(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
製鉄所で発生する予備処理スラグ、転炉スラグ、電気炉スラグ、鋳造スラグ等の製鋼スラグは、道路の路盤材をはじめ、土木、建築用の材料等として広く利用されているが、元来、製鋼スラグには水可溶性の遊離CaO(フリーライム)が含有されていることから、製鋼スラグをそのまま使用すると、高アルカリ水や白濁水を発生させてしまうことがある。また、製鋼スラグをエージング処理して遊離CaOによる膨張性を抑制した際に生成するCa(OH)
2も水可溶性を有しており、やはりアルカリ発生源となる。
【0003】
そこで、製鋼スラグに含まれた水可溶性のカルシウム成分を不溶化させる方法のひとつとして、古くから製鋼スラグに二酸化炭素を反応させる炭酸化処理が行われている。この炭酸化処理は、製鋼スラグに含まれる水可溶性カルシウム分(水可溶性Ca分)の遊離CaOやCa(OH)
2が水に溶けて生成するCa
2+イオンと、CO
2が水に溶けて生成するCO
32-イオンとが作用して難水溶性のCaCO
3を生成する反応であることから、遊離CaOやCa(OH)
2とCO
2とが一旦水に溶ける必要があり、反応の進行には水が不可欠である。ただし、水は反応を進行させる媒体として働くのみであり、消費されることはない。
【0004】
そのため、製鋼スラグの炭酸化処理では、二酸化炭素を含有したガス(CO
2含有ガス)の供給速度の調整のほか、製鋼スラグに水分を添加したり、雰囲気の相対湿度を制御する等して、製鋼スラグとCO
2含有ガスとの接触が十分に確保されることが重要であると考えられてきた。
【0005】
例えば、特許文献1には、大気雰囲気下、加圧雰囲気下又は水蒸気雰囲気下でエージング処理が施された製鋼スラグに自由水が存在し始める水分値未満で、かつ、該水分値よりも10質量%少ない値以上の範囲となるように添加する水分量を調整した後、炭酸ガスを含有して相対湿度が75〜100%のガスを流す製鋼スラグの安定化処理方法が記載されている。そして、当該特許文献における実施例の場合には添加水が15質量%であるといったように、炭酸化の促進には最適な添加水分の量が存在するとしている。また、特許文献2は、製鋼スラグをCO
2吸収剤として利用する発明の例であるが、製鋼スラグと炭酸ガスの反応を効率的に行うには、製鋼スラグの粒子表面に水膜が存在する程度に水分を添加する必要があるとしている。
【0006】
一方で、特許文献3では、バッチ式回転炉や撹拌羽を有したロータリータイプの反応容器を用いて、製鋼スラグに機械的手段での撹拌(機械撹拌)を付与しながら、水の共存下(好ましくは固体物100重量部に対して4〜30重量部の水分量)において、CO
2含有ガスを供給して炭酸化処理する方法を記載している。すなわち、この特許文献3記載の方法は、機械撹拌を付与することで、常に新たな製鋼スラグをCO
2と接触させると共に、炭酸化処理中に生成したCaCO
3により製鋼スラグ内部への水の浸透が阻害されないようにCaCO
3膜を破壊し、或いは亀裂を生じさせて、製鋼スラグ内部にCO
2が拡散されるようにしている。
【0007】
また、特許文献4には、篩下粒径5mm以下を20質量%以上含むような粉状製鋼スラグを有効利用するために、自由水が存在し始める水分値未満で、かつ該水分値よりも5質量%少ない値以上の範囲に水分量を調整し、炭酸ガスを含有したガスを供給して、機械的手段での撹拌を付与しながら炭酸化処理する方法が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳しく説明する。
〔攪拌装置について〕
先ず、機械撹拌を付与して製鋼スラグを炭酸化処理する手段としては、製鋼スラグを撹拌しながら二酸化炭素を含有したガス(CO
2含有ガス)を供給することができればよく、例えば、
図1に示したようなドラムミキサー1や、
図2に示したようなプロシェアミキサー11等のような公知の撹拌装置を用いることができる。
【0019】
すなわち、
図1に示したドラムミキサー1では、蓋1bを有した円筒形の反応容器1a内に製鋼スラグSを投入して、反応容器自体(ミキサー)を回転させて製鋼スラグSを連続的に撹拌しながら、蓋1bに取り付けられたガス供給管2からCO
2含有ガスを供給して、炭酸化処理する。反応に使用されなかったCO
2含有ガスは、円筒形反応容器1aの底側の排気孔(図示外)から排気される。また、
図2に示したプロシェアミキサー11は、円筒形の反応容器11aの内部に撹拌翼(プロペラ)3を備えたものであって、処理する製鋼スラグSを反応容器(ミキサー)11aに投入すると共に撹拌翼3を収容して、ミキサーの蓋11bをして撹拌翼3の回転を開始する。CO
2含有ガスの流入、流出に関してはいくつか方法が考えられるが、例えば、撹拌翼3の軸部3aから所定流量を流入させ、炭酸化処理終了までその状態を維持する。炭酸化の反応に寄与しなかったCO
