(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記膜状物の延伸は、前記ポリアリレートのガラス転移温度をTgとしたとき、(Tg-130)〜(Tg-20)℃の温度で、互いに直交する二方向にそれぞれ延伸倍率が1.2倍以上で、かつ延伸倍率の合計が3.5倍以下となるように行う、請求項1に記載のポリアリレートフィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、1)ポリアリレートフィルムの製膜工程における流延膜の乾燥温度を低くし、かつ2)得られる膜状物をさらに延伸処理することで、透明性を損なうことなく、高強度のポリアリレートフィルムが得られることを見出した。
【0014】
その理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。即ち、製膜工程における流延膜の乾燥温度を低くすることで、乾燥とともに樹脂分子間のスタックが効率的に進み、面配向しやすくなる。その結果、得られる膜状物の弾性率が高まると推定される。
【0015】
そのような膜状物をさらに延伸することで、延伸倍率を過剰に高めなくても、弾性率をさらに高めることができる。それにより、透明性を損なうことなく、高強度のポリアリレートフィルムが得ることができる。
【0016】
さらに、3)延伸後のフィルムを加熱下でベンディング処理することで、熱収縮率をより低減することができる。これは、加熱下のベンディング処理によりフィルムが柔軟になり、延伸時の残留応力が緩和され、樹脂分子の配向も均一化されるためであると推測される。
【0017】
このようにして得られる本発明のポリアリレートフィルムは、高い透明性と耐熱性を有し、かつ良好なハンドリング性を有しうる。本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0018】
1.ポリアリレートフィルム
ポリアリレートフィルムは、ポリアリレートを主成分として含む。
【0019】
1−1.ポリアリレート
ポリアリレートは、少なくとも芳香族ジアルコール成分単位と芳香族ジカルボン酸成分単位とを含む。
【0020】
(芳香族ジアルコール成分単位)
芳香族ジアルコール成分単位を得るための芳香族ジアルコールは、好ましくは下記式(1)で表されるビスフェノール類、より好ましくは下記式(1’)で表されるビスフェノール類である。
【化1】
【0021】
一般式(1)及び(1’)のLは、2価の有機基である。2価の有機基は、好ましくは単結合、アルキレン基、−S−、−SO−、−SO
2−、−O−、−CO−又は−CR
1R
2−(R
1とR
2は互いに結合して脂肪族環又は芳香族環を形成する)である。
【0022】
アルキレン基は、好ましくは炭素数1〜10のアルキレン基であり、その例には、メチレン基、エチレン基、イソプロピリデン基等が含まれる。アルキレン基は、ハロゲン原子やアリール基等の置換基をさらに有してもよい。
【0023】
−CR
1R
2−のR
1及びR
2は、それぞれ互いに結合して脂肪族環又は芳香族環を形成している。脂肪族環は、好ましくは炭素数5〜20の脂肪族炭化水素環であり、好ましくは置換基を有してもよいシクロヘキサン環である。芳香族環は、炭素数6〜20の芳香族炭化水素環であり、好ましくは置換基を有してもよいフルオレン環である。置換基を有してもよいシクロヘキサン環を形成する−CR
1R
2−の例には、シクロヘキサン−1,1−ジイル基、3,3,5−トリメチルシクロヘキサン−1,1−ジイル基等が含まれる。置換基を有してもよいフルオレン環を形成する−CR
1R
2−の例には、下記式で表されるフルオレンジイル基が含まれる。
【化2】
【0024】
一般式(1)及び(1’)のRは、独立して炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基でありうる。nは、独立して0〜4の整数、好ましくは0〜3の整数である。
【0025】
Lがアルキレン基であるビスフェノール類の例には、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−メチル−2−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPC)、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(TMBPA)等が含まれる。中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPC)、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(TMBPA)等のイソプロピリデン含有ビスフェノール類が好ましい。
【0026】
Lが−S−、−SO−又は−SO
2−であるビスフェノール類の例には、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン(TMBPS)、ビス(3,5−ジエチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3,5−ジエチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、2,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン等が含まれる。Lが−O−であるビスフェノール類の例には、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルが含まれ;Lが−CO−であるビスフェノール類の例には、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトンが含まれる。
