(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Snを21.1質量%以上31.0質量%未満含有し、Agを0.1質量%以上8.0質量%以下含有し、残部が製造上不可避に含まれる元素を除きAuからなることを特徴とする請求項1に記載のAu−Sn−Ag系はんだ合金。
Snを21.1質量%以上27.5質量%未満含有し、Agを3.0質量%以上8.0質量%以下含有し、残部が製造上不可避に含まれる元素を除きAuからなることを特徴とする請求項1に記載のAu−Sn−Ag系はんだ合金。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に有害な化学物質に対する規制がますます厳しくなってきており、この規制は電子部品などを基板に接合する目的で使用されるはんだ材料に対しても例外ではない。はんだ材料には古くから鉛が主成分として使われ続けてきたが、すでにRohs指令などで規制対象物質になっている。このため、鉛(Pb)を含まないはんだ(以降、鉛フリーはんだまたは無鉛はんだと称する。)の開発が盛んに行われている。
【0003】
電子部品を基板に接合する際に使用するはんだは、その使用限界温度によって高温用(約260〜400℃)と中低温用(約140〜230℃)に大別され、それらのうち、中低温用はんだに関してはSnを主成分とするもので鉛フリーはんだが実用化されている。
【0004】
例えば、中低温用の鉛フリーはんだ材料としては、特許文献1として示す特開平11−77366号公報にはSnを主成分とし、Agを1.0〜4.0重量%、Cuを2.0重量%以下、Niを1.0重量%以下、Pを0.2重量%以下含有する無鉛はんだ合金組成が記載されている。
【0005】
一方、高温用のPbフリーはんだ材料に関しても、さまざまな機関で開発が行われている。例えば、特許文献2として示す特開2002−160089号公報には、Biを30〜80質量%含んだBi−Ag合金膜をはんだとして用いる気密端子が開示されている。
【0006】
また、Au系の高温Pbフリーはんだ材料としてAu−Sn合金やAu−Ge合金などが、すでに水晶デバイス、SAWフィルター、MEMS等で使用されている。実用化されているAu系の高温Pbフリーはんだ材料である、Au−20質量%Sn(80質量%のAuと20質量%のSnから構成されることを意味する。以下同様。)は共晶点の組成であり、その融点は280℃である。また、Au−12.5質量%Geは共晶点の組成であり、その融点は356℃である。
【0007】
Au−Sn合金とAu−Ge合金は、融点の違いにより使い分けられている。高温はんだを用いる実装部品は260℃の耐熱性が最低限必要であり、260℃程度の耐熱性が求められる実装部品に対しては融点が280℃のAu−Sn合金が主に用いられており、280℃より高い耐熱性が求められる場合にはAu−Ge合金が用いられている。
【0008】
そして、Au−Sn合金は融点特性と良好なリフロー濡れ性より、特に高信頼性が要求される水晶デバイス封止用として用いられている。しかし、Au系合金はPb系はんだやSn系はんだと比較して非常に硬く、シート形状などに加工することが非常に難しい。従って、生産性や収率が悪く、コストアップの原因になっている。その上、Au系合金の場合、原材料費がPbやSnのはんだ材料と比較して桁違いに高いため、より安価な製品が求められている。そこで、このAu―Sn合金を安価でさらに使いやすくするために、例えば次の特許文献3として示すAu系はんだが開発されている。
【0009】
特許文献3として示す特開2008−155221号公報には、比較的低融点で扱いやすく、強度、接着性に優れ、かつ安価であるろう材、及び圧電デバイスを提供することを目的として、
組成比(Au(wt%),Ag(wt%),Sn(wt%))が、
Au、Ag、Snの三元組成図において、
点A1(41.8, 7.6,50.5)、
点A2(62.6, 3.4,34.0)、
点A3(75.7, 3.2,21.1)、
点A4(53.6,22.1,24.3)、
点A5(30.3,33.2,36.6)
に囲まれる領域にあることを特徴とするろう材、が示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
