特許第6415285号(P6415285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6415285
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】温度電圧センサ
(51)【国際特許分類】
   H03K 3/354 20060101AFI20181022BHJP
   H03K 3/03 20060101ALI20181022BHJP
   G01K 7/00 20060101ALI20181022BHJP
   G01K 7/01 20060101ALI20181022BHJP
   G01R 19/00 20060101ALI20181022BHJP
【FI】
   H03K3/354 B
   H03K3/03
   G01K7/00 321C
   G01K7/01 C
   G01R19/00 B
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-248274(P2014-248274)
(22)【出願日】2014年12月8日
(65)【公開番号】特開2016-111563(P2016-111563A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年10月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】390009667
【氏名又は名称】セイコーNPC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100097629
【弁理士】
【氏名又は名称】竹村 壽
(72)【発明者】
【氏名】林郷 裕一
(72)【発明者】
【氏名】竹田 稔
(72)【発明者】
【氏名】兼八 薫
(72)【発明者】
【氏名】龍王 孝史
【審査官】 及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−055742(JP,A)
【文献】 特開平02−087010(JP,A)
【文献】 特表平04−503447(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0238563(US,A1)
【文献】 特開2009−236603(JP,A)
【文献】 特開2014−052969(JP,A)
【文献】 米国特許第05525938(US,A)
【文献】 特開2011−089983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K 3/26−3/36
H03K 3/00−3/22
G01K 7/00
G01K 7/01
G01R 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振周波数の温度特性が異なる第1のリングオシレータ及び第2のリングオシレータと、前記第1のリングオシレータ及び前記第2のリングオシレータのそれぞれの発振周波数を計測するためのカウント時間を設定する基準クロック信号を供給する基準周波数供給部と、前記カウント時間で前記それぞれの発振周波数の計測により得られる周波数のカウントデータに対して温度及び電源電圧の2元の2次以上の多項式近似式を設定した上で、予め前記温度及び前記電源電圧を変えて測定した前記周波数のカウントデータを基に算出した前記第1のリングオシレータ及び前記第2のリングオシレータの前記多項式近似式における第1の係数セット及び第2の係数セットを記憶する係数記憶部と、同一の温度及び電源電圧の環境にて動作する前記第1のリングオシレータ及び前記第2のリングオシレータの発振周波数を、前記カウント時間で計測することにより、そのときの発振周波数に対応する第1の周波数カウントデータ及び第2の周波数カウントデータを生成する周波数カウンタと、前記第1の周波数カウントデータと前記第1の係数セットを前記多項式近似式に適用した第1の方程式と、前記第2の周波数カウントデータと前記第2の係数セットを前記多項式近似式に適用した第2の方程式による連立2元方程式から、前記第1及び第2の周波数カウントデータを生成した時の温度及び電源電圧を演算により求める温度電圧変換部とを有することを特徴とする温度電圧センサ。
【請求項2】
前記第1のリングオシレータ及び前記第2のリングオシレータは、バイポーラトランジスタ又はBiCMOS素子で形成されることを特徴とする請求項1に記載の温度電圧センサ。
【請求項3】
前記第1のリングオシレータ及び前記第2のリングオシレータの電源は、一方が電圧駆動であり、他方が電流駆動であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の温度電圧センサ。
【請求項4】
前記第1のリングオシレータ及び前記第2のリングオシレータは、一方の周波数の温度係数が正特性であり、他方の周波数の温度係数が負特性であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の温度電圧センサ。
【請求項5】
前記多項式近似式は、温度に関する4次以上、電圧に関する2次以上、温度・電圧に関する1次以上の項の線形結合から成る近似式であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の温度電圧センサ。
【請求項6】
前記連立2元方程式の解法は、ニュートン−ラフソン法を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の温度電圧センサ。
【請求項7】
