(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、Vリブドベルト等の摩擦伝動ベルトについて、ベルト走行時にプーリ上で生じるスリップ音やその他の騒音を軽減させる技術が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Vリブドベルトの加硫成形後にVリブ表面にタルク等の粉体を付着させることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、VリブドベルトのVリブ表面に短繊維の一部を突出するように設け、その短繊維の突出部が埋め込められるようにタルク等の粉体を付着させることが開示されている。
【0005】
特許文献3には、加硫成形したベルトスリーブの表面に接着剤を塗布し、その上に短繊維を吹き付けることにより、Vリブ表面に短繊維が強固に付着したVリブドベルトを製造することが開示されている。
【0006】
特許文献4には、内周面にVリブ型が刻印された外型の内周面に接着剤を塗布し、その上に短繊維を吹き付けて付着させる一方、内型に未架橋ゴム組成物及び心線をセットすることにより、Vリブ表面に短繊維が付着したVリブドベルトを製造することが開示されている。
【0007】
しかしながら、Vリブドベルトの加硫成形後にVリブ表面にタルク等の粉体を吹き付けて付着させた場合、そのVリブ表面に付着した粉体はベルト走行時のプーリとの接触により短時間で脱落してしまう。特に、雨天時等にベルトが被水すると、粉体が水で流されて極めて容易にVリブ表面から脱落し、粉体による異音防止効果が消失してしまうことになる。
【0008】
そこで、特許文献5には、Vリブドベルトのリブにおけるプーリ接触側表面に、そのプーリ接触側表面を被覆するように粉体層を複合化して一体に設けることが提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0021】
(摩擦伝動ベルト)
図1及び
図2は、本発明の実施形態に係る摩擦伝動ベルトとしてのVリブドベルトBを示す。このVリブドベルトBは、後述するように、例えば自動車のエンジンルーム内に設けられる補機駆動ベルト伝動装置等に用いられる。VリブドベルトBは、例えばベルト周長700〜3000mm、ベルト幅10〜36mm、及びベルト厚さ4.0〜5.0mmのものである。
【0022】
上記VリブドベルトBは、ベルト内周側の圧縮ゴム層11と中間の接着ゴム層12とベルト外周側の背面ゴム層13(上ゴム層)との3重層に構成されたVリブドベルト本体10を備えている。その接着ゴム層12には、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配置した心線14が埋設されている。
【0023】
圧縮ゴム層11には複数のVリブ15がベルト内周側に突出するように設けられている。複数のVリブ15は、各々がベルト長さ方向に延びる断面略逆三角形の突条に形成されて、ベルト幅方向に並設されている。各Vリブ15は、例えばリブ高さが2.0〜3.0mm、基端間の幅が1.0〜3.6mmに形成されている。また、リブ数は、例えば3〜6個である(
図1では、リブ数が6個)。圧縮ゴム層11は、原料ゴムに種々の配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物を加熱及び加圧して架橋剤により架橋させたゴム組成物で形成されている。
【0024】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物の原料ゴムは、例えばエチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、水素添加アクリロニトリルゴム(H−NBR)等が挙げられる。原料ゴムは、単一種で構成されていてもよく、また、複数種がブレンドされて構成されていてもよい。
【0025】
配合剤としては、カーボンブラック等の補強材、加硫促進剤、架橋剤、老化防止剤、軟化剤等が挙げられる。
【0026】
