特許第6413329号(P6413329)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

<>
  • 特許6413329-操舵装置 図000002
  • 特許6413329-操舵装置 図000003
  • 特許6413329-操舵装置 図000004
  • 特許6413329-操舵装置 図000005
  • 特許6413329-操舵装置 図000006
  • 特許6413329-操舵装置 図000007
  • 特許6413329-操舵装置 図000008
  • 特許6413329-操舵装置 図000009
  • 特許6413329-操舵装置 図000010
  • 特許6413329-操舵装置 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6413329
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 3/12 20060101AFI20181022BHJP
【FI】
   B62D3/12 503C
   B62D3/12 503B
【請求項の数】1
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-97839(P2014-97839)
(22)【出願日】2014年5月9日
(65)【公開番号】特開2015-128981(P2015-128981A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2017年4月11日
(31)【優先権主張番号】特願2013-250447(P2013-250447)
(32)【優先日】2013年12月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大橋 達也
【審査官】 鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−023154(JP,A)
【文献】 特開2009−012663(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01777138(EP,A1)
【文献】 特開2013−159293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトの回転に伴ってハウジング内で直線運動することにより転舵輪の方向を変える転舵軸と、
前記転舵軸の端部に装着され、前記転舵軸の移動に伴って前記ハウジングに対して接離するエンド部材と、
前記ハウジングと前記エンド部材との間に設けられる弾性体と、
前記エンド部材が突き当たることで前記弾性体が前記直線運動方向に圧縮変形する場合、所定範囲を超えた前記弾性体の圧縮変形を規制する規制部と、を備え、
前記弾性体には、前記エンド部材と対向する側に前記弾性体よりも弾性率が高い、かつ、前記弾性体に比べて径方向外方に拡径されたエンド受部が取り付けられ、前記転舵軸の軸方向において、前記エンド受部が取り付けられる側と反対側にフランジ状の嵌合部が設けられ、
前記規制部は、前記ハウジングの内周から凸設された凸部を含み、
前記凸部には、前記圧縮変形が前記所定範囲の限界に達する際に前記エンド受部が当接可能な当接面と、前記ハウジングの外部に向かって凹設され、前記嵌合部が嵌合されることにより前記弾性体を固定する溝とを有し、
前記規制部は、前記転舵軸に第1の入力が加わる場合、前記エンド受部が前記当接面に当接することにより前記所定範囲を超えた前記圧縮変形を規制し、
前記所定範囲は、前記転舵軸に第1の入力に比べて短期的に生じる第2の入力が加わる場合に前記圧縮変形する範囲よりも大きく設定される操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールの操作に伴うステアリングシャフトの回転を操舵機構に伝達することにより転舵輪の向きを変える操舵装置としては、例えば、特許文献1に記載の操舵装置がある。この特許文献1の操舵装置では、操舵機構としてラックアンドピニオン機構が採用されている。当該機構は、ステアリングシャフトの回転を該ステアリングシャフトに噛み合うラック軸の直線運動に変換することにより転舵輪の向きを変える。ラック軸は、ハウジングに摺動可能に収容されている。通常、ラック軸がその移動範囲の限界に達すると、当該ラック軸の端部(ラックエンド)がハウジングに突き当たる、いわゆる「エンド当て」が生じ、ラック軸の移動範囲が物理的に規制される。
【0003】
こういったエンド当ては、運転者によるステアリングホイールの操作に伴う入力(正入力)に限らず、転舵輪の縁石への乗り上げに伴う入力(逆入力)によっても起こり得る。通常、このような逆入力は、運転者によるステアリングホイールの操作時よりも大きな入力(衝撃)を生じさせる。そこで、特許文献1では、上記逆入力のような大きな入力を吸収するために弾性体を上記ハウジングと上記ラックエンドとの間に、介在させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4696483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の操舵装置では、運転者によるステアリングホイールの操作によってエンド当てが起こる場合、上記ラックエンドが上記弾性体を介して上記ハウジングに突き当たるので、エンド当てに伴ってステアリングホイールの保持に違和感を覚える運転者もいる。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ステアリングホイールの操作によるエンド当て時に運転者が違和感を覚えることを抑制することができる操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する操舵装置は、ステアリングシャフトの回転に伴ってハウジング内で直線運動することにより転舵輪の方向を変える転舵軸と、転舵軸の端部に装着され、転舵軸の移動に伴って前記ハウジングに対して接離するエンド部材と、ハウジングとエンド部材との間に設けられる弾性体と、エンド部材が突き当たることで弾性体が直線運動方向に圧縮変形する場合、所定範囲を超えた弾性体の圧縮変形を規制する規制部と、を備えるようにしている。また、この操舵装置において、規制部は、転舵軸に第1の入力が加わる場合、上記所定範囲を超えた上記圧縮変形を規制し、上記所定範囲は、転舵軸に第1の入力に比べて短期的に生じる第2の入力が加わる場合に上記圧縮変形する範囲よりも大きく設定されるようにしている。
【0008】
