(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1〜
図5を参照して、多層構造体、包装材、および、包装袋の一実施形態について説明する。なお、
図1〜
図5では、説明の便宜上、各部の大きさや形状を誇張して示している。
【0019】
[多層構造体および包装材の構成]
図1に示されるように、多層構造体10は、基材層11と、バリア層12と、熱接着性樹脂層13とを備えている。
【0020】
基材層11と、バリア層12と、熱接着性樹脂層13とは、この順に並び、熱接着性樹脂層13の有する第1面は、多層構造体10の最表面を構成し、熱接着性樹脂層13において第1面とは反対側の面である第2面の一部は、バリア層12と密着している。バリア層12は、基材層11と熱接着性樹脂層13とに挟まれている。すなわち、本実施形態における多層構造体10では、バリア層12が、熱接着性樹脂層13と隣接する隣接層である。
【0021】
基材層11は、多層構造体10の支持体として機能する層である。基材層11の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、あるいは、紙等が用いられる。基材層11は、上記材料のうちの1つの材料からなる単層であってもよいし、こうした単層の積層によって上記材料のうちの複数の材料が組み合わされた層であってもよい。
【0022】
バリア層12は、気体や液体のバリア性を高める機能を有する層である。バリア層12の材料としては、例えば、アルミニウム等の金属が用いられる。バリア層12は、例えば、基材層11に金属が蒸着されたり、基材層11に金属箔がラミネート加工によって積層されたりすることによって形成される。
【0023】
熱接着性樹脂層13は、熱接着性樹脂層13同士が溶着されることによって包装袋の製袋に寄与する層である。熱接着性樹脂層13の材料は、適度な柔軟性を有するとともに、例えば押出機による加工適性を有する等、良好な加工性を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。こうした材料としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン、エチレン−メチルアクリレート共重合(EMA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−ブチルアクリレート共重合体(EBA)、あるいは、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)等が挙げられる。これらの材料は単独で用いられてもよいし、これらのうちの複数の材料が組み合わされて用いられてもよい。熱接着性樹脂層13は、接着剤によってバリア層12に接着されたり、ラミネート加工によってバリア層12に積層されたりすることによって、バリア層12に積層される。
【0024】
熱接着性樹脂層13は、第1面において突出する複数の凸部14と、相互に隣り合う凸部14の間の部分である凹部15とを有している。複数の凸部14の各々は、多層構造体10を構成する各層の並ぶ方向に沿って突出し、熱接着性樹脂層13の第1面において点在している。これら複数の凸部14と、凹部15とによって、熱接着性樹脂層13における第1面は凹凸構造を有している。
【0025】
熱接着性樹脂層13の第2面において、凸部14とは反対側に位置する部位は、熱接着性樹脂層13と対向するバリア層12から離れている。一方、熱接着性樹脂層13における第2面において、凹部15とは反対側に位置する部位は、熱接着性樹脂層13と対向するバリア層12に密着している。そして、熱接着性樹脂層13とバリア層12との間には、熱接着性樹脂層13の第2面において凸部14とは反対側に位置する部位と、バリア層12とによって囲まれる空隙Sが形成されている。
【0026】
多層構造体10の第2面にて凹部15とは反対側に位置する部分では、熱接着性樹脂層13とバリア層12とが密着し、バリア層12と基材層11とが密着している。したがって、多層構造体10が引裂かれるとき、熱接着性樹脂層13とバリア層12と基材層11とは、これらの層の中で相対的に引裂き性の高い層に他の層が追従して引裂かれる。それゆえ、多層構造体10にて最表面に凹部15の位置する部分は、熱接着性樹脂層13とバリア層12とが離れている部分、すなわち、多層構造体10にて最表面に凸部14の位置する部分と比較して、引裂き易い。
【0027】
