特許第6412737号(P6412737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6412737
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】電動機の固定子
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/18 20060101AFI20181015BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20181015BHJP
   H02K 3/34 20060101ALI20181015BHJP
   H02K 9/16 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   H02K1/18 B
   H02K15/02 F
   H02K3/34 D
   H02K9/16
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-167686(P2014-167686)
(22)【出願日】2014年8月20日
(65)【公開番号】特開2016-46866(P2016-46866A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川井 庸市
(72)【発明者】
【氏名】横地 孝典
(72)【発明者】
【氏名】志津 達哉
【審査官】 若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−333581(JP,A)
【文献】 実開平03−070056(JP,U)
【文献】 特開2010−115012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/18
H02K 3/34
H02K 9/16
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キュー積層された複数の電磁鋼板を含む固定子鉄心と、前記固定子鉄心のスロットに巻回した巻線と、で構成される電動機の固定子であって、
前記複数の電磁鋼板は、内周または外周の一方に巻線を巻回する前記スロットを、内周または外周の他方に溶接溝を、それぞれ形成した円環状であって、互いに同一形状であり、
前記溶接溝は、その底面に、前記固定子の軸方向と平行かつ直線状の溶接部を形成できるように、その底面が略平面、かつ、固定子の半径方向から見て略平行四辺形に形成されている、
ことを特徴とする電動機の固定子。
【請求項2】
前記溶接溝の底面の円周方向の幅は、固定子鉄心のスキュー角をθ°、固定子鉄心の溶接溝53の底面における直径をD、溶接部の幅をBとすると、D×π×θ÷360+B以上である、ことを特徴とする請求項1に記載の電動機の固定子。
【請求項3】
さらに、固定子鉄心に嵌合する冷却ジャケットを備え、
前記固定子鉄心の溶接溝にモールド樹脂が充填されている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電動機の固定子。
【請求項4】
前記巻線のうち固定子鉄心の端面から突出する部分であるコイルエンドは、モールドされており、
前記溶接溝に充填されるモールド樹脂は、前記コイルエンドをモールドするモールド樹脂と一体成形されている、ことを特徴とする請求項3に記載の電動機の固定子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁鋼板を積層した固定子鉄心を使用する電動機の固定子に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機の固定子は、内周側に巻線を巻回するスロットを、外周に溶接溝を、それぞれ形成した円環状の電磁鋼板を積層した固定子鉄心と、スロットに巻回した巻線と、で構成される。また、固定子を冷却するために、固定子鉄心の外周に嵌合する円筒状の冷却ジャケットを設ける場合もある。
