特許第6413327号(P6413327)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ いすゞ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6413327-浸炭処理された部品の評価方法 図000002
  • 特許6413327-浸炭処理された部品の評価方法 図000003
  • 特許6413327-浸炭処理された部品の評価方法 図000004
  • 特許6413327-浸炭処理された部品の評価方法 図000005
  • 特許6413327-浸炭処理された部品の評価方法 図000006
  • 特許6413327-浸炭処理された部品の評価方法 図000007
  • 特許6413327-浸炭処理された部品の評価方法 図000008
  • 特許6413327-浸炭処理された部品の評価方法 図000009
  • 特許6413327-浸炭処理された部品の評価方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6413327
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】浸炭処理された部品の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20181022BHJP
   C23C 8/22 20060101ALI20181022BHJP
【FI】
   G01N23/223
   C23C8/22
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-97449(P2014-97449)
(22)【出願日】2014年5月9日
(65)【公開番号】特開2015-215203(P2015-215203A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2017年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】丸茂 敬和
【審査官】 越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−139220(JP,A)
【文献】 特開2008−045975(JP,A)
【文献】 特開平01−316173(JP,A)
【文献】 特開2002−202263(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0151069(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/227
G01N 1/00− 1/34
C23C 8/00−12/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が浸炭処理された部品を評価するに際し、前記部品の表面を、蛍光X線分析にて表面の炭素濃度を測定し、その後表面を研削して再度蛍光X線分析にて、研削した表面の炭素濃度を測定し、以下これを繰り返して浸炭深さまでの炭素濃度分布を測定して部品を評価する評価方法であって、
前記部品は、クロムモリブデン鋼の鍛造にて成形され、鍛造後にガス浸炭処理された差動クロスジョイントからなり、差動クロスジョイントの評価は、表面の炭素濃度が所定濃度を基準に、浸炭深さが所定の浸炭深さに達しているかどうかで評価することを特徴とする浸炭処理された部品の評価方法。
【請求項2】
部品の表面の研削は、炭素を含まない砥石で研削する請求項1記載の浸炭処理された部品の評価方法。
【請求項3】
砥石は、アルミナ系砥石からなる請求項2記載の浸炭処理された部品の評価方法。
【請求項4】
研削後の砥石の表面をダイヤモンドドレッサーで削って、研削時に砥石表面に付着した炭素分を除去した後、次の研削を行う請求項1〜3のいずれかに記載の浸炭処理された部品の評価方法。
【請求項5】
前記所定濃度は0.8mass%であり、前記所定の浸炭深さは1.3mmである
請求項1〜4のいずれかに記載の浸炭処理された部品の評価方法。
【請求項6】
