特許第6413663号(P6413663)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6413663-金属積層フィルム 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6413663
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】金属積層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/088 20060101AFI20181022BHJP
   B32B 15/09 20060101ALI20181022BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20181022BHJP
【FI】
   B32B15/088
   B32B15/09 Z
   B32B15/20
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-226769(P2014-226769)
(22)【出願日】2014年11月7日
(65)【公開番号】特開2016-87982(P2016-87982A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮本 亮
(72)【発明者】
【氏名】琴浦 正晃
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−264317(JP,A)
【文献】 特開平10−128908(JP,A)
【文献】 特開平05−288835(JP,A)
【文献】 特開2014−016935(JP,A)
【文献】 特開2001−326279(JP,A)
【文献】 特開2013−089971(JP,A)
【文献】 特開平03−150153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
G06F 3/041
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムの少なくとも片側に銅層を有する金属積層フィルムであって、最表面のぬれ指数が30mN/m以上、60mN/m以下であり、前記銅層の厚さが0.5μm以上、3μm以下であることを特徴とする金属積層フィルム。
【請求項2】
金属積層フィルムの最表面におけるケイ素含有量が、前記銅層と前記プラスチックフィルムとの界面におけるケイ素含有量よりも多いことを特徴とする請求項1に記載の金属積層フィルム。
【請求項3】
前記銅層が気相成膜法により形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属積層フィルム。
【請求項4】
前記プラスチックフィルムがポリエチレンテレフタレートまたはポリイミドにより構成されていることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の金属積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタッチパネル電極用の導電性フィルムとして好適に用いることが可能な耐湿性に優れる金属積層フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルは操作が簡易であり、利便性に優れることから小型ではスマートフォンやタブレット端末、中型ではPC用やFA(Factory Automation)用、大型ではデジタルサイネージ用などに需要が増加している。
【0003】
その中で、マルチタッチが可能なためタッチパネルで主流になりつつある静電容量式タッチパネルや、安価で汎用として広く採用されている抵抗膜式タッチパネルには、タッチパネル電極用の導電性フィルムが広く使用されてきている。
【0004】
静電容量式の1つの方式は、2面の電極をパターン化し、コントローラーにて押圧位置の電流を電圧に変換して検出しようとするものである。従って静電容量式のタッチパネルに使用される導電性フィルムは、例えば液晶画面用としては表面抵抗率が小さく、光線透過率が高い材料が要求される。
【0005】
従来、抵抗膜式または静電容量式の導電性フィルムとして、透明なITO膜(Indium Tin Oxide)を表面に形成させたフィルムが広く使用されている。このITO膜は、フィルムの表面に蒸着法やスパッタリング法により形成され、そのため大型化はコスト面で制約されることが問題であった。またITO膜は、体積抵抗率が高いという問題もある。体積抵抗率が高ければ大型の電極パターンを形成した際に抵抗値も高くなり、押圧位置の電流の検出が困難になる。ITO膜電極の抵抗値を低くしようとすれば、膜厚を厚くすればよいが、膜厚の増加は透明性の低下および屈曲性の低下をきたすので好ましくない。
