特許第6412596号(P6412596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6412596廉価で塩害耐食性に優れた自動車用部材および給油管
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6412596
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】廉価で塩害耐食性に優れた自動車用部材および給油管
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20181015BHJP
   C22C 38/28 20060101ALI20181015BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20181015BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20181015BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/28
   C22C38/60
   !C22C21/02
【請求項の数】14
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-574802(P2016-574802)
(86)(22)【出願日】2016年2月9日
(86)【国際出願番号】JP2016053742
(87)【国際公開番号】WO2016129576
(87)【国際公開日】20160818
【審査請求日】2017年7月24日
(31)【優先権主張番号】特願2015-23998(P2015-23998)
(32)【優先日】2015年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】新日鐵住金ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦島 裕史
(72)【発明者】
【氏名】井上 宜治
(72)【発明者】
【氏名】田上 利男
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−068102(JP,A)
【文献】 特開2012−197071(JP,A)
【文献】 特開2003−277992(JP,A)
【文献】 特開2004−210003(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/037707(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C≦0.015%、N≦0.015%、Cr:10.5〜18.0%、Si:0.01〜0.80%、Mn:0.01〜0.80%、P≦0.050%、S≦0.010%、Al:0.010〜0.100%、Mo:0.3%超〜1.5%を含有し、更に、Ti≦0.30%、Nb≦0.30%であって0.03%≦Tiと0.03%≦Nbの一方又は両方を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物より成るフェライト系ステンレス鋼を素材としたAlめっきを有しない部材へ、Alめっき付着量が20g/m2以上150g/m2以下のAlめっきステンレス鋼板から成型された金具部品を溶接あるいはロウ付けによって取り付け、前記部材に取り付けられるAlめっきステンレス鋼板から成型された前記金具部品との間において、塩害環境に曝される隙間構造部を形成し、次に、前記金具部品と部材の表面に厚み5〜35μmのカチオン電着塗膜を被覆することを特徴とする自動車用部材。
【請求項2】
前記部材の素材は質量%で、さらにB:0.0002〜0.0050%、Sn:0.01〜0.50%のいずれか1種または2種からなる第1群、
Cu:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Sb:0.005〜0.5%、Zr:0.005〜0.5%、Co:0.005〜0.5%、W:0.005〜0.5%、V:0.03〜0.5%、Ga:0.001〜0.05%、Ta:0.001〜0.05%のいずれか1種または2種以上からなる第2群のうち、少なくともいずれかの群を含有することを特徴とする請求項1に記載の自動車用部材。
【請求項3】
前記金具部品の素材の組成が、質量%でMo:0.005〜1.5%であり、Mo以外の成分についてはAlめっきを有しない部材の素材と同一組成範囲のフェライト系ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動車用部材。
【請求項4】
質量%で、C≦0.015%、N≦0.015%、Cr:10.5〜18.0%、Si:0.01〜0.80%、Mn:0.01〜0.80%、P≦0.050%、S≦0.010%、Al:0.010〜0.100%、Mo:0.3%超〜1.5%を含有し、更に、Ti≦0.30%、Nb≦0.30%であって0.03%≦Tiと0.03%≦Nbの一方又は両方を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物より成るフェライト系ステンレス鋼を素材とした鋼管を成型したAlめっきを有しない鋼管部材の外周部の燃料に接することのない位置へ、Alめっき付着量が20g/m2以上150g/m2以下のAlめっきステンレス鋼板から成型された金具部品を溶接あるいはロウ付けによって取り付け、前記鋼管部材に取り付けられるAlめっきステンレス鋼板から成型された前記金具部品との間において、塩害環境に曝される隙間構造部を形成し、次に、前記金具部品と前記鋼管部材の表面に厚み5〜35μmのカチオン電着塗膜を被覆することを特徴とする給油管。
【請求項5】
前記鋼管部材の素材は質量%で、さらにB:0.0002〜0.0050%、Sn:0.01〜0.50%のいずれか1種または2種からなる第1群、
Cu:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Sb:0.005〜0.5%、Zr:0.005〜0.5%、Co:0.005〜0.5%、W:0.005〜0.5%、V:0.03〜0.5%、Ga:0.001〜0.05%、Ta:0.001〜0.05%のいずれか1種または2種以上からなる第2群のうち、少なくともいずれかの群を含有することを特徴とする請求項4に記載の給油管。
【請求項6】
前記金具部品の素材の組成が、質量%でMo:0.005〜1.5%であり、Mo以外の成分については鋼管部材の素材と同一組成範囲のフェライト系ステンレス鋼であることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の給油管。
【請求項7】
前記鋼管部材はインレットパイプであり、前記金具部品は、円錐台形状であって、円錐の小さい円周部において前記鋼管部材の外周に取り付けられ、当該取り付け位置はインレットパイプの端部から5mm以上離れた位置の外周部にある給油口構造を持つ請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の給油管。
【請求項8】