熱接着性樹脂層13とバリア層12とが密着しているか否かの違いによって、最表面に凸部14の位置する部分の引裂き易さと、最表面に凹部15の位置する部分の引裂き易さには十分に差が生じる。そのため、多層構造体10が引裂かれていくときに、引裂きの進行していく部分の先端が凸部14の位置する部分に達した場合には、上記先端は、凸部14の位置する部分から、その周囲の凹部15の位置する部分にずれて、引裂きが進行する。その結果、多層構造体10は、最表面に凹部15の位置する部分を通るように引裂かれる。
【0028】
こうした構成によれば、多層構造体10の引裂かれる位置が制限されるため、こうした制限のない場合と比較して、引裂きの進行する方向が多方向にばらつくことが抑えられる。また、最表面に凹部15の位置する部分、すなわち、引裂きに必要な力の大きさの相対的に小さい部分が、選択的に引裂かれるため、引裂きに必要な力の大きさが増大することが抑えられる。したがって、多層構造体10の引裂き性が高められる。
【0029】
多層構造体10における各層の並ぶ方向において、最表面に凸部14の位置する部分の熱接着性樹脂層13の厚みd1は、最表面に凹部15の位置する部分の熱接着性樹脂層13の厚みd2よりも大きいことが好ましく、上記厚みd2は、上記厚みd1の60%以下であることがより好ましい。
【0030】
引裂き性の向上のためには、熱接着性樹脂層13の厚みは小さいことが好ましい一方で、包装袋における溶着された部分であるヒートシール部のヒートシール強度を高めるためには、溶着される樹脂量が十分に確保できる程度に、熱接着性樹脂層13の厚みは大きいことが好ましい。そこで、引裂かれる部分である凹部15の位置する部分にて、熱接着性樹脂層13の厚みd2が相対的に小さくされ、引裂かれない部分である凸部14の位置する部分にて、熱接着性樹脂層13の厚みd1が相対的に大きくされることによって、引裂き性を高めつつ、ヒートシール強度も高めることができる。
【0031】
また、ヒートシール強度の向上と樹脂量に応じて上昇する材料コストの低減との均衡を図る観点では、凸部14の位置する部分の熱接着性樹脂層13の厚みd1は、10μm以上50μm以下であることが好ましく、凹部15の位置する部分の熱接着性樹脂層13の厚みd2は、5μm以上30μm以下であることが好ましい。
【0032】
なお、空隙Sは、少なくとも熱接着性樹脂層13とバリア層12とが接しない程度の大きさを有していれば、凸部14の位置する部分と凹部15の位置する部分とにおける引裂き易さの差異を確保することは可能である。したがって、多層構造体10の積層方向における空隙Sの厚みdsは、最表面に凸部14の位置する部分の熱接着性樹脂層13の厚みd1よりも小さいことが好ましい。
【0033】
図2に示されるように、熱接着性樹脂層13の第1面と対向する方向から見て、凸部14は、例えば、略矩形形状を有し、X方向と、X方向と直交するY方向とに沿って並んでいる。このとき、凹部15は、X方向に沿って延びる直線とY方向に沿って延びる直線とが直角に交差する格子形状を有する。
【0034】
X方向において、凸部14の有する長さW1と、その凸部14と当該凸部14に最も近い他の凸部14との間の凹部15の有する長さL1との合計の長さは、X方向のピッチP1である。凸部14ごとの長さW1が一定であって、凸部14ごとのピッチP1が一定であるとき、ピッチP1は、X方向に沿って繰り返されるパターンの1周期分の長さである。
【0035】
Y方向において、凸部14の有する長さW2と、その凸部14と当該凸部14に最も近い他の凸部14との間の凹部15の有する長さL2との合計の長さは、Y方向のピッチP2である。凸部14ごとの長さW2が一定であって、凸部14ごとのピッチP2が一定であるとき、ピッチP2は、Y方向に沿って繰り返されるパターンの1周期分の長さである。
【0036】
X方向のピッチP1は、100μm以上1000μm以下であることが好ましく、Y方向のピッチP2も、100μm以上1000μm以下であることが好ましい。X方向のピッチP1とY方向のピッチP2とは、互いに等しくてもよいし、互いに異なっていてもよい。また、ピッチP1とピッチP2とが互いに等しいか否かに関わらず、X方向における凸部14の長さW1とY方向における凸部14の長さW2とは、互いに等しくてもよいし、互いに異なっていてもよく、さらに、X方向における凹部15の長さL1とY方向における凹部15の長さL2とは、互いに等しくても、互いに異なっていてもよい。
【0037】
