【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)刊行物への発表 発行年月日:平成27年10月21日(平成27年10月28日頒布) 刊行物名 :一般社団法人日本エネルギー学会 第52回 石炭科学会議 発表 論文集,第2頁−第3頁 発行所名 :一般社団法人日本エネルギー学会 (2)電気通信回線を通じた発表 掲載年月日:平成27年10月21日(掲載期間:平成27年10月21日〜11月27日) 掲載ウェブサイトのアドレス:http://www.jie.or.jp (3)集会での発表 開催年月日:平成27年10月28日 集会名 :一般社団法人日本エネルギー学会 第52回 石炭科学会議 開催場所 :伊勢市観光文化会館(三重県伊勢市岩渕1丁目13−15) (4)刊行物への発表 発行年月日:平成28年3月1日 刊行物名 :材料とプロセスVol.29(2016)No.1,CAMP−ISIJ 第171回春季講演大会,第219頁 発行所名 :一般社団法人日本鉄鋼協会 (5)集会での発表 開催年月日:平成28年3月25日 集会名 :一般社団法人日本鉄鋼協会 第171回春季講演大会 開催場所 :東京理科大学 葛飾キャンパス(東京都葛飾区新宿6−3−1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成27年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「環境調和型製鉄プロセス技術開発(STEP2)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
結晶水を含有する粉鉄鉱石と水硬性バインダーの混合物を造粒して得られたペレットを300〜600℃に加熱することで脱水した後、該ペレットを300〜600℃に加熱した状態で、500〜1000℃の粗コークス炉ガスを原料ガスとする化学気相浸透処理を施し、前記結晶水の脱水により粉鉄鉱石に生成した細孔内に粗コークス炉ガスに含まれるガス状タール由来の炭素物質を析出させることを特徴とする炭素内装鉱の製造方法。
結晶水を含有する粉鉄鉱石とバインダーの混合物を造粒して得られたペレットを320〜400℃に加熱することで脱水することを特徴とする請求項1に記載の炭素内装鉱の製造方法。
化学気相浸透処理して得られた炭素内装鉱の炭素含有量が18mass%−dry以上、圧潰強度が10daN以上であることを特徴とする請求項6に記載の炭素内装鉱の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の炭素内装鉱の製造方法は、結晶水を含有する粉鉄鉱石と水硬性バインダーの混合物を造粒して得られたペレットを300〜600℃に加熱することで脱水(加熱により粉鉄鉱石が含有する結晶水の少なくとも一部を離脱させる)した後、このペレットを300〜600℃に加熱した状態で、500〜1000℃の粗コークス炉ガスを原料ガスとする化学気相浸透処理(以下、「CVI処理」という)を施し、前記結晶水の脱水により粉鉄鉱石に生成した細孔内に粗コークス炉ガスに含まれるガス状タール由来の炭素物質を析出させるものである。
【0015】
本発明で用いるペレットは、結晶水を含有する粉鉄鉱石に水硬性バインダーと水を加えて混合し、造粒機で造粒して得られたものである。
粉鉄鉱石の結晶水の含有量は特に限定されないが、一般的に低品位とされ、安価で取引されていること(経済的側面)、結晶水の加熱脱水に伴い生成する細孔を利用して化学気相浸透処理をすること(技術的側面)などの観点から、特に結晶水の含有量が3mass%以上の粉鉄鉱石が好ましい。そのような鉄鉱石としては、例えば、ピソライト鉱石、マラマンバ鉱石などが挙げられる。
粉鉄鉱石の粒度は特に限定されないが、3mm以下程度が望ましい。この場合、3mm程度の粗粒は、造粒の際に核を形成し、その周りに微粉が付着することによりペレットが形成されていく。
【0016】
