特許第6412411号(P6412411)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6412411半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6412411
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20181015BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20181015BHJP
   C09J 7/24 20180101ALI20181015BHJP
【FI】
   C08J5/18CES
   C08J5/18CET
   C08J5/18CEQ
   H01L21/78 M
   C09J7/24
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-229298(P2014-229298)
(22)【出願日】2014年11月11日
(65)【公開番号】特開2016-89138(P2016-89138A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】503048338
【氏名又は名称】ダイヤプラスフィルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁護士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】河村 仁志
【審査官】 飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−063340(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/042869(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00−5/02
5/12−5/22
C09J 7/00−7/50
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含有する基材フィルムであって、引張弾性率が50〜370MPa、かつ130℃における熱荷重伸度が10%以下であり、
ポリプロピレン系樹脂(A)、オレフィン系エラストマー(B)及びスチレン系エラストマー(C)を含有し、(A)〜(C)の成分の合計質量に対して、ポリプロピレン系樹脂(A)5〜55質量%、オレフィン系エラストマー(B)25〜75質量%およびスチレン系エラストマー(C)5〜40質量%含有し、
前記ポリプロピレン系樹脂(A)は、融点が160℃以上であることを特徴とす半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
【請求項2】
前記ポリプロピレン系樹脂(A)は、プロピレン単独重合体であることを特徴とする請求項に記載の半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
【請求項3】
前記オレフィン系エラストマー(B)は、クロス分別法により測定した0℃における樹脂溶出量が全溶出量に対して10質量%未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
【請求項4】
前記オレフィン系エラストマー(B)は、ハードセグメント部がメタロセン触媒を用いて重合させたエチレン/プロピレン共重合体ブロックであり、かつ多段重合法により得られることを特徴とする請求項のいずれか1項に記載の半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
【請求項5】
前記スチレン系エラストマー(C)は、水素添加スチレン系エラストマーであることを特徴とする請求項のいずれか1項に記載の半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の基材フィルムを少なくとも1つ備える、半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の基材フィルムの少なくとも片面側に、粘着剤層を積層してなる半導体製造工程用粘着フィルム。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の基材フィルムの少なくとも片面側に、粘着剤層を積層してなるダイシング用粘着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体製造工程で使用する粘着フィルムにおいて使用される基材フィルムに関し、さらに詳しくは、高温下での製造工程にも耐えうる耐熱性と耐荷重性を有する基材フィルム、及びそれを用いてなる半導体製造工程用の粘着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体を製造する工程には、様々な工程があるが、たとえば、シリコンやガリウム砒素等の半導体ウェハの製造工程において、半導体ウェハを個々のチップに切断分離するダイシングが行われる。この際、ウェハを固定するためにダイシング用粘着フィルムを貼り付けて切断し、その後にダイシング用粘着フィルムを放射状にエキスパンドして個々のチップをピックアップするなどの工程がある。
【0003】
このような半導体ウェハは、近年の電子機器の小型化に伴い薄型化が進んでおり、ウェハの強度が低下しているため、製造工程において破損しやすくなっている。このため、エキスパンド時やピックアップ時に発生する半導体ウェハへの負荷を軽減しチップの破損を防止するため、柔軟性に優れた粘着フィルムが求められている。
