【実施例】
【0099】
[00144]
実施例
[00145] 本発明を以下の「実施例」においてさらに明確にするが、ここでは、特に明
記しない限り、すべての割合及び百分率は重量によるものであり、度数は摂氏である。これらの実施例は、本発明の好ましい態様を示すが、例示のためにのみ示されると理解されたい。上記の考察とこれらの実施例より、当業者は、本発明の本質的な特徴を把握し得て、その精神及び範囲より逸脱することなく、それを様々な使用法及び条件へ適用するために、本発明の様々な変更及び改変を行うことができる。本明細書において参照される、特許及び非特許文献を含むすべての刊行物は、参照により明示的にに組み込まれる。以下の実施例は、特に断らなければ、本発明のある好ましい態様について例解することを企図するのであって、特許請求の範囲において確定されるような本発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。
【0100】
[00146]
実施例1
[00147]
ヒドロゲルベースの制御放出フェンレチニド粘膜付着システムの製造:
[00148]
付着層の製造
[00149] ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC 4KM)及びポリカーボ
フィル(PC)の重量比3:1の混和に基づいて、付着層をキャスト法によって製造した
。簡潔に言えば、必要量(ポリマー質量に基づいて、20重量%)のプロピレングリコールを含有するddH
2O中の1.5%ポリマー溶液を、このポリマー/水混合物を一晩撹拌することによって調製した。次いで、約50mLのポリマー溶液をガラスペトリ皿(150x20mm)の上へ注ぎ込んで、50℃で48時間インキュベートした。次いで、このポリマーフィルムを必要なサイズに切断して、さらなる使用まで、乾燥器において室温で保存した。
【0101】
[00150]
薬物放出(フェンレチニド)層/フィルムの製造
[00151] フェンレチニドフィルムの製造は、光からの防護下で実施した。所望量の可
溶化剤(Tween(登録商標)80及びデオキシコール酸ナトリウム)、浸透促進剤(1、2.5、5、及び10重量%)、及び粘膜付着材料、Eudragit(登録商標)RL POを15mLポリプロピレン管中に秤量して、これへ8mLの50:50(v/v)アセトン−エタノール混合物を加えた。加える可塑剤又は可溶化剤の量は、ポリマーの質量に基づいて計算した。生じる混合物を、すべての成分が溶解するまで、激しく撹拌した。次いで上記に製造したポリマー−可溶化剤又はポリマー−可溶化剤−浸透促進剤(複数可)溶液へ必要量(ポリマー+賦形剤の総量に基づいて、5重量%)のフェンレチニドを加え、再び激しく撹拌して、その容量を同じ溶媒混合物で10mLへ調整した。5ミリリットルのフェンレチニド−ポリマー溶液をTeflon(Scientific Commodities
社、アリゾナ州レイクハバスシティ、アメリカ)を上乗せしたガラスペトリ皿(60x15mm)の上へ加えて、38℃で48時間インキュベートした。十分な乾燥の後で、フェンレチニド負荷されたポリマーフィルムを必要なサイズ(直径7mm)へ切断し、アルミホイルに包んで、さらなる使用まで、乾燥器において−20℃で保存した。
【0102】
[00152]
フェンレチニドの口腔粘膜付着パッチの構築
[00153] 先のフィルムを11mmと7mmのコルクボーラーでそれぞれ切断すること
によって、11mm(外径)及び7mm(内径)の寸法の環状の付着層を成形した。次いで、この付着層をTegaderm
TMフィルム(支持層)の付着側の上へ置いて、続いて、先に切断した7mmのフェンレチニド/Eudragit(登録商標)層を付着層の開面領域へ挿入して、フェンレチニドの口腔粘膜付着パッチを得た。
図1Dは、5重量%メントール(写真A)、10%メントール(写真B)、及び1重量% PG+5重量%メントール(写真C)を負荷したフェンレチニド/Eudragit(登録商標)(薬物放出)層の外観を示す。
【0103】
[00154]
フェンレチニド/Eudragit(登録商標)RL POフィルムの形態
に対する、メントールの同時組み込みの効果
[00155] メントールを含まないフェンレチニド/Eudragit(登録商標)RL
PO(薬物放出)フィルムは、良好なフィルム形成と外観を示した。5%又は10%メントールを負荷したフェンレチニド/Eudragit(登録商標)RL POフィルムは、良好なフィルム形成も外観も示さなかった(
図1Dの写真A及び写真Bを参照のこと)。この相分離は、フィルム形成の間に、メントールの沈殿生成及び/又は凝集によって生じたようであった。
図1Dの写真Cに示すように、共溶媒としての1% PGの添加は、望ましいフィルム形成を促進した。
【0104】
[00156]
様々な可溶化剤での、フェンレチニドの模擬唾液中の可溶化
[00157] 数多くの可溶化剤(胆汁酸塩、界面活性剤、親水性ポリマー、及び共溶媒)
による、フェンレチニドの溶解促進の程度について、0.5、1、2、及び5%(w/v)可溶化剤の存在下で模擬唾液中の溶解度を決定することによって調べた。簡潔に言えば、可溶化剤の0.5、1、2、及び5%(w/v)溶液(N
2パージ模擬唾液を使用して調製)の1mLを含有する別々の琥珀色アンプルの中へ過剰量のフェンレチニドを加えて、ヘッドスペースより酸素を除去するために、真空下で密封した。次いで、このアンプル
を37℃に維持したインキュベーターに入れて、240RPMで72時間(この時間は、平衡に達するのに十分であるように決定された)振盪した。72時間後、このアンプルを割って、混合物を0.45μm PVDFフィルターユニット(ミリポア、アメリカ)に通過させ、それぞれの可溶化剤溶液で適切に希釈して、模擬唾液に可溶化したフェンレチニドの量をHPLCによって決定した。
【0105】
[00158]
実施例1の結果
[00159]
図2A〜2Cは、模擬唾液(緩衝液、pH6.8)中でのフェンレチニドの
可溶化を明示するグラフを示す。フェンレチニドの模擬唾液中の溶解性に対する胆汁酸塩/レシチン(
図2A)、界面活性剤(
図2B)、及び親水性ポリマー(
図2C)の添加の効果。0.5、1、2、及び5%(w/v)の可溶化剤の存在下、37℃での、フェンレチニドの模擬唾液中の溶解度。数値は、平均±SE(n=3)を表す。
【0106】
[00160] 下記の表1は、評価した、ヒドロゲルベースの制御放出フェンレチニド粘膜
付着システムの製剤の例を示す。
【0107】
【表1】
【0108】
