特許第6413785号(P6413785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6413785質量分析装置及びクロマトグラフ質量分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6413785
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】質量分析装置及びクロマトグラフ質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20181022BHJP
   H01J 49/26 20060101ALI20181022BHJP
【FI】
   G01N27/62 D
   H01J49/26
   G01N27/62 C
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-9242(P2015-9242)
(22)【出願日】2015年1月21日
(65)【公開番号】特開2016-133444(P2016-133444A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2017年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 恭彦
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−015485(JP,A)
【文献】 特開2013−195099(JP,A)
【文献】 特開2006−329896(JP,A)
【文献】 特開2012−002544(JP,A)
【文献】 特開2012−132799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60−27/70
G01N 30/00−30/96
H01J 49/00−49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 複数の化合物のそれぞれについて、該化合物から生成されるイオンの質量電荷比に関する情報を含む化合物情報が保存された記憶部と、
b) 前記複数の化合物の中から、定量及び/又は定性の対象である複数の分析対象化合物を指定する入力を受け付ける化合物指定入力受付部と、
c) 前記記憶部から、前記指定された分析対象化合物に関する化合物情報を抽出する化合物情報抽出部と、
d) 前記化合物情報抽出部により抽出された化合物情報に基づき、前記複数の分析対象化合物のそれぞれについて、該分析対象化合物から生成されるイオンであって、他の分析対象化合物から生成されるイオンと質量電荷比が異なるイオンを1乃至複数個、基準イオン候補として分析者に提示する基準イオン候補提示部と、
を備えることを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
前記化合物情報に、前記複数の化合物のそれぞれから生成されるイオンが検出される強度に関する情報が含まれており、
前記基準イオン候補提示部が、前記強度に関する情報に基づいて基準イオン候補を提示する
ことを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記基準イオン候補提示部が、前記複数の分析対象化合物のそれぞれに関する基準イオン候補を、質量電荷比が大きい順に提示する
ことを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項4】
前記基準イオン候補提示部が、他の基準イオン候補との質量電荷比の差が所定値以上であるイオンを、前記複数の分析対象化合物のそれぞれに関する基準イオン候補として提示する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の質量分析装置。
【請求項5】
a) 複数の化合物のそれぞれについて、該化合物から生成されるイオンの質量電荷比に関する情報を含む化合物情報が保存された記憶部と、
b) 前記複数の化合物の中から、定量及び/又は定性の対象である複数の分析対象化合物と該複数の分析対象化合物の基準イオンの質量電荷比を指定する入力を受け付ける化合物指定入力受付部と、
c) 前記記憶部から、前記指定された分析対象化合物に関する化合物情報を抽出する化合物情報抽出部と、
d) 前記化合物情報抽出部により抽出された化合物情報に基づき、前記複数の分析対象化合物のそれぞれについて、該分析対象化合物について指定された基準イオンと質量電荷比が合致するイオンが他の分析対象化合物から生成されるか否かを確認する基準イオン確認部と、
を備えることを特徴とする質量分析装置。
【請求項6】
e) 前記基準イオン確認部によって、分析対象化合物について指定された基準イオンの質量電荷比に合致するイオンが他の分析対象化合物から生成されることが確認された場合に、該分析対象化合物から生成されるイオンであって、他の分析対象化合物から生成されるイオンと質量電荷比が異なるイオンを代替基準イオン候補として分析者に提示する代替基準イオン候補提示部
を備えることを特徴とする請求項5に記載の質量分析装置。