高温用のPbフリーはんだ材料に関しては、上記、引用文献以外にもさまざまな機関で開発されてはいるが、未だ低コストで汎用性のあるはんだ材料は見つかっていない。すなわち、一般的に電子部品や基板には熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などの比較的耐熱温度の低い材料が多用されているため、高温用とは言っても作業温度を400℃未満、望ましくは370℃以下にする必要がある。しかしながら、例えば特許文献2に開示されているBi−Ag合金をろう材として用いる場合は、液相線が400〜700℃と高いため、接合時の作業温度も400〜700℃以上にする必要があり、接合される電子部品や基板の耐熱温度を超えてしまう場合が多く、適用できる電子部品や基板は非常に限られたものになってしまう。
【0012】
実用化されているAu−Sn系はんだやAu−Ge系はんだは、水晶デバイス、SAWフィルター、そしてMEMSなどの特に高い信頼性を必要とする箇所のはんだ付けに使用されているが、広く一般的に使用されているとは言い難い。加えて、Au系はんだは非常に硬く、加工しづらいため、例えば、シート形状に圧延加工する際に時間がかかったり、ロールに疵のつきづらい特殊な材質のものを用いたりしなければならず、プレス成形時にもAu系はんだの硬くて脆い性質のため、クラックやバリが発生し易く、他のはんだに比較して収率が格段に低いため、非常にコストが高くなってしまう。ワイヤ形状に加工する場合にもその硬さが問題となり、非常に圧力の高い押出機を使用しても十分な押出速度が得られず、Pb系はんだの数100分の1程度の生産性しか得られない。
【0013】
また、特許文献3は組成比(Au(wt%),Ag(wt%),Sn(wt%))を
Au、Ag、Snの三元組成図において、
点A1(41.8, 7.6,50.5)、
点A2(62.6, 3.4,34.0)、
点A3(75.7, 3.2,21.1)、
点A4(53.6,22.1,24.3)、
点A5(30.3,33.2,36.6)
に囲まれる領域にある組成とすることにより、比較的低融点で扱いやすく、強度、接着性に優れ、かつ安価であるろう材、及び圧電デバイスを提供することを目的としている。
【0014】
特許文献3では、ろう材をレーザーの強力なパワーで一気に溶融して用いるため、236〜498℃の間の融点を持つ組成についてはいずれも濡れ性は良好となっているが、実施例1〜10の固相線と液相線は大きく離れている場合が多い。但し、特許文献3の表2に記載されている濡れ性は封止性を示しているデータであり、一般的な濡れ広がり性とは異なるデータであって、リフロー濡れ性については不明である。
【0015】
一方、一般的に使用されているリフロー炉を用いたはんだ付けでは2℃/秒程度の加熱速度であり、レーザー溶融と比較し溶融速度も遅くなるため、固相線と液相線が40℃以上離れていると溶け方が一定でなく溶け分かれが起こり、リフロー濡れ性に問題が発生してしまう事がある。
【0016】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、水晶デバイス、SAWフィルターやMEMS等のリフロー接合時においても十分に使用できるリフロー濡れ性に優れ、且つ加工性や信頼性にも優れた高温用Au−
Sn−
Ag系はんだ合金を低コストで提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、上記目的を達成するために本発明によるAu−Sn−Ag系はんだ合金は、Sn,Ag,Au及び製造上不可避に含まれる元素から構成され、固相線が280〜400℃以内で且つ固相線と液相線が40℃以内となるように調整された組成であ
り、Snを21.1質量%以上31.0質量%未満含有し、Agを0.1質量%以上12.5質量%以下含有し、残部が製造上不可避に含まれる元素を除きAuからなることを特徴としている。
【0018】
また、本発明においてはSnを21.1質量%以上31.0質量%未満含有し、Agを0.1質量%以上12.5質量%以下含有し、残部が製造上不可避に含まれる元素を除きAuからなることが好ましい。
【0019】
