特許第6413328号(P6413328)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6413328
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】ボールねじ機構及びステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20181022BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20181022BHJP
【FI】
   F16H25/22 C
   B62D5/04
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-97838(P2014-97838)
(22)【出願日】2014年5月9日
(65)【公開番号】特開2015-215031(P2015-215031A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2017年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山口 真司
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/114036(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0090207(US,A1)
【文献】 特開2011−080574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状のねじ側転動溝が形成されたねじ軸と、内周面に前記ねじ側転動溝に対向する螺旋状のナット側転動溝が形成された円筒状のナットと、前記ねじ側転動溝と前記ナット側転動溝とにより囲まれる空間からなる転動路に配置される複数のボールと、を備え、
前記ナットは、
前記ナット側転動溝の軸方向における両端に設けられ前記ナット側転動溝の軌道を前記ねじ側転動溝からずらすとともに、ずれに伴い溝が深く変位するずれ部と、
前記ナット側転動溝よりも外周側に設けられて少なくとも1列の前記ナット側転動溝をまたぎ越すとともに螺旋状の前記ナット側転動溝の軸方向における両端の前記ずれ部を繋ぐ還流路と、
前記ねじ軸の軸方向における前記ずれ部の開始位置から該ずれ部に対向する前記ねじ側転動溝に隣接するねじ山を越えない区間に形成され、前記ずれ部から前記還流路への入り口であり、前記還流路から前記ずれ部への出口である通路口と、が形成され
前記ずれ部は、前記ナット側転動溝の両端における前記ナット側転動溝に隣接するナット側転動溝側または該隣接するナット側転動溝の逆側に軌道をずらすように形成されることを特徴とするボールねじ機構。
【請求項2】
前記ナットに外嵌されるスリーブをさらに有し、
前記還流路は、前記ナットの外周に形成される請求項1に記載のボールねじ機構。
【請求項3】
車両の転舵軸をねじ軸として、前記転舵軸の外周面に形成された螺旋状のねじ側転動溝に対向する螺旋状のナット側転動溝が形成された円筒状のナット、及び前記ねじ側転動溝と前記ナット側転動溝とにより囲まれる空間からなる転動路に配置される複数のボールを備えたボールねじ機構と、
前記ナットにトルクを付与するモータと、を備えるステアリング装置において、
前記ボールねじ機構として、請求項1または請求項に記載のボールねじ機構が用いられることを特徴とするステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ機構及びステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、操舵機構にアシスト力を付与するステアリング装置としては、ボールねじ機構を用いてモータの回転をラック軸の往復動に変換することにより、該モータの回転をアシスト力として付与するものがある。このように用いるボールねじ機構としては、例えば、特許文献1に記載のねじ軸とナットとが多数のボールを介して螺合したボールねじ機構がある。
【0003】
