【文献】
岩根広奈,PLLA系共重合体のミクロ相分離を利用したバイオインターフェースの制御,Polymer Preprints, Japan,2013年,vol.62, no.1,p.1823
【文献】
杉山 一男,近畿大学次世代基盤技術研究所報告,生医学材料としての含フッ素ポリマーナノ粒子の調製,2012年,vol.3,p.39-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一面は、前記フッ素含有環状オレフィンポリマーと、光硬化性化合物と、光硬化開始剤と、を含むフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物により構成される請求項1ないし4のいずれか一項に記載の医療器具。
前記フッ素含有環状オレフィンポリマー組成物中における前記フッ素含有環状オレフィンポリマーと前記光硬化性化合物の質量比(フッ素含有環状オレフィンポリマー/光硬化性化合物)が、99.9/0.1〜50/50である請求項5に記載の医療器具。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。なお、本明細書中において「〜」は特に断りがなければ以上から以下を表す。
【0017】
(医療器具)
本発明における医療器具は以下に示される。
一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーを使用した基材を備える医療器具であって、上記基材は、該基材と細胞とを接触させる一面を有し、かつ、該基材は、上記一面に凹凸構造を備え、上記凹凸構造から構成される凸凸間の幅(L1)と、上記細胞中のひとつあたりの播種細胞の最大径(L2)の比(L1/L2)が1〜300であり、上記細胞が上記凹凸構造を備えた上記一面に接着または付着せず、細胞増殖を促進することを特徴とする医療器具である。
ここで、「上記細胞が上記凹凸構造を備えた上記一面に接着または付着せず」とは、培養細胞が保持された一面上に培養液または緩衝液を添加したときに、該一面から培養細胞が浮遊し、剥離する状態をいう。
また、本実施形態において、基材の一面に接触させる細胞は幹細胞を含んでもよい。
【0018】
【化4】
(式(1)中、R
1〜R
4のうち、少なくとも1つは、フッ素、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルキル基、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルコキシ基、またはフッ素を含有する炭素数2〜10のアルコキシアルキル基である。R
1〜R
4がフッ素を含有しない基である場合、R
1〜R
4は、水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または炭素数2〜10のアルコキシアルキル基から選ばれる。R
1〜R
4は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R
1〜R
4は互いに結合して環構造を形成していてもよい。好ましくは、式(1)中のR
1〜R
4は、それぞれが、フッ素またはフッ素原子を含む置換基である。)
【0019】
本発明者らは、医療器具を構成する基材の細胞を接触または保持させる一面に、一般式(1)により表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマー、または該フッ素含有環状オレフィンポリマーを含む組成物から構成される凹凸構造が形成された基材を用い、播種した細胞を少なくとも上記凹凸構造の凹部底面に接触または保持させることで細胞の密度を適切に、かつ基材全面に渡って均一に保つことができることを発明した。
また、培養後の形態で均一な細胞密度の細胞塊や均一な厚みの細胞シート、スフェロイド、コロニーなどの群体を形成し、該一面に保持した細胞を、リン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液によって容易に浮遊させることができることを見出した。これにより、成長細胞を損傷させること無く基材から離脱させることが可能となる。
【0020】
以下、本発明における医療器具について詳細に説明する。
本発明における医療器具は、凹凸構造を形成した基材を備え、基材の一面のうち少なくとも凹部底面に細胞と培養液が接触または保持される形態で使用される医療器具である。このような医療器具は、例えば凹凸構造を形成した基材の一面の少なくとも凹部底面に接触または保持させた細胞を培養し増殖させ、成長細胞を利用することを目的としてもよく、または、凹凸構造を形成した基材の一面の少なくとも凹部底面に接触または保持させた成長細胞を利用した検査を行うために利用してもよい。
一方、細胞を培養するための医療器具においては、凹凸構造を形成した一面の少なくとも凹部底面を、細胞を培養するための培養面とすることもできる。
【0021】
本発明における医療器具において、基材の細胞を接触または保持させる一面は、上記一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーにより構成される。これにより、医療用または細胞培養の基材の一面に接触または保持させた細胞や、一面上において培養した細胞を、リン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液を用いることによって成長細胞の群体を基材から浮遊させることができる医療器具を得てもよい。これにより、基材の凹凸構造を形成した一面に接触または保持させた成長細胞を損傷させること無く基材から離脱させることが可能となる。
【0022】
さらに、上記一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーにより基材の一面を構成することによって、一面に接触または保持させた細胞が当該一面に接着および付着しない基材を実現することができる。これにより、細胞培養において、細胞を厚み方向へ群体を形成させながら増殖させた細胞シートや、個別に分離しながら群体を増殖させたスフェロイドや、ランダムに分散した群体を形成させたコロニーを作り分けることができる。
【0023】
通常の細胞を培養するために用いられる医療器具においては、増殖した細胞が培養面に接着または付着しながら増殖するため、厚み方向に対して均一な平面状態、個別に分離した球状状態、またはランダムに分散したコロニー状態で細胞が増殖する。この場合、細胞が培養面を覆いつくしてしまうと細胞が接着または付着する足場が無くなるため、接触阻害等の影響により細胞成長が妨げられる。一方で、効率的な細胞培養を行うために播種を繰り返して培養する継代操作を用いることが考えられるが、細胞を剥がして新たな培養容器に移し替える作業により細胞を損傷させるおそれがある。また、継代操作は頻繁な液交換などの非常に煩雑な作業を伴うものである。
【0024】
これに対し、本発明によれば、上記一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーによって細胞を接触または保持させる基材の凹凸構造を形成した一面を構成することによって、増殖した細胞が基材の一面に接着および付着することを抑制することができる。このため、継代操作によらずとも、厚み方向に対して群体を形成するように細胞を増殖させることができる。したがって、細胞の損傷の誘発や操作の煩雑化を抑えつつ、より効率的な細胞培養を行うことができる。
【0025】
また、本発明の医療器具においては、上記一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーによって形成される凹凸構造の凸凸間の幅(L1)と当該基材と接触または保持させる細胞の最大径(L2)の比(L1/L2)は1〜300の範囲であり、好ましくは2〜200、さらに好ましくは3〜100である。なお、この細胞の最大径(L2)は、凸凸間の幅(各凹部)に播種した細胞ひとつあたりの最大径を示す。ここで、L2は、凸凸間の幅に播種した複数の細胞の最大径をそれぞれ測定し、それらの値を平均した値である。これにより、細胞を凹部の底面に確実に接触または保持させることができ、細胞が個々の仕切内で増殖するため基材一面上での細胞の密度を適切に、かつ均一に保つことで細胞の増殖性を高く、また、培養形態で均一な細胞密度の群体状の細胞塊や均一な厚みの細胞シート、スフェロイド、コロニーなどを作製することができる。そして、培養した群体形状の細胞塊や細胞シートを、例えば、リン酸緩衝生理食塩水のような緩衝液によって容易に浮遊させ基材から離脱させることができる。
【0026】
ここで、細胞の最大径とは、培養液中に浮遊した状態の細胞を顕微鏡観察して計測した計測値であり、種類により大きさも様々である。一般に、マウス、ラット、ヒトなどの動物細胞の多くは10μm〜100μmであり、特にヒト細胞の場合で10μm〜60μm、種類によっては精子細胞の2.5μmや卵細胞の200μm程度のものまで存在する。顕微鏡観察によるひとつあたりの細胞の計測から得られた細胞の最大径をL2とする。
これに合わせ、上記一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーによって形成される凹凸構造の凸凸間の幅は、好ましくは10μm〜1000μmである。より好ましくは15μm〜1000μm、さらに好ましくは20μm〜1000μmである。ここでの凸凸間の幅は、パターンを上方から観察したときの計測値であり、例えば、正方形や長方形などのパターンでは対角、円形のパターンでは直径、不定形のパターンでは最大幅を示し、形状は特に限定されない。この範囲とすることで、細胞を効果的に凹凸構造の凹部底面に接触または保持させることが可能になり、上記したように培養した形態で均一な密度の細胞塊や均一な厚みの細胞シート、スフェロイド、コロニーを作製することができる。
【0027】
さらに、上記した凹凸構造の凸凸間の幅(L1)と当該基材と接触または保持させる細胞の最大径(L2)の比(L1/L2)が1〜300である基材を用いて細胞を培養する際の、細胞を播種した後のひとつあたりの凹部底面に接触または保持される細胞数は好ましくは1〜100個であり、より好ましくは1〜50個、さらに好ましくは1〜30個である。これにより、播種した後の基材一面上での細胞の密度を適切に、かつ均一に保つことで細胞の増殖性を高く、また、培養後の形態で均一な細胞密度の群体状の細胞塊や均一な厚みの細胞シート、スフェロイド、コロニーを作製することができる。なお、ここでの細胞数は、播種した後の細胞が凹部底面に沈降するまでの時間を考慮して明暗視顕微鏡などにより、細胞を観察してカウントした細胞数であり、通常、複数の凹部に接触または保持された細胞をカウントした細胞数を凹部の数で除した平均値として取り扱う。
【0028】
本発明の医療器具を用いて作製した培養細胞は、好ましくは、薬物代謝系酵素活性を維持した培養細胞である。すなわち、生体内での細胞増殖とほぼ同じ機能を維持したまま成長させた培養細胞であり、細胞の種類を限定的に選ばない。もしくは、遺伝子変異を起こす確率の高いウイルスまたは細菌などごく限られた細胞の種類を除いて正常に生細胞を培養することができる。その細胞の薬物代謝系酵素活性は、低温下で保存する、または特別な培養保存操作(例えば、酸素過多で保存するなど)をすることなく維持された培養細胞である。
一方、細胞の形状は、特に限定する必要は無いが、例示するならば、例えば、シート状細胞、スフェロイド状細胞、コロニー状細胞、神経系形態細胞などである。特に、再生医療の分野では、本発明のように生体細胞と同様な薬物代謝系酵素活性を維持していることが望まれており、本発明の培養細胞は好適に生産できることが、重要な訴求点になる。また、本発明の培養細胞は、創薬やバイオ薬品、美容においても同様の機能を長期間維持することができ、本発明は世界的な潮流となりうる発明である。
【0029】
また、上記フッ素含有環状オレフィンポリマーにより基材を構成することによって、基材の成形性を向上させることができ、工業的に価値のあるあらたな医療器具が実現される。
【0030】
本発明において、培養細胞を接触または保持させる一面が上記フッ素含有環状オレフィンポリマーにより構成されるとは、例えばプラスチックや金属などの他の材料により形成される支持体の一面上に上記フッ素含有環状オレフィンポリマーにより構成される凹凸構造を形成したフィルムが貼り付けられて基材が構成される場合や、溶融成型で基材全体が上記フッ素含有環状オレフィンポリマーで構成され、細胞を接触または保持させる部分に凹凸構造が形成される場合を含んでもよい。
【0031】
また、本発明の医療器具上で作製された培養細胞を綿、布、不織布などで覆い積層された積層体も提供してもよい。または、この積層体は、グリセリンなどの保湿剤を含侵させてもよい。すなわち、本発明の医療器具で作製された培養細胞は、積層体の覆いを外し、直接、再生医療として患部に貼り合わせ、フィルムを離脱させる医療行為を行ってもよい。
【0032】
本発明において培養細胞と接触または保持する凹凸構造を形成した一面における水接触角は、例えば70°〜160°であり、好ましくは75°〜155°、より好ましくは80°〜150°とすることができる。これにより、一面に接着および付着せずに増殖した細胞を、例えば、リン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液を用いてより容易に浮遊させることができる。このため、細胞を基材から離脱させる際に、細胞に損傷が発生することをより確実に抑えることが可能となる。
【0033】
基材の一面における水接触角は、基材の一面を構成する材料や、基材の作製方法における種々の条件を適切に選択することにより制御することができる。本発明においては、上記一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーから構成され、凹凸構造を形成した基材で上記基材の一面を形成することが、水接触角を所望の範囲とするために重要な要素の一つである。
【0034】
水接触角の測定は、日本工業規格JIS−R3257(基板ガラス表面のぬれ性試験方法)に準じて、25±5℃、50±10%の恒温恒湿条件下で水滴の形状を球形とみなせる4μl以下の容量の水滴を基材表面に滴下し、静滴法により、基材表面に水滴が接触した直後から1分以内の基材と水滴の接触界面の角度を計測する方法で行うことができる。本発明においては、例えば種々のプラスチック材料の物性値に利用される数値と同様に、上記方法により水滴が接触した直後から1分以内の数値を物性値として取り扱うことができる。
【0035】
本発明における医療器具で取扱うことができる細胞の種類としては、動物細胞の場合で浮遊系細胞、接着系細胞に関わらず、例えば、線維芽細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、神経細胞、角膜上皮細胞、口腔粘膜上細胞、網膜色素上細胞、歯根膜幹細胞、筋繊維芽細胞、心筋細胞、肝細胞、脾内分泌細胞、皮膚角化細胞、皮膚繊維芽細胞、皮下脂肪由来前駆細胞、腎臓細胞、底部毛根鞘細胞、鼻粘膜上皮細胞、血管内皮前駆細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、骨格筋細胞、不死化細胞、がん細胞、角化細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、EBV形質転換B細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などが例示され、より具体的にはHeLa細胞、CHO細胞、Cos細胞、HL−60細胞、Hs−68細胞、MCF7細胞、Jurkat細胞、Vero細胞、PC−12細胞、K562細胞、L細胞、293細胞、HepG2細胞、U−937細胞、Caco−2細胞、HT−29細胞、A549細胞、B16細胞、MDCK細胞、BALB/3T3細胞、V79細胞、3T3−L1細胞、NIH/3T3細胞、Raji細胞、NSCLC細胞、A431細胞、Sf9細胞、SH−SY5Y細胞、BHK−21細胞、J774細胞、C2C12細胞、3T3−Swiss albino細胞、MOLT−4細胞、CV−1細胞、F9細胞、MC3T3−E1細胞、HaCaT細胞、L5178Y細胞、HuH−7細胞、Rat1細胞、Saos−2細胞、TIG細胞、CHL細胞、WI−38細胞、MRC−5細胞、Hep3B細胞、SK−N−SH細胞、MIN6細胞、KATO細胞、C3H/10T1/2細胞、DT40細胞、PLC/PRF/5細胞、IMR−90細胞、FM3A細胞、などが例示される。初代細胞あるいは継代された細胞のいずれであってもよい。
【0036】
これらの細胞の由来としては各種生物、例えば、ヒト、イヌ、ラット、マウス、トリ、ブタ、ウシ、昆虫等の細胞、または、これらが集合して形成された組織、器官、微生物、ウイルスなどが挙げられ、より具体的には、ヒト子宮頚部癌由来、Chinese hamster卵巣由来、CV−1細胞由来、ヒト骨髄性白血病由来、ヒト乳癌由来、ヒトT細胞白血病由来、Africa green monkey腎由来、ヒト副腎髄褐色細胞種由来、ヒト骨髄性白血病由来、C3Hマウス皮下組織由来、ヒト胎児腎由来、ヒト肝癌由来、ヒト組織球性白血病由来、ヒト大腸癌由来、ヒト肺癌由来、マウスメラノーマ由来、イヌ腎臓由来、Balb/cマウス胎仔由来、Chinese hamster肺由来、Swiss3T3由来、NIH Swissマウス胎仔由来、ヒトバーキットリンパ腫由来、ヒト肺非小細胞癌由来、ヒト皮膚Epidermoid Carcinoid由来、蛾の幼虫卵巣由来、Syrian golden hamster腎由来、マウスマクロファージ由来、マウス筋組織由来、雑系Swissマウス胎仔由来、ヒト急性T細胞白血病由来、マウスEC細胞OTT6050由来、マウスcalvaria由来、ヒト表皮角化細胞由来、DBA/2マウス胸腺腫瘍由来、ヒト幹細胞癌由来、ラット結合組織由来、ヒト骨肉腫由来、ヒト胎児肺由来、ヒト神経芽細胞腫由来、マウスインスリノーマ由来、ヒト胃癌由来、C3Hマウス胎仔由来、ニワトリB細胞白血病由来、マウス自然発生乳癌由来、などが例示される。
【0037】
(医療器具に利用するフッ素含有環状オレフィンポリマー)
本発明における基材の凹凸構造を有する一面に細胞を接触させる医療器具の上記一面を形成するために用いられるフッ素含有環状オレフィンポリマーは、下記一般式(1)で表される構造単位を含有する。
【0038】
【化5】
(式(1)中、R
1〜R
4のうち、少なくとも1つは、フッ素、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルキル基、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルコキシ基、またはフッ素を含有する炭素数2〜10のアルコキシアルキル基である。R
1〜R
4がフッ素を含有しない基である場合、R
1〜R
4は、水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または炭素数2〜10のアルコキシアルキル基から選ばれる。R
1〜R
4は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R
1〜R
4は互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
【0039】
一般式(1)においてR
1〜R
4は、フッ素;フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、ヘプタフルオロイソプロピル基、ヘキサフルオロ−2−メチルイソプロピル基、ペルフルオロ−2−メチルイソプロピル基、n−ペルフルオロブチル基、n−ペルフルオロペンチル基、ペルフルオロシクロペンチル基等のアルキル基の水素の一部または全てがフッ素で置換されたアルキル等のフッ素を含有する炭素数1〜10のアルキル基;フルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、トリフルオロエトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、ヘプタフルオロプロポキシ基、ヘキサフルオロイソプロポキシ基、ヘプタフルオロイソプロポキシ基、ヘキサフルオロ−2−メチルイソプロポキシ基、ペルフルオロ−2−メチルイソプロポキシ基、n−ペルフルオロブトキシ基、n−ペルフルオロペントキシ基、ペルフルオロシクロペントキシ基等のアルコキシ基の水素の一部または全てがフッ素で置換されたアルコキシ基等のフッ素を含有する炭素数1〜10のアルコキシ基;またはフルオロメトキシメチル基、ジフルオロメトキシメチル基、トリフルオロメトキシメチル基、トリフルオロエトキシメチル基、ペンタフルオロエトキシメチル基、ヘプタフルオロプロポキシメチル基、ヘキサフルオロイソプロポキシメチル基、ヘプタフルオロイソプロポキシメチル基、ヘキサフルオロ−2−メチルイソプロポキシメチル基、ペルフルオロ−2−メチルイソプロポキシメチル基、n−ペルフルオロブトキシメチル基、n−ペルフルオロペントキシメチル基、ペルフルオロシクロペントキシメチル基等のアルコキシアルキル基の水素の一部または全てがフッ素で置換されたアルコキシアルキル基等のフッ素を含有する炭素数2〜10のアルコキシアルキル基が例示される。
