(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記トナー粒子が、着色粒子の表面にシェル層が設けられてなるコア−シェル構造のものであることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0019】
本発明のトナーは、結着樹脂、着色剤および離型剤を含有する着色粒子を含有するトナー粒子よりなる。結着樹脂は、非晶性樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とよりなるものである。
そして、トナーの、示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線から求められた、室温から150℃まで昇温する一回目の昇温過程における結晶性ポリエステル樹脂に由来の融解ピークに基づく吸熱量をΔH1(J/g)、当該DSC曲線から求められた、0℃から150℃まで昇温する二回目の昇温過程における結晶性ポリエステル樹脂に由来の融解ピークに基づく吸熱量をΔH2(J/g)、結晶性ポリエステル樹脂単独の、示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線から求められた、0℃から150℃まで昇温する二回目の昇温過程における融解ピークに基づく吸熱量に、静電荷像現像用トナー中への結晶性ポリエステル樹脂の導入比率をかけた値をΔH0(J/g)としたとき、下記関係式(1)および関係式(2)を満たすことを特徴とするものである。
関係式(1):0.05≦ΔH1/ΔH0≦0.50
関係式(2):0.30≦ΔH2/ΔH1≦0.60
【0020】
関係式(1)に係るΔH1/ΔH0の値は、より好ましくは0.05≦ΔH1/ΔH0≦0.43である。
関係式(2)に係るΔH2/ΔH1の値は、より好ましくは0.10≦ΔH2/ΔH1≦0.35である。
【0021】
トナーの示差走査熱量測定は、「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用い、昇降速度10℃/minで室温から150℃まで昇温し、5分間150℃で等温保持する一回目の昇温過程、冷却速度10℃/minで150℃から0℃まで冷却し、5分間0℃で等温保持する冷却過程、および昇降速度10℃/minで0℃から150℃まで昇温する二回目の昇温過程をこの順に経る測定条件(昇温・冷却条件)によって行われるものである。測定手順としては、トナー3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、「ダイヤモンドDSC」のサンプルホルダーにセットする。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用した。
【0022】
本発明のトナーは、結晶性ポリエステル樹脂を含有するため、上記のトナーの示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線において、結晶性ポリエステル樹脂に由来する吸熱ピーク(融解ピーク)を有する。
トナー粒子中における結晶性ポリエステル樹脂の相溶状態は、上記の結晶性ポリエステル樹脂単独、および、本発明のトナーの示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線における結晶性ポリエステル樹脂に由来する融解ピークに基づく吸熱量から求められる。
まず、結晶性ポリエステル樹脂単独の、示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線から求められた二回目の昇温過程における融解ピークに基づく吸熱量に、トナー中への結晶性ポリエステル樹脂の導入比率をかけた値であるΔH0(J/g)は、トナー粒子中において結晶性ポリエステル樹脂が非晶性樹脂などの他のトナー構成材料と全く相溶しておらず、その全てが結晶ドメインとして存在する状態に相当すると考えられる。
また、トナーの示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線から求められた一回目の昇温過程における融解ピークに基づく吸熱量ΔH1(J/g)は、トナー粒子中において結晶ドメインとして存在している結晶性ポリエステル樹脂の量に相当すると考えられる。
すなわち、ΔH1およびΔH0の比である、関係式(1)に係るΔH1/ΔH0は、トナー粒子中において他のトナー構成材料に相溶せずに結晶ドメインとして存在している結晶性ポリエステル樹脂の比率を表し、このΔH1/ΔH0が小さいほどトナー粒子中において結晶性ポリエステル樹脂が相溶している比率が高いことを意味している。
一方、トナーの示差走査熱量測定の一回目の昇温過程においてトナーを150℃まで加熱することから、この過程はトナーの熱定着工程と仮定することができる。そして、二回目の昇温過程における融解ピークに基づく吸熱量ΔH2(J/g)は、熱定着後の定着画像中において他のトナー構成材料に相溶せずに結晶ドメインとして存在している結晶性ポリエステル樹脂の量に相当すると考えられる。
すなわち、ΔH2およびΔH1の比である、関係式(2)に係るΔH2/ΔH1は、熱定着工程の前後における結晶性ポリエステル樹脂の結晶化比率の変化を表し、このΔH2/ΔH1が小さいほど熱定着工程において結晶性ポリエステル樹脂の相溶が促進されることを意味している。
【0023】
上記の示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線においてΔH1に係る融解ピークが他のトナー構成材料に由来するピークと重複して2以上のピークトップを有する重複ピークとして得られる場合は、まず、この重複ピークのベースラインに対する始点から終点までの吸熱量ΔH(J/g)を求めると共に、この重複ピークのピーク面積を100%としたときの結晶性ポリエステル樹脂に由来する融解ピークの部分面積率S1(%)を求め、ΔH(J/g)×S1(%)によってΔH1(J/g)を算出するものとする。重複ピークにおける結晶性ポリエステル樹脂に由来する融解ピークの部分面積率S1は、まず、当該重複ピークにおける複数のピークトップの間の極小点から温度軸まで下ろした垂線によってピーク面を分割し、この重複ピークにおける、結晶性ポリエステル樹脂単独の融点に最も近いピークトップ温度を有するピークを結晶性ポリエステル樹脂に由来する融解ピークとして、この部分面積率を求めることによって得られる。
また、ΔH2に係る融解ピークが2以上のピークトップを有する場合についても同様である。
【0024】
上記のトナーの示差走査熱量測定によって得られたDSC曲線において、一回目の昇温過程における結晶性ポリエステル樹脂に由来の融解ピークの半値幅をT1(℃)としたとき、T1(℃)が3℃以上15℃以下であることが好ましく、より好ましくは6℃以上12℃以下である。
半値幅T1(℃)は、当該DSC曲線のベースラインから融解ピークのピークトップに垂線を引き、この垂線の1/2高さにおける温度幅をいう。
【0025】
結晶性ポリエステル樹脂単独の示差走査熱量測定は、トナーから単離・抽出した結晶性ポリエステル樹脂単体を測定試料として用いて上記と同様に行われるものである。トナーからの結晶性ポリエステル樹脂の単離・抽出方法としては、例えば特許第3869968号等に記載の方法を採用することができる。
そして、ΔH0の値は、結晶性ポリエステル樹脂単独の示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線から算出された二回目の昇温過程における融解ピークに基づく吸熱量(ΔHx)に、トナー粒子中における結晶性ポリエステル樹脂の質量比率を乗ずることによって求められる。
トナー粒子中における結晶性ポリエステル樹脂の質量比率は、例えばガスクロマトグラフ質量分析計やNMR分析によって測定することができる。
【0026】
ΔH0の値は、5〜30J/gであることが好ましい。
【0027】
ΔH1/ΔH0の値は、結晶性ポリエステル樹脂を形成するための多価カルボン酸および多価アルコールの組成や、非晶性樹脂の組成、トナーの製造時の温度等によって制御することができる。
ΔH2/ΔH1の値は、結晶性ポリエステル樹脂を形成するための多価カルボン酸および多価アルコールの組成や、非晶性樹脂の組成等によって制御することができる。
【0028】
〔結着樹脂〕
本発明に係るトナー粒子を構成する結着樹脂は、非晶性樹脂および結晶性ポリエステル樹脂よりなる。
結晶性ポリエステル樹脂としては、スチレンアクリル重合セグメントと結晶性ポリエステル重合セグメントとが結合してなるスチレンアクリル変性ポリエステル樹脂を用いてもよい。
【0029】
〔結晶性ポリエステル樹脂〕
結晶性ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)と、2価以上のアルコール(多価アルコール)との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂のうち、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱量変化ではなく、明確な融解ピークを有する樹脂をいう。明確な融解ピークとは、具体的には、上述の結晶性ポリエステル樹脂単独の示差走査熱量測定によって得られたDSC曲線において、二回目の昇温過程における融解ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。
