【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21〜26年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Satoru KONABE et al.,High-Efficiency Photoelectric Conversion in Graphene-Diamond Hybrid Structures:Model and First-Principles Calculations,Applied Physics Express,The Japana Society of Applied Physics,2013年,Vol.6,P.045104-1 - 045104-4
【文献】
Fatemeh OSTOVARI et al.,Dual function armchair graphene nanoribbon-based spin-photodetector Optical spin-valve and light helicity detector,APPLIED PHYSICS LETTERS,AIP Publishing LLC.,2014年 8月19日,VOl.105,p.072407-1 - 072407-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの光電変換素子は、軽量かつフレキシブルであることと、高い光電変換効率を同時に実現することができなかった。
例えば、シリコン系材料やIII−V族化合物を用いた太陽電池は、光電変換層が無機半導体からなるため、フレキシブル性を実現することができなかった。アモルファスの半導体を薄膜で形成することで、ある程度のフレキシブル性を実現することが出来ても、その光電変換効率は、原理的な限界値が28%程度であり十分とは言えなかった。なお、単結晶シリコンを用いた太陽電池でも、その原理的な光電変換効率の限界値は32%であり、光のエネルギーを十分電力に変換できているとは言えなかった。
【0009】
有機材料を用いた光電変換素子は、軽量かつフレキシブルである。しかしながら、現在、知られている有機材料を用いた光電変換素子としては、最大でも10%程度の光電変換効率しか実現することが出来ていない。
【0010】
これに対し、量子ドットやタンデム構造を利用した光電変換素子は、光電変換効率を高めることは出来る。これらの光電変換素子は、まだ研究段階であり十分な検討は進められているとは言い難いが、ショックレークワイサーの理論限界値を超えることが可能であると言われている。
しかしながら、タンデム構造の光電変換素子は、ある程度の厚みを有する層を複数積層する必要があるため、総厚が厚くなりフレキシブル性を実現することができない。また量子ドットを利用した光電変換素子も、軽量かつフレキシブルにすることが難しく、さらにその加工が非常に難しいという問題があった。
【0011】
このため、軽量かつフレキシブルで、光電変換効率が十分高い光電変換素子、太陽電池および光センサーが切に求められていた。
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、軽量かつフレキシブルで、光電変換効率が十分高い光電変換素子、太陽電池および光センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、p型半導体とn型半導体との間をアームチェア型の端部を有するグラフェンナノリボンで接合した。グラフェンナノリボンは、その厚みが原子レベルの厚みであるため、非常に軽量で、フレキシブル性が高い。またクーロン相互作用が強いという特徴から多重励起子生成を生じることが可能であり、高い光電変換効率を実現することができる。
すなわち、p型半導体とn型半導体との間をアームチェア型の端部を有するグラフェンナノリボンで接合することで、軽量かつフレキシブルで、光電変換効率が十分高い光電変換素子、太陽電池および光センサーを実現できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0013】
(1)本発明の一態様にかかる光電変換素子は、p型半導体とn型半導体が、アームチェア型の端部を有するグラフェンナノリボンを介して接合されている。
【0014】
(2)上記(1)に記載の光電変換素子は、グラフェンナノリボンが、p型半導体とn型半導体との間に複数有していてもよい。
【0015】
(3)上記(1)または(2)に記載の光電変換素子は、グラフェンナノリボンが、形成された励起子を解離する励起子解離サイトを備えてもよい。
