特許第6413308号(P6413308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6413308
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】ゴム/真鍮複合体の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/085 20180101AFI20181022BHJP
【FI】
   G01N23/085
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-80955(P2014-80955)
(22)【出願日】2014年4月10日
(65)【公開番号】特開2015-200614(P2015-200614A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2017年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】鹿久保 隆志
【審査官】 越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−273776(JP,A)
【文献】 特開昭61−060877(JP,A)
【文献】 特開2005−274513(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/076746(WO,A1)
【文献】 清水克典、他2名,「タイヤの耐久性向上のための黄銅/ゴムの接着結合様式の解析」,Spring−8利用研究成果集,2013年12月10日,Vol.1 No.3,p.138-141
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム/真鍮複合体をX線吸収微細構造分析により評価する方法であって、ジエン系ゴムおよび該ジエン系ゴム重量の3〜10重量%の硫黄を含む未加硫のゴム組成物に、真鍮部材を埋設したゴム/真鍮複合体からなる基本試料1を成形するとともに、該基本試料1に加硫、または加硫と老化処理を行った評価試料を成形し、前記基本試料1および評価試料にそれぞれX線を8900〜9300eVの範囲でエネルギーを変化させながら照射し、得られたX線吸収スペクトルの8991〜8993eVまたは9022〜9023eVのピーク高さを測定し、前記基本試料1のピーク高さH1に対する前記評価試料のピーク高さHの比(H/H1)を評価することを特徴とするゴム/真鍮複合体の評価方法。
【請求項2】
前記ピーク高さの比(H/H1)が0.96〜0.99のとき、前記加硫が適正、または老化処理に起因する劣化が少ないと判別することを特徴とする請求項1に記載のゴム/真鍮複合体の評価方法。
【請求項3】
ゴム/真鍮複合体をX線吸収微細構造分析により評価する方法であって、ジエン系ゴムおよび該ジエン系ゴム重量の3〜10重量%の硫黄を含む未加硫のゴム組成物に、真鍮部材を埋設したゴム/真鍮複合体を成形し、これを加硫した基本試料2を準備するとともに、該基本試料2に老化処理を行った評価試料を調製し、前記基本試料2および評価試料にそれぞれX線を8900〜9300eVの範囲でエネルギーを変化させながら照射し、得られたX線吸収スペクトルの8991〜8993eVまたは9022〜9023eVのピーク高さを測定し、前記基本試料2のピーク高さH2に対する前記評価試料のピーク高さHの比(H/H2)を評価することを特徴とするゴム/真鍮複合体の評価方法。
【請求項4】
前記ピーク高さの比(H/H2)が0.98〜1.00のとき、前記老化処理に起因する劣化が少ないと判別することを特徴とする請求項3に記載のゴム/真鍮複合体の評価方法。
【請求項5】
ゴム/真鍮複合体をX線吸収微細構造分析により評価する方法であって、ジエン系ゴムおよび該ジエン系ゴム重量の3〜10重量%の硫黄を含む未加硫のゴム組成物に、真鍮部材を埋設したゴム/真鍮複合体からなる基本試料1を成形するとともに、該基本試料1に加硫、または加硫と老化処理を行った評価試料を調製し、前記基本試料1および評価試料にそれぞれX線を8900〜9300eVの範囲でエネルギーを変化させながら照射し、得られたX線吸収スペクトルの9050eV以上の領域をフーリエ変換して動径構造関数を求め、1.0〜3.0Åにあるピークの面積を算出し、前記基本試料1のピーク面積S1に対する前記評価試料のピーク面積Sの比(S/S1)を評価することを特徴とするゴム/真鍮複合体の評価方法。
