(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1及び2では、電極活物質粒子並びにバインダとしての結着剤及び分散剤等を分散媒中に分散又は溶解させることでスラリーを得て、そのスラリーを噴霧乾燥等させることにより、活物質層を形成するための複合粒子を得ている。複合粒子を作製するために、電極活物質粒子及び結着剤等を含むスラリーを得た場合、噴霧乾燥等によってスラリーから分散媒を除去する必要があり、複合粒子を作製する工程が煩雑になる。また、スラリーを作製するのにN−メチルピロリドン(NMP)等の有機系の分散媒を用いた場合には、環境負荷が大きくなる。
【0007】
更には、電極活物質粒子及び結着剤等を含むスラリーから複合粒子を作製すると、電極活物質粒子が、分散剤及びバインダとしての結着剤によって覆われてしまい、電極活物質間で電子の導電パスの確保が難しくなってしまう場合がある。電極活物質粒子間で電子の導電パスが確保できないと、蓄電デバイスのレート特性は低下する。また、電極活物質粒子及び結着剤等を含むスラリーから複合粒子を作製した場合、多数の電極活物質粒子が凝集してしまう傾向にある。電極活物質粒子が凝集してしまうことで複合粒子の個々の粒子が大きくなると、電極の活物質層における電極活物質の密度を向上させるのが難しくなる。電極の活物質層における電極活物質の密度が低いと、やはり、蓄電デバイスが十分満足できるレート特性やサイクル特性を得られない場合がある。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、蓄電デバイスのレート特性やサイクル特性等の性能を向上できる電極用複合粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、電極活物質からなる粒子Aと、前記粒子Aより数平均粒子径が小さい、電子伝導性を有する導電助剤からなる粒子Bと、前記粒子Aより数平均粒子径が小さい、バインダからなる粒子Cと、を含み、粒子Bは、導電性粒子bと、該導電性粒子bの表面に結合し且つ芳香環を含むポリマーと、を有し、前記粒子Aと、前記粒子Bと、前記粒子Cと、を乾式混合することで得られる電極用複合粒子に関する。
【0010】
また、前記粒子Bにおける前記ポリマーの含有量は、0.5〜7質量%であることが好ましい。
【0011】
また、前記粒子Aの含有量は、90〜99質量%であることが好ましい。
【0012】
また本発明は、集電体と、前記集電体の表面に、前記電極用複合粒子により形成される活物質層と、を有する電極に関する。
【0013】
また本発明は、電極活物質からなる粒子Aと、前記粒子Aより数平均粒子径が小さい、電子伝導性を有する導電助剤からなる粒子Bと、前記粒子Aより数平均粒子径が小さい、バインダからなる粒子Cと、を乾式混合する混合工程を有し、粒子Bは、導電性粒子bと、該導電性粒子bの表面に芳香環を含むポリマーが結合した電極用複合粒子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、蓄電デバイスの電極の構成材料として使用した場合に電気容量を十分に確保しつつその出力特性を向上させることが可能な電極用複合粒子及びその製造方法を提供できる。すなわち、本発明によれば、蓄電デバイスのレート特性やサイクル特性等の性能を向上させることが可能な電極用複合粒子及びその製造方法を提供できる。
ところで、乾式混合により調製した電極用複合粒子によって集電体表面に活物質層を形成して、蓄電デバイスによる充放電を繰り返した場合、活物質層が膨張・収縮を繰り返すことにより活物質層内における粒子の配置が徐々に変化する。活物質層内における粒子の配置が徐々に変化すると、活物質層内における導電パスの確保が難しくなり、サイクル特性(放電容量)が低下してしまう傾向にある。充放電の繰り返しによるサイクル特性の低下を防止するために、電極用複合粒子に導電助剤を多く含有させて活物質層における導電パスを確保することも考えられる。しかし、電極用複合粒子に導電助剤を多く含有させると、電極活物質の含有量が減少し、蓄電デバイスの容量が小さくなる。
