特許第6413658号(P6413658)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日油株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6413658
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】点眼剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/714 20060101AFI20181022BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20181022BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20181022BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20181022BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20181022BHJP
【FI】
   A61K31/714
   A61K47/34
   A61K47/18
   A61K47/32
   A61P27/02
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-224988(P2014-224988)
(22)【出願日】2014年11月5日
(65)【公開番号】特開2015-147760(P2015-147760A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2017年9月25日
(31)【優先権主張番号】特願2014-1422(P2014-1422)
(32)【優先日】2014年1月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】島村 佳久
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】高田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】宮本 幸治
(72)【発明者】
【氏名】坂元 伸行
【審査官】 澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−084520(JP,A)
【文献】 特開2000−086536(JP,A)
【文献】 特開2010−106015(JP,A)
【文献】 国際公開第02/015911(WO,A1)
【文献】 FRAGRANCE JOURNAL,1998年,Vol.26, No.11,p.49-61,特に表11のCosmocil(R) CQについての記載
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00−9/72,
A61K31/00−31/80,
A61K47/00−47/69,
A61P1/00−43/00
CAplus (STN),
MEDLINE (STN),
EMBASE (STN),
BIOSIS (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分0.004〜0.02w/v%、(B)成分0.00005〜0.0001w/v%及び(C)成分0.05〜0.15w/v%を含み、pH4.0〜6.9であることを特徴とする点眼剤。
(A)シアノコバラミン、
(B)式(1)に示される化合物またはその塩、
【化1】
(式(1)中、kは繰り返し単位で、1〜40の整数である。)
(C)式(2 a)に示される2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンによる構成単位と、式(2b)に示されるメタクリル酸ブチルによる構成単位とからなる共重合体。
【化2】
(式(2a)及び式(2b)において、m及びnは共重合体中のモル比を示し、m:n=70:30〜90:10である。)
【請求項2】
(D)成分としてエチレンジアミン四酢酸またはその塩を0.001〜0.1w/v%更に含有する請求項1記載の点眼剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点眼剤に関し、更に詳細には、殺菌性能を長期間維持でき、しかも、優れた防腐性及び抗眼精疲労効果の両立を安定的に長期間維持可能な点眼剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報処理などのIT(情報技術)技術革新により、職場でのVDT(Visual Display Terminals)作業時間が急速に増大している。また、テレビゲームや携帯電話、スマートフォン等の携帯電子端末の普及により、一般的な生活環境の中でもVDT作業時間が増加している。VDT作業者はディスプレイを長時間見続けるために毛様体筋の収縮が継続し、眼精疲労を引き起こし易くなる。そのため、近年、眼精疲労を訴える人が急増している。更に、このVDT作業時間の増加に伴い近視患者が増加し、視力矯正の手段としてソフトコンタクトレンズを装用する人が増加している。
