特許第6415663号(P6415663)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6415663アマミノクロウサギの個体識別方法及びPCRプライマーセット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6415663
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】アマミノクロウサギの個体識別方法及びPCRプライマーセット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6888 20180101AFI20181022BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALN20181022BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20181022BHJP
【FI】
   C12Q1/6888 Z
   !C12Q1/6827 Z
   !C12N15/09 ZZNA
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-185344(P2017-185344)
(22)【出願日】2017年9月26日
【審査請求日】2017年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】591146239
【氏名又は名称】いであ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 匡聡
(72)【発明者】
【氏名】吉里 尚子
(72)【発明者】
【氏名】菅野 敬雅
(72)【発明者】
【氏名】益子 理
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭太
(72)【発明者】
【氏名】田悟 和巳
【審査官】 飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−109952(JP,A)
【文献】 中村匡聡、吉里尚子、田悟和巳、益子理、中村圭太、菅野敬雅,DNA情報を用いたアマミノクロウサギの生息密度調査法,技術広報誌「i-net」,日本,いであ株式会社,2018年 9月,vol. 50,p. 4-5
【文献】 益子理、中村匡聡、中村圭太、吉里尚子、菅野敬雅、田悟和巳,アマミノクロウサギにおける糞DNAを用いた生息数,日本哺乳類学会大会プログラム・講演要旨集,2017年 9月 8日,vol. 2017,p. 81
【文献】 NAGATA, Junco et al.,Conserv. Genet.,2009年,vol. 10,p. 1121-1123
【文献】 OHNISHI, Naoki et al.,Ecol. Res.,2017年 8月 1日,vol. 32,p. 735-741
【文献】 MEGLECZ, Emese et al.,Bioinformatics,2010年,vol. 26, no. 3,p. 403-404
【文献】 MEGLECZ, Emese et al.,Molecular Ecology Resources,2014年,vol. 14,p. 1302-1313
【文献】 日本野生動物医学会誌,2001年,vol.6, no.1,p.1-6
【文献】 農業電化,2008年,vol.61, no.8,p.16-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アマミノクロウサギの個体識別に用いられるPCRプライマーセットであって、
配列番号1の塩基配列からなるプライマーAと、配列番号2の塩基配列からなるプライマーBとからなる第1プライマーセット、
配列番号3の塩基配列からなるプライマーCと、配列番号4の塩基配列からなるプライマーDとからなる第2プライマーセット、
配列番号5の塩基配列からなるプライマーEと、配列番号6の塩基配列からなるプライマーFとからなる第3プライマーセット、
配列番号7の塩基配列からなるプライマーGと、配列番号8の塩基配列からなるプライマーHとからなる第4プライマーセット、
配列番号9の塩基配列からなるプライマーIと、配列番号10の塩基配列からなるプライマーJとからなる第5プライマーセット、
配列番号11の塩基配列からなるプライマーKと、配列番号12の塩基配列からなるプライマーLとからなる第6プライマーセット、
配列番号13の塩基配列からなるプライマーMと、配列番号14の塩基配列からなるプライマーNとからなる第7プライマーセット、及び
配列番号15の塩基配列からなるプライマーOと、配列番号16の塩基配列からなるプライマーPとからなる第8プライマーセットからなる、PCRプライマーセット。
【請求項2】
ペンタラグス・フルネスィ(Pentalagus furnessi)の個体識別に用いられる、請求項1に記載のPCRプライマーセット。
【請求項3】
少なくとも8組のPCRプライマーセットをそれぞれ用いてアマミノクロウサギから抽出したゲノムDNAを鋳型とする少なくとも8種類のポリメラーゼ連鎖反応を行い、マイクロサテライト多型解析法により個体識別を行うアマミノクロウサギの個体識別方法において、
上記PCRプライマーセットとして、請求項1又は2に記載のものを用いる、アマミノクロウサギの個体識別方法。
【請求項4】
上記PCRプライマーセットをそれぞれ用いてポリメラーゼ連鎖反応を行って得られるポリメラーゼ連鎖反応物の長さを比較することにより個体識別を行う、請求項3に記載のアマミノクロウサギの個体識別方法。
【請求項5】
