特許第6414925号(P6414925)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6414925ショベルの処理装置及び作業内容判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6414925
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】ショベルの処理装置及び作業内容判定方法
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/20 20060101AFI20181022BHJP
   E02F 9/26 20060101ALI20181022BHJP
【FI】
   E02F9/20 N
   E02F9/26 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-94879(P2013-94879)
(22)【出願日】2013年4月30日
(65)【公開番号】特開2014-214566(P2014-214566A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2015年11月17日
【審判番号】不服2017-9323(P2017-9323/J1)
【審判請求日】2017年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117499
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 誠
(72)【発明者】
【氏名】塚根 薫子
(72)【発明者】
【氏名】古賀 方土
【合議体】
【審判長】 井上 博之
【審判官】 大塚 裕一
【審判官】 西田 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−60948(JP,A)
【文献】 特開平9−217702(JP,A)
【文献】 特開平10−266273(JP,A)
【文献】 特開2004−21286(JP,A)
【文献】 特開2009−235833(JP,A)
【文献】 特開2000−204600(JP,A)
【文献】 特開2009−179975(JP,A)
【文献】 特開平10−18355(JP,A)
【文献】 特開昭59−96339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/42-3/43
E02F 3/84-3/85
E02F 9/00-9/28
G07C 1/00-15/00
G06F 19/00
G06Q 10/00-10/10
G06Q 30/00-30/08
G06Q 50/00-50/20
G06Q 50/26-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショベルの稼働状態に依存する複数の運転変数を、ある期間に亘って測定して得られた運転変数の時間変化が入力される入力装置と接続され、前記ショベルによる作業内容を判定するショベルの処理装置であって、
前記処理装置は、
前記入力装置から入力された前記運転変数の時間変化を、時間軸上で複数の区間に区分し、前記区間ごとに、複数の前記運転変数の特徴量を決定し、
前記複数の特徴量時系列に並んだ検証データに基づいて、前記ショベルの作業内容を判定するショベルの処理装置。
【請求項2】
さらに、前記作業内容ごとに、ショベルの動作の各々を1つの状態に対応付けた状態の遷移を定義する状態遷移経路を含む状態遷移モデルを記憶する記憶装置を有し、
前記処理装置は、
前記検証データと前記状態遷移モデルとに基づいて、前記検証データに対応する作業内容を判定する請求項1に記載のショベルの処理装置。
【請求項3】
前記状態遷移モデルは、状態間の遷移確率、及び状態ごとに前記特徴量がある値をとる事象の出現確率を含み、
前記処理装置は、
前記ショベルの作業内容が既知である前記運転変数の時間変化に基づいて、前記状態遷移モデルの、前記遷移確率及び前記出現確率を算出し、
前記状態遷移モデルの、前記遷移確率及び前記出現確率の算出値を前記記憶装置に記憶させる請求項2に記載のショベルの処理装置。
【請求項4】
前記処理装置は、前記作業内容ごとに、
(a)前記ショベルの作業内容が既知である前記運転変数の時間変化を、時間軸上で複数の区間に区分し、前記区間ごとに、複数の前記運転変数の特徴量を決定することにより、作業内容が既知の複数の参照データを生成し、