【0027】
Lが−CR
1R
2−であり、かつR
1とR
2が互いに結合して脂肪族環を形成するビスフェノール類の例には、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(BPZ)、及び1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(BPTMC)等のシクロヘキサン骨格を有するビスフェノール類が含まれる。
【0028】
Lが−CR
1R
2−であり、かつR
1とR
2が互いに結合して芳香族環を形成するビスフェノール類の例には、9,9-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン(BCF)、9,9-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン(BXF)等のフルオレン骨格を有するビスフェノール類が含まれる。
【0029】
ポリアリレートを構成する芳香族ジアルコール成分は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0030】
これらの中でも、樹脂の溶剤に対する溶解性を高めたり、フィルムの金属との密着性を高めたりする観点では、例えば主鎖中に硫黄原子(−S−、−SO−又は−SO
2−)を含有するビスフェノール類が好ましい。フィルムの耐熱性を高める観点では、例えば主鎖中に硫黄原子を含有するビスフェノール類や、シクロアルキレン骨格を有するビスフェノール類が好ましい。フィルムの複屈折を低減したり、耐摩耗性を高めたりする観点では、フルオレン骨格を有するビスフェノール類が好ましい。
【0031】
シクロヘキサン骨格を有するビスフェノール類やフルオレン骨格を有するビスフェノール類は、イソプロピリデン基を含有するビスフェノール類と併用することが好ましい。その場合、シクロヘキサン骨格を有するビスフェノール類又はフルオレン骨格を有するビスフェノール類と、イソプロピリデン基を含有するビスフェノール類との含有比率は、10/90〜90/10(モル比)、好ましくは20/80〜80/20(モル比)としうる。
【0032】
ポリアリレートは、本発明の効果を損なわない範囲で、芳香族ジアルコール成分以外の芳香族多価アルコール成分単位をさらに含んでもよい。芳香族多価アルコール成分の例には、特許4551503号の段落0015に記載の化合物が含まれる。具体的には、トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、4,4’−[1−[4−[1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノール、2,3,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、4−[ビス(4−ヒドロキシフェニル)メチル]−2−メトキシフェノール、トリス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン等が含まれる。これらの芳香族多価アルコール成分単位の含有割合は、求められる特性に応じて適宜設定されうるが、芳香族ジアルコール成分単位及びそれ以外の芳香族多価アルコール成分単位の合計に対して例えば5モル%以下としうる。
【0033】
(芳香族ジカルボン酸成分単位)
芳香族ジカルボン酸成分単位を構成する芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸又はそれらの混合物でありうる。
【0034】
フィルムの機械特性を高める等の観点から、テレフタル酸とイソフタル酸の混合物が好ましい。テレフタル酸とイソフタル酸の含有比率は、好ましくはテレフタル酸/イソフタル酸=90/10〜10/90(モル比)、より好ましくは70/30〜30/70、さらに好ましくは50/50である。テレフタル酸の含有比率が上記範囲であると、十分な重合度を有するポリアリレートが得られやすく、十分な機械的特性を有するフィルムが得られやすい。
【0035】
ポリアリレートは、本発明の効果を損なわない範囲で、テレフタル酸及びイソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位をさらに含んでもよい。そのような芳香族ジカルボン酸成分の例には、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸、4、4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、ビス(p−カルボキシフェニル)アルカン、4,4’−ジカルボキシフェニルスルホン等が含まれる。テレフタル酸及びイソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位の含有割合は、求められる特性に応じて適宜設定されうるが、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分単位及びそれら以外の芳香族ジカルボン酸成分単位の合計に対して例えば5モル%以下としうる。
