特許第6415356号(P6415356)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6415356鉄溶湯用炭化珪素質耐火ブロックおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6415356
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】鉄溶湯用炭化珪素質耐火ブロックおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/567 20060101AFI20181022BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20181022BHJP
   F27D 1/04 20060101ALI20181022BHJP
【FI】
   C04B35/567
   F27D1/00 N
   F27D1/04 A
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-42455(P2015-42455)
(22)【出願日】2015年3月4日
(65)【公開番号】特開2016-160158(P2016-160158A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】柳 憲治
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−328885(JP,A)
【文献】 特開平08−057611(JP,A)
【文献】 特開2010−275120(JP,A)
【文献】 特開2005−082451(JP,A)
【文献】 特開平04−292464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
F27D 1/00、1/04,1/16
B22D 11/10,41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素質耐火物全体を100重量%としたとき、炭化珪素が50重量%以上で含有する炭化珪素質耐火物からなる所定形状のキャスタブルブロックを焼成してなる焼成キャスタブルブロック本体と、
該焼成キャスタブルブロック本体の外表面部分の炭化珪素が酸化されて酸化珪素となった0.5mm以上の厚さを有する焼成被膜層と、
前記焼成キャスタブルブロック本体のキャスタブル粒子の表面に形成され、該キャスタブル粒子を形成する炭化珪素が酸化されてなった酸化珪素よりなる酸化被膜層と、
を有することを特徴とする鉄溶湯用炭化珪素質耐火ブロック。
【請求項2】
気孔率が10.1%以上である請求項1に記載の鉄溶湯用炭化珪素質耐火ブロック。
【請求項3】
炭化珪素質耐火物全体を100重量%としたとき、炭化珪素が50重量%以上で含有する炭化珪素質耐火物のキャスタブルブロックを所定形状に成形してキャスタブルブロックとする成形工程と、
成形された該キャスタブルブロックを酸化雰囲気下で焼成して焼成キャスタブルブロックとするとともに、外表面部分の炭化珪素が酸化されて酸化珪素となった0.5mm以上の厚さの焼成被膜層にするとともに、キャスタブル粒子の表面に炭化珪素が酸化されて酸化珪素となった酸化被膜層にする酸化焼成工程と、
を有することを特徴とする鉄溶湯用炭化珪素質耐火ブロックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄溶湯用炭化珪素質耐火ブロックおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、炭化珪素質の耐火ブロックは各種産業用、特に高炉などの工業用炉材として広く利用されている。これらの耐火ブロックはあらかじめ所定の形状に成形されているため、部品として持ち運ぶことや、ブロック同士を積層してより大きな構造物とすることができるという利点を有する。炭化珪素質の耐火ブロックの耐久性に関しては、耐溶損性(耐浸食性)、耐スポール性(耐熱衝撃性)や耐スレーキング性等の観点から様々な改良がなされてきた。例えば、特許文献1には、焼成により耐酸化皮膜を形成した窒化珪素結合SiC耐火物を粉砕した粉砕粒をSiC原料とすることで耐スポール性を備えたキャスタブル耐火物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−275120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐火ブロックは、産業上より使い易いとか耐久性の高い等のより良いものが求められている。