補強材としては、カーボンブラックでは、例えばチャネルブラック;SAF、ISAF、N−339、HAF、N−351、MAF、FEF、SRF、GPF、ECF、N−234等のファーネスブラック;FT、MT等のサーマルブラック;アセチレンブラックが挙げられる。補強剤としてはシリカも挙げられる。補強剤は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種で構成されていてもよい。補強材は、耐摩耗性及び耐屈曲性のバランスが良好となるという観点から、原料ゴム100質量部に対する配合量が30〜80質量部であることが好ましい。
【0027】
加硫促進剤としては、酸化マグネシウムや酸化亜鉛(亜鉛華)等の金属酸化物、金属炭酸塩、ステアリン酸等の脂肪酸及びその誘導体等が挙げられる。加硫促進剤は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種で構成されていてもよい。加硫促進剤は、原料ゴム100質量部に対する配合量が例えば0.5〜8質量部である。
【0028】
架橋剤としては、例えば硫黄、有機過酸化物が挙げられる。架橋剤として、硫黄を用いたものでもよく、また、有機過酸化物を用いたものでもよく、さらには、それらの両方を併用したものでもよい。架橋剤は、硫黄の場合、原料ゴム100質量部に対する配合量が0.5〜4.0質量部であることが好ましく、有機過酸化物の場合、原料ゴム100質量部に対する配合量が例えば0.5〜8質量部である。
【0029】
老化防止剤としては、アミン系、キノリン系、ヒドロキノン誘導体、フェノール系、亜リン酸エステル系のものが挙げられる。老化防止剤は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種で構成されていてもよい。老化防止剤は、原料ゴム100質量部に対する配合量が例えば0〜8質量部である。
【0030】
軟化剤としては、例えば、石油系軟化剤、パラフィンワックス等の鉱物油系軟化剤、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落下生油、木ろう、ロジン、パインオイル等の植物油系軟化剤が挙げられる。軟化剤は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種で構成されていてもよい。石油系軟化剤以外の軟化剤は、原料ゴム100質量部に対する配合量が例えば2〜30質量部である。
【0031】
尚、配合剤として、スメクタイト族、バーミュライト族、カオリン族等の層状珪酸塩が含まれていてもよい。
【0032】
圧縮ゴム層11は、単一種のゴム組成物で構成されていてもよく、また、複数種のゴム組成物が積層されて構成されていてもよい。例えば、圧縮ゴム層11は、
図3に示すように、摩擦係数低減材が配合されたプーリ接触側表面層11aと、その内側に積層された内部ゴム層11bとを有していてもよい。摩擦係数低減材としては、例えばナイロン短繊維、ビニロン短繊維、アラミド短繊維、ポリエステル短繊維、綿短繊維等の短繊維や超高分子量ポリエチレン樹脂等が挙げられる。また、内部ゴム層11bには短繊維や摩擦係数低減材が配合されていないことが好ましい。
【0033】
図2及び
図3に示すように、上記Vリブドベルト本体10においてそのプーリ接触側表面であるVリブ15表面に布層16が該Vリブ15表面(プーリ接触側表面)を被覆するように一体に設けられている。また、この布層16に粉体17が布層16の繊維内部に潜り込んでゴムにより固着された状態で一体に存在している。
【0034】
より具体的には、布層16の表面は粉体17により被覆され、かつその粉体17は、その少なくとも一部が布層16の繊維内部でVリブドベルト本体10におけるVリブ15から染み出したゴム組成物と一体化した状態で固着されている(
図13参照)。
【0035】
この布層16の繊維に粉体17を潜り込んだ状態で存在させる場合、例えば以下のように行えばよい。すなわち、
図5〜