(b)前記状態遷移モデルの前記遷移確率及び前記出現確率として暫定値を設定し、
(c)前記参照データを構成する複数の特徴量の各々に、前記状態遷移モデルの各状態を当てはめることにより、複数の状態系列を生成し、
(d)前記状態系列ごとに、前記状態遷移モデルの前記遷移確率及び前記出現確率として前記暫定値を用いて、前記状態系列の生成確率を算出し、
(e)算出された前記状態系列の生成確率に基づいて、前記状態遷移モデルの前記遷移確率及び前記出現確率として設定されている暫定値を再設定し、
(f)前記状態系列の生成確率が収束するまで、前記(d)及び(e)を繰り返すことにより、前記状態遷移モデルの前記遷移確率及び前記出現確率を算出する請求項3に記載のショベルの処理装置。
【請求項5】
ショベルの稼働状態に依存する複数の運転変数を、前記ショベルに搭載されるセンサによりある期間に亘って測定することにより、前記運転変数の時間変化を求め、
求められた前記運転変数の時間変化を、時間軸上で複数の区間に区分し、
前記区間ごとに、複数の前記運転変数の特徴量を決定し、
前記複数の特徴量時系列に並んだ検証データに基づいて、前記ショベルの作業内容を判定する作業内容判定方法。
【請求項6】
前記ショベルの作業内容ごとに、ショベルの動作の各々を1つの状態に対応付けた状態の遷移を定義する状態遷移経路、状態間の遷移確率、及び状態ごとに特徴量がある値をとる事象の出現確率を含む状態遷移モデルに、前記検証データを当てはめて、前記ショベルの作業内容を判定する請求項5に記載の作業内容判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、何らかの作業を行っているショベルから取得された運転変数に基づいて、ショベルの作業内容を判定するショベルの処理装置及び作業内容判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ショベル、リフティングマグネット型作業機械等の作業機械に、エンジン回転数、油圧等の運転変数を測定するための種々のセンサが取り付けられている。これらのセンサの検出値に基づいて、作業機械の異常診断を行う技術が公知である。異常診断を行うためには、センサの検出値が、どのような作業を行っていた時に取得されたものであるのかを特定することが必要な場合がある。
【0003】
下記の特許文献1に、油圧ショベルの動作状態を示す所定の特徴量に基づいて、油圧ショベルの作業内容を判別する技術が開示されている。動作状態を示す所定の特徴量として、ブーム操作の複雑さ表示量、バケット操作の複雑さ表示量、高速旋回時間、ブーム逆操作時間、バケットアーム停止時間、ブーム操作量平均値、アーム操作量平均値、バケット操作量平均値、旋回操作量平均値、右側走行操作量平均値及び左側走行操作量平均値が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−60948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
種々の運転変数の平均値等を特徴量として、この特徴量により作業内容を判別する方法では、運転変数の平均値が類似した傾向を示す複数の作業内容が存在する場合に、作業内容を正確に判定することが困難である。本発明の目的は、作業内容を、より正確に判定することが可能なショベルの処理装置、及び作業内容判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、
ショベルの稼働状態に依存する複数の運転変数を、ある期間に亘って測定して得られた運転変数の時間変化が入力される入力装置と接続され、前記ショベルによる作業内容を判定するショベルの処理装置であって、
前記処理装置は、
前記入力装置から入力された前記運転変数の時間変化を、時間軸上で複数の区間に区分し、前記区間ごとに、複数の前記運転変数の特徴量を決定し、
前記複数の特徴量時系列に並んだ検証データに基づいて、前記ショベルの作業内容を判定するショベルの処理装置が提供される。
【0007】
本発明の他の観点によると、
ショベルの稼働状態に依存する複数の運転変数を、前記ショベルに搭載されるセンサによりある期間に亘って測定することにより、前記運転変数の時間変化を求め、
求められた前記運転変数の時間変化を、時間軸上で複数の区間に区分し、
