(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6414892
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】位相シフト型の直流電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20181022BHJP
【FI】
H02M3/28 B
H02M3/28 C
H02M3/28 H
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-90080(P2015-90080)
(22)【出願日】2015年4月27日
(65)【公開番号】特開2016-208752(P2016-208752A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立▲崎▼ 真輔
【審査官】
佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2015/029374(WO,A1)
【文献】
特開2015−050871(JP,A)
【文献】
特開平09−117154(JP,A)
【文献】
特開2003−180036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのスイッチング素子からなる基準レグおよび別の2つのスイッチング素子からなる位相シフトレグを含むHブリッジ回路と、前記Hブリッジ回路の出力に設けられたトランスの一次巻線と、前記トランスの二次巻線に誘起された電圧に基づいて直流の出力電圧を生成する二次側回路と、前記Hブリッジ回路を構成する前記スイッチング素子をスイッチング制御する制御部とを備えた位相シフト型の直流電力変換装置であって、
前記制御部は、
起動時に、前記位相シフトレグを構成する前記スイッチング素子を前記基準レグを構成する前記スイッチング素子に対して遅れ位相でスイッチング制御する遅れ位相モード、または前記位相シフトレグを構成する前記スイッチング素子を前記基準レグを構成する前記スイッチング素子に対して進み位相でスイッチング制御する進み位相モードをランダムに選択するモード選択部と、
前記モード選択部によって選択されたモードに基づいて、前記基準レグおよび位相シフトレグを構成する前記スイッチング素子のそれぞれをスイッチング制御するための駆動電圧を生成する駆動電圧生成部と、
を含むことを特徴とする直流電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記モード選択部によって前記遅れ位相モードが選択された場合は、前記二次側回路の出力情報に基づいて遅れ位相シフト量を決定し、前記モード選択部によって前記進み位相モードが選択された場合は、前記二次側回路の出力情報に基づいて進み位相シフト量を決定するシフト量決定部をさらに含み、
前記駆動電圧生成部は、前記モード選択部によって選択されたモードと、前記シフト量決定部によって決定された前記遅れ位相シフト量または前記進み位相シフト量とに基づいて前記駆動電圧を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の直流電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Hブリッジ回路を構成する位相シフトレグが該Hブリッジ回路を構成する基準レグに対して遅れ位相または進み位相で制御される、位相シフト型の直流電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に、従来の代表的な位相シフト型の直流電力変換装置10を示す。直流電力変換装置10は、直流電源20から供給される直流電力を負荷21が必要とする直流電力に変換するものである。同図に示すように、直流電力変換装置10は、一次側回路11、二次側回路12、電圧検出部14および制御部13を備えている。
【0003】
一次側回路11は、スイッチング素子Q1,Q2からなる基準レグおよびスイッチング素子Q3,Q4からなる位相シフトレグを含むHブリッジ回路と、Hブリッジ回路の出力に設けられたトランスT1の一次巻線L1と、Hブリッジ回路に入力される電圧を安定化させるためのコンデンサC1とを含んでいる。二次側回路12は、トランスT1の二次巻線L2a,L2bと、これらに誘起される電圧を整流および平滑するダイオードD5a,D5b、インダクタL3およびコンデンサC2とを含んでいる。電圧検出部14は、二次側回路12の出力電圧を検出し、その多寡に関する信号を制御部13に出力する。また、制御部13は、電圧検出部14から出力された信号に基づき、二次側回路12の出力電圧が負荷21に供給すべき電圧に一致するようにスイッチング素子Q1〜Q4をスイッチング制御する。