図10に示すように、ベルト成形型30においてVリブドベルト本体10のプーリ接触側部分であるVリブ15を形成するための外型32内周面の成形面に粉体17を吹き付けて粉体層17′を設け、その粉体層17′に、布層16となる布16′を表面に巻き付けたベルト形成用の未架橋ゴム組成物(未架橋ゴムシート11′,12′,13′)を表面の布16′にて圧接させて該布16′を伸ばしながら該未架橋ゴム組成物を架橋させる。このことにより、摩擦伝動ベルトBは、Vリブドベルト本体10のVリブ15表面(プーリ接触側表面)を被覆した布層16の繊維の内部に粉体17が潜り込んだ状態で存在するように形成されたものである。尚、この方法については後で詳細に説明する。
【0036】
上記布層16を構成する布16′は不織布、織物又は編み物のいずれかからなる。布の素材としては、例えば、ナイロン、ポリエステル等が挙げられる。布層16の厚さは0.1〜2.0mm程度、具体的には0.5〜1.0mmであることが好ましい。
【0037】
このように圧縮ゴム層11には、プーリ接触側表面であるVリブ15表面を被覆するように布層16が一体に設けられ、その布層16に粉体17が布層16の繊維内部に潜り込んだ状態で一体化して設けられている。すなわち、従来のように、Vリブドベルトの加硫成形後にそのVリブ表面にタルク等の粉体を吹き付けて付着させた場合、そのVリブ表面に付着した粉体がベルト走行時のプーリとの接触により短時間で脱落してしまうという問題がある。特に、雨天時に被水すると、粉体が水で流されて極めて容易にVリブ表面から脱落し、その結果、粉体による異音防止効果が消失してしまう。また、Vリブドベルト本体における圧縮ゴム層のプーリ接触側表面であるVリブ表面に粉体層を被覆するように設け、その粉体層の粉体を加硫成形時の高温及び高圧により圧縮ゴム層のゴム組成物に複合化して一体化したとしても、その複合化したゴムの露出部分により異音が発生し易い。また、プーリとの接触摩耗によって粉体が剥がれ易く、異音のタフネス寿命が短くなる。
【0038】
これに対し、本実施形態に係る上記VリブドベルトBでは、Vリブドベルト本体10において圧縮ゴム層11のプーリ接触側表面であるVリブ15表面に該表面を被覆するように布層16が一体に設けられ、その布層16の繊維の内部に粉体17が潜り込んで固着一体化されている。より具体的には、布層16の表面が粉体17により被覆され、かつ粉体17は、その少なくとも一部が布層16の繊維内部でVリブドベルト本体10におけるVリブ15から染み出したゴム組成物と一体化した状態で固着されている。
【0039】
このため、Vリブ15の表面には粉体17が露出し、ゴム(ゴム組成物)の露出部分がなく、ベルト走行時にそのゴムによる異音が発生しない。しかも、粉体17は布層16の繊維内部に潜り込んだ状態であるので、その布層17により保護されて剥がれ難くなる。仮にプーリとの接触摩耗によっても表面が摩耗しても、さらに布層16の繊維内にある粉体17が次から次へと新たに露出するようになる。このことから、ベルトBの長期間の使用であっても、その期間に亘り表面の状態が殆ど変化せず、プーリとの間で生じるスリップ音の抑制効果を長期に亘って安定して得ることができ、異音のタフネス寿命を延ばすことができる。
【0040】
また、布層16による摩擦係数の低減効果もあるので、プーリとの接触による摩耗も抑えることができる。さらに、布層16表面の凹凸により被水時のハイドロプレーニングを防止(水切り)して被水によるスリップを防止することができる。
【0041】
上記粉体17が繊維の潜り込んだ布層16は、プーリ接触側表面であるVリブ15表面全体を被覆するように設けられていてもよい。その他、例えば、ベルト半周分のVリブ15表面のみ、或いは、ベルト幅方向の内側又は外側のVリブ15表面のみのように、プーリ接触側表面であるVリブ15表面を部分的に被覆するように設けられていてもよい。
【0042】
また、布層16は、その一部分がVリブドベルト本体10の圧縮ゴム層11に埋め込まれているようにしてもよい。
【0043】
