特許第6413581号(P6413581)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6413581
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20181022BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20181022BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20181022BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20181022BHJP
   G11B 5/62 20060101ALI20181022BHJP
【FI】
   C08L67/00
   C08L79/08 Z
   C08K3/08
   B32B27/36
   G11B5/62
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-204010(P2014-204010)
(22)【出願日】2014年10月2日
(65)【公開番号】特開2016-74752(P2016-74752A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三好 健太
(72)【発明者】
【氏名】稲川 泰広
(72)【発明者】
【氏名】吉村 仁
【審査官】 岡山 太一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−081533(JP,A)
【文献】 特開昭62−177057(JP,A)
【文献】 特開平10−007900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00−67/08
C08L 79/00−79/08
C08K 3/00−3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルとポリエーテルイミドを主たる成分とするポリエステル樹脂組成物であり、ヨウ素原子を5〜200ppm含有し、かつマンガン原子を5〜50ppm含有することを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
ポリエステル樹脂組成物が、5価のリン原子として500ppmを超え、2000ppm以下の量を含有することを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
ポリエステル樹脂組成物が、実質的にアルカリ土類金属原子を含有しないことを特徴とする、請求項1または2に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物を用いた磁気記録媒体用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルとポリエーテルイミドを主たる成分としてなるポリエステル樹脂組成物に関するものである。更に詳しくは、ヨウ素原子を規定の量範囲で含有させることによりポリエステルおよびポリエーテルイミドの分解を抑制し、耐熱性を向上してゲル化を抑制した、製膜性に優れたポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、結晶性、強度、耐薬品性、透明性に優れ、フィルム、繊維、ボトル、押出成形品など様々な用途に使用されている。中でも、フィルム用途ではその優れた機械特性と経済性のため、多方面で使用されており、特に磁気記録用途での有用性は周知である。しかしながら、近年、磁気記録媒体には高密度記録化が要求されている。更なる高密度記録を達成するためには、テープの寸法安定性を高めること、また、磁性層の薄膜化や微粒子磁性体を使用するとともに、微粒子磁性体を高度に分散させて、磁性層表面の平滑性を高めることや記録波長を短くし、記録トラックを小さくすることが有効である。
【0003】
高い寸法安定性を有するポリエステルフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートとポリエーテルイミドからなる二軸配向ポリエステルフィルムが知られている。しかし、ポリエステルとポリエーテルイミドの共存下では、ポリエステルの分解により発生する水およびラジカルの発生によりポリエーテルイミドの分解が引き起こされ、更にポリエーテルイミドの分解物がポリエステルの分解を促進することで、ポリエステルの耐熱性が悪化し、ゲル状の異物発生を引き起こし、フィルム表面の欠点となる問題がある。
【0004】