【請求項6】
前記ピークの下端を1.2〜1.8Å、上端を2.9〜3.0Åの範囲に設定し、そのピーク面積を算出することを特徴とする請求項5に記載のゴム/真鍮複合体の評価方法。
【請求項7】
前記ピーク面積の比(S/S1)が0.6〜0.9のとき、前記加硫が適正、または老化処理に起因する劣化が少ないと判別することを特徴とする請求項5または6に記載のゴム/真鍮複合体の評価方法。
【請求項8】
ゴム/真鍮複合体をX線吸収微細構造分析により評価する方法であって、ジエン系ゴムおよび該ジエン系ゴム重量の3〜10重量%の硫黄を含む未加硫のゴム組成物に、真鍮部材を埋設したゴム/真鍮複合体を成形し、これを加硫した基本試料2を準備するとともに、該基本試料2に老化処理を行った評価試料を調製し、前記基本試料2および評価試料にそれぞれX線を8900〜9300eVの範囲でエネルギーを変化させながら照射し、得られたX線吸収スペクトルの9050eV以上の領域をフーリエ変換して動径構造関数を求め、1.0〜3.0Åにあるピークの面積を算出し、前記基本試料2のピーク面積S2に対する前記評価試料のピーク面積Sの比(S/S2)を評価することを特徴とするゴム/真鍮複合体の評価方法。
【請求項9】
前記ピークの下端を1.2〜1.8Å、上端を2.9〜3.0Åの範囲に設定し、そのピーク面積を算出することを特徴とする請求項8に記載のゴム/真鍮複合体の評価方法。
【請求項10】
前記ピーク面積の比(S/S2)が0.7〜1.0のとき、前記老化処理に起因する劣化が少ないと判別することを特徴とする請求項8または9に記載のゴム/真鍮複合体の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム/真鍮複合体の評価方法に関し、更に詳しくは、ゴムと真鍮との間の最適な接着を可能にする適正な加硫条件を判定したり、劣化状態を的確に把握することを可能にするゴム/真鍮複合体の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、ゴム中にスチールワイヤが埋設されたゴム補強層で構成されることが多い。このようなゴム補強層に使用されるスチールワイヤとしては、例えば真鍮メッキが施されたものが用いられる。ゴム補強層においてゴムとスチールワイヤとが剥離すると、空気入りタイヤの故障の原因となり、空気入りタイヤの耐久性を悪化させることになるため、ゴムと真鍮との接着強度を高めて、ゴムとスチールワイヤとを強固に接着させることが求められる(例えば、特許文献1を参照)。また、ゴム補強層は、走行時の振動や衝撃、熱、酸素、水分などに曝されるため、その影響によってゴムとスチールワイヤとの接着強度が弱まる虞がある。そのため、様々な外的要因に起因する劣化によって接着強度が弱まることを防ぐことも求められる。
【0003】
上述のような強固な接着や、劣化による接着強度の低下の防止を可能にするためには、ゴムとスチールコード(真鍮)との間の接着の状態や、劣化の程度を評価することが求められる。従来は、引張試験や剥離試験などを行い、接着の状態や劣化の程度を評価していた。しかしながら、このような評価方法では、試験の所要時間が長く、また、試験作業が煩雑であるため、簡便にゴムとスチールワイヤ(真鍮)とを強固に接着するための適正な加硫条件を判定したり、劣化状態を的確に把握することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10‐250310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ゴムと真鍮との間の最適な接着を可能にする適正な加硫条件を判定したり、劣化状態を的確に把握することを可能にするゴム/真鍮複合体の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の第1のゴム/真鍮複合体の評価方法は、ゴム/真鍮複合体をX線吸収微細構造分析により評価する方法であって、ジエン系ゴムおよび該ジエン系ゴム重量の3〜10重量%の硫黄を含む未加硫のゴム組成物に、真鍮部材を埋設したゴム/真鍮複合体からなる基本試料1を成形するとともに、該基本試料1に加硫、または加硫と老化処理を行った評価試料を成形し、前記基本試料1および評価試料にそれぞれX線を8900〜9300eVの範囲でエネルギーを変化させながら照射し、得られたX線吸収スペクトルの8991〜8993eVまたは9022〜9023eVのピーク高さを測定し、前記基本試料1のピーク高さH1に対する前記評価試料のピーク高さHの比(H/H1)を評価することを特徴とする。