【0036】
(ガラス転移温度)
ポリアリレートのガラス転移温度は、260℃以上350℃以下であることが好ましく、265℃以上300℃未満であることがより好ましく、270℃以上300℃未満であることがさらに好ましい。
【0037】
ポリアリレートのガラス転移温度は、JIS K7121(1987)に準拠して測定されうる。具体的には、測定装置としてセイコーインスツル(株)製DSC6220を用いて、ポリアリレートの試料10mg、昇温速度20℃/分の条件で測定することができる。
【0038】
ポリアリレートのガラス転移温度は、ポリアリレートを構成する芳香族ジアルコール成分の種類等によって調整されうる。ガラス転移温度を高めるためには、例えば芳香族ジアルコール成分単位として「主鎖に硫黄原子を含有するビスフェノール類由来の単位」を含むことが好ましい。
【0039】
(固有粘度)
ポリアリレートの固有粘度は、0.3〜1.0dl/gであることが好ましく、0.4〜0.9dl/gがより好ましく、0.45〜0.8dl/gがさらに好ましく、0.5〜0.7dl/gであることがさらに好ましい。ポリアリレートの固有粘度が0.3dl/g以上であると、樹脂組成物の分子量が一定以上となりやすく、十分な機械的特性や耐熱性を有するフィルムが得られやすい。ポリアリレートの固有粘度が1.0dl/g以下であると、製膜時の溶液粘度が過剰に高まるのを抑制しうる。
【0040】
固有粘度は、ISO1628−1に準拠して測定されうる。具体的には、1,1,2,2−テトラクロロエタンに対し、ポリアリレート試料を濃度1g/dlとなるように溶解させた溶液を調製する。この溶液の25℃における固有粘度を、ウベローデ型粘度管を用いて測定する。
【0041】
ポリアリレートの製造方法としては、公知の方法であってよく、好ましくは水と相溶しない有機溶剤に溶解させた芳香族ジカルボン酸ハライドとアルカリ水溶液に溶解させた芳香族ジアルコールとを混合する界面重合法(W.M.EARECKSON,J.Poly.Sci.XL399,1959年、特公昭40−1959号公報)でありうる。
【0042】
ポリアリレートの含有量は、ポリアリレートフィルム全体に対して50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上でありうる。
【0043】
1−2.その他成分
ポリアリレートフィルムは、必要に応じてポリアリレート以外の他の樹脂や、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、紫外線吸収剤等の添加剤をさらに含んでもよい。
【0044】
1−3.フィルムの物性
本発明のポリアリレートフィルムは、前述の通り、高い透明性と耐熱性とを有しつつ、適度な引張弾性率(コシ又は強度)を有しうる。
【0045】
(引張弾性率)
ポリアリレートフィルムの面内において、屈折率が最大となる方向をA、それと直交する方向をBとしたとき、23℃における方向Aの引張弾性率と方向Bの引張弾性率の平均値は、2.5GPa以上4.5GPa以下であることが好ましく、2.7GPa以上4.0GPa以下であることがより好ましい。引張弾性率の平均値が2.5GPa以上であると、フィルムをロール搬送しながら加工を行う際のハンドリングを良好としうる。引張弾性率の平均値が4.5GPa以下であると、可とう性が損なわれないため、耐折り曲げ性が求められる用途に好適である。
【0046】
方向Aの引張弾性率と方向Bの引張弾性率の差の絶対値は、1.5GPa以下であることが好ましく、1.0GPa以下であることがより好ましい。引張弾性率の差が少ないと、光学的等方性を高めることができるので、高い透明性が得られやすい。
【0047】
引張弾性率の測定は、JIS K7127に準拠して以下の方法で測定されうる。
1)ポリアリレートフィルムを100mm(MD方向)×10mm(TD軸)のサイズに切り出して、試験片とする。この試験片を、オリエンテック社製テンシロンRTC−1225Aを用いて、チャック間距離を50mmとし、試験片の長手方向(MD方向)に引っ張り、MD方向の引張弾性率を測定する。測定は、23℃55%RH下で行うことができる。
2)同様にして、ポリアリレートフィルムを100mm(TD方向)×10mm(MD方向)のサイズに切り出して試験片とする。この試験片を、前述と同様にして長さ方向(TD方向)に引っ張り、TD方向の引張弾性率を測定する。
3)前記1)と2)で得られたMD方向とTD方向の引張弾性率の平均値を算出する。
【0048】
「フィルム面内の屈折率が最大となる方向A」は、自動複屈折計KOBRA−21ADH又はKOBRA−WR(王子計測機器)を用いて、遅相軸として確認することができる。「フィルム面内の屈折率が最大となる方向A」とフィルムのMD方向又はTD方向とのなす角度θは、通常、±1°以下、好ましくは±0.5°以下でありうる。「フィルム面内の屈折率が最大となる方向A」は、通常、最大延伸方向でありうる。
【0049】
但し、延伸条件(例えばMD方向とTD方向の延伸倍率が同じ場合等)によっては、「フィルム面内の屈折率が最大となる方向A」が確認できない場合もある。その場合、方向Aと方向Bは、フィルム面内の任意の直交する二方向としうる。
