【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成23年度革新的太陽光発電技術研究開発、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フレネルレンズは、相互に平行な第一辺と第二辺を有する平行四辺形と、前記平行四辺形の第一辺を底辺とする三角形と、からなる五角形を断面に有する五角形プリズムが複数集合された形状を有し、
各五角形プリズムは、前記平行四辺形の第一辺と第二辺の間の距離が等しくなっており、前記平行四辺形の第二辺が入射面となり、前記三角形の底辺以外の辺の一方が前記プリズム面となるように、前記平行四辺形の第一辺および第二辺に交差する辺において隣接されていることを特徴とする請求項2に記載のフレネルレンズ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示されるように、金型を複数に分割して抜く場合、金型の分割境界に位置するフレネルレンズのプリズム面と、分割した金型の端縁とが摺動し、このプリズム面に損傷が生じるおそれがある。すると、このプリズム面の光学特性が変化し、設計どおりの光透過率(レンズ効率)や集光率が得られなくなる可能性がある。また、摺動によってプリズム面に損傷までは生じなくても、プリズム面の機械的強度が低下する可能性がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、金型成形時に、金型との摺動によってプリズム面に損傷や機械的強度の低下が発生することで光学特性が劣化するのが抑制されたフレネルレンズを提供すること、およびそのようなフレネルレンズの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかるフレネルレンズは、樹脂よりなり、光軸を中心とする曲面形状の内側に、複数のプリズム面を有し、前記プリズム面が前記光軸方向に対してアンダーカットとなっていない非アンダーカット部と、前記非アンダーカット部と隣接して前記非アンダーカット部よりも前記光軸から離れた部位に形成され、前記プリズム面が前記光軸に対してアンダーカットとなっているアンダーカット部とを有し、前記非アンダーカット部と前記アンダーカット部との境界に位置するプリズム面の、前記非アンダーカット部と前記アンダーカット部の隣接方向に沿った幅は、隣接する2つのプリズム面のうち小さい方の幅の2倍以上であることを要旨とする。
【0008】
ここで、前記フレネルレンズは、前記非アンダーカット部、前記アンダーカット部、前記境界において、等しい肉厚を有していることが好ましい。
【0009】
この場合に、前記フレネルレンズは、相互に平行な第一辺と第二辺を有する平行四辺形と、前記平行四辺形の第一辺を底辺とする三角形と、からなる五角形を断面に有する五角形プリズムが複数集合された形状を有し、各五角形プリズムは、前記平行四辺形の第一辺と第二辺の間の距離が等しくなっており、前記平行四辺形の第二辺が入射面となり、前記三角形の底辺以外の辺の一方が前記プリズム面となるように、前記平行四辺形の第一辺および第二辺に交差する辺において隣接されていることが好ましい。
【0010】
一方、本発明にかかるフレネルレンズの製造方法は、上記のようなフレネルレンズを製造する方法において、金型を前記曲面形状の内側から抜くに際し、前記アンダーカット部と前記非アンダーカット部の境界で前記金型を分割し、前記非アンダーカット部に位置する金型を前記光軸方向に抜いた後、前記アンダーカット部に位置する金型を前記光軸側にずらして抜くことを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
上記発明にかかるフレネルレンズは、成形後、非アンダーカット部とアンダーカット部との境界で金型を分割し、非アンダーカット部に対応する金型を抜いた後、アンダーカット部に対応する金型を光軸側にずらして抜くことで、製造することができる。この際、非アンダーカット部とアンダーカット部の境界に位置するプリズム面が、分割した金型の端縁と摺動するが、このプリズム面が隣接するプリズム面の2倍以上の幅を有していることで、摺動時に他のプリズム面の幅と同じ幅領域にわたってプリズム面の損傷や強度低下が起こったとしても、他のプリズム面の幅と同じかそれよりも広い幅を有する残りの領域には損傷や機械的強度の低下が発生しない。これにより、非アンダーカット部とアンダーカット部の間に幅の広いプリズム部が設けられない場合に比べ、透過率(レンズ効率)や集光率の低下等、離型時の摺動によるフレネルレンズの光学特性の低下が起こりにくくなる。