本発明では、導電助剤からなる粒子の導電性粒子の表面に結合したポリマー中の芳香環のπ電子が電極活物質からなる粒子と相互作用するので、電極活物質からなる粒子と導電性粒子とが接近する。また、蓄電デバイスによる充放電の繰り返しによる活物質層の膨張・収縮に、導電性粒子の表面に結合したポリマーが追従できるので、活物質層内における粒子の配置が崩れにくい。このように本発明の電極用複合粒子によれば、電極用複合粒子における導電助剤の含有量を増やすことなく、活物質層における導電パスを容易に確保でき、蓄電デバイスのサイクル特性が更に向上する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<電極用複合粒子>
本実施形態に係る電極用複合粒子(以下、単に「複合粒子」と言う場合がある。)は、電極活物質からなる粒子Aと、電子伝導性を有する導電助剤からなる粒子Bと、バインダからなる粒子Cと、を含む。この複合粒子は、粒子Aと、粒子Bと、粒子Cと、を乾式混合することで得られる。本実施形態において「複合粒子」とは、粒子Aの周辺に複数の粒子B及び粒子Cが付着した粒子である。本実施形態に係る電極用複合粒子は、例えば、リチウムイオン二次電池に代表される蓄電デバイスの正極及び負極に適用される。以下、特に断りのない場合、蓄電デバイス(リチウムイオン二次電池)の正極と負極の両方に適用できる事項についての説明である。
【0017】
本実施形態における粒子Aを構成する電極活物質は、本実施形態に係る電極用複合粒子が適用される蓄電デバイスの種類に応じて選択される。
リチウムイオン二次電池の場合、用いられる正極活物質としては、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiFePO
4、LiFeVO
4、LiNi
0.80Co
0.15Al
0.05O
2、Li(Ni
0.80Co
0.15Al
0.05)
0.99B
0.01O
2、Li(Li・Mn)
2O
4、Li(Li・Mn・Al)
2O
4、Li
1+XNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2、Li
1+XNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2、LiNi
0.80Co
0.15Al
0.05O
2等のリチウム含有複合金属酸化物;TiS
2、TiS
3、非晶質MoS
3等の遷移金属硫化物;Cu
2V
2O
3、非晶質V
2O・P
2O
5、MoO
3、V
2O
5、V
6O
13等の遷移金属酸化物;ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等の導電性高分子等が挙げられる。これらの正極活物質は、必要に応じて単独で、あるいは2種類以上を混合して用いることができる。正極活物質としては、蓄電デバイス(リチウムイオン二次電池)のレート特性を向上させる観点から、Li
1+XNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2を用いることが好ましい。
【0018】
本実施形態において用いられる正極活物質は、粉末状の粒子であれば形状は限定されない。正極活物質は、球状、針状、管状あるいは紐状のいずれの粉末であってもよく、これらの形状の粉末状の粒子が混在していてもよい。粉末状の正極活物質の粒子は、通常の方法によって調製することができる。粉末状の正極活物質の粒子は、例えば、固形物状態の前記材料を粉砕することによって得られる。
【0019】
リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質としては、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維等の炭素質材料及びポリアセン等の導電性高分子等が挙げられる。これらの負極活物質は、必要に応じて単独で、あるいは2種類以上を混合して用いることができる。負極活物質としては、蓄電デバイス(リチウムイオン二次電池)のレート特性を向上させる観点から、グラファイトを用いることが好ましい。
【0020】
本実施形態において用いられる負極活物質は粉末状の粒子であれば形状は限定されない。負極活物質は、球状、針状、管状あるいは紐状のいずれの粉末であってもよく、これらの形状の粉末状の粒子が混在していてもよい。粉末状の負極活物質の粒子は、通常の方法によって調製することができる。粉末状の負極活物質の粒子は、例えば、固形物状態の前記材料を粉砕することによって得られる。
【0021】
粒子Aの数平均粒子径d
Aは、0.1μm以上100μm以下である。数平均粒子径d
