(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6415671
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】船舶のタンク内液体貨物の液面レベル算出方法
(51)【国際特許分類】
G01F 23/00 20060101AFI20181022BHJP
B63B 25/08 20060101ALI20181022BHJP
B63B 9/00 20060101ALI20181022BHJP
【FI】
G01F23/00 Z
B63B25/08 Z
B63B9/00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-218091(P2017-218091)
(22)【出願日】2017年11月13日
【審査請求日】2018年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】517396320
【氏名又は名称】春田 三郎
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】春田 三郎
【審査官】
羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−211316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 23/00−23/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に搭載されたタンク内に積載されている液体貨物の液面レベルを算出する、船舶のタンク内液体貨物の液面レベル算出方法であって、前記船体の互いに前後方向位置が異なる少なくとも3つの喫水点に回帰する曲線を求め、前記タンクの前後方向中央部における前記曲線の接線の傾きを求め、前記傾きを前記タンクの傾斜として、前記タンクの前記傾斜に応じたトリム修正値を求め、前記トリム修正値を用いて、前記タンクに設置されているレベル計により測定された前記タンクの液面レベルを修正することを特徴とする、船舶のタンク内液体貨物の液面レベル算出方法。
【請求項2】
前記喫水点は、船首部、船体中央部、船尾部に位置することを特徴とする、請求項1に記載の、船舶のタンク内液体貨物の液面レベル算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶のタンク内液体貨物の液面レベル算出方法、特に、船体に搭載されたタンク内に積載されている液体貨物の液面レベルを、船体の撓みの影響を考慮して、正確に算出することができる、船舶のタンク内液体貨物の液面レベル算出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、
図2に示すように、船体に搭載されたタンク11内に積載されている液化ガスや原油等の液体貨物12の容積は、タンク11の上部に設置されているレベル計13により測定される、タンク11の底面から液面までの垂直距離、すなわち、液面レベル(d)に基づいて求めている。なお、レベル計13は、船体に搭載される付帯設備の設置スペース等の関係上、通常、タンク11の船体長手方向後方に設置されている。
【0003】
この場合、レベル計13がタンク11の前後方向(船体長手方向)中央部(O)(
図3参照)に設置されている場合を除き、液面レベルの測定に際して、船体が前後方向にトリム(傾斜)しているときは、そのトリムに応じた修正値(トリム修正値)がレベル計13により測定された液面レベルに対して加減される。
【0004】
例えば、
図3に示すように、レベル計13がタンク11の後方上部に設置され、船体が船首に向かって下り傾斜に傾斜している場合、レベル計13により測定された液面レベルを(d)とすると、実際の液面レベルは、(d)にトリム修正値(Δd)を加えた値(d+Δd)になる。
【0005】
トリム修正値(Δd)は、下記(1)式により求められる。
Δd=−{(Lt/2)−Lg}×(T/Lp) ---(1)
但し、上記(1)式において、
Lt:タンクの前後方向の長さ(
図3参照)、
Lg:タンクの後端からレベル計の設置位置までの距離(
図3参照)、
T:船体のトリム、
Lp:船首尾垂線間の長さ(
図4参照)
である。
【0006】
船体のトリム(T)は、
図4に示すように、船首喫水(Df)と船尾喫水(Da)との差であり、船首に向かって登り傾斜を正、船首に向かって下り傾斜を負とする。
【0007】
