(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、自動車用空調用コンプレッサにおけるメカニカルシール装置の2次シール、すなわちメカニカルシール装置とハウジングとの間に圧縮固定して設けられるOリングやメカニカルシールと回転軸との間に圧縮固定して設けられるOリングは、ゴム材により形成されている。
図16の断面図に示されるように、二酸化炭素gはフロンよりも粒子が小さく、かつ、冷媒として用いるときには使用圧力が高いことから、二酸化炭素gが弾性素材であるゴム材からなるOリング105を透過する虞があり、この透過は機内の二酸化炭素の圧力が高くなる程、顕著であると推測される。また、機内の冷媒である二酸化炭素が漏れると、自動車用空調用コンプレッサの効率を低下させるとともに、環境に負荷を与える虞があった。
【0005】
そこで、
図17の断面図に示すように、Oリング105の周囲に冷媒を透過し難い流体バリア性のコーティング106を施すことにより、二酸化炭素gのOリング105透過量を抑制することが考えられる。しかし流体バリア性のコーティング106はOリング105に比較してコーティング6の硬度が高い等の理由からOリング105の変形が抑制されることになる。その為、Oリング105はシールハウジング101の表面の粗さである凹凸部に対して食い込み量が制限されることとなり、高圧側の二酸化炭素gがOリング105とシールハウジング101との間の隙間dを通過する虞が高いことが判明した。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、圧縮固定によるシール機能を維持しつつパッキンの高圧側から低圧側への流体の漏れを低減させることができる、特に低圧側と高圧側の圧力差が大きい流体を密封するシール装置及びその装置に用いるパッキンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明のシール装置は、
第1固定部材と第2固定部材との間に弾性シール材を有する環状のパッキンを圧縮固定し、この圧縮された前記パッキンで高圧側と低圧側との間の流体を密封するシール装置であって、
前記パッキンは、
前記第1固定部材及び前記第2固定部材の各々に少なくとも一部が環状に連続して当接する前記弾性シール材の弾性シール部を有し、前記弾性シール部よりも高圧側及び低圧側の少なくとも一方の弾性シール材には前記弾性シール材よりも流体を透過し難いコーティングが施されるコーティング部が設けられていることを特徴としている。
この特徴によれば、弾性シール部の高圧側及び低圧側の少なくとも一方の弾性シール材に施されたコーティングにより弾性シール材を通って流体が漏れる現象である所謂透過漏れを抑制できるとともに、弾性シール材からなる弾性シール部が第1固定部材及び第2固定部材間に環状に連続して介在するため、各部材表面の凹凸部に対して弾性シール材からなる弾性シール部が十分に食い込み、シール効果を維持できることになる。その結果、第1固定部材との間及び第2固定部材との間における流体の漏れと、弾性シール材を通過する流体の透過漏れと、を同時に抑制でき、高圧側から低圧側への流体の漏れを確実に低減させることができる。
【0008】
前記パッキンにおいて、前記弾性シール部よりも高圧側の弾性シール材にコーティングが施されたことを特徴としている。
この特徴によれば、パッキンにおいて、弾性シール部よりも高圧側の弾性シール材にコーティングが施されるため、弾性シール材の高圧側が高圧の流体により晒されることを防ぐことができ、弾性シール材が化学的、機械的に劣化することを抑制することができる。
【0009】
前記パッキンにおいて、前記弾性シール部よりも低圧側の弾性シール材にコーティングが施されたことを特徴としている。
この特徴によれば、弾性シール部よりも低圧側の弾性シール材にコーティングが施されているため、低圧側には高圧側のような高い圧力や圧力変動が作用せず、すなわちコーティングに対して大きな外力が作用せず、コーティングが機械的に劣化する虞が少ない。
【0010】
前記パッキンにおいて、前記弾性シール部よりも高圧側及び低圧側の弾性シール材にコーティングが施されることを特徴としている。
この特徴によれば、弾性シール部よりも高圧側及び低圧側の弾性シール材にコーティングが施される、すなわち高圧側及び低圧側の両面にコーティングが施されることにより、高圧側から低圧側への流体の透過漏れを確実に防止できることになる。
【0011】
前記コーティングはダイヤモンドライクカーボンであることを特徴としている。
