【実施例】
【0057】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0058】
主組成物原料として、炭酸バリウム(BaCO
3 )、炭酸カルシウム(CaCO
3 )、炭酸ストロンチウム(SrCO
3 )、酸化チタン(TiO
2 )、酸化ジルコニウム(ZrO
2 )および酸化スズ(SnO
2 )を、それぞれ準備した。さらに、第1副成分原料として酸化ビスマス(Bi
2O
3)を、第2副成分原料として酸化亜鉛(ZnO)を、第3副成分の原料としてLa、Pr、Pm、Nd、Sm、Eu、Gdからなる群から選択される1種以上の元素の酸化物を、第4副成分の原料としてAl、Ga、Si、Mg、In、Niからなる群から選択される1種以上の元素の酸化物を、第5副成分の原料としてMnおよび/またはCrの酸化物を、それぞれ準備した。
【0059】
第1主組成物
焼成後の組成が表1、表2に示す組成となるように、前記主組成物原料を秤量した。秤量後に各原料を配合した。配合は、ボールミルで湿式混合撹拌を3時間行うことで実施した。湿式混合撹拌後の配合物を脱水乾燥した。脱水乾燥後に1170〜1210℃で仮焼成し、第1主組成物仮焼粉を得た。
【0060】
第2主組成物
焼成後の組成が表1、表2に示す組成となるように、前記主組成物原料を秤量した。秤量後に各原料を配合した。配合は、ボールミルで湿式混合撹拌を3時間行うことで実施した。湿式混合撹拌後の配合物を脱水乾燥した。脱水乾燥後に1170〜1210℃で仮焼成し、第2主組成物仮焼粉を得た。
【0061】
前記第1主組成物仮焼粉と前記第2主組成物仮焼粉とを粗粉砕した。その後、粗粉砕した前記第1主組成物仮焼粉、粗粉砕した前記第2主組成物仮焼粉、および前記第1〜第5副成分原料(必要に応じて粗粉砕を行う)を、焼成後の組成が表1、2に示す組成となるように秤量し、混合した。そして、ポットミルで平均粒径0.5μm〜2μm程度に微粉砕した。微粉砕した原料粉末を脱水乾燥した。脱水乾燥後の原料粉末に有機結合剤としてポリビニルアルコール(PVA)を添加し、造粒および整粒を行い、顆粒粉末とした。
【0062】
前記顆粒粉末を300MPaの圧力で成形し、直径16.5mm、厚さ1.15mmの円板状の成形物を得た。
【0063】
前記円板状の成形物を空気中、1150℃〜1300℃で本焼成し、焼結体を得た。
【0064】
なお、焼成後の組成は蛍光X線分析により確認した。そして、焼成後の組成は焼成前の主成分および副成分の混合時の組成とほぼ一致することを確認した。
【0065】
前記焼結体の両面に銀(Ag)ペーストを焼付けて電極を形成し、磁器コンデンサを得た。このようにして得られた表1、2の試料番号1〜137の各磁器コンデンサの電気的特性を測定した。
【0066】
以下、各電気的特性の測定方法および評価方法について説明する。
【0067】
(焼結性(焼結体密度))
前記焼結体の寸法および重量から、焼結体密度を算出した。焼結体密度が5.5g/cm
3以上の場合を焼結性が良好であるとした。表1、2では、焼結体密度が5.5g/cm
3 以上の場合を○、5.5g/cm
3 未満の場合を×とした。基準を5.5g/cm
3 としたのは、焼結体密度が5.5g/cm
3 未満の場合に焼結体素地の強度が著しく低下してしまうためである。なお、焼結体密度が5.5g/cm
3未満の試料については、以下の測定は不要であるとして実施しなかった。
【0068】
(比誘電率(ε))
比誘電率εは、前記コンデンサ試料に対し、基準温度20℃において、デジタルLCRメータにて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定された静電容量から算出した(単位なし)。比誘電率は高いほうが好ましく、本実施例では、8000以上を良好とした。
【0069】
(誘電損失(tanδ))
誘電損失(tanδ)は、前記コンデンサ試料に対し、基準温度20℃において、デジタルLCRメータにて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定した。誘電損失は低いほうが好ましく、本実施例では1.5%以下を良好とした。