上記PCRプライマーセットをそれぞれ用いてポリメラーゼ連鎖反応を行って得られるポリメラーゼ連鎖反応物の塩基配列を決定し該塩基配列を比較することにより個体識別を行う、請求項3に記載のアマミノクロウサギの個体識別方法。
【請求項6】
上記ポリメラーゼ連鎖反応におけるアニーリング温度Taを50℃〜70℃とする、請求項3〜5のいずれか1項に記載のアマミノクロウサギの個体識別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA多型の検出によるアマミノクロウサギの個体識別方法及びこれに用いるPCRプライマーセットに関する。
【背景技術】
【0002】
ウサギ目ウサギ科に属するアマミノクロウサギは、世界で奄美大島及び徳之島にのみ生息する日本固有種である。生息地である原生林の減少及びマングースやノネコ等の外来生物による捕食の影響により、本種は絶滅の危険性が高いといわれている。
【0003】
アマミノクロウサギは、文化財保護法により国の特別天然記念物に指定されているほか、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律では国内希少野生動植物種に指定されている。また、アマミノクロウサギの保全対策としては、文部科学省、農林水産省、環境省の3省により保護増殖事業計画が策定されており、その中において生息状況の調査及びモニタリングや生物学的特性の把握等を早急に進める必要性が指摘されている。
【0004】
野生生物の保全対策を立てるためには、分布域や個体数といった生息状況に関する情報を把握する必要がある。アマミノクロウサギは、林道上や沢沿いの岩の上など開けた場所に糞を排泄するという性質があるため、野外でも比較的糞が見つけやすい。そのため、これまでのアマミノクロウサギを対象とした生息状況調査では、「糞粒法」により生息個体密度の推定が行われてきた。
【0005】
糞粒法とは、調査員が調査区画内で確認した1日当たりの糞粒数を1頭当たりの日平均排泄糞粒数で除算することで区画面積当たりの生息密度を推定する手法である。かかる手法は特殊な機器等を使用しないことから、簡単で安価に調査を行うことが可能である。
【0006】
ところで、近年の分子遺伝学的手法の発展により、ポリメラーゼ連鎖反応(つまり、PCR)法を用いたゲノムDNAの多型の判別により個体を識別する方法が確立されている。具体的には、シバ属植物の品種、系統または個体を識別する方法やテンの個体を識別する方法が開発されている(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−027566号公報
【特許文献2】特開2011−109952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、アマミノクロウサギについては、ゲノムDNAの多型判別による個体識別の方法は確立されていない。したがって、従来の糞粒法に依存する他ないのが現状である。
【0009】
しかし、糞粒法を用いたアマミノクロウサギの生息密度の推定手法においては、野外での気象条件の影響により糞粒が消失するおそれがある。また、食べた餌の種類によりアマミノクロウサギから排泄される糞粒数が変動することが知られている。したがって、従来の糞粒法によるアマミノクロウサギの生息密度の推定値は正確性に欠ける。そこで、より正確に生息個体数を推定する方法の開発が求められている。
【0010】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、アマミノクロウサギの個体識別が可能になるPCRプライマーセット及び個体識別方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、アマミノクロウサギの個体識別に用いられるPCRプライマーセットであって、
配列番号1の塩基配列からなるプライマーAと、配列番号2の塩基配列からなるプライマーBとからなる第1プライマーセット、
配列番号3の塩基配列からなるプライマーCと、配列番号4の塩基配列からなるプライマーDとからなる第2プライマーセット、
配列番号5の塩基配列からなるプライマーEと、配列番号6の塩基配列からなるプライマーFとからなる第3プライマーセット、
配列番号7の塩基配列からなるプライマーGと、配列番号8の塩基配列からなるプライマーHとからなる第4プライマーセット、
配列番号9の塩基配列からなるプライマーIと、配列番号10の塩基配列からなるプライマーJとからなる第5プライマーセット、
配列番号11の塩基配列からなるプライマーKと、配列番号12の塩基配列からなるプライマーLとからなる第6プライマーセット、
配列番号13の塩基配列からなるプライマーMと、配列番号14の塩基配列からなるプライマーNとからなる第7プライマーセット、及び
配列番号15の塩基配列からなるプライマーOと、配列番号16の塩基配列からなるプライマーPとからなる第8プライマーセットからなる、PCRプライマーセットにある。
【0012】
本発明の他の態様は、少なくとも8組のPCRプライマーセットをそれぞれ用いてアマミノクロウサギから抽出したゲノムDNAを鋳型とする少なくとも8種類のポリメラーゼ連鎖反応を行い、マイクロサテライト多型解析法により個体識別を行うアマミノクロウサギの個体識別方法において、
上記PCRプライマーセットとして、上記のものを用いる、アマミノクロウサギの個体識別方法にある。
【発明の効果】
【0013】
上記PCRプライマーセットは、上記第1〜第8プライマーセットという特定配列の8組のプライマーセットを有する。即ち、上記特定配列の8組のプライマーセットの組合せからなる。これらのプライマーセットをそれぞれ用いてPCRを行うことにより、アマミノクロウサギに対する精度の優れた個体識別が可能になる。たとえ測定対象の集団内に互いに血縁関係のある個体が存在していたとしても、高い精度での個体識別が可能になる。
