(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6413297
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】表示体および印刷物
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20181022BHJP
B42D 25/328 20140101ALI20181022BHJP
B42D 25/405 20140101ALI20181022BHJP
B42D 25/333 20140101ALI20181022BHJP
【FI】
G02B5/18
B42D25/328
B42D25/405
B42D25/333
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-67137(P2014-67137)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2015-14780(P2015-14780A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2017年2月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-118648(P2013-118648)
(32)【優先日】2013年6月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠田 光一
(72)【発明者】
【氏名】塚原 俊之
(72)【発明者】
【氏名】林 孝佳
【審査官】
横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/050641(WO,A1)
【文献】
特開2013−095055(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/147185(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0064303(US,A1)
【文献】
特開2012−206352(JP,A)
【文献】
特開2012−203141(JP,A)
【文献】
特開2011−002491(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/128168(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0254007(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
B42D 25/328
B42D 25/333
B42D 25/405
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材の一方の面上に、構造形成層、光反射層、および透明保護層を順に積層した表示体であって、
前記光反射層が、一部の光を反射するとともに残りの光を透過する層であり、
前記構造形成層が、250nm以上600nm以下の高さを有する第1凹凸構造と、10nm以上250nm未満の高さを有する第2凹凸構造とから形成された領域を含み、
前記領域において、前記第1凹凸構造および前記第2凹凸構造が互い隣り合って配置されており、
前記領域において、前記第1凹凸構造および前記第2凹凸構造が交互に配置されていることを特徴とする、表示体。
【請求項2】
前記領域が、絵柄、文字、および数字からなる群から選択された少なくとも1つを、反射光観察時と透過光観察時とで異なる画像として表示するように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
透明基材の一方の面上に、構造形成層、光反射層、および透明保護層を順に積層した表示体であって、
前記光反射層が、一部の光を反射するとともに残りの光を透過する層であり、
前記構造形成層が、250nm以上600nm以下の高さを有する第1凹凸構造と、10nm以上250nm未満の高さを有する第2凹凸構造とから形成された領域を含み、
前記領域において、前記第1凹凸構造および前記第2凹凸構造が互い隣り合って配置されており、
前記領域が、第1領域および第2領域を含み、前記第1凹凸構造が、前記第1領域に形成された第11凹凸構造および前記第2領域に形成された第21凹凸構造を含み、前記第2凹凸構造が、前記第1領域に形成された第12凹凸構造および前記第2領域に形成された第22凹凸構造を含み、前記第1領域および前記第2領域が互いに隣接して配置されていることを特徴とする、表示体。
【請求項4】
前記第11凹凸構造、前記第21凹凸構造、前記第12凹凸構造、および前記第22凹凸構造が、それぞれ高さH11、高さH21、高さH12、および高さH22を有し、H11>H21、かつ、H12≠H22の関係が成り立つことを特徴とする、請求項3に記載の表示体。