【0040】
また、R
1〜R
4が互いに結合して環構造を形成していてもよく、ペルフルオロシクロアルキル、酸素を介したペルフルオロシクロエーテル等の環を形成してもよい。
さらに、フッ素を含有しないその他のR
1〜R
4は、水素;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、2−メチルイソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基等の炭素数1〜10のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基;またはメトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、ペントキシメチル基等の炭素数2〜10のアルコキシアルキル基が例示できる。好ましくは、式(1)中のR
1〜R
4は、それぞれが、フッ素またはフッ素原子を含む置換基である。
【0041】
フッ素含有環状オレフィンポリマーは、一般式(1)で表される構造単位のみを有するものであってもよく、一般式(1)で表される構造単位とともに他の構造単位を有するものであってもよい。また、フッ素含有環状オレフィンポリマーは、一般式(1)で表される構造単位であって、R
1〜R
4の少なくとも1つが互いに異なる二種類以上の構造単位を含んでいてもよい。
【0042】
本発明における一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーの具体的な例として、ポリ(1−フルオロ−2−トリフルオロメチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−フルオロ−1−トリフルオロメチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−メチル−1−フルオロ−2−トリフルオロメチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1−ジフルオロ−2−トリフルオロメチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−2−トリフルオロメチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロエチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1−ビス(トリフルオロメチル)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−2−トリフルオロメチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロエチル−2−トリフルオロメチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−ペルフルオロ−iso−プロピル−2−トリフルオロメチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ビス(トリフルオロメチル)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロプロピル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−メチル−2−ペルフルオロプロピル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ブチル−2−ペルフルオロプロピル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロ−iso−プロピル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−メチル−2−ペルフルオロ−iso−プロピル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1,2−ビス(トリフルオロメチル)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2,2,3,3,3a,6a−オクタフルオロシクロペンチル−4,6−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2,2,3,3,4,4,3a,7a−デカフルオロシクロヘキシル−5,7−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロブチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロ−iso−ブチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロ−tert−ブチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−メチル−2−ペルフルオロ−iso−ブチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ブチル−2−ペルフルオロ−iso−ブチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−2−ペルフルオロエチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−(1−トリフルオロメチル−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−シクロペンチル)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ((1,1,2−トリフルオロ−2−ペルフルオロブチル)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−2−ペルフルオロブチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−フルオロ−1−ペルフルオロエチル−2,2−ビス(トリフルオロメチル))−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−ペルフルオロプロピル−2−トリフルオロメチル)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロヘキシル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−メチル−2−ペルフルオロヘキシル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ブチル−2−ペルフルオロヘキシル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ヘキシル−2−ペルフルオロヘキシル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−オクチル−2−ペルフルオロヘキシル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロヘプチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロオクチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロデカニル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−ペルフルオロペンチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−2−ペルフルオロブチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−ペルフルオロヘキシル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−2−ペルフルオロペンチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ビス(ペルフルオロブチル)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ビス(ペルフルオロヘキシル)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−メトキシ−2−トリフルオロメチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−tert−ブトキシメチル−2−トリフルオロメチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,3,3,3a,6a−ヘキサフルオロフラニル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−フルオロ−2−トリフルオロメトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−フルオロ−1−トリフルオロメトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−メチル−1−フルオロ−2−トリフルオロメトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1−ジフルオロ−2−トリフルオロメトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−2−トリフルオロメトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロエトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1−ビス(トリフルオロメトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−2−トリフルオロメトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ビス(トリフルオロメトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロプロポキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−メチル−2−ペルフルオロプロポキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ブチル−2−ペルフルオロプロポキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロ−iso−プロポキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−メチル−2−ペルフルオロ−iso−プロポキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1,2−ビス(トリフルオロメトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロブトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロ−iso−ブトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロ−tert−ブトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−メチル−2−ペルフルオロ−iso−ブトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ブチル−2−ペルフルオロ−iso−ブトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメトキシ−2−ペルフルオロエトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−2−ペルフルオロブトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメトキシ−2−ペルフルオロブトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−フルオロ−1−ペルフルオロエトキシ−2,2−ビス(トリフルオロメトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−ペルフルオロプロポキシ−2−トリフルオロメトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロヘプトキシ3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−メチル−2−ペルフルオロヘプトキシ3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ブチル−2−ペルフルオロヘプトキシ3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ヘキシル−2−ペルフルオロヘプトキシ3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−オクチル−2−ペルフルオロヘプトキシ3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロヘプトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロオクトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ペルフルオロデシロキシ3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−ペルフルオロペントキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメトキシ−2−ペルフルオロブトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−2−ペルフルオロヘプトキシ3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメトキシ−2−ペルフルオロペンチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ビス(ペルフルオロブトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ビス(ペルフルオロヘプトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−メトキシ−2−トリフルオロメトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−tert−ブトキシメチル−2−トリフルオロメトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−(2',2',2'−トリフルオロエトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−(2',2',3',3',3'−ペンタフルオロプロポキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−メチル−2−(2',2',3',3',3'−ペンタフルオロプロポキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ブチル−2−(2',2',3',3',3'−ペンタフルオロプロポキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−(1',1',1'−トリフルオロ−iso−プロポキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−メチル−(1',1',1'−トリフルオロ−iso−プロポキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−(2',2',3',3',4',4',4'−ヘプタフルオロブトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−(1',1',1'−トリフルオロ−iso−ブトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−(1',1',1'−トリフルオロ−iso−ブトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−メチル−2−(1',1',1'−トリフルオロ−iso−ブトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ブチル−2−(1',1',1'−トリフルオロ−iso−ブトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメトキシ−2−(2',2',2'−トリフルオロエトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−2−(2',2',3', 3',4',4',4'−ヘプタフルオロブトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメトキシ−2−(2',2',3', 3',4',4',4'−ヘプタフルオロブトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−フルオロ−1−(2',2',2'−トリフルオロエトキシ)−2,2−ビス(トリフルオロメトキシ))−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−(2',2',3',3',3'-ペンタフルオロプロポキシ)−2−トリフルオロメトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−(2',2',3',3',4',4',5',5',6',6',6'−ウンデカフルオロヘプトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−メチル−2−(2',2',3',3',4',4',5',5',6',6',6'−ウンデカフルオロヘプトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ブチル−2−(2',2',3',3',4',4',5',5',6',6',6'−ウンデカフルオロヘプトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−ヘキシル−2−(2',2',3',3',4',4',5',5',6',6',6'−ウンデカフルオロヘプトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−オクチル−
