピリジン化合物の取り出し収率を高めることができる。
【0091】
合成工程で使用された反応溶媒を再利用しているので、比較的多量に必要な反応溶媒を無駄に廃棄する必要がなく、製造コストを低減することができる。
【0092】
洗浄工程を備えることで、溶解槽20に付着したピリジン化合物や他の不純物を水で洗浄するので、合成されたピリジン化合物を無駄なく再結晶することができる。
【0093】
濃縮工程を備えることで、冷却工程におけるピリジン化合物の再結晶を促進することができる。よって、濾過工程におけるピリジン化合物の取り出し収率を高めることができる。
【0094】
第二再結晶工程を備えることで、再結晶工程で発生した濾液からピリジン化合物を再度回収して、ピリジン化合物の取り出し収率をさらに高めることができる。
【0095】
一方、第二濃縮工程で有機溶媒を再度濃縮するため、アルカリ金属の分散溶媒としてのSD溶媒などがピリジン化合物の表面に付着していることがある。このため、第二濾過工程で回収されたピリジン化合物を再度1回目の再結晶工程の有機溶媒に混合することで、ピリジン化合物からSD溶媒を分離させることが可能となる。よって、ピリジン化合物の純度をさらに高めることができる。
【0096】
[別実施形態]
図4には、別実施形態にかかるピリジン化合物の製造方法のフロー図が示される。なお、図面の理解を助けるため、同じ部材には同じ符号を付して説明するが、特に限定されるものではない。
【0097】
[ピリジン化合物の精製]
本実施形態では、
図4に示すように、反応後に残存するアルカリ金属を失活させる失活工程で用いる失活液として水が用いられる。また、失活工程の後で、且つ溶解工程の前に、アルカリ金属が失活した反応液を濾過してピリジン化合物を含む有機層を析出させる析出工程を備え、溶解工程は、析出された有機層にハンセン(Hansen)溶解度パラメータδが5J
1/2/cm
3/2以上9J
1/2/cm
3/2以下である有機溶媒を添加してピリジン化合物を溶解させる。
【0098】
失活工程では、反応溶媒としてTHFを用いた場合、THFに対する容積比で1以上の水を失活槽11に投入し、撹拌下において常温(例えば、25℃)でアルカリ金属を失活させる。その結果、アルカリ金属が失活して水酸化ナトリウムが生成すると共に、THFが水に溶解する。なお、本実施形態では、反応槽10と失活槽11とを別々にして運転管理の容易化を図っているが、反応槽10と失活槽11とを同一にしても良いし、失活槽11の撹拌を省略しても良く、失活槽11の温度も特に限定されない。また、ピリジン化合物の合成にSDを用いた場合、ナトリウムが水素化されて安定しているので空気環境下で失活工程を実行しても良いが、不活性ガス雰囲気下で失活工程を実行しても良く、特に限定されない。
【0099】
次いで、失活槽11のピリジン化合物を含む反応液が、ポンプなどで膜濾過装置12に送られる。ここで、反応液にはSD溶媒,THF,水,水酸化ナトリウム,未反応のモノマー,合成されたピリジン化合物が主に含まれている。
【0100】
膜濾過装置12では、水,水酸化ナトリウム,及びTHFで構成される水層が排出処理され、SD溶媒,未反応のモノマー,及びピリジン化合物で構成される有機層が析出する。この有機層を溶解槽20に投入し、撹拌下で有機層にピリジン化合物に対するハンセン溶解度パラメータδが5J
1/2/cm
3/2以上9J
1/2/cm
3/2以下である有機溶媒を添加し、加熱部22でこの有機溶媒が蒸発しない程度に加熱してピリジン化合物を溶解させる。この有機溶媒としては、ヘキサン(沸点約69℃)、へプタン(沸点約98℃)やオクタン(沸点約125℃)などのノルマルパラフィン系の有機溶媒やアセトン(δ=6.4 J
1/2/cm
3/2)などが用いられ、特に、後述する濃縮工程において低温加熱で蒸発させ易いヘキサンが好ましい。また、SD溶媒と沸点差のあるノルマルパラフィン系の有機溶媒等を用いることが好ましい。これは、ヘキサンを蒸発させて再利用する際に、分散溶媒が混入しないようにするためである。
【0101】
次いで、ヘキサンに溶解した有機層はピリジン化合物を再結晶させる再結晶工程に送られる。その後の再結晶工程や第二再結晶工程は上述した実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0102】
本実施形態の析出工程では、THFを濾液側に分離した状態でピリジン化合物を含む有機層が析出する。その結果、THFを蒸発させる蒸発工程や分液工程などを省略することが可能となり、ピリジン化合物の精製工程を簡略化することができる。
【0103】
[その他の実施形態]
(1)上述した実施形態では、再結晶工程を2回設けたが、1回でも良いし、3回以上設けても良い。
(2)上述した実施形態における各工程は、趣旨を逸脱しない範囲で適宜順番を入れ替えたり、省略したりしても良い。