初期値設定時に前記各リングオシレータの発振周波数を温度、電圧を変えて測定したデータを採取する際の温度モニタを設け、当該温度モニタは、ベース−エミッタを有するトランジスタとその電圧を測定できる外部出力端子を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の温度電圧センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リングオシレータで構成された温度電圧センサに係り、とくに、例えば、デジタル温度補償発振器などの発振器に用いられる温度電圧センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高機能携帯端末、例えば、スマートフォンなどのモバイル環境が、フェムトセル、ピコセル、マイクロセルというスモールセルになるのに応じて、それらの基地局側クロックの周波数安定度に対する要求が厳しくなっている。フェムトセルは、50ppb安定度のクロックが必要とされ、この周波数安定度を満足するには0.05℃を検知できる温度センサを搭載した温度補償発振器が必要になる。
特許文献1は、温度で変化する電流源で駆動されるリングオシレータと温度に対して安定な電流源で駆動されるリングオシレータを用い、温度に対して安定なリングオシレータをカウントクロックとして、他の温度変化するリングオシレータのクロックのパルス幅をカウントする方法で温度を一次近似している。
【0003】
出願人は、先に温度補償型発振器として「ディジタル温度補償発振器」(特願2014−026219)を出願した。これは、1つのリングオシレータを温度センサ(感温発振器)として用い、その周波数カウント用基準クロックとして電圧制御型発振器のクロックを用いる。そして、温度補償発振器の温度補償回路をデジタル回路で構成し、温度補償デジタルデータをD/A変換し、電圧制御型発振器に電圧を印加する回路部をΔΣモジュレータとパッシブLPF(ローパスフィルタ)で構成する。さらに、温度補償回路の入力のデジタル温度データをリングオシレータからなる温度センサ(感温発振器)とそれに続く温度変換回路から得ている。このような構成により、この温度補償発振器は、高分解能で経年劣化や温度ドリフトによる出力周波数の変動が長期間に亘って生じないデジタル温度補償発振器が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−187659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で用いられるリングオシレータは、その出力周波数が電圧依存性を有し、したがって、電源電圧が変動した場合には正確な温度を測定できない。
また、出願人が先に提案したディジタル温度補償発振器は、D/A変換器の経年劣化及び温度ドリフトによる周波数変動を改善することができる。また、温度センサにリングオシレータを使うことによって水晶振動子以外は、半導体ICチップ内の回路で実現できるようになった。しかし、この発振器に用いられる温度センサも発振周波数に電圧依存性があり、精度の高い温度計測は困難が伴うものであった。
本発明は、このような事情によりなされたもので、精度の高い温度測定が可能であり、また、温度測定と同時に逐次変動する電源電圧の測定も行うことができる温度電圧センサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の温度電圧センサの一態様は、発振周波数の温度特性が異なる第1のリングオシレータ及び第2のリングオシレータと、前記第1のリングオシレータ及び前記第2のリングオシレータのそれぞれの発振周波数を計測するためのカウント時間を設定する基準クロック信号を供給する基準周波数供給部と、前記カウント時間で前記それぞれの発振周波数の計測により得られる周波数のカウントデータに対して温度及び電源電圧の2元の2次以上の多項式近似式を設定した上で、予め前記温度及び前記電源電圧を変えて測定した前記周波数のカウントデータを基に算出した前記第1のリングオシレータ及び前記第2のリングオシレータの前記多項式近似式における第1の係数セット及び第2の係数セットを記憶する係数記憶部と、同一の温度及び電源電圧の環境にて動作する前記第1のリングオシレータ及び前記第2のリングオシレータの発振周波数を、前記カウント時間で計測することにより、そのときの発振周波数に対応する第1の周波数カウントデータ及び第2の周波数カウントデータを生成する周波数カウンタと、前記第1の周波数カウントデータと前記第1の係数セットを前記多項式近似式に適用した第1の方程式と、前記第2の周波数カウントデータと前記第2の係数セットを前記多項式近似式に適用した第2の方程式による連立2元方程式から、前記第1及び第2の周波数カウントデータを生成した時の温度及び電源電圧を演算により求める温度電圧変換部とを有することを特徴としている。
【0007】
前記第1のリングオシレータ及び前記第2のリングオシレータは、バイポーラトランジスタ又はBiCMOS素子で形成されるようにしても良い。前記第1のリングオシレータ及び前記第2のリングオシレータの電源は、一方が電圧駆動であり、他方が電流駆動であるようにしても良い。前記第1のリングオシレータ及び前記第2のリングオシレータは、一方の周波数の温度係数が正特性であり、他方の周波数の温度係数が負特性であるようにしても良い。前記多項式近似式は、温度に関する4次以上、電圧に関する2次以上、温度・電圧に関する1次以上の項の線形結合から成る近似式であるようにしても良い。前記連立2元方程式は、ニュートン−ラフソン法(ニュートン法ともいう)を用いるようにしても良い。初期値設定時に前記各リングオシレータの発振周波数を温度、電圧を変えて測定したデータを採取する際の温度モニタを設け、当該温度モニタは、ベース−エミッタを有するトランジスタとその電圧を測定できる外部出力端子を備えているようにしても良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明の温度電圧センサは、精度の高い温度測定が可能であり、また、温度測定と同時に逐次変動する電源電圧の測定も行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1に係る温度電圧センサを示すブロック図。
