(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ビームライン部は、ビームライン上流部分と、前記ビームライン上流部分の下流に配設されているビームライン中間部分と、前記ビームライン中間部分の下流に配設されているビームライン下流部分と、を備え、
前記ビームライン上流部分は、前記イオンビームを生成するイオンビーム生成ユニットと、前記イオンビームを加速する高エネルギー多段直線加速ユニットと、を備え、
前記ビームライン中間部分は、複数の偏向電磁石を備え、前記複数の偏向電磁石は、少なくとも1つのエネルギー分析電磁石と、前記少なくとも1つのエネルギー分析電磁石の下流に配設されている少なくとも1つのステアリング電磁石と、を備え、
前記ビームライン下流部分は、前記ビーム走査器と、前記ビーム平行化器と、を備え、
前記ビーム偏向器は、前記少なくとも1つのステアリング電磁石であることを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。
前記少なくとも1つのステアリング電磁石は、主コイル電源を備える軌道偏向用の主コイルと、副コイル電源を備える偏向角度補正用の副コイルと、を備え、副コイル電源は主コイル電源から独立に制御可能であり、
前記制御部は、前記イオンビームの実軌道が前記走査原点にて前記基準軌道と交差するように、前記副コイルを制御することを特徴とする請求項2または3に記載のイオン注入装置。
前記複数の偏向電磁石は、前記高エネルギー多段直線加速ユニットにより加速された前記イオンビームを約180°偏向するよう構成されていることを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載のイオン注入装置。
前記エネルギー分析電磁石及び前記ステアリング電磁石はそれぞれイオンビームを約90°偏向するよう構成されていることを特徴とする請求項7に記載のイオン注入装置。
前記ビーム整形器は、少なくとも1つの四重極レンズを備え、前記四重極レンズは、x方向に対向する一対の電極と、前記一対の電極それぞれに異なる電位を与える電源部と、を備えることを特徴とする請求項10に記載のイオン注入装置。
前記ビーム偏向器におけるx方向の偏向角度の補正量は、被処理物へのx方向注入角度誤差を、1回の補正により規格内に収めるように設定されることを特徴とする請求項1から13のいずれかに記載のイオン注入装置。
前記ビーム走査器は、前記イオンビームの実軌道と前記基準軌道との交差角に相当する一定の偏向角度と走査のために周期的に変化する偏向角度との合計の偏向角度で前記イオンビームを往復的に偏向することにより前記交差角を相殺することを特徴とする請求項1から14のいずれかに記載のイオン注入装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0014】
図1は、本発明のある実施形態に係るイオン注入装置100を概略的に示す上面図である。
図1には、イオン注入装置100のビームライン部の構成要素のレイアウトが示されている。イオン注入装置100のビームライン部は、イオン源10と、被処理物のための処理室と、を備えており、イオン源10から被処理物(例えば基板またはウェハ40)に向けてイオンビームBを輸送するよう構成されている。
【0015】
本書においては説明の便宜上、ビームライン部における基準軌道に沿う方向をz方向とし、z方向に直交する方向をx方向と表す。また、z方向及びx方向に直交する方向をy方向と表す。本実施形態ではx方向は水平方向であり、y方向は鉛直方向である。
【0016】
また、本書においては、「ある面(例えばxz面)においてビーム実軌道が基準軌道に交差する」といった言及をすることがある。こうした言及における「交差」とは、当該面に直交する方向(例えばy方向)から見て交差することをいう。よって、ビーム実軌道と基準軌道とはy方向には多少ずれていてもよい。「交差」がビーム走査器で生じる実施形態においては、ビーム実軌道と基準軌道とは、ビーム走査器の偏向電場の強さがy=0(基準軌道のy方向位置)での強さと同じとみなせる範囲で、y方向には多少ずれていてもよい。ある実施形態においては、偏向電場のずれ率が、例えば0.8%未満、または0.4%未満である場合には、偏向電場の強さが同じであるとみなすことができる。
【0017】
イオン注入装置100は、いわゆる高エネルギーイオン注入装置に適する。高エネルギーイオン注入装置は、高周波線形加速方式のイオン加速器と高エネルギーイオン輸送用ビームラインを有するイオン注入装置である。高エネルギーイオン注入装置は、イオン源10で発生したイオンを高エネルギーに加速し、そうして得られたイオンビームBをビームラインに沿って被処理物まで輸送し、被処理物にイオンを注入する。
【0018】
図1に示すように、イオン注入装置100は、イオンを生成して質量分離するイオンビーム生成ユニット12と、イオンビームを加速して高エネルギーイオンビームにする高エネルギー多段直線加速ユニット14と、高エネルギーイオンビームの軌道をU字状に曲げるビーム偏向ユニット16と、高エネルギーイオンビームをウェハ40まで輸送するビーム輸送ラインユニット18と、輸送された高エネルギーイオンビームを均一に半導体ウェハに注入する基板処理供給ユニット20とを備える。
【0019】
イオンビーム生成ユニット12は、イオン源10と、引出電極11と、質量分析装置22と、を有する。イオンビーム生成ユニット12では、イオン源10から引出電極11を通してビームが引き出されると同時に加速され、引出加速されたビームは質量分析装置22により質量分析される。質量分析装置22は、質量分析磁石22a、質量分析スリット22bを有している。質量分析スリット22bは、質量分析磁石22aの直後に配置する場合もあるが、実施例では、その次の構成である高エネルギー多段直線加速ユニット14の入り口部内に配置している。
【0020】
質量分析装置22による質量分析の結果、注入に必要なイオン種だけが選別され、選別されたイオン種のイオンビームは、次の高エネルギー多段直線加速ユニット14に導かれる。高エネルギー多段直線加速ユニット14は、高エネルギーイオン注入用の基本的な複数段の高周波共振器を備える第1線形加速器15aを備える。高エネルギー多段直線加速ユニット14は、超高エネルギーイオン注入用の追加の複数段の高周波共振器を備える第2線形加速器15bを備えてもよい。高エネルギー多段直線加速ユニット14により加速されたイオンビームは、ビーム偏向ユニット16により方向が変化させられる。
【0021】
イオンビームを高加速する高周波(交流方式)の高エネルギー多段直線加速ユニット14を出た高エネルギーイオンビームは、ある範囲のエネルギー分布を持っている。このため、後段の高エネルギーのイオンビームをビーム走査およびビーム平行化させてメカニカルに走査移動中のウェハに照射するためには、事前に高い精度のエネルギー分析と、中心軌道補正、及びビーム収束発散の調整を実施しておくことが必要となる。