【0016】
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の光電変換素子は、グラフェンナノリボンが、p型半導体とn型半導体との接合方向に形成された幹部と、幹部から分岐した枝部を有していてもよい。
【0017】
(5)上記(4)に記載の光電変換素子は、枝部が複数あり、各枝部の幅が一定であってもよい。
【0018】
(6)上記(4)に記載の光電変換素子は、枝部が複数あり、各枝部の幅の中に、幅が異なるものを有していてもよい。
【0019】
(7)上記(4)〜(6)のいずれか一つに記載の光電変換素子は、幹部が、グラフェンナノリボンで形成された励起子を解離する励起子解離サイトを備えていてもよい。
【0020】
(8)本発明の一態様にかかる光電変換素子は、p型半導体とn型半導体が、アームチェア型の端部を有するグラフェンナノリボンと原子層絶縁体が複数交互に積層された積層体を介して接合されている。
【0021】
(9)上記(8)に記載の光電変換素子は、積層された前記グラフェンナノリボンが枝部を有し、層ごとに枝部の幅が異なっていてもよい。
【0022】
(10)本発明の太陽電池は、上記(1)〜(9)のいずれか一つに記載された光電変換素子を備える。
【0023】
(11)本発明の光センサーは、上記(1)〜(9)のいずれか一つに記載された光電変換素子を備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明の光電変換素子は、p型半導体とn型半導体が、アームチェア型の端部を有するグラフェンナノリボンを介して接合されている。グラフェンナノリボンは、厚みが原子レベルの厚さであるため、非常に軽量で、フレキシブル性が高い。またクーロン相互作用の強さから多重励起子生成を生じることが可能であり、高い光電変換効率を実現することができる。
【0025】
本発明の太陽電池は、上記の光電変換素子を有するため、高い光電変換効率を実現することができる。またグラフェンナノリボンの形状を変更することで、従来の太陽電池と比較しても、広い波長範囲の光を利用することができる。
【0026】
本発明の光センサーは、上記の光電変換素子を有するため、高い光電変換効率を実現することができる。またグラフェンナノリボンの形状を変更することで、センサーが駆動する光の波長領域および範囲を簡便に変更することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を適用した光電変換素子、太陽電池および光センサーについて、図を適宜参照しながら詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0029】
(光電変換素子)
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る光電変換素子の平面模式図である。
図1に示すように、光電変換素子10は、p型半導体1とn型半導体2が、アームチェア型の端部を有するグラフェンナノリボン3を介して接合されている。
【0030】
グラフェンナノリボン3は、炭素原子からなる擬一次元材料である。より具体的には、二次元シートであるグラフェンをある一定のサイズに切り出したものであり、細線状のナノ物質である。グラフェンは、一般に鋼以上に強靭と言われており、グラフェンナノリボン3も高い強度を示す。
またグラフェンナノリボン3は、原子レベルの厚みしかないため、非常に薄くフレキシブルである。そのため、複雑に稼働するような部分にも適応することができる。そのため、例えば、ウェアラブルな太陽電池、光センサー等を実現することができる。
【0031】
グラフェンナノリボン3の端部の形状は、アームチェア型である。グラフェンナノリボンの端部の形状は、一般に、アームチェア型とジグザグ型の2種類がある。これは、グラフェンの六角形構造をどのように切り出すかによって変化する。グラフェンナノリボンの端部の形状がジグザグ型の場合はその多くは金属的な挙動を示し、グラフェンナノリボン3の端部の形状がアームチェア型の場合は半導体的な挙動を示す。そのため、光電変換素子として機能するためには、グラフェンナノリボン3の端部の形状はアームチェア型となる。
【0032】
グラフェンナノリボン3は、擬一次元材料であることから、クーロン相互作用が強く、多重励起子生成を生じることができる。多重励起子が生成される場合には、従来、熱として失われていたエネルギーを電力に変換することが可能になる。すなわち、光電変換効率を高めることができる。
