(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
燃焼室で生じる爆発圧力によってピストンがシリンダ内を摺動するエンジンに設けられ、該ピストンのストローク位置を変化させることで圧縮比を変更する圧縮比可変機構であって、
前記燃焼室側に歯面を臨ませた歯部が、前記ピストンの中心軸を軸とする円周上に複数設けられ、該ピストンと一体に該ピストンのストローク方向に往復動する第1部材と、
前記第1部材の歯部と同一円周上に配列された複数の噛部を有し、該噛部が該歯部に噛合する噛合位置、および、該噛合位置よりも前記燃焼室側であって該噛部と該歯部との噛合関係が解除される非噛合位置の間を移動自在であって、かつ、該非噛合位置では前記ピストンの中心軸周りに回転自在となり、該噛合位置では、該第1部材との相対回転位置に応じて該歯部と該噛部との噛合深さを異にする第2部材と、
前記第2部材に設けられ、前記第1部材側に臨む接触部と、
前記接触部よりも前記第1部材側に設けられ、該接触部に対向配置された被接触部と、
前記接触部および前記被接触部を前記ストローク方向に近接させて両者を接触させ、該接触部を介して前記第2部材に該ストローク方向に押圧力を作用させた後に、該接触部と該被接触部とを該ストローク方向に離間させる駆動部と、
を備え、
前記接触部および前記被接触部の少なくとも一方は、前記第2部材の回転方向に傾斜角を有する傾斜面で構成され、
前記第2部材が前記噛合位置にある状態で、前記駆動部によって前記接触部および前記被接触部が接触すると、前記駆動部によってもたらされる前記押圧力が前記傾斜面によって前記ストローク方向と前記回転方向とに分配されて該第2部材に伝達され、該ストローク方向の押圧力によって該噛合位置から前記非噛合位置へ該第2部材が移動するとともに、該回転方向に作用する分力によって該第2部材が回転して前記第1部材との相対回転位置が変化し、該第2部材の回転後に該接触部および該被接触部が離間すると、該第2部材が該噛合位置へ移動することを特徴とする圧縮比可変機構。
前記駆動部は、前記被接触部を前記燃焼室に近接する方向に移動させることで、該被接触部を前記接触部に接触させ、該被接触部を該燃焼室と離隔する方向に移動させることで、該被接触部を該接触部から離間させることを特徴とする請求項1または2に記載の圧縮比可変機構。
前記第2部材の噛部は、頂部と、該頂部を境にして該第2部材の回転方向の一方側に位置する第1底部と、該頂部を境にして該第2部材の回転方向の他方側に位置し、該第1底部より該頂部からの深さが大きい第2底部とを有し、
前記接触部の噛体の頂部間の距離、および、前記被接触部の歯体の頂部間の距離は、
前記第2部材の噛部の頂部と、該頂部に隣接する前記第2底部との回転方向の距離より大きく、前記第1底部と該第2底部との回転方向の距離未満であることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の圧縮比可変機構。
前記駆動部は、前記ピストンが下死点に到達すると、前記接触部および前記被接触部を前記ストローク方向に近接させて両者を接触させ、該接触部を介して前記第2部材に該ストローク方向に押圧力を作用させた後に、該接触部と該被接触部とを該ストローク方向に離間させることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の圧縮比可変機構。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
以下の実施形態では、まず、圧縮比可変機構が設けられるエンジンについて説明し、続いて圧縮比可変機構について詳述する。なお、本実施形態では、圧縮比可変機構が設けられるエンジンとして、1周期が2サイクル(ストローク)であって、シリンダ内部をガスが一方向に流れるユニフロー掃気式であるエンジンを例に挙げて説明する。しかし、圧縮比可変機構が設けられるエンジンは、燃焼室で生じる爆発圧力によってピストンがシリンダ内を摺動するエンジンであれば、サイクル数、ガスの流れ方向に限定はない。
【0020】
(ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100)
