(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6412045
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】歯周病予防および/または改善用食品用組成物及び経口投与剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7048 20060101AFI20181015BHJP
A23L 33/15 20160101ALI20181015BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
A61K31/7048
A23L33/15
A61P1/02
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-74868(P2016-74868)
(22)【出願日】2016年4月4日
(62)【分割の表示】特願2012-120005(P2012-120005)の分割
【原出願日】2012年5月25日
(65)【公開番号】特開2016-130252(P2016-130252A)
(43)【公開日】2016年7月21日
【審査請求日】2016年4月4日
【審判番号】不服2017-13643(P2017-13643/J1)
【審判請求日】2017年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 翔子
(72)【発明者】
【氏名】小池 泰志
(72)【発明者】
【氏名】片岡 伸介
【合議体】
【審判長】
蔵野 雅昭
【審判官】
滝口 尚良
【審判官】
穴吹 智子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−112852(JP,A)
【文献】
特開平3−139288(JP,A)
【文献】
特開平4−182419(JP,A)
【文献】
メルクマニュアル,2006年,第18版,893−897ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-31/80
A61P1/02
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸−2−グルコシドを0.00001〜35質量%有効成分として含み、ビタミンEを含まない、糖尿病に起因する歯周ポケット形成抑制用食品用組成物(但しチューインガムを除く)。
【請求項2】
アスコルビン酸−2−グルコシドを1〜35質量%含有する請求項1に記載の食品用組成物。
【請求項3】
剤形が、液剤、シロップ剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、ソフトカプセル剤、又はシロップ剤である、請求項1又は2に記載の食品用組成物。
【請求項4】
アスコルビン酸−2−グルコシドを0.00001〜35質量%有効成分として含み、ビタミンEを含まない、糖尿病に起因する歯周ポケット形成抑制用経口投与剤。
【請求項5】
アスコルビン酸−2−グルコシドを1〜35質量%含有する請求項4に記載の剤。
【請求項6】
アスコルビン酸−2−グルコシドの投与量が成人一人当たり0.001g/日〜100g/日である、請求項4又は5に記載の剤。
【請求項7】
剤形が、液剤、シロップ剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、ソフトカプセル剤、又はシロップ剤である、請求項4〜6のいずれか1項に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周病予防および/または治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は、パラサイト(感染菌)の感染により、歯を支持している歯周組織(歯肉、セメント質、歯根膜、および歯槽骨)が破壊される炎症性疾患である。歯周病が進行するにつれ、菌に由来する口臭の発生、歯根膜などの歯肉軟組織の破壊、歯槽骨などの歯周組織の破壊および吸収に波及する(非特許文献1)。現在、歯周病診断はレントゲン撮影または歯科医の目視などによる臨床指標による歯槽骨吸収量の測定による診断が主である。
【0003】
