特許第6413347号(P6413347)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6413347
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/133 20100101AFI20181022BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20181022BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20181022BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALN20181022BHJP
【FI】
   H01M4/133
   H01M4/587
   H01M2/16 M
   H01M2/16 L
   !H01M10/0525
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-108411(P2014-108411)
(22)【出願日】2014年5月26日
(65)【公開番号】特開2015-225725(P2015-225725A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2017年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100153224
【弁理士】
【氏名又は名称】中原 正樹
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 明彦
(72)【発明者】
【氏名】森 澄男
(72)【発明者】
【氏名】加古 智典
(72)【発明者】
【氏名】中井 健太
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−277201(JP,A)
【文献】 特開2014−011070(JP,A)
【文献】 特開2014−032955(JP,A)
【文献】 特開2013−243031(JP,A)
【文献】 特開2008−010183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13−4/62
H01M 10/05−10/0587
H01M 2/14−2/18
H01G 11/32
H01G 11/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置されたセパレータと、非水電解質とを備えた蓄電素子であって、
前記負極は、
負極基材層と、
前記負極基材層の表面に配置された負極合剤層とを有し、
前記セパレータは、セパレータ基材層を有し
前記セパレータは、さらに、前記セパレータ基材層の表面に、無機粒子を含む無機層を有し、
前記セパレータは、前記セパレータに含浸するプロピレンカーボネートと前記セパレータとの体積比を表すセパレータPC含浸率が40%以上70%以下である特性を有し、
記負極合剤層は、負極活物質として、D50粒子径が2.0μm以上6.0μm以下である難黒鉛化性炭素を含み、
前記負極合材層の密度に前記負極合材層の厚みを乗算した値を前記セパレータ基材層の厚みで除算した値として定義される負極補正密度は、1.2(g/cm3)以上5.1(g/cm3)以下である
蓄電素子。
【請求項2】
前記負極補正密度は、2.2(g/cm3)以上4.4(g/cm3)以下である
請求項1に記載の蓄電素子。
【請求項3】
前記セパレータは、厚みが20μm以下であ
請求項1又は2に記載の蓄電素子。
【請求項4】
前記セパレータPC含浸率が55%以上70%以下である
請求項1〜3に記載の蓄電素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極と、負極と、当該正極と負極との間に配置されるセパレータと、非水電解質とを有する蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な環境問題への取り組みとして、ガソリン自動車からハイブリッド自動車や電気自動車への転換が推進されたり、電動自転車が普及するなど、リチウムイオン二次電池などの各種蓄電素子が広く活用されている。このため、このような蓄電素子においては、高出力化及び高容量化がますます求められてきている。そこで、従来、セパレータの厚みを薄くして高出力化及び高容量化を図る蓄電素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−32246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のセパレータの厚みを薄くした蓄電素子では、充放電を行った場合に、一時的に出力が低下する場合がある。特に、高レートサイクルで繰り返し充放電を行った場合、従来の蓄電素子では、一時的に出力が大きく低下してしまう場合がある。このような高レートサイクル後の一時的な出力低下(以下、一過性の出力劣化という)は、蓄電素子の充放電を低レートサイクルに切り替えることや、一定時間充放電を行わないことで改善することが可能であるものの、高レートサイクルでの充放電条件以外の運転条件に変更する必要がある。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、セパレータの厚みを薄くした場合でも高レートサイクル後の一過性出力劣化の抑制が可能な蓄電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る蓄電素子は、正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置されたセパレータと、非水電解質とを備えた蓄電素子であって、前記負極は、負極基材層と、前記負極基材層の表面に配置された負極合剤層とを有し、前記セパレータは、セパレータ基材層を有し、前記負極合剤層は、負極活物質として、D50粒子径が2.0μm以上6.0μm以下である難黒鉛化性炭素を含み、前記負極合材層の密度に前記負極合材層の厚みを乗算した値を前記セパレータ基材層の厚みで除算した値として定義される負極補正密度は、1.2(g/cm)以上5.1(g/cm)以下である。
【0007】