鍛造にて差動クロスジョイントを成形する際に、クロムモリブデン鋼でテストピースを作製し、そのテストピースを、差動クロスジョイントと共にガス浸炭処理し、そのガス浸炭処理したテストピースを蛍光X線分析して評価する請求項1〜5のいずれかに記載の浸炭処理された部品の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疲労強度向上を目的として他の金属と接触する表面に浸炭処理が施された自動車部品などの浸炭処理された部品の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車部品としての差動クロスジョイントは、過酷な条件で使用されるため、疲労強度と硬度が要求される。このため、疲労強度に優れた金属で鍛造成形され、その上で、表面硬度及び疲労強度向上を目的として表面に浸炭処理が施される。
【0003】
この差動クロスジョイントが用いられるディファレンシャル装置を図7により説明する。
【0004】
図7は、差動クロスジョイント10が用いられるディファレンシャル装置20の組み立て分解斜視図を示し、21はディファレンシャルケース、22、23はサイドギヤ、24はディファレンシャルピニオン、25はプロペラシャフトに連結されたドライブピニオン(図示せず)で回転されるリングギヤ、26はギヤケース、10は差動クロスジョイントである。
【0005】
図6は、図7に丸dで囲んだ差動クロスジョイント10の詳細斜視図を示したものである。差動クロスジョイント10は、リング11の外周にピン12を一体に設けて構成され、これらピン12に、図7で示したディファレンシャルピニオン24が軸支されると共に、差動に伴って回転するディファレンシャルケース(図示せず)に支承されるようになっている。
【0006】
このディファレンシャル装置20内の差動クロスジョイント(デフスパイダーとも称される)10は、過酷な条件で使用されるため、SCM420などのクロムモリブデン鋼を、熱間鍛造により製造されると共にピニオンギヤを支承するシャフト部分の表面には、表面硬度及び疲労強度を向上させるためにガス浸炭処理が施されている。
【0007】
クロムモリブデン鋼としてのSCM420は、Feを母材とし、C:0.17〜0.23%、Mn:0.55〜0.9%、Cr:0.85〜1.25%、Mo:0.15〜0.35%、その他Siと不可避金属を含む成分からなる。
【0008】
このクロムモリブデン鋼を用い、これを熱間鍛造で図7に示した差動クロスジョイント10の形状に成形すると共に表面を機械加工にて所定の寸法にし、その上でガス浸炭処理を施すことで、疲労強度と靱性を備え、表面がマルテンサイト化されて硬度が増し、ピン12の摺動面の耐摩耗性を格段に向上できる。
【0009】
このガス浸炭処理は、差動クロスジョイントを鍛造で成形した後、表面硬度がビッカース硬度(Hv)で、設定値(例えば600〜700Hv)になるように行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−045975号公報
【特許文献2】特開平08−094609号公報
【特許文献3】特開2008−292170号公報
【特許文献4】特開2006−095637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、ガス浸炭処理は、部品メーカによって、ガス浸炭の雰囲気コントロールが相違し、このため、表面硬度が同じものでも、ピンに割れが発生することが判明した。
【0012】
すなわち、表面硬度が同じでも、浸炭処理が相違すると、深さ方向のC濃度分布が変化し、このため、過剰浸炭が原因となって、割れが発生することが分かった。
【0013】
図8図9は、異なる部品メーカで、それぞれガス浸炭処理した差動クロスジョイントのピンの表面深さに対する炭素濃度分布を、EPMA(電子プローブマイクロアナライザ)で分析した結果を示したもので、図8は割れが発生した差動クロスジョイント、図9は、割れが発生しなかった差動クロスジョイントの分析結果である。
【0014】
通常ガス浸炭では、表面の炭素濃度が0.8mass%がよいとされているが、図8の差動クロスジョイントでは、ピンの表面の炭素濃度は、1.25mass%と高く、図9の差動クロスジョイントでは、ピンの表面の炭素濃度は0.75mass%で、0.8mass%に達していないという分析結果が得られた。
【0015】
この図8の分析結果が示した差動クロスジョイントは、表面が過剰浸炭気味であり、残留オーステナイト(γ)が多くなり、このため置き割れが発生したものと考えられる。
【0016】