【0033】
ここで、グラフェンナノリボンにおいて、多重励起子生成が生じる原理および生成された多数の励起子から複数のキャリアを生成する原理について具体的に説明する。
まず多重励起子生成とは、エネルギーギャップの2倍以上のエネルギーを持つ1つの光子を半導体に照射した場合に、半導体内に多数の励起子(電子正孔対)が生成される現象である。従来のバルク半導体では、この多重励起子の生成確率が極めて小さいため、1個の光子につき1個の励起子しか生成されない。これはバルク半導体には多数の自由電子が存在するために、電子−正孔間のクーロン引力が遮蔽され、励起子が安定には存在できないためである。すなわち、バルク半導体では、励起エネルギー(半導体のエネルギーギャップ)以上のエネルギーを与えても、そのエネルギーの多くは熱散逸により失われる。
【0034】
これに対し、グラフェンナノリボンは擬一次元材料である。そのため、グラフェンナノリボンが形成されている一次元方向以外に電気力線を遮蔽するものがなく、遮蔽の効果が非常に弱くなる。すなわち、グラフェンナノリボンにおいては、クーロン相互作用が強くなる。クーロン相互作用が強くなると、励起子の束縛エネルギーが大きくなるため、励起子の安定性が高まる。このときの励起子の束縛エネルギーは数百meVであり、室温でも励起子は安定に存在することができる。つまり、クーロン相互作用が強くなると、励起子の安定性が強まるため、励起子がエネルギーを失うまでの時間(緩和時間)が長くなる。
また同時に、生成された励起子同士のクーロン相互作用も大きくなる。すなわち、生成された励起子が他のエレクトロンやホールに影響を及ぼすことによって、さらに別の励起子が生成される確率が高くなる。
したがって、クーロン相互作用が強くなると、熱散逸により励起子がエネルギーを失う時間が長くなり、励起子が別の励起子を生み出す可能性が高くなる。すなわち、多重励起子生成が生じやすくなる。
【0035】
図2は、グラフェンナノリボンが多重励起子生成していることをシミュレーションにより確認したグラフである。縦軸は光電変換効率を示し、横軸は照射される光のエネルギーを示す。このときグラフェンナノリボンの幅は1.6nmである。このグラフェンナノリボンは、約0.88eVの励起エネルギーを有し、約0.88eV以上のエネルギーを与えることで一つの励起子を生成することができる。グラフ中、γは熱散逸を示し、γが大きい程熱散逸が大きいこと示す。計算の手法は、非特許文献1と同様の方法を用いた。
【0036】
図2で示すように、1.77eV以下の励起エネルギーを与えている場合は、その光電変換効率は1.0である。すなわち、一つの光子により、一つの励起子が生成されていることがわかる。これに対し、1.77eV以上の励起子エネルギーを与えると、光電変換効率が1.0以上の数値を示す。すなわち、一つの光子により、一つ以上の励起子が生成されていることがわかる。1.77eVは、一つの励起子を生成することができる約0.88eVの2倍の励起エネルギーである。つまり、生成された励起子が別の励起子を生み出すだけのエネルギーを有していると、その生成された励起子により別の励起子がさらに生成されていることがわかる。このような傾向は、電子の移動が束縛された擬一次元材料や、量子ドットのような構造体でしかほとんど確認することができない。
【0037】
また
図2に示すように、熱散逸γが小さい程、光電変換効率が高い。熱散逸γが小さいことは、励起子が熱失活等でエネルギーを失うまでの時間が長いことを意味する。励起子がエネルギーを失うまでの時間が長ければ、それだけ励起子が別の励起子を生み出す可能性が高まる。すなわち、
図2から前述の熱散逸により励起子がエネルギーを失う時間が長くなり、励起子が別の励起子を生み出す可能性が高くなることをシミュレーションの結果からも確認できたことを示している。
【0038】
また
図3は、グラフェンナノリボンをpn接合界面に形成し、そのpn接合間に形成される内部電界に対し得られる光電変換効率をシミュレーションにより求めたグラフである。このときグラフェンナノリボンの幅は1.6nmである。このグラフェンナノリボンは、約0.72eVの励起エネルギーで一つの励起子を生成することができる。計算の手法は、非特許文献2と同様の方法で計算した。
光電変換における工程は、光子から励起子が形成される工程と、励起子からホールとエレクトロンのキャリアが形成される工程がある。
図2のグラフでは、一つの光子から複数の励起子を取り出すことができることを示した。これに対し、
図3は、一つの光子からホールとエレクトロンがキャリアとして実際にどれだけ取り出せているかを示している。
