(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示す本実施形態のマスタシリンダ1は、図示略のブレーキペダルの操作量に応じた力が図示略のブレーキブースタの出力軸を介して導入され、ブレーキペダルの操作量に応じたブレーキ液圧を発生させる。このマスタシリンダ1には、鉛直方向上側にブレーキ液を給排するリザーバ2(
図1において一部のみ図示)が取り付けられている。なお、本実施形態においては、マスタシリンダ1に直接リザーバ2を取り付けているが、マスタシリンダ1から離間した位置にリザーバを配置し、リザーバとマスタシリンダ1とを配管で接続するようにしても良い。
【0010】
マスタシリンダ1は、シリンダ底部3とシリンダ筒部4とを有する有底筒状に一つの素材から加工されて形成される金属製のシリンダ本体5を有している。このシリンダ本体5内のシリンダ開口6側には、シリンダ本体5から一部突出して金属製のプライマリピストン11(ピストン)が移動可能に配設されている。また、シリンダ本体5内のプライマリピストン11よりもシリンダ底部3側には、同じく金属製のセカンダリピストン12が移動可能に配設されている。
【0011】
シリンダ本体5内のプライマリピストン11とセカンダリピストン12との間は、プライマリ圧力室14となっている。プライマリピストン11とセカンダリピストン12との間には、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がない非制動状態でこれらの間隔を決めるプライマリピストンスプリング15(ピストンスプリング)を含む間隔調整部16が設けられている。シリンダ本体5内のセカンダリピストン12とシリンダ底部3との間は、セカンダリ圧力室17となっている。セカンダリピストン12とシリンダ底部3との間には、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がない非制動状態でこれらの間隔を決めるセカンダリピストンスプリング18が設けられている。シリンダ本体5のシリンダ開口6の外側には、プライマリピストン11のシリンダ本体5からの抜け出しを規制するストッパ部材19が取り付けられている。
【0012】
プライマリピストン11には、いずれも底面を有する第1の内周孔20および第2の内周孔21が軸方向両側に形成されている。セカンダリピストン12には底面を有する内周孔22が形成されている。マスタシリンダ1は、いわゆるプランジャ型である。また、マスタシリンダ1は、上記したように2つのプライマリピストン11およびセカンダリピストン12を有するタンデムタイプのマスタシリンダである。なお、本発明は、上記タンデムタイプのマスタシリンダへの適用に限られるものではなく、プランジャ型のマスタシリンダであれば、シリンダ本体に1つのピストンを配したシングルタイプのマスタシリンダや、3つ以上のピストンを有するマスタシリンダ等のいかなるプランジャ型のマスタシリンダにも適用できる。
【0013】
シリンダ本体5には、そのシリンダ筒部4の径方向(以下、シリンダ径方向と称す)の外側に突出する取付台部23が、そのシリンダ筒部4の円周方向(以下、シリンダ周方向と称す)における所定位置に一体に形成されている。この取付台部23には、リザーバ2を取り付けるための取付穴24および取付穴25が形成されている。なお、本実施形態においては、取付穴24および取付穴25は、互いにシリンダ周方向における位置を一致させた状態で、シリンダ本体5のシリンダ筒部4の軸線(以下、シリンダ軸と称す)方向における位置をずらして鉛直方向上部に形成されている。シリンダ本体5は、シリンダ軸方向が車両前後方向に沿う姿勢で車両に配置される。
【0014】
シリンダ筒部4の取付台部23側には、シリンダ底部3の近傍にセカンダリ吐出路26が形成されている。また、セカンダリ吐出路26よりもシリンダ開口6側にプライマリ吐出路27が形成されている。これらセカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27は、図示は略すが、ブレーキ配管を介してディスクブレーキやドラムブレーキ等の制動用シリンダに連通しており、セカンダリ圧力室17およびプライマリ圧力室14のブレーキ液を制動用シリンダに向けて吐出する。なお、本実施形態においては、これらセカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27が、互いにシリンダ周方向における位置を一致させた状態でシリンダ軸方向における位置をずらして形成されている。
【0015】
シリンダ筒部4のシリンダ底部3側の内周部には、シリンダ径方向内方に突出しシリンダ周方向に環状の形状を有する摺動内径部28が形成されている。セカンダリピストン12は、この摺動内径部28の最小の内径面に摺動可能に嵌合されており、この内径面で案内されてシリンダ軸方向に移動する。シリンダ筒部4の摺動内径部28よりもシリンダ開口6側の内周部には、シリンダ径方向内方に突出しシリンダ周方向に環状の形状を有する摺動内径部29が形成されている。プライマリピストン11は、この摺動内径部29の最小の内径面に摺動可能に嵌合されており、この内径面で案内されてシリンダ軸方向に移動する。
【0016】
摺動内径部28には、シリンダ軸方向における位置をずらして複数(ここでは2カ所)のいずれも円環状をなす周溝30、周溝31がシリンダ底部3側からこの順に形成されている。また、摺動内径部29にも、シリンダ軸方向における位置をずらして複数(ここでは2カ所)のいずれも円環状の形状を有する周溝32、周溝33がシリンダ底部3側からこの順に形成されている。周溝30,31は、シリンダ周方向に環状に形成されて摺動内径部28の最小の内径面よりもシリンダ径方向外側に凹む形状を有しており、周溝32,33は、シリンダ周方向に環状に形成されて摺動内径部29の最小の内径面よりもシリンダ径方向外側に凹む形状を有している。周溝30〜33は、いずれも全体が切削加工により形成されている。
【0017】
周溝30〜33のうち最もシリンダ底部3側にある周溝30は、取付穴24および取付穴25のうちのシリンダ底部3側の取付穴24の近傍に形成されている。この周溝30内には、周溝30に保持されるように、円環状のピストンシール35が配置されている。
【0018】
