(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6412980
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】ステアリング制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20181015BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20181015BHJP
H02P 29/024 20160101ALI20181015BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20181015BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20181015BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20181015BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
H02P29/024
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-92979(P2017-92979)
(22)【出願日】2017年5月9日
(62)【分割の表示】特願2013-6782(P2013-6782)の分割
【原出願日】2013年1月17日
(65)【公開番号】特開2017-137058(P2017-137058A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2017年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】510123839
【氏名又は名称】オムロンオートモーティブエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100145241
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康裕
(72)【発明者】
【氏名】薮口 教定
(72)【発明者】
【氏名】李 相範
(72)【発明者】
【氏名】道場 智史
【審査官】
森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−286277(JP,A)
【文献】
特開2005−008105(JP,A)
【文献】
特開2009−040225(JP,A)
【文献】
特開2001−138939(JP,A)
【文献】
特開2011−025809(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0006612(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/00− 6/10
B62D 101/00−137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された操舵装置の操舵トルクを検出するトルクセンサの出力から高周波成分を除去するフィルタ部と、
前記車両の走行速度と前記フィルタ部の出力に基づいて、電流指令値を出力する電流指令部と、
前記電流指令値に基づき、前記操舵装置の操舵を補助するモータの駆動を制御する駆動制御部と、
前記フィルタ部を介さない前記トルクセンサの出力と前記フィルタ部の出力に基づいた前記電流指令値の関係が異常であるか否かを判定する異常判定部と、
前記車両の走行速度に基づいて猶予時間を選択する猶予時間選択部と、
前記異常判定部と前記猶予時間選択部の出力に基づき、前記モータの駆動を禁止する信号を前記駆動制御部に出力する禁止信号出力部と、
を有し、
前記禁止信号出力部は、前記異常判定部の判定結果が異常となる時間が前記猶予時間選択部によって選択された猶予時間を越えた場合に前記駆動制御部に前記電動モータの駆動を禁止する信号を出力する、
ことを特徴とするステアリング制御装置。
【請求項2】
前記猶予時間選択部は、前記車両の走行速度が所定値以上の場合、短い猶予時間を選択することを特徴とする請求項1に記載のステアリング制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング制御装置に関し、特に、ステアリングに与えられる操舵トルクを検出し、ステアリングを駆動するモータに流れる電流を制御するステアリング制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車の運転者によるステアリング系に与えられる操舵トルクを検出するトルクセンサと、高周波成分を除去するためのローパスフィルタとを備えた電動パワーステアリング制御装置が知られている。かかる電動パワーステアリング制御装置では、トルクセンサ及びローパスフィルタからの出力に基づいて、運転者による操舵トルクに対する操舵補助力を与える駆動モータの駆動電流を求める。
【0003】