布層16に潜り込んだ状態で格納される粉体としては、例えばPTFE、モンモリロナイト、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、層状珪酸塩等が挙げられる。粉体は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種が混合されて構成されていてもよい。粉体の粒径は0.1〜150μmであることが好ましく、0.5〜60μmであることがより好ましい。ここで、粒径とは、ふるい分け法によって測定した試験用ふるいの目開きで表したもの、沈降法によるストークス相当径で表したもの、及び光散乱法による球相当径、並びに電気抵抗試験方法による球相当値で表したもののいずれかである。
【0044】
層状珪酸塩としては、スメクタイト族、バーミュライト族、カオリン族が挙げられる。スメクタイト族としては、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト等が挙げられる。バーミュライト族としては、例えば、3八面体型バーミュライト、2八面体型バーミュライト等が挙げられる。カオリン族としては、例えば、カオリナイト、ディッカイト、ハロイサイト、リザーダイト、アメサイト、クリソタイル等が挙げられる。層状珪酸塩は、これらのうちスメクタイト族のモンモリロナイトが好ましい。
【0045】
上記接着ゴム層12は、断面横長矩形の帯状に構成されており、厚さが例えば1.0〜2.5mmである。背面ゴム層13も、断面横長矩形の帯状に構成されており、厚さが例えば0.4〜0.8mmである。背面ゴム層13の表面は、ベルト背面が接触する平プーリとの間で生じる音を抑制する観点から、織布の布目が転写された形態に形成されていることが好ましい。接着ゴム層12及び背面ゴム層13は、原料ゴムに種々の配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物を、加熱及び加圧して架橋剤により架橋させたゴム組成物で形成されている。背面ゴム層13は、ベルト背面が接触する平プーリとの接触で粘着が生じるのを抑制する観点から、接着ゴム層12よりもやや硬めのゴム組成物で形成されていることが好ましい。尚、圧縮ゴム層11と接着ゴム層12とでVリブドベルト本体10を構成し、背面ゴム層13の代わりに、例えば、綿、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維等の糸で形成された織布、編物、不織布等で構成された補強布が設けられた構成であってもよい。
【0046】
接着ゴム層12及び背面ゴム層13を形成するゴム組成物の原料ゴムとしては、例えば、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、水素添加アクリロニトリルゴム(H−NBR)等が挙げられる。接着ゴム層12及び背面ゴム層13の原料ゴムは圧縮ゴム層11の原料ゴムと同一であることが好ましい。
【0047】
配合剤としては、圧縮ゴム層11と同様、例えば、カーボンブラック等の補強材、加硫促進剤、架橋剤、老化防止剤、軟化剤等が挙げられる。
【0048】
圧縮ゴム層11、接着ゴム層12、及び背面ゴム層13は、別配合のゴム組成物で形成されていてもよく、また、同じ配合のゴム組成物で形成されていてもよい。
【0049】
心線14は、ポリエステル繊維(PET)、ポリエチレンナフタレート繊維(PEN)、アラミド繊維、ビニロン繊維等の撚り糸で構成されている。心線14は、Vリブドベルト本体10に対する接着性を付与するために、成形加工前にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する接着処理及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理が施されている。
【0050】
(自動車の補機駆動ベルト伝動装置)
図4は、本実施形態に係る上記VリブドベルトBを用いた自動車の補機駆動ベルト伝動装置20のプーリレイアウトを示す。この補機駆動ベルト伝動装置20は、VリブドベルトBが4つのリブプーリ21,22,25,26及び2つの平プーリ23,24の6つのプーリに巻き掛けられて動力を伝達するサーペンタインドライブ方式のものである。
