特許第6412797号(P6412797)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6412797
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】ブリージングタンクの試運転方法
(51)【国際特許分類】
   F17B 1/26 20060101AFI20181015BHJP
【FI】
   F17B1/26
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-264003(P2014-264003)
(22)【出願日】2014年12月26日
(65)【公開番号】特開2016-125508(P2016-125508A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】細川 光
【審査官】 宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−270791(JP,A)
【文献】 特開昭59−166798(JP,A)
【文献】 特開2000−297900(JP,A)
【文献】 特開平10−122492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17B 1/00− 1/26
F17C 1/00−13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温貯槽の内槽外槽間の窒素ガスの体積変化を吸収する為の窒素ガス収容部と、この窒素ガス収容部の上端を区画するダイヤフラムバルーンと、このダイヤフラムバルーンの上側の大気開放室を備えるブリージングタンクの試運転方法において、
前記窒素ガス収容部に窒素ガスを充填して前記ダイヤフラムバルーンをブリージングタンクの全高の半分以下の所定高さまで上昇させた後、前記窒素ガス収容部を大気開放して該ダイヤフラムバルーンを最低位置まで下降させる昇降動作を複数回繰り返す酸素ガス排出促進工程と、
前記酸素ガス排出促進工程の後で前記窒素ガス収容部に窒素ガスを充填してダイヤフラムバルーンを最高高さまで上昇させながらブリージングタンクの性能を点検するブリージングタンク点検工程とを備えたことを特徴とするブリージングタンクの試運転方法。
【請求項2】
前記酸素ガス排出促進工程と前記ブリージングタンク点検工程の前に、予め設定した目標時間よりも短い時間で前記酸素ガス排出促進工程を実行可能な前記所定高さと昇降動作の回数を、前記ブリージングタンクの諸元を用いて算出する準備工程を備えたことを特徴とする請求項1に記載のブリージングタンクの試運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温貯槽の内槽外槽間の窒素ガスの体積変化を吸収する為のブリージングタンクの試運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低温貯槽であるLNGタンクでは、内槽と外槽の間にパーライト等の断熱材が充填されており、パーライトが充填された内槽と外槽間の空間には窒素ガスを充填して不活性雰囲気に保持し、外気温や気圧の変化による圧力変動があっても前記窒素ガスの封入圧を常に大気圧程度の一定圧に保持する為のブリージングタンクに接続されている。
【0003】
特許文献1にも記載されているように、ブリージングタンクは、鋼製のタンク本体と、タンク本体の内部を窒素ガス収容部と大気開放室とに区画するカウンタウエイト付きのダイヤフラムバルーンとを有する。タンク本体は、下半部を形成する円筒部と、上半部を形成する半球状のドーム部とで構成され、ドーム部には大気開放室を大気開放する複数の開放口が形成されている。
【0004】