[00161] Eudragit(登録商標)RS PO/RL POフィルムのフェンレ
チニド負荷効率について、下記の表2に示す。
【0109】
【表2】
【0110】
[00162]
in vitro 薬物放出の間にシンク条件を維持するのに適した放出媒体の同定
[00163] 本薬物は、模擬唾液(pH6.8)に溶けない。故に、in vitro 薬物放出試験の間に模擬唾液中でシンク条件を維持することは可能でない。シンク条件を維持するために、模擬唾液中へ2.5及び5%(w/v)のデオキシコール酸ナトリウムを加えた。ある態様において、シンク条件を維持するために使用する可溶化剤は不活性であり、フィルムの薬物放出特性を変化させない。現象を理解するために、2.5及び5%(w/v)デオキシコール酸ナトリウムを含有する模擬唾液中のEudragit(登録商標)フィルムからのフェンレチニドの in vitro 放出試験を実施した。
【0111】
[00164]
図3は、Eudragit(登録商標)RS−POフィルムからのフェンレ
チニドの累積放出に対する、デオキシコール酸ナトリウムの模擬唾液(pH6.8)中の添加の効果を例示する。薬物負荷は、5重量%であった。異なる画分のデオキシコール酸ナトリウムの添加は、ポリマーフィルムの薬物放出特性を変化させず、この可溶化剤が不活性であって、模擬唾液中でのシンク条件を維持するために使用し得ることを示唆した。5%(w/v)デオキシコール酸ナトリウムを含有する模擬唾液において、さらなる放出試験を実施した。
【0112】
[00165]
Eudragit(登録商標)フィルムからのフェンレチニドの in vitro
放出に対するポリマーマトリックス浸透性の効果
[00166]
図4は、Eudragit(登録商標)フィルムからのフェンレチニドの累
積放出に対するポリマーマトリックス浸透性の効果を例示する。薬物負荷は、5重量%であった。5%(w/v)デオキシコール酸ナトリウムを含有する模擬唾液(緩衝液、pH6.8)において37℃で放出試験を実施した。数値は、平均±SE(n=3)を表す。
【0113】
[00167]
Eudragit(登録商標)フィルムからのフェンレチニドの in vitro
放出に対する可溶化剤の同時カプセル化の効果
[00168]
図5は、Eudragit(登録商標)RL POフィルムからのフェンレ
チニドの累積放出に対する可溶化剤の同時カプセル化の効果を例示する。薬物負荷は、5重量%であった。5%(w/v)デオキシコール酸ナトリウムを含有する模擬唾液(緩衝液、pH6.8)中で37℃で放出試験を実施した。数値は、平均±SE(n=3)を表
す。
【0114】
[00169]
図6は、Eudragit(登録商標)RL POフィルムからのフェンレ
チニドの累積放出に対する混合可溶化剤の同時カプセル化の効果を例示する。薬物負荷は、5重量%であった。5%(w/v)デオキシコール酸ナトリウムを含有する模擬唾液(緩衝液、pH6.8)において37℃で放出試験を実施した。数値は、平均±SE(n=3)を表す。
【0115】
[00170] 可溶化剤フリーのEudragit(登録商標)RL PO/RS POフ
ィルムからのフェンレチニドの放出は、きわめて遅かった(8時間後に13〜15%放出)。フェンレチニド/Eudragit(登録商標)RL POフィルムにおける単一可溶化剤(20重量%のTween(登録商標)20及び80とデオキシコール酸ナトリウムを負荷したフィルムからは、1時間後と8時間後に、それぞれ17〜22%と50〜58%の放出)又は混合可溶化剤(20重量%のTween(登録商標)80+40重量%のデオキシコール酸ナトリウムを負荷したフィルムからは、1時間後と8時間後に、それぞれ24%と75%の放出)の同時カプセル化は、8時間にわたる薬物放出の有意な改善をもたらした。
【0116】
[00171]
実施例2
[00172]
材料
[00173] デオキシコール酸ナトリウム(シグマ・アルドリッチ社、ミズーリ州セント
ルイス)、Tween(登録商標)80(シグマ・アルドリッチ社、ミズーリ州セントルイス)、Eudragit(登録商標)RL−PO(Rohm GmbH, Pharma Polymers, ダームシュタット、ドイツ)、プロピレングリコール(MP Biomedicals, LLC, オハイオ州ソ
ロン)。フェンレチニド(MK−4016)は、メルク社より提供された。
【0117】
[00174] ブタ頬側組織は、地元の畜殺場より入手して、屠殺の2時間以内に使用した
。運搬の間は、組織を氷上に保った。上皮は、その下の結合組織より外科的手技で分離させた。
【0118】
[00175]
実施例2の方法
[00176]
口腔パッチの製造
[00177] 様々な種類の粘膜付着層をキャスト法によって製造した。簡潔に言えば、様
々な粘膜付着ポリマーの約50mLポリマー溶液(1.5%(w/v))を、水中で一晩撹拌することによってそれぞれ調製して、ガラスペトリ皿の中へ注いだ。このペトリ皿を50℃で24時間インキュベートすることによって、水分を蒸発させた。次いで、このフィルムを取り出して、さらなる使用まで、乾燥器に保存した。
【0119】
[00178] 薬物層も、Eudragit(登録商標)RL−POポリマーを使用して、
キャスト法によって製造した。簡潔に言えば、12%(w/w)Tween(登録商標)80、33%(w/w)デオキシコール酸ナトリウム、5%(w/w)フェンレチニド、50%(w/w)Eudragit(登録商標)RL−PO、及び5%(w/w)又は10%(w/w)浸透促進剤を10mlのアセトン:エタノール(50:50)に溶解させた。いずれの重量対重量比も、ポリマー、賦形剤、及び薬物の総量に基づいた。
【0120】
[00179] この溶液をテフロン(登録商標)(Teflon)コートしたペトリ皿の上へ注い
だ。次いで、このペトリ皿を37℃で24時間インキュベートした。このフィルムを取り出して、さらなる使用まで、乾燥器において−20℃で保存した。
【0121】
[00180]
ウシ血清中のフェンレチニド溶解度の決定
[00181] ポリプロピレン管中の胎仔ウシ血清へ過剰量のフェンレチニドを加えた。こ
の試料をメカニカルサーキュレーター上に置いて、遮光しながら37℃でインキュベートした。24時間ごとに(フェンレチニドが血清中で飽和に達するまで)、試料を8000rpmで10分間遠心分離した。この上清より0.2ml試料を抜き取った。この容量は、ブランク血清を使用して、即座に置き換えた。この管を振盪して上清と沈殿物を混合してから、メカニカルサーキュレーター上に再び置いて、37℃でインキュベートした。上清中のフェンレチニド濃度は、アセトニトリルを使用する抽出の後で、HPLCアッセイによって測定した。