【0051】
この補機駆動ベルト伝動装置20は、最上位置のパワーステアリングプーリ21、そのパワーステアリングプーリ21の下方に配置されたACジェネレータプーリ22、パワーステアリングプーリ21の左下方に配置された平プーリのテンショナプーリ23と、そのテンショナプーリ23の下方に配置された平プーリのウォーターポンププーリ24と、テンショナプーリ23の左下方に配置されたクランクシャフトプーリ25と、そのクランクシャフトプーリ25の右下方に配置されたエアコンプーリ26とを備えている。これらのうち、平プーリであるテンショナプーリ23及びウォーターポンププーリ24以外は全てリブプーリである。これらのリブプーリ21,22,25,26及び平プーリ23,24は、例えば金属のプレス加工品や鋳物、ナイロン樹脂、フェノール樹脂等の樹脂成形品で構成されている。また、プーリ径はφ50〜150mmである。
【0052】
この補機駆動ベルト伝動装置20では、VリブドベルトBは、Vリブ15側が接触するようにパワーステアリングプーリ21に巻き掛けられ、次いで、ベルト背面が接触するようにテンショナプーリ23に巻き掛けられた後、Vリブ15側が接触するようにクランクシャフトプーリ25及びエアコンプーリ26に順に巻き掛けられ、さらに、ベルト背面が接触するようにウォーターポンププーリ24に巻き掛けられ、そして、Vリブ15側が接触するようにACジェネレータプーリ22に巻き掛けられ、最後にパワーステアリングプーリ21に戻るようにレイアウトされている。プーリ21〜26間で掛け渡されるVリブドベルトBの長さであるベルトスパン長は例えば50〜300mmである。プーリ21〜26間で生じ得るミスアライメントは0〜2°である。
【0053】
上記のように、VリブドベルトBのVリブドベルト本体10における圧縮ゴム層11のプーリ接触側表面であるVリブ15表面を被覆するように布層16が一体に設けられ、その布層16の繊維内に粉体17が潜り込んだ状態で固着一体化されている。そのため、この補機駆動ベルト伝動装置20においても、パワーステアリングプーリ21等のリブプーリとの間で生じるスリップ音の抑制効果を長期に亘って得ることができる。
【0054】
(摩擦伝動ベルトの製造方法)
次に、上記VリブドベルトBの製造方法の一例について
図5〜
図10に基づいて説明する。
【0055】
本製造方法では、
図5及び
図6に示すように、互いに同心状に設けられた、円筒状の内型31(ゴム等のスリーブ)及び外型32からなるベルト成形型30を用いる。
【0056】
上記内型31はゴム等の可撓性材料で形成されている。内型31の外周面は、ベルトBの外周面を成形するための成形面に構成されている。その内型31の外周面には織布の布目形成模様等が設けられている。
【0057】
一方、外型32は、金属等の剛性材料で形成されている。外型32の内周面は、ベルトBの内周面を成形するための成形面に構成されている。その外型32の内周面には、
図6に示すようにベルトBのVリブ15を形成するVリブ形成溝33が軸方向に一定ピッチで設けられている。
【0058】
また、外型32には、水蒸気等の熱媒体や水等の冷媒体を流通させて温調する温調機構(図示せず)が設けられている。そして、このベルト成形型30では、内型31を内部から径方向外側に加圧膨張させるための高圧空気等を用いた加圧手段(図示せず)が設けられている。
【0059】
VリブドベルトBの製造方法において、まず、原料ゴムに各配合物を配合し、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機で混練する。この混練により得られた未架橋ゴム組成物をカレンダー成形等によってシート状に成形して圧縮ゴム層11用の未架橋ゴムシート11′(ベルト形成用の未架橋ゴム組成物)を作製する。同様に、接着ゴム層12用及び背面ゴム層13用の未架橋ゴムシート12′,13′もそれぞれ作製する。また、心線14となる撚り糸14′をRFL水溶液に浸漬して加熱する接着処理を行った後、その撚り糸14′をゴム糊に浸漬して加熱乾燥する接着処理を行う。
【0060】
次いで、