シリンダ本体5の摺動内径部28における周溝30よりもシリンダ開口6側には、シリンダ径方向外側に摺動内径部28の最小の内径面よりも凹む環状の開口溝37が形成されている。この開口溝37は、シリンダ底部3側の取付穴24から穿設される連通穴36をシリンダ筒部4内に開口させる。ここで、この開口溝37と連通穴36とが、シリンダ本体5に設けられてリザーバ2に常時連通するセカンダリ補給路38を構成している。
【0019】
シリンダ本体5の摺動内径部28の周溝30よりもシリンダ底部3側には、周溝30に開口するとともに周溝30からシリンダ軸方向に直線状にシリンダ底部3側に向け延出する連通溝41が、シリンダ径方向外側に摺動内径部28の最小の内径面よりも凹むように形成されている。この連通溝41は、シリンダ底部3と周溝30との間であってシリンダ底部3の近傍となる位置に形成されたセカンダリ吐出路26と周溝30とを、セカンダリピストン12とシリンダ底部3との間のセカンダリ圧力室17を介して連通させる。
【0020】
シリンダ本体5の摺動内径部28には、シリンダ軸線方向における上記開口溝37の周溝30とは反対側つまりシリンダ開口6側に、上記周溝31が形成されている。この周溝31内には、周溝31に保持されるように、円環状の区画シール42が配置されている。
【0021】
シリンダ本体5の摺動内径部29には、シリンダ開口6側の取付穴25の近傍に、上記した周溝32が形成されている。この周溝32内には、周溝32に保持されるように、円環状のピストンシール45が配置されている。
【0022】
シリンダ本体5の摺動内径部29におけるこの周溝32のシリンダ開口6側には、シリンダ径方向外側に摺動内径部29の最小の内径面よりも凹む環状の開口溝47が形成されている。この開口溝47は、シリンダ開口6側の取付穴25から穿設される連通穴46をシリンダ筒部4内に開口させる。ここで、この開口溝47と連通穴46とが、シリンダ本体5に設けられてリザーバ2に常時連通するプライマリ補給路48を主に構成している。
【0023】
シリンダ本体5の摺動内径部29の周溝32よりもシリンダ底部3側には、周溝32に開口するとともに周溝32からシリンダ軸方向に直線状にシリンダ底部3側に向け延出する連通溝51が、シリンダ径方向外側に摺動内径部29の最小の内径面よりも凹むように形成されている。この連通溝51は、周溝31と周溝32との間であって周溝31の近傍となる位置に形成されたプライマリ吐出路27と周溝32とを、プライマリピストン11とセカンダリピストン12と間のプライマリ圧力室14を介して連通させる。
【0024】
シリンダ本体5の摺動内径部29における上記開口溝47の周溝32とは反対側つまりシリンダ開口6に周溝33が形成されている。この周溝33内には、周溝33に保持されるように、円環状の区画シール52が配置されている。
【0025】
シリンダ本体5のシリンダ底部3側に配置されるセカンダリピストン12は、円筒状部55と、円筒状部55の軸線方向における一側に形成された底部56と、底部56から円筒状部55とは反対側に突出する段部57とを有する形状に形成されている。上記した内周孔22は、円筒状部55と底部56とにより形成されている。セカンダリピストン12は、円筒状部55をシリンダ本体5のシリンダ底部3側に配置した状態で、シリンダ本体5の摺動内径部28、摺動内径部28に設けられたピストンシール35および区画シール42のそれぞれに嵌合されている。セカンダリピストン12は、これらで案内されてシリンダ本体5内を摺動する。
【0026】
円筒状部55の底部56とは反対の端側外周部には、セカンダリピストン12の外周面において最大の外径面よりも径方向内方に凹む円環状の外周凹部59が形成されている。この外周凹部59には、その底部56側にシリンダ径方向に貫通するポート60が複数、シリンダ周方向の等間隔位置に放射状となるように形成されている。
【0027】
セカンダリピストン12の内周孔22内には、コイルスプリングである上記したセカンダリピストンスプリング18が挿入されている。セカンダリピストンスプリング18は、軸方向の一端がセカンダリピストン12の底部56に当接し、軸方向の他端がシリンダ本体5のシリンダ底部3に当接する。セカンダリピストンスプリング18は、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がない非制動状態でセカンダリピストン12とシリンダ底部3との間隔を決める。セカンダリピストンスプリング18は、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力があると縮長し、縮長に応じてセカンダリピストン12をシリンダ開口6側に付勢する。
【0028】
ここで、シリンダ底部3およびシリンダ筒部4のシリンダ底部3側とセカンダリピストン12とで囲まれて形成される部分が、ブレーキ液圧を発生してセカンダリ吐出路26にブレーキ液圧を供給する上記したセカンダリ圧力室17となっている。言い換えれば、セカンダリピストン12は、シリンダ本体5との間に、セカンダリ吐出路26に液圧を供給するセカンダリ圧力室17を形成している。このセカンダリ圧力室17は、セカンダリピストン12がポート60を開口溝37に開口させる位置にあるとき、セカンダリ補給路38つまりリザーバ2に連通するようになっている。
【0029】
シリンダ本体5の周溝31に保持される区画シール42は、合成ゴムから形成される一体成形品であり、その中心線を含む径方向断面の片側形状がC字状の形状を有している。区画シール42は、リップ部分がシリンダ開口6側に向く状態で周溝31内に配置されている。区画シール42は、内周が、シリンダ軸方向に移動するセカンダリピストン12の外周面に摺接するとともに、外周がシリンダ本体5の周溝31に当接する。これにより、区画シール42は、セカンダリピストン12およびシリンダ本体5の区画シール42の位置の隙間を常時密封する。
【0030】
シリンダ本体5の周溝30に保持されるピストンシール35は、EPDM等の合成ゴムから形成される一体成形品であり、その中心線を含む径方向断面の片側形状がE字状の形状を有している。ピストンシール35は、リップ部分がシリンダ底部3側に向く状態で周溝30内に配置されている。ピストンシール35の内周は、シリンダ軸方向に移動するセカンダリピストン12の外周面に摺接する。また、ピストンシール35の外周は、シリンダ本体5の周溝30に当接するようになっている。
【0031】
このピストンシール35は、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がなくセカンダリピストン12が