【0022】
ビーム偏向ユニット16は、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析、中心軌道補正、エネルギー分散の制御を行う。ビーム偏向ユニット16は、少なくとも2つの高精度偏向電磁石と少なくとも1つのエネルギー幅制限スリットとエネルギー分析スリット、及び、少なくとも一つの横収束機器とを備える。複数の偏向電磁石は、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析とイオン注入角度の精密な補正、及び、エネルギー分散の抑制とを行うよう構成されている。
【0023】
ビーム偏向ユニット16は、エネルギー分析電磁石24と、エネルギー分散を抑制する横収束四重極レンズ26と、エネルギー分析スリット28と、ステアリング(軌道補正)を提供するステアリング電磁石30とを有する。エネルギー分析電磁石24は、ビーム偏向ユニット16の複数の偏向電磁石のうち最上流側の1つである。ステアリング電磁石30は、ビーム偏向ユニット16の複数の偏向電磁石のうち最下流側の1つである。なお、エネルギー分析電磁石24は、エネルギーフィルター電磁石(EFM)と呼ばれることもある。高エネルギーイオンビームは、ビーム偏向ユニット16によって方向転換され、ウェハ40の方向へ向かう。
【0024】
ビーム偏向ユニット16の各偏向電磁石を通過中のイオンには、遠心力とローレンツ力が働いており、それらが釣り合って、円弧状の軌跡が描かれる。この釣合いを式で表すとmv=qBrとなる。mはイオンの質量、vは速度、qはイオン価数、Bは偏向電磁石の磁束密度、rは軌跡の曲率半径である。この軌跡の曲率半径rが、偏向電磁石の磁極中心の曲率半径と一致したイオンのみが、偏向電磁石を通過できる。言い換えると、イオンの価数が同じ場合、一定の磁場Bがかかっている偏向電磁石を通過できるのは、特定の運動量mvを持ったイオンのみである。EFMは、エネルギー分析電磁石と呼ばれているが、実際は、イオンの運動量を分析する装置である。BMや、イオン生成ユニットの質量分析電磁石も、全て運動量フィルターである。
【0025】
また、ビーム偏向ユニット16は、複数の磁石を用いることで、イオンビームを180°偏向させることができる。これにより、ビームラインがU字状の高エネルギーイオン注入装置を簡易な構成で実現できる。
【0026】
上述のように、ビーム偏向ユニット16は、イオン源で発生したイオンを加速してウェハまで輸送して打ち込むイオン注入装置において、高エネルギー多段直線加速ユニット14とビーム輸送ラインユニット18との間において、イオンビームの180°の偏向を複数の電磁石で行っている。エネルギー分析電磁石24およびステアリング電磁石30は、それぞれ偏向角度が90度となるように構成されており、その結果、合計の偏向角度が180度となるように構成されている。なお、一つの磁石で行う偏向量は90°に限られず、以下の組合せでもよい。
(1)偏向量が90°の磁石が1つ+偏向量が45°の磁石が2つ
(2)偏向量が60°の磁石が3つ
(3)偏向量が45°の磁石が4つ
(4)偏向量が30°の磁石が6つ
(5)偏向量が60°の磁石が1つ+偏向量が120°の磁石が1つ
(6)偏向量が30°の磁石が1つ+偏向量が150°の磁石が1つ
【0027】
エネルギー分析電磁石24には高い磁場精度が必要であるので、精密な磁場測定を行う高精度な磁場測定器86が、取り付けられている。磁場測定器86は、MRP(磁気共鳴プローブ)とも呼ばれるNMR(核磁気共鳴)プローブとホールプローブとを適宜組み合わせたもので、MRPはホールプローブの校正に、ホールプローブは磁場一定のフィードバック制御にそれぞれ使用される。また、エネルギー分析電磁石24は、磁場の不均一性が0.01%未満になるように、厳しい精度で製作されている。ステアリング電磁石30にも同様に、磁場測定器86が設けられている。なおステアリング電磁石30の磁場測定器86には、ホールプローブのみ取り付けられていてもよい。さらに、エネルギー分析電磁石24及びステアリング電磁石30の各々には、電流設定精度と電流安定度とが1×10
−4以内の電源とその制御機器が接続されている。
【0028】
ビーム輸送ラインユニット18は、ビーム偏向ユニット16から出たイオンビームBを輸送するものであり、収束/発散レンズ群から構成されるビーム整形器32と、ビーム走査器34と、ビーム平行化器36と、静電式の最終エネルギーフィルター38(最終エネルギー分離スリットを含む)とを有する。ビーム輸送ラインユニット18の長さは、イオンビーム生成ユニット12と高エネルギー多段直線加速ユニット14との長さに合わせて設計されている。ビーム輸送ラインユニット18は、高エネルギー多段直線加速ユニット14とビーム偏向ユニット16により連結されて、全体でU字状のレイアウトを形成する。
【0029】
図2(a)は、ビーム輸送ラインユニット18の一部の概略構成を示す平面図である。ビーム偏向ユニット16(
図1参照)によって必要なイオン種のみが分離され、必要なエネルギー値のイオンのみとなったビームは、ビーム整形器32により所望の断面形状に整形される。図示されるように、ビーム整形器32は、Q(四重極)レンズ等(電場式若しくは磁場式)の収束/発散レンズ群により構成される。整形された断面形状を持つビームは、ビーム走査器34により
図2(a)の紙面に平行な方向に走査される。例えば、横収束(縦発散)レンズQF/横発散(縦収束)レンズQD/横収束(縦発散)レンズQFからなるトリプレットQレンズ群として構成される。ビーム整形器32は、必要に応じて、横収束レンズQF、横発散レンズQDをそれぞれ単独で、あるいは複数組み合わせて構成することができる。
【0030】
ビーム走査器34は、周期的に変化する偏向角度で走査原点Sにてイオンビームをx方向に偏向することによりイオンビームを走査するよう構成されている。
図2(b)に示されるように、走査原点Sは、ビーム走査器34への入射ビーム軌道35aの延長線とビーム走査器34からの出射ビーム軌道35bの延長線との交点である。
【0031】
ビーム走査器34は、周期変動する電場により、イオンビームの進行方向と直交する水平方向にイオンビームを周期的に往復走査させる偏向走査装置である。
図2(a)に示されるように、ビーム走査器34は、ビーム進行方向に関して、イオンビームの通過域を挟むようにして対向配置された一対(2枚)の走査電極34a、34b(二極式偏向走査電極)を備え、0.5Hz〜4000Hzの範囲の一定の周波数で正負に変動する三角波に近似する走査電圧が、2枚の走査電極34a、34bにそれぞれ逆符号で印加される。この走査電圧は、2枚の走査電極34a、34bのギャップ内において、そこを通過するビームを偏向させる変動する電場を生成する。そして、走査電圧の周期的な変動により、ギャップを通過するビームが水平方向に走査される。