Aが、0.1μmよりも小さいと、電極の成形が難しくなり、100μmよりも大きいと、電極の活物質層における電極活物質の密度が小さくなり、蓄電デバイスの性能が低下してしまう。数平均粒子径d
Aは、0.5μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0022】
複合粒子における粒子Aの含有量は、90〜99質量%であることが好ましい。粒子Aの含有量が、90質量%未満であると、蓄電デバイスの容量が低下する傾向にあり、99質量%を超えると粒子A同士の接着性が低下して蓄電デバイスのレート特性やサイクル特性が低下する傾向にある。
【0023】
粒子Bは、導電性粒子bと、該導電性粒子bの表面に結合し且つ芳香環を含むポリマーと、を有する。ポリマー中の芳香環のπ電子が電極活物質からなる粒子Aの表面と相互作用することで粒子Aとポリマーが付着し、粒子Aと導電性粒子bとが接近する。
導電性粒子bは、本実施形態に係る電極用複合粒子が適用される蓄電デバイスの種類に応じて選択される。
リチウムイオン二次電池の電極(正極)に用いられる導電性粒子bとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック及びケッチェンブラック(アクゾノーベル ケミカルズ ベスローテン フェンノートシャップ社の登録商標)等の導電性カーボンブラック;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛等が挙げられる。これらの導電性粒子bは、必要に応じて単独で、あるいは2種類以上を混合して用いることができる。導電性粒子bとしては、高い導電性を有し、容易に入手できることから、導電性カーボンブラックを用いることが好ましい。
【0024】
本実施形態において用いられる導電性粒子bは粒子であれば形状は限定されない。導電助剤は、球状、針状、管状あるいは紐状のいずれの粉末であってもよく、これらの形状の粉末状の粒子が混在していてもよい。導電性粒子bは、通常の方法によって調製することができる。導電助剤の粒子は、例えば、固形物状態の前記材料を粉砕することによって得られる。
【0025】
導電性粒子bの数平均粒子径d
bは、0.001μm以上1μm以下であることが好ましい。数平均粒子径d
bが、0.01μmよりも小さいと、電極の導電性が低くなってしまう傾向にあり、1μmよりも大きいと、電極の活物質層における電極活物質の割合が相対的に小さくなり、蓄電デバイスの性能が低下してしまう傾向にある。数平均粒子径d
bは、0.01μm以上0.1μm以下であることがより好ましい。
【0026】
また、芳香環を含むポリマーとしては、ベンゼン環やナフタレン環等の芳香環を有するポリマーであれば特に限定されず、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられ、例えば、芳香環を有する重合性不飽和モノマーを重合することにより得られる。ここで用いる芳香環を有する重合性不飽和モノマーとしては、スチレン、α−アルキル置換スチレン、核アルキル置換スチレン等が挙げられる。更に、これらの具体例としては、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、p−イソプロピルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。芳香環を含むポリマーとしては、芳香環のπ−πスタック作用による粒子Aへの付着性の向上と、ポリマーが活物質層の膨張と収縮に追従するための柔軟性を得る観点から、スチレンと(メタ)アクリル酸メチルとの共重合体や、ポリパラフェニレンと(メタ)アクリル酸メチルとの共重合体等が好ましく用いられる。
【0027】
芳香環を含むポリマーとして、スチレンを構成単位として含有するポリマーを用いる場合、ポリマー中におけるスチレン由来のモノマー単位の含有量は、1〜50質量%であることが好ましい。ポリマー中におけるスチレン由来のモノマー単位の含有量が、1質量%未満だと粒子Aとポリマーとの付着性が低下する傾向にある。ポリマー中におけるスチレン由来のモノマー単位の含有量が、50質量%を超えると、逆に粒子Aとポリマーとの付着性が向上しすぎることで、複合粒子で形成した活物質層に柔軟性がなくなる傾向にある。
【0028】