図1に示すようにポート60を開口溝37に開口させる基本位置(非制動位置)にあるときに、上記セカンダリピストン12の外周凹部59内にあって、ポート60にその一部がシリンダ軸方向にラップするようになっている。この状態では、セカンダリ補給路38およびポート60を介してセカンダリ圧力室17とリザーバ2とが連通している。
【0032】
図示略のブレーキブースタの出力によって、プライマリピストン11がシリンダ底部3側に移動すると、プライマリピストン11にプライマリピストンスプリング15を含む間隔調整部16を介して押圧されてセカンダリピストン12がシリンダ底部3側に移動する。その際に、セカンダリピストン12は、シリンダ本体5の摺動内径部28およびシリンダ本体5に保持されたピストンシール35および区画シール42の内周で摺動して移動する。シリンダ底部3側に移動すると、セカンダリピストン12は、ポート60をピストンシール35よりもシリンダ底部3側に位置させる状態となる。この状態で、ピストンシール35は、リザーバ2およびセカンダリ補給路38と、セカンダリ圧力室17との間を密封する状態になる。その結果、セカンダリピストン12がシリンダ底部3側にさらに移動すると、セカンダリ圧力室17内のブレーキ液が加圧される。セカンダリ圧力室17内で加圧されたブレーキ液は、セカンダリ吐出路26から車輪側の制動用シリンダに供給される。
【0033】
他方、セカンダリ圧力室17内のブレーキ液を加圧している状態から、図示略のブレーキブースタの出力が小さくなると、セカンダリピストンスプリング18の付勢力によって、セカンダリピストン12がシリンダ開口6側に戻ろうとする。このセカンダリピストン12の移動によってセカンダリ圧力室17の容積が拡大していくことになるが、その際に、ブレーキ配管を介してのブレーキ液の戻りがセカンダリ圧力室17の容積拡大に追いつかなくなってしまうと、大気圧であるセカンダリ補給路38の液圧とセカンダリ圧力室17の液圧とが等しくなった後、セカンダリ圧力室17内の液圧は負圧となる。
【0034】
すると、このセカンダリ圧力室17内の負圧が、ピストンシール35を変形させてピストンシール35と周溝30との間に隙間を形成する。これにより、セカンダリ補給路38のブレーキ液が、この隙間を通って、セカンダリ圧力室17に補給されることになる。これにより、セカンダリ圧力室17の液圧を負圧状態から大気圧に戻す速度を速めるようになっている。
【0035】
シリンダ本体5のシリンダ開口6側に配置されるプライマリピストン11は、図示略のブレーキブースタの出力軸側となる基端側の基端側円筒状部71と、基端側円筒状部71の軸線方向における一側に形成された底部72と、底部72の基端側円筒状部71とは反対側に形成された先端側円筒状部73とを有する形状を有している。上記した第1の内周孔20は、これらのうちの基端側円筒状部71と底部72とにより形成され、第2の内周孔21は、これらのうちの先端側円筒状部73と底部72とにより形成されている。
【0036】
プライマリピストン11は、先端側円筒状部73をセカンダリピストン12側に配置した状態で、シリンダ本体5の摺動内径部29、摺動内径部29に設けられたピストンシール45および区画シール52のそれぞれに嵌合されている。プライマリピストン11は、これらで案内されてシリンダ本体5内を摺動する。基端側円筒状部71の内側つまり第1の内周孔20内に、図示略のブレーキブースタの出力軸が挿入され、この出力軸によって底部72が押圧されてプライマリピストン11がシリンダ底部3側に前進する。
【0037】
先端側円筒状部73の底部72とは反対の端側外周部には、プライマリピストン11の外周面において最大径の外径面よりも径方向内方に凹む円環状の外周凹部75が形成されている。この外周凹部75には、その底部72側に径方向に貫通するポート76が複数、シリンダ周方向の等間隔位置に、放射状となるように形成されている。
【0038】
プライマリピストン11のセカンダリピストン12側には、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がない非制動状態でこれらの間隔を決める上記した間隔調整部16が設けられている。この間隔調整部16は、プライマリピストンスプリング15と、プライマリピストンスプリング15の最大長を規制するスプリングリテーナ80と、から構成されている。スプリングリテーナ80は、プライマリピストンスプリング15のシリンダ底部3に近い端部側を係止する係止部材であるシート81と、シート81にシリンダ底部3に近い一端側が当接し、シリンダ開口6に近い他端側がプライマリピストン11に螺合されて固定される棒状部材であるステム82と、を有している。プライマリピストンスプリング15は、シリンダ開口6に近い側の端部がプライマリピストン11の底部72に当接し、シリンダ底部3に近い側の端部がシート81に当接しており、シート81とプライマリピストン11の底部72との間に介装されている。プライマリピストン11は、軸方向両端部にそれぞれ第1、第2の内周孔20,21を有し、先端側の第2の内周孔21にスプリングリテーナ80が固定されている。間隔調整部16は、シート81がセカンダリピストン12の底部56に当接する。その際に、シート81は、セカンダリピストン12の段部57を内側に係合させる。
【0039】
ステム82は、シート81の軸方向の移動範囲を規制しつつシート81を摺動可能に支持する。すなわち、ステム82は、ステム82およびこれが固定されたプライマリピストン11に対するシート81の所定範囲を越える移動を規制する。その結果、ステム82は、シート81に係止されたプライマリピストンスプリング15の伸長を、その最大長が所定長さを越えないように規制する。プライマリピストンスプリング15は、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力があってプライマリピストン11とセカンダリピストン12との間隔が狭まると縮長し、縮長に応じてプライマリピストン11を図示略のブレーキブースタの出力軸側に付勢する。
【0040】
ここで、シリンダ本体5のシリンダ筒部4とプライマリピストン11とセカンダリピストン12とで囲まれて形成される部分が、ブレーキ液圧を発生してプライマリ吐出路27にブレーキ液を供給する上記したプライマリ圧力室14となっている。言い換えれば、プライマリピストン11は、セカンダリピストン12とシリンダ本体5との間に、プライマリ吐出路27に液圧を供給するプライマリ圧力室14を形成している。このプライマリ圧力室14は、