【0122】
[00182]
in vitro 浸透
[00183] サイドバイサイドのフランツ型(Franz)拡散セル装置を使用して、in vitro
浸透試験について検討した。ドナーコンパートメントとレセプターコンパートメントの
両方のオリフィス径は、1cm(0.785cm
2)であった。この拡散セルのドナーコンパートメントとレシーバーコンパートメントの間にブタ周口膜を載せた。支持層がドナーチャンバに対面して、付着フィルムがその膜に対面するようなやり方で、フェンレチニドパッチを周口膜の表面側に置いた。レセプターコンパートメントは、HPLCフィルターを通す真空濾過によって使用前に脱気した、0.084% Tween80(v/v)を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS,pH=7.4)を保持した。ドナーコンパートメントは、唾液緩衝液を保持した。自動温度制御浴より水を再循環させることによって、コンパートメント温度を37℃で一定に維持した。600rpmで回転する撹拌子によって、連続撹拌を提供した。レセプターコンパートメントより、決められた時間間隔(1、2、3、4、5、6、7、8、及び12時間)で1ml試料を採取した。この容量は、予め温めたブランクPBS緩衝液を使用して即座に置き換えた。次いで、この試料をHPLCによって分析した。
【0123】
[00184]
フェンレチニドHPLCアッセイ
[00185] 2996 フォトダイオードアレイ検出器と Empower 2 ソフトウェアを備えたパ
ーソナルコンピュータからなる Waters 2695 アライアンスシステム(マサチューセッツ
州ミルフォード、アメリカ)でHPLCアッセイを実施した。シンメトリーC18カラム(4μm,150mmx4.6mm)を使用した。アセトニトリル:0.1%(v/v)リン酸(67:33(v/v))での定組成(isocratic)溶出を1.0ml/分の流速
で利用して、検出波長は365nmに設定した。注入量は50μlであった。すべての試料を室温で分析した。フェンレチニドの標準曲線をアセトニトリル:エタノール(50:50)において確定して、この標準曲線より未知試料の濃度を計算した。
【0124】
[00186]
実施例2の結果
[00187]
フェンレチニドのウシ血清中の溶解度
[00188] 6日間のインキュベーション後のフェンレチニドの血清中の溶解度は、20
.945±1.022μg/mlであった。フェンレチニドの本来の水溶解度は、きわめて低い(0.0098μg/ml)(実質的に水に溶けない)ので、血清中で達成されたフェンレチニド濃度は、アルブミン、リポタンパク質、及び血清レチノール結合タンパク質(RBP)のような血清タンパク質に結合したフェンレチニドである可能性がある。RBPは、糖タンパク質であって、レチノールを血漿中で輸送する、十分に特性決定されたタンパク質である。それは、1分子のレチノールへ結合する、21kDの単一ポリペプチド鎖からなる。それは、肝臓において全トランスレチノール(ATRol)と複合体を形成して、ATRolの血中輸送に関与する。フェンレチニドもRBPと相互作用して強い複合体を形成するが、その親和性は、レチノールのそれより低い。
【0125】
[00189] 本発明者は、本明細書において、Tween(登録商標)80の添加がフェ
ンレチニドの溶解度を向上させ得ることを示した。故に、身体内の生理学的条件を模倣す
るために、フェンレチニドの血清中の溶解度が0.084% Tween80(v/v)溶液中のそれに等しいので、PBS緩衝液(pH7.4)を含有するレシーバー中0.084% Tween80(v/v)の存在下で in vitro 浸透試験を実施した。
【0126】
[00190]
ブタ頬側組織を通したフェンレチニドの浸透
[00191] 時間に対してプロットした、フェンレチニドの浸透プロファイル、即ち、ブ
タ頬側粘膜を通して浸透したフェンレチニドの累積百分率と累積量を、それぞれ
図8と
図9に示す。
図8〜9は、本明細書に記載される共溶媒系がフェンレチニドの口腔粘膜浸透を促進することを示す。特に、ヒドロゲルベースのフェンレチニド制御放出システムでは、プロピレングリコール(共溶媒)の同時組み込みによる、フェンレチニドの口腔粘膜浸透の促進がある。
【0127】
[00192] 表3に、定常状態流束(J
s)、レシーバー及び組織中のフェンレチニドの
累積量及び累積百分率、並びにPGを組み込んだパッチからの促進率を示す。
【0128】
【表3】
【0129】
[00193] 表3の結果は、5% PGと10% PGを含有するパッチがともにフェン
レチニドの頬側粘膜浸透及び保持を高めたことを実証する。この促進は、より多くのPG(10%)がパッチに組み込まれたときに、より大きな程度であった。プロピレングリコールは、頬側組織に入り、脂質二重層の極性頭部の溶媒和部位について競合して、この部位での浸透物(permeant)の溶解性を高める。結果として、パッチから頬側組織への薬物の分配が増加する。
【0130】
[00194] 10% PGを含有するパッチの中へ5%メントールが組み込まれたとき、
頬側組織からさらにより多くの薬物(促進剤を含まないパッチと比較して、3.9倍)が回収された。テルペン類は、プロプラノロールが含まれる親水性薬物とテストステロンのような脂溶性薬物をともに促進することができる。この浸透促進は、プロピレングリコールとメントールの相乗効果より生じる。メントールは、細胞間パッキングを変化させ、脂質の高秩序化構造を破壊することにより膜中の薬物拡散性を高めることによって、薬物の
浸透を向上させる。
【0131】
[00195] プロピレングリコールは、フェンレチニドの頬側粘膜浸透及び保持の促進に
効果がある。プロピレングリコールと他の促進剤の組合せは、相乗効果を提供して、促進剤の活性を有意に高める。そういうものとして、ある態様において、本明細書中、PGと他の浸透促進剤(例、L−メントール、オレイン酸)を含有する頬側パッチとその方法も提供する。
【0132】
[00196]
実施例3
[00197]
化学品、組織、及び動物
[00198] フェンレチニドは、メルク社(ニュージャージー州ホワイトハウスステーシ