【0007】
上記目的を達成する本発明の第2のゴム/真鍮複合体の評価方法は、ゴム/真鍮複合体をX線吸収微細構造分析により評価する方法であって、ジエン系ゴムおよび該ジエン系ゴム重量の3〜10重量%の硫黄を含む未加硫のゴム組成物に、真鍮部材を埋設したゴム/真鍮複合体を成形し、これを加硫した基本試料2を準備するとともに、該基本試料2に老化処理を行った評価試料を調製し、前記基本試料2および評価試料にそれぞれX線を8900〜9300eVの範囲でエネルギーを変化させながら照射し、得られたX線吸収スペクトルの8991〜8993eVまたは9022〜9023eVのピーク高さを測定し、前記基本試料2のピーク高さH2に対する前記評価試料のピーク高さHの比(H/H2)を評価することを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成する本発明の第3のゴム/真鍮複合体の評価方法は、ゴム/真鍮複合体をX線吸収微細構造分析により評価する方法であって、ジエン系ゴムおよび該ジエン系ゴム重量の3〜10重量%の硫黄を含む未加硫のゴム組成物に、真鍮部材を埋設したゴム/真鍮複合体からなる基本試料1を成形するとともに、該基本試料1に加硫、または加硫と老化処理を行った評価試料を調製し、前記基本試料1および評価試料にそれぞれX線を8900〜9300eVの範囲でエネルギーを変化させながら照射し、得られたX線吸収スペクトルの9050eV以上の領域をフーリエ変換して動径構造関数を求め、1.0〜3.0Åにあるピークの面積を算出し、前記基本試料1のピーク面積S1に対する前記評価試料のピーク面積Sの比(S/S1)を評価することを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成する本発明の第4のゴム/真鍮複合体の評価方法は、ゴム/真鍮複合体をX線吸収微細構造分析により評価する方法であって、ジエン系ゴムおよび該ジエン系ゴム重量の3〜10重量%の硫黄を含む未加硫のゴム組成物に、真鍮部材を埋設したゴム/真鍮複合体を成形し、これを加硫した基本試料2を準備するとともに、該基本試料2に老化処理を行った評価試料を調製し、前記基本試料2および評価試料にそれぞれX線を8900〜9300eVの範囲でエネルギーを変化させながら照射し、得られたX線吸収スペクトルの9050eV以上の領域をフーリエ変換して動径構造関数を求め、1.0〜3.0Åにあるピークの面積を算出し、前記基本試料2のピーク面積S2に対する前記評価試料のピーク面積Sの比(S/S2)を評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のゴム/真鍮複合体の評価方法は、上述のように、試料に対して所定のエネルギーのX線を照射し、それにより得られたX線吸収スペクトルのピーク高さを測定したり、このX線吸収スペクトルをフーリエ変換して得られる動径構造関数を用いてピーク面積を算出し、ピーク高さの比やピーク面積比を評価することで、ゴムと真鍮との間の最適な接着を可能にする適正な加硫条件を判定したり、劣化状態を的確に把握することができる。そのため、評価のための試験作業を簡便にし、容易に適切な加硫条件を判定したり、劣化状態を把握することが可能になる。
【0011】
本発明の第1のゴム/真鍮複合体の評価方法においては、ピーク高さの比(H/H1)が0.96〜0.99のとき、加硫が適正、または老化処理に起因する劣化が少ないと判別することができる。
【0012】
本発明の第2のゴム/真鍮複合体の評価方法においては、ピーク高さの比(H/H2)が0.98〜1.00のとき、老化処理に起因する劣化が少ないと判別することができる。
【0013】
本発明の第3のゴム/真鍮複合体の評価方法においては、ピークの下端を1.2〜1.8Å、上端を2.9〜3.0Åの範囲に設定し、そのピーク面積を算出することが好ましい。
【0014】
本発明の第3のゴム/真鍮複合体の評価方法においては、ピーク面積の比(S/S1)が0.6〜0.9のとき、加硫が適正、または老化処理に起因する劣化が少ないと判別することができる。
【0015】
