特許第6413861号(P6413861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6413861-誘電体磁器組成物および電子部品 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6413861
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】誘電体磁器組成物および電子部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/468 20060101AFI20181022BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20181022BHJP
【FI】
   C04B35/468
   H01B3/12 303
   H01B3/12 326
   H01B3/12 335
   H01B3/12 338
   H01B3/12 320
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-54966(P2015-54966)
(22)【出願日】2015年3月18日
(65)【公開番号】特開2016-175781(P2016-175781A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2017年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大津 大輔
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 松巳
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−285373(JP,A)
【文献】 特開平09−110526(JP,A)
【文献】 特開2013−245150(JP,A)
【文献】 特開2005−022890(JP,A)
【文献】 特開2011−162397(JP,A)
【文献】 特開2005−206456(JP,A)
【文献】 特開2003−192342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
H01B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Ba1−x−y ,Ca,Sr(Ti1−z−a ,Zr,Sn)Oの組成式で表される第1主組成物と、
(Ba1−α,SrαTiOの組成式で表わされる第2主組成物と、
酸化ビスマスからなる第1副成分と、を含有する誘電体磁器組成物であって、
0.01≦x≦0.30
0<y≦0.1
0.04≦z≦0.2
0≦a≦0.2
0.04≦z+a≦0.3
0≦α≦0.1
であり、
前記第1主組成物の含有量と前記第2主組成物の含有量との和を100重量部とし、前記第2主組成物の含有量をA重量部、前記第1副成分の含有量をB重量部とする場合に、
5≦A≦40
0.97≦{(100−A)×m+A×n}×0.01≦1.03
0.3≦B≦3
であることを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
5≦A≦30である請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
0.3≦B≦1.5である請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
酸化亜鉛からなる第2副成分を含有し、前記第2副成分の含有量をB重量部とする場合に、
0.45≦B≦10である請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
La、Ce、Pr、Pm、Nd、Sm、Eu、Gd、Yからなる群のうち少なくとも1種以上の酸化物からなる第3副成分を含有し、前記第3副成分の含有量を酸化物換算でB重量部とする場合に、
0<B≦0.3である請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
Al、Ga、Si、Mg、In、Niからなる群のうち少なくとも1種以上の酸化物からなる第4副成分を含有し、前記第4副成分の含有量を酸化物換算でB重量部とする場合に、
0.02≦B≦1.5である請求項1〜5のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項7】