図7に示すように、外型32の内周面のプーリ接触側部分を形成するための成形面に粉体17を吹き付けて粉体層17′を設ける。この粉体層17′の厚さは0.1〜200μmとすることが好ましく、1.0〜100μmとすることがより好ましい。また、このとき、外型32への付着性を高める観点から、吹き付ける粉体を例えば10〜100kVの電圧をかけて帯電させることが好ましい。尚、粉体17の吹き付けは一般の粉体塗装装置を用いて行うことができる。
【0061】
一方、
図8に示すように、内型31外周の成形面には、背面ゴム層13用の未架橋ゴムシート13′、及び接着ゴム層12用の未架橋ゴムシート12′をそれぞれ順に巻き付けて積層する。その上から心線14用の撚り糸14′を円筒状の内型31に対して螺旋状に巻き付ける。さらに、その上から接着ゴム層12用の未架橋ゴムシート12′及び圧縮ゴム層11用の未架橋ゴムシート11′を順に巻き付けて積層する。さらに、この圧縮ゴム層11用の未架橋ゴムシート11′上に布層16となる布16′を巻き付けて積層する。
【0062】
尚、
図3に示すような構成のVリブドベルトBを製造する場合には、圧縮ゴム層11用の未架橋ゴムシート11′として、プーリ接触側表面層11a用と内部ゴム層11b用とで異なるゴム組成物を用いてもよい。
【0063】
次いで、
図9に示すように、内型31を外型32の中に位置付けて密閉する。このとき、内型31の内部が密封状態となる。
【0064】
続いて、外型32を加熱するとともに、内型31の密封された内部に加圧手段により高圧空気等を注入して加圧する。この加圧に伴い、
図10に示すように、内型31が径方向外側に膨張して拡径する。この拡径により、外型32の成形面に、ベルト形成用の未架橋ゴムシート11,12,13がその外周表面の布16′にて圧接して、外型32の成形面のVリブ形成溝33により複数のVリブ15が形成される。また、それら未架橋ゴムシート11,12,13の架橋が進行して布16′と一体化するとともに撚り糸14′と複合化する。最終的に、外周面に布層16が一体化された円筒状のベルトスラブが成形される。
【0065】
また、上記予め外型32の成形面に粉体の吹き付けによって設けられている粉体層17′は、ベルトスラブの外周面を被覆するように一体化された布層16の繊維内に潜り込んで同様に一体化され、その粉体層17′の粉体17は、布層16の繊維内に潜り込んだ状態で架橋したゴムにより固着される。このベルトスラブの成形温度は例えば100〜180℃、成形圧力は例えば0.5〜2.0MPa、成形時間は例えば10〜60分である。
【0066】
そのとき、上記のように、予め外型32の成形面に粉体17を吹き付けて粉体層17′を設けておくのではなく、それに代えて以下の方法も考えられる。例えば、布16′を圧縮ゴム層11用の未架橋ゴムシート11′上に巻き付けて積層し、その布16′の表面に粉体17を吹き付けたり塗布したりして粉体層17′を形成し、その状態で上記と同様に、ベルト形成用の未架橋ゴムシート11,12,13を外型32の粉体層のない成形面に圧接して成形する方法、或いは、予め布16′の表面に対し粉体17を吹き付けたり塗布したりして粉体層17′を形成しておき、その粉体層17′が形成された布16′を圧縮ゴム層11用の未架橋ゴムシート11′上に巻き付けて積層し、その状態で上記と同様に、ベルト形成用の未架橋ゴムシート11,12,13を外型32の粉体層のない成形面に圧接して成形する方法である。
【0067】
しかしながら、これら2つの方法の場合、いずれも
図14に示すように、布16′の表面に粉体層17′が形成されており、成形に伴い、未架橋ゴムシート11′上の布16′が外型32の成形面のVリブ形成溝33に沿って大きく伸びる。この未架橋ゴムシート11′上の布16′の伸びに伴い、
図15に示すように、それに合わせて布16′上の表面に形成された粉体層17′も布16′に追従して大きく伸ばされて変形することになる。そのため、たとえ粉体17を布16′表面に隙間なく付着させていたとしても、その付着した布16′の表面の変形により粉体層17′に隙間が生じる。そして、その隙間に布16′の裏面側から未架橋ゴムシート11のゴム(ゴム組成物)が染み出して表面側に湿潤して露出するようになる。その結果、製造されたVリブドベルトBは、