【0032】
ビーム走査器34の下流側には、イオンビームの通過域に開口を有するサプレッション電極74が2つのグランド電極78a、78bの間に配置されている。上流側には、走査電極の前方にグランド電極76aを配置しているが、必要に応じて下流側と同じ構成のサプレッション電極を配置することができる。サプレッション電極は、正電極への電子の侵入を抑制する。
【0033】
スキャンハウジング内において、ビーム走査器34の下流側には、ビーム走査空間部34cが長い区間において設けられ、ビーム走査角度が狭い場合でも十分な走査幅を得られるように構成されている。ビーム走査空間部34cの下流にあるスキャンハウジングの後方には、偏向されたイオンビームを、ビーム走査偏向前のイオンビームの方向になるように調整する、つまり、ビームラインL1に平行となるように曲げ戻すビーム平行化器36が設けられている。
【0034】
ビーム平行化器36で発生する収差(ビーム平行化器の中心部と左右端部の焦点距離の差)は、ビーム走査器34の偏向角の2乗に比例するので、ビーム走査空間部34cを長くして偏向角を小さくすることは、ビーム平行化器36の収差を抑えることに大きく寄与する。収差が大きいと、半導体ウェハにイオンビームを注入する際に、ウェハの中心部と左右端部とでビームサイズとビーム発散角が異なるため、製品の品質にバラツキが生じることがある。
【0035】
また、このビーム走査空間部34cの長さを調整することによって、ビーム輸送ラインユニットの長さを、高エネルギー多段直線加速ユニット14の長さに合わせることができる。
【0036】
ビーム平行化器36は、ビーム走査器34から入射するイオンビームを平行化するよう構成されており、x方向(水平方向)に沿って広がるビーム通過領域をビーム平行化器36の下流に形成する。ビーム平行化器36は、例えば、静電式のビーム平行化器である。
【0037】
ビーム平行化器36には、電場式の平行化レンズ84が配置されている。
図2(a)に示すように、平行化レンズ84は、略双曲線形状の複数の加速電極対と減速電極対で構成されている。各電極対は、放電が起きない程度の広さの加速・減速ギャップを介して向き合っており、加速減速ギャップには、イオンビームの加減速を引き起こす軸方向の成分と、基準軸からの距離に比例して強くなって、イオンビームに横方向の収束作用を及ぼす横成分とを併せ持つ電界が形成される。
【0038】
加速ギャップを挟む電極対のうち下流側の電極と、減速ギャップの上流側の電極、及び、減速ギャップの下流側の電極と次の加速ギャップの上流側の電極とは、同一電位になるように、それぞれ一体の構造体を形成している。
【0039】
平行化レンズ84の上流側から最初の電極(入射電極)と最後の電極(出射電極)は、接地電位に保たれている。これによって、平行化レンズ84通過前後で、ビームのエネルギーは変化しない。
【0040】
中間の電極構造体において、加速ギャップの出口側電極と減速ギャップの入り口側電極には、可変式定電圧の負電源90が、減速ギャップの出口側電極と加速ギャップの入り口側電極には、可変式定電圧の正電源が接続されている(n段の時は負正負正負・・・)。これによって、イオンビームは加速・減速を繰り返しながら、ビームラインの基準軌道と平行な方向に段階的に向いていく。そして、最終的に偏向走査前のイオンビーム進行方向(ビームライン軌道方向)に平行な軌道に乗る。
【0041】
図2(a)に示されるように、ビーム平行化器36は、基準軌道(例えば、
図2(a)に示すビームラインL1)上に焦点F
0を有する。ビーム平行化器36に入射する複数のビーム軌道37a、37b、37cはそれぞれ基準軌道に対し異なる角度を有する。ビーム平行化器36は、複数のビーム軌道37a、37b、37cのそれぞれを入射角度に応じて異なる偏向角度で偏向し、それにより複数のビーム軌道37a、37b、37cが基準軌道と平行化されるように、設計されている。ビーム平行化器36は、所与のイオン注入条件(例えば目標ビームエネルギーを含む)に応じて予め定められた電気的入力(例えば電圧)を受けて作動する。
【0042】
複数のビーム軌道37a、37b、37cは、基準軌道を含む一平面上にあり、この平面において焦点F
0からビーム平行化器36へとそれぞれ異なる入射角度に方向付けられている。本実施形態においては複数のビーム軌道37a、37b、37cはビーム走査器34による走査の結果であるから、この平面は、ビーム走査器34の走査面(xz面)に相当する。これらビーム軌道のいずれか(
図2(a)においてはビーム軌道37b)が基準軌道に一致していてもよい。
図2(a)に示す実施形態においては基準軌道はビーム平行化器36において偏向されずにビーム平行化器36を直進する。
【0043】
本実施形態に係るイオン注入装置100は、ビーム平行化器36の焦点F
0がビーム走査器34の走査原点Sに一致するよう構成されている。よって、走査原点Sにおいてビーム走査器34により走査されたビームは、電場平行化レンズ等を含むビーム平行化器36により収束され、走査前のイオンビーム進行方向(ビームライン軌道方向)に平行な偏向角0度の軸(基準軸)に対して平行になる。このとき、走査領域は、基準軸に関して左右対称になる。
【0044】
このようにして、ビーム輸送ラインユニット18は、高エネルギーのイオンビームのビーム走査およびビーム平行化を行う。平行化されたイオンビームは、最終エネルギーフィルター38を通じて基板処理供給ユニット20に供給される。平行化されたイオンビームは、メカニカルに走査移動中のウェハ40に高精度に照射され、ウェハ40にイオンが注入される。
【0045】
図1に示されるように、ビーム輸送ラインユニット18の下流側の終端には、基板処理供給ユニット20が設けられており、注入処理室の中に、イオンビームBのビーム電流、位置、注入角度、収束発散角、上下左右方向のイオン分布等を計測するビームモニタ102、イオンビームBによるウェハ40の帯電を防止する帯電防止装置、ウェハ40を搬入搬出し適正な位置・角度に設置するウェハ搬送機構、イオン注入中ウェハ40を保持するESC(Electro Static Chuck)、注入中ビーム電流の変動に応じた速度でウェハ40をビーム走査方向と直角方向に動かすウェハスキャン機構が収納されている。基板処理供給ユニット20は、ウェハ40のメカニカルスキャンを提供するよう構成されている。
【0046】