Mn、Crからなる群のうち少なくとも1種以上の酸化物からなる第5副成分を含有し、前記第5副成分の含有量を酸化物換算でB重量部とする場合に、
0.01≦B≦0.6である請求項1〜6のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の誘電体磁器組成物を含む電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に進む電気機器の高性能化に伴い、電気回路の小型化、複雑化もまた急速に進んでいる。そのため、電子部品にもより一層の小型化、高性能化が求められている。すなわち、良好な温度特性を維持しつつ、小型化しても静電容量を維持するために比誘電率が高く、さらに高電圧下で使用するために交流破壊電圧が高い誘電体磁器組成物および電子部品が求められている。
【0003】
従来、磁器コンデンサ、積層コンデンサ、高周波用コンデンサ、高電圧用コンデンサ等として広く利用されている高誘電率誘電体磁器組成物として、特許文献1〜3のようにBaTiO−BaZrO−CaTiO−SrTiO系の誘電体磁器組成物を主成分としたものが知られている。
【0004】
従来のBaTiO−BaZrO−CaTiO−SrTiO系の誘電体磁器組成物は、強誘電性であるため、高い静電容量、低い誘電損失を維持したまま、高い交流破壊電圧を確保することが困難であった。また、従来のBaTiO−BaZrO−CaTiO−SrTiO系の誘電体磁器組成物には所望の特性を得るために様々な希土類元素が添加されるが、希土類元素はコストが高く使用量の低減が従来から求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開1994−302219号公報
【特許文献2】特開2003−104774号公報
【特許文献3】特開2004−238251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、比誘電率および交流破壊電圧が高く、誘電損失が低く、温度特性および焼結性が良好な誘電体磁器組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、このような誘電体磁器組成物により構成される誘電体層を有する電子部品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成するために、鋭意検討を行った結果、主成分として1種類の誘電体磁器組成物のみを用いるのではなく、主成分として2種類の誘電体磁器組成物を所定の比率で混合して構成し、さらに、副成分として少なくとも酸化亜鉛と酸化ビスマスとを含有させることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、上記課題を解決する本発明に係る誘電体磁器組成物は、
(Ba1−x−y ,Ca,Sr(Ti1−z−a ,Zr,Sn)Oの組成式で表される第1主組成物と、
(Ba1−α,SrαTiOの組成式で表わされる第2主組成物と、
酸化ビスマスからなる第1副成分と、を含有する誘電体磁器組成物であって、
0.01≦x≦0.30
0<y≦0.1
0.04≦z≦0.2
0≦a≦0.2
0.04≦z+a≦0.3
0≦α≦0.1
であり、
前記第1主組成物の含有量と前記第2主組成物の含有量との和を100重量部とし、前記第2主組成物の含有量をA重量部、前記第1副成分の含有量をB重量部とする場合に、
5≦A≦40
0.97≦{(100−A)×m+A×n}×0.01≦1.03
0.3≦B≦3
である。
【0009】
以下、(Ba1−x−y ,Ca,Sr(Ti1−z−a ,Zr,Sn)O(x≠0、z≠0)の組成式で表される誘電体磁器組成物をBCTZ系の誘電体磁器組成物と呼ぶことがある。また、(Ba1−α,SrαTiO(α≠1)の組成式で表わされる誘電体磁器組成物をBT系の誘電体磁器組成物と呼ぶことがある。
【0010】
本発明では、BCTZ系の誘電体磁器組成物である第1主組成物とBT系の誘電体磁器組成物である第2主組成物とを所定の比率で含有し、さらに酸化ビスマスからなる第1副成分を含有することを特徴とする。本発明によれば、比誘電率および交流破壊電圧が高く、誘電損失が低く、温度特性および焼結性が良好な誘電体磁器組成物を提供することができる。
【0011】
本発明に係る誘電体磁器組成物は、さらに5≦A≦30であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る誘電体磁器組成物は、さらに0.3≦B≦1.5であることが好まししい。
【0013】
本発明に係る誘電体磁器組成物は、さらに酸化亜鉛からなる第2副成分を含有し、前記第2副成分の含有量をB重量部とする場合に、0.45≦B≦10であることが好ましい。