【0050】
引張弾性率は、例えば製膜時の流延膜の乾燥温度や延伸条件(延伸温度、倍率)によって調整されうる。引張弾性率を高くするためには、例えば流延膜の乾燥温度を低くしたり、延伸倍率を高くしたりすることが好ましい。方向Aと方向Bの引張弾性率の差を少なくするためには、例えば各方向の延伸倍率の差を少なくしたり、ベンディング処理を行ったりすることが好ましい。
【0051】
(ヘイズ)
ポリアリレートフィルムのヘイズ(全ヘイズ)は、1.5%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。
【0052】
ヘイズの測定は、JIS K 7136に準拠して日本電色工業(株)製ヘーズメーターNDH4000を用いて行うことができる。
【0053】
ヘイズは、例えば製膜時の流延膜の乾燥温度や延伸条件によって調整されうる。ヘイズを低くするためには、製膜時の流延膜の乾燥温度を低くし、かつ延伸倍率を低くすることが好ましい。
【0054】
(全光線透過率)
ポリアリレートフィルムの全光線透過率は、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。全光線透過率は、JIS K 7375に準拠して測定されうる。測定装置は、日本電色工業製ヘイズメーター NDH2000を用いることができる。
【0055】
(熱収縮率)
ポリアリレートフィルムの熱収縮率は、1.5%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましい。熱収縮率が一定以下であるポリアリレートフィルムは、例えばフレキシブルプリント基板の絶縁基材として用いた際に、高温下でも寸法変化しにくく、配線ずれ等の発生を抑制しうる。
【0056】
熱収縮率の測定は、JIS C 2151に準拠して以下の方法で測定されうる。具体的には、以下の手順にて測定することができる。
1)得られたフィルムを、100mm×100mmの大きさに切り出して、試験片とする。この試験片のMD方向とTD方向の長さLoをそれぞれ測定する。
2)試験片を熱風循環式恒温槽にて、200℃で15分間保存する。
3)試験片を取り出した後、室温まで冷却し、前記1)と同様にして試験片のMD方向とTD方向の長さLをそれぞれ測定する。加熱前後の試験片の長さを下記式に当てはめて、MD方向とTD方向の熱収縮率をそれぞれ算出する。
熱収縮率(%)=(Lo−L)/Lo×100
(Lo:加熱前の試験片の長さ、L:加熱後の試験片の長さ)
そして、MD方向の熱収縮率とTD方向の熱収縮率の平均値を「熱収縮率」とする。
【0057】
熱収縮率は、後述するベンディング処理条件によって調整されうる。熱収縮率を低くするためには、例えばベンディング処理の回数を多くすることが好ましい。
【0058】
(厚み)
ポリアリレートフィルムの厚みは、用途にもよるが、例えば5〜150μm、好ましくは10〜80μm、より好ましくは10〜60μm、さらに好ましくは15〜50μmでありうる。
【0059】
2.ポリアリレートフィルムの製造方法
ポリアリレートフィルムは、溶液流延法で製造されうる。具体的には、ポリアリレートフィルムの製造方法は、1)前述のポリアリレートが沸点70℃以下の溶媒に溶解又は分散した溶液を得る工程(溶液調製工程)と、2)溶液を支持体上に流延した後、乾燥させて膜状物を得る工程(製膜工程)と、3)膜状物を、互いに直交する二方向にそれぞれ延伸する工程(延伸工程)とを含み、必要に応じて4)ベンディング処理工程をさらに含みうる。4)ベンディング処理工程は、延伸工程後に行うことが好ましい。
【0060】
ポリアリレートフィルムの製造工程は、例えば
図1に示される製造装置にて行うことができる。
図1は、フィルムの製造装置の一例を示す模式図である。フィルムの製造装置10は、流延装置20と、延伸装置30と、ベンディング処置装置40とを有しうる。
【0061】
1)溶液調製工程
ポリアリレートを溶剤に溶解させてポリマー溶液を得る。溶剤は、後述する製膜工程における流延膜の乾燥温度を低くする観点から、沸点が70℃以下の溶媒(好ましくは良溶媒)であることが好ましい。
【0062】
沸点が70℃以下である良溶媒の例には、塩化メチレン(沸点40.4℃)、クロロホルム(沸点61.2℃)、テトラヒドロフラン(沸点66℃)が含まれる。製膜工程における乾燥温度を低くする観点から、好ましくは沸点60℃以下の良溶媒であり、より好ましくは塩化メチレンである。
【0063】
ポリマー溶液におけるポリアリレートの濃度は、10重量%以上、好ましくは10〜30質量%程度であることが好ましい。
【0064】
ポリマー溶液は、濾過により、不溶物や異物等を除去することが好ましい。用いる濾過材は、目詰まりを生じることなく、不溶物等を良好に除去できる程度のものであればよく、絶対濾過精度0.008mm以下、好ましくは0.003〜0.006mmの濾材を用いることが好ましい。
【0065】
2)製膜工程
得られたポリマー溶液を、流延装置20のダイス21から金属支持体23上に流延した後、流延膜を乾燥させて膜状物を得る(
図1参照)。
【0066】
金属支持体23は、ロール23Aで搬送される無端状のステンレスベルトでありうる。流延膜の乾燥は、延伸開始時の残留溶媒量が後述する範囲となるように行うことが好ましい。
【0067】