いったん歯槽骨吸収が起こると、その回復は容易ではない。そのため、歯槽骨吸収が起きる前に歯周病を治療し、予防することが求められる。歯周病はパラサイト(感染菌)による、いわゆる細菌感染症であることから、歯周病の治療薬として、従来、殺菌剤、抗菌剤、抗プラーク剤、抗炎症剤、アルジンジパイン阻害剤(特許文献1参照)が用いられている。歯周病の治療効果がある食品としては、従来、卵黄由来タンパク質(特許文献2)が知られている。
【0004】
L−アスコルビン酸は、骨基質の主要成分である生体内でのコラーゲンの合成に重要であることが知られている。すなわち、L−アスコルビン酸は、コラーゲンに特異的なアミノ酸であるヒドロキシプロリンやヒドロキシリジンの生合成に必須であり、例えば骨芽細胞の培養系に添加するとコラーゲン合成を促進し、骨芽細胞の分化、骨形成を促進することが知られている。
【0005】
L−アスコルビン酸には、酸化分解を受け易く容易にその生理活性を失うという欠点がある。そこでL−アスコルビン酸を安定化させる方法として、糖誘導体やエステル誘導体などのL−アスコルビン酸誘導体が提案されている。非特許文献1には、L−アスコルビン酸2−リン酸エステルの安定性がL−アスコルビン酸と比較して高いこと、L−アスコルビン酸2−リン酸エステルが培養骨芽細胞の増殖促進効果および分化促進効果を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−1228号公報
【特許文献2】特開2010−260794号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Cell Biol Int.2004;28(4):255−65.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、従来の歯周病の予防および治療は、パラサイト(感染菌)の制御に着目して行われてきたが、それらの効果は十分ではなかった。その結果、フッ素や歯磨き習慣の普及により虫歯罹患率が低下しているにもかかわらず、歯周病罹患率は増加の一途をたどっている。
【0009】
また、非ステロイド系抗炎症剤については口腔粘膜への偽害作用が懸念されていた。
【0010】
一方、近年、歯周病と種々の全身疾患との関係が注目されている。例えば歯周病は糖尿病の合併症として認められている。つまり、歯周病はパラサイト側の寄与に加え、ホスト側の全身的背景(健康状態)も少なからず関与していることが推定されている。
【0011】
本発明は、歯周病の治療および予防効果を顕著に発揮することができ、飲食品としても利用可能な有効成分の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、糖尿病モデルマウスにおいて、加齢とともに(歯肉上皮の下方増殖、歯周ポケット形成、歯槽骨吸収などの)歯周病様の症状が自然発症することを見出した。また、L−アスコルビン酸誘導体を動物に投与する試験を行ったところ、歯肉上皮の下方増殖、歯周ポケット形成、歯槽骨吸収がそれぞれ抑制されることを見出した。この知見から、L−アスコルビン酸の誘導体が歯周病の予防および/または改善薬の有効成分として有用であるとの結論に達し、本発明に到達した。
【0013】
本発明は、以下の〔1〕〜〔3〕及び(1)〜(11)を提供するものである。
〔1〕アスコルビン酸誘導体を有効成分として含む歯周病予防および/または治療剤。
〔2〕アスコルビン酸誘導体が、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩および/またはアスコルビン酸−2−グルコシドである上記〔1〕に記載の歯周病予防および/または治療剤。
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載の歯周病予防および/または治療剤を含有する飲食品。
(1)アスコルビン酸−2−グルコシドを有効成分として含む歯周病予防および/または改善用食品用組成物(但しチューインガムを除く)。
(2)アスコルビン酸−2−グルコシドを有効成分として含む歯槽骨吸収抑制用食品用組成物(但しチューインガムを除く)。
(3)歯槽骨吸収が糖尿病に起因する歯槽骨吸収である(2)に記載の食品用組成物。
(4)アスコルビン酸−2−グルコシドを0.00001質量%以上含有する(1)〜(3)のいずれか1項に記載の食品用組成物。
(5)剤形が、液剤、シロップ剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、ソフトカプセル剤、又はシロップ剤である、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の食品用組成物。