ポリエステルからなる二軸配向ポリエステルフィルムにおいてゲル化を抑制する方法として、例えば、特許文献1では、ポリエステルにハロゲン化物を添加する方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、前述の方法では、ポリエステルとポリエーテルイミドの共存下で引き起こす、ポリエーテルイミドの分解とポリエステルのゲル化の抑制効果には不十分であり、また、近年要求されている高密度記録化のため、記録トラックを小さくした場合、わずかなフィルム上の欠点であっても、データの欠落および破損の原因となってしまうという問題があり、さらなるゲル化の抑制が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−265459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記した従来の課題を解決し、ポリエーテルイミドを含有するポリエステルの耐熱性を向上し、ゲル化による異物発生を抑制した、製膜性に優れたポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した本発明の目的は、ポリエステルとポリエーテルイミドを主たる成分とするポリエステル樹脂組成物であり、ヨウ素原子を5〜200ppm含有し、かつマンガン原子を5〜50ppm含有することを特徴とするポリエステル樹脂組成物によって達成できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリエステルとポリエーテルイミドを主たる成分としてなるポリエステル樹脂組成物において、ヨウ素原子を規定の量範囲で含有させることにより、ポリエステル樹脂組成物の耐熱性を向上してゲル化による異物発生を抑制し、フィルムとした際に優れた製膜性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明におけるポリエステルは、特に限定されないが、エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、プロピレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、ヘキサメチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、プロピレン−2,6−ナフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレート、ヘキサメチレン−2,6−ナフタレート、シクロヘキサンジメチレン−2,6−ナフタレート単位等から選ばれた少なくとも一種の構造単位を主要構成成分とするものが好ましい。中でも、エチレンテレフタレートを主要構成単位とするポリエステルは、成形加工性に優れるため特に好ましい。また、2種以上のポリエステルを混合しても良いし、共重合のポリエステルを用いても良い。
【0011】
本発明で用いるポリエステルがポリエチレンテレフタレートである場合、通常、次のいずれかのプロセスで製造される。すなわち、(1)テレフタル酸とエチレングリコールを原料とし、直接エステル化反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子量ポリエステルを得るプロセス、(2)ジメチルテレフタレートとエチレングリコールを原料とし、エステル交換反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子量ポリエステルを得るプロセスである。ここでエステル交換反応においては、通常既知の、マンガン、亜鉛、リチウム、チタン等の化合物であるエステル交換触媒を添加しても良い。
【0012】
本発明におけるポリエーテルイミドとは、脂肪族、脂環族または芳香族系のエーテル単位と環状イミド基を繰り返し単位として含有するポリマーであり、溶融成形性を有するポリマーであれば、特に限定されない。例えば米国特許第4141927号明細書、特許第2622678号公報などに記載されたポリエーテルイミド、特許第2598536号公報、特開平9−48852号公報などに記載されたポリマーである。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、ポリエーテルイミドの主鎖に環状イミド、エーテル単位以外の構造単位、例えば、芳香族、脂肪族、脂環族エステル単位、オキシカルボニル単位等が含有されていても良い。
【0013】
その中でも、ポリエステルとの相溶性、溶融成形性の観点から、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物とm−フェニレンジアミン、またはp−フェニレンジアミンとの縮合物である、下記式で示される繰り返し単位を有するポリマーが好ましい。