【0012】
ここで、フレネルレンズが、非アンダーカット部、アンダーカット部、境界において、等しい肉厚を有している場合には、フレネルレンズ全体において、一定の機械強度を得ることができる。
【0013】
この場合に、フレネルレンズを上記のような五角形プリズムの集合体として形成すれば、フレネルレンズ全体において、フレネルレンズの肉厚となる平行四辺形の第一辺と第二辺の間の距離を一定としながら、各プリズム面から出射した光を焦点上に集光できるフレネルレンズを設計することができる。
【0014】
一方、上記発明にかかるフレネルレンズの製造方法においては、隣接するプリズム面の2倍の幅を有するプリズム面が形成されている非アンダーカット部とアンダーカット部の境界で金型の分割を行うので、分割された金型の端縁とプリズム面が摺動したとしても、その摺動によって、境界部のプリズム面全体に損傷や機械的強度の低下を与えることが避けられる。これにより、製造されたフレネルレンズにおいて、光学特性が低下するのを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態にかかるフレネルレンズについて、図面を参照しながら説明する。
【0017】
[太陽光発電装置]
最初に、本発明の一実施形態にかかるフレネルレンズ10が好適に使用される太陽光発電装置50について、簡単に説明する。
図12に、太陽光発電装置50の概略を示す。太陽光発電装置50は、入射された太陽光の光エネルギーを電気エネルギーに変換し、出力するものである。太陽光発電装置50は、複数のフレネルレンズ10と、複数の発電レシーバ51が、マトリクス状に支持板53上に配置されてなる。フレネルレンズ10は、1つ1つが曲面形状を有し、各発電レシーバ51に対応して、多数がマトリクス状に配列されている。なお、太陽光発電装置50においては、昆虫や雨滴の侵入を避けるために外周部に壁面部材が設けられ、発電レシーバ51がフレネルレンズ10および支持板53と壁面部材によって形成された筐体に収容されてもよいが、
図12では壁面部材を除いて示している。
【0018】
フレネルレンズ10は、一次光学系として、発電レシーバ51に太陽光を集光する役割を果たす。発電レシーバ51は、半導体よりなる太陽光発電素子52を備え、集光された太陽光の光エネルギーを電気エネルギーに変換して出力する。発電レシーバ51は、太陽光発電素子52に加え、集光した太陽光を空間的に均一にして太陽光発電素子52の表面に導く光学部材(二次光学系またはホモジナイザと称する;図略)、および太陽光発電素子52によって得られた電流の取り出し等に使用される回路系(図略)等を備える。
【0019】
太陽光発電素子52は、半導体表面(受光面)の中心がフレネルレンズ10の焦点位置となるように、かつ半導体表面がフレネルレンズ10の光軸に垂直になるように配置される。太陽光がフレネルレンズ10の光軸(回転対称軸)に平行に入射されると、太陽光発電素子52の半導体表面上の焦点位置にスポット状に集光され、高い電流密度で発電が行われる。よって、フレネルレンズ10を備えない平板型の太陽光発電装置と比較して、小面積の太陽光発電素子52を用いて高効率の発電を行うことができる。
【0020】
このように、太陽光発電装置50は、フレネルレンズ10で太陽光を集光して発電を行うものであるので、フレネルレンズ10の光軸が、太陽光の入射方向に向いている場合に、太陽光発電装置50での発電効率が最も高くなる。このため、太陽光発電装置50は方位角方向および高度方向の配置角度を変化させられる太陽追尾装置(不図示)に支持されており、常にフレネルレンズ10の光軸が太陽光の入射方向に向くように制御されている。これにより、太陽の天球上での位置が変化しても高効率での発電が持続される。
【0021】
[フレネルレンズの構成]
以下、
図1〜
図5を参照しながら、フレネルレンズ10の構成について説明する。
【0022】
図1,2および
図3(a)、