水硬性バインダーとしては、例えば、セメント(普通ポルトランドセメント、高炉セメントなど)、高炉スラグ微粉末、石膏などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。水硬性バインダーの配合量は特に限定されないが、通常、粉鉄鉱石の0.5〜15mass%、好ましくは3〜10mass%程度が適当である。
ペレットの造粒方法も特に制限はないが、通常、ディスクペレターザーやドラム型造粒機などで造粒を行う。造粒後のペレットは、通常、水硬性バインダーの水和硬化により所定の強度が得られるまで養生させる。
【0017】
このようにして得られたペレットを加熱する(以下、「脱水加熱」という場合がある)ことで、粉鉄鉱石が含有する結晶水を脱水する(すなわち、結晶水の少なくとも一部を水蒸気として離脱させる)。ペレットの脱水加熱温度は300〜600℃、好ましくは320〜400℃とする。ペレットの脱水加熱温度が300℃未満、600℃超のいずれの場合も、結晶水の脱水により生じる細孔がうまく形成できず、ペレットのBET比表面積を高めることができない。
ペレットの脱水加熱時間や脱水加熱する雰囲気は特に制限はないが、通常、脱水加熱時間は0.5〜1.5hr程度、脱水加熱する雰囲気は空気あるいは燃料ガスの燃焼排ガスなどが適当である。
また、ペレットを加熱脱水する方法や設備は特に制限はなく、例えば、ロータリーキルン炉、シャフト炉(竪型炉)、回転炉床炉などのような固気の熱交換が効率的に行える設備(炉)で加熱脱水すればよい。
【0018】
加熱脱水されたペレットを300〜600℃、好ましくは300〜400℃に加熱した状態で、500〜1000℃、好ましくは700〜1000℃の粗コークス炉ガスを原料ガスとする化学気相浸透処理を施す。すなわち、500〜1000℃(好ましくは700〜1000℃)の粗コークス炉ガスを原料ガスとし、処理温度300〜600℃(好ましくは300〜400℃)でペレットにCVI処理を施す。なお、CVI処理温度とは、原料ガスを接触させてCVI処理する際のペレット温度である。
ここで、粗コークス炉ガスとは、コークス炉から排出された後、精製工程を経ないコークス炉ガスのことである。
【0019】
CVI処理温度が300℃未満では、ガス状タール由来の炭素物質の拡散(析出)が遅くなり、細孔内に炭素が十分に浸透しない。また、原料ガス温度が500℃未満では、ガス状タール由来の炭素物質の分子量分布が大きくなり、細孔内への浸透(析出)が抑制される。一方、CVI処理温度が600℃超では、温度が高いために低沸点のガス状タール由来の炭素物質が十分に析出、固定化されない。なお、粗コークス炉ガスは、コークス炉から1000℃前後で排出されるので、原料ガス温度は1000℃程度が上限となる。
ペレットのCVI処理時間は特に制限はないが、通常、60min以上が好ましく、90min以上がより好ましく、180min以上が特に好ましい。
ペレットをCVI処理する方法や設備は特に制限はなく、例えば、脱水加熱処理に用いたような、ロータリーキルン炉、シャフト炉(竪型炉)、回転炉床炉などに原料ガスを流通させればよい。
CVI処理の原料ガスとして使用された後の粗COGは、通常の精製工程に送られて必要な精製を行った後、燃料ガスなどとして有効利用できる。
【0020】
このような本発明法で製造される炭素内装鉱(塊成鉱)は、加熱による結晶水の脱水により粉鉄鉱石に生成した細孔内に粗コークス炉ガスのガス状タール由来の炭素物質が析出してほぼ完全充填されるため、以下のような高い還元反応性と圧潰強度を有するとともに、良好な還元粉化性を有するものとなる。
(1)圧潰強度が造粒ままのペレットと比較し飛躍的に増大し、高炉用コークス、塊鉱石、焼結鉱に匹敵する圧潰強度を有する。
(2)従来法によるコークス混合試料に較べて高い還元反応性を有し、1000℃以下での金属鉄生成が可能となる。
(3)高炉で使用される塊鉱石や焼結鉱に較べて格段に優れた還元粉化性(低RDI)を有する。
