(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱硬化性樹脂組成物を用いて形成される樹脂部材と金属部材を接合してなる樹脂金属複合体により構成されており、かつ内壁面のうちの少なくとも一部が前記樹脂部材により構成されている筐体と、
前記筐体内に収容されており、かつ前記内壁面のうちの前記樹脂部材により構成される部分に摺接する摺接部材と、
を備え、
前記樹脂部材と前記金属部材の厚さが互いに等しい前記樹脂金属複合体の、レーザーフラッシュ法にて測定した前記樹脂部材と前記金属部材の積層方向における熱伝導率が0.5W/(m・K)以上であるポンプ。
樹脂部材と金属部材を接合してなる樹脂金属複合体により構成されており、かつ内壁面のうちの少なくとも一部が前記樹脂部材により構成されている筐体と、前記筐体内に収容されており、かつ前記内壁面のうちの前記樹脂部材により構成される部分に摺接する摺接部材と、を備え、前記樹脂部材と前記金属部材の厚さが互いに等しい前記樹脂金属複合体の、レーザーフラッシュ法にて測定した前記樹脂部材と前記金属部材の積層方向における熱伝導率が0.5W/(m・K)以上であるポンプの、前記樹脂部材を形成するために用いられる樹脂組成物であって、
熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0011】
図1は、本実施形態に係るポンプ100の一例を示す平面図である。
図2は、
図1に示すポンプ100を示す断面図である。なお、
図1および
図2においては、各部材の構造が模式的に示されており、各部材の構造は
図1および
図2に示すものに限定されない。
本実施形態に係るポンプ100は、筐体10と、摺接部材と、を備えている。筐体10は、熱硬化性樹脂組成物を用いて形成される樹脂部材22と金属部材24を接合してなる樹脂金属複合体20により構成されている。また、筐体10は、内壁面12のうちの少なくとも一部が樹脂部材22により構成されている。摺接部材は、筐体10内に収容されており、かつ筐体10の内壁面12のうちの樹脂部材22により構成される部分に摺接する。
【0012】
本実施形態によれば、ポンプ100を構成する筐体10は、樹脂部材22と金属部材24を接合してなる樹脂金属複合体20により構成される。このため、筐体10を金属材料のみにより形成する場合と比較して、筐体10の重量を低減することができる。したがって、ポンプ100の軽量化を図ることが可能となる。
【0013】
以下、ポンプ100、およびポンプ100を構成する各部材について詳細に説明する。
【0014】
<ポンプ>
まず、ポンプ100について説明する。
ポンプ100としては、たとえば真空ポンプやオイルポンプが挙げられる。本実施形態においては、ポンプ100がベーン式真空ポンプである場合が例示される。この場合、ポンプ100は、筐体10内に収容され、かつ筐体10の内壁面12に摺接する摺接部材であるベーン32を備えることとなる。ポンプ100の用途としては、とくに限定されないが、たとえば車両に搭載される車載用真空ポンプが挙げられる。車載用真空ポンプとしては、ブレーキブースタ用負圧発生装置を例示することができる。
【0015】
図1および
図2に示す例において、ポンプ100は、筐体10と、ロータ30と、摺接部材であるベーン32と、を備えている。筐体10は、たとえば一端側が開放され、他端側が閉塞された筒状である。この場合、筒状である筐体10の内壁面12は、内側面122と、他端側を閉塞する閉塞面124と、を有する。閉塞面124には、たとえばロータ軸36を支持するための軸受部16が設けられる。また、一端側は、たとえばカバー50により閉塞される。筐体10には、空気を吸入する吸気口40と、空気を排出する排気口42と、がそれぞれ互いに異なる空間に接続されるように設けられている。筐体10に囲まれた空間は、平面視において、たとえば楕円形状あるいは擬楕円形状を有する。
【0016】
筐体10は、樹脂部材22と金属部材24を接合してなる樹脂金属複合体20により構成される。このように、筐体10の一部を樹脂部材22により構成することにより、金属材料のみにより構成する場合と比較して、ポンプ100の軽量化を図ることができる。一方で、筐体10の一部を金属部材24とすることにより、筐体10の強度や剛性、ガスバリア性、気密性、熱伝導性等を向上させることができる。
【0017】
筐体10は、内壁面12のうちの少なくとも一部が樹脂部材22により構成されている。これにより、摺接部材であるベーン32を、樹脂部材22に摺接させることができる。このため、ベーン32の摺動性等を向上させ、ポンプ性能の向上を図ることが可能となる。
図1および
図2においては、筐体10の内壁面12全体が樹脂部材22により構成される場合が例示されている。この場合、筐体10のうちの内側面122および閉塞面124が樹脂部材22により構成されることとなる。筐体10の構成は、これに限定されず、たとえば筐体10の内壁面12のうちの内側面122のみが樹脂部材22により構成され、閉塞面124が金属部材24により構成されていてもよい。
【0018】
筐体10の外壁面は、たとえば金属部材24により構成される。このように、筐体10の外壁面を金属部材24により構成することによって、筐体10の耐攻撃性を効果的に向上させることが可能となる。
図1および
図2においては、筐体10の外壁面全体が金属部材24により構成される場合が例示されているが、これに限定されない。
【0019】
筐体10を構成する樹脂金属複合体20は、たとえば樹脂部材22と金属部材24の厚さが等しい場合において、レーザーフラッシュ法により測定した樹脂部材22と金属部材24の積層方向における熱伝導率が0.5W/(m・K)以上であることが好ましい。これにより、筐体10の放熱性を向上させることができる。筐体10の放熱性を向上させる観点からは、上記熱伝導率が0.6W/(m・K)以上であることがより好ましく、0.7W/(m・K)以上であることがとくに好ましい。
ここでは、たとえば筐体10から切り出した樹脂部材22と金属部材24が接合された試験片に対して樹脂部材22と金属部材24の厚さが1:1となるように樹脂部材22および金属部材24の薄膜化を行ったものを測定サンプルとすることができる。この測定サンプルについて、樹脂部材22と金属部材24の積層方向における熱伝導率をレーザーフラッシュ法により測定することにより、上記熱伝導率を得ることができる。
【0020】
なお、樹脂金属複合体20の熱伝導率は、たとえば熱硬化性樹脂組成物の各成分の種類や配合割合、金属部材24の作製方法、および樹脂部材22を含む筐体10の作製方法を適切に選択することにより上記数値範囲に制御することが可能である。また、筐体10の作製方法としては、たとえば後述する