眼精疲労を改善する効果を持つ成分として、ビタミンB12類が知られており、中でもシアノコバラミンが広く点眼剤の配合成分として使用されている(特許文献1)。
また、点眼剤には、微生物汚染を防ぐために防腐剤が配合される。しかし、防腐剤は角膜障害等の眼障害を引き起こす原因にもなりうるため、防腐剤の種類とその配合量には細心の注意を払う必要がある(非特許文献1)。このような防腐剤による角膜細胞への悪影響を低減させるために、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチル共重合体を点眼剤等に配合する検討もなされている(特許文献2、3)。
点眼剤に配合される防腐剤として、例えば、塩化ベンザルコニウム、パラベン類、式(1)で示される化合物又はその塩が知られており、この式(1)で示される化合物は、その慣用名の一つとしてポリヘキサメチレンビグアニドと称されている(以下、式(1)で示される化合物をポリヘキサメチレンビグアニドと称することがある)。
【0003】
【化1】
(式(1)中、kは繰り返し単位で、1〜40の整数である。)
前記ポリヘキサメチレンビグアニドまたはその塩は、塩化ベンザルコニウムやパラベン類などの防腐剤よりも角膜細胞への毒性が顕著に低いことが知られ(非特許文献2、3)、点眼剤やソフトコンタクトレンズ用消毒剤等へ使用されている。
【0004】
ところで、ポリヘキサメチレンビグアニドまたはその塩は、2価の遷移金属イオンと錯体を形成することにより不活性化することが知られている(非特許文献4)。このため、例えば、上記眼精疲労改善効果を有するシアノコバラミンと、ポリヘキサメチレンビグアニドまたはその塩とを同じ点眼剤に配合した場合、シアノコバラミン分子中に存在する2価の遷移金属であるコバルトイオンと、ポリヘキサメチレンビグアニドまたはその塩とが相互作用により不活性化するという問題が生じる。
通常、点眼剤は一定の流通期間中の品質を確保する必要性があり、この期間中は配合成分の活性維持と微生物汚染とを防止せねばならず、シアノコバラミン及びポリヘキサメチレンビグアニドまたはその塩の両者を配合した点眼剤の場合であってもその活性を維持することが必要不可欠である。
これまで、シアノコバラミンと界面活性剤とを組み合わせることで、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへのシアノコバラミンの透過性を向上させるとの知見が得られている(特許文献4)ものの、シアノコバラミンとポリヘキサメチレンビグアニドまたはその塩の活性を長期間にわたり安定的に維持し、しかも、点眼剤としての優れた防腐性及び抗眼精疲労効果を長期間両立することを可能とした点眼剤に係る技術は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−128553号公報
【特許文献2】特開平7−166154号公報
【特許文献3】特開2000−086536号公報
【特許文献4】特開2010−159248号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】大橋裕一編、眼科New Insight2 点眼薬−常識と非常識−、メジカルレビュー、pp. 36-43、1994年
【非特許文献2】G. Muller and A. Kramaer, J. Antimicrob. Chemother., 61, 6, 1281-1287(2008)
【非特許文献3】N. O. Hubner, Skin Pharmacol. Physiol., 23, 17-27(2010)
【非特許文献4】より安心できる防腐剤 Cosmocil CQ、日光ケミカルズ株式会社、2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、シアノコバラミン及びポリヘキサメチレンビグアニドまたはその塩の両者を有効量配合でき、殺菌性能を長期間維持すると共に、優れた防腐性及び抗眼精疲労効果の両立を安定的に長期間維持することが可能な点眼剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、(A)成分0.004〜0.02w/v%、(B)成分0.00005〜0.0001w/v%及び(C)成分0.05〜0.15w/v%を含み、pH4.0〜6.9であることを特徴とする点眼剤が提供される。
(A)シアノコバラミン、
(B)式(1)に示される化合物またはその塩、
【化2】
(式(1)中、kは繰り返し単位で、1〜40の整数である。)
(C)式(2 a)に示される2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、MPCと略すことがある)による構成単位と、式(2b)に示されるメタクリル酸ブチル(以下、BMAと略すことがある)による構成単位とからなる共重合体(以下、MPC・BMA共重合体と略すことがある)。
