(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記主制御部は、前記被加工物を溶接加工する際、前記被加工物を直線状に溶接する場合よりも前記被加工物を曲線状に溶接する場合のほうが前記電子ビームの出力が小さくなるように制御する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電子ビーム加工装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、実施の形態にかかる電子ビーム加工装置の概要を説明するためのブロック図である。
図1に示すように、本実施の形態にかかる電子ビーム加工装置1は、ステージ11、ステージ駆動部12、電子銃13、電子ビーム制御部14、及び主制御部15を備える。本実施の形態にかかる電子ビーム加工装置1は、電子銃13で生成した電子ビーム17を被加工物18に照射し、電子の衝突エネルギーを利用して、被加工物18に対して溶接、焼き入れ、表面改質、溶断等の加工を行う装置である。
【0013】
ステージ11には被加工物18が載置される。ステージ駆動部12は、ステージ11を各々の軸方向(例えば、x軸、y軸、z軸等)に変位させる。電子銃13は電子ビームを生成し、生成した電子ビーム17を被加工物18に照射する。電子ビーム制御部14は、電子銃13から照射される電子ビーム17を制御する。主制御部15は、ステージ駆動部12および電子ビーム制御部14を制御する。ここで主制御部15は、ステージ駆動部12および電子ビーム制御部14を同期的に制御可能に構成されている。
【0014】
つまり、本実施の形態にかかる電子ビーム加工装置1では、電子銃13から照射される電子ビーム17を制御する電子ビーム制御部14と、ステージ11を各々の軸方向に変位させるステージ駆動部12と、を一元的に制御するための主制御部15を設けている。よって、電子銃13とステージ11とをそれぞれ同期的に制御することができるため、例えば、ステージを移動させながら電子ビームの照射条件を変化させる加工など複雑な加工を容易に実施することが可能になる。
【0015】
以下、本実施の形態にかかる電子ビーム加工装置について詳細に説明する。
図2は、本実施の形態にかかる電子ビーム加工装置の詳細を説明するためのブロック図である。
図2に示すように、電子銃13は、フィラメント51、グリッド52、及びアノード53を備える。電子銃13を制御するパラメータとしては主として、フィラメント電流、バイアス電圧、及び加速電圧がある。フィラメント電流はフィラメント51に流れる電流である。バイアス電圧は、フィラメント51とグリッド52との間に印加される電圧である。加速電圧は、アノード53に印加される電圧である。フィラメント電流、バイアス電圧、及び加速電圧は、高圧電源31から供給される。
【0016】
また、本実施の形態にかかる電子ビーム加工装置1は、フォーカスコイル35、X偏向コイル36、及びY偏向コイル37を備える。フォーカスコイル35は、電子銃13から照射された電子ビームのフォーカスを調整する。つまり、フォーカスコイル35は、電子銃13から照射された電子ビームのz軸方向における焦点位置を調整する。電子ビーム17はフォーカスコイル35の中央部を通過するので、フォーカスコイル35に流れる電流を制御してフォーカスコイル35の中央部における磁界を変化させることで、電子ビーム17の焦点位置を調整することができる。フォーカスコイル35には、コイル電源32から電源が供給される。
【0017】
X偏向コイル36は、電子銃13から照射された電子ビーム17のx軸方向における軌道を調整する。電子ビーム17はX偏向コイル36の中央部を通過するように構成されており、X偏向コイル36に流れる電流を制御してX偏向コイル36の中央部における磁界を変化させることで、電子ビーム17のx軸方向における軌道を調整することができる。X偏向コイル36には、コイル電源33から電源が供給される。
【0018】
Y偏向コイル37は、電子銃13から照射された電子ビーム17のy軸方向における軌道を調整する。電子ビーム17はY偏向コイル37の中央部を通過するように構成されており、Y偏向コイル37に流れる電流を制御してY偏向コイル37の中央部における磁界を変化させることで、電子ビーム17のy軸方向における軌道を調整することができる。Y偏向コイル37には、コイル電源34から電源が供給される。
【0019】
次に、電子ビーム制御部14について詳細に説明する。電子ビーム制御部14は、主制御部15からの制御信号に応じて、電子銃13、フォーカスコイル35、X偏向コイル36、及びY偏向コイル37を制御する。電子ビーム制御部14は、パルスカウンタ21_1〜21_4、ビーム電流制御部22、デジタルアナログ変換部(DAC)23_1〜23_4、アナログデジタル変換部(ADC)24、フォーカス制御部25、X偏向制御部26、及びY偏向制御部27を備える。