ピッチP1,P2が100μm以上であると、ピッチP1,P2が、多層構造体10にて引裂かれる領域である線状の部分の占める幅よりも十分に大きくなるため、上記線状の部分が、凸部14の位置する部分と凹部15の位置する部分との両方に重なることが抑えられる。その結果、凸部14の位置する部分、すなわち引裂きに相対的に大きな力を要する部分が引裂かれることが抑えられるため、引裂きに必要な力の大きさが増大することが抑えられる。したがって、多層構造体10の引裂き性が向上する。
【0038】
また、ピッチP1,P2が1000μm以下であると、多層構造体10が任意の位置から引裂かれる場合であっても、引裂きのための力が加えられた箇所の直近に凹部15が位置するため、凹部15の位置する部分が引裂きの起点となり易い。したがって、引裂きの起点を予め指定せずとも、多層構造体10の任意の位置において、引裂き性が高められる。
【0039】
熱接着性樹脂層13の第1面と対向する平面視において、凹部15の有する面積は、凸部14の有する面積と凹部15の有する面積との合計の面積の20%以上60%以下であることが好ましい。凹部15の面積が、上記合計の面積の20%以上であると、凸部14に対する凹部15の面積の大きさが十分に確保されるため、多層構造体10の引裂かれる領域が、凸部14の位置する部分に重なることが抑えられる。その結果、多層構造体10の引裂き性が向上する。また、凹部15の面積が、上記合計の面積の60%以下であると、多層構造体10の引裂かれる位置の制限される度合いが十分に大きくなるため、引裂かれた部分の直進性が高められる結果、多層構造体10の引裂き性が向上する。
【0040】
なお、X方向において、凸部14の有する長さW1は、凸部14ごとに異なってもよいし、凹部15の有する長さL1は、相互に隣接する凸部14の間ごとに異なってもよい。また、X方向のピッチP1は、凸部14ごとに異なってもよい。同様に、Y方向において、凸部14の有する長さW2は、凸部14ごとに異なってもよいし、凹部15の有する長さL2は、相互に隣接する凸部14の間ごとに異なってもよい。また、Y方向のピッチP2は、凸部14ごとに異なってもよい。
【0041】
また、熱接着性樹脂層13の第1面と対向する平面視において、凹部15の有する形状は、格子形状でなくてもよい。例えば、
図3に示されるように、Y方向について、複数の凸部14は直線状に並んでいなくてもよい。同様に、X方向について、複数の凸部14は直線状に並んでいなくてもよい。さらには、複数の凸部14は、X方向およびY方向に関わりなく、不規則に配置されていてもよい。
【0042】
また、熱接着性樹脂層13の第1面と対向する平面視において、凸部14の有する形状は、矩形形状に限らず、矩形形状とは異なる多角形状や、円形状であってもよく、直線もしくは曲線あるいは直線および曲線で囲まれた形状であればよい。また、複数の凸部14が互いに異なる形状を有していてもよい。
【0043】
要は、多層構造体10にて、最表面に凸部14の位置する部分と凹部15の位置する部分とが、熱接着性樹脂層13とバリア層12とが密着しているか否かの違いを有する構成であれば、多層構造体10の引裂かれる位置が制限されるため、こうした制限が全くない場合と比較して、引裂き性が高められる。なお、凸部14が不規則に配置される場合であっても、引裂き性を高める効果を適切に得るためには、ピッチP1,P2に相当する長さは、100μm以上1000μm以下であることが好ましい。すなわち、任意の1つの凸部14を第1の凸部14とし、第1の凸部14に最も近い凸部14を第2の凸部14とするとき、第1の凸部14と第2の凸部14との並ぶ方向において、第1の凸部14の有する長さと、第1の凸部14と第2の凸部14との間の凹部15の有する長さとの合計の長さは、100μm以上1000μm以下であることが好ましい。こうした構成によれば、多層構造体10の引裂かれる位置が適切に制限されるため、多層構造体10の引裂き性が好適に高められる。
【0044】
ただし、凸部14と凹部15とによって構成されるパターンの設計や凹凸構造の形成に用いられる型の製造を容易にする観点では、点在する凸部14は規則的に配置され、上記パターンが周期性を有することが好ましい。特に、先の
図2に示されるように、同一の矩形形状を有する複数の凸部14がX方向とY方向とに沿って並び、凹部15は格子形状を有し、ピッチP1とピッチP2とが等しいことが好ましい。
【0045】