2−(2',2',3',3',4',4',5',5',6',6',6'−ウンデカフルオロヘプトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−(2',2',3',3',4',4',5',5',6',6',7',7',7'−トリデカフルオロヘプトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−(2',2',3',3',4',4',5',5',6',6',7',7',8',8',8'−ペンタデカフルオロオクトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−(2',2',3',3',4',4',5',5',6',6',7',7',8',8',9',9',9'−ヘプタデカフルオロデシロキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−2−(1',1',1'−トリフルオロ−iso−プロポキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメトキシ−2−(2',2',3',3',4',4',4'−ヘプタフルオロブトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−(2',2',3',3',4',4',5',5',6',6',6'−ウンデカフルオロヘプトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ビス(2',2',3',3',4',4',4'−ヘプタフルオロブトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ビス(2',2',3',3',4',4',5',5',6',6',6'−ウンデカフルオロヘプトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)等が挙げられる。
【0043】
本発明におけるフッ素含有環状オレフィンポリマーの分子量は、例えば試料濃度3.0〜9.0mg/mlでゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)において、5,000〜1,000,000であることが好ましく、10,000〜300,000であることがより好ましい。この重量平均分子量(Mw)を上記下限値以上とすることにより、溶液キャスト法により成形した成形物、あるいは基材にコートした成形物において曲げなどの外部応力に起因したヒビなどの発生しない、良好な状態の成形物をより確実に得ることができる。また、重量平均分子量(Mw)を上記上限値以下とすることにより、溶融成形が容易な流動性を持つことができる。
【0044】
また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)は、1.3〜5.0とすることが好ましく、1.5〜4.5とすることがより好ましく、1.7〜4.0とすることがとくに好ましい。この分子量分布(Mw/Mn)を上記下限値以上とすることにより、溶液キャスト法や溶融成形法などの各種成形法で作製したフィルムまたは成形物の靱性を向上させ、外部応力に起因したクラックや割れの発生をより効果的に抑制することができる。一方で、分子量分布(Mw/Mn)を上記上限値以下とすることにより、オリゴマーなどの特に低分子量成分が溶出することを抑え、凹凸構造を形成した基材表面の水接触角が変化して細胞増殖の形態が妨げられることをより確実に抑制することが可能となる。重量平均分子量(Mw)、および分子量分布(Mw/Mn)を上記した範囲とすることにより、医療用または細胞培養および細胞を利用した検査に用いられるものとしてとくに好適な医療器具を得ることができる。
【0045】
示差走査熱量分析によるフッ素含有環状オレフィンポリマーのガラス転移温度は、50〜300℃とすることが好ましく、80〜280℃とすることがより好ましく、100〜250℃とすることがさらに好ましい。ガラス転移温度が上記範囲であると、加熱滅菌処理が行え、また使用環境下で形状を維持することができ、さらに溶融成形において加熱温度に対して優れた流動性を有し製造安定性良く、色相にも優れた医療用または細胞培養および細胞を利用した検査のための基材としての医療器具を好適に得ることができる。
【0046】
本発明における一般式(1)で表される構造単位を含有する部分化フッ素化ポリマーは、全フッ素化ポリマーとは異なり、主鎖が炭化水素で側鎖にフッ素原子を有する部分的なフッ素化ポリマーである構造であり、これに起因して極性が大きくなる。これにより、ポリマー合成時の溶剤である通常市販されているエーテルやケトンなどの極性溶剤に対して良く溶解し、光硬化性化合物などの極性化合物にも優れた溶解性を示しながら、本発明のフッ素含有環状オレフィンポリマーの成形物は、培養基材として市販されているガラス製、ポリスチレン製、またはオレフィンポリマー製の表面性状に対して水接触角が70°以上の比較的疎水な表面性状を有する。これにより、培養した群体形状のスフェロイドやコロニーなどの細胞塊や細胞シートを、例えば、リン酸緩衝液により浮遊させ容易に基材から離脱させることができる。
【0047】
本発明における上述の樹脂の利用形態においては、例えば、医療用または細胞培養バッグ、プレート、シャーレ、ディッシュ、フラスコ、チューブなどが例示できる。ここでは、例えば、細胞は、生体臓器や血液などを含む細胞であってもよい。
【0048】
(フッ素含有環状オレフィンポリマーの製造方法)
次に、フッ素含有環状オレフィンポリマーの製造方法について説明する。
以下に記載の製造方法によって得られるフッ素含有環状オレフィンポリマーからなる凹凸構造を形成した成形物を、本発明の医療器具における基材として用いることにより、細胞の接着、または付着が抑制されることを特徴とする医療器具を好適に得ることができる。
【0049】
具体的には、下記一般式(2)で表される環状オレフィンモノマーを開環メタセシス重合触媒によって連鎖移動重合し、得られる重合体の主鎖のオレフィン部を水素添加することによって、フッ素含有環状オレフィンポリマーを合成することができる。
【0050】
【化6】
(式(2)中、R
1〜R
4は、一般式(1)のR
1〜R
4と同義である。また、R
1〜R
4は互いに結合して環構造を形成していてもよい。好ましくは、式(2)中のR
1〜R
4は、それぞれが、フッ素またはフッ素原子を含む置換基である。)
【0051】
なお、本発明の効果を損なわない範囲であれば、一般式(2)で表される環状オレフィンモノマー以外のモノマーを含んでいてもよい。
【0052】
ここで、本発明のフッ素含有環状オレフィンポリマーを合成するに際し、一般式(2)で表されるモノマーは、重合に寄与する化合物全体のうち、90〜100量%用いることが好ましく、95〜100質量%用いることがより好ましく、98〜100質量%用いることが更に好ましい。
【0053】
本発明の一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーは、一般式(2)で表されるモノマーを開環メタセシス重合した後に、主鎖の二重結合を水素添加(水添)したフッ素含有ポリマーである。開環メタセシス重合は、Schrock触媒が好ましく用いられ、Grubbs触媒を用いてもよく、これにより極性モノマーに対する重合触媒活性を高め、工業的に優れた製造方法を実現することが可能となる。なお、これらの開環メタセシス重合触媒は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、古典的な有機遷移金属錯体、遷移金属ハロゲン化物または遷移金属酸化物と、助触媒としてのルイス酸との組み合せからなる開環メタセシス重合触媒を用いることもできる。
【0054】
また、開環メタセシス重合を行う時は分子量、およびその分布を制御するために、連鎖移動剤としてオレフィンまたはジエンを使用することができる。オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィンまたはこれらのフッ素含有オレフィンを用いることができる。さらには、ビニルトリメチルシラン、アリルトリメチルシラン、アリルトリエチルシラン、アリルトリイソプロピルシラン等のケイ素含有オレフィンまたはこれらのフッ素およびケイ素含有オレフィン等も連鎖移動剤として用いることもできる。また、ジエンとしては、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン等の非共役系ジエンまたはこれらのフッ素含有非共役系ジエンがあげられる。これらオレフィン、フッ素含有オレフィンまたはジエンはそれぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0055】
また、モノマーの開環メタセシス重合は、無溶剤で行っても溶剤を使用してもよい。溶剤を使用する場合の溶剤としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタンもしくはジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピルもしくは酢酸ブチル等のエステル類;ベンゼン、トルエン、キシレンもしくはエチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサンもしくはヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンもしくはデカリン等の脂肪族環状炭化水素類;メチレンジクロライド、ジクロロエタン、ジクロロエチレン、テトラクロロエタン、クロロベンゼンもしくはトリクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、メタキシレンヘキサフルオライド等のフッ素含有芳香族炭化水素類;ペルフルオロヘキサン等のフッ素含有脂肪族炭化水素類;ペルフルオロシクロデカリン等のフッ素含有脂肪族環状炭化水素類;またはペルフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフラン等のフッ素含有エーテル類を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
モノマーの開環メタセシス重合では、該モノマーの反応性および重合溶剤ヘの溶解性によっても異なるが、モノマー溶液に対するモノマーの濃度は5〜100質量%であることが好ましく、10〜60質量%であることがより好ましい。また、反応温度は、−30〜150℃であることが好ましく、30〜100℃であることがより好ましい。また、反応時間は、10分〜120時間であることが好ましく、30分〜48時間であることがより好ましい。さらに、ブチルアルデヒド等のアルデヒド類、アセトン等のケトン類、メタノール等のアルコール類、水等の失活剤で反応を停止し、重合体の溶液を得ることができる。
【0057】
開環メタセシス重合で得られたポリマーの主鎖の二重結合部を水素添加するための触媒は、水素添加できる触媒であれば、均一系金属錯体触媒でも不均一系の金属担持触媒のいずれであってもよい。均一系金属錯体触媒として、例えば、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)オスミウム、ジクロロヒドリドビス(トリフェニルホスフィン)イリジウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロトリス(トリメチルホスフィン)ルテニウム等が挙げられ、また、不均一系金属担持触媒として、例えば、活性炭担持パラジウム、アルミナ担持パラジウム、活性炭担持ロジウム、アルミナ担持ロジウム、活性炭担持ルテニウム、アルミナ担持ルテニウム等が挙げられる。本発明においてはこれらの水添触媒は、好ましくは、容易に分離できる不均一系金属担持触媒が好適であり、また、単独で用いてもよく、または二種類以上を組合せて使用することもできる。
【0058】
水素添加に用いられる溶剤としては、ポリマーを溶解し、かつ、溶剤自身が水素添加されないものであれば特に制限はなく、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタンなどのエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピルまたは酢酸ブチル等のエステル類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族環状炭化水素類;メチレンジクロリド、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロエチレン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、メタキシレンヘキサフルオライド等のフッ素含有芳香族炭化水素類;ペルフルオロヘキサン等のフッ素含有脂肪族炭化水素類;ペルフルオロシクロデカリン等のフッ素含有脂肪族環状炭化水素類;ペルフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフラン等のフッ素含有エーテル類等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0059】
上記の主鎖のオレフィン部の水素添加反応は、水素圧力が常圧〜10MPaであることが好ましく、0.5〜8MPaであることがより好ましく、2〜5MPaであることがとくに好ましい。また、反応温度は、0〜200℃の温度であることが好ましく、室温〜150℃であることがより好ましく、50〜100℃であることがとくに好ましい。水素添加反応の実施様式は、特に制限はないが、例えば、触媒を溶剤中に分散または溶解して行う方法、触媒をカラムなどに充填し、固定相としてポリマー溶液を流通させて行う方法などが挙げられる。
【0060】
さらに、主鎖のオレフィン部の水素添加処理は、水素添加処理前のポリマーの重合溶液を貧溶剤に析出させポリマーを単離した後に、再度溶剤に溶解して水素添加処理を行なっても、重合溶液からポリマーを単離することなく、上記の水添触媒で水素添加処理を行なってもよく、特に制限はない。
【0061】
また、ポリマーのオレフィン部の水素添加率は80%以上であることが好ましく、90〜100%であることが好ましく、95〜100%であることが更に好ましい。水素添加率を上記下限値以上とすることは、オレフィン部において、光吸収に起因した劣化や成形時の加熱に起因した酸化が生じることを抑制し、基材との接着性を良好なものとすることができる。さらに、2重結合の残留によって蛍光顕微鏡での成長細胞の観察を妨げることがある。
【0062】
水素添加後、特に、活性炭担持パラジウム、アルミナ担持パラジウムなどの固体触媒を好ましく用いる場合のポリマー溶液からポリマーを取得する方法は、特に制限はないが、例えば、ろ過、遠心分離、デカンテーション等の方法でポリマーを取得し、撹拌下の貧溶剤に反応溶液を排出する方法、反応溶液中にスチームを吹き込むスチームストリッピング等の方法によってポリマーを析出させる方法、または、反応溶液から溶剤を加熱等によって蒸発除去する方法等が挙げられる。
【0063】
また、不均一系金属担持触媒を利用して水素添加反応を実施した場合は、合成液をろ過して金属担持触媒をろ別した後に、上記した方法でポリマーを取得することもできる。なお、粒径の大きな触媒成分を予めデカンテーション、遠心分離などの方法でポリマー溶液中に沈降させ、上澄みを採取し、触媒成分を粗取りした溶液をろ過し、上記した方法でポリマーを取得してもよい。特に、触媒成分を精密ろ過することが、好適であり、ろ過フィルターの目開きは、好ましくは、10μm〜0.05μm、特に好ましくは、10μm〜0.10μm、さらに好ましくは、5μm〜0.10μmである。
【0064】
(フッ素含有環状オレフィンポリマーまたはフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を利用した医療器具の作製方法)
本発明におけるフッ素含有環状オレフィンポリマーまたはフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を利用した医療器具は、医療用または細胞培養、または細胞の検査のため等に用いることができる。ここで医療器具を作製する方法について記載する。本発明における医療器具は、例えば、凹凸構造を形成したフィルムやシート状の単層膜からなる基材や、他の材料の上に凹凸構造を形成したフィルムやシート状の単層膜を接着剤または粘着剤などで本発明の樹脂または他樹脂または他材料に貼り付けて形成してしてもよい。さらに、押出しフィルム成型や射出成型のような方法でロールまたは金型に凹凸構造をつけて凹凸構造を形成してもよい。
【0065】
さらに、具体的には、ワニス状のフッ素含有環状オレフィンポリマーまたはフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を、溶液キャスト法でパターンモールドに塗工し、溶剤蒸発または溶剤蒸発後にUV照射するインプリント法や、予めフィルム成型し、熱加圧またはUV硬化でモールドのパターンを転写するインプリント方法、または押出しフィルム成型や射出成型のような方法でロールまたは金型の表面に凹凸構造のパターンをつけて凹凸構造を形成する溶融成型、または、ロールtoロールでのUV硬化でモールドのパターンを付形する方法を挙げることができる。
【0066】
本発明におけるこれらの凹凸構造の凹部は凸凸間の幅(L1)であり、好ましくは10μm〜1000μmのパターンを賦型したものであり、より好ましくは20μm〜1000μm、さらに好ましくは50μm〜1000μmのパターンをインプリント賦型したものであり、凹部底面に安定的に細胞を接触させることができる。また、凹凸構造の凸部の幅は、好ましくは1μm〜300μmのパターンを賦型したものであり、より好ましくは3μm〜300μm、さらに好ましくは5μm〜300μmであり、凸部の高さは、好ましくは10μm〜1000μmのパターンを賦型したものであり、より好ましくは20μm〜1000μm、さらに好ましくは50μm〜1000μmである。これにより、播種した細胞を適切な密度で基材全面に均一に接触または保持させることができ、培養した後の形状で、群体形状のスフェロイド、コロニーなどの細胞塊や細胞シートをリン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液によって浮遊させ容易に基材から離脱させることができる。
【0067】
凹凸構造の形状は、特に限定されないが、これらの凹凸構造は、スクリーン印刷、エンボス加工、サブミクロンインプリント、ナノインプリントなど様々な方法で形成した円形、正方形、長方形、正三角形、正六角形など様々な形状であってもよく、凸凸間の幅(L1)は、その最大長さである。
【0068】
本発明の医療器具を製造する上で、一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーまたはフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物は、次の有機溶剤を使用して作製してもよい。例えば、メタキシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライド、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等のフッ素含有芳香族炭化水素類;ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン等のフッ素含有脂肪族炭化水素類;ペルフルオロシクロデカリン等のフッ素含有脂肪族環状炭化水素類;ペルフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフラン等のフッ素含有エーテル類;クロロホルム、クロルベンゼン、トリクロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;または、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等を挙げることができる。これらのうちから、溶解性や製膜性を考慮して選択することができる。また、これらは単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。特に、製膜性の観点からは、大気圧下で70℃以上の沸点をもつ溶剤が好ましい。これにより、蒸発速度が速くなりすぎることを確実に抑えることができ、膜表面におけるムラの発生を抑制でき、また、製膜時における膜厚精度の向上にも資することができる。
【0069】