2含有ガスは、軸部3aと蓋11bの隙間を通じて系外に放出される。
【0020】
先の
図1に示したドラムミキサーについては、反応容器内面に鉄板等で撹拌翼を取り付けたり、
図2に示したような撹拌翼を更に備えるようにすることもできる。また、反応容器を傾斜させたパンミキサーのような形態にて処理したり、
図3に示したようなロータリーキルン21によって、スラグ投入口4から反応容器21a内に製鋼スラグを投入し、連続的に炭酸化処理して、生産性をより高めるようにすることもできる。一方、
図2に示したプロシェアミキサー11については、撹拌翼の枚数を増やしたり、回転軸の複数個所に撹拌翼を設けたり、アイリッヒミキサーのようにして撹拌翼を反応容器の中心からずらした位置に取り付けるようにすることもできる。なお、特に制限はないが、ドラムミキサーやプロシェアミキサー等を使用する場合には、反応容器内で製鋼スラグが十分に流動できるように、その容積に対して50%以下程度の占積率となるスラグ量で炭酸化するのが望ましい。
【0021】
これらのような装置を用いて機械撹拌を付与して製鋼スラグを炭酸化処理することで、常に新たな製鋼スラグをCO
2含有ガスと接触させることができ、また、破壊効果によって製鋼スラグ内部への拡散が維持されることから、一般には、製鋼スラグの炭酸化が促進されると考えられてきた。
【0022】
すなわち、機械撹拌を行うドラムミキサーやプロシェアミキサーといったミキサーは、混練、混合、造粒等の目的で使用されることが多く、より高い撹拌効果を得るために、一般的には撹拌フルード数Fr=1.0×10
-4以上の撹拌条件で使用される。そのため、製鋼スラグの炭酸化処理においても、従来法では、これと同等乃至はそれより高い撹拌フルード数Frが採用されている。例えば、先の特許文献3では、その実施例1に記載された撹拌条件を撹拌フルード数Frに換算すると、Fr=5.7×10
-3の機械撹拌下で炭酸化が行われることになる(特許文献3の段落0022参照)。また、特許文献4については、その実施例では、反応容器の体積約10m
3のコンクリートミキサーを使って2rpmの速度で回転させて炭酸化処理している。これを反応容器の体積8.9m
3の通常サイズのミキサー車だとすれば、反応容器の最大径は2.1mであることから撹拌フルード数Frは2.3×10
-4になる(特許文献4の段落0096、0102参照)。
【0023】
ところが、本発明者らが詳しく検証したところ、製鋼スラグの炭酸化処理においては、単に撹拌強度を高めることが処理時間の短縮につながるわけではなく最終的に効果が飽和するばかりか、撹拌強度を高めることがかえって炭酸化処理の時間を遅らせてしまうことがあるという事実を突き止めた。すなわち、機械撹拌を付与して製鋼スラグを炭酸化する際の処理に要する時間と撹拌フルード数Frとの関係について、以下のような炭酸化処理試験を行ったところ、
図4に示したとおり、炭酸化処理中の水分量が高い場合には撹拌フルード数Frを大きくするとかえって炭酸化処理の時間が長時間化することが判明した。
【0024】
〔炭酸化処理試験(1):炭酸化処理における製鋼スラグの水分量と、撹拌強度と、処理時間との関係〕
この炭酸化処理試験(1)においては、含水率が3質量%、同4質量%、同5質量%、及び同6質量%の4水準の製鋼スラグを用意し、先の
図1に示したようなドラムミキサー(円筒形反応容器の内径φ=0.6m、長さL=0.6m)を用いて、60kgの製鋼スラグを投入し、CO
2濃度が100%の乾燥した純CO
2ガス(湿度0%)を0.2L/min/kg-slagの流量で供給しながら、回転数nを調整して(約0.1〜25rpmの範囲)、各水準の製鋼スラグをそれぞれ所定の撹拌フルード数で機械撹拌した。そして、この炭酸化処理の過程で、定期的にそれまでの炭酸化処理がなされた製鋼スラグ(処理済スラグ)を取り出し、この処理済スラグから溶出されるアルカリ溶出水のpHを測定し、アルカリ溶出水がpH<10となった時間を炭酸化完了時間(hour)としてプロットした。結果を
図4に示す。
なお、アルカリ溶出水のpH測定については、土懸濁液のpH試験方法(地盤工学会基準:JGS0211-200)を参考にし、スラグ70gと水210g(液固比L/S=3)を混合し、30秒間撹拌した後、14分30秒静置した試料についてガラス電極式pH計を用いて行った。
【0025】
ここで、上記の炭酸化処理試験(1)において上記の如き含水率を有する製鋼スラグを用いたのは、一般に、製鋼スラグは、遊離CaOによる膨張性を抑えるために、数ヶ月間大気中に暴露する大気エージングや水蒸気に数日暴露する蒸気エージング等のエージング処理が施され、平均的に6〜8質量%程度の水分を保有することになるが、その後は、通常、ヤードにて山積み保管され、夏場の日照り時等には乾燥によって水分が低下することもあるからであり(製鋼スラグの含水率は、水分の蒸発と吸着が平衡状態になる平衡水分量0.5質量%が実測下限である。)、このような一般的な製鋼スラグの状態をして所定の水分を保有した製鋼スラグを乾燥処理して調製したものである。