【0003】
固定子鉄心を構成する電磁鋼板は、溶接溝において互いに溶接され、固定される。また、溶接溝の深さは少なくとも溶接の肉盛よりも深く形成されることが望ましい。これは、冷却ジャケットとの嵌合の妨げにならないように、溶接の肉盛が固定子の外周よりも外に飛び出さないようにするためである。
【0004】
固定子鉄心は、電磁鋼板を回転方向に一定角度ずつ回しながら積層していくスキュー積層する場合がある。スキューする理由は、コギングを低減し、モータを指令通りに滑らかに回転させるためや、騒音や振動を低減するためである。
【0005】
ただし、同一形状の固定子鉄心をスキュー積層すると、溶接溝が固定子の軸方向に対して傾斜するため、溶接トーチも斜めに走る必要がある。しかし、溶接トーチを斜めに走らせるためには、高価な溶接機が必要になるため、固定子鉄心の製造コストが上昇するという問題点があった。
【0006】
上述した問題に対して、特許文献1の従来の電動機の固定子によれば、溶接トーチを固定子の軸方向に平行かつ直線状に走らせても、スキュー積層した固定子鉄心を溶接することができる発明を開示している。以下に詳しく説明する。
【0007】
図7図8は、特許文献1に記載された従来の電動機の固定子を示す図である。図7は従来の電動機の固定子を示す図である。図8は従来の電動機の固定子を構成する電磁鋼板を示す図である。
【0008】
図7に示される固定子鉄心1は、図8に示される薄板円盤状の電磁鋼板10,10’,10”等を複数積層させたものである。電磁鋼板10は、同心円状に穴11を有した円盤状の形状を有している。内周10aには、スロット開口15が等間隔に複数形成されている。外周10bには、円周方向に等間隔に、切欠部13が、合計4つ形成されている。電磁鋼板10’は、電磁鋼板10に対して、複数のスロット開口15の位置は変えないで、外周10bに形成された切欠部13の位置を周方向へ等距離だけずらし、それぞれを切欠部13’としたものである。電磁鋼板10”は、電磁鋼板10’に対して、複数のスロット開口15の位置は変えないで、切欠部13を切欠部13’となるようにずらしたのと同じだけ、切欠部13’の位置を周方向へずらし、それぞれを切欠部13”としたものである。尚、図8には、3つの電磁鋼板10,10’,10”しか図示していないが、実際には、積層させて固定子鉄心1(図7参照)を形成するのに必要な枚数の電磁鋼板があり、それぞれの外周に設けられた切欠部の位置は、段階的に周方向へ等距離だけずれている。
【0009】
すなわち、電磁鋼板10の中心O10と切欠部13とを結ぶ直線をL10とした場合、電磁鋼板10’における中心O10’と切欠部13’とを結ぶ直線L10’、及び電磁鋼板10”における中心O10”と切欠部13”とを結ぶ直線L10”はそれぞれ、直線L10に対して中心角度θ及び2θだけ位相がずれた状態となっており、複数の電磁鋼板のそれぞれの外周に設けられた切欠部の位相が、内周に設けられたスロット開口15に対して、段階的に等角度θだけずれている。
【0010】
このような複数の電磁鋼板10,10’,10”等を積層させたものが、図7に示される固定子鉄心1である。固定子鉄心1の外周には、切欠部13,13’,13”等を積層して形成される溶接溝3が設けられている。溶接溝3は、積層された複数の電磁鋼板同士を溶接によって固定するための溝である。
【0011】
また、固定子鉄心1の内周面には、それぞれの電磁鋼板のスロット開口15を積層して形成されるスロット6が複数設けられている。スロット6は、軸線Lに対してある角度(スキュー角)をもって傾斜している。スロット6のこの傾斜は、切欠部13の位相を、スロット開口15に対して、電磁鋼板ごとに段階的に等角度ずらすことで形成される。電磁鋼板10の外周10bに設けられた切欠部13の位相を、内周10aに設けられたスロット開口15に対して、段階的にずらす角度θを変えることによって、スキュー角が調整可能である。以上の構成によれば、溶接溝3が固定子の軸方向と平行かつ直線状になるように電磁鋼板を積層しても、スロット6はスキューされるため、軸方向にしか溶接トーチが移動しない安価な溶接機を使用してスキュー溶接が可能となる。この固定子鉄心1のそれぞれのスロット6に、巻線が挿入されて固定子が構成される。