芳香環を含むポリマーは、重量平均分子量Mwが1000〜8000であることが好ましい。重量平均分子量Mwが1000未満である場合には、複合粒子で形成した活物質層に柔軟性がなくなる傾向にあり、8000を超える場合には、粒子Aと導電性粒子bとが離れて導電パスを形成し難くなる傾向にある。導電性粒子bの表面に結合したポリマーの分子量は、粒子BとTHF等の溶剤とを混合した液体を遠心分離した後に上澄み液を乾固させて、これにより得られるポリマーをGPCにて分析することで求めることができる。
【0029】
本実施形態における粒子Bは、例えば、導電性粒子bに、芳香環を含むポリマーを構成するモノマーをグラフト重合することによって得ることができる。具体的には、導電性粒子bとモノマーとラジカル重合開始剤であるAIBNとを混合して粒子Bを調製することができる。
【0030】
粒子Bにおける芳香環を有するポリマーの含有量は、0.5〜7質量%であることが好ましい。粒子Bにおけるポリマーの含有量が、0.5質量%未満だと、粒子Aとポリマーとの付着性が低下する傾向にあり、7質量%を超えると、粒子Aと導電性粒子bとが離れて導電パスを形成し難くなる傾向にある。粒子Bにおけるポリマーの含有量は、1〜4質量%であることがより好ましい。
【0031】
粒子Cは、粒子Aより数平均粒子径が小さい。粒子Cは、球状であることが好ましい。ここで、球状とは、真球、楕円体、あるいはこれらの球体が歪んだ形状等を含む概念である。バインダは、集電体の表面に活物質層を形成する工程において、電極活物質からなる粒子A同士を強く結着させる役割を果たす。バインダは、本実施形態に係る電極用複合粒子が適用される蓄電デバイスの種類に応じて選択される。
【0032】
リチウムイオン二次電池の電極に用いられるバインダとしては、フッ素系重合体、ジエン系重合体、アクリレート系重合体、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン系重合等が挙げられる。より具体的には、フッ素系重合体としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサルフオロプロピレンの共重合体等のフッ素樹脂等が挙げられる。また、ジエン系重合体としては、ポリブタジエンやポリイソプレン等の共役ジエン単独重合体;カルボキシ変性されていてもよいスチレン・ブタジエン共重合体(SBR)等の芳香族ビニル・共役ジエン共重合体;アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)等のシアン化ビニル;水素化SBR;水素化NBR等が挙げられる。また、アクリレート系重合体としては、アクリル酸2−エチルヘキシル・メタクリル酸・アクリロニトリル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・メタクリル酸・メタクリロニトリル・ジエチレングリコールジメタクリレート共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・スチレン・メタクリル酸・エチレングリコールジメタクリレート共重合体、アクリル酸ブチル・アクリロニトリル・ジエチレングリコールジメタクリレート共重合体及びアクリル酸ブチル・アクリル酸・トリメチロールプロパントリメタクリレート共重合体等の架橋型アクリレート系重合体;エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体及びエチレン・メタクリル酸エチル共重合体等のエチレンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体;上記エチレンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体にラジカル重合性単量体をグラフトさせたグラフト重合体等が挙げられる。これらのバインダは、必要に応じて単独で、あるいは2種類以上を混合して用いることができる。バインダとしては、電極活物質同士を強く結着させる観点から、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサルフオロプロピレンの共重合体等のフッ素樹脂を用いることが好ましい。
【0033】
粒子Cの数平均粒子径d
Cは、0.01μm以上10μm以下である。数平均粒子径d
Cが、0.01μmよりも小さいと、電極の成形が難しくなり、10μmよりも大きいと、電極の活物質層におけるバインダの割合が大きくなることで、蓄電デバイスの性能が低下してしまう。粒子Cの数平均粒子径が上記範囲内であって粒子Aの数平均粒子径より小さいことにより、粒子Aの全表面が粒子Cで覆われることがなくなり、蓄電デバイスの性能を向上させることが可能となる。数平均粒子径d