ダイヤフラムバルーンは、ゴム製の膜部材でその中央部に金属製のカウンタウエイトが付設され、ダイヤフラムバルーンの外周縁がタンク本体の内部の中段部に気密状に固定されている。タンク本体内においてダイヤフラムバルーンの下側に窒素ガス収容部が形成され、ダイヤフラムバルーンの上側に大気開放室が形成されている。窒素ガス収容部は、配管により低温貯槽の内槽外槽間の空間に接続されている。カウンタウエイト付きダイヤフラムバルーンの自重によって窒素ガス収容部内の窒素ガスをほぼ一定圧に保持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−270791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ブリージングタンクを通常運転させる前に、試運転作業として、窒素ガス収容部に窒素を充填してダイヤフラムバルーンを最高高さまで上昇させながら所定高さ上昇する毎に圧力測定を行ってブリージングタンクの性能を点検する作業を行なうと共に、窒素ガス収容部に窒素ガスを充填してダイヤフラムバルーンを上昇させた後、窒素ガス収容部を大気開放してダイヤフラムバルーンを最低高さに降下させることを繰り返し行うことで窒素ガス収容部内の酸素濃度を所定値以下にする作業も行っている。
上記試運転作業では、ダイヤフラムバルーンを上昇、低下させる際には安全弁を開閉操作させる必要がある。しかしながら、安全弁は大型であり上昇・下降を行うのに長時間を要する。そのため、この作業を短時間で行う方法を確立することが求められていた。
【0007】
本発明の目的は、上記作業を効率的に行うことが出来るブリージングタンクの試運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1のブリージングタンクの試運転方法は、低温貯槽の内槽外槽間の窒素ガスの体積変化を吸収する為の窒素ガス収容部と、この窒素ガス収容部の上端を区画するダイヤフラムバルーンと、このダイヤフラムバルーンの上側の大気開放室を備えたブリージングタンクの試運転方法において、前記窒素ガス収容部に窒素ガスを充填して前記ダイヤフラムバルーンをブリージングタンクの全高の半分以下の所定高さまで上昇させた後、前記窒素ガス収容部を大気開放して該ダイヤフラムバルーンを最低位置まで下降させる昇降動作を複数回繰り返す酸素ガス排出促進工程と、前記酸素ガス排出促進工程の後で前記窒素ガス収容部に窒素ガスを充填してダイヤフラムバルーンを最高高さまで上昇させながらブリージングタンクの性能を点検するブリージングタンク点検工程とを備えている。
【0009】
請求項2のブリージングタンクの試運転方法は、前記酸素ガス排出促進工程と前記ブリージングタンク点検工程の前に、予め設定した目標時間よりも短い時間で前記酸素ガス排出促進工程を実行可能な前記所定高さと昇降動作の回数を、前記ブリージングタンクの諸元を用いて算出する準備工程を備えている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、酸素ガス排出促進工程において、窒素ガス収容部に窒素ガスを充填してダイヤフラムバルーンをブリージングタンクの全高の半分以下の所定高さまで上昇させた後、前記窒素ガス収容部を大気開放してダイヤフラムバルーンを最低高さまで下降させる昇降動作を複数回行うため、従来技術のようにダイヤフラムバルーンを最高高さまで上昇させた後、前記窒素ガスの収容部を大気開放してダイヤフラムバルーンを最低高さまで下降させる昇降動作を行うよりも作業時間が短くなる。ダイヤフラムバルーンが前記所定高さに上昇した後の窒素ガス収容部の酸素濃度は高く維持され、この酸素濃度の高い空気・窒素ガスの混合ガスの一部を、ダイヤフラムバルーンの下降時に大気中へ排出することで、大気中への酸素の排出が促進される。この昇降動作を複数回繰り返すことで、従来技術のようにカウンタウエイトを最高高さまで上昇させた後、前記窒素ガス収容部を大気開放してカウンタウエイトを最低高さまで下降させる昇降動作を行うよりも、窒素ガス収容部内の酸素を効率的に大気中へ排出できる。
【0011】
また、ブリージングタンク点検工程において、前記窒素ガス収容部に窒素ガスを充填してカウンタウエイトを最高高さまで上昇させながらブリージングタンクの性能を確認できる。また、本工程の前に酸素ガス排出促進工程を行うことで、窒素ガス収容部内の酸素を効率的に大気中に排出できる。
【0012】
請求項2の発明によれば、準備工程において、予め設定した目標時間よりも短い時間で前記酸素ガス排出促進工程を実行可能な前記所定高さと昇降動作の回数を、前記酸素ガス排出促進工程と前記ブリージングタンク点検工程の前に前記ブリージングタンクの諸元を用いて算出するため、試運転作業に要する時間を十分に短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例の地上式LNGタンクとブリージングタンクの構成図である。