この特許文献1のボールねじ機構では、そのねじ軸の外周面にボールの転動溝が螺旋状に形成される。また、そのナットの内周面には、ねじ軸のボールの転動溝に対向するボールの負荷転動溝が螺旋状に形成される一方、この負荷転動溝に沿うようにボールの無負荷転動溝が螺旋状に該負荷転動溝よりも深く形成される。そして、特許文献1のボールねじ機構では、ナットの内周面にさらに方向転換溝を形成することで、これら負荷転動溝及び無負荷転動溝の端がナットの内周面で連結され、ボールの無限循環に関して、所謂、デフレクタを不要にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第WO2007/114036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のボールねじ機構では、ナットの内周面に負荷転動溝に沿って無負荷転動溝や方向転換溝を形成するので、負荷転動溝間に無負荷転動溝を形成するだけの余裕や方向転換溝を形成するだけの余裕を確保しなければならずナット、すなわちボールねじ機構の大型化を避けられない。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、デフレクタを不要にしても大型化を抑えることができるボールねじ機構及びステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するボールねじ機構は、外周面に螺旋状のねじ側転動溝が形成されたねじ軸と、内周面にねじ側転動溝に対向する螺旋状のナット側転動溝が形成された円筒状のナットと、ねじ側転動溝とナット側転動溝とにより囲まれる空間からなる転動路に配置される複数のボールと、を備えるようにしている。また、ボールねじ機構において、ナットは、ナット側転動溝の両端に設けられナット側転動溝の軌道をねじ側転動溝からずらすとともに、ずれに伴い溝が深く変位するずれ部と、ナット側転動溝の両端のずれ部を繋ぐ還流路と、ねじ軸の軸方向におけるずれ部の開始位置からずれ部に対向するねじ側転動溝に隣接するねじ山を越えない間に還流路への通路口と、が形成されてなるようにしている。
【0008】
この構成によれば、ボールねじ機構のボールは、転動路を転動することでナット側転動溝のずれ部に到達すると、軌道のずれ側のねじ側転動溝に押し付けられながら、その隣接するねじ山に徐々に乗り上げていく。そして、このようにボールがねじ山に乗り上げを開始してから乗り上げた後の間に、還流路への通路口が設けられる。これにより、ずれ部を経ることでボールは、還流路へと誘導されるようになる。また、還流路へと誘導されたボールは、ナットを経てもう一方の通路口からその延長上にあるもう一方のずれ部、さらにはねじ側転動溝とナット側転動溝とにより囲まれる転動路へと誘導される。すなわち、ナットには、その内周にずれ部及び通路口を設けるとともに、還流路を設ければ、所謂、デフレクタを不要にしてボールの無限循環を実現することができる。また、ずれ部の延長上に通路口が設けられ、還流路がナット本体に設けられるので、ねじ側転動溝に基づく転動路間も狭めてその軸方向の全長も縮めることができる。したがって、デフレクタを不要にしても大型化を抑えることができる。
【0009】
こういったボールねじ機構において、ずれ部は、ナット側転動溝の両端におけるナット側転動溝に隣接する転動溝側に軌道をずらすように形成されることが好ましい。
この構成によれば、ずれ部がナットの軸方向内側に軌道をずらすので、軸方向外側に軌道をずらす場合に比べて、ボールの無限循環に関する構成の軸方向への拡がりを抑えることができる。一般に、ボールねじ機構における隣り合うねじ側転動溝、すなわち転動路の間には、ねじ山による隙間(リード)が必要になる。このため、この隙間を利用してずれ部を設ければ、デフレクタを不要にするための上記隙間の拡がりを最小限に抑えることができる。したがって、デフレクタを不要にしても大型化を効果的に抑えることができる。
【0010】
また、こういったボールねじ機構において、ナットに外嵌されるスリーブをさらに有し、還流路は、ナットの外周に設けられることが好ましい。
この構成によれば、ナットの外周に還流路を形成することで、ねじ側転動溝に基づく転動路間の隙間(リード)の拡がりを最小限に抑えることができる。もっとも、ナットの外周に還流路を形成することで、該還流路を通過中のボールがボールねじ機構外に飛び出すことで、ボールねじ機構が正常に機能しなくなるといった懸念がある。しかし、ナットにスリーブを外嵌するので、還流路を通過中のボールがボールねじ機構外に飛び出すことがなくなる。したがって、ボールねじ機構を正常に機能させながら大型化を効果的に抑えることができる。
【0011】