これによれば、蓄電素子において、負極は、負極活物質としてD50粒子径が2.0μm以上6.0μm以下である難黒鉛化性炭素を含み、負極補正密度が1.2(g/cm)以上5.1(g/cm)以下である。通常、セパレータの厚みを負極合剤層に対して薄くすると、高レートサイクルでの充放電時に当該セパレータが負極の膨張収縮の影響を受け易くなり、高レートサイクル後に一過性の出力劣化が生じる。これに対して、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、セパレータの厚みを薄くした場合でも、上記の蓄電素子の構成において、一過性の出力劣化を抑制することができることを見出した。つまり、負極活物質としてD50粒子径が2.0μm以上6.0μm以下である難黒鉛化性炭素を用い、セパレータの厚みに対する負極合材層の相対密度を表す負極補正密度を1.2(g/cm)以上5.1(g/cm)以下とした場合に、セパレータが負極から受ける影響を低減し、電流分布の不均一性に起因する一過性の出力劣化を抑制することができることを見出した。これにより、セパレータの厚みを薄くした蓄電素子において、高レートサイクル後の一過性の出力劣化を抑制することができる。
【0008】
また、前記セパレータは、前記セパレータに含浸するプロピレンカーボネートと前記セパレータとの質量比を表すセパレータPC含浸率が40%以上70%以下である特性を有することにしてもよい。
【0009】
ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、セパレータの厚みを薄くした蓄電素子において、セパレータPC含浸率が40%以上70%以下という特性を有するセパレータを用いた場合に、高レートサイクル後の一過性の出力劣化を抑制することができることを見出した。このため、当該蓄電素子において、セパレータPC含浸率が40%以上70%以下の特性を有するセパレータを用いた場合に、高レートサイクル後の一過性の出力劣化を抑制しつつ、微小短絡の発生も抑制することができる。
【0010】
また、前記負極補正密度は、2.2(g/cm)以上4.4(g/cm)以下であることにしてもよい。
【0011】
ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、負極補正密度が2.2(g/cm)以上4.4(g/cm)以下である場合に、高レートサイクル後の一過性の出力劣化をより効果的に抑制することができることを見出した。このため、当該蓄電素子において、負極補正密度が2.2(g/cm)以上4.4(g/cm)以下である場合に、高レートサイクル後の一過性の出力劣化をより効果的に抑制することができる。
【0012】
また、前記セパレータは、厚みが26μm以下であることにしてもよい。
【0013】
これにより、セパレータの厚みが23μmよりも小さいので、高出力化及び高容量化を図ることができる。
【0014】
また、前記セパレータは、さらに、前記セパレータ基材層の表面に、無機粒子を含む無機層を有することにしてもよい。
【0015】
これにより、正極及び負極の膨張収縮によるセパレータの破損が防止され、セパレータの強度を確保できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、セパレータの厚みを薄くした蓄電素子において、高レートサイクル後の一過性の出力劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係る蓄電素子の外観斜視図である。
図2】本発明の実施の形態に係る電極体の構成を示す斜視図である。
図3】本発明の実施の形態に係る電極体の構成を示す断面図である。
図4】負極D50粒子径を変化させた場合の一過性劣化率を示す図である。
図5】負極補正密度を変化させた場合の一過性劣化率を示す図である。
図6】セパレータPC含浸率を変化させた場合の一過性劣化率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態に係る蓄電素子について説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
【0019】
まず、蓄電素子10の構成について、説明する。
【0020】
[1.全体構成]
図1は、本発明の実施の形態に係る蓄電素子10の外観斜視図である。なお、同図は、容器内部を透視した図となっている。図2は、本発明の実施の形態に係る電極体400の構成を示す斜視図である。なお、同図は、図1に示した電極体400の巻回状態を一部展開した図である。
【0021】
蓄電素子10は、電気を充電し、また、電気を放電することのできる二次電池であり、より具体的には、リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池である。例えば、蓄電素子10は、ハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle、HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)、電気自動車(EV)などに使用される二次電池である。なお、蓄電素子10は、非水電解質二次電池には限定されず、非水電解質二次電池以外の二次電池であってもよいし、キャパシタであってもよい。
【0022】
これらの図に示すように、蓄電素子10は、容器100と、正極端子200と、負極端子300とを備え、容器100は、上壁であるふた板110を備えている。また、容器100内方には、電極体400と、正極集電体120と、負極集電体130とが配置されている。なお、蓄電素子10の容器100の内部には電解液(非水電解質)などの液体が封入されているが、当該液体の図示は省略する。
【0023】
容器100は、金属からなる矩形筒状で底を備える筐体本体と、当該筐体本体の開口を閉塞する金属製のふた板110とで構成されている。また、容器100は、電極体400等を内部に収容後、ふた板110と筐体本体とが溶接等されることにより、内部を密封することができるものとなっている。
【0024】
電極体400は、正極と負極とセパレータとを備え、電気を蓄えることができる部材である。具体的には、電極体400は、負極と正極との間にセパレータが挟み込まれるように層状に配置されたものを全体が長円形状となるように巻回されて形成されている。なお、図1及び図2では、電極体400の形状としては長円形状を示したが、円形状または楕円形状でもよい。また、電極体400の形状は巻回型に限らず、平板状極板を積層した形状(積層型)でもよい。電極体400の詳細な構成については、後述する。
【0025】
正極端子200は、電極体400の正極に電気的に接続された電極端子であり、負極端子300は、電極体400の負極に電気的に接続された電極端子である。つまり、正極端子200及び負極端子300は、電極体400に蓄えられている電気を蓄電素子10の外部空間に導出し、また、電極体400に電気を蓄えるために蓄電素子10の内部空間に電気を導入するための金属製の電極端子である。
【0026】
正極集電体120は、電極体400の正極と容器100の側壁との間に配置され、正極端子200と電極体400の正極とに電気的に接続される導電性と剛性とを備えた部材である。なお、正極集電体120は、後述する電極体400の正極基材層と同様、アルミニウムまたはアルミニウム合金などで形成されている。
【0027】