なお、上記の炭酸化処理試験(1)中はドラムミキサーに蓋をして水分量を維持し、また、試験中に外部からの水分添加を行わなかったので、用意した製鋼スラグの含水率を炭酸化処理中の水分量とみなすことができる。また、この含水率(水分量)とは、製鋼スラグ(dry)と水分の合計における水分の質量分率であり、例えば水分量6質量%は製鋼スラグ94g(dry)に対して水が6g存在する状態を意味する。
【0026】
そして、
図4に示した炭酸化処理試験(1)の結果から明らかなように、撹拌強度が高い領域〔1.0×10
-4<Fr≦1.0×10
-2(ドラムミキサーの回転数n=2.5〜25rpm)〕では、含水率3質量%の製鋼スラグはその炭酸化処理の処理時間が短縮される傾向を示すものの、含水率4質量%の製鋼スラグの場合には僅かではあるが処理時間に遅れが見られ、5質量%及び6質量%の場合には、炭酸化処理の完了までの時間がかえって長時間化している。一方で、撹拌強度が従来考えられていた撹拌強度より低い領域〔1.0×10
-6≦Fr1.0×10
-4(ドラムミキサーの回転数n=0.25〜2.5rpm)〕では、炭酸化処理の完了までにさほどの時間を必要とせず、製鋼スラグの含水率によらずにほぼ同じ時間で炭酸化処理を完了させることができる。
【0027】
ここで、
図4に示されるように、製鋼スラグの含水率が4質量%を超える場合に炭酸化処理が完了するまでの処理時間が長時間化する理由について、上述したように、本発明者らは、製鋼スラグが炭酸化処理の過程で造粒されて疑似粒子(造粒物)を形成することに起因するものと考えている。
すなわち、炭酸化処理の際に、処理対象の製鋼スラグに含まれる遊離CaO及び/又はCa(OH)
2〔水可溶性Ca分(f-CaO)〕の含有量(f-CaO含有量)がある一定量を超え、また、水分量が多い場合には、水可溶性Ca分が漆喰の場合と同様に固結材として働き、製鋼スラグを機械撹拌した際に、
図11に示すように、水を介してスラグ粒子が造粒されて擬似粒子を形成し、このような造粒物の状態になると、その表層のスラグは炭酸化されるものの、造粒物の内部にはCO
2含有ガスが浸入できず、或いは侵入し難くなり、機械撹拌による破壊効果で造粒物の表面に亀裂が入りその内部まで炭酸化が進行し易くなる効果よりも、造粒物内部のスラグが炭酸化され難くなる影響の方が大きく、結果として炭酸化処理に余計な時間が掛かってしまい、炭酸化処理が完了するまでの処理時間が長くなる。
【0028】
図5には、この炭酸化処理試験(1)において含水率を調整する前の原鉱の製鋼スラグB(元来約7質量%の水分を保有し、下記、実験例2でも使用。)の粒度分布が示されている。なお、この
図5には、原鉱の製鋼スラグBを絶乾状態(含水率0質量%)に乾燥させた場合の粒度分布を併せて示しているが、水分調整によってスラグの粒度分布にほとんど変化は見られなかった。
また、下記表1には、この原鉱の製鋼スラグBについてのJIS Z8801-1に規定の目開き2.36mmふるいの篩下のスラグ粒(2.36mm篩下スラグ粒)の質量分率(T
1)と、製鋼スラグBの含水率を4.0質量%に調整して得られた含水率調整スラグをFr=1.0×10
-2の撹拌条件で炭酸化処理をして得られた処理済スラグの2.36mm篩下スラグ粒の質量分率(T
2)と、原鉱の製鋼スラグBの含水率を5.0質量%に調整してられた含水率調整スラグを同じFrで炭酸化処理をして得られた処理済スラグの2.36mm篩下スラグ粒の質量分率(T
2)とが示されている。この表1から分かるように、含水率が4.0質量%の含水率調整スラグでは、2.36mm篩下スラグ粒の質量分率(T
2)は原鉱のものと変化がない(減少割合:[(T
1-T
2)/T
1]×100:0%)のに対し、含水率が5.0質量%の含水率調整スラグでは、2.36mm篩下スラグ粒の質量分率(T
2)は原鉱のものより32%(減少割合:32%)も低下していた。つまり、製鋼スラグBと処理済スラグとの間の炭酸化処理前後において細粒分の割合が減少しており、造粒が生じたと考えられる。なお、造粒の有無を2.36mm篩下スラグ粒で評価したのは、JIS A5015に規定される道路用路盤材の製鋼スラグのなかで最も汎用される呼び名CS-20、CS-30、CS-40の粒度範囲で最小の篩目が2.36mmであるためである。
【0030】
〔炭酸化処理試験(2):炭酸化処理における製鋼スラグのf−CaO含有量と2.36mm篩下スラグ粒の割合との関係〕