【0006】
そこで近年、ITO膜を用いた導電性フィルムの代わりに金属積層フィルムが提案されている。体積抵抗率の低い金属をプラスチックフィルム上にパターン状に形成することで、生産性が良好で表面抵抗率が小さい材料として次第に用いられてきている。
【0007】
この金属積層フィルムの製造方法として、透明フィルムに銅箔などの金属箔を、接着剤層を介して積層した後、レジストフィルムを貼り付け、所望のパターン形状のフォトマスクを介して露光後、現像、エッチング、レジスト剥離するフォトリソグラフィー法を利用して、透明フィルム上にパターン形状とした金属層を設ける方法(特許文献1)が知られている。
【0008】
その中で、透明フィルムと金属箔(銅箔)との貼り合わせる方法においては、貼り合わせを均一に行うためと厚み5μm以下の金属箔(銅箔)が高価であるという問題から通常10μm程度以上の金属箔が用いられているが、厚みが10μm以上の金属箔をエッチング処理して線幅が比較的小さい(例えば10μm未満)パターン形状を作成することが技術的に困難であるという問題がある。
【0009】
上記問題に対して、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルムに直接、気相成膜法で金属層を形成し、該金属層に印刷法やフォトリソグラフィー法とエッチング法等を利用して、細線パターンに加工してパターン形状を有する金属層を形成する方法が提案されている。この方法は、比較的厚みが小さい(例えば4μm以下)金属層であっても安価に製造できる。
【0010】
上記の気相成膜法で形成された金属層を用いた金属層の形成方法としては、例えば特許文献2、3に記載されている。しかしながら、特許文献2や3に記載の方法で製造された金属積層フィルムは金属層最表面が工程中あるいは製品完成後に金属層が次第に酸化あるいは水酸化して変色し、外観に支障をきたすだけでなく、例えば貼合の工程がある場合、密着力が低下するなどの問題がある。特に金属層が銅の場合は酸化あるいは水酸化し易く最表面が銅色から褐色、青色、紫色と変化し最終的に赤色になることが一般的に知られている。
【0011】
銅層の酸化あるいは水酸化を防止する方法としてはベンゾトリアゾールを主成分とする防錆剤層をオフラインで銅層表面に塗布することが一般的に知られている(特許文献4)。
しかしながらベンゾトリアゾールを主成分とする防錆剤層の塗布は、オフラインでのウェットコーティングとなるためコスト的に高価になることと、効果が限定的であり現在必要とされている耐湿性を十分に満たしているとは言えないことが挙げられる。
【0012】
また、銅層の表面に黒化層なる黒色の層を設けることで、酸化あるいは水酸化による変色を見かけ上、抑制する方法がある(特許文献5)。しかしながらこれらの黒化層を設ける方法は黒化層が化学的反応物であるため、黒化層の成膜速度が遅く、生産性に限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10−41682号公報
【特許文献2】特開2004−95829号公報
【特許文献3】特開2005−268688号公報
【特許文献4】特開平05−28835号公報
【特許文献5】特開2009−54670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、上記従来技術に鑑み、銅層を有する金属積層フィルムの銅層表面の酸化あるいは水酸化の防止を目的とし、該防錆処理を銅層形成時つまり気相成膜法で形成することにより金属積層フィルムとして評価した場合の銅層の耐湿性を飛躍的に向上し、生産性に優れた金属積層フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の金属積層フィルムは以下の構成をとる。
(1)プラスチックフィルムの少なくとも片側に銅層を有する金属積層フィルムであって、最表面のぬれ指数が30mN/m以上、60mN/m以下であり、前記銅層の厚さが0.5μm以上、3μm以下であることを特徴とする金属積層フィルム。
(2)金属積層フィルムの最表面におけるケイ素含有量が、前記銅層と前記プラスチックフィルムとの界面におけるケイ素含有量よりも多いことを特徴とする(1)に記載の金属積層フィルム。
)前記銅層が気相成膜法により形成されることを特徴とする(1)又は(2)に記載の金属積層フィルム。