図2図1に示す温度電圧センサを温度補償発振器に組み込んだ温度補償発振器のブロック図。
図3図1の温度電圧センサに用いるリングオシレータの温度、電圧の周波数特性を説明する特性図。
図4図3に示すリングオシレータの出力と基準クロックとの関係を説明する波形図。
図5図3に示すリングオシレータを説明するブロック図。
図6図1に示すリングオシレータの回路構成を説明する回路図。
図7】各実施例において用いられるリングオシレータの例を説明する回路図。
図8図1に示すリングオシレータの発振周波数を表す多項式近似式(式1)を示す図。
図9図1に示すリングオシレータの発振周波数の温度、電圧の変化分ΔT、ΔVを示す行列式(式12)、(式13)を示す図。
図10】周波数カウント値(F1、F2)から温度(T)、電圧(V)を計算するフロー図。
図11】実施例2に係る温度電圧センサの回路ブロック図。
図12】実施例3に係る温度電圧センサ及びリングオシレータの回路ブロック図。
図13】実施例4に係る温度電圧センサの回路ブロック図。
図14図13に示すメモリの半導体ICにおける領域を説明するブロック図。
図15】実施例5に係る温度電圧センサの回路ブロック図。
図16】実施例6に係る温度電圧センサの回路ブロック図。
図17】実施例7に係る温度電圧センサの回路ブロック図。
図18】実施例8に係る温度電圧センサの回路ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施例を参照して発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0011】
図1乃至図6図8及び図9を参照して実施例1を説明する。
この実施例において、温度電圧センサは、図2に示す温度補償発振器に用いた例を説明する。この温度補償発振器は、水晶発振器(水晶振動子)を外付けし、発振回路を内蔵した半導体IC(チップ)から構成される。ここで、温度電圧センサは、半導体ICに形成される。
【0012】
図1に示すように、この実施例では、半導体ICに形成した、温度に敏感で温度特性の異なる2つのリングオシレータ2a、2bの発振周波数(f1、f2)を、同一の温度(T)、電圧(V)環境で、温度安定性の良い基準周波数f0(基準クロック信号)で計測し、予め各リングオシレータ2a、2bの発振周波数(f1、f2)を温度T、電圧Vを変えて測定したデータから計算で求めた2つのT、Vの2元の高次多項式近似式(f1(T、V)、f2(T、V))の係数を使って、T、Vを未知数とする2つのリングオシレータ2a、2bの2元連立方程式からT、Vを半導体IC(チップ)に形成された演算回路で解くことを特徴としている。
【0013】
この実施例の温度電圧センサは、発振周波数の温度特性、電圧特性が異なる第1のリングオシレータ2a及び第2のリングオシレータ2bと、前記第1のリングオシレータ2a及び前記第2のリングオシレータ2bのそれぞれの発振周波数f1、f2を計測するためのカウント時間(Tosc)を設定する基準クロック信号f0を供給する基準周波数供給部(基準クロック源)1と、前記カウント時間Toscで前記それぞれの発振周波数f1、f2の計測により得られる周波数のカウントデータに対して温度T及び電源電圧Vの2元の2次以上の多項式近似式を設定した上で、予め前記温度T及び前記電源電圧Vを変えて測定した前記周波数のカウントデータを基に算出した前記第1のリングオシレータ2a及び前記第2のリングオシレータ2bの前記多項式近似式における第1の係数セット及び第2の係数セットを記憶する係数記憶部(ROM)34と、同一の温度及び電源電圧の環境において動作する前記第1のリングオシレータ2a及び前記第2のリングオシレータ2bの発振周波数f1、f2を、前記カウント時間Toscで計測することにより、そのときの発振周波数に対応する第1の周波数カウントデータF1及び第2の周波数カウントデータF2を生成する周波数カウンタ(Counter)32と、前記第1の周波数カウントデータF1と前記第1の係数セットを前記多項式近似式に適用した第1の方程式と、前記第2の周波数カウントデータF2と前記第2の係数セットを前記多項式近似式に適用した第2の方程式による連立2元方程式から、前記第1及び第2の周波数カウントデータを生成した時の温度及び電源電圧の少なくとも一方を演算により求める温度電圧変換部(Digital Processing)33とを有する。
基準クロックf0を供給する基準周波数供給部(基準クロック源)1は、この温度電圧センサが、例えば、温度補償発振器に組み込まれる場合、水晶発振器(X’tal Oscillator)の発振周波数を分周して、基準クロックf0を生成する。
【0014】
図3において、図3(a)は、この実施例における第1及び第2のリングオシレータ2a、2bの発振周波数f1、f2の温度特性及び電圧特性を示すものであり、図3(b)は、温度及び電圧特性の他の例である。図3(c)は、発振周波数f1、f2の温度特性の他の例であり、発振周波数f1が正特性、他方のf2が負特性を有している。
図4は、第1及び第2のリングオシレータの出力f1、f2と基準クロックf0が記載されており、基準クロックf0で設定されるカウント時間Toscでそれぞれの周波数をカウントして周波数カウントデータF1、F2を得る。周波数を計測するには波形の立ち上がり(rise)エッジをカウントする。
【0015】