ョン)からの無料サンプルとして受け取った。デオキシコール酸ナトリウム、Tween(登録商標)80、及びL−メントールは、シグマ・アルドリッチ社(ミズーリ州セントルイス)より購入した。Noveon(登録商標)AA−1ポリカーボフィル(PC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)4KM、及びEudragit(登録商標)RL−POは、それぞれ、Lubrizol 社(オハイオ州ウィックリフ)、Colorcon(
登録商標)社(ペンシルヴェニア州ウェストポイント)、及び Evonik Degussa 社(ニュージャージー州ピスカタウェイ)からのいずれも無料品であった。プロピレングリコールは、MP Biomedicals, LLC(オハイオ州ソロン)より購入した。Teflon(登録商標
)オーバーレイは、Scientific Commodities 社(アリゾナ州レイクハバスシティ)より
購入した。Tegaderm
TMロールは、3M Health Care(ミネソタ州セントポール)より購入した。ブタ頬側組織は、畜殺場(Dunbar Meat Packing Company, ミシガン州ミ
ラン、アメリカ)より入手した。ウサギは、Harlan Laboratories(インディアナ州イン
ディアナポリス、アメリカ)より購入した。
【0133】
[00199]
フェンレチニドの頬側浸透促進用の口腔粘膜付着パッチの製造
[00200] 本明細書に記載のような溶媒キャスト技術と構築技術によって、フェンレチ
ニド/Eudragit(登録商標)RL−PO/可溶化剤パッチであって浸透促進剤(PG及びメントール)を含むもの及び含まないものを製造した。フェンレチニドパッチの製造には3つの工程が関与した:付着層(ヒドロキシプロピルメチルセルロースとポリカーボフィル、3:1の重量比)の成形、薬物放出層(5重量%フェンレチニド/Eudragit(登録商標)RL−PO/40重量%デオキシコール酸ナトリウム/20重量%Tween(登録商標)80)の成形、並びに、付着層及び薬物放出層の支持層(Tegaderm
TMフィルム)上への構築(
図1A〜1Cを参照のこと)。薬物放出(フェンレチニド)層は、上記に示した製剤に加えて、浸透促進剤(複数可)を含んだ。PG単独(5及び10重量%)又はメントール単独(5及び10重量%)、又はその組合せ(1重量% PG+5重量%メントール、2.5重量% PG+5重量%メントール、及び10重量% PG+5重量%メントール)を負荷した、Eudragit(登録商標)RL−PO/5重量%フェンレチニド/40重量%デオキシコール酸ナトリウム/20重量% Tween(登録商標)80層を製造した。
【0134】
[00201]
フェンレチニドHPLCアッセイ
[00202] 2996 フォトダイオードアレイ検出器と Empower 2 ソフトウェアを備えたパ
ーソナルコンピュータからなる Waters 2695 アライアンスシステム(マサチューセッツ
州ミルフォード、アメリカ)でHPLCアッセイを実施した。シンメトリーC18カラム(4μm,150mmx4.6mm)を使用した。アセトニトリル:0.1%(v/v)リン酸(67:33(v/v))での定組成(isocratic)溶出を1.0mL/分の流速
で利用して、検出波長は365nmに設定した。フェンレチニドの標準曲線をアセトニトリル:エタノール(50:50)において確定して、この標準曲線より未知試料の濃度を計算した。
【0135】
[00203]
フェンレチニドのウシ血清中の溶解度の決定
[00204] 15mLウシ胎仔血清を含有するポリプロピレン管へ既知量(0.9、2.
26、3.97、8.03、及び20.5mg)のフェンレチニドを加えた。この試料をリグ付き(rigged)回転翼を使用する一定回転と光からの防護の下に37℃でインキュベートした。7日目まで24時間ごとに、この試料を8000rpmで10分間遠心して、200μlの上清を抜き取った。抜き取った血清試料を新鮮な血清試料に置き換え、適切に混合して、類似の条件下で再びインキュベートした。抜き取った試料(200μl)へ2mLのアセトニトリルを加え、光から防護しながらメカニカルシェーカー上で一晩撹拌し、0.45μm PVDFフィルターユニットに通過させて、HPLCによって分析した。
【0136】
[00205]
フェンレチニド負荷の決定
[00206] フェンレチニド/Eudragit(登録商標)フィルムをアセトニトリル
:エタノール(50:50)に温浸させ、0.45μm PVDFフィルターユニットに通して、適切な希釈の後でHPLCによって分析した。フェンレチニド負荷は、フィルム混合物(即ち、フェンレチニド、Eudragit(登録商標)、及び他の賦形剤)の総重量に対するフェンレチニドの量の百分率として計算した。
【0137】
[00207]
フェンレチニドの口腔粘膜付着パッチからの in vitro 放出の評価
[00208] 模擬唾液は、14.4mM塩化ナトリウム、16.1mM塩化カリウム、1
.3mM塩化カルシウム二水和物、0.55mM塩化マグネシウム六水和物、及び2mM二塩基性リン酸カリウムからなり、pHを6.8へ調整した。5%(w/v)デオキシコール酸ナトリウムを含有する模擬唾液において完全なシンク条件の下で in vitro 放出試験を実施した。粘膜付着パッチを50mL管(それぞれのサンプリング間隔用に別々の管)に入れて、それぞれの管へ40mLの放出媒体を加えた。この管を37℃に維持したインキュベーターに入れて、100RPMで振盪した。所定の時間間隔(0.5、3、及び6時間)で管を取り出して、パッチを即座に凍結乾燥させた。負荷アッセイにおいて記載した方法に従って、パッチに残存するフェンレチニドの量を決定した。最初の薬物含量よりパッチに残存する画分を差し引くことによって、放出されたフェンレチニドの累積量を計算した。
【0138】
[00209]
ブタ頬側粘膜を通過するフェンレチニドのex vivo浸透
[00210] サイドバイサイドのフロースルー拡散セル(ドナー及びレシーバーのチャン
バ容量=3mL)を使用して、ブタ頬側粘膜を通過するフェンレチニドのex vivo浸透を
実施した。拡散界面は、直径1cmの球形状であった。ブタ頬側組織は、地元の畜殺場より入手して、屠殺の2時間以内に使用した。この組織は、取り出してすぐに、クレブス(Krebs)緩衝液中に4℃で保存した。上皮は、その下の結合組織より解剖用メスで分離さ