図1は、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100の全体構成を示す図である。本実施形態のユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、例えば、船舶等に用いられる。また、本実施形態のユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、気体燃料である燃料ガスを主に燃焼させるガス運転モードと、液体燃料である燃料油を燃焼させるディーゼル運転モードのいずれかの運転モードを選択的に実行することができる、所謂デュアルフューエル型のエンジンである。具体的に説明すると、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、シリンダ110と、ピストン112と、クロスヘッド114と、連結棒116と、クランクシャフト118と、排気ポート120と、排気弁122と、掃気ポート124と、掃気溜126と、冷却器128と、掃気室130と、燃焼室132とを含んで構成される。
【0021】
ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100では、ピストン112の上昇行程および下降行程の2行程の間に、排気、吸気、圧縮、燃焼、膨張が行われて、ピストン112がシリンダ110内を往復移動する。ピストン112には、ピストンロッド112aの一端が固定されている。また、ピストンロッド112aの他端には、クロスヘッド114におけるクロスヘッドピン114aが連結されており、クロスヘッド114は、ピストン112とともに往復移動する。クロスヘッド114はクロスヘッドシュー114bによって、ピストン112のストローク方向に垂直な方向(
図1中、左右方向)の移動が規制されている。
【0022】
クロスヘッドピン114aは、連結棒116の一端に設けられた孔に挿通されており、連結棒116の一端を支持している。また、連結棒116の他端は、クランクシャフト118に連結され、連結棒116に対してクランクシャフト118が回転する構造となっている。その結果、ピストン112の往復移動に伴いクロスヘッド114が往復移動すると、その往復移動に連動して、クランクシャフト118が回転することとなる。
【0023】
排気ポート120は、ピストン112の上死点より上方のシリンダヘッド110aに設けられた開口部であり、シリンダ110内で生じた燃焼後の排気ガスを排気するために開閉される。排気弁122は、不図示の排気弁駆動装置によって所定のタイミングで上下に摺動され、排気ポート120を開閉する。このようにして排気ポート120を介して排気された排気ガスは、排気管120aを介して過給機Cのタービン側に供給された後、外部に排気される。
【0024】
掃気ポート124は、シリンダ110の下端側の内周面(シリンダライナ110bの内周面)から外周面まで貫通する孔であり、シリンダ110の全周囲に亘って、複数設けられている。そして、掃気ポート124は、ピストン112の摺動動作に応じてシリンダ110内に活性ガスを吸入する。かかる活性ガスは、酸素、オゾン等の酸化剤、または、その混合気(例えば空気)を含む。
【0025】
掃気溜126には、過給機Cのコンプレッサによって加圧された活性ガス(例えば空気)が封入されており、冷却器128によって活性ガスが冷却されている。冷却された活性ガスはシリンダジャケット110c内に形成された掃気室130に圧入される。そして、掃気室130とシリンダ110内の差圧をもって掃気ポート124からシリンダ110内に活性ガスが吸入される。
【0026】
また、シリンダヘッド110aには、不図示のパイロット噴射弁が設けられる。ガス運転モードにおいては、エンジンサイクルにおける所望の時点で適量の燃料油がパイロット噴射弁から噴射される。かかる燃料油は、シリンダヘッド110aと、シリンダライナ110bと、ピストン112とに囲繞された燃焼室132の熱で気化して燃料ガスとなるとともに自然着火し、僅かな時間で燃焼して、燃焼室132の温度を極めて高くする。その結果、シリンダ110に流入した燃料ガスを、所望のタイミングで確実に燃焼させることができる。ピストン112は、主に燃料ガスの燃焼による膨張圧によって往復移動する。
【0027】
ここで、燃料ガスは、例えば、LNG(液化天然ガス)をガス化して生成されるものとする。また、燃料ガスは、LNGに限らず、例えば、LPG(液化石油ガス)、軽油、重油等をガス化したものを適用することもできる。
【0028】
一方、ディーゼル運転モードにおいては、ガス運転モードにおける燃料油の噴射量よりも多量の燃料油がパイロット噴射弁から噴射される。ピストン112は、燃料ガスではなく、燃料油の燃焼による膨張圧によって往復移動する。
【0029】