【0014】
本発明に係る誘電体磁器組成物は、さらにLa、Ce、Pr、Pm、Nd、Sm、Eu、Gd、Yからなる群のうち少なくとも1種以上の酸化物からなる第3副成分を含有し、前記第3副成分の含有量を酸化物換算でB重量部とする場合に、0<B≦0.3であることが好ましい。
【0015】
本発明に係る誘電体磁器組成物は、さらにAl、Ga、Si、Mg、In、Niからなる群のうち少なくとも1種以上の酸化物からなる第4副成分を含有し、前記第4副成分の含有量を酸化物換算でB重量部とする場合に、0.02≦B≦1.5であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る誘電体磁器組成物は、さらにMn、Crからなる群のうち少なくとも1種以上の酸化物からなる第5副成分を含有し、前記第5副成分の含有量を酸化物換算でB重量部とする場合に、0.01≦B≦0.6であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る電子部品は、前記誘電体磁器組成物で構成される誘電体を有する。
【0018】
本発明に係る電子部品の種類に特に限定はない。例えば単板型セラミックコンデンサ、貫通型コンデンサ、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品、リングバリスタ、ESD保護デバイス等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るセラミックコンデンサの概略図である。
図2】試料4の誘電体の要部拡大断面図の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0021】
セラミックコンデンサ2
図1に示すように、本発明の実施形態に係るセラミックコンデンサ2は、誘電体4と、その対向表面に形成された一対の電極6、8とを有する構成となっている。セラミックコンデンサの形状は、目的や用途に応じて適宜決定すればよいが、誘電体4が円板形状となっている円板型のコンデンサであることが好ましい。また、そのサイズは、目的や用途に応じて適宜決定すればよい。
【0022】
電極6、8
電極6、8は、導電材で構成される。端子電極6、8に用いられる導電材は、特に限定されず、用途等に応じて適宜決定すればよい。前記導電材としては、たとえば、Ag、Cu、Ni等が挙げられる。
【0023】
誘電体4
セラミックコンデンサ2の誘電体4は、本発明の実施形態に係る誘電体磁器組成物により構成される。誘電体4の厚みは、特に限定されず、用途等に応じて適宜決定すれば良い。
【0024】
本発明の実施形態に係る誘電体磁器組成物は、(Ba1−x−y,Ca,Sr(Ti1−z−a,Zr,Sn)Oの組成式で表わされる第1主組成物と、(Ba1−α,SrαTiOの組成式で表わされる第2主組成物と、第1副成分と、第2副成分と、第3副成分と、第4副成分と、第5副成分とを有する誘電体磁器組成物である。なお、本発明では第2〜第5副成分は含有しなくてもよい。
【0025】
前記組成式中のxは、第1主組成物のAサイト原子に占めるCa原子の比率を表し、その範囲は0.01≦x≦0.30である。また、xの範囲は、好ましくは0.03≦x≦0.17、さらに好ましくは0.08≦x≦0.16である。Caが上記の範囲で含有されることにより、交流破壊電圧および容量温度特性が良好になる傾向がある。また、xが小さすぎると交流破壊電圧および容量温度特性が悪化する傾向にあり、xが大きすぎると比誘電率が低下する傾向にある。
【0026】
前記組成式中のyは、第1主組成物のAサイト原子に占めるSrの比率を表し、その範囲は0<y≦0.1である。また、yの範囲は、好ましくは0.006≦y≦0.04である。Srが上記の範囲で含有されることにより、比誘電率が向上する傾向がある。また、yが小さすぎると比誘電率が悪化する傾向にあり、yが大きすぎると比誘電率および高温側の容量温度特性が悪化する傾向にある。
【0027】
前記組成式中のzは、第1主組成物のBサイト原子に占めるZrの比率を表し、その範囲は0.04≦z≦0.2である。また、zの範囲は、好ましくは0.06≦z≦0.15である。Zrが上記の範囲で含有されることにより、比誘電率および低温側の容量温度特性が良好になる傾向がある。zが小さすぎると比誘電率および低温側の容量温度特性が悪化する傾向にあり、zが大きすぎると比誘電率および高温側の容量温度特性が悪化する傾向にある。
【0028】