前記区間ごとに、複数の前記運転変数の特徴量を決定し、
前記複数の特徴量時系列に並んだ検証データに基づいて、前記ショベルの作業内容を判定する作業内容判定方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
特徴量の時系列からなる検証データに基づいて、作業内容を判定することにより、ある時刻の特徴量に基づいて判定する場合に比べて、より正確な判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例による作業機械の管理装置のブロック図、及び管理対象の作業機械の概略図である。
図2図2は、実施例による作業機械の管理装置に記憶されている状態遷移モデルを示す図である。
図3図3は、状態遷移モデルを決定する方法のフローチャートである。
図4図4は、作業内容(単純掘削作業)の運転変数の時間変化の一例を示すグラフ、及び運転変数の時間変化から決定された参照データを示す図である。
図5図5は、1つの参照データに関して生成された複数の状態系列、及び状態系列ごとに算出された生成確率を示す図である。
図6図6は、作業内容が未知の運転変数の時間変化に対応する作業内容を判定する方法のフローチャートである。
図7図7は、図6のステップSB3の詳細なフローチャートである。
図8図8は、作業内容が未知の運転変数の時間変化の一例を示すグラフ、及び運転変数の時間変化から決定された検証データを示す図である。
図9図9は、検証データに対応して生成された状態系列、状態系列ごとに算出された生成確率、及び一致確率を示す図である。
図10図10A及び図10Bは、入出力装置の表示装置に表示された内容を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に、実施例による作業機械の管理装置10のブロック図、及び管理対象の作業機械18の概略図を示す。作業機械の管理装置10は、入出力装置11、処理装置12、及び記憶装置13を含む。入出力装置11には、通信装置、画像表示装置、キーボード、ポインティングデバイス、USBポート、リムーバブルメモリ用スロット等が含まれる。入出力装置11は、通信回線19を介して作業機械18と各種データの送受信を行う。図1では、管理対象の作業機械18としてショベルを示しているが、他の作業機械を管理対象とすることも可能である。
【0011】
作業機械18に複数のセンサが搭載されている。センサは、作業機械18の稼働状態に依存する複数の運転変数を測定する。運転変数には、例えばエンジン回転数、油圧ポンプ圧力、ショベルの前進、後退、旋回等を制御する作動圧、ブーム等を制御するための油圧シリンダの作動圧等が含まれる。これらの運転変数の測定値が、作業機械の管理装置10に送信される。
【0012】
処理装置12は、記憶装置13に記憶されているプログラムを実行することにより、作業機械18から受信した運転変数の時間変化に基づいて、運転変数が検出されたときの作業内容を判定する。記憶装置13には、処理装置12で実行されるプログラム、作業内容を判定する処理で使用される種々のデータが記憶されている。
【0013】
図2を参照して、作業内容の判定処理で利用される状態遷移モデルについて説明する。作業内容Wごとに状態遷移モデルSTMが定義されている。状態遷移モデルSTMは、状
態Sの遷移の経路を定義する状態遷移経路、状態間の遷移確率t、及び状態Sごとに出現する事象の出現確率eを含む。複数の状態Sは、時系列に並んでおり、時間の経過と共に、1つの状態から次の状態に遷移する。ある状態から前の状態に戻ることはない。さらに、遷移先の状態は、自己、または他の1つの状態であり、1つの状態から複数の次の状態に分岐することはない。この状態遷移モデルSTMは、記憶装置13(図1)に記憶される。
【0014】
各状態Sは、作業機械の1つの動作に対応する。状態Sごとに出現する事象は、本実施例において特徴量Eがとる値で表される。一例として、状態Sごとに出現する事象には、特徴量Eが値「a」をとる事象、値「b」をとる事象、及び値「c」をとる事象が含まれる。特徴量Eは、運転変数の値に基づいて決定される。なお、事象の数が、3個に限定されない。状態Sごとに4個以上の事象が現れるように状態遷移モデルSTMを定義することも可能である。
【0015】