図4(a)に全体像を示すように、フレネルレンズ10は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表されるアクリル系、ポリカーボネート系等の樹脂材料よりなり、光軸Aを中心としてドーム状に盛り上がった曲面形状(例えば略部分球形状)を有している。入射面となる曲面形状の外側面(凸面)14は、平滑な面を有している。一方、内側面(凹面)15には、平滑な基面15aから内側に突出して、光軸Aを中心とした同心円状の突条が多数形成されている。各突条は、フレネルレンズ10の径方向に直交する断面が鋸歯状の形状を有し、各突条を構成する径方向外側の平面が、入射した太陽光を屈折させて光軸A上の焦点に集光するプリズム面P1〜P3となっている。一方、各突条の径方向内側の面は、各プリズム面を分割する分割面S1〜S3となっている。フレネルレンズ10全体にわたり、内側面15の基面15aの径方向に、プリズム面と分割面が交互に形成されている。本実施形態にかかるフレネルレンズ10は、プリズム面P1〜P3の幅(フレネルレンズ10の面内における径方向に沿った長さ)W1〜W3の設定に特徴を有する。また、フレネルレンズ10の肉厚d、つまり外側面14と内側面15の基面15aとの間の距離が、全域で等しくなっていることが好ましい。
【0023】
図1,2に示すように、フレネルレンズ10は、非アンダーカット部11、第一アンダーカット部12、第二アンダーカット部13よりなる。非アンダーカット部11は、光軸Aを含む略円形の部分として、フレネルレンズ10の中央部に設けられている。そして、非アンダーカット部11の径方向外側に隣接して、4つの第一アンダーカット部12が配置されている。さらに、各第一アンダーカット部12の間に、計4つの第二アンダーカット部13が配置されている。非アンダーカット部11、第一アンダーカット部12、第二アンダーカット部13は、全て一体に連続して樹脂材料より成形されており、境界部に不連続な破断部や接合部等を有するわけではないが、後述するように、成形時に用いる金型がこれらの領域の境界で分割されているため、
図1,2に示すように、フレネルレンズ10の内側面15には、各部の境界に当たる部位に、金型の分割境界によって形成される筋状の痕跡16が現れている。
【0024】
図3に、非アンダーカット部11の構成を示す。非アンダーカット部11は、光軸Aを含むフレネルレンズ10の頂部に形成されている。フレネルレンズ10の頂部は、内側に向かって窪んだ形状をとっている。これは、外側面14で光線を外側に屈折させるようにすることで、後述する分割面S1を内側に向けることができ、これによってフレネルレンズ10の製造時に金型が抜きやすくなるからである。非アンダーカット部11のプリズム面P1は、光軸Aに対してθ1の角度を有している。ここで、角度θ1は、フレネルレンズ10内側の光軸A上から径方向外側を通り、フレネルレンズ10外側の光軸A上に向かう角度として規定する。以降、光軸Aを基準として記載する全角度(φ1,θ2,φ2)についても同様とする。プリズム面P1を透過する光を光軸A上の点に集光する必要から、光軸Aに対するプリズム面P1の角度θ1は、90°≦θ1<180°となっている。なお、
図3では、光軸Aから離れた位置に入射した光も高効率で光軸A上の焦点に集めるため、プリズム面P1の角度θ1は、径方向外側ほど大きくなっている。一方、分割面S1の光軸Aに対する角度φ1は、φ1≧0°となっている。
図3では、φ1≒0°としており、
図3(b)中の円で囲んだ拡大図では、分かりやすいように、φ1を実際よりも大きくして示している。プリズム面P1の角度θ1と分割面S1の角度φ1がこのような値をとっていることで、非アンダーカット部11のプリズム面P1は、光軸A方向に対してアンダーカットとなっていない。つまり、金型成形時にプリズム面P1および分割面S1よりなる突条が、光軸Aに沿って金型を抜く際に引掛りを形成するアンダーカットとならない。プリズム面P1は、幅W1を有している。なお、プリズム面P1の幅W1および角度θ1、φ1は、全てのプリズム面P1および分割面S1において同じでなくてもよく、例えば連続的に変化してもよい。
【0025】