表2に示す組成及び水分量を有する製鋼スラグA〔JIS A5015道路用路盤材:CS-30(粒度範囲30〜0mm)〕、製鋼スラグB〔JIS A5015道路用路盤材:CS-30(粒度範囲30〜0mm)〕、及び製鋼スラグC〔JIS A5015道路用路盤材:CS-30(粒度範囲30〜0mm)〕について、各製鋼スラグA、B及びCの2.36mm篩下スラグ粒の質量分率(T
1)と、強撹拌領域Fr=1.0×10
-2の撹拌条件で炭酸化処理を完了して得られた処理済スラグの2.36mm篩下スラグ粒の質量分率(T
2)とを上記と同様にして測定し、製鋼スラグA、B及びCとこれら製鋼スラグA、B及びCを炭酸化処理して得られた各処理済スラグとの間における2.36mm篩下スラグ粒の質量分率の減少割合([(T
1-T
2)/T
1]×100:%)を調べた。結果を表2に示す。
【0032】
造粒が進行すると微粉分が造粒の進行に伴って減少する。従って、表2に示すように、炭酸化後のスラグ(処理済みスラグ)について2.36mm篩下スラグ粒の割合を算出した。強撹拌領域Fr=1.0×10
-2で炭酸化処理を行った場合、f−CaO量の増加に伴って処理後の2.36mm篩下スラグ粒の質量分率の減少割合(%)が増加する、つまり造粒が進行していく傾向にある。従って、この2.36mm篩下スラグ粒の炭酸化処理後/処理前の割合と炭酸化処理における製鋼スラグのf−CaO含有量(f-CaO含有量:製鋼スラグA=2.10質量%、同B=6.20質量%、同C=0.20質量%)との関係を求めた。
【0033】
その結果、
図12にグラフを示すような2.36mm篩下スラグ粒の
炭酸化処理後/処理前の割合y(処理後の2.36mm篩下スラグ粒の残存割合:%)と製鋼スラグ中の水可溶性Ca分の含有量x〔f-CaO含有量(質量%)〕との間にy=13.4x
-1.28(0.21<x);y=100(0.21≧x)の相関関係が得られた。また、本発明において、2.36mm篩下スラグ粒の炭酸化処理後/処理前の割合y≦70となる場合に造粒が進行したと考え、y=13.4x
-1.28(0.21<x);y=100(0.21≧x)の相関関係より、強撹拌領域Fr=1.0×10
-2で炭酸化処理を行った場合に造粒が進行する製鋼スラグ中の水可溶性Ca分の含有量xを算出するとx≧0.28となった。すなわち製鋼スラグに含まれる水可溶性Ca分の含有量(f-CaO含有量)が0.28質量%以上である場合、強撹拌領域Fr=1.0×10
-2で炭酸化処理を行うと造粒が進行し、結果として炭酸化の進行が遅くなってしまう。なお、2.36mm篩下スラグ粒の炭酸化処理後/処理前の割合y≦70の際に造粒が進行したと考える理由としては、後述の実験例2で造粒が進行し、溶出水pHの低下が遅れる傾向にあった水分量5質量%の水準で2.36mm篩下スラグ粒の減少割合
([(T1-T2)/T1]×100:%)が32%であったことによる。また、この
図12の相関関係から読み取ったx:f−CaO含有量(質量%)とy:
処理後の2.36mm篩下スラグ粒の
残存割合(%)の関係は表3に示したとおりである。
【0035】
以上のような知見のもと、本発明では、機械的手段での撹拌下に行う製鋼スラグの炭酸化処理において、2.36mm篩下スラグ粒の炭酸化処理前後の減少割合〔[(T
1-T
2)/T
1]×100〕が30%未満となるようにする。これを満足させる具体的な方法としては、次のような第1の実施形態に係る発明と第2の実施形態に係る発明とが挙げられる。
【0036】
〔第1の実施形態〕
先ず、第1の実施形態としては、その機械撹拌を撹拌フルード数Frが1.0×10
-6≦Fr≦1.0×10
-4となる撹拌条件で行うものであり、このような撹拌条件で炭酸化処理を行うことにより、製鋼スラグ中の水可溶性Ca分の含有量〔f-CaO含有量(質量%)〕に関係なく、また、製鋼スラグ中の水分量に関係なく、炭酸化処理前後の減少割合〔[(T
1-T
2)/T
1]×100〕を30%未満にしながら炭酸化処理中の造粒を抑制して(造粒抑制効果)、炭酸化処理を効率良く実施することができる。この撹拌フルード数Frの撹拌条件で炭酸化を行うことで、上述した強撹拌領域Fr=1.0×10
-2で炭酸化処理を行った場合に造粒が進行し炭酸化の進行が遅くなってしまう製鋼スラグ中の水可溶性Ca分の含有量x≧0.28(質量%)においても特に造粒は進行せず、炭酸化時間は遅くならない。そのため、x≧0.28(質量%)の場合にその造粒抑制効果が顕著に発揮される。
【0037】
ところで、この第1の実施形態の発明において、製鋼スラグの含水率が4質量%未満の場合には、上記範囲より高い撹拌フルード数Frにより炭酸化をより速く完了させることができるが、元来、製鋼スラグはそれよりも多い水分を保有することがあり、その場合に事前に乾燥する等して水分を調整するには別途の処理や装置が必要になってしまう。また、保管環境等によって保有する水分が増減し、事実上その量を管理し得ない製鋼スラグを一度に多量処理する炭酸化処理において、事前に全ての水分を把握することは現実的ではない。そのため、撹拌フルード数Frを従来法より低くして、スラグの造粒を抑えて炭酸化を完了させることは、多少の撹拌効果を犠牲にしても、結果的に工業生産性良く製鋼スラグの炭酸化処理を行うことになる。