【請求項5】
透明基材の一方の面上に、構造形成層、光反射層、および透明保護層を順に積層した表示体であって、
前記光反射層が、一部の光を反射するとともに残りの光を透過する層であり、
前記構造形成層が、250nm以上600nm以下の高さを有する第1凹凸構造と、10nm以上250nm未満の高さを有する第2凹凸構造とから形成された領域を含み、
前記領域において、前記第1凹凸構造および前記第2凹凸構造が互い隣り合って配置されており、
前記領域が、第1領域および第2領域を含み、前記第1領域が、A方向に直線的に整列された前記第1凹凸構造からなる第1A領域および前記A方向と異なるB方向に直線的に整列された前記第1凹凸構造からなる第1B領域を含むことにより、前記第1領域を透過する透過光の透過率が前記第1A領域および前記第1B領域において互いに等しく、かつ、前記第1領域で反射する反射光の回折方向が前記第1A領域および前記第1B領域において互いに異なっていることを特徴とする、表示体。
【請求項6】
透明基材の一方の面上に、構造形成層、光反射層、および透明保護層を順に積層した表示体であって、
前記光反射層が、一部の光を反射するとともに残りの光を透過する層であり、
前記構造形成層が、250nm以上600nm以下の高さを有する第1凹凸構造と、10nm以上250nm未満の高さを有する第2凹凸構造とから形成された領域を含み、
前記領域において、前記第1凹凸構造および前記第2凹凸構造が互い隣り合って配置されており、
前記領域が、第1領域および第2領域を含み、前記第1領域が、A方向に直線的に整列された前記第1凹凸構造からなる第1A領域および前記A方向と異なるB方向に直線的に整列された前記第1凹凸構造からなる第1B領域を含み、前記第2領域が、前記A方向に直線的に整列された前記第2凹凸構造からなる第2A領域および前記B方向に直線的に整列された前記第2凹凸構造からなる第2B領域を含むことにより、前記第1領域を透過する透過光の透過率が前記第1A領域および前記第1B領域において互いに等しく、かつ、前記第1領域および前記第2領域で反射する反射光の回折方向が前記第1B領域および前記第2B領域において互いに等しいことを特徴とする、表示体。
【請求項7】
前記A方向および前記B方向の成す角度が90°である、請求項5または6に記載の表示体。
【請求項8】
前記第1凹凸構造および前記第2凹凸構造の周期が300nm以上800nm以下であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の表示体。
【請求項9】
前記光反射層の膜厚が、20nm以上60nm以下であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の表示体。
【請求項10】
前記透明保護層上に更に透明部材が設けられていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の表示体。
【請求項11】
前記透明保護層は、前記光反射層および前記透明部材と接合可能な、接着性を有した材料からなることを特徴とする、請求項10に記載の表示体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の表示体が設けられていることを特徴とする印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表示体およびこの表示体を備えた印刷物に関するものである。本発明は、例えば紙幣、カード、商品券などのセキュリティ媒体や、パスポートなどの公的文書などの偽造や複写を防止するための表示体およびこの表示体を備えた印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙幣や商品券などの有価証券、またはパスポートなどの公的文書には、偽造や模倣を防ぐ目的で、透かしと呼ばれる技術が用いられている。透かしは、対象物に光を透過させて観察した際に、透過光の強度変化によって濃淡が付くことで、絵柄などのパターンを確認することを可能にする技術として、古くから知られている。
【0003】
透過光の強度を変化させる方法としては、紙を製造する際に紙の厚みを僅かに変化させる、すき入れという手法などがある。現在でも、透かし技術は偽造防止手段として広く用いられている。しかしながら、油などで紙に模様を施し、一見すれば透かしと間違うような模倣をなされる危険性があり、その偽造防止効果は充分ではない。そのような中で、透かしのように対象物に光を透過させることで効果を確認できる、種々の偽造防止技術が提案されている。
【0004】
特許文献1では、マット(粗面)な表面状態の無色透明フィルムなどの基材の上に、液状物質を用いて模様を作成する提案がなされている。この液状物質は、粗面に浸透して乾燥するような、無色透明のアクリルラッカーなどである。この模様部分の光透過性を他の部分の光透過性よりも増大させることで、透かし模様としている。