例えば、特許文献1では、操舵トルクの異常を検出した直後、電流指令値が急激に変化して車両が不安定となることを解消することを目的として電動パワーステアリング制御装置が開示されている。この電動パワーステアリング制御装置は、ステアリングの操舵トルクを検出するトルクセンサと、トルクセンサからの出力の高周波成分を除去するローパスフィルタと、ローパスフィルタからの出力に基づいて電流指令値を算出するトルク指令算出部などを備える。この電動パワーステアリング制御装置は、操舵トルクの異常を検出した場合に、ローパスフィルタの時定数を大きくする。
【0004】
また、従来から、車両の運転者によるステアリング系に与えられる操舵トルクを検出するトルクセンサと車速を検出する車速センサに基づいて、電動パワーステアリング装置を駆動するモータに流れる電流を制御することが知られている。
【0005】
かかる電動パワーステアリング装置では、運転者がハンドルを右に回しているにもかかわらず、モータが左回転を支援する方向に制御されていると、運転手の意思に反するため、運転者に違和感を感じさせる。このような異常が起こる理由として、操舵トルクに基づきモータを駆動する指令電流を演算するCPUの異常が考えられる。かかる異常に対する対策として、トルクセンサの出力の方向と、指令電流の目標値の方向もしくはモータに流れる電流の向きとが一致しない場合に、モータの駆動を停止する技術が知られている。
【0006】
例えば、特許文献2では、ダンピング制御等を行っている場合でも異常判定を高精度に行い、異常時には確実に電動機の駆動を禁止することを目的として電動パワーステアリング装置が開示されている。この電動パワーステアリング装置は、電動機を制御する制御手段と異常時に電動機の駆動を禁止する駆動禁止手段とを備える。駆動禁止手段は、操舵トルクの大きさおよび方向と電動機電流の大きさおよび方向とが所定の禁止条件を満たすか否かを判定し、所定の禁止条件を満たしている時間を積算し、積算時間が所定時間以上となった場合に、電動機の駆動を禁止する。
【0007】
また、特許文献3では、ステアリングの不自然な挙動を防止することを目的として電動パワーステアリング装置が開示されている。この電動パワーステアリング装置は、操舵トルクとモータ電流の組み合わせの点座標を猶予時間設定マップに照合して猶予時間を決定する。そして、電動パワーステアリング装置は、決定された猶予時間に対応する領域に、点座標が猶予時間継続して存在したときにモータ駆動停止と判断し、駆動制御されるモータの駆動を停止する。
【0008】
また、特許文献4では、車速が大きいときにも異常状態をより早く検知し、操舵補助を停止することを目的として電動パワーステアリング装置が開示されている。この電動パワーステアリング装置は、電流目標値と操舵トルクとの対応関係を示すアシストマップを備え、このアシストマップを参照し電流目標値を出力する。そして、電動パワーステアリング装置は、操舵補助を停止するための条件を所定の駆動禁止領域として含む駆動禁止マップを備え、この駆動禁止マップを参照して操舵補助を停止するか否かを判定する。そして、この電動パワーステアリング装置は、車速が大きくかつモータ電流の検出値が小さいときにのみ、比較的広い駆動禁止領域を含む駆動禁止マップを選択し、電流目標値と操舵トルクとが選択された駆動禁止マップに示される条件に合致する場合にはモータを停止させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−132344号公報
【特許文献2】特開2002−059855号公報
【特許文献3】特開2008−238843号公報
【特許文献4】特開2006−051912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1に開示されているように、トルクセンサの出力にローパスフィルタ処理を施すことが知られている。これによりトルクセンサの出力から高周波成分が除去され、モータに流れる電流の高周波成分も軽減される。よってハンドルからの振動も軽減され、運転の快適性が向上される。
【0011】
しかし、ローパスフィルタ処理の演算時間が必要となることで、以下の弊害が生じうる。例えば、運転者がハンドルを右方向から左方向に急に切り替えた場合、ローパスフィルタ処理の演算に必要となる時間が経過するまで、モータは右旋回を支援する方向に回転する。一方、実際のハンドルは運転者によって左に回転されているため、短時間であるがモータの回転方向とハンドルの回転方向が逆になる。こうなると、CPUは、操舵トルクに基づいて指令電流を演算する過程で異常が発生したと判定し、モータの駆動を止める。そのため、運転者は急に電動パワーステアリングの操舵支援を受けられなくなり、違和感を生じてしまう。
【0012】
このような状況は、車速が低い状態で比較的起こりやすい。例えば、車庫入れや縦列駐車ではハンドルを左右に素早く切ることがあるため、操舵トルクと指令電流が異常な状態になりやすく、モータの回転方向とハンドルの回転方向とが短時間ではあるが逆になる回数も増えやすい。このモータの回転方向とハンドルの回転方向とが逆になる場合は、ハンドルを回転するために通常よりも強い力が必要となる。しかし、車速が低いのでこのことによる事故は起こりにくい。また、仮に本当にCPUに一時的な異常が起こっていたとしても、車速が低いので事故は起こりにくい。従って、車速が低い場合では、操舵トルクと指令電流の関係が異常な状態でもすぐにモータの駆動を止めない方が、運転の快適性という観点で好ましい。