また、負極集電体130は、電極体400の負極と容器100の側壁との間に配置され、負極端子300と電極体400の負極とに電気的に接続される導電性と剛性とを備えた部材である。なお、負極集電体130は、後述する電極体400の負極基材層と同様、銅または銅合金などで形成されている。
【0028】
また、容器100の内部に封入される非水電解質(電解液)は、一般にリチウムイオン電池等への使用が提案されているものが使用可能であり、様々なものを選択することができる。蓄電素子10においては、以下の有機溶媒と電解質塩とを組み合わせて、非水電解質として使用する。非水電解質は、容器100内において、正極合剤層、負極合剤層、及びセパレータに含浸されている。例えば、非水電解質の有機溶媒として、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なお、非水電解質には公知の添加剤を加えてもよい。なお、これらの非水電解液の中では、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネートを混合して使用すると、リチウムイオンの伝導度が極大となるために好ましい。
【0029】
また、非水電解質に含まれる電解質塩としては、例えば、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO、Li10Cl10、NaClO、NaI、NaSCN、NaBr、KClO、KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、(CHNBF、(CHNBr、(CNClO、(CNI、(CNBr、(n−CNClO、(n−CNI、(CN−maleate、(CN−benzoate、(CN−phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0030】
次に、電極体400の詳細な構成について、説明する。
【0031】
[2.電極体の構成]
図3は、本発明の実施の形態に係る電極体400の構成を示す断面図である。具体的には、同図は、図2に示された電極体400の巻回状態が展開された部分をA−A断面で切断した場合の断面を示す図である。
【0032】
同図に示すように、電極体400は、正極410と負極420と2つのセパレータ430とが積層されて形成されている。具体的には、正極410と負極420との間にセパレータ430が配置されている。
【0033】
[2.1 正極の構成]
まず、正極410について説明する。正極410は、正極基材層411と、正極合剤層412とを有している。
【0034】
正極基材層411は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる長尺帯状の導電性の集電箔である。なお、上記集電箔として、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金など、適宜公知の材料を用いることもできる。
【0035】
正極合剤層412は、正極基材層411の表面に形成された活物質層である。つまり、正極合剤層412は、正極基材層411のZ軸プラス方向及びマイナス方向の両面に、それぞれ形成されている。正極合剤層412は、正極活物質と、導電助剤と、バインダとを含んでいる。
【0036】
正極合剤層412に用いられる正極活物質は、公知の化合物を特に限定なく使用できるが、その中でも、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質であり、LiNiM1M2NbZr(但し、式中、a、b、c、d、x、y、zは、0≦a≦1.2、0≦b≦1、0≦c≦0.5、0≦d≦0.5、0≦x≦0.1、0≦y≦0.1、0≦z≦0.1、b+c+d=1を満たし、M1、M2は、Mn、Ti、Cr、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ge、Sn及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素である)で表される化合物や、LiNiMnCo(x+y+z=1、x<1、y<1、z<1)で表される化合物が用いられるのが好ましい。
【0037】
また、正極活物質のD50粒子径は、2μm〜8μmであることが好ましい。ここで、D50粒子径とは、レーザー回折散乱法で測定される粒子の体積分布を測定し、特定の粒子径以下の粒子量が(積算分布)50%の体積に該当する粒子径を示す。
【0038】
正極合剤層412に用いられる導電助剤の種類は特に制限されず、金属であっても非金属であってもよい。金属の導電助剤としては、銅やニッケルなどの金属元素から構成される材料を用いることができる。また、非金属の導電助剤としては、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの炭素材料を用いることができる。
【0039】
正極合剤層412に用いられるバインダとしては、電極製造時に使用する溶媒や電解液に対して安定であり、また、充放電時の酸化還元反応に対して安定な材料であれば特にその種類は制限されない。例えば、バインダとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。
【0040】
なお、正極410は、正極基材層411と正極合剤層412との間に、アンダーコート層を有してもよい。
【0041】
アンダーコート層は、正極基材層411の表面(図3では、Z軸プラス方向及びマイナス方向の両面)に形成された、正極合剤層412と樹脂種類あるいは合剤比率の異なった熱硬化性アンダーコート層である。また、アンダーコート層は、バインダ(有機バインダ)と導電助剤とを含んでいる。
【0042】
ここで、アンダーコート層に用いられる有機バインダの材料の樹脂としては、キチン−キトサン誘導体、セルロース誘導体、フッ化樹脂、合成ゴム、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィン及びポリアクリルからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0043】
具体的には、例えば、キチン−キトサン誘導体としては、ヒドロキシエチルキトサン、ヒドロキシプロピルキトサン、ヒドロキシブチルキトサン及びアルキル化キトサン等からなる群から選択される少なくとも1種のヒドロキシアルキルキトサンが挙げられる。上記フッ化樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。上記合成ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム等が挙げられる。上記ポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。上記ポリアクリルとしては、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。尚、上記ヒドロキシアルキルキトサンは、例えば、サリチル酸、ピロメリット酸、クエン酸、トリメリット酸等の有機酸と混合して架橋して有機バインダとすることが好ましい。また、セルロース誘導体の一例としては、CMC(カルボキシメチルセルロース)及びこれの塩が挙げられる。具体的には、H−CMC、Na−CMC、NH−CMC等が挙げられる。