本発明の第4のゴム/真鍮複合体の評価方法においては、ピークの下端を1.2〜1.8Å、上端を2.9〜3.0Åの範囲に設定し、そのピーク面積を算出することがこのましい。
【0016】
本発明の第4のゴム/真鍮複合体の評価方法においては、ピーク面積の比(S/S2)が0.7〜1.0のとき、老化処理に起因する劣化が少ないと判別することができる。
【0017】
本発明の評価方法を用いて、材料設計および/または加硫条件が決められたゴム/真鍮複合体は、適正な加硫条件で加硫することができるので、接着強度を高めると共に、劣化を抑制することができる。また、このゴム/真鍮複合体で構成されたことを特徴とする空気入りタイヤは、ゴム補強層においてゴムとスチールコードとを強固に接着することができるので、ゴムとスチールコードとの間の剥離が生じ難く、耐久性を向上することができる。この評価方法により得られた結果を、加硫後の接着性を改良するゴム組成物および/または劣化を抑制するゴム組成物の設計に反映し、真鍮部材との接着性に優れたゴム組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】XAFS測定の結果を示したグラフである。
図2】XAFS測定の結果をフーリエ変換した動径構造関数のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のゴム/真鍮複合体の評価方法の対象となるゴム/真鍮複合体は、ジエン系ゴムおよびジエン系ゴム重量の3〜10重量%の硫黄を含む未加硫のゴム組成物に、真鍮部材を埋設して構成される。
【0020】
本発明のゴム/真鍮複合体に用いられるジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン‐ブタジエンゴム、アクリロニトリル‐ブタジエンゴムなどが挙げることができる。これらジエン系ゴムは、単独又は任意のブレンドとして使用することができる。これらジエン系ゴムは、一般的に空気入りタイヤ用ゴム組成物として用いられる材料である。
【0021】
硫黄は、ゴム組成物を加硫することに加えて、真鍮中の銅成分と反応してゴムと真鍮部材との接着に寄与する。硫黄の含有量がジエン系ゴム重量の3重量%よりも小さいと、ゴム組成物を充分に加硫することができず、本発明のゴム/真鍮複合体の評価方法を行うまでもなく、接着強度が不足するため、本発明の評価方法の対象とはならない。硫黄の含有量がジエン系ゴム重量の10重量%よりも大きいと、加硫後のゴム組成物の硬度が高くなり過ぎるため、空気入りタイヤなどに用いることができなくなる。
【0022】
ゴム組成物には、例えば、カーボンブラックを配合することもできる。カーボンブラックを配合する場合、その配合量は、例えば、前述のジエン系ゴム100重量部に対して30〜80重量部を配合するとよい。
【0023】
本発明のゴム/真鍮複合体の評価方法に用いられるタイヤ用ゴム組成物は、主として空気入りタイヤ用ゴム組成物として用いられるので、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、シリカ、クレー、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、活性亜鉛華などの各種無機充填剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤、シランカップリング剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を配合することができる。このような添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は、従来の一般的な配合量とすることができる。本発明のタイヤ用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどを使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0024】
真鍮部材としては、真鍮メッキを施したスチールワイヤ(以下、真鍮ワイヤと言う)、真鍮粉末、真鍮製の板材(以下、真鍮板と言う)などを用いることができる。これらをゴム組成物中に埋設するには、例えば、真鍮ワイヤの場合、引き揃えた真鍮ワイヤを2層のゴムシートの層間に挟み込んで埋設し、真鍮粉末の場合、所定の粒径の真鍮粉末をゴム組成物中にロール混合し、真鍮板の場合、その真鍮板上にゴムを載置することで埋設することができる。