【0004】
柔軟な粘着フィルムを得るため、ポリプロピレン系樹脂やオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー等を粘着フィルムの基材フィルムとして用いる方法が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ビニル芳香族炭化水素−共役ジエン炭化水素共重合体水素添加物とポリプロピレン系樹脂とからなる樹脂組成物を積層したことを特徴とする多層ダイシング用基体フィルムが開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、エキスパンド性は十分であるものの、基材の耐熱性が劣るため、高機能層の積層工程や転写工程における加熱処理の際にフィルムが溶融したり、ウェハの重みによってフィルムが弛んだりするという問題がある。
【0007】
近年においては、ダイシングフィルム上にさらにダイボンドフィルムやダイバックサイドフィルムといった高機能層を設ける技術が活用されている。このような高機能層付きダイシングフィルムにおいては、高機能層を積層するための工程や半導体ウェハに高機能層を転写するための工程で加熱処理される場合があるため、基材にはエキスパンド性に加えて耐熱性が求められている。
【0008】
これらの用途に対応するため、例えば特許文献2には、エキスパンドが可能で基材が耐熱性を備えた保護膜形成層付ダイシングシートが開示され、基材フィルムにポリプロピレンフィルムまたはポリブチレンテレフタレートフィルムを使用し、この基材フィルムは、融点が130℃を超えるか、もしくは融点を持たない、かつMD方向およびTD方向の破断伸度が100%以上、25%応力が100MPa以下である基材フィルムが開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献2の方法では、基材フィルムは耐熱性を有しているものの、基材フィルムの強度が高いため、エキスパンドの性能においてはまだ十分満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009―94418号公報
【特許文献2】特許第5363662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであり、高温下においても半導体ウェハの荷重に耐えうる耐熱荷重性と、ダイシング工程におけるエキスパンド性を両立できる半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルムである。
[1]熱可塑性樹脂を含有する基材フィルムであって、引張弾性率が50〜370MPa、かつ130℃における熱荷重伸度が10%以下であり、
ポリプロピレン系樹脂(A)、オレフィン系エラストマー(B)及びスチレン系エラストマー(C)を含有し、(A)〜(C)の成分の合計質量に対して、ポリプロピレン系樹脂(A)5〜55質量%、オレフィン系エラストマー(B)25〜75質量%およびスチレン系エラストマー(C)5〜40質量%含有し、
前記ポリプロピレン系樹脂(A)は、融点が160℃以上であることを特徴とす半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
[2]前記ポリプロピレン系樹脂(A)は、プロピレン単独重合体であることを特徴とする[]に記載の半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
[3]前記オレフィン系エラストマー(B)は、クロス分別法により測定した0℃における樹脂溶出量が全溶出量に対して10質量%未満であることを特徴とする[又は記載の半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
[4]前記オレフィン系エラストマー(B)は、ハードセグメント部がメタロセン触媒を用いて重合させたエチレン/プロピレン共重合体ブロックであり、かつ多段重合法により得られることを特徴とする[]〜[]のいずれか1項記載の半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
[5]前記スチレン系エラストマー(C)は、水素添加スチレン系エラストマーであることを特徴とする[]〜[]のいずれか1項に記載の半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
[6][1]〜[]のいずれか1項に記載の基材フィルムを少なくとも1つ備える、半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム。
[7][1]〜[]のいずれか1項に記載の基材フィルムの少なくとも片面側に、粘着剤層を積層してなる半導体製造工程用粘着フィルム。
[8][1]〜[]のいずれか1項に記載の基材フィルムの少なくとも片面側に、粘着剤層を積層してなるダイシング用粘着フィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温下での製造工程にも耐えうる耐熱荷重性を有し、かつエキスパンド性に優れる半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルム(以下「本発明の基材フィルム」ともいう)は、引張弾性率が50〜370MPaであることが重要であり、100〜360MPaであることが好ましく、150〜360MPaであることがより好ましい。基材フィルムの引張弾性率を上記の範囲とすることで、適度な強度となりエキスパンド性が好ましくなる。