【0021】
また、(i)化学気相浸透処理の原料ガスとして粗コークス炉ガス(コークス炉で発生したままのコークス炉ガス)を利用し、これに含まれるガス状タールを鉄鉱石に析出させる、(ii)粗コークス炉ガスの顕熱を利用することでペレットを300〜600℃という比較的低温で化学気相浸透処理することができる、ことにより低コストに製造できる利点もある。
また、本発明法で製造される炭素内装鉱は、還元剤の少なくとも一部として水素を吹き込む高炉操業に特に適している。
【0022】
以下、本発明が得られた実験について説明する。なお、以下の説明では、粗コークス炉ガスを「粗COG」と、コークス炉ガスを「COG」という。また、上述したように、CVI処理温度とは原料ガスを接触させてCVI処理する際のペレット温度である。
実験は以下のようにして行った。
低品位の粉鉄鉱石(Total-Fe:46mass%、FeO:0.5mass%、SiO
2:5.5mass%、Al
2O
3:2.7mass%、CaO:3.7mass%、MgO:0.2mass%、結晶水:10mass%−dry)に水硬性バインダーであるセメントと水を添加し(粉鉄鉱石:セメントの質量比0.95:0.05)、造粒機により混合・造粒して粒径が2.0〜3.4mmのペレット(コールドボンドペレット)とし、これを試料として用いた。このペレットのBET比表面積は20m
2/gであった。なお、以下の説明では、この造粒ままで加熱脱水していないペレットを「生ペレット」という場合がある。
また、実機COGから回収したCOGタール(C:91mass%、H:4.7mass%、N:1.1mass%、S:0.4mass%−daf)とトルエンの混合溶液を熱分解させ、この熱分解ガスを粗COGを模擬した原料ガスとして用いた。
【0023】
使用した実験装置を
図1に示す。この実験装置は、縦長管状の反応器1(石英製)と、この反応器1の上端部分と下端部分を除く中間部分を囲むように設けられる加熱装置2を備えている。反応器1の下部側にはセラミックフィルター3が設けられ、その上にペレットが充填保持される。このセラミックフィルター3上に充填保持されたペレットは、まず脱水加熱処理され、次いでCVI処理されるので、説明の便宜上、この領域を「処理部a」という。
処理部a(セラミックフィルター3)の上方には石英ウール4が設けられ、ここにCOGタールとトルエンの混合溶液が滴下される。この石英ウール4に滴下された溶液が加熱されることで熱分解し、粗COGを模擬したガス状タール含有熱分解ガスが発生するので、説明の便宜上、この領域を「熱分解部b」という。
【0024】
反応器1の上端部分には、COGタールとトルエンの混合溶液を供給する供給管5と、He又は55%H
2/Heを導入するためのガス導入管6がそれぞれ接続されている。供給管5は送液ポンプ7を介して溶液タンク8に導かれている。また、反応器1の下端部分にはガス導出管9が接続され、このガス導出管9はガス捕集器10に導かれている。
加熱装置2は、上下2段の加熱部2a,2bで構成され、これら加熱部2a,2bにより処理部aと熱分解部bをそれぞれ別個に加熱し、処理部aと熱分解部bを異なる温度に加熱することができる。
その他、
図1において、11,12は温度センサー(熱電対)である。
【0025】
実験では、ガス導入管6を通じてHeを200ml/minの流量で導入しつつ、処理部a(セラミックフィルター3)に充填保持されたペレットpを所定の温度に加熱し、粉鉄鉱石の結晶水の脱水を行った。次いで、ガス導入管6を通じてHeを200ml/minの流量で導入するとともに、同じく供給管5を通じてCOGタールとトルエンの混合溶液(質量比1:1)を0.4ml/minの流量で供給して熱分解部b(石英ウール4)上に滴下し、この溶液を加熱して熱分解させ、CVI処理の原料ガスとなる所定温度の熱分解ガス(ガス状タール含有ガス)を発生させた。この熱分解ガス(以下、「原料ガス」という)を、処理部aに充填保持されて所定温度に加熱されたペレットpに供給し、同温度でのCVI処理を施した。これにより「結晶水の脱水により粉鉄鉱石に生成した細孔内に原料ガスに含まれるガス状タール由来の炭素物質を析出させた炭素内装鉱(塊成鉱)」を得た。