図5及び図6は、温度電圧センサを構成するリングオシレータ2を表している。図5において、リングオシレータは、外部から電源2cが供給される2つのリングオシレータ2a、2bから構成されている。これらは、それぞれRO1、RO2と表記する。2つのリングオシレータは、それぞれリング状に接続された複数(N個)のインバータ(図6)から構成されている。第1のリングオシレータ(RO1)2aは、入力が電流源に接続されて電流駆動し、発振周波数f1を出力する(図5参照)。発振周波数f1は、温度T、電圧Vの関数であり、f1(T,V)で表記される。第2のリングオシレータ(RO2)2bは、入力が電源2cに接続されて電圧駆動し、発振周波数f2を出力する(図5参照)。発振周波数f2は、温度T、電圧Vの関数であり、f2(T,V)で表記される。リングオシレータの発振周波数(f)は、インバータの数(N)と遅延時間(td)で決まり、遅延時間(td)は、温度(T)に依存する。即ち、発振周波数fは、1/(2N・td(T))で表される。
【0016】
以下、この実施例の2つのリングオシレータによる温度電圧センサを用いた温度検出方法を説明する。
半導体ICに形成されるリングオシレータの発振周波数は、温度依存性を有する以外に電圧依存性を有している。フェムトセルの要求するクロック精度(50ppb程度)温度補償発振器の温度補償回路で実現する場合に必要な温度センサに要求される温度精度は、温度補償発振器に使われる温度センサの特性から計算して約0.05℃が必要とされる。このリングオシレータの電源電圧をレギュレータによって安定化することも考えられるが、−50〜125℃などの広範囲でその電源電圧を温度精度0.05℃に相当する電圧変動以内(1mVより遥かに下である)に安定化することは容易ではない。この実施例によって説明される発明は、このような課題を解決するものである。
【0017】
1つのリングオシレータの発振周波数fは、温度(T)、電圧(V)単独、T・V項の多項式近似式f(T,V)(式1)で表すことができる。式1は、図8に記載する。この近似式において、m、n、p、q、M、N、P、Qはすべて自然数であり、am、bn、cpq、c0は係数である。ここで第1のリングオシレータは、RO1、第2のリングオシレータは、RO2と表記する。この実施例では、近似式をTに関する4次、Vに関する2次、T・Vに関する1次の項の線形結合からなるものとする。
【0018】
2つのリングオシレータの発振周波数f1、f2を図1に示すカウンタ32で測定した値をF1(T,V)、F2(T,V)とする。
RO1の周波数カウント値F1は、
F1(T,V)=a414+a313+a212+a11T+b212+b11V+c11TV+c01 (式2)
a41、a31、a21、a11、b21、b11、c11、c01は、各項の係数である。
F2(T,V)=a424+a323+a222+a12T+b222+b12V+c12TV+c02 (式3)
a42、a32、a22、a12、b22、b12、c12、c02は、各項の係数である。
【0019】
次に、RO1、RO2を恒温槽などの同一の温度環境で温度を可変しつつ、電源電圧も変えながら、RO1、RO2の周波数カウント値F1、F2データをそれぞれ採取する。測定ポイント数は、最小二乗法によって、未知数である係数を計算できる最小数以上のポイント数を設定する。そして、RO1の測定から得られたデータを[F1(Ti,Vj),Ti,Vj](i=1〜m、j=1〜n)とし、RO2の測定から得られたデータを[F2(Ti,Vj),Ti,Vj](i=1〜m、j=1〜n)とする。但し、i、j、m、nは全て自然数である。ここで使用するm、nは図8に記載した式1のm、nとは無関係である。
【0020】
これら測定によって得られたRO1に関するデータから、最小二乗法によって、RO1に関する未知数[a41、a31、a21、a11、b21、b11、c11、c01]を計算し、同様にして、測定によって得られたRO2に関するデータから、最小二乗法によって、RO2に関する未知数[a42、a32、a22、a12、b22、b12、c12、c02]を計算する。なお、この最小二乗法による計算は、半導体ICの出荷テスト時やユーザによる製品組み込み時に行うものであり、半導体ICからデータを採取し、外部のパソコンなどの演算装置で計算することができる。
このような処理によって求められた係数は、温度電圧センサが形成された半導体ICの係数メモリに書き込まれている。係数メモリは、図1のメモリ(ROM)34が相当する。係数メモリにはEPROM、EEPROM、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリが適当である。
【0021】
次に、RO1及びRO2は、それぞれの係数が、半導体IC内のメモリに書き込まれている状態で、同一の温度環境に置かれ、同一の電源電圧が印加されている。そして、RO1、RO2の周波数カウント値がF1(T,V)、F2(T,V)であり、この2値から未知数T、Vを計算する。即ち、RO1とRO2のF1、F2に関する係数が既知であるので、次式(式4及び式5)の2元(T、V)の連立4次方程式を解くことによって、未知数T、Vが計算される。
F1=a414+a313+a212+a11T+b212+b11V+c11TV+c01 (式4)
F2=a424+a323+a222+a12T+b222+b12V+c12TV+c02 (式5)
しかしながら、2元(T,V)の4次連立方程式の解は、2次方程式のように定式化されていないために、ニュートン−ラフソン法を用いて、漸化式による繰り返し演算によって解を求める。
【0022】
まず、式4の右辺から左辺を引いた値をY1(T,V)とし、同様に、式5の右辺から左辺を引いた値をY2(T,V)とする。Y1、Y2は、式6及び式7のように表される。
Y1=a414+a313+a212+a11T+b212+b11V+c11TV+c01−F1 (式6)
Y2=a424+a323+a222+a12T+b222+b12V+c12TV+c02−F2 (式7)
【0023】
また、式6及び式7において、その微分値は、式8乃至式11のように表される。
∂Y1/∂T=4a413+3a312+2a21T+a11+c11V (式8)
∂Y2/∂T=4a423+3a322+2a22T+a12+c12V (式9)