【0005】
さらに、特許文献1では、無機化合物の透明薄膜を積層させることによって、多層干渉膜を付与している。干渉膜側から反射光を観察すると虹色に輝く干渉色が確認できる。干渉色は、観察する角度を変えることによって色が変化するものである。また、干渉膜とは反対側から透過光を観察すると干渉膜側の正反射光の補色が見える。このようにして、透かし模様と干渉色のフリップフロップ効果を共存させている。
【0006】
特許文献2では、被印刷体の表裏いずれか一方に万線によって模様を印刷し、他方には万線に潜像とすべき図柄を施した画線からなる模様を印刷した印刷物が提案されている。この印刷物を光で透かして見ることにより、表裏の模様が合成されて出現する連続階調の画像を確認することが可能となっている。
【0007】
特許文献2は、光が透過する被印刷体の表裏いずれか一方に万線模様を印刷した印刷物を示している。この印刷物の、もう一方の面には、前記一方の万線模様の線配列と同期した線配列で、かつ、前記一方の万線の線配列に対して垂直方向に同程度の画線幅を有する模様を印刷されている。表裏の万線模様のピッチをスクリーン印刷によって変化させ、かつ、表裏の位置を合わせて印刷が行なわれている。こうして、光に透かして見ると表裏の模様が合成され、潜像が連続階調の像として出現する印刷物を得ている。
【0008】
特許文献3には、凹凸形状を有するすき入れ紙を用いた印刷物が提案されている。この凹凸形状は、部分的に角度を異なるようにすることによって図柄を表した万線模様、またはレリーフ模様、または双方の模様のいずれかの画線構成のエンボスによって形成されている。このすき入れ紙には、素材の色および無色透明以外の色のインキによって、一定な間隔を持つ各種万線画線を、凹凸形状の図柄以外の部分を構成する部分に対して、傾斜を持たせて印刷されている。
【0009】
特許文献3の印刷物では、凹凸形状と一定の間隔を持つ印刷画線との間に、一定はでない位置関係が生じ、ある特定の角度から見た時にのみ、潜像となる特定の文字、図柄などが認識できる効果が述べられている。併せて、すき入れ紙の場合は、透過光によって容易にすき入れ像が認識できる効果が述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2840724号公報
【特許文献2】特公平8−13568号公報
【特許文献3】特許第2615401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
透かしのように、光を透過させることで効果を確認できる技術として、前述した特許文献1〜3などの提案がなされている。特許文献1では、簡易的に透かし模様を作製し、さらに干渉多層膜を追加することにより透過光の干渉による着色効果が得られている。しかしながら、一般的な拡散フィルムなどの粗面に透明樹脂を滴下すれば、容易に模倣され得る。また、多層膜の蒸着は複雑な工程で、手間と時間を要する。
【0012】
また、特許文献2では、基材の表裏に対して、位置を合わせてスクリーン印刷を行なうことで、透過光を観察した際に印刷によって変化させた濃淡画像が観察される。しかしながら、両面の印刷を正確に位置合わせするためには、大きな設備と費用を要する。また、観察される模様は、通常の透かしと似たような濃淡画像に限られている。
【0013】
特許文献3では、凹凸構造の傾斜した面にオフセット印刷を施しているが、基材を傾斜させて印刷を行なう必要があり、煩雑な行程を伴う。また、傾斜させた基材への印刷は、印刷位置などの制御が難しくなり、生産性に課題がある。
【0014】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、意匠性および偽造困難性を向上させた表示体およびこの表示体を備えた印刷物を提供することにある。本発明が解決しようとする別の課題は、透かしを確認する時と同じ様に、透過光観察時には透過率の差により透かし画像を表示し、反射光観察時には回折光や散乱光により透かし画像とは異なるパターンを表示可能な表示体およびこの表示体を備えた印刷物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の課題を解決するための手段の一例は、透明基材の一方の面上に、構造形成層、光反射層、および透明保護層を順に積層した表示体であって、前記光反射層が、一部の光を反射するとともに残りの光を透過する層であり、前記構造形成層が、250nm以上600nm以下の高さを有する第1凹凸構造と、10nm以上250nm未満の高さを有する第2凹凸構造とから形成された領域を含み、前記領域において、前記第1凹凸構造および前記第2凹凸構造が互い隣り合って配置されていることを特徴とする表示体である。
【0016】