図4において例示する製造方法を採用すること等が、樹脂部材22の各特性を制御する観点から重要であるものと考えられる。この理由は、明らかではないが、樹脂部材22中に繊維状充填剤を含む場合には、この繊維状充填剤の配向を制御できること等がその要因の一つとして推定される。
【0021】
ロータ30は、筐体10内に収容され、筐体10に対して偏心した位置に回転自在に配置されている。
図2においては、筐体10に設けられた軸受部16において、ロータ30のロータ軸36が回転自在に支持される場合が例示されている。また、ロータ30には、ベーン32を摺動可能に嵌合するための溝部であるベーン溝34が設けられている。ベーン溝34は、たとえばロータ30の中心を通り、かつロータ30を径方向に貫通するように設けることができる。なお、ベーン溝34の構成は、これに限定されず、たとえば複数のベーン溝34が放射状にロータ30に設けられていてもよい。
【0022】
ベーン32は、筐体10の内壁面12のうちの樹脂部材22により構成される部分に摺接するように設けられている。
図1においては、ベーン32の両端が、樹脂部材22により構成される内側面122に摺接する場合が例示されている。ベーン32は、ロータ30のベーン溝34に摺動可能に嵌合されている。これにより、ロータ30が回転するとともに、ベーン32の両端を筐体10の内側面122上に摺動させることができる。ベーン32は、内側面122に接する端部が、当該端部以外の部分と異なる材料により構成されていてもよい。
【0023】
ベーン32のうち少なくとも内側面122に接する端部は、たとえばアルミダイキャストにより構成される。これにより、内側面122に対する摺動性を向上させることができる。
【0024】
ポンプ100は、たとえば筐体10内に、ロータ30およびベーン32によって区画された複数のポンプ室14を有している。
図1および
図2に示す例においては、たとえば二つのポンプ室14が筐体10内に形成される。この場合、吸気口40から一方のポンプ室14に供給された空気は、ロータ30の回転とともに圧縮される。そして、圧縮された空気は、排気口42から外部へ排出される。これを繰り返すことにより、吸気口40につながる空間が減圧されることとなる。
【0025】
<金属部材>
次に、筐体10を構成する金属部材24について説明する。
金属部材24を構成する金属材料は、とくに限定されないが、たとえば鉄、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、および銅合金から選択される一種または二種以上を含むことができる。これらの中でも、筐体10の軽量化や、強度および放熱性の向上を図る観点から、Alを含む金属材料により金属部材24を構成することがより好ましい。Alを含む金属材料としては、たとえばアルミニウムおよびアルミニウム合金が挙げられる。アルミニウム合金は、Al以外の他の金属を一種または二種以上含むことができる。他の金属としては、とくに限定されないが、たとえばCu、Si、Fe、Cr、Mg、Zn、Mn、Ni、Sn、Pb、Ti等が挙げられる。
金属部材24は、たとえば上述した金属材料を公知の加工法により加工することによって、筐体10に対応した形状を有するものとすることができる。
【0026】
金属部材24は、たとえば少なくとも樹脂部材22との接合面における光沢度が0.1以上30以下であることが好ましい。ここで、金属部材24の光沢度とは、ASTM−D523に準拠して測定した測定角度60°の値を示す。これにより、金属部材24と樹脂部材22との接合強度を向上させ、筐体10の熱伝導性や耐温度サイクル性の向上に寄与することが可能となる。光沢度を上記範囲内とすることによって金属部材24と樹脂部材22の接合強度が向上する理由は明らかではないが、金属部材24の上記接合面が、樹脂部材22との間のアンカー効果が強く発現できる構造となっているからであると考えられる。なお、接合強度を向上させる観点からは、上記光沢度が0.5以上25以下であることがより好ましく、1以上20以下であることがとくに好ましい。なお、金属部材24の光沢度は、たとえばディジタル光沢度計(20°、60°)(GM−26型、村上色彩技術研究所社製)を用いて測定することができる。一方で、金属部材24の上記接合面における光沢度は、上記数値範囲内でなくともよい。
【0027】
図3は、
図1に示すポンプ100の金属部材24の一部を示す断面図である。
図3においては、金属部材24が、少なくとも樹脂部材22との接合面において複数の凹部201を有している場合が例示されている。また、
図3に示す例において、複数の凹部201のうちの少なくとも一部の断面形状は、凹部201の開口部203から底部205までの間の少なくとも一部が開口部203の断面幅D1よりも大きい断面幅D2を有する形状となっている。凹部201の断面形状がこのような形状であると、樹脂部材22が凹部201の開口部203から底部205までの間で引っかかるため、アンカー効果が効果的に働く。これにより、金属部材24と樹脂部材22の接合強度をより効果的に向上させることができ、筐体10の熱伝導性や耐温度サイクル性の向上に寄与することが可能となる。一方で、金属部材24の上記接合面には、開口部203から底部205までの間の少なくとも一部が開口部203の断面幅D1よりも大きい断面幅D2を有する形状となっている凹部201が設けられていなくともよい。
【0028】
金属部材24は、たとえば樹脂部材22との接合面における表面粗さRaが1.0μm以上40.0μm以下であることが好ましい。これにより、樹脂部材22と金属部材24の接合強度をより効果的に向上させ、筐体10の熱伝導性や耐温度サイクル性の向上に寄与することが可能となる。接合強度を向上させる観点からは、金属部材24の上記接合面の表面粗さRaが、1.0μm以上20.0μm以下であることがより好ましく、1.0μm以上10.0μm以下であることがとくに好ましい。
また、金属部材24は、たとえば樹脂部材22との接合面における10点平均粗さRzが1.0μm以上40.0μm以下であることが好ましい。これにより、樹脂部材22と金属部材24の接合強度をより効果的に向上させ、筐体10の熱伝導性や耐温度サイクル性の向上に寄与することが可能となる。金属部材24の上記接合強度を向上させる観点からは、上記接合面の10点平均粗さRzが5.0μm以上30.0μm以下であることがより好ましい。
なお、金属部材24の上記接合面におけるRaおよびRzは、上記数値範囲内でなくともよい。RaおよびRzは、JIS−B0601に準拠して測定することができる。
【0029】