ビームモニタ102は、被処理物へのイオンビームBのx方向注入角度を測定するよう構成されている。ビームモニタ102は、例えば0.1°以下の測定誤差でビーム角度を測定する高精度の角度モニタである。また、ビームモニタ102は、被処理物へのイオンビームBのx方向注入位置を測定するよう構成されている。よって、ビームモニタ102はイオンビームの位置モニタでもある。ビームモニタ102は、被処理物の位置またはその近傍の測定位置でイオンビームBを事前に測定し、注入処理中は測定位置から待避し測定を停止するか又は測定位置の近傍でビームをモニタする。
【0047】
ビームモニタ102は、既知の位置を有するスリットと、スリットの下流に配置されたビーム検出器と、を備えてもよい。ビーム検出器は例えば、一次元または二次元に配列されたビーム検出素子を有する。ビーム検出器により検出されたビーム受光点とスリットとの相対位置からイオンビームBの進行方向を取得することができる。ビームモニタ102は、基準軌道に垂直な面内で(例えばビーム走査方向に)移動可能であってもよく、当該面内の任意の位置でビーム角度を測定してもよい。
【0048】
なお、ビームモニタ102は、ビーム平行化器36と被処理物との間に配置され、被処理物の上流でイオンビームBを測定してもよい。あるいは、ビームモニタ102は、被処理物の背後に配置され、被処理物の下流でイオンビームBを測定してもよい。
【0049】
また、イオン注入装置100は、イオン注入装置100の全体又はその一部(例えばビームライン部の全体又はその一部)を制御するための制御部104を備える。制御部104は、ビームモニタ102の測定結果に基づいてステアリング電磁石30における偏向磁場を補正するよう構成されている。
【0050】
このようにして、イオン注入装置100のビームライン部は、対向する2本の長直線部を有する水平のU字状の折り返し型ビームラインに構成されている。上流の長直線部は、イオン源10で生成したイオンビームBを加速する複数のユニットから成る。下流の長直線部は、上流の長直線部に対し方向転換されたイオンビームBを調整してウェハ40に注入する複数のユニットから成る。2本の長直線部はほぼ同じ長さに構成されている。2本の長直線部の間に、メンテナンス作業のために十分な広さの作業スペースR1が設けられている。
【0051】
このように各ユニットをU字状に配置した高エネルギーイオン注入装置は、設置面積を抑えつつ良好な作業性が確保されている。また、高エネルギーイオン注入装置においては、各ユニットや各装置をモジュール構成とすることで、ビームライン基準位置に合わせて着脱、組み付けが可能となっている。
【0052】
また、高エネルギー多段直線加速ユニット14と、ビーム輸送ラインユニット18とが折り返して配置されるため、高エネルギーイオン注入装置の全長を抑えることができる。従来装置ではこれらがほぼ直線状に配置されている。また、ビーム偏向ユニット16を構成する複数の偏向電磁石の曲率半径は、装置幅を最小にするように最適化されている。これらによって、装置の設置面積を最小化するとともに、高エネルギー多段直線加速ユニット14とビーム輸送ラインユニット18との間に挟まれた作業スペースR1において、高エネルギー多段直線加速ユニット14やビーム輸送ラインユニット18の各装置に対する作業が可能となる。また、メンテナンス間隔が比較的短いイオン源10と、基板の供給/取出が必要な基板処理供給ユニット20とが隣接して配置されるため、作業者の移動が少なくてすむ。
【0053】
このようなU字状のビームラインレイアウトによって、イオン注入装置100は適正なサイズを有する。しかし、U字状レイアウトは、イオン源10から基板処理供給ユニット20までのビームラインの全長を短くするわけではない。むしろ、U字状の偏向に要する長さと、その後段のビーム輸送ラインユニット18の長さを高エネルギー多段直線加速ユニット14に合わせるための長さとが加わるので、全体では直線状のレイアウトより長くなる。
【0054】
長いビームラインでは、各機器の据え付け誤差が積み重なることによって、終端でのビームの位置や入射角の設計値からのずれが大きくなる。例えば、収束四重極レンズ(例えば、横収束四重極レンズ26)の据え付け位置が横にずれている場合、基準軌道を飛んできたビームは、レンズ中心から外れた位置で四重極レンズに入射するため、収束作用を受けて内側に(四重極レンズがずれている方向に)軌道が曲がってしまう。一つ一つの機器での軌道のずれは小さくとも、多数の機器を通り、長い距離を飛行するうちに、基準軌道からの角度と位置のずれは大きくなる。中心軌道ずれを抑えるためには、まずビームライン機器を高精度で据え付けることが重要であるが、それにも限界がある。
【0055】
本発明のある実施形態は、こうした問題を解決することを目的とする。より具体的には、本発明のある実施形態は、多数の収束要素が挿入されているU字状の長いビームラインにおいて、それら収束要素の据え付け誤差によるビーム偏向作用を打ち消し、最終的に注入角度誤差±0.1°以下の高い角度精度でイオン注入ができる高エネルギーイオン注入装置を提供することを目的とする。
【0056】
そこで、ある実施形態に係る高エネルギーイオン注入装置では、イオン源10で生成されたイオンビームを加速する複数のユニットから成る長直線部と、走査ビームを調整してウェハ40に注入する複数のユニットから成る長直線部とを平行に配設することによって、水平のU字状の折り返し型ビームラインが構成される。U字状の偏向部は複数の偏向電磁石で構成される。
【0057】
複数の偏向電磁石のうち下流側の少なくとも一台が、水平方向(走査面内)のイオン注入角度の精密調整用の偏向電磁石として使用される。ウェハ40直近で測定された水平方向のビームの位置と入射角(注入角)から、補正後の軌道がビーム走査器34の走査原点を通るように(上下方向の軌道位置は問わない)、偏向電磁石の出力値が設定される。このようにして、ウェハ40への注入角度誤差が±0.1°以下になるように、偏向電磁石における偏向角度が補正される。
【0058】
図3を参照して、ビーム走査器34とその上流に配設されたステアリング電磁石30とを使用する水平方向の注入角度補正の詳細を以下に述べる。ステアリング電磁石30は、90°の偏向と中心軌道補正(ステアリング機能)とを同時に行う。
【0059】
ステアリング電磁石30の中心Cにおけるビーム実軌道の基準軌道に対する水平方向の位置をXs、傾きをXs’と表記する。つまり、機器の据え付け誤差に起因して、ビーム実軌道はステアリング電磁石30の中心Cにおいて、位置誤差Xs及び角度誤差Xs’のx方向軌道誤差を有する。こうした軌道誤差は例えば、静電Qレンズ、Q電磁石(四重極電磁石)、偏向電磁石の面角といった収束要素がビーム偏向ユニット16に挿入されている場合に生じうる。
【0060】
ウェハ位置でのx方向軌道誤差、すなわち注入位置誤差Xw及び注入角度誤差Xw’は、ビーム輸送行列を用いて次の(1)式のように、ステアリング電磁石30におけるx方向軌道誤差に関連づけられる。
【0062】
ここで、