【0014】
上記PCRプライマーセットを用いた個体識別方法においては、アマミノクロウサギから抽出したゲノムDNAを鋳型とする少なくとも8種類のポリメラーゼ連鎖反応(つまり、PCR)を行う。つまり、上述の8組のプライマーセットをそれぞれ用いてPCRを行う。これにより、マイクロサテライト多型解析法によるアマミノクロウサギの個体識別を行うことができる。具体的には、ゲノムDNA中に存在する2塩基から数塩基を単位とした反復配列(つまり、マイクロサテライト)をPCRにより増幅して、その反復配列の繰り返しの数に基づいてゲノムDNAの多型性を識別し、個体識別を行うことができる。
【0015】
上記個体識別方法においては、PCRに少なくとも8組の上記特定の組合せのプライマーセットをそれぞれ用いている。そのため、非常に精度の高い識別が可能になり、上述のようにたとえ測定対象の集団内に互いに血縁関係のある個体が存在していたとしても、高い精度で個体識別を行うことができる。
【0016】
また、上記PCRプライマーセットを用いると、アマミノクロウサギの例えば糞のような排泄物から採取したDNAに対しても反復配列の増幅が可能になる。そのため、アマミノクロウサギの個体自体に直接接触することなく、測定対象エリア内に存在する個体の識別が可能になる。したがって、上述のとおり保護が求められているアマミノクロウサギの個体に対して、フィジカルなダメージ等の悪影響を与えることなく個体識別が可能になる。
【0017】
以上のように、本発明によれば、アマミノクロウサギの個体識別が可能になるPCRプライマーセット及び個体識別方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記PCRプライマーセットは、アマミノクロウサギの個体識別に用いることができる。アマミノクロウサギの学名はペンタラグス・フルネスィ(Pentalagus furnessi)である。PCRプライマーセットは、第1〜第8プライマーセットからなる。
【0019】
第1プライマーセットは、配列番号1の塩基配列からなるプライマーAと、配列番号2の塩基配列からなるプライマーBとからなる。第2プライマーセットは、配列番号3の塩基配列からなるプライマーCと、配列番号4の塩基配列からなるプライマーDとからなる。第3プライマーセットは、配列番号5の塩基配列からなるプライマーEと、配列番号6の塩基配列からなるプライマーFとからなる。第4プライマーセットは、配列番号7の塩基配列からなるプライマーGと、配列番号8の塩基配列からなるプライマーHとからなる。
【0020】
第5プライマーセットは、配列番号9の塩基配列からなるプライマーIと、配列番号10の塩基配列からなるプライマーJとからなる。第6プライマーセットは、配列番号11の塩基配列からなるプライマーKと、配列番号12の塩基配列からなるプライマーLとからなる。第7プライマーセットは、配列番号13の塩基配列からなるプライマーMと、配列番号14の塩基配列からなるプライマーNとからなる。第8プライマーセットは、配列番号15の塩基配列からなるプライマーOと、配列番号16の塩基配列からなるプライマーPとからなる。
【0021】
具体的には、プライマーAは、第1プライマーセットのフォワード側のプライマーであり、CTGCCAACCTAGGAACCTGG(配列番号1)という塩基配列からなるポリヌクレオチドである。プライマーBは、第1プライマーセットのリバース側のプライマーであり、TCAACAGGGAGCATGGACAC(配列番号2)という塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
【0022】
プライマーCは、第2プライマーセットのフォワード側のプライマーであり、TCGTCTCTGCTTTGGCCATT(配列番号3)という塩基配列からなるポリヌクレオチドである。プライマーDは、第2プライマーセットのリバース側のプライマーであり、GAATGGAATGGGGGTGCTCA(配列番号4)という塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
【0023】
プライマーEは、第3プライマーセットのフォワード側のプライマーであり、CCTAGGTGACCTGGAGCTCT(配列番号5)という塩基配列からなるポリヌクレオチドである。プライマーFは、第3プライマーセットのリバース側のプライマーであり、TTCCGCTTACAGATGCAGCA(配列番号6)という塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
【0024】
プライマーGは、第4プライマーセットのフォワード側のプライマーであり、CCTCCTCTGCAGTCACACAG(配列番号7)という塩基配列からなるポリヌクレオチドである。プライマーHは、第4プライマーセットのリバース側のプライマーであり、TGCCCTTTTACAGCCTCAGG(配列番号8)という塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
【0025】
プライマーIは、第5プライマーセットのフォワード側のプライマーであり、ATGAAATCAGCGCCAGTGGA(配列番号9)という塩基配列からなるポリヌクレオチドである。プライマーJは、第5プライマーセットのリバース側のプライマーであり、CAGAAGCAGTGGACAGCAGA(配列番号10)という塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
【0026】