Cは、0.1μm以上5μm以下であることが好ましい。
【0034】
本実施形態において用いられるバインダからなる粒子Cは、通常の方法によって調製することができる。バインダからなる粒子Cは、例えば、固形物状態の前記材料を粉砕することによってより得られる。
【0035】
本実施形態に係る電極用複合粒子は、必要に応じてその他の添加剤を含有していてもよい。
【0036】
<電極用複合粒子の製造方法>
本実施形態に係る電極用複合粒子の製造方法は、粒子Aと、粒子Bと、粒子Cと、を乾式混合する混合工程を有する。混合工程では、粒子A、粒子B及び粒子Cとともに、その他の添加剤を乾式混合することができる。
混合工程における乾式混合は、ミキサーを用いて行うことができる。
【0037】
混合工程における粒子Cの混合量は、粒子A100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、3質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。
【0038】
混合工程における粒子Bの混合量は、粒子A100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、2.5質量部以上7質量部以下であることがより好ましい。
【0039】
本実施形態における数平均粒子径d
A、d
B及びd
Cは、以下のように測定する。
まず、数平均粒子径を測定する粒子を導電テープ上に配置し、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察する。続いてランダムに選んだ50個の粒子の直径の平均値を求める。
上記のように、数平均粒子径d
Bや数平均粒子径d
Cは、数平均粒子径d
Aや数平均粒子径d
Xよりも小さい。従って、数平均粒子径d
Bや数平均粒子径d
Cを測定する場合、SEMにより撮影する画像を拡大することで、50個の粒子のランダムに選ぶ範囲を狭くして、数平均粒子径を求める。すなわち、SEMによる撮影範囲は、数平均粒子径を測定する粒子の大きさに応じて適宜設定する。
【0040】
また、数平均粒子径d
Xと数平均粒子径d
Aとの比の値(d
X/d
A)は、0.8以上4以下であることが好ましい。d
X/d
Aは、電極用複合粒子の製造の前における電極活物質からなる粒子Aと、製造された電極用複合粒子との粒子径の違いを表す指標である。d
X/d
Aが、0.8よりも小さい場合、電極用複合粒子の製造において、電極活物質が若干破砕されてしまっていることから、電極活物質の形状が歪になる傾向にある。電極活物質の形状が歪であると、電極の活物質層における電極活物質の密度を高め難くなり、蓄電デバイスの性能が低下してしまう。d
X/d
Aが、4よりも大きい場合、複合粒子が大きくなりすぎるので、電極の活物質層における電極活物質の密度が小さくなり、蓄電デバイスの性能が低下してしまう傾向にある。
【0041】
本実施形態に係る電極用複合粒子の製造方法では、乾式混合によって複合粒子を調製するので、噴霧乾燥や減圧乾燥等を行うことによってスラリー中の分散媒を除去する必要がない。従って、本実施形態に係る電極用複合粒子の製造方法によれば、有機系の分散媒を用いずに比較的簡便に複合粒子を製造することができる。また、本実施形態に係る電極用複合粒子の製造方法では、スラリーを調製する必要がないことから、従来スラリーを調製する場合に用いられていたカルボキシメチルセルロース(CMC)等の分散剤を用いる必要もない。スラリーの含有する分散剤は、スラリー中で電極活物質等を分散させるが、集電体の表面に活物質層を形成する工程においてスラリー中の分散媒を除去した後には電極活物質を被覆し、電極活物質同士の導電を妨げるおそれがあった。また、分散剤は、スラリー中の分散媒を除去した後には活物質同士を結着させてしまう役割も果たしていた。
【0042】
<電極>
本実施形態に係る電極は、蓄電デバイス用の電極であり、集電体と、集電体の表面に、上記の電極用複合粒子により形成される活物質層と、を有する。電極は、集電体の表面に、上記の電極用複合粒子を用いて活物質層を形成することにより得られる。
【0043】