【0030】
〔結晶性ポリエステル樹脂の融点〕
結晶性ポリエステル樹脂の融点は、65℃以上85℃以下であることが好ましく、より好ましくは75℃以上85℃以下である。
結晶性ポリエステル樹脂の融点が上記範囲であることにより、十分な低温定着性および優れた画像保存性が得られる。
なお、結晶性ポリエステル樹脂の融点は、樹脂組成によって制御することができる。
【0031】
ここに、結晶性ポリエステル樹脂の融点は、上述の結晶性ポリエステル樹脂単独の示差走査熱量測定によって得られたDSC曲線において、二回目の昇温過程における融解ピークのピークトップ温度である。なお、当該DSC曲線において融解ピークが複数存在する場合は、一番吸熱量の大きい融解ピークのピークトップ温度を融点とする。
【0032】
結晶性ポリエステル樹脂を形成するための多価カルボン酸とは、1分子中にカルボキシ基を2個以上含有する化合物である。
具体的には、例えば、コハク酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸;およびこれらカルボン酸化合物の無水物、あるいは炭素数1〜3のアルキルエステルなどが挙げられる。結晶性ポリエステル樹脂を形成するための多価カルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸を用いることが好ましい。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
結晶性ポリエステル樹脂を形成するための多価アルコールとは、1分子中に水酸基を2個以上含有する化合物である。
具体的には、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、1,7−へプタンジオール、1,8−オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオールなどの脂肪族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどの3価以上の多価アルコールなどが挙げられる。結晶性ポリエステル樹脂を形成するための多価アルコールとしては、脂肪族ジオールを用いることが好ましい。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
結晶性ポリエステル樹脂が多価カルボン酸として脂肪族多価カルボン酸、かつ多価アルコールとして脂肪族多価アルコールが用いられたものである場合は、結晶性ポリエステル樹脂を形成するための多価アルコールに由来する構造単位の主鎖の炭素数をC
alcohol 、当該結晶性ポリエステル樹脂を形成するための多価カルボン酸に由来する構造単位の主鎖の炭素数をC
acidとしたとき、関係式(4)〜関係式(6)を同時に満たす多価カルボン酸および多価アルコールを組み合わせて形成されたもの(以下、「原料の炭素数が規定された結晶性ポリエステル樹脂」ともいう。)を用いることが好ましく、特に、関係式(7)〜関係式(9)を同時に満たす多価カルボン酸および多価アルコールを組み合わせて形成されたものであることが好ましい。
関係式(4):C
acid−C
alcohol ≧2
関係式(5):C
acid≧10
関係式(6):C
alcohol ≦10
関係式(7):C
acid−C
alcohol ≧6
関係式(8):C
acid≧10
関係式(9):C
alcohol ≦6
なお、結晶性ポリエステル樹脂を形成するための多価カルボン酸として、複数種類の多価カルボン酸を含有する場合は、最も含有割合(質量%)の多い多価カルボン酸に関して、C
acidが上記の関係式(4)〜(9)を満たすことが好ましい。また同様に、結晶性ポリエステル樹脂を形成するための多価アルコールとして、複数種類の多価アルコールを含有する場合は、最も含有割合(質量%)の多い多価アルコールに関して、C
alcoholが上記の関係式(4)〜(9)を満たすことが好ましい。
【0035】
本発明に係る結晶性ポリエステル樹脂を形成するための、関係式(4)〜関係式(6)を満たす多価カルボン酸および多価アルコールの組み合わせとしては、エチレングリコール(炭素数2)およびセバシン酸(炭素数10)、1,6−ヘキサンジオール(炭素数6)およびドデカン二酸(炭素数12)、1,9−ノナンジオール(炭素数
9)およびドデカン二酸(炭素数12)、1,6−ヘキサンジオール(炭素数6)およびセバシン酸(炭素数10)などが好ましい。
【0036】
このような原料の炭素数が規定された結晶性ポリエステル樹脂は、主鎖の鎖長が異なる多価カルボン酸および多価アルコールを用いて形成されていることから、炭素数の短い分岐鎖と炭素数の長い分岐鎖とが、交互にポリエステル鎖に結合されたものとされる。このため、結晶化する際の規則性が低い部分が存在すると考えられる。従って、結着樹脂を構成する結晶性ポリエステル樹脂として、原料の炭素数が規定された結晶性ポリエステル樹脂を用いることにより、熱定着において結晶性ポリエステル樹脂の融点より高い温度の熱エネルギーが付与された際に、結晶の規則性が低い部分から順次に融解していくため、良好な低温定着性が得られる。
また、多価アルコールの主鎖の鎖長が短いために、結晶性ポリエステル樹脂の極性が高くなり、従って、結着樹脂を構成する非晶性樹脂がスチレンアクリル樹脂やポリエステル樹脂であった場合に、上記のΔH1/ΔH0の値を低く抑制することができる。
【0037】
結着樹脂を構成する結晶性ポリエステル樹脂中、原料の炭素数が規定された結晶性ポリエステル樹脂が70質量%以上含有されていることが好ましく、結着樹脂を構成する結晶性ポリエステル樹脂が、全て原料の炭素数が規定された結晶性ポリエステル樹脂であることが特に好ましい。
【0038】
結晶性ポリエステル樹脂の製造方法としては、特に制限はなく、上述の多価カルボン酸と多価アルコールとを触媒下で反応させる一般的なポリエステルの重合法を用いて製造することができ、例えば直接重縮合やエステル交換法を、モノマーの種類によって使い分けて製造することが好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂の製造に使用することのできる触媒としては、例えばチタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシドなどのチタン触媒や、ジブチルスズジクロライド、ジブチルスズオキシド、ジフェニルスズオキシドなどのスズ触媒などが挙げられる。
【0039】
上記の多価カルボン酸と多価アルコールとの使用比率は、多価アルコールの水酸基[OH]と多価カルボン酸のカルボキシ基[COOH]との当量比[OH]/[COOH]が、好ましくは1.5/1〜1/1.5、さらに好ましくは1.2/1〜1/1.2である。
【0040】
〔結晶性ポリエステル樹脂の分子量〕
結晶性ポリエステル樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量分布から算出された重量平均分子量(Mw)が5,000〜50,000、数平均分子量(Mn)が1,500〜25,000であることが好ましい。
【0041】
GPCによる分子量測定は、以下のように行った。すなわち、装置「HLC−8220」(東ソー社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM−M3連」(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2ml/minで流し、測定試料(結晶性ポリエステル樹脂)を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出する。検量線測定用の標準ポリスチレン試料としては、Pressure Chemical社製の分子量が6×10
2 、2.1×10
3 、4×10
3 、1.75×10
4 、5.1×10
4 、1.1×10
5 、3.9×10
5 、8.6×10
5 、2×10
6 、4.48×10
6 のものを用い、少なくとも10点程度の標準ポリスチレン試料を測定し、検量線を作成した。また、検出器には屈折率検出器を用いた。
【0042】
結着樹脂における結晶性ポリエステル樹脂の含有割合は、5〜30質量%であることが好ましい。
結着樹脂における結晶性ポリエステル樹脂の含有割合が5質量%以上であることにより、十分な低温定着性を確実に得ることができる。また、結着樹脂における結晶性ポリエステル樹脂の含有割合が30質量%以下であることにより、トナーの製造においてトナー粒子に結晶性ポリエステル樹脂を確実に導入することができる。
【0043】
〔非晶性樹脂〕
非晶性樹脂とは、示差走査熱量測定(DSC)において、明確な吸熱ピークが認められないものをいう。