∂Y1/∂V=2b21V+b11+c11T (式10)
∂Y2/∂V=2b22V+b12+c12T (式11)
これらの式から、T、Vの変化分ΔT、ΔVは、図9に記載された式12及び式13で表される。
【0024】
次に、式12から、ΔT、ΔVは、次式で表される。
ΔT=−(Y1*∂Y2/∂V−Y2*∂Y1/∂V)/det
(式14)
ΔV=(Y1*∂Y2/∂T−Y2*∂Y1/∂T)/det
(式15)
ここで示したΔT、ΔVの計算式を用いてニュートン−ラフソン法による漸化式は、次式で表される。
Tn+1=Tn+ΔT (式16)
Vn+1=Vn+ΔV (式17)
計算の最初は、式16、式17のTn、Vnのn=0に相当するT0、V0を初期値として与える必要がある。このT0、V0には想定されるT、Vの変動範囲のほぼ中心値を与えることもできる。
【0025】
ニュートン−ラフソン法では漸化式による計算を繰り返すので、所望の誤差以内の結果が得られた場合には、計算を中止し、その段階のTn、Vnを計算結果として出力する。
具体的には、下記の式18、式19に表すように、ΔT、ΔVが予め設定した誤差範囲Et、Ev未満になったときに収束したと判断する。
ABS(ΔT)<Et (式18)
ABS(ΔV)<Ev (式19)
なお、ABS(X)は、Xの絶対値を表す。
また、下記の式20に示すように、計算回数(Nctv)がリミット回数(Mtv)を超える場合には時間オーバーとして計算を中止し、その時点での最終結果を出力する。もしくは、問題のないディフォルト値を出力する事もあり得る。
Nctv>Ntv (式20)
【0026】
また、式14、式15に記載された(1/det)の計算には割り算が必要であるが、この計算自体もニュートン−ラフソン法を用いることができる。
以上のニュートン−ラフソン法による計算は、半導体IC上に搭載されたデジタル演算回路と演算シーケンス(プログラム)によって実現可能である。このプログラムは半導体ICに形成されたメモリに記憶される。
【0027】
次に、図10を参照して、周波数カウント値(F1、F2)から温度(T)、電圧(V)を計算する方法を説明する。
事前に、RO1用係数(a41、a31、a21、a11、b21、b11、c11、c01、4a41、3a31、2a21、2b21)、RO2用係数(a42、a32、a22、a12、b22、b12、c12、c02、4a42、3a32、2a22、2b22)、det逆数計算用係数(2)、温度(T)用誤差リミット値(Et)、電圧(V)用誤差リミット値(Ev)、det逆数用誤差リミット値(Edet)、T及びV用計算回数リミット値(Mtv)、det逆数用計算回数リミット値(Mdet)が図1に示すメモリ(ROM)(係数記憶部)34に書き込まれている。
計算方法は、2つのフローに分かれており、左側のフロー(図10(a))がメインフロー、右側のフロー(図10(b))がサブフローであり、Idet(=1/det)を計算するものである。
【0028】
まず、メインフローを説明する。
[計算開始] 計算が開始されると、RO1及びRO2の周波数カウントデータF1、F2を取得する。このカウントデータは、通常は、カウンタ(図1の32)から取得したデータをレジスタなどに記憶しているので、レジスタから取得するとしても良い。
[初期値設定] つぎに、ニュートン−ラフソン法で計算する場合の温度データT、電圧データVの初期値として、T0、V0を与える。初期値は、予めメモリ(図1の34)に記憶しておき、このメモリから読み出すこともできる。
[カウンタリセット] 次に、ニュートン−ラフソン法の演算繰り返し回数のカウンタをリセットする(即ち、計算回数(Nctv)を0とする)。そして、既に与えた初期値T0、V0を式6、式7のT、Vに代入して、Y1(T、V)、Y2(T、V)を計算する。
【0029】
次に、同様にして、Y1(T、V)、Y2(T、V)のT、Vに関する1階微分のdY1T、dY2T、dY1V、dY2V(略記号)を式8乃至式11により計算する。これら略記号は、以下に示すように、式21乃至式24で表される。
dY1T=∂Y1/∂T (式21)
dY2T=∂Y2/∂T (式22)
dY1V=∂Y1/∂V (式23)
dY1V=∂Y1/∂V (式24)
次に、detを計算する。これは、detを表す式13に式8乃至式11を代入して計算する。
【0030】
つぎに、式12から導き出されたΔT、ΔVは、式14及び式15に表されるが、これらにdetを積算した値は、式25、式26に示される。そして、ΔT*det、ΔV*detに相当する2式の右辺を計算する。
ΔT*det=−(Y1*∂Y2/∂V−Y2*∂Y1/∂V)
(式25)
ΔV*det=(Y1*∂Y2/∂T−Y2*∂Y1/∂T)
(式26)
上記で計算したY1、Y2、dY1T、dY2T、dY1V、dY2V、det、ΔT*det、ΔV*detの計算結果は、計算後一時記憶レジスタに保管される。
次に、Idet(=1/det)の計算を説明するが、詳細は、サブフロー(図10(b))でするので、ここではIdetが計算されたものとして、説明を進める。
【0031】
次に、既に式25、式26で計算したΔT*det、ΔV*detにIdetを掛けることにより、ΔT、ΔVを計算する。
ΔT=Idet*(ΔT*det) (式27)
ΔV=Idet*(ΔV*det) (式28)
次に、式16、式17により、T=T1、V=V1を計算する。具体的にはn=0とした次の式29、式30にあらわされる。
T1=T0+ΔT (式29)
V1=V0+ΔV (式30)
[収束判断] 次に、計算された結果がニュートン−ラフソン法でいう収束に相当するかどうかを判断するために、ABS(ΔT)<EtとABS(ΔV)<Vtの大小比較を計算する。その結果がYesであれば上記で計算したT1、V1を計算結果として出力し、計算終了となる。
【0032】