凸部14と凹部15によって構成される凹凸構造は、例えば、熱接着性樹脂層13が押出し成形によって形成される場合には、凹凸構造の凹凸を反転させた形状を有するエンボスロールを用いて成形を行うことによって形成される。なお、凹凸構造は、押出し成形に限らず、公知の方法によって形成されればよい。
【0046】
なお、多層構造体10は、基材層11、バリア層12、および、熱接着性樹脂層13に加えて、他の層を備えていてもよい。要は、凸部14とは反対側となる部位にて、熱接着性樹脂層13は、熱接着性樹脂層13と隣接する層から離れており、凹部15とは反対側となる部位にて、熱接着性樹脂層13は、熱接着性樹脂層13と隣接する層に密着していれば、多層構造体10の引裂き性を高める効果は得られる。
【0047】
また、基材層11、バリア層12、および、熱接着性樹脂層13の各々は、上述の材料に加えて、各種の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、成形時の加工適性や、使用時の適性の向上のために、フィルムやシートの添加剤として一般的に用いられる添加剤を用いることができる。例えば、上記層の材料に、加工安定性を付与するために、フィラー等のブロッキング防止剤や、滑性を向上させるための滑剤などの添加剤が添加されてもよい。
【0048】
包装材は、包装材の少なくとも一部に上述の多層構造体10を有するシートである。包装材は、少なくとも、包装材から包装袋が形成されたときに引裂かれる予定の部位に多層構造体10を有する。例えば、包装材は、包装袋の開封位置に使用される部位に、多層構造体10を有する。また、上述の多層構造体10に他の層が積層されて、包装材が形成されてもよい。
【0049】
[包装袋の構成]
図4および
図5を参照して、上述の多層構造体10を有する包装材を用いて形成される包装袋について説明する。なお、以下では、包装材の全部が多層構造体10のみからなる例について説明する。
【0050】
図4に示されるように、包装袋20は、密封された袋状に形成されている。包装袋20の内部には内容物が収容されている。内容物は特に制限されず、内容物は液状であってもよいし、固形状であってもよいし、粉末状やペースト状であってもよい。包装袋20の大きさや形状は特に制限されず、内容物に応じて決定されればよい。
【0051】
包装袋20において、熱接着性樹脂層13は包装袋20の内部に面し、基材層11は包装袋20の外部に面している。包装袋20は、包装袋20の縁部にヒートシール部21を有している。ヒートシール部21は、互いに向かい合う熱接着性樹脂層13同士が溶着されることによって形成される。例えば、互いに向かい合う熱接着性樹脂層13は、加熱押圧されることにより溶融して、密着し、ヒートシール部21が形成される。ヒートシール部21が形成されることによって、包装袋20が密封される。
【0052】
なお、ヒートシール部21の位置は、包装袋20の形状や包装材から包装袋20への製袋の態様等に応じて決定されればよく、包装袋20は、包装袋の20の縁部の少なくとも一部にヒートシール部21を有していればよい。
【0053】
図5を参照して、凸部14と凹部15とから構成されるパターンの配置態様について説明する。なお、
図5は、ヒートシール部21の付近にて向かい合う2つの熱接着性樹脂層13の一方について、熱接着性樹脂層13の第1面と対向する平面視における凸部14および凹部15の配置を示している。ヒートシール部21では、凸部14および凹部15は、これらと向かい合う他方の熱接着性樹脂層13の凸部14および凹部15と接合している。また、以下では、凸部14と凹部15によって、先の
図2に示されるパターンが形成されている例について説明する。
【0054】
図5に示されるように、ヒートシール部21の内周縁、すなわち、熱接着性樹脂層13において、溶着されてヒートシール部21を構成する部分と、溶着されずに包装袋20の内側面を構成する部分との境界を、境界Mとする。凸部14と凹部15とからなるパターンは、パターンにおけるX方向とY方向とが境界Mの延びる方向と異なる方向になるように、配置されている。
【0055】
このとき、凹部15が有する格子形状は、境界Mの延びる方向に対して傾き、凹部15の延びる方向、すなわち、格子形状を構成する直線の延びる方向は、いずれも、境界Mの延びる方向とは異なる。
【0056】
こうした構成において、二点鎖線Fで示す位置にて、包装袋20の外周縁、すなわち、ヒートシール部21の外周縁に対して、紙面に垂直な方向にせん断力が加えられたとき、多層構造体10は、例えば、折れ線Xで示すように、複数の凸部14の間を縫って、凹部15の位置する部分を通るように引裂かれる。なお、折れ線Xの位置は一例であって、包装袋20を引き裂こうとする力の加わる向き等によって変わる。