【請求項7】
前記化合物情報に、前記複数の化合物のそれぞれから生成されるイオンが検出される強度に関する情報が含まれており、
前記代替基準イオン候補提示部が、前記強度に関する情報に基づいて前記代替基準イオン候補を提示する
ことを特徴とする請求項6に記載の質量分析装置。
【請求項8】
前記代替基準イオン候補提示部が、質量電荷比が大きい順に代替基準イオン候補を提示する
ことを特徴とする請求項6に記載の質量分析装置。
【請求項9】
前記代替基準イオン候補提示部が、他の基準イオンや代替基準イオン候補との質量電荷比の差が所定値以上であるイオンを代替基準イオン候補として提示する
ことを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載の質量分析装置。
【請求項10】
請求項1から4のいずれかに記載の質量分析装置と、試料に含まれる複数の分析対象化合物を時間的に分離するクロマトグラフを有し、
前記化合物情報に、前記クロマトグラフにおける前記複数の化合物のそれぞれの保持時間に関する情報が含まれており、
前記基準イオン候補提示部が、前記化合物情報抽出部により抽出された化合物情報に基づき、前記複数の分析対象化合物のそれぞれについて、該分析対象化合物から生成されるイオンであって、他の分析対象化合物から生成されるイオンと、保持時間又は質量電荷比が異なるイオンを基準イオン候補として分析者に提示する
ことを特徴とするクロマトグラフ質量分析装置。
【請求項11】
請求項5に記載の質量分析装置と、試料に含まれる複数の分析対象化合物を時間的に分離するクロマトグラフを有し、
前記化合物情報に、前記クロマトグラフにおける前記複数の化合物のそれぞれの保持時間に関する情報が含まれており、
前記基準イオン確認部が、前記化合物情報抽出部により抽出された化合物情報に基づき、前記複数の分析対象化合物のそれぞれについて、保持時間の差が予め決められた時間よりも短い他の分析対象化合物から該分析対象化合物について指定された基準イオンと質量電荷比が合致するイオンが生成されるか否かを確認する
ことを特徴とするクロマトグラフ質量分析装置。
【請求項12】
請求項6から9のいずれかに記載の質量分析装置と、試料に含まれる複数の分析対象化合物を時間的に分離するクロマトグラフを有し、
前記化合物情報に、前記クロマトグラフにおける前記複数の化合物のそれぞれの保持時間に関する情報が含まれており、
前記基準イオン確認部が、前記化合物情報抽出部により抽出された化合物情報に基づき、前記複数の分析対象化合物のそれぞれについて、保持時間の差が予め決められた時間よりも短い他の分析対象化合物から該分析対象化合物について指定された基準イオンと質量電荷比が合致するイオンが生成されるか否かを確認し、
前記代替基準イオン候補提示部が、前記基準イオン確認部によって、前記化合物情報抽出部により抽出された化合物情報に基づき、前記複数の分析対象化合物のそれぞれについて、保持時間の差が予め決められた時間よりも短い他の分析対象化合物から該分析対象化合物について指定された基準イオンと質量電荷比が合致するイオンが生成されることが確認された場合に、該分析対象化合物から生成されるイオンであって、保持時間の差が予め決められた時間よりも短い他の分析対象化合物から生成されるイオンと質量電荷比が異なるイオンを代替基準イオンとして分析者に提示する
ことを特徴とするクロマトグラフ質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置に関する。また、ガスクロマトグラフや液体クロマトグラフと質量分析装置を組み合わせて構成したクロマトグラフ質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる成分の定性分析や定量分析を行うために、ガスクロマトグラフ(GC)や液体クロマトグラフ(LC)等のクロマトグラフと、四重極型質量分析計等の質量分析装置とを組み合わせたクロマトグラフ質量分析装置が広く用いられている。
クロマトグラフ質量分析装置では、クロマトグラフによって時間的に分離された試料中の複数の成分を順に質量分析装置に導入し、それらの定性分析や定量分析を行う。
【0003】
クロマトグラフ質量分析装置を用いて試料の定性分析や定量分析を行う際には、分析対象化合物を特徴づけるイオンを、定量イオン及び確認イオンとして用いる。種々の化合物にそれぞれ対応する定量イオンと確認イオンは、予め該化合物の標品等を質量分析した結果に基づいて1乃至複数組設定され、データベースに保存される。分析者は該データベースを参照して定量イオン及び確認イオンを設定する。そして、試料をクロマトグラフ質量分析して得られる定量イオンのマスクロマトグラムのピークと確認イオンのマスクロマトグラムのピークの強度比(あるいは面積比)を用いて化合物を同定(定性)し、定量イオンのマスクロマトグラムのピークの強度(面積)から化合物を定量する(例えば特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−242255号公報
