特許第6412938号(P6412938)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6412938-熱交換器のコーティング 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6412938
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】熱交換器のコーティング
(51)【国際特許分類】
   F28F 19/02 20060101AFI20181015BHJP
   F28F 19/04 20060101ALI20181015BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   F28F19/02 501D
   F28F19/04 Z
   F28F21/08 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-532608(P2016-532608)
(86)(22)【出願日】2014年10月29日
(65)【公表番号】特表2016-537605(P2016-537605A)
(43)【公表日】2016年12月1日
(86)【国際出願番号】EP2014073189
(87)【国際公開番号】WO2015074844
(87)【国際公開日】20150528
【審査請求日】2016年6月27日
(31)【優先権主張番号】1361392
(32)【優先日】2013年11月20日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505113632
【氏名又は名称】ヴァレオ システム テルミク
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100141830
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 卓久
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン、カズナーブ
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ、ビュッソン
(72)【発明者】
【氏名】マリーズ、フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−クリストフ、プレボ
【審査官】 石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−214106(JP,A)
【文献】 特開昭61−087878(JP,A)
【文献】 特開2008−156748(JP,A)
【文献】 特開昭62−247866(JP,A)
【文献】 特開平6−173027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 1/00− 1/44
F28F 11/00−19/06
F28F 21/00−27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換器の製造方法であって、
冷却される流体の一方と接触するよう意図された表面を形成する工程であって、前記表面が、アルミニウムおよび/またはアルミニウム合金で形成されるとともに、アルミナ層で覆われる、工程と、
前もって表面を処理および/または準備するステップを経ることなく、前記アルミナ層を再生するコーティングを一度塗布するだけで前記アルミナ層を直接覆う工程とを備え、
前記コーティングが、50%〜80%の有機物の部分と、20%〜50%の無機物の部分とを含み、
前記有機物の部分が少なくとも1つのポリマーを含み、前記無機物の部分が前記アルミニウムと反応して耐食材を形成可能な3価クロム塩を含む、方法。
【請求項2】
前記コーティングが乾燥される、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記コーティングのpHが1.5〜5の間で選ばれる、請求項またはに記載の方法。
【請求項4】
前記コーティングが1000ppm未満の少量のフッ化物を含む、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記コーティングが、前記熱交換器の外表面へのコーティング塗布量が15〜20ml/mになるように塗布される、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱交換器、特に車両の空調流体回路用熱交換器、より具体的には蒸発器、およびかかる熱交換器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の空調システムでは冷却される空気流が蒸発器を通る。蒸発器の表面は空気流にさらされて低温になるため、空気流に含まれる水分が当該表面に付着する傾向がある。こうして付着した水分により、空気流の面積が減り、空気と蒸発器の金属面との直接接触を妨げて、熱交換能力が損なわれる。さらに、湿った表面に汚れが付くことで、微生物の増殖や不快な匂いの発生が助長される。また、水滴があると熱交換器の表面が腐食し、熱交換器の劣化や脆化につながる。