【化3】
(式(2a)及び式(2b)において、m及びnは共重合体中のモル比を示し、m:n=70:30〜90:10である。)
なお、式(1)の化合物は、下記式(1’)のように表すこともでき、式(1)と式(1’)は実質的に同一の化合物を表す。
【化4】
【発明の効果】
【0009】
本発明の点眼剤は、上記(C)成分のMPC・BMA共重合体を特定量含有し、特定範囲のpHを有するので、シアノコバラミン及びポリヘキサメチレンビグアニドまたはその塩の両者を有効量配合でき、殺菌性能を長期間維持すると共に、優れた防腐性及び抗眼精疲労効果の両立を安定的に長期間維持することが可能となる。従って、例えば、VDT作業等により眼精疲労を訴える人に使用する点眼剤として特に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の点眼剤は、(A)成分としてシアノコバラミンと、(B)成分として上記式(1)に示される化合物、即ち、ポリヘキサメチレンビグアニドまたはその塩と、(C)成分として上記式(2a)に示されるMPCによる構成単位、及び上記式(2b)に示されるBMA構成単位を特定モル比で有するMPC・BMA共重合体を、特定量含有し、かつ特定のpHを示す。
【0011】
本発明の点眼剤に用いる(A)成分は、前述のとおり従来から利用されており、公知のものであって、日本薬局方適合品であれば何れも使用することができる。
本発明の点眼剤において、(A)成分の配合量は、0.004〜0.02w/v%である。0.004w/v%未満であると、眼精疲労を改善する効果が弱く、0.02w/v%より多く配合しても配合量に見合った効果が期待できない。
【0012】
本発明の点眼剤に用いる(B)成分において、上記式(1)中のkは繰り返し単位であり、以下の式より算出される。なお、原子量としては例えば、日本薬局方に記載の炭素:12.0107、水素:1.00794、窒素:14.0067が利用できる。
k=(ポリヘキサメチレンビグアニドの重量平均分子量)/(183.25408)−1
(B)成分において塩としては、例えば、塩酸塩、ホウ酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩、スルホン酸塩、酒石酸塩又はクエン酸塩が挙げられる。このようなポリヘキサメチレンビグアニドの塩としては、例えば、アーチ・ケミカルズ株式会社製のCosmocil CQ(登録商標)或いはVantocil IB(登録商標)や、三洋化成工業株式会社製のBG‐1等の市販品が挙げられる。これらは、1種類を選択して単独で使用しても良く、2種類以上を任意に組み合わせて使用しても良い。市販されているポリヘキサメチレンビグアニドは、式(1)に示す末端基がシアノグアニジノ基以外にもグアニジン基等の置換基の異なる化合物が少量混ざっているが、問題なく使用できる。
本発明の点眼剤において、(B)成分の配合量は、0.00005〜0.0001w/v%である。0.00005w/v%未満であると、点眼剤としての防腐効果が十分に発揮できず、0.0001w/v%より大きいと、配合量に見合った効果が期待できない。
【0013】
本発明の点眼剤に用いる(C)成分は、MPCとBMAとの共重合体であって、上記式(2a)で示されるMPCによる構成単位と、BMAによる構成単位とのモル比、即ち、式(2a)中のm:式(2b)中のnは、70:30〜90:10である。
(C)成分の重量平均分子量(Mw)は、通常100,000〜1,000,000である。
本発明の点眼剤において、(C)成分の配合量は、0.05〜0.15w/v%である。0.05w/v%未満であると有効量の(B)成分の長期間維持が困難であり、十分な細胞毒性を得ることができない恐れがあり、0.15w/v%を超えると、有効量の(A)成分及び(B)成分の長期間維持が困難となる。
【0014】
(C)成分のMPC・BMA共重合体は、例えば、次のように製造することができる。即ち、MPC及びBMAを、脱気条件下、ラジカル重合開始剤の存在下、あるいは窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、二酸化炭素ガスなどの不活性ガス置換または雰囲気中、水、メタノール、エタノール等の溶媒中で加熱あるいは光を照射することにより重合させ、製造することができる。
このようなMPC・BMA共重合体としては、例えば、日油株式会社より販売されている薬添Lipidure−PMB(登録商標)を使用することができる。
【0015】
本発明の点眼剤は、(A)〜(C)成分に加えて、本発明の効果を更に向上させるために、(D)成分であるエチレンジアミン四酢酸またはその塩を配合することが好ましい。エチレンジアミン四酢酸及びその塩は、何れも公知のものであれば特に制限されず、使用に際しては1種類を選択して単独で使用しても、2種類以上を任意に組み合わせて使用しても良い。また、塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩が挙げられる。これらは、エチレンジアミン四酢酸塩は水和物を用いても良い。