【0004】
制御部13は、基準レグを構成するスイッチング素子Q1,Q2を逆位相でスイッチング制御する。同様に、制御部13は、位相シフトレグを構成するスイッチング素子Q3,Q4を逆位相でスイッチング制御する。また、制御部13は、位相シフトレグを構成するスイッチング素子Q3,Q4を基準レグを構成するスイッチング素子Q1,Q2に対して遅れ位相(
図5(A),(B)参照)、または進み位相(
図6(A),(B)参照)でスイッチング制御する。
【0005】
スイッチング素子Q3,Q4を遅れ位相でスイッチング制御する場合、制御部13は、遅れ位相シフト量P
lagを調整することにより、1スイッチング周期Tにおける、スイッチング素子Q1,Q4の双方がオンしている時間の比率、およびスイッチング素子Q2,Q3の双方がオンしている時間の比率を調整する。一方、スイッチング素子Q3,Q4を進み位相でスイッチング制御する場合、制御部13は、進み位相シフト量P
leadを調整することにより、1スイッチング周期Tにおける、スイッチング素子Q1,Q4の双方がオンしている時間の比率、およびスイッチング素子Q2,Q3の双方がオンしている時間の比率を調整する。これにより、トランスT1の一次巻線L1を流れる電流の量が調整され(
図5(G),
図6(G)参照)、二次側回路12の出力電圧が調整される。
【0006】
なお、従来の位相シフト型の直流電力変換装置としては、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4393296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の位相シフト型の直流電力変換装置10では、
図5(C),(F)、および
図6(C),(F)の比較から明らかなように、基準レグを構成するスイッチング素子Q1と位相シフトレグを構成するスイッチング素子Q4とで電流波形が異なる。同様に、直流電力変換装置10では、
図5(D),(E)、および
図6(D),(E)の比較から明らかなように、基準レグを構成するスイッチング素子Q2と位相シフトレグを構成するスイッチング素子Q3とでも電流波形が異なる。このため、直流電力変換装置10では、スイッチング素子Q1,Q2とスイッチング素子Q3,Q4との間で損失に偏りが生じ、その結果、スイッチング素子Q1,Q2およびスイッチング素子Q3,Q4のうちの一方に蓄積されていく熱的ストレスが他方よりも大きくなり、一方の劣化が他方よりも早く進行してしまっていた。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、基準レグおよび位相シフトレグを構成するスイッチング素子に蓄積される熱的ストレスを均等化させることができる直流電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る直流電力変換装置は、2つのスイッチング素子からなる基準レグおよび別の2つのスイッチング素子からなる位相シフトレグを含むHブリッジ回路と、Hブリッジ回路の出力に設けられたトランスの一次巻線と、トランスの二次巻線に誘起された電圧に基づいて直流の出力電圧を生成する二次側回路と、Hブリッジ回路を構成するスイッチング素子をスイッチング制御する制御部とを備え、制御部は、
起動時に、位相シフトレグを構成するスイッチング素子を基準レグを構成するスイッチング素子に対して遅れ位相でスイッチング制御する遅れ位相モード、または位相シフトレグを構成するスイッチング素子を基準レグを構成するスイッチング素子に対して進み位相でスイッチング制御する進み位相モードを
ランダムに選択するモード選択部と、モード選択部によって選択されたモードに基づいて、基準レグおよび位相シフトレグを構成するスイッチング素子のそれぞれをスイッチング制御するための駆動電圧を生成する駆動電圧生成部と、を含むことを特徴とする。
【0011】
この構成では、
起動時にモード選択部が遅れ位相モードまたは進み位相モードを
ランダムに選択し、選択されたモードにしたがって駆動電圧生成部が駆動電圧を生成する。このため、この構成によれば
、損失が大きくなるスイッチング素子を交替させ、スイッチング素子に蓄積される熱的ストレスを均等化することができる。
【0013】