一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーまたはフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を溶解させる濃度は、1.0〜99.0質量%であることが好ましく、5.0〜90.0質量%であることがより好ましく、10.0〜80.0質量%であることがとくに好ましい。濃度は、ポリマーの溶解性やろ過プロセスへの適応性、パターン成形性、製膜性、フィルムの膜厚を考慮して選択してもよい。
【0070】
さらに、本発明においてフィルム特性を損なわない範囲であれば、必要に応じて他の公知の成分を加えてよい。他の成分としては、老化防止剤、レベリング剤、濡れ性改良剤、界面活性剤、可塑剤等の改質剤、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤などの安定剤、光増感剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0071】
次いで、上記一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーまたはフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物のワニスは、フィルターを通過させてろ過することができる。これによって、ワニスのポリマー不溶分やゲル、異物等の含有量を大きく低減させることができ、細胞を培養する培養器具や、細胞を利用した検査を行う検査器具としての基材表面のパターンを安定的に形成することができる。加えて、疎水性を示す表面性状を全面にわたって均一に形成することができる。
【0072】
ろ過フィルターの目開きは、好ましくは10μm〜0.05μm、より好ましくは10μm〜0.1μm、さらに好ましくは5μm〜0.1μmである。ろ過のプロセスは、孔径の大きなフィルターから小さなフィルターへポリマー溶液を送る多段プロセスでも、直接、孔径の小さなフィルターへワニスを送る単一プロセスでもよい。フィルターの材質は、テフロン(登録商標)、ポリプロピレン(PP)、ポリエーテルスルホン(PES)、セルロースなどの有機材料からなるものでも、ガラス繊維、金属などの無機材料からなるものでもよく、細胞培養に悪影響を与えなければワニス特性、プロセス適応性から選ぶことができる。
【0073】
また、ワニスをフィルターへ送る方法としては、圧力差を利用する方法でも、スクリューなどを介して機械的な駆動によってワニスをフィルターへ送液する方法でもよい。さらに、ろ過の温度は、フィルター性能や、溶液粘度、ポリマーの溶解性を考慮した範囲で選ばれ、−10〜200℃であることが好ましく、0℃〜150℃であることがより好ましく、室温〜100℃であることがとくに好ましい。
【0074】
次に、上記の一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーを有機溶剤に溶解したワニスからフィルムの一面に凹凸構造を形成した基材の作製方法の例を示す。本発明においては、種々のインプリント法により凹凸構造が形成された基材が作製される。
【0075】
本発明の基材の作製に用いられるモールドは、表面に微細パターンが形成されたものである。このモールドの基材材質としては、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、ゲルマニウム、チタン、シリコン等の金属材料、ガラス、石英、アルミナ等の無機材料、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂材料、ダイヤモンド、黒鉛等の炭素材料等が挙げられる。
【0076】
凹凸構造が形成された基材は、上記ワニスとモールドのパターン面を接触させ、溶剤を蒸発させることによってモールドのパターンを転写すること、または、フィルムを作製後にモールドパターンを加熱転写すること、または、モールドパターンに塗工した本発明の組成物をUV硬化し転写することにより得ることができる。
【0077】
本発明の一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーを有機溶剤に溶解したワニスと、モールドとを接触させる方法としては特に制限はないが、例えば、テーブルコート、スピンコート、ダイコート、スプレーコート、バーコート、ロールコートなどの方法でモールドの微細なパターン面の上にポリマー溶液(ワニス)を塗布する方法、または、ステンレス鋼、シリコン等の金属材料、ガラス、石英等の無機材料、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂材料等の基材の上にテーブルコート、スピンコート、ダイコート、スプレーコート、バーコート、ロールコートなどの方法でポリマー溶液を塗布し、モールドの微細なパターン面をそれに被せて接触させる方法のいずれであってもよい。
【0078】
具体的には、(A)微細パターンを有するモールド表面に、フッ素含有環状オレフィンポリマーと有機溶剤からなる溶液(ワニス)を塗布する工程と、上記溶液から溶剤を蒸発させる工程と、を含む方法、(B)支持体(基材)にフッ素含有環状オレフィンポリマーと有機溶剤からなる溶液(ワニス)を塗布する工程と、塗布層の上面を微細パターンが形成されたモールド表面で押圧する工程と、上記塗布層から溶剤を蒸発させる工程と、を含む方法、等を挙げることができる。尚、(B)の方法においては、塗布層から溶剤を蒸発させた後、モールドで押圧することもできる。
【0079】
転写体から溶剤を蒸発させ、乾燥する温度は通常10〜300℃であり、好ましくは50〜200℃の範囲であり、圧力は通常133Paから大気圧の範囲であり、さらに、乾燥時間は通常10分〜120時間であり、好ましくは30分〜48時間の範囲で実施することができる。また、乾燥温度、圧力および時間はそれぞれの設定で段階的に変化させてもよい。
【0080】
本発明においては、溶剤を蒸発させてモールド上に転写体を形成させた後、この転写体を剥離することで、基材が得られる。転写体の剥離は、ガラス転移温度以下の温度で行なうことが好ましく、さらに、(ガラス転移温度−20℃)以下の温度で剥離することがより好ましい。これによって転写体に形成されたパターン形状を精度よく保持し、容易に剥離することができる。剥離の方法は、モールドから剥離によって離型しても、または、モールドと転写体を例えば水などの媒体と浸漬やスプレーなどの方法で接触させた後に表面張力を利用して剥離することができる。また、転写体背面に樹脂材、或いは、ガラス等の無機材を貼り付け該基板を支持体に剥離してもよい。
【0081】
また、本発明の凹凸構造が形成された基材は、一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーまたはフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物からなるフィルムを、モールドのパターン面と接触させて押圧することによってモールドのパターンを加熱またはUV硬化転写させることにより得ることもできる。
【0082】
例えば、フィルムにガラス転移温度以上に加熱したモールドを圧着する方法、または、フィルムをガラス転移温度以上に加熱しモールドを圧着させる方法、または、フィルム及びモールドをガラス転移温度以上に加熱し、モールドを圧着する方法が好ましく、加熱温度は、ガラス転移温度〜(ガラス転移温度+100℃)の範囲であり、好ましくは、(ガラス転移温度+5℃)〜(ガラス転移温度+50℃)であり、また、圧着圧力は、通常1MPa〜100MPaであり、好ましくは、1MPa〜60MPaの範囲である。これにより、転写体に形成されたパターン形状を精度よく形成することができる。
【0083】
圧着によってモールド上に形成させた転写体の剥離は、ガラス転移温度以下の温度で行なうことが好ましく、さらに、(ガラス転移温度−20℃)以下の温度で剥離することがより好ましい。これによって転写体に形成されたパターン形状を精度よく保持し、容易に離脱することができる。剥離の方法は、モールドから剥離によって剥離しても、または、モールドと転写体を例えば水などの媒体と浸漬やスプレーなどの方法で接触させた後に表面張力を利用して剥離することができる。また、転写体背面に樹脂材、或いは、ガラス等の無機材を貼り付け該基板を支持体に剥離してもよい。
【0084】
さらに、溶融成形法により凹凸構造を形成した基材となるフィルムを作製する方法が挙げられる。溶融成形法でフィルム製造する方法としては、上記に例示したフッ素含有環状オレフィンポリマーを溶融混練機を用いてTダイを経てフィルム化する方法が挙げられる。Tダイによる溶融押出しフィルム製造においては、例えば、必要に応じて添加剤を配合した環状オレフィンポリマーを押出機に投入し、ガラス転移温度よりも好ましくは50℃〜200℃高い温度、より好ましくは80℃〜150℃高い温度で溶融混練し、Tダイから押出し、冷却ロールで送りながらポリマーのガラス転移温度以上に加熱した表面に微細なパターンを有するロール形状のモールドをフィルムに押し当てることで凹凸構造を形成したフィルムに加工する。この際の、表面に微細なパターンを有するロールの加熱温度は、上述のフィルムとモールドを加熱圧着することにより凹凸構造を形成する際の加熱温度と同じ範囲で用いられる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤等の添加剤を添加してもよい。
【0085】
本発明において、例えば、フッ素含有環状オレフィンポリマーまたはフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を用いて作製されるフィルム基材の膜厚は、1〜10000μmであることが好ましく、5〜5000μmであることがより好ましく、10〜2000μmであることがとくに好ましい。これらは、例えば、培養バッグ、培養プレート、培養シャーレなどの細胞培養に用いられる医療器具を作製する観点から好適な範囲となる。なお、ここでいう基材の膜厚は、基材を構成するフィルムの膜厚であり、この膜厚は、各器具を作製するプロセスや器具の用途に合わせて適宜設定することができる。射出成型基材については、特に、制限はない。
【0086】
本発明のフッ素含有環状オレフィンポリマーまたはフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を用いた、溶液キャスト法、加熱圧着法もしくは溶融成形法で製造した凹凸構造を形成したフィルムやシート、射出成型物は、ヒートシール法や、接着剤を利用したシール法、溶融押出しもしくは溶融成型などにより、例えば、袋、チューブ、成型物などの形態の医療器具を製造できる。また、ポリスチレン、ポリエチレン、金属などの他の材料で作製された、例えばシャーレ、マルチウェルプレート、フラスコなどに、本方法で得られたフィルム、シート、または溶融成型物を組み合わせた形態の医療器具を製造できる。
【0087】
本発明のフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物は、上記において例示した一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーと、光硬化性化合物と、光硬化開始剤と、を含む。本発明によれば、このようなフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を用いて、医療器具における、基材の凹凸構造を有する一面を形成することができる。
これにより、モールドの形状やサイズを精度良く転写しながら、各種部材との強固な密着性を発現しつつ、細胞培養バッグ、またはプレートなどの各種培養器具の特性等を改質することができ、細胞の接着、または付着を抑制しつつ増殖させることが可能な医療器具を提供することができる。
さらに、本発明におけるフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物は、例えばフッ素含有環状オレフィンポリマーを任意の濃度で光硬化性化合物と、光硬化開始剤と混合することで得られる。
【0088】
フッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を調製する際に用いる有機溶剤は、特に制限はないが、例えばメタキシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライド、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等のフッ素含有芳香族炭化水素類;ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン等のフッ素含有脂肪族炭化水素類;ペルフルオロシクロデカリン等のフッ素含有脂肪族環状炭化水素類;ペルフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフラン等のフッ素含有エーテル類、クロロホルム、クロルベンゼン、トリクロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2−メトキシエタノール、3−メトキシプロパノール等のアルコール類などが挙げられる。特に、光硬化性化合物そのものを調製溶剤として用いることができる。
これらのうちから、特に、製膜性の観点からは、大気圧下で70℃以上の沸点をもつ溶剤が好ましい。これにより、蒸発速度が速くなりすぎることを確実に抑えることができる。このため、塗布する際に部分的に溶剤が乾き始めてしまう等に起因して膜厚精度の悪化や膜表面におけるムラが生じてしまうことを、確実に抑制することができる。
【0089】
なお、フッ素含有環状オレフィンポリマー組成物には、必要に応じて、フッ素含有環状オレフィンポリマー、光硬化性化合物、および光硬化開始剤以外の他の公知の成分を添加することもできる。このような成分としては、例えば、老化防止剤、レベリング剤、濡れ性改良剤、界面活性剤、可塑剤等の改質剤、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤などの安定剤、光増感剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0090】
本発明のフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物における光硬化性化合物は、フッ素含有環状オレフィンポリマーと光硬化性化合物の質量比(フッ素含有環状オレフィンポリマー/光硬化性化合物)は、99.9/0.1〜50/50であることが好ましく、99.9/0.1〜55/45であることがより好ましく、99.9/0.1〜60/40であることがさらに好ましい。光硬化性化合物としては、カチオン重合可能な開環重合性化合物、反応性二重結合基を有する化合物等が挙げられる。好ましくは、コートして用いる際の硬化後の体積収縮にともなう基材の変形の抑制や、フッ素含有環状オレフィンポリマーとの相溶性の観点からカチオン重合可能な開環重合性化合物が選ばれる。
【0091】
カチオン重合可能な開環重合性化合物および反応性二重結合基を有する化合物は、1分子中に反応性基を1個有していてもよく、複数個有していてもよい。また、光硬化性化合物中には、異なる反応性基数の化合物を任意の割合で混合して用いてもよい。さらに、光硬化性化合物として、反応性二重結合基を有する化合物とカチオン重合可能な開環重合性化合物を任意の割合で混合したものを用いてもよい。これらにより、本発明のフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物でモールドのパターンを寸法精度良く転写しながら、他の材料からなる部材と寸法精度良く、かつ強固に密着させることが可能になる。また、本発明の効果を発現可能な細胞培養、もしくは細胞を検査するための基材としての医療器具を好適に得ることができる。
【0092】
光硬化性化合物のうち、カチオン重合可能な開環重合性化合物としては、例えば、シクロヘキセンエポキシド、ジシクロペンタジエンオキサイド、リモネンジオキサイド、4−ビニルシクロヘキセンジオキサイド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ジ(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルアルコール、(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)メチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、エチレン−1,2−ジ(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸)エステル、(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、フェニルグリシジルエーテル、ジシクロヘキシル−3,3´−ジエポキシド、1,7−オクタジエンジエポキシド、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、o−、m−、p−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、多価アルコールのポリグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートといった脂環式エポキシ樹脂あるいは水添ビスフェノールAのグリシジルエーテル等のエポキシ化合物等の、エポキシ化合物類が挙げられる。
【0093】
さらに、3−メチル−3−(ブトキシメチル)オキセタン、3−メチル−3−(ペンチロキシメチル)オキセタン、3−メチル−3−(ヘキシロキシメチル)オキセタン、3−メチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−メチル−3−(オクチロキシメチル)オキセタン、3−メチル−3−(デカニロキシメチル)オキセタン、3−メチル−3−(ドデカニロキシメチル)オキセタン、3−メチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ブトキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ペンチロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(オクチロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(デカニロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ドデカニロキシメチル)オキセタン、3−(シクロヘキシロキシメチル)オキセタン、3−メチル−3−(シクロヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(シクロヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3,3−ジメチルオキセタン、3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−メチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタン、3−n−プロピル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−イソプロピル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−n−ブチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−イソブチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−sec−ブチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−tert−ブチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシル)オキセタン等、