なお、本実験ではCVI処理時のキャリアガスとしてHeを用いたが、実際のCOGに近い55%H
2/30%CH
4/5%CO/3%CO
2/3%H
2O/4%Heを用いて行った同様の実験でも、炭素内装鉱の圧潰強度、RDI値及び還元反応性は本実験と同等の結果が得られた。
【0026】
以上のようにして得られた炭素内装鉱の炭素含有量と圧潰強度を測定した。また、炭素内装鉱の還元率を以下のようにして求め、還元反応性を評価した。すなわち、反応器1内に炭素内装鉱が充填保持された状態で、ガス導入管6からHe又は55%H
2/Heを導入し、炭素内装鉱をHe雰囲気又は55%H
2/He雰囲気中において10℃/minで1000℃まで加熱し、その過程で発生するCO・CO
2とH
2Oを各々高速マイクロGCと光音響マルチガスモニターで分析し、これらガス状含O化合物の生成量から還元率を算出した。
また、炭素内装鉱の特性は、主にXRD、N
2吸着、SEM−EDS、ラマン分光、圧潰強度試験法(JIS M8718)で調べた。
【0027】
生ペレット(BET比表面積20m
2/g)を10℃/minで100〜900℃まで加熱し、所定温度に到達後、直ちに冷却し、この冷却後のペレットのBET比表面積を調べた。その結果を
図2に示す。これによれば、加熱温度が300℃以上になるとペレットを構成する粉鉄鉱石の結晶水が蒸発して細孔が生成するためBET比表面積が急激に増大し、350℃で極大(60m
2/g)となる。一方、加熱温度が350℃を超えると逆にBET比表面積は低下しはじめる。これは、急速な結晶水の蒸発のために細孔壁が破壊され、細孔径が拡大したことで、むしろ比表面積が小さくなることによるものと考えられる。
図2によると、ペレットの脱水加熱温度は300〜600℃程度が好ましく、320〜400℃程度がより好ましいことが判る。
【0028】
ペレットの脱水加熱温度を350℃、500℃、600℃の3水準、CVI処理温度を350℃、500℃、600℃の3水準とし、原料ガス温度を350〜700℃の範囲で変化させて炭素内装鉱を製造した。これら製造例では、ペレットの脱水加熱とCVI処理を、それぞれ1hrで行った。
このようにして得られた炭素内装鉱について、BET比表面積と圧潰強度を調べた結果を
図3、
図4に示す。
図3は、脱水加熱後・CVI処理前のペレットと炭素内装鉱のBET比表面積を示している。また、
図4は、脱水加熱前の生ペレットと炭素内装鉱の圧潰強度を示している。
【0029】
図3によれば、タールを含有する原料ガスでCVI処理して得られた炭素内装鉱のBET比表面積は、いずれの温度条件で得られたものであっても、脱水加熱後・CVI処理前のペレットに較べて大きく低下している。これは、タールを含有する原料ガスでCVI処理を行ったことにより、原料ガスのタールに由来する炭素物質がペレットを構成する粉鉄鉱石の細孔に析出して充填されたことによるものと考えられる。また、CVI処理温度350℃、原料ガス温度500℃以上としたもの、特に700℃のものが、BET比表面積が特に低くなっている。これは、粉鉄鉱石の細孔内に炭素物質が特に密に充填されためであると考えられる。
【0030】
また、
図4によれば、タールを含有する原料ガスでCVI処理して得られた炭素内装鉱は、生ペレットに較べて圧潰強度が増加している。これは、タールを含有する原料ガスでCVI処理を行ったことにより、原料ガスのタールに由来する炭素物質がペレットを構成する粉鉄鉱石の細孔に析出して充填されることにより、強度が高まったものと考えられる。また、炭素内装鉱の圧潰強度は、原料ガス温度が高く且つCVI処理温度が低い時に大きい傾向がある。
【0031】
なお、この実験では原料ガス温度の最高は700℃であるが、
図3及び