【0038】
ただし、撹拌フルード数Frを下げ過ぎると撹拌効果そのものが十分に得られないことから、上記範囲の撹拌フルード数Frで機械撹拌を行うようにする。また、炭酸化処理の完了までの処理時間とのバランスを考慮すると、この第1の実施形態における炭酸化処理の機械撹拌は、好ましくは撹拌フルード数Frが1.0×10
-6≦Fr≦1.0×10
-5となる撹拌条件で行うのがよく、最も好ましくはFr=1.0×10
-5付近で行うのがよい。ちなみに、生産性の高い連続処理が可能なロータリーキルンを撹拌装置として使用する場合には、撹拌フルード数Frが小さい方がロータリーキルンの機長を短くできるメリットもある。例えば、処理能力25t/時、キルン直径2.8m(この直径が陸路輸送の限界)の水平キルンを想定してVahlの式〔(社)日本粉体工業技術協会、プロセス用キルン、p65-68〕で機長を計算すると、Fr=1.0×10
-2の場合(10.6rpm)には、炭酸化処理完了までの処理時間を1時間として約50mの機長を有するロータリーキルンが必要になるが、これに対してFr=1.0×10
-5の場合(0.4rpm)には、炭酸化完了時間を2時間とすれば機長は約17mに短縮することができる。
【0039】
また、この第1の実施形態においては、エージング処理後にヤードで山積み保管された製鋼スラグについて、蓋を有したドラムミキサー等の閉鎖系の撹拌装置を用いて、特に外部から水分を添加せずに、エージング処理後の製鋼スラグが保有する水分を利用して炭酸化処理することができる。ヤードに保管された製鋼スラグは、周辺環境や季節、保管期間等によってスラグ自身が保有する水分(含水率)が様々であることから、上記撹拌フルード数Frの範囲で機械撹拌することで、製鋼スラグの含水率の変動に影響されずに造粒を抑制して、効率的に製鋼スラグを炭酸化処理することができる。なかでも、含水率が5質量%以上8質量%以下の製鋼スラグ、好ましくは含水率が5質量%以上6質量%以下の製鋼スラグをそのまま炭酸化処理する場合に好適である。なお、本発明では、この第1の実施形態や下記第2の実施形態を含めて、炭酸化処理中に外部から水を添加することを排除しておらず、仮に炭酸化処理中に乾燥が進行してしまう場合には、勿論、炭酸化処理中に水分を添加して所定の水分量を維持するようにしてもよい。
【0040】
〔第2の実施形態〕
また、第2の実施形態としては、i)炭酸化処理中の水分量を4質量%以下にするか、又は、ii)炭酸化処理する対象の製鋼スラグに含まれる水可溶性Ca分(f-CaO)の含有量(f-CaO含有量)が0.28質量%未満であれば、機械攪拌を攪拌フルード数Frが1.0×10
-4<Frの攪拌条件で行うものであり、このような炭酸化処理によっても炭酸化処理前後の減少割合〔[(T
1-T
2)/T
1]×100〕を30%未満にしながら炭酸化処理中の造粒を抑制して(造粒抑制効果)、炭酸化処理を効率良く実施することができる。
【0041】
このうち、炭酸化処理中の水分量に係るi)の条件は、先の炭酸化処理試験(1)の結果や下記実験例2の結果をもとにするものであり、製鋼スラグのf−CaO含有量に係るii)の条件は、先の炭酸化処理試験(2)の結果や下記実験例3の結果をもとにするものである。すなわち、i)炭酸化処理中の水分量が4質量%以下、好ましくは3質量%以下であれば、
図4や、
図8の炭酸化時間とpHの関係からも分かるように、製鋼スラグのf−CaO含有量が10質量%といった高い値であっても炭酸化処理での造粒を抑制することができ、また、ii)製鋼スラグのf−CaO含有量が0.28質量%未満であれば、先の炭酸化処理試験(2)における製鋼スラグCの結果からも分かるように、含水率(水分量)が9.4質量%といった室温での飽和状態に近い値であっても炭酸化処理での造粒を抑制することができる。なお、この第2の実施形態における機械的攪拌手段の攪拌フルード数Frの実質的な上限値は、臨界回転数をNcrとすれば、Ncr=30/(D/2)
1/2(rpm)であることを考慮すると、Fr=D(Ncr/60)
2/gで計算される値となる〔D:反応容器内径又は撹拌翼径(m)、g:重力加速度(9.8m/sec
2)〕。
【0042】
本発明においてCO
2含有ガスは、上記のような第1及び第2の実施形態を含めて、常に一定流量を流し続ける連続式の供給であってもよく、或いは、ドラムミキサー等の密閉された反応容器内のCO
2含有ガスを圧力制御して減少分を逐一供給する、圧力制御式で供給してもよい。連続式の場合には、例えば、供給量の目安として、スラグ1kg当たり、二酸化炭素を含有するガスを0.2L/min以上で供給するのが望ましい。圧力制御式の場合には、例えば、反応容器内を0.05MPaG程度の圧力にして、常にCO