その他、オキセタニル基を2個以上有する化合物としてビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル(3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタン)、1,2−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)]エタン、1,3−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)]プロパン、1,3−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)]−2,2−ジメチル−プロパン、1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ブタン、1,6−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ヘキサン、1,4−ビス[(3−メチル−3−オキセタニル)メトキシ]ベンゼン、1,3−ビス[(3−メチル−3−オキセタニル)メトキシ]ベンゼン、1,4−ビス{[(3−メチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、1,4−ビス{[(3−メチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}シクロヘキサン、4,4´−ビス{[(3−メチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ビフェニル、4,4´−ビス{[(3−メチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ビシクロヘキサン、2,3−ビス[(3−メチル−3−オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ビス[(3−メチル−3−オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス[(3−メチル−3−オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]ベンゼン、1,3−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]ベンゼン、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}シクロヘキサン、4,4´−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ビフェニル、4,4'−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ビシクロヘキサン、2,3−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン等のオキセタン化合物類が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上組み合わせで用いてもよい。
【0094】
また、光硬化性化合物のうち、反応性二重結合基を有する化合物としては、例えば、フルオロジエン(CF
2=CFOCF
2CF
2CF=CF
2、CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)CF=CF
2、CF
2=CFCF
2C(OH)(CF
3)CH
2CH=CH
2、CF
2=CFCF
2C(OH)(CF
3)CH=CH
2、CF
2=CFCF
2C(CF
3)(OCH
2OCH
3)CH
2CH=CH
2、CF
2=CFCH
2C(C(CF
3)2OH)(CF
3)CH
2CH=CH
2等)などのオレフィン類;ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの環状オレフィン類;シクロヘキシルメチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類;酢酸ビニルなどのビニルエステル類;(メタ)アクリル酸、フェノキシエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、アリルアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、テトラヒドロフルフリールアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリオキシエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N−ビニルピロリドン、ジメチルアミノエチルメタクリレートなどの(メタ)アクリル酸及びその誘導体またはそれらのフッ素含有アクリレート類などが挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上組み合わせで用いてもよい。
【0095】
本発明の上記モノマーを硬化させる為の光硬化開始剤としては、光の照射によってカチオンを生成する光カチオン開始剤、光の照射によってラジカルを生成する光ラジカル開始剤、などが挙げられる。光硬化開始剤の使用量は、光硬化性化合物100質量部に対して0.05質量部以上であることが好ましく、0.1〜10質量部であることがより好ましい。
【0096】
光硬化開始剤のうち、光の照射によってカチオンを生成する光カチオン開始剤としては、光照射により、上記カチオン重合可能な開環重合性化合物類のカチオン重合を開始させる化合物であれば特に限定はないが、例えば、オニウム陽イオンと対を成す陰イオンとのオニウム塩のように光反応しルイス酸を放出する化合物が好ましい。
【0097】
オニウム陽イオンの具体例としては、ジフェニルヨードニウム、4−メトキシジフェニルヨードニウム、ビス(4−メチルフェニル)ヨードニウム、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム、トリフェニルスルホニウム、ジフェニル−4−チオフェノキシフェニルスルホニウム、ビス〔4−(ジフェニルスルフォニオ)−フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル)スルホニオ)−フェニル〕スルフィド、η
5−2,4−(シクロペンタジェニル)〔1,2,3,4,5,6−η−(メチルエチル)ベンゼン〕−鉄(1+)等が挙げられる。また、オニウム陽イオン以外に、過塩素酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、トリニトロトルエンスルホン酸イオン等が挙げられる。また、これらの光カチオン開始剤は、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0098】
一方、陰イオンの具体例としては、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロアルセネート、ヘキサクロロアンチモネート、テトラ(フルオロフェニル)ボレート、テトラ(ジフルオロフェニル)ボレート、テトラ(トリフルオロフェニル)ボレート、テトラ(テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラ(ペルフルオロフェニル)ボレート、テトラ(トリフルオロメチルフェニル)ボレート、テトラ[ジ(トリフルオロメチル)フェニル)]ボレート等が挙げられる。また、これらの光カチオン開始剤は、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0099】
さらに好ましく用いられる光カチオン開始剤の具体例としては、例えば、イルガキュアー250(BASF社製)、イルガキュアー290(BASF社製)、イルガキュアー784(BASF社製)、エサキュアー1064(ランベルティー社製)、WPI−124(和光純薬工業社製)、CYRAURE UVI6990(ユニオンカーバイト日本社製)、CPI−100P(サンアプロ社製)、PHOTO INITIATOR 2074(ソルベイジャパン社製)、アデカオプトマーSP−172(ADEKA社製)、アデカオプトマーSP−170(ADEKA社製)、アデカオプトマーSP−152(ADEKA社製)、アデカオプトマーSP−150(ADEKA社製)等が挙げられる。また、これらの光カチオン開始剤は、単独で用いても、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0100】
また、光硬化開始剤のうち、光の照射によってラジカルを生成する光ラジカル開始剤としては、例えば、アセトフェノン、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、クロロアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、ヒドロキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2'−フェニルアセトフェノン、2−アミノアセトフェノン、ジアルキルアミノアセトフェノンなどのアセトフェノン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オンなどのベンゾイン類;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、メチル−o−ベンゾイルベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ヒドロキシプロピルベンゾフェノン、アクリルベンゾフェノン、4,4'−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ジメチルチオキサントンなどのチオキサントン類;ペルフルオロ(tert−ブチルペルオキシド)、ペルフルオロベンゾイルペルオキシドなどのフッ素系ペルオキド類;その他、α−アシルオキシムエステル、ベンジル−(o−エトキシカルボニル)−α−モノオキシム、アシルホスフィンオキサイド、グリオキシエステル、3−ケトクマリン、2−エチルアンスラキノン、カンファーキノン、テトラメチルチウラムスルフィド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシピバレート等が挙げられる。
【0101】
さらに好ましく用いられる光ラジカル開始剤の具体例としては、例えば、イルガキュアー651(BASF社製)、イルガキュアー184(BASF社製)、ダロキュアー1173(BASF社製)、ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、イルガキュアー500(BASF社製)、イルガキュアー2959(BASF社製)、イルガキュアー127(BASF社製)、イルガキュアー907(BASF社製)、イルガキュアー369(BASF社製)、イルガキュアー1300(BASF社製)、イルガキュアー819(BASF社製)、イルガキュアー1800(BASF社製)、ダロキュアーTPO(BASF社製)、ダロキュアー4265(BASF社製)、イルガキュアーOXE01(BASF社製)、イルガキュアーOXE02(BASF社製))、エサキュアーKT55(ランベルティー社製)、エサキュアーKIP150(ランベルティー社製)、エサキュアーKIP100F(ランベルティー社製)、エサキュアーKT37(ランベルティー社製)、エサキュアーKTO46(ランベルティー社製)、エサキュアー1001M(ランベルティー社製)、エサキュアーKIP/EM(ランベルティー社製)、エサキュアーDP250(ランベルティー社製)、エサキュアーKB1(ランベルティー社製)、2,4−ジエチルチオキサントンが挙げられる。これらの中で、さらに好ましく用いられる光ラジカル重合開始剤としては、イルガキュアー184(BASF社製)、ダロキュアー1173(BASF社製)、イルガキュアー500(BASF社製)、イルガキュアー819(BASF社製)、ダロキュアーTPO(BASF社製)、エサキュアーKIP100F(ランベルティー社製)、エサキュアーKT37(ランベルティー社製)およびエサキュアーKTO46(ランベルティー社製)が挙げられる。また、これらの光ラジカル開始剤は、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0102】
さらに、必要に応じて第3成分として他の公知の成分、例えば、老化防止剤、レベリング剤、濡れ性改良剤、界面活性剤、可塑剤等の改質剤、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤などの安定剤、光増感剤、シランカップリング剤等を加えてもよい。
本発明のフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物は硬化後の形態で、光硬化性化合物が3次元の網目構造を形成することができ表面硬度を硬く改質することができる。このため、医療器具等に実装した場合の傷付き性を改善でき、細胞培養や細胞の検査のための基材として用いる際に、利便性良く使用することができる。
【0103】
本発明の光硬化性組成物は、上述した本発明の一般式(1)で表されるフッ素含有環状オレフィンポリマーワニスと同様にろ過精製することができる。
次に、上記の一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーと、光硬化性化合物と、光硬化開始剤とを含む光硬化性組成物からなるワニスを用い、基材の凹凸構造を形成する方法は、上述したフッ素含有環状オレフィンポリマーワニスと同様な塗布工程を経た後に、UV照射硬化することによってモールドのパターンを転写することにより得ることができる。
【0104】
UV照射硬化のUV照射工程は、滅菌を兼ねてもよいが、照射光としては、光硬化開始剤に光を照射することによってラジカル反応またはイオン反応を引起すエネルギーを与えることができれば特に限定されるものではない。この光源としては、波長400nm以下の光線、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯およびメタルハライドランプ、i線、G線、KrFエキシマレーザ光、ArFエキシマレーザ光を用いることができる。
【0105】
フッ素含有環状オレフィンポリマー組成物からなる上記フィルムへの照射強度は、目的とする製品毎に制御されるものであって特に限定されるものではない。例えば、光硬化開始剤の活性化に有効な光波長領域(光硬化開始剤によって異なるが、例えば300〜420nmの光が用いられる)の光照射強度が0.1〜100mW/cm
2であることが好ましい。照射強度を0.1mW/cm
2以上とすることにより、反応時間が長くなり過ぎることを確実に抑制できる。一方で、照射強度を100mW/cm
2以下とすることにより、ランプから輻射される熱および組成物の重合時の発熱に起因して得られる硬化物の凝集力の低下や黄変あるいは支持体の劣化が生じることを、より確実に抑制することが可能となる。
【0106】
この光の照射時間は、目的とする製品毎に制御されるものであって特に限定されるものではないが、光波長領域での光照射強度と光照射時間の積として表される積算光量を、例えば3〜1000mJ/cm
2に設定することができる。更に好ましくは5〜500mJ/cm
2であり、特に好ましくは10〜300mJ/cm
2である。積算光量を上記下限値以上とすることにより、光重合開始剤からの活性種の発生を十分なものとし、得られる硬化物の特性の向上を図ることができる。一方で、積算光量を上記上限値以下とすることにより、生産性向上に寄与することができる。また、重合反応を促進するために加熱を併用することも場合によっては好ましい。また、光を照射して硬化性樹脂を硬化させる場合の温度は、通常0〜150℃が好ましく、0〜60℃がより好ましい。
【0107】
フィルムやシート状の単層膜からなる基材を得る場合には、例えばモールドからフィルムを剥離させることにより基材を製造することができる。支持体からのフィルムの剥離は、例えば、フィルムの端部に市販のテープを貼り付け、これに応力を加えて剥離することにより行ってもよく、水や溶剤などの液体をフィルムと支持体の接触界面に接触させて支持体表面とフィルムの接触面の表面張力の差を利用してフィルムを剥離することにより行ってもよい。
【0108】
プラスチックや金属などの支持体の上に凹凸構造を形成したコート膜を形成した基材を得る場合には、例えば上記工程のうち塗布膜の乾燥工程までを実施して、支持体の上にフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物をコートする。次いで、モールドのパターン面とフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物のコート面を接触させ、必要に応じ圧着し、UV照射、剥離することによって支持体の上に本発明のフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物からなる凹凸構造を形成したコート膜を形成した基材を製造することができる。この場合、支持体は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル樹脂などの有機材料、もしくはガラス、シリコン、アルミなどの無機材料から選択されることがとくに好ましい。
【0109】
モールドのパターン面とフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物のコート面を接触させる際の圧力は、0.01〜5MPa、好ましくは0.05〜4MPa、より好ましくは0.1〜3MPaの範囲で用いられ、圧着しながらUV照射しても、ラミネーターなどの圧着装置を利用して圧着した後にUV照射してもよい。これにより、パターンの形状、サイズに依存せず、モールドのパターンを高い精度で転写した基材を作製することができる。
【0110】
本発明におけるフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物をプラスチックまたは金属からなる支持体に製膜し、加熱して、必要に応じ圧着した後に、光を照射して硬化させて得られる硬化膜フィルムの膜厚は、特に制限はないが、好ましくは1μm〜10000μmであり、より好ましくは5μm〜5000μmであり、さらに好ましくは10μm〜2000μmである。これらの範囲であると、自立した単層フィルムや、支持体上のコート膜を得ることができる。また、本発明のフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物は、光硬化の際の体積収縮が小さく、精度良くパターンを転写しながら基材の変形を確実に抑制することもできる。また、例えば、培養バッグ、培養プレート、培養シャーレなどの細胞培養に用いられる医療器具を作製する観点から好適な範囲となる。さらに、フィルムの膜厚は、それら器具を作製するプロセスに合わせて適宜設定することができる。
【0111】
本発明のフッ素含有環状オレフィンポリマー、またはフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物から上記の方法で作製した凹凸構造を持つ基材において、モールドから剥離後の基材を加熱し溶融流動させることで、例えば、凸部の頂点から凹部底面に向かって傾斜構造をもつ形状に凹凸構造を変化させてもよい。これにより、播種した細胞を効果的に凹部底面に集合させた状態で細胞培養することができ、培養後の形状として細胞からの培養細胞が均一な厚みの細胞シート、スフェロイドまたはコロニー等の成長細胞の群体を作製することができる。
【0112】
(細胞培養方法)
本発明における細胞培養方法は、本発明における医療器具を構成する基材の凹凸構造を形成した一面に、接触または保持させるよう細胞を播種する工程と、上記細胞を培養して培養細胞を得る工程と、上記一面上にリン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液を添加して、上記一面から上記培養細胞を浮遊させる工程とを備える。これにより、培養細胞を損傷なく基材から離脱させることができ、かつ効率的な増殖で細胞培養することができる。
【0113】
本発明においては、細胞培養の形態として、医療器具内に細胞を播種した後、静置した状態で浮遊細胞を培養することができる。より具体的には、本発明の細胞培養としては、細胞として群体を形成させながら浮遊増殖させることができる。