前記組成式中のaは、第1主組成物のBサイト原子に占めるSnの比率を表し、その範囲は0≦a≦0.2である。また、aの範囲は、好ましくは0≦a≦0.15である。Snが上記の範囲で含有されることにより、比誘電率の向上および低温側の容量温度特性の改善に効果がある。なお、Snは含有しなくともよい。すなわち、a=0でもよい。aが大きすぎると、比誘電率、交流破壊電圧および高温側の容量温度特性が悪化する傾向にある。
【0029】
前記組成式中のz+aは、第1主組成物のBサイト原子に占めるZrとSnの合計比率を表し、その範囲は0.04≦z+a≦0.3である。また、z+aの範囲は、好ましくは0.06≦z+a≦0.2である。ZrおよびSnが上記の範囲で含有されることにより、比誘電率および高温側の温度特性が改善する傾向となる。z+aが小さすぎると比誘電率、誘電損失、交流破壊電圧および低温側の容量温度特性が悪化する傾向にある。z+aが大きすぎると比誘電率および高温側の容量温度特性が悪化する傾向にある。
【0030】
前記組成式中のmは第1主組成物のAサイト原子であるBa、Ca、Srと、第1主組成物のBサイト成分であるTi、Zr、Snとのモル比を表わす。
【0031】
前記組成式中のαは、第2主組成物のAサイト原子に占めるSr原子の比率を表し、その範囲は0≦α≦0.1である。なお、Srは含有しなくともよい。すなわち、α=0でもよい。αが大きすぎると、比誘電率および高温側の容量温度特性が悪化する傾向にある。
【0032】
前記組成式中のnは第2主組成物のAサイト原子であるBa、Srと、第2主組成物のBサイト成分であるTiとのモル比を表わす。
【0033】
第1主組成物と第2主組成物とを合わせて主成分とする。主成分の含有量を100重量部として、前記第2主組成物の含有割合をA重量部とする。本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、5≦A≦40である。また、Aの範囲は、好ましくは5≦A≦30である。Aが小さすぎると、容量温度特性が悪化する傾向にある。Aが大きすぎると、比誘電率が悪化する傾向にある。
【0034】
また、本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、第1主組成物の組成式中のm、第2主組成物の組成式中のn、上記Aが0.97≦{(100−A)×m+A×n}×0.01≦1.03を満たす。好ましくは、0.97≦{(100−A)×m+A×n}×0.01≦1.01を満たす。{(100−A)×m+A×n}×0.01が小さすぎると比誘電率および交流破壊電圧が低下する傾向にある。{(100−A)×m+A×n}×0.01が大きすぎると焼結性が悪化し比誘電率が低下する傾向にある。
【0035】
第1副成分は、酸化ビスマスである。本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、前記第1副成分を前記主成分100重量部に対して0.3〜3重量部含有する。前記第1副成分の含有量を上記の範囲内とすることにより、比誘電率、交流破壊電圧および容量温度特性が向上する。前記第1副成分の含有量が少なすぎると低温側の容量温度特性が悪化する。前記第1副成分の含有量が多すぎると比誘電率、交流破壊電圧および高温側の容量温度特性が悪化する。
【0036】
第2副成分は、酸化亜鉛である。本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、前記第2副成分の含有量に特に制限はなく、前記第2副成分を含有しなくてもかまわない。前記第2副成分を前記主成分100重量部に対して0.45〜10重量部含有することが好ましい。前記第2副成分の含有量を上記の範囲内とすることにより、交流破壊電圧、容量温度特性および焼結性が向上する。
【0037】
第3副成分は、La、Ce、Pr、Pm、Nd、Sm、Eu、Gd、Yからなる群のうち少なくとも1種以上の酸化物である。好ましくはY、Gd、La、Sm、Ndからなる群のうち少なくとも1種以上の酸化物である。本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、前記第3副成分の含有量に特に制限はなく、前記第3副成分を含有しなくてもかまわない。前記第3副成分を前記主成分100重量部に対して0〜0.3重量部(0重量部を含まない)含有することが好ましい。特に好ましくは、0.01〜0.09重量部である。前記第3副成分の含有量を上記の範囲内とすることにより、耐還元性、比誘電率、交流破壊電圧および容量温度特性が向上する。
【0038】