金属部材24は、たとえば少なくとも樹脂部材22との接合面における、見掛け表面積に対する窒素吸着BET法による実表面積の比(以下、単に比表面積とも呼ぶ。)が、好ましくは100以上であり、より好ましくは150以上である。上記比表面積が上記下限値以上であると、樹脂部材22と金属部材24との接合強度をより一層向上させることができる。この理由は明らかではないが、樹脂部材22と金属部材24の接触面積が大きくなり、樹脂部材22と金属部材24とが相互に侵入する領域が増える結果、アンカー効果が働く領域が増えるためであると考えられる。
一方で、上記比表面積は、好ましくは400以下であり、より好ましくは380以下であり、特に好ましくは300以下である。上記比表面積が上記上限値以下であると、樹脂部材22と金属部材24との接合強度をより一層向上させることができる。この理由は明らかではないが、次のような理由が一つの要因として考えられる。すなわち、上記比表面積を上記上限値以下とすることにより、樹脂部材22と金属部材24とが相互に侵入した領域における金属部材24の割合が少なくなることを抑制し、当該領域における機械的強度を向上させることができる。その結果、樹脂部材22と金属部材24との接合強度がより一層向上するものと考えられる。
このように、金属部材24と樹脂部材22の接合強度を向上させることにより、筐体10の熱伝導性や耐温度サイクル性の向上に寄与することが可能となる。
【0030】
ここで、見掛け表面積とは、金属部材22の表面が凹凸のない平滑状であると仮定した場合の表面積を意味する。その表面形状が長方形の場合には、縦の長さ×横の長さで表すことができる。一方で、窒素吸着BET法による実表面積とは、窒素ガスの吸着量により求めたBET表面積を意味する。例えば、真空乾燥した測定対象試料について、自動比表面積/細孔分布測定装置(BELSORPminiII、日本ベル社製)を用いて、液体窒素温度における窒素吸脱着量を測定し、その窒素吸脱着量に基づいてBET表面積を算出することができる。
【0031】
金属部材24に対しては、たとえば表面処理剤を用いてその表面に化学的処理を施すことができる。本実施形態においては、(1)金属部材と化学的処理剤の組み合わせ、(2)化学的処理の温度および時間、(3)化学的処理後の金属部材表面の後処理、などの因子を高度に制御することにより、ポンプ100の筐体10に用いる部材としてとくに優れた特性を示す金属部材24を実現することができる。これらの因子を高度に制御した表面処理を施すことにより、たとえば金属部材24の樹脂部材22との接合面における光沢度、Ra、Rz、および比表面積を上述のような数値範囲とし、凹部の断面形状を上述のような形状とすることが可能となる。
【0032】
金属部材24に対する表面処理は、たとえば次のように行うことができる。
はじめに、(1)金属部材24と表面処理剤の組み合わせを選択する。
鉄やステンレスから構成される金属部材24を用いる場合は、無機酸、塩素イオン源、第二銅イオン源、チオール系化合物を必要に応じて組合せた水溶液を選択するのが好ましい。
アルミニウムやアルミニウム合金から構成される金属部材24を用いる場合は、アルカリ源、両性金属イオン源、硝酸イオン源、チオール化合物を必要に応じて組合せた水溶液を選択するのが好ましい。
マグネシウムやマグネシウム合金から構成される金属部材24を用いる場合は、アルカリ源が用いられ、特に水酸化ナトリウムの水溶液を選択するのが好ましい。
銅や銅合金から構成される金属部材24を用いる場合は、硝酸、硫酸などの無機酸、不飽和カルボン酸などの有機酸、過硫酸塩、過酸化水素、イミダゾールおよびその誘導体、テトラゾールおよびその誘導体、アミノテトラゾールおよびその誘導体、アミノトリアゾールおよびその誘導体などのアゾール類、ピリジン誘導体、トリアジン、トリアジン誘導体、アルカノールアミン、アルキルアミン誘導体、ポリアルキレングリコール、糖アルコール、第二銅イオン源、塩素イオン源、ホスホン酸系キレート剤酸化剤、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−N−シクロヘキシルアミンから選ばれる少なくとも1種を用いた水溶液を選択するのが好ましい。
【0033】
次に、(2)金属部材24を表面処理剤に浸漬させ、金属部材24表面に化学的処理をおこなう。このとき、処理温度は、例えば、30℃である。また、処理時間は選定する金属部材24の材質や表面状態、表面処理剤の種類や濃度、処理温度などにより適宜決定されるが、例えば、30秒〜300秒である。このとき、金属部材24の深さ方向のエッチング量を、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上にすることが重要である。金属部材24の深さ方向のエッチング量は、溶解した金属部材24の重量、比重および表面積から算出して、評価することができる。この深さ方向のエッチング量は、表面処理剤の種類や濃度、処理温度、処理時間などにより調整することができる。
【0034】
次に、(3)化学的処理後の金属部材24表面に後処理をおこなう。まず、金属部材表面を水洗、乾燥する。次いで、化学的処理をおこなった金属部材表面を硝酸水溶液などで処理する。本実施形態においては、たとえばこのようにして薬液による表面処理が施された金属部材24を得ることができる。
【0035】
<樹脂部材>
次に、筐体10を構成する樹脂部材22について説明する。
樹脂部材22は、熱硬化性樹脂組成物を用いて形成される。本実施形態においては、たとえば後述する熱硬化性樹脂組成物を硬化することにより樹脂部材22が形成される。
【0036】
樹脂部材22は、たとえばAlよりも比重が小さいものを用いることができる。樹脂部材22の比重は、とくに限定されないが、たとえば2.6g/cm
3以下であることが好ましく、2.0g/cm
3以下であることが好ましい。これにより、ポンプ100の軽量化を図ることができる。なお、樹脂部材22の比重は、たとえばJIS K6911に準拠して測定することができる。また、樹脂部材22の比重は、樹脂部材22を形成するために用いられる熱硬化性樹脂組成物の硬化物の比重に一致する。
【0037】
樹脂部材22は、たとえばJIS K7218 A法を用いて圧力2MPa、試験速度0.1m/s、試験時間60分の条件により測定した摩擦係数の、測定開始30分から60分までの平均値が0.55以下である。これにより、ベーン32の樹脂部材22に対する摺動性をより効果的に向上させることができる。このため、ポンプ性能や、駆動効率、長期耐久性等に優れたポンプ100を実現することが可能となる。なお、ポンプ性能を向上させる観点からは、上記摩擦係数の平均値が0.52以下であることがより好ましく、0.50以下であることがとくに好ましい。なお、摩擦係数の測定は、たとえばポンプ100から剥がした樹脂部材22から、筐体10の内壁面12を構成していた面を測定面とした測定サンプルを作製し、この測定サンプルに対して行うことができる。測定の相手材としては、たとえば円筒状のS45Cを用いることができる。