【0020】
主制御部15は、電子銃13(つまり、電子ビーム17)を制御するためのパルス制御信号をパルスカウンタ21_1に出力する。パルスカウンタ21_1は、主制御部15から供給されたパルス制御信号のパルスカウンタ値を取得し、パルスカウンタ値をビーム電流制御部22に出力する。ビーム電流制御部22は、パルスカウンタ21_1から供給されたパルスカウンタ値に応じて電子ビーム17の制御パラメータ(具体的にはバイアス電圧設定値)を設定する。DAC23_1は、ビーム電流制御部22から供給されたバイアス電圧設定値をDA変換し、DA変換後のバイアス電圧設定値を高圧電源31に出力する。高圧電源31は、DAC23_1から供給されたバイアス電圧設定値に応じたバイアス電圧を電子銃13に供給する。
【0021】
例えば、ビーム電流制御部22は、高圧電源31から取得したビーム電流値を用いて電子銃13をフィードバック制御してもよい。ここで、ビーム電流値は、被加工物18に照射された電子ビームと同量の電流値である。例えば、高圧電源31はビーム電流値をADC24に出力する。ADC24は、高電圧源31から供給されたビーム電流値をAD変換してビーム電流制御部22に供給する。
【0022】
図3は、ビーム電流制御部22の一例を説明するためのブロック図である。
図3に示すように、ビーム電流制御部22は、ビーム電流変換部61、フィルタ62、フィードバック制御部63、及びバイアス電圧変換部64を備える。ビーム電流変換部61は、パルスカウンタ21_1から供給されたパルスカウンタ値をビーム電流設定値に変換する。フィルタ62は、ADC24から供給されたビーム電流値(実測値)からノイズを除去し、ノイズ除去後のビーム電流値(実測値)をフィードバック制御部63に供給する。
【0023】
フィードバック制御部63は、フィルタ62から供給されたビーム電流値(実測値)がビーム電流変換部61から供給されたビーム電流設定値となるような制御信号を生成する。フィードバック制御部63は、例えばPID(Proportional-Integral-Differential)制御を用いて制御信号を生成してもよい。バイアス電圧変換部64は、フィードバック制御部63で生成された制御信号をバイアス電圧設定値に変換する。例えば、バイアス電圧変換部64は、バイアス電圧基準値から制御信号を減算してバイアス電圧設定値を決定してもよい。例えば、バイアス電圧基準値として、ビーム電流が出力され始めるバイアス電圧の境界値を用いてもよい。このようにして生成されたバイアス電圧設定値は、DAC23_1でDA変換された後、高圧電源31に供給される。高圧電源31は、供給されたバイアス電圧設定値に応じたバイアス電圧を電子銃13に供給する。
【0024】
このように、ビーム電流制御部22は、被加工物18に照射された電子ビームのビーム電流値(実測値)とパルスカウンタ値に応じたビーム電流設定値とを用いて電子銃13のバイアス電圧を決定することができる。
【0025】
ここで、バイアス電圧は電子ビーム17の量を制御する電圧であり、バイアス電圧が低くなるほどビーム電流が大きくなる。本実施の形態にかかる電子ビーム加工装置1では、このバイアス電圧を制御することで電子ビーム17の出力(ビーム電流)を制御している。
【0026】
また、主制御部15は、フォーカスコイル35を制御するためのパルス制御信号をパルスカウンタ21_2に出力する。パルスカウンタ21_2は、主制御部15から供給されたパルス制御信号のパルスカウンタ値を取得し、パルスカウンタ値をフォーカス制御部25に出力する。フォーカス制御部25は、パルスカウンタ21_2から供給されたパルスカウンタ値に応じてフォーカスコイル35の設定値(電流値)を決定する。DAC23_2は、フォーカス制御部25から供給された設定値をDA変換し、DA変換後の設定値をコイル電源32に出力する。コイル電源32は、DAC23_2から供給された設定値に応じた電流をフォーカスコイル35に供給する。このような制御により、フォーカスコイル35を用いて電子ビーム17の焦点位置を制御することができる。
【0027】
また、主制御部15は、X偏向コイル36を制御するためのパルス制御信号をパルスカウンタ21_3に出力する。パルスカウンタ21_3は、主制御部15から供給されたパルス制御信号のパルスカウンタ値を取得し、パルスカウンタ値をX偏向制御部26に出力する。X偏向制御部26は、パルスカウンタ21_3から供給されたパルスカウンタ値に応じてX偏向コイル36の設定値(電流値)を決定する。DAC23_3は、X偏向制御部26から供給された設定値をDA変換し、DA変換後の設定値をコイル電源33に出力する。コイル電源33は、DAC23_3から供給された設定値に応じた電流をX偏向コイル36に供給する。このような制御により、X偏向コイル36を用いて電子ビーム17のx軸方向における軌道を制御することができる。