また、本実施形態のユニフロー掃気式2サイクルエンジン100には、ピストン112のストローク位置を変化させることで圧縮比を変更する圧縮比可変機構が設けられている。以下、圧縮比可変機構について詳述する。
【0030】
(圧縮比可変機構200)
図2は、圧縮比可変機構200を説明するための図であり、ピストン112およびピストン112近傍の断面図を示す。
図2に示すように、本実施形態のピストン112は、ボルト112bによってピストンロッド112aに連結された第1部材210と、第1部材210より燃焼室132側に配される第2部材240とを含んで構成される。
【0031】
圧縮比可変機構200は、第1部材210と、押圧部材220と、駆動部230と、第2部材240と、被押圧部材250とを含んで構成される。
【0032】
第1部材210は、円筒形状であり、燃焼室132側の面に歯部212が設けられている。また、第1部材210の歯部212よりも径方向外方には、環状溝210aが形成されており、環状溝210aには押圧部材220がストローク方向に移動自在に収容されている。押圧部材220は、燃焼室132側の面に被接触部222が設けられている。
【0033】
駆動部230は、環状溝210aに連通するとともに、環状溝210aの周方向に等間隔に形成された挿通孔210bに挿通され、押圧部材220における被接触部222の裏面に連結されたロッド232と、ロッド232を第2部材240側に付勢するバネ234と、ロッド232を燃焼室132側に押圧する不図示のアクチュエータ(例えば、油圧機構やモータ)とを含んで構成され、押圧部材220をストローク方向に移動させる。なお、ロッド232は、押圧部材220に複数本連結されており、押圧部材220の回転方向の移動を規制している。
【0034】
第2部材240は、円筒形状であり、第1部材210との対向面に噛部242が設けられている。また、第2部材240の噛部242よりも径方向外方には、環状溝240aが形成されており、環状溝240aには被押圧部材250が嵌め込まれている。被押圧部材250は、ピン240bによって第2部材240に固定されている。したがって、被押圧部材250は、第2部材240とともに移動する。被押圧部材250は、第1部材210側の面に接触部252が設けられている。
【0035】
なお、詳しくは後述するが、本実施形態において、第1部材210および被接触部222(押圧部材220)は、ストローク方向にのみ移動し、第2部材240および接触部252(被押圧部材250)は、ストローク方向に移動し、また、ピストン112の中心軸P周りに回転する。
【0036】
図3および
図4は、第1部材210、押圧部材220、第2部材240、被押圧部材250を説明するための図であり、
図3(a)、(b)は
図2中破線で囲った部分の斜視図であり、
図4(a)は
図2中破線で囲った部分の第2部材240、接触部252の平面図であり、
図4(b)は接触部252の円周方向の展開図であり、
図4(c)は第2部材240の円周方向の展開図であり、
図4(d)は
図2中破線で囲った部分の第1部材210、被接触部222の平面図であり、
図4(e)は第1部材210の円周方向の展開図であり、
図4(f)は被接触部222の円周方向の展開図である。
【0037】
図3(a)に示すように、第1部材210には、燃焼室132(
図2参照)側に歯面を臨ませた歯部212が、ピストン112(
図2参照)の中心軸Pを軸とする円周上に複数設けられ、ストローク方向に往復動する。
【0038】
また、
図4(d)、(e)に示すように、第1部材210の歯部212は、頂部212aおよび底部212bが、回転方向に交互に等間隔になるように配されている。また、第1部材210の歯部212には、頂部212aから底部212bに向かって、中心軸Pを軸とする円周方向(第2部材240の回転方向、以下、単に「回転方向」と称する)に傾斜角を有する傾斜面212cと、底部212bから頂部212aに向かって回転方向に傾斜角を有する傾斜面212dとが設けられている。なお、第1部材210の各歯部212の高さは、すべて等しい高さとなっている。
【0039】
第2部材240は、
図3(b)に示すように、第1部材210の歯部212と同一円周上に配列された複数の噛部242を有する。また、
図4(a)、(c)に示すように、噛部242は、頂部242aと、頂部242aからのストローク方向の深さが異なる底部242b、242cとを有する。具体的に説明すると、頂部242aから底部242b(第2底部)までのストローク方向の深さは、頂部242aから底部242c(第1底部)までと比較して幅D分、大きい。