集電体は、電極が用いられる蓄電デバイスの種類によって適宜選択される。リチウムイオン二次電池の正極の場合、集電体としては、アルミニウム箔や、アルミニウムと他の金属との合金の箔膜を用いることが好ましい。リチウムイオン二次電池の負極の場合、集電体としては、銅箔や、銅と他の金属との合金の箔膜を用いることが好ましい。
【0044】
集電体の表面に活物質層を形成する方法は特に限定されず、電極用複合粒子を集電体上に塗布して高温・高圧でプレスすることで活物質層を成形する方法であってもよく、先に粉体組成物をシート状に成形し、次いで、集電体上に積層する方法であってもよい。これらの中でも、電極用複合粒子を集電体上に塗布して高温・高圧でプレスすることで活物質層を成形するのが好ましい。電極用複合粒子を集電体上に塗布して高温・高圧でプレスする方法で活物質層を成形することで、電極活物質の密度が高密度になることから、電極の性能が向上する上に、集電体と活物質層との密着性も向上する。活物質層の成形は、加圧成形装置を用いて行うことができる。活物質層を成形する際の温度としては、活物質層160〜250℃が好ましい。電極材をプレスする温度が160℃よりも小さいと活物質層の成膜性が低下する傾向にあり、250℃よりも大きいと、集電体が変色してしまう場合がある。
【0045】
<蓄電デバイス>
本実施形態に係る蓄電デバイスは、上記の電極を用いる。
蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池、ニッケル−水素二次電池、電気二重層キャパシタ、等を挙げることができる。本実施形態に係る電極は、特にリチウムイオン二次電池用の電極として好ましく用いられる。
【0046】
以上説明した本実施形態に係る電極用複合粒子によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態に係る電極用複合粒子においては、電極活物質からなる粒子Aと、導電助剤からなる粒子Bと、バインダからなる粒子Cと、を乾式混合した。
これにより、蓄電デバイスの電気容量を十分に確保しつつその出力特性を向上させることが可能になる。すなわち、乾式混合により得られた本実施形態に係る電極用複合粒子によって電極の活物質層を形成すれば、電極活物質粒子間における導電パスを容易に確保でき且つ電極活物質の密度を向上させることができるので、蓄電デバイスのレート特性やサイクル特性等の性能を向上させることが可能になる。また、本実施形態に係る電極用複合粒子を用いれば、低い環境負荷で、従来よりも安価に電極を作製することができる。
【0047】
ところで、乾式混合により調製した電極用複合粒子によって集電体表面に活物質層を形成して、蓄電デバイスによる充放電を繰り返した場合、活物質層が膨張・収縮を繰り返すことにより活物質層内における粒子の配置が徐々に変化する。活物質層内における粒子の配置が徐々に変化すると、活物質層内における導電パスの確保が難しくなり、サイクル特性(放電容量)が低下してしまう傾向にある。充放電の繰り返しによるサイクル特性の低下を防止するために、電極用複合粒子に導電助剤を多く含有させて活物質層における導電パスを確保することも考えられる。しかし、電極用複合粒子に導電助剤を多く含有させると、電極活物質の含有量が減少し、蓄電デバイスの容量が小さくなる。
本実施形態では、電助剤からなる粒子Bが、導電性粒子bと、該導電性粒子bの表面に結合し且つ芳香環を含むポリマーと、を有するものとした。
これにより、導電助剤からなる粒子Bの導電性粒子bの表面に結合したポリマー中の芳香環のπ電子が電極活物質からなる粒子Aと相互作用するので、粒子Aと導電性粒子bとが接近する。また、蓄電デバイスによる充放電の繰り返しによる活物質層の膨張・収縮に、導電性粒子bの表面に結合したポリマーが追従できるので、活物質層内における粒子(粒子A及び粒子B)の配置が崩れにくい。このように本実施形態に係る電極用複合粒子によれば、電極用複合粒子における導電助剤の含有量を増やすことなく、活物質層における導電パスを容易に確保でき、蓄電デバイスのサイクル特性が更に向上する。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0049】
(導電助剤からなる粒子B1〜B11の調製)
メタクリル酸メチル(MMA)中に、表1に示した配合量(単位:質量部)にて、スチレン(St)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)及びアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、デンカブラックHS−100、数平均粒子径:0.048μm)を添加して50℃で3時間超音波分散を行った。得られた溶液を分離、洗浄後、凍結乾燥を行い黒色の粉体(粒子B1〜B11)を得た。