図1に示すようにプライマリピストン11がポート76を開口溝47に開口させる位置にあるとき、プライマリ補給路48つまりリザーバ2に連通するようになっている。
【0041】
シリンダ本体5の周溝33に保持される区画シール52は、区画シール42と共通の部品であり、合成ゴムから形成される一体成形品であって、その中心線を含む径方向断面の片側形状がC字状の形状を有している。区画シール52は、リップ部分がシリンダ底部3側に向く状態で周溝33内に配置されている。区画シール52は、内周が、シリンダ軸方向に移動するプライマリピストン11の外周面に摺接するとともに、外周がシリンダ本体5の周溝33に当接する。これにより、区画シール52は、プライマリピストン11およびシリンダ本体5の区画シール52の位置の隙間を常時密封する。
【0042】
シリンダ本体5の周溝32に保持されるピストンシール45は、ピストンシール35と共通の部品であり、EPDM等の合成ゴムから形成される一体成形品であって、その中心線を含む径方向断面の片側形状がE字状の形状を有している。ピストンシール45は、リップ部分がシリンダ底部3側に向く状態で周溝32内に配置されている。ピストンシール45の内周は、シリンダ軸方向に移動するプライマリピストン11の外周面に摺接する。ピストンシール45の外周は、シリンダ本体5の周溝32に当接するようになっている。
【0043】
このピストンシール45は、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がなくプライマリピストン11が
図1に示すようにポート76を開口溝47に開口させる基本位置(非制動位置)にあるときに、プライマリピストン11の外周凹部75内にあって、ポート76にその一部がシリンダ軸方向にラップするようになっている。この状態では、プライマリ補給路48およびポート76を介してプライマリ圧力室14とリザーバ2とが連通している。
【0044】
図示略のブレーキブースタの出力によって、プライマリピストン11がシリンダ底部3側に移動する。その際に、プライマリピストン11は、シリンダ本体5の摺動内径部29およびシリンダ本体5に保持されたピストンシール45および区画シール52の内周で摺動して移動する。シリンダ底部3側に移動するとプライマリピストン11はポート76をピストンシール45よりもシリンダ底部3側に位置させる状態となる。この状態で、ピストンシール45は、リザーバ2およびプライマリ補給路48と、プライマリ圧力室14との間を密封する状態になる。これにより、プライマリピストン11がシリンダ底部3側にさらに移動すると、プライマリ圧力室14内のブレーキ液が加圧される。プライマリ圧力室14内で加圧されたブレーキ液は、プライマリ吐出路27から車輪側の制動用シリンダに供給される。
【0045】
他方、プライマリ圧力室14内のブレーキ液を加圧している状態から、図示略のブレーキブースタの出力が小さくなると、プライマリピストンスプリング15の付勢力によって、プライマリピストン11がシリンダ底部3とは反対側に戻ろうとする。このプライマリピストン11の移動によってプライマリ圧力室14の容積が拡大していくことになるが、その際に、ブレーキ配管を介してのブレーキ液の戻りがプライマリ圧力室14の容積拡大に追いつかなくなってしまうと、大気圧であるプライマリ補給路48の液圧とプライマリ圧力室14の液圧とが等しくなった後、プライマリ圧力室14内の液圧は負圧となる。
【0046】
すると、このプライマリ圧力室14内の負圧が、ピストンシール45を変形させてピストンシール45と周溝32との間に隙間を形成する。これにより、プライマリ補給路48のブレーキ液が、この隙間を通って、プライマリ圧力室14に補給されることになる。これにより、プライマリ圧力室14の液圧を負圧状態から大気圧に戻す速度を速めるようになっている。
【0047】
図2は、
図1に示す間隔調整部16が取り付けられる前のプライマリピストン11Aを示すものである。なお、間隔調整部16が取り付けられる前のプライマリピストン11Aと間隔調整部16が取り付けられた後のプライマリピストン11とで変化しない部位には同一の符号を付し、変化する部位には変化前の状態の符号に「A」を付して区別する。
【0048】
図2に示すように、プライマリピストン11Aの基端側の第1の内周孔20内には、プライマリピストン11Aの回転を抑制するための治具111が嵌合する平面部を有する嵌合部101が形成されている。嵌合部101は、
図3に示すように、基端側円筒状部71の内周部に形成された複数の嵌合溝102を有している。複数の嵌合溝102は、いずれも同形状でプライマリピストン11Aの軸方向に直線状の二平面で延在しており、プライマリピストン11Aの周方向に等間隔で配置されている。つまり、嵌合部101はセレーション形状を有している。また、嵌合溝102の二平面のうち、片側の平面が、上述の治具111が嵌合する平面部を構成することになる。なお、嵌合部101は、治具と嵌合してプライマリピストン11の回転を抑制することができれば良い。例えば、互いに平行に対向する二平面を基端側円筒状部71の内周面つまり第1の内周孔20に形成する一方、治具に互いに反対に向く平行な二平面を形成して、これら治具および第1の内周孔20を嵌合させても良い。
【0049】
治具111には、
図2に示すように、スプライン軸部112が形成されている。スプライン軸部112には、複数の凸状部113が形成されている。凸状部113は、いずれも同形状でスプライン軸部112の軸方向に直線状に延在しており、スプライン軸部112の周方向に等間隔で配置されている。治具111は、作業台等に固定されて用いられる。治具111は、スプライン軸部112がプライマリピストン11Aの嵌合部101に嵌合されると、各凸状部113が各嵌合溝102に嵌合することになって、プライマリピストン11Aの相対回転を抑制する状態となる。
【0050】
第1の内周孔20の底面を形成する底部72の軸方向の基端側円筒状部71側には、径方向の中央ほど軸方向の先端側に位置するように凹む形状を有する凹状部106が形成されている。凹状部106は径方向の中央位置が最も凹む最深部107となっている。底部72のこの最深部107に、図示略のブレーキブースタの出力軸の先端部が当接する。