【0070】
(交流破壊電圧(AC−Eb))
交流破壊電圧(AC−Eb)は、前記コンデンサの試料の両端に交流電界を100V/sで徐々に印加し、100mAのもれ電流が流れた時点での電圧を測定し、単位厚み当たりの交流破壊電圧を求めた。交流破壊電圧は高いほうが好ましく、本実施例では、4.0kV/mm以上を良好とした。
【0071】
(温度特性(E特性))
前記コンデンサ試料に対し、−25℃〜85℃において、デジタルLCRメータにて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの条件で静電容量を測定し、基準温度20℃における静電容量に対する−25℃での静電容量の変化率および85℃での静電容量の変化率を算出した。本実施例ではE特性を満たす+20%〜−55%を好ましい範囲とした。
【0072】
(信頼性)
前記コンデンサ試料を、温度170℃雰囲気中で50Hzの交流電圧を誘電体1mmあたり3kV印加される状態にした。この状態で24時間保持した後に、上記の比誘電率、誘電損失、交流破壊電圧、温度特性を測定した。
【0073】
24時間保持後の上記各特性が24時間保持前の上記各特性と同等程度である場合に信頼性が良好であるとした。すなわち、各特性の試験前の値を母数として、各特性の試験後の値と試験前の値との差が20%以下である場合を良好とした。表1、2では、全ての特性が上記の良好範囲内である場合に○、上記の良好範囲外の特性がある場合に△とした。信頼性が△であっても、他の特性が良好であれば、十分に本願発明の目的を達成することができる。
【0074】
(EPMA)
試料4について焼結品を鏡面研磨し、EPMAで観察し、Ba、Ca、Ti、Zr、Zn、Bi等のマッピング分析を行った。EPMAの測定結果をもとに作成した試料4の誘電体の要部拡大断面図の概略図が
図2である。BaおよびTiが存在する部分のうち、CaおよびZrが存在する部分を第1主組成物12が存在する部分とした。BaおよびTiが存在する部分のうち、CaおよびZrが存在しない部分を第2主組成物14が存在する部分とした。第1主組成物12、第2主組成物14のいずれとも異なる部分をその他の組成物16が存在する部分とした。その他の組成物16としては、たとえば副成分の偏析粒子等が挙げられる。なお、
図2では粒界の記載を省略した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
(評価)
試料1〜8より、第1主組成物の組成式中のx(Caの含有量)が0.01≦x≦0.30の場合(試料2〜7)は、xが0の場合(試料1)に比べ、交流破壊電圧および温度特性が良好になることが確認できた。またxが0.40の場合(試料8)に比べ、比誘電率が良好になることが確認できた。
【0078】
試料4、11〜17より、第1主組成物の組成式中のy(Srの含有量)が0.001≦y≦0.100の場合(試料4、12〜16)には、yが0、すなわち第1主組成物にSrを含有しない場合(試料11)に比べ、比誘電率が良好になることが確認できた。また、組成式中のyが0.155の場合(試料17)に比べ、比誘電率および温度特性が良好になることが確認できた。
【0079】
試料21〜27より、第1主組成物の組成式中のa(Snの含有量)が0でz(Zrの含有量)が0.04≦z≦0.20の場合(試料22〜26)は、zが0.03の場合(試料21)に比べ、比誘電率、誘電損失、交流破壊電圧および温度特性が良好になることが確認できた。また、組成式中のzが0.25の場合(試料27)に比べ、比誘電率および温度特性が良好になることが確認できた。
【0080】
試料28〜31より、第1主組成物の組成式中のzが0でaが0.04≦a≦0.20の場合(試料28〜30)は、aが0.25の場合(試料31)に比べ、比誘電率、交流破壊電圧および温度特性が良好になることが確認できた。
【0081】
試料4、21、22、32〜36より、第1主組成物の組成式中のz+aが0.04≦z+a≦0.30の場合(試料4、22、32〜35)は、z+aが0.03の場合(試料21)に比べ、比誘電率、誘電損失、交流破壊電圧および温度特性が良好になることが確認できた。また、組成式中のz+aが0.40の場合(試料36)に比べ、比誘電率および温度特性が良好になることが確認できた。