【0040】
また、第2部材240の噛部242は、底部242bと底部242cとが頂部242aを挟んで交互になるように配されている。また、第2部材240の噛部242には、頂部242aから底部242bに向かって回転方向に傾斜角を有する傾斜面242dと、底部242bから頂部242aに向かって回転方向に傾斜角を有する傾斜面242eと、頂部242aから底部242cに向かって回転方向に傾斜角を有する傾斜面242fと、底部242cから頂部242aに向かって回転方向に傾斜角を有する傾斜面242gとが設けられている。
【0041】
また、詳しくは後述するが、第2部材240は、噛部242が歯部212に噛合する噛合位置、および、噛合位置よりも燃焼室132側であって噛部242と歯部212との噛合関係が解除される非噛合位置の間を移動自在であって、かつ、非噛合位置ではピストン112の中心軸P周りに回転自在となる。そして、噛合位置では、第1部材210との相対回転位置に応じて、歯部212の頂部212aと、噛部242の底部242bとが噛合したり、歯部212の頂部212aと、噛部242の底部242cとが噛合したりする。つまり、第2部材240は、第1部材210との相対回転位置に応じて歯部212と噛部242との噛合深さを異にする。
【0042】
被接触部222は、
図3(a)に示すように、第1部材210の周方向に沿って設けられた複数の歯体224で構成され、歯体224は、燃焼室132(
図2参照)側に歯面を臨ませている。被接触部222は、第1部材210と相対移動自在となるように押圧部材220に設けられており、駆動部230による押圧部材220の移動に伴ってストローク方向に移動される。
【0043】
また、
図4(d)、(f)に示すように、被接触部222の歯体224は、頂部224aが回転方向に等間隔になるように、すなわち、底部224bが回転方向に等間隔になるように配されている。また、被接触部222の歯体224は、頂部224aから底部224bに向かって回転方向に傾斜角を有する傾斜面224cと、底部224bから頂部224aに向かって垂直に立設した垂直面224dとが設けられている。
【0044】
接触部252は、
図3(b)に示すように、第2部材240の周方向に沿って第2部材240に設けられ、被接触部222の歯体224と同一円周上に配列された複数の噛体254で構成され、噛体254は、歯体224と歯合する。上述したように、本実施形態において、接触部252は、被押圧部材250に設けられており、被押圧部材250はピン240bによって第2部材240に固定されていることから、第2部材240と一体に回転したり、第2部材240と一体にストローク方向に往復動したりする。
【0045】
また、
図4(a)、(b)に示すように、接触部252の噛体254は、頂部254aが回転方向に等間隔になるように、すなわち、底部254bが回転方向に等間隔になるように配されている。また、接触部252の噛体254は、頂部254aから底部254bに向かって回転方向に傾斜角を有する傾斜面254cと、底部254bから頂部254aに向かって垂直に立設した垂直面254dとが設けられている。
【0046】
続いて、第1部材210の歯部212、被接触部222の歯体224、第2部材240の噛部242、接触部252の噛体254の寸法関係について説明する。
【0047】
図5は、第1部材210の歯部212、被接触部222の歯体224、第2部材240の噛部242、接触部252の噛体254の寸法関係について説明する図である。
図5に示すように、接触部252の頂部254a間の回転方向の距離(回転角度)、すなわち、被接触部222の頂部224a間の回転方向の距離(回転角度)を距離L1とし、第2部材240の頂部242aと、頂部242aに隣接する底部242bとの回転方向の距離(回転角度)を距離L2とし、第2部材240の底部242bと、底部242cとの回転方向の距離(回転角度)を距離L3とし、底部242b間の回転方向の距離(回転角度)、および、底部242c間の回転方向の距離(回転角度)を距離L4とする。
【0048】
この場合、距離L1が、距離L2より大きく、距離L3未満となるように、被接触部222、第2部材240、接触部252を設計する。また、頂部212a間の距離が距離L4となるように第1部材210を設計する。
【0049】
続いて、圧縮比可変機構200による圧縮比の変更について説明する。
図6、
図7は、圧縮比可変機構200による圧縮比の変更について説明するための図である。なお、理解を容易にするために、
図6、