質量%で、C≦0.015%、N≦0.015%、Cr:10.5〜18.0%、Si:0.01〜0.80%、Mn:0.01〜0.80%、P≦0.050%、S≦0.010%、Al:0.010〜0.100%、Mo:0.3%超〜1.5%を含有し、更に、Ti≦0.30%、Nb≦0.30%であって0.03%≦Tiと0.03%≦Nbの一方又は両方を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物より成るフェライト系ステンレス鋼を素材としたAlめっきを有しない部材と、前記部材に取り付けられるAlめっきステンレス鋼板から成型された金具部品との間において、塩害環境に曝される隙間構造部を有し、前記隙間構造部の隙間部に当たる面における前記金具部品のAlめっき付着量が20g/m2以上150g/m2以下であり、前記隙間構造部以外の部材および前記金具部品の表面が厚み5〜35μmのカチオン電着塗膜で被覆されていることを特徴とする自動車用部材。
【請求項9】
前記部材の素材は質量%で、さらにB:0.0002〜0.0050%、Sn:0.01〜0.50%のいずれか1種または2種からなる第1群、
Cu:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Sb:0.005〜0.5%、Zr:0.005〜0.5%、Co:0.005〜0.5%、W:0.005〜0.5%、V:0.03〜0.5%、Ga:0.001〜0.05%、Ta:0.001〜0.05%のいずれか1種または2種以上からなる第2群のうち、少なくともいずれかの群を含有することを特徴とする請求項8に記載の自動車用部材。
【請求項10】
前記金具部品の素材の組成が、質量%でMo:0.005〜1.5%であり、Mo以外の成分についてはAlめっきを有しない部材の素材と同一組成範囲のフェライト系ステンレス鋼であることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の自動車用部材。
【請求項11】
質量%で、C≦0.015%、N≦0.015%、Cr:10.5〜18.0%、Si:0.01〜0.80%、Mn:0.01〜0.80%、P≦0.050%、S≦0.010%、Al:0.010〜0.100%、Mo:0.3%超〜1.5%を含有し、更に、Ti≦0.30%、Nb≦0.30%であって0.03%≦Tiと0.03%≦Nbの一方又は両方を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物より成るフェライト系ステンレス鋼を素材とした鋼管を成型したAlめっきを有しない鋼管部材の外周部の燃料に接することのない位置と、前記鋼管部材に取り付けられるAlめっきステンレス鋼板から成型された金具部品との間において、塩害環境に曝される隙間構造部を有し、前記隙間構造部の隙間部に当たる面における前記金具部品のAlめっき付着量が20g/m2以上150g/m2以下であり、前記隙間構造部以外の鋼管部材および前記金具部品の表面が厚み5〜35μmのカチオン電着塗膜で被覆されていることを特徴とする給油管。
【請求項12】
前記鋼管部材の素材は質量%で、さらにB:0.0002〜0.0050%、Sn:0.01〜0.50%のいずれか1種または2種からなる第1群、
Cu:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Sb:0.005〜0.5%、Zr:0.005〜0.5%、Co:0.005〜0.5%、W:0.005〜0.5%、V:0.03〜0.5%、Ga:0.001〜0.05%、Ta:0.001〜0.05%のいずれか1種または2種以上からなる第2群のうち、少なくともいずれかの群を含有することを特徴とする請求項11に記載の給油管。
【請求項13】
前記金具部品の素材の組成が、質量%でMo:0.005〜1.5%であり、Mo以外の成分については鋼管部材の素材と同一組成範囲のフェライト系ステンレス鋼であることを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の給油管。
【請求項14】
前記鋼管部材はインレットパイプであり、前記金具部品は、円錐台形状であって、円錐の小さい円周部において前記鋼管部材の外周に取り付けられ、当該取り付け位置はインレットパイプの端部から5mm以上離れた位置の外周部にある給油口構造を持つ請求項11乃至請求項13のいずれか1項に記載の給油管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廉価で塩害耐食性に優れた自動車用部材に関する。特に、融雪塩のような塩分が自動車に付着する頻度が高い地域で使用される、優れた耐食性を確保した給油管に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の給油管には、米国の法規制で15年間もしくは15万マイル走行の寿命保証が義務付けられており、ステンレス鋼(SUS436L:17Cr−1.2Mo)を素材とした給油管が既に実用化されている。
【0003】
北米や欧州地区を走行する自動車は融雪塩環境に曝されるので、給油管に適用される素材には優れた塩害耐食性が求められる。そのため、従来は給油管素材としてSUS436Lが適用されてきた。一方、昨今の資源価格高騰を背景として、コスト低減の要求が生じている。コスト低減の課題に対して、安価な素材を適用するのではなく、一体成型による部品数の低減により解決を図った場合、主要部品であるインレットパイプに直接金具部品が取り付けられることとなる。そのため、インレットパイプと取り付けられた部品との間に隙間構造が形成されてしまう。隙間部は、隙間部以外の一般部に比べ腐食が生じやすいため、塩害環境に曝される給油管外面側の隙間部では隙間腐食を生じる。燃料が通過するインレットパイプに隙間腐食が生じ、穴あきに至った場合、燃料漏れにより深刻な事故を引き起こす可能性がある。
【0004】
従来、隙間部の塩害耐食性を向上させる手段としてカチオン電着塗装などの塗装が用いられてきた。
【0005】
例えば、特許文献1では、SUS436パイプを素材としてプロジェクション溶接を用いて組み立てた給油管にカチオン電着塗装を施す製造方法が開示されている。しかしながら、この技術ではSUS436を素材としたものであり、発明者らの知見によればSUS436においても給油管表面に存在する隙間部はカチオン電着塗装が困難なため、防食が完全とはいえない。従って、融雪塩環境ではこの技術で充分な防錆効果が得られるとは推認できない。
【0006】
また、特許文献2では、SUS436を素材として組み立てた給油管に静電塗装を施して隙間腐食を防止する技術が開示されている。あるいは、特許文献3では、ステンレス鋼製給油管に耐チップ塗装を施し、チッピングを受けても十分な防錆性を確保する技術が示されている。しかしながら、これらの技術は電着塗装の場合よりも塗装コストがかかる。一方、隙間内部には塗装できないため、隙間部の十分な防錆効果が得られる保証はない。
【0007】
特許文献4では、隙間内部を電着塗装で被覆するために、隙間形成部品に突起をつけ、隙間の開口量を0.2mm以上に制御する技術が開示されている。
【0008】
一方、塗装以外の防錆方法についても提示されている。例えば、特許文献5では、ステンレス鋼製給油管の組み立てにおける溶接、ロウ付け、塑性加工などによって不働態皮膜が損なわれた部位や隙間部位に亜鉛の犠牲陽極を配して犠牲防食する技術が開示されている。しかしながら、腐食懸念部位の全てに亜鉛を配するのは煩雑であるし手間がかかる。また、非特許文献1に示されるように亜鉛は塩害環境で消耗し易いので必要量が嵩むとの問題がある。さらに、特許文献6には、インレットパイプに亜鉛メッキ鋼板を用い、隙間部を溶融させた亜鉛で埋めることで、隙間部を無くしている。しかしながら、前述のように亜鉛は耐塩害環境において消耗が激しい上に、給油口がインレットパイプの中に入り込んでいる構造であるため、溶解した亜鉛はインレットパイプ内に侵入しやすく、水分と反応することで、水酸化亜鉛等の腐食生成物を形成し、燃料噴射装置の目詰まりの原因となる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−242779号公報