この特徴によれば、ダイヤモンドライクカーボンは、変形追従性に富むとともに、流体バリア性が高く、第1固定部材との間及び第2固定部材との間の圧縮固定による変形に追従し、高いシール機能を維持しつつパッキンの高圧側から低圧側への流体の漏れを確実に低減させることができる。
【0012】
本発明のパッキンは、
弾性シール材の環状に連続して延びる弾性シール部と、前記弾性シール材よりも流体を透過し難いコーティング部を有することを特徴としている。
この特徴によれば、コーティング部により流体がパッキンを通って漏れる現象である所謂透過漏れが確実に抑制されるとともに、環状に連続して延びる弾性シール材の弾性シール部が周方向において圧縮固定に供されるため、パッキンの固定面での弾性追従性が確保され、高いシール機能を維持できる。
【0013】
環状に連続して延びる前記弾性シール部には、少なくとも対向位置に環状凸部が形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、パッキン挿入凹部内において、対向位置にある環状凸部の圧縮変形により流体の漏れが確実に防止されることになる。
【0014】
前記コーティング部は、前記リング形状の弾性シール材に対向して設けられていることを特徴としている。
この特徴によれば、両側面に施されているコーティング部によりパッキンの高圧側から低圧側への流体の透過漏れを確実に防止できることになる。
【0015】
前記コーティング部は、前記リング形状の弾性シール材の内周面及び外周面に対向して設けられていることを特徴としている。
この特徴によれば、内外周面に施されているコーティング部によりパッキンの高圧側から低圧側への流体の透過漏れを確実に防止できることになる。
【0016】
前記コーティングはダイヤモンドライクカーボンであることを特徴としている。
この特徴によれば、ダイヤモンドライクカーボンは、変形追従性に富むとともに、流体バリア性が高く、使用時における圧縮固定による変形に追従することで、シール機能を維持しつつパッキンの高圧側から低圧側への流体の漏れを確実に低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るシール装置及びその装置に用いるパッキンを実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0019】
実施例1に係る二酸化炭素を冷媒として用いる自動車用空調用コンプレッサ用のシール装置及びその装置に用いるパッキンにつき、
図1から
図6を参照して説明する。
【0020】
先ず、シール装置の全体構成について説明する。
図1に示されるように、シール装置は、主に、シールハウジング1、回転軸2、1次シールであるメカニカルシール3、2次シールであるOリング5、9(パッキン)から構成されている。シールハウジング1には回転軸2が図示しない軸受けを介して回転可能に配置されている。回転軸2の一方は機内側空間Mのコンプレッサに挿通され、他方は大気側空間Aのエンジンのクランク軸からの駆動力が伝達されることにより、この動力がコンプレッサの内部機構を駆動させるようになっている。シールハウジング1と回転軸2との間にはメカニカルシール3が装着されている。
【0021】
メカニカルシール3は、シールハウジング1側に非回転状態に装着された静止側摺動環であるメイティングリング4と、回転軸2側に装着されてこの回転軸2と一体的に回転する回転側摺動環であるシールリング8とが、軸方向に互いに対向しており、その対向端面同士が密接した密封摺動面Sにおいて軸封機能を奏するものである。
【0022】
メイティングリング4は円環状に形成されており、かつカーボン摺動材からなるものであって、シールハウジング1の軸孔の大気側空間A側に収容され、外周面が、シールハウジング1に設けられた環状溝1aに装着され流体を透過し難い流体バリア性を有するコーティング6が施されたOリング5を介して固定かつ密嵌されている。このメイティングリング4は、ノックピン7により軸方向の位置決めがなされている。なお、メイティングリング4の周方向における固定はOリング5によらずノックピン7により固定してもよい。また、メイティングリング4には、シールリング8側を向いた端部に円周方向に連続した摺動突起4aが形成されている。なお、本発明のパッキンであるOリング5は、弾性シール材51にコーティング6(コーティング部として機能)が施されたものであり、詳細については後述する。
【0023】