【特許文献2】特開2012−132799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、クロマトグラフ質量分析装置を用いて、血液や尿といった代謝物中の化合物の含有量からがんや糖尿病等の病気を発見する試みがなされている。こうした分析では、対象化合物が100種類以上、多い場合には約400種類にもなり、これらの中には類似の分子構造を有する糖質やアミノ酸などが含まれる。類似の分子構造を持つ化合物群はカラムからほぼ同じ保持時間で溶出する。また、化合物群からは同一の質量電荷比を有するイオンが生成される場合が多い。そのため、化合物群に含まれる化合物Aの定量イオンや確認イオンに設定された質量電荷比のイオンが、化合物Aとほぼ同時にカラムから溶出する別の化合物Bからも生成される可能性がある。すると、マスクロマトグラムにおいて化合物Aの定量イオンのピークに化合物B由来のイオンのピークが重なり、化合物Bの含有量を含む、誤った値を化合物Aの定量値としてしまうことになる。確認イオンの場合も同様であり、この場合には化合物Aを誤って定性してしまう。
【0006】
こうした問題は、上記以外に、MS/MS装置を用いた多重反応モニタリング(MRM:Multiple Reaction Monitoring)分析において、上記定量イオンに対応するプリカーサイオンとプロダクトイオンの組である定量MRMトランジションや、上記確認イオンに対応する確認MRMトランジションを設定する場合にも生じる。また、クロマトグラフを併用しない質量分析においても同様の問題が生じる。
なお、以降の説明において、定量イオン、確認イオン、定量MRMトランジション、及び確認MRMトランジションを適宜、「基準イオン」と呼ぶ。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、試料に含まれる複数の分析対象化合物の定性及び/又は定量を行う際に、別の分析対象化合物の影響を受けない基準イオンを確実に決定することができる質量分析装置、及び該質量分析装置にクロマトグラフを組み合わせて構成したクロマトグラフ質量分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置の第1の態様は、
a) 複数の化合物のそれぞれについて、該化合物から生成されるイオンの質量電荷比に関する情報を含む化合物情報が保存された記憶部と、
b) 前記複数の化合物の中から、定量及び/又は定性の対象である複数の分析対象化合物を指定する入力を受け付ける化合物指定入力受付部と、
c) 前記記憶部から、前記指定された分析対象化合物に関する化合物情報を抽出する化合物情報抽出部と、
d) 前記化合物情報抽出部により抽出された化合物情報に基づき、前記複数の分析対象化合物のそれぞれについて、該分析対象化合物から生成されるイオンであって、他の分析対象化合物から生成されるイオンと質量電荷比が異なるイオンを1乃至複数個、基準イオン候補として分析者に提示する基準イオン候補提示部と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
上記分析対象化合物を指定する入力は、化合物名を入力したり、画面上に化合物リストを表示させて分析対象化合物をチェックして選択したりすること等により行うことができる。
上記の、他の分析対象化合物から生成されるイオンと質量電荷比とが異なる、とは、同一の質量フィルタ条件で分析対象化合物の基準イオンを検出したときに、他の分析対象化合物から生成されるイオンが同時に検出されない程度に質量電荷比が異なっていることを意味する。即ち、基準イオンの質量電荷比と、他の分析対象化合物から生成されるイオンの質量電荷比が、装置の質量分解能程度以上に異なることを意味する。
また、上記の基準イオンは、例えば、定量イオンや確認イオン、プリカーサイオンとプロダクトイオンの組である定量MRMトランジションや、確認MRMトランジションである。
【0010】
本発明に係る質量分析装置の第1の態様では、分析者が化合物指定入力受付部を通じて複数の分析対象化合物を指定すると、基準イオン候補提示部は記憶部に保存された化合物情報を参照して、他の化合物から生成されない質量電荷比のイオンを各分析対象化合物の基準イオン候補として分析者に提示する。分析者は提示された基準イオン候補の中から定量イオンや確認イオンを選択するだけでよい。従って、本発明に係る第1の態様の質量分析装置を用いることによって、複数の分析対象化合物について、別の分析対象化合物の影響を受けない基準イオンを確実に決定することができる。
【0011】
従来、分析者は、分析に先立ち、各分析対象化合物の定量イオン及び確認イオンと同一の質量電荷比のイオンが他の分析対象化合物から生成されないことを確認し、生成される場合には別の定量イオンや確認イオンを設定するという作業を行っていた。しかし、上述のとおり、100種類以上もの分析対象化合物についてこうした作業を行おうとすると、時間がかかり、また、人為的なミスによって同一の質量電荷比を有するイオンを設定してしまう可能性もあったが、本発明に係る質量分析装置を用いることで確実かつ容易に適切な基準イオンを決定することができる。
【0012】
上記第1の態様の質量分析装置では、さらに、
前記化合物情報に、前記複数の化合物のそれぞれから生成されるイオンが検出される強度に関する情報が含まれており、