プライマーKは、第6プライマーセットのフォワード側のプライマーであり、TTGGCTGCTTGCTCAGATCA(配列番号11)という塩基配列からなるポリヌクレオチドである。プライマーLは、第6プライマーセットのリバース側のプライマーであり、GGGTGAGTCAGAAACCTGGG(配列番号12)という塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
【0027】
プライマーMは、第7プライマーセットのフォワード側のプライマーであり、GCCTAGTGAGTTGTGGTGCT(配列番号13)という塩基配列からなるポリヌクレオチドである。プライマーNは、第7プライマーセットのリバース側のプライマーであり、CTGGCTTCTCCTTGACCCAG(配列番号14)という塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
【0028】
プライマーOは、第8プライマーセットのフォワード側のプライマーであり、ACTCTTGCTCCTTCCACAGC(配列番号15)という塩基配列からなるポリヌクレオチドである。プライマーPは、第8プライマーセットのリバース側のプライマーであり、AGGAGGGAGTCAGCAGAGAG(配列番号16)という塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
【0029】
配列番号1〜16の塩基配列からなる各プライマーは、例えば市販のDNAシンセサイザーを用いて合成することができる。
【0030】
PCRプライマーセットを用いたPCRは、アマミノクロウサギから抽出したゲノムDNAを鋳型として行うことができる。ゲノムDNAは、アマミノクロウサギの組織、体毛、体液、排せつ物等から抽出することができる。ゲノムDNAの抽出方法は、特に限定されず、対象試料に応じて最適な方法を採用すればよい。
【0031】
また、アマミノクロウサギの個体識別は、上述の8組のPCRプライマーセットをそれぞれ用いてポリメラーゼ連鎖反応を行って得られるポリメラーゼ連鎖反応物の長さを比較することにより行うことができる。この場合には、比較的簡単な操作で個体識別を行うことができる。ポリメラーゼ連鎖反応物(つまり、PCR産物)の長さは、アガロース、アクリルアミド等のゲル中での電気泳動により測定することができる。ゲルとしては、特に限定されるわけではないが、例えばアプライド・バイオシステムズ社製のPOP−7TMポリマーなどの市販品を利用することができる。
【0032】
また、上述の8組のPCRプライマーセットをそれぞれ用いてポリメラーゼ連鎖反応を行って得られるポリメラーゼ連鎖反応物の塩基配列を決定し、その塩基配列を比較することにより個体識別を行うこともできる。この場合には、より一層正確な個体識別が可能になる。塩基配列の決定方法は、特に限定されないが、例えば市販のシークエンサーを用いて行うことができる。
【0033】
ポリメラーゼ連鎖反応(つまり、PCR)は、例えば次のようにして行うことができる。まず、PCR反応用緩衝液中で、アマミノクロウサギから抽出したゲノムDNAと、第1〜第8プライマーセットのうちの1つのプライマーセットと、dNTPと、DNAポリメラーゼとを混合する。dNTPは、dATPと、dTTPと、dGTPと、dCTPとの混合物である。次いで、混合物を適当な温度サイクルで反応させることにより、ポリメラーゼ連鎖反応を行うことができる。DNAポリメラーゼ、dNTP、及びPCR反応用緩衝液は、特に限定されるわけではないが、例えば市販品を用いることができる。
【0034】
ポリメラーゼ連鎖反応は、第1〜第8プライマーセットのうちの一組(フォワード側プライマー及びリバース側プライマー)のプライマーセットを用いて行う。上記個体識別方法においては、第1〜第8プライマーセットをそれぞれ用いて少なくとも8回のポリメラーゼ連鎖反応を行う。
【0035】
ポリメラーゼ連鎖反応の反応条件は、目的の反応物が増幅するように、適宜調整することができる。例えば、10×PCR反応用緩衝液1〜10μl、ゲノムDNA10〜500ng、フォワード側の各プライマー0.2〜1.0μM、リバース側の各プライマー0.2〜1.0μM、dNTP2.0〜3.0mM、DNAポリメラーゼ0.25〜2.5Uを混合し、全液量が10〜100μlとなるように希釈した混合物を用いることができる。
【0036】
ポリメラーゼ連鎖反応における温度条件(サイクル条件)は、例えば次のようにして行うことができる。
ステップ1(1サイクル):94〜96℃、約1〜5分
ステップ2(30〜45サイクル):94〜96℃、約10〜60秒→50〜70℃(アニーリング温度Ta)、約10〜60秒→68〜72℃、約10〜60秒
ステップ3(1サイクル):68〜72℃、約1〜10分
【0037】
ポリメラーゼ連鎖反応におけるアニーリング温度Taは50℃〜70℃にすることが好ましい。この場合には、より正確な個体識別が可能になる。反復配列以外の領域が増幅されることをより抑制するという観点から、アニーリング温度Taは、55℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましい。また、PCRプライマーセットがゲノムDNAにより結合しやすくなるという観点から、アニーリング温度Taは、68℃以下がより好ましく、65℃以下がさらに好ましい。
【0038】
プライマーセット1〜8におけるフォワード側及びリバース側の少なくとも一方の末端には、蛍光物質等の標識物質が結合していることが好ましい。この場合には、PCR反応後の検出を容易にすることができる。蛍光物質としては、4,7,2’,4’,5’,7’−ヘキサクロロー6−カルボキシフルオレッセイン(つまり、HEX)、6−カルボキシフルオレッセイン(つまり、FAM)、NED(アプライドシステムズジャパン社)、6−カルボキシ−X−ローダミン(つまり、Rox)等を用いることができる。