シールリング8は円環状に形成されており、かつカーボン摺動材よりもヤング率の大きい硬質摺動材(例えばSiC、Al2O3等のセラミックス)からなるものであって、メイティングリング4よりも機内側空間M側に配置され、回転軸2の外周面に流体バリア性を有するコーティング10が施されたゴム材等からなるOリング9(パッキン)を介して軸方向移動可能に装着されている。また、シールリング8には、メイティングリング4側を向いた端部に円周方向に連続した摺動突起8aが形成されている。Oリング9は、シールリング8の背面側(密封摺動面Sとは反対側)の内周面に形成された装着凹部8c(パッキン挿入凹部)に収容された状態でシールリング8に装着されている。
【0024】
Oリング9の背面には、断面L字形の金属板からなるスプリングホルダ12aが当接され、Oリング9の内径部は回転軸2に対し軸方向に摺動可能に配置されている。このスプリングホルダ12aの背面側には、断面L字形の金属板からなるリテーナ11が配置されており、このリテーナ11は、軸方向に延びるガイドロッド11aを複数有しており、これらのガイドロッド11aがシールリング8のガイド孔8bを挿通し、シールリング8の軸方向の移動をガイドする。また、リテーナ11の基端部11bは、回転軸2の外周面に形成されたテーパ状段差部に周方向、軸方向に移動ができないように固定されている。スプリングホルダ12aとリテーナ11との間には、外形が略載頭円錐のコイルスプリング12が軸方向に圧縮された状態で配置されている。
【0025】
シールリング8は、コイルスプリング12による軸方向の付勢力がスプリングホルダ12aを介して与えられ、その摺動突起8a先端面がメイティングリング4の摺動突起4aの先端面に適当な面圧で押し付けられるとともに、回転軸2からの回転トルクがリテーナ11のガイドロッド11aを介して与えられ、回転軸2とともに回転する。
【0026】
コンプレッサの稼動時には、回転軸2が回転し、機内側空間Mは、二酸化炭素が高圧・高温に圧縮される。高圧・高温に圧縮された二酸化炭素は、1次シールである密封摺動面Sにより密封されるとともに、2次シールであるOリング5,9(パッキン)により密封される。1次シールである密封摺動面Sには、例えばミスト状の潤滑油を供給する手段を設け、密封摺動面Sに潤滑油膜を形成することが漏れを減少される観点から好ましい。
【0027】
以下、シール装置の2次シールであるOリング5,9(パッキン)について説明する。
Oリング5、9のコア素材である弾性シール材51、91は、HNBR(水素化ニトリルゴム)、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)、FKM(フッ素ゴム)、IIR(ブチルゴム)等のゴム材から選定したもので、その硬度は40〜90[Hs]程度である。ガス透過性、耐熱性、耐油性等の観点からHNBRが特に好ましい。Oリング5、9の両側面、すなわち弾性シール材51、91には、周方向に同一幅で連続する帯状の形状でかつ厚さ数μmのコーティング(コーティング部)が施されている。
【0028】
ここでは
図2(a)に基づいてOリング5について説明する。厚さ数μmのコーティング6a、6bは、各図中において、説明の便宜上、コーティングは実寸よりも厚く描いている。コーティング6a、6bは弾性シール材51よりも流体バリア性に優れ、その材料としては、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、グラフェン等の炭素を主成分とする薄膜、ポリビニルエーテル、エチレンビニルアルコール共重合体が挙げられる。この中でも、DLCは、流体バリア性が高いのみならず、圧縮固定される際の変形追従性に富むことから好ましい。
【0029】
Oリング5の組み立てについて説明する。
図2(a)示されるように、コーティング6a、6bが施されたOリング5がシールハウジング1の環状凹溝1a(パッキン挿入凹部)に挿入される。この状態で、メイティングリング4が矢印の方向に挿入されることにより、Oリング5が径方向に圧縮され、メイティングリング4はシールハウジング1に圧縮固定される(
図2(b))。なお、
図2(b)において、両側のコーティング6a、6bは、環状凹溝1aの両側面にわずかに隙間を有するが、隙間無く接するものであってもよい。
【0030】
次いで、Oリング5及びコーティング6による二酸化炭素の遮蔽について説明する。
図2(b)における機内側空間Mに晒されるCの領域において、二酸化炭素gは、コーティング6aを施した場合には大部分が遮蔽される(
図3)のに対し、上述したコーティングを施さない場合には比較的多くの二酸化炭素がOリング5に浸入することが分かる
(
図15参照)。
【0031】
