【文献】
Antonello Cogotti,"Ground Effect Simulation for Full-Scale Cars in the Pinifarina Wind Tunnel",SAE Paper,米国,Intl' SAE Congress & Exposition,1995年 2月,950996
【文献】
Wolf-Heinrich Hucho, Gino Sovran,"AERODYNAMICS OF ROAD VEHICLES",Annu. Rev. Fluid Mech.,1993年,Vol.25,p.485-537
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、人工的に流れを発生させ風速分布などを計測する風洞試験を行うために風洞装置が使用されている。風洞装置は、装置の一端側に送風機が設けられており、この送風機を駆動して所望の風速を作り、風洞内に送風するようにしている。例えば自動車用の風洞装置においては、車両の実走行状態を模擬するために、整流された一様噴流を吹き出せるように、各種管路要素が構成されている。
【0003】
ここで、風洞装置においては、壁面(床面など)において境界層が発達するため、車両下部の流れは実走行に比べると低流速の流れとなってしまう。
境界層を制御するために、風洞の壁面に空気吹き出し用のノズルと、空気吸い込み用のノズルを設置した風洞装置が知られている。この風洞装置では、空気吹き出し用のノズルから噴き出された空気及び空気吸い込み用のノズルによって吸引された空気によって境界層の風速分布を変えて、境界層の制御を行っている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の風洞装置においては、壁面に対して略垂直方向に空気を吹き出したり、吸引したりする構成であるため、境界層の制御、特に、壁面近傍の境界層を低減して流速分布を一様にする制御が難しいという課題があった。
【0006】
この発明は、対象物に対する風洞試験を行うための風洞装置において、風路内の面近傍の境界層を低減することができる風洞装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様によれば、風洞装置は、対象物の風洞試験を行う風洞装置であって、気流の流れ方向と平行に設けられた風路内の面に、前記気流の流れ方向に対して傾斜した下流方向へ前記気流と同程度の風速を有する空気を噴射する噴射口
と、前記噴射口に設けられ、前記面との境界層を制御する制御部と、を備え、前記噴射口は、前記面に開口した開口部と、前記気流の流れ方向に対して、前記気流の下流側に向かうに従って前記面に近づくように傾斜するダクト部と、を有し、前記制御部として、前記ダクト部の下流側に風路内面より引っ込んだ段差部を設けたことを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、風路内の面近傍に主流である気流と同程度の風速を有する空気が噴射されることによって、面近傍の境界層に気流と同程度のエネルギーが供給され、面近傍の境界層を低減することができる。
【0009】
また、ダクト部の下流側の段差部において、空気を一様に剥離させ、段差部内に剥離泡が形成される。この剥離泡領域においては気流の境界層が発達しないため、面近傍の境界層を低減することができる。
【0010】
上記風洞装置において
、前記制御部として、前記ダクト部に前記空気の下流側に向かって漸次断面積が小さくなる絞り部を設けてもよい。
【0011】
このような構成によれば、絞り部による空気の流れの縮流により、噴射口で生じる境界層が抑制される。これにより、噴射口から噴射される空気のエネルギーが有効に利用できるため、面近傍の境界層の低減効果を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、風路内の面近傍に主流である気流と同程度の風速を有する空気が噴射されることによって、面近傍の境界層に気流と同程度のエネルギーが供給され、面近傍の境界層を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態の風洞装置1について、図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施形態の風洞装置1を示し、風洞装置1の全体構成を概略的に示す平面図、
図2は本発明の実施形態の風洞装置1の地面板10の構成を説明する断面図である。
図1に示すように、風洞装置1は、対象物である車両Sの風洞試験を行う風洞装置1であって、風洞本体2と、風洞本体2の内部に配置された送風機3と、測定部4と、を備えている。