【実施例】
【0039】
(実験例)
本例は、アマミノクロウサギの反復配列(つまり、マイクロサテライト)からプライマーの設計を行い、プライマーの有効性を確認する例である。
【0040】
まず、プライマー設計のためにアマミノクロウサギのゲノムDNAを採取した。ゲノムDNAの採取には、環境省から提供されたアマミノクロウサギの成獣の筋肉片を用いた。筋肉片からのゲノムDNAの抽出は、キアゲン(QIAGEN)社製のディーエヌイージー・ティシュー・キット(DNeasy Tissue Kit)を用いて行った。
【0041】
次に、次世代シークエンサーを用いて、筋肉片から採取したゲノムDNAの塩基配列を決定した。次世代シークエンサーとしては、イルミナ(illmina)社製のマイセック(MiSeq)を用いて行った。次世代シークエンサーから出力された配列データは、付属のソフトウェアを使用する事によりベースコール及び標準のフィルタリングを実施した。
【0042】
次に、コンピュータソフトウェア「キューディーディー バージョン3.1.2(QDD version3.1.2)」を用いて、ゲノムDNAの塩基配列データが収容されたファスタ(fasta)形式ファイルから、マイクロサテライト配列を含み、かつ、マイクロサテライト配列の両側にプライマーを設計するための十分な長さ(具体的には100bp以上)の隣接配列が存在する配列データを抽出した。これらの配列データうち、746個の配列データからフォワード側及びリバース側のプライマーセットの設計が可能であった。「キューディーディー」については、下記参考文献を参照することができる。
【0043】
(参考文献)
「キューディーディー:ア ユーザ フレンドリ プログラム トゥ セレクト マイクロサテライト マーカーズ アンド デザイン プライマーズ フローム ラージ シークエンシング プロジェクツ(QDD:a user−friendly program to select microsatellite markers and design primers from large sequencing projects.)」 バイオインフォマティクス(Bioinformatics),2010, 26(3), p.403−404
【0044】
次いで、これら746個のプライマーセットのうち、ポリメラーゼ連鎖反応物(つまり、PCR産物)の長さが300bp以下で、かつ、上述のコンピュータソフトウェア「キューディーディー バージョン3.1.2(QDD version3.1.2)」から出力されるプライマー3ペナルティスコア(PRIMER3 PENALTY SCORE)が0.1以下であるという条件を満たす26組のマイクロサテライト遺伝子座を特定した。後述のようにアマミノクロウサギの個体識別に実際に使用する8組のプライマーセット(具体的に、プライマーA〜P)について、遺伝子座名、その長さ、フォワード側又はリバース側の種類、標識用の蛍光色素の種類、アニーリング温度Taを表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示されるように、第1プライマーセットは、遺伝子座2rep−GA182のマイクロサテライトに対するプライマーセットであり、プライマーA(フォワードプライマー)及びプライマーB(リバースプライマー)からなる。プライマーAの配列を配列番号1に示し、プライマーBの配列を配列番号2に示す。
【0047】
第2プライマーセットは、遺伝子座2rep−CA61のマイクロサテライトに対するプライマーセットであり、プライマーC(フォワードプライマー)及びプライマーD(リバースプライマー)からなる。プライマーCの配列を配列番号3に示し、プライマーDの配列を配列番号4に示す。
【0048】
第3プライマーセットは、遺伝子座2rep−CA73のマイクロサテライトに対するプライマーセットであり、プライマーE(フォワードプライマー)及びプライマーF(リバースプライマー)からなる。プライマーEの配列を配列番号5に示し、プライマーFの配列を配列番号6に示す。
【0049】
第4プライマーセットは、遺伝子座2rep−CA71のマイクロサテライトに対するプライマーセットであり、プライマーG(フォワードプライマー)及びプライマーH(リバースプライマー)からなる。プライマーGの配列を配列番号7に示し、プライマーHの配列を配列番号8に示す。
【0050】
第5プライマーセットは、遺伝子座2rep−CA19のマイクロサテライトに対するプライマーセットであり、プライマーI(フォワードプライマー)及びプライマーJ(リバースプライマー)からなる。プライマーIの配列を配列番号9に示し、プライマーJの配列を配列番号10に示す。
【0051】
第6プライマーセットは、遺伝子座2rep−GA370のマイクロサテライトに対するプライマーセットであり、プライマーK(フォワードプライマー)及びプライマーL(リバースプライマー)からなる。プライマーKの配列を配列番号11に示し、プライマーLの配列を配列番号12に示す。
【0052】
第7プライマーセットは、遺伝子座2rep−GA1435のマイクロサテライトに対するプライマーセットであり、プライマーM(フォワードプライマー)及びプライマーN(リバースプライマー)からなる。プライマーMの配列を配列番号13に示し、プライマーNの配列を配列番号14に示す。
【0053】
第8プライマーセットは、遺伝子座2rep−GA142のマイクロサテライトに対するプライマーセットであり、プライマーO(フォワードプライマー)及びプライマーP(リバースプライマー)からなる。プライマーOの配列を配列番号15に示し、プライマーPの配列を配列番号16に示す。
【0054】