この構成によれば、転舵軸に第1の入力が加わる場合、所定範囲を超えた弾性体の圧縮変形が規制されるとともに、第2の入力が加わる場合、弾性体が圧縮変形したとしても上記圧縮変形が規制されるまでには及ばないことになる。こういった第1の入力としては、例えば、運転者によるステアリングホイールの操作に伴う入力を想定する場合、第2の入力としては、例えば、転舵輪の縁石への乗り上げに伴う入力を想定することができる。すると、運転者によるステアリングホイールの操作に伴う入力のように、長期的に生じるエンド当てに対しては、規制部による規制を作用させて対処することができる。これにより、運転者によるステアリングホイールの操作に伴うエンド当て時には、弾性体の圧縮変形が所定範囲に達し、それ以上の圧縮変形が規制されるので、その状態で運転者はエンド当てを保持するように力を加え続ければステアリングホイールのぶれを抑えることができる。したがって、ステアリングホイールの操作に伴うエンド当て時に運転者が違和感を覚えることを抑制することができる。
【0009】
また、転舵輪の縁石への乗り上げに伴う入力のように、短期的に生じるエンド当てに対しては、規制部による規制を作用させないで対処することができる。これにより、転舵輪の縁石への乗り上げに伴うエンド当て時には、弾性体の圧縮変形が所定範囲に達する前に、入力を吸収することができるので、こういった入力が操舵装置に与える影響を抑えることができる。したがって、転舵輪の縁石への乗り上げに伴うエンド当て時に操舵装置が損傷を受ける等の事態の発生を抑制することができる。
【0010】
こういった操舵装置において、弾性体の所定範囲を超える圧縮変形の規制の例として、エンド部材が突き当たる場合に弾性体に対して径方向内方で該弾性体の圧縮変形を規制する方法と、エンド部材が突き当たる場合に弾性体に対して径方向外方で該弾性体の圧縮変形を規制する方法がある。このうち特に弾性体に対して径方向内方で該弾性体の圧縮変形を規制する方法では、具体的に、弾性体と規制部とを組んだ組立体を備え、ハウジングと、エンド部材との間には、組立体を軸方向に複数重ねて設けるといった方法が考えられる。
【0011】
一般に、弾性体は、ある程度の圧縮変形を伴うと徐々に圧縮し難くなって入力に対する吸収率が低く、圧縮変形させるのに要する入力が大きくなる傾向を示す。その一方で、上記ある程度の圧縮変形を伴う前では、入力に対する吸収率の確保が有利であり、圧縮変形させるのに要する入力も小さくなる傾向を示す。このため、上述したように、組立体を軸方向に複数重ねて設ける場合には、各入力に対して複数の弾性体全体での圧縮変形で受け止めることになり、それぞれの組立体における各弾性体で入力に対する吸収率の確保が有利な状況を適用し易くすることができる。したがって、組立体を単数設ける場合に比べては、耐えうる入力の範囲を拡大することができ、操舵装置の適用場面の自由度を向上することができる。
【0012】
一方、特に弾性体に対して径方向外方で該弾性体の圧縮変形を規制する方法では、エンド部材の突き当たりを受け止める面積を大きく確保し易くすることができるといった利点がある。
【0013】
また、こうした操舵装置において、弾性体には、エンド部材と対向する側に該弾性体よりも弾性率が高い、かつ、該弾性体に比べて径方向外方に拡径されたエンド受部が取り付けられ、規制部は、ハウジングの内周から凸設された凸部を含み、凸部には、圧縮変形が上記所定範囲の限界に達する際にエンド受部が当接可能な当接面が形成されることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、エンド当て時、まずエンド受部がエンド部材の突き当たりを受け止めるとともに、こういったエンド部材の入力がエンド受部を介して弾性体を圧縮変形させる。特に、ステアリングホイールの操作に伴うエンド当て時、弾性体が所定範囲まで圧縮変形すると、ハウジングの内周、すなわち凸部の当接面がエンド受部を受け止めて、該圧縮変形を規制する。その際、弾性体と当接面といったように、エンド受部をより多くの面積で受け止めることができるので、該エンド受部において限られた一部に応力が集中してしまうことがなく、その分散均一化が図られるようになる。したがって、エンド当て時にエンド部材の突き当たりを受け止めてもエンド受部の変形等の発生を抑制することができる。
【0015】
また、こうした操舵装置において、ハウジングの内部には、弾性体を嵌め込んで固定する溝が凹設されることが好ましい。
この構成によれば、弾性体をハウジングに固定することができるので、エンド当て時の弾性体の跳ね上がり等が抑えられる。これにより、規制部の設定を効果的に作用させることができるようになる。したがって、ステアリングホイールの操作に伴うエンド当て時に運転者が違和感を覚えることを効果的に抑制することができるとともに、転舵輪の縁石への乗り上げに伴うエンド当て時にエンド受部の変形等の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ステアリングホイールの操作によるエンド当て時に運転者が違和感を覚えることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】操舵装置の概略構成を示す図。
図2】第1実施形態におけるラック軸の軸端部の概略構成を示す図。
図3】軸力と圧縮代との関係を示す図。
図4】第1実施形態において、(a)はエンド当て前、(b)は正入力に基づくエンド当て時、(c)は逆入力に基づくエンド当て時のそれぞれにおけるラック軸の軸端部を示す図。
図5】第2実施形態におけるラック軸の軸端部の概略構成を示す図。
図6】第2実施形態における弾性体及びエンドプレート(組立体)の断面図。
図7】第3実施形態におけるラック軸の軸端部の概略構成を示す図。
図8】第3実施形態における弾性体及びエンドプレート(組立体)の断面図。
図9】第3実施形態において、(a)はエンド当て前、(b)は正入力に基づくエンド当て時、(c)は逆入力に基づくエンド当て時のそれぞれにおけるラック軸の軸端部を示す図。
図10】別例におけるラック軸の軸端部の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、操舵装置の第1実施形態を説明する。
図1に示すように、操舵装置1は、運転者により操作されるステアリングホイール2と、ステアリングホイール2が固定されるステアリングシャフト3とを備える。また、操舵装置1は、ステアリングシャフト3の回転に応じて軸方向に往復動(直線運動)する転舵軸としてのラック軸4と、ラック軸4が往復動可能に挿通される略円筒状のハウジングとしてのラックハウジング5とを備える。ステアリングシャフト3は、ステアリングホイール2側から順にコラム軸6、中間軸7、及びピニオン軸8を連結することにより構成される。
