(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6414747
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】電子デバイス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01C 7/04 20060101AFI20181022BHJP
H01C 17/242 20060101ALI20181022BHJP
【FI】
H01C7/04
H01C17/242
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-8384(P2015-8384)
(22)【出願日】2015年1月20日
(65)【公開番号】特開2016-134506(P2016-134506A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2017年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】稲場 均
(72)【発明者】
【氏名】山口 邦生
(72)【発明者】
【氏名】長友 憲昭
【審査官】
馬場 慎
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2003/62984(US,A1)
【文献】
特表2016−531002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/04
H01C 17/242
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性フィルムと、前記絶縁性フィルム上に形成された抵抗膜と、前記抵抗膜上に複数の櫛部を有して互いに対向してパターン形成された一対の櫛形電極とを備え、
前記抵抗膜又は複数の前記櫛部のうち一部が切断されていると共に、前記切断された部分に露出した前記絶縁性フィルムの少なくとも一部が盛り上がっていることを特徴とする電子デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の電子デバイスにおいて、
前記切断された部分に露出した前記絶縁性フィルムが、前記切断された部分の全長にわたって前記櫛部表面の平坦部分と同じ又はそれ以上に盛り上がっていることを特徴とする電子デバイス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電子デバイスにおいて、
前記抵抗膜が、サーミスタ薄膜であることを特徴とする電子デバイス。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の電子デバイスの製造方法であって、
前記抵抗膜又は前記櫛部の一部にレーザ光を照射して切断を行う工程を有し、
前記切断時に、前記切断された部分に露出した前記絶縁性フィルムの少なくとも一部を前記レーザ光の照射により溶融させて盛り上げることを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜サーミスタ素子等の電子デバイスにレーザ光を照射して所望の抵抗値に合わせるため電極又は抵抗膜にトリミング等を行った電子デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、温度検出用や温度補償用として用いられている薄膜あるいは厚膜タイプのサーミスタとしては、絶縁性基板(シリコン基板やアルミナ基板等)上に感温抵抗膜であるサーミスタ部を形成し、その両端に端子電極部を形成した構造のものが知られている。このようなサーミスタを含む感温抵抗膜等の抵抗値精度を向上させる手段として、従来、抵抗薄膜である感温抵抗膜(サーミスタ膜)やその表面に形成された櫛形電極(櫛歯電極とも言う)をレーザトリミングして調整する方法が知られている。