また、本発明においてはSnを21.1質量%以上31.0質量%未満含有し、Agを0.1質量%以上8.0質量%以下含有し、残部が製造上不可避に含まれる元素を除きAuからなることが好ましい。
【0020】
また、本発明においてはSnを21.1質量%以上27.5質量%未満含有し、Agを3.0質量%以上8.0質量%以下含有し、残部が製造上不可避に含まれる元素を除きAuからなることが好ましい。
【0021】
また、本発明においては圧延加工後の表面粗さが1μm以下であることが好ましい。
【0022】
また、本発明においては
ラメラ組織が5μm以下であることが好ましい。
【0023】
一方、本発明のはんだ材料は上記記載のAu−
Sn−
Ag系はんだ合金を用いて枠状,シート状又はリボン状に加工したことを特徴としている。
【0024】
また、本発明の電子部品は上記のAu−
Sn−
Ag系はんだ合金又は上記のはんだ材料を用いて封止されていることを特徴としている。
【0025】
また、本発明の電子部品搭載装置は上記のAu−
Sn−
Ag系はんだ合金又は上記のはんだ材料を用いて封止された電子部品が搭載されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、水晶デバイス、SAWフィルター、MEMSなどの非常に高い信頼性を要求される箇所に使われるはんだ合金を従来のAu系はんだよりも安価に提供できる。さらには本発明のはんだ合金は加工性にも優れるため、高温鉛フリーのはんだ合金を生産性よく製造でき、より一層の低コスト化を実現でき、かつ、十分なリフロー濡れ性、優れたはんだ加工性、高い信頼性を有するAu系はんだを提供できる。したがって、工業的な貢献度は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、添加元素の組成だけでなく、固相線と液相線による融点の温度範囲を適切な範囲に維持することにより、リフロー濡れ性とはんだ加工性に優れたAu系はんだ合金が得られることを見出し、本発明に至った。
【0029】
以下、本発明のAu−Sn−Ag系はんだ合金について詳しく説明する。本発明のAu−Sn−Ag系はんだ合金は、Sn,Ag,Au及び製造上不可避に含まれる元素から構成され、固相線が280〜400℃以内で且つ固相線と液相線が40℃以内となるように調整された組成であることにより、十分なリフロー濡れ性を保つことができ、優れたはんだ加工性も得る事ができる。
【0030】
また上記固相線と液相線の温度範囲を満足させるために例えばSnを21.1質量%以上31.0質量%未満含有し、Agを0.1質量%以上12.5質量%以下含有し、残部が製造上不可避に含まれる元素を除きAuからなる組成とすることにより、非常に高コストであるAu系合金はんだのコストを下げる事ができ、さらに圧延加工後の表面粗さRaを1μm以下とすることでより良好な濡れ性を得ることができ、またはんだ合金鋳造時の冷却速度を3℃/秒以上にすることによってさらに良好なリフロー濡れ性を得る事ができる。
以下、本発明のはんだ合金に必須の元素等について、さらに詳しく説明する。
【0031】
<Au>
Auは本発明のはんだ合金の主成分であり、必須の元素である。Auはほぼ酸化しないため、封止用はんだや高い信頼性が要求される電子部品等の接合はんだとして、特性面においては最も適している。このため、水晶デバイスやSAWフィルターの封止用としてAu系はんだが多用されており、本発明のはんだ合金もAuを基本とし、このような高信頼性を要求される技術分野に属するはんだを提供する。ただし、Auは非常に高価な金属であるため、コスト面から敬遠されることが多く、一般的なレベルの信頼性を要求される電子部品にはほとんど使用されていない。本発明のはんだ合金は、Au−Sn−Ag合金とすることにより、リフロー濡れ性とはんだプリフォーム加工性をAu−20質量%Snはんだと同等以上とし、かつAu含有量を減らしてコストを下げたものである。
【0032】
<Sn>
Snは本発明のはんだにおいて必須の元素である。Snの含有量は21.1質量%以上31.0質量%未満である。その理由としては、Agを添加した組成において、Snが21.0質量%以下であると、初晶のAu
5Sn