これは、基材の細胞を接触または保持する一面が本発明における水接触角が70°以上の疎水な表面性状を有するフッ素含有環状オレフィンポリマー、またはフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物により構成されていることにより実現される。また、培養環境を一定に保つために、播種した後にタッピングにより気泡を抜いてもよく、細胞の形態や増殖性を考慮して振動を与えて培養してもよく、培養液を流動させながら培養してもよく、撹拌しながら培養してもよく、特に制限はない。これらの中から、細胞の特性、装置の形態、生産性を考慮して好適に選ばれる。何れの形態であっても、本発明における医療器具で細胞を培養することにより、細胞を培養器具に付着、または密着を抑制しつつ、細胞シート、スフェロイド、コロニーなどの群体を形成させながら増殖させることができる。
【0114】
培養方法は、本発明における基材を各種培養方法に応じた容器に加工した医療器具を用いて行われる。例えば、静置培養、回転培養、マイクロキャリア培養、旋回培養、スフェロイド培養、ゲル内培養、三次元担体培養、加圧循環培養などの方法で細胞培養を実施することができる。これらのうち、細胞の特性、培養形態、または生産性を考慮して好適に選ばれ、単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0115】
これらの各種培養方法における温度は、35〜40℃であることが好ましく、36〜38℃であることがより好ましく、36.5〜37.5℃であることがとくに好ましい。また、圧力は、0.02〜0.5MPaであることが好ましく、0.05〜0.3MPaであることがより好ましく、0.08〜0.2MPaであることがとくに好ましい。さらに、水素イオン指数(pH)は、8〜6であることが好ましく、7.5〜6.5であることがより好ましい。
【0116】
本発明における医療器具を培養器具として用いる際の滅菌方法としては、例えば、アルコールなどに浸漬する湿式滅菌、エチレンオキシドによるガス滅菌、紫外線滅菌、放射線滅菌、高温、高圧の水蒸気によるオートクレーブ滅菌、直接蒸気に触れてはいけないものに用いる乾熱滅菌、熱に不安定な成分を含む基材に適したろ過滅菌などを挙げることができる。これらの中から、本発明の効果を損なわない範囲でプロセス適合性を考慮して、好適に選ばれ、2種類以上の滅菌方法を組み合わせて用いてもよい。
【0117】
また、培養に用いる培地の種類としては、液状、ゲル状、固形(粉末)などの形態に依らず、細胞の特性、培養形態に応じて選択できる。この例として、例えば、BME培地、MEM培地、DMEM培地、199培地、RPMI培地、ハムF10培地、ハムF12培地、MCDB104、107、131、151、170、202培地、RITC80−7培地、MCDB153培地などが挙げられる。これらは、単独で用いても2種類以上を混合して用いてもよく、さらにはヒト、イヌ、ラット、マウス、トリ、ブタ、ウシなどの生物由来の血清と混合して用いてもよい。
【0118】
また、細胞培養の目的に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、ラミニン−5、ラミニン−511、ラミニン−521などのコラーゲン、本発明のフッ素含有環状オレフィンポリマー、またはフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物などを、本発明の上記基材の内壁や、細胞を接触または保持する一面の一部、もしくは全面に塗工して用いてもよい。これらは単独、あるいは2種類以上を混合して用いてもよい。また、本発明において、細胞の種類、培養細胞の応用に応じて、細胞の培養液や緩衝液を選択することができ、蛍光色素や細胞の固定化試薬も自由に選択して用いてもよい。
【0119】
さらに、培養、もしくは培養した細胞を浮遊させて基材から離脱させる際に用いるリン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液は、細胞が増殖する過程において、系内の水素イオン指数(pH)を変化させないものであればよく、通常は、例えば、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝液、塩酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液、トリス塩酸緩衝液、エチレンジアミン四酢酸緩衝液、トリスEDTA緩衝液、トリス酢酸EDTA緩衝液、トリスホウ酸EDTA緩衝液、濃縮SSC緩衝液、濃縮SSPE緩衝液、クエン酸ナトリウム緩衝液、炭酸重炭酸緩衝液、ホウ酸ナトリウム緩衝液、マレイン酸緩衝液、CABS緩衝液、ピペリジン緩衝液、グリシン緩衝液、リンゴ酸緩衝液、ギ酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酢酸緩衝液、プロピオン酸緩衝液、ピペラジン緩衝液、ピリジン緩衝液、カコジル酸緩衝液、MES緩衝液、ヒスチジン緩衝液、エタノールアミン緩衝液、ADA緩衝液、炭酸緩衝液、ACES緩衝液、PIPES緩衝液、イミダゾール緩衝液、ビス−トリスプロパン緩衝液、BES緩衝液、MOPS緩衝液、HEPES緩衝液、TES緩衝液、MOPSO緩衝液、MOBS緩衝液、DIPSO緩衝液、TAPSO緩衝液、TEA緩衝液、ピロリン酸緩衝液、HEPPSO緩衝液、POPSO緩衝液、トリシン緩衝液、ヒドラジン緩衝液、グリシルグリシン緩衝液、EPPS緩衝液、ビシン緩衝液、HEPBS緩衝液、TAPS緩衝液、AMPD緩衝液、TABS緩衝液、AMPSO緩衝液、タウリン緩衝液、CHES緩衝液、グリシン緩衝液、水酸化アンモニウム緩衝液、CAPSO緩衝液、メチルアミン緩衝液、CAPS緩衝液などを単独もしくはトリプシン、ペプシン、レンネット、キモトリプシン、エラスターゼ、NADPHデハイドロゲナアゼ、またはNADHデハイドロゲナアゼなどの酵素を含有させて用いてもよく、好ましくは、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、塩酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液、トリス塩酸緩衝液、エチレンジアミン四酢酸緩衝液、トリスEDTA緩衝液、トリス酢酸EDTA緩衝液、トリスホウ酸EDTA緩衝液、濃縮SSC緩衝液、濃縮SSPE緩衝液、クエン酸ナトリウム緩衝液、炭酸重炭酸緩衝液、ホウ酸ナトリウム緩衝液、マレイン酸緩衝液などを単独もしくはトリプシン、ペプシン、レンネット、キモトリプシン、エラスターゼ、NADPHデハイドロゲナアゼまたはNADHデハイドロゲナアゼなどの酵素を含有させて用いてもよい。
さらに好ましくは、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、トリス塩酸緩衝液、エチレンジアミン四酢酸緩衝液、トリスEDTA緩衝液、トリス酢酸EDTA緩衝液、トリスホウ酸EDTA緩衝液、濃縮SSC緩衝液、濃縮SSPE緩衝液、クエン酸ナトリウム緩衝液、炭酸重炭酸緩衝液、ホウ酸ナトリウム緩衝液などを単独もしくはトリプシン、ペプシン、レンネット、キモトリプシン、エラスターゼ、NADPHデハイドロゲナアゼまたはNADHデハイドロゲナアゼなどの酵素を含有させて用いてもよい。
【0120】
本発明の医療器具を用いて、例えばヒト細胞を含む動物の細胞を培養し、細胞を分離し採取する過程において、例えば、リン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液を添加すると、細胞が自然に浮遊した状態で基材から容易に離脱する方法を発明した。
【0121】
本発明によれば、細胞の浮遊離脱は、例えば、培養した細胞と基材の界面状態を観察することで、浮遊、または接着の現象を理解できる。通常のスフェロイド培養に利用される基材の表面に見られる細胞の足場となる微細な凹凸構造を設けた本発明の一般式(1)からなる基材の上で、細胞を7日間培養し、培養細胞と基材との界面を走査型電子顕微鏡で観察すると、足場形成に必要な十分に小さな径の凹凸構造を設けた基材の上で増殖した細胞であっても、その界面に細胞から伸びた足は観察されず、また、本培養容器で培養した細胞に、例えば、リン酸緩衝生理食塩水のような緩衝液を添加すると細胞は浮遊しながら基材から離脱させることができる。
【0122】
本発明のフッ素含有環状オレフィンポリマー、またはフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物からなる医療器具を用いて細胞培養することにより、細胞は浮遊して細胞シート、スフェロイド、コロニーなどの群体を形成しながら効率よく増殖し、増殖した成長細胞は浮遊させて細胞を損傷させること無く基材から離脱できるという優れた細胞培養方法を実現することができるようになった。
【実施例】
【0123】
以下、実施例において、本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例におけるポリマー分析値測定方法、基材(フィルム)の作製条件および分析方法、細胞の取り扱い方法、培養器具の滅菌方法および培養評価方法は以下に記載された通りである。
【0124】
[重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)]
下記の条件下でゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)を使用して、テトラヒドロフラン(THF)または、トリフルオロトルエン(TFT)に溶解したポリマーの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を、ポリスチレンスタンダードによって分子量を較正して測定した。
検出器:日本分光社製RI−2031および875−UVまたはViscotec社製Model270、直列連結カラム:Shodex K−806M、804、803、802.5、カラム温度:40℃、流量:1.0ml/分、試料濃度:3.0〜9.0 mg/ml
【0125】
[ガラス転移温度]
島津製作所社製DSC−50を用い、測定試料を窒素雰囲下で10℃/分の昇温速度で加熱し測定した。
【0126】
[水接触角測定]
協和界面科学社製固体表面エナジー解析装置CA−XE型を使用してJIS R3257(基板ガラス表面のぬれ性試験方法)に準拠し、2μlの水滴を基材表面に滴下し、静滴法により、基材表面に水滴が接触してから1分以内に接触角を測定した。
【0127】
[UV硬化]
塗布膜の硬化には光源として、SCIVAX社製UVインプリント装置(X−100U)を用いて、培養フィルムとモールドを無圧着もしくは圧着した状態で、波長365nmのLED光を照射して硬化した。
【0128】
[培養フィルムの凸凸間の幅(L1)計測]
日本分光社製 走査型電子顕微鏡 JSM−6701F(以下、SEMとも表記する。)を使用し、SEMの写真から任意の9点の凸凸間の幅を計測し平均値により算出した。
【0129】
[細胞種および培養液について]
マウス胚繊維芽細胞(以下、BALB/3T3細胞と略す)を用い、10%仔ウシ血清(Calf Bovine Serum、CBS)と、高グルコースと、D−MEM培地(L-グルタミン、フェノールレッド、ピルビン酸ナトリウム含有)と、を含む溶液(以下、BALB/3T3細胞液と記載する。)中で、すべての継代培養および細胞増殖性試験を行った。また、ヒト皮膚繊維芽細胞(以下、Hs−68細胞と略す)のすべての継代培養および細胞増殖性試験についても同様に行った。
【0130】
[細胞の解凍]
凍結したBALB/3T3細胞、またはHs−68細胞の細胞懸濁液を37℃ウォーターバスに浸けて解凍し、解凍した細胞懸濁液に氷上冷却した10%仔ウシ血清D−MEM培地を添加して遠心分離した。遠心後、上澄み液を除去して細胞塊をタッピングによりほぐした後、37℃ウォーターバスで保温した10%仔ウシ血清D−MEM培地を添加した。血球計算盤で細胞数を計数し、ウォーターバスで保温した10%仔ウシ血清D−MEM培地を用いて細胞懸濁液を調製し培養フラスコに細胞を播種した後、加湿インキュベーターで培養した。
【0131】
[細胞の継代]
加湿インキュベーターから培養フラスコを取り出して培地をアスピレーターで除去し、37℃ウォーターバス中で保温したダルベッコPBS(−)を加え、上澄みをアスピレーターで除去した。再度、同様な操作行った後、37℃ウォーターバス中で保温した0.025w/v%トリプシン−EDTA溶液を加えて加湿インキュベーター内で静置した後、10%仔ウシ血清D−MEM培地を加えて剥がれた細胞を回収して遠沈管に移し遠心分離して上澄み液を除去し、タッピングにより細胞塊をほぐした後、10%仔ウシ血清D−MEM培地を加えた。血球計算盤で細胞数を計数した後、10%仔ウシ血清D−MEM培地で細胞懸濁液を調製し、培養フラスコに細胞を播種して、加湿インキュベーターで培養した。
【0132】
[細胞培養器具の滅菌方法]
直径15mmに切り出した円形の培養フィルムをTCPSマルチウェルプレート(コーニング社製)穴部に置き、70%エタノール水溶液を加えて40分〜1時間浸漬した後、70%エタノール水溶液を除去してダルベッコPBS(−)に15分〜40分間浸漬した。次に、PBS(−)を除去して、培養器具をひっくり返し、同様な操作を行い、培養器具の表裏面を滅菌処理した。滅菌処理終了後、クリーンベンチ内で一晩乾燥させた。
【0133】
[細胞懸濁液の調製と細胞径の計測]
25cm
2培養フラスコで約60%コンフルエント状態になったBALB/3T3細胞を、上記、細胞の継代操作と同様な方法で0.025w/v%トリプシン−EDTAで処理して剥がした。血球計算盤で細胞数を計数して、10%仔ウシ血清D−MEM培地で7300〜7600cells/mLのBALB/3T3細胞、またはHs−68細胞の細胞懸濁液を調製した。また、実施例10ではHs−68細胞を1500cells/mLに調整した細胞懸濁液を使用した。
顕微鏡観察によるひとつあたりの細胞の平均計測から、細胞の最大径(L2)は25μmであった。または、同様な方法で調整したHs−68細胞の顕微鏡観察によるひとつあたりの細胞の平均計測から、細胞の最大径(L2)は20μmであった。
【0134】
[凹部底面に沈降した細胞の数の確認]
BALB/3T3細胞、またはHs−68細胞を凹凸構造の細胞を培養する面に播種し、加湿インキュベーターに入れた直後から4時間後のサンプルを加湿インキュベーターから取り出し、顕微鏡観察して、基材一面の任意の凹部30ヵ所に沈降している細胞の数をカウントし、ひとつあたりの凹部底面に沈降した細胞の数を平均値(=細胞数/30)として示した。
【0135】
[細胞増殖性の評価]
培養開始後1、3、7、および14日経過後の培養容器を加湿インキュベーターから取り出して培地を除去し、10%WST−8(Cell Counting Kit−8)/10%仔ウシ血清D−MEM培地の混合溶液を添加して、加湿インキュベーターで3時間インキュベートした。その後、培地200μlを96ウェルプレートに移し、プレートリーダー(SPECTRA max PLUS384、Molecular Devices社製)で波長450nmの吸光度を測定した。各培養容器の細胞増殖性は、吸光度の経時変化により確認した。
【0136】
[有意差検定]
各種培養容器について、細胞を播種したサンプルを9検体準備して培養し、吸光度の測定結果をPrism 6 for Windows 6.01(エムデーエフ社製)により数値解析して、結果の平均値を吸光度として算出し、標準偏差に±の符号を付しバラツキの範囲とした。
【0137】
[蛍光顕微鏡観察]
所定期間細胞を培養した容器から培地を除去して、4%グルタルアルデヒド/リン酸緩衝液を添加し1時間静置した後、4%グルタルアルデヒド/リン酸緩衝液を除去した。その後、滅菌水で洗浄し、Image−iT Fixation/Permeabilizationキット(ライフサイエンス製)を使用し細胞核、および細胞骨格タンパクを染色して蛍光顕微鏡観察に用いる試料を調製した。蛍光顕微鏡観察は、オールインワン蛍光顕微鏡BZ−X700(キーエンス製)を使用した。
【0138】
[製造例1]ポリマー1
5,5,6−トリフルオロ−6−(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(100g)と1−ヘキセン(0.268g)のテトラヒドロフラン溶液に、Mo(N−2,6−Pr
i2C
6H
3)(CHCMe
2Ph)(OBu
t)
2(50mg)のテトラヒドロフラン溶液を添加し、70℃で開環メタセシス重合を行った。得られたポリマーのオレフィン部を、パラジウムアルミナ(5g)存在下160℃で水素添加反応を行い、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−2−トリフルオロメチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)のテトラヒドロフラン溶液を得た。その溶液を孔径5μmのフィルターで加圧ろ過しパラジウムアルミナを除去した溶液をメタノールに加え、白色のポリマーをろ別、乾燥し99gのポリマー1を得た。得られたポリマー1は、上記一般式(1)により表される構造単位を含有していた。また、水素添加率は100%、重量平均分子量(Mw)は83000、分子量分布(Mw/Mn)は1.73、ガラス転移温度は109℃であった。
【0139】
[製造例2]培養フィルム1
製造例1で合成したポリマー1をメチルイソブチルケトンに30質量%濃度で溶解し、その溶液を孔径1μmのフィルターで加圧ろ過し、次いで0.1μmのフィルターでろ過してポリマー1のメチルイソブチルケトン溶液を調製した。次いで、凸部の幅100μm、パターンピッチ130μm、パターン深さ40μmの格子形状を有する石英モールドにポリマー1のメチルイソブチルケトン溶液を塗布し、アプリケーターを用いて均一にコートした後、140℃で60分乾燥して剥離することで、厚み80μmの格子形状の培養フィルム1を作製した。
培養フィルム1の凸凸間の幅(L1)は100μmであり、BALB/3T3細胞の最大径(L2=25μm)との比(L1/L2)は4であった。また、水接触角(15秒経過時)は126.0°であった。
【0140】
[製造例3]培養フィルム2
製造例2で使用したポリマー1のメチルイソブチルケトン溶液を、凸部の幅500μm、パターンピッチ570μm、パターン深さ70μmの格子形状を有するニッケルモールドに塗布し、アプリケーターを用いて均一にコートした後、140℃で60分乾燥して剥離することで、厚み110μmの格子形状の培養フィルム2を作製した。
培養フィルム2の凸凸間の幅(L1)は500μmであり、BALB/3T3細胞の最大径(L2=25μm)との比(L1/L2)は20であった。また、水接触角(15秒経過時)は134.1°であった。
【0141】
[製造例4]培養フィルム3
製造例1で合成したフッ素含有環状オレフィンポリマー1(A)を30質量%濃度で溶解したメチルイソブチルケトン溶液100gに、光硬化性化合物(B)として3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタンと1,7−オクタジエンジエポキシドの質量比9/1の混合物を20g、および光硬化開始剤としてアデカオプトマーSP−172(ADEKA社製)を0.8g加えた溶液を調製し、孔径1μmのフィルターで加圧ろ過し、次いで0.1μmのフィルターでろ過して光硬化性組成物1を調製した(成分(A)と成分(B)の比:[(A)/(B)=60/40])。次いで、凸部の幅300μm、パターンピッチ350μm、パターン深さ50μmの格子形状を有する石英モールドに、光硬化性組成物1をアプリケーターを用いて均一にコートした後、140℃で30分乾燥し、コート面の背面から波長365nmのUV光を200mJ/cm
2の積算光量で照射し、その後モールドから剥離することで、厚み90μmの格子形状の培養フィルム3を作製した。
培養フィルム3の凸凸間の幅(L1)は300μmであり、BALB/3T3細胞の最大径(L2=25μm)との比(L1/L2)は12であった。また、水接触角(15秒経過時)は128.1°であった。
【0142】
[製造例5]培養フィルム4