また、図9の分析結果が示した差動クロスジョイントは、炭素濃度が0.75mass%であり、割れは発生しないものの、理想とする炭素濃度0.8mass%よりも低く、炭素濃度を0.8mass%にさらに近づける余地がある。
【0017】
このように深さ方向の炭素濃度の測定は、差動クロスジョイントの品質を保証する上で重要であるが、EPMAは、装置が大がかりで、操作に熟練を要し、現場の品質管理にこれを採用することは不可能である。
【0018】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、比較的簡便な装置で、ガス浸炭等での浸炭処理後の炭素濃度を分析できる浸炭処理された部品の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために本発明は、表面が浸炭処理された部品を評価するに際し、前記部品の表面を、蛍光X線分析にて表面の炭素濃度を測定し、その後表面を研削して再度蛍光X線分析にて、研削した表面の炭素濃度を測定し、以下これを繰り返して浸炭深さまでの炭素濃度分布を測定して部品を評価することを特徴とする浸炭処理された部品の評価方法である。
【0020】
部品の表面の研削は、炭素を含まない砥石で研削するのが好ましい。
【0021】
砥石は、アルミナ系砥石からなるのが好ましい。
【0022】
研削後の砥石の表面をダイヤモンドドレッサーで削って、研削時に砥石表面に付着した炭素分を除去した後、次の研削を行うのが好ましい。
【0023】
前記部品は、クロムモリブデン鋼の鍛造にて成形され、鍛造後にガス浸炭処理された差動クロスジョイントからなり、差動クロスジョイントの評価は、表面の炭素濃度が0.8mass%を基準に、浸炭深さが1.3mmに達しているかどうかで評価するのが好ましい。
【0024】
鍛造にて差動クロスジョイントを成形する際に、クロムモリブデン鋼でテストピースを作製し、そのテストピースを、差動クロスジョイントと共にガス浸炭処理し、そのガス浸炭処理したテストピースを蛍光X線分析して評価するのが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、部品表面の蛍光X線分析と測定表面の研削を繰り返すことで浸炭処理された部品の炭素濃度を測定し、その品質を評価できるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施の形態を示すフロー図である。
図2】本発明に用いる蛍光X線分析装置の概略を示す図である。
図3】蛍光X線分析装置におけるエネルギーとX線強度の関係を示す図である。
図4】蛍光X線分析装置における炭素濃度を求めるための検量線を示す図である。
図5】本発明において、蛍光X線分析装置で、部品としての差動クロスジョイントの表面深さに対する各種金属成分の濃度分布を分析した結果を示す図である。
図6】本発明の部品としての差動クロスジョイントの詳細斜視図である。
図7】差動クロスジョイントが組み込まれるディファレンシャル装置の組み立て分解斜視図である。
図8】過剰浸炭処理がなされた差動クロスジョイントのピンの表面深さに対する炭素濃度分布を、EPMAで分析した結果を示す図である。
図9】表面炭素濃度が0.8mass%以下で浸炭処理がなされた差動クロスジョイントのピンの表面深さに対する炭素濃度分布を、EPMAで分析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0028】
先ず、図2により蛍光X線分析装置の概略を説明する。
【0029】
図2において、X線管31で発生したX線が試料32に照射すると、試料32中の検出元素の原子との相互作用で、内殻の軌道原子が励起され、蛍光X線が発生する。この蛍光X線は、ソーラスリット33を介して分光結晶34で、測定したい特定波長の蛍光X線(主にKα線とKβ線)が分光され、これが検出器35に入力され、検出器35にて、エネルギーに対するX線強度のスペクトルを検出する。
【0030】
図3は、エネルギーに対するX線強度のスペクトルを示したもので、このKα線のスペクトルを基に、図4で示した検量線から試料の成分(炭素)の濃度を検出する。すなわちX線強度のピーク値から検量線を基に試料の測定金属成分の濃度を検出できる。
【0031】
この検出の際には、炭素測定用の分光結晶、その他に、Mn、Cr、Mo測定用の分光結晶を自動的に入れ替えて分析を行う。
【0032】
さて、図1に示したフローにより本発明の浸炭処理された部品の評価方法を説明する。