一方、もしその結果がNo(未収束)であれば、再度計算を繰り返すために、計算回数カウント数Nctvを1つカウントアップする。Nctvが初期リセットされている場合は、カウントアップしてNctv=1となる。
次に、計算回数カウントNctvが計算回数リミット値Mtvを超えていないかを計算する。超えている場合(Yes)には、T、V計算結果出力を行い、計算終了となり、超えない場合(No)には、Y1、Y2の計算から計算の繰り返しを行う。
【0033】
次に、サブフローを説明する。ここではIdetの逆数計算フローを説明する。
[計算開始] まず、ニュートン−ラフソン法を用いて、detの逆数を計算する方法を説明する。
例えば、数値aの逆数をxとした場合、式31のように、f(x)=0を解けばx=1/aが求められる。f(x)の微分値は、式32に示される。
f(x)=(1/x)−a (式31)
f′(x)=−1/x (式32)
これらの式を用いて、式33に示すニュートン−ラフソン法の漸化式が得られる。漸化式は、式33のように表される。
xn+1=xn−f(xn)/f′(xn)=xn(2−axn)
(式33)
まず、メイン計算フローの途中でレジスタに保管されたdetデータを取得する。
【0034】
[初期値設定] 初期値Idet0を図1に示すメモリ(ROM)から読み出し、Idet初期値として設定する。
[カウンタリセッタ] 次に、計算回数カウンタNcdetをリセットする(Ncdet=0)。そして、式33に従って、Idetを計算する。その際、ROMのdet逆数計算用係数(2)を使用する。
[収束判断] 次に、計算された結果がニュートン−ラフソン法でいう収束に相当するかどうかを判断するために、ABS(ΔIdet)<Edetであるか否かを計算する。ΔIdetは、式33では、「xn+1−xn」のことである。ABS(ΔIdet)<EdetがYes(収束)であれば、上記で計算したIdetを計算結果として出力して計算終了となる。一方、もし、その結果がNo(未収束)であれば、再度計算を繰り返すために、計算回数カウント数Ncdetを1つカウントアップする。Ncdetが初期リセットされていれば、カウントアップしてNcdet=1となる。
次に、計算回数カウントNcdetが計算回数リミット値Mtvを越えていないかを計算する。超えている場合(Yes)には、Idet計算結果出力を行い、計算終了となる。超えていない場合(No)には、Idetの計算から計算繰り返しを行う。
【実施例2】
【0035】
次に、図11を参照して実施例2を説明する。
この実施例では、基本的構成が実施例1と同じである。この実施例では、半導体ICに温度モニタを設けたことに特徴がある。ここでは、初期値設定時に前記各リングオシレータ2a、2bの発振周波数を温度、電圧を変えて測定したデータを採取する際の温度モニタ8を設ける。この温度モニタ8は、校正用温度センサであり、ベース−エミッタを有するトランジスタとその電圧を測定できる外部出力端子81、82を備えている。外部出力端子81は、エミッタに接続され、外部出力端子82は、ベースに接続されたコレクタに接続されている。
【0036】
初期の測定時には、2つのリングオシレータに与える温度と電圧をリアルタイムに精度良く測定しておくことが重要である。特に難しい測定が高精度の温度測定である。半導体IC内の温度センサ付近の温度を正確に測定するためには熱容量が小さい温度センサで、できるだけリングオシレータ近傍で測定するのが良い。そのため、この実施例では、非常に熱容量の小さいバイポーラ素子からなるバンドギャップをリングオシレータの近傍に組み込み、そのバンドギャップの2端子から半導体ICの外に出力するためのパッドを2個内蔵する。高精度の電圧測定が維持される。
【実施例3】
【0037】
次に、図12を参照して実施例3を説明する。
リングオシレータによる温度センサは、センサであるリングオシレータの出力が電気的ノイズに対して強いという特徴がある。これは、リングオシレータ出力が、バンドギャップベース温度センサのように、電圧というノイズに弱いアナログ値ではなく、発振周波数というアナログ値は持つが振幅方向にはデジタルのクロックであるということから来ている。したがって、センサから温度電圧デジタルデータ生成部までの配線に電源ノイズなどのノイズが乗っても、デジタルクロックの周波数に影響がなければ、精度が劣化しないため、半導体ICのチップ内での複数個所での高精度の温度電圧モニタリングを比較的高精度に出来る。
図12(a)は、温度電圧デジタルデータ生成部を含む1対のリングオシレータからなる温度電圧センサの回路ブロック図である。温度電圧センサの温度電圧デジタルデータ生成部3は、基準クロック源1(基準周波数供給部)の出力を分周する分周回路9に接続されている。半導体ICに形成された1対のリングオシレータは、ROペアと略記する。
【0038】
リングオシレータ1(2a)及びリングオシレータ2(2b)の周波数情報を持つ出力は、温度電圧デジタルデータ生成回路3のそれぞれぞれ対応するカウンタ32a、32bで周波数カウントデータとなる。これらカウンタ32a、32bのカウント時間は,分周回路9の出力クロックを基準クロックとして制御回路31において発生される。制御回路31では、分周回路9の出力とリングオシレータ1,2の出力の異なる3つの非同期信号の同期並びに制御信号などが生成される。
制御回路31を通じて出力されるリングオシレータ1、2のそれぞれに対応する周波数カウントデータF1、F2は温度電圧変換回路33(温度電圧変換部)で温度電圧データ(T、V)に演算によって変換される。メモリ34は、その演算に必要な係数等を記憶する回路である。
図12(a)の温度電圧センサでは、基準クロック源1を用い、その出力を分周回路9で分周した出力を温度電圧デジタル生成回路3の制御回路31に入力している。
【0039】