製造例1で合成したフッ素含有環状オレフィンポリマー1(A)を30質量%濃度で溶解したシクロヘキサノン溶液100gに、光硬化性化合物(B)として3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタンと1,7−オクタジエンジエポキシドの質量比9/1の混合物を3g、および光硬化開始剤としてCPI−100P(サンアプロ社製)を0.1g加えた溶液を調製し、孔径1μmのフィルターで加圧ろ過し、次いで0.1μmのフィルターでろ過して光硬化性組成物2を調製した(成分(A)と成分(B)の比:[(A)/(B)=90/10])。次いで、製造例3で使用したニッケルモールドに光硬化性組成物2をアプリケーターを用いて均一にコートした後、140℃で50分乾燥し、コート面の背面から波長365nmのUV光を200mJ/cm
2の積算光量で照射し、その後モールドから剥離することで、厚み105μmの格子形状の培養フィルム4を作製した。
培養フィルム4の凸凸間の幅(L1)は500μmであり、BALB/3T3細胞の最大径(L2=25μm)との比(L1/L2)は20であった。また、水接触角(15秒経過時)は129.4°であった。
【0143】
[実施例1]
製造例2で作製した培養フィルム1を滅菌し、パターン面を上方に24穴TCPSマルチウェルプレートの穴部底面に置き、滅菌グリース(東レ・ダウコーニング社製)でSUS製O−リング(内径11mm)と密着させて固定した後、BALB/3T3細胞液(1mL)を培養フィルム1のパターン面に播種した。同操作を9回実施して、検体数で9個のサンプルを準備した。その後、蓋をして加湿インキュベーターに移動し、庫内温度37℃、炭酸ガス濃度5%の滅菌空気下で培養を開始した。次いで、4時間経過後のサンプルを顕微鏡観察し培養フィルム1の凹凸構造の任意の30ヵ所の凹部底面に沈降したBALB/3T3細胞の数をカウントして平均を算出した。その結果、ひとつあたりの凹部底面に1.3個の細胞が存在することが確認された。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.31±0.02であり、3日経過後で0.95±0.05であり、7日経過後で2.37±0.08であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても増殖性に変化は見られなかった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞は厚み方向に対して細胞シートの群体を形成した状態で増殖しており、リン酸緩衝生理食塩水を添加すると細胞シートの群体形成の形態を保った状態で浮遊した(
図1参照)。
【0144】
[実施例2]
製造例3で作製した培養フィルム2を滅菌し、実施例1と同様な方法で24穴TCPSマルチウェルプレートに固定し、解凍済みのBALB/3T3細胞液(1mL)を培養フィルム2のパターン面に播種した。同操作を9回繰り返し、検体数で9個のサンプルを準備した。その後、蓋をしてインキュベーターに移動し庫内温度37℃、炭酸ガス濃度5%の滅菌空気下で培養を開始した。次いで、4時間経過後のサンプルを顕微鏡観察し培養フィルム2の凹凸構造の任意の30ヵ所の凹部底面に沈降したBALB/3T3細胞の数をカウントして平均を算出した。その結果、ひとつあたりの凹部底面に26個の細胞が存在することが確認された。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.24±0.02であり、3日経過後で0.73±0.05であり、7日経過後で1.89±0.09であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても増殖性に変化は見られなかった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞は厚み方向に対して細胞シートの群体を形成した状態で増殖しており、リン酸緩衝生理食塩水を添加すると細胞シートの群体形成の形態を保った状態で浮遊した。
【0145】
[実施例3]
製造例4で作製した培養フィルム3を滅菌し、実施例1と同様な方法で24穴TCPSマルチウェルプレートに固定し、解凍済みのBALB/3T3細胞液(1mL)を培養フィルム3のパターン面に播種した。同操作を9回繰り返し、検体数で9個のサンプルを準備した。その後、蓋をしてインキュベーターに移動し庫内温度37℃、炭酸ガス濃度5%の滅菌空気下で培養を開始した。次いで、4時間経過後のサンプルを顕微鏡観察し培養フィルム3の凹凸構造の任意の30ヵ所の凹部底面に沈降したBALB/3T3細胞の数をカウントして平均値を算出した。その結果、ひとつあたりの凹部底面に9.7個の細胞が存在することが確認された。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.28±0.01であり、3日経過後で0.89±0.02であり、7日経過後で2.26±0.07であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても増殖性に変化は見られなかった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞は厚み方向に対して細胞シートの群体を形成した状態で増殖しており、リン酸緩衝生理食塩水を添加すると細胞シートの群体形成の形態を保った状態で浮遊した。
【0146】
[実施例4]
製造例5で作製した培養フィルム4を滅菌し、実施例1と同様な方法で24穴TCPSマルチウェルプレートに固定し、解凍済みのBALB/3T3細胞液(1mL)を培養フィルム4のパターン面に播種した。同操作を9回繰り返し、検体数で9個のサンプルを準備した。その後、蓋をしてインキュベーターに移動し庫内温度37℃、炭酸ガス濃度5%の滅菌空気下で培養を開始した。次いで、4時間経過後のサンプルを顕微鏡観察し培養フィルム4の凹凸構造の任意の30ヵ所の凹部底面に沈降したBALB/3T3細胞の数をカウントして平均値を算出した。その結果、ひとつあたりの凹部底面に26個の細胞が存在することが確認された。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.24±0.03であり、3日経過後で0.70±0.04であり、7日経過後で1.75±0.06であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても増殖性に変化は見られなかった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞は厚み方向に対して細胞シートの群体を形成した状態で増殖しており、リン酸緩衝生理食塩水を添加すると細胞シートの群体形成の形態を保った状態で浮遊した。
【0147】
[実施例5]
フッ素含有環状オレフィンモノマーの種類を5,6−ジフルオロ−5−ペンタフルオロエチル−6−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンに変更したこと以外は、製造例1と同様な方法により97gのポリマー2を得た。得られたポリマー2は、一般式(1)により表される構造単位を含有していた。また、水素添加率は100%、重量平均分子量(Mw)は91000、分子量分布(Mw/Mn)は1.93、ガラス転移温度は104℃であった。
次に、製造例2と同様な方法により厚み85μmの格子形状の培養フィルム5を作製した。培養フィルム5の凸凸間の幅(L1)は100μmであり、BALB/3T3細胞の最大径(L2=25μm)との比(L1/L2)は4であった。また、水接触角(15秒経過時)は128.1°であった。
培養フィルム5による実施例1と同様な方法で実施したBALB/3T3細胞の培養では、4時間経過後のサンプルを顕微鏡観察し培養フィルム5の凹凸構造の任意の30ヵ所の凹部底面に沈降したBALB/3T3細胞の数をカウントして平均値を算出すると、ひとつあたりの凹部底面に1.3個の細胞が存在することが確認された。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.30±0.03であり、3日経過後で0.99±0.03であり、7日経過後で2.28±0.11であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても増殖性に変化は見られなかった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞は厚み方向に対して細胞シートの群体を形成した状態で増殖しており、リン酸緩衝生理食塩水を添加すると細胞シートの群体形成の形態を保った状態で浮遊した。
【0148】
[実施例6]
フッ素含有環状オレフィンモノマーの種類を5,6−ジフルオロ−5−へプタフルオロ−iso−プロピル−6−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンに変更したこと以外は、製造例1と同様な方法により98gのポリマー3を得た。得られたポリマー3は、一般式(1)により表される構造単位を含有していた。また、水素添加率は100%、重量平均分子量(Mw)は142000、分子量分布(Mw/Mn)は1.40、ガラス転移温度は137℃であった。
次に、モールドを製造例3で使用した格子形状のニッケルモールドに変更したこと以外は、製造例2と同様な方法により厚み103μmの格子形状の培養フィルム6を作製した。培養フィルム6の凸凸間の幅(L1)は500μmであり、BALB/3T3細胞の最大径(L2=25μm)との比(L1/L2)は20であった。また、水接触角(15秒経過時)は136.3°であった。
培養フィルム6による実施例1と同様な方法で実施したBALB/3T3細胞の培養では、4時間経過後のサンプルを顕微鏡観察し培養フィルム6の凹凸構造の任意の30ヵ所の凹部底面に沈降したBALB/3T3細胞の数をカウントして平均値を算出すると、ひとつあたりの凹部底面に26個の細胞が存在することが確認された。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.21±0.03であり、3日経過後で0.68±0.03であり、7日経過後で1.56±0.15であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても増殖性に変化は見られなかった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞は厚み方向に対して細胞シートの群体を形成した状態で増殖しており、リン酸緩衝生理食塩水を添加すると細胞シートの群体形成の形態を保った状態で浮遊した。
【0149】
[実施例7]
製造例4で調製した光硬化性組成物1[(A)/(B)=60/40]をPETフィルムにスピンコートして、100℃で1分間加熱した後に、製造例2で使用した格子形状の石英モールドのパターン面と光硬化性組成物1のコート面が接触するようにPETフィルムを被せ、0.3MPaの圧力で圧着しながら波長365nmのUV光を200mJ/cm
2の積算光量で照射した。次いで、石英モールドからPETフィルムを剥離して、PETフィルムの表面に格子形状を形成した培養フィルム7を作製した。培養フィルム7の凸凸間の幅(L1)は100μmであり、BALB/3T3細胞の最大径(L2=25μm)との比(L1/L2)は4であった。また、水接触角(15秒経過時)は127.3°であった。
培養フィルム7による実施例1と同様な方法で実施したBALB/3T3細胞の培養では、4時間経過後のサンプルを顕微鏡観察し培養フィルム7の凹凸構造の任意の30ヵ所の凹部底面に沈降したBALB/3T3細胞の数をカウントして平均値を算出すると、ひとつあたりの凹部底面に1.3個の細胞が存在することが確認された。
WST−8法による細胞増殖性の評価で1日経過後の吸光度が0.27±0.01であり、3日経過後で0.85±0.02であり、7日経過後で2.14±0.09であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても増殖性に変化は見られなかった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞は厚み方向に対して細胞シートの群体を形成した状態で増殖しており、リン酸緩衝生理食塩水を添加すると細胞シートの群体形成の形態を保った状態で浮遊した。
【0150】
[実施例8]
細胞種をHs−68細胞に変更した以外は、BALB/3T3細胞と同様な方法により細胞の解凍、継代、懸濁液を調製し、10%仔ウシ血清D−MEM培地で7500cells/mLの細胞懸濁液を調製した。
培養フィルムの作製は、モールドを製造例4で使用した石英モールド(凸部の幅300μm、パターンピッチ350μm、パターン深さ50μm)に変更した以外は、製造例2と同様な方法で培養フィルム9を作製した。培養フィルム9の凸凸間の幅(L1)は300μmであり、Hs−68細胞の最大径(L2=20μm)との比(L1/L2)は15であった。また、水接触角(15秒経過時)は124.2°であった。
次いで、滅菌済みの培養フィルム9を用いて実施例1と同様な方法により、解凍済みのHs−68細胞液(1mL)を播種した。同操作を9回繰り返し、検体数で9個のサンプルを準備した。その後、蓋をしてインキュベーターに移動し庫内温度37℃、炭酸ガス濃度5%の滅菌空気下で培養を開始した。4時間経過後のサンプルを顕微鏡観察し培養フィルム9の凹凸構造の任意の30ヵ所の凹部底面に沈降したHs−68細胞の数をカウントして平均値を算出すると、ひとつあたりの凹部底面に9.7個の細胞が存在することを確認した。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.27±0.05であり、3日経過後で0.82±0.09であり、7日経過後で1.69±0.11であり、14日経過後で3.21±0.13であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、14日経過しても増殖性に変化は見られなかった。また、14日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞はスフェロイドまたはコロニー状に群体を形成した状態(
図2参照)で増殖しており、トリプシン含有リン酸緩衝生理食塩水を添加するとスフェロイドまたはコロニー状の形態を保った状態で浮遊した。
この培養細胞のNADPHデハイドロゲナアゼで薬物代謝系酵素活性評価を行うとほぼ100%が、生態系と同様の薬物代謝系酵素活性があることが分かった。さらに、自家蛍光を観察すると同様に100%の培養細胞が生細胞であることを確認した。
【0151】
[実施例9]
滅菌済みの培養フィルム1(L1/L2=5)を用いて実施例8と同様な方法により、解凍済みのHs−68細胞液(1mL)を播種した。同操作を9回繰り返し、検体数で9個のサンプルを準備した。その後、蓋をしてインキュベーターに移動し庫内温度37℃、炭酸ガス濃度5%の滅菌空気下で培養を開始した。4時間経過後のサンプルを顕微鏡観察し培養フィルム1の凹凸構造の任意の30ヵ所の凹部底面に沈降したHs−68細胞の数をカウントして平均値を算出すると、ひとつあたりの凹部底面に1.3個の細胞が存在することを確認した。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.28±0.04であり、3日経過後で1.83±0.05であり、7日経過後で1.79±0.10であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても増殖性に変化は見られなかった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞はシート状に、厚み方向に対して細胞シートの群体を形成した状態で増殖しており、トリプシン含有リン酸緩衝生理食塩水を添加するとシート状の形態を保った状態で浮遊した。
この培養細胞のNADPHデハイドロゲナアゼで薬物代謝系酵素活性評価を行うとほぼ100%が、生態系と同様の薬物代謝系酵素活性があることが分かった。さらに、自家蛍光を観察すると同様に99.8%の培養細胞が生細胞であることを確認した。
【0152】
[実施例10]
滅菌済みの培養フィルム9(L1/L2=15)を用いて、細胞数を1500cells/mLに変更した以外は実施例8と同様な方法で調整した解凍済みのHs−68細胞液(1mL)を播種した。同操作を9回繰り返し、検体数で9個のサンプルを準備した。その後、蓋をしてインキュベーターに移動し庫内温度37℃、炭酸ガス濃度5%の滅菌空気下で培養を開始した。4時間経過後のサンプルを顕微鏡観察し培養フィルム9の凹凸構造の任意の30ヵ所の凹部底面に沈降したHs−68細胞の数をカウントして平均値を算出すると、ひとつあたりの凹部底面に1.9個の細胞が存在することを確認した。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.06±0.01であり、3日経過後で0.17±0.09であり、7日経過後で0.36±0.12であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても増殖性に変化は見られなかった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞はスフェロイドまたはコロニーを形成した状態で増殖しており、トリプシン含有リン酸緩衝生理食塩水を添加するとスフェロイドまたはコロニー状の形態を保った状態で浮遊した。
この培養細胞のNADPHデハイドロゲナアゼで薬物代謝系酵素活性評価を行うとほぼ100%が、生態系と同様の薬物代謝系酵素活性があることが分かった。さらに、自家蛍光を観察すると同様に100%の培養細胞が生細胞であることを確認した。
【0153】
[実施例11]
滅菌済みの培養フィルム3(L1/L2=15)を用いて実施例8と同様な方法により、解凍済みのHs−68細胞液(1mL)を播種した。同操作を9回繰り返し、検体数で9個のサンプルを準備した。その後、蓋をしてインキュベーターに移動し庫内温度37℃、炭酸ガス濃度5%の滅菌空気下で培養を開始した。4時間経過後のサンプルを顕微鏡観察し培養フィルム3の凹凸構造の任意の30ヵ所の凹部底面に沈降したHs−68細胞の数をカウントして平均値を算出すると、ひとつあたりの凹部底面に9.6個の細胞が存在することを確認した。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.21±0.04であり、3日経過後で0.74±0.09であり、7日経過後で1.60±0.11であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても増殖性に変化は見られなかった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞はシート状に、厚み方向に対して細胞シートの群体を形成した状態で増殖しており、トリプシン含有リン酸緩衝生理食塩水を添加するとシート状の形態を保った状態で浮遊した。
この培養細胞のNADPHデハイドロゲナアゼで薬物代謝系酵素活性評価を行うとほぼ100%が、生態系と同様の薬物代謝系酵素活性があることが分かった。さらに、自家蛍光を観察すると同様に99.9%の培養細胞が生細胞であることを確認した。
【0154】
[実施例12]
実施例6で作製した滅菌済みの培養フィルム6(L1/L2=25)を用いて実施例8と同様な方法により、解凍済みのHs−68細胞液(1mL)を播種した。同操作を9回繰り返し、検体数で9個のサンプルを準備した。その後、蓋をしてインキュベーターに移動し庫内温度37℃、炭酸ガス濃度5%の滅菌空気下で培養を開始した。4時間経過後のサンプルを顕微鏡観察し培養フィルム6の凹凸構造の任意の30ヵ所の凹部底面に沈降したHs−68細胞の数をカウントして平均値を算出すると、ひとつあたりの凹部底面に26個の細胞が存在することを確認した。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.23±0.05であり、3日経過後で0.65±0.08であり、7日経過後で1.55±0.11であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても増殖性に変化は見られなかった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞はスフェロイドを形成した状態で増殖しており、トリプシン含有リン酸緩衝生理食塩水を添加するとスフェロイド状の形態を保った状態で浮遊した。