せて、ドナーチャンバとレシーバーチャンバの間に載せた。次いで、このドナーチャンバ中の頬側粘膜へフェンレチニドパッチを付着させた(付着層が粘膜に対面して、支持層が緩衝液へ曝露される)。ドナーチャンバとレシーバーチャンバを0.084% Tween(登録商標)80(v/v)と模擬唾液(pH6.8)をそれぞれ含有する3mLの脱気リン酸緩衝生理食塩水(PBS,pH=7.4)で満たした。いずれのチャンバも、自動温度制御された水浴より水を循環させることによって37℃に維持した。レシーバーチャンバの媒体は、600rpmで撹拌した。特定の継続時間(1、2、3、4、5、6、7、8、及び12時間)の後で、レシーバーチャンバより1mL試料を抜き取って、新鮮な媒体に即座に置き換えた。フェンレチニドをHPLCによって定量した。浸透試験の最後に、ドナーチャンバへフェノールレッドを300μg/mlの濃度で加えて、頬側粘膜の完全性をチェックした。フェノールレッドは、インタクトなブタ周口膜では浸透しない、マーカー化合物として作用する。ex vivo浸透試験の完了後すぐにブタ頬側組織を取り
出して、組織中のフェンレチニドレベルを下記に記載のように決定した。
【0139】
[00211]
頬側組織中のフェンレチニドレベルの決定
[00212] 処置済みのブタ頬側組織を小片へ切断して、4mLポリプロピレン管に入れ
た。この管へ1ミリリットルの水を加えて、1分間ホモジェナイズした。次いで、この管へ2mLのアセトニトリルを加えて、1時間激しく撹拌した。1時間後、管を2600g、25℃で20分間遠心して、上清をHPLCによって分析して、フェンレチニド含量を決定した。
【0140】
[00213]
ヘマトキシリン及びエオシン染色
[00214] それぞれの組織の一部を緩衝化10%ホルマリン中で固定して、パラフィン
ワックスに包埋した。次いで、5μm切片を顕微鏡スライド上に置き、キシレンを使用して脱パラフィン化して、80%〜100%までの勾配のエタノール溶液と蒸留水を使用して再水和させた。この組織スライスを0.7%(w/w)ヘマトキシリン溶液に入れ、酸性エタノール(95%エタノール中0.1N HCl)で2回濯いで、過剰な染色液を除いた。引き続き、この組織スライスを0.1%(w/w)エオシン溶液に入れて、80%〜100%までの勾配のエタノールの溶液と、次いでキシレンを使用して脱水させた。
【0141】
[00215]
光学顕微鏡検査法での分析
[00216] Olympus BX51 顕微鏡(オリンパス、東京、日本)を40倍の倍率で使用して、光学顕微鏡検査法を実施した。切片の画像は、付属カメラ(オリンパス、DP70 デジタ
ルカメラ、東京、日本)とソフトウェア(オリンパス DP コントローラー、東京、日本)を使用して撮った。
【0142】
[00217]
in vivo フェンレチニド放出及び浸透の評価
[00218] 動物試験は、オハイオ州立大学研究所の動物実験委員会によって承認されて
、米国立衛生研究所のガイドラインを遵守した。雌性ニュージーランド白色種ウサギ(12週齢、2.7〜3.1kgの範囲の体重)を、パッチの配置及び除去のために、イソフルラン(酸素中5%(v/v))で吸入により麻酔した。各時点で6個のフェンレチニド口腔粘膜付着パッチ(薬物層+付着層を粘膜に対面させた)を被検ウサギの口腔の頬側粘膜上に置いた。ウサギ頬側粘膜との粘膜付着を確立するために、軽度の圧力をパッチの支持層へ1分間かけた。異なる付着時間(0.5、3、及び6時間)の後で、パッチを慎重に取り出して、パッチに残存するフェンレチニドをHPLCによって決定した。最初の薬物含量よりパッチに残存する画分を差し引くことによって、放出されたフェンレチニドの累積量を決定した。組織中の薬物レベルを決定するために、フェンレチニドの抽出及び定量を頬側組織切片中のフェンレチニドレベルの決定において記載したように実施した。
【0143】
[00219]
統計解析
[00220] 結果は、平均±SE(n=3/4(in vitro)又は5(ex vivo)又は6(in
vivo))として表す。対応のないスチューデントのt検定と片側ANOVAを使用して
、in vitro 及び in vivo 薬物放出、フェンレチニドのex vivoブタ頬側粘膜浸透レベル
及び組織レベル、フェンレチニドの in vivo 組織レベルの平均を比較して、統計学的有
意差を評価した。p<0.001であれば、結果を統計学的に有意とみなした。
【0144】
[00221]
実施例3の考察
[00222]
薬物浸透性が促進された粘膜付着フェンレチニドパッチ
[00223] 本明細書に記載されるように、フェンレチニドの粘膜付着パッチ製剤を、口
腔癌の部位特異的な化学予防について試験した。可溶化剤フリーのパッチは、乏しい in vitro 及び in vivo 薬物放出挙動を示した。フェンレチニド/Eudragit(登録
商標)パッチにおける単一可溶化剤又は混合可溶化剤(例、Tween(登録商標)20
及び80、デオキシコール酸ナトリウム)のいずれかの同時組み込みは、連続的なin vitro 及び in vivo フェンレチニド放出の有意な改善をもたらした。これまで、口腔癌の化学予防におけるフェンレチニドの使用は、いくつかの重要な制限事項(例、低い溶解度、生体膜浸透性及びバイオアベイラビリティ、並びに、薬物の身体からの速やかな消失)によって妨げられてきた。主としてそのきわめて高い疎水性(logP=8.03)と低い水溶解度(検出限界未満)によって、望まれない効果がもたらされている。
【0145】
[00224] 表4に見られるように、溶媒キャスト法によって、90〜95%の薬物負荷
効率で、フェンレチニド負荷Eudragit(登録商標)RL PO層であって浸透促進剤を含むもの及び含まないものを製造した。
【0146】
【表4】
【0147】
[00225] フェンレチニド層及び付着層、並びにTegaderm
TM付着フィルムの
厚さは、それぞれ約0.28、0.28、及び0.05mmであると測定された。薬物層と付着層を支持層の上へ構築した後で、パッチ全体の厚さは、約0.33mmであると測定された。
【0148】
[00226]
フェンレチニドのex vivoシンク条件を維持するのに最適な界面活性剤の量の決定:フェンレチニドのウシ血清中の溶解性
[00227] シンク条件は、疎水性薬物の in vitro 放出又はex vivo生体膜浸透性を支配する重要な特徴の1つである。パッチ(ドナーコンパートメント)からレシーバー媒体(レシーバーコンパートメント)へのex vivo薬物輸送のプロセスには、パッチから頬側表
面への薬物の放出、頬側組織中への薬物の浸透、及びこの組織からレシーバーチャンバ媒体中への薬物の(必要であれば、溶解後の)放出が関与する。
【0149】
[00228] 本明細書に記載のパッチは、きわめて疎水性のフェンレチニドに有用であっ