流延膜の乾燥は、種々の方法で行うことができ、例えば金属支持体23の表面温度を調整し、かつ流延膜に風を当てて行うことができる。金属支持体23の表面温度の制御は、例えば金属支持体の裏側に温水を接触させる方法によって行うことができる。
【0068】
本発明では、ベルト上での流延膜の乾燥温度(金属支持体23の表面温度や風Wの温度)を低くすることが好ましい。ベルト上での流延膜の乾燥温度を低くすることで、引張弾性率が高い膜状物を得ることができる。前述の通り、乾燥とともに樹脂分子間のスタックが効率的に進み、面配向性が増すためであると推定される。
【0069】
但し、乾燥温度(金属支持体23の表面温度や風Wの温度)が低すぎると、乾燥時間が長くなるだけでなく、低温の風を吹き付けすぎることで、結露によりフィルム表面が粗くなりやすく、透明性が損なわれるおそれがある。乾燥温度を高くしすぎると、溶液中でポリマーの分子がランダムになりやすいため、ポリアリレート分子がスタック(配向)しにくく、得られるフィルムの引張弾性率が高まりにくい。
【0070】
従って、流延膜の乾燥温度、具体的には金属支持体23の表面温度及び流延膜に当てる風の温度は、それぞれ80℃未満であることが好ましく、5〜70℃であることが好ましく、10〜60℃であることがより好ましく、15〜40℃であることがさらに好ましい。乾燥は、一度で行ってもよいし、温度を変えて段階的に行ってもよい。
【0071】
乾燥後に得られる膜状物を、金属支持体23から剥離ロール25等で剥離する。
【0072】
3)延伸工程
得られた膜状物を延伸することが好ましい。延伸は、樹脂分子の配向の異方性を少なくする観点から、互いに直交する二方向に行うことが好ましい。互いに直交する二方向は、好ましくはMD方向とTD方向でありうる。
【0073】
互いに直交する二方向への延伸は、同時に行ってもよいし、逐次的に行ってもよい。同時二軸延伸を行ってもよいが、フィルム全面において配向角を均一にすることは非常に難しいことから、逐次二軸延伸を行うことが好ましい。逐次二軸延伸を行う場合、剥離後の膜状物をMD方向に延伸した後、TD方向に延伸することが好ましい。
【0074】
各方向への延伸倍率は、それぞれ1.05〜2.5倍であることが好ましく、1.2〜2.0倍であることがより好ましい。延伸倍率とは、延伸前のフィルムの(延伸方向)長さに対する延伸後のフィルムの(延伸方向)長さの比(延伸前のフィルムの長さ/延伸前のフィルムの長さ)で表される。各方向の延伸倍率の和(合計)は、2.2〜4.0であることが好ましく、2.2〜3.5であることがより好ましい。延伸倍率の和が2.2以上であると、フィルムの引張弾性率を十分に高めうる。延伸倍率の和が4.0以下であると、ヘイズの過剰な上昇を抑制できる。また、光学的等方性の高いフィルムを得るためには、各方向の延伸倍率の差は少ないことが好ましく、各方向の延伸倍率の差が0.5以下であることが好ましい。
【0075】
延伸倍率を高くすると、樹脂分子の配向がそろいやすいため、フィルムの引張弾性率を高めやすい一方、ヘイズも上昇しやすい。ヘイズの上昇を抑制しながら引張弾性率を高めるためには、延伸前の膜状物の引張弾性率を高めておくこと、即ち、製膜工程の流延膜の乾燥温度を低くすることが有効である。
【0076】
延伸温度は、ポリアリレートのガラス転移温度をTgとしたとき、(Tg-130)〜(Tg-20)℃であることが好ましく、(Tg-110℃)〜(Tg-30)℃であることがより好ましい。上記温度と倍率で延伸を行うことで、フィルムに十分な延伸応力を付与できるので、得られるフィルムの引張弾性率を効果的に高めうる。
【0077】
延伸開始時の膜状物の残留溶媒量、好ましくはMD方向への延伸後にTD方向に延伸する際のMD方向の延伸開始時の膜状物の残留溶媒量は、ヘイズの上昇を抑制する観点から、25〜45質量%であることが好ましく、30〜40質量%であることがより好ましい。残留溶媒量が一定以上であると、膜状物が柔軟になるため、比較的高い倍率で延伸しやすい。一方、残留溶媒量が一定以下であると、膜状物の強度が安定するため、均一な延伸が行いやすい。
【0078】
残留溶媒量は、下記式で定義される。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
(式中、Mは、膜状物から採取した試料の質量で、NはMを150℃で1時間の加熱後の質量である)
【0079】
延伸方法は、特に限定されない。MD方向の延伸は、例えばロール延伸装置31により、複数のロールに周速差を設けることによって行うことができる。TD方向の延伸は、例えばテンター延伸装置33により、膜状物の両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔をTD方向に広げることにより行うことができる(
図1参照)。
【0080】
4)ベンディング処理工程
フィルムの熱収縮率を低減する観点から、延伸後のフィルムを、ベンディング処理することが好ましい。
【0081】
ベンディング処理は、ベンディングゾーン41の加熱雰囲気下で、フィルムを多数の搬送ロール47Aや47Bで搬送しながら折り曲げることによって行うことができる(
図1参照)。ベンディングは、フィルムの一方の面と他方の面が交互に内側になるように搬送ロール47に巻き掛けて行うことが好ましい。
【0082】
搬送ロール47Aや47Bの径は、例えば90〜108mmとしうる。フィルム搬送方向に隣り合う搬送ロール同士の中心間距離(例えば