1金属間化合物(以下ζ相)が急激に増え、液相線が急激に上昇することにより、液相線と固相線の差が大きくなりすぎて溶け分かれを生じるため、リフロー濡れ性が悪くなってしまう。更に、ζ相の初晶粒が大きくなるため加工性も大幅に低下してしまう。加えて、Au含有量を減らすことができず、コストダウンの効果も得られない。一方、Snの含有量が31.0質量%以上になると、Au
1Sn
2金属間化合物(以下ε相)が発生し斜方晶であるために脆くなり、加工性が極端に悪くなるため圧延加工が困難となる。さらに、初晶としてAg
3Sn
1金属間化合物等も発生し、液相線と固相線の差も大きくなり、リフロー濡れ性が悪くなってしまう。これらの特性悪化により、Au系はんだの特徴である良好な濡れ性が得られず、高い接合信頼性を得ることが難しくなってしまうため好ましくない。
【0033】
Sn含有量が21.1質量%以上27.5質量%以下でAg添加量が本発明の範囲内であれば、固相線が353℃以下となるため、はんだ付け温度を下げて酸化影響等が少なくリフロー濡れ性が良い条件ではんだ付けをすることもできるため、一層好ましい。
【0034】
<Ag>
Agは本発明のはんだにおいて必須の元素である。合金の融点としては、高温はんだを用いる実装部品に求められる耐熱性から260℃以上が必須条件であり、装置作業性も考慮したリフロー温度上限が400℃である事から、融点を280〜400℃以内にすることが求められている。また固相線と液相線を40℃以内とすることで、リフロー時の溶け分かれが起こらずリフロー濡れ性が保たれることから、融点が280〜400℃以内かつ固相線と液相線が40℃以内の組成とする必要がある。
【0035】
合金組織は、Agを添加することでζ相のAuの一部がAgに置換され、(Au
(1-x)Ag
x)
5Sn
1金属間化合物となる。具体的には、Ag添加によりAuと置換されたAgの比率xを0〜2/3とし、Agの含有量は0.1質量%以上12.5質量%以下とする。さらに、構成物であるAuSn金属間化合物と(Au
(1-x)Ag
x)
5Sn
1金属間化合物の割合を制御し、融点が280〜400℃以内でかつ固相線と液相線が40℃以内の組成にすることが重要になる。
【0036】
このように、リフロー時の溶け分かれが起こらずリフロー濡れ性が保たれ、さらにAg添加により加工性も向上させることができるAgの含有量は0.1質量%以上12.5質量%以下である。0.1質量%未満では性能向上効果がほとんどみられず、コスト低減効果もほとんど無い。一方、12.5質量%を超えると、Ag
3Sn
1金属間化合物が発生し斜方晶であるため脆くなり加工性が極端に悪くなるため圧延加工が困難となる。さらに、このAg
3Sn
1金属間化合物の発生により、固相線と液相線の差が大きくなりすぎ、リフロー濡れ性や加工性が悪化してしまう。
【0037】
Ag含有量が0.1質量%以上8.0質量%以下でSn添加量が本発明の範囲内であれば、固相線が350℃以下となるため、はんだ付け温度を下げて酸化影響等が少なくリフロー濡れ性が良い条件ではんだ付けをすることもできるため、一層好ましい。
【0038】
さらにAg含有量が3.0質量%以上8.0質量%以下でSn添加量が本発明の範囲内であれば、固相線が350℃以下となるため、はんだ付け温度を下げて酸化影響等が少なくなりリフロー濡れ性がより良い条件ではんだ付けをすることができ、かつAu使用率の低減による低コスト化の効果が十分に発揮されるため、より一層好ましい。
Ag含有量が3%以下は、省Au率が少なく当初の目的である省コスト化に十分な効果が得られないため、3%以上の含有がより好ましい。
【0039】
<不純物>
本発明のはんだ合金は、Auを主成分とし、かつSn及びAgを必須添加元素とする。はんだ合金中には、Cu、Niなどの不可避不純物を、本発明のはんだ合金の性質に影響を及ぼすことのない範囲で含むことができる。
不可避不純物を含む場合、固相線や濡れ性、接合信頼性への影響を考慮して、総計が100ppm未満であることが望ましい。
【0040】
<Au−Sn−Ag系はんだ合金の製造>
本発明のAu基はんだ合金の製造方法は、特に限定されず、上記した各成分を用いて、従来公知の方法により製造することができる。
【0041】