【0013】
一方、車速が高い場合はその逆であり、ハンドルを素早く切る機会は少なく、操舵トルクと指令電流が異常な状態になりにくい。そのため、操舵トルクと指令電流が異常な状態になった場合には、直ぐにモータの駆動を止めることが好ましい。また、本当にCPUに異常が起こっていた場合にも、直ぐにモータの駆動を止めた方が安全性の観点で好ましい。
【0014】
以上のことを鑑みて、本発明では、運転の快適性と安全性の両面を備えたステアリング制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、車両に搭載された操舵装置の操舵トルクを検出するトルクセンサの出力から高周波成分を除去するフィルタ部と、車両の走行速度とフィルタ部の出力に基づいて、電流指令値を出力する電流指令部と、電流指令値に基づき、操舵装置の操舵を補助するモータの駆動を制御する駆動制御部と、フィルタ部を介さないトルクセンサの出力とフィルタ部の出力に基づいた電流指令値の関係が異常であるか否かを判定する異常判定部と、車両の走行速度に基づいて猶予時間を選択する猶予時間選択部と、異常判定部と猶予時間選択部の出力に基づき、モータの駆動を禁止する信号を駆動制御部に出力する禁止信号出力部と、を有し、禁止信号出力部は、異常判定部の判定結果が異常となる時間が猶予時間選択部によって選択された猶予時間を越えた場合に駆動制御部に電動モータの駆動を禁止する信号を出力することを特徴とするステアリング制御装置が提供される。
これによれば、運転の快適性と安全性の両面を備えたステアリング制御装置を提供することができる。
【0016】
さらに、猶予時間選択部は、車両の走行速度が所定値以上の場合、短い猶予時間を選択することを特徴としてもよい。
これによれば、運転の安全性をより強化したステアリング制御装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、運転の快適性と安全性の両面を備えたステアリング制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る第一実施例のステアリング制御装置を示すブロック図。
【
図2】本発明に係る第一実施例のステアリング制御装置おける制御ステップを示すフローチャート。
【
図3】本発明に係る第一実施例のステアリング制御装置における判定マップ。
【
図4】本発明に係る第二実施例のステアリング制御装置を示すブロック図。
【
図5】本発明に係る第二実施例のステアリング制御装置おける制御ステップを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、図面を参照しながら、本発明に係る各実施例について説明する。
<第一実施例>
図1は、本実施例におけるステアリング制御装置1のブロック図である。ステアリング制御装置1は、車の運転者による操舵装置2に与えられる操舵トルクを検出するトルクセンサ10から操舵トルクの情報を得、車の走行スピードを検出し出力する車速情報出力部3から車速の情報を得る。そして、ステアリング制御装置1は、トルクセンサ10および車速情報出力部3からの情報に基づいて、運転者による操舵トルクに対する操舵支援を与えるために、操舵装置2を駆動するモータの電流を制御する。
【0021】
ステアリング制御装置1は、電流指令部20と、駆動制御部30と、フィルタ部50と、駆動禁止部60とを備える。フィルタ部50は、トルクセンサ10の出力から高周波成分を除去し低周波成分のみを通過させる所定の定数を有するローパスフィルタである。これにより、ハンドルから運転者へ伝わる振動が軽減され、運転の快適性が向上される。フィルタ部50を通過した操舵トルクの情報は、電流指令部20に対して出力される。
【0022】
電流指令部20は、車速両情報出力部3が出力した車の走行速度と、フィルタ部50が出力した操舵トルクに基づいて、電流指令値を算出し、出力する。電流指令部20による電流指令値の算出方法は、様々な方法が考えられる。例えば、電流指令部20は、走行速度と操舵トルクに対応したトルク補助力を駆動できる電流値を保持し、走行速度を車速情報出力部3から、操舵トルクをフィルタ部50から取得した時に、これらに対応した電流値を指令値として出力してもよい。電流指令部20が出力した電流指令値は、駆動制御部30と駆動禁止部60に対して出力される。
【0023】
駆動制御部30は、電流指令値に基づき、操舵装置2の操舵を補助するモータの駆動を制御する。即ち、駆動制御部30は、電流指令値により、操舵装置2のステアリングの操舵を補助するモータを駆動し、運転者に対して操舵支援を行う。
【0024】
駆動禁止部60は、トルクセンサ10が出力した操舵トルク、電流指令部20が出力した電流指令値、および、車速情報出力部3が出力した走行速度に基づき、モータの駆動を禁止する信号を駆動制御部30に出力することにより、駆動制御部30を制御する。駆動禁止部60は、猶予時間選択部61と、異常判定部62と、禁止信号出力部63とを有する。
【0025】