この実施例では、リングオシレータ回路のシンボル(記号)として、図12(b)で表現しているものを使用している。しかし、実際はリングオシレータの出力を次段の回路に入力したり、長い配線で信号を引っ張る際にはリングオシレータに出力負荷が付き、発振周波数に影響を及ぼすため、図12(c)に示すように、リングオシレータ出力にバッファを付加して使用することが一般的である。また、温度電圧センサを常時使用せず、消費電力を抑える必要がある場合には、リングオシレータの発振を停止させる必要があるため、図12(d)に示すように、リングオシレータの途中にゲート(NAND回路)を挿入し、発振停止信号を入れると発振が停止するようにする。
【実施例4】
【0040】
次に、図13及び図14を参照して、実施例4を説明する。
図13に記載された温度電圧センサにおいて、4つのROペア(21a,21b)〜(24a,24b)を同一半導体ICのチップ上の4つの異なる領域21〜24に、1ROペアずつ搭載し、さらに、各ROペアから出力された発振周波数(f1、f2)ペアを、温度T、電圧Vを計算する温度電圧デジタルデータ生成回路3の入力側に付加されたマルチプレクサ500a、500bに入力し、温度電圧デジタルデータ生成回路3からの制御によってマルチプレクサの出力を切り換え、4つの回路配置領域の発振周波数(f1、f2 )ペアを温度電圧デジタルデータ生成回路3に選択的に入力し、4つの回路配置領域の(温度T、電圧V)ペアを順次計算する構成となっている。
【0041】
図14では、4つの異なる回路配置領域に搭載された各ROペアから出力された発振周波数(f1、f2)ペアから温度T、電圧Vを計算するための各近似式係数を4つの異なる各ROペアに対応するメモリ上の異なる領域に分けて記憶する。この場合、各近似係数を求めるために、予め各ROペアの温度、電圧を変えて各ROペアから出力される発振周波数(f1、f2)を採取し、最小ニ乗法を用いて近似式係数を各ROペア毎に求める必要がある。
【実施例5】
【0042】
次に、図15を参照して実施例5を説明する。
この実施例では、実施例4と同様に、4つのROペアからなるリングオシレータが半導体ICのチップに形成されている。各ROペア領域は、チップの所定の領域に形成され回路ブロックを構成している。この実施例では、回路ブロック毎の動作クロック周波数を制御することに特徴がある。
1チップ上に搭載された複数の前記回路ブロック毎の温度Tのデジタル値を取得し、各回路ブロックの温度上昇を抑制するために、各回路ブロックの動作クロック周波数を各回路ブロック毎の温度電圧センサの温度Tのデジタル値により制御する。
【0043】
図15は、1チップ上に搭載された4つの回路ブロック210〜240内に、それぞれに対応するROペア領域21〜24を配置し、その出力をマルチプレクサ500a、500bにより順次選択し、各ROペアから出力された発振周波数 (f1、f2 )ペアから、順次、各ROペア領域の温度(T)、電圧(V )のデジタル値を計算し、それぞれの温度(T)のデジタル値から、各回路ブロック毎に動作クロック周波数を制御する。この実施例では、基準クロック源1のクロックをクロック生成回路5に入力し、一方、温度電圧デジタルデータ生成回路3の温度(T )出力をクロック周波数制御回路4に入力し、各回路配置領域の温度に応じてクロック周波数を変化させる制御を行い、クロック生成回路5にて、各回路配置領域のクロックCK1〜CK4を発生させる動作を行う。
以上の構成により、各回路ブロックの温度上昇を抑え、正常な回路動作を行わせることが可能となる。
【実施例6】
【0044】
次に、図16を参照して実施例6を説明する。
この実施例は、半導体ICのチップ上に搭載された複数の回路ブロック毎の電圧Vのデジタル値を取得し、各回路ブロックの消費電流による電圧降下を補償するために、各回路ブロックの電源電圧を各回路ブロック毎の電圧Vのデジタル値により制御することに特徴がある。
図16は、1つのチップ上に搭載された4つの回路ブロック210〜240内に、それぞれ対応するROペア領域21〜24を配置し、その出力をマルチプレクサ500a、500bにより順次選択し、各ROペアから出力された発振周波数 (f1、f2 )ペアから順次、各ROペア領域の温度(T)、電圧(V )のデジタル値を計算し、それぞれの電圧(V)のデジタル値から、各回路ブロック毎に電源電圧を制御する実施例である。
【0045】
この実施例では、温度電圧デジタルデータ生成回路3の電圧(V)出力を電源電圧制御回路30に入力し、各回路ブロックの期待される電圧と比較することによって、電源電圧生成回路40からの各回路ブロック向けの電源電圧出力V1〜V4の制御を行う。
以上、この実施例では、各回路ブロックの消費電力に依存した電源電圧の電圧降下を補償し、正常な回路動作を行わせることが可能となる。
【実施例7】
【0046】
次に、図17を参照して実施例7を説明する。
この実施例は、半導体ICの1チップ上に搭載された複数の回路ブロック毎の温度(T)のデジタル値を取得し、リーク電流による消費電力の増大を抑制するために各回路ブロックの基板バイアス電圧を各回路ブロック毎の温度(T)のデジタル値により制御することに特徴がある。
図17は、1チップ上に搭載された4つの回路ブロック210〜240内に、それぞれ対応するROペア領域21〜24を配置し、その出力をマルチプレクサ500a、500bにより順次選択し、各ROペアから出力された発振周波数(f1、f2)ペアから順次、各ROペア領域の温度(T)、電圧(V )のデジタル値を計算し、それぞれの温度(T)のデジタル値から、各回路ブロック毎に基板バイアス電圧を制御する実施例である。
【0047】
この実施例では、温度電圧デジタルデータ生成回路3の温度(T)出力を基板バイアス制御回路6に入力し、各回路ブロックの温度に対応する基板バイアス電圧を設定することによって、基板バイアス生成回路7から出力する各回路ブロック210〜240の基板バイアス電圧BV1〜BV4の制御を行う。
以上、この実施例では、微細プロセスで問題となっているリーク電流による消費電力による温度上昇を、基板バイアス電圧を制御することで抑え、正常な回路動作を行わせることが可能となる。