【特許文献2】特開2004−21003号公報
【特許文献3】特開2006−231207号公報
【特許文献4】特開2012−12005号公報
【特許文献5】特開2005−206064号公報
【特許文献6】特開2012−96570号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】橘高敏晴:表面技術、Vol.42(1991)、No.2、169−177
【非特許文献2】大武 義人:日本ゴム協会誌、Vol.81(2008)、No.9、376−382
【非特許文献3】真木 純:表面技術、Vol.62(2011)、No.1、20−24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、SUS436L同等以下の材料を用いて、インレットパイプと部品との間に隙間構造があることにより、ステンレス鋼の弱点である塩害耐食性、特に隙間部における耐食性を確保することを目的とする。
【0012】
特許文献4の技術では、SUS436L同等以下の素材からなる鋼管部材と、それに取り付けられた金具部品からなる給油管において、塩害環境に曝される表面の隙間構造部の隙間部の内部を電着塗装で被覆するために、隙間構造部の隙間部における開口量を0.2mm以上に制御する必要があった。隙間形成部品に突起を形成して、隙間の開口量を均一に制御するための技術開発が課題であった。本発明では、隙間部の開口量にかかわらず、隙間構造部における耐食性を確保する、廉価で塩害耐食性に優れた自動車用部材を提供することを目標とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、隙間部の耐食性を確保するための手段として、Znよりも塩害環境において消耗の少ないAlの犠牲防食作用の有用性を想起した。しかしながら、非特許文献2に示すようにAlはバイオエタノールに弱いため、特許文献6のインレットパイプのような燃料に接する部材のめっき種をZnからAlに変えた場合、Alの腐食が早いために犠牲防食効果が短期間となる。そこで、燃料の付着の可能性が低い金具部品にAlめっきステンレス鋼板を用い、インレットパイプのような燃料に接する鋼管部材にステンレス鋼板を用いる構造を想起し、鋼管部材の腐食の抑制を図った。そして、その構造を前提にして、Alの犠牲防食の有用性の検討をすすめた。まず、Alめっきステンレス鋼板とステンレス鋼板を接触させた隙間試験片、およびステンレス鋼板同士を接触させた隙間試験片を作製して塩害耐食性を調査した。その結果、Alめっき層の犠牲防食作用によって隙間腐食が抑制されることを知見した。さらに、カチオン電着塗装を施して隙間部以外の部分の試験片表面を被覆することによってAlめっきの消耗が抑制され耐食寿命が延長されることを知見し、所定の耐食寿命を得るためのAlめっき付着量の必要条件を解明した。
【0014】
しかしながら、上記の手法ではAlめっきの犠牲防食効果を利用するため、ステンレスよりもめっき部の溶解が早いため、溶解したAlが問題を引き起こす可能性がある。例えば、給油口のようなインレットパイプの端部と金具部品とで形成される隙間部を対象にした場合、特許文献6のようなインレットパイプに金具部品が入り込む構造では、ステンレス鋼板に穴あきが生じなくても、溶解したAlがインレットパイプ内に侵入する。侵入したAlが水分と反応して水酸化アルミニウムなどの溶解度の低いAl系腐食生成物が生成し、燃料タンク底部に沈殿する。Al系腐食生成物は燃料タンクに蓄積され、最終的には燃料噴射口で目詰まりを生じ、故障を引き起こす可能性がある。そこで本発明者らは、Alめっきステンレス鋼板製の金具部品の取り付け方法を検討した。その結果、Alめっきが消耗するにも関わらず、鋼管部材の外部かつ金具部品を所定の位置に取り付けることで、鋼管部材内部にAlが入らない構造を見出した。
【0015】
本発明は前記知見に基づいて構成したものであり、その要旨は以下の通りである。
(1)質量%で、C≦0.015%、N≦0.015%、Cr:10.5〜18.0%、Si:0.01〜0.80%、Mn:0.01〜0.80%、P≦0.050%、S≦0.010%、Al:0.010〜0.100%、Mo:0.3%超〜1.5%を含有し、更に、Ti≦0.30%、Nb≦0.30%であって0.03%≦Tiと0.03%≦Nbの一方又は両方を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物より成るフェライト系ステンレス鋼を素材としたAlめっきを有しない部材へ、Alめっき付着量が20g/m2以上150g/m2以下のAlめっきステンレス鋼板から成型された金具部品を溶接あるいはロウ付けによって取り付け、前記部材に取り付けられるAlめっきステンレス鋼板から成型された前記金具部品との間において、塩害環境に曝される隙間構造部を形成し、次に、前記金具部品と部材の表面に厚み5〜35μmのカチオン電着塗膜を被覆することを特徴とする自動車用部材。
(2)前記部材の素材は質量%で、さらにB:0.0002〜0.0050%、Sn:0.01〜0.50%のいずれか1種または2種からなる第1群、
Cu:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Sb:0.005〜0.5%、Zr:0.005〜0.5%、Co:0.005〜0.5%、W:0.005〜0.5%、V:0.03〜0.5%、Ga:0.001〜0.05%、Ta:0.001〜0.05%のいずれか1種または2種以上からなる第2群のうち、少なくともいずれかの群を含有することを特徴とする本発明の自動車用部材。
(3)前記金具部品の素材の組成が、質量%でMo:0.005〜1.5%であり、Mo以外の成分についてはAlめっきを有しない部材と同一組成範囲のフェライト系ステンレス鋼であることを特徴とする本発明の自動車用部材。
【0016】
(4)質量%で、C≦0.015%、N≦0.015%、Cr:10.5〜18.0%、Si:0.01〜0.80%、Mn:0.01〜0.80%、P≦0.050%、S≦0.010%、Al:0.010〜0.100%、Mo:0.3%超〜1.5%を含有し、更に、Ti≦0.30%、Nb≦0.30%であって0.03%≦Tiと0.03%≦Nbの一方又は両方を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物より成るフェライト系ステンレス鋼を素材とした鋼管を成型したAlめっきを有しない鋼管部材の外周部の燃料に接することのない位置へ、Alめっき付着量が20g/m2以上150g/m2以下のAlめっきステンレス鋼板から成型された金具部品を溶接あるいはロウ付けによって取り付け、前記鋼管部材に取り付けられるAlめっきステンレス鋼板から成型された前記金具部品との間において、塩害環境に曝される隙間構造部を形成し、次に、前記金具部品と鋼管部材の表面に厚み5〜35μmのカチオン電着塗膜を被覆することを特徴とする給油管。
(5)前記鋼管部材の素材は質量%で、さらにB:0.0002〜0.0050%、Sn:0.01〜0.50%のいずれか1種または2種からなる第1群、
Cu:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Sb:0.005〜0.5%、Zr:0.005〜0.5%、Co:0.005〜0.5%、W:0.005〜0.5%、V:0.03〜0.5%、Ga:0.001〜0.05%、Ta:0.001〜0.05%のいずれか1種または2種以上からなる第2群のうち、少なくともいずれかの群を含有することを特徴とする本発明の給油管。