作業内容Wには、例えば単純掘削作業(作業内容W1)、旋回地ならし作業(作業内容W2)、積み込み作業(作業内容W3)等が含まれる。単純掘削作業(作業内容W1)の状態遷移モデルSTM1は、状態S11から状態S16までの6個の状態を含む。例えば、状態S11〜S16は、それぞれブーム上げ動作、アーム伸ばし動作、バケット解放動作、ブーム下げ動作、アーム曲げ動作、及びバケット掘削動作に対応する。
【0016】
状態間の遷移は、自己遷移と次状態への遷移で構成される。状態Sの自己遷移確率をt(ii)で表し、状態Sから次状態Sへの遷移確率をt(ij)と表記する。ある時刻nにおける確率変数をXとすると、t(ii)は、確率変数Xが状態Sである場合に、Xn+1も状態Sであるという条件付き確率で表される。すなわち、t(ii)は、
(ii)=P(Xn+1=S|X=S
と表される。また、状態S11の自己遷移確率はt(11 11)と表記され、状態S11から次状態S12への遷移確率はt(11 12)と表記される。
【0017】
状態Sにおいて、特徴量Eが値「k」をとる事象の出現確率をe(k)と表記する。例えば、状態S11において、特徴量Eが値「a」、「b」、及び「c」をとる事象の出現確率が、それぞれe11(a)、e11(b)、及びe11(c)と表記される。
【0018】
図3に、状態遷移モデルSTMを決定する方法のフローチャートを示す。作業内容Wごとに図3に示した処理を実行することにより、各作業内容Wの状態遷移モデルSTMが決定される。状態遷移モデルSTMの各状態S、及び状態が遷移する経路は、作業内容Wに応じて事前に定義しておく。処理装置12(図1)が図3に示した処理を実行することにより、状態遷移モデルの遷移確率t及び出現確率eが決定される。
【0019】
ステップSA1において、作業内容Wが既知の運転変数Vの時間変化を取得する。運転変数Vの時間変化は、ある作業内容Wに対応する作業を実行している作業機械の複数の運転変数Vを、ある期間に亘って測定することにより得られる。同一機種の異なる機体から、運転変数Vの複数の時間変化を取得してもよいし、同一の機体において、運転日時の異なる複数の時期に運転変数Vを測定することにより、運転変数Vの複数の時間変化を取得してもよい。
【0020】
ステップSA2において、複数の運転変数Vの時間変化を、時間軸上で複数の区画に区分する。
【0021】
図4に、作業内容W1(単純掘削作業)の運転変数V1、V2、V3、・・・時間変化
の一例を示す。運転変数V1、V2、V3、・・・の時間変化が、時間軸上で複数の区画D1〜D10に区分されている。各区画D1〜D10の時間の長さは、例えば1秒である。区画D1〜D10の各々の時間の長さは、適宜設定すればよい。1つの区画の長さを短くすると、作業内容の判定精度を高めることができるが、作業内容を判定するための処理時間が長くなってしまう。1つの区画の長さは、要求される判定精度、及び処理装置12(図1)の処理能力に応じて設定すればよい。1つの区画の長さが変わると、区分されて得られた区画の個数も変化する。実施例では、10個の区画D1〜D10に区分された場合について説明する。
【0022】
ステップSA3(図3)において、区画D1〜D10ごとに、運転変数V1、V2、V3、・・・の値に基づいて、特徴量Eを決定する。決定された特徴量Eの値を時系列に並べることにより、参照データRが生成される。図4に示した例では、区画D1〜D10おいて、特徴量Eの値が、それぞれ「a」、「b」、「c」、「a」、「a」、「c」、「b」、「b」、「a」、「a」と決定される。この場合、生成される参照データRは、「abcaacbbaa」となる。
【0023】
運転変数V1、V2、V3、・・・の各々について複数の時間変化が準備されているため、複数の参照データRが生成される。複数の時間変化の時間の長さが同一であるとは限らない。時間変化の長さが異なると、時間変化を区分して得られる区画の個数が異なる。このため、参照データRを構成している特徴量Eの個数は、すべての参照データRで同一であるとは限らない。
【0024】
ステップSA4(図3)において、状態遷移モデルSTMの遷移確率t及び出現確率eの暫定値を設定する。遷移確率t及び出現確率eの暫定値として、適当な値を設定すればよい。
【0025】
ステップSA5(図3)において、参照データRを構成する複数の特徴量Eの各々に、状態遷移モデルSTMの各状態Sを当てはめることにより、複数の状態系列Kを生成する。
【0026】