(6)アスコルビン酸−2−グルコシドを有効成分として含む歯周病予防および/または治療用経口投与剤。
(7)アスコルビン酸−2−グルコシドを有効成分として含む歯槽骨吸収抑制用経口投与剤。
(8)歯槽骨吸収が糖尿病に起因する歯槽骨吸収である(7)に記載の剤。
(9)アスコルビン酸−2−グルコシドを0.00001質量%以上含有する(6)〜(8)のいずれか1項に記載の剤。
(10)アスコルビン酸−2−グルコシドの投与量が成人一人当たり0.001g/日〜100g/日である、(6)〜(9)のいずれか1項に記載の剤。
(11)剤形が、液剤、シロップ剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、ソフトカプセル剤、又はシロップ剤である、(6)〜(10)のいずれか1項に記載の剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、歯周病の発症を未然に予防することができ、これらのリスクを軽減することができ、歯周病の発症後には症状を改善することができる。これにより、歯槽膿漏および歯の喪失を未然に予防し、リスクを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、下顎第1臼歯の下側の近心側歯根部分を示す図である。矢印部分は、セメント−エナメルジャンクション(CEJ)と歯槽骨頂(AB)の距離(CEJ−AB)を示す。
【
図2】
図2は、実施例1(APM投与)、実施例2(A2G投与)、比較例1(DW投与)および比較例2(DW投与、BL)の、CEJ−ABを示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1(APM投与)、実施例2(A2G投与)、比較例1(DW投与)および比較例2(DW投与、BL)の、上皮下方増殖を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例1(APM投与)、実施例2(A2G投与)、比較例1(DW投与)および比較例2(DW投与、BL)の、歯周ポケット形成を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明における有効成分は、アスコルビン酸誘導体である。アスコルビン酸誘導体とは、アスコルビン酸((R)−3,4−ジヒドロキシ−5−((S)−1,2−ジヒドロキシエチル)フラン−2(5H)−オン、ビタミンC)の一部が他の原子または置換基で置換されて得られる化合物を意味する。アスコルビン酸誘導体の母体であるアスコルビン酸はD体、L体、DL体のいずれであってもよいが、好ましくはL体である。アスコルビン酸誘導体は、医薬品、医薬部外品、化粧品または食品の分野において用いることができれば特に限定されない。例えば、アスコルビン酸のエステル誘導体またはその塩、アスコルビン酸のエーテル誘導体またはその塩、アスコルビン酸の塩等が挙げられる。
【0017】
アスコルビン酸のエステル誘導体としては例えば、アスコルビン酸と、カルボン酸、硫酸、スルホン酸、リン酸等の酸とのエステルが挙げられる。アスコルビン酸のエステル化部位としては、例えば、アスコルビン酸の2位、3位、5位及び6位の各ヒドロキシ基が挙げられる。アスコルビン酸のエステル誘導体において、アスコルビン酸のエステル化部位は1以上であればよく、上記各ヒドロキシ基から選ばれる1以上のヒドロキシ基がエステル化されていてもよい。エステル化部位が2以上の場合、エステルを形成する酸の種類は、それぞれのエステル化部位において同一でも異なっていてもよい。
【0018】
カルボン酸としては例えば、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸等が挙げられる。
【0019】
スルホン酸としては例えば、スルホン酸、アルキルスルホン酸等が挙げられる。アルキルスルホン酸は、通常、炭素原子数1〜6のアルキルスルホン酸であり、例えば、メチルスルホン酸、エチルスルホン酸等が挙げられる。
【0020】