【0025】
本発明のゴム/真鍮複合体の評価方法は、上述のようなゴム組成物(ゴム/真鍮複合体)の評価に用いられるが、対象となるゴム/真鍮複合体の具体的な構造や材料は上記例に限定されるものでは無い。
【0026】
以下、本発明のゴム/真鍮複合体の評価方法の手順について説明する。
【0027】
本発明の第1のゴム/真鍮複合体の評価方法では、まず、上述のように未加硫のゴム組成物に真鍮部材を埋設したゴム/真鍮複合体からなる基本試料1を成形する。また、この基本試料1に加硫、または加硫と老化処理を行った評価試料を成形する。
【0028】
そして、基本試料1および評価試料にそれぞれX線を8900〜9300eVの範囲でエネルギーを変化させながら照射し、得られたX線吸収スペクトルの8991〜8993eVまたは9022〜9023eVのピーク高さを測定する。この測定には、X線吸収微細構造(XAFS:X‐ray Absorption Fine Structure)の手法を用いることができる。そして、得られた基本試料1のピーク高さH1に対する評価試料のピーク高さHの比(H/H1)を評価する。
【0029】
図1に示すように、X線吸収スペクトルの8991〜8993eVおよび9022〜9023eVにピークが現れるが、これらは真鍮中の純銅成分に対応している。真鍮中の純銅成分は、加硫によってゴム中の硫黄と反応して硫化銅に変化したり、劣化処理によって熱、酸素、水、硫黄などと反応するため、加硫や老化処理を経ることで減少する傾向にある。そのため、図1に示すように、基本試料1(図1のグラフの実線)におけるピーク高さと加硫を経た評価試料(図1のグラフの鎖線)や更に老化処理を経た評価試料(図1のグラフの一点鎖線)におけるピーク高さは異なる(加硫、老化処理を経るほど減少する)。従って、ピーク高さの比(H/H1)が所定の範囲内であることにより、加硫が適正で、老化処理に起因する劣化が少ないと判別することができる。逆に、ピーク高さの比(H/H1)が小さ過ぎると、加硫反応が進み過ぎていたり、老化処理による劣化が著しいと判断できる。
【0030】
好ましくは、ピーク高さの比(H/H1)が0.96〜0.99のとき、加硫が適正、または老化処理に起因する劣化が少ないと判別するとよい。ピーク高さの比(H/H1)が0.96よりも小さいと過加硫であるか老化処理に起因する劣化が大きく、ピーク高さの比(H/H1)が0.99よりも大きいと加硫前後の変化が少なく、加硫が不十分でああると判断できる。
【0031】
本発明の第2のゴム/真鍮複合体の評価方法では、まず、上述のように未加硫のゴム組成物に真鍮部材を埋設したゴム/真鍮複合体を加硫して基本試料2を成形する。また、この基本試料2に老化処理を行った評価試料を成形する。
【0032】
そして、第1のゴム/真鍮複合体の評価方法と同様に、基本試料2および評価試料にそれぞれX線を8900〜9300eVの範囲でエネルギーを変化させながら照射し、得られたX線吸収スペクトルの8991〜8993eVまたは9022〜9023eVのピーク高さを測定する。そして、得られた基本試料2のピーク高さH2に対する評価試料のピーク高さHの比(H/H2)を評価する。
【0033】
予め加硫した基本試料2を用いた場合も、真鍮中の純銅成分は、劣化処理によって熱、酸素、水、硫黄などと反応するため、加硫や老化処理を経ることで減少する傾向にある。そのため、基本試料1の場合と同様に、ピーク高さと加硫や老化処理を経た評価試料におけるピーク高さは異なる(減少する)。従って、ピーク高さの比(H/H2)が1に近いほど、老化処理に起因する劣化が少ないと判別することができる。逆に、ピーク高さの比(H/H2)が小さ過ぎると、老化処理による劣化が著しいと判断できる。
【0034】
好ましくは、ピーク高さの比(H/H2)が0.98〜1.00のとき、老化処理に起因する劣化が少ないと判別するとよい。ピーク高さの比(H/H2)が0.98よりも小さいと老化処理に起因する劣化が大きいと判断できる。
【0035】
本発明の第3,第4のゴム/真鍮複合体の評価方法は、上述の第1、第2の評価方法と測定されたX線吸収スペクトルの解析方法が異なるが、X線吸収スペクトルを測定するまでの手順は上述の第1、第2の評価方法と同様である。具体的には、第3の評価方法は第1の評価方法と対応し、第4の評価方法は第2の評価方法と対応する。