【0038】
樹脂部材22は、たとえばJIS K7218 A法を用いて圧力2MPa、試験速度0.1m/s、試験時間60分の条件により測定した試料温度の、測定開始30分から60分までの平均値が200℃以下である。これにより、ポンプ100の耐熱性を向上させることができる。また、ベーン32の樹脂部材22に対する摺動性をより効果的に向上させることができる。このため、ポンプ性能や、駆動効率、長期耐久性等に優れたポンプ100を実現することも可能となる。なお、ポンプ性能を向上させる観点からは、上記試料温度の平均値が、150℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることがとくに好ましい。なお、試料温度の測定は、たとえばポンプ100から剥がした樹脂部材22から、筐体10の内壁面12を構成していた面を測定面とした測定サンプルを作製し、この測定サンプルに対して行うことができる。測定の相手材としては、たとえば円筒状のS45Cを用いることができる。
【0039】
樹脂部材22は、たとえば熱伝導率が0.3W/(m・K)以上である。これにより、樹脂部材22の放熱性を向上させることができる。このため、たとえば内部に発生する摩擦熱等の熱を外部へ放熱すること等が容易となる。放熱性を向上させる観点からは、上記熱伝導率が0.35W/(m・K)以上であることがより好ましい。なお、熱伝導率の測定は、たとえばポンプ100から剥がした樹脂部材22から厚さ2mmの測定サンプルを作製し、この測定サンプルに対して厚さ方向の熱伝導率を、レーザーフラッシュ法を用いて測定することにより行うことができる。
【0040】
なお、樹脂部材22の上記摩擦係数、上記試料温度、および上記熱伝導率は、たとえ熱硬化性樹脂組成物の各成分の種類や配合割合、および樹脂部材22を含む筐体10の作製方法を適切に選択することにより上記数値範囲に制御することが可能である。筐体10の作製方法としては、たとえば後述する
図4において例示する製造方法を採用すること等が、樹脂部材22の各特性を制御する観点から重要であるものと考えられる。この理由は、明らかではないが、樹脂部材22中に繊維状充填剤を含む場合には、この繊維状充填剤の配向を制御できること等がその要因の一つとして推定される。
【0041】
樹脂部材22を形成する熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)を含む。
熱硬化性樹脂組成物は、たとえば粉粒状またはタブレット状である。粉粒状であるとは、粉末状である場合、顆粒状である場合、および粉末状と顆粒状の双方を含む場合を指す。
【0042】
(熱硬化性樹脂(A))
熱硬化性樹脂(A)は、たとえばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、オキセタン樹脂、マレイミド樹脂、ユリア(尿素)樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、およびシアネートエステル樹脂等から選択される一種または二種以上を含むことができる。これらの中でも、耐熱性、加工性、機械的特性、電気特性、接着性および耐摩耗性に優れるフェノール樹脂を含む態様が好適に採用され得る。
【0043】
フェノール樹脂は、たとえばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂などのノボラック型フェノール樹脂;メチロール型レゾール樹脂、ジメチレンエーテル型レゾール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油などで溶融した油溶融レゾールフェノール樹脂などのレゾール型フェノール樹脂;アリールアルキレン型フェノール樹脂等から選択される一種または二種以上を含むことができる。これらの中でも、摺動性や熱伝導性を向上させてポンプの性能向上に寄与する観点や、入手容易性の向上、低コスト化、ロール混練による作業性の向上を図る観点から、ノボラック型フェノール樹脂およびレゾール型フェノール樹脂のうちの少なくとも一方を含むことがより好ましく、ノボラック型フェノール樹脂を含むことがとくに好ましい。また、たとえばノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂をともに含む態様も、後述の硬化剤を不要とする観点から好ましい態様の一つとして採用し得る。
【0044】
上記フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂を含む場合は、たとえば硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを使用することができる。ヘキサメチレンテトラミンの含有量は、特に限定されないが、たとえばノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して10質量部以上25質量部以下であることが好ましく、13質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。ヘキサメチレンテトラミンの含有量を上記下限値以上とすることにより、成形時の硬化時間を短縮することができる。また、ヘキサメチレンテトラミンの含有量を上記上限値以下とすることにより、成形品の外観を向上させることができる。
【0045】
熱硬化性樹脂(A)の含有量は、たとえば熱硬化性樹脂組成物全体に対して15質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。これにより、熱硬化性樹脂組成物を成形する際における流動性の向上を図ることができる。一方で、熱硬化性樹脂(A)の含有量は、たとえば熱硬化性樹脂組成物全体に対して60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。これにより、筐体10の耐熱性や耐湿性をより効果的に向上させることができる。
【0046】
(充填剤(B))
熱硬化性樹脂組成物は、たとえば充填剤(B)を含むことができる。これにより、樹脂部材22の機械的強度や耐熱性、耐湿性、摺動性等の向上を図ることができる。