図4にアンダーカット部12,13の構成を示す。アンダーカット部12,13は、図に示すように、第一アンダーカット部12と第二アンダーカット部13よりなり、非アンダーカット部11とフレネルレンズ10の径方向に隣接して、光軸Aから離れた部位に形成されている。第一アンダーカット部12と第二アンダーカット部13は、上述したように一体に連続しており、同じ断面形状を有する連続した突条を内側面15に有している。アンダーカット部12,13は、フレネルレンズ10の径方向外側の、曲面状に傾斜した面に形成されている。アンダーカット部12,13のプリズム面P2は、光軸Aに対して角度θ2を有している。また、分割面S2は、光軸Aに対して角度φ2を有している。プリズム面P2の角度θ2は、プリズム面P2を透過する光を光軸A上の点に集光する必要から、90°≦θ2<180°となっている。また、光軸Aから離れた位置に存在するアンダーカット部12,13に入射した光を光軸A上の焦点に集光するため、アンダーカット部12,13のプリズム面P2の角度θ2は、非アンダーカット部11のプリズム面P1の角度θ1よりも大きくなっている。一方、分割面S2の光軸Aに対する角度φ2は、分割面S2で光が全反射するのを避けるため、φ2<0°となっている。プリズム面P2の角度θ2および分割面S2の角度φ2が上記のような値をとっているため、アンダーカット部12,13のプリズム面P2は、光軸A方向に対してアンダーカットとなっている。つまり、金型成形時にプリズム面P2および分割面S2よりなる突条が、光軸Aに沿って型を抜く際に引掛りを形成するアンダーカットとなる。
【0026】
アンダーカット部12,13のプリズム面P2は、幅W2を有している。アンダーカット部12,13のプリズム面P2の幅W2は、非アンダーカット部11のプリズム面P1の幅W1と同じであっても、異なっていても構わないが、本実施形態においては、幅W2を幅W1よりも狭くしている。プリズム面P2の幅W2および角度θ2、φ2は、全てのプリズム面P2および分割面S2において同じでなくてもよく、例えば連続的に変化してもよい。
【0027】
なお、光学的な要請からは、フレネルレンズ10全体がアンダーカット部12,13より形成されていてもよいが、後述するように、金型成形において、金型を分割することで離型が行えるように、頂部の領域に非アンダーカット部11が形成されている。
【0028】
図5に、非アンダーカット部11とアンダーカット部12,13の間の境界B近傍の構成を示す。境界プリズム面P3は、幅W3を有している。なお、各プリズム面P1,P2,P3の幅W1,W2,W3は、実際のプリズム面P1〜P3の面に沿って、フレネルレンズ10の径方向に測定した長さであるが、
図5の光軸Aに平行に見た図においては、各部の幅は、光軸Aに直交する面に投影した際の幅W1’,W2’,W3’として表示している。
【0029】
境界プリズム面P3の幅W3は、非アンダーカット部11のプリズム面P1の幅W1、およびアンダーカット部12,13のプリズム面P2の幅W2のうち小さい方の2倍以上となっている。ここで、プリズム面P1,P2の幅W1,W2が、それぞれ全プリズム面P1,P2において同じでない場合には、境界プリズム面P3の幅W3は、境界プリズム面P3に隣接するプリズム面P1の幅W1およびプリズム面P2の幅W2のうち小さい方の2倍以上である。さらに好ましくは、境界プリズム面P3の幅W3は、非アンダーカット部11のプリズム面P1の幅W1、およびアンダーカット部12,13のプリズム面P2の幅W2のいずれもの2倍以上であるとよい。
【0030】
[フレネルレンズの製造方法]
次に、上記のようなフレネルレンズ10を製造するための、本発明の一実施形態にかかるフレネルレンズの製造方法について説明する。フレネルレンズ10は、
図6に示すような金型を用いた射出成型によって形成される。つまり、重ね合わせた際に間に空間を有するように形成された内側用型20(
図6(a))と外側用型30(
図6(b))とを用い、その空間に溶融樹脂を流し込み、凝固後に型を抜く(離型する)ことによってフレネルレンズ10を製造することができる。山形の形状を有する内側用型20によって、フレネルレンズ10の内側面15が成形され、窪み形状を有する外側用型30によって外側面14が成形される。本明細書では、製造装置や製造工程の詳細につての説明は省略するが、特許文献1に記載されているのと同様の製造装置および製造工程を適用することができる。
【0031】
本製造方法においては、内側用型20の抜き方に特徴を有する。
図7,8に、内側用型20を抜く工程を模式的に示す。図では、各工程について、内側用型20のみの概略斜視図と、内側用型20とフレネルレンズ10の関係を示すX−X断面図およびY−Y断面図を示している。なお、図においては、各工程を分かりやすいように示しており、各部材の位置関係等は、必ずしも実際のものと一致するわけではない。
【0032】
図6(a)および