図7中、第1部材210、被接触部222、第2部材240、接触部252を簡素化して示し、駆動部230を省略する。また、第1部材210、第2部材240をハッチングで、被接触部222を黒い塗りつぶしで、接触部252を白い塗りつぶしで示す。また、
図6、
図7中、ストローク方向の移動を白抜き矢印で示し、回転方向の移動を黒い塗りつぶしの矢印で示す。
【0050】
第1部材210の歯部212と、第2部材240の噛部242とが噛合している噛合位置では、
図6(a)に示すように、接触部252と、被接触部222とは、ストローク方向に離間している。なお、
図6(a)に示す噛合位置では、第1部材210の頂部212aと、第2部材240の底部242bが噛合している。また、噛合位置において、接触部252の頂部254aと、被接触部222の底部224bとは、円周方向の位置が異なっている。つまり、被接触部222の頂部224aは、接触部252の傾斜面254cに臨んだ位置関係となっている。
【0051】
そして、圧縮比を変更する場合、駆動部230によって、被接触部222(押圧部材220)をストローク方向に接触部252(被押圧部材250)側(燃焼室132に近接する方向)に移動させ、
図6(b)に示すように、被接触部222を接触部252に接触させて、接触部252を介して第2部材240にストローク方向に押圧力を作用させる。上述したように、被接触部222の頂部224aは、接触部252の傾斜面254cに臨んだ位置関係となっているため、駆動部230によってもたらされる押圧力が傾斜面254cによってストローク方向と回転方向とに分配されて第2部材240に伝達される。
【0052】
これにより、
図6(c)に示すように、接触部252および第2部材240が回転するとともに、ストローク方向の押圧力によって噛合位置から非噛合位置へ第2部材240が移動することとなる。そして、被接触部222の頂部224aと被押圧部材250の底部254bとが歯合すると、第2部材240は、第1部材210との相対回転位置(円周方向の位置)が変化して、第1部材210の頂部212aが、第2部材240の傾斜面242e、または、傾斜面242g(ここでは、傾斜面242g)に臨んだ位置関係となる。つまり、
図6(a)に示す噛合位置では、第1部材210の頂部212aと、第2部材240の底部242bとが噛合していたが、
図6(c)に示す非噛合位置では、第1部材210の頂部212aが、第2部材240の傾斜面242e、または、傾斜面242g(ここでは、傾斜面242g)に臨んだ位置関係となる。
【0053】
続いて、駆動部230は、
図7(a)に示すように、被接触部222(押圧部材220)を燃焼室132と離隔する方向に移動させ、接触部252と被接触部222とをストローク方向に離間させる。ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100では、燃焼室132からクランクシャフト118に向けた力が第2部材240に常に作用しているため、被接触部222を燃焼室132と離隔する方向に移動させることで、第2部材240、接触部252は、第1部材210側に移動することとなる。
【0054】
ここで、上述したように、第1部材210の頂部212aは、第2部材240の噛部242の傾斜面242gに臨んだ位置関係となっているため、第2部材240が第1部材210に接触すると、燃焼室132からクランクシャフト118に向けた力が第1部材210の傾斜面212c、第2部材240の傾斜面242eによって回転方向に作用する。これにより、
図7(b)に示すように、第2部材240が、第1部材210との噛合過程でさらに回転し、第1部材210の頂部212aが、第2部材240の底部242cに噛合する噛合位置に移動することとなる。また、このときの第2部材240の回転に伴って、接触部252が回転することにより、被接触部222の歯体224の頂部224aが、接触部252の噛体254の傾斜面254cに臨んだ位置関係、つまり、
図6(a)と実質的に等しい位置関係に戻ることとなる。
【0055】
図8は、噛合位置の違いによる第1部材210と第2部材240との位置関係を説明する図であり、
図8(a)は、
図6(a)に示す噛合位置における第1部材210および第2部材240の斜視図であり、
図8(b)は、
図7(b)に示す噛合位置における第1部材210および第2部材240の斜視図である。
【0056】