次に、第1〜第8の各プライマーセットについて、マイクロサテライトマーカーとしての有効性を確認する。具体的には、各プライマーセットを用いてPCRを行い、アマミノクロウサギの筋肉片30検体から抽出したDNAについて対立遺伝子の検出を行った。これらの筋肉片は、2009年〜2015年に奄美大島で回収されたアマミノクロウサギの個体から採取したものである。
【0055】
まず、キアゲン社製の「ディーエヌイージー・ティシュー・キット」を用いて、筋肉片からのゲノムDNAを抽出した。次に、鋳型DNA(濃度:50ng/μL)1.0μL、蛍光標識したフォワードプライマー(濃度:50μM)、未標識のリバースプライマー(濃度:50μM)各0.1μL、DNAポリメラーゼ(タカラバイオ(株)製の「TAKARA EX Taq(登録商標) HS」(濃度:5units/μL)0.05μL、酵素添付品の10×PCRバッファー1.0μL、及びdNTPmixture(濃度:2.5mM each)0.8μLの混合物を滅菌milli-Q水(つまり、滅菌超純水)で希釈して総量を10μLとした。鋳型DNAが筋肉片から抽出したゲノムDNAである。
【0056】
この混合液を以下のPCRサイクル条件で反応させた。
ステップ1(1サイクル):95℃、2分
ステップ2(30サイクル):95℃、30秒→各プライマーセットのアニーリング温度Ta(表1参照)、20秒→72℃、20秒
【0057】
次に、PCR産物を、アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社製の「3130 Genetic Analyzer」及びアプライド・バイオシステムズ社製の「The GeneScanTM 500 ROXTM Size Standard」を用いて検出し、アプライド・バイオシステムズ社製の「GeneMapper(登録商標) Software v4.0」により断片サイズを決定した。各操作は、添付のマニュアルに従って行った。
【0058】
各プライマーセットを用いて検出される対立遺伝子(つまり、アリル)の数を表2に示す。具体的には、上述の各プライマーセットを用いたPCRを行って検出されるPCR産物の長さのバリエーション数を計測し、これを対立遺伝子数とした。
【0059】
また、ヘテロ接合体率の期待値(つまり、エクスペクティッド・ヘテロザイゴシティ、expected heterozygosity)Hexp、ヘテロ接合体率の観察値(オブザーブド・ヘテロザイゴシティ、observed heterozygosity)Hobsを表2に示す。
【0060】
ヘテロ接合体率の期待値Hexpは、下記の数式(1)で計算される。数式(1)において、Piはi番目の対立遺伝子のサンプル頻度を示し、Kは対立遺伝子の数を示す。
【0061】
【数1】
【0062】
ヘテロ接合体率の観察値Hobsは、あるマーカー座におけるヘテロ接合している個体の割合を示す。
【0063】
また、アマミノクロウサギの個体識別に対する各プライマーセットの有効性を判断するために、コンピュータソフトウェア「ギムレット バージョン1.3.3(GIMLET version 1.3.3)」(ナタニエル・ヴァリエール(Nathaniel Valiere)作 2002)を用いて個体識別確率(プロバビリティ・オブ・アイデンティティ(Probability of identity))PIDを計算した。
【0064】
個体識別確率PIDには、非血縁個体間(つまり、非血縁集団内)の個体識別確率PIDtheoricと、同胞個体間(つまり、血縁集団内)の個体識別確率PIDsibsとがある。非血縁個体間の個体識別確率は、集団内の血縁の存在を無視した理論上の値であるため、個体識別確率の理論値といわれることがある。
【0065】
非血縁個体間の個体識別確率PIDtheoricは、パートコー・ディ・アンド・ストロベック・シー(Paetkau D. & Strobeck C)著、マイクロサテライト・アナリシス・オブ・ジェネティック・バリエイション・イン・ブラック・ベア・ポピュレイションズ(Microsatellite analysis of genetic variation in black bear populations.)、「モレキュラー・エコロジー(Molecular Ecology)」、米国、1994年、第3巻、p489−495の記載に従って計算した。第1〜第8プライマーセットについて、累積のPIDtheoricの結果を表2に示す。なお、第1プライマーセットの累積のPIDtheoricは、第1プライマーセットのPIDtheoric値であり、第nプライマーセットの累積のPIDtheoricは、第1プライマーセット〜第nプライマーセットまでの各PIDtheoricの積から算出される。
【0066】
同胞個体間の個体識別確率PIDsibsは、タバーレット・ピー・アンド・ルイカート・ジー(Taberlet P. & Luikart G)著、ノンインベイシブ・ジェネティック・サンプリング・アンド・インディイジュアル・アイデンティフィケイション・データ(Non-invasive genetic sampling and individual identification.)、「バイオロジカル・ジャーナル・オブ・ザ・リンネン・ソサイティ(Biological journal of tele Linnean
Society)」、英国、1999年、第68巻、p41−55の記載に従って計算した。第1〜第8プライマーセットについて、累積のPIDsibsの結果を表2に示す。なお、第1プライマーセットの累積のPIDsibsは、第1プライマーセットのPIDsibs値であり、第nプライマーセットの累積のPIDsibsは、第1プライマーセット〜第nプライマーセットまでの各PIDsibsの積から算出される。
【0067】
【表2】