上記制御部は、モード選択部によって遅れ位相モードが選択された場合は、二次側回路の出力情報に基づいて遅れ位相シフト量を決定し、モード選択部によって進み位相モードが選択された場合は、二次側回路の出力情報に基づいて進み位相シフト量を決定するシフト量決定部をさらに含んでいてもよい。この場合は、駆動電圧生成部が、モード選択部によって選択されたモードと、シフト量決定部によって決定された遅れ位相シフト量または進み位相シフト量とに基づいて駆動電圧を生成することにより、スイッチング素子に蓄積される熱的ストレスを均等化させつつ、二次側回路の出力電圧を負荷に供給すべき電圧に一致させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基準レグおよび位相シフトレグを構成するスイッチング素子に蓄積される熱的ストレスを均等化させることができる直流電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例に係る直流電力変換装置の回路図である。
【
図2】スイッチング素子を駆動するための駆動電圧の波形図であって、(A)は遅れ位相モードが選択された場合の波形図、(B)は進み位相モードが選択された場合の波形図である。
【
図5】基準レグを構成するスイッチング素子に対して位相シフトレグを構成するスイッチング素子を遅れ位相でスイッチング制御した場合の動作波形図である。
【
図6】基準レグを構成するスイッチング素子に対して位相シフトレグを構成するスイッチング素子を進み位相でスイッチング制御した場合の動作波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明に係る位相シフト型の直流電力変換装置の実施例について説明する。
【0017】
図1に、本発明の実施例に係る位相シフト型の直流電力変換装置1を示す。直流電力変換装置1は、直流電源20から供給される直流電力を負荷21が必要とする直流電力に変換するものである。同図に示すように、直流電力変換装置1は、一次側回路2、二次側回路3、電圧検出部5および制御部4を備えている。
【0018】
一次側回路2は、スイッチング素子Q1,Q2からなる基準レグ9aおよびスイッチング素子Q3,Q4からなる位相シフトレグ9bを含むHブリッジ回路9と、Hブリッジ回路9の出力に設けられたトランスT1の一次巻線L1と、Hブリッジ回路9に入力される電圧を安定化させるためのコンデンサC1とを含んでいる。
【0019】
基準レグ9aを構成するスイッチング素子Q1,Q2、および位相シフトレグ9bを構成するスイッチング素子Q3,Q4は、それぞれ直列に接続されている。本実施例では、スイッチング素子Q1〜Q4が、比較的大きな電力を扱うことができるパワーMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)からなる。スイッチング素子Q1〜Q4は、逆方向に接続されたダイオードD1〜D4を内包している。
【0020】
コンデンサC1は、基準レグ9aおよび位相シフトレグ9bに並列に接続されている。また、直流電源20はコンデンサC1に並列に接続される。
【0021】
トランスT1の一次巻線L1は、一端が基準レグ9aの出力、すなわちスイッチング素子Q1,Q2の中点に接続されるとともに、他端が位相シフトレグ9bの出力、すなわちスイッチング素子Q3,Q4の中点に接続されている。
【0022】
二次側回路3は、トランスT1の二次巻線L2a,L2bと、これらに誘起される電圧を整流および平滑するダイオードD5a,D5b、インダクタL3およびコンデンサC2とを含んでいる。二次側回路3は、コンデンサC2の両端から負荷21に直流電力を供給する。
【0023】
電圧検出部5は、二次側回路3の出力電圧を検出し、その多寡に関する信号を制御部4に出力する。
【0024】
制御部4は、主にMPU(Micro-processing Unit)からなる。制御部4は、上位の制御回路から出力された起動指令を受け付けると、電圧検出部5から出力された信号に基づき、二次側回路3の出力電圧が負荷21に供給すべき電圧に一致するようにスイッチング素子Q1〜Q4をスイッチング制御する。このスイッチング制御には、位相シフトレグ9bを構成するスイッチング素子Q3,Q4を基準レグ9aを構成するスイッチング素子Q1,Q2に対して遅れ位相でスイッチング制御する「遅れ位相モード」と、位相シフトレグ9bを構成するスイッチング素子Q3,Q4を基準レグ9aを構成するスイッチング素子Q1,Q2に対して進み位相でスイッチング制御する「進み位相モード」の2つのモードがある。
【0025】
本実施例では、上記制御部4の機能が、モード選択部6、シフト量決定部7および駆動電圧生成部8によって実現されている。
【0026】
モード選択部6は、前回の起動時に選択したモードが遅れ位相モードなのか進み位相モードなのかを記憶する記憶部(不図示)を有している。モード選択部6は、起動指令を受け付けると、記憶部を参照し、前回の起動時に選択したモードとは異なるモードを選択する。例えば、前回の起動時に選択したモードが進み位相モードである場合、モード選択部6は、遅れ位相モードを選択するとともに、記憶部に記憶された情報を更新する。