ここで、前記領域において、前記第1凹凸構造および前記第2凹凸構造が交互に配置されていることが好ましい。また、前記領域が、絵柄、文字、および数字からなる群から選択された少なくとも1つを、反射光観察時と透過光観察時とで異なる画像として表示するように構成されていることが好ましい。
【0017】
また、前記領域が、第1領域および第2領域を含み、前記第1凹凸構造が、前記第1領域に形成された第11凹凸構造および前記第2領域に形成された第21凹凸構造を含み、前記第2凹凸構造が、前記第1領域に形成された第12凹凸構造および前記第2領域に形成された第22凹凸構造を含み、前記第1領域および前記第2領域が互いに隣接して配置されていても良い。このとき、前記第11凹凸構造、前記第21凹凸構造、前記第12凹凸構造、および前記第22凹凸構造が、それぞれ高さH11、高さH21、高さH12、および高さH22を有し、H11>H21、かつ、H12≠H22の関係が成り立つことが好ましい。
【0018】
あるいは、前記領域が、第1領域および第2領域を含み、前記第1領域が、A方向に直線的に整列された前記第1凹凸構造からなる第1A領域および前記A方向と異なるB方向に直線的に整列された前記第1凹凸構造からなる第1B領域を含むことにより、前記第1領域を透過する透過光の透過率が前記第1A領域および前記第1B領域において互いに等しく、かつ、前記第1領域で反射する反射光の回折方向が前記第1A領域および前記第1B領域において互いに異なっていてもよい。また、前記領域が、第1領域および第2領域を含み、前記第1領域が、A方向に直線的に整列された前記第1凹凸構造からなる第1A領域および前記A方向と異なるB方向に直線的に整列された前記第1凹凸構造からなる第1B領域を含み、前記第2領域が、前記A方向に直線的に整列された前記第2凹凸構造からなる第2A領域および前記B方向に直線的に整列された前記第2凹凸構造からなる第2B領域を含むことにより、前記第1領域を透過する透過光の透過率が前記第1A領域および前記第1B領域において互いに等しく、かつ、前記第1領域および前記第2領域で反射する反射光の回折方向が前記第1B領域および前記第2B領域において互いに等しくても良い。
【0019】
このとき、前記A方向および前記B方向の成す角度が90°であるのが好ましく、前記第1凹凸構造および前記第2凹凸構造の周期が300nm以上800nm以下であることが好ましい。更に、前記光反射層の膜厚が、20nm以上60nm以下であることが好ましく、前記保護層上に更に透明部材が設けられていることが好ましい。前記透明保護層は、前記光反射層および前記透明部材と接合可能な、接着性を有した材料からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の表示体によれば、例えば観察者が前記表示体を挟んで反対側にある光源からの透過光を観察した場合、250nm以上600nm以下の第1凹凸構造により、前記凹凸構造の高さ、周期、前記周期と前記凸部の幅若しくは前記凹部の幅に応じて前記凹凸領域を透過した光の透過率を変化させることができる。さらに、構造高さ10nm以上250nm未満の第2凹凸構造を第1凹凸構造と交互に配置し、例えば第1凹凸構造の高さにより変化する反射光の強度を相殺するように第2凹凸構造の高さを調整することで、透過光観察時の表示パターンを反射光観察時に目立たなくすることが可能となる。
【0021】
また、凹凸構造の周期を300nm以上800nm以下とすることで、透過光観察時の透過率が十分で、かつ、反射光観察時にも輝度の高い回折パターンによる表現が可能となる。これらの、透過観察の効果と反射観察の効果の組合せにより、より高い偽造防止効果の提供が可能となる。
【0022】
本発明の表示体において、凹凸構造を有する領域を設け、この領域を絵柄や文字、数字などの画像を表すように配置し、好ましくは複数の領域を配置することで、様々な表現が可能となる。また、凹凸構造の高さまたは深さ、周期、幅の内、少なくとも1つが異なるようにすることで、各領域または各凹凸構造での透過光の透過率および反射回折光の方向を変化させることができる。これらの組み合わせにより、様々な透過パターンと反射パターンを組み合わせた表現が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明における表示体の形態の一例を示した平面図。
【
図2】
図1に示した表示体のX−X´線での断面の一例を示した図。
【
図3】本発明における第1領域を含む断面の一例を示した図。
【
図4】本発明における第2領域を含む断面の一例を示した図。
【
図6】
図1に示した表示体の透過光観察時の見え方の一例を示した図。
【
図7】
図1に示した表示体の反射光観察時の見え方の一例を示した図。
【
図8】本発明における表示体の透過光観察の方法を示した図。
【
図9】本発明における表示体の反射光観察の方法を示した図。
【
図10】本発明における表示体の第2の実施形態の一例を示した平面図。
【
図11】
図10に示した表示体のX−X´線での断面の一例を示した図。