【0036】
第3の評価方法では、第1の評価方法と同様にして得られたX線吸収スペクトルの9050eV以上の領域をフーリエ変換して動径構造関数を求める(図2を参照)。そして、動径構造関数の1.0〜3.0Åにあるピークの面積を算出し、基本試料1のピーク面積S1に対する評価試料のピーク面積Sの比(S/S1)を評価する。
【0037】
この動径構造関数は、真鍮中の純銅成分における中心銅元素からの結合距離を意味するので、このように1.0〜3.0Åにあるピーク面積の比を評価することで、加硫や老化処理による純銅成分の構造の変化の程度を判断することができる。即ち、ピーク面積の変化が小さいことにより(ピーク面積Sの比(S/S1)が所定の範囲内であることにより)、真鍮中の純銅成分の構造の変化が小さく、加硫が適正で、老化処理に起因する劣化が少ないと判断することができる。尚、図2のグラフにおいて、実線が基本試料1、鎖線が加硫を経た評価試料、一点鎖線が加硫に加えて老化処理を経た評価試料を示す。
【0038】
好ましくは、ピーク面積の比(S/S1)が0.6〜0.9のとき、加硫が適正、または老化処理に起因する劣化が少ないと判別するとよい。ピーク面積の比(S/S1)が0.6よりも小さいと過加硫であるか老化処理に起因する劣化が大きく、ピーク面積の比(S/S1)が0.9よりも大きいと加硫前後の変化が少なく、加硫が不十分であると判断できる。
【0039】
第4の評価方法では、第2の評価方法と同様にして得られたX線吸収スペクトルの9050eV以上の領域をフーリエ変換して動径構造関数を求める。そして、動径構造関数の1.0〜3.0Åにあるピークの面積を算出し、基本試料2のピーク面積S2に対する評価試料のピーク面積Sの比(S/S2)を評価する。
【0040】
これにより、加硫や老化処理による純銅成分の構造の変化の程度を判断することができる。即ち、ピーク面積の変化が小さいほど(ピーク面積Sの比(S/S2)が1に近いほど)、真鍮中の純銅成分の構造の変化が小さく、加硫が適正で、老化処理に起因する劣化が少ないと判断することができる。
【0041】
好ましくは、ピーク面積の比(S/S2)が0.7〜1.0のとき、老化処理に起因する劣化が少ないと判別するとよい。ピーク面積の比(S/S2)が0.7よりも小さいと老化処理に起因する劣化が大きいと判断できる。
【0042】
上述の第3、第4の評価方法では、ピークの下端を1.2〜1.8Å、上端を2.9〜3.0Åの範囲に設定して、そのピーク面積を算出することが好ましい。これにより、ピーク面積を算出する基準が明確になるので、ピークの波形の違いによる誤差を抑えることができる。
【0043】
本発明の第1〜第4の評価方法では、上述のように、X線吸収微細構造(XAFS)の手法を用いることができる。XAFSの測定方法としては、例えば、透過法や蛍光反射法を挙げることができる。透過法とは、試料を透過してきたX線強度を検出する方法であり、透過光強度測定には、フォトダイオードアレイ検出器などを用いることができる。蛍光反射法とは、試料にX線を照射した際に発生する蛍光X線を検出する方法である。本発明では、具体的な手法はこれらに限定されるものでは無く、様々な検出方法を用いてもよい。
【0044】
尚、透過法は、真鍮部材として真鍮粉末を用いた場合に好ましく採用することができる。また、蛍光反射法は、真鍮部材として真鍮ワイヤや真鍮板を用いた場合に好ましく採用することができる。尚、蛍光反射法では、真鍮粉末を用いた場合であっても測定を行うことは可能である。
【0045】
本発明の第1〜第4の評価方法は、例えば、SPring‐8のBL14B2ビームラインで実施することができる。
【0046】
本発明の評価方法を用いて、材料設計および/または加硫条件が決められたゴム/真鍮複合体は、適正な加硫条件で加硫することができるので、接着強度を高めると共に、劣化を抑制することができる。また、このゴム/真鍮複合体で構成されたことを特徴とする空気入りタイヤは、ゴム補強層においてゴムとスチールコードとを強固に接着することができるので、ゴムとスチールコードとの間の剥離が生じ難く、耐久性を向上することができる。この評価方法により得られた結果を、加硫後の接着性を改良するゴム組成物および/または劣化を抑制するゴム組成物の設計に反映し、真鍮部材との接着性に優れたゴム組成物を得ることができる。
【0047】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