【0015】
また、本発明の半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルムは、130℃における熱荷重伸度が10%以下であることが重要であり、8%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましい。熱荷重伸度を10%以下とすることで、高機能層を積層する工程や転写する工程において加熱処理する際に、フィルムが溶融したり、ウェハの重みによってフィルムが弛んだりすることを抑制することができ、その後のダイシングする工程や、ピックアップの工程における作業性が好ましいものとなる。また、熱荷重伸度の下限値は特に限定することはなく、伸度がより小さい方が好ましい。
【0016】
なお、本発明において熱荷重伸度とは、下記の熱荷重保持試験によって算出される数値のことを言う。
【0017】
[熱荷重保持試験]
長さ100mm、幅10mmの試験片を使用し、長さ方向に40mm間隔の標線を引く。次いで標線下部に荷重3gの錘を取り付け、試験片を垂直に保持し、試験温度130℃の環境で30分間養生し、得られた結果を下記式1にて算出し、得られた結果を熱荷重伸度とする。
[式1]
熱荷重伸度=(加熱後の標線間長−加熱前の標線間長)/(加熱前の標線間長)×100
【0018】
本発明の基材フィルムは、ポリプロピレン系樹脂(A)、オレフィン系エラストマー(B)及びスチレン系エラストマー(C)を含有し、(A)〜(C)の成分の合計質量に対して、ポリプロピレン系樹脂(A)5〜55質量%、オレフィン系エラストマー(B)25〜75質量%およびスチレン系エラストマー(C)5〜40質量%含有することが好ましい。
【0019】
本発明の基材フィルムは、(A)〜(C)の成分の合計質量に対して、ポリプロピレン系樹脂(A)を7〜55質量%含有することがより好ましく、9〜55質量%含有することが更に好ましい。ポリプロピレン系樹脂(A)の含有量を5質量%以上とすることで耐熱荷重性が好ましいものとなり、また55質量%以下とすることで柔軟性が好ましいものとなる。
【0020】
また、本発明の基材フィルムは、(A)〜(C)の成分の合計質量に対して、オレフィン系エラストマー(B)を27〜75質量%含有することがより好ましく、29〜75質量%含有することが更に好ましい。オレフィン系エラストマー(B)の含有量を25質量%以上とすることで柔軟性が好ましいものとなり、75質量%以下とすることで耐熱荷重性が好ましいものとなる。
【0021】
また、本発明の基材フィルムは、(A)〜(C)の成分の合計質量に対して、スチレン系エラストマー(C)を7〜40質量%含有することが好ましく、7〜35質量%含有することが更に好ましい。スチレン系エラストマー(C)の含有量を5質量%以上とすることで柔軟性が好ましいものとなり、40質量%以下とすることで生産性が好ましいものとなる。
【0022】
よって、本発明の基材フィルムは、ポリプロピレン系樹脂(A)、オレフィン系エラストマー(B)およびスチレン系エラストマー(C)の含有量を上述の範囲とすることで、各樹脂が保有する優れた特性を活かしたフィルムを設計することができ、エキスパンド性に優れつつも、高温下において製造する工程においても耐えうる耐熱荷重性を持つフィルムを得ることができる。
【0023】
[ポリプロピレン系樹脂]
本発明に使用するポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレンの共重合体、及びこれらの混合物等が例示できる。
【0024】
前記プロピレンの共重合体としてはプロピレンとエチレンまたは他のα−オレフィンとのランダム共重合体(ランダムポリプロピレン)、またはブロック共重合体(ブロックポリプロピレン)、ゴム成分を含むブロック共重合体あるいはグラフト共重合体等が挙げられる。前記プロピレンと共重合可能な他のα−オレフィンとしては、炭素原子数が4〜12のものが好ましく、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、1−デセン等が挙げられ、その1種または2種以上の混合物が用いられる。通常、α−オレフィンの混合割合はプロピレンに対して1〜10重量%程度である。
【0025】
本発明に使用するポリプロピレン系樹脂は、なかでも、融点が160℃以上であることが好ましい。融点を160℃以上とすることで耐熱荷重性を効果的に持たせることができる。このようなポリプロピレン系樹脂としてはプロピレン単独重合体(ホモPP)やエチレン‐プロピレンブロックコポリマー(ブロックPP)等が挙げられる。
【0026】
[オレフィン系エラストマー]
本発明に使用するオレフィン系エラストマーは、クロス分別法により測定した0℃における樹脂溶出量が、全溶出量に対して10質量%未満であることが好ましい。0℃での樹脂溶出量が全溶出量に対して10質量%未満であれば、基材層から粘着剤層への低分子量成分の移行により発生する粘着力の低下を抑制することができる。さらに、低分子量成分の移行によって粘着剤の凝集力が低下することを防止でき、離型紙および貼付対象への糊残りが発生するといった不具合を抑制することができる。このようなオレフィン系エラストマーとしては、メタロセン触媒を用いてハードセグメント部を重合させたエチレン/プロピレン共重合体ブロックを多段重合したオレフィン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0027】