非晶性樹脂としては、ポリエステル樹脂、スチレンアクリル樹脂などを用いることができる。スチレンアクリル樹脂としては、アクリル酸、メタアクリル酸などの酸モノマーに由来の構造単位を有するものを用いることが好ましい。
【0044】
非晶性樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量は、数平均分子量(Mn)が1,500〜25,000、重量平均分子量(Mw)が10,000〜80,000であることが好ましい。
非晶性樹脂の分子量が上記の範囲にあることにより、十分な低温定着性および優れた耐熱保管性が確実に両立して得られる。
【0045】
非晶性樹脂のGPCによる分子量測定は、測定試料として非晶性樹脂を用いたことの他は上記と同様にして行われるものである。
【0046】
非晶性樹脂のガラス転移点は、40〜70℃であることが好ましく、より好ましくは50〜60℃である。
非晶性樹脂のガラス転移点が40℃以上であることにより、トナーに十分な熱的強度が得られて十分な耐熱保管性が得られる。また、非晶性樹脂のガラス転移点が70℃以下であることにより、十分な低温定着性が確実に得られる。
【0047】
非晶性樹脂のガラス転移点は、上記の示差走査熱量測定において測定試料として非晶性樹脂を用いてDSC曲線を得、その二回目の昇温過程におけるデータをもとに解析を行い、第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1のピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線を引き、その交点をガラス転移点として示す。
【0048】
本発明のトナーにおいては、トナー粒子が、結着樹脂、着色剤および離型剤を含有する着色粒子をコア粒子としてこれの表面にシェル層が被覆されてなるコア−シェル構造を有することが好ましい。
なお、シェル層は、コア粒子を完全に被覆するものに限られず、一部コア粒子表面が露出されていてもよい。
トナー粒子がコア−シェル構造であることにより、耐熱保管性を得ることができる。
【0049】
シェル層を構成する樹脂としては、特に限定されないが、非晶性のポリエステル樹脂やビニル樹脂などを用いることが好ましい。
【0050】
〔着色剤〕
着色剤としては、カーボンブラック、黒色酸化鉄、染料、顔料などの公知の種々の着色剤を用いることができる。
カーボンブラックとしては、例えばチャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックなどが挙げられ、黒色酸化鉄としては、例えばマグネタイト、ヘマタイト、三酸化チタン鉄などが挙げられる。
染料としては、例えばC.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同63、同111、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、同95などが挙げられる。
顔料としては、例えばC.I.ピグメントレッド5、同48:1、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同139、同144、同149、同150、同166、同177、同178、同222、同238、同269、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同156、同158、同180、同185、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同60などが挙げられる。
各色のトナーを得るための着色剤は、各色について、1種単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
着色剤の含有割合は、トナー粒子中に1〜10質量%とされることが好ましく、より好ましくは2〜8質量%である。
【0052】
〔離型剤〕
離型剤としては、公知の種々のワックスを用いることができる。
ワックスとしては、特に低分子量ポリプロピレン、ポリエチレン、または酸化型のポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系ワックス、およびベヘン酸ベヘネートなどのエステル系ワックスを好適に用いることができる。
具体的には、例えばポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス;マイクロクリスタリンワックスなどの分枝鎖状炭化水素ワックス;パラフィンワックス、サゾールワックスなどの長鎖炭化水素系ワックス;ジステアリルケトンなどのジアルキルケトン系ワックス;カルナバワックス、モンタンワックス、ベヘン酸ベヘネート、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18−オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエートなどのエステル系ワックス;エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミドなどのアミド系ワックスなどが挙げられる。
離型剤としては、結着樹脂を構成する結晶性ポリエステル樹脂と相溶するなどの相互作用を有さないものを用いることが好ましい。
これらのうちでも、低温定着時の離型性の観点から、融点の低いもの、具体的には、融点が60〜100℃のものを用いることが好ましい。また、離型剤としては、結着樹脂を構成する結晶性ポリエステル樹脂の融点Mp1に対して、(Mp1−10)℃〜(Mp1+20)℃程度の融点を有するものを用いることが好ましい。
離型剤の含有割合は、トナー粒子中に1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜20質量%である。トナー粒子における離型剤の含有割合が上記範囲であることにより、分離性および定着性が確実に両立して得られる。
離型剤のトナー粒子への導入方法としては、後述のトナーの製造方法の凝集、融着工程において、離型剤のみよりなる微粒子を非晶性樹脂微粒子、結晶性ポリエステル樹脂微粒子などと共に水系媒体中で凝集、融着する方法が挙げられる。離型剤微粒子は、離型剤を水系媒体に分散させた分散液として得ることができる。離型剤微粒子の分散液は、界面活性剤を含有する水系媒体を離型剤の融点より高い温度に加熱し、溶融した離型剤溶液を加えて機械的撹拌などの機械的エネルギーや超音波エネルギーなどを付与して微分散させた後、冷却することによって調製することができる。
また、非晶性樹脂が例えばスチレンアクリル樹脂などである場合には、凝集、融着工程に供される非晶性樹脂微粒子(スチレンアクリル樹脂微粒子)に離型剤を予め複合させておくことによって、当該離型剤をトナー粒子へ導入することもできる。具体的には、スチレンアクリル樹脂を形成するための重合性単量体の溶液に離型剤を溶解させ、これを界面活性剤を含有する水系媒体中に加え、上記と同様に機械的撹拌などの機械的エネルギーや超音波エネルギーなどを付与して微分散させた後、重合開始剤を加えて所望の重合温度で重合を行う、いわゆるミニエマルション重合法によって、離型剤を含有する非晶性樹脂微粒子の分散液を調製することができる。
【0053】
〔トナー粒子を構成する成分〕
本発明に係るトナー粒子中には、結着樹脂、着色剤および離型剤の他に、必要に応じて荷電制御剤などの内添剤が含有されていてもよい。
【0054】
〔荷電制御剤〕
荷電制御剤としては、公知の種々の化合物を用いることができる。
荷電制御剤の含有割合は、トナー粒子中に0.1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜5質量%である。
【0055】
〔トナーの平均粒径〕
本発明のトナーの平均粒径は、例えば体積基準のメジアン径で3〜8μmであることが好ましく、より好ましくは5〜8μmである。この平均粒径は、例えば後述する乳化凝集法を採用して製造する場合には、使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間、重合体の組成などによって制御することができる。
体積基準のメジアン径が上記の範囲にあることにより、転写効率が高くなってハーフトーンの画質が向上し、細線やドットなどの画質が向上する。
【0056】
トナーの体積基準のメジアン径は「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いて測定・算出されるものである。具体的には、測定試料(トナー)0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、トナー分散液を調製し、このトナー分散液を、サンプルスタンド内の「ISOTONII」(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度範囲にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャ径を100μmにし、測定範囲である2〜60μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径が体積基準のメジアン径とされる。