【0019】
ラック軸4とピニオン軸8とは、ラックハウジング5内に所定の交差角をもって配置されるとともに、ラック軸4に形成されたラック歯4aとピニオン軸8に形成されたピニオン歯8aとが噛合されることでラックアンドピニオン機構9が構成される。また、ラック軸4の両端には、ボールジョイント20を介してタイロッド10が回動自在にそれぞれ連結される。これらタイロッド10の先端には、転舵輪11がそれぞれ連結される。
【0020】
したがって、操舵装置1では、運転者のステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転がラックアンドピニオン機構9によりラック軸4の軸方向移動に変換される。このように変換された軸方向移動がその両端に連結されたボールジョイント20を介してタイロッド10に伝達され、タイロッド10が駆動する。このタイロッド10の駆動に基づいて転舵輪11の転舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0021】
また、操舵装置1は、ラック軸4と平行に配置されるモータ12を駆動源としてステアリングホイール2、ステアリングシャフト3、及びラック軸4とからなる操舵機構13にアシスト力を付与する操舵力補助装置14を備える。モータ12の回転は、該モータ12に連結される駆動プーリ15と、該駆動プーリ15と平行に配置されるとともに、ラック軸4に連結される従動プーリ16と、これらとの噛合を通じて各プーリ15,16を連結するベルト17とからなる伝達機構18を介してラック軸4に伝達される。なお、ラック軸4と従動プーリ16との間には、ボール螺子機構19が介在する。
【0022】
そして、操舵力補助装置14では、伝達機構18を介してモータ12の回転がボール螺子機構19に伝達され、ボール螺子機構19を通じてラック軸4の往復動に変換されることにより操舵機構13にアシスト力を付与する。つまり、本実施形態の操舵装置1は、いわゆる、ラックパラレル型の電動パワーステアリング装置として機能する。
【0023】
次に、ラック軸4の軸端部の構成について説明する。
図2に示すように、ラックハウジング5の内部には、ラック軸4を収容するラック収容部5aと、往復動の方向となる軸方向に開口するとともにラック軸4及びボールジョイント20を収容可能なジョイント収容部5bとが形成される。これら収容部5a,5bの間には、ラックハウジング5の内周から内部に向かって凸部5cが凸設される。この凸部5cには、該凸部5cからラックハウジング5の外部に向かって溝5dが凹設される。また、溝5dの反対側であって、ジョイント収容部5bと凸部5cとの間には、これらの内径差により当接面5eが形成される。
【0024】
そして、ラック軸4の軸端部には、ボールジョイント20が装着される(取り付けられる)装着部4bが形成される。装着部4bは、ラック軸4の軸方向に開口される。
ここで、ボールジョイント20について説明する。
【0025】
ボールジョイント20は、その先端がボール形状をなすボールスタッド21と、該ボールスタッド21の先端(ボール形状)を回動自在に収容する収容部22aを形成するソケット22とを備える。ボールスタッド21は、緩衝材23を介してソケット22に収容される。ソケット22における収容部22aの他端側には、ラック軸4の装着部4bに螺合されるねじ部22bが形成される。ねじ部22bは、収容部22aの他端側から軸方向に突出される。そして、ねじ部22bは、ラック軸4の装着部4bに螺合されることにより該ラック軸4に対してソケット22を固定するとともに、該ラック軸4に対してボールジョイント20を連結する。
【0026】
また、ソケット22におけるねじ部22bの根元には、ラック軸4の軸先端、すなわち終端が当接するエンド部22cが形成される。エンド部22cは、ねじ部22bの根元から径方向に形成される。本実施形態では、エンド部22cがラック軸4の終端に相当し、いわゆるラックエンドになる。すなわち、エンド部22cを有するボールジョイント20(ソケット22)がエンド部材に相当する。
【0027】
また、ラック収容部5aとボールジョイント20との間、すなわちジョイント収容部5bには、ラック軸4が挿通されるゴム等の樹脂材料からなる弾性体30と、該弾性体30よりも弾性率が高い鉄等の金属からなるエンドプレート40とが設けられる。
【0028】
弾性体30は、環状をなしており、軸方向に外径が一定に維持される本体部31と、フランジ状の嵌合部32とを備える。本体部31は、弾性体30が圧縮変形していない場合、該本体部31の先端部31aと当接面5eとの間が長さL1をなすようにその軸方向の長さが設定される。また、本体部31の外径は、弾性体30が圧縮変形していない場合、凸部5cの内径よりも小さく設定される。また、嵌合部32は、溝5dに嵌合されるようにその外径が設定され、該溝5dとの嵌合を通じてラックハウジング5に対して弾性体30を固定する。
【0029】
エンドプレート40は、円板状をなしており、弾性体30の先端部31aに接着剤等の固定手段により固定して取り付けられるとともに、該弾性体30と一体移動可能に取り付けられる。また、エンドプレート40の外径は、ジョイント収容部5bの内径よりも僅かに小さい一方、凸部5cよりも大きく設定される。すなわち、エンドプレート40は、その弾性体30側がラック収容部5a側に移動することにより当接面5eに当接可能に構成される。
【0030】
また、エンドプレート40におけるエンド部22cの対向側には、該エンド部22cに当接可能な受け部40aが形成されるとともに、該受け部40aの他端側には、当接面5eに当接可能な当接部40bが形成される。そして、エンドプレート40は、弾性体30が圧縮変形していない場合、弾性体30の先端部31aと当接面5eとの間の長さL1に基づき、エンドプレート40の当接部40bと当接面5eとの間が長さL1となるように配置される。
【0031】
操舵装置1では、ラック軸4が往復動する中でボールジョイント20のエンド部22cがエンドプレート40に突き当たり、その勢いで該エンドプレート40が弾性体30側に押される場合もある。その際にラック軸4が生じさせる軸力により、弾性体30が軸方向に圧縮変形する。その後、操舵装置1では、エンド部22cの勢いが弾性体30の圧縮変形により吸収されてラック軸4がその移動範囲の限界に達すると、「エンド当て」が生じる。すなわち、エンドプレート40及び弾性体30を組んだ部材は、衝撃(入力)吸収部材とも言える。
【0032】