[スチレン系エラストマー]
本発明に使用するスチレン系エラストマーは、特に限定されることはなく一般的に公知であるスチレン系エラストマーを使用することができる。中でも、常温でのゴム弾性性能やオレフィン系樹脂との相溶性が良い点から、スチレン−エチレン・ブチレン共重合体(SEBS)やスチレン−エチレン・プロピレン共重合体(SEPS)等の水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーを好ましく使用することができ、前記オレフィン系エラストマーに添加した際には、よりブリードアウトが発生しにくくなるため好ましい。
【0028】
本発明の基材フィルムは、ポリプロピレン系樹脂(A)、オレフィン系エラストマー(B)およびスチレン系エラストマー(C)の他に、必要に応じて他の樹脂や各種添加剤を含有することができる。このような樹脂としては、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、エチレン−メチルアクリレート共重合体やエチレン−メタクリル酸共重合体やエチレン−メチルメタクリレート共重合体等のアクリル系樹脂およびアイオノマー、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリアミド、エチレン−ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。また、添加剤としては、例えば、帯電防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤及び着色剤等が挙げられる。
【0029】
[本発明の基材フィルムの層構成]
本発明の基材フィルムは、単層フィルムでも多層フィルムでもよい。多層フィルムとする場合は、少なくとも1層が引張弾性率50〜370MPa、かつ130℃における熱荷重伸度が10%以下であればよい。また、多層フィルム全体として引張弾性率50〜370MPa、かつ130℃における熱荷重伸度が10%以下であってもよい。また、多層フィルムは、表裏層からなる2種2層の積層フィルムおよび/または表裏層と中間層からなる2種3層の積層フィルムとすることもできる。
【0030】
本発明の基材フィルムが多層フィルムの場合、多層フィルム全体として、ポリプロピレン系樹脂(A)、オレフィン系エラストマー(B)及びスチレン系エラストマー(C)の含有量を上述の範囲とすることが好ましい。
【0031】
本発明の好ましい態様においては、基材フィルムの厚みは、30μm〜500μmであり、更に好ましくは、50μm〜300μmである。上記の特定値の範囲であれば、柔軟性を保持しつつも半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルムとして十分な強度を保ち、また成形加工性にも優れる。
【0032】
本発明の基材フィルムは、レーザーマーキング性等の観点から透明性がある方が作業性等に優れるため好ましい。この観点から、基材フィルムのヘイズは25%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更に好ましい。また、本発明に使用するポリプロピレン系樹脂は、前述する耐熱性と透明性を兼ね備えたポリプロピレン系樹脂として、プロピレン単独重合体を用いることがより好ましい。プロピレン単独重合体を用いることで、基材フィルムの透明性をより効果的に持たせることができる。
【0033】
[本発明の基材フィルムの製法]
本発明の基材フィルムは、ポリプロピレン系樹脂(A)、オレフィン系エラストマー(B)及びスチレン系エラストマー(C)、更に任意の添加剤及び他の樹脂をドライブレンド又は押出機で混練することにより樹脂組成物を調製し、当該樹脂組成物をTダイ押出し成形法等の押出し成形法、インフレーション成形法及びカレンダー成形法等の一般的な熱可塑性樹脂フィルムの成形方法により製造することができる。本発明の基材フィルムの製造方法においては、特に押出し成形法が適している。尚、押出しの際の樹脂組成物のメルトフローレートは、1〜20g/10分、好ましくは、5〜15g/10分である。樹脂組成物のメルトフローレートが1g/10分以上であれば溶融粘度が高くなり過ぎることがなく押出加工性が良好であり、20g/10分以下であれば溶融粘度が低くなり過ぎることがなく流動性が良好で加工性に優れるためである。
【0034】
[粘着フィルム]
本発明の粘着フィルムは、本発明で得られる単層または多層の基材フィルムが少なくとも1層含まれていればよい。本発明の粘着フィルムは、基材フィルムの少なくとも片面側に、粘着剤層を積層してなる。
粘着剤層として用いられる粘着剤は特に限定されないが、例えば、天然ゴム系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シリコン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂等の各種粘着剤が用いられる。また粘着剤層の上にさらに接着剤層や熱硬化性樹脂層等の機能層を設けても良い。
【0035】
本発明の粘着フィルムにおいて、基材フィルムの少なくとも片面側は、プラズマ処理やコロナ処理、オゾン処理および火炎処理等の方法により表面処理されてもよい。また、基材フィルムと粘着層の間には、必要によりプライマー層を設けてもよい。また、本発明の目的を損ねない限り、基材フィルムの粘着層が設けられた側の反対面に更に樹脂層を設けても良い。
【0036】