そして、車両の転舵軸をねじ軸として、転舵軸の外周面に形成された螺旋状のねじ側転動溝に対向する螺旋状のナット側転動溝が形成された円筒状のナット、及びねじ側転動溝とナット側転動溝とにより囲まれる空間からなる転動路に配置される複数のボールを備えたボールねじ機構と、ナットにトルクを付与するモータと、を備えるステアリング装置において、ボールねじ機構として、上記のようなボールねじ機構が用いられることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、大型化を抑えたボールねじ機構を採用することができるので、ステアリング装置についてもその大型化を抑えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、デフレクタを不要にしても大型化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ステアリング装置の概略構成を示す図。
図2】ボールねじ機構を示す図。
図3】ナットを示す断面図。
図4】ナットを示す断面図。
図5】ナットにおける還流路を示す図。
図6】還流路をボールが通過する様子を軸方向から見た断面図。
図7】還流路をボールが通過する様子を径方向から見た断面図。
図8】還流路をボールが通過する様子を図7とは別の径方向から見た断面図。
図9】別例におけるナットを示す断面図。
図10】別例における還流路をボールが通過する様子を軸方向から見た断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、ボールねじ機構が搭載されたステアリング装置の一実施形態を説明する。
図1に示すように、ステアリング装置1は、運転者のステアリングホイール2の操作(以下、「ステアリング操作」という)に基づき転舵輪3を転舵させる操舵機構4、及び運転者のステアリング操作を補助するアシスト機構5を備える電動パワーステアリング装置である。
【0016】
操舵機構4は、ステアリングホイール2の回転軸となるステアリングシャフト6、及びその下端部にラックアンドピニオン機構7を介して連結されたねじ軸としてのラック軸8を備える。操舵機構4では、運転者のステアリング操作に伴いステアリングシャフト6が回転すると、その回転運動がラックアンドピニオン機構7を介してラック軸8の軸方向の往復運動(直線運動)に変換される。このラック軸8の軸方向の往復運動がその両端に連結されたタイロッド9を介して転舵輪3に伝達されることにより転舵輪3の転舵角が変化し、車両の進行方向が変更される。
【0017】
アシスト機構5は、ラック軸8に設けられる。アシスト機構5は、モータ10及び動力伝達機構11により構成される。モータ10及び動力伝達機構11を含め、ラック軸8は、ハウジング12により覆われる。モータ10は、その出力軸13がラック軸8の中心軸に対して平行となるようにハウジング12の外壁にボルト14により組み付けられる。また、モータ10の出力軸13は、ハウジング12の内部に延びている。動力伝達機構11は、ラック軸8の外周に取り付けられるボールねじ機構20、及びモータ10の出力軸13の回転をボールねじ機構20に伝達する減速機構15からなる。
【0018】
次に、ボールねじ機構20の構造について説明する。
図2に示すように、ラック軸8の外周面にはねじ側転動溝としての螺旋状のラックねじ溝21が形成されるとともに、それぞれの溝の間に螺旋状のねじ山22が形成される。これらラックねじ溝21及びねじ山22は、所定の隙間(リード)を設けて形成される。
【0019】
ボールねじ機構20は、ラック軸8をねじ軸として、ラックねじ溝21に対向するナット側転動溝としての螺旋状のナット溝32が内周面に形成されたナット30(ナット本体31)を備える。また、ボールねじ機構20は、ラックねじ溝21とナット溝32とにより囲まれる空間からなる螺旋状の転動路Rに配置される複数のボール40を備えている。なお、ナット30は、ボールベアリングによりハウジング12に対して回転可能に支持される。
【0020】
また、ナット30(ナット本体31)の外周には、転動路Rの二箇所間を繋ぐ還流路33が形成される。すなわちボール40は、還流路33を介して転動路Rを無限循環する。また、ナット30(ナット本体31)には、還流路33を塞ぐようにスリーブ50が外嵌されるとともに、そのさらに外周面に一体的に従動プーリが取り付けされる。なお、減速機構15において、モータ10の出力軸13には、駆動プーリが一体に取り付けられる。そして、上記従動プーリ、及び上記駆動プーリにベルトが巻き掛けられることで、モータ10の出力軸13の回転がボールねじ機構20に伝達される。
【0021】
ここで、ナット30について詳しく説明する。