【0014】
【化1】
【0015】
または
【0016】
【化2】
【0017】
このポリエーテルイミドは、“ウルテム”(登録商標)の商品名で、SABICイノベーティブプラスチック社より入手可能であり、「Ultem1000」、「Ultem1010」、「Ultem1040」、「Ultem5000」、「Ultem6000」および「UltemXH6050」シリーズや「Extem XH」および「Extem UH」の登録商標名等で知られている。
【0018】
本発明において、ポリエステルとポリエーテルイミドを主たる成分とするポリエステル樹脂組成物とはポリエステル樹脂組成物中のポリエーテルイミドの重量分率が2〜60%であることが耐熱性の点から好ましい。本発明のポリエステル組成物を製造する方法は、特に限定されず、ポリエステルのエステル化もしくはエステル交換反応前にポリエーテルイミドを添加しても良いし、重合後に重合装置へポリエーテルイミドを添加してもよいが、二種のポリマーをよく相溶化するためにはポリエステルとポリエーテルイミドを押出機に投入し、溶融混練する方法が好ましい。
【0019】
本発明のポリエステル組成物を製造する方法は、特に限定されず、ポリエステルのエステル化もしくはエステル交換反応前にポリエーテルイミドを添加しても良いし、重合後に重合装置へポリエーテルイミドを添加してもよいが、二種のポリマーをよく相溶化するためにはポリエステルとポリエーテルイミドを押出機に投入し、溶融混練する方法が好ましい。
【0020】
ポリエステル樹脂組成物中のポリエステルとポリエーテルイミドとの比率の測定法は、次のとおりである。
すなわち、本発明のポリエステル樹脂組成物を溶媒であるヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルムに溶解し、1H核のNMRスペクトルを測定する。得られたスペクトルで、ポリエステルおよびポリエーテルイミドに特有の吸収(例えばポリエチレンテレフタレートであればテレフタル酸の芳香族プロトンの吸収、ポリエーテルイミドはイミド芳香族のプロトンの吸収)のピーク面積強度を求め、その比率とプロトン数よりブレンドのモル比を算出する。さらに各々のポリマーの単位ユニットに相当する式量より重量比を算出する。測定条件は次のとおりである。
装置 :BRUKER DRX−500(ブルカー社)
溶媒 :HFIP/重クロロホルム
観測周波数 :499.8MHz
基準 :TMS(0ppm)
測定温度 :30℃
観測幅 :10KHz
データ点 :64K
acquisition time:4.952秒
pulse delay time:3.048秒
積算回数 :256回 。
【0021】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ヨウ素原子を5〜200ppm含有する必要がある。好ましい含有量は80〜170ppmであり、より好ましくは115〜150ppmである。ヨウ素原子を規定の量範囲で含有することにより、ポリエーテルイミドの分解を抑制し、ポリエステルのゲル化をも抑制することが可能となる。5ppm未満では、ヨウ素によるポリエーテルイミドの分解抑制の効果が不十分となり、ポリエステルのゲル化を引き起こす。200ppmを超えると、ヨウ素によるポリエーテルイミドの分解が進み、ポリエステルのゲル化を引き起こす。ヨウ素以外のハロゲン化物を用いた場合、ゲル化の抑制が不十分となる。
【0022】
本発明のポリエステル組成物にヨウ素原子を含有させるために添加するヨウ化金属化合物としては、特に限定されないが、ポリエーテルイミドの分解を抑制する観点から、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化銅が好ましい。
【0023】
本発明において、ポリエステル樹脂組成物にヨウ素原子を含有させる方法としては、ポリエステル樹脂組成物に均一に分散させる点およびポリエステルの生産性の点から、ポリエステルおよびポリエーテルイミドの混練時にヨウ化金属化合物を混練する方法が好ましい。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、5価のリン原子を500ppmを超え、2000ppm以下の量を含有することが好ましく、より好ましくは650〜1300ppmである。5価のリン原子を規定の量範囲で含有することにより、ポリエーテルイミドの分解およびポリエステルのゲル化を一層抑制することが可能となる。
【0025】
本発明のポリエステル組成物に5価のリン原子を含有させるために添加するリン化合物としては、特に限定されないが、ポリエーテルイミドの分解を抑制する観点から、トリエチルホスホノアセテート、トリメチルホスフェートが好ましい。