【0057】
〔トナーの平均円形度〕
本発明のトナーにおいては、このトナーを構成する個々のトナー粒子について、帯電特性の安定性、低温定着性の観点から、平均円形度が0.930〜1.000であることが好ましく、0.950〜0.995であることがより好ましい。
平均円形度が上記の範囲であることにより、個々のトナー粒子が破砕しにくくなって摩擦帯電付与部材の汚染が抑制されてトナーの帯電性が安定し、また、形成される画像において画質が高いものとなる。
【0058】
本発明において、トナー粒子の平均円形度は、「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて測定されるものである。
具体的には、試料(トナー粒子)を界面活性剤入り水溶液にてなじませ、超音波分散処理を1分間行って分散させた後、「FPIA−2100」(Sysmex社製)により、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3,000〜10,000個の適正濃度で撮影を行い、個々のトナー粒子について下記式(T)に従って円形度を算出し、各トナー粒子の円形度を加算し、全トナー粒子数で除することにより算出される。
式(T):円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
【0059】
〔トナーの軟化点〕
トナーの軟化点は、当該トナーに低温定着性を得る観点から、80〜120℃であることが好ましく、より好ましくは90〜110℃である。
【0060】
トナーの軟化点は、下記に示すフローテスターによって測定されるものである。
具体的には、まず、20℃、50%RHの環境下において、試料(トナー)1.1gをシャーレに入れ平らにならし、12時間以上放置した後、成型器「SSP−10A」(島津製作所社製)によって3820kg/cm
2 の力で30秒間加圧し、直径1cmの円柱型の成型サンプルを作成し、次いで、この成型サンプルを、24℃、50%RHの環境下において、フローテスター「CFT−500D」(島津製作所社製)により、荷重196N(20kgf)、開始温度60℃、予熱時間300秒間、昇温速度6℃/分の条件で、円柱型ダイの穴(1mm径×1mm)より、直径1cmのピストンを用いて予熱終了時から押し出し、昇温法の溶融温度測定方法でオフセット値5mmの設定で測定したオフセット法温度T
offsetが、軟化点とされる。
【0061】
〔外添剤〕
上記のトナー粒子は、そのままトナーとして用いることができるが、流動性、帯電性、クリーニング性などを改良するために、当該トナー粒子に、いわゆる流動化剤、クリーニング助剤などの外添剤を添加してもよい。
外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
これらの外添剤の添加割合は、その合計の添加量がトナー粒子100質量部に対して好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜3質量部とされる。
【0062】
以上のようなトナーによれば、トナー粒子中における結晶性ポリエステル樹脂の非晶性樹脂に対する相溶の程度、および、熱定着後の定着画像における結晶性ポリエステル樹脂の非晶性樹脂に対する相溶の程度が特定の範囲にあることにより、十分な低温定着性が得られ、しかも、優れた画像保存性を有する定着画像を形成することができる。
これは、以下の理由によるものと考えられる。すなわち、ΔH1/ΔH0が上記範囲であるとは、トナー粒子中において、原料の結晶性ポリエステル樹脂のうち半分以上が非晶性樹脂と相溶し、残りが結晶ドメインとして存在していることを意味する。これにより、熱定着において結晶性ポリエステル樹脂の融点より高い温度の熱エネルギーが付与されたときに、トナー粒子中に存在する結晶ドメインが融解し、周囲の非晶性樹脂などの結着樹脂を可塑化する。従って、十分な定着性を得るための下限定着温度を、非晶性樹脂単独で結着樹脂を構成する場合よりも低温にすることができる。
また、ΔH2/H1が上記範囲であるとは、トナー粒子における結晶ドメインのうちの30〜60%程度が熱定着後に得られる定着画像においても結晶ドメインとして存在することを意味する。従って、定着画像に融点の高い結晶ドメインが存在することとなり、定着画像が熱的に安定な高い画像保存性を有するものとなる。
【0063】
〔トナーの製造方法〕
本発明のトナーは、水系媒体中で作製される湿式法によって製造されることが好ましく、例えば乳化凝集法などによって製造することができる。
【0064】
乳化凝集法は、結着樹脂を構成する樹脂の微粒子の水性分散液を必要に応じてその他のトナー粒子構成成分の微粒子の分散水性液と混合し、pH調整による微粒子表面の反発力と電解質体よりなる凝集剤の添加による凝集力とのバランスを取りながら緩慢に凝集させ、平均粒径および粒度分布を制御しながら会合を行うと同時に、加熱撹拌することで微粒子間の融着を行って形状制御を行うことにより、トナー粒子を製造する方法である。
【0065】
このようなトナーの製造方法の具体的な一例としては、
(1)着色剤を水系媒体中に分散させ、着色剤微粒子分散液を調製する着色剤微粒子分散液調製工程
(2)結晶性ポリエステル樹脂を水系媒体中に分散させ、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液を調製する結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液調製工程
(3)離型剤および必要に応じて荷電制御剤などのトナー粒子構成成分が含有された非晶性樹脂を水系媒体中に分散させ、非晶性樹脂微粒子分散液を調製する非晶性樹脂微粒子分散液調製工程
(4)非晶性樹脂微粒子、結晶性ポリエステル樹脂微粒子および着色剤微粒子を、水系媒体中で凝集、融着させて凝集粒子を形成する凝集、融着工程
(5)凝集粒子を熱エネルギーにより熟成して形状調整を行い、トナー粒子分散液を作製する熟成工程
(6)トナー粒子分散液を冷却する冷却工程
(7)冷却したトナー粒子分散液より当該トナー粒子を固液分離し、トナー粒子表面より界面活性剤などを除去する濾過、洗浄工程
(8)洗浄処理されたトナー粒子を乾燥する乾燥工程
から構成され、必要に応じて
(9)乾燥処理されたトナー粒子に外添剤を添加する外添処理工程
を加えることができる。
【0066】
本発明において、「水系媒体」とは、水50〜100質量%と、水溶性の有機溶媒0〜50質量%とからなる媒体をいう。水溶性の有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランを例示することができ、得られる樹脂を溶解しないアルコール系有機溶媒を使用することが好ましい。
【0067】
(1)着色剤微粒子分散液調製工程
着色剤微粒子分散液は、着色剤を水系媒体中に分散することにより調製することができる。着色剤の分散処理は、着色剤が均一に分散されることから、水系媒体中において界面活性剤濃度を臨界ミセル濃度(CMC)以上にした状態で行われることが好ましい。着色剤の分散処理に使用する分散機としては、公知の種々の分散機を用いることができる。
【0068】
〔界面活性剤〕
界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレン(n)アルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、リン酸エステルなどのアニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩、アミノアルコール脂肪酸誘導体、ポリアミン脂肪酸誘導体、イミダゾリンなどのアミン塩型や、アルキルトリメチルアンモニム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、ピリジニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、塩化ベンゼトニウムなどの4級アンモニウム塩型のカチオン性界面活性剤、脂肪酸アミド誘導体、多価アルコール誘導体などの非イオン界面活性剤、アラニン、ドデシルジ(アミノエチル)グリシン、ジ(オクチルアミノエチル)グリシンやN−アルキル−N,N−ジメチルアンモニウムベタインなどの両性界面活性剤などが挙げられ、また、フルオロアルキル基を有するアニオン性界面活性剤やカチオン性界面活性剤も使用することができる。
【0069】
この着色剤微粒子分散液調製工程において調製される着色剤微粒子分散液中の着色剤微粒子の分散径は、体積基準のメジアン径で10〜300nmとされることが好ましい。
この着色剤微粒子分散液中の着色剤微粒子の体積基準のメジアン径は、電気泳動光散乱光度計「ELS−800(大塚電子社製)」で測定されるものである。
【0070】
着色剤は、後述の非晶性樹脂微粒子分散液調製工程においてミニエマルション法を用いて予め非晶性樹脂を形成するための単量体溶液に溶解または分散させることによってトナー粒子中に導入してもよい。
【0071】
(2)結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液調製工程