図3及び図4に示すように、ナット30は、円筒状のナット本体31を備える。ナット本体31の内周には、ラックねじ溝21と略同じ深さで略同じ軌道で対向するようにナット溝32が形成されるとともに、それぞれの溝の間に螺旋状の隆起部36が形成される。これらナット溝32及び隆起部36は、ラック軸8の所定の隙間(リード)と略同じ隙間(リード)を設けて形成される。
【0022】
ナット溝32の両端には、その軌道をラックねじ溝21からずらすようにしたずれ部34が形成されるとともに、その先に還流路33への通路口35が形成される。各ずれ部34では、隣接するナット溝32に徐々に近付くようにその軌道が設定されている。こういった軌道のずれが、本実施形態では上記所定の隙間を基準に約半リード、すなわち上記所定の隙間の半分程度になるように設定される。また、各ずれ部34では、隣接するナット溝32に近付く程、その溝が深く形成される。すなわち、ずれ部34では、通路口35に近付く程、溝が深い一方、通路口35から遠ざかる程、溝が浅くなる(図3及び図4中、矢示)。
【0023】
また、ずれ部34の通路口35付近では、その軌道が隆起部36に相当する位置を通るとともに、その溝がラックねじ溝21と対向しないでねじ山22と対向する。そして、ずれ部34の通路口35付近では、ボール40がねじ山22上を通過可能なように、その溝の深さがボール40の直径以上に設定される。
【0024】
また、図3及び図4に示すように、各ずれ部34及び通路口35は、ナット本体31に2組形成されるとともに、これらを繋ぐ還流路33がナット本体31の外周に凹設される。特に、図5に示すように、各ずれ部34及び通路口35は、還流路33を正面視する場合に、同時に各通路口35を視認可能なように配置される。
【0025】
また、還流路33は、各通路口35からナット本体31の径に沿ってそれぞれ延びるとともに、これらを繋ぐようにS字をなす。また、還流路33は、各通路口35を繋ぐ間において、その底がナット溝32の若干径方向外側(例えば、2ミリメートル)に位置するように設定される。また、還流路33では、ボール40が転動可能なように、その深さ及び幅が該ボール40の直径以上に設定される。
【0026】
そして、図6図8中、矢印で示すように、ボールねじ機構20のボール40は、駆動プーリに連動してナット30が所定方向に回転することにより、還流路33を所定方向に転動する。そのうちラックねじ溝21とナット溝32とにより囲まれた転動路Rを転動することで、ずれ部34に到達したボール40は、ナット溝32の軌道のずれとずれに伴うナット溝32の深さの変位とにより、転動路Rが徐々にナット30側に変位する。
【0027】
図6に示すように、ナット30の軸方向から見た同一平面上に、ボール40の軌道を投影すると、ボール40が範囲A→範囲Bを通過して還流路33を通過し、さらに範囲B→範囲Aと通過する様子が見られる。なお、図6中、装飾部(ドット)は、ボール40の転動路Rを表す。
【0028】
すなわち、図6中、範囲Aのずれ部34において、ボール40は、軌道のずれ側のラックねじ溝21の側面に押し付けられ、その側面を徐々に乗り上げていく。このため、範囲Aにおいて、ラックねじ溝21の底に沿った転動路Rが、ナット溝32の軌道のずれとそれに伴う深さの変位(ここでは、徐々に深くなる)にしたがって、ラックねじ溝21の側面に沿って変位していくとともに、ラックねじ溝21の底から離れていく。
【0029】
その後、ずれ部34を通過するボール40は、隣接するねじ山22に乗り上げる。このため、ラックねじ溝21の側面に沿った転動路Rが、ナット溝32の軌道のずれとそれに伴う深さの変位にしたがって、ラックねじ溝21から離脱してラック軸8のねじ山22に乗り上げる。
【0030】
また、図6中、範囲Bのずれ部34において、ボール40は、ラック軸8のねじ山22に沿って転動した後、その延長上にある通路口35に到達することで、還流路33へと掬い上げられる。このため、ラック軸8のねじ山22に乗り上げた転動路Rが、通路口35を経て還流路33に遷移する。
【0031】
還流路33に掬い上げられた後、ボール40は、還流路33に沿って移動することでナット本体31を経てもう一方の通路口35からその延長上にあるもう一方のずれ部34、さらにはラックねじ溝21とナット溝32とに囲まれた転動路Rへと戻ることで1条循環による無限循環をなす。
【0032】
還流路33から通路口35を経る場合、図6中、範囲Bのずれ部34において、ボール40は、ラック軸8のねじ山22に沿って転動した後に、該ねじ山22から離脱する。