図7(a)に示すように、本製造方法に用いる内側用型20は、センターコア21、第一スライドコア22、第二スライドコア23よりなっている。センターコア21はフレネルレンズ10の非アンダーカット部11に、第一スライドコア22は第一アンダーカット部12に、第二スライドコア23は第二アンダーカット部13にそれぞれ対応し、各部の内側面15を成形する。そして、センターコア21と第一スライドコア22および第二スライドコア23との間の境界は、フレネルレンズ10の非アンダーカット部11とアンダーカット部12,13の間の境界Bに一致している。第一スライドコア22は、内側用型20の径方向(中心部から周辺部に向かう方向)に細長い形状を有しているが、その幅は、中心部において広く、周辺部に向かうほど狭くなっている。各コア21,22,23は、離型時に分割できるように、分離した部材で形成しておくか、一体の部材として形成して境界部にひびを形成しておく。
【0033】
図7(a)のように、フレネルレンズ10を成形し、外側用型を開いた後、
図7(b)のように、内側用型20のセンターコア21と第一スライドコア22および第二スライドコア23との間を分割し、センターコア21を光軸A方向に沿って内側に抜く(方向D1)。非アンダーカット部11には、アンダーカットが形成されていないので、センターコア21をこのようにして光軸Aに沿って抜くことが可能である。一方、アンダーカット部12,13には、光軸A方向に対するアンダーカットが形成されているので、第一スライドコア22および第二スライドコア23をセンターコア21のように光軸A方向に沿って抜くことはできない。
【0034】
そこで次に、
図8(a)のように、第一スライドコア22を第二スライドコア23と分割し、フレネルレンズ10の光軸Aの側に向かってずらす(方向D2)。第一スライドコア22の幅が、中心側ほど広く、周辺部側ほど狭くなっているので、このように、センターコア21を抜いてできた中心部の空間に向かって第二スライドコア22をずらす操作が行いやすくなっている。これにより、フレネルレンズ10の第一アンダーカット部12から第一スライドコア22を抜くことができる。
【0035】
最後に、
図8(b)のように、センターコア22を抜いて生じた空間と、第一スライドコア22をずらすことで第一スライドコア22と第二スライドコア23の間に生じた空隙を利用して、第二スライドコア23を、径方向内側に向かって、倒すようにする(方向D3)。これにより、第二スライドコア23を、第二アンダーカット部13から抜くことができる。なお、
図8(b)の斜視図では、見やすいように、4つの第二スライドコア23のうち2つを抜いた後の状態を示している。このようにして、内側用型20を分割して抜くことで、アンダーカット部12,13を有するフレネルレンズ10を金型成形によって製造することができる。
【0036】
[離型時の摺動の影響]
フレネルレンズ10を上記のように製造する場合に、
図7(b)の工程で、センターコア21を光軸A方向に沿って抜くに際し、センターコア21の端縁に当接しているフレネルレンズ10の境界部Bの部位において、境界プリズム面P3とセンターコア21の端縁が摺動する。また、
図8(a)で第一スライドコア22を光軸Aに向かってずらす際に、境界プリズム面P3と第一スライドコア22の端縁が摺動する。この摺動は、最大で、アンダーカット部12,13のプリズム面P2の幅W2に等しい距離にわたって起こる。このように、
図7(b)および
図8(a)の工程で境界プリズム面P3と分割された内側用金型20の端縁との間で摺動が起こると、境界プリズム面P3に傷やひび割れ等の損傷が発生するおそれがある。これらの損傷は、境界プリズム面P3における光の透過率を低下させたり、屈折率や出射方向の変化による集光性の低下を引き起こしたりし、フレネルレンズ10全体として、集光効率の低下等、光学特性の劣化につながる可能性がある。また、摺動によって境界プリズム面P3に明らかな損傷が発生しなくても、境界プリズム面P3の機械的強度が低下する可能性もある。
【0037】
しかし、本フレネルレンズ10においては、境界プリズム面P3の幅W3が、プリズム面P1,P2の幅W1,W2のうち小さい方の2倍以上となっており、このような摺動が仮に幅W1またはW2にわたって起こり、境界プリズム面P3上で摺動が起こった領域全体に損傷や機械的強度の低下が発生するとしても、幅W1,W2と同じかそれよりも広い幅領域を占める境界プリズム面P3の残りの部分は、損傷や機械的強度の低下を受けず、他のプリズム面P1,P2と同程度の光学特性と機械的強度を維持することになる。これにより、境界プリズム面P3での摺動によって与えられるフレネルレンズ10の光学特性への影響を、小さく抑えることができる。境界プリズム面P3の幅W3がプリズム面P1,P2の幅W1,W2のいずれもの2倍以上であれば、摺動による光学特性への影響を、さらに高確度で抑制することができる。