本発明者は、炭化珪素質耐火ブロックを酸化雰囲気で加熱することにより、表面部分の層により耐食性の増す耐火ブロックとなることに気付き、本発明に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の鉄溶湯用炭化珪素質耐火ブロックは、炭化珪素質耐火物全体を100重量%としたとき、炭化珪素が50重量%以上で含有する炭化珪素質耐火物からなる所定形状のキャスタブルブロックを焼成してなる焼成キャスタブルブロック本体と、該焼成キャスタブルブロック本体の外表面部分の炭化珪素が酸化されて酸化珪素となった0.5mm以上の厚さを有する焼成被膜層と、前記焼成キャスタブルブロック本体のキャスタブル粒子の表面に形成され、該キャスタブル粒子を形成する炭化珪素が酸化されてなった酸化珪素よりなる酸化被膜層と、を有することを特徴とする。
また、本発明の鉄溶湯用炭化珪素質耐火ブロックの製造方法は、炭化珪素質耐火物全体を100重量%としたとき、炭化珪素が50重量%以上で含有する炭化珪素質耐火物のキャスタブルブロックを所定形状に成形してキャスタブルブロックとする成形工程と、成形された該キャスタブルブロックを酸化雰囲気下で焼成して焼成キャスタブルブロックとするとともに、外表面部分の炭化珪素が酸化されて酸化珪素となった0.5mm以上の厚さの焼成被膜層にするとともに、キャスタブル粒子の表面に炭化珪素が酸化されて酸化珪素となった酸化被膜層にする酸化焼成工程と、を有することを特徴とする。
本発明の鉄溶湯用炭化珪素質耐火ブロックは、焼成キャスタブルブロック本体と焼成被膜層からなる。鉄溶湯用炭化珪素質耐火ブロックは、その目的に応じて所定形状を有する。例えば、型枠で成形されたものは所定形状を有することになる。その他にも、断面が一定の長尺状物体を所定間隔で切断したものでも所定形状を有するものとなる。焼成キャスタブルブロック本体は炭化珪素質耐火物である。ここで、炭化珪素質とは広い意味で炭化珪素を含むことを意味する。焼成被膜層は炭化珪素が酸化して焼成されるため、焼成前のブロック本体に含まれる炭化珪素が少ないと焼成被膜層の形成が困難になる。従って、炭化珪素質としては、耐火ブロックの全成分を100重量%(以下、%は重量%を意味する。)としたとき5%以上の炭化珪素を含むものが好ましい。さらには50%以上の炭化珪素を含むものがより好ましい。
【0006】
焼成キャスタブルブロック本体に含まれる炭化珪素以外の成分としては、珪素、アルミニウム、カルシウム等の酸化物、炭化物等を挙げることができる。また、金属珪素等の金属を含んでいてもよい。これらの炭化珪素以外の成分及び配合割合は用途に応じて使い分けることができる。なお、各成分は粒又は粒状である。用途に応じて、粒度及び粒度分布を適宜選択することができる。
【0007】
焼成キャスタブルブロック本体の種類としては、型にキャスタブルを流し込んで成形した所定形状のキャスタブルブロック、型内で押圧成形して所定形状とした押圧成形ブロック、所定形状の成形体を焼成した焼成ブロックのいずれか一つとすることができる。本発明では、キャスタブルブロックである。ここで、キャスタブルブロックとはプレキャストブロックとも称されているもので、粒、粒状の耐火物等を水等でスラリー状とし、型内に流し所定形状に固化したものである。押圧成形ブロックは粉、粒、粒状の耐火物を型内で押圧し圧密化したものである。通常、押圧成形ブロックはキャスタブルブロックよりも充填された状態となり気孔率が低い。焼成ブロックはキャスタブルブロックや押圧成形ブロック等の成形されたブロックを加熱して焼結したブロックである。
【0008】
炭化珪素質耐火物は炭化珪素が酸素と反応して酸化珪素となるため、通常は非酸化雰囲気中で焼結される。また、焼結を促進するため金属珪素とか金属酸化物等の焼結助剤が使用されることもある。
本発明の焼成被膜層は所定形状を有する炭化珪素質耐火物からなる耐火性のブロック本体の表面部分を酸素の存在下で焼成し、表面部分に含まれている炭化珪素成分を酸化して酸化珪素とし、表面部分の焼結を進めたものである。
【0009】
焼成被膜層の厚さは0.5mm以上とするのが好ましい。