て、連続的なin vitro 及び in vivoフェンレチニド放出を促進するのに有効な量の1以
上の可溶化剤と、頬側粘膜を通過するフェンレチニドの浸透性を改善する組織浸透促進剤を含む。放出/レシーバーチャンバ媒体において所望されるシンク条件を維持するために、適正量の好適な可溶化剤を組み込むことができる。この実施例において、非イオン性界面活性剤の放出媒体中の最適量は、薬物溶解度をウシ血清中のそれと適合させることによって選択した。
【0150】
[00229]
図10A〜10Bには、異なるフェンレチニド濃度(0.9、2.26、3
.97、8.03、及び20.5mg)及びインキュベーション時間(1〜7日)でのフェンレチニドのウシ血清中の溶解度を示す。フェンレチニドのウシ血清中の溶解度は、2
1±1μg/mLであることがわかった(
図10A)。ウシ血清は、数多くのタンパク質、即ち、アルブミン、リポタンパク質、及び血清レチノール結合タンパク質(RBP)を含む。ウシ血清中でのフェンレチニドの促進された溶解度は、タンパク質−薬物の結合又は複合体形成に起因する可能性がある。
【0151】
[00230] ウシ血清との平衡に達するのにフェンレチニドが要する時間は、ウシ血清に
加えたフェンレチニドの量によって影響された。例えば、フェンレチニドの量が0.9mgから8.03mgへ増加したとき、平衡に達するのに要する時間は、7日から4日へ低下した(
図10B)。フェンレチニドの量をさらに増やしても平衡に要する時間を低下させなかったので、15mLの血清との平衡状態に達するには、最低でも約8mgのフェンレチニドと4日のインキュベーション時間が必要であることが示唆された。次いで、「PBS中のフェンレチニド溶解度」対「界面活性剤の臨界ミセル濃度を超えたTween(登録商標)80濃度」の完全な直線関係より、試験媒体(レシーバーチャンバ媒体、即ち、PBS,pH7.4)中のフェンレチニドの同等の溶解度(ウシ血清中21μg/mL)に達するのに必要とされるTween(登録商標)80の濃度が0.084%であることを決定した。従って、ex vivo薬物浸透試験において生理学的な可溶化/シンク条件を
模倣するのに、PBS+0.084% Tween(登録商標)80を使用した。
【0152】
[00231]
フェンレチニド/Eudragit(登録商標)RL−POパッチ中のプロ
ピレングリコール及びメントールの同時組み込みによるフェンレチニドのex vivoブタ頬
側粘膜浸透の促進
[00232]
図11A〜11Cには、フェンレチニドのex vivoブタ頬側粘膜浸透に対する、フェンレチニド/Eudragit(登録商標)RL PO粘膜付着パッチ中の単一(5及び10重量%のPG又はメントール)浸透促進剤と混合(1重量% PG+5重量%メントール、2.5重量% PG+5重量%メントール、又は10重量% PG+5重量%メントール)浸透促進剤の同時組み込みの効果を示す。フェンレチニドのex vivo浸透
は、8時間にわたって着実に増加してから、その後プラトーに達した。定常状態での流束(Js)と促進率(EF=促進剤有りのJs/促進剤無しのJs)をともに計算した。
【0153】
[00233] 表5に、頬側粘膜を通過して浸透した薬物の画分と頬側組織に沈着した薬物
の画分、並びにJsとEFの値を示す。
【0154】
【表5】
【0155】
[00234] パッチ中の単一浸透促進剤(
図11A及び
図11B)又は混合浸透促進剤(
図11C)の同時組み込みは、ブタ頬側粘膜を通過するフェンレチニド浸透の速度及び程度において有意な促進(p<0.001)をもたらした(表5を参照のこと)。
【0156】
[00235] 例えば、浸透促進剤フリーのパッチの流束は、約10μg cm
−2h
−2)であることを見出した。10重量% PG又は10重量% PG+5重量%メントールの同時組み込みの後で、流束は、それぞれ約23(EF=2.3)と40(EF=4)μg
cm
−2h
−2へ増加した。対照的に、メントールパッチ製剤では、流束のごくわずか
な増加(Js=約13μg cm
−2h
−2が観測された。薬物の組織中のレベルは、流
束の数値に一致していた(表5を参照のこと)。浸透促進剤フリーのパッチでの12時間のex vivo浸透後の頬側組織中のフェンレチニド含量は、約44μg/gであることがわ
かった。PG又はPG+メントールの同時組み込みは、頬側組織からの有意に高い量のフェンレチニド回収(10重量% PG製剤と10重量% PG+5重量%メントール製剤で、それぞれ約171μgと241μgのフェンレチニド/g(組織))をもたらし、それによって、PG又はPG+メントールの存在下でフェンレチニドの組織局在化/浸透が増加することを示した。メントール単独によっては、中等度の促進効果が示された。
【0157】
[00236] プロピレングリコールは、脂質二重層の極性頭部の溶媒和部位について競合
して水素結合部位を占有することにより、この部位での浸透物の溶解性を高めることによって、その浸透促進効果を発揮する。PGは、脂質流動性を高めて、それが薬物浸透の亢進を促進させる可能性もある。PGの存在下でのフェンレチニドの浸透促進は、これらの機序の一方又は両方に起因する可能性がある。一方、メントールには、二重層中の細胞間脂質のコンホメーション秩序を破壊することによって薬物の拡散性及び/又は分配を変化させる能力がある。メントール単独では、フェンレチニドの有意な浸透促進を提供しなかった(p>0.001)。この結果は、溶媒蒸発の間のメントールの結晶化及び凝集による、フェンレチニド/Eudragit(登録商標)RL POマトリックス中のメントールの不均質な分布(
図1Dを参照のこと)に少なくとも一部は起因する可能性がある。
【0158】
[00237] PGをメントールと組み合わせたとき、この課題は克服されて(
図1Dを参
照のこと)、メントール単独に比べて、顕著なフェンレチニド浸透促進が観測された(
図11C及び表5を参照のこと)。混合浸透促進剤(PG+メントール)で観測された望ましいフェンレチニド浸透は、メントールとPGの間の相乗効果による可能性がある。
【0159】
[00238]
形態学及び組織学上の特性
[00239]
図12A〜12Hに頬側粘膜の切片の顕微鏡写真を示す。ヒト頬側粘膜に類
似したブタ頬側粘膜は、最外層の角化重層扁平上皮とその下に存在する基底膜、粘膜固有層、それに続く最内層としての頬筋含有粘膜下組織からなる。パッチの適用にかかわらず、すべての切片は、適正に成熟している重層扁平上皮を示した。散在する有糸分裂像は、基底層に限局されて、最も外側の顆粒層及び角質層は、表層でのパラケラチン産生によって反映されるような適正な最終分化を示した。接触性粘膜炎に起因し得る広汎な上皮の乱れ(例、基底細胞層の水症変性又は棘融解)に一致した変化の証拠は認めなかった。