特に、近年はサブミクロンの膜から形成される薄膜素子や薄膜サーミスタ素子、温度係数の大きな素子をレーザトリミングして抵抗値調整するニーズがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、NTCサーミスタ薄膜と、NTCサーミスタ薄膜上に設けられた電極対とからなる薄膜NTCサーミスタ素子の製造方法について、電極対に、レーザ光を照射してその一部を切断して薄膜サーミスタ素子の抵抗値調整を行うためのトリミング用電極パターンを設けたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−348911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、レーザ光を照射して電極や抵抗膜を切断した場合、レーザ光の照射によって電極材料や抵抗膜材料の金属が飛散し、切断された部分に露出した絶縁性基板上に付着してショートしたり、切断時にショートしなくても、この付着した金属飛散物や切断した電極端部の金属のマイグレーションによって切断後にショートしてしまうおそれがあった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、抵抗値調整等のために切断された電極等のショートを抑制することができる電子デバイス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る電子デバイスは、絶縁性フィルムと、前記絶縁性フィルム上に形成された抵抗膜と、前記抵抗膜上に複数の櫛部を有して互いに対向してパターン形成された一対の櫛形電極とを備え、前記抵抗膜又は複数の前記櫛部のうち一部が切断されていると共に、前記切断された部分に露出した前記絶縁性フィルムの少なくとも一部が盛り上がっていることを特徴とする。
【0008】
この電子デバイスでは、抵抗膜又は複数の櫛部のうち一部が切断されていると共に、切断された部分に露出した絶縁性フィルムの少なくとも一部が盛り上がっているので、抵抗膜又は櫛部の切断端部間に絶縁性フィルムの盛り上がり部が介在していることで、切断端部間の沿面距離が平坦面の場合に比べて長くなってマイグレーションを抑制すると共に、盛り上がり部が障壁になって飛散物の付着を抑制することで、ショートを防止することができる。
【0009】
第2の発明に係る電子デバイスは、第1の発明において、前記切断された部分に露出した前記絶縁性フィルムが、前記切断された部分の全長にわたって前記櫛部表面の平坦部分と同じ又はそれ以上に盛り上がっていることを特徴とする。
すなわち、切断された部分に露出した絶縁性フィルムが、切断された部分の全長にわたって櫛部表面の平坦部分と同じ又はそれ以上に盛り上がっているので、高い盛り上がり部によって切断された部分の全長にわたって飛散物の付着及びショートを抑制することができる。
【0010】
第3の発明に係る電子デバイスは、第1又は第2の発明において、前記抵抗膜が、サーミスタ薄膜であることを特徴とする。
すなわち、この電子デバイスでは、抵抗膜が、サーミスタ薄膜であり、いわゆる薄膜サーミスタ素子であるので、抵抗値調整等によって櫛部やサーミスタ薄膜が切断されてもショート等を防止することができる。
【0011】
第4の発明に係る電子デバイスの製造方法は、第1から第3の発明のいずれかの製造方法であって、前記抵抗膜又は前記櫛部の一部にレーザ光を照射して切断を行う工程を有し、前記切断時に、前記切断された部分に露出した前記絶縁性フィルムの少なくとも一部を前記レーザ光の照射により溶融させて盛り上げることを特徴とする。
すなわち、この電子デバイスの製造方法では、レーザ光による切断時に、切断された部分に露出した絶縁性フィルムの少なくとも一部をレーザ光の照射により溶融させて盛り上げるので、抵抗膜又は櫛部の切断時に同時にレーザ光照射によって露出した絶縁性フィルムを盛り上げることができる。また、露出した絶縁性フィルムにレーザ光が照射されることで、飛散物の付着も抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る電子デバイスによれば、抵抗膜又は複数の櫛部のうち一部が切断されていると共に、切断された部分に露出した絶縁性フィルムの少なくとも一部が盛り上がっているので、マイグレーションを抑制すると共に飛散物の付着を抑制することで、ショートを防止することができる。また、本発明に係る電子デバイスの製造方法によれば、レーザ光による切断時に、切断された部分に露出した絶縁性フィルムの少なくとも一部をレーザ光の照射により溶融させて盛り上げるので、切断時に同時に絶縁性フィルムを盛り上げることができ、飛散物の付着も抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る電子デバイス及びその製造方法の一実施形態において、切断部分を示す要部の拡大断面図である。
【
図2】本実施形態において、レーザトリミング時の電子デバイスを示す斜視図である。
【
図3】本発明に係る電子デバイス及びその製造方法の比較例において、切断部分を示す拡大写真である。