【数2】
は、ステアリング電磁石30からビーム走査器34までのx方向のビーム輸送行列である。これを以下では、「第1ビーム輸送行列」ということがある。また、
【数3】
は、ビーム走査器34からウェハ40までのx方向のビーム輸送行列である。これを以下では、「第2ビーム輸送行列」ということがある。
【0063】
ビーム輸送行列とは、ビームラインを構成する種々の機器でのイオンの運動を表す運動方程式の解を行列形式で表現したものである。ビームラインのある区間内の機器に対応するビーム輸送行列を全て掛け合わせることにより、その区間での運動方程式の解を得ることができる。
【0064】
注入位置誤差Xw及び注入角度誤差Xw’は、ビームモニタ102により測定されるウェハ40上でのビーム位置及び角度として得られる。これら測定値から(1)式を逆算する。そうすると、ウェハ40上でのビーム測定位置及び測定角度に対応するステアリング電磁石30の中心Cでの位置誤差Xs及び角度誤差Xs’が求められる。(1)式を逆算するには、(1)式に左から逆行列を掛ければ良い。ビーム輸送行列の行列式は常に1であることに留意すると、(1)式から次の(2)式が得られる。
【0066】
この計算により、注入点でのx方向軌道誤差の測定値Xw、Xw’から、補正点でのx方向軌道誤差Xs、Xs’が求められることになる。
【0067】
これらの値を用いて、ステアリング電磁石30における偏向角度の補正量が計算される。偏向の補正角Δsは、ステアリング電磁石30の規定の偏向角度である90°に加算される。ステアリング電磁石30で補正角Δsがビーム実軌道に与えられることにより、実軌道の基準軌道に対する傾きがXs’から(Xs’+Δs)に変わる。
【0068】
この角度補正の結果として、走査原点Sにて実軌道が基準軌道と角度Xsc’で交差したと仮定する。そうすると、走査原点Sにおける実軌道のx方向位置及び角度は、第1ビーム輸送行列を用いて、補正後のステアリング電磁石30におけるx方向軌道誤差と次の(3)式のように関連づけられる。ここで、走査原点Sにおける実軌道のx方向位置は、実軌道が基準軌道と交差しているから、ゼロである。
【0070】
したがって、ビーム実軌道を走査原点Sにて基準軌道と交差させるための、ステアリング電磁石30におけるx方向の補正角Δsは、(3)式の第1行から、次の(4)式で表されるように、求められる。
【0072】
次に、走査原点Sにて実軌道が基準軌道に交差するときウェハ40上でx方向の注入角度誤差がゼロになることを説明する。このことは、第2ビーム輸送行列を具体的に考察することにより、理論的に証明される。
【0073】
第2ビーム輸送行列は、次の3つの輸送行列、すなわち、ビーム走査器34からビーム平行化器36までの輸送行列、ビーム平行化器36の輸送行列、及びビーム平行化器36からウェハ40までの輸送行列の積で表される。ビーム走査器34からビーム平行化器36までの輸送行列は、走査原点Sから平行化レンズ84の中心Dまでの距離をFとすると、
【数7】
である。平行化レンズ84は上述のように、この距離Fを焦点距離とするレンズであり、従って、走査原点Sを通るすべての軌道を基準軌道と平行にする。平行化レンズ84の輸送行列は、
【数8】
である。最終エネルギーフィルター38は、y方向に軌道を偏向するため、x方向には影響を与えない。よって、平行化レンズ84の中心Dからウェハ40までの距離をL
2とすると、この区間の水平面内輸送行列は、
【数9】
である。従って、第2ビーム輸送行列は、次の(5)式で表される。
【0075】
(3)式及び(4)式で与えられる補正角Δsのステアリングによって補正されたビーム実軌道が、ウェハ40上で注入位置誤差Xw
2及び注入角度誤差Xw
2’をもつと仮定する。このとき、補正角Δsのステアリングによってビーム実軌道は走査原点Sで基準軌道を角度Xsc’で横切るから、注入位置誤差Xw
2及び注入角度誤差Xw
2’は、(5)式の第2ビーム輸送行列を用いて、次の(6)式により計算される。
【0077】
(6)式の第2行から、注入角度誤差Xw
2’は、ゼロである。これは、ビーム実軌道が走査原点Sを通るようにステアリング電磁石30における偏向角度を補正することにより、注入角度誤差がなくなることを表している。
【0078】
(5)式から、第2ビーム輸送行列において、B
2=F、D
2=0である。よって、補正角Δsを与える(4)式は、次の(7)式のように単純化される。
【0080】
さらに、ステアリング電磁石30からビーム走査器34までの区間に他のビームライン構成要素が何も無く、その区間の距離がL
1である場合には、B
1=L
1であるから、(7)式は、次の(8)式となる。
【0082】
(8)式によって補正角Δsの目安が与えられる。(8)式において補正角Δsは、ウェハ位置で測定された未補正の注入角度誤差Xw’と定数(−F/L
1)との積である。この定数は、ビーム走査器34からビーム平行化器36までの距離Fと、ステアリング電磁石30からビーム走査器34までの距離L
1との比を表す。
【0083】
図4(a)及び
図4(b)は、(8)式を用いるステアリング電磁石30による注入角度補正を示す模式図である。
図4(a)は未補正の状態を示し、
図4(b)は補正された状態を示す。
図4(c)は、ステアリング電磁石30におけるビーム軌道を例示する模式図である。また、
図5は、本発明のある実施形態に係る注入角度補正方法を表すフローチャートである。
【0084】
図4(a)に示されるように、ステアリング電磁石30においてビーム実軌道106が基準軌道108からx方向に外れており、その結果、ビーム実軌道106が走査原点Sからx方向に外れている場合には、ビーム平行化器36により平行化されたイオンビーム110は注入角度誤差Xw’を有する。
【0085】
図5に示される注入角度補正方法においては、注入角度誤差Xw’がビームモニタ102によりウェハ位置で測定される(S10)。制御部104は、測定された注入角度誤差Xw’が規格内にあるか否かを判定する(S12)。例えば、制御部104は、測定された注入角度誤差Xw’が予め定められた許容範囲内にあるか否かを判定する。測定された注入角度誤差Xw’が規格内にあると判定される場合には(S12のY)、注入角度補正は必要とされない。その場合、制御部104は、注入角度誤差Xw’の測定を定期的に繰り返す。
【0086】
測定された注入角度誤差Xw’が規格外であると判定される場合には(S12のN)、制御部104は、ステアリング電磁石30の磁場を補正する(S14)。制御部104は、測定された注入角度誤差Xw’に対応する補正角Δsがステアリング電磁石30の偏向角度に付加されるように、ステアリング電磁石30を制御する。
【0087】
この場合、補正後の注入角度誤差Xw
2’が測定され(S10)、制御部104は再度、測定された注入角度誤差Xw