【0017】
風洞本体2は、その内部の気流の流れ方向Kと平行に設けられた風路5が循環(エンドレス)構造となるように外観が略長方形とされている。また、風路5の四箇所の角部には、風路5を循環する気流が滞留することなく風路5に沿って流れるように複数の変流翼6が設けられている。また、風路5の測定部4よりも気流の流れ方向K上流側には、気流の流れを整える整流部7が設けられている。
【0018】
送風機3は、風路5に気流を流す機能を有している。また、送風機3は、その回転速度を自在に調節でき、それにより風路5を流れる気流の速度(風圧)を任意に変えることができるようになっている。
【0019】
測定部4は、送風機3を基準とする風路5長の中央付近からやや下流寄りに配置されており、風洞本体2によって地面板10を除く三方が覆われている。地面板10には、気流の流れ方向K、及び気流の流れ方向Kに直交する方向に配列されている噴射口11が形成されている。
【0020】
図2に示すように、測定部4は、対象物としての車両S(車体)を支持する地面板10、一対の側板(図示せず)、及び天板(図示せず)で四周が包囲され、気流が流れる風路5を形成している。地面板10の下方には、一列もしくは複数列配設されたダクト等からなる吹出し装置9が配置されている。
【0021】
図3(a)に示すように、吹出し装置9の噴射口11は、気流の流れ方向Kに対して傾斜した下流方向に空気を吹き出すように形成されている。噴射口11は、
図3(b)に示すように、断面形状が水平方向に長い矩形に形成されたダクト部17と、地面板10の上面10aに開口した開口部18とを有している。
ダクト部17は、ダクト部17の長手方向が気流の流れ方向Kに対して、気流の流れ方向Kの下流側に向かうに従って地面板10の上面10aに近づくように傾斜している。噴射口11のダクト部17の傾斜角度αは、気流の流れ方向Kに対して可能な限り小さいことが望ましい。
【0022】
次に、本実施形態の風洞装置1による効果を説明する。
図4は、本実施形態の風洞装置1における流速分布の変化を説明する概略図である。
図4に示すように、噴射口11に対して気流の流れ方向K上流側における流速分布F1aを見ると、地面板10の上面10aとの境界層が発達しており、点線で示す境界層厚さBLは気流の流れ方向K下流側に向かうに従って徐々に大きくなっている。
【0023】
一方、噴射口11を介して地面板10の上面10a近傍に気流と同程度の風速を有する空気Gが吹き込まれることによって、地面板10の上面10a近傍の境界層に気流と同程度のエネルギーが供給される。これにより、地面板10の上面10a近傍の境界層を低減することができる。
即ち、噴射口11の下流側の流速分布F1cにて確認できるように、噴射口11の上流側の流速分布F1a及び噴射口11直前の流速分布F1bよりも流速分布を一様流に近づけることができる。
これにより、風洞装置1において、例えば車両空力性能試験の精度向上を図ることができる。
【0024】
なお、ダクト部17の断面形状(
図3(b)参照)を変更することによって、地面板10の上面10aとの境界層の制御することが可能である。具体的には、気流の速度に応じて噴射口11から噴射される空気Gの速度を調整するとともに、ダクト部17の断面積を変更することによって、例えば、流速分布がより一様に近づくように調整することができる。
【0025】
境界層の制御は、上記した方法に限らず、例えば、ダクト部17の傾斜角度αを変更したり、ダクト部17の断面形状を変更したりすることでも実施可能である。また、上記実施形態では、噴射口11からは噴射される空気Gは、気流の主流と同程度の風速を有するように調整されるとしたが、空気Gの風速を変化させることによって境界層の制御を実施してもよい。
【0026】
また、上記実施形態では、車両Sの風洞試験を行う風洞装置1について説明したが、本実施形態の風洞装置1は車両Sに限らず、例えば、地表にごく近い空中を飛行する航空機を模擬する対象物の風洞試験を行う風洞装置1にも適用可能である。
【0027】
(第二実施形態)
以下、本発明の第二実施形態の風洞装置を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では、上述した第一実施形態との相違点を中心に述べ、同様の部分についてはその説明を省略する。
図5に示すように、本実施形態の風洞装置の噴射口11Bには、地面板10の上面10aとの境界層を制御する制御部として機能する絞り部20が設けられている。絞り部20は、噴射口11Bのダクト部17に設けられており、ダクト部17を流れる空気Gの下流方向に向かって漸次断面積が小さくなるように形成されている。