【0026】
本発明において、ポリエステル樹脂組成物に5価のリン原子を含有させる方法としては、ポリエステル樹脂組成物に均一に分散させる点およびポリエステルの生産性の点から、ポリエステルおよびポリエーテルイミドの混練時に5価のリン化合物を混練する方法が好ましい。
【0027】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、実質的にアルカリ土類金属原子を含有しないことが好ましい。なお、蛍光X線分析装置により検出限界以下の場合、実質的に含有しないとする。アルカリ土類金属化合物を含有しない場合ポリエーテルイミドの分解およびポリエステルのゲル化を抑制することが可能となる。尚、ここで言うアルカリ土類金属とは、周期表第IIA族に属するBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Raを指す。
【0028】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステルのゲル化を抑制する観点から、マンガン原子を5〜50ppm含有することが好ましく、より好ましくは10〜40ppm、更に好ましくは15〜30ppmである。マンガン原子の量を規定の範囲とすることにより、ポリエーテルイミドの分解およびポリエステルのゲル化を抑制することが可能となる。マンガン原子を含有させる方法としては、特に限定されないが、ポリエステルの製造時に触媒または添加剤として添加することが好ましい。
【0029】
次に本発明のポリエステルの製造方法について詳しく説明するが、これに限定されるものではない。ここでは、ポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレートを用いる。
まず、テレフタル酸とエチレングリコールをエステル化することにより、または、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールをエステル交換反応することにより、ビス−β−ヒドロキシエチルテレフタレート(BHT)を得る。エステル交換反応の場合、エステル交換触媒として酢酸マンガン4水和物を添加する。次にこのBHTを重合槽へ移送し、重合触媒として従来既知のアンチモン、ゲルマニウム、チタン化合物などの重合触媒を添加し、装置内温度をゆっくり280℃まで加熱し、常圧から133Pa以下まで減圧する。重合反応の進行に従って反応物の粘度が上昇する。所定の撹拌トルクとなった時点で反応を終了し、重合装置からポリエステルを水槽へ吐出する。吐出されたポリエステルは水槽で急冷され、カッターでペレット状とする。
【0030】
得られたポリエステルの固有粘度を高くするために、さらに固相重合してもよい。固相重合する場合は、ペレット状ポリエステルを180℃以下の温度で予備結晶化させた後、190〜250℃で1mmHg程度の減圧下、10〜50時間固相重合させる。ポリエステルには本発明の効果を妨げない範囲で、従来公知の方法で不活性粒子や各種の添加剤、例えばエポキシ化合物等の末端封鎖剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤、顔料、蛍光増白剤等を必要に応じて適宜含有してもよい。
【0031】
次に、該ポリエステルのペレットとポリエーテルイミドのペレットを所定の割合で混合し、180℃で3時間以上真空乾燥した後、270℃〜300℃に加熱された溶融押出機に供給する。同時に、ポリエステル樹脂組成物に対してヨウ素元素として5〜200ppmとなる量のヨウ化金属化合物を計量器で計量しながら供給し、溶融押出し、ポリエステル樹脂組成物を得る。このときの滞留時間は30〜600秒が好ましく、より好ましくは60〜300秒の条件である。
【0032】
本発明の磁気記録媒体用フィルムの製造方法の具体例について詳細を説明するが、以下の記述に限定されるものではない。
【0033】
得られたポリエステルとポリエーテルイミドを主たる成分とするポリエステル樹脂組成物のペレットを、180℃で3時間以上真空乾燥した後、固有粘度が低下しないように窒素気流下あるいは真空下で、280〜320℃に加熱された押出機に供給し、繊維焼結ステンレス金属フィルター内を通過させた後、スリット状のダイから押出し、キャストドラムに静電荷を印加させながら冷却して未延伸フィルムを得る。この際、本発明のポリエステル樹脂組成物とポリエチレンテレフタレートを所定の割合で混合し、乾燥後、押出機へ供給してもよい。
【0034】
次に、この未延伸フィルムを二軸延伸し、二軸配向させることができる。延伸方法としては、逐次二軸延伸法または同時二軸延伸法を採用できる。
【0035】