【0050】
得られた粒子B1〜B11について、300℃で熱分解し、熱分解の前後の質量を比較することで、粒子B1〜B11それぞれにおけるメタクリル酸メチル−スチレン共重合体含有量を求めた。また、粒子BとTHF等の溶剤とを混合した液体を遠心分離した後に上澄み液を乾固させて、これにより得られるポリマーをGPCにて分析することで、粒子Bの表面に結合したポリマーの分子量を測定した。更に、熱分解して得られたポリマーを
1H−NMRにより分析することで、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体におけるスチレン単位の含有量を求めた。これらの測定結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
(実施例1〜9並びに比較例1及び2の電極用複合粒子の製造)
表2に示した配合量(単位:質量部)で電極活物質からなる粒子(粒子A)と、導電助剤からなる粒子(粒子B1〜B11)と、バインダからなる粒子(粒子C)と、をミルミキサー(協立理工株式会社製、SK−M10R)を用いて、室温にて5分間攪拌することで電極用複合粒子を得た。
【0053】
なお、表2における粒子Aは、Li
1+XNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2(戸田工業株式会社製、NCM−01ST−5P、数平均粒子径;10μm)である。粒子Cは、ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製、HSV900、数平均粒子径:0.2μm)である。粒子B1〜B11は、上記の調製方法により得られた粒子である。
【0054】
(電極の製造)
実施例1〜9並びに比較例1及び2に係る電極用複合粒子をそれぞれアルミニウム箔上に配置し、加熱プレス装置(株式会社小平製作所製)で加熱プレス後、ロールプレス機で更に加熱プレスすることで正極活物質層を形成させた。正極活物質層を形成させたアルミニウム箔を直径16mmの大きさにポンチで打ち抜いて正極とした。実施例1〜9並びに比較例1及び2に係る電極用複合粒子により形成した正極の正極活物質層における、電極活物質の量は160g/m
2であった。
【0055】
(サイクル特性の評価)
まず、実施例1〜6並びに比較例1及び2それぞれについて、円盤状のコイン型リチウム二次電池(Φ20mm)を作製した。作用極には、上記のようにして製造したΦ16mmの正極を用いた。対極には金属リチウム箔(厚さ0.4mm、直径18mm)を用いた。電解液は、1M LiPF
6(溶媒:EC(30vol%)+DMC(40vol%)+EMC(30vol%))とした。セパレータにはポリエチレン製の微多孔膜(E20MMS、東レバッテリーセパレータフィルム株式会社製)を用いた。
【0056】
サイクル特性の評価は、20℃の環境下で行った。まず、電流密度0.8mA/cm
2の定電流で1サイクル充放電し、この操作を50サイクル目まで繰り返して、1サイクル目及び50サイクル目における正極活物質の質量当たりの放電容量密度(mAh/g)を測定した。また、50サイクル目の放電容量密度に対する1サイクル目の放電容量密度の百分率を放電容量維持率とした。これらの結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表2に示すように、実施例1〜9に係る電極活物質により形成された活物質層を有する正極を用いたリチウムイオン二次電池の方が、比較例1及び2係る電極活物質により形成された活物質層を有する正極を用いたリチウムイオン二次電池よりも、サイクル特性が優れていた。このことから、導電性粒子bと、導電性粒子bの表面に結合し且つ芳香環を含むポリマーと、を有する粒子Bを用いることにより、蓄電デバイスの性能(サイクル特性)が向上することが確認された。
【0059】
これは、ポリマー中の芳香環のπ電子が電極活物質からなる粒子Aと相互作用することで粒子Aとポリマーが付着し、粒子Aと導電性粒子bとが接近すること、更に、充放電の繰り返しによる活物質層の膨張と収縮に、ポリマーが追従できるので、粒子Aと粒子Bの配置が大きく崩れないことに因ると認められる。