この培養細胞のNADPHデハイドロゲナアゼで薬物代謝系酵素活性評価を行うとほぼ100%が、生態系と同様の薬物代謝系酵素活性があることが分かった。さらに、自家蛍光を観察すると同様に100%の培養細胞が生細胞であることを確認した。
【0155】
[実施例13]
製造例2で使用したポリマー1のメチルイソブチルケトン溶液から溶液キャスト法にて、厚み120μmのポリマー1のフィルムを作製した。次いで、加熱板の上でポリマー1のフィルムと製造例4で使用した石英モールド(凸部の幅300μm、パターンピッチ350μm、パターン深さ50μm)のパターン面を接触させ、加熱板に置き150℃に加熱して、10MPaで熱圧着しそのまま5秒間保持した。70℃に冷却後、モールドを離脱して培養フィルム10を作製した。培養フィルム10の凸凸間の幅(L1)は300μmであり、Hs−68細胞の最大径(L2=20μm)との比(L1/L2)は15であった。また、水接触角(15秒経過時)は124.9°であった。
次いで、滅菌済みの培養フィルム10を用いて実施例1と同様な方法により、解凍済みのHs−68細胞液(1mL)を播種した。同操作を9回繰り返し、検体数で9個のサンプルを準備した。その後、蓋をしてインキュベーターに移動し庫内温度37℃、炭酸ガス濃度5%の滅菌空気下で培養を開始した。4時間経過後のサンプルを顕微鏡観察し培養フィルム10の凹凸構造の任意の30ヵ所の凹部底面に沈降したHs−68細胞の数をカウントして平均値を算出すると、ひとつあたりの凹部底面に9.8個の細胞が存在することを確認した。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.26±0.04であり、3日経過後で0.87±0.03であり、7日経過後で1.70±0.10であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても増殖性に変化は見られなかった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞はスフェロイドまたはコロニーを形成した状態で増殖しており、トリプシン含有リン酸緩衝生理食塩水を添加するとスフェロイドまたはコロニー状の形態を保った状態で浮遊した。
この培養細胞のNADPHデハイドロゲナアゼで薬物代謝系酵素活性評価を行うとほぼ100%が、生態系と同様の薬物代謝系酵素活性があることが分かった。さらに、自家蛍光を観察すると同様に100%の培養細胞が生細胞であることを確認した。
【0156】
[実施例14]
6穴TCPSマルチウェルプレート(コーニング製)の凹部底面を切り抜き、製造例2で作製した凸凸間の幅(L1)が100μmでありヒト胚繊維芽細胞の最大径(L2=20μm)との比(L1/L2)が5であるフィルム1を6穴全ての凹部底面に容器の裏面から貼り付け細胞培養容器を作製し、エタノールにより滅菌処理した。
次いで、細胞液の量を10mLに変更したこと以外は、実施例8と同様な方法により、解凍済みのHs−68細胞液を播種した。同操作を9回繰り返し、検体数で9個のサンプルを準備した。その後、蓋をしてインキュベーターに移動し庫内温度37℃、炭酸ガス濃度5%の滅菌空気下で培養を開始した。4時間経過後のサンプルを顕微鏡観察し培養フィルム1の凹凸構造の任意の30ヵ所の凹部底面に沈降したHs−68細胞の数をカウントして平均値を算出すると、ひとつあたりの凹部底面に1.3個の細胞が存在することを確認した。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.29±0.01であり、3日経過後で0.83±0.01であり、7日経過後で1.79±0.05であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても増殖性に変化は見られなかった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞はシート状に、厚み方向に対して群体を形成した状態で増殖しており、トリプシン含有リン酸緩衝生理食塩水を添加するとシート状の形態を保った状態で浮遊した。
この培養細胞のNADPHデハイドロゲナアゼで薬物代謝系酵素活性評価を行うとほぼ100%が、生態系と同様の薬物代謝系酵素活性があることが分かった。さらに、自家蛍光を観察しても、殆ど蛍光が観察されないことから、同様に100%の培養細胞が生細胞であることを確認した。
【0157】
[参考例1]
製造例2で使用したポリマー1のメチルイソブチルケトン溶液を、直径150nm、ピッチ250nmのピラー形状を有するニッケルモールドに塗布し、アプリケーターを用いて均一にコートした後、140℃で60分乾燥して剥離することで、厚み50μmのホール形状の培養フィルム11を作製した。培養フィルム11の水接触角(15秒経過時)は124.3°であった。
次いで、滅菌済み培養フィルム11を用いて、実施例1と同様な方法で24穴TCPSマルチウェルプレートに固定し、解凍済みのBALB/3T3細胞液(1mL)を培養フィルム11のパターン面に播種した。同操作を9回繰り返し、検体数で9個のサンプルを準備した。その後、蓋をしてインキュベーターに移動し庫内温度37℃、炭酸ガス濃度5%の滅菌空気下で培養を開始した。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.10±0.02であり、3日経過後で0.34±0.03であり、7日経過後で0.70±0.09であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても増殖性に変化は見られなかった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞は厚み方向に対して細胞シートの群体を形成した状態で増殖しており、リン酸緩衝生理食塩水を添加すると細胞シートの群体形成の形態を保った状態で浮遊した。
さらに、7日間培養したBALB/3T3細胞の培養液を除去して、脱水処理、乾燥してSEM観察用の試料を調整し、細胞と培養フィルム11の界面の状態を観察すると、培養フィルム11のパターン面の最大径150nmのホール(凹部)に絡みつくように細胞から伸びた糸状の足場形成は見られなかった。
【0158】
[比較例1]
γ線滅菌済み24穴TCPSマルチウェルプレート(コーニング製、水接触角は15秒後で46.1°)の穴部底面に解凍済みのBALB/3T3細胞液(1mL)を播種した。同操作を9回繰り返し、検体数9個のサンプルを準備した。その後、蓋をしてインキュベーターに移動し庫内温度37℃、炭酸ガス濃度5%の滅菌空気下で培養を開始した。4時間経過後のサンプルを顕微鏡観察しマルチウェルプレートの底部を観察すると、まばらに点在したBALB/3T3細胞が観察され、中には凝集塊の状態で沈降したものもあり全体的に培養面に対して不均一な状態で沈降していた。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.27±0.03であり、3日経過後で1.08±0.11であり、7日経過後で1.51±0.23であった。経過日数に対して吸光度の増加割合は徐々に減衰する傾向を示し、経過日数に応じて細胞増殖の程度は小さくなった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞はシート状に、厚み方向に対して厚みムラのある平面状態で増殖しており、リン酸緩衝生理食塩水を添加しても形態に変化なく浮遊しなかった。
【0159】
[比較例2]
エタノール滅菌済みアペル
TMフィルム(三井化学社製)を使用して、実施例1と同様な方法でBALB/3T3細胞の培養を開始した。4時間経過後のサンプルを顕微鏡観察すると、まばらに点在したBALB/3T3細胞が観察され、中には凝集塊の状態で沈降したものもあり全体的に培養面に対して不均一な状態で沈降していた。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.11±0.01であり、3日経過後で1.22±0.10であり、7日経過後で1.71±0.19であった。経過日数に対して吸光度の増加割合は徐々に減衰する傾向を示し、経過日数に応じて細胞増殖の程度は小さくなった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞はシート状に、厚み方向に対して厚みムラのある平面状態で増殖しており、リン酸緩衝生理食塩水を添加しても形態に変化なく浮遊しなかった。
【0160】
[比較例3]
製造例1に記載のモノマーを5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンに、溶剤をシクロヘキサンに変更した以外は製造例1と同様な方法により49gのポリマー4を得た。また、水素添加率は100%、重量平均分子量(Mw)は129000、分子量分布(Mw/Mn)は2.26、ガラス転移温度は67℃であった。
次に、ポリマー4を30質量%で溶解したシクロヘキサノン溶液をガラス基板に塗工して、150℃で3時間乾燥し厚み75μmのフィルムを作製した。その後、製造例2で使用した格子形状の石英モールドを用いて加熱溶融圧着ナノインプリント法により、厚み73μmの格子形状の培養フィルム8を作製した。培養フィルム8の凸凸間の幅(L1)は100μmであり、BALB/3T3細胞の最大径(L2=25μm)との比(L1/L2)は4であった。また、水接触角(15秒経過時)は101.2°であった。
培養フィルム8による実施例1と同様な方法で実施したBALB/3T3細胞の培養では、4時間経過後のサンプルを顕微鏡観察し培養フィルム4の凹凸構造の任意の30ヵ所の凹部底面に沈降したBALB/3T3細胞の数をカウントして平均値を算出すると、ひとつあたりの凹部底面に1.4個の細胞が存在することが確認された。
WST−8法による細胞増殖性の評価で1日経過後の吸光度が0.07±0.01であり、3日経過後で0.15±0.02であり、7日経過後で0.18±0.11であった。経過日数に応じて細胞増殖の程度は小さくなった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞はシート状に、厚み方向に対して厚みムラのある平面状態で増殖しており、リン酸緩衝生理食塩水を添加しても形態に変化なく浮遊しなかった。
【0161】
[比較例4]
細胞懸濁液をHs−68細胞液(10mL)に変更したこと以外は、比較例1と同様にインキュベーターの庫内温度37℃、炭酸ガス濃度5%の滅菌空気下で培養を開始した。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.33±0.06であり、3日経過後で1.49±0.11であり、7日経過後で3.10±0.13であった。経過日数に対して吸光度は徐々に減衰する傾向を示し、経過日数に応じて細胞増殖の程度は小さくなった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、シート状に細胞は増殖しており、トリプシン含有リン酸緩衝生理食塩水を添加しても形態に変化なく浮遊しなかった(
図3参照)。
さらに、7日間培養した細胞を蛍光発光試薬で染色して細胞核、および細胞骨格タンパクの形態を蛍光顕微鏡観察すると、青色蛍光発光した細胞核、および緑色蛍光発光した細胞骨格タンパクは、二次元的に広がったシート形状の蛍光発光分布で観察され細胞が厚み方向に重なった細胞シートの群体形成は確認できなかった。
この培養細胞のNADPHデハイドロゲナアゼで薬物代謝系酵素活性評価を行うとほぼ0%が、生態系と同様の薬物代謝系酵素活性があることが分かった。さらに、自家蛍光観察は、γ線滅菌済み24穴TCPSマルチウェルプレートの蛍光吸収で測定することができなかった。
【0162】
[比較例5]
パターンピッチ4μmの六方最密充填配列を付形した滅菌済み24穴ナノカルチャープレート(SCIVAX社製、水接触角(15秒経過時)は125°、L1/L2=0.16)の穴部底面のパターン面に解凍済みのBALB/3T3細胞液(1mL)を播種した。同操作を9回繰り返し、検体数9個のサンプルを準備した。その後、蓋をしてインキュベーターに移動し庫内温度37℃、炭酸ガス濃度5%の滅菌空気下で培養を開始した。
4時間経過後のサンプルを顕微鏡観察し凹凸構造の任意の30ヵ所の凹部底面を観察するとひとつの凹部にも沈降したBALB/3T3細胞は入っていなかった。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.07±0.03であり、3日経過後で0.09±0.02であり、7日経過後で0.10±0.09であった。経過日数に対して吸光度の増加割合は徐々に減衰する傾向を示し、経過日数に応じて細胞増殖の程度は小さくなった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞は厚み方向に対してスフェロイドの群体を形成して増殖しサイズ、形状は不揃いで、リン酸緩衝生理食塩水を添加しても形態に変化なく浮遊しなかった。
さらに、7日間培養したBALB/3T3細胞の培養液を除去して、脱水処理、乾燥してSEM観察用の試料を調整し、細胞とナノカルチャープレート界面の状態を観察すると、ナノカルチャープレートのパターン面の凹部に絡みつくように細胞の足場が形成されている様子が観察された。
【0163】
[比較例6]
口径500μmのホール形状を付形した滅菌済み6穴スフェロイド形成培養用容器(IWAKI社製、L1/L2=25)の穴部底面のパターン面に実施例8と同様にHs−68細胞の細胞懸濁液を播種した。同操作を9回繰り返し、検体数9個のサンプルを準備した。その後、蓋をしてインキュベーターに移動し庫内温度37℃、炭酸ガス濃度5%の滅菌空気下で培養を開始した。
4時間経過後のサンプルを顕微鏡観察し、凹凸構造の任意の30ヵ所の凹部底面に沈降したHs−68細胞の数をカウントして平均値を算出すると、ひとつあたりの凹部底面に25個の細胞が存在することを確認した。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.08±0.01であり、3日経過後で0.11±0.04であり、7日経過後で0.15±0.06であった。また、7日間培養した細胞を顕微鏡観察すると、細胞は厚み方向に対してスフェロイドの群体を形成して増殖したがサイズ、形状は不揃いで、リン酸緩衝生理食塩水を添加しても形態に変化なく浮遊しなかった。
【0164】
この出願は、2015年3月31日に出願された日本出願特願2015−070868号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【0165】
本発明は、以下の態様を含む。
<1>
基材を備える医療器具であって、
上記基材は細胞を接触させる一面を有するものであり、
上記基材の上記細胞と接触する上記一面が、下記一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーにより構成された凹凸構造を備え、
当該凹凸構造から構成される凸凸間の幅(L1)と、ひとつあたりの上記細胞の直径(L2)の比(L1/L2)が1〜100であり、上記細胞が凹凸構造を備えた上記一面に接着しないことを特徴とする医療器具。
【化7】
(式(1)中、R
1〜R
4のうち、少なくとも1つは、フッ素、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルキル基、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルコキシ基、またはフッ素を含有する炭素数2〜10のアルコキシアルキル基である。R
1〜R
4がフッ素を含有しない基である場合、R
1〜R
4は、水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または炭素数2〜10のアルコキシアルキル基から選ばれる。R
1〜R
4は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R
1〜R
4は互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
<2>
上記細胞を接触させる上記一面が備える凹凸構造の凸凸間の幅が10μm〜1000μmである<1>に記載の医療器具。
<3>
上記細胞を接触させる上記一面の水接触角が70°〜160°である<1>または<2>に記載の医療器具。
<4>
上記基材の備える上記一面は、上記フッ素含有環状オレフィンポリマーと、光硬化性化合物と、光硬化開始剤と、を含むフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物により構成される<1>ないし<3>のいずれか一つに記載の医療器具。
<5>
上記フッ素含有環状オレフィンポリマー組成物中における上記フッ素含有環状オレフィンポリマーと上記光硬化性化合物の質量比(フッ素含有環状オレフィンポリマー/光硬化性化合物)が、99.9/0.1〜50/50である<4>に記載の医療器具。
<6>
上記一面に接触させた上記細胞を培養するために用いられる<1>ないし<5>のいずれか一つに記載の医療器具。
<7>
細胞培養において、上記細胞が群体を形成しながら浮遊増殖する<6>に記載の医療器具。
<8>
培養した上記細胞をリン酸緩衝生理食塩水により浮遊して上記一面から離脱させる<6>または<7>に記載の医療器具。
<9>
基材の凹凸構造を有する一面に細胞を接触させる医療器具の、上記一面を形成するために用いられるフッ素含有環状オレフィンポリマーであって、下記一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマー。
【化8】
(式(1)中、R
1〜R
4のうち、少なくとも1つは、フッ素、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルキル基、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルコキシ基、またはフッ素を含有する炭素数2〜10のアルコキシアルキル基である。R
1〜R
4がフッ素を含有しない基である場合、R
1〜R
4は、水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または炭素数2〜10のアルコキシアルキル基から選ばれる。R
1〜R
4は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R
1〜R
4は互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
<10>
基材の凹凸構造を有する一面に細胞を接触させる医療器具の、上記一面を形成するために用いられるフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物であって、
下記一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーと、
光硬化性化合物と、
光硬化開始剤と、
を含むフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物。
【化9】
(式(1)中、R
1〜R
4のうち、少なくとも1つは、フッ素、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルキル基、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルコキシ基、またはフッ素を含有する炭素数2〜10のアルコキシアルキル基である。R
1〜R
4がフッ素を含有しない基である場合、R
1〜R
4は、水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または炭素数2〜10のアルコキシアルキル基から選ばれる。R
1〜R
4は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R
1〜R
4は互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
<11>
<1>ないし<8>のいずれか一つに記載の医療器具の上記一面上に、上記一面に接触させるように上記細胞を播種する工程と、
上記細胞を培養して培養細胞を得る工程と、
上記一面上にリン酸緩衝生理食塩水を添加して、上記一面から上記培養細胞を浮遊させる工程と、
を備える細胞培養方法。