本発明の点眼剤において、(D)成分を含有させる場合の配合量は、0.001〜0.1w/v%が好ましい。0.001w/v%未満であると配合効果が十分でない恐れがあり、0.1w/v%を超えると、配合量に見合った効果が期待できない。
【0016】
本発明の点眼剤には、上記(A)〜(D)成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、また、他の効果を期待して、その他の成分や、通常点眼剤に使用される成分を、その目的等に応じて適宜、適量配合することができるが、非イオン性界面活性剤は含まないことが好ましい。
その他の成分としては、例えば、多価アルコール、清涼化剤、無機塩、有機酸の塩、酸、塩基、等張化剤、酸化防止剤を挙げることができる。
多価アルコールとしては、例えば、プロピレングリコール、グリセリン、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、トレハロースが挙げられる。
清涼化剤としては、例えば、メントール、カンフルが挙げられる。
無機塩としては、例えば、ホウ砂、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウムが挙げられる。
有機酸の塩としては、例えば、クエン酸ナトリウムが挙げられる。
酸としては、例えば、ホウ酸、リン酸、クエン酸、硫酸、酢酸、塩酸が挙げられる。
塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トロメタモール、モノエタノールアミンが挙げられる。
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、前述の多価アルコールが挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、酢酸トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエンが挙げられる。
【0017】
本発明の点眼剤のpHは、(A)成分及び(B)成分の有効量における長期安定性から、pH4.0〜6.9であり、好ましくはpH5.2〜6.5である。pHが4.0未満では、一般的に(A)成分の長期安定性が損なわれる恐れがある。pH6.9を超えると、特に、(B)成分の長期安定性が損なわれ、殺菌性能が低下するおそれがある。pHの調整は、例えば、上記酸や塩基により行うことができる。
【0018】
本発明の点眼剤において、その浸透圧は、生体に許容される範囲内であれば特に限定されない。本発明の点眼剤の浸透圧の一例としては、好ましくは200〜450mOsm/kgであり、より好ましくは250〜400mOsm/kgである。
本発明の点眼剤において、その表面張力は特に限定されず、好ましくは35〜70dyne/cm、より好ましくは40〜65dyne/cmである。
【0019】
本発明の点眼剤を収容する容器の素材は、点眼剤への使用を認められたものであれば何れも使用することができる。具体的には、例えば、ポリエチレン製点眼容器、ポリプロピレン製点眼容器、ポリエチレンテレフタレート製点眼容器が挙げられる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明について実施例及び比較例により、具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されない。
実施例及び比較例の点眼剤における各種測定は以下の方法で行った。
<pH>
第16改正日本薬局方 一般試験法 2.54 pH測定法に従い、pH測定計((株)堀場製作所製、pHメータD−51型)を用いて測定した。
<浸透圧>
第16改正日本薬局方 一般試験法 2.47 浸透圧測定法(オスモル濃度測定法)に従い行った。具体的には、氷点測定法によるオズモメーター(アドバンスド インストルメンツ社製、オズモメーター フィスケ210)を用いて測定した。
<表面張力>
Wilhelmy平板法による表面張力計(協和界面科学(株)製、自動表面張力計 CBVP−A3型)を用いて測定した。
<(A)成分のシアノコバラミンの含量>
第16改正日本薬局方 医薬品各条シアノコバラミンの純度試験の項目の方法を参考に、高速液体クロマトグラフィー(東ソー(株)製、8020シリーズ)を用いて測定した。
<(B)成分のポリヘキサメチレンビグアニドまたはその塩の含量>
紫外可視分光光度計(日本分光(株)製、V−560)を用いて測定した。
<点眼剤の保存効力>
第16改正日本薬局方 参考情報 保存効力試験法に従い以下の方法で評価した。