原料としては、ショット形状または個片加工品の直径が5mm以下、特に3mm以下の微細なものを用いると、得られるはんだ合金内に50μm未満の結晶粒を形成しやすくすることができ、それにより加工性が向上するので好ましい。
【0042】
この原料を溶解炉に入れ、原料の酸化を抑制するために窒素や不活性ガス雰囲気とし、400〜600℃、好ましくは450〜500℃で加熱溶融させる。このとき、例えば、内径が30mm以下で肉厚が10mm程度の円筒状の黒鉛製鋳型を使用することができる。金属が溶融しはじめたらよく攪拌し、局所的な組成のばらつきが起きないように十分に攪拌を続ける。攪拌時間は、装置や原料の量などによっても異なるが、1〜5分間とすることが好ましい。
【0043】
その後、この鋳型の外側に熱伝導性の良い材料、例えばCuからなる冷やし金を密着させるか、望ましくは中空構造として冷却水を通水した冷やし金を密着させ、組成にもよるが280℃程度まで3℃/秒以上の冷却速度とすることで共晶部であるラメラ組織を5μm以下に微細化でき、濡れ性が向上するので好ましい。さらに、20℃/秒以上の冷却速度で速やかに冷却固化させると、共晶のラメラ組織以外のほとんどの析出物の結晶粒径が20μm未満となるはんだ材の鋳塊を確実に安定して作製することができるため、濡れ性がさらに向上するのでより好ましい。
【0044】
また、生産性を考慮して連続鋳造法を用いる場合には、連続鋳造してできる鋳塊の断面積が小さくなる形状とすることで冷却速度を向上させることができるので好ましい。例えば、内径が30mm以下のダイスを用い、且つ溶湯を短時間で冷却固化させるために、ダイスを水冷ジャケットで覆って50℃/秒以上の冷却速度で冷却することが好ましい。
【0045】
こうして得られる本発明のAu−Sn−Ag系はんだ合金は、固相線が280〜400℃以内で且つ固相線と液相線の差が40℃以内であることにより、リフロー炉での基板への接合時に溶け分かれ等が起きずに、安定したリフロー濡れ性が得られ電子部品内部の良好なはんだ接合が達成できる。
【0046】
固相線は、示差走査熱量測定装置(DSC)を用いて測定され、280℃以上400℃以下が好ましく、融点が350℃以下であればはんだ付け温度を下げて酸化影響等を少なくし、リフロー作業性が良くなるため、280℃以上350℃以下がより好ましい。
固相線が280℃未満のものは、十分な耐熱性が得られないため、好ましくない。固相線が400℃を超える組成では、リフロー温度も400℃を超える温度にする必要があり、残留酸素による酸化等の影響が顕著になることにより濡れ性が極端に悪くなるため、好ましくない。更にリフロー温度が高くなると、作業性も他と比べ悪化してしまうため、好ましくない。固相線が350℃以下だと、残留酸素による酸化の影響がほとんど見られないのでより好ましい。
【0047】
また、液相線は、示差走査熱量測定装置(DSC)による測定及び溶融試験を用いて確認され、固相線と液相線の差が40℃以内とする必要があり、20℃以内とすることがより好ましい。
固相線と液相線の差が40℃を超えると、溶融が開始してもしばらくの間固化している部分が存在する場合があり、濡れ性が均一でなくなり溶融形状が歪な形状で溶けるようになり、接合面や接合範囲に異常が出るような状態となってくるので好ましくない。固相線と液相線の差が20℃以内だと、溶融開始の時間をほぼ同時にすることが出来るため、より均一で良好な溶融形状にすることが出来るのでより好ましい。
【0048】
本発明のAu−Sn−Ag系はんだ合金は、圧延加工後の表面粗さRaが、1.0μm以下であると濡れ性が向上するため好ましく、0.7μm以下であると濡れ性がさらに向上するためより好ましい。表面粗さRaの測定は、シート状に加工した各試料の表面粗さRaを表面粗さ計付きレーザー顕微鏡(LEXT OLS4000)により測定し、算術平均粗さRaを算出する。この算術平均粗さRaは日本工業規格JIS B0601(1994)が参照される。
なお本発明のAu基はんだ合金は、電子部品のボンディングや封止方法に使用され、電子部品実装基板を容易に製造することができる。
【実施例】
【0049】
本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