リン酸としては例えば、リン酸、リン酸モノエステル、リン酸ジエステルが挙げられ、詳しくは以下の通りである:リン酸;リン酸のモノアルキルエステル(例、リン酸が有する1つの水素が、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素原子数1〜6のアルキル基から選ばれるアルキル基で置換されているリン酸モノエステル);リン酸のジアルキルエステル(例、リン酸が有する2つの水素が、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素原子数1〜6のアルキル基から選ばれる2つのアルキル基で置換されているリン酸のジアルキルエステル等)等。上記リン酸のジアルキルエステルにおいて、2つのアルキル基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0021】
アスコルビン酸のエーテル誘導体としては例えば、アスコルビン酸グルコシド(例、アスコルビン酸−2−グルコシド)などが挙げられる。
【0022】
アスコルビン酸誘導体は、アスコルビン酸の塩またはアスコルビン酸誘導体の塩であってもよい。塩としては例えば下記の塩が挙げられる:ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属塩、およびアルミニウム等の多価金属塩などの各種の金属塩;アンモニウム、トリシクロヘキシルアンモニウム等のアンモニウム塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等の各種のアルカノールアミン塩等。
【0023】
本発明において好ましく用いられるアスコルビン酸誘導体は、L−アスコルビン酸の塩(例えば、ナトリウム塩など)、L−アスコルビン酸のリン酸エステル誘導体(例えば、L−アスコルビン酸モノリン酸エステルナトリウム塩、リン酸L−アスコルビルマグネシウム(アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩(APM))など)およびその塩、アスコルビン酸グルコシド(例えば、アスコルビン酸−2−グルコシドなど)およびその塩、テトライソパルミチン酸アスコルビル(VCIP)およびその塩、アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸エステル(APPS)およびその塩であり、より好ましく用いられるアスコルビン酸誘導体は、L−アスコルビン酸ナトリウム、リン酸L−アスコルビルマグネシウム、アスコルビン酸−2−グルコシド(例えば、アスコルビン酸−2−O−α−グルコシド)であり、さらに好ましく用いられるアスコルビン酸誘導体は、リン酸L−アスコルビルマグネシウム、アスコルビン酸−2−グルコシド(例えば、アスコルビン酸−2−O−α−グルコシド)(A2G)である。
【0024】
アスコルビン酸誘導体は、化学合成などにより人工的に合成されたものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0025】
本発明における有効成分としてのアスコルビン酸誘導体は、1種類であってもよいし2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0026】
本発明の歯周病予防および/または改善剤におけるアスコルビン酸誘導体の配合量は、本発明の効果を奏し得る配合量である限り特に制限されないが、通常は歯周病予防および/または改善剤全体に対して0.00001質量%以上、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは、0.01質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは1質量%以上である。配合量の上限は、歯周病予防および/または改善剤全体に対して、好ましくは35質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、特に好ましくは15質量%以下である。
【0027】
本発明の歯周病予防および/または改善剤の投与量は、本発明の効果を損なわない限り特に制限は無く、また適応される被投与生体の年齢、状態などの種々の要因により適宜変えることができる。目的の効果を得るために好ましい歯周病予防および/または改善剤の投与量は、成人1人当たりのアスコルビン酸誘導体の量として0.001g/日〜100g/日であることが好ましい。
【0028】
本発明の歯周病予防および/または改善剤は、そのままの形態で、最終製品(例えば、飲食品、医薬品、医薬部外品など)として用いることもできる。また、飲食品用の添加剤、医薬用の添加剤、医薬部外品用の添加剤として用いることができる。これにより、飲食品、医薬品、医薬部外品に、歯周病予防および/または改善効果を付与することができる。
【0029】