【0057】
ここで、通常、ヒートシール部21の内周縁と外周縁とは、平行に配置される。そのため、包装袋20の内部と外部とを結ぶ最短経路は、境界Mからヒートシール部21の外周縁に向かって、境界Mの延びる方向と直交する方向に延びる直線状の経路である。上記構成では、凸部14と凹部15とからなるパターンのX方向とY方向とが境界Mの延びる方向と異なる方向であるため、凸部14が最も密に並ぶ方向は、上記最短経路の延びる方向とは一致しない。また、凹部15の延びる方向も、上記最短経路の延びる方向とは一致しない。
【0058】
例えば、流体などの内容物が含まれる状態で包装袋20が落下するとき、包装袋20が内容物から受ける力は、ヒートシール部21に対して熱接着性樹脂層13同士を引き剥がす方向に作用する。この際に、ヒートシール部21の中において凹部15を含む部位の接合の強度は、ヒートシール部21の中における他の部位と比べて低い傾向を有する。この点で、上述したように、凹部15の延びる方向が最短経路の延びる方向と一致しない構成であれば、凹部15の延びる方向と最短経路の延びる方向とが一致する構成と比べて、熱接着性樹脂層13同士を引き剥がそうとする外力に対して耐性が高められ、包装袋20の密封状態が崩れることが抑えられる。
【0059】
また、包装袋20に落下等の衝撃が加えられることに起因して、隣接する凸部14間の構造が崩れて凸部14の並列構造に欠陥が生じたり、ヒートシール部21の内周縁側から凹部15に亀裂等の欠陥が生じたりしても、こうした欠陥が上記最短経路に沿って進行することが抑えられる。したがって、凸部14が最も密に並ぶ方向や凹部15の延びる方向が上記最短経路の延びる方向と一致する場合のように、欠陥が上記最短経路に沿って進みやすい場合と比較して、欠陥に起因して包装袋20の内部と外部とが連通して包装袋20の密封状態が崩れることが抑えられる。
【0060】
なお、包装袋20は、多層構造体10を一部に有する包装材から形成されてもよく、この場合、包装袋20のうち、少なくとも、包装袋20の開封の際に引裂かれる予定の部位である開封予定部位に、包装材の多層構造体10を有する部分が配置されればよい。こうした構成によれば、少なくとも開封予定部位にて包装袋20の引裂き性が高められる結果、包装袋20の開封性が高められる。
【0061】
また、包装袋20は、縁部に切り込みやV字型の切り欠きであるノッチを有していてもよい。ノッチを起点として包装袋20が引裂かれることによって、開封の開始時において引裂きに要する力が小さくなるため、包装袋20がより開封し易くなる。そして、本実施形態の多層構造体10を有する包装袋20では、上述の凸部14と凹部15とを有する構造によって、開封の開始時だけでなく、開封の進行中においても、引裂きに要する力が低減されるとともに、引裂きの進行の直進性が高められるため、包装袋20の開封性が効果的に高められる。したがって、包装袋の開封に時間がかかったり、開封のために力を加えすぎて包装袋が急激に開封され、内容物がこぼれたり、包装袋が意図しない方向に開封されて内容物が取り出しにくかったりすることが抑えられる。
【0062】
以上説明したように、本実施形態の多層構造体、包装材、および、包装袋によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)多層構造体10にて、熱接着性樹脂層13は、第1面に、複数の凸部14と、これら複数の凸部14の間の部分である凹部15とを有し、第1面に凸部14の位置する部分にて、熱接着性樹脂層13の第2面はバリア層12から離れており、第1面に凹部15の位置する部分にて、熱接着性樹脂層13の第2面はバリア層12に密着している。こうした構成によれば、多層構造体10にて、最表面に凹部15の位置する部分は、最表面に凸部14の位置する部分と比較して引裂き易いため、多層構造体10は、最表面に凹部15の位置する部分を通るように引裂かれる。その結果、多層構造体10の引裂かれる位置が制限され、また、引裂きに必要な力の大きさの相対的に小さい部分が、選択的に引裂かれるため、多層構造体10の引裂き性が高められる。これにより、多層構造体10を有する包装材、および、包装材から形成される包装袋20においても、引裂き性が高められる。
【0063】
また、凸部14と凹部15の配置を調整することによって、多層構造体10の引裂かれる位置や方向を調整することもできる。この場合、引裂かれる位置としたい部分に凹部15が配置され、その周囲に凸部14が配置されるようにすればよい。