逐次二軸延伸により延伸する場合は、得られた未延伸フィルムをポリエステル組成物の(ガラス転移温度Tg−30℃)以上、(ガラス転移温度Tg+50℃)以下に加熱されたロール群上で接触昇温させて、長手方向に1.1〜4.0倍延伸し、これを一旦冷却した後に、テンタークリップに該フィルムの端部を噛ませて幅方向にポリエステル組成物の(ガラス転移温度Tg+5℃)以上、(ガラス転移温度Tg+50℃)以下の温度雰囲気下の中で1.1〜4.0倍延伸し、二軸配向したポリエステル組成物フィルムを得るのである。延伸の終了した二軸配向フィルムはさらにTg+50℃〜Tg+150℃の範囲の温度で熱処理すると寸法安定性が向上する。
【0036】
上記のようにして得られた二軸配向フィルム(磁気記録媒体用支持体)を、たとえば0.1〜3m幅にスリットし、速度20〜300m/min、張力50〜300N/mで搬送しながら、一方の面(A面)に磁性塗料および非磁性塗料をエクストルージョンコーターにより重層塗布する。なお、上層に磁性塗料を厚み0.1〜0.3μmで塗布し、下層に非磁性塗料を厚み0.5〜1.5μmで塗布する。その後、磁性塗料および非磁性塗料が塗布された支持体を磁気配向させ、温度80〜130℃で乾燥させる。
【0037】
次いで、反対側の面(B面)にバックコートを厚み0.3〜0.8μmで塗布し、カレンダー処理した後、巻き取る。なお、カレンダー処理は、小型テストカレンダー装置(スチール/ナイロンロール、5段)を用い、温度70〜120℃、線圧0.5〜5kN/cmで行う。その後、60〜80℃にて24〜72時間エージング処理し、1/2インチ(1.27cm)幅にスリットし、パンケーキを作製する。次いで、このパンケーキから特定の長さ分をカセットに組み込んで、カセットテープ型磁気記録媒体とする。
【0038】
磁性塗料などの組成は例えば以下のような組成が挙げられる。
以下、単に「部」と記載されている場合は、「質量部」を意味する。
【0039】
[磁性層形成塗液]
バリウムフェライト磁性粉末 100部
〔板径:20.5nm、板厚:7.6nm、板状比:2.7、Hc:191kA/m(≒2400Oe)飽和磁化:44Am2/kg、BET比表面積:60m2/g〕
ポリウレタン樹脂 12部
質量平均分子量 10,000
スルホン酸官能基 0.5meq/g
α−アルミナ HIT60(住友化学社製) 8部
カーボンブラック #55(旭カーボン社製)粒子サイズ0.015μm 0.5部
ステアリン酸 0.5部
ブチルステアレート 2部
メチルエチルケトン 180部
シクロヘキサノン 100部
[非磁性層形成用塗布液]
非磁性粉体 α酸化鉄 100部
平均長軸長0.09μm、BET法による比表面積 50m2/g
pH 7
DBP吸油量 27〜38ml/100g
表面処理層Al2O3 8質量%
カーボンブラック 25部
コンダクテックスSC−U(コロンビアンカーボン社製)
塩化ビニル共重合体 MR104(日本ゼオン社製) 13部
ポリウレタン樹脂 UR8200(東洋紡社製) 5部
フェニルホスホン酸 3.5部
ブチルステアレート 。
【0040】
磁気記録媒体は、例えば、データ記録用途、具体的にはコンピュータデータのバックアップ用途(例えばリニア記録方式の記録媒体(LTO4やLTO5などのリニア磁気記録媒体))や映像などのデジタル画像の記録用途などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
なお、物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0042】
(1)ポリエステル樹脂組成物のヨウ素原子の含有量
JISZ7302に準じ試料を秤量して燃焼管内で燃焼させ、発生したガスを溶液に吸収させ、吸収液の一部を紫外吸収検出器を用いたイオンクロマトグラフィーICA2000(東亜DDK(株)製)により分析した。
【0043】
(2)ポリエステル樹脂組成物の金属原子の含有量
蛍光X線元素分析装置(堀場製作所社製、MESA−500W型)を用いて、マグネシウム、カルシウム、リン、マンガン、に対する蛍光X線強度を求め、あらかじめ作成しておいた検量線より求めた。
【0044】
(3)ポリエステル樹脂組成物の5価のリン原子の含有量
Chemagnetics製CMX−300を用い、室温にて固体31P−NMR測定を行った。化学シフト基準としては、85wt%リン酸水溶液(外部基準0.0ppm)、(NHHPO(外部基準1.33ppm)を用いた。得られたスペクトルピークについて、3価リンに帰属するピークの積分値(およそ1100〜160ppmの位置に相当)の合計Iと5価リンに帰属するピークの積分値(およそ50ppm以下、3価よりも低ppmに相当)の合計Iを比として算出、前記(2)により求めたリン原子の含有量Pを用いて、5価のリン原子の含有量Pを、以下の式にて算出した。なお、スピニングサイドバンドは各ピークの主ピークの積分値に合算した。