なお、船体のトリム(T)は、
図4に示すように、船体14に設置した傾斜計15により測定した船体14の傾き(θ)と船首尾垂線間の長さ(Lp)とにより、下記(2)式により求めることもできる。
【0008】
T=Lp×tan
-1θ ---(2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した従来技術によれば、レベル計13がタンク11の前後方向中央部に設置されていない場合であっても、レベル計13により測定された液面レベルに対して、船体のトリムに応じたトリム修正値を加減することによって、タンク内液体貨物の液面レベルを算出することはできるが、以下のような問題があった。
【0010】
船首と船尾との喫水の差または傾斜計15により得られる船体のトリムは、船体の撓み、すなわち、ホギングあるいはサギングの影響を考慮していないので、船体に設置されているタンク11の実際の傾斜とは一致しない。
【0011】
このため、トリム修正値には、船体の撓みに起因する傾斜分の誤差が含まれるので、これを基に算出されるタンク内液体貨物の液面レベルにも誤差が含まれる結果、タンク内液体貨物の容量に相応の誤差が含まれる。
【0012】
なお、ホギングとは、
図5に示すように、浮力のバランスによって船体14の中央部が上向きに撓む状態をいい、サギングとは、
図6に示すように、浮力のバランスによって船体14の中央部が下向きに撓む状態をいう。
【0013】
従って、この発明の目的は、船体に搭載されたタンク内に積載されている液体貨物の液面レベルを、船体の撓みの影響を考慮して、正確に算出することができる、船舶のタンク内液体貨物の液面レベル算出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、下記を特徴とする。
【0015】
請求項1に記載の発明は、船体に搭載されたタンク内に積載されている液体貨物の液面レベルを算出する、船舶のタンク内液体貨物の液面レベル算出方法であって、前記船体の
互いに前後方向位置が異なる少なくとも3つの喫水点に回帰する曲線を求め、前記タンクの前後方向中央部における前記曲線の接線の傾きを求め、前記傾きを前記タンクの傾斜として、前記タンクの前記傾斜に応じたトリム修正値を求め、前記トリム修正値を用いて、前記タンクに設置されているレベル計により測定された前記タンクの液面レベルを修正することに特徴を有するものである。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記喫水点は、船首部、船体中央部、船尾部に位置することに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、船体の少なくとも3つの喫水点に回帰する曲線を求め、タンクの前後方向中央部における前記曲線の接線の傾きを求め、前記傾きをタンクの傾斜とし、タンクの前記傾斜に応じたトリム修正値を求め、前記トリム修正値を用いて、タンクに設置されているレベル計により測定されたタンクの液面レベルを修正することによって、ホギングあるいはサギングによる船体の撓みの影響を考慮した正確な液面レベルを算出することができる。この結果、タンク内に積載されている液体貨物の容量を、高精度で計量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明の、船舶のタンク内液体貨物の液面レベル算出方法の説明図である。
【
図2】レベル計が設置されたタンクを示す側面図である。
【
図3】タンクが船首に向かって下り傾斜に傾斜した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の、船舶のタンク内液体貨物の液面レベル算出方法の一実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、この発明の、船舶のタンク内液体貨物の液面レベル算出方法の説明図である。
【0021】
図1において、1は、ホギング状態の船体、2a、2bは、船体1に搭載されたタンクであり、2aは、船首側に搭載された第1タンク、2bは、船尾側に搭載された第2タンクである。なお、タンクの搭載位置および搭載数は、これに限定されない。
【0022】
船尾垂線からの距離および喫水は、下記表1に示す通りである。
【0024】
この発明は、先ず、船首部、船体中央部、船尾部における3つの喫水点(A)、(B)、(C)に回帰する曲線(y)を求め、第1タンク2a、第2タンク2bの前後方向中央部(O)(