前記基準イオン候補提示部が、前記強度に関する情報に基づいて基準イオン候補を提示する
ことが望ましい。
【0013】
イオンの強度に関する情報に基づいて基準イオン候補を提示する、とは、例えばイオンの検出強度が高い順に基準イオン候補を順位付けして提示することや、あるいは検出される強度が予め決められた閾値以上であるイオンのみを基準イオン候補として提示することを意味する。また、強度に関する情報としては、強度の絶対値のほか、1つの化合物のマスピークの中で最も強度が大きいマスピークであるベースピークとの強度比の値などを用いることができる。この態様の質量分析装置を用いると、分析者は高強度で検出される基準イオンを選択しやすくなり、分析対象化合物をより高精度で定性及び/又は定量することができる。
【0014】
また、上記第1の態様の質量分析装置では、
前記基準イオン候補提示部が、前記複数の分析対象化合物のそれぞれに関する基準イオン候補を、質量電荷比が大きい順に提示する
ように構成することもできる。
【0015】
一般に、化合物から生成される各種イオンのうち、質量電荷比が大きいイオンほど、その化合物を特徴付けるイオンであることが多い。従って、複数の分析対象化合物のそれぞれに関する基準イオン候補を、質量電荷比が大きい順に提示するように構成しておけば、分析者は、各分析対象化合物について、それらをより特徴づけるイオンを基準イオン候補として選択しやすくなる。
【0016】
さらに、上記第1の態様の質量分析装置では、
前記基準イオン候補提示部が、他の基準イオン候補との質量電荷比の差が所定値以上であるイオンを、前記複数の分析対象化合物のそれぞれに関する基準イオン候補として提示する
ように構成することもできる。
【0017】
異なる分析対象化合物の基準イオン候補の質量電荷比の差が小さいと、分解能が低い質量分析装置では、それら基準イオン候補を十分に分離して検出することが難しい場合がある。基準イオン候補提示部が、他の基準イオン候補との質量電荷比の差が所定値以上であるイオン(例えば質量電荷比が2以上異なるイオン)を、前記複数の分析対象化合物のそれぞれに関する基準イオン候補として提示するように構成しておくことにより、分析者が、質量分析装置において、より確実に分離可能な複数の基準イオン候補を容易に選択することができる。
【0018】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置の第2の態様は、
a) 複数の化合物のそれぞれについて、該化合物から生成されるイオンの質量電荷比に関する情報を含む化合物情報が保存された記憶部と、
b) 前記複数の化合物の中から、定量及び/又は定性の対象である複数の分析対象化合物と該複数の分析対象化合物の基準イオンの質量電荷比を指定する入力を受け付ける化合物指定入力受付部と、
c) 前記記憶部から、前記指定された分析対象化合物に関する化合物情報を抽出する化合物情報抽出部と、
d) 前記化合物情報抽出部により抽出された化合物情報に基づき、前記複数の分析対象化合物のそれぞれについて、該分析対象化合物について指定された基準イオンと質量電荷比が合致するイオンが他の分析対象化合物から生成されるか否かを確認する基準イオン確認部と、
を備えることを特徴とする。
【0019】
質量分析装置を用いた定性や定量が頻繁に行われる分析対象化合物では、予め基準イオンが設定されていることが多い。こうした場合に第2の態様の質量分析装置を好適に用いることができる。この態様の質量分析装置では、分析者が化合物指定入力受付部を通じて複数の分析対象化合物を指定する情報(例えば化合物名)と基準イオンの質量電荷比を入力すると、基準イオン確認部によって該基準イオンが適切なものであるかが確認される。分析者はその結果を確認して適切な基準イオンを選択することができる。従って、上記第2の態様の質量分析装置を用いることによっても、複数の分析対象化合物について、別の分析対象化合物の影響を受けない基準イオンを確実に決定することができる。
【0020】
上記第2の態様の質量分析装置では、さらに、
e) 前記基準イオン確認部によって、分析対象化合物について指定された基準イオンの質量電荷比に合致するイオンが他の分析対象化合物から生成されることが確認された場合に、該分析対象化合物から生成されるイオンであって、他の分析対象化合物から生成されるイオンと質量電荷比が異なるイオンを代替基準イオン候補として分析者に提示する代替基準イオン候補提示部
を備えることが望ましい。
【0021】
また、代替基準イオン候補提示部を備える態様の質量分析装置では、
前記化合物情報に、前記複数の化合物のそれぞれから生成されるイオンが検出される強度に関する情報が含まれており、
前記代替基準イオン候補提示部が、前記強度に関する情報に基づいて代替基準イオン候補を提示する
ことが望ましい。
【0022】
あるいは、代替基準イオン候補提示部を備える態様の質量分析装置では、
前記代替基準イオン候補提示部が、質量電荷比が大きい順に代替基準イオン候補を提示する
ように構成することもできる。
【0023】
さらに、代替基準イオン候補提示部を備える態様の質量分析装置では、
前記代替基準イオン候補提示部が、他の基準イオンや代替基準イオン候補との質量電荷比の差が所定値以上であるイオンを代替基準イオン候補として提示する