【実施例8】
【0048】
次に、図18を参照して実施例8を説明する。
実施例4乃至実施例7では、複数(例えば4つ)のROペア領域からペアとなるリングオシレータ出力信号を直接マルチプレクサに入力しているが、図18に示すようにこの実施例では、基準クロック源1の信号を分周したクロック9を各回路ブロック410〜440に分配し、各ROペア領域21〜24のROペアからの出力周波数(f1、f2)を各ROペア近傍に配置したカウンタ32a、32bと制御回路31でカウントし、その周波数カウントデータ(F1、F2)をマルチプレクサ500a、500bに入力する。
【0049】
この実施例では、図13図15図17の温度電圧デジタルデータ生成部3が分割され、温度電圧変換回路33とメモリ34からなるブロック300と、マルチプレクサ500a、500bと各ROペア領域21〜24との間に移動されたカウンタ32a、32b及び制御回路31を含むカウンタ部310、及び同様のカウンタ部320〜340となる。
また、図18では、回路ブロック410〜440の領域は、ROペア領域21〜24とカウンタ32a、32b及び制御回路31から構成されるカウンタ部310〜340とが設けられている。これら回路ブロック410〜440は、それぞれRO1カウンタ領域、RO2カウンタ領域、RO3カウンタ領域、RO4カウンタ領域という。これらの領域はチップ上の特定のエリア(領域)も指している。
【0050】
図13、15〜17のシステムでは、ROペア領域からの配線が少なくて良いメリットがある。一方、図18のシステムでは、F1、F2の周波数カウントデータをマルチプレクサに送る方法はパラレル転送かシリアル転送になるが、低い周波数にできるメリットがある。配線本数は多くなる。
【実施例9】
【0051】
次に、図7を参照して実施例9を説明する。
この実施例では、この温度電圧センサに用いられるリングオシレータについて説明する。
リングオシレータは、通常、半導体プロセスの出来栄えを評価するモニタに使用されている回路であり、特に広く普及しているCMOSプロセスでは一般的に用いられている。また、CMOS回路では、回路ブロック内の温度測定や電圧降下の測定に使用されている。しかし、従来のリングオシレータによる温度測定は、せいぜい1次(線形)近似であり、本願発明が目的とする高精度を狙ったものはない。
また、消費電流による電源ラインの電圧降下の測定にリングオシレータが使用された論文は公知であるが、リングオシレータを 使って、温度と電圧の両方をセンシングしたものは知られていない。
【0052】
図7(a)は、NチャンネルMOSFETとPチャンネルMOSFETとからなるCMOS回路(C1、C2、・・・Cn)で構成されたリングオシレータである。リングオシレータは奇数段の反転増幅器をループ状に接続したものであり、3段が最低段数である。VDD(プラス電源)は、PMOSFETに接続され、VSS(接地電位)は、NMOSFETに接続されている。
図7(b)は、バイポーラトランジスタのNPNトランジスタ(B1、B2、B3)と抵抗(R1、R2、R3)から構成される反転増幅器をループ状に3段接続したリングオシレータである。各反転増幅器は、抵抗がVDD(プラス電源)に接続され、VSS(接地電位)がエミッタに接続されている。
【0053】
素子の経年変化を比較した場合に、一般的にMOSトランジスタの重要な特性であるスレッショールド(閾値)電圧はドリフトする傾向がある。そのため、リングオシレータの発振周波数が経年変化して、その結果温度センサの特性が経年変化する ことを気にする場合には、CMOSリングオシレータよりもバイポーラによるリングオシレータの方が良い。
実施例1で説明したように、2つのリングオシレータ(RO1、RO2)の温度特性を大きく変えるために、一方を電圧駆動にし、他方を電流駆動にする。具体的には、図7(a)、(b)に示したリングオシレータを直接VDD(プラス電源)に接続することにより電圧駆動とし、他方は、図7(c)、(d)に示したリングオシレータのように、リングオシレータの電源ラインをリングオシレータの回路とは別に形成した電流源(カレントソース)に接続して電流駆動とする(図5参照)。電流源は、図7(c)、(d)に記載された回路の左端に記載されたバイアス回路とカレントミラー回路とで構成される。このバイアス回路及びカレントミラー回路は、電源(VDD、VSS)間に設けられたPMOSトランジスタP1、抵抗R4及びバイポーラトランジスタB4、電源(VDD、VSS)間に設けられたPMOSトランジスタP2及びバイポーラトランジスタB5、そして、PMOSトランジスタP2とゲートが共通に接続されたPMOSトランジスタP3から構成されている。
【符号の説明】
【0054】
1・・・基準周波数供給部(基準クロック源)
2・・・リングオシレータ
2a・・・第1のリングオシレータ(RO1)
2b・・・第2のリングオシレータ(RO2)
2c・・・電源
3・・・温度電圧デジタルデータ生成回路
4・・・クロック周波数制御回路
5・・・クロック生成回路
6・・・基板バイアス制御回路
7・・・基板バイアス生成回路
8・・・校正用温度センサ
9・・・分周回路
21、22、23、24・・・ROペア領域
32、32a、32b・・・周波数カウンタ
30・・・電源電圧制御回路
31・・・制御回路
33・・・温度電圧変換部(温度電圧変換回路)
34・・・係数記憶部(メモリ)
40・・・電源電圧生成回路
81、82・・・外部出力端子
100a、100b、500a、500b・・・マルチプレクサ
210、220、230、240、410、420、430、440・・・回路ブロック
300・・・ブロック
310、320、330、340・・・カウンタ部





図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18