図5に、1つの参照データRに関して生成された複数の状態系列K(1)〜K(N)の例を示す。参照データRを構成する特徴量Eの個数が10個であり、状態遷移モデルSTMを構成する状態S11〜S16の個数が6個である。このため、複数の特徴量Eに同一の状態Sが割り当てられる。図5に示した状態系列K(i)においては、1番目の値「a」をとる特徴量E、及び2番目の値「b」をとる特徴量Eに、同一の状態S11が割り当てられている。
【0027】
図5には、1つの参照データRに当てはめられた状態系列K(1)〜K(N)を示しているが、実際には、すべての参照データRについて、同様に状態系列Kが生成される。
【0028】
ステップSA6(図3)において、状態系列K(i)ごとに、遷移確率t及び出現確率eの暫定値を用いて、状態系列K(i)の生成確率PK(i)を算出する。例えば、図5に示した状態系列K(1)の値「a」をとる1番目の特徴量Eに割り当てられた状態S11については、特徴量Eが値「a」をとる事象が出現し、かつ遷移先の状態がS11である(自己遷移している)ため、この確率は、e11(a)×t(11 11)となる。出現確率e11(a)及び遷移確率t(11 11)は、図2で定義されているとおりである。状態系列K(1)を構成する10個の状態Sについて同様の確率を求めることができる。これらの10個の状態Sについて求められた確率をすべて乗ずることにより、状態系列K(1)の生成確率PK(1)が算出される。図5に示した状態系列K(i)の生成確率PK(i)は、以下の式で表される。
【0029】
PK(i)=e11(a)×t(11 11)
×e11(b)×t(11 12)
×e12(c)×t(12 12)
×e12(a)×t(12 13)
×e13(a)×t(13 13)
×e13(c)×t(13 14)
×e14(b)×t(14 14)
×e14(b)×t(14 15)
×e15(a)×t(15 16)
×e16(a)×t(16 end)
【0030】
ステップSA7(図3)において、状態系列Kの生成確率PKに基づいて、遷移確率t及び出現確率eを算出し、その暫定値を新たに算出された値に置き換える。具体的には、図5に示したすべての状態系列K(1)〜K(N)、及び図5には示されていない他の参照データRに当てはめられたすべての状態系列Kに現れているすべての状態S11について、特徴量Eが値「a」、「b」、及び「c」をとる事象の出現回数を、生成確率PKで重みづけして合計する。この合計の回数に基づいて、出現確率e11(a)、e11(b)、及びe11(c)を算出することができる。同様に、すべての出現確率eを算出することができる。
【0031】
さらに、図5に示したすべての状態系列K(1)〜K(N)、及び図5には示されていない他の参照データRに当てはめられたすべての状態系列Kに現れているすべての状態S11について、自己遷移する回数、及び次の状態S12に遷移する回数を、それぞれ生成確率PKで重みづけして合計する。この合計の回数に基づいて、遷移確率t(11 11)及びt(11 12)を算出することができる。同様に、すべての遷移確率tを算出することができる。
【0032】
ステップSA8(図3)において、状態系列Kの各々の生成確率PKが収束したか否かを判定する。具体的には、ステップSA6で生成確率PKを算出する前の生成確率PKの値と、算出後の生成確率PKの値との差が、収束判定値よりも小さくなったら、生成確率PKが収束したと判定される。生成確率PKが収束していないと判定された場合には、ステップSA6に戻り、新たな暫定値を用いて生成確率PKの算出を行う。
【0033】
生成確率PKが収束したと判定された場合には、ステップSA9において、遷移確率t及び出現確率eの直近の暫定値を、確定値とする。この確定値は状態遷移モデルを定義するパラメータの一部として、記憶装置13(図1)に記憶される。
【0034】
図6に、作業内容Wが未知の運転変数Vの時間変化の作業内容を判定する方法のフローチャートを示す。このフローチャートの処理は、処理装置12(図1)が実行する。
【0035】
ステップSB1において、作業内容Wが未知の運転変数Vの時間変化が、入出力装置11(図1)を介して処理装置12(図1)に入力される。図8に、作業内容Wが未知の運転変数V1、V2、V3の時間変化の一例を示す。この運転変数V1、V2、V3は、状態遷移モデルSTMを定義するときに用いられた運転変数V1、V2、V3(図4)と同一である。
【0036】
ステップSB2において、入力された運転変数Vの時間変化に基づいて、特徴量Eの時系列で構成される検証データTを生成する。以下、検証データTを生成する方法について説明する。
【0037】