こういったエンド当ては、運転者によるステアリング操作に伴う第1の入力(以下、「正入力」という)が加わる場合にラック軸4が軸力を発生させる状況と、転舵輪11の縁石の乗り上げ等に伴う第2の入力(以下、「逆入力」という)が加わる場合にラック軸4が軸力を発生させる状況が考えられる。
【0033】
本実施形態で想定する正入力及び逆入力は、例えば、材料試験学の見地で分類される負荷として定義する場合、負荷の周期的な変化(パルス)の持続時間tに基づき分類できる。すなわち、本実施形態で想定する正入力は、上記材料試験学の見地で、上記持続時間tに基づき振動静的負荷に分類される負荷(例えば、10^(4)<t(「^()」はべき乗を示す))を想定している。一方、本実施形態で想定する逆入力は、上記材料試験学の見地で、上記持続時間tに基づき衝撃的負荷に分類される負荷(例えば、10^(−6)<t<1(「^()」はべき乗を示す))を想定している。すなわち、本実施形態において、衝撃的負荷に分類されるように、第2の入力(衝撃)といった逆入力は、静的負荷に分類される第1の入力(衝撃)といった正入力に対して、短期的に生じるものである。
【0034】
ここで、本実施形態の弾性体30におけるラック軸4が生じさせる軸力と圧縮変形の範囲、すなわち軸方向への圧縮代について説明する。
図3に示すように、弾性体30は、正入力によりラック軸4が軸力(kN)を発生させる状況において、圧縮代(mm)に対して一点鎖線の関係を示す。また、弾性体30は、逆入力によりラック軸4が軸力(kN)を発生させる状況において、圧縮代(mm)に対して実線の関係を示す。そして、正入力及び逆入力を比較すると、逆入力に対して正入力では、同一軸力のもとで大きい圧縮代を示し、弾性体30を大きく圧縮変形させることになる。
【0035】
ここで、軸力α1は、正入力により発生するとして想定される最大の軸力である。なお、この軸力α1は、操舵力補助装置14のモータ12の出力や減速比等により導かれる。また、軸力α2は、逆入力により発生するとして想定されるうち、車両が通常の走行状態を維持できると想定される最大の軸力である。なお、この軸力α2は、本実施形態の操舵装置1で言えば、本装置で噛合を通じた各種連結部位のうち最弱部位と言える従動プーリ16及びベルト17の間の噛合を維持できない、いわゆる歯飛びが発生する最小の軸力として導かれる。
【0036】
そして、上述したように、弾性体30の先端部31aと当接面5eとの間、すなわちエンドプレート40の当接部40bと当接面5eとの間は、上記エンド当てにより弾性体30が軸方向に圧縮変形する範囲となる。このような弾性体30の圧縮変形する範囲の限界には、逆入力による軸力α2に対する圧縮代の長さL2よりも大きい、長さL1が定められる。なお、本実施形態では、圧縮代が長さL1となる際の正入力として、正入力による軸力α1の50%以下の軸力βを示す。また、この長さL1は、本実施形態で採用する弾性体30が圧縮変形しても各入力(衝撃)に対して十分な吸収率を確保可能な長さであって、弾性体30を圧縮変化させるのに異常に大きな正入力を要しない範囲で考慮される。
【0037】
詳しく言えば、弾性体30の圧縮変形する範囲は、逆入力により軸力α2が発生して弾性体30が圧縮変形したとしても、エンドプレート40の当接部40bが当接面5e、すなわちラックハウジング5に当接不可能な所定範囲として設定される。さらに、弾性体30の圧縮変形する範囲は、正入力により軸力β以上(軸力α1未満)が発生して弾性体30が圧縮変形すると、エンドプレート40の当接部40bが当接面5e、すなわちラックハウジング5に当接可能な所定範囲として設定される。
【0038】
ここで、正入力又は逆入力によるエンド当て時のラック軸4の軸端部について、弾性体30及びエンドプレート40を中心に説明する。
図4(a)に示すように、エンド当て前、エンド部22c(ソケット22)と受け部40a(エンドプレート40)とが離間しているとともに、弾性体30が圧縮変形を伴っていない。すなわち、当接部40b(エンドプレート40)と当接面5e(ラックハウジング5の凸部5c)とが離間しているとともに、これらの間が長さL1に維持される。
【0039】
続いて、図4(b)に示すように、正入力による軸力の高まりに合わせて、エンド部22cが受け部40aに突き当たって弾性体30が圧縮変形していき、該正入力による軸力がさらに高まって軸力βに達すると、弾性体30が長さL1分の圧縮変形を伴ってエンド当てが生じる。なお、こういった軸力を受けて弾性体30が径方向にも拡大するので、該弾性体30と凸部5c(ラックハウジング5)との間が縮まる。
【0040】
このエンド当て時、エンド部22cと受け部40aとが当接しているとともに、当接部40bと当接面5eとがラック軸4の往復動方向に対する径方向外方で当接している。これにより、ソケット22、すなわちラック軸4の移動が当接面5eにより規制され、その移動範囲が限界に達する。なお、正入力による軸力が軸力β以上に維持される場合、ラック軸4の移動が規制されるエンド当ての状態が維持される。本実施形態では、受け部40a又は該受け部40aを有するエンドプレート40がエンド受部として機能するとともに、当接面5e又は該当接面5eを有する凸部5c(ラックハウジング5)が規制部として機能する。
【0041】
一方、図4(c)に示すように、逆入力による軸力の高まりに合わせて、エンド部22cが受け部40aに突き当たり弾性体30が圧縮変形していき、該逆入力による軸力の大きさに応じて、弾性体30が長さL2の範囲で圧縮変形を伴ってエンド当てが生じる。なお、こういった軸力を受けて弾性体30が径方向にも拡大するので、該弾性体30と凸部5c(ラックハウジング5)との間が縮まる。
【0042】
このエンド当て時、エンド部22cと受け部40aとが当接しているとともに、当接部40bと当接面5eとが離間している。これにより、ソケット22、すなわちラック軸4の移動が弾性体30の圧縮変形により規制され、その移動範囲が限界に達する。なお、このエンド当て時には、逆入力により軸力が軸力α2に達し、弾性体30が長さL2分の圧縮変形を伴っても当接部40bと当接面5eとの間が少なくとも長さL3(L1−L2)だけ離間する。
【0043】
次に、操舵装置1の作用を説明する。
ラック軸4に正入力が加わる場合、軸方向への長さL1を超えた弾性体30の圧縮変形が規制されるとともに、逆入力が加わる場合、弾性体30が圧縮変形したとしても上記圧縮変形が規制されるまでには及ばないことになる。
【0044】
すると、図4(b)に示すように、運転者によるステアリング操作に伴う正入力のように、比較的に長期に生じるエンド当てに対しては、当接面5e(ラックハウジング5の凸部5c)による規制を作用させて対処することができる。これにより、運転者によるステアリング操作に伴うエンド当て時には、弾性体30の圧縮変形が長さL1に達し、それ以上の圧縮変形が規制されるので、その状態で運転者はエンド当てを保持するように力を加え続ければステアリングホイール2のぶれを抑えることができる。