【
図12】
図10に示した表示体のY−Y´線での断面の一例を示した図。
【
図13】
図10に示した表示体の透過光観察時の見え方の一例を示した図。
【
図14】
図10に示した表示体の反射光観察時の見え方の一例を示した図。
【
図15】
図10に示した表示体の反射光観察時の見え方の別の例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明を実施するための形態を、図面を参照して説明する。なお、以下に述べる種々の形態は、本発明の好適な具体例である。また、同一または類似の機能を有する部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0025】
図1は本発明における表示体10の一例を示した平面図である。また、
図2は
図1のX−X´線での断面の一例を示した図である。なお
図2において、理解し易くする目的で
図1から多少縮尺が変更されている。
【0026】
図1に示した表示体10では、第1領域4において『T』の文字が表現され、その外側の第2領域5において『▽』の形状が表現されている。第1領域および第2領域5は互いに異なる構造高さを有する凹凸構造から形成されている。それ以外の領域は凹凸構造が形成されていない非凹凸領域6である。
【0027】
図8に示すように、蛍光灯などの光源を表示体10を通して観察すると、表示体10の第1領域4を透過した光は明るい領域として、第2領域5を通過した光は暗い領域として観察者の目に届く。また、非凹凸領域6は光が透過しないため、透過光は観察できない。これにより、本発明の表示体10は透過観察時に諧調のある透かしとして機能する。
図1の表示体においては、
図6に示すように、遮光された基材の中に暗い『▽』の模様と、その中に描かれた明るい『T』の文字が透かし画像として観察される。
【0028】
さらに、
図9に示すように、観察者と同じ側にある光源を用いて表示体10の反射光を観察する場合、第1領域4および第2領域5の回折角度、回折方向、および回折効率を揃えることが可能である。
図1の表示体においては、
図7に示すように、観察者は『▽』のパターンのみを観察でき、『T』の文字を観察できない。このように、本発明の表示体では、透過光観察時と反射光観察時とで異なる表現を行うことが可能である。視覚効果の詳細に関しては後に述べる。
【0029】
ここで、
図2に示した断面図の各層を説明する。
図2において、表示体10は、透明基材1の一方の面上に、構造形成層2、光反射層3、透明保護層7、および透明部材8を順に積層した構造を有している。
【0030】
透明基材1の材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)などの光透過性が高い樹脂からなるフィルム又はシートなどが好適である。また、ガラスなどの無機材料を使用してもよい。
【0031】
構造形成層2の材料としては、例えば、可視光波長の透過性を有する樹脂を使用することができる。例えば、アクリル、ポリカーボネート、エポキシ、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの可視光透過性を有する樹脂を使用することができる。その中でも、例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、任意の凹凸構造が形成された原版を用いた転写により、少なくとも一方の面上に凹凸構造を備える構造形成層2を容易に作製することができる。
【0032】
光反射層3の材料としては、主に金属薄膜が用いられる。光反射層の膜厚は、非凹凸領域に形成した場合には透過率が低いが、凹凸構造に設けた場合には適度な透過率(例えば20%以上)が得られるように設定される。光反射層3の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などがある。光反射層3の例としては、アルミニウム、ニッケル、銀、金、など、一般的な金属を使用することができる。本発明において光反射層3はアルミニウム薄膜であることが好適である。アルミニウム薄膜は金や銀などに比べて安価に入手できる利点がある。さらに、アルミニウムは真空蒸着法、スパッタリング法どちらでも、精度良く容易に成膜できることが知られており、光反射層3を形成する際のハンドリングの良さも利点として挙げられる。光反射層3は、凹凸構造が設けられた構造形成層2の界面の反射率を高め、透過光の遮光効果に寄与する。
【0033】
図5を参照して、光反射層3の材料としてアルミニウム薄膜を用いる場合を考える。
図5は構造形成層2(屈折率1.5)の上にアルミニウム薄膜が配された場合の、波長442nm,532nm,633nmにおける、透過率の厚み依存性を示すグラフである。
【0034】