図2】ダイヤフラムバルーンを最低位置にしたブリージングタンクの断面図である。
図3】ダイヤフラムバルーンを中段位置にしたブリージングタンクの断面図である。
図4】ダイヤフラムバルーンを最高位置にしたブリージングタンクの断面図である。
図5】ブリージングタンクの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について実施形態に基づいて説明する。
【0015】
図1は、低温貯槽であるLNGタンク1と、このLNGタンク1に接続されたブリージングタンク10と、配管系統などを示す図である。LNGタンク1は、内槽2と、外槽3と、外槽3の外側を包囲する円筒状のPCコンクリート製の防液堤4と、内槽2と外槽3間の空間に充填されたパーライト5等の断熱材とを有し、内槽2と外槽3間の空間には、パーライト5の他に窒素ガスが充填されている。
【0016】
図1図5に示すように、ブリージングタンク10の内部空間は、カウンタウエイト11a付きのダイヤフラムバルーン11で上下に仕切られ、ダイヤフラムバルーン11の下側には窒素ガス収容部12が形成され、ダイヤフラムバルーン11の上側には大気開放室13が形成されている。窒素ガス収容部12は、連通管14によりLNGタンク1の内槽外槽間の空間に接続されており、この連通管14には窒素ガス供給管15が接続されている。
【0017】
ブリージングタンク10には、窒素ガス収容部12に連通する、大型で手動式の安全弁16が装備され、ダイヤフラムバルーン11の高さ位置を検知する高さセンサ17も設けられている。窒素ガス供給管15は窒素ガス供給源(図示略)に接続され、窒素ガス供給管15の電磁弁18は、高さセンサ17からの信号で開閉操作される。
【0018】
図2は、ダイヤフラムバルーンが最低位置まで低下した状態を示すブリージングタンクの断面図、図3は通常の運転状態のときのブリージングタンクの断面図、図4はダイヤフラムバルーンが最高位置まで上昇した状態を示すブリージングタンクの断面図である。
【0019】
ブリージングタンクの構造について図5に基づいて説明する。
ブリージングタンク10は、鋼製のタンク本体10aと、タンク本体10aの内部を窒素ガス収容部12と大気開放室13とに区画するダイヤフラムバルーン11とを有する。タンク本体10aには大気開放室13を大気開放する複数の開放口10bが設けられている。
【0020】
ダイヤフラムバルーン11は、ゴム製の膜部材でその中央部に金属製のカウンタウエイト11aが付設され、ダイヤフラムバルーン11の外周縁がタンク本体10aの内周部の中段部に気密状に固定されている。タンク本体10a内においてダイヤフラムバルーン11の下側に窒素ガス収容部12が形成され、ダイヤフラムバルーン11の上側に大気開放室13が形成されている。窒素ガス収容部12は、前記の連通管14によりLNGタンク1の内槽外槽間の空間に接続されている。ダイヤフラムバルーン11の自重によって窒素ガス収容部12内の窒素ガスを大気圧程度に維持するようになっている。
【0021】
外気温が上昇した時や気圧が低下した時などに、窒素ガス収容部12内の窒素ガスの体積が著しく増大してダイヤフラムバルーン11が最高高さまで上昇すると、安全弁16から窒素ガスが大気中へ放出されて、圧力上昇が回避される。
また、外気温が低下した時や気圧が上昇した時などに、窒素ガス収容部12内の窒素ガスの体積が著しく減少してダイヤフラムバルーン11が最低位置まで下降すると、高さセンサ17からの信号で電磁弁18が開弁されて、窒素ガス供給源から窒素ガスが窒素ガス収容部12に充填され、圧力低下が回避される。
【0022】
ところで、LNGタンク1を建造した状態では、ダイヤフラムバルーン11は最低高さに位置し、窒素ガス収容部12内には空気が充填されている。
【0023】
この状態からブリージングタンク10を通常運転させる前に、前記窒素ガス収容部12に窒素ガスを充填して前記ダイヤフラムバルーン11をブリージングタンク10の全高の半分以下の所定高さまで上昇させた後、前記窒素ガス収容部12を大気開放して該ダイヤフラムバルーン11を最低位置まで下降させる昇降動作を複数回繰り返す酸素ガス排出促進工程と、前記酸素ガス排出促進工程の後で前記窒素ガス収容部12に窒素ガスを充填してダイヤフラムバルーン11を最高高さまで上昇させながらブリージングタンク10の性能を点検するブリージングタンク点検工程とを含む試運転を行う。