焼成キャスタブルブロック本体に焼成被膜層を形成した場合、元の焼成キャスタブルブロック本体の機械的強度が低いもの程、焼成被膜層形成による耐食性向上の効果は高い。従って、気孔率の低い押圧成形ブロックよりも、気孔率の高いキャスタブルブロックに焼成被膜層を形成した方がより効果的である。しかし、押圧成形ブロックに焼成被膜層を形成しても耐食性向上の効果はある。さらに、キャスタブルブロックや押圧成形ブロックを非酸素雰囲気下で焼成した焼成ブロックをさらに酸素雰囲気下で焼成し、焼成被膜層を形成することも有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の鉄溶湯用炭化珪素質耐火ブロックは、焼成被膜層を持たない同じ組成の炭化珪素質耐火ブロックより、ブロック同士をキャスタブルで接合する場合になじみが良く耐食性が増す。さらに、本発明の鉄溶湯用炭化珪素質耐火ブロックは高炉スラグに対する耐溶損性および耐スポール性が高い。このため高炉溶鋼用の耐火ブロックとして高い耐久性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例の焼成キャスタブル耐火ブロックの一部の拡大断面図である。
図2】本発明の実施例の焼成キャスタブル耐火ブロックの一部断面の珪素の分布を示す珪素元素分析図である。
図3図2と同じ一部断面の酸素の分布を示す酸素元素分析図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
本発明の焼成キャスタブル耐火ブロック(鉄溶湯用炭化珪素質耐火ブロックに相当する)の一部の拡大断面図を図1に示す。この焼成キャスタブル耐火ブロックは、500mm×500mm×300mmの形状を有し、炭化珪素質耐火物からなる耐火性のブロック本体1(焼成キャスタブルブロックおよび焼成キャスタブルブロック本体に相当する)と、このブロック本体1の外表面部分を酸素雰囲気中で加熱して少なくとも一部の炭化珪素を酸化して酸化珪素とした焼成被膜層2からなる。
【0013】
この焼成キャスタブル耐火ブロックは次の方法で得たものである。まずAlが3%、SiOが4%、SiCが86%の化学成分比率(重量%)で含む炭化珪素質キャスタブルを調整した。この炭化珪素質キャスタブルを用い500mm×500mm×300mmのキャスタブル耐火ブロックを成形し、その後110℃で24時間乾燥してキャスタブル耐火ブロックとした。このキャスタブル耐火ブロックを大気中1400℃以上の高温で数時間加熱し、表面に0.5mm以上(約1mm)の焼成被膜層2を形成し、本実施形態の焼成キャスタブル耐火ブロックとしたものである。
【0014】
この焼成キャスタブル耐火ブロックを切断し、焼成被膜層2を含むブロック本体1の一部断面の珪素及び酸素の元素分布を調べた。珪素分布図を図2に、酸素分布図を図3に示す。なを、図2及び図3共に、焼成被膜層2の表面境界及びブロック本体1との境界には太い黒線を入れた。従って、図2及び図3において左右に延びる2本の黒線の間が焼成被膜層2を、下の黒線の下方部分がブロック本体1の部分に該当する。図3より、酸素が存在する部分は黒くなり、焼成被膜層2の部分がブロック本体1の部分より黒く、酸素が多いことがわかる。さらに、図2の焼成被膜層2の黒い部分は珪素が多いことを示しているから、焼成被膜層の黒い部分は酸化珪素であることがわかる。また、図2の白い部分は空隙と解される。
【0015】
この焼成キャスタブル耐火ブロックは、気孔率が10.1%、かさ比重が2.63%であった。また、焼成キャスタブル耐火ブロックの圧縮強さ(強度)は81MPa、曲げ強さは39MPaであった。溶損試験は、高炉スラグ(塩基度C/S=1.0)にミルスケール10%を添加したものを用い、誘導炉DIP法で、試験温度1500〜1550℃、溶損時間6時間で行った。溶損試験において、スラグライン(SL)部の溶損深さは1.7mmであった。耐スポール性試験は誘導炉DIPで、試験温度1450〜1550℃、1サイクルの浸漬時間は15分、空冷時間は15分で行った。耐スポール性試験において、破断による脱落までのサイクル数は7回であった。
【0016】
比較のために焼成被膜層を形成していないキャスタブル耐火ブロックについて同様の試験を行った。焼成被膜層を形成していないキャスタブル耐火ブロックの気孔率は14.8%、かさ比重は2.42%であった。また、焼成被膜層を形成していないキャスタブル耐火ブロックの圧縮強さは12MPa、曲げ強さは3MPaであった。溶損試験において、SL部の溶損深さは5.1mmであった。耐スポール性試験において、破断による脱落までのサイクル数は7回であった。
本発明の炭化珪素質耐火ブロック特に焼成キャスタブル耐火ブロックは、圧縮強さが81MPa、曲げ強さが39MPであり、通常のキャスタブル耐火ブロックの圧縮強さが12MPa、曲げ強さが3MPaであることと比較して、極めて高くなっている。耐溶損性については、溶損深さが5.1mmから1.7mmと大きく減少している。また、耐スポール性は維持できている。
【0017】
このように本発明の炭化珪素質耐火ブロックは表面部分の層により耐火ブロックとしての耐食性が増す。
【符号の説明】
【0018】
1 ブロック本体
2 焼成被膜層
図1
図2
図3