ように構成することもできる。
【0024】
本発明の第3の態様は、上記のいずれかの質量分析装置と試料に含まれる複数の分析対象化合物を時間的に分離するクロマトグラフを組み合わせたクロマトグラフ質量分析装置である。クロマトグラフは、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフのいずれであってもよい。
【0025】
第3の態様のクロマトグラフ質量分析装置では、さらに、
前記化合物情報に、前記クロマトグラフにおける前記複数の化合物のそれぞれの保持時間に関する情報が含まれており、
前記基準イオン候補提示部が、前記化合物情報抽出部により抽出された化合物情報に基づき、前記複数の分析対象化合物のそれぞれについて、該分析対象化合物から生成されるイオンであって、他の分析対象化合物から生成されるイオンと、保持時間又は質量電荷比が異なるイオンを基準イオン候補として分析者に提示する
ことが望ましい。
【0026】
クロマトグラフ質量分析装置では、ある分析対象化合物の基準イオンと同一の質量電荷比のイオンが別の分析対象化合物から生成される場合でも、両化合物の保持時間が違えばこれらのイオンが同時に検出されることはない。この態様のクロマトグラフ質量分析装置では、こうしたイオンを基準イオン候補に加えることができるため、より高強度のイオンを基準イオンとして高精度の定性や定量を行うことが可能になる。なお、上記保持時間として保持指標を用いてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る質量分析装置あるいはクロマトグラフ質量分析装置を用いることにより、定性や定量を行う複数の分析対象化合物のそれぞれについて、別の分析対象化合物の影響を受けない基準イオンを確実に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係るクロマトグラフ質量分析装置の一実施例であるガスクロマトグラフ質量分析装置の要部構成図。
図2】実施例1において基準イオン候補を提示するまでの手順を説明するフローチャート。
図3】実施例1における化合物情報の一例。
図4】実施例1において基準イオン候補を抽出する手順を説明する図。
図5】実施例2において基準イオン候補を提示するまでの手順を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係る質量分析装置及びクロマトグラフ質量分析装置の一実施例について、以下、図面を参照して説明する。
【0030】
図1は本実施例のガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS/MS)の要部構成図である。このガスクロマトグラフ質量分析装置は、ガスクロマトグラフ(GC)部1、質量分析(MS)部3、及びそれらの間に位置するインターフェイス部2で構成される。
【0031】
ガスクロマトグラフ(GC)部1では、マイクロシリンジ11によって試料液が試料気化室10に注入される。試料液は試料気化室10内で気化し、キャリアガス流路12から供給されるキャリアガス(He)の流れに乗ってカラム14に送られる。カラム14はカラムオーブン13により所定の温度に加熱されており、その中で試料中の成分が時間的に分離される。分離された各成分は順にカラム14の出口に到達し、加熱ヒータ等を含むインターフェイス部2を経て、質量分析(MS)部3のイオン化室31に導入される。
【0032】
イオン化室31に導入された化合物分子は電子イオン化(EI)法や化学イオン化(CI)法などによりイオン化される。生成されたイオンはイオン化室31の外側に引き出され、イオンレンズ32により収束されて4本のロッド電極から構成される前段四重極マスフィルタ(Q1)33の長軸方向の空間に導入される。前段四重極マスフィルタ(Q1)33には、図示しない電源から直流電圧と高周波電圧とを重畳した電圧が印加され、その印加電圧に応じた質量電荷比を有するイオンのみがその長軸方向の空間を通過し、コリジョンセル34に導入される。
【0033】
コリジョンセル34の内部には、高周波電場の作用によりイオンを収束させる多重極型イオンガイド(q2)35が配置されている。また、コリジョンセル34内には連続的に又は間欠的に外部よりArガス等のCIDガスが導入される。コリジョンセル34に導入されたイオンはCIDガスに接触して開裂し、その開裂によって生成されたプロダクトイオンは収束されつつ後段四重極マスフィルタ(Q3)36の長軸方向の空間に導入される。後段四重極マスフィルタ(Q3)36は前段四重極マスフィルタ(Q1)33と同様に4本のロッド電極で構成され、図示しない電源から直流電圧と高周波電圧とを重畳した電圧がそれらロッド電極に印加され、その印加電圧に応じた質量電荷比を有するプロダクトイオンのみがその長軸方向の空間を通過してイオン検出器37に到達する。イオン検出器37による検出信号はA/D変換器38によりデジタルデータに変換されてデータ処理部4に送られる。
【0034】