)前記プラスチックフィルムがポリエチレンテレフタレートまたはポリイミドにより構成されていることを特徴とする(1)〜()のいずれかに記載の金属積層フィルム。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下に説明するとおり、高い生産性と優れた耐湿性、優れた電気導電性を高い次元で両立した、実用的なタッチパネル電極用の導電性フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例および比較例の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の金属積層フィルムは、プラスチックフィルムの少なくとも片側に銅層を有する金属積層フィルムであって、最表面のぬれ指数が30mN/m以上、60mN/m以下であることが好ましい。なお、最表面とは金属積層フィルムにおいて銅層が積層された側の最表面のことをいう。最表面のぬれ指数が30mN/m未満の場合、撥水性が発現するため銅層表面に付着した水分が球形となり銅層の物理的凹部に集中して局所的な酸化あるいは水酸化が発生する場合がある。一方、ぬれ指数が60mN/mより大きい場合は親水性が発現するため銅層表面に均一に水分が浸透し酸化あるいは水酸化を促進してしまう場合がある。したがって、最表面のぬれ指数は30mN/m以上、60mN/m以下が好ましく、35mN/m以上、55mN/m以下がより好ましく、40mN/m以上、50mN/m以下がさらに好ましい。なお、プラスチックフィルムの両側に銅層を有する場合に、最表面のぬれ指数が30mN/m以上、60mN/m以下であるとは、少なくとも一方の銅層の最表面のぬれ指数が30mN/m以上、60mN/m以下であることをいう。
【0019】
また、本発明の金属積層フィルムの最表面におけるケイ素含有量が、前記銅層と前記プラスチックフィルムとの界面におけるケイ素含有量よりも多いことが好ましい。金属積層フィルムの最表面におけるケイ素含有量が、前記銅層と前記プラスチックフィルムとの界面におけるケイ素含有量よりも多ければ、銅層の耐湿性が向上するため好ましい。ここで、銅層とプラスチックフィルムとの界面とは、銅層の最表面からエッチングを行いながらXPS分析を実施したとき、深さ方向の元素組成プロファイルにおいて、元素組成が初めて金属元素1at%未満でかつ、炭素元素が40at%以上となる箇所をいう。なお、銅層とプラスチックフィルムとの界面におけるケイ素含有量の測定方法については実施例の項で説明する。
【0020】
なお、プラスチックフィルムの両側に銅層を有する場合において、最表面におけるケイ素含有量が、銅層とプラスチックフィルムとの界面におけるケイ素含有量よりも多いとは、次の場合をいう。すなわち、一方の銅層側について、当該銅層の最表層および当該銅層とプラスチックフィルムとの界面におけるケイ素含有量を測定し、最表面におけるケイ素含有量が、当該銅層とプラスチックフィルムとの界面におけるケイ素含有量よりも多いか否かを判断する。次に他方の銅層側についても同様に、当該銅層の最表層および当該銅層とプラスチックフィルムとの界面におけるケイ素含有量を測定し、当該銅層最表面におけるケイ素含有量が、当該銅層とプラスチックフィルムとの界面におけるケイ素含有量よりも多いか否かを判断する。その結果、少なくともいずれか一方の側において銅層の最表面におけるケイ素含有量が、当該銅層とプラスチックフィルムとの界面におけるケイ素含有量よりも多い場合を、最表面におけるケイ素含有量が、銅層とプラスチックフィルムとの界面におけるケイ素含有量よりも多いこととする。
【0021】
ケイ素を含有させる方法は特に限定されるものではないが、後述する銅層形成方法は真空蒸着法が好ましいため、同一バッチ内でケイ素を含有させることができることから、ケイ素を含むオイルを真空蒸着した後にグロー放電処理することが好ましい。グロー放電処理においては、局部的に電極周辺にガスを導入する。用いられるガスの種類は特に限定されないが、例えば、O、Ar、CO、COなどが挙げられる。特に好ましくはOやAr、あるいはこれらの1種以上を含む混合ガスである。また、グロー放電電極には、Cu、アルミ、またはステンレス電極を使用するのが好ましい。また、本発明の範囲に特性を制御するためには、グロー放電電源はパルスDC電源を用いるのが好ましく、周波数を200〜500kHzにすることが好ましい。
【0022】
また、本発明におけるケイ素を含むオイルとしては特に限定されないが、例示するならば、フッ素系オイル類、パーフロロアルキルポリエーテル類、鉱物油類、およびジメチルポリシロキサン類、メチルフェニルシリコーン類などのシリコーンオイル類などである。耐湿性及び電気特性の観点から、シリコーンオイルかフッ素系オイル類が好ましい。シリコーンオイルとしては、ジメチルポリシロキサンまたはメチルフェニルシリコーンオイルが好ましく、メチルフェニルジメチルポリシロキサンが耐湿性の観点から特に好ましい。