【0064】
また、熱接着性樹脂層13の第1面に凹凸構造が形成されているため、包装袋20が形成されるとき等の包装材の滑性が高められる。その結果、包装袋20の生産性の向上を図ることもできる。
【0065】
(2)凸部14と凹部15とのピッチP1,P2が100μm以上であると、多層構造体10にて引裂かれる領域が、凸部14の位置する部分と凹部15の位置する部分との両方に重なることが抑えられる。したがって、引裂きに必要な力の大きさが増大することが抑えられる。また、ピッチP1,P2が1000μm以下であると、多層構造体10が任意の位置から引裂かれる場合にも、良好な引裂き性が得られる。このように、多層構造体10の引裂かれる位置が適切に制限されるため、多層構造体10の引裂き性が好適に高められる。
【0066】
(3)凹部15の面積が、凸部14の面積と凹部15の面積との合計の面積の20%以上であると、多層構造体10にて引裂かれる領域が、凸部14の位置する部分に重なることが抑えられる。また、凹部15の面積が、上記合計の面積の60%以下であると、多層構造体10の引裂かれる位置の制限される度合いが十分に大きくなって、多層構造体10にて引裂かれた部分の直進性が高められる。結果として、上記構成によって、多層構造体10の引裂き性が高められる。
【0067】
(4)引裂かれ難い部分である凸部14の位置する部分にて、熱接着性樹脂層13の厚みd1が相対的に大きくされ、引裂かれ易い部分である凹部15の位置する部分にて、熱接着性樹脂層13の厚みd2が相対的に小さくされることによって、引裂き性を高めつつ、熱接着性樹脂層13同士が溶着された際のヒートシール強度を高めることができる。
【0068】
(5)多層構造体10を有する包装材では、少なくとも多層構造体10を有する部分にて、包装材の引裂き性が高められる。そして、こうした包装材から形成された包装袋20は、少なくとも包装袋20の開封予定部位に多層構造体10を有し、少なくとも開封予定部位にて、包装袋20の引裂き性が高められる。その結果、包装袋の開封性が高められる。
【実施例】
【0069】
上述した多層構造体、包装材、および、包装袋について、具体的な実施例および比較例を用いて説明する。
[凹凸構造の有無、熱接着性樹脂層の厚みについての試験]
(実施例1)
基材層11として12μm厚のPETを用い、バリア層12として7μm厚のアルミニウム箔を用い、15μm厚のポリエチレンを基材層11とバリア層12との間に挟むサンドラミネートによって、基材層11にバリア層12を積層した。さらに、押出ラミネートによって、バリア層12の上に、熱接着性樹脂層13としてEMAAを積層した。このとき、表面に凹凸を有するエンボスロールを用いて、熱接着性樹脂層13の第1面である上面に、先の
図2に示されるように、凸部14がX方向とY方向とに規則的に並び、凹部15が格子形状を有するパターンを形成した。これにより、実施例1の多層構造体10を得た。
【0070】
実施例1の多層構造体10の断面構造を観察することにより、凸部14に空隙Sが形成されていることを確認した。空隙Sの有無は、多層構造体10を切断した後、その断面を、光学顕微鏡(キーエンス社製マイクロスコープ(型番:VHX−1000))にて確認する方法、および、レーザー顕微鏡(キーエンス社製レーザー顕微鏡(型番:VK−X200))にて確認する方法の2つの方法で確認した。これら2つの方法のいずれによっても、空隙Sが確認された。なお、以下の全ての実施例および比較例について、上述の2つの方法によって空隙Sの有無の確認を行ったが、2つの方法による結果に大きな差異はなかった。
【0071】
凸部14の並ぶ方向のうち、1つの方向をX方向、X方向に直交する方向をY方向として、ピッチP1,P2、凹部15の長さL1,L2、および、熱接着性樹脂層13の厚みd1、d2を、上述のレーザー顕微鏡を用いて測定した。その結果、P1=P2=300μm、L1=L2=60μm、d1=d2=15μmであった。凸部14と凹部15との面積の合計に対する凹部15の面積の割合である凹部面積率は、ピッチP1,P2、および、凹部15の長さL1,L2を用いて算出し、実施例1では、約36%であった。
【0072】
(実施例2)
実施例1の製造方法において、押出ラミネートにて使用するエンボスロールの表面形状および樹脂量を変更し、凸部14における熱接着性樹脂層13の厚みd1=25μm、凹部15における熱接着性樹脂層13の厚みd2=15μm、である以外は、実施例1と同様の構成を有する実施例2の多層構造体10を得た。