データ処理部4は、本発明に特徴的な処理を行うために、化合物情報記憶部41、化合物指定入力受付部42、化合物情報抽出部43、基準イオン候補提示部44、基準イオン確認部45、及び代替基準イオン候補提示部46を機能ブロックとして備えている。GC部1、インターフェイス部2、及びMS部3に含まれる各部の動作は、分析制御部5によりそれぞれ制御される。また、中央制御部6にはキーボードやマウス等のポインティングデバイスを含む入力部7や表示部8が接続され、中央制御部6は入出力制御や分析制御部5よりも上位のシステム制御を担う。なお、データ処理部4、分析制御部5、及び中央制御部6は、パーソナルコンピュータをハードウエア資源とし、該パーソナルコンピュータにインストールされた専用の制御/処理ソフトウエアをパーソナルコンピュータ上で実行することにより具現化される。
【0035】
本実施例のGC/MS/MSのMS部3では、コリジョンセル34内でのCID操作を伴うMS/MS分析のモードとして、MRM測定モード、プリカーサイオンスキャン測定モード、プロダクトイオンスキャン測定モード、ニュートラルロススキャン測定モード、を実行することができる。また、コリジョンセル34内でのCID操作を行わないMS分析のモードとして、Q1SIM測定モード、Q3SIM測定モード、Q1スキャン測定モード、Q3スキャン測定モードを実行することもできる。これらのうち、MRM測定モード、Q1SIM測定モード、及びQ3SIM測定モードが、本実施例の特徴的な動作に関連する。
【0036】
化合物情報記憶部41には、複数の化合物の化合物情報が保存されている。化合物情報には、化合物の保持時間情報と、該化合物をMS分析して得たMSスペクトル及びMS/MS分析して得たMS2スペクトルにおけるマスピークの位置(質量電荷比)と強度が含まれる。図3に化合物A、B、及びCの化合物情報の一例を示す。図3ではMSスペクトルのマスピークの位置と強度を表形式で示したが、その他マススペクトルのデータそのものなど、適宜の形式のものを用いることができる。また、図3に示す強度はベースピーク(マススペクトル上で最も強度が大きいピークに対する強度比としたが、強度の実測値(絶対値)とすることもできる。さらに、保持時間(分)に代えて、保持指標を用いてもよい。なお、保持指標とは、成分の保持時間を基準化合物(n-アルカン)、FAME(脂肪酸メチルエステル)等の基準化合物の保持時間により指標化したものである。
【実施例1】
【0037】
次に、本実施例のガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて、試料に含まれる複数の分析対象成分の基準イオン(定量イオンや確認イオン)を決定する方法について、図2のフローチャートを参照して説明する。
【0038】
分析者が所定の入力操作によって分析条件設定画面を呼び出すと、表示部8の画面上に記憶部41に保存された化合物(化合物A〜C)のリストが表示される。分析者が表示された化合物の中から入力部7により分析対象化合物を選択すると(ステップS1)、化合物指定入力受付部42により分析対象化合物が特定される(ステップS2)。また、それらに関する化合物情報が化合物情報抽出部43により記憶部41から抽出される(ステップS3)。本実施例では、分析者が2つの化合物A、Bを分析対象化合物として選択する場合を例に説明する。
【0039】
続いて、基準イオン候補提示部44は、抽出された化合物A、Bの化合物情報を用いて化合物A、Bのそれぞれについて基準イオン候補を提示する。具体的には、図4(a)に示すように、化合物A、化合物Bからそれぞれ生成されるイオンを質量電荷比順に並べて比較し、質量電荷比が相互に異なるイオンを抽出する(ステップS4、図4(b))。そして、それら基準イオン候補を、マスピークの強度が大きい順に並べ替えて(ステップS5)、その上位の所定個(本実施例では3個)を表示部8の画面に表示する(ステップS6、図4(c))。分析者は、画面に表示された基準イオン候補を確認し、必要な数のイオンを基準イオンとして決定する。本実施例において、例えば化合物A、Bのそれぞれの定量イオン及び確認イオンを決定する場合には、化合物Aのm/z=341のイオンを定量イオン、m/z=56のイオンを確認イオンとし、化合物Bのm/z=202のイオンを定量イオン、m/z=100のイオンを確認イオンとして選択する。以上のとおり、本実施例のクロマトグラフ質量分析装置を用いることによって、分析者は容易かつ確実に、別の分析対象化合物の影響を受けない基準イオンを確実に決定することができる。
【0040】
上記の実施例では、基準イオン候補提示部44が、化合物A、化合物Bの基準イオン候補をマスピークの強度が大きい順に表示部8の画面に表示するように構成したが(図4(c))、基準イオン候補提示部44が、化合物A、化合物Bの基準イオン候補を質量電荷比が大きい順に所定個(本実施例では3個)を表示部8の画面に表示するように構成することもできる。この構成では、化合物A、化合物Bの基準イオン候補は図4(d)に示すように表示される(即ち、化合物Aの基準イオン候補にm/z=56のイオンが含まれなくなる)。
【0041】
一般に、化合物から生成される各種イオンのうち、質量電荷比が大きいイオンほど、その化合物を特徴付けるイオンであることが多い。従って、図4(d)に示すように基準イオン候補を表示するように構成しておけば、分析者は、化合物A、化合物Bのそれぞれについて、当該化合物により特徴的なイオンを基準イオンとして容易に選択することができる。