【0023】
また、本発明の銅層の厚みは0.1μm以上、3μm以下であることが好ましく、銅層の厚みが0.1μmよりも薄いと十分な導電性が得られない場合があり、3μmを超えると、金属層を部分的に除去した際に金属層の側面が透過光を遮って、そのような本発明の金属積層フィルムをタッチパネルに用いた場合には、タッチパネルの視野角が制限される場合がある。なお、プラスチックフィルムの両側に銅層を有する場合において、銅層の厚みが0.1μm以上、3μm以下であるとは、少なくとも一方の銅層の厚みが0.1μm以上、3μm以下であることをいう。
【0024】
銅層は気相成膜法により形成されることが好ましい。気層成膜法により銅層を形成することにより、例えば、緻密な銅層を形成することができるためである。また、気相成膜法を用いることにより、例えば銅層の膜厚等を容易に調整することができるためである。気相成膜法の中でも、銅層の形成方法は特に限定されず、選択される素材に応じて生産性を考慮して適宜形成方法を選ぶことができる。例えば、真空蒸着法やスパッタリング法、湿式めっき法によって形成することができるが、0.1μm以上、3μm以下の膜厚を生産性良く得るためには真空蒸着法が好ましい。
【0025】
なお、プラスチックフィルムの両側に銅層を有する場合において、銅層が気相成膜法により形成されるとは、少なくとも一方の銅層が気層成膜法により形成されることをいう。
【0026】
本発明のプラスチックフィルムは機械的特性と入手性の観点からポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリイミドフィルムのいずれかにより構成されていることが好ましい(以下、ポリエチレンテレフタレートを「PET」と記載することもある)。例えば、タッチパネル電極用に用いる場合は光学特性の観点からポリエチレンテレフタレートフィルムが特に好ましい。
【0027】
プラスチックフィルムの厚みは特に限定されるものではないが、好ましくは1μm以上500μm以下であり、より好ましくは10μm以上500μm以下であり、更に好ましくは20μm以上250μmである。基材が薄すぎるとハンドリングが困難となる場合があり、厚すぎると透明性が損なわれてしまう場合がある。
【0028】
本発明の金属積層フィルムの明度L*は3以上5以下であることが好ましく、色度a*は絶対値19以上24以下が好ましく色度b*は絶対値5以上8以下が好ましい。明度と色度がこの範囲にあると銅層をパターニングした際にも透明性が維持できるため好ましい。明度と色度は、色彩式差計により測定される。本発明では、明度及び色度を、国際照明委員会(CIE)規定のL***表色系(JIS Z 8729にも採用されている)で規定する。
【0029】
本発明の銅層は、パターン状を有することが好ましい。なお、銅層をパターン状とする場合には、ベタ膜状の銅層を有する金属積層フィルムから、銅層の一部を除去してパターン状とすることが可能である。そのパターンの形状は特に限定されないが、好ましくはメッシュ状やストライプ状を挙げることができる。
【0030】
本発明の金属積層フィルムは導電性フィルムとして好ましく用いることができる。例えば、タッチパネル電極やタッチパッド等に好ましく用いることができるが、特にタッチパネル電極用の導電性フィルムとして好ましく用いることができる。
【実施例】
【0031】
(測定方法)
(1)膜厚
膜厚は、FIB(収束イオンビーム)法により金属積層フィルムを切断し、その断面をTEM(透過型電子顕微鏡)により観察することで測定した。なお、観察画像において画像の縦方向に占める膜厚の割合が50%以上になるよう、倍率を1,000〜50,000倍の範囲で適宜調整して測定した。
【0032】
(2)オイル付着量
金属積層フィルムについて、理学電機工業社製の蛍光X線分析装置RIX 3000を用い、試料板の上にフィルムを載せ、30mmφの測定面積でオイルの代表的な元素の強度を求め、別に検量線を作成しておき、オイル量をこの検量線を用いて算出した。
【0033】
(3)プラズマ電流密度
連続式蒸着機において、処理幅L[m]、速度V[m/min]、処理電力W[W]とした場合に、下の式により算出した。
【0034】
【数1】
【0035】
(4)ぬれ指数
JIS K−6768(1999)に従い測定した。
【0036】
(5)ケイ素含有量