上述したように、駆動部230が被接触部222(押圧部材220)を燃焼室132に近接する方向に移動させて接触部252に接触させ、接触部252を介して第2部材240にストローク方向に押圧力を作用させた後に、接触部252を燃焼室132から離隔する方向に移動させて接触部252と被接触部222とをストローク方向に離間させることで、第1部材210の頂部212aが、第2部材240の底部242bに噛合する噛合位置(
図6(a)、
図8(a)参照)から、第2部材240の底部242cに噛合する噛合位置(
図7(b)、
図8(b)参照)へと変位する。そうすると、第1部材210と第2部材240との高さHは、底部242cとの頂部242aからの深さの差である幅D分高くなる。つまり、底部242bと、底部242cとの頂部242aからの深さの差である幅D分、第1部材210が第2部材240から燃焼室132側に突出する。これにより、ピストン112のストローク位置が変化し、圧縮比を低圧縮比から高圧縮比へと変更することができる。
【0057】
以上説明したように、本実施形態にかかる圧縮比可変機構200によれば、被接触部222をストローク方向に押圧するだけで第2部材240を回転させることができるため、第2部材240を回転させるためのアクチュエータをピストン112の内部に埋め込む必要がなくなり、ピストン112の形状を簡素化することが可能となる。これにより、ピストン112の製造コストの上昇を低減することができる。
【0058】
また、第2部材240は、被接触部222が接触部252を押圧している期間、すなわち、第1部材210と第2部材240とが離間している間にのみ回転するため、第1部材210の歯部212と第2部材240の噛部242が噛合している間に回転方向の剪断力が作用することはない。したがって、第1部材210および噛部242の剛性を不必要に高めずともよく、材料コストの上昇を抑制することが可能となる。
【0059】
さらに、本実施形態の圧縮比可変機構200は、被接触部222を押圧したり、押圧を解除したりするだけといった簡易な構成で、第1部材210と第2部材240の離間と、第2部材240の回転を遂行することができるため、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100のみならず、4サイクルエンジンの圧縮比を変更することができる。なお、4サイクルエンジンでは、燃焼室132からクランクシャフト118に向けた力が作用する期間のみならず、クランクシャフト118から燃焼室132に向けた力が作用する期間がある。したがって、本実施形態の圧縮比可変機構200を4サイクルエンジンに適用する場合、第1部材210と第2部材240とが離間しないような構造とすればよい。例えば、バネ等の弾性部材で、第1部材210を第2部材240に付勢すればよい。
【0060】
また、圧縮比の変更は、エンジンの駆動中であっても、エンジンの停止中であっても、エンジンの駆動中における行程にかかわらず、常時行うことが可能である。
【0061】
なお、圧縮比の変更は常時可能であるが、ピストン112が下死点に到達したときに遂行する、すなわち、駆動部230は、ピストン112が下死点に到達すると、接触部252を被接触部222に近接させて両者を接触させ、接触部252を介して第2部材240にストローク方向に押圧力を作用させた後に、接触部252を被接触部222からストローク方向に離間させるとよい。
【0062】
第2部材240に作用する燃焼室132からクランクシャフト118に向けた力は、ピストン112が下死点に到達したとき最も小さくなるため、駆動部230が被接触部222を押圧する力を最小限にすることができる。したがって、ピストン112が下死点に到達したときに圧縮比を変更することにより、駆動部230の駆動力を低減することができ、駆動部230のコストを低減することが可能となる。
【0063】
また、圧縮比可変機構200は、運転モードに応じて圧縮比を変更してもよいし、エンジン負荷に応じて圧縮比を変更してもよい。
【0064】
さらに、第1部材210の歯部212、被接触部222の歯体224、第2部材240の噛部242、接触部252の噛体254の寸法関係を上記のように設計することで、
図6(c)に示す被接触部222の押圧力による接触部252(第2部材240)の回転のみならず、
図7(a)に示すように第2部材240(接触部252)をさらに回転させることができる。このさらなる回転によって第1部材210と第2部材240との相対位置関係を常に一定に保持することができる。したがって、被接触部222が接触部252を押圧する度に、第1部材210の歯部212と第2部材240の噛部242との噛み合い位置を1歯ずつずらすことができる。上述したように、本実施形態の第2部材240は、底部242b、242cが交互に配される、すなわち、噛合位置において第1部材210と第2部材240の噛合深さが1歯ずつ交互に異なることから、被接触部222による1回の押圧で噛み合い位置を変更することが可能となる。