細菌として、Escherichia coli(大腸菌)(NBRC3972)、Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌) (NBRC13275)、Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)(NBRC13276)の3種を用い、真菌として、Candida albicans(カンジダ菌)(NBRC1594)、Aspergillus brasiliensis(クロコウジカビ)(NBRC9455)の2種を用いた。
上記大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、カンジダ菌、クロコウジカビを1mL当たり約108個となるようにあらかじめ培養し、試験菌液とした。この試験菌液の1/100量を実施例1−1〜実施例1−12、実施例2−1〜実施例2−4及び比較例1−1〜比較例1−6に対して添加し、接種菌数が1mL当たり105〜106個となるように調製し、25℃にて保管した。接種から28日後にサンプリングを行い、培養して、生菌数を測定した。
【0021】
実施例1−1
精製水70gを50℃に昇温し、ホウ酸0.4g、水酸化ナトリウム0.000896g、塩化ナトリウム0.55g、塩化カリウム0.1g、シアノコバラミン0.02g、タウリン0.1g、Cosmocil CQ(登録商標)0.0004g(20%ポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩であるため、純分は0.00008gとなる。(重量平均分子量は2806であり、換算することにより、繰り返し単位であるkは平均14))、薬添Lipidure- PMB(登録商標)2.0g(5%MPC・BMA共重合体水溶液、MPCによる構成単位とBMA構成単位のモル比は80:20、MPC・BMA共重合体は0.1g)となるように順次加え、均一になるように攪拌した後、これを全量100mLとなるように精製水を加え、50℃で1時間攪拌した。これを冷却後、ろ過滅菌を行い、ポリエチレンテレフタレート製15mL点眼容器へと充てんし、無菌の点眼剤とした。この点眼剤の性状は赤色澄明、pHは6.3、浸透圧は274、表面張力は58.5dyne/cmであった。結果を表1に示す。
【0022】
実施例1−2〜実施例1−12
表1に示す種類及び量の成分を使用した以外は、実施例1−1と同様の手順に従って無菌の点眼剤を製造し、表1に示す点眼容器の素材で容量が15mLの容器へと充てんした。各点眼剤の性状、pH、浸透圧及び表面張力を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
比較例1−1〜比較例1−6
表2に示す種類及び量の成分を使用した以外は、実施例1−1と同様の手順に従って無菌の点眼剤を製造し、表2に示す点眼容器の素材で容量が15mLの容器へと充てんした。各点眼剤の性状、pH、浸透圧及び表面張力を表2に示す。
【0025】
【表2】
【0026】
実施例2−1〜実施例2−4
表3に示す種類及び量の成分を使用した以外は、実施例1−1と同様の手順に従って無菌の点眼剤を製造し、表3に示す点眼容器の素材で容量が15mLの容器へと充てんした。各点眼剤の性状、pH、浸透圧及び表面張力を表3に示す。
【0027】
【表3】
【0028】
試験例1:点眼剤の保存安定性試験
実施例1−1〜実施例1−12、比較例1−1〜比較例1−6及び実施例2−1〜実施例2−4で調製した点眼剤をICHガイドラインに準じて、温度40±2℃、湿度75±5%RHの保管庫内に6箇月間保管した。これは室温での3年保管相当となる。充てんしたものにつき、シアノコバラミンの含量、pH、防腐剤(ポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩)の含量及び保存効力を、試験開始時、3箇月保管後及び6箇月保管後に測定した。
評価は、次の(1)〜(4)の判定基準を満たすとき、試験適合とした。
(1)シアノコバラミンの含量:試験開始時の含量を100%として、6箇月間保管後の含量が、試験開始時の含量に対して90〜110%の範囲内である。
(2)pH:試験開始時を基準値として、6箇月間保管後の値が基準値の±1.0以内である。
(3)防腐剤の含量:試験開始時の含量を100%として、6箇月間保管後の含量が、試験開始時の含量に対して90〜110%の範囲内である。
(4)保存効力:第16改正 日本薬局方 参考情報 保存効力試験に従い試験を行い、6箇月間保管後の結果が次の2点を満たす。
細菌:生菌数が1.0×102個以下である。
真菌:生菌数が1.0×105個以下である。
実施例1−1〜実施例1−12、比較例1−1〜比較例1−6及び実施例2−1〜実施例2−4における保存安定性試験のシアノコバラミンの含量、pH、防腐剤の含量に関する結果を表4及び表5に示し、保存効力試験の結果に関して28日後に観測された各菌における生菌数を表6及び表7に示す。
【0029】
【表4】
【0030】
【表5】
【0031】
【表6】
【0032】
【表7】
【0033】
表4及び表6の結果より、実施例1−1〜実施例1−12の点眼剤については、シアノコバラミンの含量、pH、保存効力及び防腐剤の含量の全ての項目について、3箇月後及び6箇月後の試験結果は判定基準を満たし、良好な安定性を示した。