【0044】
なお、アンダーコート層の有機バインダは、キトサン誘導体及びセルロース誘導体から選択される少なくとも一種を含んでいるのが好ましい。また、有機バインダの添加量としては、アンダーコート層の全原料に対して20〜80質量%であるのが好ましく、50〜75質量%の範囲であることがさらに好ましい。当該量の有機バインダがアンダーコート層に添加されていることで、アンダーコート層の粘着強度が高められて、正極基材層411と正極合剤層412との界面の密着性が確保され、電気伝導度が維持されうる。
【0045】
また、アンダーコート層に用いられる導電助剤としては、電気伝導性が高い粒子が用いられる。例えば、導電助剤として、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の炭素系材料や、鉄、ニッケル、銅、アルミニウム等の金属微粒子からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0046】
なお、アンダーコート層の導電助剤の添加量としては、アンダーコート層の全原料に対して5〜98質量%であるのが好ましく、15〜90質量%の範囲であることがさらに好ましい。当該量の導電助剤がアンダーコート層に添加されることで、適切な導電性が維持されうる。
【0047】
非水電解質二次電池の正極及び負極は、その充放電過程において、極板の厚み方向に膨張と収縮とを繰り返している。また、正極及び負極の膨張は、一般的には正極よりも負極の方がより膨張する。更に、負極の膨張は、それぞれの電極で用いられている活物質の充填密度が高いほど大きい。そのため、セパレータは充放電過程において負極の膨張時に圧縮されるため、充放電サイクルが繰り返されるに従ってセパレータのイオン導電性が低下し、特に、高レートサイクル後に一過性の出力劣化が生じることが想定される。本実施の形態では、高レートサイクル後の一過性出力劣化を抑制すべく、負極及びセパレータの構成を提案するものである。
【0048】
[2.2 負極の構成]
次に、負極420について説明する。負極420は、負極基材層421と、負極合剤層422とを有している。
【0049】
負極基材層421は、銅または銅合金からなる長尺帯状の導電性の集電箔である。なお、上記集電箔として、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金など、適宜公知の材料を用いることもできる。
【0050】
負極合剤層422は、負極基材層421の表面(図3では、Z軸プラス方向及びマイナス方向の両面)に形成された活物質層であり、負極基材層421を挟むように負極基材層421の両側に配置されている。負極合剤層422は、負極活物質と、導電助剤と、バインダとを含んでいる。
【0051】
負極合剤層422に用いられる負極活物質としては、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)が用いられる。そして、この難黒鉛化性炭素は、D50粒子径が2.0μm以上6.0μm以下である。
【0052】
セパレータを薄肉化して高出力化させると、負極上の電流線が負極活物質に影響され易くなる。これに対して上記のように、負極活物質として粒子径が規制された難黒鉛化性炭素が用いられることにより、充放電中のイオン経路抵抗を均一にすることが可能となり、さらに、SOC(State Of Charge)−電位勾配が傾斜することにより、負極中の充放電深度バラつきを抑制することが可能となる。これにより、高レートサイクル後の一過性の出力劣化を抑制することができる。
【0053】
負極合剤層422に用いられる導電助剤は、正極合剤層412に用いられる導電助剤と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0054】
負極合剤層422に用いられるバインダとしては、電極製造時に使用する溶媒や電解液に対して安定であり、また、充放電時の酸化還元反応に対して安定な材料であれば特にその種類は制限されない。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。
【0055】
[2.3 セパレータの構成]
次に、セパレータ430について説明する。セパレータ430は、正極410と負極420との間に配置される長尺帯状のセパレータであり、正極410及び負極420とともに長手方向(Y軸方向)に巻回され複数層積層されることで、電極体400が形成される。セパレータ430は、セパレータ基材層431及び無機塗工層432を備えている。
【0056】
セパレータ基材層431は、セパレータ430の本体であり、樹脂多孔膜全般が使用できる。例えば、セパレータ基材層431としては、ポリマー、天然繊維、炭化水素繊維、ガラス繊維もしくはセラミック繊維の織物または不織繊維を有する樹脂多孔膜が用いられる。また、当該樹脂多孔膜は、好ましくは、織物または不織ポリマー繊維を有する。特に、当該樹脂多孔膜は、ポリマー織物またはフリースを有するかまたはこのような織物またはフリースであるのが好ましい。ポリマー繊維としては、好ましくは、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアミド(PA)、ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)及び/またはポリオレフィン(PO)、例えばポリプロピレン(PP)またはポリエチレン(PE)またはこのようなポリオレフィンの混合物や複合膜から選択したポリマーの非電導性繊維を有する。また、当該樹脂多孔膜は、ポリオレフィン微多孔膜、不織布、紙等であってもよく、好ましくはポリオレフィン微多孔膜である。
【0057】
次に、無機塗工層432について説明する。無機塗工層432は、セパレータ基材層431の少なくとも一面に配され、セパレータ基材層431上に設けられた層である。なお、同図3では、無機塗工層432は、セパレータ基材層431の上面に塗工されているが、セパレータ基材層431の下面、または両側に塗工されていてもよい。また、無機塗工層432は、セパレータ基材層431上でなくとも正極410と負極420との間に配置されていればよいが、同図のようにセパレータ基材層431上に設けられるのが好ましい。また、正極の表面電位が高くなると、セパレータ基材層431の酸化により絶縁性が低下する場合がある。セパレータ基材層431の絶縁性低下により放電容量が減少する。よって、無機塗工層432としては、酸化及び導体化しない樹脂を使用することが好ましい。これにより、セパレータ430の酸化が抑制され、充放電サイクル特性が向上する。無機塗工層432の厚みは、0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0058】