本発明の歯周病予防および/または改善剤は、アスコルビン酸誘導体を有効成分としていればよく、アスコルビン酸誘導体以外の成分(薬理学的に許容される基剤)を有していてもよい。その他の成分の一例としては、主に貯蔵および流通における安定性を確保する成分(例えば保存安定剤など)が挙げられる。その他、目的の最終製品(例えば、飲食品、医薬品、医薬部外品など)を構成する諸成分から選ばれる1または2以上の種類の成分(好ましくは1〜3種類程度、より好ましくは1種類程度)を含有していてもよい。
【0030】
本発明の歯周病予防および/または改善剤に含まれる、アスコルビン酸誘導体以外の成分は、本発明の目的を損なわない限り、特に限定されない。例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、発色剤、矯味剤、着香剤、酸化防止剤、防腐剤、呈味剤、酸味剤、甘味剤、強化剤、ビタミン剤、膨張剤、増粘剤、界面活性剤などの中から、製剤に必要な諸特性(例えば、製剤安定性)を損なわないものであって、最終製品(例えば、医薬品、医薬部外品、飲食品など)の剤形に応じたものを1種または2種以上選択することができる。また、アスコルビン酸誘導体以外の成分は、歯周病予防および/または改善効果を有する他の成分であってもよい。
【0031】
本発明の歯周病予防および/または改善剤の投与形態は特に限定されない。例えば、経口投与(例えば、口腔内投与、舌下投与など)、非経口投与(静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、経鼻投与、経肺投与など)などが挙げられる。これらの中でも侵襲性の少ない投与形態が好ましく、経口投与であることがより好ましい。本発明の歯周病予防および/または改善剤は飲食品として経口投与されることがさらに好ましい。
【0032】
本発明の歯周病予防および/または改善剤の剤形は、飲食品、医薬品および医薬部外品のいずれとするかによって適宜決定することができ、特に限定されない。経口投与される際の剤形の例としては、液状(液剤)、シロップ状(シロップ剤)、錠(錠剤、タブレット)、カプセル状(カプセル剤)、粉末状(顆粒、細粒)、ソフトカプセル状(ソフトカプセル剤)、シロップ状(シロップ剤)、固形状、半液体状、クリーム状、ペースト状が挙げられる。
【0033】
本発明の歯周病予防および/または改善剤の投与時期は特に限定されない。歯周病が発症する前に投与されてもよいし、歯周病の発症後に投与されてもよい。歯周病の発症後に投与する場合には、発症初期に投与されることが好ましい。
【0034】
本発明の歯周病予防および/または改善剤は、下記のとおり歯周病を予防および/または改善することができる。まず、歯周病の発症前はその発症を予防することができる。また、歯周病の発症後にはその症状(歯肉上皮下方増殖、ポケット形成などの歯肉組織の病変;歯槽骨吸収などの歯周組織の病変)を改善(緩和)することができる。そのため、歯周病予防および/または改善用の飲食品もしくは医薬品として利用できる。歯周病の原因、歯周病の進行の程度は問わない。例えば、糖尿病に起因する歯周病にも、本発明の歯周病予防および/または改善剤は有効である。
【0035】
本発明の歯周病予防および/または改善剤は、歯周病の発症前はその発症を予防することができる。また、歯周病の発症後にはその症状を改善(緩和)することができる。また、本発明の歯周病予防および/または改善剤は、歯槽膿漏の発症前はその発症を予防することができる。また、歯槽膿漏の発症後にはその症状を改善(緩和)することができる。したがって、本発明の歯周病予防および/または改善剤は、歯槽骨吸収抑制剤、歯肉軟組織の変化抑制剤、歯槽膿漏予防および/または改善剤としても利用できる。
【0036】
本発明の歯周病予防および/または改善剤の摂取対象者は特に限定されないが、例えば、歯周病、歯槽膿漏を既に発症している対象者、歯周病、歯槽膿漏のリスクがある対象者(高齢者、喫煙者、閉経後の女性、糖尿病患者など)が挙げられる。また、特段の問題のない対象者であっても、歯周病または歯槽膿漏の予防を目的として日常的に摂取することができる。
【0037】