【0039】
励起子はホールとエレクトロンが束縛され、電気的にプラスでもマイナスでもないため、内部電界を与えても光電変換効率には寄与しない。これに対し
図3に示すように、例えば内部電界として12.0V/μmの電場を与えると、1.45eVの励起エネルギーを有する光を照射した際に、光電変換効率が約1.5倍程度の値を示している。これは、一つの光子から励起子が生成されるだけでなく、その励起子から一組以上のホールとエレクトロンのキャリアが生成されていることを意味する。
また
図3に示すように、励起エネルギーの2倍以上の光を与えて初めて、1.0倍以上の光電変換効率を示す。これは、キャリアが多重励起子生成を経た後に生成されていることを示している。
すなわち、擬一次元材料は、一つの光子から多重励起子により複数の励起子を生成することができ、その励起子は励起子の状態で留まることなく、ホールとエレクトロンのキャリアに分離されていることを示している。
【0040】
グラフェンナノリボンは、有限の幅を有する擬一次元材料であるため、そのサイズによらず、多重励起子生成を行う。そのため、グラフェンナノリボンのサイズは特に限定されない。
これに対し、グラフェンナノリボンの幅を変えると、グラフェンナノリボンのエネルギーギャップを制御することができる。そのため、グラフェンナノリボンのサイズは特に限定されないが、使用態様(利用したい光の波長帯域)に合せて、グラフェンナノリボンの幅を調整することが好ましい。
【0041】
グラフェンナノリボンのサイズとエネルギーギャップの関係は、例えば、グラフェンナノリボンの幅が0.57nmの場合、そのエネルギーギャップは3.0eV程度であり、青色光(波長:400〜500nm)の光エネルギーとほぼ一致する。また、幅を0.89nmに変更すると、そのエネルギーギャップは2.0eV程度になり、赤色光(波長:650〜750nm)の光エネルギーとほぼ一致する。また太陽光は、近赤外光(波長:0.75〜1.4μm)に強い放射強度を有するため、近赤外光の光エネルギーである0.9〜1.7eVで効率的に光電変換を生じさせるために、グラフェンナノリボンの幅を1.33〜2.0nmに調整してもよい。このときグラフェンナノリボンの長さは、幅に対して十分長いものとする。
【0042】
またグラフェンナノリボンは、生成された励起子を解離する励起子解離サイトを有することが好ましい。励起子解離サイトとは、生成された励起子をホールとエレクトロンのキャリアに分離する領域のことである。具体的には、グラフェンナノリボン中に形成された欠陥、不純物サイトを意味する。上述のように、擬一次元材料において励起子は比較的安定的に存在する。これに対し、励起子解離サイトでは、局所的に大きな電界(100mV/nm程度)が発生することが第一原理計算から確認されている。励起子にこのような大きな電界が加わると、励起子は直ちにホールとエレクトロンに分離される。
すなわち、擬一次元材料であるグラフェンナノリボン中に励起子解離サイトを有すると、生成された励起子を効率的にキャリアに変換することができる。励起子解離サイトは、欠陥や不純物サイト等であり、グラフェンナノリボンに電子線を照射する、キャリアをイオンドープする等の方法で形成することができる。
また励起子解離サイトは、欠陥や不純物サイト等からなるため、励起子の生成を阻害する恐れがある。そのため、グラフェンナノリボン中における励起子解離サイトの面積比率は2%以下であることが好ましい。
【0043】
図4に示すようにグラフェンナノリボン3を、p型半導体層1とn型半導体層2の間に複数有していてもよい。グラフェンナノリボン3は高い発電効率を示すが、面積が小さいため大きな発電量を得ることが難しい。そのため、型半導体層1とn型半導体層2の間にグラフェンナノリボン3を複数有することで、光が照射される総面積を大きくし、大きな発電量を実現することができる。また各グラフェンナノリボンの幅は、同一である必要はなく、それぞれ異なっていてもよい。
【0044】
p型半導体層1及びn型半導体層2は特に限定されない。例えば、p型半導体にはグラファイトにボロンをドープしたものを用いることができ、n型半導体にはグラファイトに窒素をドープしたものを用いることができる。またキャリアがドープされたイオン性液体等を用いることもできる。イオン性液体としては、例えば、1−エチル−1−メチル−ピロリジウム、1−エチル−ピロリジウム等を含むピロリジウム塩等を用いることができる。また四フッ化ホウ素イオン(BF
4−)等を含む四フッ化ホウ酸塩等の非水性イオン液体を用いることもできる。