【0065】
(変形例)
上記実施形態では、圧縮比を2段階に変更可能な圧縮比可変機構200について説明した。しかし、圧縮比可変機構は、第1部材の歯部、および、第2部材の噛部を工夫することで、圧縮比を3段階以上に変更することも可能である。
【0066】
図9は、変形例にかかる圧縮比可変機構200の第2部材340を説明する図である。
図9に示すように、第2部材340の噛部342は、4つの頂部342b、342d、342f、342hと、最も第1部材210側に配される頂部342bからの深さが異なる4つの底部342a、342c、342e、342gとを含んで構成される。このように噛部342を設計することで、圧縮比を4段階に変更することができる。
【0067】
なお、この場合、接触部252の頂部254a間の回転方向の距離L1は、底部342gと頂部342hとの回転方向の距離L5、つまり、第2部材340の噛部342の底部と頂部との回転方向の距離のうち、最も長い距離に基づいて設計するとよい。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0069】
例えば、上記実施形態において、駆動部230は、被接触部222を移動させる構成を例に挙げて説明した。しかし、駆動部230は、接触部252および被接触部222をストローク方向に近接させて両者を接触させ、接触部252を介して第2部材240にストローク方向に押圧力を作用させた後に、接触部252と被接触部222とをストローク方向に離間させることができればよい。例えば、駆動部230は、接触部252を移動させてもよいし、接触部252および被接触部222を移動させてもよい。
【0070】
また、上記実施形態において、被接触部222が第1部材210の歯部212よりも径方向外方に設けられる場合を例に挙げて説明した。しかし、被接触部222は、第1部材210の周方向に沿って設けられればよい。例えば、被接触部222は、第1部材210の歯部212よりも径方向内方に設けられてもよい。
【0071】
また、上記実施形態において、接触部252が第2部材240の噛部242よりも径方向外方に設けられる場合を例に挙げて説明した。しかし、接触部252は、第2部材240の周方向に沿って設けられればよい。例えば、接触部252は、第2部材240の噛部242よりも径方向内方に設けられてもよい。
【0072】
また、上記実施形態において、第1部材210の頂部212aの高さを一定とし、第2部材240の底部242b、242cの深さ(第1部材210の頂部212aからの距離)を異ならせることで、歯部212と噛部242との噛合深さを異にする構成を例に挙げて説明した。しかし、歯部212と噛部242との噛合深さを異にすることができれば、構成に限定はない。例えば、第2部材240の頂部242aの高さを一定とし、第1部材210の底部212bの深さを異ならせることで、歯部212と噛部242との噛合深さを異にしてもよい。
【0073】
また、上記実施形態において、歯部212および噛部242が、傾斜面212c、242d〜242gを有する構成を例に挙げて説明した。しかし、歯部212および噛部242は、傾斜面を有さずともよい。この場合、第2部材240が噛合位置にある状態で、駆動部230によって接触部252および被接触部222が接触すると、ストローク方向の押圧力によって噛合位置から非噛合位置へ第2部材240が移動するとともに、歯部212と噛部242との噛合関係が解除されると、回転方向に作用する分力によって第2部材240が回転して第1部材210との相対回転位置が変化することとなる。
【0074】
また、上記実施形態において、接触部252の噛体254および被接触部222の歯体224に傾斜面224c、254cが設けられる構成を例に挙げて説明した。しかし、第2部材240の回転方向に傾斜角を有する傾斜面は、接触部252および被接触部222の少なくともいずれかに設けられていればよい。
【0075】
また、上記実施形態において、圧縮比可変機構200の第1部材210および第2部材240が、ピストン112に設けられる構成を例に挙げて説明した。しかし、第1部材210および第2部材240は、ピストンロッド112a、または、クロスヘッド114に設けられていてもよい。