すなわち、この場合に図6中、範囲Aのずれ部34において、ボール40は、軌道のずれ側のラックねじ溝21の側面に押し付けられ、その側面を徐々に下っていく。このため、この場合に範囲Aにおいて、ラック軸8のねじ山22に沿った転動路Rが、ナット溝32の軌道のずれとそれに伴う深さの変位(ここでは、徐々に浅くなる)にしたがって、ラックねじ溝21の側面に沿って変位していくとともに、ラックねじ溝21の底へと近付いていく。
【0033】
その後、この場合にずれ部34を通過するボール40は、ラックねじ溝21に沿った軌道に戻る。
また、図7及び図8に示すように、上述したボール40の無限循環の様子をナット30の径方向から見た同一平面上に、ボール40の軌道を投影すると、ボール40がずれ部34→通路口35を通過して還流路33を通過し、さらに通路口35→ずれ部34と通過する様子が見られる。なお、図7及び図8中、装飾部(ドット)は、ボール40の転動路Rを表す。
【0034】
すなわち、ずれ部34において、ボール40は、ラックねじ溝21の側面を徐々に乗り上げていく間、ナット30の軸方向内方に変位していく。その後、ずれ部34を通過するボール40は、隣接するねじ山22に乗り上げて、ナット30の軸方向外方に若干変位していく。そこからボール40は、通路口35を通過して、還流路33へと掬い上げられる。このため、ラック軸8のねじ山22に乗り上げた転動路Rが、通路口35を経て還流路33に遷移する。
【0035】
還流路33から通路口35を経る間、ボール40は、ナット30の軸方向内方に若干変位していく。そして、通路口35を経た後、ボール40は、隣接するラックねじ溝21を下って、ナット30の軸方向外方に変位していく。そこからボール40は、ずれ部34を経て、隣接するラックねじ溝21に沿った軌道に戻る。
【0036】
次に、ボールねじ機構20の作用を説明する。
図6の範囲Aに示すように、ボールねじ機構20のボール40は、転動路Rを転動することでナット溝32のずれ部34に到達すると、軌道のずれ側のラックねじ溝21に押し付けられながら、その隣接するねじ山22に徐々に乗り上げていく。そして、図6の範囲Bに示すように、ボール40がねじ山22に乗り上げた後、その延長上に還流路33への通路口35が設けられる。
【0037】
これにより、ずれ部34を経ることでボール40は、還流路33へと誘導されるようになる。また、還流路へと誘導されたボール40は、ナット本体31を通ってもう一方の通路口35からその延長上にあるもう一方のずれ部34、さらにはラックねじ溝21とナット溝32とにより囲まれる転動路Rへと誘導される。すなわち、ナット本体31には、その内周にずれ部34及び通路口35を設けるとともに、そのナット本体31に還流路33を設ければ、所謂、デフレクタを不要にしてボールの無限循環を実現することができる。
【0038】
また、ナット本体31には、ずれ部34の延長上に通路口35が設けられ、還流路33がナット本体31に設けられるので、ラックねじ溝21に基づく転動路Rの間も狭めてその軸方向の全長も縮めることができる。
【0039】
また、ずれ部34がナット30の軸方向内側に軌道をずらすので、軸方向外側に軌道をずらす場合に比べて、ボール40の無限循環に関する構成の軸方向への拡がりを抑えることができる。一般に、ボールねじ機構20における隣り合うラックねじ溝21、すなわち転動路Rの間には、ねじ山による所定の隙間(リード)が必要になる。このため、この隙間を利用してずれ部34を設ければ、デフレクタを不要にするための上記隙間の拡がりを最小限に抑えることができる。
【0040】
また、ナット本体31の外周に還流路を形成することで、ラックねじ溝21に基づく転動路Rの間の隙間(リード)の拡がりを最小限に抑えることができる。もっとも、ナット本体31の外周に還流路33を形成することで、該還流路33を通過中のボール40がボールねじ機構20外に飛び出してしまい、ボールねじ機構20が正常に機能しなくなるといった懸念がある。しかし、ナット本体31にスリーブ50を外嵌するので、還流路33を通過中のボール40がボールねじ機構20外に飛び出すことがなくなる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下に示す効果を奏することができる。
(1)ずれ部34を経ることでボール40は、還流路33へと誘導されるようにした。すなわち、ナット本体31には、その内周にずれ部34及び通路口35を設けるとともに、そのナット本体31に還流路33を設ければ、所謂、デフレクタを不要にしてボールの無限循環を1条循環にて実現することができる。これによれば、ラックねじ溝21に基づく転動路Rの間も狭めてその軸方向の全長も縮めることができる。したがって、デフレクタを不要にしても大型化を抑えることができる。