【0082】
試料4、41〜43より、第2主組成物の組成式中のαが0.00≦α≦0.100の場合(試料4、41、42)は、αが0.150の場合(試料43)に比べ、比誘電率および温度特性が良好になることが確認できた。
【0083】
試料4、51〜56より、主組成物全体の重量(主成分の重量)に対する第2主組成物の割合A(重量部)が5.00≦A≦40.00の場合(試料4、53〜55)は、第2主組成物を含有しない従来のBCTZ系の場合(試料51)、およびAが4.00の場合(試料52)に比べ、温度特性が良好になることが確認できた。また、Aが50.00の場合(試料56)に比べ、比誘電率が良好になることが確認できた。
【0084】
試料4、61〜66より、第1主組成物の組成式中のm、第2主組成物の組成式中のn、上記Aが0.97≦{(100−A)×m+A×n}×0.01≦1.03を満たす場合(試料4、62〜65)は、{(100−A)×m+A×n}×0.01が0.96の場合(試料61)に比べ、比誘電率および交流破壊電圧が良好になることが確認できた。また、{(100−A)×m+A×n}×0.01が1.04の場合(試料66)には、焼結性が悪化した。
【0085】
試料71〜137は試料4の副成分含有量を変化させた試料である。
【0086】
試料71〜75は第2副成分である酸化亜鉛の含有量を変化させた試料である。いずれの試料も全ての特性が良好であることが確認できた。
【0087】
試料81〜86は第1副成分である酸化ビスマスの含有量を変化させた試料である。主成分100重量部に対して0.30〜3.00重量部の間で変化させた試料82〜85は、0.20重量部とした試料81と比べ、温度特性が良好になることが確認できた。また、4.00重量部とした試料86に比べ、比誘電率、交流破壊電圧および温度特性が良好になることが確認できた。
【0088】
試料91〜107は第3副成分の種類および/または含有量を試料4から変化させた試料である。第3副成分の種類を変化させた試料91〜98、および2種類の第3副成分を含有する試料99は、いずれの試料も全ての特性が良好であることが確認できた。
【0089】
第3副成分を含有しない試料101および第3副成分(Nd
2O
3)の含有量を試料4から変化させた試料102〜107は、いずれの試料も全ての特性が良好であることが確認できた。
【0090】
第3副成分を0.005〜0.300重量部含有する試料4、91〜99、102〜107は、第3副成分を含有しない試料101と比較して交流破壊電圧が良好であることが確認できた。
【0091】
試料111〜128は第4副成分の種類および/または含有量を試料4から変化させた試料である。いずれの試料も全ての特性が良好であることが確認できた。
【0092】
第4副成分を0.02〜1.50重量部含有する試料4、112〜128は、第4副成分を含有しない試料111と比較して交流破壊電圧が良好であることが確認できた。
【0093】
試料131〜137は第5副成分の種類および/または含有量を試料4から変化させた試料である。いずれの試料も全ての特性が良好であることが確認できた。
【0094】
第5副成分を0.01〜0.60重量部含有する試料4、132〜137は、第5副成分を含有しない試料131と比較して信頼性が良好であることが確認できた。
【0095】
EPMAの結果(
図2)より、本願発明に係る誘電体磁器組成物は、主組成物が、BCTZ系の誘電体磁器組成物からなる第1主組成物12と、BT系の誘電体磁器組成物からなる第2主組成物14と、の二種類の主組成物からなることが確認できた。同時に、本願発明に係る誘電体磁器組成物の主組成物は、単一種類の主組成物とはなっていないことが確認できた。
【0096】
副成分に関しては、第1副成分の酸化ビスマスは、第1主組成物12に大部分が固溶していることが確認できた。第2副成分の酸化亜鉛が粒界(図示せず)およびその他の組成物16に含まれていることが確認できた。