【0028】
また、主制御部15は、Y偏向コイル37を制御するためのパルス制御信号をパルスカウンタ21_4に出力する。パルスカウンタ21_4は、主制御部15から供給されたパルス制御信号のパルスカウンタ値を取得し、パルスカウンタ値をY偏向制御部27に出力する。Y偏向制御部27は、パルスカウンタ21_4から供給されたパルスカウンタ値に応じてY偏向コイル37の設定値(電流値)を決定する。DAC23_4は、Y偏向制御部27から供給された設定値をDA変換し、DA変換後の設定値をコイル電源34に出力する。コイル電源34は、DAC23_4から供給された設定値に応じた電流をY偏向コイル37に供給する。このような制御により、Y偏向コイル37を用いて電子ビーム17のy軸方向における軌道を制御することができる。
【0029】
なお、上記で説明したフォーカス制御部25、X偏向制御部26、及びY偏向制御部27はそれぞれ、フィードバック制御可能に構成されていてもよい。この場合は、ビーム電流制御部22の場合と同様に、フィードバック信号をAD変換するアナログデジタル変換部(ADC)をそれぞれ設ける。
【0030】
また、ステージ駆動部12は、モータドライバ41_1〜41_nとモータ42_1〜42_nとを備える(nは2以上の整数)。モータ42_1〜42_nは、ステージ11を各々の軸(x軸、y軸、z軸等)に沿って変位させる。モータ42_1〜42_nは、ステージ12の駆動軸の数だけ設けられている。モータドライバ41_1〜41_nは、モータ42_1〜42_nに駆動信号を供給する。モータドライバ41_1〜41_nは、主制御部15から供給されたパルス制御信号に応じてモータ42_1〜42_nを駆動する。つまり、主制御部15は、ステージ駆動部12にパルス制御信号を供給することでステージ11を所定の方向に変位させることができる。
【0031】
以上で説明したように、本実施の形態にかかる電子ビーム加工装置1では、主制御部15は、パルス制御信号を用いてステージ駆動部12および電子ビーム制御部14を同期的に制御可能に構成されている。つまり、被加工物18が載置されているステージ11と、電子ビーム17のフォーカス、x軸方向における軌道、y軸方向における軌道、及び電子ビームの量(バイアス電圧)と、を主制御部15を用いて一元的に制御することができる。よって、例えば、ステージ11を移動させながら電子ビーム17の照射条件を変化させる加工など複雑な加工を容易に実施することができる。
【0032】
つまり、本実施の形態にかかる電子ビーム加工装置1では、電子ビーム17の制御とステージ11(被加工物18の位置)の制御とを主制御部15(多軸制御装置)で一元的に管理している。よって、例えば、加工プログラムを用いて全てのパラメータを制御することができるので、品質の再現性を向上させることができ、また装置の操作性が向上する。また、専用のハードウェアやソフトウェアが不要となる。
【0033】
また、主制御部15は、パルス制御信号を用いてステージ駆動部12および電子ビーム制御部14を同期的に制御することができる。これにより、複雑で精密な加工を実現することができる。つまり、ステージ11の駆動軸である機械軸と、電子ビーム17のフォーカスや偏向方向である電気軸とを同期的に制御することができるので、複雑で精密な加工を実現することができる。よって、複雑な形状の溶接、予熱、後熱、偏向溶接、焼き入れ、表面改質、溶断等を行うことができる。
【0034】
また、本実施の形態にかかる電子ビーム加工装置1では、主制御部15から供給されるパルス制御信号を用いて電子ビーム17を制御するようにしている。このように、電子ビーム17をデジタルで制御可能にしたので、電子ビームを制御するための制御ユニットの調整など煩雑な作業が不要となり、装置のセットアップを熟練者が不在でも容易に行えるようになる。
【0035】
次に、本実施の形態にかかる電子ビーム加工装置1を用いた加工例について説明する。
図4は、電子ビーム加工装置1を用いて加工する被加工物18を説明するための上面図である。以下で説明する加工例では、ワークA(71)とワークB(72)とを接合部73で溶接する場合について説明する。なお、ワークA(71)およびワークB(72)の高さにはギャップはなく平坦であるものとする。
【0036】