結晶性ポリエステル樹脂を水系媒体中に分散させる方法としては、結晶性ポリエステル樹脂を界面活性剤が添加された水系媒体中に超音波分散法やビーズミル分散法などにより分散させる水系直接分散法、結晶性ポリエステル樹脂を溶剤中に溶解させ、これを水系媒体中に分散させて乳化粒子(油滴)を形成した後、溶剤を除去する溶解乳化脱溶法、転相乳化法などが挙げられる。
【0072】
この結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液調製工程において得られる結晶性ポリエステル樹脂微粒子の平均粒子径は、体積基準のメジアン径で例えば50〜500nmの範囲にあることが好ましい。
なお、体積基準のメジアン径は、「UPA−150」(マイクロトラック社製)を用いて測定したものである。
【0073】
(3)非晶性樹脂微粒子分散液調製工程
非晶性樹脂がスチレンアクリル樹脂である場合、非晶性樹脂微粒子分散液は、臨界ミセル形成濃度(CMC)以上の濃度の界面活性剤を含有した水系媒体に添加し、非晶性樹脂となるスチレンアクリル樹脂を形成するための重合性単量体を加え、撹拌を行いつつ所望の重合温度で水溶性重合開始剤を加え、重合を行うことにより、非晶性樹脂微粒子分散液を調製することができる。
一方、同様に非晶性樹脂がスチレンアクリル樹脂である場合、非晶性樹脂微粒子分散液は、臨界ミセル濃度(CMC)以下の界面活性剤を含有した水系媒体中に、非晶性樹脂となるスチレンアクリル樹脂を形成するための重合性単量体に必要に応じて離型剤や荷電制御剤などのトナー構成成分を溶解あるいは分散させた単量体溶液を添加し、機械的エネルギーを加えて液滴を形成させ、次いで、水溶性のラジカル重合開始剤を添加して、液滴中において重合反応を進行させることにより、非晶性樹脂微粒子分散液を調製することもできる。なお、前記液滴中に油溶性の重合開始剤が含有されていてもよい。このような非晶性樹脂微粒子分散液調製工程においては、機械的エネルギーを付与して強制的に乳化(液滴の形成)処理が必須となる。かかる機械的エネルギーの付与手段としては、ホモミキサー、超音波、マントンゴーリンなどの強い撹拌または超音波振動エネルギーの付与手段を挙げることができる。
【0074】
この非晶性樹脂微粒子分散液調製工程において形成させる非晶性樹脂微粒子は、組成の異なる樹脂よりなる2層以上の構成のものとすることもでき、この場合、常法に従った乳化重合処理(第1段重合)により調製した第1樹脂粒子の分散液に、重合開始剤と重合性単量体とを添加し、この系を重合処理(第2段重合)する方法を採用することができる。
【0075】
この工程において界面活性剤を使用する場合は、界面活性剤として、例えば上述の界面活性剤と同様のものを用いることができる。
【0076】
〔重合開始剤〕
使用される重合開始剤としては、公知の種々の重合開始剤を使用することができる。具体的には、例えば過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化−tert−ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイル、過酸化クロロベンゾイル、過酸化ジクロロベンゾイル、過酸化ブロモメチルベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、ペルオキシ炭酸ジイソプロピル、テトラリンヒドロペルオキシド、1−フェニル−2−メチルプロピル−1−ヒドロペルオキシド、過トリフェニル酢酸−tert−ヒドロペルオキシド、過ギ酸−tert−ブチル、過酢酸−tert−ブチル、過安息香酸−tert−ブチル、過フェニル酢酸−tert−ブチル、過メトキシ酢酸−tert−ブチル、過N−(3−トルイル)パルミチン酸−tert−ブチルなどの過酸化物類;2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩、2,2′−アゾビス−(2−アミジノプロパン)硝酸塩、1,1′−アゾビス(1−メチルブチロニトリル−3−スルホン酸ナトリウム)、4,4′−アゾビス−4−シアノ吉草酸、ポリ(テトラエチレングリコール−2,2′−アゾビスイソブチレート)などのアゾ化合物などが挙げられる。これらの中でも、水溶性重合開始剤、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩、2,2′−アゾビス−(2−アミジノプロパン)硝酸塩、1,1′−アゾビス(1−メチルブチロニトリル−3−スルホン酸ナトリウム)、4,4′−アゾビス−4−シアノ吉草酸を好ましく用いることができる。また、重合開始剤としては、過硫酸塩とメタ重亜硫酸塩、過酸化水素とアスコルビン酸のようなレドックス重合開始剤を用いることもできる。
【0077】
〔連鎖移動剤〕
非晶性樹脂微粒子分散液調製工程においては、非晶性樹脂の分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては特に限定されるものではなく、例えばアルキルメルカプタン、メルカプト脂肪酸エステルなどを挙げることができる。
【0078】
この非晶性樹脂微粒子分散液調製工程において得られる非晶性樹脂微粒子の平均粒子径は、体積基準のメジアン径で例えば50〜500nmの範囲にあることが好ましい。
なお、体積基準のメジアン径は、「UPA−150」(マイクロトラック社製)を用いて測定したものである。
【0079】
(4)凝集、融着工程
この工程は、上記の工程で形成した着色剤微粒子、非晶性樹脂微粒子および結晶性ポリエステル樹脂微粒子を、水系媒体中で凝集、融着させるものである。この工程では、水系媒体中に非晶性樹脂微粒子分散液、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液および着色剤微粒子分散液を添加して、これらの微粒子を凝集、融着させる。
【0080】
着色剤微粒子、非晶性樹脂微粒子および結晶性ポリエステル樹脂微粒子を凝集、融着する具体的な方法としては、水系媒体中に凝集剤を臨界凝集濃度以上となるよう添加し、次いで、非晶性樹脂微粒子のガラス転移点以上であって、かつ、離型剤および結晶性ポリエステル樹脂の融解ピーク温度以上の温度に加熱することによって、着色剤微粒子、非晶性樹脂微粒子および結晶性ポリエステル樹脂微粒子などの微粒子の塩析を進行させると同時に融着を並行して進め、所望の粒子径まで成長したところで、凝集停止剤を添加して粒子成長を停止させ、さらに、必要に応じて粒子形状を制御するために加熱を継続して行う方法である。
【0081】
この方法においては、凝集剤を添加した後に放置する時間をできるだけ短くして速やかに結着樹脂に係る非晶性樹脂微粒子のガラス転移点以上の温度に加熱することが好ましい。この理由は明確ではないが、塩析した後の放置時間によっては粒子の凝集状態が変動して粒径分布が不安定になったり、融着させた粒子の表面性が変動したりする問題が発生することが懸念されるためである。この昇温までの時間としては通常30分間以内であることが好ましく、10分間以内であることがより好ましい。また、昇温速度としては1℃/分以上であることが好ましい。昇温速度の上限は特に規定されるものではないが、急速な融着の進行による粗大粒子の発生を抑制する観点から、15℃/分以下とすることが好ましい。さらに、反応系がガラス転移点以上の温度に到達した後、当該反応系の温度を一定時間保持することにより、融着を継続させることが肝要である。これにより、トナー粒子の成長と、融着とを効果的に進行させることができ、最終的に得られるトナー粒子の耐久性を向上させることができる。
【0082】
〔凝集剤〕
使用する凝集剤としては、特に限定されるものではないが、金属塩から選択されるものが好適に使用される。金属塩としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属の塩などの一価の金属塩;カルシウム、マグネシウム、マンガン、銅などの二価の金属塩;鉄、アルミニウムなどの三価の金属塩などが挙げられる。具体的な金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガンなどを挙げることができ、これらの中で、より少量で凝集を進めることができることから、二価の金属塩を用いることが特に好ましい。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0083】
この工程において界面活性剤を使用する場合は、界面活性剤として、例えば上述の界面活性剤と同様のものを用いることができる。
【0084】
(5)熟成工程
この工程は、具体的には、凝集粒子を含む系を加熱撹拌することにより、凝集粒子の形状を所望の平均円形度になるまで、加熱温度、撹拌速度、加熱時間を制御して調整し、所望の形状を有するトナー粒子を形成する工程である。この工程においては、熱エネルギー(加熱)によりトナー粒子の形状制御を行うことが好ましい。
【0085】
(6)冷却工程〜(8)乾燥工程
冷却工程、濾過、洗浄工程および乾燥工程は、公知の種々の方法を採用して行うことができる。
【0086】
(9)外添処理工程
