【実施例】
【0020】
以下、本発明について実施例及び比較例により、具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されない。
実施例及び比較例の点眼剤における各種測定は以下の方法で行った。
<pH>
第16改正日本薬局方 一般試験法 2.54 pH測定法に従い、pH測定計((株)堀場製作所製、pHメータD−51型)を用いて測定した。
<浸透圧>
第16改正日本薬局方 一般試験法 2.47 浸透圧測定法(オスモル濃度測定法)に従い行った。具体的には、氷点測定法によるオズモメーター(アドバンスド インストルメンツ社製、オズモメーター フィスケ210)を用いて測定した。
<表面張力>
Wilhelmy平板法による表面張力計(協和界面科学(株)製、自動表面張力計 CBVP−A3型)を用いて測定した。
<(A)成分のシアノコバラミンの含量>
第16改正日本薬局方 医薬品各条シアノコバラミンの純度試験の項目の方法を参考に、高速液体クロマトグラフィー(東ソー(株)製、8020シリーズ)を用いて測定した。
<(B)成分のポリヘキサメチレンビグアニドまたはその塩の含量>
紫外可視分光光度計(日本分光(株)製、V−560)を用いて測定した。
<点眼剤の保存効力>
第16改正日本薬局方 参考情報 保存効力試験法に従い以下の方法で評価した。
細菌として、Escherichia coli(大腸菌)(NBRC3972)、Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌) (NBRC13275)、Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)(NBRC13276)の3種を用い、真菌として、Candida albicans(カンジダ菌)(NBRC1594)、Aspergillus brasiliensis(クロコウジカビ)(NBRC9455)の2種を用いた。
上記大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、カンジダ菌、クロコウジカビを1mL当たり約10
8個となるようにあらかじめ培養し、試験菌液とした。この試験菌液の1/100量を実施例1−1〜実施例1−12、実施例2−1〜実施例2−4及び比較例1−1〜比較例1−6に対して添加し、接種菌数が1mL当たり10
5〜10
6個となるように調製し、25℃にて保管した。接種から28日後にサンプリングを行い、培養して、生菌数を測定した。
【0021】
実施例1−1
精製水70gを50℃に昇温し、ホウ酸0.4g、水酸化ナトリウム0.000896g、塩化ナトリウム0.55g、塩化カリウム0.1g、シアノコバラミン0.02g、タウリン0.1g、Cosmocil CQ(登録商標)0.0004g(20%ポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩であるため、純分は0.00008gとなる。(重量平均分子量は2806であり、換算することにより、繰り返し単位であるkは平均14))、薬添Lipidure- PMB(登録商標)2.0g(5%MPC・BMA共重合体水溶液、MPCによる構成単位とBMA構成単位のモル比は80:20、MPC・BMA共重合体は0.1g)となるように順次加え、均一になるように攪拌した後、これを全量100mLとなるように精製水を加え、50℃で1時間攪拌した。これを冷却後、ろ過滅菌を行い、ポリエチレンテレフタレート製15mL点眼容器へと充てんし、無菌の点眼剤とした。この点眼剤の性状は赤色澄明、pHは6.3、浸透圧は274、表面張力は58.5dyne/cmであった。結果を表1に示す。
【0022】
実施例1−2〜実施例1−12
表1に示す種類及び量の成分を使用した以外は、実施例1−1と同様の手順に従って無菌の点眼剤を製造し、表1に示す点眼容器の素材で容量が15mLの容器へと充てんした。各点眼剤の性状、pH、浸透圧及び表面張力を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
比較例1−1〜比較例1−6
表2に示す種類及び量の成分を使用した以外は、実施例1−1と同様の手順に従って無菌の点眼剤を製造し、表2に示す点眼容器の素材で容量が15mLの容器へと充てんした。各点眼剤の性状、pH、浸透圧及び表面張力を表2に示す。
【0025】
【表2】
【0026】
実施例2−1〜実施例2−4
表3に示す種類及び量の成分を使用した以外は、実施例1−1と同様の手順に従って無菌の点眼剤を製造し、表3に示す点眼容器の素材で容量が15mLの容器へと充てんした。各点眼剤の性状、pH、浸透圧及び表面張力を表3に示す。
【0027】
【表3】
【0028】
試験例1:点眼剤の保存安定性試験
実施例1−1〜実施例1−12、比較例1−1〜比較例1−6及び実施例2−1〜実施例2−4で調製した点眼剤をICHガイドラインに準じて、温度40±2℃、湿度75±5%RHの保管庫内に6箇月間保管した。これは室温での3年保管相当となる。充てんしたものにつき、シアノコバラミンの含量、pH、防腐剤(ポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩)の含量及び保存効力を、試験開始時、3箇月保管後及び6箇月保管後に測定した。
評価は、次の(1)〜(4)の判定基準を満たすとき、試験適合とした。
(1)シアノコバラミンの含量:試験開始時の含量を100%として、6箇月間保管後の含量が、試験開始時の含量に対して90〜110%の範囲内である。
(2)pH:試験開始時を基準値として、6箇月間保管後の値が基準値の±1.0以内である。
(3)防腐剤の含量:試験開始時の含量を100%として、6箇月間保管後の含量が、試験開始時の含量に対して90〜110%の範囲内である。