【
図4】本発明に係る電子デバイス及びその製造方法の比較例において、切断部分の断面形状プロファイルを示す図である。
【
図5】本発明に係る電子デバイス及びその製造方法の比較例において、切断部分の断面形状プロファイルを3次元表示した図である。
【
図6】本発明に係る電子デバイス及びその製造方法の実施例において、切断部分を示す拡大写真である。
【
図7】本発明に係る電子デバイス及びその製造方法の実施例において、切断部分の断面形状プロファイルを示す図である。
【
図8】本発明に係る電子デバイス及びその製造方法の実施例において、切断部分の断面形状プロファイルを3次元表示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る電子デバイス及びその製造方法における一実施形態を、
図1及び
図2を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面の一部では、各部を認識可能又は認識容易な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。
【0015】
本実施形態の電子デバイス1は、
図1及び
図2に示すように、絶縁性フィルム2と、絶縁性フィルム2上に形成された抵抗膜3と、抵抗膜3上に複数の櫛部4aを有して互いに対向してパターン形成された一対の櫛形電極4とを備え、抵抗膜3又は複数の櫛部4aのうち一部が切断されていると共に、切断された部分Cに露出した絶縁性フィルム2の少なくとも一部が盛り上がっている。
【0016】
この絶縁性フィルム2の盛り上がり部2aは、切断された部分Cにおいて一部又は複数部分に部分的に形成されているが、切断された部分Cの全長にわたって形成されていても良い。
なお、本実施形態では、櫛部4aの一部を切断している。
上記盛り上がり部2aは、
図1に示すように、上記切断された部分Cに山型で形成されており、その高さは、櫛部4a表面の平坦部分と同じ又はそれ以上に盛り上がっている。特に、切断された部分Cに露出した絶縁性フィルム2は、切断された部分Cの全長にわたって櫛部4a表面の平坦部分と同じ又はそれ以上に盛り上がっていることが好ましい。
【0017】
上記電子デバイス1は、フィルム型サーミスタセンサであって、抵抗膜3をサーミスタ薄膜とした薄膜サーミスタ素子である。
上記絶縁性フィルム2は、例えば厚さ7.5〜125μmのポリイミド樹脂シートで矩形状に形成されている。なお、絶縁性フィルム2としては、他にPET:ポリエチレンテレフタレート,PEN:ポリエチレンナフタレート等でも構わない。
【0018】
上記抵抗膜3は、例えばTiAlNのサーミスタ材料で形成されているサーミスタ薄膜である。特に、このサーミスタ薄膜は、一般式:Ti
xAl
yN
z(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相である。
【0019】
上記絶縁性フィルム2の両端部上には、
図2に示すように、一対の櫛形電極4に接続された一対の端子電極6がパターン形成されている。
上記端子電極6及び櫛形電極4は、例えば抵抗膜3上に形成された膜厚5〜100nmのCr又はNiCrの接合層と、該接合層上にAu等の貴金属で膜厚50〜1000nmで形成された電極層とを有している。
【0020】
抵抗値調整のために上記切断を行う電子デバイス1の抵抗値は、一対の端子電極6に一対の測定用プローブ7aを接触させ、一対の測定用プローブ7aに接続されている抵抗計測器7によって測定する。
【0021】
本実施形態の電子デバイス1の製造方法では、抵抗膜3又は櫛部4aの一部にレーザ光Lを照射して切断を行う工程を有している。この工程では、切断時に、切断された部分Cに露出した絶縁性フィルム2の少なくとも一部をレーザ光Lの照射により溶融させて盛り上げている。
上記切断を行う工程は、例えば電子デバイス1の抵抗値を調整する際に行われる工程であり、切断した際に電子デバイス1の抵抗値が目標抵抗値になるように抵抗膜3や櫛部4aの切断が行われる。
【0022】
上記切断を行う工程の際、電子デバイス1は、図示しない真空吸着用の複数の吸着孔を有した吸着プレート上に載置されると共に、吸着孔に吸引されて吸着プレート表面に密着固定される。なお、上記吸着プレートは、温度調整機構(図示略)によって一定の温度に調整されている。
【0023】