本発明の歯周病予防および/または改善剤は、各種飲食品として利用することができる。例えば、飲料(清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、粉末飲料、果実飲料、乳飲料、ゼリー飲料など)、菓子類(クッキー、ケーキ、ガム、キャンディー、タブレット、グミ、饅頭、羊羹、プリン、ゼリー、アイスクリーム、シャーベットなど)、水産加工品(かまぼこ、ちくわ、はんぺんなど)、畜産加工品(ハンバーグ、ハム、ソーセージ、ウィンナー、チーズ、バター、ヨーグルト、生クリーム、チーズ、マーガリン、発酵乳など)、スープ(粉末状スープ、液状スープなど)、主食類(ご飯類、麺(乾麺、生麺)、パン、シリアルなど)、調味料(マヨネーズ、ショートニング、ドレッシング、ソース、たれ、しょうゆなど)が挙げられる。更に、本発明の歯周病予防および/または改善剤は、健康食品、機能性食品、健康補助食品(サプリメント)、栄養補助食品、特定保健用食品、医療用食品、病者用食品、乳児用食品、介護用食品、高齢者用食品等の飲食品として利用することもできる。これらのうち、健康補助食品として利用することが好ましく、タブレット状の健康補助食品として利用することがより好ましい。
【実施例】
【0038】
実施例1および2、ならびに比較例1および2
2型糖尿病モデルマウス(KKAyマウス(8週齢、オス))を3つの試験群に分け(n=8−9)、それぞれの試験群に1%(W/V)アスコルビン酸リン酸エステルMg塩(APM)(実施例1)(n=8)、1%(W/V)アスコルビン酸−2−O−α−グルコシド(A2G)(実施例2)(n=9)、蒸留水(DW)(比較例1)(n=9)を投与した。投与方法は、飲み水として自由摂取とした。投与期間は14週間(22週齢時に終了)とした。
【0039】
一方、健常マウス(C57BL/6マウス(8週齢、オス))に蒸留水(DW)を投与した(比較例2)(n=9)。投与方法及び投与期間は2型糖尿病モデルマウスと同様とした。
【0040】
APMは昭和電工株式会社製の市販品を用いた。A2Gは林原生物化学研究所製の市販品を用いた。
【0041】
(1)歯槽骨吸収抑制(歯周病予防)の評価(
図2)
投与期間終了後に各マウスの下顎第1臼歯の舌側の近心側歯根部分の断層画像をX線CTにより撮影し、セメント−エナメルジャンクション(CEJ)と歯槽骨頂(AB)の距離(CEJ−AB、
図1の矢印で示す部分の距離)を測定した。測定値から各試験群の平均値を算出した。結果を
図2に示す。
【0042】
2型糖尿病モデルマウス(実施例1、2および比較例1)のCEJ−ABは、健常マウス(比較例2)のCEJ−ABよりも長かった。しかし、APM及びA2Gのそれぞれを投与した2型糖尿病モデルマウスのCEJ−ABは、蒸留水を投与した2型糖尿病モデルマウスのCEJ−ABよりも短かった(
図2)。なお、各マウスの血糖値、体重へのAPM及びA2Gの影響は、特に見られなかった。
【0043】
この結果は、アスコルビン酸誘導体が、糖尿病患者における歯槽骨吸収を軽減することを示している。また、この結果は、アスコルビン酸誘導体が、糖尿病に起因する歯周病の症状を予防または改善する可能性、および、糖尿病に起因する歯の喪失のリスクを軽減する可能性を有することを示している。
【0044】
(2)歯周ポケット形成抑制(歯周病予防)の評価(
図3および4)
投与期間終了後に各マウスの下顎を採取した。左右に分割し、切歯をトリミング後、定法により固定、脱灰、パラフィン包埋してヘマトキシリン/エオジン染色を行った。
【0045】
(2−1)歯肉上皮下方増殖の評価(
図3)
上記組織切片について、下顎第1臼歯のCEJと付着上皮下端の距離を測定し、各試験区の平均値を算出した。結果を
図3に示す。
【0046】
2型糖尿病モデルマウスでは歯肉上皮下方増殖が見られる。しかし、APM及びA2Gのそれぞれを投与した2型糖尿病モデルマウスの歯肉上皮下方増殖は、蒸留水を投与した2型糖尿病モデルマウスの歯肉上皮下方増殖よりも小さかった(
図3)。
【0047】
(2−2)歯周ポケット形成の有無の評価(
図4)
上記組織切片について、下顎第1臼歯のCEJと付着上皮接着上端の距離を測定し、各試験区の平均値を算出した。結果を
図4に示す。
【0048】
2型糖尿病モデルマウスでは歯周ポケット形成が見られる。しかし、APM及びA2Gのそれぞれを投与した2型糖尿病モデルマウスの歯周ポケット形成は、蒸留水を投与した2型糖尿病モデルマウスの歯周ポケット形成よりも小さかった(
図4)。
【0049】
(2−3)まとめ
これらの結果は、アスコルビン酸誘導体が、糖尿病患者における歯肉上皮下方増殖および歯周ポケット形成を軽減することを示している。また、この結果は、アスコルビン酸誘導体が、糖尿病に起因する歯槽膿漏の症状を予防または改善する可能性、および、糖尿病に起因する歯の喪失のリスクを軽減する可能性を有することを示している。