【0045】
=P×I/(I+I) 。
【0046】
(4)ポリエステル樹脂組成物のゲル化率
ポリエステル樹脂組成物1gを凍結粉砕して直径300μm以下の粉体状とし真空乾燥した。この試料を、オーブン中で、大気下、300℃で2.5時間熱処理する。これを、50mlのオルトクロロフェノール(OCP)中、80〜150℃の温度で0.5時間加熱し溶解させる。続いて、ブフナー型ガラス濾過器(最大細孔の大きさ20〜30μm)で濾過し、洗浄・真空乾燥する。濾過前後の濾過器の重量の増分より、フィルターに残留したOCP不溶分の重量を算出し、OCP不溶分のポリエステル樹脂組成物重量(1g)に対する重量分率を求め、ゲル化率(%)とした。
【0047】
(5)ポリエステル樹脂組成物の製膜性
ポリエステル樹脂組成物99重量部と平均粒径0.06μmのシリカ1重量部を混合し、これらの混合物を溶融混練し、シリカ含有ポリエステル樹脂組成物を作成した。次いで、ポリエステル樹脂組成物80重量部とシリカ含有ポリエステル樹脂組成物20重量部を混合し、これらの混合物を180℃で3時間減圧乾燥し、300℃に加熱された押出機に供給し、Tダイ口金に導入した。次いで、Tダイ口金内から、ポリエステル樹脂組成物とシリカ含有ポリエステル樹脂組成物の溶融物をシート状に押出して溶融単層シートとし、当該溶融単層シートを表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印可させながら密着冷却固化させて、未延伸フィルムを作成し、以下の基準で製膜性を判断した。
○:問題なくフィルムが作成できた。
△:キャストドラムへの密着性の低下が見られるが、フィルムの作成は問題なかった。
×:キャストドラムへの密着性が不良となり、フィルムの作成が困難となった。
【0048】
実施例1
テレフタル酸86重量部とエチレングリコール39重量部とのエステル化反応物(低重合体)をエステル交換反応槽で240℃で溶融し、これにテレフタル酸86重量部、およびエチレングリコール39重量部を加え、250℃で攪拌しながらエステル化反応を続け、水の留出量が理論留出量の97%以上に達したエステル化反応物からテレフタル酸86重量部に相当する反応物を重縮合反応槽に移行した。引き続いて、三酸化アンチモン0.03重量部、トリエチルホスホノアセテートをポリエステルに対してリン原子量として30ppm、酢酸リチウム2水和物をポリエステルに対してリチウム原子量として6ppm、酢酸マンガン4水和物をポリエステルに対してマンガン原子量として40ppmとなるよう計量し、エステル化反応生成物が移送された前記重縮合反応槽に添加した。その後、エステル化反応生成物を攪拌しながら、反応系を250℃から280℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を0.1kPaまで下げた。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージして常圧に戻し重縮合反応を停止し、冷水にストランド状に吐出、直ちにカッティングしてポリエステルを得た。
【0049】
次いで、上記の方法より得られたポリエステルのペレット50重量部とポリエーテルイミド(SABICイノベイティブプラスチックス社製の“ULTEM1010−1000”(登録商標))50重量部、ポリエステル樹脂組成物に対してヨウ素原子量として、140ppm含有する量のヨウ化カリウムと、ポリエステル樹脂組成物に対してリン原子量として、750ppm含有する量のトリエチルホスホノアセテートを同方向回転型二軸混練押出機(東芝機械株式会社TEM−35B)に供給し、押出温度300℃、剪断速度150秒−1、滞留時間3.5分の条件下で混練、吐出して水冷後ペレタイズしてペレットに成型した。
得られたポリエステル樹脂組成物の組成、製造条件および評価結果を表1に示す。本発明のポリエステル樹脂組成物はゲル化率が0.1%と低く良好であった。
【0050】
実施例2、3
ポリエステルおよびポリエーテルイミドの比率を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物を得た。結果を表1に示す。実施例2においては、ポリエステル樹脂組成物のゲル化率は良好であった。実施例3においては、ポリエステル樹脂組成物中のポリエステルの比率を減らせたので、アルカリ金属、マンガン金属の含有量が低減した。このため、製膜時のキャストドラムへの密着性は若干低下したが問題ないレベルであり、ポリエステル樹脂組成物のゲル化率および製膜性は良好であった。
【0051】