上記レーザ光Lは、例えばSHGレーザを光源とした波長532nmのレーザ光Lが採用される。なお、レーザ光Lの照射としては、波長532nm以下で、発熱の少ないアブレーションモードによる照射が好ましい。また、このレーザ光Lは、抵抗膜3や櫛部4aを切断するが、その下の絶縁性フィルム2を除去せずに溶融させ、切断された部分Cに膨出させたまま硬化させ、盛り上がり部2aを形成する程度の条件で照射されることが好ましい。
【0024】
このように本実施形態の電子デバイス1では、抵抗膜3又は複数の櫛部4aのうち一部が切断されていると共に、切断された部分に露出した絶縁性フィルム2の少なくとも一部が盛り上がっているので、抵抗膜3又は櫛部4aの切断端部間に絶縁性フィルム2の盛り上がり部2aが介在していることで、切断端部間の沿面距離が平坦面の場合に比べて長くなってマイグレーションを抑制すると共に、盛り上がり部2aが障壁になって飛散物の付着を抑制することで、ショートを防止することができる。
特に、切断された部分Cに露出した絶縁性フィルム2が、切断された部分Cの全長にわたって櫛部4a表面の平坦部分と同じ又はそれ以上に盛り上がっていることで、高い盛り上がり部2aによって切断された部分Cの全長にわたって飛散物の付着及びショートを抑制することができる。
【0025】
また、この電子デバイス1の製造方法では、レーザ光Lによる切断時に、切断された部分に露出した絶縁性フィルム2の少なくとも一部をレーザ光Lの照射により溶融させて盛り上げるので、抵抗膜3又は櫛部4aの切断時に同時にレーザ光照射によって露出した絶縁性フィルム2を盛り上げることができる。また、露出した絶縁性フィルム2にレーザ光Lが照射されることで、飛散物の付着も抑制することができる。
したがって、電子デバイス1を、抵抗膜3がサーミスタ薄膜である薄膜サーミスタ素子とすることで、抵抗値調整のために櫛部4aやサーミスタ薄膜が切断されてもショート等を防止することができ、高精度に抵抗値調整された薄膜サーミスタ素子を得ることができる。
【実施例】
【0026】
次に、本発明に係る電子デバイス及びその製造方法について、上記実施形態に基づいて実際にレーザトリミングを行った結果を、
図3から
図8を参照して説明する。
【0027】
本発明の実施例では、電子デバイス1としてフレキシブルサーミスタ(フィルム型の薄膜サーミスタ素子)の抵抗値調整を行った。
この電子デバイス1及びレーザ光Lは、以下の条件のものとした。
・絶縁性フィルム2:厚み50μmのポリイミドシート
・櫛形電極(櫛部4a)の厚み:200nm
・抵抗膜3(サーミスタ膜)の厚み:100nm
・レーザ光L:第2高調波レーザ(波長:532nm)
【0028】
上記条件において、絶縁性フィルム2に盛り上がり部2aを形成しない条件のレーザ光Lの照射で櫛部4a及び抵抗膜3を切断する比較例と、絶縁性フィルム2に盛り上がり部2aを形成する条件のレーザ光Lの照射で櫛部4a及び抵抗膜3を切断する本発明の実施例とを行った。
すなわち、上記比較例では、レーザ光Lを、出力:0.006W、Bitesize:3μm、Rate:7000Hzのパルスレーザとした。このレーザ光照射した比較例の拡大写真及び切断された部分Cの断面プロファイルを、
図3から
図5に示す。
また、上実施例では、レーザ光Lを、出力:0.006W、Bitesize:1μm、Rate:3000Hzのパルスレーザとした。このレーザ光照射した実施例の拡大写真及び切断された部分Cの断面形状プロファイルを、
図6から
図8に示す。
【0029】
このレーザ光照射の結果、櫛部4aをトリミングした後に抵抗値を測定すると、比較例では、櫛部4aを切断したにもかかわらず抵抗値が上がらなかった。これは、切断された部分Cに飛散物が付着してショート状態となっていると考えられる。なお、切断された部分Cでは、露出した絶縁性フィルム2がほぼ平坦となっている。
これに対して本発明の実施例では、櫛部4aをトリミングした後に抵抗値を測定すると、抵抗値が上がっており、飛散物の付着によるショートが生じていなかった。また、
図6から
図8に示すように、切断された部分Cには、絶縁性フィルム2の複数の盛り上がり部2aが形成されていることが分かる。さらに、切断された部分Cに露出した絶縁性フィルム2が、切断された部分Cの全長にわたって櫛部4a表面の平坦部分と同じ又はそれ以上に盛り上がっている。なお、
図7では、切断された部分Cの中で最も低い盛り上がり部2aの部分で測定を行っている。
【0030】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1……電子デバイス、2…絶縁性フィルム、2a…盛り上がり部、3…抵抗膜、4…櫛形電極、4a…櫛部、C…切断された部分、L…レーザ光