以下、本実施例に係るブリージングタンク10の試運転方法について説明する。
【0024】
本実施形態に係る試運転方法は、窒素ガス収容部12内の酸素ガスの排出を促進する酸素ガス排出促進工程S2と、酸素ガス排出促進工程S2の後で、ブリージングタンク10の性能の点検を行いながら窒素ガス収容部12から酸素ガスを排出させるブリージングタンク点検工程S3と、ブリージングタンクの諸元から酸素ガス排出促進工程S2の条件を設定する準備工程S1(これは酸素ガス排出促進工程S2とブリージングタンク点検工程S3の前に行う)を含んでいる。
【0025】
前記酸素ガス排出促進工程S2は、安全弁16を非開放状態とし、窒素ガス収容部12に窒素ガス供給管15から窒素ガスを充填してダイヤフラムバルーン11をブリージングタンクの全高Hの半分以下の所定高さまで上昇させた後、安全弁16を開放状態として窒素ガス収容部12を大気開放し、ダイヤフラムバルーン11を最低高さまで下降させる昇降動作を複数回繰り返すものである。
【0026】
酸素ガス排出促進工程S2において、窒素ガス収容部12に窒素ガスを充填してカダイヤフラムバルーン11を前記所定高さまで上昇させた後、前記窒素ガス収容部12を大気開放してダイヤフラムバルーン11を最低高さまで下降させる昇降動作を複数回行うため、従来技術のようにダイヤフラムバルーン11を最高高さまで上昇させた後、前記窒素ガス収容部12を大気開放してダイヤフラムバルーン11を最低高さまで下降させる昇降動作を行うよりも作業時間が短くなる。
【0027】
ダイヤフラムバルーン11が前記所定高さに上昇した後の窒素ガス収容部12の酸素濃度は高く維持され、この酸素濃度の高い空気・窒素ガスの混合ガスの一部を、ダイヤフラムバルーン11の下降時に大気中へ排出することで大気中への酸素の排出が促進される。 この昇降動作を複数回繰り返すことで、従来技術のように窒素ガス収容部12に窒素ガスを充填してカダイヤフラムバルーン11を最高高さまで上昇させた後、前記窒素ガス収容部12を大気開放してダイヤフラムバルーン11を最低高さまで下降させる昇降動作を行うよりも、窒素ガス収容部12内の酸素ガスを効率的に大気中へ排出できる。
【0028】
ブリージングタンク点検工程S3は、酸素ガス排出促進工程の後で行うものである。このブリージングタンク点検工程S3は、安全弁16を非開放状態とし、窒素ガス供給管15から窒素ガス収容部12に窒素ガスを充填してダイヤフラムバルーン11を最高高さ(図5に2点鎖線で図示の位置)まで上昇させながらブリージングタンク10の性能を点検する共に、その安全弁16を開放状態とすることで窒素ガス収容部12を大気開放し、ダイヤフラムバルーン11を最低高さまで下降させる昇降動作を1回だけ行うものである。
また、本工程の前に酸素ガス排出促進工程を行うことで、窒素ガス収容部内の酸素を効率的に大気中に排出できる。
【0029】
準備工程S1は、酸素ガス排出促進工程S2とブリージングタンク点検工程S3の前に行うものである。この準備作業S1は、試運転作業終了時の酸素ガス濃度の目標値と、試運転作業を完了するまでの目標時間を予め設定しておき、目標時間内に酸素ガス濃度よりも低い濃度となるような酸素ガス排出促進工程S2の条件を決定する工程である。
酸素ガス排出促進工程S2の条件とは、同工程におけるダイヤフラムバルーン11の昇降動作の回数と上昇させる前記所定高さのことであり、これらはブリージングタンク10の諸元(窒素ガス収容部12の容積と各工程S1、S2に要する作業時間)に基づいて幾何学的若しくは数学的に算出する。準備工程S1を備えることで試運転作業に要する時間を十分に短くすることができる。
【0030】
その他、当業者であれば、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はその種の変更形態を包含するものである。
【符号の説明】
【0031】
1 LNGタンク
2 内槽
3 外槽
10 ブリージングタンク
11a カウンタウエイト
11 ダイヤフラムバルーン
12 窒素ガス収容部
13 大気開放室
図1
図2
図3
図4
図5