2’が規格内にあるか否かを判定する(S12)。測定された注入角度誤差Xw
2’が規格内にあると判定される場合には(S12のY)、更なる補正は行われない。通常は1回の補正により、注入角度誤差Xw
2’が規格内に収まる。しかし、測定された注入角度誤差Xw
2’が規格外であると判定される場合には(S12のN)、ステアリング電磁石30における偏向角度が再び補正される(S14)。以後、同様の処理が繰り返される。
【0088】
図4(b)に示されるように、ステアリング電磁石30において補正角Δsを与えることにより、ビーム実軌道106は走査原点Sで基準軌道108に交差する。上述のように走査原点Sを通るビーム軌道はビーム平行化器36により基準軌道108と平行化される。よって、ビーム平行化器36により平行化されたイオンビーム110は注入角度誤差を有しない。
【0089】
このようにして、ビーム実軌道が走査原点Sから外れているときにウェハへの注入角度が測定され、注入角度誤差を相殺するようにビーム偏向器における補正量が決定される。本実施形態に係る注入角度補正方法は、イオン注入の準備段階で行われてもよいし、イオン注入中に定期的に行われてもよい。
【0090】
好ましくは、ビーム走査器34は、ビーム実軌道と基準軌道との交差角Xsc’に相当する偏向角度でビーム実軌道を偏向するよう構成されていてもよい。これにより、以下に説明するように、注入角度誤差Xw
2’だけではなく、注入位置誤差Xw
2もゼロとすることができる。
【0091】
(6)式の第1行から、Xw
2=FXsc’である。注入位置誤差Xw
2は、ビーム走査器34での実軌道と基準軌道との交差角Xsc’に比例する。この交差角Xsc’は、実軌道がビーム走査器34で偏向されず直線的であるとき(すなわち、走査電極34a、34b間の走査電圧がゼロであるとき)のビーム走査器34の出口における基準軌道に対する実軌道の角度に相当する。したがって、交差角Xsc’を相殺するように走査電圧に直流成分を付加することにより(いわゆるオフセット電圧を走査電圧に加えることにより)、注入位置誤差Xw
2をゼロにすることができる。オフセット電圧は、ビーム走査器34の走査電極34a、34b間でイオンビームに−Xsc’(=−Xw
2/F)の偏向角度を与えるように設定される。
【0092】
なお、ここまでの注入角度補正の説明においては、理解を容易にするために、ビーム輸送行列を単純化している。実際には例えば、ステアリング電磁石30とビーム走査器34との間にビーム整形器32が存在するが、上記の検討ではこれを考慮していない。また、ここでは薄肉近似と呼ばれる手法を用いたが、実際のビーム輸送行列の計算は、もっと複雑である。
【0093】
また、
図4(a)及び
図4(b)においては、ステアリング電磁石30におけるイオンビームの偏向の図示を省略している。加えて、
図4(a)においては、ステアリング電磁石30への入射側と出射側とで軌道誤差が同一であるよう単純化しているが、一般にはそうではない。例えば、
図4(c)に例示されるように、ステアリング電磁石30への入射側における基準軌道108に対する実軌道106のずれは、ステアリング電磁石30からの出射側における基準軌道108に対する実軌道106のずれとは異なる。
【0094】
本発明のある実施形態においては、イオン注入装置100のビームライン部は、ビームライン上流部分と、ビームライン上流部分の下流に配設されているビームライン中間部分と、ビームライン中間部分の下流に配設されているビームライン下流部分と、を備える。ビームライン上流部分は、イオンビームを生成するイオンビーム生成ユニット12と、イオンビームを加速する高エネルギー多段直線加速ユニット14と、を備える。ビームライン中間部分はビーム偏向ユニット16を備え、ビーム偏向ユニット16は複数の偏向電磁石を備える。複数の偏向電磁石は、少なくとも1つのエネルギー分析電磁石24と、その下流に配設されている少なくとも1つのステアリング電磁石30と、を備える。ビームライン下流部分は、ビーム走査器34と、ビーム走査器34の下流に配設されているビーム平行化器36と、を備える。
【0095】
イオン注入装置100のビームライン部は、イオンビームをx方向に偏向可能であるよう構成されているビーム偏向器を備える。ビーム偏向器は、例えば、ビーム偏向ユニット16の少なくとも1つのステアリング電磁石30である。あるいは、ビーム偏向器は、ステアリング電磁石30とは異なるビーム偏向ユニット16の偏向電磁石であってもよい。例えば、ビーム偏向器は、ステアリング電磁石30の上流または下流に配設されている偏向電磁石であってもよい。あるいは、ビーム偏向器は、ビーム輸送ラインユニット18に設けられていてもよい。例えば、ビーム偏向器は、ビーム整形器32とビーム走査器34との間に配設されていてもよい。
【0096】
ビーム走査器34は、ビーム偏向器の下流に配設されている。ビーム走査器34は、基準軌道上に走査原点Sを有し、走査原点Sにおいてx方向にイオンビームを走査するよう構成されている。よってx方向はビーム走査器34の走査方向である。ビーム平行化器36は、イオンビームをz方向に平行化するよう構成されている平行化レンズ84を備える。平行化レンズ84の焦点F
0は、走査原点Sに実質的に一致する。
【0097】
ビーム偏向器は、ビーム走査器34における基準軌道に対するビーム実軌道のx方向についての位置誤差及び角度誤差が、ビーム偏向器における基準軌道に対するビーム実軌道のx方向についての位置誤差及び角度誤差に関連づけられるようビーム走査器34の上流に配設されている。具体的には例えば、ビーム偏向器におけるx方向位置誤差及びx方向角度誤差は、ビーム輸送行列を用いて、ビーム走査器34におけるx方向位置誤差及びx方向角度誤差に関連づけられる。
【0098】
また、ビームライン部は、被処理物における基準軌道に対するビーム実軌道のx方向についての位置誤差及び角度誤差が、ビーム走査器34における基準軌道に対するビーム実軌道のx方向についての位置誤差及び角度誤差に関連づけられるよう構成されている。具体的には例えば、x方向の注入位置誤差及び注入角度誤差は、ビーム輸送行列を用いて、ビーム走査器34におけるx方向位置誤差及びx方向角度誤差に関連づけられる。
【0099】
制御部104は、ビーム走査器34におけるビーム実軌道の所望のx方向角度誤差(及び/またはx方向位置誤差)を生じさせるように、ビーム偏向器におけるx方向についての偏向角度を補正する。ビーム走査器34における所望のx方向角度誤差(及び/またはx方向位置誤差)は、被処理物への所望のx方向注入角度及び/またはx方向注入位置に関連づけられている。このようにして、x方向のイオン注入角度の精密調整を行うことができる。
【0100】