【0073】
(比較例1)
実施例1の製造方法において、押出ラミネートにて表面に凹凸を有さないロールを用い、熱接着性樹脂層13が15μm厚の平坦な層である以外は実施例1と同様の構成を有する比較例1の多層構造体10を得た。
【0074】
<評価方法>
実施例1,2、および、比較例1の多層構造体10について、引裂き性とヒートシール強度を評価した。引裂き性の評価としては、引裂き強度の測定と、引裂き直進性の評価とを行った。
【0075】
(引裂き強度)
JISK7128−1に準拠したトラウザー引裂法に従って、引裂き強度を、島津製作所製引張試験機(型番AGS−500NX)を用いて、引張り速度200mm/minで測定した。
【0076】
(引裂き直進性)
引裂き強度の測定時に引裂かれた多層構造体10について、引裂かれた部分と、引裂きの開始された位置から引張り方向と直交する方向に延ばした直線とのずれを測定した。このずれが、5mm以内であったサンプルを◎、5mmを超えて10mm以内であったサンプルを○、10mmを超えたサンプルを×とした。
【0077】
(ヒートシール強度)
テスター産業製ヒートシーラー(型番TP−701−B)を用いて、シール圧力0.2MPa、シール時間を1秒、シール幅を10mmとし、シール温度を110℃、130℃として、多層構造体10の向かい合わせた熱接着性樹脂層13同士を溶着した。溶着された多層構造体10を手で引張り、著しくヒートシール強度が弱く、熱接着性樹脂層13の接合が簡単に解除されるサンプルを×、中程度の力で引張っても熱接着性樹脂層13の接合が解除されず、ヒートシール強度が良好なサンプルを○、強い力で引張っても熱接着性樹脂層13の接合が解除されず、ヒートシール強度が特に良好なサンプルを◎とした。
【0078】
実施例1,2および比較例1について、凸部14および凹部15の構造に関するデータを表1に示し、引裂き強度、引裂き直進性、および、ヒートシール強度の評価結果を表2に示す。なお、総合判定は、引裂き強度が比較例1よりも小さく、かつ、引裂き直進性が○もしくは◎、かつ、ヒートシール強度が○もしくは◎であるサンプルを○とした。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
表2に示されるように、凸部14の位置する部分にて空隙Sの形成された実施例1,2では、いずれも、こうした凸部14を有さない比較例1と比較して、引裂き強度が小さくなり、かつ、引裂き直進性が向上した。したがって、凸部14の位置する部分にて空隙Sが形成されていることによって、多層構造体10の引裂き性が向上することが示された。
【0081】
また、凸部14の位置する部分における熱接着性樹脂層13の厚みが凹部15の位置する部分における熱接着性樹脂層13の厚みよりも大きい実施例2では、これらの厚みに差がない実施例1と比較して、ヒートシール強度が向上した。したがって、凹部15よりも凸部14にて熱接着性樹脂層13の厚みが大きいと、ヒートシール強度が向上することが示された。
【0082】
[凹凸構造のピッチについての試験]
(実施例3)
実施例1の製造方法において、押出ラミネートにて使用するエンボスロールの表面形状を変更し、P1=P2=30μm,L1=L2=6μm、である以外は、実施例1と同様の構成を有する実施例3の多層構造体10を得た。
【0083】
(実施例4)
実施例1の製造方法において、押出ラミネートにて使用するエンボスロールの表面形状を変更し、P1=P2=100μm,L1=L2=20μm、である以外は、実施例1と同様の構成を有する実施例4の多層構造体10を得た。
【0084】
(実施例5)
実施例1の製造方法において、押出ラミネートにて使用するエンボスロールの表面形状を変更し、P1=P2=1000μm,L1=L2=200μm、である以外は、実施例1と同様の構成を有する実施例5の多層構造体10を得た。
【0085】
(実施例6)
実施例1の製造方法において、押出ラミネートにて使用するエンボスロールの表面形状を変更し、P1=P2=3000μm,L1=L2=600μm、である以外は、実施例1と同様の構成を有する実施例6の多層構造体10を得た。
【0086】