【0045】
また、図4(c)に示すように、転舵輪11の縁石への乗り上げに伴う逆入力のように、比較的に短期に生じるエンド当てに対しては、当接面5e(ラックハウジング5の凸部5c)よる規制を作用させないで対処することができる。これにより、転舵輪11の縁石への乗り上げに伴うエンド当て時には、弾性体30の圧縮変形が長さL1に達する前に、入力を吸収することができるので、こういった入力が操舵装置1に与える影響を抑えることができる。
【0046】
また、エンド当て時、まずエンドプレート40がボールジョイント20(ソケット22)の突き当たりを受け止めるとともに、こういったボールジョイント20の入力がエンドプレート40を介して弾性体30を圧縮変形させる。特に、運転者によるステアリング操作に伴うエンド当て時、弾性体30が長さL1まで圧縮変形すると、ラックハウジング5の内周、すなわち凸部5cの当接面5eがエンドプレート40を受け止めて、該圧縮変形を規制する。その際、弾性体30と当接面5eといったように、エンドプレート40に対してはより多くの面積で受け止めることができるので、該エンドプレート40において限られた一部に応力が集中してしまうことがなく、その分散均一化が図られる。
【0047】
また、弾性体30をラックハウジング5に固定することができるので、エンド当て時の弾性体30の跳ね上がり等が抑えられる。これにより、凸部5c(当接面5e)の設定、すなわち弾性体30の圧縮変形を規制する構成を効果的に作用させることができるようになる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下に示す効果を奏することができる。
(1)運転者によるステアリング操作に伴うエンド当て時には、運転者はエンド当てを保持するように力を加え続ければステアリングホイール2のぶれを抑えることができるので、ステアリング操作に伴うエンド当て時に運転者が違和感を覚えることを抑制することができる。
【0049】
(2)転舵輪11の縁石への乗り上げに伴うエンド当て時には、こういった逆入力が弾性体30の圧縮変形を規制する構成に与える影響を抑えることができるので、転舵輪11の縁石への乗り上げに伴うエンド当て時に操舵装置1が損傷を受ける等の事態の発生を抑制することができる。
【0050】
(3)本実施形態では、弾性体30に対して径方向外方で該弾性体30の圧縮変形を規制する方法により、弾性体30の圧縮変形の規制に作用する面積を大きく確保し易いという利点がある。
【0051】
(4)運転者によるステアリング操作に伴うエンド当て時、エンドプレート40において限られた一部に応力が集中してしまうことがなく、その分散均一化が図られるようになるので、エンド当て時にエンド部材の突き当たりを受け止めてもエンドプレート40の変形等の発生を抑制することができる。
【0052】
(5)エンド当て時の弾性体30の跳ね上がり等が抑えられ、弾性体30の圧縮変形を規制する構成を効果的に作用させることができるので、運転者によるステアリング操作に伴うエンド当て時に運転者が違和感を覚えることを効果的に抑制することができる。さらに、転舵輪11の縁石への乗り上げに伴うエンド当て時に操舵装置1が損傷を受ける等の事態の発生を効果的に抑制することができる。
【0053】
(第2実施形態)
次に、操舵装置の第2実施形態を説明する。なお、本実施形態と上記第1実施形態との主たる相違点は、弾性体30及びエンドプレート40に関わる構成のみである。このため、既に説明した実施形態と同一構成及び同一制御内容などは、同一の符号を付すなどして、その重複する説明を省略する。
【0054】
図5及び図6に示すように、ラックハウジング5におけるジョイント収容部5bは、軸方向に内径が一定に維持されるように形成されるとともに、その一部にラックハウジング5の外部に向かって溝5dが凹設される。また、ラック収容部5aとジョイント収容部5bとの間には、これらの内径差により当接面5fが形成される。
【0055】
本実施形態の弾性体30であって、本体部31の外径は、ラックハウジング5のジョイント収容部5bの内径よりも僅かに小さく設定されるとともに、本体部31の内径は、ラック軸4の外径よりも大きく設定される。すなわち、本体部31の内部には、ラック軸4の外径よりも大きい、かつラックハウジング5のラック収容部5aの内径よりも小さい挿通孔33が形成される。また、本実施形態の弾性体30であって、嵌合部32のラック収容部5a側は、先端に向かって先細となるように面取りされることで、該弾性体30のラックハウジング5への取り付けを容易にしている。なお、溝5dには、ラック軸4が発生する軸力の逃げ場となる隙間が形成される。
【0056】
また、弾性体30の挿通孔33には、エンドプレート40が取り付けられる。本実施形態のエンドプレート40は、ラック軸4が挿通される円板状のプレート部41と、該プレート部41から垂直に立設された筒状の規制部42とを備える。これらプレート部41及び規制部42は、共に弾性体30よりも弾性率が高い鉄等の金属からなる。弾性体30の先端部31aには、プレート部41及び規制部42が接着剤等の固定手段により固定して取り付けられる。本実施形態において、弾性体30、プレート部41、及び規制部42を組んだ部材、すなわち組立体50は、衝撃(入力)吸収部材とも言える。
【0057】
また、プレート部41の外径は、ラックハウジング5のジョイント収容部5bの内径よりも僅かに小さく設定されるとともに、プレート部41の内径は、ラック軸4の外径よりも僅かに大きく設定される。すなわち、プレート部41のボールジョイント20側には、エンド当て時、エンド部22cに当接可能な受け部41aが形成される。
【0058】
また、規制部42の外径は、弾性体30の挿通孔33の内径と略同径に設定されるとともに、規制部42の内径は、ラックハウジング5のラック収容部5aの内径よりも大きく設定される。すなわち、規制部42のラック収容部5a側には、エンド当て時、ラックハウジング5の当接面5fに当接可能な当接部42aが形成される。
【0059】
また、本実施形態の弾性体30の本体部31は、該弾性体30が圧縮変形していない場合、規制部42(エンドプレート40)の当接部42aと当接面5fとの間が長さL1をなすようにその軸方向の長さが設定される。すなわち、エンドプレート40の規制部42は、弾性体30が圧縮変形していない場合、該エンドプレート40の当接部42aと当接面5fとの間が長さL1をなすようにその軸方向の長さが設定される。
【0060】