例えば、制御部104は、走査面においてビーム実軌道が走査原点Sにて基準軌道と交差するように、ビーム偏向器におけるx方向の偏向角度を補正するよう構成されている。上述のように、ビーム実軌道が走査原点Sにて基準軌道と交差するとき、被処理物へのx方向の注入角度誤差を実質的にゼロにすることができる。ビーム偏向器としてステアリング電磁石30が用いられる場合、x方向の90°のビーム偏向と同時に、x方向の精密なビーム角度調整が行われる。
【0101】
制御部104は、例えばビームモニタ102により測定されたx方向注入角度に基づいて、ビーム実軌道が走査原点Sにて基準軌道と交差するようにステアリング電磁石30における磁場を補正してもよい。x方向注入角度の測定値からx方向注入角度誤差が得られる。走査原点Sでの実軌道と基準軌道との交差によって、注入角度誤差を相殺するようにステアリング電磁石30における磁場が補正される。このようにして、好ましくは1回の磁場補正により注入角度誤差をゼロにすることができる。
【0102】
ステアリング電磁石30における磁場を測定する磁場測定器86は、イオンビームの実軌道が走査原点Sにて基準軌道と交差するようにステアリング電磁石における磁場が補正された状態で、校正されてもよい。
【0103】
ビーム偏向ユニット16が2つの90°偏向電磁石から成り、上流側がエネルギー分析電磁石24、下流側がステアリング電磁石30である場合、エネルギー分析電磁石24を通過したイオンの質量とエネルギーは既知である。このとき、ステアリング電磁石30の平均磁場(磁束密度)B[T]とイオンのエネルギーE[keV]及び質量m[amu]との間には以下の関係式が成り立つ。ここで、nはイオンの電価数、r[m]は偏向電磁石の曲率半径である。
【数14】
【0104】
一方、これまで述べてきた手順でイオンビームの注入角度をほぼ0°にしたときのステアリング電磁石30の磁場測定値(読み値)がBmであったとすると、この測定値に係数B/Bmをかけることにより磁場測定値の校正をおこなうことができる。このような校正を装置の据え付け時に一度おこなっておくと、その後は、単に磁場測定値を(9)式で表される値に調整することで、常に高い注入角度精度を得ることができる。
【0105】
ビーム偏向器におけるx方向の偏向角度の補正範囲は例えば、ビーム偏向器における設計上の偏向角度の多くとも1%以内または0.5%以内である。つまり、イオンビームを設計上α°偏向するよう構成されているビーム偏向器が、(1±0.01)α°の範囲または(1±0.005)α°の範囲から選択される偏向角度でイオンビームを偏向するよう補正される。こうした意味で、ビーム偏向器は、イオンビームを約α°偏向するよう構成されている。
【0106】
例えば、ビーム偏向ユニット16の複数の偏向電磁石は、高エネルギー多段直線加速ユニット14により加速されたイオンビームを約180°偏向するよう構成されている。また、ビーム偏向ユニット16の複数の偏向電磁石は、1つのエネルギー分析電磁石24と1つのステアリング電磁石30とであり、エネルギー分析電磁石24及びステアリング電磁石30はそれぞれイオンビームを約90°偏向するよう構成されている。
【0107】
ステアリング電磁石30は、イオンビームBをx方向に90°偏向するとともに、イオンビームBのx方向注入角度を精密に調整する。この精密調整のために設定される偏向角度補正量は、ステアリング電磁石30の偏向角度90°の例えば1%未満または0.5%未満の大きさである。ステアリング電磁石30における補正された偏向角度は、規定の偏向角度90°と補正量との和で与えられ、約90°となる。
【0108】
ビーム偏向ユニット16が2つの90°偏向電磁石から成り、上流側がエネルギー分析電磁石24、下流側がステアリング電磁石30である場合、ステアリング電磁石30は、1×10
−4(=0.05/90×0.20)程度の設定精度と安定度を持つ電源とその制御機器が接続されていることが好ましい。すなわち、ステアリング電磁石30は、1×10
−4以内の磁場設定精度及び磁場安定度をもつ電源部を備えてもよい。このようにすれば、仕様上最低エネルギーをもつ軽いイオンが最大磁場の20%程度で90°の偏向が可能である場合、0.05°の精度で補正角Δsを設定することができる。
【0109】
以上説明したように、本発明のある実施形態によれば、ビームラインを折り返すための複数の偏向電磁石の1つであるステアリング電磁石30と、ビーム走査器34と、角度モニタとしてのビームモニタ102とがイオン注入装置100に設けられており、ビーム実軌道が走査原点Sを通るようにステアリング電磁石30の磁場が補正される。このようにして、注入角度誤差を打ち消して、高い注入角度精度を保証することができる。例えば、据え付け誤差をもって設置されうる多数の機器で構成されるビーム輸送距離の長いビームラインにおいて、注入角度誤差を0.1°未満に抑えることができる。高い角度精度をもつ静電式のビーム走査器34及び静電式の最終エネルギーフィルター38を有効に活かすことができる。
【0110】
なお、ここでは水平方向(走査面内)の補正についてのみ述べたが、イオン注入装置100は、これと直交する方向についても、注入角度の測定と、それに合わせてウェハのチルト角を微調整する機械システムとによって、やはり誤差0.1°未満のイオン注入が可能になっている。
【0111】
ある実施形態においては、ステアリング電磁石30は、軌道偏向用の主コイルと、偏向角度補正用の副コイルと、を備えてもよい。主コイルは主コイル電源を備える。主コイルは90°の偏向を行うために設けられている。副コイルは、主コイル電源から独立に制御可能である副コイル電源を備える。副コイルの巻き数は主コイルに比べて少ない。制御部104は、イオンビームの実軌道が走査原点Sにて基準軌道と交差するように、副コイルを制御してもよい。
【0112】
上述の実施形態のように90°偏向の電磁石を使って微小磁場を制御する場合には、高い分解能をもつ電磁石電源を設けることが望まれる。これに対して、副コイル(一般にはトリムコイルともいう)を使いその巻き数を主コイルと比較し少なくし、それを別電源で励磁すれば、電源の分解能を上げる必要がない。この場合、副コイル電源(ステアリング電源)の設定精度と安定度は1×10
−2程度で良い。
【0113】
上述の実施形態ではビーム偏向ユニット16の下流側の偏向電磁石がステアリング電磁石30を兼ねているが、ある実施形態においては、ビーム偏向ユニット16の最後の偏向電磁石の下流に、単独のステアリング電磁石を設置しても良い。この場合も、ステアリング電磁石の電源精度は1×10
−2程度で良い。
【0114】
上述の実施形態では高エネルギーイオン注入装置に適するイオン注入装置100を例に挙げて説明したが、本発明は、ビーム偏向器、ビーム走査器、及びビーム平行化器を有する他のイオン注入装置にも適用することができる。ある実施形態においては、例えば、