実施例3〜6について、凸部14および凹部15の構造に関するデータを表3に示し、上述の評価方法と同様の方法で評価した引裂き強度、引裂き直進性、および、ヒートシール強度の評価結果を表4に示す。なお、比較のため、表3および表4には実施例1についての結果も示してある。総合判定は、先の表2における基準と同様の基準によって判定した。なお、実施例6については、引裂き強度および引裂き直進性の各々について、複数のサンプルでの結果のばらつきが大きかったため、最も良い結果と最も悪い結果との範囲を示している。
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
表4に示されるように、互いに異なるピッチの凹凸構造を有する実施例1,3〜6のうち、ピッチが100μm以上1000μm以下である実施例1,4,5では、上述の比較例1に対して、引裂き強度の低下と引裂き直進性の向上とが顕著であった。したがって、ピッチが100μm以上1000μm以下であると、多層構造体10の引裂き性が顕著に向上することが示された。
【0089】
一方、ピッチが100μm未満である実施例3では、引裂き強度は比較例1よりもやや小さく、引裂き強度についての引裂き性の向上は認められるものの、引裂き直進性の向上は確認できなかった。これは、ピッチが小さいことによって、凸部14の位置する部分も引裂かれているためと考えられる。
【0090】
また、ピッチが1000μmを超える実施例6では、引裂き強度および引裂き直進性の双方ともばらつきがあり、引裂き強度が小さく、引裂き直進性の良いサンプルがある一方で、引裂き強度が大きく、引裂き直進性の悪いサンプルもあった。実施例6では、ピッチが大きいことに起因して、引裂きの開始される位置が凹部15の位置する部分であるときには、引裂き強度が小さく、引裂き直進性が良い一方、引裂きの開始される位置が凸部14の位置する部分であるときには、引裂き強度が大きく、引裂き直進性が悪いと考えられる。したがって、例えば、引裂き始める位置を予め指定することによって、引裂きの開始される位置を凹部15の位置する部分に設定すれば、実施例6においても、良好な引裂き性を得ることができる。
【0091】
[凹部面積率についての試験]
(実施例7)
実施例1の製造方法において、押出ラミネートにて使用するエンボスロールの表面形状を変更し、P1=P2=300μm,L1=L2=24μm、凹部面積率が15%、である以外は、実施例1と同様の構成を有する実施例7の多層構造体10を得た。
【0092】
(実施例8)
実施例1の製造方法において、押出ラミネートにて使用するエンボスロールの表面形状を変更し、P1=P2=300μm,L1=L2=32μm、凹部面積率が20%、である以外は、実施例1と同様の構成を有する実施例8の多層構造体10を得た。
【0093】
(実施例9)
実施例1の製造方法において、押出ラミネートにて使用するエンボスロールの表面形状を変更し、P1=P2=300μm,L1=L2=85μm、凹部面積率が49%、である以外は、実施例1と同様の構成を有する実施例9の多層構造体10を得た。
【0094】
(実施例10)
実施例1の製造方法において、押出ラミネートにて使用するエンボスロールの表面形状を変更し、P1=P2=300μm,L1=L2=110μm、凹部面積率が60%、である以外は、実施例1と同様の構成を有する実施例10の多層構造体10を得た。
【0095】
(実施例11)
実施例1の製造方法において、押出ラミネートにて使用するエンボスロールの表面形状を変更し、P1=P2=300μm,L1=L2=130μm、凹部面積率が68%、である以外は、実施例1と同様の構成を有する実施例11の多層構造体10を得た。
【0096】
実施例7〜11について、凸部14および凹部15の構造に関するデータを表5に示し、上述の評価方法と同様の方法で評価した引裂き強度、引裂き直進性、および、ヒートシール強度の評価結果を表6に示す。なお、比較のため、表5および表6には実施例1についての結果も示してある。総合判定は、先の表2における基準と同様の基準によって判定した。
【0097】
【表5】
【0098】
【表6】
表6に示されるように、凹部面積率が20%以上60%以下である実施例1,8〜10では、引裂き強度は0.8N以下であり、かつ、引裂き直進性は特に良好であって、比較例1に対して、引裂き強度の低下と引裂き直進性の向上とが顕著であった。一方、凹部面積率が20%未満である実施例7、および、凹部面積率が60%を超える実施例11では、比較例1よりも引裂き強度の低下と引裂き直進性の向上とが認められたものの、実施例1,8〜10の結果には及ばなかった。したがって、凹部面積率が20%以上60%以下であると、多層構造体10の引裂き性が顕著に向上することが示された。