そして、上述したように、規制部42(エンドプレート40)の当接部42aと当接面5fとの間は、上記エンド当てにより弾性体30が軸方向に圧縮変形する範囲となる。
詳しく言えば、弾性体30の圧縮変形する範囲は、逆入力により軸力α2が発生して弾性体30が圧縮変形したとしても、規制部42の当接部42aが当接面5f、すなわちラックハウジング5に当接不可能な所定範囲として設定される。さらに、弾性体30の圧縮変形する範囲は、正入力により軸力β以上(軸力α1未満)が発生して弾性体30が圧縮変形すると、規制部42の当接部42aが当接面5f、すなわちラックハウジング5に当接可能な所定範囲として設定される。
【0061】
このため、正入力によるエンド当て時、エンド部22cと受け部41aとが当接しているとともに、当接部42aと当接面5fとがラック軸4の往復動方向に対する径方向内方で当接している。これにより、ソケット22、すなわちラック軸4の移動が当接面5fにより規制され、その移動範囲が限界に達する。本実施形態では、プレート部41の受け部41a又は該受け部41aを有するエンドプレート40がエンド受部として機能する。
【0062】
一方、逆入力によるエンド当て時、エンド部22cと受け部41aとが当接しているとともに、規制部42の当接部42aと当接面5fとが離間している。これにより、ソケット22、すなわちラック軸4の移動が弾性体30の圧縮変形により規制され、その移動範囲が限界に達する。なお、このエンド当て時には、逆入力により軸力が軸力α2に達し、弾性体30が長さL2分の圧縮変形を伴っても規制部42の当接部42aと当接面5fとの間が少なくとも長さL3(L1−L2)だけ離間する。
【0063】
以上説明したように、本実施形態によれば、上記第1実施形態の効果(1),(2),(5)を奏することができる。
(第3実施形態)
次に、操舵装置の第3実施形態を説明する。なお、本実施形態と上記各実施形態との主たる相違点は、弾性体30及びエンドプレート40に関わる構成のみである。このため、既に説明した実施形態と同一構成及び同一制御内容などは、同一の符号を付すなどして、その重複する説明を省略する。
【0064】
図7及び図8に示すように、ラック収容部5aとボールジョイント20との間には、ラック軸4が挿通されるゴム等の樹脂材料からなる複数(本実施形態では2つ)の弾性体60,70(同じ材料)と、各弾性体60,70よりも弾性率が高い鉄等の金属からなる複数(本実施形態では2つ)のエンドプレート80,90(同じ材料)が交互に設けられる。すなわち、ラック収容部5aとボールジョイント20との間には、弾性体60及びエンドプレート80を組んだ組立体100と、弾性体70及びエンドプレート90を組んだ組立体101とを軸方向に重ねて設けることで、上記金属と上記樹脂材料とが交互に配置される。このように複数の組立体100,101を軸方向に重ねて設けた部材は、上記金属と上記樹脂材料とを交互に配置した衝撃(入力)吸収部材とも言える。
【0065】
本実施形態の各弾性体60,70は、環状をなしており、軸方向に外径が一定に維持される本体部61,71をそれぞれ備える。また、各弾性体60,70のうちラック軸4寄りに配置される弾性体70は、フランジ状の嵌合部72を備える。各本体部61,71の外径は、各弾性体60,70が圧縮変形していない場合、ジョイント収容部5bの内径よりも小さく設定されるとともに、各本体部61,71の内径は、ラック軸4の外径よりも大きく設定される。すなわち、各本体部61,71の内部には、ラック軸4の外径よりも大きい、かつラック収容部5aの内径よりも小さい挿通孔63,73が形成される。
【0066】
挿通孔63には、エンドプレート80が取り付けられるとともに、挿通孔73には、エンドプレート90が取り付けられる。本実施形態の各エンドプレート80,90は、ラック軸4が挿通される円板状のプレート部81,91と、各プレート部81,91から垂直に立設された筒状の規制部82,92とを備える。これら各プレート部81,91及び各規制部82,92は、共に弾性体30よりも弾性率が高い鉄等の金属からなる。
【0067】
各プレート部81,91の外径は、ジョイント収容部5bの内径よりも僅かに小さく設定されるとともに、各プレート部81,91の内径は、ラック軸4の外径よりも僅かに大きく設定される。すなわち、各プレート部81,91のうちプレート部81のボールジョイント20側には、エンド当て時、エンド部22cに当接可能な受け部81aが形成される。なお、各プレート部81,91のうちプレート部91の弾性体60側には、該弾性体60を取り付け可能な取付部91aが形成される。
【0068】
そして、弾性体60の先端部61aには、プレート部81及び規制部82が接着剤等の固定手段により固定して取り付けられることで、組立体100として組まれる。また、弾性体70の先端部71aには、プレート部91及び規制部92が接着剤等の固定手段により固定して取り付けられることで、組立体101として組まれる。さらに弾性体60が弾性体70に取り付けられたプレート部91の取付部91aに接着剤等の固定手段により固定して取り付けられることで、複数の組立体100,101が一体に組まれる。
【0069】
また、各規制部82,92の外径は、それぞれ挿通される各弾性体60,70の各挿通孔63,73の内径と略同径に設定されるとともに、各規制部82,92の内径は、ラック収容部5aの内径よりも大きく設定される。すなわち、各規制部82,92のうち規制部92のラック収容部5a側には、エンド当て時、ラックハウジング5の当接面5fに当接可能な当接部92aが形成される。また、各規制部82,92のうち規制部82のラック収容部5a側には、エンド当て時、プレート部91の取付部91aに当接可能な当接部82aが形成される。
【0070】
また、本実施形態の弾性体60の本体部61は、弾性体60が圧縮変形していない場合、規制部82(エンドプレート80)の当接部82aと取付部91aとの間が長さLaをなすようにその軸方向の長さが設定される。また、弾性体70の本体部71は、弾性体70が圧縮変形していない場合、規制部92(エンドプレート90)の当接部92aと当接面5fとの間が長さLbをなすようにその軸方向の長さが設定される。本実施形態では、長さLa及び長さLbが同じ長さであって、長さL1の半分(1/2)に設定される。すなわち、各規制部82,92は、各弾性体60,70が圧縮変形していない場合、規制部82の当接部82a及び取付部91aの間と、規制部92の当接部92a及び当接面5fの間との合計が長さL1をなすようにその軸方向の長さが設定される。
【0071】
そして、上述したように、規制部82の当接部82a及び取付部91aの間は、上記エンド当てにより弾性体60が軸方向に圧縮変形する範囲となる。また、規制部92の当接部92a及び当接面5fの間は、上記エンド当てにより弾性体70が軸方向に圧縮変形する範囲となる。