図6に示されるように、高エネルギー多段直線加速ユニット14を有しないイオン注入装置200において、x方向のイオン注入角度の精密調整が行われてもよい。
【0115】
図6は、本発明のある実施の形態に係るイオン注入装置200の概略構成を示す平面図である。イオン注入装置200は、図示されるように複数のビームライン構成要素を備える。イオン注入装置200のビームライン上流部分は、上流側から順に、イオン源201、質量分析装置202、ビームダンプ203、リゾルビングアパチャー204、及び、電流抑制機構205を備える。イオン源201と質量分析装置202との間には、イオン源201からイオンを引き出すための引出電極(図示せず)が設けられている。電流抑制機構205は、一例としてCVA(Continuously Variable Aperture)を備える。CVAは、駆動機構により開口サイズを調整できるアパチャーである。
【0116】
イオン注入装置200のビームライン下流部分は、上流側から順に、第1XY収束レンズ206、第2XY収束レンズ208、ビーム走査器209、Y収束レンズ210、ビーム平行化器211、AD(Accel/Decel)コラム212、及びエネルギーフィルター213を備える。ビームライン下流部分の最下流部にウェハ214が配置されている。イオン源201からビーム平行化器211までのビームライン構成要素は、ターミナル216に収容されている。なお、例えば第1XY収束レンズ206と第2XY収束レンズ208の間に、イオンビームの経路に対して出し入れ可能なビーム電流計測器(図示せず)が設けられていてもよい。
【0117】
第1XY収束レンズ206、第2XY収束レンズ208、及び、Y収束レンズ210は、縦横方向のビーム形状(XY面内のビーム断面)を調整するためのビーム整形器を構成する。このように、ビーム整形器は、質量分析装置202とビーム平行化器211との間でビームラインに沿って配設されている複数のレンズを備える。ビーム整形器は、これらのレンズの収束/発散効果によって、広範囲のエネルギー・ビーム電流の条件で下流まで適切にイオンビームを輸送することができる。
【0118】
第1XY収束レンズ206は例えばQレンズであり、第2XY収束レンズ208は例えばXY方向アインツェルレンズであり、Y収束レンズ210は例えばY方向アインツェルレンズまたはQレンズである。第1XY収束レンズ206、第2XY収束レンズ208、及びY収束レンズ210は、それぞれ単一のレンズであってもよいし、レンズ群であってもよい。このようにして、ビーム整形装置は、ビームポテンシャルが大きくビームの自己発散が問題となる低エネルギー/高ビーム電流の条件から、ビームポテンシャルが小さくビームの断面形状制御が問題となる高エネルギー/低ビーム電流の条件まで、イオンビームを適切に制御できるように設計されている。
【0119】
エネルギーフィルター213は例えば、偏向電極、偏向電磁石、またはその両方を備えるAEF(Angular Energy Filter)である。
【0120】
イオン源201で生成されたイオンは、引出電場(図示せず)によって加速される。加速されたイオンは、質量分析装置202で偏向される。こうして、所定のエネルギーと質量電荷比を持つイオンのみがリゾルビングアパチャー204を通過する。続いて、イオンは、電流抑制機構(CVA)205、第1XY収束レンズ206、及び第2XY収束レンズ208を経由して、ビーム走査器209へと導かれる。
【0121】
ビーム走査器209は、周期的な電場または磁場(またはその両方)を印加することでイオンビームを横方向(縦方向または斜め方向でもよい)に往復走査する。ビーム走査器209によって、イオンビームはウェハ214上で横方向に均一な注入ができるように調整される。ビーム走査器209で走査されたイオンビーム215は、電場または磁場(またはその両方)の印加を利用するビーム平行化器211で進行方向を揃えられる。その後、イオンビーム215は、電場を印加することによりADコラム212で所定のエネルギーまで加速または減速される。ADコラム212を出たイオンビーム215は最終的な注入エネルギーに達している(低エネルギーモードでは、注入エネルギーよりも高いエネルギーに調整し、エネルギーフィルター内で減速させながら偏向させることも行われる。)。ADコラム212の下流のエネルギーフィルター213は、偏向電極または偏向電磁石による電場または磁場(またはその両方)の印加によりイオンビーム215をウェハ214の方へと偏向する。それにより、目的とするエネルギー以外のエネルギーを持つコンタミ成分が排除される。こうして浄化されたイオンビーム215がウェハ214に注入される。
【0122】
このようにして、イオン注入装置200のビームライン上流部分は、イオン源201及び質量分析装置202を備え、イオン注入装置200のビームライン下流部分は、ビーム走査器209の上流に配設されイオンビームの収束または発散を調整するビーム整形器と、ビーム走査器209と、ビーム平行化器211と、を備える。ビーム整形器は、第1XY収束レンズ206であってもよい。
【0123】
ウェハ214の近傍には、ビームモニタ217が設けられている。ビームモニタ217は、ビーム平行化器211の下流に配設され、ウェハ214へのx方向注入角度を測定する。ビームモニタ217は、
図1を参照して説明したビームモニタ102と同様に構成されている。
【0124】
また、イオン注入装置200は、イオン注入装置200の全体又はその一部(例えばビームライン部の全体又はその一部)を制御するための制御部218を備える。制御部218は、ビームモニタ217の測定結果に基づいてビーム偏向器を制御するよう構成されている。ビーム偏向器は、ビーム整形器に設けられている。言い換えれば、ビーム整形器はいわゆるステアリング機能を提供するよう構成されている。
【0125】
ビーム整形器は、少なくとも1つの四重極レンズを備え、四重極レンズは、x方向に対向する一対の電極と、一対の電極それぞれに異なる電位を与える電源部と、を備える。制御部218は、ビームモニタ217により測定されたx方向注入角度に基づいて、イオンビーム215の実軌道が走査原点にて基準軌道と交差するように、ビーム整形器の一対の電極間の電位差を補正する。このようにして、x方向のイオン注入角度の精密調整を行うことができる。
【0126】
イオン注入装置200においてはビーム偏向器がビーム整形器の一部を構成するが、ある実施形態においては、ビーム偏向器がビーム整形器とは別に設けられていてもよい。この場合、ビーム偏向器は、質量分析装置とビーム走査器との間(例えば、質量分析装置とビーム整形器との間、または、ビーム整形器とビーム走査器との間)に配設されていてもよい。
【0127】
以上、本発明を実施形態にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。