図16に示すように、Vリブドベルト本体10のプーリ接触側表面たるVリブ15表面の一部又は大部分がゴム面となる。しかも、粉体17は、布層16の繊維内に潜り込んだ状態とならずにVリブ15表面の一部のみに付着し、そのVリブ15表面を、露出した粉体17で覆うことができなくなる。このことで、Vリブ15表面に露出したゴム面により摩擦係数が増加してプーリとの間でスリップ音が生じるばかりでなく、Vリブ15表面の粉体17も摩擦により容易に脱落して、やはり同様のスリップ音が生じることとなる。
【0068】
これに対し、この実施形態では、上記のように布16′の表面に粉体層17′を形成せず、
図11に示すように、粉体17を外型32の内周面においてプーリ接触側部分を形成するための成形面に吹き付けて粉体層17′を設けている。そのため、
図12に示すように、内型31外周面の未架橋ゴムシート11′上に巻き付けられた布16′のみが上記のように外型32の成形面のVリブ形成溝33に沿って大きく伸び、その伸びた状態で成形面上の粉体層17′と圧接する。そのため、その伸びた布16′の繊維内に外型32の成形面上の粉体17がスムーズに潜り込むようになり、上記のように粉体層17′が布16′上で該布16′の伸びに追従して移動したり変形したりすることは生じない。その結果、製造されたVリブドベルトBは、
図13に示すように、Vリブドベルト本体10のプーリ接触側表面たるVリブ15表面(Vリブ15のベルト幅方向に対向する側面)の大部分又は全部が露出した粉体17で覆われることとなる。
【0069】
しかも、上記布16′が伸び変形した状態では、その布目が開くこととなり、その開いた布目のままで布16′が粉体層17′に接触する。そのために、布層16の繊維内部に粉体17がさらにスムーズに潜り込むこととなり、プーリとの摩擦によっても粉体が脱落し難くなる。また、布層16の繊維内部に粉体17が潜り込むので、布層16にその裏面側から入り込んだ未架橋ゴムシート11のゴム(ゴム組成物)が布層16の表面側に染み出そうとしても、それは布層16にその表面側から繊維内に潜り込んだ粉体17によって阻止され、Vリブ15表面にゴムが露出することはない。さらに、その布層16内では、表面に染み出そうとするゴムと粉体17とが一体化されて、その粉体17が固着されることとなり、その粉体17が剥がれ難くなる。これらの相乗的な作用により、長期間に亘りVリブ15表面の摩擦係数を低く保って、プーリとの間で生じるスリップ音の抑制効果を長期に亘って得ることができる。尚、上記
図11〜
図16においては、説明のために、粉体17の大きさや布層16、布16′の繊維の大きさは変えて示している。
【0070】
すなわち、布層16の繊維内部に粉体17が潜り込んだ状態で存在する(布層16の表面が粉体17により被覆され、粉体17は、その少なくとも一部が布層16の繊維内部でVリブドベルト本体10におけるVリブ15から染み出したゴム組成物と一体化した状態で固着されている)のは、上記のように、表面に布16′を巻き付けたベルト形成用の未架橋ゴム組成物を外型32内周面の成形面上の粉体層17′に圧接させて該成形面のVリブ形成溝33に沿って布16′を伸ばしながら架橋させるという製造方法によってのみ確実かつ有効に実現できることとなる。
【0071】
そして最後に、上記内型31の内部を減圧して密閉を解き、内型31と外型32との間で成形されたベルトスラブを取り出し、それを所定幅に輪切りして表裏を裏返すことにより、VリブドベルトBが得られる。
【0072】
(その他の実施形態)
尚、本実施形態では、摩擦伝動ベルトとしてVリブドベルトBを示したが、特にこれに限定されるものではなく、ローエッジタイプのVベルト等、他の摩擦伝動ベルトであってもよいのは勿論である。
【0073】
また、本実施形態では、摩擦伝動ベルトの使用例として自動車の補機駆動ベルト伝動装置20を示したが、特にこれに限定されるものではなく、一般産業用等のベルト伝動装置であってもよい。