また、以下で説明する加工例では、ワークA(71)とワークB(72)との接合部73における溶接ビードの幅が全ての溶接部位において同じになるようにすることを目的とする。つまり、溶接する際、コーナー部74には熱エネルギーが溜まりやすく、ビードの幅が広くなる傾向にある。本実施の形態にかかる電子ビーム加工装置1では、ビーム電流を溶接部位に応じて変化させることで、溶接ビードの幅を同じにすることができる。
【0037】
図5は、
図4に示した被加工物18を加工する際の加工プログラムの一例を説明するための表である。
図5に示すプログラムは、主制御部15(多軸制御装置(NC:Numerical Control))において実行される。加工プログラムは7つのブロックを有し、ブロック1〜2はx軸方向における加工、ブロック3〜5はコーナー部74における加工、ブロック6〜7はy軸方向における加工を示している。
【0038】
図6は、
図4に示した被加工物18を加工する際のX軸位置、Y軸位置、及びビーム電流出力を説明するためのグラフである。ここで、ビーム電流出力は電子ビーム17の量に対応しており、電子ビーム制御部14が電子銃13のバイアス電圧を調整することで制御することができる。また、X軸位置およびY軸位置は、被加工物18におけるx座標およびy座標に対応しており、
図4に示す座標位置(0、15)は溶接開始点を示し、座標位置(15、0)は溶接終了点を示している。
【0039】
図6に示すように、ブロック1では、Y軸位置を固定し、X軸位置を変位させる。このとき、ビーム電流は一定とする。ブロック2では、Y軸位置を固定し、X軸位置を変位させる。このとき、ビーム電流を徐々に減少させる。
【0040】
ブロック3〜5では、コーナー部74と対応するようにX軸位置およびY軸位置を変位させる(X−Y軸円弧補間)。ブロック3では、ビーム電流を徐々に減少させ、ブロック4ではビーム電流を一定とし、ブロック5ではビーム電流を徐々に増加させる。
【0041】
ブロック6では、X軸位置を固定し、Y軸位置を変位させる。このとき、ビーム電流を徐々に増加させる。ブロック7では、Y軸位置を固定し、X軸位置を変位させる。このとき、ビーム電流は一定とする。
【0042】
図7は、
図4に示した被加工物18を加工する際のビーム電流量と溶接ビード形状とのシミュレーション結果を示すグラフである。なお、
図7においてビーム電流量を示す円はビーム電流量の大きさを示しており、電子ビームが照射された位置を示すものではない。
【0043】
図7に示すように、本実施の形態では、被加工物18を加工する際、コーナー部74においてビーム電流を低減させている。よって、コーナー部74に熱エネルギーが溜まることを抑制することができるので、直線部とコーナー部とで溶接ビードの幅を同じにすることができる。
【0044】
以上で説明したように、本実施の形態にかかる電子ビーム加工装置1では、被加工物18を加工する際に、主制御部15はステージ駆動部12と電子ビーム制御部14とを同期させながら制御している。よって、ステージ11を移動させながら、電子ビーム17のビーム電流を増減させることができ、被加工物18に対して複雑な加工を行うことができる。
【0045】
次に、本実施の形態にかかる電子ビーム加工装置1を用いた他の加工例について説明する。
図8は、本実施の形態にかかる電子ビーム加工装置を用いた他の加工例を説明するための図である。
図8において、X−Y座標は被加工物18のxy座標位置に対応しており、高さ方向はビーム電流に対応している。
図8に示す加工例は、例えば自動車のギアの溶接で用いられるスキップ溶接の例を示している。本実施の形態にかかる電子ビーム加工装置1を用いた場合は、
図8に示すように、ステージ11を円弧補間して移動する制御と、ビーム電流の制御とを同期させながら実施することができる。つまり、被加工物の円周上の任意の箇所において電子ビームの電流量を低減させることができる。よって、被加工物18に対して複雑な加工を行うことができる。
【0046】
また、例えば、本実施の形態にかかる電子ビーム加工装置1では、ステージ11を動かしながら被加工物18を加工する際に、電子ビーム17のフォーカスを動的に調整しながら加工を行ってもよい。これにより、被加工物18の表面に凹凸がある場合であっても、被加工物18の表面の凹凸に電子ビーム17の焦点を合わせることができ、被加工物18を精度よく加工することができる。このとき、ステージ駆動部12はステージ11をz軸方向に動かす必要がなくなるため、例えばz軸方向に対応したモータを省略することができる。
【0047】
以上、本発明を上記実施の形態に即して説明したが、本発明は上記実施の形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。