具体的には、無機塗工層432は、耐熱粒子として、耐熱性の無機粒子を含む無機層である。当該無機粒子としては、合成品及び天然産物のいずれでも、特に限定なく用いることができる。例えば、当該無機粒子としては、下記のうちの一つ以上の無機物の単独もしくは混合体もしくは複合化合物から成る。酸化鉄、SiO、Al、TiO、BaTiO、ZrO、アルミナ−シリカ複合酸化物などの酸化物微粒子、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物微粒子、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶微粒子、シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶微粒子、タルク、モンモリロナイトなどの粘土微粒子、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカなどの鉱物資源由来物質あるいはそれらの人造物、などが挙げられる。また、金属微粒子;SnO、スズ−インジウム酸化物(ITO)などの酸化物微粒子、カーボンブラック、グラファイトなどの炭素質微粒子、などの導電性微粒子の表面を、電気絶縁性を有する材料(例えば、上記の電気絶縁性の無機粒子を構成する材料)で表面処理することで、電気絶縁性を持たせた微粒子であってもよい。特に、無機粒子としては、SiO、Al、アルミナ−シリカ複合酸化物が好ましい。
【0059】
また、無機塗工層432は、無機粒子及びバインダを溶媒に分散させた溶液をセパレータ基材層431に塗布することによって形成されることが望ましい。このバインダとしては、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレンまたはポリカーボネートを挙げることができる。特に電気化学的な安定性の点からは、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドが好ましい。また、特に、本実施の形態で用いるバインダは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸またはスチレン−ブタジエンゴム(SBR)であるのが好ましい。なお、正極410または負極420において使用されるバインダについても、上記と同様のバインダが使用される。
【0060】
ここで、本実施の形態では、負極合剤層422の密度(g/cm)に負極合剤層422の厚みを乗算したものをセパレータ基材層431の厚みで除算したものとして定義される負極補正密度は、1.2(g/cm)以上5.1(g/cm)以下である。また、上記負極補正密度は、2.2(g/cm)以上4.4(g/cm)以下であるのが好ましい。
【0061】
また、セパレータ430は、セパレータ中に含浸されたPCの体積をセパレータの体積で除したものに100を掛けた数値を表すセパレータPC含浸率が40%以上70%以下である特性を有することが好ましい。
【0062】
なお、セパレータ430は、無機塗工層432を備えていることが好ましいが、無機塗工層432を備えていなくともよい。
【0063】
なお、電池特性への影響を考慮すると、セパレータ430の厚みは26μm以下であることが好ましい。これにより、高出力化及び高容量化を図ることができる。また、セパレータ430は、透気度が180(秒/100cc)以下であることが好ましい。
【0064】
また、蓄電素子10を4.2Vで充電した場合及び完全放電した場合の負極合剤層422の厚みの差をセパレータ基材層431の厚みで除算した値は、0.05以上0.5以下であるのが好ましい。
【0065】
次に、上記の構成を有する蓄電素子10が、一過性の出力劣化の抑制等を行うことができることについて、詳細に説明する。
【0066】
[実施例]
まず、蓄電素子10の製造方法について説明する。具体的には、以下のようにして、後述する実施例1〜44及び比較例1〜14における蓄電素子としての電池の作製を行った。なお、実施例1〜44は、いずれも、上述した実施の形態に係る蓄電素子10に関するものである。
【0067】
(1−1)正極の作製
正極活物質として、LiNiMnCoOを用いた。また、導電助剤にはアセチレンブラック、バインダにはPVDFを用い、正極活物質が90質量%、導電助剤が5質量%、バインダが5質量%となるように配合した。また、箔には、厚さ20μmのアルミニウム箔を用い、正極活物質、導電助剤、バインダにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加え混練し箔状に塗布乾燥後、プレスを行った。なお、プレス多孔度は、アンダーコート層がない場合には33%とし、アンダーコート層がある場合には40%とした。
【0068】
(1−2)負極の作製
負極活物質として、ハードカーボン(HC:難黒鉛化性炭素)またはグラファイト(Graphite)を用いた。また、バインダにはPVDFを用い、負極活物質が93質量%、バインダが7質量%となるように配合した。また、負極基材層には、厚み10μmの銅箔を用い、負極活物質、導電助剤、バインダにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加え混練し箔状に塗布乾燥後、負極合剤層のプレス多孔度が30%になるようにプレスを行った。
【0069】
なお、実施例1〜44及び比較例2〜14については、負極活物質としてハードカーボン(HC)を用いた。また、比較例1については、負極活物質としてグラファイトを用いた。
【0070】
また、実施例2〜6、及び、比較例2〜5については、上記負極活物質のD50粒子径を2〜15μmの範囲で変化させて負極の作製を行った。その他の実施例及び比較例については、上記負極活物質のD50粒子径を5μmとして負極の作製を行った。
【0071】
また、実施例1〜6、40〜44、及び、比較例1〜5、12〜14については、負極合剤層の厚みを35μmとし、負極合剤層の密度を1.13g/cmとして負極の作製を行った。また、実施例7〜39、及び、比較例6〜11については、負極合剤層の厚みを、それぞれ、20〜70μmの範囲で変化させ、また、負極合剤層の密度を、それぞれ、1.00〜1.13の範囲で変化させて負極の作製を行った。
【0072】
(1−3)セパレータの作製
セパレータ基材層として、透気度が140秒/100ccのポリオレフィン製微多孔膜を使用した。
【0073】
また、実施例1〜20、40〜44、及び、比較例1〜8、12〜14については、セパレータ基材層の厚みを15μmとし、その他の実施例及び比較例については、セパレータ基材層の厚みを20μmとしてセパレータを作製した。