すなわちOリング5に浸入した二酸化炭素gは時間の経過とともに大気側空間A側に移動する。大気側空間Aに晒される
図2(b)におけるCとは反対の領域において、二酸化炭素gは、コーティング6bを施した場合には大部分が遮蔽されるのに対し、コーティングを施さない場合には比較的多くの二酸化炭素が大気側空間Aに流出するのである。
【0032】
Oリング5が環状凹溝1aに接触する
図2(b)におけるDの接触領域において、Oリング5にコーティング6a、6bが施されていない場合、Oリング5は非コーティング領域5aがシールハウジング1の表面の凹凸に密に食い込んでおり、シール効果を維持できることになる。その結果、機内側空間Mの二酸化炭素gはOリング5とシールハウジング1との間の隙間dをほとんど通過しない(
図4)。同様に、メイティングリング4の側面に接触する
図2(b)におけるDとは反対の領域において、二酸化炭素gはほとんど通過しない。なお、シールハウジング1はアルミ、鉄等の金属により形成されている。環状凹溝1a及びメイティングリング4の側面の十点平均粗さRzは6.4である。なお、材質や十点平均粗さは一例を示すものであり、この点は後述する回転軸やシールリングについても同様である。
【0033】
特に、シール部として機能する少なくとも環状に連続して延びる弾性シール材51が露出している非コーティング領域5a、5bは、少なくとも対向位置にあり、それぞれの領域には環状凸部51a、51bが形成されている。これは、断面が円形の弾性シール材51の両面を残すようにしてコーティング6a、6bを施せば、非コーティング領域に環状凸部51a、51bを形成できるが、弾性シール材51の断面形状を非円形とし環状に凸部を形成して環状凸部51a、51bとしても良い。このような構造によれば、環状凹溝1a内において、対向位置にある非コーティング領域5a、5bにおける環状凸部51a、51bの圧縮変形により流体の漏れが確実に防止されることになる。
【0034】
次に、コーティング6a、6bを施す範囲について説明する。
コーティング6a、6bを施す範囲は、二酸化炭素gの浸入や流出を抑制するためにはOリング5が機内側空間M及び大気側空間Aに略露出しない範囲とすることが好ましい。
すなわち、高圧側空間M側から見たコーティングの幅W6aは、環状凹溝1aの底面とメイティングリング4の側面の間隔W14と略同幅であることが好ましい。同様に、コーティングの幅W6bについても間隔W14と略同幅であることが好ましい。なお、略とはプラスマイナス20%前後の範囲を許容するものである。また、二酸化炭素gが隙間を通過することを抑制するため及びOリング5を確実に圧縮固定するためには環状凹溝1aの底面及びメイティングリング4の側面と接触する非コーティング領域5a、5bにはコーティング6a、6bを施さない。
【0035】
一方、Oリング5の組み付け時や使用時に、コーティング6a、6bの端部が環状凹溝1aの底面やメイティングリング4の側面に当たってコーティング6a、6bが端部から剥がれることを抑制するために、
図4に示すように、コーティング6a、6bの端部と環状凹溝1aの底面との間に隙間dを設けてもよい。同様に、メイティングリング4の側面との間に隙間を設けてもよい。非コーティング領域5a、5bにより確実な圧縮固定をしつつ、二酸化炭素gの漏れ防止する観点からは、間隔dはゼロ又は限りなくゼロに近いことが好ましい。
【0036】
また、隙間dから二酸化炭素gがOリング5に浸入することやOリング5から二酸化炭素gの流出をより確実に防ぐ観点からは、
図5に示すように、Oリング5と環状凹溝1aの底面との間の一部にコーティング6a、6bが施されるようにするとよい。この場合、Oリング5と環状凹溝1aの底面との密着固定を損なわないようにするために、コーティング6a、6bが施される範囲は、Oリング5と環状凹溝1aの底面とが接触する接触領域の1/2未満とすることが好ましい。なお、
図5において、接触領域の内、コーティング6a、6bが施されている領域は環状凹溝1aとの間に小さな隙間を有するごとく図示しているが、周方向において接触する箇所が有る。このような領域を接触領域という。同様に、メイティングリング4の側面との間の一部にコーティング6a、6bを施してもよい。
【0037】
さらに、
図5に示すように、機内側空間Mには高い圧力が作用し、この圧力がOリング5の
図5中、右上部分を矢印で示すように斜め上方に変形させる。このことにより、Oリング5と環状凹溝1aとの距離は、機内側空間Mの距離dMが大気側空間Aの距離dAよりも小さくなる。そこで、