【0042】
ところが、使用する質量分析装置の質量分解能が低い場合、異なる分析対象化合物の基準イオン候補の質量電荷比の差が小さい(例えば質量電荷比の差が1以下である)と、それらを十分に分離して検出することが難しい。例えば、図4(c)に基づいて化合物Aのm/z=341のイオンを定量イオン、m/z=56のイオンを確認イオンとした場合、化合物Aの確認イオン(m/z=56のイオン)と化合物Bから生成されるm/z=55のイオンの質量電荷比の差が1しかない。
【0043】
そこで、基準イオン候補44が、まず他の基準イオン候補との質量電荷比の差が所定値(例えば2)以上であるイオンを抽出し、さらにそれらのマスピークの強度が大きい順に並べ替えて表示部8の画面に表示するように構成することも有効である。この構成では、化合物A、化合物Bの基準イオン候補は図4(e)となる。このような構成を採ることによって、分析者が、より確実に分離可能な複数の基準イオン候補)を容易に選択する(化合物Aのm/z=341のイオンを定量イオン、m/z=500のイオンを確認イオンとして選択し、化合物Bのm/z=202のイオンを定量イオン、m/z=100のイオンを確認イオンとして選択することができる。
【実施例2】
【0044】
質量分析装置を用いた定性や定量が頻繁に行われる分析対象化合物では、予め基準イオンが設定されていることが多い。そこで、こうした場合に本実施例のガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて、試料に含まれる複数の分析対象成分の基準イオン(定量イオンや確認イオン)を決定する方法について、図5のフローチャートを参照して説明する。ここでは、化合物Aの定量イオンとしてm/z=322のイオン、確認イオンとしてm/z=341のイオンが、化合物Bの定量イオンとしてm/z=50のイオン、確認イオンとしてm/z=202のイオンが、それぞれ設定されている場合を例に説明する。
【0045】
分析者が所定の入力操作によって分析条件設定画面を呼び出すと、表示部8の画面上に記憶部41に保存された化合物のリストが表示される。続いて、分析者が、表示された化合物の中から、入力部7により化合物A、Bを選択すると(ステップS11)、化合物指定入力受付部42により分析対象化合物として化合物A、Bが特定される(ステップS12)。そして、それらに関する化合物情報が化合物情報抽出部43により記憶部41から抽出される(ステップS13)。
【0046】
本実施例では、さらに、分析者が化合物A、Bについて予め設定された上記の定量イオン及び確認イオンの質量電荷比を入力する(ステップS14)。すると、基準イオン確認部45はそれらの値を、化合物情報抽出部43により抽出された化合物A、Bの化合物情報と比較する。具体的には、化合物Aについて分析者が入力した定量イオン(m/z=322)と確認イオン(m/z=341)の質量電荷比と同一のイオンが他の分析対象化合物(化合物B)から生成されるか否かを確認する(ステップS15)。化合物Bの化合物情報にはm/z=322のイオンが含まれている。従って、基準イオン確認部45は、化合物Aの定量イオン(m/z=322)が化合物Bからも生成される(即ち、定量イオンとして適切ではない)ことを表示部8の画面上に表示する。
【0047】
上記のように、基準イオン確認部45により、分析者により入力された分析対象化合物のイオンと同一の質量電荷比のイオンが別の分析対象化合物から生成されると判断される(ステップS15でYES)と、代替基準イオン候補提示部46は、別のイオンを代替基準イオン候補として提示する。具体的には、化合物Aの定量イオン候補として、化合物Aから生成されるイオンのうち、他の分析対象化合物(化合物B)から生成されるイオンと質量電荷比が異なるイオンを抽出し(ステップS16)、その中から最もマスピークの強度が大きいイオンの質量電荷比を表示部8に表示する(ステップS17)。あるいは、抽出したイオンをマスピークの強度が大きい順に並べ替えて表示部8に表示する。本実施例では、m/z=341のイオンが既に分析者によって化合物Aの確認イオンとして既に入力されているため、化合物Aの定量イオンに関する代替基準イオン候補としてm/z=500のイオンを提示する。好ましくは、代替基準イオン候補提示部46は、化合物Aの定量イオン候補を分析者により入力された確認イオンとともに、それらのマスピーク強度を付して表示する。これにより、分析者は定量イオンと確認イオンの強度を視認し、それらを入れ替えて使用することができる。化合物Bについても同様の処理が行われ、代替基準イオン候補提示部46は、化合物Bの定量イオンに関する代替基準イオン候補としてm/z=100のイオンを抽出し、分析者が入力した確認イオン(m/z=202)とともにマスピークの強度を付して表示部8に表示する。ここでは、説明を容易にするために、分析対象化合物を2種類としたが、3種類以上の場合も同様である。
【0048】