図1参照)における曲線(y)の接線(t1)、(t2)の傾きを、以下のようにして求める。なお、喫水点は、3つに限定されず、4つ以上であってもよい。
【0025】
なお、喫水点(A)は、船首喫水(Df)における喫水線上の点であり、喫水点(B)は、船体中央部喫水(Dm)における喫水線上の点であり、喫水点(C)は、船尾喫水(Da)における喫水線上の点である。
【0026】
曲線(y)は、下記(3)式によって表される。
y=−1.28×10
-8×x
2+3.2×10
-3×x+4.2633×10
-13
---(3)
【0027】
上記(3)式を微分すると、下記(4)式となる。
dy/dx=−2.56×10
-8×x+3.2×10
-3 ---(4)
【0028】
上記(4)式中の(x)に、船尾垂線から第1タンク2a、第2タンク2bの前後方向中央部までの距離を代入して、タンク2a、2bの前後方向中央部における接線(t1)、(t2)の傾きを求めると、以下のようになる。
【0029】
第1タンク2aの接線(t1)の傾きは、
dy/dx=−2.56×10
-8×180000+3.2×10
-3=−0.0014
となる。
【0030】
第2タンク2bの接線(t2)の傾きは、
dy/dx=−2.56×10
-8×70000+3.2×10
-3=0.0014
となる。
【0031】
上記接線(t1)、(t2)の傾きに、船首尾垂線間の長さ(Lp)を乗じることによって、タンク2a、2bにおけるトリム修正に適用する船体のトリム(T)を求めることができる。
【0032】
第1タンク2aにおける船体のトリム(T)は、
T=(dy/dx)×Lp=−0.0014×250000=−352
となる。
【0033】
第2タンク2bにおける船体のトリム(T)は、
T=(dy/dx)×Lp=0.0014×250000=352
となる。
【0034】
ここで、第1タンク2a、第2タンク2bの前後方向の長さ(Lt)を40m、タンク2a、2bの後端からレベル計の設置位置までの距離(Lg)を100mmとすると、上記(1)式からタンク2a、2bにおいて適用すべきトリム修正値(Δd)は、以下のようになる。
【0035】
第1タンク2aのトリム修正値(Δd)は、
Δd=−{(Lt/2)−Lg}×(T/Lp)
=−{(40000/2)−100)}×−(352/250000)
=28
となる。
【0036】
第2タンク2bトリム修正値(Δd)は、
Δd=−{(Lt/2)−Lg}×(T/Lp)
=−[(40000/2)−100]×(352/250000)
=−28
となる。
【0037】
このようにして、タンク2a、2bにおけるトリム修正値(Δd)を求めたら、タンク2a、2bにおいて、レベル計により計測された液面レベルに対して28mmのトリム修正値(Δd)を加減することによって、船体の撓みの影響を考慮した液面レベルを正確に算出することができる。この結果、タンク2a、2b内に積載されている液体貨物の容量を、高精度で計量することができる。
【0038】
以上説明したように、この発明によれば、船体の少なくとも3つの喫水点(A)、(B)、(C)に回帰する曲線(y)を求め、タンク2a、2bの前後方向中央部における曲線(y)の接線(t1)、(t2)の傾きを求め、前記傾きをタンク2a、2bの傾斜とし、タンク2a、2bの前記傾斜に応じたトリム修正値(Δd)を求め、トリム修正値(Δd)を用いて、タンク2a、2bに設置されているレベル計により測定されたタンク2a、2bの液面レベルを修正することによって、ホギングあるいはサギングによる船体の撓みの影響を考慮した正確な液面レベルを算出することができる。この結果、タンク2a、2b内に積載されている液体貨物の容量を、高精度で計量することができる。
【符号の説明】
【0039】
1:船体
2a:第1タンク
2b:第2タンク
11:タンク
12:液体貨物
13:レベル計
14:船体
15:傾斜計
【要約】
【課題】船体に搭載されたタンク内に積載されている液体貨物の液面レベルを、船体の撓みの影響を考慮して、正確に算出することができる、船舶のタンク内液体貨物の液面レベル算出方法を提供する。
【解決手段】船体1の喫水点(A)、(B)、(C)に回帰する曲線(y)を求め、タンク2a、2bの前後方向中央部における曲線(y)の接線(t1)、(t2)の傾きを求め、前記傾きをタンク2a、2bの傾斜として、タンク2a、2bの前記傾斜に応じたトリム修正値を求め、前記トリム修正値を用いて、タンク2a、2bに設置されているレベル計により測定されたタンク2a、2bの液面レベルを修正する。
【選択図】
図1