2濃度が高い状態を維持するのが望ましい。
【0043】
このCO
2含有ガスとしては、排ガスのようなCO
2濃度が数%程度の低濃度のものを用いることもできるが、効果的に炭酸化を行うためには、できる限りCO
2濃度の高いものを使用するのが望ましい。更には、CO
2含有ガスの相対湿度によって炭酸化処理中の水分量を調整することも可能であるが、蓋を有したドラムミキサー等のような密閉された反応容器を用いて、エージング処理後の製鋼スラグをそのまま処理するような場合には、水分を含まない乾燥したCO
2含有ガスを用いるのが好適である。
【0044】
また、本発明においては、炭酸化処理を0〜80℃の温度で行うのが望ましい。0℃未満になるとスラグ中の水分が凍ってしまうことから反応が進まなくなる。一方で、80℃を超えると水分の蒸発によってスラグが乾燥してしまう。そのため、炭酸化処理の雰囲気が80℃を超えるような場合には、乾燥で失われた水分と同じ量の水分を加水しながら炭酸化を行うようにするのが望ましい。なお、処理対象の製鋼スラグの含水率を事前に把握している場合には、水分計で炭酸化処理中の雰囲気を計測し、必要に応じて水分を添加する等して水分量を制御することができる。
【0045】
一方、処理対象の製鋼スラグについては、天然砕石や骨材の代替品等に利用すること等を考慮すると、0〜50mmの範囲で粒度分布を有するものであるのがよい。なかでも微粉が少ない方が望ましく、1mm以下の微粉が質量分率で20質量%以下であるのがよい。特に本発明においては、炭酸化処理における造粒が抑えられることから、例えば、JIS A5015道路用路盤材であるCS-40(粒度範囲40〜0mm)、CS-30(粒度範囲30〜0mm)、CS-20(粒度範囲20〜0mm)等に相当する粒度に粒度調整された製鋼スラグを炭酸化処理することで、その後の利用に有利である。
【実施例】
【0046】
以下、各実験例に基づき本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の内容に制限されるものではない。
【0047】
(実験例1)
表2に示す組成を有する製鋼スラグAを原鉱として、以下の条件で機械撹拌しながら炭酸化試験を行った。この原鉱の製鋼スラグAは、エージング処理が施されており、ヤード保管時に約6質量%の水分を保有していたため、天日により乾燥させる水分調整を行って、含水率3.0質量%、同4.4質量%、同5.4質量%、及び同6.0質量%の4水準の試験用製鋼スラグを用意した。なお、製鋼スラグの含水率は水分調整したスラグから約150gを採取し、110℃の乾燥炉で乾燥させて前後の質量差を比較することにより求めた。
【0048】
上記で準備した各含水率の試験用製鋼スラグについて、内径φ=0.56m、長さL=0.8mの円筒形反応容器を有して内部に撹拌翼を備えたドラムミキサーにスラグ量120kgで投入して蓋をし(占積率40%)、蓋に取り付けられたガス供給管からCO
2濃度が100体積%の乾燥した純CO
2ガス(湿度0%)を0.2L/min/kg-slagの流量で供給して、ドラムミキサーの回転数を0.5rpmで機械撹拌しながら、各水準の試験用製鋼スラグについてそれぞれ炭酸化試験を行った。すなわち、この機械撹拌は、先の式に従えば、撹拌フルード数Fr=4.0×10
-6に相当する。なお、炭酸化に使われなかった純CO
2ガスは、円筒形反応容器の底側の排気孔から排気した。また、撹拌翼については高さ10cmのものを4枚、均等に円筒形反応容器の内面に配置したが、本実験例では占積率が40%と大きかったことから、スラグ中に埋もれてしまうため、スラグの撹拌にほとんど影響を与えなかった。
【0049】
そして、上記で準備した各含水率の試験用製鋼スラグについて、炭酸化試験の開始時(0分)の各試験用製鋼スラグと、炭酸化試験の開始後15分、同30分、同45分、同60分、及び同90分の時点でドラムミキサー内から採取した処理済スラグとについて、スラグから溶出されるアルカリ溶出水のpHを先の炭酸化処理試験(1)と同様にして測定した(但し、含水率4.4質量%の製鋼スラグについては開始後80分の時点でも実施し、また、含水率6.0質量%の試験用製鋼スラグについては試験開始時、及び開始後60分の場合のみ実施した。)。結果を
図6にまとめて示す。なお、この炭酸化試験は蓋をした閉鎖系での反応であって、系外に排出されるガス量も僅かであり、しかもスラグの炭酸化中の温度はおよそ30℃であったことから、各水準の試験用製鋼スラグの実験終了後の含水率の変化は殆どなかった。また、炭酸化試験中に外部からの水分添加は行わなかったことから、用意した試験用製鋼スラグの含水率が炭酸化処理中の水分量であるとみなすことができる。
【0050】