【0072】
図3に基づき先の各実施形態で説明したように、本実施形態の各弾性体60,70は、正入力によりラック軸4が軸力(kN)を発生させる状況において、圧縮代(mm)に対して一点鎖線の関係を示す。また、本実施形態の各弾性体60,70は、逆入力によりラック軸4が軸力(kN)を発生させる状況において、圧縮代(mm)に対して実線の関係を示す。そして、各弾性体60,70を同じ材料にするとともに、各エンドプレート80,90を同じ材料にしている本実施形態では、各弾性体60,70の個々(それぞれ単体)で、ラック軸4が発生させる軸力の半分(1/2)に対応した圧縮変形を伴うことになる。
【0073】
詳しく言えば、各弾性体60,70の圧縮変形する範囲は、逆入力により軸力α2が発生して各弾性体60,70が圧縮変形したとしても、各エンドプレート80,90の当接部82a,92aが他の部材に当ることのない所定範囲として設定される。すなわち、エンドプレート80では当接部82aがエンドプレート90(取付部91a)に当接不可能であるとともに、エンドプレート90では当接部92aがラックハウジング5(当接面5f)に当接不可能な所定範囲として設定される。
【0074】
さらに、各弾性体60,70の圧縮変形する範囲は、正入力により軸力β以上(軸力α1未満)が発生して各弾性体60,70が圧縮変形すると、各エンドプレート80,90の当接部82a,92aが他の部材に当りうる所定範囲として設定される。すなわち、エンドプレート80では当接部82aがエンドプレート90(取付部91a)に当接可能であるとともに、エンドプレート90では当接部92aがラックハウジング5(当接面5f)に当接可能な所定範囲として設定される。
【0075】
ここで、本実施形態における正入力又は逆入力によるエンド当て時のラック軸4の軸端部について、各弾性体60,70及び各エンドプレート80,90を中心に説明する。
図9(a)に示すように、エンド当て前、エンド部22c(ソケット22)と受け部81a(エンドプレート80)とが離間しているとともに、各弾性体60,70が圧縮変形を伴っていない。すなわち、当接部82a(エンドプレート8)と取付部91a(エンドプレート90)とが離間しているとともに、これらの間が長さLaに維持される。また、当接部92a(エンドプレート90)と当接面5f(ラックハウジング5)とが離間しているとともに、これらの間が長さLbに維持される。このため、当接部82a及び取付部91aの間と、当接部92a及び当接面5fの間との合算が、長さL1に維持される。
【0076】
続いて、図9(b)に示すように、正入力による軸力の高まりに合わせて、エンド部22cが受け部81aに突き当たって弾性体60及び弾性体70が共に圧縮変形していく。そして、該正入力による軸力がさらに高まって軸力βに達すると、弾性体60が長さLa分の圧縮変形を伴うとともに、弾性体70が長さLb分の圧縮変形を伴って、各弾性体60,70全体で長さL1分の圧縮変形を伴ってエンド当てが生じる。なお、こういった軸力を受けて各弾性体60,70が径方向にも拡大するので、各弾性体60,70とジョイント収容部5b(ラックハウジング5)との間が縮まる。
【0077】
このエンド当て時、エンド部22cと受け部81aとが当接しているとともに、当接部82aと取付部91a、且つ当接部92aと当接面5fとがラック軸4の往復動方向に対する径方向内方で当接している。これにより、ソケット22、すなわちラック軸4の移動が当接面5fにより規制され、その移動範囲が限界に達する。本実施形態では、受け部81a又は該受け部81aを有するエンドプレート80がエンド受部として機能する。
【0078】
一方、図9(c)に示すように、逆入力による軸力の高まりに合わせて、エンド部22cが受け部81aに突き当たり各弾性体60,70が圧縮変形していく。そして、該逆入力による軸力の大きさに応じて、弾性体60が長さL2の半分(1/2)の範囲で圧縮変形を伴うとともに、弾性体70が長さL2の半分(1/2)の範囲で圧縮変形を伴ってエンド当てが生じる。なお、こういった軸力を受けて各弾性体60,70が径方向にも拡大するので、各弾性体60,70とジョイント収容部5b(ラックハウジング5)との間が縮まる。
【0079】
このエンド当て時、エンド部22cと受け部81aとが当接しているとともに、当接部82aと取付部91a、且つ当接部92aと当接面5fとが離間している。これにより、ソケット22、すなわちラック軸4の移動が各弾性体60,70の圧縮変形により規制され、その移動範囲が限界に達する。なお、このエンド当て時には、逆入力により軸力が軸力α2に達し、弾性体30が長さL2分の圧縮変形を伴っても当接部82aと取付部91aとの間が少なくとも長さLc(La−(L2)/2)、且つ当接部92aと当接面5fとの間が少なくとも長さLd(Lb−(L2)/2)だけ離間する。
【0080】
次に、本実施形態の操舵装置1の作用を説明する。
一般に、弾性体は、ある程度の圧縮変形を伴うと徐々に圧縮し難くなって入力に対する吸収率が低く、圧縮変形させるのに要する入力が大きくなる傾向を示す。その一方で、上記ある程度の圧縮変形を伴う前では、入力に対する吸収率の確保が有利であり、圧縮変形させるのに要する入力も小さくなる傾向を示す。
【0081】
そして、本実施形態のように、複数の組立体100,101を軸方向に重ねる場合には、ラック軸4が発生させる軸力に対して各弾性体60,70全体での圧縮変形で受け止めることになり、各弾性体60,70で入力に対する吸収率の確保が有利な状況を適用し易くすることができる。具体的に、本実施形態で言えば、各弾性体60,70全体で長さL1分の圧縮変形を伴う際、各弾性体60,70のそれぞれでは長さL1の半分ずつの圧縮変形しか伴っておらず、組立体を単数設ける場合に比べて弾性体の縮み始めを用いている。
【0082】
以上説明したように、本実施形態によれば、上記第1実施形態の効果(1),(2),(5)相当の効果に加え、以下に示す効果を奏することができる。
(6)複数の組立体100,101を軸方向に重ねて設けることで、組立体を単数設ける場合に比べては、耐えうる入力の範囲を拡大することができる。具体的には、各弾性体60,70に先の各実施形態で想定した長さL1分の圧縮変形を伴わせるには、そもそも想定していた軸力α1や軸力α2のそれぞれ2倍が必要であり、先の各実施形態に対して軸力α1や軸力α2のそれぞれ2倍の軸力にまで対処しうる操舵装置1の実現が可能になる。したがって、操舵装置1の適用場面の自由度を向上することができる。
【0083】