【0051】
プライマリピストン11Aの先端側円筒状部73の内周面120、言い換えれば第2の内周孔21の内周面120は、底部72とは反対側つまり先端側から順に、円筒面部121とテーパ面部122と円筒面部123とを有している。円筒面部121は一定径の円筒面状に形成されている。テーパ面部122は、円筒面部121の底部72側の端縁部から底部72側に位置するほど小径となるテーパ面状に形成されて延出している。円筒面部123は、テーパ面部122の底部72側の端縁部から一定径の円筒面状に形成されて底部72側に延出している。円筒面部121とテーパ面部122と円筒面部123とは中心軸線を一致させている。
【0052】
プライマリピストン11Aの底部72の先端側円筒状部73側の底面125、言い換えれば第2の内周孔21の底面125は、環状面部126と円筒面部127と環状面部128とを有している。環状面部126は、円環状の形状を有しており、円筒面部123のテーパ面部122とは反対側の端縁部から円筒面部123と直交して径方向内方に延出している。円筒面部127は、環状面部126の内周縁部から円筒面部121側に円筒面状に形成されて延出している。環状面部128は、円環状の形状を有しており、円筒面部127の環状面部126とは反対側の端縁部から円筒面部127と直交して径方向内方に延出する。円筒面部123と環状面部126と円筒面部127と環状面部128とは中心軸線を一致させている。円筒面部123と環状面部126と円筒面部127とによって、第2の内周孔21内には、底部72に、環状面部128よりも基端側円筒状部71側に凹む円環状の環状凹部129が形成されている。
【0053】
プライマリピストン11Aの第2の内周孔21内には、底部72の径方向中央から先端側円筒状部73と同側つまり先端側に突出する円柱状の取付部131Aが形成されている。取付部131Aは、外周面132と、先端側の先端面133Aとを有している。外周面132は、環状面部128の内周縁部から底部72とは反対方向に円筒面状に形成されて延出している。先端面133Aは、外周面132の底部72とは反対側の端縁部から径方向内側に延出する円環状の
図4に示す外側面部135と、外側面部135の内周縁部から径方向内方に内側ほど外側面部135から軸方向に離れるように縮径状に延出するテーパ面部136Aと、テーパ面部136Aの内周縁部から外側面部135と平行に径方向内方に延出する円環状の内側面部137Aとを有している。
図2に示すように、外周面132および先端面133Aは、環状面部128と中心軸線を一致させている。
【0054】
取付部131Aには、径方向中央に先端面133Aから軸方向に凹んで凹部140Aが、プライマリピストン11Aを軸方向に貫通することなく所定深さまで形成されている。言い換えれば、凹部140Aは、第2の内周孔21内に開口する一方、第1の内周孔20内には開口することなく形成されている。すなわち、取付部131Aは、有底筒状を有している。取付部131Aの凹部140Aは、
図1に示す間隔調整部16のステム82(棒状部材)が取り付けられる部分となっている。
【0055】
図4に示すように、凹部140Aは、内側面部137Aの内側に形成されている。凹部140Aの開口部145Aの周縁部である開口周縁部141Aは、内側面部137Aの全部とテーパ面部136Aの全部と外側面部135の内周側の一部とを有している。内側面部137Aの全部とテーパ面部136Aの全部とを含む部分は、外側面部135よりも
図2に示す底部72から離れる方向に突出する凸部142Aとなっている。これにより、プライマリピストン11Aは、凹部140Aの開口周縁部141Aが底部72とは反対の方向に向かって突出する凸部142Aを有している。言い換えれば、開口周縁部141Aは、ステム82を凹部140Aに取り付ける前、
図1に示すプライマリピストンスプリング15が配置される方向に向かって突出する凸部142Aを有している。凸部142Aは、突出先端側ほど外径が小さくなる先細形状を有している。
図2に示すように、プライマリピストン11Aは、その全部、つまり、基端側円筒状部71と、底部72と、先端側円筒状部73と、凸部142Aを含む取付部131Aとが、一つの素材から加工されて形成されている。
【0056】
図4に示すように、凹部140Aは、その深さ方向奥側の所定範囲が第1の領域144Aとなっており、その開口部145A側の所定範囲が第2の領域146Aとなっている。第1の領域144Aと第2の領域146Aとは隣接している。第1の領域144Aは、開口部145Aから離れるほど小径となる円錐面状の底面147と、底面147の開口部145A側の端縁部から開口部145Aの方向に延出する円筒面状の内周面148Aと、内周面148Aの開口部145A側の端縁部から拡径しつつ開口部145A側に延出するテーパ面状の傾斜面149Aとを含んでいる。第2の領域146Aは、傾斜面149Aの開口部145A側の端縁部から開口部145Aの方向に延出する円筒面状の内周面150Aを含んでいる。底面147、内周面148A、傾斜面149Aおよび内周面150Aは中心軸線を一致させた同軸状に形成されており、取付部131Aの中心軸上、つまりプライマリピストン11Aの中心軸上に形成されている。内周面150Aは開口部145Aの開口端まで延在している。第1の領域144Aの内周面148Aの内径は、第2の領域146Aの内周面150Aの内径よりも小径となっている。つまり、凹部140Aは、奥側が狭い2段の段付き穴となっている。
【0057】
ステム82は、
図5に示すように、軸方向一端側から順に、円板状の大径部155と、大径部155よりも小径の円柱状の棒状部156と、棒状部156よりも小径となるように径方向に凹む円環状の環状溝部157と、ネジ部158とを有している。つまり、ステム82には軸方向一端側に大径部155が形成され、軸方向他端側には、棒状部156の端面から延出する延出部159が形成される。延出部159の先端(大径部155とは反対側の端)には、ネジ部158が設けられ、延出部159におけるネジ部158よりも大径部155側つまり軸方向一端側に環状溝部157が設けられている。ステム82には、環状溝部157よりも大径部155側つまり軸方向一端側に棒状部156が形成されている。これら大径部155、棒状部156、延出部159、環状溝部157およびネジ部158は、中心軸線を一致させている。ステム82は、一つの素材から加工されて形成されている。
【0058】