ケイ素含有量は、得られた金属積層フィルムのXPS(X線光電子分光法)分析により実施した。銅層の表面より、アルゴンイオンにより以下の条件でエッチングを行いながらXPS分析を実施し、深さ方向の元素組成プロファイルを得た。銅層の表面よりエッチングを行っていき、元素組成が初めて金属元素1at%未満でかつ、炭素元素が40at%以上となる深さを銅層とプラスチックフィルムとの界面とした。ここでat%とは原子組成百分率を表し、全原子数を100としたときの各元素の原子数を表す。
【0037】
アルゴンイオンによるエッチング条件詳細を以下に記載する。
・イオン種:アルゴン
・イオンビーム強度:3kV 10mA
・エッチング速度:5.3nm/min(SiOのエッチングレートで換算した値)。
【0038】
(ii)上記方法により得られた測定箇所におけるXPS分析を実施した。XPS分析の詳細条件を下記する。
・装置:SSI社製 SSX−100
・励起X線:単結晶分光 Al Ka1線(1,486.6eV)
・光電子脱出角度:35度
・X線スポット:表面分析 短軸1,000μm×長軸1,750μmの楕円形。
【0039】
(6)耐湿性
耐湿性は金属積層フィルムを85℃85%RHの恒温恒湿槽内にフィルム1枚の状態で100時間放置した後に、明度と色度を測定した。
【0040】
測定面内25箇所の反射色度をコニカミノルタ製CM−2500dを用い、JIS Z 8722(2009年改訂)に準拠し測定した。測定条件は測定角2°、光源D65とし正反射を除いた値SCEを反射色度値L*、a*、b*とした。
【0041】
前述の通り、金属層が銅の場合は酸化あるいは水酸化した場合に最表面の色が銅色から褐色、青色、紫色へと変化することから、高温高湿試験後の明度と色度を測定することにより耐湿性を評価することができる。
【0042】
明度L*、色度a*、色度b*がすべて以下の範囲内にある場合は「良好」、1つでも範囲外のものがある場合は「不良」と判定した。
明度L*:3以上5以下
色度a*:絶対値19以上24以下
色度b*:絶対値5以上8以下。
【0043】
(実施例1)
プラスチックフィルム(4)として東レ株式会社製PETフィルム(商品名:“ルミラー”(登録商標)U48)を用いた。プラスチックフィルムの厚みは100μmであった。
【0044】
プラスチックフィルム(4)の一方の面(これを上面側とする)に、ロールトゥロールにて銅層(2)を、厚みが2.0μmとなるようにEB蒸着法で成膜した。電子銃の出力は成膜幅に対して53.5kW/mとした。
【0045】
さらに、銅層(2)の上面側に、ロールトゥロールにて東レダウコーニングシリコーン社製フェニルメチルジメチルポリシロキサンオイル(商品名:“SH702”)を加熱蒸着し、続けてオイル付着面に、Oガスを微量供給しながら250kHz、5kWのパルスDC電源を用いてグロー放電を発生させてグロー放電処理を施した(処理電力密度 E=30.0W・min/m)。ここで、オイル付着量を0.5μg/10cmとなるようにオイル蒸着量を制御した。
【0046】
得られた金属積層フィルムの最表面(1)のぬれ指数を測定したところ43mN/mであることを確認した。
【0047】
また、銅層のケイ素含有量を分析したところ最表面(1)が3.4at%、銅層とプラスチックフィルムとの界面(3)が0.7at%と最表面におけるケイ素含有量が、銅層とプラスチックフィルムとの界面におけるケイ素含有量よりも多いことを確認した。
【0048】
得られた金属積層フィルムの耐湿性の試験を実施したところ試験前後でL*、a*、b*いずれも良好な値であり耐湿性が良好であることを確認した。
【0049】
(実施例2)
グロー放電処理電力密度を E=15.0W・min/mとする以外は実施例1と同様の方法で金属積層フィルムを得た。
【0050】
得られた金属積層フィルムの最表面(1)のぬれ指数を測定したところ34mN/mであることを確認した。
【0051】
また、銅層のケイ素含有量を分析したところ最表面(1)が5.7at%、銅層とプラスチックフィルムとの界面(3)が0.3at%と最表面におけるケイ素含有量が、銅層とプラスチックフィルムとの界面におけるケイ素含有量よりも多いことを確認した。
【0052】
得られた金属積層フィルムの耐湿性の試験を実施したところ試験前後でL*、a*、b*いずれも良好な値であり耐湿性が良好であることを確認した。
【0053】
(実施例3)
グロー放電処理電力密度を E=50.0W・min/mとする以外は実施例1と同様の方法で金属積層フィルムを得た。
【0054】
得られた金属積層フィルムの最表面(1)のぬれ指数を測定したところ56mN/mであることを確認した。
【0055】
また、銅層のケイ素含有量を分析したところ最表面(1)が2.8at%、銅層とプラスチックフィルムとの界面(3)が1.4at%と最表面におけるケイ素含有量が、銅層とプラスチックフィルムとの界面におけるケイ素含有量よりも多いことを確認した。