(4)保存効力:第16改正 日本薬局方 参考情報 保存効力試験に従い試験を行い、6箇月間保管後の結果が次の2点を満たす。
細菌:生菌数が1.0×10
2個以下である。
真菌:生菌数が1.0×10
5個以下である。
実施例1−1〜実施例1−12、比較例1−1〜比較例1−6及び実施例2−1〜実施例2−4における保存安定性試験のシアノコバラミンの含量、pH、防腐剤の含量に関する結果を表4及び表5に示し、保存効力試験の結果に関して28日後に観測された各菌における生菌数を表6及び表7に示す。
【0029】
【表4】
【0030】
【表5】
【0031】
【表6】
【0032】
【表7】
【0033】
表4及び表6の結果より、実施例1−1〜実施例1−12の点眼剤については、シアノコバラミンの含量、pH、保存効力及び防腐剤の含量の全ての項目について、3箇月後及び6箇月後の試験結果は判定基準を満たし、良好な安定性を示した。
表5及び表7の結果より、比較例1−2及び比較例1−6については、試験開始時から保存効力が判定基準を満たさず、保存安定性試験は不適合であった。比較例1−3については、シアノコバラミンの含量及び防腐剤の含量が10%以上低下したため、保存安定性試験は不適合であった。比較例1−4については、シアノコバラミンの含量が10%以上低下したため、保存安定性試験は不適合であった。比較例1−1及び比較例1−5については防腐剤の含量が10%以上低下し、保存効力が判定基準を満たさず、このため保存安定性試験は不適合であった。
実施例2−1〜実施例2−4の点眼剤については、シアノコバラミンの含量、pH、保存効力、防腐剤の含量の全ての項目について、3箇月後、6箇月後ともに判定基準を満たし、実施例2−1〜実施例2−4の点眼剤について、実施例1−1〜実施例1−12よりも更に良好な安定性を示した。
【0034】
試験例2:SIRC細胞を用いた安全性評価
以下の文献を参考に、SIRC細胞(ウサギ角膜上皮細胞)を用いて、実施例1−1の安全性評価を以下の(a)〜(g)の手順に従い実施した。
(文献)
N. Tani et al、Toxicology in Vitro, 13, 175−187, (1999)。
M. Kitagawa et al, The Journal of Toxicological Science, 31, 4, 371−379, (2006)。
H. Torishima et al, AATEX, 3(1), 29−36, (1995)。
(a)あらかじめ培養したSIRC細胞を細胞培養用培地へ懸濁させ、この懸濁液を10
5cells/ウェルとなるように調製し、96ウェルプレートに100μLずつ播種し、24時間培養した。
(b)実施例1−1の点眼剤の濃度が100%、75%、50%、25%、12.5%、0%となるように調製し、それぞれを試験液(1)、試験液(2)、試験液(3)、試験液(4)、試験液(5)及び試験液(6)とした。
(c)(a)でSIRC細胞を培養した96ウェルプレートから細胞培養用培地を除いた。
(d)(b)で調製した各試験液、陰性対照として生理食塩液及び細胞培養用培地を96ウェルプレートに100μLずつ添加し、24時間培養した。
(e)各試験液、陰性対照及び細胞培養用培地を96ウェルプレートから除き、ニュートラルレッド混合培地(ニュートラルレッドを5mg/mLとなるように精製水で溶解させ、この液を細胞培養用培地で100倍希釈して、ニュートラルレッド混合培地とした。)を96ウェルプレートに100μLずつ添加し、3時間静置した。
(f)96ウェルプレートからニュートラルレッド混合培地を除いた。この後、エタノール/精製水/酢酸=50/49/1の体積比で調製したニュートラルレッド抽出液を96ウェルプレートに100μLずつ添加し、振盪機で5分間攪拌し、SIRC細胞からニュートラルレッドを抽出した。
(g)(f)にて抽出した液について540nmにおける吸光度を測定した。得られた吸光度から下記式(I)を用いて、試験液(1)〜(6)の各濃度におけるSIRC細胞の生存率を算出した。続いて、式(I)より算出した、試験液(1)〜(6)の各濃度におけるSIRC細胞の生存率から、下記式(II)を用いて実施例1−1のIC
50(SIRC細胞が50%死滅する濃度)を算出した。さらに、この算出したIC
50から安全性スコアを算出する下記式(III)を用いて実施例1−1の安全性スコアを算出した。結果を表8に示す。
【0035】
式(I)
試験液(1)〜(6)のSIRC細胞の生存率(%)=
(試験液(1)〜(6)で試験した吸光度−陰性対照で試験した吸光度)/(細胞培養用培地で試験した吸光度−陰性対照で試験した吸光度)×100
式(II)
IC
50=10α
ここで、α=(log(A/B)×(50−C)/(C−D)+logB)
A:試験液(1)〜(6)の中で細胞生存率50%を越える試験液の最低濃度、
B:試験液(1)〜(6)の中で細胞生存率50%を下回る試験液の最高濃度、
C:Bにおける細胞生存率、
D:Aにおける細胞生存率。
式(III)
安全性スコア=−0.412×(IC
50)+3.05
算出した安全性スコアを以下のように分類した。
安全性スコアの分類
0〜1.4:非常に高い安全性、1.5〜2.4:高い安全性、2.5〜3.4:中程度の安全性、3.5以上:低度の安全性
【0036】
実施例1−1のSIRC細胞を用いた安全性評価を、実施例1−2〜実施例1−12及び実施例2−1〜実施例2−4についても同様に実施した。実施例1−2〜実施例1−12及び実施例2−1〜実施例2−4におけるSIRC細胞を用いた安全性評価の結果を表8に示す。
【0037】
【表8】
【0038】
表8の結果より、実施例1−1〜実施例1−12については、安全性スコア1.0となり、安全性が非常に高かった。更に、実施例2−1〜実施例2−4については、刺激性スコア0.7となり、実施例1−1〜実施例1−12と比較してより安全性スコアの値が低いことから、より安全性が高いことが示された。