【0012】
図9図10は、固定子鉄心1の外周に冷却ジャケットを嵌装した図である。図9は従来の電動機の固定子を固定子の軸方向から見た図であり、図10は従来の電動機の固定子の軸方向の断面図である。図9図10において、21は冷却ジャケット、22は冷却ジャケット21の冷却水又は冷却油を流す流路、23はOリング溝、24は巻線を示す。固定子鉄心1は上述した図7図8と同じである。
【0013】
固定子の巻線に電流を流すと、巻線が電気抵抗により発熱する。その熱がモータの外部に伝わることを防止するために図9図10に示すように冷却ジャケットを嵌装する場合がある。例としては、内部にモータを内設する工作機械のビルトイン主軸台がある。ビルトイン主軸台に固定子から熱が伝わると、主軸台が熱変形し、工作物の加工精度が悪くなるため、冷却ジャケットを装着することで、固定子から主軸台に熱が伝わり難くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−333581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述したように固定子鉄心は、積層した電磁鋼板を、当該電磁鋼板の外周に設けた溶接溝において、互いに溶接することで形成される。しかし、固定子鉄心をスキュー積層すると溶接溝もスキューされるため安価な自動溶接機を使用できなくなる。一般的な自動溶接機は、軸方向を上下方向に向けて固定子鉄心をセットし、固定子鉄心の溶接溝の外周に所定のギャップを設けて複数の溶接トーチを配置し、溶接トーチが上下方向に動いて溶接溝を溶接する。しかし、溶接トーチは回転方向には動かないため、溶接溝がスキューされていると溶接部が溶接溝から外れてしまう。したがって、スキュー積層してある固定子鉄心を溶接する場合は、手作業で溶接溝を一箇所ずつ溶接することになり、溶接作業に時間がかかり固定子の製造コストが増加するという問題があった。また、手作業で溶接すると溶接スピードを一定にできないため、部分的に溶接温度が高くなり固定子鉄心が歪んでしまうという問題があった。固定子鉄心が歪むと、固定子鉄心を冷却ジャケットに嵌合できなくなったり、固定子内周と回転子外周の間の隙間が不均一になったりして、コギングが増加してしまう等の不都合が生じる。自動溶接機をNC化し、溶接トーチが上下方向の移動に同期して、固定子の回転方向にも移動して溶接する機構や、溶接トーチを固定して、固定子鉄心を載せるテーブルを上下、回転方向に移動して溶接する機構等を用いて、スキューされた溶接溝を溶接することは技術的に可能であるが、自動溶接機が高価になるため、溶接した固定子鉄心の製造コストが増加してしまうという問題があった。
【0016】
その他の溶接方法として、固定子鉄心の外周の溶接溝を無くし、溶接溝の無い部分を溶接する方法がある。しかし、機器に組み込む場合や、外周に冷却ジャケットを嵌装する場合には、盛り上がった溶接部が邪魔になるため削らなければならず、そのための加工費用が増加するという問題がある。さらに、溶接溝を削ってしまうと溶接強度が弱くなるため、運搬中に溶接が外れ、固定子鉄心が溶接部から割れてしまうという問題もあった。
【0017】
一方、特許文献1記載の従来の電動機の固定子によれば、積層する電磁鋼板のスロット開口と、溶接溝3となる切欠部の角度θを1枚毎に変えることで、スキュー積層であっても、溶接溝3を固定子の軸方向と平行に配置することができ、軸方向にしか溶接トーチが移動しない安価な溶接機を使用できるとある。しかし、電磁鋼板を1枚毎に異なる形状にすると、今度は、電磁鋼板の製造設備や製造工程が複雑になり、電磁鋼板の製造コストが上昇し、ひいては固定子鉄心1の製造コストが上昇するという問題があった。電磁鋼板を1枚毎に異なる形状にすると電磁鋼板の製造コストが上昇する理由について以下に説明する。
【0018】