【0033】
先ず、測定対象とする部品は、図6で説明した差動クロスジョイント10である。
【0034】
この差動クロスジョイント10は、浸炭処理後の表面は炭素からなる黒皮で覆われているため、この表面の黒皮が研削により除去された後にその表面を蛍光X線分析する。測定の際には、この差動クロスジョイント10を直接蛍光X線分析装置にセットして分析してもよいが、測定精度を上げるために、40mmφ×30mmLのテストピースを作製し、差動クロスジョイント10と同じ鍛造条件で作製し、差動クロスジョイント10と同じガス浸炭条件で浸炭処理したものを用いて蛍光X線分析を行う。このテストピースの作製は、クロムモリブデン鋼を差動クロスジョイントの鍛造と同じ条件で製作してもよいが、クロムモリブデン鋼の丸棒を切断したものを用いてもよい。
【0035】
図1において、分析を開始(ステップS1)の際に、部品(テストピース)を蛍光X線分析装置にセットする。この場合テストピースであれば、その表面を軽く、黒皮がなくなるまで研削しておく。その後、セットされた部品(テストピース)の浸炭処理された表面の蛍光X線分析を行う(ステップS2)。次に、部品を蛍光X線分析装置から取り出し、測定表面を炭素を含まない砥石(アルミナ系砥石)で0.2mm程度研削し(ステップS3)、その部品を再度蛍光X線分析装置にセットして、部品の研削表面の蛍光X線分析を行う(ステップS5)、またこれと前後して、研削後の砥石には、Cが含有した研削粉が付着しているため、砥石の表面をダイヤモンド砥石などで表面を切削クリーニングしておく(ステップS4)。
【0036】
その後、ステップS6にて、研削深さが浸炭深さ(1.3mm)以上の所定深さ(1.5mm程度)に達しているかどうかを測定し、達していないとき(No)、ステップS3〜S5を繰り返し、測定面を約0.2mm程度ずつ繰り返し研削して各研削深さ毎(約7〜10回)、その研削面の蛍光X線分析を行う。
【0037】
このようにして、ステップS6で、浸炭深さを含む所定深さまでの分析を終えた後(Yes)、分析を終了する(ステップS7)。
【0038】
このフローにおいて、測定面を研削する砥石は、炭化ケイ素系砥粒のように炭素を含む砥石を用いると、砥粒粉が研削表面に付着し、この砥粒中に含まれるCが分析結果に反映されて正確なC濃度の分析が行えない。そこで研削には、褐色アルミナ系、白色アルミナ系、単結晶アルミナ系、或いはジルコニアアルミナ系のアルミナ系砥石を用いる。またアルミナ系砥石で研削した際、部品の研削粉が砥石表面に付着し、その後の研削の際に、この研削粉に含まれる炭素が分析結果に反映されるため、研削後の砥石の表面は、ダイヤモンドグラインダで研削してクリーニングを行うことで、分析する表面への炭素のコンタミネーションを防止して、正確な炭素濃度の分析が行える。
【0039】
また、上記のフローは、炭素濃度測定のための分析で説明したが、図2で説明した分光結晶を、蛍光X線分析装置で自動的に変えることで、その他の金属成分(Mn、Cr、Mo)も深さとの関係で同時に分析してこれら濃度を測定することもできる。
【0040】
図5は、浸炭処理したクロムモリブデン鋼の表面深さに対する各種成分(C、Mn、Cr、Mo)の濃度分布(表面から深さ1.5mmまで)を測定した結果を示したものである。
【0041】
この、図5においては、炭素濃度分布は変化するものの、Mn、Cr、Moの濃度分布は、原材料であるクロムモリブデン鋼の成分と一致しており、また表面深さ1.3mm以上では、炭素濃度もクロムモリブデン鋼のC成分と一致し、浸炭深さが1.3mmまでなされたことが分かる。
【0042】
また、表面の炭素濃度を見ると、適正な炭素濃度0.8mass%に対して0.9mass%以上であり、浸炭処理がやや過剰であることが分かる。
【0043】
そこで、この結果を踏まえて、ガス浸炭処理では、雰囲気条件、焼き入れ温度や処理時間等を調整することで表面の炭素濃度を目標の0.8mass%により近い濃度に調整することができる。
【0044】
このように、部品の表面の炭素濃度を0.8mass%に近い濃度とし、また浸炭深さを1.3mmに浸炭処理することで、作製された部品を評価できると共にその品質を確実に保証することが可能となる。
【符号の説明】
【0045】
10 差動クロスジョイント(部品)
30 蛍光X線分析装置
32 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9