図6に示すように、機内側空間Mに面するコーティング6aをOリング5と環状凹溝1aの底面との間の一部に施されるようにし、大気側空間Aに面するコーティング6bの端部と環状凹溝1aの底面との間に隙間dを設けるようにしてもよい。
【0038】
同様に、機内側空間Mに面するコーティング6aをOリング5とメイティングリング4の側面との間の一部に施されるようにし、大気側空間Aに面するコーティング6bの端部とメイティングリング4の側面との間に隙間dを設ける範囲としてもよい。
【0039】
このようにすると、使用時に距離dMが短い機内側空間M側のコーティング6aを設ける範囲のみを長くしたことにより、二酸化炭素gの漏れとOリング5の圧縮固定をより確実に両立することがきる。また、図示しないが、大気側空間Aに面するOリング5と環状凹溝1aの底面との間の一部にコーティング6bが施されるようにし、機内側空間Mに面するコーティング6aの端部と環状凹溝1aの底面との間に隙間dを設ける場合に比べ、機内側空間Mの距離dMが短いから、二酸化炭素gが隙間dを通って漏れることをより抑制することができる。
【0040】
ここで、Oリング9及びコーティング10による二酸化炭素の遮蔽については、上述したOリング5及びコーティング6による二酸化炭素の遮蔽とほぼ同様であるのでその説明を省略する。なお、回転軸2はアルミ、鉄等の金属により形成されている。回転軸2の側面及びシールリング8の装着凹部8cの十点平均粗さRzは3.2である。
【0041】
また、メカニカルシール3を構成するメイティングリング4及びシールリング8はガス非透過性の部材であり、かつ、コーティング6、10が施されたOリング5、9(パッキン)はメカニカルシール3の密封摺接面Sから離間して設けられるから、Oリング5、9及びコーティング6、10の設計の自由度が高い。
【実施例2】
【0042】
次に、実施例2に係るシール装置につき、
図7を参照して説明する。なお、実施例1と同様の構成はその説明を省略する。
【0043】
実施例2のシール装置は、Oリング5を装着する環状凹溝40a(パッキン挿入凹部)がメイティングリング40に設けられ、シールハウジング1には環状凹溝1aが設けられていない。その他の構成は実施例1と同様である。
【実施例3】
【0044】
次に、実施例3に係るシール装置につき、
図8を参照して説明する。なお、実施例1と同様の構成はその説明を省略する。
【0045】
実施例3のシール装置は、Oリング5をシールハウジング1の断面L字の装着凹部1b(パッキン挿入凹部)とメイティングリング41の断面L字の装着凹部41aとの間に装着している。
図8に示すように、装着凹部1bの断面L字と装着凹部41aの断面L字とはそのL字をなす角度が互いに対向して位置する。また、メイティングリング41は、Oリング5を介してシールハウジング1の断面L字の面により、軸方向への移動が規制されている。その他の構成は実施例1と同様である。
【実施例4】
【0046】
次に、実施例4に係るシール装置につき、
図9を参照して説明する。なお、実施例1と同様の構成はその説明を省略する。
実施例4のシール装置は、メイティングリング4側のパッキンが実施例1とは異なっている。その他の構成は実施例1と同様である。
【0047】
スクイーズパッキン50(パッキン)は断面L字の金属補強環50aの外周にゴム材50bが加硫接着により固定されている。ゴム材50bは、金属補強環50aの側板部50a1の両側及び底板部50a2の内面側に設けられている。そして、スクイーズパッキン50の機内側空間Mに対向する領域には、ゴム材50bよりも流体バリア性に優れるコーティング60aが施されている。また、スクイーズパッキン50の大気空間Aに対向する領域には、ゴム材50bよりも流体バリア性に優れるコーティング60b、60cが施されている。
図9におけるC、Dは、それぞれ
図3、4に拡大図を示すが、その構成は実施例1とほぼ同様であるので説明は省略する。
【0048】
このようにしたから、機内側空間Mから大気側空間Aに二酸化炭素gが漏れることを抑制することができる。ここで、コーティング60bを設けた位置はゴム材50bの機内側空間Mからの距離が長く、長いゴム材50bを通過する二酸化炭素gはわずかであると考えられるから、場合によっては、コーティング60bは省略してもよい。
【0049】
また、金属補強環50aは、その材質は問わないが、二酸化炭素gを透過させない材質及び形状であると、ゴム材50bに浸入した二酸化炭素gが通過する領域を狭くするラビリンス効果を発揮するから好ましい。
【実施例5】
【0050】
次に、実施例5に係るシール装置につき、
図10を参照して説明する。なお、実施例1と同様の構成はその説明を省略する。