表5及び表7の結果より、比較例1−2及び比較例1−6については、試験開始時から保存効力が判定基準を満たさず、保存安定性試験は不適合であった。比較例1−3については、シアノコバラミンの含量及び防腐剤の含量が10%以上低下したため、保存安定性試験は不適合であった。比較例1−4については、シアノコバラミンの含量が10%以上低下したため、保存安定性試験は不適合であった。比較例1−1及び比較例1−5については防腐剤の含量が10%以上低下し、保存効力が判定基準を満たさず、このため保存安定性試験は不適合であった。
実施例2−1〜実施例2−4の点眼剤については、シアノコバラミンの含量、pH、保存効力、防腐剤の含量の全ての項目について、3箇月後、6箇月後ともに判定基準を満たし、実施例2−1〜実施例2−4の点眼剤について、実施例1−1〜実施例1−12よりも更に良好な安定性を示した。
【0034】
試験例2:SIRC細胞を用いた安全性評価
以下の文献を参考に、SIRC細胞(ウサギ角膜上皮細胞)を用いて、実施例1−1の安全性評価を以下の(a)〜(g)の手順に従い実施した。
(文献)
N. Tani et al、Toxicology in Vitro, 13, 175−187, (1999)。
M. Kitagawa et al, The Journal of Toxicological Science, 31, 4, 371−379, (2006)。
H. Torishima et al, AATEX, 3(1), 29−36, (1995)。
(a)あらかじめ培養したSIRC細胞を細胞培養用培地へ懸濁させ、この懸濁液を105cells/ウェルとなるように調製し、96ウェルプレートに100μLずつ播種し、24時間培養した。
(b)実施例1−1の点眼剤の濃度が100%、75%、50%、25%、12.5%、0%となるように調製し、それぞれを試験液(1)、試験液(2)、試験液(3)、試験液(4)、試験液(5)及び試験液(6)とした。
(c)(a)でSIRC細胞を培養した96ウェルプレートから細胞培養用培地を除いた。
(d)(b)で調製した各試験液、陰性対照として生理食塩液及び細胞培養用培地を96ウェルプレートに100μLずつ添加し、24時間培養した。
(e)各試験液、陰性対照及び細胞培養用培地を96ウェルプレートから除き、ニュートラルレッド混合培地(ニュートラルレッドを5mg/mLとなるように精製水で溶解させ、この液を細胞培養用培地で100倍希釈して、ニュートラルレッド混合培地とした。)を96ウェルプレートに100μLずつ添加し、3時間静置した。
(f)96ウェルプレートからニュートラルレッド混合培地を除いた。この後、エタノール/精製水/酢酸=50/49/1の体積比で調製したニュートラルレッド抽出液を96ウェルプレートに100μLずつ添加し、振盪機で5分間攪拌し、SIRC細胞からニュートラルレッドを抽出した。
(g)(f)にて抽出した液について540nmにおける吸光度を測定した。得られた吸光度から下記式(I)を用いて、試験液(1)〜(6)の各濃度におけるSIRC細胞の生存率を算出した。続いて、式(I)より算出した、試験液(1)〜(6)の各濃度におけるSIRC細胞の生存率から、下記式(II)を用いて実施例1−1のIC50(SIRC細胞が50%死滅する濃度)を算出した。さらに、この算出したIC50から安全性スコアを算出する下記式(III)を用いて実施例1−1の安全性スコアを算出した。結果を表8に示す。
【0035】
式(I)
試験液(1)〜(6)のSIRC細胞の生存率(%)=
(試験液(1)〜(6)で試験した吸光度−陰性対照で試験した吸光度)/(細胞培養用培地で試験した吸光度−陰性対照で試験した吸光度)×100
式(II)
IC50=10α
ここで、α=(log(A/B)×(50−C)/(C−D)+logB)
A:試験液(1)〜(6)の中で細胞生存率50%を越える試験液の最低濃度、
B:試験液(1)〜(6)の中で細胞生存率50%を下回る試験液の最高濃度、
C:Bにおける細胞生存率、
D:Aにおける細胞生存率。
式(III)
安全性スコア=−0.412×(IC50)+3.05
算出した安全性スコアを以下のように分類した。
安全性スコアの分類
0〜1.4:非常に高い安全性、1.5〜2.4:高い安全性、2.5〜3.4:中程度の安全性、3.5以上:低度の安全性
【0036】
実施例1−1のSIRC細胞を用いた安全性評価を、実施例1−2〜実施例1−12及び実施例2−1〜実施例2−4についても同様に実施した。実施例1−2〜実施例1−12及び実施例2−1〜実施例2−4におけるSIRC細胞を用いた安全性評価の結果を表8に示す。
【0037】
【表8】
【0038】
表8の結果より、実施例1−1〜実施例1−12については、安全性スコア1.0となり、安全性が非常に高かった。更に、実施例2−1〜実施例2−4については、刺激性スコア0.7となり、実施例1−1〜実施例1−12と比較してより安全性スコアの値が低いことから、より安全性が高いことが示された。