表1に示す配合からなるゴム組成物を、硫黄、加硫促進剤を除く成分を、1.8Lの密閉型ミキサーで160℃、5分間混練し放出したマスターバッチに、硫黄、加硫促進剤、更に、真鍮粉末(ペイントワークス社製、平均粒径10μm、Cu/Zn比=80:20)を加えてオープンロールで混練することにより調製することで、基準試料1を作製し、XAFS測定(透過法)を行った(実験例1)。また、基準試料1を表2のように加硫条件(加硫時間)を変えて所定形状の金型中で加硫し、更に、表2に記載の条件で老化処理を行い、実験例2〜8の評価試料を作製し、XAFS測定(透過法)を行った。尚、真鍮粉末の配合量はゴム組成物の5重量%で共通であり、加硫温度は170℃で共通である。
【0049】
そして、得られたX線吸収スペクトルから基準試料1(実験例1)のピーク高さ(8992eV)と実験例2〜8のピーク高さ(8992eV)とをそれぞれ測定し、基準試料1(実験例1)に対する実験例2〜8のピーク高さの比率をそれぞれ算出した。また、得られたX線吸収スペクトルの9050eV以上の領域をフーリエ変換し、各例のピーク面積を算出し、基準試料1(実験例1)に対する実験例2〜8のピーク面積の比率をそれぞれ算出した。ピーク高さの比率とピーク面積の比率はそれぞれ表2に併せて記載した。
【0050】
一方で、表1に示す配合からなるゴム組成物を、硫黄、加硫促進剤を除く成分を、1.8Lの密閉型ミキサーで160℃、5分間混練し放出したマスターバッチに、硫黄、加硫促進剤、更に、真鍮粉末(ペイントワークス社製、平均粒径10μm、Cu/Zn比=80:20)を加えてオープンロールで混練することにより調製し、得られたゴム組成物を加硫温度170℃、加硫時間10分の条件で加硫して基準試料2を作製し、XAFS測定(透過法)を行った(実験例9)。また、基準試料2に対して表3に記載の条件で老化処理を行い、実験例10〜12の評価試料を作製し、XAFS測定(透過法)を行った。尚、真鍮粉末の配合量はゴム組成物の5重量%で共通である。
【0051】
そして、得られたX線吸収スペクトルから基準試料2(実験例9)のピーク高さ(8992eV)と実験例10〜12のピーク高さ(8992eV)とをそれぞれ測定し、基準試料2(実験例9)に対する実験例10〜12のピーク高さの比率をそれぞれ算出した。また、得られたX線吸収スペクトルの9050eV以上の領域をフーリエ変換し、各例のピーク面積を算出し、基準試料2(実験例9)に対する実験例10〜12のピーク面積の比率をそれぞれ算出した。ピーク高さの比率とピーク面積の比率はそれぞれ表3に併せて記載した。
【0052】
XAFS測定は、SPring‐8 BL14B2ビームラインにて実施した。
【0053】
表2,3には、比較のために、各例について、従来の評価方法による引張引抜力(N)とゴム付着率(%)を記載した。引張引抜力は、真鍮粉末を加えずに上述と同様の方法で混練したゴム組成物中に複数本の黄銅メッキスチールコード(1×5構造、素線径0.25mm)を12.5mm間隔で互いに平行に並べて埋め込み、170℃で10分間加硫して、試験サンプルを調製した。試験サンプルからASTM‐D‐2に準拠してコードを引き抜き、その引き抜き時の力(引抜力[N])を測定した。また、引き抜いたコードへのゴム被覆率(ゴム付[%])を目視で測定し、ゴム付着率とした。
【0054】
【表1】
【0055】
表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、RSS#3
・CB:カーボンブラック、東海カーボン社製シーストKH
・亜鉛華:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
・老化防止剤:フレキシス社製サントフレックス6PPD
・硫黄:アクゾノーベル社製クリステックスHS OT 20
・加硫促進剤:大内新興化学工業社製ノクセラーDZ
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
表2,3から明らかなように、従来と同様に加硫条件や老化処理条件の違いによる接着状態の違いを判別することができた。尚、実験例2の引張引抜力は、他の実験例3〜12に比べて小さくなっているが、これは、実験例2のゴム/真鍮複合体では、接着層を形成することはできるものの、ゴム全体の加硫が不十分であるためである。
図1
図2