充填剤(B)は、たとえば黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、クレー、タルク、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、ケイ酸カルシウム水和物、マイカ、ガラスフレーク、ガラス粉、炭酸マグネシウム、シリカ、酸化チタン、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、および繊維状充填剤から選択される一種または二種以上を含むことができる。繊維状充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、金属繊維、ワラストナイト、アタパルジャイト、セピオライト、ロックウール、ホウ酸アルミニウムウイスカー、チタン酸カリウム繊維、炭酸カルシウムウィスカー、酸化チタンウィスカー、セラミック繊維などの繊維状無機充填材;アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維などの繊維状有機充填材が挙げられる。これらの中でも、樹脂部材22の機械的強度、耐熱性、耐湿性、および摺動性のバランスを向上させる観点からは、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、ガラス繊維、炭素繊維、およびクレーから選択される一種または二種以上を含むことがより好ましく、これらのうちの二種以上を含むことがとくに好ましい。
【0047】
本実施形態においては、とくに固体潤滑剤として機能する充填剤(B)を熱硬化性樹脂組成物中に含むことが、摺動性を向上させる観点から好ましい。このような固体潤滑剤として機能する充填剤(B)としては、たとえば黒鉛、炭素繊維、およびポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂が挙げられる。
【0048】
充填剤(B)の含有量は、たとえば熱硬化性樹脂組成物全体に対して30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。これにより、熱硬化性樹脂組成物を用いて得られる樹脂部材22の機械的強度や耐熱性、耐湿性、摺動性をより効果的に向上させることが可能となる。一方で、充填剤(B)の含有量は、たとえば熱硬化性樹脂組成物全体に対して80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。これにより、熱硬化性樹脂組成物の流動性を向上させ、成形性に優れた熱硬化性樹脂組成物を実現することができる。
【0049】
(カップリング剤(C))
熱硬化性樹脂組成物は、たとえばカップリング剤(C)を含むことができる。これにより、樹脂部材22と金属部材24との密着性を向上させることができる。また、充填剤(B)の分散性を向上させて、樹脂部材22の機械的強度の向上等に寄与することもできる。
【0050】
カップリング剤(C)は、たとえばシランカップリング剤を含むことができる。シランカップリング剤は、たとえばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物;γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物;γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物;γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などから選択される一種または二種以上を含むことが可能である。
【0051】
カップリング剤(C)の含有量は、たとえば熱硬化性樹脂組成物全体に対して0.01質量%以上4質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上1質量%以下であることがより好ましい。これにより、樹脂部材22と金属部材24の密着性や、樹脂部材22の機械的強度を、より効果的に向上させることが可能となる。
【0052】
熱硬化性樹脂組成物は、さらに消石灰や酸化マグネシウム等の硬化助剤をさらに含むことができる。また、熱硬化性樹脂組成物は、上記成分の他、たとえばエラストマー、硬化剤、離型剤、顔料、難燃剤、耐候剤、酸化防止剤、可塑剤、潤滑剤、および発泡剤等から選択される一種または二種以上の添加剤をさらに含むことができる。なお、熱硬化性樹脂組成物は、たとえば各成分を配合して均一に混合して得られた混合物をロール、コニーダ、二軸押出し機などの混練装置単独で、またはロールと他の混練装置との組合せで加熱溶融混練した後、これを冷却し、造粒または粉砕し、さらに必要に応じて分級することにより得ることができる。
【0053】
熱硬化性樹脂組成物は、たとえば175℃、3分の条件で加熱して得られる硬化膜の熱伝導率が0.3W/m・K以上である。これにより、樹脂部材22の熱伝導率を所望の値に制御することが容易となり、樹脂部材22の放熱性の向上に寄与することができる。樹脂部材22の放熱性を向上させる観点からは、上記熱伝導率が0.35W/(m・K)以上であることがより好ましい。本実施形態においては、たとえば圧縮成形機を用いて実効圧力20MPa、金型温度175℃、硬化時間3分間の条件により熱硬化性樹脂組成物を成形して作製した厚さ2mmの試験片について、レーザーフラッシュ法を用いて測定される厚み方向の熱伝導率を上記熱伝導率とすることができる。上記熱伝導率は、たとえば熱硬化性樹脂組成物の各成分の種類や配合割合を適切に調整することにより制御できる。
【0054】
<ポンプの製造方法>
次に、ポンプ100の製造方法について説明する。
まず、筐体10を作製する。筐体10は、たとえば金属材料を加工して得られた金属部材24上に、熱硬化性樹脂組成物を成形して樹脂部材22を形成することにより得られる。熱硬化性樹脂組成物の成形は、とくに限定されないが、たとえば射出成形法や、移送成形法、圧縮成形法、射出圧縮成形法等を用いて行うことができる。
【0055】
図4は、本実施形態に係るポンプ100の製造方法の一例を示す断面図である。
本実施形態においては、たとえば
図4に示す製造方法により、樹脂金属複合体20により構成される筐体10を形成することができる。これにより、後述するように、樹脂部材22や樹脂金属複合体20の各特性を向上させることが可能となる。なお、
図4では、各部材の構造を模式的に示しており、各部材の構造は
図4に示すものに限定されない。
図4に示す製造方法は、たとえば以下のようにして行われる。
【0056】
まず、金属部材24を作製する。金属部材24の作製は、上記において例示した方法により行うことができる。
図4に示す例においては、互いに組み合わされて一の筐体10を構成する複数の金属部材24が作製される。この場合、後述する熱硬化性樹脂組成物を成形する工程において、複数の金属部材24と、樹脂部材22と、が互いに接合されて一体化されることにより筐体10が構成されることとなる。
【0057】
次に、