【0042】
(2)ずれ部34がナット30の軸方向内側に軌道をずらすとともに、ねじ山22による所定の隙間を利用してずれ部34を設けるようにした。これにより、デフレクタを不要にするための上記隙間の拡がりを最小限に抑えることができ、デフレクタを不要にしても大型化を効果的に抑えることができる。
【0043】
(3)ナット本体31の外周に還流路33を形成する一方、ナット本体31にスリーブ50を外嵌するようにした。これにより、還流路33を通過中のボール40がボールねじ機構20外に飛び出すことがなくなり、ボールねじ機構20を正常に機能させながら大型化を効果的に抑えることができる。
【0044】
(4)大型化を抑えたボールねじ機構20を採用することができるので、ステアリング装置1についてもその大型化を抑えることができる。
(5)通路口35は、ずれ部34に対向するラックねじ溝21に隣接するねじ山22に乗り上げた後となる位置に形成されるようにした。これによれば、ボール40を還流路33に掬い上げる際、ずれ部34においてねじ山22への乗り上げ途中に通路口35を形成する場合に比べて、ボール40を掬い上げ易くすることができる。
【0045】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・還流路33の封止が可能であれば、スリーブ50を備えていなくてもよい。例えば、還流路33をナット本体31の内部に形成する場合には、スリーブ50が不要になる。
【0046】
・ずれ部34は、隣接するナット溝32の逆側、すなわち軸方向外側に軌道をずらすように形成されていてもよい。
・ずれ部34による軌道のずれは、半リード未満であってもよいし半リードよりも大きく設定することもできる。
【0047】
・通路口35は、ラック軸8の軸方向におけるずれ部34の開始から該ずれ部34に対向するラックねじ溝21に隣接するねじ山22を超えない間で、その位置を変更してもよい。
【0048】
例えば、図9及び図10に示すように、通路口35は、ずれ部34において、ボール40がねじ山22の側面を乗り上げていく途中に形成することもできる。図9に示すように、本別例のずれ部34の通路口35付近では、その軌道が隆起部36に相当する位置を通るとともに、その溝がラックねじ溝21及びねじ山22のそれぞれ一部と対向する。このため、図10に示すように、本別例の範囲Aのずれ部34において、ボール40は、軌道のずれ側のラックねじ溝21の側面に押し付けられ、その側面を徐々に乗り上げ、その途中から通路口35に到達することで、還流路33へと掬い上げられる。
【0049】
・上記実施形態では、ボール40の無限循環を1条循環で達成することができるので、ボール40の転動に各ボール40の接触を防ぐ保持機を用いることもできる。このようにボール40の転動に保持機を用いることができれば、ナット30の回転に関わるトルク変動が抑えられ、ボールねじ機構20の耐久性の向上に寄与することができる。
【0050】
・上記実施形態のボールねじ機構20は、電動パワーステアリング装置に限らず、それ以外のステアリング装置にも適用可能である。例えばステアバイワイヤ式のステアリング装置など、ボールねじ機構を備える各種ステアリング装置に適用可能である。また、ステアリング装置に限らず、適宜のボールねじ機構にも適用可能である。
【0051】
次に、上記実施形態及び別例(変形例)から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)前記通路口は、前記ずれ部に対向する前記ねじ側転動溝に隣接するねじ山に乗り上げた後となる位置に形成される。これによれば、ボールを還流路に掬い上げる際、ずれ部においてねじ山への乗り上げ途中に通路口を形成する場合に比べて、ボールを還流路に掬い上げ易くすることができる。
【符号の説明】
【0052】
1…ステアリング装置、4…操舵機構、5…アシスト機構、8…ラック軸(ねじ軸)、10…モータ、20…ボールねじ機構、21…ラックねじ溝(ねじ側転動溝)、22…ねじ山、30…ナット、31…ナット本体、32…ナット溝(ナット側転動溝)、33…還流路、34…ずれ部、35…通路口、40…ボール、50…スリーブ。
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