【0074】
また、実施例1〜39、及び、比較例1〜11については、セパレータPC含浸率を55%とし、実施例40〜44、及び、比較例12〜14については、セパレータPC含浸率を、それぞれ、20〜75%の範囲で変化させてセパレータを作製した。ここで、セパレータPC含浸率とは、セパレータ中に含浸されたPCの体積をセパレータの体積で除したものに100を掛けた数値である。ここで、セパレータの体積はセパレータの厚みに試験に用いたサンプルの面積を掛けたものであり、含浸PC体積は含浸によるセパレータ重量増加量をPC密度で除したものである。
【0075】
ここで、セパレータの気孔度を評価する方法として、水銀圧入ポロシティによる気孔率が挙げられる。水銀圧入ポロシティによる気孔率は、セパレータに高圧をかけ、セパレータの気孔に強制的に水銀を圧入させるものである。この場合には、非水電解質が、蓄電素子の動作状態においてセパレータに浸漬する量を正確に反映したものとは言い難い。これに対して本実施例で採用するセパレータPC含浸率は、高圧をかけずに、蓄電素子10の非水電解質として実際に使用されるプロピレンカーボネート(PC)がセパレータに浸漬する量を計測することにより得られる。よって、セパレータPC含浸率は、セパレータの濡れ性及び表面エネルギーなどの非水電解質の浸入を妨害する要因まで考慮された、蓄電素子10の動作状態に即したPCの浸漬量が反映される。
【0076】
また、無機粒子(アルミナ粒子)、バインダ(アクリル系ラテックス)、増粘剤、界面活性剤を混合し、無機塗工層を構成するコート剤を作製した。上記コート剤は、無機粒子が97質量%、バインダが3質量%となるように配合した。上記コート剤をセパレータ基材層上にグラビア法にて塗工した後、80℃で12時間乾燥させることにより、厚みが5μmの無機塗工層を作製した。また、塗工前および塗工後に、濡れ性、PC含浸量微調整のため、適宜、セパレータ基材層の表面改質処理を実施した。
【0077】
ここで、セパレータの薄肉化に対する負極の膨張収縮の影響を評価するパラメータとして、以下の式1で表される負極補正密度を定義する。
【0078】
負極補正密度=負極合剤層密度×負極合剤層厚/セパレータ基材層厚 (式1)
【0079】
上記負極補正密度は、セパレータの厚みに対する負極合材層の相対密度を表している。
【0080】
なお、実施例1〜6、40〜44、及び、比較例1〜5、12〜14については、負極補正密度を2.6(g/cm)とし、実施例7〜39、及び、比較例6〜11については、負極補正密度を0.9〜5.7(g/cm)の範囲で変化させて、負極及びセパレータの作製を行った。
【0081】
(1−4)非水電解質の生成
非水電解質としては、プロピレンカーボネート(PC):ジメチルカーボネート(DMC):エチルメチルカーボネート(EMC)=3:2:5(体積比)の混合溶媒に、電解質塩としてLiPFを調整後に1mol/Lとなるように溶解した。なお、これに添加剤として公知の添加剤を加えることにしてもよい。
【0082】
(1−5)電池の作製
正極、負極及びセパレータを、無機塗工層がセパレータと正極との間に配置されるように積層して巻回後、集電し、角型の容器に挿入し、非水電解質を注入して封口した。
【0083】
ここで、正極における各数値について、以下のように評価試験を行った。なお、全試験ともに、10サンプルの平均値とした。
【0084】
(2−1)正極の電池からの取り出し
電池を放電状態(2V)にて解体し、正極を取り出してDMCにて十分洗浄を行い、25℃で真空乾燥を実施した。以下の試験においては、全て洗浄乾燥後のサンプルを用いて実施した。
【0085】
(3−1)負極の電池からの取り出し
電池を放電状態(2V)にて解体し、負極を取り出してDMCにて十分洗浄を行い、25℃で真空乾燥を実施した。以下の試験においては、全て洗浄乾燥後のサンプルを用いて実施した。
【0086】
(3−2)負極合剤層片面厚み
マイクロメータにて、負極合剤塗布部分の厚みLを測定した。その後、アセトンもしくはNMPにて合剤を剥離し、剥離後の箔厚みLbを測定した。そして、(L−Lb)/2にて、負極合剤層の片面の塗布厚みを求めた。なお、合剤を剥離するために用いる溶剤は、負極基材層(箔)を侵食しなければ特に制限されない。また、測定は、1サンプルあたり5回実施してその平均値を1サンプルの負極合剤層の片面の厚みとし、5サンプルの負極合剤層の片面の厚みを平均したものを、負極合剤層厚みとした。
【0087】
(3−3)負極重量
負極を2×2cmのサイズに切り出し、重量(Ma)を測定した。その後、アセトンもしくはNMPにて負極合剤層を剥離し、剥離後の箔重量(Mb)を測定した。(Ma−Mb)/8にて単位面積当たり片面塗布重量を求めた。なお、負極合剤層を剥離するために用いる溶剤は、箔を侵食しなければ特に制限されない。また、測定は、1サンプルあたり5回実施してその平均値を1サンプルの負極合剤層の片面重量とし、10サンプルの負極合剤層の片面重量を平均したものを負極合剤層の重量とした。
【0088】
(3−4)負極合剤層密度
単位面積当たりの負極合剤層の重量/負極合剤層厚みにて、負極合剤層密度を算出した。
【0089】
(3−5)負極活物質D50粒子径
負極をCP(クロスセクションポリッシャ)加工し、断面をSEM観察した。ランダムに選択した少なくとも500個の活物質粒子の直径を測定し、粒子を球状とみなした場合の粒子径が小さい側からの累積体積を求め、累積体積が50%を超えた時の粒子径をD50粒子径とした。
【0090】
次に、以下の数値を求めて、電池の評価試験を行った。なお、全試験ともに、3サンプルの平均値とした。
【0091】
(4−1)容量確認試験
25℃の恒温層内で以下の試験を実施した。まず、(4−1a)下限電圧2.4Vにて4Aの定電流放電試験を実施し、次に、(4−1b)上限電圧4.1Vにて4Aの定電流定電圧充電を3時間実施後、下限電圧2.4Vにて放電試験4Aの定電流放電を実施した。そして、(4−1b)の放電時の電流容量を電池容量とした。
【0092】
(4−2)25℃出力試験
直前の容量確認試験により1C(A)を定め、放電状態から25℃、0.5C(A)、充電時間1時間にて、SOC(State of Charge)を50%に調整した。そして、温度25℃、電流40C(A)で放電を実施し、1秒目の抵抗D1=(1秒目の電圧と通電前の電圧との差)/電流にて1秒目の抵抗D1を算出し、1秒目の出力W1=(通電前電圧−下限電圧)/D1×下限電圧にて1秒目の出力W1を算出した。また、同様に、10秒目の抵抗D2=(10秒目の電圧と通電前の電圧との差)/電流にて10秒目の抵抗D2を算出し、10秒目の出力W2=(通電前電圧−下限電圧)/D2×下限電圧にて10秒目の出力W2を算出した。
【0093】
(4−3)高レート一過性出力劣化試験