図4(a)に示す成形金型3を準備する。本実施形態に係る成形金型3は、第2金型部2(上金型)と第1金型部1(下金型)とを備えている。この第2金型部2と第1金型部1を組み合わせることにより、後工程において金属部材100を配置する成形空間66が形成される。また、第2金型部2には、成形前の熱硬化性樹脂組成物68を仕込むポット60と、その後、圧力をかけて熱硬化性樹脂組成物68を溶融させるためにポット60に挿入する補助ラムを備えたプランジャ64と、溶融させた熱硬化性樹脂組成物68を成形空間66内に送り込むスプルー62とが設けられている。なお、本実施形態に係る成形金型3は、
図4に示すような、補助ラムを備えたプランジャ式トランスファー成形機に適用するものであっても、補助ラムを備えないポット式トランスファー成形機に適用するものであってもよい(図示せず)。
【0058】
次に、
図4(b)に示すように、成形金型3の成形空間66内に複数の金属部材24を配置する。具体的には、第1金型部1を下げて、成形金型3を開いた状態で成形空間66に相当する部分に複数の金属部材24を固定することなく配置する。これにより、溶融した熱硬化性樹脂組成物68を成形空間66内に導入した時に、導入した樹脂の流動圧力によって金属部材24を第2金型部2または第1金型部1のいずれか一方の金型部材の壁面(成形面)に押しつけることができる。本実施形態では、各金属部材24が第1金型部1の壁面に押しつけられる。このため、挿入しろや金属部材24と金型壁面との間の隙間から樹脂が入り込むことによるバリの発生を防止することもできる。
【0059】
次に、
図4(c)に示すように、成形空間66内に熱硬化性樹脂組成物68を次のようにして充填する。まず、第1金型部1を上げて、第1金型部1と第2金型部2を型締めして成形金型3を閉じた状態で、ポット60内に成形前の熱硬化性樹脂組成物68を仕込む。成形前の熱硬化性樹脂組成物68の性状は、とくに限定されないが、粉粒状のままであってもよいし、タブレット状に成形したものであってもよいし、予めプレヒーター等によって予熱することにより半溶融の状態にされていてもよい。次いで、ポット60内に仕込んだ熱硬化性樹脂組成物68を溶融させるために、熱硬化性樹脂組成物68に対して、補助ラムを備えたプランジャ64をポット60に挿入して圧力をかける。次いで、溶融した熱硬化性樹脂組成物68を、スプルー62を介して成形空間66内に導入する。成形空間66内に導入された熱硬化性樹脂組成物68は、
図4(c)に記載されている点線で示す方向に流動する。このとき、熱硬化性樹脂組成物68の流動圧力によって金属部材24を第1金型部1に押しつけて、見かけ上、第1金型部1の壁面に金属部材24を固定した状態とすることができる。なお、ポット60内での熱硬化性樹脂組成物68の溶融、成形空間66内への溶融した熱硬化性樹脂組成物68の導入および充填は、同時に行われる。
【0060】
次に、
図4(d)に示すように、成形空間66内に充填された熱硬化性樹脂組成物68を加熱加圧することにより硬化する。これにより、熱硬化性樹脂組成物68の硬化物により構成される樹脂部材22が形成されることとなる。また、樹脂部材22が形成されるとともに樹脂部材22と金属部材24が互いに接合されて樹脂金属複合体20が形成され、これにより筐体10が形成されることとなる。
この工程において、成形空間66内に導入された熱硬化性樹脂組成物68は、逆流することなく一方向に進行する。これにより、樹脂部材22の摺動性や、熱伝導性、強度、耐久性、および樹脂金属複合体20の熱伝導性や強度、耐久性を向上させることが可能となる。この理由は定かではないが、たとえば熱硬化性樹脂組成物68中に繊維状充填剤を含有させている場合には、熱硬化性樹脂組成物68を逆流することなく一方向に進行させることにより、硬化後の樹脂部材22中における繊維状充填剤の配向を均一に制御することができることによることが要因の一つであると推測される。
【0061】
成形空間66内に熱硬化性樹脂組成物68を充填する上記工程においては、成形空間66内を脱気してから溶融した熱硬化性樹脂組成物68を成形空間66内に導入することがより好ましい。これにより、樹脂部材22中にボイドが生じる可能性を低減できる。このため、より一層熱伝導性や機械的強度に優れた樹脂金属複合体20を得ることができる。
【0062】
次に、熱硬化性樹脂組成物68の硬化後、成形金型3を開くことにより、バリの発生を抑制できた良好な品質の樹脂金属複合体20を得ることができる。なお、ポット60内に残った熱硬化性樹脂組成物68の硬化物(カル)とスプルー62内の硬化物は、成形金型3を開く前にプランジャ64を引き上げることにより、樹脂金属複合体20と分離される。本実施形態においては、たとえばこのようにして、樹脂金属複合体20により構成される筐体10を形成することができる。
【0063】
筐体10を作製した後、筐体10内に、ベーン溝34を有するロータ30と、ベーン溝34に配設されたベーン32と、を収容する。この際、筐体10の内壁面12のうちの樹脂部材22により構成された部分にベーン32が摺接するようにベーン32が配設される。次いで、筐体10にカバー50を取り付ける。
本実施形態においては、たとえばこのようにして、ポンプ100が製造される。
【0064】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 熱硬化性樹脂組成物を用いて形成される樹脂部材と金属部材を接合してなる樹脂金属複合体により構成されており、かつ内壁面のうちの少なくとも一部が前記樹脂部材により構成されている筐体と、
前記筐体内に収容されており、かつ前記内壁面のうちの前記樹脂部材により構成される部分に摺接する摺接部材と、
を備えるポンプ。
2. 1.に記載のポンプにおいて、
前記樹脂部材は、JIS K7218 A法を用いて圧力2MPa、試験速度0.1m/s、試験時間60分の条件により測定した摩擦係数の、測定開始30分から60分までの平均値が0.55以下であるポンプ。
3. 1.または2.に記載のポンプにおいて、
前記樹脂部材は、JIS K7218 A法を用いて圧力2MPa、試験速度0.1m/s、試験時間60分の条件により測定した試料温度の、測定開始30分から60分までの平均値が200℃以下であるポンプ。
4. 1.〜3.いずれか一つに記載のポンプにおいて、
前記樹脂部材と前記金属部材の厚さが互いに等しい前記樹脂金属複合体の、レーザーフラッシュ法にて測定した前記樹脂部材と前記金属部材の積層方向における熱伝導率が0.5W/(m・K)以上であるポンプ。
5. 1.〜4.いずれか一つに記載のポンプにおいて、
前記樹脂部材の熱伝導率は、0.3W/(m・K)以上であるポンプ。
6. 1.〜5.いずれか一つに記載のポンプにおいて、
前記熱硬化性樹脂組成物は、フェノール樹脂を含むポンプ。
7. 1.〜6.いずれか一つに記載のポンプにおいて、
前記金属部材は、Alを含むポンプ。
8. 1.〜7.いずれか一つに記載のポンプにおいて、
前記樹脂部材は、充填剤を含むポンプ。