【0045】
[第2実施形態]
図5は、本発明の第2実施形態に係る光電変換素子の平面模式図である。
図5に示すように、光電変換素子10は、p型半導体1とn型半導体2が、グラフェンナノリボン3を介して接合されている。グラフェンナノリボン3は、p型半導体1とn型半導体2との接合方向に形成された幹部3aと、幹部3aから分岐した枝部3bを有する。
【0046】
グラフェンナノリボン3が枝部3bを有する点が第1実施形態と異なる。枝部3bを有しているため、グラフェンナノリボン3において、幹部3aおよび枝部3bのそれぞれが擬一次元構造を有する。したがって、幹部3aおよび枝部3bのそれぞれで一つの光子から複数の励起子を生成することができる。幹部3aおよび枝部3bのそれぞれが、多重励起子生成を行うことができるため、励起子を生成することができる領域の面積を広くすることができ、大きな発電量を実現することができる。
【0047】
またグラフェンナノリボン3は、励起子を解離する励起子解離サイト4を有することが好ましい。また励起子解離サイト4は、その幹部3aに有することがより好ましい。
グラフェンナノリボン3中に励起子解離サイト4を有すると、効率的に生成された励起子を効率的にキャリアに変換することができる。励起子は、グラフェンナノリボン3内を比較的自由に移動することができる。そのため、生成された励起子はグラフェンナノリボン3内を移動し、励起子解離サイト4にトラップされる。トラップされた励起子は、励起子解離サイト4に発生する大きな電場の影響を受けてキャリアに分離される。
そのため、励起子解離サイト4を幹部3aに有すると、枝部3bで発生した励起子を効率的に幹部3aでキャリアに分離することができ、無駄がなくより効率的に光電変換することができる。
グラフェンナノリボン中における励起子解離サイトの面積比率は、第1の実施形態と同様に2%以下であることが好ましい。
【0048】
グラフェンナノリボンの枝部3bの幅は、使用用途によって変更することができる。例えば、光センサーとして用いる場合は、特定の波長の光に反応する必要がある。そのため、
図5に示すように、枝部3bの幅を特定の波長に合わせた幅とし、各枝部3bの幅を一定とすることが好ましい。このことは言い換えると、枝部3bの幅を変えるだけで、種々の波長で動作する光センサーを作製することができることを示唆している。
【0049】
これに対し、太陽電池として用いる場合は、幅広い波長の光を漏れなく利用することで高い光電変換効率の実現することができる。そのため、
図6に示すように、各枝部3bの幅を一定とせずに異なる幅のものを有する構成とすることが好ましい。一般に、幅が狭くなるとエネルギーギャップが広くなり青色光の光を利用できるようになり、幅が広くなるとエネルギーギャップが狭くなり赤色光の光を利用できるようになる。したがって、幅を変更した枝部3bを複数有することで、幅広い放射スペクトルを有する太陽光を用いて効率的な発電ができる。言い換えると、光電変換素子10における枝部3bの幅は、太陽光スペクトルの強度分布に合せて設定することが好ましい。
このときの幅は、
図6に示すように、幹部3aの第1の端部から第2の端部へ向かって徐々に狭くなっていく場合に限らない。例えば、幹部3aの中央部に最も幅の広い枝部3bを有し、第1および第2の端部に向かって枝部3bの幅が狭まるような構成としてもよい。またその逆の構成でもよい。さらに、枝部3bの幅をランダムに設定してもよい。
【0050】
また枝部3bは、幹部3aに対し垂直である必要はなく、傾斜していてもよい。グラフェンナノリボン3は、六員環が合わさったハニカム構造を有するため、その分断の仕方によって、形状を変えることができる。これらの幹部3aおよび枝部3bはその形状、幅等によってその特性が変化するため、目的の用途に合わせて、適切な形状とすることが好ましい。
【0051】
p型半導体1およびn型半導体2は、第1実施形態と同様のものを用いることができる。また第1実施形態と同様、グラフェンナノリボン3をp型半導体1とn型半導体2の間に複数接合してもよい。
【0052】
[第3実施形態]
図7は、本発明の第3実施形態に係る光電変換素子の斜視模式図である。
図7に示すように、光電変換素子30は、p型半導体1とn型半導体2が、アームチェア型の端部を有するグラフェンナノリボン3と原子層絶縁体5が複数交互に積層された積層体を介して接合されている。
【0053】