【0038】
ここで、上記のようなフレネルレンズ10の光学特性として、レンズ効率の空間分布を実測した結果を示す。測定方法を
図9に模式的に示す。つまり、He−Neレーザー91(3Bクラス、5×のエキスパンダおよび1/4λ円偏光板付き)から出力される円偏光Lを、レンズホルダ93に保持したフレネルレンズ10の光軸に平行に照射した。そして、He−Neレーザー91を支持しているX−Yステージ92およびレンズホルダ93を支持しているX−Y−Z調節器(またはゴニオステージ)94を用いて光Lをフレネルレンズ10のレンズ面で面掃引しながら、積分球95およびディテクタ96を用いて、フレネルレンズ10を透過した光Lの全強度を測定した。さらに、面掃引を行ったフレネルレンズ10のレンズ面に相当する全領域を625領域に分割し(1領域あたり25mm×25mm)、分割領域ごとに光強度を積分した。得られた光強度をフレネルレンズ10を通過せずに積分球に入射する光Lの強度(He−Neレーザー91の中心軸と積分球95の開口中心を一致させ、積分球95の開口面をレーザー光軸に垂直になるようにして測定)で規格化することで、各分割領域におけるレンズ効率の空間分布をマッピングした。
【0039】
図10に、実測によって得られたフレネルレンズ10のレンズ効率の空間分布を示す。(a)が、上記のように、境界プリズム面P3の幅W3をプリズム面P1,P2の幅W1およびW2の2倍以上とした場合に当たる。なお、ここではW1=W2としている。一方、(b)が、境界プリズム面P3の幅をアンダーカット部12,13のプリズム面の幅W2と同じとした場合に当たる。
【0040】
いずれの場合にも、非アンダーカット部11とアンダーカット部12,13の間の境界Bに当たる境界プリズム面P3が配置された領域に、円環状にレンズ効率の低い領域が生じている。しかし、
図10(a)の境界プリズム面P3の幅W3を広くしている場合には、比較的円環の幅が小さく、また、全周にわたる円環の均一性も高い。これに対し、
図10(b)の境界プリズム面P3の幅を広くしていない場合には、レンズ効率が低下している領域の円環の幅が
図10(a)の場合と比べて広くなっている。さらに、円環の下端部に、広い領域にわたる大きなレンズ効率の低下が見られるというように、空間的に不均一にレンズ効率の低下が起こっている。
図10(a),(b)の比較は、境界プリズム面P3の幅W3を広くすることで、離型時の摺動によるレンズ効率の低下を低減できることを示している。
【0041】
[フレネルレンズの詳細形状]
上記のように、フレネルレンズ10においては、肉厚d、つまり外側面14と内側面15の基面15aとの間の距離が、全域で等しくなっていることが好ましい。このように、肉厚が一定で、かつ、全域で1つの焦点に集光することができるフレネルレンズは、複数の微小な五角形プリズムの集合体として形成することができる。
【0042】
図11(a)に、五角形プリズム80の概略を示す。五角形プリズム80は、五角形ABDECを断面として有している。五角形ABDECは、平行四辺形(長方形の場合も含む)ABDCと三角形DECを辺CDにおいて接合した形状を有する。辺CDは、平行四辺形ABDCの1辺(第一辺)であると同時に、三角形DECの底辺となっている。このような断面形状を有する五角形プリズム80において、平行四辺形ABDCおよび三角形DECの内角を適切に選択すれば、
図11(a)に示すように、平行四辺形ABDCの辺AB(第二辺)に非垂直に光Lを入射させた際に、端点Bから入射した成分が三角形DECの辺CEの端点Eを通るように光Lを屈折させ、辺CEから出射させることができる。この際、辺ABの少なくとも一部に入射される光Lが、最小振れ角条件(辺ABへの入射角と辺CEからの出射角が等しくなる条件)を満たすようにできる。よって、平行四辺形ABDCの内角が同じで、プリズム80の厚さd(辺ABと辺CDの間の距離)が同じであっても、光Lの入射方向に対する平行四辺形ABDCの配置角度と、三角形DECの内角を異ならせることで、光Lを任意の点に向かって屈折させ、出射させることが可能となる。つまり、平行四辺形ABDCの内角が同じ複数の五角形プリズム80を複数配列して、全プリズム80から出射される光を共通の焦点に集めることが可能である。このことを利用して、複数の五角形プリズム80の集合体として、上記のようなフレネルレンズ10を構成することができる。