図1の搬送ロール47Aと搬送ロール48Bの中心間距離D)は、フィルムの搬送速度にもよるが、例えば200〜1800mm程度としうる。得られるフィルムの熱収縮率を十分に低減するためには、フィルムを曲げたときの半径をammとしたとき、1/aの値が0.013〜0.033mm
−1、好ましくは0.013〜0.033mm
−1、より好ましくは0.017〜0.025mm
−1となるようにロール径を設定しうる。
【0083】
ベンディングゾーン41には、温度調整された熱風が、吸気口43から導入され、ベンディングゾーン41を流通した後、排気口45から排気される。ベンディングゾーン41内の雰囲気温度の調整は、加熱ロール等で行ってもよいが、簡便であることから、熱風で行うことが好ましい。ベンディングゾーン41内の雰囲気は、空気でもよいが、窒素ガスや炭酸ガス、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であってもよい。
【0084】
ベンディングゾーン41内の雰囲気温度(ベンディング処理温度)は、ポリアリレートのガラス転移温度をTgとした場合、(Tg-150)℃以上(Tg-30)℃以下であることが好ましく、(Tg-140)℃以上(Tg-50)℃以下であることがより好ましい。
【0085】
ベンディングの回数は、150回以上1000回未満であることが好ましく、250回以上1000回未満であることがより好ましく、350回以上1000回未満であることがさらに好ましい。ベンディング回数は、1つの搬送ロールによる折り曲げ操作を1回としてカウントする。ベンディング回数が多いと、得られるフィルムの熱収縮率をより低減しうる。
【0086】
ベンディング処理を行うことで、得られるフィルムの引張弾性率を均一化でき、かつ熱収縮率を低減できる。
【0087】
フィルムの搬送速度は、例えば10m〜150m/分程度とし、好ましくは15m〜100m/分としうる。
【0088】
その後、必要に応じてスリッターを設けてフィルムの幅方向両端部を切り落とした後、ナーリング加工を施してもよい。ナーリング加工は、加熱されたエンボスロールを押し当てて行うことができる。その後、フィルムの長手方向(MD方向)と直交する方向(TD方向)を巻き取り軸としてフィルムを巻き取り、ロール体としうる。
【0089】
3.用途
本発明のポリアリレートフィルムは、高い透明性と耐熱性とを有し、かつ適度な強度を有する。従って、本発明のポリアリレートフィルムは、それらの特性が要求される幅広い用途;例えば、フレキシブルパネルディスプレイ(有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイ、電子ペーパー等)や太陽電池等における透明基板又は透明電極基板(ガラス基板に代わる基板);透明性が求められる用途のフレキシブルプリント基板(FPC)の絶縁基材やカバーフィルム;タッチパネル等に用いられる透明導電性フィルム等に用いられる。
【0090】
3−1.フレキシブルプリント基板(FPC)
フレキシブルプリント基板は、絶縁基材と、導体回路とを含み、必要に応じてカバーレイフィルムをさらに含みうる。
【0091】
絶縁基材は、前述のポリアリレートフィルムとしうる。絶縁基材の厚みは、5〜100μm程度としうる。
【0092】
導体回路は、回路基板に一般的に使用される材料、例えば銅、銅合金、インジウム錫酸化物(ITO)で構成され、好ましくは銅で構成されうる。導体層の厚みは、例えば1〜50μm程度としうる。
【0093】
カバーレイフィルムは、電気的接続が必要な箇所以外の導体回路面を覆うように設けられている。カバーレイフィルムは、前述のポリアリレートフィルムとしうる。
【0094】
フレキシブルプリント基板は、例えば絶縁基材と導体層の積層体(金属積層体)を得た後、導体層をパターニングして導体回路を形成し、必要に応じてカバーフィルムをさらに貼り合わせて得ることができる。
【0095】
絶縁基材と導体層の積層体(金属積層体)は、絶縁基材と金属箔とを接着剤を介して貼り合わせて得てもよいし;絶縁基材上に無電解メッキや薄膜プロセスにて導体層を形成して得てもよい。
【0096】
導体層のパターニングは、アクティブ法又はサブトラクティブ法で行うことができる。
【0097】
積層体と貼り合わされるカバーレイフィルムは、貼り合わせ面に接着剤層を有する。カバーレイフィルムの接着層が形成された面を、積層体の導体回路と接するように貼り合わせる。
【0098】
これらのフレキシブルプリント基板の製造工程は、通常、長尺状の絶縁基材又は積層体をロールで搬送しながら行う。本発明では、絶縁基材として、適度な強度を有する前述のポリアリレートフィルムを用いることから、ハンドリングが良好である。それにより、例えばポリアリレートフィルムと導体層との積層や、導体層のパターニングを精度よく行うことができる。
【0099】
このようにして得られたフレキシブルプリント基板は、例えばLED等の素子が実装される。素子の実装は、例えばリフロー工程で行われ、その際に250℃以上の高温に曝される。本発明のポリアリレートフィルムを用いたフレキシブルプリント基板は、高い耐熱性を有し、かつ適度な強度を有しうる。そのため、リフロー工程等で高温に曝されても、形状変化が少ないので、導体回路の位置ずれ等を生じにくい。それにより、素子を精度よく実装でき、製造効率の歩留まりを良くすることができる。