実施例4、5
ヨウ素原子の含有量を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物を得た。結果を表1に示す。実施例4においては、ヨウ素原子量を減少させたことにより、ゲル化率の増加が見られたが問題ないレベルであった。また実施例5においては、ヨウ素原子量を増加させたことにより、ゲル化率の増加が見られたが問題ないレベルであった。
【0052】
実施例6
ポリエステルの重縮合反応において、所定の攪拌トルクとなった時点で、ヨウ化カリウムを重縮合反応槽に添加し、5分間攪拌した後に反応系を窒素パージして常圧に戻し重縮合反応を停止し、冷水にストランド状に吐出、直ちにカッティングしてポリエステルを得た以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物を得た。結果を表1に示す。実施例6においては、ヨウ化カリウムを添加した時期を変更したことにより、分散が不十分となりゲル化率の若干の増加が見られたが問題ないレベルであった。
【0053】
実施例7
混練時に混練する5価のリン化合物をトリメチルホスフェートに変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物を得た。結果を表1に示す。実施例7においては、ポリエステル樹脂組成物のゲル化率は良好であった。
【0054】
実施例8〜10
5価のリン原子の含有量を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物を得た。結果を表1に示す。実施例8、9においては、ポリエステル樹脂組成物のゲル化率は良好であった。実施例10においては、リン原子量を増加させたことにより、製膜時のキャストドラムへの密着性低下が若干見られたが問題ないレベルであり、ポリエステル樹脂組成物のゲル化率および製膜性は良好であった。
【0055】
実施例11
混練時に混練する5価のリン化合物の添加をしないことに変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物を得た。結果を表1に示す。実施例11においては、混練時にリン原子が添加されないためゲル化率の増加がやや見られたが問題ないレベルであった。
【0056】
実施例12
ポリエステルの重縮合反応において、重縮合反応槽移行後、酢酸マグネシウム4水和物をポリエステルに対してマグネシウム原子量として60ppmとなるように計量し、エステル化反応生成物が移送された前記重縮合反応槽に添加した以外は、実施例1と同様にポリエステルを得た。次いで、前記ポリエステルペレット50重量部とポリエーテルイミド50重量部を実施例1と同様に、同方向回転型二軸混練押出機(東芝機械株式会社TEM−35B)を用いてポリエステル樹脂組成物に対してマグネシウム原子量として30ppm含有するポリエステル樹脂組成物を得た。結果を表1に示す。実施例12においては、酢酸マグネシウムを添加したことにより、ゲル化率の増加が見られたが問題ないレベルであった。
【0057】
実施例13〜16
マンガン原子の含有量を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物を得た。結果を表1に示す。実施例13、15においては、ポリエステル樹脂組成物のゲル化率は良好であった。実施例14においては、マンガン原子の含有量を増加させたことにより、ゲル化率の増加がやや見られたが問題ないレベルであった。実施例16においては、マンガン原子を添加しないことにより、ゲル化率の増加が見られたが問題ないレベルであった。
【0058】
比較例1
ヨウ化金属化合物の添加をしないことに変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物を得た。結果を表1に示す。比較例1においては、ヨウ素の含有が無いためゲル化率の増加が見られ不良であった。
【0059】
比較例2
ヨウ化金属化合物の添加から臭化金属合物として臭化カリウムの添加に変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物を得た。結果を表1に示す。比較例2においては、臭素原子によるゲル化抑制の効果が得られず、ゲル化率の増加が見られ不良であった。
【0060】
比較例3、4
ヨウ素原子の含有量を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物を得た。結果を表1に示す。比較例3はヨウ素原子の含有量の5ppmに満たないため、ゲル化率の増加が見られ不良であった。比較例4はヨウ素原子の含有量が200ppmを超えたため、ゲル化率の増加が見られ不良であった。
【0061】
【表1】