第4副成分は、Al、Ga、Si、Mg、In、Niからなる群のうち少なくとも1種以上の酸化物である。好ましくはAl、Ga、Mg、Siからなる群のうち少なくとも1種以上の酸化物である。本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、前記第4副成分の含有量に特に制限はなく、前記第4副成分を含有しなくてもかまわない。前記第4副成分を前記主成分100重量部に対して0.02〜1.5重量部含有することが好ましい。特に好ましくは、0.05〜1.2重量部である。前記第4副成分の含有量を上記の範囲内とすることにより、比誘電率および交流破壊電圧が向上する。
【0039】
第5副成分は、Mn、Crからなる群のうち少なくとも1種以上の酸化物である。本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、前記第5副成分の含有量に特に制限はなく、前記第5副成分を含有しなくてもかまわない。前記第5副成分を前記主成分100重量部に対して0.01〜0.6重量部含有することが好ましい。特に好ましくは、0.02〜0.2重量部である。前記第5副成分の含有量を上記の範囲内とすることにより、比誘電率、交流破壊電圧、容量温度特性および高温時の信頼性が向上する。
【0040】
セラミックコンデンサ2の製造方法
次に、セラミックコンデンサ2の製造方法について説明する。
まず、焼成後に図1に示す誘電体4を形成することとなる誘電体磁器組成物粉末を製造する。
【0041】
主成分(第1主組成物および第2主組成物)の原料および第1副成分〜第5副成分の原料を準備する。主成分の原料としては、Ba、Ca、Sr、Ti、Zr、Snの各酸化物および/または焼成により酸化物となる原料や、これらの複合酸化物などが挙げられる。たとえば、炭酸バリウム(BaCO)、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化スズ(SnO)などを用いることができるが上記の化合物に限られない。たとえば上記の金属元素の水酸化物など、焼成後に酸化物やチタン化合物となる種々の化合物を用いることも可能である。
【0042】
また、主成分の原料の製造方法に特に制限はない。たとえば、固相法により製造してもよいし、水熱合成法や蓚酸塩法などの液相法により製造してもよい。なお、製造コストの面からは固相法により製造することが好ましい。
【0043】
第1副成分〜第5副成分の原料には特に制限はない。焼成により上記の酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択して用いることができる。
【0044】
本発明の実施形態に係る誘電体磁器組成物の製造方法としては、まず第1主組成物仮焼粉および第2主組成物仮焼粉を別々に製造する。
【0045】
第1主組成物仮焼粉および第2主組成物仮焼粉は、いずれも、各主組成物の原料を配合し、混合する。混合方法に特に制限はない。例えば湿式混合により混合することができる。また、湿式混合に用いる器具にも特に制限はない。たとえばボールミルなどを用いることができる。湿式混合により混合を行う場合には、湿式混合後に脱水乾燥を行い、脱水乾燥の後に仮焼成を行う。仮焼成により各原料を化学反応させることで、前記各主組成物仮焼粉を得ることができる。なお、仮焼温度は1100〜1300℃、仮焼雰囲気は空気中とすることが好ましい。
【0046】
得られた第1主組成物仮焼粉および第2主組成物仮焼粉をたとえばボールミル、気流粉砕機などで粗粉砕した後に、第1主組成物仮焼粉、第2主組成物仮焼粉、および第1副成分〜第5副成分の原料を混合する。
【0047】
なお、第2副成分および第3副成分に関しては、あらかじめ前記主組成物原料と混合・仮焼して、前記主組成物仮焼粉に含まれる化合物という形で添加してもよく、第2副成分および第3副成分を混合・仮焼して反応させた仮焼粉として添加してもよく、第2副成分および/または第3副成分をそれぞれ単独で仮焼させ、仮焼粉とした後に添加してもよい。
【0048】
前記主組成物仮焼粉および前記第1副成分〜第5副成分の原料を混合した後に微粉砕を行う。微粉砕の方法には特に制限はない。例えばポットミルなどを用いて微粉砕を行うことが可能である。微粉砕後の平均粒径にも特に制限はない。平均粒径が0.5〜2μm程度になるように微粉砕を行うことが好ましい。
【0049】
微粉砕後に脱水乾燥を行い、脱水乾燥後に有機結合剤を添加する。有機結合剤に特に制限はなく、本技術分野で通常用いられる有機結合剤を用いることができる。有機結合剤の一例としてポリビニルアルコール(PVA)が挙げられる。
【0050】
前記有機結合剤を添加後に造粒および整粒を行い、顆粒粉末を得る。得られた顆粒粉末を成形し、成形物を得る。
【0051】