【0100】
また、本発明のポリアリレートフィルムは高い透明性を有するので、得られるフレキシブルプリント基板も、高い透明性を有しうる。そのようなフレキシブルプリント基板は、例えば透明性が要求される照明(有機EL照明、LED照明等)用途のフレキシブルプリント基板として好ましく用いられる。
【0101】
3−2.透明導電性フィルム
透明導電性フィルムは、ポリアリレートフィルムと、透明導電層とを有しうる。
【0102】
透明導電層は、酸化インジウム(ITO)、酸化カドミウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物膜で構成され、透明性、導電性が優れることから、好ましくは酸化インジウム(ITO)で構成されうる。透明導電層の厚みは、20〜500nm程度であり、好ましくは50〜300nmでありうる。
【0103】
透明導電層は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等の気相堆積法等で成膜されうる。
【0104】
透明導電性フィルムは、例えばタッチパネル用透明導電性基材として好ましく用いられる。
【実施例】
【0105】
以下において、実施例を参照して本発明を説明する。実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0106】
1.ポリアリレートの合成
(ポリアリレート1の合成)
攪拌装置を備えた反応容器中に、水2514重量部を添加した後、水酸化ナトリウム22.7重量部、芳香族ジアルコール成分として9,9−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BCF)35.6重量部、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(TMBPA)18.5重量部、分子量調節剤としてp−tert−ブチルフェノール(PTBP)0.049重量部を溶解させ、0.34重量部の重合触媒(トリブチルベンジルアンモニウムクロライド)を添加し、撹拌した。
【0107】
一方、芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸クロライドとイソフタル酸クロライドの等量混合物26.8重量部を秤量し、945重量部の塩化メチレンに溶解させた。この塩化メチレン溶液を、前述で調製したアルカリ水溶液に撹拌下に添加し、重合を開始させた。重合反応温度は15℃以上20℃以下になるように調整した。重合は2時間行い、その後、系内に酢酸を添加して重合反応を停止させ、有機相と水相を分離した。
【0108】
得られた有機相を、1回の洗浄毎に有機相の2倍量のイオン交換水で洗浄した後、有機相と水相に分離する操作を繰り返した。洗浄水の電気伝導度が50μS/cm未満となった時点で洗浄を終了した。50℃でホモミキサーを装着した温水槽中に洗浄後の有機相を投入して塩化メチレンを蒸発させて、粉末状のポリマーを得た。さらに脱水・乾燥を行い、ポリアリレート1を得た。
【0109】
(ポリアリレート2〜7の合成)
芳香族ジアルコール成分及び芳香族ジカルボン酸成分の種類及び仕込み量を表1に示されるように変更した以外はポリアリレート1の合成と同様にしてポリアリレート2〜7を得た。
【0110】
得られたポリアリレート1〜7のガラス転移温度を、以下の方法で測定した。この結果を表1に示す。
【0111】
(ガラス転移温度)
得られたポリアリレートのガラス転移温度を、JIS K7121に準拠して測定した。具体的には、測定装置としてセイコーインスツル(株)製DSC6220を用いて、ポリアリレートの試料10mg、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【表1】
【0112】
2.ポリアリレートフィルムの製造
<実施例1>
(ポリマー溶液の調製)
ポリアリレート1を14質量部と、メチレンクロライドを100質量部とを密閉容器に入れ、攪拌しながら徐々に45℃まで昇温し、完全に溶解させた。得られた溶液を、安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過して、ポリマー溶液を得た。
【0113】
(製膜)
得られたポリマー溶液を、ベルト流延装置のステンレスベルト上に均一に流延した。ステンレスベルトの長さは20mのものを用いた。ステンレスベルトの表面温度は35℃とし、かつ流延膜に35℃の風を当てて、残留溶媒量が38%となるまで溶剤を蒸発させた後、ステンレスベルトから剥離して膜状物を得た。
【0114】
(延伸)
得られた膜状物を、ロール間の周速差を利用してMD方向に170℃で1.2倍に延伸した後、テンターでTD方向に230℃で1.2倍に延伸した。
【0115】
(ベンディング)
延伸後に得られたフィルムを、
図1に示されるベンディング装置内でロール搬送しながら140℃でベンディング処理を200回行った。ロールの直径は108mmとし、フィルム搬送方向に隣合う2つのロールの中心間距離(例えば
図1のロール47Aとロール47Bの中心間距離D)は324mmとし、フィルムの搬送速度は5m/分とした。
【0116】
得られたフィルムを、125℃の乾燥装置内を多数のロールで搬送させながら30分間乾燥させた後、フィルムの幅方向両端部に幅15mm、高さ10μmのナーリング加工を施して、膜厚40μmのフィルムを得た。