【0056】
得られた金属積層フィルムの耐湿性の試験を実施したところ試験前後でL*、a*、b*いずれも良好な値であり耐湿性が良好であることを確認した。
【0057】
(実施例4)
オイル付着量を1.0μg/10cmとなるようにオイル蒸着量を制御する以外は実施例1と同様の方法で金属積層フィルムを得た。
【0058】
得られた金属積層フィルムの最表面(1)のぬれ指数を測定したところ40mN/mであることを確認した。
【0059】
また、銅層のケイ素含有量を分析したところ最表面(1)が6.4at%、銅層とプラスチックフィルムとの界面(3)が0.6at%と最表面におけるケイ素含有量が、銅層とプラスチックフィルムとの界面におけるケイ素含有量よりも多いことを確認した。
【0060】
得られた金属積層フィルムの耐湿性の試験を実施したところ試験前後でL*、a*、b*いずれも良好な値であり耐湿性が良好であることを確認した。
【0061】
(実施例5)
銅層(2)を、厚みが0.5μmとなるようにEB蒸着法で成膜する以外は実施例1と同様の方法で金属積層フィルムを得た。
【0062】
得られた金属積層フィルムの最表面(1)のぬれ指数を測定したところ43mN/mであることを確認した。
【0063】
また、銅層のケイ素含有量を分析したところ最表面(1)が2.6at%、銅層とプラスチックフィルムとの界面(3)が1.9at%と最表面におけるケイ素含有量が、銅層とプラスチックフィルムとの界面におけるケイ素含有量よりも多いことを確認した。
【0064】
得られた金属積層フィルムの耐湿性の試験を実施したところ試験前後でL*、a*、b*いずれも良好な値であり耐湿性が良好であることを確認した。
【0065】
(比較例1)
フェニルメチルジメチルポリシロキサンオイルを加熱蒸着しない以外は実施例1と同様の方法で金属積層フィルムを得た。
【0066】
得られた金属積層フィルムの最表面(1)のぬれ指数を測定したところ65mN/mであることを確認した。
【0067】
また、銅層のケイ素含有量を分析したところ最表面(1)が0at%、銅層とプラスチックフィルムとの界面(3)が0at%であることを確認した。
【0068】
得られた金属積層フィルムの耐湿性の試験を実施したところ試験前後でL*、a*、b*の値が不良であり耐湿性が不良であることを確認した。
【0069】
(比較例2)
グロー放電処理をしない以外は実施例1と同様の方法で金属積層フィルムを得た。
【0070】
得られた金属積層フィルムの最表面(1)のぬれ指数を測定したところ25mN/mであることを確認した。
【0071】
また、銅層のケイ素含有量を分析したところ最表面(1)が7.8at%、銅層とプラスチックフィルムとの界面(3)が0at%であることを確認した。
【0072】
得られた金属積層フィルムの耐湿性の試験を実施したところ試験前後でL*、a*、b*の値が不良であり耐湿性が不良であることを確認した。
【0073】
(比較例3)
グロー放電処理電力密度を E=1.0W・min/mとする以外は実施例1と同様の方法で金属積層フィルムを得た。
【0074】
得られた金属積層フィルムの最表面(1)のぬれ指数を測定したところ28mN/mであることを確認した。
【0075】
また、銅層のケイ素含有量を分析したところ最表面(1)が6.4at%、銅層とプラスチックフィルムとの界面(3)が0.1at%であることを確認した。
【0076】
得られた金属積層フィルムの耐湿性の試験を実施したところ試験前後でL*、a*、b*の値が不良であり耐湿性が不良であることを確認した。
【0077】
(比較例4)
銅層(2)を、厚みが0.05μmとなるようにEB蒸着法で成膜する以外は実施例1と同様の方法で金属積層フィルムを得た。
【0078】
得られた金属積層フィルムの最表面(1)のぬれ指数を測定したところ62mN/mであることを確認した。
【0079】
また、銅層のケイ素含有量を分析したところ最表面(1)が2.8at%、銅層とプラスチックフィルムとの界面(3)が2.8at%であることを確認した。
【0080】
得られた金属積層フィルムの耐湿性の試験を実施したところ試験前後でL*、a*、b*の値が不良であり耐湿性が不良であることを確認した。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の用途は、タッチパネル電極用の導電性フィルムが好ましいが、その応用範囲がこれらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0084】
1: 最表面
2: 銅層
3: 銅層とプラスチックフィルムとの界面
4: プラスチックフィルム
図1