図5を見ると、アルミニウム薄膜の厚みが20nm以上であれば、波長442nm,532nm,633nmにおける透過率は20%未満の値を示す。前述したように、非凹凸領域6の光透過率が20%未満であれば、前記非凹凸領域6を通して透過光を観察した際に、観察者は暗灰色〜黒色として前記非凹凸領域6を視認することができ、透過領域とのコントラストによる透かし効果をよりいっそう効果的に用いることが可能となるため、本発明において非凹凸領域6の上に配されるアルミニウム薄膜の厚みは20nm以上が好適である。なお、膜厚が厚くなりすぎると透過率が低下し、透過光の観察がしにくくなるという理由により、アルミニウム薄膜の厚みは60nm以下が好適である。
【0035】
透明保護層7は、表示体10を凹凸構造の形状をコピーする模倣や偽造から守る為に、凹凸構造4を保護する目的を持つ。透明保護層7としては、熱硬化型や紫外線硬化型の透明接着剤を用いることもできる。この場合、透明保護層7の光反射層3と接していない面に、さらに透明部材8を接着し保護することも可能となる。
【0036】
透明部材8としては、透明基材1と同様に光透過性を有する、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)などの光透過性を有する樹脂からなるフィルム又はシートなどが好適である。また、ガラスなどの無機材料を使用してもよい。透明部材8によって、凹凸構造4の形状をコピーする模倣や偽造を防ぐことが可能となる。また、透明部材8としては商品券などの有価証券やカード、パスポート、パッケージ部材なども想定することができる。
【0037】
ここで、本発明の表示体の凹凸構造および視覚効果を更に詳しく説明する。凹凸構造としては、一般的な回折格子と同様の格子形状を用いることができ、凹凸構造の断面は風紋状とすることができる。
【0038】
図3は、第1領域4を含む表示体の部分断面図である。第1領域4は、250nm以上600nm以下の高さH11を有する第1凹凸構造からなる第11凹凸構造11と、10nm以上250nm未満の高さH12を有する第2凹凸構造からなる第12凹凸構造12とから形成されている。第11凹凸構造11の高さH11は、第11凹凸構造11の凸部の頂点から凹部の最底辺までの距離とする。また、第12凹凸構造12の高さH12は、第12凹凸構造12の凸部の頂点から凹部の最底辺までの距離とする。このとき、上記高さH11およびH12は、後述の第2領域の各構造との関係により、さらに限定される。
【0039】
図4は、第2領域5を含む表示体の部分断面図である。第2領域5も、第1領域4と同様に、250nm以上600nm以下の高さH21を有する第1凹凸構造からなる第21凹凸構造21と、10nm以上250nm未満の高さH22を有する第2凹凸構造からなる第22凹凸構造22とから形成されている。第21凹凸構造21の高さH21は、第21凹凸構造21の凸部の頂点から凹部の最底辺までの距離とする。また、第22凹凸構造22の高さH22は、第22凹凸構造22の凸部の頂点から凹部の最底辺までの距離とする。このとき、上記高さの範囲に加えて、例えばH11>H21、H12≠H22となるようにすることで、反射回折光の回折効率は同等でありながら、透過光の透過率は第1領域4のほうが高い表示体を作製することができる。
【0040】
本発明の表示体では、構造周期が300nm〜800nm近辺のとき、構造高さが250nm〜600nmにおいて、構造の高さによる透過率の変化が大きくなるように光反射層の膜厚が設定されるのが好ましい。このため、観察者が表示体10を挟んで反対側にある光源の透過光を観察する場合、光の透過率の変化は第1領域および第2領域ともに主に第1凹凸構造の部分(すなわち第11凹凸構造11および第21凹凸構造21)において発生する。それ以外の部分では光反射層の透過率にもよるが基本的には透過は発生しないかごくわずかである。
【0041】
凹凸構造の透過率は構造の形状およびピッチが同一のときにはその構造高さにより変化する。これは構造が高くなることで構造の斜面の傾斜角度が大きくなり、形成される光反射層の膜厚が薄くなるためであり、構造が高いほど透過率も高くなる。H11>H21のとき、光の透過率は、第1領域>第2領域となる。
【0042】
一般的に、凹凸構造の高さが変化すると、反射光観察時の回折効率および散乱効率が変化する。このため、第1領域の第1凹凸構造と第2領域の第1凹凸構造とでは回折効率あるいは散乱効率は異なる。このため、この回折効率あるいは散乱効率の差を相殺する構造をそれぞれの第2凹凸構造(すなわち第21凹凸構造21および第22凹凸構造22)として設けることで、2つの領域の回折効率あるいは散乱効率を同等にし、見かけ上均一なパターンとすることが可能となる。
【0043】
第2凹凸構造はその高さを10nm〜250nm未満とすることで、透過光はほとんど発生しない。これにより、透過光観察時のパターンに影響を与えることなく、反射光観察時の回折効率または散乱効率の調整が可能となる。また、凹凸構造の高さが250nm以上の場合では、その領域に入射した光は吸収されやすくなるため反射光強度は低下するが、凹凸構造の高さが250nm未満の構造では、その領域に入射した光は吸収されにくいため反射光強度は上昇する。第2凹凸構造は、この反射光強度の低下を補うための機能も果たしている。