【0003】
このような不利点の解決策として、乾燥後に親水性、抗菌性、および耐食性の付着層を蒸発器の表面に形成するよう意図された物質を含むコーティングが知られている。このようなコーティングは一般的に、複数のステップ、具体的には当該層が良好に付着できるよう前もって表面を変化させるステップを経て被覆される。
【0004】
特に欧州特許第2045559号明細書および国際公開第2003/0038471号パンフレットに記載されているように、ろう付けステップ直後の一度のステップで被覆される、当該表面を覆うための処理液も知られている。一方、このような液は、実質的な耐食性がなく、被膜形成能、親水性、および抗菌性のみを有する付着層を乾燥後当該表面に形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許第2045559号明細書
【特許文献2】国際公開第2003/0038471号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような不利点を解決するため、耐食性に加えて親水性および抗菌性を有し、一度のステップで被膜される、冷媒と接触することが意図された蒸発器の表面用のコーティングが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のため、本発明は熱交換器、具体的には車両の空調回路用蒸発器に関する。熱交換器は、第1の流体と第2の流体との熱交換を可能にし、流体の一方と接触するよう意図された表面を有する。表面は、アルミニウムおよび/またはアルミニウム合金で形成されるとともに、アルミナ層と、アルミニウム本来の保護力を強化する強化層とも呼ばれる層とで覆われる。強化層は、有機物の部分と、無機物の部分とを含む。有機物の部分は少なくとも1つのポリマーを含み、無機物の部分はアルミニウムと反応して耐食材を形成可能な少なくとも1つの物質を含む。
【0008】
すなわち、熱交換器はまず、自然にできたアルミナ層で保護される。加えて、そこに塗布されたコーティングにより、熱交換器の表面が腐食、特に点食が発生した際に接触する表面のアルミニウムと反応して保護力を回復することができる。さらに、当該現象が厳密に働かなくても、前処理をしないにもかかわらず、使用するポリマー材料によって表面のコーティングの安定化につながる。当該強化コーティングまたは層によって、特にアルミナ層が再生することでアルミニウム本来の保護力が強化できる。このコーティングにより、熱交換器の耐食性を向上することができる。
【0009】
組み合わせまたは別個の適用が可能な本発明の様々な実施形態によれば、
−アルミナ層は強化層で覆われる。
−前もって表面を活性化するか、または酸洗いするといった準備をすることなく、強化層が塗布される。
−アルミニウムと反応可能な物質は表面および/またはアルミナ層の表面のむらを埋めることができる。
−アルミニウムと反応可能な物質は少なくとも1つのクロム系物質である。
−クロム系物質は3価クロム塩であってよい。
−有機物の部分および/または無機物の部分が強化層に親水性および/または抗菌性をもたらす。
−有機物の部分のポリマーは、ポリビニルアルコール等の遊離ヒドロキシル官能基を含むポリマーから成る。
−有機物の部分は結合材を含む。
−結合材は有機酸、アルコール、またはアミン系であって、ポリマーのヒドロキシル官能基と反応してもよい。
−有機物の部分の量は、重量で50%〜80%、好ましくは55%〜65%である。
−無機物の部分の量は、重量で20%〜50%、好ましくは35%〜45%である。
−強化層は少なくとも1つの腐食防止剤をさらに含む。
−腐食防止剤は、腐食の際アルミナ層を改質する。
−腐食防止剤は少なくとも1つのチタン系物質である。
−チタン系物質はチタン塩である。
−強化層は少なくとも1つの抗菌性物質を含む。
−抗菌性物質は、ブロノポール、カルベンダジム、イソチアゾリノン、および/またはジンクピリチオン等の少なくとも1つの亜鉛系物質等の有機物であってよい。
−強化層は、0.5〜1.5g/m、好ましくは0.8〜1.2g/mの表面密度を有する。
−熱交換器は、向かい合う面を覆う強化層よりも厚い強化層で覆われた表面を有する一面を含む。
−より厚く覆われた一面は外部空気流にさらされる面である。
【0010】