【0068】
表2より知られるごとく、第1〜第8プライマーセットにおいては、これら8つのプライマーセットを組み合わせた非血縁個体間の個体識別確率PIDtheoricが2.35×10-9であり、同胞個体間の個体識別確率(PIDsibs)が4.94×10-4であった。即ち、別個体でありながら同じ対立遺伝子型を持つものが出現する確率は、非血縁集団を想定した場合において1/425350915個体、同胞集団を想定した場合においても1/2024個体と推定される。したがって、第1〜第8プライマーセットは、これらを組み合わせることにより十分な個体識別能を有していることがわかる。
【0069】
なお、本例においては、上述のように26種類のマイクロサテライト遺伝子座を特定し、実際には26組のプライマーセットを設定している。上記の8組以外の残りの18組のプライマーセットについては、これらを用いなくても上述のように十分に個体識別が可能であることが示された。したがって、これらの残り18組のプライマーセットについては、その塩基配列等の記載は省略する。上記の8組のプライマーセットとともに、これらの残りの18組のプライマーセットのうちの少なくとも1組とをさらに組み合わせることも可能である。この場合には、さらに正確な個体識別が可能になることを確認している。
【0070】
(実施例)
本例は、上述の実験例において有用性が確認された8組のプライマーセットを用いて、野外サンプルによる実証実験を行う例である。本例においては、野外の様々な場所で採取したアマミノクロウサギの糞サンプルからDNAを抽出し、糞サンプルから個体識別を行う。
【0071】
まず、アマミノクロウサギが生息する奄美大島の森林に設定した任意の調査ルートにおいて、野生のアマミノクロウサギの糞を6日間にわたり採取した。採取した糞は冷凍保存した。このようにして、207個のアマミノクロウサギの糞の検体(試料1〜試料207)を得た。これらの検体は、実験に使用するまで、−25℃のフリーザーで冷凍保存した。
【0072】
次いで、キアゲン社製の「キアアンプ・ディーエヌエー・ストゥール・ミニ・キット(QIAamp DNA Stool Mini Kit)」を用いて、糞からDNAを抽出した。抽出は添付のマニュアルに従って行った。また、フォワード側プライマーを蛍光標識した各プライマーセット(第1プライマーセット〜第8プライマーセット)を合成した。
【0073】
具体的には、マーカー座2rep−GA182の第1プライマーセットのフォワード側プライマー(つまり、プライマーA)、マーカー座2rep−CA71の第4プライマーセットのフォワード側プライマー(つまり、プライマーG)、及びマーカー座2rep−GA370の第6プライマーセットのフォワード側プライマー(つまり、プライマーK)には、5’末端側に、4,7,2’,4’,5’,7’−ヘキサクロロー6−カルボキシフルオレッセイン(つまり、HEX)からなる蛍光標識物質を結合させた。
【0074】
マーカー座2rep−CA19の第5プライマーセットのフォワード側プライマー(つまり、プライマーI)、及びマーカー座2rep−GA1435の第7プライマーセットのフォワード側プライマー(つまり、プライマーM)には、5’末端側に、アプライドシステムズジャパン社製のNEDからなる蛍光標識物質を結合させた。
【0075】
マーカー座2rep−CA61の第2プライマーセットのフォワード側プライマー(つまり、プライマーC)、マーカー座2rep−CA73の第3プライマーセットのフォワード側プライマー(つまり、プライマーE)、及びマーカー座2rep−GA142の第8プライマーセットのフォワード側プライマー(つまり、プライマーO)には、6−カルボキシフルオレッセイン(つまり、FAM)からなる蛍光標識物質を結合させた。
【0076】
次に、アマミノクロウサギの糞から抽出した鋳型DNA(濃度:50ng/μL)1.0μL、蛍光標識したフォワードプライマー(濃度:50μM)、未標識のリバースプライマー(濃度:50μM)各0.1μL、DNAポリメラーゼ(タカラバイオ(株)製の「TAKARA EX Taq(登録商標) HS(濃度:5units/μL)」0.05μL、酵素添付品の10×PCRバッファー1.0μL、及びdNTPmixture(濃度:2.5mM each)0.8μLの混合物を滅菌milli-Q水(つまり、滅菌超純水)で希釈して総量を10μLとした。
【0077】
この混合液を以下のPCRサイクル条件で反応させた。
ステップ1(1サイクル):95℃、2分)
ステップ2(35サイクル):95℃、30秒→各プライマーセットのアニーリング温度Ta(表1参照)、20秒→72℃、20秒
【0078】
次に、実験例と同様に、PCR産物の検出及び断片サイズの決定を行った。
【0079】
糞から抽出したDNAはアレリック・ドロップアウト(allelic dropout)やフォールス・アレル(false allele)による判定エラーを引き起こしやすいことが知られている。そのため、PCR増幅及び断片サイズの決定は、1検体あたり全ての座位について最低3回ずつ繰り返して行った。そして、3回のうち少なくとも2回以上同一の対立遺伝子型を示したものをその座位の対立遺伝子型とした。1回目と2回目と3回目の結果が異なる場合には、最高で5回目まで分析を繰り返し、3回以上同一の対立遺伝子型を示したものをその座位の対立遺伝子型とした。
【0080】