得られた成形物を本焼成し、誘電体磁器組成物の焼結体(誘電体4)を得る。焼成雰囲気に特に制限はないが、空気中で焼成することが好ましい。焼成温度、焼成時間に特に制限はない。焼成温度は1150〜1300℃で行うことが好ましい。
【0052】
得られた誘電体磁器組成物の焼結体(誘電体4)の所定の表面に電極を印刷し、必要に応じて焼き付けし、電極6、8を形成することにより、図1に示すセラミックコンデンサ2を得る。
【0053】
このようにして製造された本発明のセラミックコンデンサ2は、たとえばリード端子を介してプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々異なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0055】
また、本発明の誘電体磁器組成物は、従来のBaTiO−BaZrO−CaTiO−SrTiO系の誘電体磁器組成物と比較して希土類元素の使用量を低減することができる。
【0056】
上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として誘電体層が単層である単板型セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、単板型セラミックコンデンサに限定されない。たとえば、上記した誘電体磁器組成物を含む誘電体ペーストおよび電極ペーストを用いた通常の印刷法やシート法により作製される積層型セラミックコンデンサであってもよく、上記した誘電体磁器組成物を用いた貫通型コンデンサであってもよく、その他の電子部品であってもよい。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0058】
主組成物原料として、炭酸バリウム(BaCO)、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)および酸化スズ(SnO)を、それぞれ準備した。さらに、第1副成分原料として酸化ビスマス(Bi)を、第2副成分原料として酸化亜鉛(ZnO)を、第3副成分の原料としてLa、Pr、Pm、Nd、Sm、Eu、Gdからなる群から選択される1種以上の元素の酸化物を、第4副成分の原料としてAl、Ga、Si、Mg、In、Niからなる群から選択される1種以上の元素の酸化物を、第5副成分の原料としてMnおよび/またはCrの酸化物を、それぞれ準備した。
【0059】
第1主組成物
焼成後の組成が表1、表2に示す組成となるように、前記主組成物原料を秤量した。秤量後に各原料を配合した。配合は、ボールミルで湿式混合撹拌を3時間行うことで実施した。湿式混合撹拌後の配合物を脱水乾燥した。脱水乾燥後に1170〜1210℃で仮焼成し、第1主組成物仮焼粉を得た。
【0060】
第2主組成物
焼成後の組成が表1、表2に示す組成となるように、前記主組成物原料を秤量した。秤量後に各原料を配合した。配合は、ボールミルで湿式混合撹拌を3時間行うことで実施した。湿式混合撹拌後の配合物を脱水乾燥した。脱水乾燥後に1170〜1210℃で仮焼成し、第2主組成物仮焼粉を得た。
【0061】
前記第1主組成物仮焼粉と前記第2主組成物仮焼粉とを粗粉砕した。その後、粗粉砕した前記第1主組成物仮焼粉、粗粉砕した前記第2主組成物仮焼粉、および前記第1〜第5副成分原料(必要に応じて粗粉砕を行う)を、焼成後の組成が表1、2に示す組成となるように秤量し、混合した。そして、ポットミルで平均粒径0.5μm〜2μm程度に微粉砕した。微粉砕した原料粉末を脱水乾燥した。脱水乾燥後の原料粉末に有機結合剤としてポリビニルアルコール(PVA)を添加し、造粒および整粒を行い、顆粒粉末とした。
【0062】
前記顆粒粉末を300MPaの圧力で成形し、直径16.5mm、厚さ1.15mmの円板状の成形物を得た。
【0063】
前記円板状の成形物を空気中、1150℃〜1300℃で本焼成し、焼結体を得た。
【0064】
なお、焼成後の組成は蛍光X線分析により確認した。そして、焼成後の組成は焼成前の主成分および副成分の混合時の組成とほぼ一致することを確認した。
【0065】
前記焼結体の両面に銀(Ag)ペーストを焼付けて電極を形成し、磁器コンデンサを得た。このようにして得られた表1、2の試料番号1〜137の各磁器コンデンサの電気的特性を測定した。
【0066】
以下、各電気的特性の測定方法および評価方法について説明する。
【0067】
(焼結性(焼結体密度))
前記焼結体の寸法および重量から、焼結体密度を算出した。焼結体密度が5.5g/cm以上の場合を焼結性が良好であるとした。表1、2では、焼結体密度が5.5g/cm以上の場合を○、5.5g/cm未満の場合を×とした。基準を5.5g/cmとしたのは、焼結体密度が5.5g/cm未満の場合に焼結体素地の強度が著しく低下してしまうためである。なお、焼結体密度が5.5g/cm未満の試料については、以下の測定は不要であるとして実施しなかった。