(6)前記金具部品の素材の組成が、質量%でMo:0.005〜1.5%であり、Mo以外の成分については鋼管部材の素材と同一組成範囲のフェライト系ステンレス鋼であることを特徴とする本発明の給油管。
(7)前記鋼管部材はインレットパイプであり、前記金具部品は、円錐台形状であって、円錐の小さい円周部において前記鋼管部材の外周に取り付けられ、当該取り付け位置はインレットパイプの端部から5mm以上離れた位置の外周部にある給油口構造を持つ本発明の給油管。
【0017】
(8)質量%で、C≦0.015%、N≦0.015%、Cr:10.5〜18.0%、Si:0.01〜0.80%、Mn:0.01〜0.80%、P≦0.050%、S≦0.010%、Al:0.010〜0.100%、Mo:0.3%超〜1.5%を含有し、更に、Ti≦0.30%、Nb≦0.30%であって0.03%≦Tiと0.03%≦Nbの一方又は両方を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物より成るフェライト系ステンレス鋼を素材としたAlめっきを有しない部材と、前記部材に取り付けられるAlめっきステンレス鋼板から成型された金具部品との間において、塩害環境に曝される隙間構造部を有し、前記隙間構造部の隙間部に当たる面における前記金具部品のAlめっき付着量が20g/m2以上150g/m2以下であり、前記隙間構造部以外の部材および前記金具部品の表面が厚み5〜35μmのカチオン電着塗膜で被覆されていることを特徴とする自動車用部材。
(9)前記部材の素材は質量%で、さらにB:0.0002〜0.0050%、Sn:0.01〜0.50%のいずれか1種または2種からなる第1群、
Cu:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Sb:0.005〜0.5%、Zr:0.005〜0.5%、Co:0.005〜0.5%、W:0.005〜0.5%、V:0.03〜0.5%、Ga:0.001〜0.05%、Ta:0.001〜0.05%のいずれか1種または2種以上からなる第2群のうち、少なくともいずれかの群を含有することを特徴とする本発明の自動車用部材。
(10)前記金具部品の素材の組成が、質量%でMo:0.005〜1.5%であり、Mo以外の成分についてはAlめっきを有しない部材の素材と同一組成範囲のフェライト系ステンレス鋼であることを特徴とする本発明の自動車用部材。
【0018】
(11)質量%で、C≦0.015%、N≦0.015%、Cr:10.5〜18.0%、Si:0.01〜0.80%、Mn:0.01〜0.80%、P≦0.050%、S≦0.010%、Al:0.010〜0.100%、Mo:0.3%超〜1.5%を含有し、更に、Ti≦0.30%、Nb≦0.30%であって0.03%≦Tiと0.03%≦Nbの一方又は両方を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物より成るフェライト系ステンレス鋼を素材とした鋼管を成型したAlめっきを有しない鋼管部材の外周部の燃料に接することのない位置と、前記鋼管部材に取り付けられるAlめっきステンレス鋼板から成型された金具部品との間において、塩害環境に曝される隙間構造部を有し、前記隙間構造部の隙間部に当たる面における前記金具部品のAlめっき付着量が20g/m2以上150g/m2以下であり、前記隙間構造部以外の鋼管部材および前記金具部品の表面が厚み5〜35μmのカチオン電着塗膜で被覆されていることを特徴とする給油管。
(12)前記鋼管部材の素材は質量%で、さらにB:0.0002〜0.0050%、Sn:0.01〜0.50%のいずれか1種または2種からなる第1群、
Cu:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Sb:0.005〜0.5%、Zr:0.005〜0.5%、Co:0.005〜0.5%、W:0.005〜0.5%、V:0.03〜0.5%、Ga:0.001〜0.05%、Ta:0.001〜0.05%のいずれか1種または2種以上からなる第2群のうち、少なくともいずれかの群を含有することを特徴とする本発明の給油管。
(13)前記金具部品の素材の組成が、質量%でMo:0.005〜1.5%であり、Mo以外の成分については鋼管部材の素材と同一組成範囲のフェライト系ステンレス鋼であることを特徴とする本発明の給油管。
(14)前記鋼管部材はインレットパイプであり、前記金具部品は、円錐台形状であって、円錐の小さい円周部において前記鋼管部材の外周に取り付けられ、当該取り付け位置はインレットパイプの端部から5mm以上離れた位置の外周部にある給油口構造を持つ本発明の給油管。
【0019】
本発明によって、塩害耐食性を安定的に確保しつつ廉価な給油管が提供できるので、産業上の効果は大きい。
【0020】
すなわち、本発明の技術によって、SUS436L同等以下の素材からなる鋼管部材とそれに取り付けられた金具部品からなる給油管において、隙間構造部の隙間部における開口量が小さいときには、塩害環境に曝される隙間部に当たる金具部品の表面がAlめっきであり、かつ前記隙間部以外の鋼管部材および金具部品の表面はカチオン電着塗膜で被覆されることにより、耐食性が確保できる。対して、開口量が大きい時には塩害環境に曝される表面の隙間構造部の隙間部の内部が電着塗装で被覆されることで、耐食性が確保できる。
さらに、給油口部に使用する場合は、インレットパイプの外側にAlめっきステンレス製の金属部品を取り付けることで、消耗したAlのインレットパイプ内への侵入を防止することができるので、Al腐食生成物によるエンジンの燃料噴射口のつまりを抑え、故障を防ぐことを可能にした。以上より、隙間構造部の隙間部の開口量の構造を特段に制御することなく、安定的に耐食性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A】給油管の中央部に存在する隙間部の隙間構造例を示した斜視図である。
図1B】給油管の中央部に存在する隙間部の隙間構造例を示した断面図である。
図2A】給油管の給油口部に存在する隙間部の隙間構造例を示した斜視図である。
図2B】給油管の給油口部に存在する隙間部の隙間構造例を示した断面図である。
図3】隙間試験片小板のAlめっき付着量と隙間試験片の電着塗膜厚みが隙間腐食深さに及ぼす影響を示す図である。
図4A】構造の検討に使用した構造Iの試験片形状を示す斜視図である。
図4B】構造の検討に使用した構造Iの試験片形状を示す断面図である。
図5A】構造の検討に使用した構造IIの試験片形状を示す斜視図である。
図5B】構造の検討に使用した構造IIの試験片形状を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0023】
本発明で言う部材とは、その内面が燃料環境に曝され外面が塩害環境に曝される部材の総称である。当該部材のうちで鋼管を成型したパイプ形状の部材を鋼管部材と称し、メインパイプ、ブリーザー、燃料配管などの部材が含まれる。メインパイプはインレットパイプとも呼ばれ、給油口から燃料タンクへ燃料を導入するパイプである。また、金具部品とは、塩害環境のみに曝され、部材あるいは鋼管部材との間に隙間部を構成する部品の総称であり、配管支持部材や例えばステー、ブラケットと称される金具やキャッププロテクターやリテーナーと称される部材などが含まれる。部材に金具部品を取り付けて自動車用部材とする。鋼管部材に金具部品を取り付けて給油管とする。
【0024】