猶予時間選択部61は、車速情報出力部3が出力した車両の走行速度に基づいて、猶予時間を選択する。また、異常判定部62は、トルクセンサ10の出力である操舵トルクと電流指令部20が出力した電流指令値の関係が異常であるか否かを判定する。猶予時間の選択方法と異常か否かの判定方法は後述する。
【0026】
禁止信号出力部63は、異常判定部62と猶予時間選択部61の出力に基づき、操舵装置2を駆動するモータの駆動を禁止する信号を駆動制御部30に出力する。より具体的には、禁止信号出力部63は、異常判定部62の判定結果が異常となる時間が猶予時間選択部61によって選択された猶予時間を越えた場合に駆動制御部30に電動モータの駆動を禁止する信号を出力する。
【0027】
図2を参照し、より詳細に駆動禁止部60の機能について説明する。まず、各種センサは、S100において入力値を読み込む。具体的には、車両に備えられた車速情報出力部3が車両の走行速度を、トルクセンサ10が操舵装置2の操舵トルクを読み込む。次に、フィルタ部50は、S102において、読み込んだ操舵トルクの情報から高周波成分を除去するフィルタ処理を行う。そして、電流指令部20は、S104において、車速情報出力部3が出力した車の走行速度と、フィルタ部50が出力した操舵トルクに基づいて、電流指令値を算出する。
【0028】
次に、駆動禁止判定が、S106において行われる。この駆動禁止判定の詳細は、S150〜S168に説明されている。まず駆動禁止判定では、猶予時間選択部61は、S150において、車速情報出力部3から走行速度を読み込む。次に、猶予時間選択部61は、S152において、その走行速度が所定値以上か否かを判断する。この所定値は、運転者がハンドルを通して操舵装置2を左や右へ大きく切ることがある走行速度として規定され、例えば、0〜5Km/時の値である。
【0029】
猶予時間選択部61は、走行速度が所定値以上である場合、S154において第一猶予時間を選択し、所定値未満である場合、S156において第二猶予時間を選択する。なお、第一猶予時間は、第二猶予時間より短く設定される。即ち、猶予時間選択部61は、走行速度が所定値以上の場合は猶予時間を短く設定し、走行速度が所定値未満の場合は猶予時間を長く設定する。これによれば、運転の安全性をより強化したステアリング制御装置を提供することができる。
【0030】
次に、異常判定部62は、S158においてトルクセンサ10が出力した操舵トルクを読み込み、S160において電流指令部20が出力した電流指令値を読み込む。そして、異常判定部62は、S162において、読み込んだ操舵トルクと電流指令値が駆動禁止判定値の領域内か否かを判定する。
【0031】
ここで、
図3に示す判定マップを参照し、駆動禁止判定値の領域内か否か判定する方法について説明する。この判定マップは、操舵支援を禁止するための条件である駆動禁止条件を操舵トルクと電流指令値との関係として示すテーブルである。この判定マップの中で、駆動禁止判定領域として示される領域は、操舵トルクに対して望ましくない電流指令値であることを示す領域である。即ち、駆動禁止判定領域は、操舵支援を行うに当たりイナーシャ制御などの様々な制御を行うが、それらを考慮してもハンドルを素早く大きく切らなければ入る可能性の低い領域として設定される。具体的には、駆動禁止判定領域は、操舵トルクの絶対値が所定の値以上および/または電流指令値の絶対値が所定の値以上の領域である。
【0032】
また、この判定マップには、操舵トルクと電流指令値との関係を、走行速度(車速)をパラメータとして示すテーブルも記載されている。走行速度が小さいほど、またフィルタ部50の出力の絶対値が大きいほど電流指令値の絶対値が大きくなるように設定される。これにより、車が遅いほど、またハンドルが重いときほど、電流指令値が大きくなるため操舵を支援する力が大きくなり、運転者は操舵操作が容易になる。なお、フィルタ部50の出力の絶対値が操舵支援を必要としない程度の小さな値であるとき、対応する電流指令値はゼロである。また、操舵トルクの絶対値が所定以上の値になると、電流指令値は比例して増加せず一定の値となるので、あまり大きな操舵支援を行わないようになる。なお、これらのテーブルは所定の記憶領域に予め保持されている。
【0033】
異常判定部62は、S162において操舵トルクと電流指令値が上記の判定マップに示す駆動禁止判定領域内にあると判定した場合、S164において、さらにS154またはS156で選択した猶予時間が、駆動禁止判定領域内に入ってから経過したか否かを判断する。そして、異常判定部62が猶予時間を経過していると判断した場合、禁止信号出力部63は、S168において、駆動制御部30に対して駆動禁止命令を発する。即ち、駆動禁止部60の禁止信号出力部63が、異常判定部62の判定結果が異常となる時間が猶予時間選択部61によって選択された猶予時間を越えた場合にモータの駆動を禁止する。
【0034】
一方、異常判定部62は、S162において操舵トルクと電流指令値が上記の判定マップに示す駆動禁止判定領域内にないと判定した場合、S166において、駆動禁止判定領域内に入ってからの経過時間のカウントをリセットする。運転者は、ステアリング制御装置1により走行速度に応じた適切な操舵支援を受けられる。
【0035】
また、異常判定部62は、S164においてS154またはS156で選択した猶予時間が駆動禁止判定領域内に入ってから経過していないと判断した場合、駆動禁止命令は発しない。そして、異常判定部62が計時を継続しながら、処理が進む。