この外添処理工程は、乾燥処理したトナー粒子に、必要に応じて外添剤を添加、混合する工程である。
外添剤の添加方法としては、乾燥されたトナー粒子に粉体状の外添剤を添加して混合する乾式法が挙げられ、混合装置としては、ヘンシェルミキサー、コーヒーミルなどの機械式の混合装置を用いることができる。
【0087】
〔現像剤〕
本発明のトナーは、磁性または非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。
キャリアとしては、例えば鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来から公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、これらの中ではフェライト粒子を用いることが好ましい。また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂などの被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散してなる樹脂分散型キャリアなどを用いてもよい。
キャリアとしては、体積平均粒径が15〜100μmのものが好ましく、25〜80μmのものがより好ましい。
【0088】
〔画像形成装置〕
本発明のトナーは、一般的な電子写真方式の画像形成方法に用いることができ、このような画像形成方法が行われる画像形成装置としては、例えば静電潜像担持体である感光体と、トナーと同極性のコロナ放電によって当該感光体の表面に一様な電位を与える帯電手段と、一様に帯電された感光体の表面上に画像データに基づいて像露光を行うことにより静電潜像を形成させる露光手段と、トナーを感光体の表面に搬送して前記静電潜像を顕像化してトナー像を形成する現像手段と、当該トナー像を必要に応じて中間転写体を介して転写材に転写する転写手段と、転写材上のトナー像を加熱定着させる定着手段を有するものを用いることができる。
また、本発明のトナーは、定着温度(定着部材の表面温度)が130〜200℃とされる比較的低温の画像形成装置において好適に用いることができる。
また、本発明のトナーは、定着速度(通紙速度)が50〜350mm/secとされる速度範囲の画像形成装置において好適に用いることができる。
【0089】
以上、本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明の実施形態は上記の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0090】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0091】
〔結晶性ポリエステル樹脂〔a〕の合成例〕
撹拌装置、窒素導入管、温度センサー、精留塔を備えた反応容器に、
多価カルボン酸
・セバシン酸:200質量部
多価アルコール
・エチレングリコール:140質量部
を仕込み、反応系の温度を1時間かけて190℃に上昇させ、反応系内が均一に撹拌されていることを確認した後、触媒としてTi(OBu)
4 を、多価カルボン酸全量に対して0.006質量%となる量を投入し、さらに、生成される水を留去しながら反応系の温度を同温度から6時間かけて240℃に上昇させ、さらに240℃に維持した状態で6時間脱水縮合反応を継続して重合反応を行った後、160℃まで冷却し、その後、
アクリル酸 5質量部
スチレン 75質量部
ブチルアクリレート 26質量部
重合開始剤(ジ−t−ブチルパーオキサイド) 16質量部
の混合物を滴下ロートにより1時間かけて滴下し、滴下後、160℃に保持したまま、1時間付加重合反応を継続させた後、200℃に昇温し、10kPaで1時間保持した後、スチレン、ブチルアクリレートを除去することにより、結晶性ポリエステル樹脂〔a〕を得た。
得られた結晶性ポリエステル樹脂〔a〕は、数平均分子量(Mn)が4,000、融点が74℃、ΔHが65.0J/gであった。結晶性ポリエステル樹脂〔a〕の分子量および融点、ΔHは、上述の通りに測定した。
【0092】
〔結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔a〕の調製例〕
結晶性ポリエステル樹脂〔a〕30質量部を溶融させて溶融状態のまま、乳化分散機「キャビトロンCD1010」(株式会社ユーロテック製)に対して毎分100質量部の移送速度で移送した。また、この溶融状態の結晶性ポリエステル樹脂〔a〕の移送と同時に、当該乳化分散機に対して、水性溶媒タンクにおいて試薬アンモニア水70質量部をイオン交換水で希釈した、濃度0.37質量%の希アンモニア水を、熱交換機で100℃に加熱しながら毎分0.1リットルの移送速度で移送した。そして、この乳化分散機を、回転子の回転速度60Hz、圧力5kg/cm
2 の条件で運転することにより、体積基準のメジアン径が200nm、固形分量が30質量部の結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔a〕を調製した。
【0093】
〔結晶性ポリエステル樹脂〔b〕〜〔d〕の合成例〕
結晶性ポリエステル樹脂〔a〕の合成例において、表1に示すジオールおよびジカルボン酸を用いたことの他は同様にして、結晶性ポリエステル樹脂〔b〕〜〔d〕を得た。
【0094】
【表1】
【0095】
〔結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔b〕〜〔d〕の調製例〕
結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔a〕の調製例において、結晶性ポリエステル樹脂〔a〕の代わりに結晶性ポリエステル樹脂〔b〕〜〔d〕を用いたことの他は同様にして、結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔b〕〜〔d〕を調製した。
【0096】
〔非晶性樹脂微粒子の水系分散液〔X〕の調製例〕
(第1段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8gおよびイオン交換水3Lを仕込み、窒素気流下230rpmの攪拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10gをイオン交換水200gに溶解させたものを添加し、再度液温80℃とし、
・スチレン 480g
・n−ブチルアクリレート 250g
・メタクリル酸 68.0g
からなる単量体混合液を1時間かけて滴下後、80℃にて2時間加熱、撹拌することにより重合を行い、樹脂微粒子の分散液〔x1〕を調製した。
【0097】
(第2段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム7gをイオン交換水800mlに溶解させた溶液を仕込み、98℃に加熱後、樹脂微粒子の分散液〔x1〕260gと、
・スチレン(St) 284g
・n−ブチルアクリレート(BA) 92g
・メタクリル酸(MAA) 13g
・n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 1.5g
・離型剤:ベヘン酸ベヘネート(融点73℃) 190g
からなる単量体および離型剤を90℃にて溶解させた溶液とを添加し、循環経路を有する機械式分散機「CLEARMIX」(エム・テクニック社製)により、1時間混合分散させ、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。
次いで、この分散液に、過硫酸カリウム6gをイオン交換水200mlに溶解させた開始剤溶液を添加し、この系を84℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行い、樹脂微粒子の分散液〔x2〕を調製した。
【0098】
(第3段重合)
さらに、樹脂微粒子の分散液〔x2〕に、過硫酸カリウム11gをイオン交換水400mlに溶解させた溶液を添加し、82℃の温度条件下に、
・スチレン(St) 400g
・n−ブチルアクリレート(BA) 128g
・メタクリル酸(MAA) 28g
・メタクリル酸メチル(MMA) 45g
・n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 8g
からなる単量体混合液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、ビニル樹脂からなる非晶性樹脂微粒子の水系分散液〔X〕を調製した。
得られた非晶性樹脂微粒子の水系分散液〔X〕について、非晶性樹脂微粒子の体積基準のメジアン径が220nm、ガラス転移点(Tg)が55℃、重量平均分子量(Mw)が32,000であった。
【0099】
〔非晶性樹脂微粒子の水系分散液〔Y〕の調製例〕
非晶性樹脂微粒子の水系分散液〔X〕の調製例において、第3段重合にて用いる単量体混合液を
・スチレン(St) 390g
・n−ブチルアクリレート(BA) 126g
・メタクリル酸(MAA) 50g
・メタクリル酸メチル(MMA) 45g
・n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 8g