本発明の粘着フィルムは、半導体製造工程用粘着フィルムとして好適に用いられ、特に、シリコンやガリウム砒素等の半導体の他、ガラスおよび水晶、BGAやQFN等のパッケージ基板をダイシングする際に用いることもできる。ダイシングの方法としては特に限定されないが、特にレーザーダイシングに好適に用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施形態について実施例を用いて詳述するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
[使用した材料]
樹脂A−1:日本ポリプロ社製「ノバテック MA3U」
(ホモPP、Tm:168℃)
樹脂A−2:日本ポリプロ社製「ノバテック FX3B」
(ランダムPP、Tm:134℃)
樹脂A−3:日本ポリプロ社製「ノバテック BC3HF」
(ブロックPP、Tm:164℃)
樹脂B:日本ポリプロ社製「ウェルネクス RFX4V」
(メタロセン重合オレフィン系エラストマー、Tm:127℃、全溶出量に対する0℃における樹脂溶出量:4.1%)
樹脂C:旭化成ケミカルズ社製「タフテック H1221」
(水添スチレン系エラストマー)
【0039】
実施例に使用した各樹脂の分析方法は以下の通りである。
[融点(Tm)]
示差走査熱量測定装置(メトラー・トレド製 DSC823e)を用い、試料約5mgを、昇温速度10℃/分で25℃から230℃まで昇温した後、冷却速度10℃/分で25℃まで降温し、再度、昇温速度10℃/分で230℃まで昇温した際に測定されたチャートの融解ピーク温度を融点(Tm)とした。
【0040】
[クロス分別測定]
測定装置:クロス分別クロマトグラフ CFC2(Polymer ChAR社製)、検出器:赤外分光光度計 IR4(Polymer ChAR社製)、検出波長:3.42μm、GPCカラム:Shodex HT−806M(昭和電工社製)、カラム温度:140℃、カラム校正:単分散ポリスチレン(東ソー社製)、分子量校正法:ポリスチレン換算、溶離液:o‐ジクロロベンゼン(ODCB)
流速:1.0mL/分、試料濃度:90mg/30mL(3mg/mL)、注入量:0.5mL、降温条件:1℃/分(140℃→0℃)、その後60分間保持し、以下に記載する温度にて段階的に昇温され、それぞれの温度において溶出量が安定するまで保持されながら、その温度における溶出分を測定し、全溶出量に対して0℃における樹脂溶出量を算出する。溶出区分:0、10、20、30、40、50、60、70、75、80、83、86、90、94、98、102、106、110、120、140℃
【0041】
[基材フィルムの作製]
各樹脂を表1〜3に記載する配合にてドライブレンドし、東芝機械製単軸押出機(50φmm、L/D=32)のホッパーに投入し、押出機温度をC1:210℃、C2:230℃、C3:230℃、C4:230℃、C5:230℃のように設定し、550mm幅Tダイ(温度設定:230℃、リップ開度0.3mm)から押出した。押出された溶融樹脂は、冷却ロールを備えた巻き取り機(冷却ロール700mm幅×φ350mm、ロール温度30℃)にて冷却固化し、厚み0.08mmの単層および2種3層(表層/中間層/表層=1/8/1)の基材フィルムを得た。
【0042】
得られた各フィルムについて、以下の評価項目について評価を行った。結果を表1〜3に示す。
【0043】
[柔軟性(引張弾性率)]
得られた基材フィルムを使用し、JISK7127に準拠し、1号ダンベル試験片を採取し、23℃、60%RHの雰囲気下、オートグラフ(島津製作所製AGS−X)を用いて、引張速度50mm/分にて引張弾性率を測定した。
【0044】
[耐熱荷重性(熱荷重伸度)]
得られた基材フィルムを使用し、長さ100mm、幅10mmの試験片を作製し、長さ方向に40mm間隔の標線を引く。次いで標線下部に荷重3gの錘を取り付け、試験片を垂直に保持し、ギヤオーブン(東洋精機製作所製STD60−P)を用いて、試験温度130℃の環境で30分間養生した。
養生後、ギヤオーブンから取り出し、標線間長さを測定し、下記式にて熱荷重伸度を求めた。
熱荷重伸度=(加熱後の標線間長さ−加熱前の標線間長さ)/(加熱前の標線間長さ)×100
【0045】
[透明性(ヘイズ)]
得られた基材フィルムを使用し、JISK7105に準拠し、ヘイズメーター(日本電色工業製NDH2000)を用いて、基材フィルムのヘイズを測定した。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
表1、表2より、実施例1〜13の基材フィルムは柔軟性と耐熱荷重性に優れていることが認められる。特に、実施例1〜9および11〜13の基材フィルムは透明性にも優れており、好ましい性能を有していることが認められる。とりわけ実施例6、9および12は、耐熱荷重性の観点から特に優れており、特に好ましい性能を有している結果が得られた。
【0050】
表3より、比較例1、5および6は耐熱性が不足していることが認められる。特に、融点が160℃に満たない樹脂A−2を使用した比較例5および6は負荷に耐えきれず基材が破断する結果となった。
また、比較例2〜4は耐熱性が良好であるものの柔軟性が不足しておりエキスパンド性に優れないことが確認された。
【0051】
この結果から、本発明の半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルムは、半導体製造工程における高温環境下においても半導体ウェハの荷重に耐えうる耐熱荷重性と、ダイシング工程におけるエキスパンド性を両立できる半導体製造工程用粘着フィルムに使用する基材フィルムであることがわかる。