25℃にて、電池を4Aで4.1Vまで定電流充電したのち、総充電時間が3時間となるまで4.1Vで定電圧充電を行い、その後、2.4Vまで定電流放電し、そのときの放電容量をQ1とする。この放電容量Q1を1時間で放電するときの電流値を1CAとする。放電状態(SOC0%)の電池を、25℃にて0.5CAで1時間充電することにより、SOC50%に調整する。この電池を20CAで10秒間放電し、以下の式2により、サイクル前抵抗を求める。
【0094】
抵抗={(通電前電圧)−(10秒目の電圧)}/電流値 (式2)
【0095】
再度SOC50%に電池を調整する。25℃雰囲気で、15CAでの30秒間の連続放電及び30秒間の連続充電を含み1サイクル2分以内のサイクルを1000サイクル行う。サイクル終了後2時間以内に、サイクル後の電池を20CAで10秒間放電し、上記の式2によりサイクル後抵抗を求める。サイクル前抵抗をD1、サイクル後抵抗をD2とし、以下の式3により高レートサイクル後の一過性劣化率を算出する。
【0096】
一過性劣化率(%)=D2/D1×100 (式3)
【0097】
つまり、上記一過性劣化率は、電池の高レートサイクル後の一過性の出力劣化を示す指標である。そして、実施例1における一過性劣化率を100%とし、実施例2〜44及び比較例1〜14における一過性劣化率を実施例1に対する百分率で表す。
【0098】
(4−4)微小短絡発生率
電池化成後に電池定格容量の20%まで充電し、25℃にて20日間保存した場合に、保存前の電池電圧と保存後の電池電圧との差(電池電圧低下)が0.1V以上であった電池の割合(%)を微小短絡発生率とする。なお、本実施例では、3.1Vの定電圧充電を3時間実施した後、1時間経過後から12時間経過後までに電圧測定し、25℃にて20日間保存した後に再度電圧測定を行い、その差異を電池電圧低下とした。そして、1水準あたり20セルの試験を行い、当該割合を計算して微小短絡発生率とした。
【0099】
次に、以下のようにして、セパレータ(基材層)の透気度の測定を行った。
【0100】
(5−1)前処理
セパレータを電池から取り出し、速やかにジメチルカーボネート(DMC)にて洗浄を行い、その後重量変化がなくなるまで25℃で乾燥させる。以下の試験においては、全て洗浄乾燥後のサンプルを用いて実施した。
【0101】
(5−2)セパレータ厚み
マイクロメータにて、セパレータの厚みLを測定した。5サンプルの厚みを平均したものを、セパレータ厚みとした。
【0102】
(5−3)セパレータPC含浸率
セパレータを4×4cm2の大きさに切り出したのち、重量を測定し、含浸前重量とした。セパレータをPC(プロピレンカーボネート)中に1分間含浸させて引き上げ、パルプ素材の紙ワイパーにて表面に付着した余剰PCをふき取って重量を測定し、含浸後重量とした。
【0103】
(5−4)セパレータ全体透気度試験
前処理後のセパレータについて、ガーレー法(JIS8117)規定面積あたり100ccの空気が透過する時間を計測することで、セパレータ全体の透気度(セパレータ全透気度)を取得する。セパレータが無機塗工層を有していない(基材層のみ有している)場合には、このセパレータ全透気度がセパレータの基材層の透気度(セパレータ基材透気度)となる。
【0104】
(5−5)無機塗工層含有セパレータの基材透気度取得方法
セパレータを水:エタノールが50:50(vol%)の溶液内に浸漬し、超音波洗浄を実施する。超音波洗浄後に無機塗工層側を光学顕微鏡にて観察し、無機塗工層の残存物がなくなるまで繰り返し超音波洗浄を行う。このとき、溶液の温度が上昇しすぎてセパレータ基材層が変質しないよう注意する。そして、無機塗工層がなくなった超音波洗浄後のセパレータの透気度を測定し、セパレータ基材透気度とする。
【0105】
以上のように、負極活物質の種類、負極D50粒子径、負極補正密度、及びセパレータ含浸率を変化させて作製した実施例1〜44及び比較例1〜14の一過性劣化率を、以下の表1〜表3に示す。
【0106】
まず、以下の表1を用いて、実施例1〜6及び比較例1〜5について説明する。以下の表1に示すように、実施例1〜6及び比較例2〜5は、負極活物質の種類(HC)、負極補正密度、及びセパレータPC含浸率を固定し、負極D50粒子径を変化させた場合の高レートサイクル後の一過性劣化率を示したものである。
【0107】
また、比較例1は、実施例1に対して、負極D50粒子径、負極補正密度及びセパレータPC含浸率を同条件とし、負極活物質の種類をグラファイト(Graphite)とした場合の高レートの一過性劣化率を示したものである。
【0108】
なお、表1における「負極活物質」は、負極活物質に用いられた材料の種類を示し、「負極D50粒子径」は、負極活物質のD50粒子径を示し、「負極補正密度」は、上記式1で規定される負極補正密度であって、セパレータの厚みに対する負極合材層の相対密度を示し、「セパレータPC含浸率」は、セパレータに含浸するプロピレンカーボネートと当該セパレータとの質量比(プロピレンカーボネート含浸重量/セパレータ質量)を示す。また、「一過性劣化率」は、高レートサイクル前の抵抗(D1)に対する、高レートサイクル後の抵抗(D2)の百分率比である。また、以下の表2及び表3においても表1と同様である。
【0109】
【表1】
【0110】
また、図4は、負極D50粒子径を変化させた場合の一過性劣化率を示す図である。具体的には、同図は、表1における「負極D50粒子径」を横軸とし、「一過性劣化率」を縦軸として、グラフ化したものである。
【0111】
上記の表1及び図4に示すように、負極活物質が、D50粒子径2.0μm〜6.0μmのハードカーボン(HC)である場合(実施例1〜6)に、一過性劣化率の増加が抑制されている。つまり、高レートサイクル後の一過性出力劣化の抑制を図ることができている。
【0112】
なお、表1に示すように、負極D50粒子径が7μm以上となっている比較例3〜5では、高レートの充放電を1000サイクル実施することが不可能であった。これは、負極活物質の粒子径が大きくなるほど、負極活物質の粒子間(主に面内方向)で充電深度にばらつきが顕著となることによるものと考えられる。
【0113】
また、負極D50粒子径が1.5μmとなっている比較例2では、高レートの一過性劣化率が大きくなっている。これは、粒子径が極端に小さいためにバインダ不足となり、サイクル実施中に負極中の電気的導通が一部不良化したためと考えられる。
【0114】
また、負極活物質がグラファイト(Graphite)である場合(比較例1)には、高レートサイクル後の一過性劣化率が大きくなっている。負極活物質として、グラファイト(黒鉛系)を使用した場合、SOC−電位勾配がほとんどないため、充放電バラつきの回復機能が低下し、さらに、充放電サイクル劣化が進行しやすいと考えられる。本実施の形態に係る蓄電素子10では、負極活物質として粒子径規制されたハードカーボン(難黒鉛化性炭素)が用いられている。これにより、充放電中のイオン経路抵抗が均一となり、さらに、SOC−電位勾配が傾斜していることにより負極中の充放電深度ばらつきが抑制されることで、高レートサイクル後の一過性劣化が抑制されると考えられる。