ステム82の大径部155の内部、つまり軸方向一端側の端面には、ステム82を回転させるための工具161が挿入される多角形孔160が設けられている。工具161は具体的には六角レンチであり、よって、多角形孔160は、
図6に示すように正面から見て正六角形状をなす孔となっている。
【0059】
図4に示すように、棒状部156は、一定径の円筒面状をなす外周面165と、外周面165のネジ部158側の端縁部から径方向内方に延出する端面166とを有している。端面166は、外周面165の中心軸線、つまりステム82の中心軸線に直交している。棒状部156のネジ部158側には、端面166および外周面165の端面166側の一部を含んで段状の先端側端部168が形成されている。端面166の最大外径つまり先端側端部168の最大外径は、凸部142Aの最大外径であるテーパ面部136Aの最大外径よりも大径となっている。
【0060】
環状溝部157は、上記した端面166と、端面166のネジ部158側にある円筒面部171と、ネジ部158の棒状部156側の面取り172とで形成されている。円筒面部171は一定径の円筒面状に形成されており、端面166の内周縁部からネジ部158の方向に延出する。面取り172は、円筒面部171の端面166とは反対側の端縁部から軸方向に端面166から離れるほど大径となる拡径状に形成されて延出している。ネジ部158の棒状部156とは反対端の外周側にも面取り173が形成されており、面取り173は、軸方向に端面166から離れるほど小径となる縮径状に形成されている。ネジ部158の面取り172,173間の外周部は、ネジ山の螺旋状頂部174となっており、螺旋状頂部174は、円筒面に配置されている。ネジ部158の棒状部156とは反対側の先端面175は、円形状に形成されている。外周面165、端面166、円筒面部171、面取り172,173、螺旋状頂部174および先端面175は、中心軸線を一致させている。
【0061】
ネジ部158は、取り付け対象にメネジを形成しながら螺合されるセルフタッピングネジである。ネジ部158は、その最大外径である螺旋状頂部174の径が、取り付け対象であるプライマリピストン11Aの取付部131Aの第2の領域146Aの内周面150Aの内径よりも小径となっている。また、ネジ部158は、螺旋状頂部174の径が、プライマリピストン11Aの取付部131Aの第1の領域144Aの内周面148Aの内径よりも小径となっている。
【0062】
図1に示す間隔調整部16を、
図2に示すプライマリピストン11Aに取り付ける場合、間隔調整部16のステム82を、プライマリピストン11Aの取付部131Aの凹部140Aに取り付けることになる。その際に、
図4に示すように、凹部140Aの第2の領域146Aの内周面150Aの内径が、ステム82のネジ部158の螺旋状頂部174の外径よりも大径となっているため、ネジ部158は第2の領域146Aの内周面150Aの内側に内周面150Aに接触することなく挿入可能となっている。そして、ネジ部158の面取り173を第1の領域144Aの傾斜面149Aに当接させた状態で、ステム82の
図5に示す多角形孔160に工具161を嵌合させて、この工具161により、ステム82を凹部140Aに押し込みながら回転させる。すると、
図7Aに示すように、セルフタッピングネジからなるネジ部158が、凹部140Aの第1の領域144Aにメネジ177を形成しながら螺合する。
【0063】
そして、第1の領域144Aへのネジ部158の螺合が進行すると、棒状部156の端面166が、凸部142Aの内側面部137Aに接触する。つまり、棒状部156の端面166が、ネジ部158の凹部140Aへの螺合前の開口周縁部141Aに設けられた凸部142Aに接触する。工具161でさらにステム82を回転させると、ステム82の棒状部156の端面166を含む先端側端部168が、凸部142Aをその外径側の傾斜により凹部140Aの内部に向かって押し出すように塑性変形させる。
【0064】
第1の領域144Aにネジ部158が所定量螺合されると、
図7Bに示すように、取付部131に凹部140が形成されることになる。凹部140には、凸部142Aが凹部140Aの径方向中心に向かって塑性変形により押し出された突出部142が開口周縁部141の近傍に形成されている。突出部142は、開口周縁部141と同一部材から形成されている。このようにして、ステム82をプライマリピストン11に取り付けるステム取付工程が完了する。すなわち、凹部140は、その開口周縁部141の近傍に、凹部140の内部、すなわち径方向中心に向かって突出し、該開口周縁部141と同一部材から形成されている突出部142を備えることになる。
【0065】
ステム取付工程完了後の凹部140には、メネジ177および突出部142が形成されることになる。なお、ネジ部158としてセルフタッピングネジを用いずに、ステム取付工程の前に第1の領域144にメネジ177を予め形成しておいても良い。
【0066】
ステム取付工程完了後の第1の領域144には、その内周面148および傾斜面149を含めて、メネジ177が形成されている。また、ステム取付工程完了後の第2の領域146は、内周面150を含めて突出部142と傾斜面149との間に残存する部分となっている。ステム取付工程完了後の凹部140は、開口周縁部141が、外側面部135と高さを合わせている。ステム取付工程完了後の第2の領域146と開口周縁部141との間に、突出部142が形成されている。ステム取付工程完了後の開口周縁部141は、全周にわたって先端側端部168の端面166に密着している。
【0067】
ステム取付工程完了後、つまり塑性変形後の突出部142は円環状の形状を有しており、その内径は、ステム82のネジ部158の外径つまり螺旋状頂部174の外径よりも小径となっている。これにより、突出部142が、プライマリピストン11に対するステム82の緩みを抑制する。ここで、凸部142Aの体積は、ネジ部158のセルフタッピングにより発生する切り粉Kを、突出部142とネジ部158との間の隙間に収容することが可能である。しかも、切り粉Kが介在することで、ネジ部158が突出部142側へ移動してしまうことを抑制するように設定される。なお、ステム取付工程の前に第1の領域144にメネジ177を予め形成しておく場合、切り粉Kの発生がないため、凸部142Aの体積は、ステム取付工程を行うことで突出部142がネジ部158に直接当接してネジ部158の突出部142側への移動を規制するように設定可能である。