図4に示される傾向から、原料ガス温度が700℃超(〜1000℃程度)であっても、同様の効果が得られることが容易に推認できる。一般に、粗COGはコークス炉から1000℃前後で排出されるので、配管内でなるべく温度降下しないようにすることで、最高1000℃程度の温度で利用でき、したがって、原料ガス温度は1000℃程度まで許容されると考えられる。
以上の結果から、CVI処理温度(CVI処理する際のペレット温度)は300〜600℃が好ましく、300〜400℃がより好ましいこと、また、CVI処理に用いる原料ガスの温度は500〜1000℃が好ましく、700〜1000℃がより好ましいことが判る。
【0032】
脱水加熱温度350℃、原料ガス温度700℃、CVI処理温度350℃の条件で得られた炭素内装鉱について、その炭素含有量と圧潰強度に及ぼすCVI処理時間の影響を調べた。
図5(a)に、CVI処理時間と炭素内装鉱の炭素含有量との関係を示す。これによると、炭素内装鉱の炭素含有量は処理時間が約90minまでは直線的に増加し、その後ほぼ一定となり、その値は180〜240minまでに18mass%−dryに達している。
図5(b)に、CVI処理時間と炭素内装鉱の圧潰強度との関係を示す。これによると、CVI処理時間が約20min程度までは圧潰強度はほとんど変化しないが、40〜90minになると大きく増大し、約180min以上ではほぼ10daN(単位:daN=デカニュートン)に達している。以上の結果から、CVI処理時間は60min以上が好ましく、90min以上がより好ましく、180min以上が特に好ましいことが判った。
【0033】
図6は、
図5(a),(b)に示される炭素内装鉱の炭素含有量と圧潰強度との関係を整理して示したものである。これによれば、炭素内装鉱の圧潰強度は炭素含有量が約10mass%−dryを上回ると顕著に増加し、炭素含有量が18mass%−dryでは10daNに達している。この10daNという圧潰強度は、実際の高炉で使用されているコークス(D
1506=87.1)の同粒径の試料の強度(10daN)に匹敵するものであり、高い圧潰強度が得られることが判る。
炭素内装鉱の圧潰強度は、炭素含有量が10mass%−dry未満では殆ど変化はないが、炭素含有量が10mass%−dry以上になると急激に増加している。これは、炭素含有量が10mass%−dry未満の段階では、炭素物質の析出が主に細孔の枝部に限られるため、圧潰強度の増加にほとんど寄与しないのに対して、炭素含有量が10mass%−dry以上になると炭素物質の析出が細孔の幹部にも生じ、圧潰強度の増加に寄与するためであると考えられる。
【0034】
次に、炭素内装鉱の還元粉化指数(RDI)について調べた。
本実験では、得られる炭素内装鉱量の面からRDI試験(試料500gを30%CO、550℃で30min処理後、回転ドラムで900回転、目開き3mmで篩い分け後、3mm以下の試料割合を算出)を実施するのは難しいため、まずRDI値が既知の粒径2〜3.4mmの塊成鉱及び焼結鉱を55%H
2/He雰囲気中において500℃で還元処理した後の圧潰強度を測定し、それらの圧潰強度とRDI値との関係性を調べた。次に、その相関関係に基づき、55%H
2/He雰囲気中において500℃で還元処理した炭素内装鉱の圧潰強度からRDI値を推算した。使用した塊鉱石と焼結鉱のRDI値と化学組成を表1に示すとともに、圧潰強度とRDI値の関係を
図7に示す。これによれば、圧潰強度とRDI値の間には、比較的良好な負の相関が認められる。この相関関係に基づき、炭素内装鉱の圧潰強度からRDI値の推算を行なった結果を
図8に示す。炭素内装鉱は脱水加熱温度350℃、原料ガス温度700℃、CVI処理温度350℃、CVI処理時間180minの条件で得られたものである。
図8によれば、炭素内装鉱のRDI値は15程度と見積もられ、この値は一般的に高炉で使用される塊鉱石や焼結鉱のRDI値(30〜40)と較べてかなり小さく、良好なRDI値が得られることが判る。
【0036】