【0028】
具体的には、本実施形態のダクト部17は、ダクト部17の上流側を構成する第一ダクト部21と、ダクト部17の下流側を構成し開口部18を有する第二ダクト部22と、第一ダクト部21と第二ダクト部22を接続する絞り部20と、を有している。第一ダクト部21、第二ダクト部22、及び絞り部20の断面形状(空気Gの流れ方向から見た断面形状)は、第一実施形態のダクト部17と同様に、水平方向に長い矩形形状をなしている。
第二ダクト部22の断面積は、第一実施形態のダクト部17の断面積と略同等であり、第一ダクト部21は、第二ダクト部22よりも大きな断面積を有している。
【0029】
ここで、ダクト部17を流通する空気Gにおいても、ダクト部17の内周面との境界層が発達している。即ち、
図5に示す第一ダクト部21を流通する空気Gの流速分布FDに示されているように、ダクト部17を流通する空気Gにおいて第一ダクト部21の内面との境界層が発達している。
【0030】
上記実施形態によれば、第一実施形態の風洞装置1と同様に、噴射口11の下流側の流速分布F2cに示されるように、噴射口11の上流側の流速分布F2a及び噴射口11直前の流速分布F2bよりも流速分布を一様流に近づけることができる。
また、ダクト部17の第一ダクト部21を流通する空気Gにおける第一ダクト部21の内面との境界層は、絞り部20を通過することによって低減される。即ち、絞り部20による空気Gの流れの縮流により、噴射口11で生じる境界層が抑制される。これにより、噴射口11から噴き出す空気Gのエネルギーが有効に利用できるため、地面板10の上面10a近傍の境界層の低減効果を向上させることができる。
【0031】
なお、気流及びダクト部17を流れる空気Gの流速、第二ダクト部22の断面積などに応じて、第一ダクト部21の断面積や、絞り部20の長さを変更することにより、ダクト部17の内面との境界層の低減効果を調整することが可能である。
【0032】
(第三実施形態)
以下、本発明の第三実施形態の風洞装置を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では、上述した第一実施形態との相違点を中心に述べ、同様の部分についてはその説明を省略する。
図6に示すように、本実施形態の噴射口11Cのダクト部17の気流の流れ方向K下流側には、地面板10の上面10aより引っ込んだ段差部23が設けられている。具体的には、段差部23は、噴射口11Cの開口部18における気流の流れ方向K下流側の縁部に形成されており、地面板10の上面10aと平行をなし、地面板10の上面10aに対して凹状となるように形成された気流平行面24と、気流の流れ方向K下流側の縁部よりもやや下流側に気流平行面24と直交するように形成された垂直面25と、を有している。段差部23は、ダクト部17を流れる空気Gが気流平行面24に沿って段差部23に導入され垂直面25に当接することによって、開口部18の下流側の縁部に剥離泡E(剥離渦)が生じるように形成されている。
【0033】
上記実施形態によれば、第一実施形態の風洞装置1と同様に、噴射口11Cの下流側の流速分布F3cに示されるように、噴射口11Cの上流側の流速分布F3a及び噴射口11C直前の流速分布F3bよりも流速分布を一様流に近づけることができる。
また、ダクト部17の下流側の段差部23において、空気Gを一様に剥離させ、段差部内に剥離泡Eが形成される。この剥離泡領域においては気流の境界層が発達しないため、地面板10の上面10a近傍の境界層を低減することができる。
【0034】
なお、気流及びダクト部17から吹き出した空気Gの流速、ダクト部17の断面積などに応じて、段差部23の形状や大きさを変更することができる。これにより、剥離泡Eの大きさや、剥離泡Eの生じ易さを調整して、地面板10の上面10aとの境界層の低減効果を調整することが可能である。
【0035】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
例えば、
図7に示すように、第二実施形態と同様の絞り部20と、第三実施形態と同様の段差部23とが形成されている噴射口11Dの採用も可能である。
この形態によれば、第一実施形態の風洞装置1と同様に、噴射口11Dの下流側の流速分布F4cに示されるように、噴射口11Dの上流側の流速分布F4a及び噴射口11D直前の流速分布F4bよりも流速分布を一様流に近づけることができる。
また、地面板10の上流側の風路5下面に、気流を吸引する装置を設けて、気流を改善するなど、上記した噴射口11の他に気流を改善する装置を設けることも可能である。