個体識別は、すべてのマーカー座について対立遺伝子型が決定できたサンプルのみを対象とし、コンピュータソフトウェア「サーバス・バージョン3.0.7(Cervus version 3.0.7)」を用いて判定した。かかる判定は、マーシャル・ティ.シー(Marshall T.C.)、スレイト・ジェイ(Slate J.)、クルーク・エル(Kruuk L.)、ペンバートン・ジェイ・エム(Pemberton J.M.)著、スタティスティカル・コンフィデンス・フォー・ライクリフッド−ベースド・パターナティ・インフェレンス・イン・ナチュラル・ポピュレイションズ(Statistical confidence for likelihood-based paternity inference in natural populations.)、「モレキュラー・エコロジー(Molecular Ecology)」、米国、1998年、第7巻、p.639−655に記載に従って行った。207個の糞サンプルのうちの一部の結果を表3及び表4に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
表3、表4中、個体番号が同じものが同じ個体であり、各表は、同じ個体毎に整理されている。表3及び表4においては、1〜10番目の個体の結果を示しているが、他の個体も識別されたことを確認している。
【0084】
表3及び表4に示すように、野外から採取したアマミノクロウサギの糞サンプルによる実証実験では、全体の65.7%にあたる136検体において全てのマーカー座の対立遺伝子が決定できた。残りの71検体のうち、40検体では1つ以上のマーカー座で対立遺伝子が検出できたが、全体の15.0%にあたる30検体ではいずれのマーカー座でも対立遺伝子が検出できなかった。これらの71検体については、表への記載を省略してある。
【0085】
全てのマーカー座について対立遺伝子が決定できた136検体について個体識別判定を行った結果、48個体(個体番号1〜48)について識別ができた。これら48個体のうち、18個体(個体番号31〜48)は検出回数が1回のみであったが、残りの30個体(個体番号1〜30)は複数回にわたって検出できた。48個体のうちの10個体(個体番号1〜10)の結果を表3及び表4に示している。
【0086】
また、個体番号1〜10、個体番号13〜22、個体番号24〜25及び個体番号27については、複数日にまたがって糞が確認されており、少なくとも2日以上調査ルート近傍に滞在していたことが明らかとなった。
【0087】
以上のように、第1〜第8プライマーセットからなるPCRプライマーセットは、アマミノクロウサギの生息個体数の推定及び行動圏の把握に有用であることがわかる。
【配列表フリーテキスト】
【0088】
配列番号:1はアマミノクロウサギ(ペンタラグス・フルネスィ)の遺伝子座2rep−GA182のフォワード側プライマー(プライマーA)の塩基配列を示す。
配列番号:2はアマミノクロウサギ(ペンタラグス・フルネスィ)の遺伝子座2rep−GA182のリバース側プライマー(プライマーB)の塩基配列を示す。
配列番号:3はアマミノクロウサギ(ペンタラグス・フルネスィ)の遺伝子座2rep−CA61のフォワード側プライマー(プライマーC)の塩基配列を示す。
配列番号:4はアマミノクロウサギ(ペンタラグス・フルネスィ)の遺伝子座2rep−CA61のリバース側プライマー(プライマーD)の塩基配列を示す。
配列番号:5はアマミノクロウサギ(ペンタラグス・フルネスィ)の遺伝子座2rep−CA73のフォワード側プライマー(プライマーE)の塩基配列を示す。
配列番号:6はアマミノクロウサギ(ペンタラグス・フルネスィ)の遺伝子座2rep−CA73のリバース側プライマー(プライマーF)の塩基配列を示す。
配列番号:7はアマミノクロウサギ(ペンタラグス・フルネスィ)の遺伝子座2rep−CA71のフォワード側プライマー(プライマーG)の塩基配列を示す。
配列番号:8はアマミノクロウサギ(ペンタラグス・フルネスィ)の遺伝子座2rep−CA71のリバース側プライマー(プライマーH)の塩基配列を示す。
配列番号:9はアマミノクロウサギ(ペンタラグス・フルネスィ)の遺伝子座2rep−CA19のフォワード側プライマー(プライマーI)の塩基配列を示す。
配列番号:10はアマミノクロウサギ(ペンタラグス・フルネスィ)の遺伝子座2rep−CA19のリバース側プライマー(プライマーJ)の塩基配列を示す。
配列番号:11はアマミノクロウサギ(ペンタラグス・フルネスィ)の遺伝子座2rep−GA370のフォワード側プライマー(プライマーK)の塩基配列を示す。
配列番号:12はアマミノクロウサギ(ペンタラグス・フルネスィ)の遺伝子座2rep−GA370のリバース側プライマー(プライマーL)の塩基配列を示す。
配列番号:13はアマミノクロウサギ(ペンタラグス・フルネスィ)の遺伝子座2rep−GA1435のフォワード側プライマー(プライマーM)の塩基配列を示す。
配列番号:14はアマミノクロウサギ(ペンタラグス・フルネスィ)の遺伝子座2rep−GA1435のリバース側プライマー(プライマーN)の塩基配列を示す。
配列番号:15はアマミノクロウサギ(ペンタラグス・フルネスィ)の遺伝子座2rep−GA142のフォワード側プライマー(プライマーO)の塩基配列を示す。
配列番号:16はアマミノクロウサギ(ペンタラグス・フルネスィ)の遺伝子座2rep−GA142のリバース側プライマー(プライマーP)の塩基配列を示す。
【要約】      (修正有)
【課題】アマミノクロウサギの個体識別が可能になるPCRプライマーセット及び個体識別方法の提供。
【解決手段】アマミノクロウサギの個体識別に用いられる特定の塩基配列からなる8組のPCRプライマーセットである。これら少なくとも8組のPCRプライマーセットをそれぞれ用いてアマミのクロウサギから抽出したゲノムDNAを鋳型とする少なくとも8種類のポリメラーゼ連鎖反応を行い、マイクロサテライト多型解析法により個体識別を行うアマミのクロウサギの個体識別方法。
【選択図】なし
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]