グラフェンナノリボン3を、原子層絶縁層5を介して複数積層することで、p型半導体1とn型半導体2との間の強度を高めることができる。ここで、グラフェンナノリボン3と原子層絶縁層5を複数積層しても、その厚みは数十〜数百nm程度であるため、強度を高めてもフレキシブル性が損なうことはない。また複数積層することで、より多くの光を利用することができる。
【0054】
積層された各グラフェンナノリボン3は、それぞれがp型半導体1とn型半導体2との接合方向に形成された幹部と、幹部から分岐した枝部を有していてもよい。各層が枝部を有することで、光が照射される面積が大きくなり高い発電量を実電することができる。
このとき、照射される面積が大きくなる理由を説明する。例えば、同一の幅を有する枝部を有するグラフェンナノリボン3が原子層絶縁層4を介して積層された場合、各層の枝部はわずかにずれて積層されることが考えられる。そのため、平面視した場合に枝部の幅は、グラフェンナノリボン3が一層のみの場合と比較して、擬似的に広くなる。そのため、照射される面積が大きくなる。
【0055】
また上記のように、各層のグラフェンナノリボン3がずれて積層された場合、上記効果以外にも、利用できる光の波長帯域を拡げる効果を有する。同一の幅を有する枝部同士が僅かにずれて存在すると、枝部が同一の幅を有していても、積層によるずれにより擬似的に種々の幅を有する枝部とみなすことができ、利用できる光の波長帯域を拡げることができる。
【0056】
また各層のグラフェンナノリボンの枝部の幅はそれぞれ異なることが好ましい。例えば、各層のグラフェンナノリボンの枝部の幅を、光が照射される面側から順に広げていく。すると、各層が有するエネルギーギャップは、光が照射される面側から順に小さくなっていく。すなわち、異なる吸収波長を有する半導体を積層したタンデム型の光電変換素子と同様の構成となり、より幅広い波長帯域の光から電力を生み出すことができる。
【0057】
原子層絶縁層5は、二次元性が高く平面的に分子構造を有するものであれば特に限定されない。例えば窒化ホウ素(BN)等を用いることができる。
【0058】
(太陽電池)
図8は、本発明の一態様にかかる太陽電池を模式的に示した図である。本発明の太陽電池100は、上述の光電変換素子を有する。光電変換素子は、第1の実施形態〜第3の実施形態のいずれの光電変換素子でもよく、ここでは簡単のため、第1の実施形態の光電変換素子10を有している例を用いて説明する。
太陽電池100は、光電変換素子10のグラフェンナノリボン3で光を電力に変換し、外部出力手段40から出力する。光電変換素子10のグラフェンナノリボン3に照射された光は励起子を生成し、さらにキャリアを生み出す。キャリアは、p型半導体1とn型半導体2のpn接合界面における内部電界の影響を受けて、外部出力手段40に電流として流れ、外部出力手段40から出力される。
【0059】
太陽電池100は、上述の光電変換素子を有するため、軽量かつフレキシブルで高い光電変換効率を実現することができる。太陽電池100は、グラフェンナノリボン3による多重励起子生成や、グラフェンナノリボン3の形状に起因した幅広い波長領域を効率的に利用できることから、従来の太陽電池のショックレークワイサーの理論限界値(光電変換効率が32%)を超える光電変換効率を実現することができる。
【0060】
外部出力手段40は特に限定されず、使用態様に合せて公知のものを用いることができる。例えば、蓄電池等に接続して太陽電池100で発生した電力を蓄電してもよく、素子等に接続して素子を駆動させてもよい。
【0061】
(光センサー)
図9は、本発明の一態様にかかる光センサーを模式的に示した図である。本発明の光センサー200は、上述の光電変換素子を有する。光電変換素子は、第1の実施形態〜第3の実施形態のいずれの光電変換素子でもよく、ここでは簡単のため、第1の実施形態の光電変換素子10を有している例を用いて説明する。
光センサー200は、照射された光の波長により、動作の有無を判断するセンサーである。具体的には、電化製品のリモートコントローラー等のスイッチング素子として利用することができる。
【0062】
その動作原理を以下に示す。光電変換素子10のグラフェンナノリボン3が所定のバンドギャップを有し、そのバンドギャップ以上のエネルギーを有する光が照射されると励起子が生成される。生成された励起子は、キャリアに変換され、p型半導体1とn型半導体2のpn接合界面における内部電界の影響を受けて、駆動素子50に電圧が印加され、駆動素子50を駆動することができる。これに対し、照射された光の有するエネルギーが、グラフェンナノリボン3のバンドギャップに満たない場合は、励起子は生成されないため、駆動素子50は駆動しない。そのため、光センサー200は、スイッチング素子として機能することができる。駆動素子50は特に限定されず、使用態様に合せて公知のものを用いることができる。