に変更したこと以外は同様にして、非晶性樹脂微粒子の水系分散液〔Y〕を調製した。
【0100】
〔非晶性樹脂微粒子の水系分散液〔Z〕の調製例〕
非晶性樹脂微粒子の水系分散液〔X〕の調製例において、第3段重合にて用いる単量体混合液を
・スチレン(St) 414g
・n−ブチルアクリレート(BA) 130g
・メタクリル酸(MAA) 12g
・メタクリル酸メチル(MMA) 45g
・n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 8g
に変更したこと以外は同様にして、非晶性樹脂微粒子の水系分散液〔Z〕を調製した。
【0101】
〔非晶性樹脂微粒子の水系分散液〔V〕の調製例〕
(1)非晶性ポリエステル樹脂〔V〕の合成
撹拌装置、窒素導入管、温度センサー、精留塔を備えた反応容器に、
多価カルボン酸
・フマル酸:4.2質量部
・テレフタル酸:78質量部
多価アルコール
・2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンプロピレンオキサイド2モル付加物:152質量部
・2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンエチレンオキサイド2モル付加物:48質量部
を仕込み、反応系の温度を1時間かけて190℃に上昇させ、反応系内が均一に撹拌されていることを確認した後、触媒としてTi(OBu)
4 を、多価カルボン酸全量に対して0.006質量%となる量を投入し、さらに、生成される水を留去しながら反応系の温度を同温度から6時間かけて240℃に上昇させ、さらに240℃に維持した状態で6時間脱水縮合反応を継続して重合反応を行うことにより、非晶性ポリエステル樹脂〔V〕を得た。
得られた非晶性ポリエステル樹脂〔V〕は、数平均分子量(Mn)が3,300、ガラス転移点(Tg)が55℃であった。
【0102】
(2)非晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔V〕の調製
非晶性ポリエステル樹脂〔V〕30質量部を溶融させて溶融状態のまま、乳化分散機「キャビトロンCD1010」(株式会社ユーロテック製)に対して毎分100質量部の移送速度で移送した。また、この溶融状態の非晶性ポリエステル樹脂〔V〕の移送と同時に、当該乳化分散機に対して、水性溶媒タンクにおいて試薬アンモニア水70質量部をイオン交換水で希釈した、濃度0.37質量%の希アンモニア水を、熱交換機で100℃に加熱しながら毎分0.1リットルの移送速度で移送した。そして、この乳化分散機を、回転子の回転速度60Hz、圧力5kg/cm
2 の条件で運転することにより、体積基準のメジアン径が200nm、固形分量が30質量部の非晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔V〕を調製した。
【0103】
〔非晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔W〕の調製例〕
非晶性樹脂微粒子の水系分散液〔V〕の調製例において、多価カルボン酸および多価アルコールとして下記に示す化合物を用いたことの他は同様にして非晶性ポリエステル樹脂〔W〕を得、これを用いて非晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔W〕を調製した。
多価カルボン酸
・コハク酸:55質量部
・テレフタル酸:85質量部
多価アルコール
・エチレングリコール:70質量部
・2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンエチレンオキサイド2モル付加物:70質量部
【0104】
〔シェル用樹脂微粒子の水系分散液〔S〕の調製例〕
(1)ポリエステル樹脂の合成
冷却管、撹拌機および窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物316質量部、テレフタル酸80質量部、無水マレイン酸34質量部、および、重縮合触媒としてチタンテトライソプロポキシド2質量部を10回に分割して入れ、200℃で窒素気流下に生成する水を留去しながら10時間反応させた。次いで13.3kPa(100mmHg)の減圧下に反応させ、軟化点が104℃になった時点で取り出した。これをポリエステル樹脂〔s〕とする。ポリエステル樹脂〔s〕のガラス転移点(Tg)は65℃、数平均分子量(Mn)は4,500、重量平均分子量(Mw)は13,500であった。
【0105】
(2)スチレンアクリルグラフト変性ポリエステル樹脂の合成
温度計および撹拌機の付いたオートクレーブ反応槽中に、キシレン430質量部、ポリエステル樹脂〔s〕430質量部を入れて溶解し、窒素置換後、スチレン18.1質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル4.5質量部、ジ−t−ブチルパーオキサイド0.16質量部、およびキシレン100質量部の混合溶液を170℃で3時間滴下重合し、さらにこの温度で30分間保持した。次いで脱溶剤を行い、シェル用樹脂であるスチレンアクリルグラフト変性ポリエステル樹脂〔S〕を得た。
【0106】
(3)シェル用樹脂微粒子の水系分散の調製
得られたスチレンアクリルグラフト変性ポリエステル樹脂〔S〕100質量部を、400質量部の酢酸エチル(関東化学社製)に溶解し、予め作製した0.26質量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム溶液638質量部と混合し、撹拌しながら超音波ホモジナイザー「US−150T」(日本精機製作所製)でV−LEVEL 300μAで30分間超音波分散後した後、40℃に加温した状態でダイヤフラム真空ポンプ「V−700」(BUCHI社製)を使用し、減圧下で3時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去して、平均粒径(体積基準のメジアン径)が160nm、固形分量が13.5質量%のシェル用樹脂微粒子の水系分散液〔S〕を調製した。
【0107】
〔着色剤微粒子の水系分散液〔Cy〕の調製例〕
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に添加した。この溶液を撹拌しながら、銅フタロシアニン420質量部を徐々に添加し、次いで、撹拌装置「クレアミックス」(エム・テクニック社製)を用いて分散処理することにより、着色剤微粒子の水系分散液〔Cy〕を調製した。
得られた着色剤微粒子の水系分散液〔Cy〕について、着色剤微粒子の平均粒径(体積基準のメジアン径)は110nmであった。
【0108】
〔
参照例1:シアントナーの製造例1〕
撹拌装置、温度センサー、冷却管を取り付けた反応容器に、非晶性樹脂微粒子の水系分散液〔X〕288質量部(固形分換算)、結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔a〕70質量部(固形分換算)、イオン交換水2000質量部を投入した後、5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。
その後、着色剤微粒子の水系分散液〔Cy〕40質量部(固形分換算)を投入し、次いで、塩化マグネシウム60質量部をイオン交換水60質量部に溶解した水溶液を、撹拌下、30℃において10分間かけて添加した。その後、3分間放置した後に昇温を開始し、この系を60分間かけて80℃まで昇温し、80℃を保持したまま粒子成長反応を継続した。この状態で「コールターマルチサイザー3」(コールター・ベックマン社製)にて会合粒子の粒径を測定し、体積基準のメジアン径が6.0μmになった時点で、シェル用樹脂微粒子の水系分散液〔S〕72質量部(固形分換算)を30分間かけて投入し、反応液の上澄みが透明になった時点で、塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解した水溶液を添加して粒子成長を停止させた。さらに、昇温を行い、90℃の状態で加熱撹拌することにより、粒子の融着を進行させ、トナーの平均円形度の測定装置「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて(HPF検出数を4000個)平均円形度が0.945になった時点で2.5℃/minの冷却速度で30℃に冷却した。
次いで、固液分離し、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散し固液分離する操作を3回繰り返して洗浄したのち、40℃で24時間乾燥させることにより、黒色のトナー粒子〔1X〕を得た。
得られたトナー粒子〔1X〕100質量部に、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm、疎水化度=68)0.6質量部および疎水性酸化チタン(数平均一次粒子径=20nm、疎水化度=63)1.0質量部を添加し、「ヘンシェルミキサー」(三井三池化工機社製)により回転翼周速35mm/sec、32℃で20分間混合した後、45μmの目開きのフルイを用いて粗大粒子を除去する外添剤処理を施すことにより、トナー〔1〕を製造した。