また、本発明は熱交換器、具体的には車両の空調回路用蒸発器の製造方法に関する。熱交換器は、冷却される流体の一方と接触するよう意図された表面で形成される。表面は、アルミニウムおよび/またはアルミニウム合金で形成されるとともに、アルミナ層で覆われる。アルミナ層は、アルミニウム本来の保護力を強化するコーティングで覆われる。コーティングは、有機物の部分と、無機物の部分とを含む。有機物の部分は少なくとも1つのポリマーを含み、無機物の部分はアルミニウムと反応して耐食材を形成可能な少なくとも1つの物質を含む。
【0011】
すなわち、本発明の方法によれば、前もって表面を処理および/または準備するステップを経ることなく、コーティングを熱交換器の表面に直接塗布してよい。さらに言い換えれば、一度コーティングを塗布するだけで熱交換器の表面に腐食に対する保護力をもたらすことができる。
【0012】
組み合わせまたは別個の適用が可能な本発明の様々な実施形態によれば、
−表面は熱交換器のろう付けステップの後に覆われる。
−コーティングはスプレーおよび/または吹きかけにより表面に塗布される。
−熱交換器は、表面をコーティングで覆った後、乾燥する前に送風されて、熱交換器の向かい合う2つの面上のコーティングの厚みを調整する。
−コーティングは乾燥される。
−コーティングは、130℃〜180℃、好ましくは150℃の加熱ステップにおいて乾燥される。
−加熱ステップは、1〜10分、好ましくは5分間行う。
−コーティングは、熱交換器の外表面へのコーティング塗布量が15〜20ml/mになるように塗布される。
−コーティングのpHは、1.5〜5、好ましくは2〜3.5の間で選ばれる。
−コーティングは1000ppm未満の少量のフッ化物を含む。
本発明による熱交換器の一部分の図である添付の図1を参考に、単に説明用の非限定的な例として示された本発明の少なくとも1つの実施形態に続く詳細な説明の記述を通して、本発明がより理解され、本発明の他の目的、詳細、特徴、および利点がより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明による熱交換器の一部分の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、第1の流体と第2の流体との熱交換を可能にする熱交換器の一部分を概略的に示す。熱交換器は例えば車両の空調回路用蒸発器であってよい。この場合、2つの流体の一方は空気流で、かつ/または他方は冷媒である。具体的には、本例ではアルミニウムまたはアルミニウム合金製のろう付け蒸発器である。
【0015】
ここでは、熱交換器は冷媒を循環させるダクト12を備える集合物10で形成される。ダクト12は例えば、1つもしくは複数のコレクタに接続したチューブおよび/または互いに連通する積層板対で形成される。チューブおよび/または板対間には、分離体14、特に蛇行形状のセパレータを設けることができる。これらのセパレータ14は空気流の循環を分断し、交換面積を増加させる。よって、空気流と冷媒との熱交換が向上する。これらのセパレータ14は、チューブおよび/または板対と、特にその屈折部の頂点において接触する。
【0016】
熱交換器は、流体の一方、特に冷却される空気流と接触するよう意図された表面を有し、具体的にはチューブ、板対、および/またはセパレータの壁である。
【0017】
本発明によれば、当該表面はアルミニウムおよび/またはアルミニウム合金で形成される。当該表面は、アルミナ層と、アルミニウム本来の保護力を強化する強化層とも呼ばれる層とで覆われる。この強化層は、少なくとも1つのポリマーを含む、有機物の部分と、アルミニウムと反応して耐食材を形成可能な少なくとも1つの物質を含む、無機物の部分とを含む。強化層は好適にアルミナ層のコーティングを形成する。
【0018】
アルミニウムと反応可能な無機物があることで、アルミナ層の腐食の補償、またはアルミナ層の再生さえも可能になる。こうして保護層が改質されて、熱交換器表面の腐食による影響が制限される。アルミニウムとの反応により、当該物質は表面および/またはそのアルミナ層の表面のむらを埋めることも可能である。
【0019】
さらにコーティング中の有機物および/または無機物によって、熱交換器の表面が親水性および/または抗菌性を有し得る。よって水滴が薄く広がって、排水しやすく、水滴除去の際の水の飛散を防ぐフィルム状になる。
【0020】
好適には、当該物質は酸素分子を固定すると知られている物質である。当該物質はクロム系物質、具体的には3価クロム塩であることが好ましい。
【0021】
この作用は、酸性媒体、特にpHが1.5〜5、好ましくは2〜3.5の酸性媒体で行うことで向上させてもよい。酸、具体的には有機物の部分のポリマーと反応可能な結合材であり得る有機酸を加えることでこのpHを得てもよい。当該ポリマーは例えば、ビニルアルコール系の水酸化ポリマーから成る。この作用は、コーティングが1000ppm未満の少量のフッ化物を含むことでも向上される。