【0068】
ステム取付工程完了後の凹部140は、ネジ部158と螺合するメネジ177を有する第1の領域144を備えている。また、ステム取付工程完了後の凹部140は、第1の領域144よりもステム82の先端側の先端面175から離れる方向にあり、内周面150がステム82のネジ部158の外周部である螺旋状頂部174との間に隙間を有する第2の領域146を備えている。また、ステム取付工程完了後の凹部140は、第2の領域146と凹部140の開口周縁部141との間に開口周縁部141と同一部材から形成される突出部142を備えている。
【0069】
図8に示すように、シート81は、円筒状の嵌合口部181と、嵌合口部181の軸方向一端側の端縁部から嵌合口部181に直交して径方向外方に延出する円環状の当接部182と、当接部182の外周縁部から軸方向の嵌合口部181とは反対側に延出する円筒状の胴部183と、胴部183の当接部182とは反対側の端縁部から胴部183に直交して径方向外方に延出する環状の係止部184とを有している。
【0070】
シート81には、ステム82が、ネジ部158を先頭にして、係止部184側から胴部183および嵌合口部181の内側に挿入される。その際に、ステム82は棒状部156が嵌合口部181に摺動可能に嵌合する。また、ステム82は、大径部155が当接部182に当接することで嵌合口部181を通過してしまうことが規制される。
【0071】
シート81およびステム82が、このように組み立てられてスプリングリテーナ80を構成する状態で、シート81の係止部184と、プライマリピストン11の底部72との間にプライマリピストンスプリング15を介装させる。そして、ステム82の大径部155に当接部182にて当接したシート81でプライマリピストンスプリング15を自然状態よりも縮長させながらステム82のネジ部158をプライマリピストン11の凹部140に上記のステム取付工程によって螺合させる。
【0072】
その際に、プライマリピストン11の
図2に示す嵌合部101に治具111のスプライン軸部112を嵌合させて、プライマリピストン11の回転を抑制した状態として、
図5に示すステム82の多角形孔160に嵌合する工具161を回転させることにより、ステム82のネジ部158をプライマリピストン11の凹部140に螺合させる。これにより、
図8に示すように、シート81およびステム82から構成されるスプリングリテーナ80とプライマリピストンスプリング15とから構成される間隔調整部16が、プライマリピストン11に組み付けられて、ピストン組立体191となる。
【0073】
プライマリピストン11および間隔調整部16は、予め上記のように組み立てられたピストン組立体191の状態で、
図1に示すシリンダ本体5に組み付けられる。つまり、シリンダ本体5の周溝30にピストンシール35を、周溝31に区画シール42を取り付けた状態で、セカンダリピストンスプリング18およびセカンダリピストン12をこの順番でシリンダ本体5内に挿入し、セカンダリピストン12をピストンシール35および区画シール42に嵌合させる。次に、シリンダ本体5の周溝32にピストンシール45を、周溝33に区画シール52を取り付け、ピストン組立体191をシリンダ本体5内に挿入し、そのプライマリピストン11をピストンシール45および区画シール52に嵌合させる。そして、プライマリピストン11を覆うように、ストッパ部材19をシリンダ本体5のシリンダ開口6側の係止溝198に係止させる。
【0074】
図8に示すピストン組立体191は、シート81が、プライマリピストン11に固定されたステム82の大径部155に当接部182にて当接してプライマリピストン11から軸方向に離れる方向の移動が規制される。この状態で、プライマリピストンスプリング15は、自然状態よりも縮長した状態にある。
【0075】
上記のようにステム82をプライマリピストン11Aに組み付ける際に、上記したステム取付工程では、プライマリピストン11に対するプライマリピストンスプリング15のシート81側の端部までの長さが所定長さとなるまで、ステム82をプライマリピストン11Aにねじ込むことになる。
【0076】
具体的には、取り付け工程では、
図8に示すように、図示略のブレーキブースタの出力軸に当接するプライマリピストン11の基端側の凹状部106の最深部107からシート81のプライマリピストン11とは反対側の端部までの距離Lが所定距離となるように、ステム82をプライマリピストン11Aねじ込む。言い換えれば、ステム82の取り付け工程によって、プライマリピストン11に対するプライマリピストンスプリング15のシート81側の端部までの長さが所定長さとなるまで、棒状部156の先端側端部168をプライマリピストン11の凹部140内に配置する。さらに言い換えれば、ピストン組立体191の組み立て工程において、ステム82の組み付け量は、プライマリピストン11に対するプライマリピストンスプリング15のシート81側の端部までの長さが所定長さになるように管理される。これにより、ステム82が、シート81に一端側が当接してプライマリピストンスプリング15の長さを規制する状態となる。
【0077】
スプリングリテーナ80のステム82は、上記のようにプライマリピストン11に対するプライマリピストンスプリング15のシート81側の端部までの長さが所定長さになるようにねじ込まれて規定の取付状態となる。
【0078】
以上のようにプライマリピストン11Aを塑性変形させてプライマリピストン11とすることから、ステム82は、プライマリピストン11Aよりも硬い材料からなっている。例えば、ステム82は鋼材で形成され、プライマリピストン11Aはアルミニウム合金の鋳造品あるいは鍛造品、鉄の鋳造品あるいは鍛造品から形成されている。
【0079】
上記した特許文献1に記載のマスタシリンダは、リテーナをピストンに直接螺合させて取り付けて、これらの間に戻しバネを配置するものである。このため、部品点数を低減でき、コストを低減できる。しかしながら、リテーナを螺合させる構造であると、緩み止めを施策する必要がある。つまり、螺合が緩むとピストンスプリングの最大長が長くなるためセカンダリピストンが前進し、補給室と圧力室間のブレーキ液を流通させるピストン連通ポートがカップにより閉塞されたままとなり、圧力室の液圧が解除できずブレーキ引き摺りを発生する可能性がある。このため、例えば、緩み防止剤を螺合部分に塗布したり、ワッシャを追加したて緩み止めを図る必要がある。その結果、コスト増となってしまう。また、リテーナを螺合させるネジ孔には、リテーナ螺合後にエアが存在する場合がある。リテーナの螺合が緩むと、このエアが使用時に流出し、ペダルフィーリングを低下させてしまう可能性がある。さらに、緩み抑制のためセルフタッピングネジを用いた場合、切り粉がブレーキ液に混入する、いわゆるコンタミネーションを生じる可能性がある。