【0109】
〔
参照例2、3、実施例2、比較例1、2:シアントナーの製造例2、3、6、8、9〕
シアントナーの製造例1において、非晶性樹脂微粒子の水系分散液〔X〕および結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔a〕の代わりに、それぞれ、表2に従ったものを用いたことの他は同様にして、シアントナー〔2〕、〔3〕、〔6〕、〔8〕、〔9〕を得た。
【0110】
〔
参照例4:シアントナーの製造例4〕
シアントナーの製造例1において、平均円形度が0.945になった後の冷却速度を3〜10℃/minの範囲にしたことの他は同様にして、シアントナー〔4〕を得た。
【0111】
〔実施例
1:シアントナーの製造例5〕
シアントナーの製造例1において、平均円形度が0.945になった後の冷却速度を0.1〜2℃/minの範囲にしたことの他は同様にして、シアントナー〔5〕を得た。
【0112】
〔実施例
3:シアントナーの製造例7〕
シアントナーの製造例1において、非晶性樹脂微粒子の水系分散液〔X〕288質量部(固形分換算)の代わりに、
・非晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔V〕 245質量部(固形分換算)
・下記の離型剤微粒子の水系分散液〔1〕 43質量部(固形分換算)
を添加し、さらに、結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔a〕70質量部(固形分換算)の代わりに結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔c〕70質量部(固形分換算)を添加したことの他は同様にして、シアントナー〔7〕を得た。
【0113】
〔離型剤微粒子の水系分散液〔1〕の調製例〕
・ベヘン酸ベヘネート(融点73℃):60質量部
・イオン性界面活性剤(ネオゲン RK、第一工業製薬):5質量部
・イオン交換水:240質量部
を混合した溶液を95℃に加熱し、「ウルトラタラックスT50」(IKA社製)にて十分に分散後、圧力吐出型ゴーリンホモジナイザーで分散処理することにより、体積平均径240nmの離型剤微粒子が分散された、固形分量20質量%の離型剤微粒子の水系分散液〔1〕を得た。
【0114】
〔比較例3:シアントナーの製造例10〕
シアントナーの製造例4において、結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔a〕の代わりに結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔d〕を用いたことの他は同様にして、シアントナー〔10〕を得た。
【0115】
〔比較例4:シアントナーの製造例11〕
シアントナーの製造例5において、結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔a〕の代わりに結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔c〕を用いたことの他は同様にして、シアントナー〔11〕を得た。
【0116】
〔比較例5:シアントナーの製造例12〕
シアントナーの製造例7において、結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔c〕の代わりに結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔b〕を用い、さらに、非晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔V〕の代わりに非晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔W〕を用いたことの他は同様にして、シアントナー〔12〕を得た。
【0117】
【表2】
【0118】
〔イエロートナーの製造例1〜12〕
着色剤微粒子の水系分散液〔Cy〕の調製例において、銅フタロシアニンの代わりにC.I.ピグメントイエロー74を用いて着色剤微粒子の水系分散液〔Ye〕を得、シアントナーの製造例1において、着色剤微粒子の水系分散液〔Cy〕の代わりに着色剤微粒子の水系分散液〔Ye〕を用いたことの他は同様にして、イエロートナー〔1〕〜〔12〕を得た。
【0119】
〔マゼンタトナーの製造例1〜12〕
着色剤微粒子の水系分散液〔Cy〕の調製例において、銅フタロシアニンの代わりにC.I.ピグメントレッド122を用いて着色剤微粒子の水系分散液〔Mz〕を得、シアントナーの製造例1において、着色剤微粒子の水系分散液〔Cy〕の代わりに着色剤微粒子の水系分散液〔Mz〕を用いたことの他は同様にして、マゼンタトナー〔1〕〜〔12〕を得た。
【0120】
〔キャリアの製造例〕
重量平均粒径50μmのマンガン・マグネシウムフェライトに、シリコーン樹脂(オキシム硬化タイプ、トルエン溶液)を固形分として85質量部、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(カップリング剤)を10質量部、アルミナ粒子(粒子径100nm)を3質量部、カーボンブラック2質量部よりなるコート剤をスプレーコートし、190℃において6時間焼成し、その後、常温に戻し、樹脂コーティング型のキャリアを得た。樹脂コートの平均膜厚は0.2μmであった。
【0121】
〔現像剤の製造例1〜12〕
以上のように製造したキャリア94質量部と、上記のように製造したシアントナー〔1〕〜〔12〕、イエロートナー〔1〕〜〔12〕、およびマゼンタトナー〔1〕〜〔12〕の各々6質量部とをV型混合機で混合処理することにより、シアン現像剤〔1〕〜〔12〕、イエロー現像剤〔1〕〜〔12〕およびマゼンタ現像剤〔1〕〜〔12〕のそれぞれを製造した。なお、混合処理は、トナー帯電量が20〜23μC/gとなった時点で混合を停止し、一旦、ポリエチレンポットに排出した。
【0122】
(1)低温定着性
各色の現像剤〔1〕〜〔12〕について同番号のものを組み合わせて用い、「bizhub PRO C6500」(コニカミノルタ社製)改造機を用い、転写紙上に、通紙速度250mm/secの線速でトナー付着量11mg/10cm
2 (3色の合計のトナー付着量)のブラウン画像を定着させる定着実験を、設定される定着温度を100℃、105℃・・・と5℃刻みで増加させるよう変更しながら210℃まで繰り返し行った。定着実験は、低温低湿環境(温度10℃、湿度10%RH)において行った。
各定着温度に係る定着実験において得られたプリント物を、折り機で折り、この折り目部分に0.35MPaの圧縮空気を吹き付け、限度見本を参照して、折り目部分の状態を下記の評価基準に示す5段階にランク付けし、ランク3となる定着実験における定着温度を、下限定着温度とした。結果を表3に示す。この下限定着温度が140℃以下であれば本発明において合格と判断される。
−評価基準−
ランク5:折り目に剥離が全くない。
ランク4:一部、折り目に従った剥離がある。
ランク3:折り目に従った細い線状の剥離がある。
ランク2:折り目に従った太い線状の剥離がある。
ランク1:画像に大きな剥離あり。
【0123】
(2)画像保存性(耐ドキュメントオフセット性)
各色の現像剤〔1〕〜〔12〕について同番号のものを組み合わせて用い、「bizhub PRO C6500」(コニカミノルタ社製)改造機を用い、通紙速度250mm/secの線速で両面プリントを連続で50枚出力した。両面プリントは、転写紙の片面上にイエロー色の背景を形成し、その上にシアン現像剤によって6.0ポイントのアルファベットを36行印字し、別の片面上にマゼンタ色の背景を形成し、その上にシアン現像剤によって6.0ポイントのアルファベットを36行印字したものである。
そして、出力した50枚のプリント物を大理石テーブル上にそのまま揃えて置き、重ねた部分に対して19.6kPa(200g/cm
2 )相当の圧力が加わるようにおもりを載せた。この状態で温度30℃、湿度60%RHの環境下に3日間放置した後、重ねた定着画像を剥離し、重ね合わせた定着画像上における画像欠損の度合いを下記の評価基準に従って評価した。
結果を表3に示す。本発明においては「優良(◎)」、「良好(○)」および「実用可(△)」である場合を合格とする。
−評価基準−
優良(◎):トナー移行による画像不良や定着画像同士の軽微な貼付きが見られず、画像欠損の問題が全くないレベル。
良好(○):重ねた状態にある2枚のプリント物を離した時にパリッという音がしたが、画像不良はなく、画像欠損の問題がないレベル。
実用可(△):重ねた状態にある2枚のプリント物を離した時に定着画像上に若干のグロスむらの発生は認められたが、画像不良はなく、画像欠損はほとんどないと判断されるレベル。
不良(×):イエロー色、マゼンタ色の背景上で当初文字画像が出力されていなかった領域上にシアン文字画像の移行が認められ、シアン文字画像上にも接触した画像の移行による変色が認められるレベル。
【0124】
【表3】