電磁鋼板の形状を加工する方法としては、プレス金型を使用してプレス加工する方法が一般的である。プレス金型には、ノッチング金型と順送金型がある。ノッチング金型は、固定子鉄心の部分形状をプレス加工する複数のノッチング金型を交換して、固定子鉄心の全体形状をプレス加工する。さらに詳しく説明すると、例えば、固定子の1スロット分を加工するノッチング金型を用いた場合の作業手順は、ノッチングプレス機械に電磁鋼板の材料をセットし、ノッチングプレス機械は、1ショットプレス毎に、電磁鋼板を1スロット分の角度だけ回転する。そして全てのスロットをプレス加工するまでこの作業を繰り返すのである。そして、加工が完了したら、次のノッチング金型に交換し、電磁鋼板の形状が完成するまで、同じ作業を繰り返す。
【0019】
ノッチング金型は人手で交換するため、1枚の電磁鋼板を製造するための時間も長くなる。よって、比較的少量生産の場合に使用されることが多い。ノッチング金型を用いて、電磁鋼板のスロット開口と溶接溝となる切欠の角度を1枚毎に異なる形状にするためには、スロット開口を加工するノッチング金型と、溶接溝となる切欠を加工するノッチング金型の相対角度をずらす機構、例えば、スロット開口を加工した後に、溶接溝となる切欠を加工する場合、加工の合間に、加工途中の電磁鋼板を所定の角度だけ回転させることができる機構をノッチングプレス機械に設ける必要がある。通常のノッチングプレス機械は、相対角度を変更する機能はない。そのため、このような機構を設けると、ノッチングプレス機械が高価になり、ひいては電磁鋼板の製造コストが増加してしまう。
【0020】
一方、順送金型は、固定子鉄心の部分形状をプレスする複数の工程を同一型内に等ピッチで順番に配置してあり、順送プレス機械にセットした順送金型に、送り装置でロール状の電磁鋼帯をプレス機械1回転毎に1ピッチずつ順送りして固定子鉄心をプレス加工する。自動で固定子鉄心をプレス加工できるため大量生産の場合に使用される。順送金型でスロット開口と溶接溝の角度を1枚毎に異なる形状にプレス加工するためには、油圧で1方向にしか駆動しない順送プレス機械や、送り装置で一方向にのみ送られる電磁鋼帯を回転させることは難しいため、順送金型内に、スロット開口を加工する型と、溶接溝となる切欠を加工する型の相対角度を自動で変更する機構を設ける必要がある。しかし、順送金型にそのためのスペースを確保することは難しく、例えできたとしても順送金型が非常に高価になり、ひいては電磁鋼板の製造コストが増加してしまう。
【0021】
本発明においては、同一形状の電磁鋼板を使用し、かつスキュー積層しても、固定子の軸方向にしか溶接トーチが移動しない一般的な溶接機を使用して溶接が可能であり、安価な電動機の固定子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決する手段として、本発明の電動機の固定子は、スキュー積層された複数の電磁鋼板を含む固定子鉄心と、前記固定子鉄心のスロットに巻回した巻線と、で構成される電動機の固定子であって、前記複数の電磁鋼板は、内周または外周の一方に巻線を巻回する前記スロットを、内周または外周の他方に溶接溝を、それぞれ形成した円環状であって、互いに同一形状であり、前記溶接溝は、その底面に、前記固定子の軸方向と平行かつ直線状の溶接部を形成できるように、その底面が略平面、かつ、固定子の半径方向から見て略平行四辺形に形成されている、ことを特徴とする。
【0023】
前記溶接溝の底面の円周方向の幅は、固定子鉄心のスキュー角をθ°、固定子鉄心の溶接溝53の底面における直径をD、溶接部の幅をBとすると、D×π×θ÷360+B以上である、ことが望ましい。
【0024】
さらに、固定子鉄心に嵌合する冷却ジャケットを備え、前記固定子鉄心の溶接溝にモールド樹脂が充填されている、ことも好適である。
【0025】