【0063】
(光電変換素子の製造方法)
まず、グラフェンナノリボンの製造方法について具体的に説明する。グラフェンナノリボンは、初めからナノスケールサイズのグラフェンナノリボンを合成するボトムアップ型の手法と、グラフェンやカーボンナノチューブを合成後に微細加工により作製するトップダウン型の手法がある。
【0064】
ボトムアップ型の手法であるグラフェンナノリボンを直接合成する方法としては、特に限定されるものではないが、公知の例えば特開2013−6742号公報等を用いることができる。また、有機モノマーを自己形成で直鎖上に並べ、熱処理によってグラフェンナノリボンに変換してもよい。
【0065】
これに対し、トップダウン型の手法としては、例えば、特開2012−212877号公報に記載された酸素プラズマを用いたエッチングと電子線リソグラフィーを用いて形成する方法を用いることができる。また特開2002−356317号公報に記載されたレーザー光、X線、電子線、プラズマおよびイオンビームを照射する方法を用いることもできる。また東北大学の寒川らが提案する中性粒子ビーム加工技術を用いてもよい。他にも、多層ナノチューブを局所エッチングで縦に切り開くことで形成する手段等もある。
【0066】
幹部及び枝部を有するグラフェンナノリボンは、ボトムアップ型の手法で作製することが難しい。そのため、電子線リソグラフィーを用いて行うことが好ましい。電子線リソグラフィーは、電子線加工装置と走査型電子顕微鏡を応用したもので、電子銃から発生られる電子線をレンズやアパーチャーを通して被加工物に照射することで微細加工を可能とする技術である。近年加工精度が向上しており、数nm程度の解像度を実現することができる。そのため、電子線リソグラフィーを用いて、幹部および枝部に対応したマスクを形成し、エッチング等により、幹部及び枝部を有するグラフェンナノリボンを作製することができる。
また他にも、特開2014−97531号公報に記載されているように、FIB(フォーカスイオンビーム)加工により、数nm単位の加工を行うことができる。
【0067】
またグラフェンナノリボンと層間絶縁膜の積層体も、上述の電子線等を用いた方法で作製することができる。まず、CVD(化学気相成長装置)等を用いて、グラフェンと層間絶縁膜である窒化ホウ素を交互に積層する。このような、グラフェンと窒化ホウ素の積層体については、例えば、Jing Lu,et al.NPG Asia Materials(2012)4,e6.等でも報告されている。このように形成されたグラフェンと層間絶縁膜の積層体を電子線リソグラフィーにより加工することで、層間絶縁膜を介して複数積層された積層体を作製することができる。
【0068】
さらに、層間絶縁膜を介して複数積層されたグラフェンナノリボンの各層の枝部の幅を異なるように加工することは、以下の手順により実現することができる。
まず、電子線リソグラフィー等の技術により、マスクを形成し、そのマスクを介してドライエッチングを行う。この際に、ドライエッチングの出力を徐々に弱くしていくと、積層体の被加工部にテーパー形状が形成される。被加工部をテーパー形状とすると、加工後に形成されるグラフェンリボン3と層間絶縁膜5の積層体にも傾斜が形成される。
図10は、積層体の被加工部をp型半導体とn型半導体の接合方向に平行な面で切断した断面模式図である。そのため、
図10で示されるグラフェンナノリボン3は枝部に対応し、一方の面から他方の面に向かって、各層のグラフェンナノリボンの枝部の幅が変化していることがわかる。
【0069】
次に、形成されたグラフェンナノリボンにp型半導体とn型半導体を接合する。例えば、p型半導体およびn型半導体にイオン性液体を用いる場合は、その一方の端部にアニオンを含むイオン性液体を滴下し、他方の端部にカチオンを含むイオン性液体を滴下することができる。このとき、これらのイオン性液体同士が混ざらないように、仕切り等でそれぞれを囲うことが好ましい。
【0070】
またイオンドープされたグラフェン等をp型半導体およびn型半導体として用いる場合は、グラフェンリボンの加工段階で、グラフェンリボンの両端のグラフェンを残しておく。そして、その一端側のグラフェンにはボロン等をドープすることでp型半導体とし、その他端側のグラフェンには窒素、酸素等をドープすることでn型半導体として機能させることができる。
【0071】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。