前述の製造方法に従って冷却速度を制御しながら製造を行い、具体的な鋳型としては圧延用に厚さ3mm×幅40mm×長さ150mmの板状の合金が得られるものを使用し、試料1のはんだ母合金を作製した。また、原料の混合比率を変えた以外は試料1と同様にして試料2〜34のはんだ母合金を作製した。次に、上記試料1〜34の各はんだ母合金について、温間圧延機を用いてシート状に加工した。以下、作製した試料の測定方法と評価方法について説明する。
【0051】
1.試料の測定方法
各測定方法を下記に記載し、結果を下記の表1に示す。
(1)組成分析
ICP発光分光分析器(SHIMAZU S−8100)を用いて組成分析を行った。
(2)固相線と液相線
示差走査熱量測定装置(DSC)および溶融試験を用いて測定した。
(3)表面粗さ測定
シート状に加工した各試料の表面粗さを表面粗さ計付きレーザー顕微鏡(LEXT OLS4000)にて測定し、平均粗さRaを算出した。
【0052】
【表1】
(注)表中の*を付した試料は比較例である。
【0053】
2.試料の評価方法
各評価方法を下記に記載し、結果を下記の表2に示す。
(1)はんだ加工性
試料1〜34の各はんだ母合金について、温間圧延機を用いてシート状に加工してクラック等の発生率で加工性の評価とした。
圧延条件はすべての試料において同じであり、圧延回数は5回、圧延速度は15〜30cm/秒、ロール温度は250℃とし、5回の圧延で50.0±2.5μmまで圧延した。圧延後の各試料において、シート10mあたり、クラックや割れが発生しなかった場合を「良」、クラックや割れが1個以上発生した場合を「不良」として、加工性の評価とした。
【0054】
(2)リフロー濡れ性
3mm角で厚さ50μmの打抜き品を用いて基板との接合試験を下記記載のリフロー炉で行って濡れ性の評価をした。
リフロー濡れ性試験機(装置名:雰囲気制御式濡れ性試験機)で、まずヒーター部の周囲4箇所から窒素を流し(窒素流量:各12L/分)、ヒーター設定温度を380℃にして加熱した。
【0055】
窒素が試験機内に十分に充填され、ヒーター温度が設定値で安定した後、
図1に示す接合体を作製するために、Niメッキ(膜厚:3.0μm)したCu基板(板厚:0.3mm)1をヒーター部にセッティング後、25秒加熱した。次に、はんだ合金2をCu基板1の上に載せ、25秒加熱した後、3mmSQチップ3をはんだ合金2の上に載せて接合し、
図1に示す接合体を作製した。接合後はCu基板を窒素雰囲気中の冷却ゾーンで冷却し、大気中に取り出した。
【0056】
接合性を確認するため、10個のサンプルで試験を行い、3mmSQチップよりはんだが広がりフィレットが形成されている場合を「優」、3mmSQチップにはんだが広がっているがフィレットが一部のみ形成されている場合を「良」、3mmSQチップにはんだが広がっているが四辺ともフィレットが形成されていない場合を「可」、はんだ広がりが悪くチップサイズより収縮しているものが1個以上発生した場合を「不良」として、リフロー濡れ性の評価とした。
なおフィレットとは、接合したはんだ合金がチップ側面やCu基板上に濡れ広がることにより形成される、裾広がりの形状の事をいう。
【0057】
(3)接合信頼性
本接合体を用いて、まず260℃で10秒のはんだ耐熱試験を3回行った後、−55℃/125℃の温度サイクル試験を300サイクル実施した。その後に断面研磨により接合部の観察を行った。
信頼性評価として、チップおよび接合部に割れの発生がない場合を「良」とし、割れが発生した場合を「不良」と評価した。
【0058】
上記評価で不良が見られなければ、接合信頼性は基準を満たしているが、より過酷な環境での使用も考慮し、300サイクルで不良の見られなかった試料に関しては、500サイクルの試験も実施し、より高い接合信頼性の確認を行った。
【0059】
【表2】
(注)表中の*を付した試料は比較例である。
【0060】
上記表2から分かるように、本発明の要件を満たしている試料1〜26のうち特に試料4〜15のはんだ母合金は、各評価項目において良好な特性を示している。つまり、加工性は良好であり、シートに加工してもクラック等の発生はなく、比較例である試料27〜34と比較してもはんだ加工性が優れることが分かる。リフロー濡れ性は「優」であり、そして、信頼性に関する評価であるヒートサイクル試験においても良好な結果が得られており、500サイクル経過後も不良が現れなかった。なお、試料9〜10は評価にはすべて合格しているが、試料4〜8、11〜15と比較すると、Agの添加量が少なく、Snの従来組成20.0%からの増加量も少ないため、Auの削減量が5%以下となり、コストダウンの効果は少ない。