【0027】
モード選択部6によって遅れ位相モードが選択された場合、シフト量決定部7は、電圧検出部5から出力された信号に基づいて遅れ位相シフト量P
lagを決定する(
図2(A)参照)。出力電圧が負荷21に供給すべき電圧よりも低い場合、シフト量決定部7は、遅れ位相シフト量P
lagを大きくする。これにより、スイッチング素子Q1,Q4の双方がオンしている時間、およびスイッチング素子Q2,Q3の双方がオンしている時間が長くなり、出力電圧が上昇する。一方、出力電圧が負荷21に供給すべき電圧よりも高い場合、シフト量決定部7は、遅れ位相シフト量P
lagを小さくする。これにより、スイッチング素子Q1,Q4の双方がオンしている時間、およびスイッチング素子Q2,Q3の双方がオンしている時間が短くなり、出力電圧が低下する。
【0028】
また、モード選択部6によって進み位相モードが選択された場合、シフト量決定部7は、電圧検出部5から出力された信号に基づいて進み位相シフト量P
leadを決定する(
図2(B)参照)。出力電圧が負荷21に供給すべき電圧よりも低い場合、シフト量決定部7は、進み位相シフト量P
leadを大きくする。これにより、スイッチング素子Q1,Q4の双方がオンしている時間、およびスイッチング素子Q2,Q3の双方がオンしている時間が長くなり、出力電圧が上昇する。一方、出力電圧が負荷21に供給すべき電圧よりも高い場合、シフト量決定部7は、進み位相シフト量P
leadを小さくする。これにより、スイッチング素子Q1,Q4の双方がオンしている時間、およびスイッチング素子Q2,Q3の双方がオンしている時間が短くなり、出力電圧が低下する。
【0029】
駆動電圧生成部8は、モード選択部6によって選択されたモードと、シフト量決定部7によって決定された遅れ位相シフト量P
lagまたは進み位相シフト量P
leadとに基づいて、Hブリッジ回路9を構成するスイッチング素子Q1〜Q4のそれぞれをスイッチング制御するための駆動電圧を生成する。
【0030】
このように、本実施例に係る直流電力変換装置1では、起動毎に遅れ位相モードと進み位相モードとが交互に選択されるので、基準レグ9aを構成するスイッチング素子Q1,Q2に熱的ストレスが集中したり、反対に、位相シフトレグ9bを構成するスイッチング素子Q3,Q4に熱的ストレスが集中したりすることがない。したがって、本実施例に係る直流電力変換装置1によれば、スイッチング素子Q1〜Q4に蓄積されていく熱的ストレスを均等化させることができる。
【0031】
以上、本発明に係る直流電力変換装置の実施例について説明してきたが、本発明の構成は実施例の構成に限定されない。
【0032】
例えば、モード選択部は、起動指令を受け付けたときに、前回の起動時に選択したモードを参照することなく、遅れ位相モードまたは進み位相モードをランダムに選択してもよい。このようにしても、実施例と同様、スイッチング素子Q1〜Q4に蓄積されていく熱的ストレスを均等化させることができる。
【0033】
また、本発明では、トランスの二次巻線に誘起された電圧に基づいて直流の出力電圧を生成する限りにおいて、二次側回路の構成は特に限定されない。二次側回路の変形例としては、例えば、二次巻線L4a,L4b、ダイオードD6a,D6b、インダクタL3およびコンデンサC2からなる二次側回路3A、二次巻線L5、ダイオードD7a,D7b,D7c,D7d、インダクタL3およびコンデンサC2からなる二次側回路3B、二次巻線L6a,L6b、スイッチング素子Q5a,Q5b、インダクタL3およびコンデンサC2からなる二次側回路3C等がある(
図3参照)。二次側回路3Cのスイッチング素子Q5a,Q5bは、ブリッジ回路9を構成するスイッチング素子Q1〜Q4と同期的にスイッチング制御される。
【0034】
また、実施例では、シフト量決定部は二次側回路の出力電圧の多寡に基づいて位相シフト量を決定しているが、出力電流をフィードバックして定電流制御する直流電力変換装置においては、シフト量決定部は二次側回路の出力電流の多寡に基づいて位相シフト量を決定してもよい。すなわち、本発明では、シフト量決定部によって参照される二次側回路の出力情報は特に限定されない。
【符号の説明】
【0035】
1 直流電力変換装置
2 一次側回路
3 二次側回路
4 制御部
5 電圧検出部
6 モード選択部
7 シフト量決定部
8 駆動電圧生成部
9 ブリッジ回路
9a 基準レグ
9b 位相シフトレグ
20 直流電源
21 負荷
Q1〜Q4 スイッチング素子