9. 1.〜8.いずれか一つに記載のポンプにおいて、
前記金属部材は、前記樹脂部材との接合面のASTM−D523に準拠して測定した測定角度60℃の光沢度が0.1以上30以下であるポンプ。
10. 1.〜9.いずれか一つに記載のポンプにおいて、
前記金属部材は、前記樹脂部材との接合面において複数の凹部を有しており、
前記複数の凹部のうちの少なくとも一部の断面形状は、前記凹部の開口部から底部までの間の少なくとも一部が前記開口部の断面幅よりも大きい断面幅を有する形状となっているポンプ。
11. 1.〜10.いずれか一つに記載のポンプにおいて、
前記金属部材は、前記樹脂部材との接合面の見掛け表面積に対する窒素吸着BET法による実表面積の比が100以上400以下であるポンプ。
12. 樹脂部材と金属部材を接合してなる樹脂金属複合体により構成されており、かつ内壁面のうちの少なくとも一部が前記樹脂部材により構成されている筐体と、前記筐体内に収容されており、かつ前記内壁面のうちの前記樹脂部材により構成される部分に摺接する摺接部材と、を備えるポンプの、前記樹脂部材を形成するために用いられる樹脂組成物であって、
熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物。
【実施例】
【0065】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0066】
<実施例1>
(熱硬化性樹脂組成物の調製)
ノボラック型フェノール樹脂(PR−51305、住友ベークライト(株)製)を34.3質量%、ヘキサメチレンテトラミンを6.0質量%、ガラス繊維(日東紡績(株)製、平均粒子径:11μm、平均長径:3mm、平均アスペクト比:270)を57.1質量%、酸化マグネシウム(神島化学工業(株)製)を0.5質量%、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製)を0.2質量%、潤滑剤等のその他の成分を1.8質量%、をそれぞれ乾式混合し、これを90℃の加熱ロールで溶融混練して、シート状にして冷却したものを粉砕して顆粒状の熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0067】
(筐体用金属部材の作製)
まず、後述するポンプの筐体をロータの回転軸と平行な一面で二分割して得られる一方と他方の形状にそれぞれ加工され、かつA5052(比重2.68g/cm
3)である二つのアルミニウム合金部材を用意した。次いで、これらのアルミニウム合金部材の表面を、#4000の研磨紙で十分研磨した。次いで、水酸化カリウム(16質量%)、塩化亜鉛(5質量%)、硝酸ナトリウム(5質量%)、チオ硫酸ナトリウム(13質量%)の水溶液を調製した。得られた水溶液(30℃)中に、上記アルミニウム合金部材を浸漬して揺動させ、深さ方向に15μm(アルミニウムの減少した重量から算出)溶解させた。次いで、水洗を行い、35質量%の硝酸水溶液(30℃)中に浸漬して、20秒間揺動させた。その後、水洗、乾燥して、上記アルミニウム合金部材からなる二つの筐体用金属部材を得た。
【0068】
(ポンプの作製)
まず、得られた上記熱硬化性樹脂組成物と上記筐体用金属部材を用いて、樹脂金属複合体により構成される筐体を作製した。具体的には、
図4に示す成型金型を用いて、以下の手順により作製した。まず、下金型内に、上記で得られた二つの筐体用金属部材を、固定せずに配置した。ここでは、後述する成型空間となる位置に、下金型の側面に接するように各筐体用金属部材を配置した。次いで、上金型と下金型を型締めして、上金型と下金型との間に筐体用金属部材が配置された成型空間を形成した。次いで、ポット内において溶融させた熱硬化性樹脂組成物を、スプルーを介して成型空間内に注入し、熱硬化性樹脂組成物の成型を行った。なお、ポット内での熱硬化性樹脂組成物の溶融、成型空間内への熱硬化性樹脂組成物の導入は同時に行った。また、熱硬化性樹脂組成物の成型は、注入圧力6.9MPa、金型温度175℃、硬化時間120秒の条件で行った。これにより、熱硬化性樹脂組成物により構成される樹脂部材と、筐体用金属部材と、を接合してなる樹脂金属複合体により構成される筐体を得た。なお、得られた筐体は、内壁面を含む内側が樹脂部材(厚さ3mm)により構成され、外壁面を含む外側が筐体用金属部材(厚さ3mm)により構成されていた。また、得られた筐体は、
図1および
図2に示すように、内部が空洞であって、一端側が開放され、かつ他端側にロータの軸を固定する軸受部となる貫通孔が設けられている略楕円柱状であった。
【0069】
次いで、上記で得られた筐体中に、摺接部材であるベーンを有するロータを回転自在に配設した。このとき、ベーンが筐体の内壁面のうちの樹脂部材により構成される部分に摺接するように、ベーンおよびロータを配設した。また、ベーンのうちの筐体の内壁面に摺接する端部は、アルミダイキャストにより構成されていた。次いで、略楕円柱状である筐体の一端側にカバーを止着した。これにより、ポンプを得た。
【0070】
(表面観察)
筐体用金属部材の表面を電子顕微鏡(SEM)で撮影し、筐体用金属部材の樹脂部材との接合面を観察した。筐体用金属部材は、上記接合面が粗化されており、上記接合面において複数の凹部を有していた。また、一部の凹部の断面形状は、凹部の開口部から底部までの少なくとも一部が上記開口部の断面幅よりも大きい断面幅を有する形状となっていた。
【0071】
(光沢度)
筐体用金属部材の表面の光沢度を、ディジタル光沢度計(20°、60°)(GM−26型、村上色彩技術研究所社製)を用いて、ASTM−D523に準拠して測定角度60°(入射角60°、反射角60°)で測定した。筐体用金属部材の光沢度は10であった。
【0072】
(比表面積)
筐体用金属部材を120℃で、6時間真空乾燥した後、自動比表面積/細孔分布測定装置(BELSORPminiII、日本ベル社製)を用いて、液体窒素温度における窒素吸脱着量を測定した。窒素吸着BET法による実表面積はBETプロットから算出した。測定した窒素吸着BET法による実表面積を、見掛け表面積で割ることにより比表面積を算出した。筐体用金属部材の比表面積は270であった。
【0073】
(筐体用金属部材の表面粗さ)
超深度形状測定顕微鏡(キーエンス社製VK9700)を用いて、倍率20倍における筐体用金属部材の樹脂部材との接合面の表面形状を測定した。表面粗さはRaおよびRzを測定した。RaおよびRzは、JIS−B0601に準拠して測定した。筐体用金属部材の上記接合面において、Raは4.0μmであり、Rzは15.5μmであった。
【0074】
<実施例2>
(熱硬化性樹脂組成物の調製)