【0022】
アルミニウムと反応可能な物質によりもたらされる耐食性は、強化層に1つまたは複数の腐食防止剤を加えることで強化してもよい。これはチタン系物質、特にチタン塩であってよい。これらの腐食防止剤は酸素を固定する物質であってよい。
【0023】
同様に、抗菌性を向上させるため、強化層が1つまたは複数の抗菌性物質を含んでもよい。これらの物質は、ブロノポール、カルベンダジム、イソチアゾリノン、およびジンクピリチオン等の亜鉛系物質から選択してよい。pH1.5〜5のコーティングの場合、抗菌性物質は酸性媒体に対する耐性を有する必要がある。
【0024】
かかる熱交換器は、例えば本発明による方法で得てもよい。
【0025】
第1のステップにおいて、熱交換器に、冷却される流体の一方と接触するよう意図された表面が形成され、この表面はアルミニウムおよび/またはアルミニウム合金で形成されるとともに、アルミナ層で覆われる。熱交換器はろう付けステップにより得られることが好ましい。
【0026】
第2のステップにおいて、アルミナ層はアルミニウム本来の保護力を強化するコーティングで覆われる。このコーティングは、少なくとも1つのポリマーを含む、有機物の部分と、アルミニウムと反応して耐食材を形成可能な少なくとも1つの物質を含む、無機物の部分とを含む。本発明によれば、コーティングは、表面活性化処理もしくは表面の酸洗い処理、または内部回路を閉じて、槽浸漬機器を挿入するといった従来の浸漬工程の準備等の他のステップを経ず、ろう付けステップの直後に塗布される。
【0027】
このステップにより、再生する層、および/または好適にはアルミナ層の再生によって、アルミニウム本来の保護力を強化する層が形成できる。
【0028】
前述の通り、アルミナ層の良好な再生および強化層による熱交換器表面の良好な保護のため、コーティングのpHは1.5〜5であることが好ましく、2〜3.5であると最も効果的である。
【0029】
コーティングは通常、例えばスプレーおよび/または吹きかけにより熱交換器に均一に塗布される。塗布量は15〜20ml/mであることが好ましい。
【0030】
塗布ステップの後に熱交換器に送風するステップを行ってもよい。このステップにより、熱交換器の向かい合う2つの面上のコーティングの厚みが調整できる。通常、スプレーおよび吹きかけに向かい合う面はコーティングがやや厚くなる。このようにより厚く形成されることで熱交換器の耐食性が向上するため、この面は空気流にさらされる面であることが好ましい。好適には、このステップは乾燥ステップの前に行われる。
【0031】
これらのステップの後にコーティングを乾燥するステップを行う。特にこの乾燥ステップで強化層が形成できる。実際、このステップによりコーティングの有機物の部分中のポリマーが重合できる。重合は、ポリマーの架橋、具体的にはコーティングに架橋剤を加えることで強化してもよい。架橋剤は、ポリマーの遊離ヒドロキシル官能基と反応するよう選択された有機酸、エポキシ、またはアクリル系でよい。
【0032】
130℃〜180℃、好ましくは150℃で加熱するステップにおいてコーティングを乾燥する場合、乾燥および重合も好適に強化され得る。加熱ステップは1〜10分、好ましくは5分間行う。
【0033】
十分な親水性、抗菌性、および耐食性を有する熱交換器が得られる強化層の一例として、60%の有機物と、30%のクロム系物質を含む40%の無機物とを含むものが挙げられる。有機物の部分に含まれるポリマーは特にビニルアルコールポリマーである。この層は、0.8〜1.2g/mの表面密度を有し、かつ例えば前述の送風ステップで得られる、空気流にさらされる面の厚みが他の面より20%厚い。
【0034】
かかる熱交換器と先行技術の熱交換器との比較試験を行った。
【0035】
親水性、抗菌性、および防臭性に関して、かかる熱交換器は同様の性能を有すると知られている先行技術の熱交換器と同等の結果となったことが、試験により分かった。
【0036】
さらに、強化層があることで耐食性は大きく向上する。耐食性試験により以下のことが証明できた。
−本発明による熱交換器では、60日超遅れてアルミニウム表面の腐食が見られた。
−本発明による熱交換器の表面にできた点食の深さは、90日間腐食室において腐食性溶液に接触した後も安定していたが、先行技術の熱交換器の表面にできた点食の深さは増加した。
−先行技術の熱交換器が故障した約50日後に本発明による熱交換器が故障する。
【0037】
当然実施形態を変形したものも可能であることと、本発明が車両の空調用蒸発器に限定されないことに留意されたい。具体的には、本発明は他の種類の熱交換器や他の分野にも適用可能である。
図1