(7)運転者によるステアリング操作に伴うエンド当て時には、複数の組立体100,101を軸方向に重ねて設けることで、各弾性体60,70の特に縮め始めを用いることができる。これにより、圧縮変形させるのに要する入力も小さくなる傾向を示す範囲を適用し易くすることができるようになる。したがって、運転者がエンド当てを保持する際に要する力も小さくなる傾向を示す範囲を適用し易くすることができ、運転者を問わずエンド当ての保持を容易になしうる操舵装置1の実現に寄与する。
【0084】
なお、上記各実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・弾性体がラックハウジング5に対して固定されていれば、溝5dを形成しなくてもよい。この場合には、例えば、弾性体30を接着剤等でラックハウジング5に対して固定してもよい。また、ラックハウジング5に嵌合部に相当する部位、弾性体に溝5dに相当する部位をそれぞれ形成することで、弾性体をラックハウジング5に固定してもよい。
【0085】
・ラックハウジング5に対して非連続的に複数の溝5dを設けてもよく、例えば、凸部5cの周方向に等間隔を隔てて複数(例えば、4つ)の溝5dを設けてもよい。
・弾性体30又は各弾性体60,70全体が圧縮変形する範囲の限界とする長さL1は、逆入力による軸力α2に対する圧縮代の長さL2よりも大きい範囲で変更してもよい。
【0086】
・操舵機構の変換機構及び操舵力補助装置の組み合わせでは、それぞれにおける各種連結部位のうち最弱部位における歯飛び等の異常が発生する最小の軸力を軸力α2として、弾性体30又は各弾性体60,70全体が圧縮変形する範囲の限界とする長さL1を設定すればよい。
【0087】
・第1実施形態では、ラックハウジング5に対して非連続的に複数の凸部5cを設けてもよく、例えば、ジョイント収容部5bの周方向に等間隔を隔てて複数(例えば、4つ)の凸部5cを設けてもよい。
【0088】
・第1実施形態では、ラックハウジング5が規制部の機能を有さなくてもよく、例えば、凸部5cを形成しなくてもよい。この場合には、第2実施形態で例示した規制部同様の部位を、エンドプレート40の周縁から弾性体30側に向かって立設すればよい。本別例では、第2実施形態同様、ラック収容部5aとジョイント収容部5bとの内径差により形成される壁面が当接面として機能する。
【0089】
・第2及び第3実施形態では、プレート部に対して非連続的に複数の弾性体を設けてもよく、例えば、該プレート部41の周方向に等間隔を隔てて複数(例えば、4つ)の弾性体30を環状に設けてもよい。
【0090】
・第2及び第3実施形態態では、プレート部を省略してもよい。また、プレート部と規制部とは一体の部材であってもよい。
・第3実施形態では、組立体を追加して、3つ以上の組立体を軸方向に重ねるようにしてもよい。
【0091】
・第3実施形態では、図10に示すように、各組立体100,101における各弾性体60,70の軸方向の長さを異ならせることもできる。この場合には、ボールジョイント20寄りの弾性体60の軸方向の長さを弾性体70よりも長く設定することが好ましい。
【0092】
・第3実施形態では、各弾性体60,70の材料を異ならせることもでき、例えば、ボールジョイント20寄りの弾性体60を弾性体70よりも弾性率が高い材料としてもよい。この場合には、各弾性体60,70の軸方向の長さを同じ長さに設定しているが、図10に示した構成と等価な構成として実現することができる。
【0093】
・弾性体は、コイルスプリングなどの粘性を有さない弾性部材などで構成してもよい。
・操舵装置1は、他の形式の電動パワーステアリング装置であってもよく、例えば、油圧式のパワーステアリング装置であってもよいし、パワーステアリング機構を備えない単なるステアリング装置であってもよい。
【0094】
・弾性体は、ソケット22のエンド部22c(ボールジョイント20)に固定されてもよい。また、弾性体を固定しないで、ラック軸4に沿った摺動を可能にしてもよい。
・ソケット22をラック軸4に一体に設けることで、ラック軸4の軸端部をエンド部材とすることもできる。また、ソケット22とラック軸4との間に、スペーサ等を設けることで、エンド部材とすることもできる。
【0095】
・各実施形態では、正入力及び逆入力といった種類に関係なく、エンド当て時に弾性体の圧縮変形を規制するための規制部の構成を有していれば、少なくとも上記効果(1)を奏することができる。
【0096】
すなわち、「ステアリングシャフトの回転に伴ってハウジング内で直線運動することにより転舵輪の方向を変える転舵軸と、前記転舵軸の端部に装着され、前記転舵軸の移動に伴って前記ハウジングに対して接離するエンド部材と、前記ハウジングと前記エンド部材との間に設けられる弾性体と、前記エンド部材が突き当たることで前記弾性体が前記直線運動方向に圧縮変形する場合、所定範囲を超えた前記弾性体の圧縮変形を規制する規制部と、を備えることを特徴とする操舵装置。」といった技術思想にて実現することができる。この構成によれば、エンド部材が突き当たることで弾性体が直線運動方向に圧縮変形する場合、所定範囲を超えた弾性体の圧縮変形が規制される。こういったエンド部材の突き当たりとして、例えば、運転者によるステアリングホイールの操作に伴う突き当たりを想定することができる。すると、運転者によるステアリングホイールの操作に伴うエンド当てに対しては、規制部による規制を作用させて対処することができる。これにより、運転者によるステアリングホイールの操作に伴うエンド当て時には、弾性体の圧縮変形が所定範囲に達し、それ以上の圧縮変形が規制されるので、その状態で運転者はエンド当てを保持するように力を加え続ければステアリングホイールのぶれを抑えることができる。したがって、ステアリングホイールの操作に伴うエンド当て時に運転者が違和感を覚えることを抑制することができる。
【符号の説明】
【0097】
1…操舵装置、3…ステアリングシャフト、4…ラック軸(転舵軸)、5…ラックハウジング(ハウジング、規制部)、5c…凸部(規制部)、5d…溝、5e…当接面、5f…当接面、20…ボールジョイント(エンド部材)、22…ソケット(エンド部材)、22c…エンド部、30…弾性体、31…本体部、32…嵌合部、40…エンドプレート(エンド受部)、40a…受け部、41…プレート部、41a…受け部、42…規制部、50…組立体、60…弾性体、61…本体部、70…弾性体、71…弾性体、72…嵌合部、80…エンドプレート(エンド受部)、81…プレート部、81a…受け部、82…規制部、90…エンドプレート、91…プレート部、91a…取付部、92…規制部、100…組立体、101…組立体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10