実施例5のシール装置は、メイティングリング4側が軸方向に移動可能に構成されている点が実施例1とは異なっている。
【0051】
メイティングリング4は、シールハウジング1にネジ固定された保持ガイド4Hの内周面にスライド可能に保持されている。メイティングリング4と保持ガイド4Hとの間にはメイティングリング4を軸方向に付勢するコイルスプリング12Hが周方向に複数配置されている。メイティングリング4と保持ガイド4Hとの間には軸方向両側(両側面)にコーティング6a、6bが施されたOリング5が配置されている。また、保持ガイド4Hとシールハウジング1との間には、径方向両側(径方向外側及び径方向内側)にコーティング6a’、6b’が施されたOリング5’が配置されている。
【0052】
シールリング8は回転軸2に固定されたホルダ8Hに回転不能に固定されている。シールリング8とホルダ8Hとの間、ホルダ8Hと回転軸2との間には、軸方向両側にコーティング10a、10b,10a、10bが施されたOリング9,9が配置されている。
【0053】
このように、メイティングリング4側が軸方向に移動可能に構成されているシール装置においても、機内側空間Mから大気側空間Aに二酸化炭素gが漏れることを抑制することができる。また、Oリング5’を圧縮する方向を軸方向とし、コーティング6a’、6b’を径方向に設けるものであっても二酸化炭素gが漏れることを抑制できる。
【0054】
図10に示すように、Oリングを圧縮する方向は軸方向(5’)及び径方向(5,9,9)のいずれも採用し得るが、コーティングを施すものの場合、径方向に圧縮するものがより好ましい。径方向に圧縮され軸方向にコーティングを設けることにより、圧縮するためのボルト等の部材が不要であり、かつ、軸方向に圧縮するものに比較し、Oリングをその中心軸に沿って移動可能に配置することが容易であり、メカニカルシール3のメイティングリング4及びシールリング8の内、軸方向に移動可能に配置されるものの2次シールとして有用である。
【実施例6】
【0055】
次に、実施例6に係るシール装置につき、
図11を参照して説明する。なお、実施例1と同様の構成はその説明を省略する。
実施例6のシール装置は、メイティングリング4側のスクイーズパッキン(パッキン)
の形状が実施例1とは異なっている。
【0056】
スクイーズパッキン55は、ゴム材により形成され、断面が略矩形であり、機内側空間M側の面が凹面56、その他の三面がほぼ平面である。凹面56と凹面56とは反対側の面にコーティング65a、65bがそれぞれ施されており、他の2面55a、55bが圧縮固定されている。
【0057】
使用時に、二酸化炭素gが高圧になるため、そのガス圧により凹面56には矢印方向の応力が作用し、スクイーズパッキン55及びコーティング65bは、シールハウジング1側の端部57が径方向外側、メイティングリング4側の端部58が径方向内側に押し付けられる力を受け、端部57、58とシールハウジング57、メイティングリング4の側面の隙間が小さくなり、これら隙間から二酸化炭素gが通過しにくい。
【実施例7】
【0058】
次に、実施例7に係るOリングにコーティングを施す方法につき、
図12を参照して説明する。
【0059】
リング状の治具90の内面はOリング5の外径よりも小さく、リング状の治具91の外面はOリング5の内径と略同一である。また、治具90と治具91との径方向の間隔LはOリング5の断面における直径よりも圧縮代ΔLだけ小さく設定されており、この圧縮代ΔLは2次シールとして用いる際に実際に圧縮される量(代)と同じである。断面円形のOリング5を治具90の内面と、治具91の外面に挟み、断面略スタジアム形とした状態で、その断面円弧部に、噴射やPVDやディッピング等により、コーティング材6Dを所定の膜厚となるまで付着させる。その後、Oリング5を治具90、91から取り外す。例えば、Oリング5は断面の直径1.8mmのものを、圧縮代ΔL0.3mmで圧縮され、短手方向長さLは1.5mmである。
【0060】
このように、Oリング5を圧縮した状態、特に実際に圧縮される量と同じだけ圧縮した状態でコーティング材6Dを付着させたから、実機に装着したときに必要となる領域に簡単にコーティング材を付着させることができるとともに、実機に装着したときにコーティングには内部応力がほとんど発生しないから、コーティングの割れや剥がれが発生しにくい。
【0061】
上述の数値の場合には、コーティング材6Dは、Oリング5の断面において約100°(