さらに、前記巻線のうち固定子鉄心の端面から突出する部分であるコイルエンドは、モールドされており、前記溶接溝に充填されるモールド樹脂は、前記コイルエンドをモールドするモールド樹脂と一体成形されている、ことも好適である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の電動機の固定子は、同一形状の電磁鋼板がスキュー積層されていても、溶接溝が、その底面が略平面で、かつ固定子の半径方向から見て略平行四辺形に形成されているため、溶接溝の底面を固定子の軸方向と平行かつ直線状に溶接することができる。よって、スキューがかかっていない固定子鉄心と同様、固定子の軸方向にしか溶接トーチが動かない一般的な自動溶接機で溶接可能な、安価な電動機の固定子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の第1の実施例に係る電動機の固定子を固定子の軸方向から見た図である。
図2】本発明の第1の実施例に係る電動機の固定子を半径方向から見た図である。
図3】本発明の第2の実施例に係る電動機の固定子を固定子の軸方向から見た図である。
図4】本発明の第2の実施例に係る電動機の固定子の軸方向の断面図である。
図5】本発明の第3の実施例に係る電動機の固定子を固定子の軸方向から見た図である。
図6】本発明の第3の実施例に係る電動機の固定子の軸方向の断面図である。
図7】従来の電動機の固定子を示す図である。
図8】従来の電動機の固定子を構成する電磁鋼板を示す図である。
図9】従来の電動機の固定子を固定子の軸方向から見た図である。
図10】従来の電動機の固定子の軸方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の第1の実施例について、図1図2を用いて説明する。図1は、本発明の第1の実施例に係る電動機の固定子を軸方向から見た図である。図2は、本発明の第1の実施例に係る電動機の固定子を半径方向から見た図である。50は電磁鋼板、51は固定子鉄心、53は溶接溝、54は溶接部、55はスロットである。
【0029】
固定子鉄心51は、内周にスロット55、外周に溶接溝53を形成した同一形状の円環状の電磁鋼板50を複数枚スキューしながら積層させたものである。積層した電磁鋼板50は、溶接溝53を溶接して固定する。固定子鉄心51のスロット55に、図示しない巻線を巻回して固定子を形成する。
【0030】
本実施例では、溶接溝53の底面を固定子の軸方向と平行かつ直線状に溶接できるよう、溶接溝53は、底面が略平面部で、かつ、固定子の半径方向から見て略平行四辺形に形成した。さらに、略平行四辺形の溶接溝53に固定子の軸方向と平行かつ直線状に溶接するためには、溶接溝53の固定子の円周方向の幅Wは、固定子鉄心51のスキュー角をθ°、固定子鉄心51の溶接溝53の底の直径をD、溶接部の幅をBとすると、D×π×θ÷360+B以上に形成すればよい。なお、スキュー角θとは、固定子鉄心51を構成する複数の電磁鋼板50のうち、最上面に位置する電磁鋼板50と最下面に位置する電磁鋼板50との位相差(電磁鋼板の配置角度の差)を意味している。
【0031】
これにより、同一形状の電磁鋼板がスキュー積層されていても、溶接溝の底面を固定子の軸方向と平行かつ直線状に溶接することができる。よって、スキューがかかっていない固定子鉄心と同様、固定子の軸方向にしか溶接トーチが動かない一般的な自動溶接機で溶接できるため、安価な電動機の固定子を提供することができる。
【0032】
次に、本発明の第2の実施例について、図3図4を用いて説明する。図3は、本発明の第2の実施例に係る電動機の固定子を軸方向から見た図である。図4は、本発明の第2の実施例に係る電動機の固定子の軸方向の断面図である。61は巻線を冷却するためにモールド樹脂で巻線を固めたコイルエンドモールドである。その他、固定子鉄心51の構造は、上述した第1の実施例と同じである。また、冷却ジャケット21は、従来例を示した図9図10と同じである。尚、図3では、溶接溝53が見えるようにコイルエンドモールド61を省略した図とした。
【0033】
本実施例は、冷却ジャケット21を用いた電動機の固定子において、固定子鉄心51と冷却ジャケット21の熱伝導率を改善し、巻線24の冷却効率を上昇させることができる。まず、溶接溝幅Wは、D×π×θ÷360+B以上に形成すればよいことを説明した。この式から、スキュー角θが大きくなるほど溶接溝幅Wは広くなることがわかる。溶接溝幅Wが広くなると、固定子鉄心51と冷却ジャケット21の接触面積が小さくなるため、固定子鉄心51から冷却ジャケット21への熱伝導が悪くなるという問題があった。