実施例2の質量分析装置においても、実施例1の質量分析装置と同様に、代替基準イオン候補提示部46が、質量電荷比が大きい順に代替基準イオン候補を提示するように構成することができる。また、代替基準イオン候補提示部46が、他の基準イオンや代替基準イオン候補との質量電荷比の差が所定値以上であるイオンを代替基準イオン候補として提示するように構成することもできる。
【実施例3】
【0049】
上記実施例では、基準イオン候補提示部44、基準イオン確認部45、及び代替基準イオン候補提示部46が、化合物情報に含まれるイオンの質量電荷比と強度に関する情報のみを参照する場合について説明したが、これらに加え、保持時間も参照するように構成することができる。以下、そのような例を説明する。ここでは、分析者が化合物A〜Cを分析対象化合物に選択した場合を例に挙げる。
【0050】
分析者が、入力部7により化合物A〜Cを選択すると、化合物指定入力受付部42により分析対象化合物として特定される。また、それらに関する化合物情報が化合物情報抽出部43により記憶部41から抽出される。ここまでの動作は上述した例と同じである。
【0051】
基準イオン候補提示部44は、抽出された化合物A〜Cの化合物情報を用いて各化合物の基準イオン候補を提示する。このとき、基準イオン候補提示部44は、まず、化合物A〜Cの保持時間の差を算出し、その差が、予め決められた時間よりも短い化合物をグループ化する。予め決められた時間とは、典型的にはマスクロマトグラムを取得する際にクロマトグラムのピークが分離できる最小の時間を意味する。
【0052】
この実施例では化合物AとBがグループ化される。そして、同一のグループに属する化合物A、Bについて、それぞれから生成されるイオンを質量電荷比順に並べて比較し、別の分析対象化合物から生成されることがないイオンを抽出して基準イオン候補とする(図4(b))。そして、それら基準イオン候補を、マスピークの強度が大きい順に並べ替えて表示部8の画面に表示する。化合物Cには同じグループに属する別の分析対象化合物が存在しないため、化合物Cから生成される全イオンをマスピークの強度が大きい順に並べ替えて表示する。ここでは基準イオン候補をマスピークの強度が大きい順に並べる場合を例に挙げたが、上述したように、質量電荷比が大きい順に並べて表示するようにしてもよい。また、1つのグループ内に複数の化合物が存在する場合に、他の基準イオン候補との質量電荷比の差が所定値以上であるイオンを、前記複数の分析対象化合物のそれぞれに関する基準イオン候補として提示するようにしてもよい。
【0053】
先に説明した方法では、分析対象化合物の基準イオン候補を提示する際に、他の全ての分析対象化合物から生成されないイオンを抽出した。そのため、分析対象化合物として化合物A〜Cが選択された場合、化合物Aの基準イオン候補に、化合物Cから生成されるm/z=500のイオンは含まれない。実際には、化合物Aと化合物Cがガスクロマトグラフから質量分析装置に導入される時間に大きな開きがあるため、これらの化合物が同時に検出されることはなく、化合物Aの基準イオン候補としてm/z=500のイオンを使用しても定量や定性を行ううえで問題は生じない。このように、イオンの質量電荷比と強度に加え、保持時間も参照して基準イオン候補を提示するように構成することで、より高強度のイオンを基準イオンとして高精度の定性や定量を行うことが可能になる。
【0054】
上記の実施例はいずれも一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。
上記実施例ではガスクロマトグラフ質量分析装置について説明したが、液体クロマトグラフ質量分析装置でも同様に構成することができる。液体クロマトグラフ質量分析装置で多く用いられるエレクトロスプレーイオン化法では、主に分子イオンが生成されるため、これを開裂させてプロダクトイオンを検出する、MRM測定によって分析対象成分を定量及び定性することが多い。こうした場合には、化合物情報に含まれるイオンの質量電荷比として、特定のプリカーサイオンから生成されるプロダクトイオンの質量電荷比を保存しておき、基準イオン候補提示部44や代替基準イオン候補提示部46が、これを用いて定量MRMトランジションや定性MRMトランジションを提示するように構成することもできる。
また、本発明はクロマトグラフを有しない質量分析装置を用いて、試料に含まれる全ての分析対象成分を同時に測定することによってそれらを定量及び定性するために用いることもできる。この場合には保持時間に関する情報を使用せず、基準イオン候補提示部44や代替基準イオン候補提示部46は、イオンの質量電荷比と強度に関する情報に基づいて基準イオン候補を提示する。
【符号の説明】
【0055】
1…GC部
10…試料気化室
11…マイクロシリンジ
12…キャリアガス流路
13…カラムオーブン
14…カラム
2…インターフェイス部
3…MS部
31…イオン化室
32…イオンレンズ
33…前段四重極マスフィルタ
34…コリジョンセル
35…多重極型イオンガイド
36…後段四重極マスフィルタ
37…イオン検出器
38…A/D変換器
4…データ処理部
41…化合物情報記憶部
42…化合物指定入力受付部
43…化合物情報抽出部
44…基準イオン候補提示部
45…基準イオン確認部
46…代替基準イオン候補提示部
5…分析制御部
6…中央制御部
7…入力部
8…表示部
図1
図2
図3
図4
図5