図2の角度θを参照。)に渡って設けられている。ここで、軸封する機種が変わっても圧縮代ΔLはOリング5の断面における直径の10%前後であるから、コーティング材6Dは、Oリング5の断面において約80°〜120°に渡って設けるとよい。
【実施例8】
【0062】
次に、実施例8に係るOリングにコーティングを施す方法につき、
図13を参照して説明する。
Oリング5の径方向両側(径方向外側及び径方向内側)にマスキングシート6Mを貼り付け、噴射やPVDやディッピング等により、コーティング材6Dを所定の膜厚となるまで付着させる。その後、マスキングシート6MをOリング5から取り外す。
マスキングシート6Mの幅を変えることによりコーティングの幅を簡単に変えることができる。
【実施例9】
【0063】
次に、実施例9に係るOリングにコーティングを施す方法につき、
図14を参照して説明する。
【0064】
流体バリア体66は、ポリビニルエーテル等のゴム材56よりも流体バリア性に優れる材料により形成され、右側面部66aと、左側面部66bと、右側面部66aと左側面部66bとを連結する連結部66cと、連結部66cに直交する方向に設けられた貫通孔66dとを有する略H形状に構成されている。
【0065】
流体バリア体66を金型に入れた状態でゴム材56を成形することにより、Oリング5が得られる。このOリング5の左右側面に配置された右側面部66aと、左側面部66bがコーティング部として作用する。このように、二色成形によりコーティング部を施すことも可能である。なお、二色成形による場合、右側面部66aと左側面部66bとが有ればよく、連結部66cは必須でないことは言うまでもない。
【0066】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0067】
例えば、各実施例においては、
図15(a)に示されるように、Oリング5に施されたコーティング6は、Oリング5の周方向に連続して環状に形成されているが、本発明のコーティングの形状は必ずしも上記実施例に限らず、例えば
図15(b)に示されるように、Oリング5の周方向に沿って所定長さ延設された複数のコーティング16、16‥でもよいし、あるいは
図15(c)に示されるように、Oリング5の周方向に沿って点在された円形状等の複数のコーティング26、26‥であっても構わない。そして、コーティングの形状によらず、二酸化炭素gの漏れを防止するためには、高圧側または低圧側に露出する領域の全面の少なくとも80%以上にコーティングが施されることが好ましい。また、
図15(a)に示される周方向に連続して環状に形成さえるものの場合、より確実に漏れを防ぐためには略全面(露出する領域の90%以上)にコーティングを施すことが好ましい。
【0068】
また例えば、各実施例においては、シール装置は、回転摺動する1次シールであるメカニカルシールと、このメカニカルシールの2次シールであるパッキンとを有するものについて説明したが、シール装置はメカニカルシールを有しないものであってもよい。また、シール装置は、自動車用空調用コンプレッサの軸封用のものについて説明したが、自動車用空調用以外の用途であってもよく、またコンプレッサ以外の用途であってもよい。また、密封する流体は二酸化炭素に限られない。
【0069】
また、パッキンとして、ゴム材を用いたものについて説明したが、樹脂材を主成分とするものであってもよい。この場合には、メイティングリング等の回転をパッキンの圧縮力のみによらず、他の回転を阻止する手段を設けることが好ましい。
【0070】
また、環状凹溝に用いるパッキンの断面形状として、円形、略矩形の例について説明したが、D形、X形等他の形状であってもよい。
【0071】
また、パッキンの機内側空間及び大気側空間に面する両側にコーティングを施す例について説明したが、いずれか一方のみにコーティングを施すものとしてもよい。この場合、機内側空間に面する側のみにコーティングを施すと、二酸化炭素g等の流体によりパッキンを構成するゴム材が劣化することを抑制できるから好ましい。また、大気側空間に面する側のみにコーティングを施すと、大気側空間側には二酸化炭素等の高い圧力や圧力変動が作用せず、すなわちコーティングに対して大きな外力が作用せず、コーティングが機械的に劣化する虞が少ない。
【0072】
また、コーティングは、周方向に連続して設ける例について説明したが、周方向に離散的に設けるものであってもよい。当然のことながら、周方向に連続して設ける方が、Oリングが高圧側空間又は低圧側空間に露出する面積が少なくなるから好ましい。
【0073】
また、リテーナを回転軸に直接固定するものについて説明したが、回転軸に固定されたスリーブにリテーナを固定するものであってもよい。