次に、炭素含有量が18mass%−dryの炭素内装鉱について、炭素の分布状態をSEM−EDSで調べた。その結果を
図9に示す。炭素内装鉱は脱水加熱温度350℃、原料ガス温度700℃、CVI処理温度350℃の条件で得られたものである。
図9の「a」は炭素内装鉱の粒子断面のSEM画像であり、
図9「b」はそのSEM画像中の破線に沿ったEDSによる線分析の結果である。また、
図9「c」と「d」は、それぞれ粒子断面のFeとCのEDSによる面分析の結果である。線分析(
図9「b」)と面分析(
図9「c」、「d」)の結果から、炭素は粒子表面に比較的多く存在するものの、内部にもほぼ均一に分布していることが判る。また、ラマン分光法により導入された炭素の化学構造を調べた結果、炭素は主にアモルファス形態で存在していた。この炭素内装鉱を調製する前の350℃に加熱(脱水)したペレットの細孔容積の測定値は0.06cm
3/gであったが、炭素内装鉱中の炭素をアモルファスと仮定すると、その細孔容積に基づいた炭素含有量は12mass%−dryと見積もられ、細孔には理論値以上の炭素が充填されていたことになる。この結果は、CVI処理によりペレット(粉鉄鉄鉱石)の細孔内にタール由来の炭素物質を完全充填可能であることを示している。また、理論値以上の炭素含有量は、
図9「b」、「d」に示すように粒子表面上への炭素析出によるものと推測される。
【0037】
炭素内装鉱の還元反応性を明らかにするため、He雰囲気と水素還元高炉を模擬した55%H
2/He雰囲気中で炭素内装鉱を加熱(還元処理)し、この加熱時におけるガス状含O化合物の生成速度の推移を調べた。炭素内装鉱は脱水加熱温度350℃、原料ガス温度700℃、CVI処理温度350℃の条件で得られたものである。
図10は、その結果を示すものであり、(a)はHe雰囲気で加熱した場合、(b)は55%H
2/He雰囲気中で加熱した場合を示している。
図10(a)に示すHe雰囲気中での加熱では、COとCO
2の生成は300〜400℃で始まり、それらの生成速度は700℃前後に主ピークがある。H
2Oは300℃付近から発生し始め、約800℃に生成速度のピークがある。一方、
図10(b)に示す55%H
2/He雰囲気中での加熱でも、ガス状含O化合物の生成は300〜400℃から認められ、H
2Oは約400℃、600℃のショルダーピークの他に、750℃前後に主ピークがある。COとCO
2は約600℃に生成速度のピークがあり、前者では800〜900℃にも弱いピークが認められる。
【0038】
このようにガス状含O化合物の脱離挙動は、He雰囲気中と55%H
2/He雰囲気中では異なっている。1000℃で60min保持したときのガス状含O化合物の生成量は、He雰囲気中ではCO
2<H
2O<CO、55%H
2/He雰囲気中ではCO
2<<CO<H
2Oの順となった。以上の結果は、He雰囲気中での炭素内装鉱中の酸化鉄の還元は、主に細孔内に充填された炭素による直接還元によって進行するものの、一部は加熱過程で発生するCOやH
2が寄与していることを示していると考えられる。一方、55%H
2/He雰囲気中では、水素還元が支配的であるものの、細孔内に充填された炭素による直接還元も生じており、間接還元の寄与は小さいものと推測される。また、He雰囲気中でのCO
2生成量は14%であるのに対して、55%H
2/He雰囲気中でのCO
2生成量は3.5%であり、55%H
2/He雰囲気中では、He雰囲気中でのCO
2生成量の75%を低減可能であった。このことから、水素雰囲気下での炭素内装鉱の還元時にはCO
2排出量の削減が期待できる。
【0039】
図11は、炭素内装鉱をHe雰囲気中と55%H
2/He雰囲気中で加熱した際のガス状含O化合物の生成量から算出した炭素内装鉱の還元挙動(還元率の推移)を示している。炭素内装鉱は脱水加熱温度350℃、原料ガス温度700℃、CVI処理温度350℃の条件で得られたものである。また、比較のため、500℃で加熱脱水したペレットと粉コークス(高炉で使用される通常強度のコークスを<75μmに粉砕したコークス)の混合物(コークス混合試料)をHe雰囲気中で加熱した場合の還元挙動と、500℃で加熱脱水したペレットを55%H