【0160】
[00240] 対照(パッチ付着無し)試料では、基底上皮細胞が一緒に緊密に結合してい
る(
図12Aを参照のこと)。5重量%(
図12Bを参照のこと)及び10重量%(
図12Cを参照のこと)のPG負荷パッチの付着の後で、下位層において注目され得る形態学的変化(例、有棘細胞)や表層細胞層の有意な損失は明らかでなかった。しかしながら、PGの負荷が5重量%より高い場合の
図12B及び
図12Cでは、細胞間浮腫の増加と頬側上皮の腫脹が見られる。
【0161】
[00241] 5重量%メントール負荷パッチと10重量%メントール負荷パッチでの処置
後の頬側上皮の顕微鏡写真を
図12Dと
図12Eにそれぞれ示す。いずれの試料でも上皮層がインタクトであったことが見える。加えて、細胞の腫脹並びに有意な組織学的及び超微細構造上の変化の徴候はなかった。
【0162】
[00242] 1重量% PG+5重量%メントール(
図12Fを参照のこと)負荷パッチ
と2.5重量% PG+5重量%メントール(
図12Gを参照のこと)負荷パッチで処置した試料でも、同様の結果が観測された。対照的に、10重量% PG+5%メントール負荷パッチへ曝露された組織は、細胞内空間と細胞間浮腫の中等度の増加を示した(
図12Hを参照のこと)。メントールは上皮細胞のいかなる変化も引き起こさなかったので、パッチ中のより高い(10重量%)PG負荷が、細胞内空間と細胞間浮腫の増加をもたらした可能性がある。
【0163】
[00243] 5及び10重量% PG負荷パッチで処置した組織で観測された組織学的変
化(例、細胞内空間と細胞間浮腫の増加)(
図12B、
図12C、及び
図12Hを参照のこと)は、PGが被検者の角化細胞だけでなく細胞間の空間へも拡散することを示す。細胞中に浸透して蓄積すると、PGは、細胞間又は膜の脂質と相互作用して、それにより上皮を通るフェンレチニドの浸透性を高めた可能性がある。2.5重量% PG+5重量%メントール負荷パッチは、形態学及び組織学上の変化を伴わずに最適な薬物浸透促進を示したので、この製剤を選択して使用して、下記に記載のように、フェンレチニドの in vivo 放出、浸透、及び組織沈着の動態をさらに評価した。
【0164】
[00244]
浸透促進剤負荷フェンレチニド/Eudragit(登録商標)RL−PO
パッチの in vitro 及び in vivo 放出特性
[00245] 浸透促進剤フリーのフェンレチニド/Eudragit(登録商標)RL−
POパッチと2.5重量% PG+5重量%メントール負荷フェンレチニド/Eudragit(登録商標)RL−POパッチからの in vitro 及び in vivo フェンレチニド放
出を
図13に示す。いずれのパッチ製剤も、Eudragit(登録商標)ポリマーマトリックスからの連続的なin vitro 及び in vivo フェンレチニド放出を提供して、PGとメントールの添加は、放出動態に有意には影響を及ぼさず、さらなるフェンレチニドの可溶化及び/又はパッチの膨張挙動への変化があることを示した。この事例において、パッチの放出特性は、パッチ製剤において有効な可溶化の役割として役立つ、デオキシコール酸ナトリウムとTween(登録商標)80によって主に決定された。
【0165】
[00246] 浸透促進剤フリーのフェンレチニド/Eudragit(登録商標)RL−
POパッチと2.5重量% PG+5重量%メントール負荷フェンレチニド/Eudragit(登録商標)RL−POパッチの in vitro と in vivo のフェンレチニド放出特
性には、連続放出の傾向は同じであったが、有意差(p<0.001)があった(
図13を参照のこと)。この差は、試験条件の不同性(例えば、in vitro 薬物放出が模擬唾液
中であるのに対し、in vivo 薬物放出では、頬側粘膜を通過する浸透が続く)に関連する可能性がある。
【0166】
[00247]
フェンレチニド/Eudragit(登録商標)RL−POパッチ中のプロ
ピレングリコール及びメントールの同時組み込みによる、フェンレチニドの in vivo ウ
サギ頬側粘膜浸透及び沈着の促進
[00248] フェンレチニド/Eudragit(登録商標)RL−POパッチ中の浸透
促進剤(PG+メントール)の同時組み込みの、フェンレチニドの in vivo 頬側粘膜浸
透及び沈着に対する効果を
図14に示す。ウサギ頬側組織中のフェンレチニドのレベルは、両方のパッチ製剤(浸透促進剤フリーのパッチと浸透促進剤負荷パッチ)の付着時間の関数として着実に増加して(
図14を参照のこと)、それにより、ウサギ頬側粘膜を通過する連続的なin vivo フェンレチニド浸透を提供する、これらパッチ製剤の優れた効力を
示した。2.5重量% PG+5重量%メントール負荷パッチによって提供されるフェンレチニドの浸透及び組織沈着の程度(6時間の付着後、組織1gにつき43.0±7.7μgのフェンレチニド)は、浸透促進剤フリーのパッチのそれ(6時間の付着後、組織1gにつき17.3±0.3μgのフェンレチニド)より有意に高かった(
図14を参照のこと)。これらの結果は、フェンレチニドの改善された口腔粘膜浸透及び組織レベルを得るための、PG及びメントールの同時組み込みの優れた有効性を示している。ex vivo試
験と in vivo 試験で得られたフェンレチニドの浸透及び組織沈着の動態が異なるのは、
主要な試験条件における不同性(例、「ブタ」対「ウサギ」の頬側粘膜、「ex vivo」対
「in vivo」のシンク条件)に起因する可能性がある。
【0167】
[00249] これらのデータは、フェンレチニドの粘膜付着パッチでの局所送達によって
付与される療法上の利点(即ち、標的組織において薬理学的に活性なレベルを得ること)を実証する。1μMと10μMの間の in vitro フェンレチニド濃度は、望ましい化学予防効果(例えば、細胞の最終分化(<3μM)及びアポトーシス(>5μM))を誘導するのに有用である。本明細書に示すように、浸透促進剤負荷パッチよりウサギ頬側粘膜へ送達されるフェンレチニドのレベルは、7.75μg/g(0.5時間;19.8μM)〜42.36μg/g(6時間;108.2μM)の範囲であった。故に、ある態様では、標的口腔上皮において療法的に適切な濃度を提供するには、短い持続時間のパッチ適用(即ち、30分未満)が特に有用である。加えて、治療時間の減少により、このような適用は、患者コンプライアンスを促進する可能性がある。