本発明の自動車用部材あるいはその代表例である給油管には、例えば図1A図1B図2A図2Bに示すような隙間部が含まれる。図1A図1Bは給油管の中央部を示す事例であり、図1Aはメインパイプ1a(鋼管部材1)とブリーザーチューブ1b(鋼管部材1)を結束して車体に固定するための金具部品2が溶接によって溶接部4で取り付けられている様子を示す斜視概念図であり、図1Bはメインパイプ1aへの金具部品2取り付け部分の断面模式図である。いずれも、金具部品2と鋼管部材1であるメインパイプ1aあるいはブリーザーチューブ1bの溶接部4近傍に隙間部3が形成されている様子を示す。また、図2A図2Bは給油管の給油口部を示す事例であり、ここではメインパイプをインレットパイプと呼ぶ。図2Aはインレットパイプ(鋼管部材11)にキャッププロテクター(金具部品12)が溶接によって溶接部14で取り付けられている様子を示す斜視概念図であり、図2Bはインレットパイプへの金具部品12取り付け部分の断面模式図である。いずれも、金具部品12と鋼管部材11であるインレットパイプの溶接部14近傍に隙間部13が形成されている様子を示す。隙間部3や隙間部13を含む部分を本発明では隙間構造部とよぶ。
【0025】
本発明は、塩害環境に曝される隙間構造部を対象とする。
【0026】
このような隙間部の隙間内部に、塩水が充填されて乾湿サイクルが付与されると隙間腐食が発生し、隙間腐食が成長して鋼管部材を穴明きに至らしめる。これを防止するには隙間腐食の成長を抑制することもさることながら、隙間腐食の発生自体を抑制するのが重要であり、このための手段として犠牲防食を用いるのが常套である。
【0027】
犠牲防食用の犠牲陽極としてはZnが一般的であるが、塩害環境では消耗が早い難点がある。これに比べてAlを犠牲陽極として用いることとすれば、塩害環境において消耗が比較的少なく発生電気量が大きい点や溶融めっきによって鋼板に付着させて用いることができるため強度部材としても機能させ得る点が有用と想起された。
【0028】
そこでまず、鋼管部材に相当するステンレス鋼板と、金具部品に相当するAlめっきステンレス鋼板とを素材とした隙間試験片を作製して塩害耐食性を調査した。
【0029】
隙間試験片は、t0.8×70×150mmサイズの大板にt0.8×40×40mmサイズの小板を重ねて中央部をスポット溶接して作製した。大板は、鋼管部材に相当するものであり、フェライト系ステンレス鋼板を用いた。小板は、金具部品に相当するものであり、Alめっき付着量を変化させたAlめっきステンレス鋼板を用いた。大板は表1−1、表1−2記載の本発明例の含有成分、小板は表2記載の含有成分のステンレス鋼板に、種々の付着量のAlめっきしたものを使用した。大板と小板との対面部分が隙間部を構成する。
【0030】
隙間試験片には、カチオン電着塗装を施した後に塩害腐食試験に供した。カチオン電着塗装において、塗料は日本ペイント(株)製PN−110を用い、浴温28℃、塗装電圧170Vで通電し、塗膜厚みが一般部(大板表面と小板表面のうち、隙間部以外の部分)において2〜40μmになるように条件選定した。焼付条件は、170℃×20分とした。塗膜厚みは電磁膜厚計を用いて1試料について5点測定し、その平均値をもって膜厚とした。なお、一部の試験片について電着塗装後に溶接ナゲットを穿孔して隙間部の内部を観察し、隙間部の内部に塗膜が形成されないことを確認した。
【0031】
これら隙間試験片の塩害耐食性評価試験として、JASOモードの複合サイクル腐食試験(JASO−M609−91規定のサイクル腐食試験(塩水噴霧:5%NaCl噴霧、35℃×2Hr、乾燥:相対湿度20%、60℃×4Hr、湿潤:相対湿度90%、50℃×2Hrの繰り返し))を用いた。試験期間は500サイクルとした。試験終了後、隙間部内部の腐食深さを顕微鏡焦点深度法によって測定した。
【0032】
試験結果を図3に示す。図3は、横軸を小板めっき付着量、縦軸を電着塗装厚みとし、隙間部内部の腐食深さが400μm未満を丸印、400μm以上をクロス印として表示した。図3より、小板のAlめっきステンレス鋼板のAlの犠牲防食効果によって隙間腐食が大幅に抑制できるが、満足すべき効果が得られるには、Alめっきの付着量とカチオン電着塗膜の厚みが適正でなければならないことがわかる。すなわち、犠牲防食効果を長期にわたって維持するにはAlの絶対量が多いほど有利であり、これを維持するには初期の絶対量の多寡と消耗を軽減する対策が必要となる。図3は、初期の隙間腐食絶対量はAlめっき付着量で管理でき、Al消耗軽減は一般面のカチオン電着塗膜厚みで制御できることを示唆している。図3の結果より、Alめっき付着量は20g/m2以上が必要であり、カチオン電着塗膜厚みは5μm以上が必要であると言える。Alめっき付着量、カチオン電着塗膜厚みは多いほど望ましいことは自明であるが、廉価性に配慮すれば、Alめっき付着量は150g/m2を上限とし、カチオン電着塗膜厚みは35μmを上限とするのが順当である。ここにおいて、小板の表面のうち大板と対面する面(隙間部)については、隙間であるためにカチオン電着塗膜が形成されずにAlめっき面が露出しており、この部分の表面Alが犠牲防食に寄与している。
【0033】
このように、本発明における金具部品としてはAlめっきステンレス鋼板を素材とするものであり、隙間部に当たる面におけるAlめっき付着量が20g/m2以上を必要とする。めっき付着量がこれを下回ると満足すべき耐食性が得られないためである。一方、めっき付着量が多くなれば耐食寿命は延長されるが、寿命延長はカチオン電着塗膜による隙間以外の面を被覆することによってある程度確保可能であり、コストも考慮して150g/m2をめっき付着量の上限とする。ここにおいて、「隙間部に当たる面」とは、金具部品が部材又は鋼管部材と接近又は当接して隙間部を構成する面を意味する。
【0034】
Alめっきステンレス鋼板は、溶融めっき法によって製造されたものを用いることができる。Alめっきステンレス鋼板は、純Al浴を用いて製造されるTypeIIよりも、Al−5〜15%Si浴を用いて製造されるTypeIを使用することが望ましい。これは、TypeIの方がTypeIIよりもめっき層とステンレス母地との界面に存在する合金層の厚みが薄く、成型加工時にめっき層の剥離が生じにくいためである。このようなTypeIのAlめっき層には、非特許文献3で示すように、通常約10mass%のSiと約1mass%のAl−Fe−Si金属間化合物が含まれている。
【0035】
部材、鋼管部材と金具部品の表面のうち、少なくとも隙間部の隙間内部以外の面(「一般面」という。)にはカチオン電着塗膜を形成させる。一般面の電着塗膜はAlの防食電流の到達領域を隙間部に限定する効果がある。これによってAlの消耗速度を抑制し防食寿命が延長できる。このためのカチオン電着塗膜の膜厚は5μm以上が必要である。一方、膜厚は厚過ぎても効果は飽和するので35μmを上限とするのが良い。なお、部材、鋼管部材、金具部品の隙間部の面にカチオン電着塗膜が形成されるか否かは、隙間部の開口量によって異なることとなる。隙間部の開口量が、電着塗膜が十分に形成される程度に広い場合(0.2mm以上)は、部材、鋼管部材の隙間内部に電着塗膜が形成されているので、隙間腐食発生を防ぐことができる。一方、隙間部の開口量が小さく隙間部に当たる面に電着塗膜が形成されない場合、従来であると部材、鋼管部材のこの部分に隙間腐食が発生していたが、本発明においては、金具部品の隙間内部部分はAlめっきされており、金具部品のこの部分に電着塗膜が形成されていないためAlが露出しており、Alによる犠牲防食効果を発揮することができる。
【0036】