炭酸化処理の処理時間とアルカリ溶出水のpHとの関係については、製鋼スラグ中の水可溶性Ca分である遊離CaOやCa(OH)
2が炭酸化によって消費されるにつれて溶出水pHが低下することから、このpH推移を調べることで炭酸化の進行度合いを評価することができる。すなわち、
図6に示した結果から明らかなように、いずれの含水率の試験用製鋼スラグの場合でも処理済スラグからのスラグ溶出水のpHがほぼ同様に低下しており、1時間の炭酸化によりpHが10未満に下がることが分かる。すなわち、撹拌フルード数Fr=4.0×10
-6の機械撹拌によれば、製鋼スラグの含水率が比較的高い場合でも、含水率が低い場合と同じように炭酸化処理を行うことができることが確認された。
【0051】
また、上記の水分量4水準の試験用製鋼スラグについて、炭酸化試験を開始して60分後に得られた処理済スラグについて、それぞれの粒度分布を測定した。結果は
図7に示したとおりであり、原鉱の製鋼スラグAの粒度分布とほとんど変わりはなかった。表4には、これら各処理済スラグについて、JIS Z8801-1に規定の目開き2.36mmふるいの篩下スラグ粒(2.36mm篩下スラグ粒)の質量分率(T
2)を示しているが、いずれの含水率の製鋼スラグにおいても原鉱の製鋼スラグにおける2.36mm篩下スラグ粒の質量分率(T
1)に比べて、2.36mm篩下スラグ粒の質量分率減少割合([(T
1-T
2)/T
1]×100:%)が20%以下であり、造粒が抑えられていることが分かる。
【0052】
【表4】
【0053】
(実験例2)
表2に示す組成を有する製鋼スラグBを原鉱として、以下の条件で機械撹拌しながら炭酸化試験を行った。この原鉱の製鋼スラグBは、実験例1の製鋼スラグAと同様、エージング処理が施されており、ヤード保管時に約7質量%の水分を保有していたため、天日により乾燥させる水分調整を行って、含水率2.5質量%、同4.0質量%、同5.0質量%、同6.3質量%、及び同7.0質量%の5水準の試験用製鋼スラグを用意した。なお、これら試験用製鋼スラグの含水率は実験例1と同様にして求めたものである。
【0054】
上記で準備した各含水率の試験用製鋼スラグについて、内径φ=0.6m、長さL=0.6mの円筒形反応容器を有して内部に撹拌翼を備えたドラムミキサーにスラグ量60kgで投入して蓋をし(占積率40%)、蓋に取り付けられたガス供給管からCO
2濃度が100%の乾燥した純CO
2ガス(湿度0%)を0.2L/min/kg-slagの流量で供給して、ドラムミキサーの回転数を23rpmで機械撹拌しながら、各水準の試験用製鋼スラグについてそれぞれ炭酸化試験を行った。この機械撹拌は、先の式に従って、撹拌フルード数Fr=9.0×10
-3と計算される。なお、炭酸化に使われなかった純CO
2ガスは、実験例1と同様に円筒形反応容器の底側の排気孔から排気した。
【0055】
そして、上記で準備した各含水率の試験用製鋼スラグについて、炭酸化試験の開始時(0分)の各試験用製鋼スラグと、炭酸化試験の開始後15分、同30分、同60分、及び同90分の時点でドラムミキサー内から採取した処理済スラグとについて、スラグから溶出されるスラグ溶出水のpHを測定した(但し、含水率6.3質量%及び同7.0質量%のスラグについては開始後120分についても実施し、開始後15分の時点の測定は行わなかった)。結果を
図8にまとめて示す。なお、この実験例2に係る炭酸化試験においても実験例1と同様の閉鎖系での反応であり、炭酸化試験中に外部からの水分添加は行わなかったことから、用意した試験用製鋼スラグの含水率が炭酸化処理中の水分量であるとみなすことができる。このうち、
図9には、含水率5.0質量%の試験用製鋼スラグが試験中に保有した水分変化量を示しているが、初期水分量5.0質量%に対して、90分の炭酸化処理後の水分量は4.8質量%であり、炭酸化反応によって水分はほとんど消費されていないことが分かる。また、アルカリ溶出水のpH測定については、先の炭酸化処理試験(1)と同様にして行った。
【0056】
図8に示した結果から明らかなように、含水率が2.5質量%及び4.0質量%の試験用製鋼スラグについては、溶出水のpHがほぼ等しく低下しているが、含水率5.0質量%以上、なかでも6.3質量%及び7.0質量%の試験用製鋼スラグでは、溶出水のpH低下が遅れる傾向にあることが分かる。また、
図10には、炭酸化試験を開始して60分後の試験用製鋼スラグの粒度分布が示されており、含水率が2.5質量%及び4.0質量%の場合には、原鉱の製鋼スラグBの粒度分布とほとんど差はないのに対し、含水率5.0質量%以上の場合には原鉱スラグと比較してスラグ粒子が粗くなる傾向の粒度分布を示した。表5には、これらの試験用製鋼スラグについて、JIS Z8801-1に規定の目開き2.36mmふるいの篩下の質量分率を示しているが、含水率が5.0質量%以上の試験用製鋼スラグでは、炭酸化処理後に粒径2.36mm以下のスラグの質量分率が原鉱の場合の70%未満まで低下しており、造粒が生じたと考えられる。