【0080】
これに対して、本実施形態のマスタシリンダ1も、シート81に一端側が当接してプライマリピストンスプリング15の長さを規制するスプリングリテーナ80のステム82の他端側がプライマリピストン11に固定されるため、部品点数が少なくなり、コストを低減することが可能になる。また、スプリングリテーナ80の部品点数が少なくなることから、規制するプライマリピストンスプリング15の最大長に影響する誤差の累積が少なくなり、この最大長の誤差を抑制できる。したがって、ブレーキペダルの無効ストロークのバラツキおよびマスタシリンダ1の特性のバラツキを抑制できる。
【0081】
また、本実施形態のマスタシリンダ1は、ステム82が取り付けられる凹部140の開口周縁部141の近傍に、凹部140の内部、すなわち径方向中心に向かって塑性変形により押し出された、開口周縁部141と同一部材から形成される突出部142を備えている。よって、この突出部142でステム82の緩みを抑制することができるため、コスト増を抑制することができる。ステム82の緩みを抑制するため、凹部140に残存するエアの流出を抑制することができ、ペダルフィーリングの低下を抑制することができる。また、突出部142は凹部140の内部、すなわち径方向中心に向かって塑性変形したものであるため、ステム82との径方向の隙間を狭めることができる。よって、ネジ部158としてセルフタッピングネジを用いた場合でも、切り粉の出口を狭め、ステム82がブレーキ液に混入する、いわゆるコンタミネーションの発生を抑制することができる。
【0082】
また、ステム82を取り付ける前の凹部140Aの開口周縁部141Aが、プライマリピストンスプリング15の方向に向かって突出する凸部142Aを有しており、突出部142は、この凸部142Aが凹部140Aの内部に向かって塑性変形により押し出されたものである。よって、ステム82で凸部142Aを凹部140Aの内部、すなわち径方向中心に向かって塑性変形させることができるため、コスト増をより抑制することができる。また、ステム82のネジ部158を凹部140Aに螺合させる工程を行うことで突出部142を形成できるため、追加の工程や追加の部材が不要であり、コスト増を一層抑制することができる。
【0083】
また、プライマリピストン11の凹部140が、ステム82のネジ部158と螺合する第1の領域144と、第1の領域144よりもステム82の先端側から離れる方向にあり、内周面150がステム82の外周部である螺旋状頂部174との間に隙間を有する第2の領域146と、を有し、突出部142が第2の領域146と開口周縁部141との間にあるため、塑性変形による突出部142の形成が容易となる。
【0084】
以上の実施形態に基づくマスタシリンダとしては、以下の態様のものが考えられる。第1の態様としては、シリンダ本体内を摺動するピストンと、該ピストンを付勢するピストンスプリングと、該ピストンスプリングの最大長を規制するスプリングリテーナと、を有するマスタシリンダにおいて、前記スプリングリテーナは、前記ピストンスプリングの一端側を係止する係止部材と、該係止部材に一端側が当接して前記ピストンスプリングの長さを規制し、他端側が前記ピストンに固定される棒状部材と、を有し、前記棒状部材は、前記ピストンの中央部に開口して設けられる凹部に取り付けられており、前記凹部は、前記凹部の径方向中心に向かって突出する突出部を備える構成となっている。
【0085】
第1の態様のマスタシリンダによれば、コスト増を抑制しつつ棒状部材の緩みを抑制することができる。
【0086】
第2の態様としては、第1の態様において、前記凹部は、前記棒状部材のネジ部と螺合する第1の領域と、前記第1の領域よりも前記棒状部材の先端側から離れる方向にあり、内周面が前記棒状部材の外周部との間に隙間を有する第2の領域と、を有し、前記突出部は、前記第2の領域の開口部に形成される構成となっている。
【0087】
第2の態様のマスタシリンダによれば、突出部を塑性変形によって形成することが可能となる。
【0088】
第3の態様としては、第1または第2の態様において、前記ピストンは、該ピストンの軸方向両側にいずれも底面を有する第1の内周孔と第2の内周孔とを有し、前記第1の内周孔は、ブレーキブースタの出力軸が当接する底面を有し、前記第2の内周孔内には、前記棒状部材が取付られる取付部が設けられ、該取付部には、前記凹部が形成されるとともに、前記突出部が前記取付部と同一部材で形成される。
【0089】
第4の態様としては、第3の態様において、前記第1の内周孔の内周面には、前記ピストンの回転を抑制するための治具が嵌合する平面部が形成されている。
【0090】
第5の態様としては、第1乃至第4のいずれかの態様において、前記棒状部材は、その軸方向一端側に形成され前記係止部材の位置を規制する大径部と、軸方向他側に形成され前記凹部に螺合するネジ部と、が設けられ、前記大径部の内部には、多角形孔が開口している。
【0091】
第6の態様としては、第5の態様において、前記突出部は、その内径が前記棒状部材のネジ部の外径よりも小さくなっている。
【0092】
第7の態様としては、第5の態様において、前記棒状部材は、その軸方向中央部に形成され前記ネジ部よりも外径が大きい棒状部と、該棒状部の他端側の端面から延出して先端が前記ネジ部となる延出部と、該延出部における前記ネジ部と前記棒状部の前記端面との間に形成される環状溝部と、を有し、前記突出部は、前記棒状部の前記端面に当接する。
【0093】
第8の態様としては、マスタシリンダを製造する製造方法において、前記棒状部材は、前記ピストンの凹部に取り付けられており、前記凹部の開口周縁部の近傍の部材を、該凹部の径方向中心に向かって塑性変形により押し出すステップを備える。
【0094】
第9の態様としては、前記開口周縁部は、前記棒状部材を前記凹部に取り付ける前、前記ピストンスプリングの方向に向かって突出する凸部を有しており、前記ステップは、前記凸部を前記凹部の径方向中心に向かって塑性変形させるステップである。