【0117】
<実施例2〜4、比較例1〜2>
延伸条件(MD方向、TD方向)を表2に示されるように変更した以外は実施例1と同様にしてポリアリレートフィルムを作製した。
【0118】
<実施例5、比較例3〜4>
ベルト乾燥温度(ベルト温度と風温度)、及び延伸条件(MD方向、TD方向)を表2に示されるように変更した以外は実施例1と同様にしてポリアリレートフィルムを作製した。
【0119】
<実施例6〜7、比較例5>
ベルト乾燥温度(ベルト温度と風温度)を表2に示されるように変更し、かつ延伸条件(MD方向、TD方向)を表2に示されるように変更した以外は実施例1と同様にしてポリアリレートフィルムを作製した。
【0120】
<実施例8、比較例6〜7>
ポリマー溶液の溶媒種及びベルト乾燥温度(ベルト温度と風温度)を表2に示されるように変更した以外は実施例1と同様にしてポリアリレートフィルムを作製した。
【0121】
<実施例9>
ベンディング処理を行わなかった以外は実施例1と同様にしてポリアリレートフィルムを作製した。
【0122】
<実施例10〜12>
ベンディング処理条件を表3に示されるように変更した以外は実施例1と同様にしてポリアリレートフィルムを作製した。
【0123】
<実施例13〜18>
ポリマー溶液に含まれるポリアリレートの種類を表4に示されるように変更した以外は実施例1と同様にしてポリアリレートフィルムを作製した。
【0124】
実施例1〜9及び比較例1〜7の製造条件を表2に示し;実施例10〜12の製造条件を表3に示し;実施例13〜18の製造条件を表4に示す。
【表2】
【表3】
【表4】
【0125】
得られたフィルムの引張弾性率、ヘイズ及び熱収縮率を、以下の方法で測定した。また、一部のフィルムについて、全光線透過率をさらに測定した。
【0126】
(引張弾性率)
1)得られたフィルムを100mm(MD方向)×10mm(TD軸)のサイズに切り出して、試験片を得た。この試験片を、JIS K7127に準拠して、オリエンテック社製テンシロンRTC−1225Aを用いて、チャック間距離を50mmとし、試験片の長手方向(MD方向)に引っ張り、MD方向の引張弾性率を測定した。測定は、23℃55%RH下で行った。
2)前記1)と同様にして、得られたフィルムを100mm(TD方向)×10mm(MD方向)のサイズに切り出して、試験片を得た。この試験片を、前記2)と同様にして長さ方向(TD方向)に引っ張り、TD方向の引張弾性率を測定した。
3)前記1)で得られたMD方向の引張弾性率と、前記2)で得られたTD方向の引張弾性率の平均値と、これらの差を算出した。
【0127】
(ヘイズ)
JIS K 7136に準拠して、得られたフィルムの全ヘイズ値(H)を測定した。測定装置は、日本電色工業(株)製ヘーズメーターNDH4000を用いた。
【0128】
(全光線透過率)
フィルムの全光線透過率は、日本電色工業製ヘイズメーター NDH2000を用いて測定した。
【0129】
(熱収縮率)
JIS C 2151に準拠して、得られたフィルムの熱収縮率を測定した。具体的には、以下の手順にて測定した。
1)得られたフィルムを、100mm×100mmの大きさに切り出して、試験片とした。この試験片のMD方向とTD方向の長さLoをそれぞれ測定した。
2)試験片を熱風循環式恒温槽にて、200℃で15分間保存した。
3)試験片を取り出した後、室温まで冷却し、前記1)と同様にして試験片のMD方向とTD方向の長さLをそれぞれ測定した。加熱前後の試験片の長さを下記式に当てはめて、MD方向とTD方向の熱収縮率をそれぞれ算出した。
熱収縮率(%)=(Lo−L)/Lo×100
(Lo:加熱前の試験片の長さ、L:加熱後の試験片の長さ)
そして、MD方向とTD方向の熱収縮率の平均値を「熱収縮率」とした。
【0130】
実施例1〜9及び比較例1〜7の評価結果を表5に示し;実施例10〜12の評価結果を表6に示し;実施例13〜18の評価結果を表7に示す。表5中の「−」は、未測定であることを示す。
【表5】
【表6】
【表7】
【0131】
表2〜4及び5〜7に示されるように、実施例1〜18で得られたフィルムは、いずれも高いガラス転移温度を有しつつ、高い引張弾性率と低いヘイズとを両立できることが示される。
【0132】
一方、比較例1〜7で得られたフィルムは、高い引張弾性率と低いヘイズとを両立できないことが示される。比較例1、3及び4のフィルムは、ベンド乾燥温度は低いが、未延伸であることから、引張弾性率が高まらなかったと考えられる。一方、比較例6及び7のフィルムは、延伸しているが、ベンド乾燥温度が高いことから、引張弾性率が高まらなかったと考えられる。比較例5のフィルムは、延伸倍率が高すぎることから、ヘイズが発現したと考えられる。比較例2のフィルムは、MD方向とTD方向の延伸倍率の差が大きいことから、異方性が増し、熱収縮率が大きくなったと考えられる。
【0133】
表2に示されるようにベンディング処理を行うことや(実施例1と9の対比)、表3に示されるようにベンディング処理の回数を多くすることで(実施例1及び10〜12の対比)、熱収縮率を低くできることが示される。また、引張弾性率の異方性も少なくできることが示される。これは、ベンディング処理工程での熱により、延伸の残留応力が緩和され、かつ樹脂分子の配向が均一化されるためであると考えられる。