【0057】
【表5】
【0058】
(実験例3)
表2に示す組成を有する製鋼スラグC(f-CaO含有量:0.20質量%)を原鉱として、以下の条件で機械撹拌しながら炭酸化試験を行った。この原鉱の製鋼スラグCは、実験例1の製鋼スラグAと同様、エージング処理が施されており、ヤード保管時に約4〜6質量%の水分を保有していたため、天日により乾燥させる水分調整を行って、含水率2.1質量%、同4.6質量%、及び同9.4質量%の3水準の試験用製鋼スラグを用意した。なお、製鋼スラグの含水率は実験例1と同様にして求めたものである。
【0059】
上記で準備した各含水率の試験用製鋼スラグについて、内径φ=0.6m、長さL=0.6mの円筒形反応容器を有して内部に撹拌翼を備えたドラムミキサーにスラグ量60kgで投入して蓋をし(占積率23%)、蓋に取り付けられたガス供給管からCO
2濃度が100%の乾燥した純CO
2ガス(湿度0%)を0.2L/min/kg-slagの流量で供給して、ドラムミキサーの回転数を23rpmで機械撹拌しながら、各水準の試験用製鋼スラグについてそれぞれ炭酸化試験を行った。この機械撹拌は、先の式に従って、撹拌フルード数Fr=9.0×10
-3と計算される。なお、炭酸化に使われなかった純CO
2ガスは、実験例1と同様に円筒形反応容器の底側の排気孔から排気した。
【0060】
そして、上記で準備した各含水率の試験用製鋼スラグについて、炭酸化試験の開始時(0分)、開始後15分、同30分、及び同60分の時点でドラムミキサー内のスラグを一部取り出して、スラグから溶出される溶出水のpHを測定した。このような炭酸化試験を3水準の試験用製鋼スラグに対して行い、結果を
図13にまとめて示す。なお、この実験例3に係る炭酸化試験においても実験例1と同様の閉鎖系での反応であり、炭酸化試験中に外部からの水分添加は行わなかったことから、用意した試験用製鋼スラグの含水率が炭酸化処理中の水分量であるとみなすことができる。また、アルカリ溶出水のpH測定については、先の炭酸化処理試験(1)と同様にして行った。
【0061】
図13に示した結果から明らかなように、炭酸化試験の開始時から開始後60分の時点まで、これら水分量3水準の試験用製鋼スラグの間にpH値の顕著な差は認められなかった。
【0062】
また、
図14には、上記の3水準の試験用製鋼スラグについて、炭酸化試験を開始して60分後に得られた各処理済スラグについて、それぞれの粒度分布を測定し、原鉱の製鋼スラグC(原料スラグ)の粒度分布と比較した。
図14に示した結果から分かるように、いずれも原鉱の製鋼スラグCの粒度分布とほとんど変わりはなかった。表6には、これらの試験用製鋼スラグを用いた炭酸化処理で得られた各処理済スラグについて、JIS Z8801-1に規定の目開き2.36mmふるいの篩下スラグ粒の質量分率(T
2)を示しているが、いずれの含水率の製鋼スラグにおいても原鉱の製鋼スラグにおける2.36mm篩下スラグ粒の質量分率(T
1)に比べて、処理済スラグの2.36mm篩下スラグ粒の質量分率(T
2)のほうが多く、2.36mm篩下スラグ粒の質量分率は増加していることが確認でき、造粒による微粉の減少はない。これは、機械攪拌によりスラグが破砕・摩耗して微粉分が増加する効果のほうが、造粒による微粉の減少より影響が大きいためと考えられる。
【0063】
【表6】
【0064】
以上のような実験例1〜3の結果から分かるように、機械的手段での攪拌フルード数Frを1.0×10
-6≦Fr≦1.0×10
-4にして撹拌する(第1の実施形態)か、或いは、炭酸化処理中の水分量が4質量%以下、又は、炭酸化処理する対象の製鋼スラグに含まれる水可溶性Ca分(f-CaO)の含有量が0.28質量%未満の条件下で、機械的手段での攪拌フルード数Frを1.0×10
-4<Frにして攪拌する(第2の実施形態)ことで、2.36mm篩下スラグ粒の炭酸化処理前後の減少割合〔[(T
1-T
2)/T
1]×100〕が30%未満となるように造粒を抑制して製鋼スラグを炭酸化処理することができる。
【0065】
特に、第1の実施形態に係る発明によれば、処理対象の製鋼スラグの水可溶性Ca分の含有量(f-CaO含有量)及び含水率によらずに同程度の時間で炭酸化処理を完了させることができることから、炭酸化処理が不十分なまま処理を終了してしまったり、むやみに長時間の処理を行うようなことがなくなり、効率的に製鋼スラグを炭酸化処理することができる。そして、本発明の炭酸化処理においては、処理中における製鋼スラグの造粒が抑制されることから、炭酸化処理する対象の製鋼スラグを例えば道路用路盤材に相当する粒度に粒度調整しておけば、炭酸化処理して得られた処理済スラグを路盤材用途としてそのまま出荷することもできる。