2/He雰囲気中で加熱した場合の還元挙動も併せて示している。
図11によれば、He雰囲気と55%H
2/He雰囲気中での炭素内装鉱の還元率は、それぞれ500〜600℃から急激に増加し、1000℃で60min保持した後は85〜95%に達しており、このような炭素内装鉱の還元速度は、コークス混合試料と比較して極めて大きい。なお、炭素内装鉱を55%H
2/He雰囲気中で加熱した場合であっても、その還元速度は、500℃で加熱脱水したペレットを55%H
2/He雰囲気中で加熱した場合に較べて小さい。これは、炭素内装鉱では細孔内に炭素物質が充填されるため、酸化鉄と水素の接触性の低下が生じたことによるものと考えられる。
【0040】
表2に、炭素内装鉱をHe雰囲気と55%H
2/He雰囲気中でそれぞれ各温度で加熱した後の鉄の化学形態をXRDで調べた結果を示す。炭素内装鉱は脱水加熱温度350℃、原料ガス温度700℃、CVI処理温度350℃の条件で得られたものである。表2によれば、炭素内装鉱中の元々のFeの形態はFe
2O
3とFe
3O
4であるが、He雰囲気中で600℃に加熱すると前者のピークが消失し、Fe
3O
4のみとなる。温度をさらに上げると、700℃でFeOが生成し、800℃からはα−Feのシグナルも認められ、900℃以上ではα−Feの回折線のみが現われる。一方、55%H
2/He雰囲気中で加熱すると、500℃でFe
3O
4単一相となり、600℃の低温からFeOに加え、α−Feに帰属するピークが出現し、800℃では後者のみとなり、低温から金属鉄が生成する。以上のように、炭素内装鉱は1000℃以下での金属鉄生成が可能となる。
【0042】
図12は、
図11の還元率の推移に伴う炭素内装鉱の圧潰強度の推移を示している。また、比較のために、表1に示した塊鉱石と500℃で加熱脱水したペレットを55%H
2/He雰囲気中で加熱した場合の圧潰強度の推移も併せて示した。
図12によれば、塊鉱石と加熱脱水したペレットの圧潰強度は、還元率40%までに大きく低下している。一方、炭素内装鉱では、He雰囲気中では還元率30%以上から圧潰強度の減少が認められたものの、55%H
2/He雰囲気中では還元率50%まで強度は維持されている。
【0043】
炭素含有量が18mass%−dryの炭素内装鉱を、He雰囲気中で還元率50%まで還元した場合、炭素含有量は9mass%−dryに低下し、一方、55%H
2/He雰囲気中で還元率50%まで還元した場合、炭素含有量は13mass%−dryに低下し、前者で炭素含有量の大きな低下が認められた。また、この炭素内装鉱のN
2吸着による細孔分析の結果から、CVI処理後に消失した2nm付近の細孔径ピークの復元を確認した。そのため、還元率の増加に伴う圧潰強度の低下は、酸化鉄−炭素間の接触界面での直接還元による炭素消費により生じた細孔の生成に基因するものと推測される。これらの結果から、塊鉱石の強度低下が著しく生じる還元率50%までの強度低下を、炭素内装鉱では改善可能であることが判った。
【0044】
以上の実験から、結晶水を含有する粉鉄鉱石と水硬性バインダーの混合物を造粒して得られたペレットを、本発明条件に従い加熱脱水した後、粗COGを原料ガスとしてCVI処理することにより、高い還元反応性と圧潰強度を有するとともに、良好な還元粉化性(低RDI)を有する炭素内装鉱が製造できることが判った。また、CVI処理の原料ガスとして粗COGを利用できること、粗COGの顕熱を利用することでペレットを300〜600℃という比較的低温でCVI処理できること、により炭素内装鉱を低コストに製造できることも確認できた。また、この炭素内装鉱は、水素雰囲気でのCO
2生成量が少ないことなどから、還元剤の少なくとも一部として水素を用いる水素還元高炉に特に適していると言える。