【0044】
本発明では、これら高さが異なる複数の凹凸構造を1つの領域内に設けることで、透過観察時の効果と反射観察時の回折光の効果が共に高い表示体を作製することが可能となる。
【0045】
本発明においては、1つの領域または複数の領域に凹凸領域を3種類以上設けてもよい。また、複数の領域に設けられる第1凹凸構造の高さを互いに異なるようにすることで、それぞれの領域を透過する光の透過率を変化させ、透過光を観察した際に、複数の諧調を呈する表示体を作製することも可能となる。その場合においても、各領域の第2凹凸構造の高さを調整することで、反射光観察時には各領域が均一なパターンとして認識可能な表示体とすることが可能である。また、本発明において第1凹凸構造および第2凹凸構造は、交互に配置されていることが好ましいが、互い隣り合って配置されていれば良い。すなわち、本発明は、ある領域において複数の第1凹凸構造が連続して配置された隣に複数の第2凹凸構造が連続して配置される構成を含み、さらに複数の第2凹凸構造が連続して配置された隣に複数の第1凹凸構造が連続して配置される構成を含む。
【0046】
本発明の更なる態様において、
図1に示された表示体の回折構造をさらにA方向の凹凸構造とB方向の凹凸構造とに分けて配置した、
図10に示すような表示体100を製造することができる。
図10においては、A方向はX方向であり、B方向はY方向である。なお、A方向およびB方向の成す角度は、典型的には90°であるが、30〜150°とすることもできる。この範囲であると反射観察時の光源が点光源のような理想的な光源でなくても、射出される回折光の方向が明確に分離されるため、各領域の回折パターンの切り替わり効果が明瞭となる。また、本願において「直線的に整列された凹凸構造」は、互いに平行な複数の凹構造または凸構造がそれぞれ直線的に延在した構造の意味を含むが、これに限定されない。
【0047】
例えば、第1凹凸構造が、A方向に直線的に整列された第1凹凸構造からなる第1A領域およびA方向と異なるB方向に直線的に整列された第1凹凸構造からなる第1B領域1Bを形成することにより、第1領域40を透過する透過光の透過率が第1A領域1Aおよび第1B領域1Bにおいて互いに等しく、かつ、第1領域40で反射する反射光の回折方向が第1A領域1Aおよび第1B領域1Bにおいて互いに異なっている構成とすることができる(
図10の『T』の文字に相当)。本発明は、このような第1凹凸構造と、図示された構成以外の任意の第2凹凸構造とを組み合わせた表示体をも含むものである。
【0048】
あるいは、第2凹凸構造が、A方向に直線的に整列された第2凹凸構造からなる第2A領域およびA方向と異なるB方向に直線的に整列された第2凹凸構造からなる第2B領域を形成することにより、第2領域50を透過する透過光の透過率が第2A領域2Aおよび第2B領域2Bについて互いに等しく、かつ、第2領域50で反射する反射光の回折方向が第2A領域2Aおよび第2領域2Bにおいて互いに異なっている構成とすることができる(
図10の『▽』および『H』の一部に相当)。本発明は、このような第2凹凸構造と、図示された構成以外の任意の第1凹凸構造とを組み合わせた表示体をも含むものである。
【0049】
あるいは、第1凹凸構造が、A方向に直線的に整列された第1凹凸構造からなる第1A領域およびA方向と異なるB方向に直線的に整列された第1凹凸構造からなる第1B領域を形成し、第2凹凸構造が、A方向に直線的に整列された第2凹凸構造からなる第2A領域およびB方向に直線的に整列された第2凹凸構造からなる第2B領域を形成することにより、第1領域40を透過する透過光の透過率が第1A領域1Aおよび第1B領域1Bにおいて互いに等しく、かつ、第1領域40および第2領域50で反射する反射光の回折方向が第1B領域1Bおよび第2B領域2Bにおいて互いに等しい構成とすることができる(
図10の『T』、『▽』および『H』の一部に相当)。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
凹凸領域を形成するための原版として、凹凸構造の周期が500nm、高さが150nm〜500nmの回折格子を電子線描画により作製した。回折格子の形成方法として、本実施例では電子線描画を用いたが、レーザ露光系を用いて作製することも可能である。
【0051】
本実施例では、下記の通り異なる高さの凹凸領域を組み合わせた構造を作製した。
H11:500nm
H12:150nm
H21:300nm
H22:200nm
【0052】
透明基材1としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、構造形成層2として紫外線硬化型樹脂を用い、原版形状の複製を行った後、光反射層3としてアルミ蒸着層を真空蒸着法により成膜した。