【0115】
表1及び図4に示された結果より、本実施の形態に係る蓄電素子10は、正極410と負極と420とセパレータ430とを備え、負極420は、負極活物質としてD50粒子径が2.0μm以上6.0μm以下である難黒鉛化性炭素を含むものである。
【0116】
次に、以下の表2を用いて、実施例1、7〜39及び比較例6〜11について説明する。以下の表2に示すように、実施例1、7〜39及び比較例6〜11は、負極活物質の種類(HC)、負極D50粒子径及びセパレータPC含浸率を固定し、負極補正密度を変化させた場合の高レートの一過性劣化率を示したものである。
【0117】
なお、表2における「セパレータ基材層厚」は、セパレータ基材層の厚みを示し、「負極合剤層厚」は、負極合剤層の厚みを示し、「負極合剤層密度」は、負極合剤層の重量密度を示す。
【0118】
【表2】
【0119】
また、図5は、負極補正密度を変化させた場合の一過性劣化率を示す図である。具体的には、同図は、表2における「負極補正密度」を横軸とし、「一過性劣化率」を縦軸としてグラフ化したものである。
【0120】
上記の表2及び図5に示すように、負極補正密度が1.2(g/cm)以上5.1(g/cm)以下の場合(実施例1、7〜39)に、高レートサイクル後の一過性劣化率の増加を抑制することができている。また、負極補正密度が2.2(g/cm)以上4.4(g/cm)以下の場合(実施例1、9〜11、16〜19、24〜28、33〜36)に、さらに高レートサイクル後の一過性劣化率の増加を抑制することができている。このため、本実施の形態では、負極補正密度が1.2(g/cm)以上5.1(g/cm)以下であり、また、2.2(g/cm)以上4.4(g/cm)以下であるのが好ましい。
【0121】
次に、以下の表3を用いて、実施例1、40〜44、及び、比較例12〜14について説明する。以下の表3に示すように、実施例1、40〜44、及び、比較例12〜14は、負極活物質の種類(HC)、負極D50粒子径及び負極補正密度を固定し、セパレータPC含浸率を変化させた場合の高レートの一過性劣化率を示したものである。
【0122】
なお、表3における「微小短絡発生率」は、蓄電素子10の微小短絡発生率を示す。
【0123】
【表3】
【0124】
また、図6は、セパレータPC含浸率を変化させた場合の一過性劣化率を示す図である。具体的には、同図は、表3における「セパレータPC含浸率」を横軸とし、「一過性劣化率」を縦軸としてグラフ化したものである。
【0125】
上記の表3及び図6に示すように、セパレータPC含浸率が40%以上70%以下である特性を有するセパレータを用いた場合(実施例1、40〜44)に、高レートサイクル後の一過性劣化率の増加を抑制することができている。このため、本実施の形態では、セパレータ430は、セパレータPC含浸率が40%以上70%以下である特性を有することが好ましい。
【0126】
なお、表3に示すように、セパレータPC含浸率が75%となっている比較例14では、一過性劣化率が低いが、微小短絡が発生している。これは、改質処理を過度に行った結果、セパレータ強度が著しく低下し、バリによるセパレータ貫通短絡が起きたためと考えられる。
【0127】
[まとめ]
以上のように、本実施の形態に係る蓄電素子10は、正極410と、負極420と、正極410と負極420との間に配置されたセパレータ430とを備え、負極420は、負極基材層421と、負極基材層421の表面に配置された負極合剤層422とを有し、セパレータ430は、セパレータ基材層431を有する。負極合剤層422は、負極活物質として、D50粒子径が2.0μm以上6.0μm以下である難黒鉛化性炭素を含み、負極補正密度は、1.2(g/cm)以上5.1(g/cm)以下である。ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、セパレータ430の厚みを薄くした場合でも、上記負極合剤層422を含み、負極補正密度が上記範囲である蓄電素子10の構成において、セパレータ430が負極420から受ける影響を低減し、電流分布の不均一性に起因する高レートサイクル後の一過性の出力劣化を抑制することができることを見出した。これにより、セパレータ430の厚みを薄くした蓄電素子10において、高レートサイクル後の一過性の出力劣化を抑制することができる。
【0128】
また、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、セパレータ430が、セパレータに含浸するプロピレンカーボネート(PC)と当該セパレータとの質量比を表すセパレータPC含浸率が40%以上70%以下である特性を有する場合に、高レートサイクル後の一過性の出力劣化を抑制することができることを見出した。このため、蓄電素子10において、セパレータPC含浸率が40%以上70%以下である特性を有するセパレータ430を用いた場合に、高レートサイクル後の一過性の出力劣化を抑制しつつ、微小短絡の発生も抑制することができる。
【0129】
また、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、負極補正密度が2.2(g/cm)以上4.4(g/cm)以下である場合に、さらに、高レートサイクル後の一過性の出力劣化を抑制することができることを見出した。このため、蓄電素子10において、負極補正密度が2.2以上4.4以下である場合に、高レートサイクル後の一過性の出力劣化をより効果的に抑制することができる。
【0130】
また、セパレータ430の厚みは26μm以下であることが好ましい。これにより、高出力化及び高容量化を図ることができる。
【0131】
また、セパレータ430は、さらに、セパレータ基材層431の表面に配置された無機塗工層432を有することが好ましい。これにより、正極410及び負極420の膨張収縮によるセパレータ基材層431の破損が防止され、セパレータ430の強度を確保できる。
【0132】
以上、本発明の実施の形態に係る蓄電素子10について説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0133】
つまり、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明は、セパレータの厚みを薄くした場合でも、高レートサイクル後の一過性出力劣化を抑制することができる蓄電素子等に適用できる。
【符号の説明】
【0135】
10 蓄電素子
100 容器
110 ふた板
120 正極集電体
130 負極集電体
200 正極端子
300 負極端子
400 電極体
410 正極
411 正極基材層
412 正極合剤層
420 負極
421 負極基材層
422 負極合剤層
430 セパレータ
431 セパレータ基材層
432 無機塗工層
図1
図2
図3
図4
図5
図6