さらに、本発明の金具部品を給油口部材に適用した時に懸念されるAl成分のインレットパイプ内への流入を防止するためにAlめっきステンレス鋼板製金具部品の取り付け構造の検討を実施した。試験片は、図4A図5Aに示すようにインレットパイプを模擬したフェライト系ステンレス製鋼管21の外面および内面に給油口部材(金具部品)を模擬したAlめっきステンレス製鋼管22を4点のスポット溶接部24により溶接して隙間部23を形成したものを用いた。フェライト系ステンレス製鋼管21は成分として表1−1のNo.E01を用い、形状はφ50×50L×0.8tmmである。Alめっきステンレス製鋼管22として表2のNo.A3を用い、Alめっき付着量は49g/cm2とした。Alめっきステンレス製鋼管22の形状は、図4A図4Bの構造Iのように、フェライト系ステンレス製鋼管21の外面にAlめっきステンレス製鋼管22を溶接する場合はφ52×50L×0.8tmmとし、図5A図5Bの構造IIのように、フェライト系ステンレス製鋼管21の内面にAlめっきステンレス製鋼管22を溶接する場合はφ48×50L×0.8tmmとした。Alめっきステンレス製鋼管22を取り付けるための溶接部24位置(取り付け位置27)をフェライト系ステンレス製鋼管21の端部から0〜20mmに変化させた。
【0037】
試験片にはカチオン電着塗装を施した。カチオン電着塗装において、塗料は日本ペイント(株)製PN−110を用い、浴温28℃、塗装電圧170Vで通電し、塗膜厚みが一般部(フェライト系ステンレス製鋼管21表面とAlめっきステンレス製鋼管22表面のうち、隙間部23以外の部分)において30μmになるように条件選定した。焼付条件は、170℃×20分とした。塗膜厚みは電磁膜厚計を用いて1試料について5点測定し、その平均値をもって膜厚とした。なお、一部の試験片について電着塗装後に溶接ナゲットを穿孔して隙間部の内部を観察し、隙間部の内部に塗膜が形成されないことを確認した。
【0038】
これら隙間試験片の塩害耐食性評価試験として、上記と同様JASOモードの複合サイクル腐食試験(JASO−M609−91規定のサイクル腐食試験(塩水噴霧:5%NaCl噴霧、35℃×2Hr、乾燥:相対湿度20%、60℃×4Hr、湿潤:相対湿度90%、50℃×2Hrの繰り返し))を用いた。試験期間は500サイクルとした。なお、試験中は図4B図5Bに示すように鋼管の上下2カ所にシリコン栓25でふたをし、溶出したAlの液がフェライト系ステンレス鋼管21内部へ自然に流入しないようにした。
【0039】
試験終了後、フェライト系ステンレス鋼管21内部へのAl腐食生成物の侵入の有無を評価した。
【0040】
試験結果を表4に示す。いずれも腐食による穴あきは見られなかったが、構造IIでは消耗したAlめっき部からフェライト系ステンレス鋼管内へAl腐食生成物が侵入していた。さらに、構造Iかつ取り付け位置27がフェライト系ステンレス製鋼管21の端部から5mm未満の場合、鋼管の端面が腐食し、端部とシリコン栓との隙間からフェライト系ステンレス鋼管内へAl腐食生成物が侵入していた。したがって、構造Iかつ取り付け位置27がフェライト系ステンレス製鋼管21の端部からから5mm以上の場合、フェライト系ステンレス鋼管にAl腐食生成物が侵入しないことが分かる。
【0041】
以上、まとめると、フェライト系ステンレス鋼を素材とした部材と、部材に取り付けられるAlめっきステンレス鋼板から成型された金具部品との間において、塩害環境に曝される隙間構造部を有し、隙間構造部の隙間部に当たる面における金具部品のAlめっき付着量が20g/m2以上150g/m2以下であり、少なくとも隙間部以外の部材および金具部品の表面が厚み5〜35μmのカチオン電着塗膜で被覆されていることを特徴とする自動車用部材とすることにより、隙間部の開口量のいかんに関わらず、隙間腐食を有効に防止することを可能にする。部材と金具部品との取り付けについては、両者が相互に電気伝導性を有する程度に固着していれば足りる。さらに、本発明を給油口部に適用する場合は、インレットパイプ(鋼管部材)の外面かつ端面から5mm以上離れた位置に金具部品を溶接すると好ましい。これにより、インレットパイプ内にAl腐食生成物の侵入を防止できるという効果をも発揮することができる。
【0042】
次に、上記本発明の自動車用部材の製造方法について説明する。まず、フェライト系ステンレス鋼を素材とした部材へ、Alめっき付着量が20g/m2以上150g/m2以下のAlめっきステンレス鋼板から成型された金具部品を取り付ける。部材と金具部品との取り付けを溶接あるいはロウ付けによって行うと好ましい。部材と金具部品との取り付け部近傍には隙間部が形成される。この隙間部は塩害環境に曝される場所に位置する。また、隙間部を含む部分を隙間構造部という。これにより、部材に取り付けられるAlめっきステンレス鋼板から成型された金具部品との間において、塩害環境に曝される隙間構造部を形成する。次にカチオン電着塗装を行い、金具部品と部材の表面を厚み5〜35μmのカチオン電着塗膜で被覆する。Alめっきを付着した金具部品を部材に取り付けるので、取り付け部付近に形成される隙間部の当たる面における金具部品のAlめっき付着量が20g/m2以上150g/m2以下となる。本発明の自動車用部材はまた、以上のように製造されてなる自動車用部材である。
【0043】
上記部材として鋼管を成型した鋼管部材を用いることにより、本発明の自動車用部材を給油管として好適に用いることができる。
【0044】
次に、部材、鋼管部材の素材について説明する。ここで言う鋼管部材とは、内部に燃料ガスが充満するメインパイプ(インレットパイプ)やブリーザーチューブ等のパイプ形状の部材を意味する。また金具部品についても、下記で説明する素材を用いることとすると好ましい。
【0045】
本発明では、SUS436Lと同等もしくは合金元素含有量が適度に少ない素材であることに特長を持たせる。具体的には、以下の組成より成るフェライト系ステンレス鋼を素材とする。以下、含有量の%は質量%を意味する。
【0046】
C、N:CおよびNは、溶接熱影響部における粒界腐食の原因となる元素であり、耐食性を劣化させる。また、冷間加工性を劣化させる。このため、C、Nの含有量は可及的低レベルに制限すべきであり、C、Nの上限は0.015%とするのが望ましく、より望ましは0.010%である。なお、下限値は特に規定するものではないが、精錬コストを考慮して、C:0.0010%、N:0.0050%とするのが良い。
【0047】
Cr:Crは加熱後耐食性を確保する基本的元素であり適量の含有が必須であり、Cr含有量の下限を10.5%とする必要がある。Cr含有量の好ましい下限は13.0%であり、より好ましくは16.0%である。一方、加工性を劣化させる元素であることと合金コスト抑制の観点から上限含有量を18.0%に設定するのがよい。Cr含有量の好ましい上限は17.5%である。本発明においては、より低級な素材を追究する観点からは、Crは13.0%未満がよく、より好ましくは、12.0%以下である。
【0048】
Ti、Nb:TiおよびNbはC、Nを炭窒化物として固定して粒界腐食を抑制する作用を有する。このため、TiとNbの一方又は両方を含有させるが、過剰に含有させても効果は飽和するため、各々の含有量の上限を0.30%とする。ここにおいて、TiとNbの少なくとも一方の含有量が0.03%以上であれば効果を発揮することができる。なお、Ti、Nbの適正含有量としては、両元素の合計量がC、N合計含有量の5倍量以上かつ30倍量以下がよい。好ましくは、Ti、Nb合計含有量がC、N合計含有量の10倍以上とするのが良い。また25倍以下とするのが良い。
【0049】
Si:Siは精錬工程における脱酸元素として有用であり0.01%を下限として含有させる。好ましい下限は0.10%である。一方、加工性を劣化させるため多量に含有させるべきではなく上限を0.80%に制限するのがよい。好ましい上限は0.50%である。
【0050】
Mn:Mnも脱酸元素、S固定元素として0.01%以上を含有させるが、Mnも加工性を劣化させるため多量に含有させるべきではなく上限を0.80%に制限するのがよい。好ましい下限は0.10%である。好ましい上限は0.50%である。