【0068】
(比誘電率(ε))
比誘電率εは、前記コンデンサ試料に対し、基準温度20℃において、デジタルLCRメータにて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定された静電容量から算出した(単位なし)。比誘電率は高いほうが好ましく、本実施例では、8000以上を良好とした。
【0069】
(誘電損失(tanδ))
誘電損失(tanδ)は、前記コンデンサ試料に対し、基準温度20℃において、デジタルLCRメータにて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定した。誘電損失は低いほうが好ましく、本実施例では1.5%以下を良好とした。
【0070】
(交流破壊電圧(AC−Eb))
交流破壊電圧(AC−Eb)は、前記コンデンサの試料の両端に交流電界を100V/sで徐々に印加し、100mAのもれ電流が流れた時点での電圧を測定し、単位厚み当たりの交流破壊電圧を求めた。交流破壊電圧は高いほうが好ましく、本実施例では、4.0kV/mm以上を良好とした。
【0071】
(温度特性(E特性))
前記コンデンサ試料に対し、−25℃〜85℃において、デジタルLCRメータにて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの条件で静電容量を測定し、基準温度20℃における静電容量に対する−25℃での静電容量の変化率および85℃での静電容量の変化率を算出した。本実施例ではE特性を満たす+20%〜−55%を好ましい範囲とした。
【0072】
(信頼性)
前記コンデンサ試料を、温度170℃雰囲気中で50Hzの交流電圧を誘電体1mmあたり3kV印加される状態にした。この状態で24時間保持した後に、上記の比誘電率、誘電損失、交流破壊電圧、温度特性を測定した。
【0073】
24時間保持後の上記各特性が24時間保持前の上記各特性と同等程度である場合に信頼性が良好であるとした。すなわち、各特性の試験前の値を母数として、各特性の試験後の値と試験前の値との差が20%以下である場合を良好とした。表1、2では、全ての特性が上記の良好範囲内である場合に○、上記の良好範囲外の特性がある場合に△とした。信頼性が△であっても、他の特性が良好であれば、十分に本願発明の目的を達成することができる。
【0074】
(EPMA)
試料4について焼結品を鏡面研磨し、EPMAで観察し、Ba、Ca、Ti、Zr、Zn、Bi等のマッピング分析を行った。EPMAの測定結果をもとに作成した試料4の誘電体の要部拡大断面図の概略図が図2である。BaおよびTiが存在する部分のうち、CaおよびZrが存在する部分を第1主組成物12が存在する部分とした。BaおよびTiが存在する部分のうち、CaおよびZrが存在しない部分を第2主組成物14が存在する部分とした。第1主組成物12、第2主組成物14のいずれとも異なる部分をその他の組成物16が存在する部分とした。その他の組成物16としては、たとえば副成分の偏析粒子等が挙げられる。なお、図2では粒界の記載を省略した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
(評価)
試料1〜8より、第1主組成物の組成式中のx(Caの含有量)が0.01≦x≦0.30の場合(試料2〜7)は、xが0の場合(試料1)に比べ、交流破壊電圧および温度特性が良好になることが確認できた。またxが0.40の場合(試料8)に比べ、比誘電率が良好になることが確認できた。
【0078】
試料4、11〜17より、第1主組成物の組成式中のy(Srの含有量)が0.001≦y≦0.100の場合(試料4、12〜16)には、yが0、すなわち第1主組成物にSrを含有しない場合(試料11)に比べ、比誘電率が良好になることが確認できた。また、組成式中のyが0.155の場合(試料17)に比べ、比誘電率および温度特性が良好になることが確認できた。
【0079】
試料21〜27より、第1主組成物の組成式中のa(Snの含有量)が0でz(Zrの含有量)が0.04≦z≦0.20の場合(試料22〜26)は、zが0.03の場合(試料21)に比べ、比誘電率、誘電損失、交流破壊電圧および温度特性が良好になることが確認できた。また、組成式中のzが0.25の場合(試料27)に比べ、比誘電率および温度特性が良好になることが確認できた。
【0080】