そこで、本実施例では、溶接溝53にモールド樹脂を充填し、溶接部53の熱伝導率を向上させている。モールド樹脂は、溶接部53のみに充填しても良い。ただし、本実施例のようにコイルエンドモールドを行なう場合は、コイルエンドモールドに使用するモールド樹脂と、溶接溝53に充填するモールド樹脂を一体成形すれば、工程を追加することなく安価にモールド樹脂を溶接溝53に充填することができる。
【0034】
次に、本発明の第3の実施例について、図5図6を用いて説明する。図5は、本発明の第3の実施例に係る電動機の固定子を軸方向から見た図である。図6は、本発明の第3の実施例に係る電動機の固定子の軸方向の断面図である。60は電磁鋼板、61は固定子鉄心、63は溶接溝、64は溶接部、65はスロットである。
【0035】
固定子鉄心61は、外周にスロット65、内周に溶接溝63を形成した円環状の電磁鋼板60を複数枚スキューしながら積層させたものである。積層した電磁鋼板60は、溶接溝63を溶接して固定する。固定子鉄心61のスロット65に、図示しない巻線を巻回して固定子を形成する。
【0036】
本実施例は、固定子鉄心61の外周にスロット65を設けた電動機の固定子に本発明を適用した例である。つまり上記実施例1、実施例2は、回転子が固定子の内周側に配置されるインナーロータ型であるが、本実施例は回転子が固定子の外周側に配置されるアウターロータ型である。アウターロータ型の場合、固定子の外周に溶接溝を設けると、回転子の内周の磁気抵抗が不均一となるため、トルクが低下したり、トルクリップル(脈動トルク)が大きくなったりする。よって溶接溝63は内周に設ける必要がある。内周に設けた溶接溝63は、実施例1、実施例2と同様、底面を固定子の軸方向と平行かつ直線状に溶接できるよう、底面が略平面部で、かつ、固定子の半径方向から見て略平行四辺形に形成した。さらに、略平行四辺形の溶接溝63に固定子の軸方向と平行かつ直線状に溶接するためには、溶接溝63の固定子の円周方向の幅Wは、固定子鉄心61のスキュー角をθ°、固定子鉄心61の溶接溝63の底の直径をD、溶接部の幅をBとすると、D×π×θ÷360+B以上に形成すればよい。
【0037】
これにより、同一形状の電磁鋼板がスキュー積層されていても、溶接溝の底面を固定子の軸方向と平行かつ直線状に溶接することができる。よって、スキューがかかっていない固定子鉄心と同様、固定子の軸方向にしか溶接トーチが動かない一般的な自動溶接機で溶接できるため、安価な電動機の固定子を提供することができる。尚、本実施例の固定子は、固定子の内周に溶接トーチを入れ溶接する必要があるため、固定子の内径が大きく、溶接トーチは小型のものが求められる。
【0038】
実施例2では、固定子の外周に冷却ジャケットを配置した形態について説明したが、本実施例においても、冷却ジャケットを固定子の内周に設ければ、当然、実施例2と同様、溶接溝63にモールド樹脂を充填し、溶接部63の熱伝導率を向上させることができる。モールド樹脂は、溶接部63のみに充填しても良いが、コイルエンドモールドを行なう場合は、コイルエンドモールドに使用するモールド樹脂と、溶接溝63に充填するモールド樹脂を一体成形すれば、工程を追加することなく安価にモールド樹脂を溶接溝63に充填することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 固定子鉄心、3 溶接溝、6 スロット、10,10’,10” 電磁鋼板、11 穴、13,13’,13” 切欠部、15 スロット開口、21 冷却ジャケット、22 流路、23 Oリング溝、24 巻線、50 電磁鋼板、51 固定子鉄心、53 溶接溝、54 溶接部、55 スロット、61 コイルエンドモールド。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10