【0051】
P:Pは加工性を著しく劣化させる元素であり不純物元素である。このため、Pの含有量は可及的低レベルが望ましい。許容可能な含有量の上限を0.050%とする。望ましいPの上限値は0.030%である。なお、下限値は特に規定するものではないが、精錬コストを考慮して、0.010%とするのが良い。
【0052】
S:Sは耐食性を劣化させる元素であり不純物元素である。このためSの含有量は可及的低レベルが望ましい。許容可能なS含有量の上限を0.010%とする。望ましいS含有量の上限値は0.0050%である。なお、下限値は特に規定するものではないが、精錬コストを考慮して、0.0005%とするのが良い。
【0053】
Al:Alは脱酸元素として有用であり、0.010%以上を含有させるが、加工性を劣化させるため多量に含有させるべきではなく上限を0.100%に制限するのがよい。好ましくは、含有量の上限を0.080%とするのが良い。
【0054】
Mo:Moは、不働態皮膜の補修に効果があり、耐発銹性と耐腐食進展性を向上させるのに非常に有効な元素で特にCrとの組み合わせで耐孔食性を向上させる効果がある。Moを増加させると耐食性は向上するため、少なくとも0.3%超必要であるが、同時に加工性を低下させ、またコストが高くなるため上限を1.5%とする。望ましい下限は0.6%である。望ましい上限は1.1%である。
【0055】
前記元素に加えて、鋼の諸特性を調整する目的で以下の合金元素が含有されていても良い。
【0056】
B:Bは2次加工脆化や熱間加工性劣化を防止するのに有用な元素であり、耐食性には影響を与えない元素である。このため0.0002%を下限としてBを含有させるが、0.0050%を超えるとかえって熱間加工性が劣化するので、上限を0.0050%とするのが良い。好ましくは、B含有量の上限を0.0020%とするのが良い。
【0057】
Sn:Snは微量の含有で耐食性を向上させるのに有用な元素であり、廉価性を損なわない範囲で含有させる。Sn含有量0.01%未満では耐食性向上効果は発現されず、0.50%を超えるとコスト増が顕在化すると共に加工性も低下するので、含有量0.01〜0.50%を適正範囲とする。好ましくは下限を0.05%とするのが良い。好ましくは上限を0.30%とするのが良い。
【0058】
以上説明した各元素の他にも、本発明の効果を損なわない範囲で下記の元素を含有させることができる。
【0059】
Cu、Ni:Cu、Niは腐食が進行した際の腐食速度を抑制する効果があり、0.01〜0.5%が望ましい。ただし過剰な添加は加工性を低減させるので望ましい上限は0.3%である。
【0060】
Sb、Zr、Co、W:Sb、Zr、Co、Wも、耐食性を向上させるために必要に応じて添加させることができる。これらは腐食速度を抑制するのに重要な元素であるが、過剰な添加は製造性及びコストを悪化させるため、その範囲をいずれも0.005〜0.5%とした。より望ましい下限0.05%である。より望ましい上限は0.4%である。
【0061】
V:Vは耐すき間腐食性を改善するため、必要に応じて添加することができる。ただしVの過度の添加は加工性を低下させる上、耐食性向上効果も飽和するため、Vの下限を0.03%、上限を0.5%とする。より望ましい下限は0.05%である。より望ましい上限は0.30%である。
【0062】
Ga、Ta:Ga、Taは耐食性および加工性向上に寄与する元素であり、0.001〜0.05%の範囲で含有させることができる。
【0063】
前記組成より成るステンレス鋼は、転炉や電気炉などで溶製、精錬された鋼片を熱間圧延、酸洗、冷延、焼鈍、仕上酸洗等を施す通常のステンレス鋼板の製造方法によって鋼板として製造される。なお、必要に応じて熱延の後に熱延板焼鈍を追加してもよい。さらに、この鋼板を素材として電気抵抗溶接、TIG溶接、レーザー溶接などの通常のステンレス鋼管の製造方法によって溶接管として製造される。
【0064】
このステンレス鋼管は、曲げ加工、拡管加工、絞り加工といった冷間での塑性加工やスポット溶接、プロジェクション溶接、MIG溶接、TIG溶接といった溶接やろう付け、あるいはボルトナットによる種々の金具の取り付けなどの通常の成型、組立工程を経て給油管に成型される。
【0065】
なお、金具部品の素材であるAlめっきステンレス鋼板としては、Mo:0.005〜1.5%であり、Mo以外の成分については鋼管部材と同一組成範囲のフェライト系ステンレス鋼であるのが望ましく、少なくとも鋼管部材よりも合金含有量が多い高耐食性材料である必要はない。
【0066】
金具部品の素材中に含有するMoは不働態皮膜の補修に効果があり、耐発銹性と耐腐食進展性を向上させるのに非常に有効な元素で特にCrとの組み合わせで耐孔食性を向上させる効果がある。Moを増加させると耐食性は向上する。めっきの素材として適用する場合、めっきによる防食効果が加わるため、めっきを有しないフェライト系ステンレス製部材に比べて下限値が小さく、0.005%以上必要である。しかしながら、過度の添加は、加工性を低下させ、コストが高くなるため、上限を1.5%とする。コストを考えた場合、望ましい上限0.60%である。塩害が軽微な環境であれば、上限は0.30%が望ましい。
【0067】
金具部品の素材中に含有するMo以外の成分含有量の限定理由については、前記鋼管部材の成分限定理由と同一である。
【実施例】
【0068】
実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明する。まずは、フェライト系ステンレス鋼の成分、Alめっきステンレス鋼板のAlめっき付着量、カチオン電着塗装膜厚について説明する。
【0069】
表1−1、表1−2に示す組成のフェライト系ステンレス鋼を150kg真空溶解炉で溶製し、50kg鋼塊に鋳造した後、熱延−熱延板焼鈍−酸洗−冷延−焼鈍−仕上酸洗の工程を通して板厚0.8mmの鋼板を作製した。この鋼板素材より、t0.8×70×150mmサイズの大板を採取した。大板は部材、又は鋼管部材(給油管本体)を模擬したものである。なお、表1−2の中で、No.X8、X9、X10、X12は、Si、Mn、P、Alが過多であり、冷延時に耳割れが生じたため、加工性が不十分であると判断し、以後の耐食性試験には供していない。
【0070】
また、表2に示す組成のフェライト系ステンレス鋼を転炉溶製して鋳造−熱延−熱延板焼鈍−酸洗−冷延−焼鈍−仕上酸洗−溶融Alめっきの工程を通して板厚0.8mmのAlめっきステンレス鋼板を製造した。このAlめっきステンレス鋼板素材より、t0.8×40×40mmサイズの小板を採取した。小板は、金具部品を模擬したものである。
【0071】
大板の上に小板を重ねて、中央部に1点スポット溶接を施して隙間試験片を作製した。大板と小板が接して対面する部分が隙間部を構成する。
【0072】
隙間試験片にカチオン電着塗装を施し、その後に塩害腐食試験に供した。カチオン電着塗装において、塗料は、日本ペイント(株)製PN−110を用い、浴温28℃、塗装電圧170Vで通電し、塗膜厚みが一般部において2〜40μmになるように条件選定した。焼付条件は、170℃×20分とした。塗膜厚みは電磁膜厚計を用いて1試料について5点測定し、その平均値をもって膜厚とした。隙間試験片の隙間部はNo.40を除いて開口量が僅少であるため、隙間部の内部には電着塗膜が形成されず、大板の隙間部内部についてはステンレス鋼の素地が露出しており、小板の隙間部内部についてはAlめっき膜が露出した状況である。
【0073】