試料28〜31より、第1主組成物の組成式中のzが0でaが0.04≦a≦0.20の場合(試料28〜30)は、aが0.25の場合(試料31)に比べ、比誘電率、交流破壊電圧および温度特性が良好になることが確認できた。
【0081】
試料4、21、22、32〜36より、第1主組成物の組成式中のz+aが0.04≦z+a≦0.30の場合(試料4、22、32〜35)は、z+aが0.03の場合(試料21)に比べ、比誘電率、誘電損失、交流破壊電圧および温度特性が良好になることが確認できた。また、組成式中のz+aが0.40の場合(試料36)に比べ、比誘電率および温度特性が良好になることが確認できた。
【0082】
試料4、41〜43より、第2主組成物の組成式中のαが0.00≦α≦0.100の場合(試料4、41、42)は、αが0.150の場合(試料43)に比べ、比誘電率および温度特性が良好になることが確認できた。
【0083】
試料4、51〜56より、主組成物全体の重量(主成分の重量)に対する第2主組成物の割合A(重量部)が5.00≦A≦40.00の場合(試料4、53〜55)は、第2主組成物を含有しない従来のBCTZ系の場合(試料51)、およびAが4.00の場合(試料52)に比べ、温度特性が良好になることが確認できた。また、Aが50.00の場合(試料56)に比べ、比誘電率が良好になることが確認できた。
【0084】
試料4、61〜66より、第1主組成物の組成式中のm、第2主組成物の組成式中のn、上記Aが0.97≦{(100−A)×m+A×n}×0.01≦1.03を満たす場合(試料4、62〜65)は、{(100−A)×m+A×n}×0.01が0.96の場合(試料61)に比べ、比誘電率および交流破壊電圧が良好になることが確認できた。また、{(100−A)×m+A×n}×0.01が1.04の場合(試料66)には、焼結性が悪化した。
【0085】
試料71〜137は試料4の副成分含有量を変化させた試料である。
【0086】
試料71〜75は第2副成分である酸化亜鉛の含有量を変化させた試料である。いずれの試料も全ての特性が良好であることが確認できた。
【0087】
試料81〜86は第1副成分である酸化ビスマスの含有量を変化させた試料である。主成分100重量部に対して0.30〜3.00重量部の間で変化させた試料82〜85は、0.20重量部とした試料81と比べ、温度特性が良好になることが確認できた。また、4.00重量部とした試料86に比べ、比誘電率、交流破壊電圧および温度特性が良好になることが確認できた。
【0088】
試料91〜107は第3副成分の種類および/または含有量を試料4から変化させた試料である。第3副成分の種類を変化させた試料91〜98、および2種類の第3副成分を含有する試料99は、いずれの試料も全ての特性が良好であることが確認できた。
【0089】
第3副成分を含有しない試料101および第3副成分(Nd)の含有量を試料4から変化させた試料102〜107は、いずれの試料も全ての特性が良好であることが確認できた。
【0090】
第3副成分を0.005〜0.300重量部含有する試料4、91〜99、102〜107は、第3副成分を含有しない試料101と比較して交流破壊電圧が良好であることが確認できた。
【0091】
試料111〜128は第4副成分の種類および/または含有量を試料4から変化させた試料である。いずれの試料も全ての特性が良好であることが確認できた。
【0092】
第4副成分を0.02〜1.50重量部含有する試料4、112〜128は、第4副成分を含有しない試料111と比較して交流破壊電圧が良好であることが確認できた。
【0093】
試料131〜137は第5副成分の種類および/または含有量を試料4から変化させた試料である。いずれの試料も全ての特性が良好であることが確認できた。
【0094】
第5副成分を0.01〜0.60重量部含有する試料4、132〜137は、第5副成分を含有しない試料131と比較して信頼性が良好であることが確認できた。
【0095】
EPMAの結果(図2)より、本願発明に係る誘電体磁器組成物は、主組成物が、BCTZ系の誘電体磁器組成物からなる第1主組成物12と、BT系の誘電体磁器組成物からなる第2主組成物14と、の二種類の主組成物からなることが確認できた。同時に、本願発明に係る誘電体磁器組成物の主組成物は、単一種類の主組成物とはなっていないことが確認できた。
【0096】
副成分に関しては、第1副成分の酸化ビスマスは、第1主組成物12に大部分が固溶していることが確認できた。第2副成分の酸化亜鉛が粒界(図示せず)およびその他の組成物16に含まれていることが確認できた。
【符号の説明】
【0097】
2… セラミックコンデンサ
4… 誘電体
6、8… 電極
12… 第1主組成物
14… 第2主組成物
16… その他の組成物
図1
図2