【0053】
透明保護層7としては、熱硬化型接着剤を用い、光反射層3上へコーティングを行った。透明部材8として、透明基材1よりも厚みのあるPETフィルムを用い、透明保護層7と接着させることで、透明部材8と一体化させた表示体10を得た。
【0054】
本実施例で作製した表示体を透過光で観察すると、暗い『▽』の中に明るい『T』の文字を観察することができた。このとき、非凹凸領域6は透過が起こらないため背景として観察された。その為、凹凸領域を透過してきた光が強調されて視認することができた。
【0055】
一方、反射光で表示体を観察すると、特定の観察角度において『▽』の回折パターンが観察できたが、『T』の文字を明確に観察することはできず、均一なパターンとして認識された。
【0056】
(実施例2)
本実施例では、実施例1同様の回折構造を、さらに0°方向のものと90°方向のものとに分けて配置した、
図10に示すような原版を作成した。
図11は
図10のX−X´線での断面の一例を示した図、
図12は
図10のY−Y´線での断面の一例を示した図である。なお
図11、
図12において、理解しやすくする目的で
図10から多少縮尺が変更されている。また、
図10〜
図13に示された構造形成層20、光反射層30、および透明保護層70は、それぞれ先述の構造形成層2、光反射層3、および透明保護層7と同様な構成を有するため、その説明を省略する。
【0057】
図10に示すように、0°方向(A方向の典型例としての横方向)に直線的に整列された第1凹凸構造からなる第1領域(H11:500nm、H12:150nm)により第1A領域1Aを製造し、90°方向(B方向の典型例としての縦方向)に直線的に整列された第1凹凸構造からなる第1領域(H11:500nm、H12:150nm)により第1B領域1Bを製造し、これら第1A領域1Aおよび第1B領域1Bにより『T』の文字を表現した。また、0°方向に直線的に整列された第2凹凸構造からなる第2領域(H21:300nm、H22:200nm)により第2A領域2Aを製造して『▽』を表現し、90°方向に直線的に整列された第2凹凸構造からなる第2領域(H21:300nm、H22:200nm)により第2B領域2Bを製造して『H』の文字の一部を表現した。この原版を用い、実施例1と同様の材料および方法にて、本実施例の表示体を作製した。なお、第1A領域1Aおよび第1B領域1Bを第1領域40に形成し、第2A領域2Aおよび第2B領域2Bを第2領域50に形成した。
【0058】
本実施例で作製した表示体を透過光で観察すると、
図13に示すように、暗い『▽』の中に明るい『T』の文字を観察することができた。このとき、非凹凸領域6は透過が起こらないため背景として観察された。これは、実施例1での透過光観察時の見え方と同一であった。
【0059】
一方、反射光で表示体を観察した場合には、実施例1と異なり、2つの特徴的な見え方が存在した。第1の見え方は、
図14に示すように、90°方向(すなわち
図14内においてY方向)の反射回折光パターンを観察した場合の見え方である。この場合、『▽』の回折パターンの中に『H』の回折しないパターンが観察されたが、透過光観察時の『T』の文字は明確に観察できなかった。
【0060】
反射光観察の第2の見え方は、
図15に示すように、0°方向(すなわち
図15内においてX方向)の反射回折光パターンを観察した場合の見え方である。この場合、第1の見え方では回折しないパターンであった『H』のパターンのみが回折パターンとして観察されたが、第1の見え方と同様、透過光観察時の『T』の文字は明確に観察できなかった。
【0061】
なお、本発明は、以上に述べられた種々の形態および実施例に限定されない。本発明は、種々の形態および実施例に示された表示体に更なる任意の層を追加した表示体を含む。本発明は、種々の形態および実施例に示された表示体から各要素を選択して互いに組み合わせることにより形成された表示体を含む。
【符号の説明】
【0062】
1.透明基材
2、20.構造形成層
3、30.光反射層
4、40.第1領域
5、50.第2領域
6.非凹凸領域
7、70.透明保護層
8.透明部材
10、100.表示体
11.第11凹凸構造(第1領域の第1凹凸構造)
12.第12凹凸構造(第1領域の第2凹凸構造)
21.第21凹凸構造(第2領域の第1凹凸構造)
22.第22凹凸構造(第2領域の第2凹凸構造)
H11.第11凹凸構造の高さ
H12.第12凹凸構造の高さ
H21.第21凹凸構造の高さ
H22.第22凹凸構造の高さ
1A.第1A領域(A方向に直線的に整列された第1凹凸構造からなる領域)
1B.第1B領域(B方向に直線的に整列された第1凹凸構造からなる領域)
2A.第2A領域(A方向に直線的に整列された第2凹凸構造からなる領域)
2B.第2B領域(B方向に直線的に整列された第2凹凸構造からなる領域)