ノボラック型フェノール樹脂(PR−51305、住友ベークライト(株)製)を35.1質量%、ヘキサメチレンテトラミンを4.9質量%、黒鉛(西村黒鉛(株)製)を57.9質量%、酸化マグネシウム(神島化学工業(株)製)を0.4質量%、消石灰(秩父石灰工業(株)製)を0.7質量%、潤滑剤等のその他の成分を1.1質量%、をそれぞれ乾式混合し、これを90℃の加熱ロールで溶融混練して、シート状にして冷却したものを粉砕して顆粒状の熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0075】
(筐体用金属部材の作製)
実施例1と同様の方法により、筐体用金属部材を得た。
【0076】
(ポンプの作製)
実施例1と同様の方法により、ポンプを得た。
【0077】
<実施例3>
(熱硬化性樹脂組成物の調製)
ノボラック型フェノール樹脂(PR−51305、住友ベークライト(株)製)を10.7質量%、レゾール型フェノール樹脂を25.3質量%、消石灰(秩父石灰工業(株)製)を1.8質量%、ガラス繊維(日東紡績(株)製、平均粒子径:11μm、平均長径:3mm、平均アスペクト比:270)を53.5質量%、クレー(エンゲル・ハート社製)を4.9質量%、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製)を0.5質量%、潤滑剤等のその他の成分を3.3質量%、をそれぞれ乾式混合し、これを90℃の加熱ロールで溶融混練して、シート状にして冷却したものを粉砕して顆粒状の熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0078】
なお、レゾール型フェノール樹脂としては、還流コンデンサー撹拌機、加熱装置、真空脱水装置を備えた反応釜内に、フェノール(P)とホルムアルデヒド(F)とをモル比(F/P)=1.7で仕込み、これに酢酸亜鉛をフェノール100重量部に対して0.5重量部添加し、この反応系のpHを5.5に調整し、還流反応を3時間行い、その後、真空度100Torr、温度100℃で2時間水蒸気蒸留を行って未反応フェノールを除去し、さらに、真空度100Torr、温度115℃で1時間反応させることにより得られた、数平均分子量800のジメチレンエーテル型のもの(固形)を主成分として用いた。
【0079】
(筐体用金属部材の作製)
実施例1と同様の方法により、筐体用金属部材を得た。
【0080】
(ポンプの作製)
実施例1と同様の方法により、ポンプを得た。
【0081】
<実施例4>
(熱硬化性樹脂組成物の調製)
ノボラック型フェノール樹脂(PR−51305、住友ベークライト(株)製)を34.0質量%、ヘキサメチレンテトラミンを6.0質量%、黒鉛(西村黒鉛(株)製)を21.0質量%、炭素繊維(ゾルテック社製)を30.0質量%、酸化マグネシウム(神島化学工業(株)製)を1.5質量%、潤滑剤等のその他の成分を7.5質量%、をそれぞれ乾式混合し、これを90℃の加熱ロールで溶融混練して、シート状にして冷却したものを粉砕して顆粒状の熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0082】
(筐体用金属部材の作製)
実施例1と同様の方法により、筐体用金属部材を得た。
【0083】
(ポンプの作製)
実施例1と同様の方法により、ポンプを得た。
【0084】
<比較例1>
(ポンプの作製)
表面が#4000の研磨紙で十分研磨され、かつ全体がA5052(比重2.68g/cm
3)のアルミニウム合金により構成された筐体を用意した。この筐体は、
図1および
図2に示すように、内部が空洞であって、一端側が開放され、かつ他端側にロータの軸を固定する軸受部となる貫通孔が設けられている略楕円筒状であった。次いで、筐体中に摺接部材であるベーンを有するロータを固定した。このとき、ベーンが、アルミニウム合金により構成される筐体の内壁面に摺接するように、ロータを配置した。また、ベーンのうちの筐体の内壁面に摺接する部分は、アルミダイキャストにより構成されていた。次いで、略楕円柱状である筐体の一端側にカバーを止着した。これにより、ポンプを得た。
【0085】
<評価>
(熱硬化性樹脂組成物の硬化物の比重)
各実施例について、得られた熱硬化性樹脂組成物の硬化物の比重(g/cm
3)を測定した。比重の測定は、トランスファ成形(金型温度180℃、時間3分間)にて成型した試験片に対し、JIS K6911に準拠して行った。結果を表1に示す。
【0086】
(摩擦試験)
各実施例について、それぞれ次のように摩擦試験を行った。まず、上記で得られたポンプから樹脂部材を剥がし、この樹脂部材から、筐体の内壁面を構成していた面を測定面とした測定サンプル(30mm×50mm×2mmの角板試験片)を作製した。次いで、JIS K7218 A法に従って摩擦試験を行った。相手材としては、円筒状のS45Cを用いた。また、測定条件は、圧力2MPa、試験速度0.1m/s、試験時間60分であった。得られた測定結果から、測定開始30分から60分までの摩擦係数の平均値と、測定開始30分から60分までの試料温度の平均値と、を算出し、これらを摩擦係数および試料温度(℃)とした。結果を表1に示す。
【0087】
(筐体の熱伝導率)
各実施例について、得られた筐体の、樹脂部材と筐体用金属部材の積層方向における熱伝導率(W/(m・K))を次のように測定した。まず、上記において作製されたポンプの筐体から、樹脂部材と筐体用金属部材が接合された試験片を切り出した。次いで、樹脂部材と筐体用金属部材の厚さが1:1となるように、試験片の樹脂部材および筐体用金属部材をそれぞれ薄膜化した。ここでは、樹脂部材の厚さを1mm、筐体用金属部材の厚さを1mmとした。次いで、レーザーフラッシュ法を用いて樹脂部材と筐体用金属部材の積層方向における熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0088】
(樹脂部材の熱伝導率)
各実施例について、次のようにして、得られた樹脂部材の熱伝導率(W/(m・K))の測定を行った。まず、上記で得られたポンプから樹脂部材を剥がし、この樹脂部材から測定サンプル(10mm×10mm×厚み2mmの角板試験片)を作製した。次いで、得られた測定サンプルについてレーザーフラッシュ法を用いて厚み方向の熱伝導率を測定し、これを樹脂部材の熱伝導率とした。
【0089】
(ポンプの性能評価)
各実施例および比較例について、それぞれ次のようにポンプの性能評価を行った。まず、上記で得られたポンプを、1000時間駆動させた。次いで、1000時間駆動後のポンプの温度を測定した。ここでは、1000時間駆動による温度上昇値を算出し、温度上昇値が100℃以下のものを◎とし、100℃超過150℃以下のものを○とし、150℃超過のものを×としてポンプの性能評価を行った。
【0090】
【表1】