【0061】
試料1〜3、16〜17のAgが8.1%以上且つSnが26.4%以上であるサンプルでは、試料4〜15と比較してリフロー濡れ性がやや低下しており、一部にフィレット形成不足が確認され、リフロー濡れ性は「良」となった。ヒートサイクル試験では300サイクル経過後は不良の発生はなかったが、500サイクル経過後はフィレット不足部分からクラック発生がみられ、不良となった。フィレット形成不足により、熱応力が分散されず、応力がかかりクラックになったと考えられる。なお、試料2はほぼ3元共晶の状態で試料1もそこに近いため固液相の温度差は20℃以内と小さく、また試料3と試料17も固液相の温度差は約21〜22℃と小さいにもかかわらず、これらのリフロー濡れ性が「良」となるのは、固相線が350℃以上であるため、リフロー温度が上昇し酸化などの影響が出てくるためである。
【0062】
試料18,20,22,24のサンプルは、AgとSn共に指定組成範囲内で、固液相の温度差が40℃以内であり、はんだ加工性は良好であったが、加工時の圧延面の表面粗さが1.0μmを超えた1.1μmの粗いサンプルであり、リフロー濡れ性が低下しチップサイズまではんだは広がったが、フィレットがほとんど形成されず「可」となった。ヒートサイクル試験では300サイクル経過後は不良の発生はなかったが、500サイクル経過後はクラック発生がみられ、不良となった。
【0063】
試料19,21,23,25のサンプルは、AgとSn共に指定組成範囲内で、固液相の温度差が40℃以内であり、はんだ加工性は良好であったが、鋳造時の冷却速度を遅くしたサンプルで結晶粒サイズが制御されておらずラメラ組織が粗大になっており、リフロー濡れ性が低下し「可」となった。ヒートサイクル試験は300サイクル経過後では不良の発生はなかったが、500サイクル経過後はクラック発生がみられ、不良となった。
【0064】
試料26のサンプルは、溶融後に一部でフィレット形成不足が確認された試料16と同じ組成で鋳造時の冷却速度をより速くしたサンプルであるが、同一組成である試料16や25と比較して初晶で発生した結晶粒サイズが微細になったことにより溶融しやすくなり、リフロー濡れ性が向上し「優」となった。ヒートサイクル試験では300サイクル経過後は不良の発生はなく、500サイクル経過後も不良が現れなかった。冷却速度を上げる事により初晶成分の結晶粒サイズが微細化され、溶融時のバラツキが解消されたためと考えられる。
【0065】
一方、本発明の要件を満たしていない比較例の試料27〜34のはんだ合金は、全ての特性において不良となった。
【0066】
試料27〜30のサンプルは、本発明のAgおよびSnの両元素の指定組成範囲に入っているが、固液相の温度差が40℃を超えており、リフロー濡れ性・はんだ加工性とも不良が発生した。なお、試料27はAgが5.0質量%でありSnが21.1質量%であるが、Agが5.0質量%の場合にはSnが22.8質量%のときに固液相の温度差が最小となり、Snが21.1質量%の場合では(Au,Ag)
5Sn
1の量が多くなり、液相線が上昇するため固液相の温度差が40℃を超えてしまうこととなる。試料28の場合も同様に(Au,Ag)
5Sn
1の量が多くなり、液相線が上昇するため固液相の温度差が40℃を超えてしまうこととなる。一方、試料29,30の場合はSnが多い割にAgが少ないため、Au
1Sn
1の量が多くなり、液相線が上昇するため固液相の温度差が40℃を超えてしまうこととなる。
【0067】
試料31〜34のサンプルは、AgまたはSnが指定組成範囲から外れており、固液相の温度差が40℃を超えており、リフロー濡れ性・はんだ加工性とも不良が発生した。
【0068】
なお、本発明のはんだは上記の各特性において良好な結果であるだけに留まらず、Au含有量も全体的に少なく、Au−Sn系はんだにおいて最も一般的な共晶点の組成であるAu−20質量%SnよりもAu含有量を十分少なくすることが可能であり、低コスト化できることが分かる。