【0036】
上述したS150〜S168即ちS106の駆動禁止判定が行われた後、S108において、駆動禁止の命令が発せられたか否かをチェックする。禁止信号出力部63が駆動禁止命令を発しなかった場合は、駆動制御部30は、S110において、操舵装置2を駆動するモータを駆動する。駆動禁止命令を発した場合は、駆動制御部30は、モータの駆動を止める。その後、制御は呼び出し側にRETURNされる。こうすることにより、操舵トルクの大きさと方向および電流指令値の大きさと方向との関係が駆動禁止判定領域内にあっても、走行速度に応じた猶予時間を設けることで走行速度に応じた異常判定を行うことができる。その結果、走行速度に応じた運転の快適性と安全性の両面を備えたステアリング制御装置1を提供することができる。
【0037】
従来技術では、トルクセンサの出力にローパスフィルタ処理を施すことが知られている。これによりトルクセンサの出力から高周波成分が除去され、モータに流れる電流の高周波成分も軽減される。よってハンドルからの振動も軽減され、運転の快適性が向上される。
【0038】
しかし、ローパスフィルタ処理の演算時間が必要となることで、以下の弊害が生じうる。例えば、運転者がハンドルを右方向から左方向に急に切り替えた場合、ローパスフィルタ処理の演算に必要となる時間が経過するまで、モータは右旋回を支援する方向に回転する。一方、実際のハンドルはユーザによって左に回転されているため、短時間であるがモータの回転方向とハンドルの回転方向が逆になる。こうなると、CPUは、操舵トルクに基づいて指令電流を演算する過程で異常が発生したと判定し、モータの駆動を止める。そのため、運転者は急に電動パワーステアリングの操舵支援を受けられなくなり、違和感を生じてしまう。
【0039】
このような状況は、車速が低い状態で比較的起こりやすい。例えば、車庫入れや縦列駐車ではハンドルを左右に素早く切ることがあるため、操舵トルクと指令電流が異常な状態になりやすく、モータの回転方向とハンドルの回転方向とが短時間ではあるが逆になる回数も増えやすい。このモータの回転方向とハンドルの回転方向とが逆になる場合は、ハンドルを回転するために通常よりも強い力が必要となる。しかし、車速が低いのでこのことによる事故は起こりにくい。また、仮に本当にCPUに一時的な異常が起こっていたとしても、車速が低いので事故は起こりにくい。従って、車速が低い場合では、操舵トルクと指令電流の関係が異常な状態でもすぐにモータの駆動を止めない方が、運転の快適性という観点で好ましい。
【0040】
一方、車速が高い場合はその逆であり、ハンドルを素早く切る機会は少なく、操舵トルクと指令電流が異常な状態になりにくい。そのため、操舵トルクと指令電流が異常な状態になった場合には、直ぐにモータの駆動を止めることが好ましい。また、本当にCPUに異常が起こっていた場合にも、直ぐにモータの駆動を止めた方が安全性の観点で好ましい。
【0041】
<第二実施例>
図4は、本実施例におけるステアリング制御装置1aを示すブロック図である。なお、重複記載を避けるため第一実施例と異なる部分を中心に記載する。第一実施例では、猶予時間選択部61に入力されるのは、車速情報出力部3aから出力される車の走行速度であったが、本実施例では、舵角微分部70aから出力される角速度である。
【0042】
本実施例が適用される車両においては、操舵装置2aに対するトルクセンサ10aに加えて、さらにハンドルの回転角度を検出する舵角センサ40aが備えられる。舵角微分部70aは、その舵角センサ40aが検出したハンドル回転角度の速度を得るために微分値を算出し、ハンドルの角速度(回転する舵角速度)を出力する。猶予時間選択部61aは、この角速度に基づいて、猶予時間を選択する。これ以外の構成要素は、第一実施例と同じである。
【0043】
図5は、本実施例のステアリング制御装置1aおける制御ステップを示すフローチャートであるが、
図4の説明と同様、重複記載を避けるため第一実施例と異なる部分を中心に記載する。第一実施例では、S150において車速を読み込み、S152において車の走行速度が所定値以上か否かを判断したが、本実施においては、S250においてハンドルの角速度(回転する舵角速度)を読み込み、S252においてその角速度が所定値以上か否かを判断する。これ以外のステップは、第一実施例と同じである。
【0044】
この所定値は、運転者がハンドルを通して操舵装置2を左や右へ大きく切ることがある角速度として規定され、例えば、6〜20ラジアン/秒の値である。これによれば、運転の快適性と安全性の両面を備えたステアリング制御装置1aを提供することができる。
【0045】
なお、本発明は、例示した実施例に限定するものではなく、特許請求の範囲の各項に記載された内容から逸脱しない範囲の構成による実施が可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 ステアリング制御装置
2 操舵装置
3 車速情報出力部
10 トルクセンサ
20 電流指令部
30 駆動制御部
40 舵角センサ
50 フィルタ部
60 駆動禁止部
61 猶予時間選択部
62 異常判定部
63 禁止信号出力部
70 舵角微分部