ステップSB21において、運転変数Vの時間変化を時間軸上で複数の区画に区分する。図8に示した例では、運転変数V1、V2、V3の時間変化が8個の区画D1〜D8に区分されている。区画D1〜D8の各々の時間の長さは、状態遷移モデルSTMを定義するときにステップSA2(図3)において区分した区画の時間の長さと同一である。
【0038】
ステップSB22(図6)において、区画D1〜D8の各々について、運転変数V1、V2、V3の値に基づいて、特徴量Eを決定する。複数の特徴量Eが時系列に並んだ検証データTが生成される。図8に示した例では、検証データTは、「abbacbac」になる。
【0039】
ステップSB3(図6)において、検証データTと状態遷移モデルSTMとの一致確率Pcを算出する。
【0040】
図7に、ステップSB3の詳細なフローチャートを示す。ステップSB3において、すべての作業内容W1、W2、W3、・・・について、作業内容ごとにステップSB31〜SB34の処理を繰り返し実行する。
【0041】
ステップSB31において、検証データTから、複数の状態系列Lを生成する。ステップSB31の処理は、状態遷移モデルSTMを定義する処理のステップSA5(図3)で、状態系列Kを生成する処理と同一である。図9に、生成された状態系列L(1)〜L(M)を示す。検証データTを構成する特徴量Eが8個であるため、状態系列Lの各々は、時系列に並んだ8個の状態Sで構成される。
【0042】
ステップSB32(図7)において、状態系列L(1)〜L(M)の各々の生成確率PL(1)〜PL(M)(図9)を算出する。生成確率PL(1)〜PL(M)の算出方法は、状態遷移モデルSTMを定義する処理のステップSA6(図3)で、生成確率PKを算出した方法と同一である。なお、生成確率PLを算出する際には、遷移確率t及び出現確率eとして、その確定値が用いられる。
【0043】
ステップSB33(図7)において、すべての状態系列L(1)〜L(M)について、生成確率PL(1)〜PL(M)を足し合わせて、生成確率PL(1)〜PL(M)の合計値を算出する。ステップSB34において、合計値を、検証データTと状態遷移モデルSTMとの一致確率Pcとして採用する。作業内容W1、W2、W3、・・・ごとにステップSB31〜SB34を実行することにより、作業内容W1、W2、W3、・・・について、それぞれ一致確率Pc1、Pc2、Pc3、・・・(図9)が算出される。
【0044】
ステップSB4(図6)において、一致確率Pc1、Pc2、Pc3、・・・の各々と閾値PcTとを比較する。ステップSB5において、ステップSB4の比較結果に基づいて、作業内容を判定する。具体的には、一致確率Pcが閾値PcT以上になっている作業内容が、検証データTが収集されたときの作業内容の候補として抽出される。
【0045】
ステップSB6(図6)において、作業内容の判定結果を、入出力装置11(図1)に出力する。例えば、作業内容の判定結果が入出力装置11の画像表示装置に表示される。
【0046】
図10Aに、入出力装置11の表示装置に表示された内容の一例を示す。ステップSB5で抽出された候補が1つの場合には、候補として抽出された作業内容が、検証データ及び状態の遷移の経路とともに、入出力装置11に出力される。
【0047】
図10Bに、ステップSB5で複数の候補が抽出された場合の表示例を示す。候補とし
て抽出された複数の作業内容が、一致確率及び状態の遷移の経路とともに、入出力装置11に出力される。オペレータは、表示された一致確率、及び状態の遷移の経路に基づいて、検証データTに対応する作業内容を推測することができる。
【0048】
上記実施例では、作業機械から取得された種々の運転変数のある期間の平均値ではなく、時間変化(すなわち、特徴量の時系列)に基づいて作業内容が判定される。このため、判定精度を高めることができる。
【0049】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0050】
10 作業機械の管理装置
11 入出力装置
12 処理装置
13 記憶装置
18 作業機械
19 通信回線
E 特徴量
K、L 状態系列
S 状態
STM 状態遷移モデル
Pc 一致確率
PcT 閾値
t 遷移確率
e 出現確率
PK、PL 生成確率
R 参照データ
T 検証データ
W 作業内容
V 運転変数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10