これら隙間試験片の塩害耐食性評価試験として、JASOモードの複合サイクル腐食試験(JASO−M609−91規定のサイクル腐食試験(塩水噴霧:5%NaCl噴霧、35℃×2Hr、乾燥:相対湿度20%、60℃×4Hr、湿潤:相対湿度90%、50℃×2Hrの繰り返し))を用いた。試験期間は500サイクルとした。試験終了後、溶接ナゲットを穿孔して隙間試験片を解体し、除錆処理を施した後、大板の隙間部内部の腐食深さを顕微鏡焦点深度法によって測定した。1試験片あたり10点の測定を行い、その最大値をサンプルの代表値とした。満足すべき耐食性としては、最大腐食深さが板厚の1/2未満(400μm)であることを目標とした。
【0074】
試験水準と試験結果を表3−1、表3−2に示す。
【0075】
【表1-1】
【0076】
【表1-2】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3-1】
【0079】
【表3-2】
【0080】
本発明例のNo.1〜39は何れも最大腐食深さが400μm以下であり良好であった。No.40は、No.1と同じ条件であるが、意図的に隙間部の開口量を0.2mmと大きくした例である。開口部の形成は特許文献4の段落[0042]の方法に基づいて実施した。隙間内部にも塗膜が形成された条件であったが、大板の隙間部が電着塗装によって被覆された結果、良好な耐食性が確保できた。
【0081】
比較例No.128は、素材としてSUS436Lを用い、小板にAlめっきを施していない場合の試験結果である。大板、小板ともにE31(SUS436L)であり、電着塗装も施されているが、隙間腐食によって板厚貫通しており今回の腐食試験が十分に過酷であることがわかる。また、No.129(参考例)は、隙間部の開口量が大きかった例であり、開口部の形成は特許文献4の段落[0042]の方法に基づいて実施した。隙間開口量を0.2mmとした。隙間内部にも塗膜が形成された結果、Alめっき付着量は本発明の範囲外(下限外れ)であったが、隙間部が電着塗装によって被覆された結果、必要な耐食性が確保できることが確認された。
【0082】
このような腐食試験においても、本発明No.1〜39は、Alめっきの犠牲防食作用と電着塗膜のAl消耗抑制作用によって満足すべき耐食性が得られた。
【0083】
一方、比較例No.101〜111は電着塗膜厚みが不十分であり、比較例No.112〜115はAlめっき付着量が不十分であるため、満足すべき耐食性が得られていない。また、比較例No.118〜121、124、127は大板の組成が本発明範囲を外れているため耐食性が不十分である。また、比較例No.116は、Alめっき付着量が過剰でコスト高となっているが、付着量がより少量の本発明No.12、14と同等の耐食性に留まっていた。また、比較例No.117は電着塗膜厚みが過多でコスト高となっているが、膜厚がより薄い本発明No.17と同等の耐食性に留まっていた。また、比較例No.122、123、125、126は、それぞれ大板素材のTi、Nbが過剰でコスト高となっているが、同等Cr量でTi、Nbがより少ない素材を用いた本発明No.17、7、11、1と同等の耐食性に留まっていた。
【0084】
さらに、フェライト系ステンレス製鋼管部材へのAlめっきステンレス鋼製金具部品の取り付け構造について説明する。
【0085】
表1−1のE01に示す組成のフェライト系ステンレス鋼を150kg真空溶解炉で溶製し、50kg鋼塊に鋳造した後、熱延−熱延板焼鈍−酸洗−冷延−焼鈍−仕上酸洗の工程を通して板厚0.8mmの鋼板を作製した。この鋼板素材より、φ50×50×t0.8mmサイズの鋼管をシーム溶接により、フェライト系ステンレス製鋼管21を作製した。フェライト系ステンレス製鋼管21は、インレットパイプを模擬したものである。また、表2のA3に示す組成のフェライト系ステンレス鋼を転炉溶製して鋳造−熱延−熱延板焼鈍−酸洗−冷延−焼鈍−仕上酸洗−溶融Alめっきの工程を通して板厚0.8mmのAlめっきステンレス鋼板を製造した。Alめっき付着量は49g/cm2とした。このAlめっきステンレス鋼板素材より、φ48×50×t0.8mmおよびφ52×50×t0.8mmサイズの部品を打ち抜き加工とプレス成型により、Alめっきステンレス製鋼管22を作製した。Alめっきステンレス製鋼管22は、金具部品を模擬したものである。
【0086】
作製した3種類の鋼管を図4A図5Aのように、フェライト系ステンレス製鋼管21の外部および内部にAlめっきステンレス製鋼管22をフェライト系ステンレス製鋼管21の端部26から0〜20mmの位置の外周に沿った取り付け位置27において4点のスポット溶接(溶接部24)により隙間付き試験片を作製した。フェライト系ステンレス製鋼管21とAlめっきステンレス製鋼管22が接して対面する部分が隙間部23を構成する。
【0087】
隙間試験片には、カチオン電着塗装を施した。カチオン電着塗装において、塗料は、日本ペイント(株)製PN−110を用い、浴温28℃、塗装電圧170Vで通電し、塗膜厚みが一般部において30μmになるように条件選定した。焼付条件は、170℃×20分とした。塗膜厚みは電磁膜厚計を用いて1試料について5点測定し、その平均値をもって膜厚とした。隙間試験片の隙間部23は開口量が僅少であるため、隙間部23の内部には電着塗膜が形成されず、フェライト系ステンレス製鋼管21の隙間部内部についてはステンレス鋼の素地が露出しており、Alめっきステンレス製鋼管22の隙間部内部についてはAlめっき膜が露出した状況である。
【0088】
これら隙間試験片に図4B図5Bに示すように鋼管の上下2カ所にシリコン栓25にて内部を密閉し、45°に傾けた姿勢で塩害腐食性試験に供した。塩害耐食性評価試験として、JASOモードの複合サイクル腐食試験(JASO−M609−91規定のサイクル腐食試験(塩水噴霧:5%NaCl噴霧、35℃×2Hr、乾燥:相対湿度20%、60℃×4Hr、湿潤:相対湿度90%、50℃×2Hrの繰り返し))を用いた。試験期間は500サイクルとした。試験終了後、シリコン栓を外し、フェライト系ステンレス製鋼管内部へのAl腐食生成物の侵入の有無を確認した。
【0089】
試験水準と試験結果を表4に示す。いずれの試験片もフェライト系ステンレス鋼管に穴あきは見られなかった。即ち、表4に示すすべての本発明例、参考例ともに、本発明の効果を発揮している。
【0090】
【表4】
【0091】
本発明例のNo.a〜dは、構造Iかつ取り付け位置27がフェライト系ステンレス鋼管の端部26から5mm以上であり、何れもフェライト系ステンレス製鋼管内部へAlの腐食生成物の侵入が確認できなかった。
【0092】
No.1a、1b(参考例)は構造Iだが取り付け位置27がフェライト系ステンレス鋼管の端部26から5mm未満であり、液だまりにより、鋼管の端面が腐食し、端部とシリコン栓との隙間からフェライト系ステンレス鋼管内へAl腐食生成物が侵入していた。比較例1c〜1gは構造IIであり、消耗したAlめっき部からフェライト系ステンレス鋼管内へAl腐食生成物が侵入していた。
【0093】
このような腐食試験において、本発明No.a〜dは、Alめっきの犠牲防食作用と電着塗膜のAl消耗抑制作用によって満足すべき耐食性が得られ、フェライト系ステンレス鋼管内へのAl腐食生成物の侵入が無いことを確認できた。
【符号の説明】
【0094】
1 鋼管部材
1a メインパイプ(インレットパイプ)
1b ブリーザーチューブ
2 金具部品
3 隙間部
4 溶接部
11 鋼管部材(インレットパイプ)
12 金具部品(キャッププロテクター)
13 隙間部
14 溶接部
21 フェライト系ステンレス製鋼管
22 Alめっきステンレス製鋼管
23 隙間部
24 溶接部
25 シリコン栓
26 端部
27 取り付け位置
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5A
図5B