【0168】
[00250] このように、フェンレチニドの促進された頬側粘膜浸透及び組織レベルを提
供する粘膜付着パッチによって、口腔内の部位特異的なフェンレチニド送達が促進された。フェンレチニド/Eudragit(登録商標)RL−POパッチには、好適な浸透促進剤(PG及びメントール)が同時に組み込まれた。溶媒キャスト技術と構築技術によって、所望される薬物送達(フェンレチニド+可溶化剤+浸透促進剤)層、付着層、及び支持層を含有する粘膜付着パッチを製造した。パッチにおけるPG又はPG+メントールの同時組み込みは、きわめて疎水性でほとんど組織に浸透しない化学予防剤であるフェンレチニドの有意なex vivo及び in vivo 頬側粘膜浸透と組織沈着をもたらした。1つの態様では、2.5重量% PG+5重量%メントールを同時組み込みした粘膜付着パッチが、観測される口腔粘膜の組織に有意に影響を及ぼすことなく、所望される口腔粘膜浸透促進を有することを見出した。
【0169】
[00251]
治療の方法
[00252] 本明細書に開示する製剤を使用する方法は、該製剤を口腔の粘膜表面へ局所
的に適用することに広く関わる。
【0170】
[00253] 1つの態様において、該方法は、通常、下記の工程を含む:本明細書に記載
される製剤を含んでなる経粘膜システムを提供すること;この経粘膜システムを被検者の粘膜へ適用すること;及び、この経粘膜システムを粘膜と療法上有効な期間接触させること;並びに、任意選択的に、所望される治療効果が達成されたときに、この経粘膜システムを除去すること。
【0171】
[00254] ある態様において、本パッチは、付着層に存在しないが製剤にのみ存在する
、浸透促進剤を含有する。
[00255] 別の態様において、該方法には、疾患の治療及び予防が含まれ、該方法は、
そのような治療の必要な被検者へ本明細書に記載される製剤を投与することを含んでなる。
【0172】
[00256] ある態様において、該製剤は、練り歯磨き剤、口腔洗浄剤又は洗口剤、ゲル
又はペースト剤、スプレー剤、チューインガム剤、及び/又は口内錠剤のような口腔用製品として提示され得る。
【0173】
[00257]
実施例3
[00258]
療法上の使用
[00259] 本明細書に記載される製剤は、口腔癌の発症を予防すること(一次化学予防
)又は再発を阻むこと(二次化学予防)に有用な臨床応用を有する。
【0174】
[00260] 別の療法上の使用には、頭頚部扁平上皮癌細胞(HNSCC)のような腫瘍
の増殖を阻害するための治療が含まれる。
[00261] 別の療法的治療には、頭頚部扁平上皮癌細胞である腫瘍細胞を含んでなる、
腫瘍の大きさを減少させることが含まれる。
【0175】
[00262] 別の療法的治療には、頭頚部扁平上皮癌(HNSCC)を予防することが含
まれる。
[00263] 別の臨床適用は、日射性口唇炎として知られる、下唇の光線誘発性の前癌病
変に対する該製剤の使用である。口腔内異形成病変ほどの臨床攻撃性は無いものの、口唇病変は外科的に処理する必要があって、口腔扁平上皮細胞癌へ進展する可能性がある。
【0176】
[00264] なお他の臨床適用には、治療部位として、口腔扁平上皮細胞癌(上記の光線
誘発性の口唇病変が含まれる)のすべての変異体を含めることができる。
[00265] 他の臨床適用には、ファンコニー貧血のような口腔上皮異形成の治療、改善
、又は反転が含まれる。
【0177】
[00266]
キット
[00267] 本明細書に記載される製剤と被検者へ投与するための方法における使用のた
めの説明書を含んでなるキットも本明細書中に提供される。
【0178】
[00268] 1つの態様において、該キットには、癌状態又は前癌状態の治療における使
用のための説明書が含まれる。ある態様において、該キットには、頭頚部基底細胞が前癌状態又は癌状態にある哺乳動物へ該組成物を投与するための説明書が含まれる。本明細書に記載される製剤は、キット形態で包装し得ると理解されたい。1つの側面において、本発明は、適切に包装された送達システムを含むキットを提供する。
【0179】
[00269] それぞれの製剤は、在庫保存に適している医薬的に許容される担体において
供給される。キットは、緩衝液、反応表面、又は送達粒子を精製する手段のような、本発明の方法及び製剤化手順に有用である追加の成分を提供してもよい。
【0180】
[00270] 加えて、該キットには、送達粒子の製造、製剤化、及び/又は使用といった
、本発明の方法の実施のための指示(即ち、プロトコール)を提供する、表示及び/又は教示又は解釈用の材料が含まれてよい。教示用の材料は、典型的には、書面又は印字の材料を含むが、それらはこれらの形式に限定されない。そのような教示内容を保存して、それらをエンドユーザーへ伝達することが可能な任意の媒体が本発明により考慮される。そのような媒体としては、限定されないが、電子保存媒体(例、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光学媒体(例、CD ROM)、等が挙げられる。そのような媒体には、そのような教示材料を提供するインターネットサイトへのアドレスを含めてよい。
【0181】
[00271] 1つの態様において、本明細書中、(a)本明細書に記載されるような生体
付着性の医薬製剤;及び(b)該製剤の送達用のパッチ又はフィルムのような送達システ
ムを含んでなる、被検者における疾患の可能性を低下させるための予防用キットが提供される。
【0182】
[00272] 別の態様において、本明細書中、(a)本明細書に記載されるような生体付
着性の医薬製剤;及び(b)該製剤の送達用のパッチ又はフィルムのような送達システムを含んでなる、被検者における疾患を治療するための療法用キットを提供する。
【0183】
[00273] 本発明について、様々な好ましい態様に言及して記載したが、当業者には、
本発明の本質的な範囲より逸脱することなく、様々な変更がなし得て、その諸要素に同等物が代用し得ることが理解されるはずである。加えて、特別な状況又は材料に適応するために、本発明の教示に対して、その本質的な範囲より逸脱することなく、多くの改変をなし得る。
【0184】
[00274] 故に、本発明は、本発明を実行するために考慮される、本明細書に開示され
た特別な態様に限定されず、本発明は、特許請求の範囲に属するすべての態様を含むことが企図される。