【0043】
具体的には、
図11(b)に模式的に示すように、平行四辺形部分の内角が等しく、肉厚dが等しいが、三角形部分の内角が異なる五角形プリズム80(81〜84)を、平行四辺形部分で複数隣接させた形状として、フレネルレンズ10を設計すればよい。この際、五角形プリズム82,83について符号を付して示すように、平行四辺形ABDC,A’B’D’C’の第一辺CD,C’D’をフレネルレンズ10の内側面15の基面15aとし、第二辺AB,A’B’を外側面14とするように、それらの辺と交差する辺AC,B’D’において、2つの五角形プリズム82,83を隣接させる。すると、三角形DEC、D’E’C’の底辺と交差する一方の辺である辺CE,C’E’が入射光Lを屈折させて出射するプリズム面P,P’となる。それらのプリズム面P,P’は、三角形DECの底辺と交差する他方の辺である辺DE,D’E’よりなる分割面S,S’によって分割された状態となる。このようにして、プリズム面P,P’と分割面S,S’よりなる突条形状を内側面15に有するフレネルレンズ10を設計することができる。各五角形プリズム80(81〜84)において、三角形DECの内角を、フレネルレンズ10の光軸Aに対する辺ABの傾き角に応じて変化させれば、光軸Aに平行に入射して各プリズム面(P,P’)から出射した光を光軸A上の共通の焦点に集めることができる。
【0044】
実際にフレネルレンズ10を設計するにあたり、外側面14の形状と焦点の位置、各五角形プリズムの幅(辺ABの長さ)さえ定めれば、最小振れ角条件において、辺ABに入射した光Lが焦点に向かって出射され、かつ端点Bに入射された成分が端点Eを通過するという条件から、各五角形プリズム80に共通となる平行四辺形ABDCの内角(およびその結果定まる共通の肉厚d)を含む各五角形プリズム80の各形状パラメータが、自動的に定まることになる。つまり、プリズム80からの光Lの出射方向を規定することで、入射面である辺ABに対する出射面である辺CEの角度と配置が定まり、さらに、端点Bから入射された光Lの光路と出射面の交点として、出射面の端点Eが定まる。このようにして、五角形プリズム80の断面形状が一義的に定められる。
【0045】
以上のように、五角形プリズム80の集合体としてフレネルレンズ10を構成すれば、非アンダーカット部11、アンダーカット部12,13およびそれらの境界部Bの全体にわたって、同じ肉厚dを有し、かつ共通の焦点に光を集められるフレネルレンズ10を得ることができる。全域にわたって同じ肉厚dを有することで、フレネルレンズ10全体において、同程度の機械的強度を得ることができる。なお。光学設計や製造における公差に起因する五角形プリズム80ごとの肉厚dのばらつきとして、±10%程度は許容される。例えば、フレネルレンズ10がPMMA樹脂よりなる場合に、肉厚dは、2.5〜6mmの範囲にあることが好適である。この範囲よりも薄いと、十分な機械的強度を得にくくなる一方、この範囲よりも厚いと、質量が大きくなりすぎるうえ、フレネルレンズ10による光学損失が無視できなくなる。
【0046】
また、フレネルレンズ10を五角形プリズム80の集合体として設計することで、上記のように、少数のパラメータを指定するだけで、各部のパラメータを自動的に決定することができる。よって、フレネルレンズ10の設計、製造工程が簡素なものとなる。なお、上記のフレネルレンズにおいては、各部位のプリズム面P1〜P3の幅W1〜W3の関係が規定されているが、プリズム面P1〜P3の幅W1〜W3は、各五角形プリズムの幅(辺ABの長さ)によって、調節することができる。
【0047】
上記で示した特許文献2においても、フレネルレンズが複数のプリズム部の集合体として設計されているが、本実施形態とは異なり、各プリズム部が台形とされている。この場合には、レンズの肉厚を、入射光を所望の焦点に集光させるための光学最適化設計と独立に定めることができない。よって、光学最適化設計の結果、レンズの肉厚が小さい部分が生じてしまう可能性がある(例えば特許文献2の
図1)。
【0048】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。